経済
2025年10月16日
21世紀の経済指針
西側諸国の我々は、自由市場を当然のものとして受け止めているが、歴史上、それは例外だ。
341：わずか20年前のアメリカは事実上、自由市場の国であり、規制緩和と反トラスト政策のリーダーだった。
それは、自由市場の恩恵を被るのは一般大衆で「勝者が分散」しているが、国際競争力のない産業は淘汰される。存続の危機に立たされた産業は、関税の導入や補助金を求めて政治力を使う。
342：EUの消費者がアメリカの消費者よりも良い暮らしを享受しているのは、アメリカが自ら捨てたプレーブックをEUが採用したから。
かつて、自由競争が徹底され、何でも安かったアメリカは産業保護と寡占化が進み、競争が著しく制限され、物価は上がった。今や、VAT（付加価値税）が20%前後あるEUの方が物価水準が低いほどだ。
348：21世紀の経済指針�，い弔任發匹海任蘯�由参入効率的市場では、限界企業は倒産寸前となる（＝自由参入の定義）。倒産≠解散�∪�府も間違うべし特に経済政策の問題では、完璧は善の敵。ディーゼルゲートがアメリカで見つかったのは偶然ではない。�Ｆ�明性、プライバシー、データ所有権を保護せよプライバシーとデータ保護の問題を解決するためには、ほとんどアメリカしか持ち合わせていないレベルの専門性が必要。アメリカは他よりも大きな力と責任を持っている。
一方、日本はどうなのかと言えば、雇用維持が最優先で、競争力のなくなった産業・企業に不況のたびに補助金を出してきた。その結果、多くの産業で企業数は今も多く業界内の競争は維持されている。そのため、長らくデフレ基調であったが、競争力のない産業に補助金を継続的に出すことで国力が落ちたため円安に。
現在の状態はどうしても輸入しなければならない石油・天然ガスなどのエネルギー源に加えて、食料の値上がりによるコストプッシュインフレ。さらに、ソフトウェアサービスの赤字も継続拡大中だ（いわゆる「デジタル小作人」）。
現在の状態はどうしても輸入しなければならない石油・天然ガスなどのエネルギー源に加えて、食料の値上がりによるコストプッシュインフレ。さらに、ソフトウェアサービスの赤字も継続拡大中だ（いわゆる「デジタル小作人」）。
2025年10月15日
勝者は分散し、敗者は集中する
世界で吹きすさぶ「トランプ旋風」。その背景にあるのは、史上かつてない繁栄を誇るアメリカで「取り残された人々」の怒りだ（下図）。
アメリカは世界一の経済大国で、しかも、先進国で一番経済成長率も高い。これだけのGDPがあるのだから、増税すればすぐに財政赤字も解消できるし、社会保障制度の充実で低所得層を救済することも可能だ。
しかし、この25年間アメリカが取った政策は、高所得者層の「減税」だ。今回延長されることになった第一期トランプ政権下での「トランプ減税」も、バイデン大統領下で停止されることはなかった。増税が不人気なのはどこでも同じだ。
自由貿易が（少なくとも先進国間では）全体にとって良いのは、長年の研究で、経済学的には証明されている。ところが、自由貿易による「勝者は分散し、敗者は集中する」。つまり、物価が下がって恩恵を受ける消費者は全国にいるが、安い輸入品が入って困る事業者は特定である。これが「競争を制限するためのロビー活動が盛んで、守ろうとする動きが少ない」理由となる。
多くの国では、レント・シーキング（個人あるいは集団が、人為的な制限を自分たちに有利になるように成立させる、あるいは強化するために、公共の政策を動かそうとする行為）を制限するために、政治資金に制限が付いている。
ところが、アメリカでは（公表されていれば）政治資金に事実上制限がなく、昨年の大統領選挙では両陣営合わせて47億ドル（約7000億円）の選挙資金が投入された。イーロン・マスク氏一人で2.77億ドル（約400億円）をトランプ陣営に寄付したのは記憶に新しい。
マスク氏の目的が本当のところなんであったのか不明だが、多くの企業献金は、自社および自産業の保護に結びついている。今回、日本製鉄に買収されることになったUS Steelも共和党に寄付することで、輸入製品に関税を掛け、国内鉄鋼製品価格が高くなるようにしてきた。そうして、上がった利益は将来への開発や設備投資ではなく、経営陣への巨額ボーナスと、株主への配当や自社株買いの原資となっていたのである。
もう一つ分かりやすい失敗例はボーイング社だろう。長年世界一の飛行機メーカーであったが、国内第2位のMD社を買収して独占企業となってから、新製品開発や設備投資は滞り、それに反比例するように経営者の報酬と株主還元は上がった。品質は低下し、遂には後発のAirbusに世界一の座を明け渡した。
アメリカは世界一の経済大国で、しかも、先進国で一番経済成長率も高い。これだけのGDPがあるのだから、増税すればすぐに財政赤字も解消できるし、社会保障制度の充実で低所得層を救済することも可能だ。
しかし、この25年間アメリカが取った政策は、高所得者層の「減税」だ。今回延長されることになった第一期トランプ政権下での「トランプ減税」も、バイデン大統領下で停止されることはなかった。増税が不人気なのはどこでも同じだ。
自由貿易が（少なくとも先進国間では）全体にとって良いのは、長年の研究で、経済学的には証明されている。ところが、自由貿易による「勝者は分散し、敗者は集中する」。つまり、物価が下がって恩恵を受ける消費者は全国にいるが、安い輸入品が入って困る事業者は特定である。これが「競争を制限するためのロビー活動が盛んで、守ろうとする動きが少ない」理由となる。
多くの国では、レント・シーキング（個人あるいは集団が、人為的な制限を自分たちに有利になるように成立させる、あるいは強化するために、公共の政策を動かそうとする行為）を制限するために、政治資金に制限が付いている。
ところが、アメリカでは（公表されていれば）政治資金に事実上制限がなく、昨年の大統領選挙では両陣営合わせて47億ドル（約7000億円）の選挙資金が投入された。イーロン・マスク氏一人で2.77億ドル（約400億円）をトランプ陣営に寄付したのは記憶に新しい。
マスク氏の目的が本当のところなんであったのか不明だが、多くの企業献金は、自社および自産業の保護に結びついている。今回、日本製鉄に買収されることになったUS Steelも共和党に寄付することで、輸入製品に関税を掛け、国内鉄鋼製品価格が高くなるようにしてきた。そうして、上がった利益は将来への開発や設備投資ではなく、経営陣への巨額ボーナスと、株主への配当や自社株買いの原資となっていたのである。
もう一つ分かりやすい失敗例はボーイング社だろう。長年世界一の飛行機メーカーであったが、国内第2位のMD社を買収して独占企業となってから、新製品開発や設備投資は滞り、それに反比例するように経営者の報酬と株主還元は上がった。品質は低下し、遂には後発のAirbusに世界一の座を明け渡した。
15：経済成長への道
�］�働力を増やすか、��一人当たりの生産量を増やすか。
ローマ帝国から産業革命の時代まで、人口の伸びは緩やかで、生産性の伸びはゼロに等しかった。1700年以降、人口と生産性の両方の伸びが経済全体の成長に寄与。
23：利益と損失が同時に発生する仕組み
国内の競争が貧困層と中間層にマイナスに働くという明確な例はなかなかなく、一方で競争が明らかに便宜をもたらす例は数多くある。
24：社会が貿易による利益を守りながら、損失を軽減するには、累進課税が非常に効果的
累進性の最適水準は貿易にさらされるにつれて上がっていく。
2025年10月14日
「何でも高い」アメリカ
5年前、菅首相が音頭を取って「官製値下」された日本の携帯電話料金。あおりを食ったのは2019年に参入したばかりの楽天モバイルで、「大手キャリアの半額」を武器にシェアを取ろうとしていたのが、大手各社も半額プランを導入したため、価格差がほとんどなくなってしまった。その後、楽天グループの総力を上げた営業でようやく黒字になったのが今年だ。
最近の各国主要５G事業者料金比較が下図で、日本の料金は世界でも最も低い部類なのが分かる。韓国は値段は高いものの、ダウンロード速度が速い。その中で「速度が遅いのに料金が高い」、つまり消費者にとって最悪なのがアメリカ。
こうした物価の高さは、携帯電話料金に限らず、アメリカ経済の特徴で、それは政治のせいだというのが本書の主張。著者はフランス出身でNYUスターン経営大学院の経済学教授。
6：反転私が1999年にボストンに着いたとき、アメリカは（中略）中流階級の消費者にとって素晴らしい場所だった。しかし、その後20年で、全く予期していなかったことが起きた。私が述べた事例がすべてひっくり返ったのだ。
1990年代前半にアメリカで暮らした私も、当時「何でも安い」と感じたものだ。当時の円高もあって、大体半額の感覚。覚えているのは、ガソリン価格が約$1であったこと。リットルではなくガロン（3.78ℓ）。＄1＝100円位だったから、１リットル26円位だった。
現在の価格は170円/ℓ位で、日本と変わらない。石油自給率100%で、移動のほとんどを車に頼らざるを得ない国と、日本のように公共交通機関が発達している国のガソリン価格が同じというのは驚きだ。欧州各国のガソリン価格は300円/Lを超える。
現在の価格は170円/ℓ位で、日本と変わらない。石油自給率100%で、移動のほとんどを車に頼らざるを得ない国と、日本のように公共交通機関が発達している国のガソリン価格が同じというのは驚きだ。欧州各国のガソリン価格は300円/Lを超える。
はじめに：「自由市場」がいちばんうまく機能する市場が恣意的な政治介入にさらされることなく、また、既存事業者が競争力のある新規参入者から意図的に守られることがないとき、市場は自由。
その後25年間アメリカで一貫して進んできたインフレ。その背景にあったのは、アメリカがかつてはよく機能していた「自由市場」の機能を政治的に奪ったことだ。
11：本書の主張�．▲瓮螢�経済のほとんどの分野で競争が減っている価格、資本利益率、市場シェア。��競争の欠如は政策の選択によって説明できるロビー活動や選挙資金の寄付に影響される政策。�６チ茲侶臟，蓮�賃金の減少、投資の減少、生産性の低下、成長の低下、そして格差の拡大をもたらす
2025年10月12日
「超」イノベーション番付
通常、「世界を変えた発明」ということであれば、活版印刷だったり、紙や火薬の発明だが、ここでは産業革命後でリストアップしている。
338：イノベーション度＝発明・発見自体の新しさｘ社会へのインパクトの大きさ「超」イノベーション番付�‐�気機関1800年代を通して、輸送、農業、製造業の飛躍的な改善を可能にする。��電池1800ボルタが電池を発明。1859プランテが充電式電池を発明（鉛蓄電池）。1881フォーレが電極を改良。��ワクチン1798ジェンナー天然痘予防の種痘開発。�づ電�1878スワン白熱電球特許→エジソンが改良�ヅ顛�通信ブレークスルーの最初。1854モールス特許。1866大西洋横断海底ケーブル。�Σ蹴愴醂�1906ハーバー・ボッシュ法。�Ч垣己�質1928フレミング世界初の抗生物質「ペニシリン」。1952ワックスマン結核菌に対する抗生物質発見でノーベル生理学・医学賞。��半導体1947ベル研究所の物理学者バーディーンとプラッテンがトランジスタ発明。1948ウィリアム・ショックレーがより安定的に利用できるトランジスタを発明。��コンピューター1930年代アラン・チューリング「チューリングマシン」現代コンピューターの理論的基盤。1940年代ジョン・フォン・ノイマン現代コンピューターの基本的な設計原則を定義。��インターネット1960年代ARPANET1970年代伝送制御プロトコルTCP/IP開発1990www世界最初のウェブサイトCERN
354：宇宙でのイノベーション
過去数十年間で、打ち上げコストは1kgあたり$65000→$1500(LEO）。
374：リーンスタートアップの限界
まず小さく始め、顧客の反応を見ながら試行錯誤を繰り返す。
失敗を避けローリスクで企業を成功させる方法論。
アプリ開発、SaaS系、ビジネスモデル系のアイデアには向いている←小さく始めることが可能
375：コンセプト・ドリブン方式
Investment Thesis方式＝将来的に脚光を浴びそうな分野、比較的競合が少ない、空いている分野を狙い、人工的にスタートアップを作る。
あとがき：イノベーションを侵攻したいなら、税金を使って補助金を増やすよりも、アニマルスピリッツ溢れる個人が活躍することのできる空間を作り上げることのほうが、はるかに有効。
2025年10月10日
失敗の連続「日本の国策プロジェクト」
「常に製品の高スペックを目指し続ける」というのは大組織の病理の一種。試作に成功したと言っているラピダスだけど、量産への入り口にたどり着いただけ。そして2nmを設計できる半導体メーカーは国内には居ない。これまで失敗の連続であった「日本の国策プロジェクト」。その失敗からしっかり学んでいるのか心配になる。
260：50年後も生き続ける「ムーアの法則」
1965年に、後10年くらいは、一集積回路当たりのトランジスタ数が毎年2倍になると予測。
1975年には、次の10年は、2年ごとにコンピューターの性能が2倍になると予測。
＊もう60年もの間、ほぼ18ヶ月に2倍のペースで、コンピューターの性能は進化し続けている
305：日本の国策プロジェクトの不可解な点
１．大企業が少額ずつ出す寄り合い所帯
半導体産業は一握りの突出した個人が動かしている。
２．具体的用途や顧客が不明な投資
多くの場合「スペック」を開発目標にしている。
世界最初のマイクロプロセッサは日本企業が電卓に使うために、インテルに発注した。
NVIDIAは、ソニーのPlayStation用にGPUを開発。
307：スペック追及は組織病理の表れ
「常に製品の高スペックを目指し続ける」というのは大組織の病理の一種。
顧客の要望を満たしながら、顧客の差別化につながる真に価値のある技術開発をするのには、天才が必要。天才が居なくても、誰でもできるのがスペック追及。
2025年10月07日
日本の特別な世紀
107：日本は鉄砲の大量生産技術をヨーロッパよりも早くに完成させた（ノエル・エリン『鉄砲を捨てた日本人』）
長篠の戦いは、種子島に鉄砲伝来（1543）から「わずか30年後」だ。なぜそれが可能だったのか？それは、「基礎となる製鉄技術自体が当時のヨーロッパよりも進んでいた」かららしい。
黒船の衝撃で日本は開国に向かった。MITが開校したのは明治元年（1868）。それから5年遅れただけで、本格的な工学教育が開始されている（1873工部省工学寮→東大工学部）。このスピードが植民地化から日本を辛うじて守った。
「地下資源がない」と言われる日本だが、江戸時代から明治にかけて、銅は外貨獲得のための主要な輸出品であった。その時に掘りつくしてしまったのだ。114：アメリカと同じタイミングで本格的な交流送電開始1887東京電灯（渋沢栄一）1892GE設立（J.P.Morgan）
黒船当時すでに組織化された社会基盤があったことも、急速に欧米列強に追いつけた要因。116：江戸時代の一時期（寛文期）、日本の輸出の7割は銅別子、足尾。
大森貝塚の発見で有名なモース博士（帰国後アメリカ科学振興アカデミー会長）は、帰国後こう学会報告している。117：三井越後屋「店前売り」はマーケティングの世界最先端「正札現金掛値なし」値札での同一価格での販売は世界初。
118：「東京の死亡率がボストンより低い」日光街道「我々が通った道路は、ニューイングランドの田舎で見受けるものよりもはるかに良かった」
119：日本には、一種の私有財産権の存在に加え、治安や教育といった基盤となる社会システムが整備されており、工業の基礎技術も存在していたし、銅などの天然資源による初期の資本蓄積も可能な状態
アニマルスピリッツに富んだ多数のアントレプレナーが、欧米技術の急速な模倣と普及を担い、「日本の特別な世紀」を可能とした。
2025年09月30日
情報伝達速度
産業革命以前の世界では、「情報伝達は人類の歩行速度よりも遅かった」らしい。その時代、ほとんどの人間が生まれた地域で一生を過ごしていたのだから、当然と言えば当然か。
産業革命以前にも拘わらず、当時としては異常に速かったのが、日本でのコメ相場の情報伝達。「旗振り」という技術革新が起こった背景は、相場で儲けたい投機家の欲望だ。338：グレゴリー・クラーク『10万年の世界経済史』期間 行程 伝達回数 距離(km) 平均所要日数 平均伝達速度54~222年 イタリア~エジプト 23 2129 56 1.58km/h1500 ダマスカス~ヴェネチア 56 2436 80 1.27アレクサンドリア~ヴェネチア 266 2198 65 1.41
340：江戸時代の旗振り大坂からの通信速度＝和歌山3分、京都4分、神戸7分、桑名10分、岡山15分、広島40分大津の取引所の米価は、1840年以前は大坂から1営業日遅れ→旗振り導入で、同日中に値動きが同期するように
こうなると、旗振り情報を手に入れられた人だけが確実に儲け、他の市場参加者は損をしてしまう。役人が旗振り信号を「不正」行為と見做し、何度も取り締まったが根絶は難しかったようだ。
2025年08月19日
独占禁止法
アメリカの実質賃金中央値は、戦後1949~73までは年間平均2.5%成長していた。ところが、1980~2018 年では0.45%に減速する。高卒以下に限れば-0.45%で、毎年実質賃金が減ったことになる。アメリカはこの間もインフレであったので、インフレに見合う賃金上昇がなかったということだ。
70：製造業の労働分配率1980年代半ば 65%2010年後半 46%
製造業の労働分配率でみても、付加価値額から従業員報酬に回る比率は減少している。「アメリカの異なる人口動態グループの間で広がっている格差全体の3/4程度がオートメーションが原因」ということだ。
72：中国との競争によって失われた雇用総数300万人（推定）。しかし、オートメーションとレント・シェアリングの崩壊が格差に及ぼした影響はさらに甚大。
トランプ大統領は中国を中心としたオフショアリング「チャイナショック」をラストベルトの原因にしているが、研究ではそれ以上にオートメーションの影響が大きいという。
新自由主義の旗手ミルトン・フリードマンは「企業の社会的責任は利益を増やすこと」といった（フリードマン・ドクトリン1970NY Times Magazine)。企業は利益がなければ存続できないので当然だが、それは法制化で企業が健全な競争環境を維持できている場合の話だ。
スミスは『国富論』のなかで、既に、企業の談合の害を指摘している。86：アダム・スミス『国富論』「同じ商売の人びとは、たとえ楽しみや気晴らしのためでもめったに顔を合わすことはないが、その会話は結局、民衆に対する陰謀、もしくは価格を釣り上げるためのなんらかの計略に行き着く」
87：連邦最高裁判所判事ルイス・ブランダイス「われわれは民主主義を享受するかもしれないし、一握りの人間の手に富を集中させるかもしれない。しかし、両方を実現することはできない」
企業がきわめて巨大になると、不当に大きい政治権力を行使するようになり、企業がオーナーのために生み出す富が政治プロセスをさらに劣化させる。
89：GAFAM時価総額合計で米GDPの1/520世紀初め、国民と改革派が手に手を取って独占の問題に立ち向かっていたころの米トップ企業5社の価値はせいぜいGDPの1/10。
2025年08月18日
生産性バンドワゴン
今週は下巻。18世紀にイギリスで始まった産業革命は、むしろ労働者の生活水準を落とすことになる。機械化で単純労働でよくなったからだ。
15：19世紀後半にテクノロジーの変化がよりよい方向に転換すると、一定の希望はかなえられたように思われた。数千年ぶりに、テクノロジーの急速な進歩と、その恩恵を一握りのエリート層以外にも分配するための制度的前提条件が融合した。
しかし、産業革命による余剰利益は経済格差をもたらす。それは、WW1で前例のない大虐殺につながる。死者の数約2000万人は西欧だけに限れば、今も過去最大の犠牲者。国家総力戦の戦争は、新型銃、爆弾、戦車、戦闘機、毒ガスなど様々な軍事テクノロジーの発明につながる。
第一次世界大戦では戦場となり大打撃を受けたフランスだが、第二次世界大戦では早々に降伏したため、大きな破壊を免れた。フランスは戦後、いち早く復旧する。
17：1945~フランス「栄光の30年」西側諸国の大半は、繁栄の共有を支持する新しい体制を敷き、急成長を享受。
18：機械化が労働者にもたらす影響
アメリカ農業付加価値額における労働分配率
1850 32.9%
1910 16.7%
20：生産性バンドワゴン
労働者にとっての新しい仕事と機会、そして労働者が生産性向上の成果の一部を享受できるようにする組織的な枠組みに依拠している。生産性バンドワゴンが動き出す可能性が高まるのは、テクノロジーの進歩によって大きな改革が進み、続いてその改善によってほかのセクターで労働力への一いっそうの需要が刺激される場合。
21：工場システム
「中央の電源から供給される電力」の利用が画期的（アンドリュー・ユーア1835）
1889年には工場動力の約1%が電力。1919年になると、この割合は50%＋。
35：1930ドイツGDPは半減、失業率30%＋
それまでナチスは泡沫政党（1928得票率2.6%）
1933最後の自由選挙 33%で第一党
2025年08月15日
生産性バンドワゴン
近代軍隊の教練法はオランダで発明された。これにより大規模な軍隊を指揮官が意のままに動かせるようになった。戦闘が大規模化し、死傷者の数もけた違いに増えていった。
254：オランダ王子で1600年代初めに最も影響力のあった戦術家オラニエ公マウリッツが開発した教練規範声の命令に従った小さな動きをとることで、歩兵の隊列が旋回したり、方陣を組んだり、反対方向に進んだりといったことが可能に。数ヶ月の訓練で、数百人の兵士が緊密に連携して闘うことを学び、敵の放火を浴びたり騎兵隊の突撃に直面したりしても、団結を保てるようになった。これらの方法を用いて、軍隊はさらに大規模化していった。1600年代から1700年代初めには、数万人で編成されるのが普通になった。1640年代のイギリス大内乱で最大勢力となった「新型軍」は、2万人以上の兵士を擁していた。
262：産業革命
初期の工業化の予期せぬ帰結は、労働時間の延長、職場での自律性の低下、実質所得の停滞だけではなかった。テクノロジーの社会的な偏りもまた、より広範な貧困化の効果を及ぼした。
265：マンチェスターの一部では、7000人以上の住民に対してトイレが33しかなかった。サンダーランドでは、76人あたり屋外トイレが一つだった。これらの衛生施設の大半が公共下水道とつながっていなかった。
270：生産性バンドワゴンが機能するための前提条件
�］�働者の限界生産性の向上
�∀�働者の十分な交渉力
どちらも、イギリス産業革命の最初の100年間はほぼ欠けていた。
2025年08月14日
勤勉革命(industrious revolution)
「暗黒の中世」と言われるヨーロッパでも生産性は改善された。
149：中世の間にもヨーロッパではテクノロジー面で顕著な変化があり、生産性も上がっていた・輪作の手法が向上・車輪付きの重いプラウ（鋤）が出現・家畜の糞が肥料として多用される・暖炉と煙突の出現により、屋内の空気環境が大幅に向上・水車や風車を利用した粉ひき場
しかし、テクノロジーと経済が進んだと言っても、「人口の大半にとってはその進歩が仇をなした」という。農民を領主が支配する構造なので、生産性が向上しても農民に恩恵はなく、むしろ生活水準は低下したという。
同じことは、ノルマン・コンクエスト後のイングランドでも同じだった。農業生産性が上がれば、農民を働かせれば働かせただけ、より領主の収入は以前より上がる。だから、もっと働かせるようになったのだ。152：ノルマン・コンクエスト(1066)イングランドのいくつかの地域では、農民が領主の農地で働く年間当たりの時間がノルマン・コンクエスト以前に比べて2倍に増えていた。食料生産高は伸びており、農民もますます身を粉にして働いていたが、栄養状態は悪化する一方で、食物摂取量も生命維持に関わるぎりぎりの線に向かって落ち込んでいった。平均余命はあいかわらず低く、生後25年という短さにまで低下していた可能性もある。
195：近代化の社会的偏りテクノロジーによる変化はつねにわれわれとともにあったが、同時に一部の影響力を持つ人びとが、なにが誰によってなされるべきかをつねに決めてきた。過去12,000年のあいだに、農業テクノロジーは繰り返し進歩し、ときには劇的なまでの進歩を見せてきた。（中略）だが、そうした改善の効果がより多くの人びとの利益につながるまで自動的に浸透したかというと、そんなことは一度もなかった。利益が共有されることがあるとすれば、それは地主や聖職者などのエリート層が十分な支配力を持たないために自らのビジョンを押し付けきれず、新しいテクノロジーから得られる余剰を独占できなかった場合に限られた。
「生産性バンドワゴン」（産業革命の初期にテクノロジーが進歩したのに伴い、賃金も上昇した）という説もあったが、その後の調査で、「大多数の人びとの実質所得は上がらなかった」ことが明らかになった。
250：労働時間は延び、労働環境は著しく悪化し、イギリス人の労働者からますます多くの労働が搾取されたため、結果として時間当たりの賃金は下がった。
産業革命は、自然環境に左右されない生産性をもたらしたことでも農業生産とは違う。農業で生産性が改善されても、依然として、気象状況に左右される。工場での製造は気象状況に関係なく、働けば働いただけ生産できるから、人類史上初めて「勤務時間」というものが出現した。
252：勤勉革命(industrious revolution)⇔産業革命(Industrial Revolution)最初はイギリス人が、続いてそれ以外のあらゆる人々がはるかに懸命に働き始めた（経済史家ヤン・ド・フリース）
2025年08月12日
テクノ・オプティミズム
まず、テクノ楽観主義（オプティズム）とは、「あらゆる場所のあらゆる人が、できる限り多くのイノベーションを起こし、何が有効なのかを見極め、その後、荒削りな部分を取り除くべき」という考え方。シリコンバレーが典型で、彼らは何か試してみるときに、誰の許可も求めたりしない。やってみて、うまくいかなければやめるというスタンス。
では、それでシリコンバレーはあれほど栄え、何万人もの億万長者（というか数千億万長者）を産みだしたのだから、それでいいのではないかと思えるが、その恩恵は当のカリフォルニア州ですら皆が恩恵にあずかっているというわけではない。逆に、不動産が高騰し、警察官がその給与ではまともな家が借りられず、警察署の駐車場に止めた車から通勤しているという笑えない話がある。人口当たりのホームレスが多いのも、全米で最も所得水準の高いNYとCA州だ。プロローグ：進歩とは何か？現代の「進歩」が、少数の起業家や投資家をまたしても裕福にしている一方で、大半の人々は力を奪われ、恩恵はほとんど受けていない。
歴史を振り返ると、アメリカの状況は当然で、技術の進歩がそのまま大衆の幸福につながった例は少ない。パナマ運河では投資家が財産を失っただけでなく、2万人以上が工事中に亡くなっている。76：パナマ運河自信と楽観主義に囚われたレセップスは、パナマにおける事業の行き詰まりが誰の目にも明らかになったときでさえ、それを認めようとはしなかった。フランスのエンジニアリングは屈辱的な失敗に見舞われ、投資家は財産を失い、二万人を超える人びとが徒に命を落としたのである。
この専門家に加わっていたのがフェルディナン・ド・レセップスで、「ピラミッド、これは人間の誇りを示す記念碑ですが、それを建てたエジプトの君主の名前は忘れられています。しかし、この偉大な海洋運河を開いた王子のお名前は、世紀を超えて、永遠に祝福されるでしょう」と建設資金を得るため、エジプト王子ムハンマド・サイードを説得したという。78：ナポレオンのエジプト遠征ナポレオンがフランス政府から与えられた任務の一つが、紅海と地中海を結ぶ運河の可能性を探ること。ナポレオンは砂漠を歩きまわったあと、古代の運河岸につながる長く使われていないルートを偶然見つけたとされる。フランスの専門家たちは、数千年にわたって断続的に稼働していたとみられる運河の遺跡を調査する任務を引き受けた。
86：総督は99年間にわたってこのプロジェクトに土地を提供し、その見返りとして利益の15%を受け取る。レセップスは、運河建設を事業として発起し、資金を調達し、運河の運営に当たる。あらゆる財政的リスクは、少なくとも書類上は、のちに決まる個人株主が負うことになる。
スエズ運河の開削に成功したレセップスは、次にパナマ運河建設に乗り出す。
驚いたことに、レセップスは一度も現地を見たことはなかった。パリ会議のあと、レセップスはパナマに渡り、ようやく自分の目で地形を確認した。96：1879パリ会議レセップスは、自分に有利になるように多くの代表者を慎重に選んでいた。「私は躊躇なくこう申し上げたい。建設工事の開始と完了、施設の保守・管理などにおいて、パナマ運河はスエズ運河よりも容易でありましょう」
パリ会議では、現地の雨季の状況についての懸念も示されたが、投資家は不幸にも、レセップスの成功体験を信じた。97：幸福な神々の羨望を呼び覚ますレセップスは、健康的な乾季にやってきて、雨が降り始める前に帰路についた。そのため、パリ会議で警告され、エンジニアがまもなく立ち向かうことになるもの、すなわち、河川水位の急上昇と悲惨な土砂崩れを目にできなかった。また、感染症が蔓延するのではないかという懸念にも否定的だった。
100：1881年から1889年までの累積死者数は22,000人と推定され、そのうち約5000人がフランス人だった。フランスからやってきた人の半数以上が亡くなった年もあった。常時、労働者の1/3が病気にかかっていた可能性がある。
レセップスは「19世紀版テクノ・オプティズム」信奉者と言える。
105：ビジョンの罠レセップスはカリスマ性があり、起業家精神にあふれ、野心家だった。いくつものコネクションを持ち、フランス国家やときにはエジプト国家の力を後ろ盾にしていた。彼の過去の成功は、多くの同時代人を魅了した。最も重要なのは、レセップスが19世紀版テクノ・オプティミズムを広めていたことだ。大規模な公共インフラ投資とテクノロジーの進歩は、ヨーロッパと世界のすべての人々に利益をもたらすというのだ。このビジョンは、フランス国民及び、フランスとエジプトの意思決定者の支持を勝ち取った。
2025年07月22日
14世紀ヴェネツィアの改革��商業技術の進歩
14世紀の改革、�々匈さ蚕僂凌癖癲↓∩イ竜蚕儚弯掘△修靴討修劉�は「商業技術の進歩」。交易立国のヴェネツィアは商業技術でもいくつかの重要な貢献をした。
複式に改良されたことで、商業取引がはじめてリアルタイムで把握できるようになった。80：簿記トスカーナ地方のプラート商人が発明→ヴェネツィア人が複式に改良
これを基にすると、銀行も、それまでの「両替」中心から、実際に資金を移さなくても、帳簿だけで取引ができるようになる。81：バンコ・ディ・スクリッタ（書く銀行）ヴェネツィア人の創った銀行は、帳簿だけ机の上に置いた店構え。
83：商人は普通、複数の銀行と取引ヴェネツィアの商人と取引したいと思う他国の商人たちも、そのほとんどがヴェネツィアの銀行に口座を開いていたので、金の口座間の移動は簡単。
ヴェネツィアは長年銀本位制であったが、欧州の金本位制への流れで、1284年に金貨「ドッカート」を
造りはじめる。1797年のヴェネツィア共和国の滅亡に至る5百年間、その純度を保ちつづけたというからスゴイ。
93：長期国債をヨーロッパで初めて発行直接税の概念を持ったのも、最初。
2025年07月21日
航海の技術革新
中国は、当時の先端技術国家。紙も火薬も羅針盤も中国の発明だが、火薬も羅針盤も中東から西洋に伝わる間に改良され、より実用的になっていく。紙は、751年タラス河畔の戦い（現在のカザフスタン）で唐とアッバース朝のイスラム帝国が激突。唐軍から2万人が捕虜となるが、その中に紙漉き職人がいたことで、イスラム諸国に伝わる。
70：羅針盤は、9世紀以前にすでに、支那で考え出されたもの。それが、アラビア人によって地中海にもたらされ、1302年にイタリアの海洋国家の一つ、アマルフィの商人によって改良され、その有効性から、地中海地方の船乗りの間に急速に普及した。
1405~30年の「鄭和の大船団」は空前絶後のスケールで、60隻以上、28000人の乗組員で構成され、主力艦（宝船）はなんと1200t以上、全長130m以上もあった。100年後の16c前半のマゼランの世界一周艦隊が5隻、乗員350人であったことに比べるといかに巨大であったかが分かる。1492年アメリカ大陸を発見したコロンブスの艦隊は、たったの3隻、乗員88人。主力艦の全長は25mしかなかった。
71：航海図後世のわれわれが見ることのできる一番古いものは、1270年に作られた、通称「カルタ・ピサーナ」と呼ばれる（中略）ピサの商人によって作られたもの。
航海図と羅針盤によって、航海可能な時期は、大幅に拡大する。
72：雨が降ろうと霧が立ち込めようと、また曇天であろうと、公開できるようになった。それまでの肉眼で確かめての航海では不可能であった冬季の航海も、この技術革新で可能になった。（中略）それまでは1年に1回の航海しか可能でなかったのが、1年に2回、つまり二毛作も可能になった。
74：船の変化
1300年前後に、北欧の丸型の船が、地中海にも知られるようになった。喫水線の高い、四角帆の帆船「コッカ」。
帆船はガレー船に比べ、人件費は安く済む。そのうえ、四角帆を用いると、風の強弱に応じて、帆の面積を広くしたり狭くしたりすることも簡単にできる。
2025年07月20日
定期航路（ムーダ）の確立
ヴェネツィアは大企業独占の弊害を認識し、大商人が牛耳る国会にも拘わらず、中小の商人の保護育成に努めていたのは面白い。
その一つが定期航路（ムーダ）の確立。自ら商船を抱えようと思えば多大な資本が必要だ。自前で持たずとも、専用船を確保しようと思えば、それだけの運賃を保証しなければならない。そこで、ヴェネツィアは国営の定期航路を確立する。
49：航路は、目的地も途中の寄港地も、政府が決める。折々の政情をふまえて、一船団ごとに決めるのである。船団は、春に出港して、秋に帰港することになっていた。8月に出発した船団の場合は、海外で冬を越し、翌年の春に帰港する。このスケジュールは、13世紀の末まで変わらなかった。
中小の商人は、この定期航路便に荷物に応じて船賃を払えば、定期航路のある中東、北アフリカ、黒海、北海各地と交易が可能となった。
52：ガレー船は多数の漕ぎ手を必要とするために、輸送コストが断じて高くつく。それで、香味料や染色料、高価な織物などの軽くて価格の高い商品を優先的にガレー船に積み、軽くても価格の低い綿などは、ガレー船に余裕のある時は定期航路で、そうでない時は帆船に積む、と決めてあったのである。
一方で、1291年にシリア、パレスティーナにおける十字軍の最後の砦であったアッコンが、マメルーク王朝の攻撃の前に陥落するなど、イスラム国が台頭してきていた。
65：中小の商人の保護育成大企業による独占が、結局は国全体の経済の硬化に繋がり、それを防止するうえで最も効力あるのが、中小企業の健全な活動であることを知っていた。これを知り、実際に行ったのが、政府をにぎっていた大商人たちであったのが面白い。大商人の独走を許したジェノヴァやフィレンツェとは、対照的な点。
2025年07月19日
ヴェネツィア株式会社
日本（ジパング）を初めて西欧に紹介することになったマルコ・ポーロ。北京まで行った西欧人は、マルコの父と伯父がはじめてであったし、その宮廷の役人になったのもマルコがはじめてだった。ただ、長年故国を留守にして遠国と交易するのは当時のヴェネツィア人にとっては、それほど珍しい例ではない。
マルコ・ポーロの場合、その話を聴いて書いた人が居たから、後世に名を残せた。他にも似たようなヴェネツィア商人は沢山いたはずだ。44：マルコ・ポーロの幸運大旅行を終えて後に、この時期にしばしば起こっていたヴェネツィアとジェノヴァの戦いに巻き込まれ、ジェノヴァの捕虜になり、牢の中で暇を持て余していた時に、彼の話を聴き、それを書きとめて置く気になった男に恵まれたこと。
32：ヴェネツィア人口10万人貿易で栄え、中世ヨーロッパで第3位規模の都市となったヴェネツィア。10万人の人口とはいえ、海上都市のため、それでも人口は限られていた。
1338年に133千人。10年後のペストで2/3に。14世紀前半に西ヨーロッパではパリ、ナポリに次いで3番目に人口の多い都市と言われたが、陸地型の国の首都であるパリやナポリは、周辺の人的資源を期待できるのに反し、ヴェネツィアは、街の人口イコール国の人口。
35：ジェノヴァ商人第四次十字軍の結果、コンスタンティノープルを西欧人が手中にする。それまでスラブ民族に支配されていた黒海沿岸にはじめて、西欧の商人たちが進出する。ここが正に今のウクライナ。歴史的に、スラブ民族とラテン民族、ゲルマン民族が支配をめぐり争ってきた場所だ。
商売が上手くいくような状態では商人であったが、それがいったん障害にでも出合うと、とたんに海賊に変身。（中略）当時の風習では、このジェノヴァ式のほうが一般的で、ヴェネツィア式が特殊。
37：交易市場当時、すでに、カトリック教会では、同じキリスト教徒を奴隷にすることは禁止されていた。しかし、異教徒を奴隷にすることは認められていたので、ヴェネツィア商人は異教徒を奴隷を求める中東に売っていたという。
小麦に塩、それに塩漬けの魚、毛皮、奴隷が豊富だった。これらの商品、その中でも奴隷は、香味料の集積地であるエジプトやシリアの人々が欲しがる品。
47：中世経済史の権威イエール大学ロベツ教授
「ヴェネツィア共和国は、現代の私企業の会社と同じように経営された」
2025年07月18日
『ヴェニスの商人』はあり得るか
ヴェネツィアを舞台とするシェークスピア戯曲には有名な2作品がある。
12：『オセロ』ヴェネツィアでは、商船の船員に至るまで自国民で固めていたので、海軍の要職や海外基地の司令官に、黒人にかぎらず他国の人間をすえるというようなことは、絶対にありえなかった。
『ヴェニスの商人』に関しても、塩野七生は「ありえない」という。
ヴェネツィア商人のリスク分散方式は実に徹底していたので、持ち舟の何隻かが沈没してしまったから一文無しになるというのは、なんとしても非現実的である。まずもって、一隻の船全部を所有していたということも、遠距離用の船ならば、ヴェネツィア有数の財産家でもなければありえない。
それほど、ヴェネツィアは合理的で近代的に運営されており、それはあたかも「ヴェネツィア株式会社」のようであった。ヴェネツィアの海上貿易はどうファイナンスされていたか？これも、現代とそう変わらない。まずは、融資。
そして、投資を募る場合。22：海上融資「プレスティト・マリッティモ」短期間の融資制度で、利子は年に20%。利子とともに元金を完済すれば、あとはすべて自分のもの。
コレガンツァには出資比率によって基本形が2種類あった。23：限定合資会社「コレガンツァ（連帯）」（ジェノヴァでは「コンメンダ（紹介」）古くからユダヤやギリシアやアラビアの商人の間で用いられてきた制度だが、この人々が使っていたのは、家族や親族間だけ通用。同国人ならば血のつながりがなくても参加できるようにしたのは、イタリアの海洋国家がはじめて。
ただ、現代の株式会社と違うのは、コレガンツァは「1隻の船を建造するとか、一航海とかに限られていた」こと。航海が終われば利益を分配し解散した。それでも、不特定多数から小口資本を集めるようになり、ヴェネツィアではそれまでにないような大型の船が造られ、遠くまで交易に出られるようになる。�〇駛棆箸�全資本の2/3を出資 経営者（＝船乗り兼商人）は1/3を出資利益は、必要経費を除いた後の金額を、折半。�∋駛棆箸�資本全額を出資資本家が3/4 経営者が1/4。
27：小口投資家に投資の機会一人一人ではたいした額ではなくても、全体から見れば相当なものになり、ヴェネツィア経済の発展に、大切な資金面から、非常な貢献。
2025年06月23日
ジニ係数
93：アジア系アメリカ人の子どもたちは、母親が選択したとき、自分自身で選択したときにも増して、がぜんやる気を出した。それはなぜかと言えば、母親との関係が、かれらのアイデンティティの大きな部分を占めていたからだ。
は面白い指摘。個人主義の国では自分自身で選択することがやる気につながるが、アジア文化では「誰かのために」（ここでは母親だが）も強いモチベーションとなる。
102：日米の金融不祥事の新聞報道1995ベアリングス銀行を破綻に追い込んだ「ごろつきトレーダー」ニック・リーソン大和銀行に11億ドルの損失を与えた井口俊英などの事件米新聞→悪徳トレーダーの個人的行動日本の新聞→制度的要因
これも面白い。こうした経済事件の時、アメリカでは個人に大きな責任を負わせ、刑期も長くなる傾向がある。例えば、同じ上場会社の粉飾事件でも、FOI事件（2009)では、首謀した社長と専務(CFO)が懲役3年となったが、エンロンやワールドコム事件では首謀者は20年以上の服役になっている。
称賛に値する結果であれば、非難に値する結果であれ、個人主義社会に属する人々が、その原因を一個人に求めたのに対し、集団主義者は、結果を体制や文脈と表裏一体と見なしていた。
結果の原因を個人に求めるアメリカでは、その分、莫大な個人報酬に対しての批判が少ない。
121：米欧の自由の違い保有資産が10億ドルを超える億万長者の数は、アメリカが圧倒的に多く、第2位の6倍以上で、しかも世界長者番付の上位5名のうち3名がアメリカ人。
その結果、アメリカは発展途上国並みに所得格差が大きい。
アメリカで所得格差が長年受け入れられてきたのは、機会均等であることが前提だった。ところが、最近の調査では、日本や欧州よりもアメリカで「親子の所得に強い相関」が認められている。アメリカでは一般的に公立校のレベルが低く、そして、私立学校は授業料が高い。結果、まともな学校教育を受けられるのは私立に通える富裕層だけという現状がある。「ジニ係数」（国の所得配分の平等さ）１．スウェーデン東欧は1人あたりGDPは低いが、最も平等な30か国に含まれる。93. アメリカ（カメルーンやコートジボワールと同等）
122：アメリカンドリーム？親子の所得に強い相関。アメリカで成功できるかどうかは、努力よりは、生育環境に負うところが大きい。
2025年05月30日
需給ギャップの推移
バブル経済崩壊後に起こったのは、業績低迷の中で企業が非正規雇用を拡大したこと。もともと、主に主婦の副業であった非正規雇用が、今では全雇用数の4割に達している。
130：安価な労働力の大量出現長期雇用性の枠内にいる大企業の正社員は、実質ゼロベアが続いていても、毎年の2％昇給によって、実質賃金が着実増。一方で、長期雇用性の枠外にいる人は（中略）、同世代の正社員と比べると、格差は開くばかり。
2024年10月の衆議院総選挙で極端な主張を行う政党が躍進したのは、「長期雇用性の枠外にいる人に、2022年以降の円安インフレがとどめを刺した」ためと思われる。安倍晋三政権は「働き方改革」の一環として、残業規制をしたため、折からの大規模な景気刺激策と相まって、労働力不足に陥った。その結果、企業は「退職者の雇用継続」によってそれを補った。
141：2023/3黒田日銀総裁退任記者会見「異次元緩和成功」�．妊侫戝Φ僉´⊇�業者数の大幅増加
しかし、著者は、「異次元緩和がなくても、（上記の、働き方改革から）就業者数の大幅増加は実現していたはず」だという。
安価な労働力の出現が異次元緩和による高圧経済戦略に躓きをもたらしていたにもかかわらず、それを漫然と10年も続けたために、異次元緩和の最終局面で、超円安を招き、実質賃金が損なわれた。
148：コストプッシュインフレはなぜ長引くのか
日本経済の労働供給の天井が低くなり、需給ギャップがタイト化しているところに、円安インフレが訪れたから、輸入インフレがホームメイド化した。
2025年05月29日
超円安に苦しめられる社会に移行
食料とエネルギーという最重要戦略物資の大半を輸入に頼っている日本。円安になればどんどん貧しくなるのは自明。国内工場は円高の間に海外移転してしまったし、戻しても米関税で対米輸出は困難に。
そんな時に、「消費減税」の話が出ること自体に驚く。既に公的債務残高がGDP2.5xと先進国最悪であり、利払い費が急増するため、利上げが困難な状態になっている。もし、消費減税すれば、公的債務の持続可能性に疑義が出て、さらなる円安に見舞われることは間違いない。
そうなれば、90%輸入に頼るエネルギーと60%輸出の食料品が数十%上がることになり、たちまち消費減税分など吹き飛んでしまう。国内で課税された消費税は、社会保障費に使われるので、国内に還流するが、輸入代金で支払った分はそのまま海外に出てしまう。
過去30年間繰り返した財政出動と金融緩和が何の効果ももたらさなかったことをもう忘れてしまったのか。
120：2022~交易条件の大幅な悪化
第二次オイルショックに匹敵。一単位の財・サービスを輸出することによって、どれだけ輸入を得られるか。原油など海外からの資源の輸入に大きく頼る日本にとって、資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、私たちを貧しくさせる。
123：超円安に苦しめられる社会に移行
家計は預金の実質価値の目減りを恐れて、外国株ファンドの購入→大きな円安要因
製造業の生産拠点が海外にシフトしたため、貿易収支赤字が定着。
125：なぜ利上げできないのか
30年近くもゼロ金利政策を続けてきたため、企業や家計が利上げへの耐性を失っていることを日銀が恐れている。
127：日銀は「奴雁」になれるか
1979~1984日本銀行総裁・前川春雄「日銀職員は日本経済の奴雁であるべき」
仲間の雁が餌を啄んでいるときに、不意の難に備えて、常に周囲に注意を払っている見張り役の雁。
2025年05月27日
成長戦略の落とし穴
「継続的に成長率を高めるには、潜在成長率を引き上げなくてはならない」というのは、経済学を学んだ人にとっては常識。アベノミクスの「3本の矢」と言われたが、�ゞ睛酸�策や�∈眄�政策は、景気を刺激することはできるが、その効果は一時的なものにしか過ぎない。「金融政策＝需要の前倒し」であるし、「財政政策＝所得の前借」だから、中期的には差し引きゼロ。
著者は、その主因が、「非正規雇用制という収奪的なシステム」にあると考えている。日本企業は、バブル経済崩壊後、長期雇用制度を維持するために、非正規雇用に依存したが、それが収奪的な「二重労働市場制」を生み出した。20：成長戦略の落とし穴拡張財政や金融緩和の不足が長期停滞の原因ではない。
雇用数の4割が消費を増やせないのは日本経済にとって大変なマイナス。それでなくても、高齢化で雇用数自体が減っている。55：非正規雇用の占める割合が4割に十分なセーフティネットを持たない労働者を増やしたことのマクロ経済学的な意味。彼らは賃金が増えても、不況時に備えて貯蓄するため、消費を増やせない。
21：アビジット・バナジー（2019ノーベル経済学賞）『世界最高峰の経済学教室』
「経済成長を促すメカニズムはまだよく分かっていない。とりわけ富裕国で再び成長率が上向きになるのか、どうすれば上向くのか、ということははっきりいって謎である」
22：未完に終わった「新しい資本主義」（岸田政権）
所得再分配やセーフティネットのアップグレードに期待したが、歴代政権が掲げてきた成長戦略の焼き直しに。
63：実質実効為替レート（貿易相手国ごとに貿易量で加重平均した実質為替レート）
1990年代半ば以降低下し、現在1970年の水準。
2025年05月26日
収奪的システムを解き明かす
「失われた30年」で日本の生産性は上がっているのに、実質賃金が上がらないのはなぜなのか？
という疑問に答えた本。筆者の結論は、「皆が気づかないうちに、日本も収奪的社会に向かっているから、長期停滞から抜け出せない」というもの。
概ね賛成ではあるものの、一点、見落としているのではないかと思う。それは、「1998~2023日本の時間当たり生産性は3割上昇した」ものの、スタート時点の生産性が低すぎて、3割上昇してもまだまだ生産性が低いということ（下図）。
これが何を意味するかと言えば、日本企業の収益性の低さにつながっている。上場企業の比較では、日本で優良と言われる上場企業のROEが10%程度。米国では20%が当たり前だ。ROEは�’箴綛睛�益率ｘ�∋駛棆鹽称┌���財務レバレッジに分解できるが、これら3要素を比較すると、�〕�益率が大きく違う。
30年前、日本企業はバブル崩壊でB/Sを大きく毀損した銀行に頼ることもできず、成長資金を資本市場から調達しなければならなくなった。資本市場では国際基準で投資家が投資先を選別するので、ROEが低くかつ低成長の日本企業は見向きもされなかった。
そのため、労働生産性を上げて、ROEなど財務指標の改善に努めてきたのがこの30年間であった。ようやく一部の企業が国際基準に達したところで、こうしてようやく賃金上昇が始まったところだ。これからは賃金を上げられる企業に優秀な人材が集中してますます賃金が上昇。それができない企業は賃金上昇が停滞し、人手不足で市場から淘汰されそうだ。
はじめに：1998~2023日本の時間当たり生産性は3割上昇したが、時間当たり実質賃金は横ばい
米国 生産性が5割上昇→実質賃金3割上昇
アセモグル/ロビンソン『国家ははぜ衰退するのか』
収奪的な社会制度の下では一国は衰退し、包摂的な社会制度でなければ反映できない。
アセモグル/ロビンソン最近の論考「イノベーションの本質は収奪的」
その方向性を包摂的なものに変えていかなければ、一部の人々に恩恵が集中し、多くの人を苦しめる。
雇用と賃金をめぐる近年の日本銀行の二つの誤算
�＾杣仝鬼墨造砲茲�2%インフレ達成の短期決戦
団塊世代の退職で人手不足が深刻になると予想⇔実際には、高齢者と女性の労働供給が増大し賃金上昇を大きく抑えた
��円安インフレが長引いている（現在進行中）
働き方改革で、正社員が残業を行うことができなくなり、経済の供給の天井が低くなっている。
2025年05月15日
コンスタンティノープルの陥落
ビザンチン帝国を滅ぼしたマホメッド（メフメト）2世は父親の死後スルタンを引き継いだ当時23歳の青年。ハレムには国中の美女を置き、身の回りの世話をするのは美少年で、バイセクシャルであったという。これがイスラムの戒律でどう解釈されるのかは不明。
245：ビザンチン帝国大蔵大臣フランゼス
スルタンのハレムに入れられた娘は、そこでまもなく死んだ。また14歳になっていた息子も、スルタンの欲望を拒絶したために、殺された。
253：19世紀ギリシア400年にわたるトルコの支配を脱出して独立
ギリシア正教徒の根強さ。理よりも、それを排した狂信の方が、信仰の強さを保ちつづけるには有効。
264：ニコロ・バルバロ『コンスタンティノープル攻防戦の日々の記録』
ヴェネツィアの医師でトレヴィザンとともにコンスタンティノープル防衛戦に従軍。
268：コンスタンティノープルの陥落
東地中海交易の主力を、ライヴァル・ジェノヴァとの抗争を避けてエジプトのアレキサンドリアに移していたヴェネツィアとちがって、コンスタンティノープルと黒海に全力を投入してきたジェノヴァ通商は、ビザンチン帝国の滅亡によって、致命的な痛手を受けた。
2025年04月15日
第4のグローバル化
「第4のグローバル化」では「貿易収支に注目しても勝者と敗者を見分けることはできない」という。
例えば、トランプ関税で今話題のiPhone。下図は古いiPhone7のコスト分析。最新のiPhone13の分析もあって、主要部品コストは以下の通り。
iPhone13 Pro MAX
販売価格 $1099（約16万円）
推定部品原価 $407(価格の36.5%)
＜主要部品＞
Display $105 Samsung （韓国）
Camera $77 Sony（日本）
CPU $45 Designed by Apple, Manufactured by TSMC（台湾）
Battery ? Sunwoda（中国）
つまり、中国で大半が生産されているiPhoneは米国に輸出されれば、輸入価格$407+が輸入額となる。この分析は部品価格なので、実際はこれにFoxconnの「組み立て手数料」が加わることになるが、その価格は1台当たり$6と言われているから、合わせて$513（＝約75千円）。
トランプ関税が最終的にどうなるか分からないが、仮に輸入価格を$500として、これに100%の関税が課されるとすると、Appleの関税込みの原価は$1000。これまで通り$600の粗利をAppleが変えないとすると、新価格は$1600（約24万円）となり、50%（8万円）の価格上昇だ。
これだけ価格が上がると、流石のiPhoneの売れ行きも落ちると考えられる。その時一番損をするのは、まずは1台売るごとに$600（9万円）儲けていたApple。次に、Appleに部品を供給している韓国、日本、台湾、中国のメーカーということになる。但し、部品価格はせいぜい1万円。利益は数千円なので、圧倒的に影響が大きいのは完成品を売っているApple。
トランプ大統領はiPhoneを米国で作らせたいようだが、それによる付加価値（組み立て費用）は1台当たり千円以下（中国生産の場合）。これが米国生産では少なくとも数万円になるのではないかと試算されている。一から工場を立ち上げ、中国の10倍くらいの人件費が掛かるので、米国生産iPhone価格は50万円になるとも。
そうすれば、例え145%の関税が掛かろうとも、これまで通り中国から輸入した方が安いから、工場移転は起こらない。結局、損をするのは、高いiPhoneを買わざるを得なくなった消費者と、売上減で利益の減るApple、さらには法人税収の減る米国政府ということになる。その分、関税の税収で賄えるのかもしれないが。
291：「第4のグローバル化」の勝者リカードの「比較優位」という考え方は、補助金制度が貿易パターンを左右したことで疑問符がついたうえに、生産物の価値がどこでどれだけ負荷されたかがはっきりしないデジタル時代においては意味を失っている。貿易収支に注目しても勝者と敗者を見分けることはできず、時代遅れ。第4のグローバル化では、その国が成功したかどうかは統計学者が産出する貿易黒字や貿易赤字によってではなく、急速に変化する世界経済のなかで国民の生活水中が上がったかどうか、あるいはグローバル化の恩恵が国民に広く共有されたかどうかによって決まるようになるだろう。
277：第三のグローバル化はモノの時代
モノの値段が安くなった。
英国の平均的購買者が2017年に30年前の5倍の量の衣料品を購入。
280：商品→サービス（輸送・教育・医療・通信）
フランス消費者支出にサービスが占める割合 1990 43% 2018 55%
�々睥隹宗弊こ�人口の年齢中央値 1985 23歳 2019 31歳）
高齢世帯では長年かけて家具を買い揃え、洋服ダンスも服で溢れ、それ以上何かを買おうという意欲は薄れている。
�⊂ι覆�らサービスへの転換
�５蚕竸癖發砲茲訃�規模生産
286：第4のグローバル化
研究開発やエンジニアリング、デザインがグローバル化される。世界のトップ100の大企業が世界の研究開発費の1/3以上を占め、これを複数の国の技術センターに分散し、現地の人材を活用して製品を現地の好みに合わせる。一方で、製造はどこで行っても良くなる。有形物の生産の役割は低下し、製造業者が株主の金を使って現地社員を雇って精算するのではなく、現地企業とのライセンス契約や製造サービス業者との契約という形をとることが多くなる。したがって外国への直接投資は減るだろう。
2025年04月14日
フードマイル
先週世界を揺るがせたトランプ関税。実施されれば、世界経済にとって大打撃。唯一、地球に貢献するとすれば、フードマイル減少か（輸入量ｘ輸送距離）。
246：ゴミ貿易
表向きはリサイクルのため、だが実際は安価に（環境規制の緩い途上国で）廃棄するため。
247：フードマイル
輸入品の牛肉・大豆・パーム油への需要増加は森林や湿地帯を消滅させ、動植物の絶滅を引き起こした。貿易自由化により、製造業者は環境規制の厳しい国から有害物質の投棄や水質汚染への規制がゆるい国へとシフト。
258：Mis en bouteille au chateau（シャトー元詰め）
シャトー元詰めのワインを輸送する場合、消費地近くでボトル詰めする場合より40%ほど温室効果ガス排出量が増える。
260：重量ベースでは少ないが、金額ベースでは輸出入品の1/3以上が航空運送
2025年04月12日
日本経済復活のシナリオ
第一生命経済研究所の永濱氏と、トルコ出身のエミン・ユルマズ氏2人のエコノミストによる共著。内容的には1年近く前の執筆時点だが、一月前の両者の講演は動画で。
まえがき：メインストリートがウォールストリートに乗っ取られた（エミン・ユルマズ）
株式市場は本来、経済活動の「派生」であり、実体経済の動きに沿って上下するもの。株式市場の最大の特徴は価格発見機能。良い企業が高く評価され、悪い企業が安く評価されることで、正しい資本分散ができるようになり、経済全体の無駄が無くなる。
しかし、リーマン・ショック以降はこれらの特徴が失われた。株式市場はもはや実体経済を表すものではなく、主要国の中央銀行が提供する「流動性」のバロメーターに成り下がった。つまり、経済ありきの相場から、相場ありきの経済に移ってしまった。
48：円安は2026年まで続く？（永濱）
米金利は中立金利（2.5%）をはるかに上回る水準＝金融引き締め的
いずれ中立金利水準に下がって来る→円安是正
92：明治維新はインフレで起こった（エミン・ユルマズ）
江戸時代末期、20年ほどで物価が倍←金と銀の交換レートが国内1:4⇔海外1:16
外国人が日本に安い銀を持ち込んで金と交換し、海外に流出。
100：リパトリエーション（企業が海外で稼いだお金を国内に戻す）
日本企業は海外で稼いだお金はこれまで海外で再投資。日本企業が国内投資を増やせば、円安を食い止め、日本経済を活性化させる。
2025年04月11日
メガシップ
2019年に、韓国造船最大手の大宇と現代重工業が合併。日本にはまだ７社。自動車もグループ化は進んでいるとはいえ、まだ14社もある。
計画が発表された数ヶ月後、中国政府が中国船舶工業集団と中国船舶重工集団という国有2社の合併を支持。両国における合併の目的は、自国の2社だけが生き残り、世界の造船市場の56%を握ること。
234：海運巨人症（経済学者ミケーレ・アッチャーロ）2015
「理屈では考えられないことだが、大手海運会社は市場に展開する既存の輸送力を減らすどころか、競うように輸送力を増強した」
大手の船会社はほとんどが国営か同族経営で、強大な権限を持つ経営者たちはマースクの後塵を拝するつもりはなかった。無謀な拡張によって運賃は大幅に安くなり、収入だけでは運航コストを賄えず、ましては船の抵当権をカバーすることもできず、世界の海に赤字を垂れ流すことになった。
240：マースク世界シェア18%
業界の覇者。コンテナ船会社をグループ化した４つのアライアンスが世界市場を支配し、全大陸の需要をまかない、国際的大企業の業務を独占した。
244：メガシップは輸送の信頼性を低下させ、グローバル・バリューチェーンにもマイナス
造船競争のきっかけをつくったマースクにとってもメガシップは悩みの種となった。財務上の負担はこの大企業に重くのしかかった。（中略）2016年、オーナー一族がCEOを解雇し、収益の1/4を占めるエネルギー事業から撤退することが発表された。
2025年04月10日
グローバル化の代償
グローバル化は消費者にとっては福音だったが、その代償もあった。
実は、1990年代からの中国や韓国への生産シフトで日本は米国以上に製造業の雇用を失っている。最初は半導体産業が韓国へ、その後はエレクトロニクスが中国に移っていった。米国ラストベルトで失業した白人の怒りがトランプ大統領を実現させたと言われるが、日本の方が雇用を失っていた。それが怒りに繋がらなかったのは、社会保障制度で生活が守られていたから。それは赤字国債の増発で賄われたので、政府債務残高は倍増した。215：グローバル化の代償1990年からの4半世紀に英国は製造業の雇用の半分近くを、日本は1/3を、米国は1/4を失った。雇用の落ち込みは生産の自動化も原因だったが、国際サプライチェーンの成立によって富裕国経済の工場雇用は着実かつ段階的に減少し、崩壊の危機に瀕していた。ノルウェーでの研究によると、中国からの輸入と製造業の雇用減の間には強い相関関係があった。
一方、米国は高付加価値なソフトウェア産業や金融業にシフトし平均賃金は上昇。安価な輸入品で物価は安定し、両方の効果で、米国全体にはかつてない繁栄をもたらした。217：グローバル化が奪ったものグローバル化は所得格差の拡大に大きな役割を果たし、国際企業の経営者や、国際化する経済に適したスキルの持ち主に高収入をもたらす一方、大多数の人々は賃金交渉力を失った。
この格差がグローバル化に取り残された人の怒りを煽った。日本は累進課税になっていて、これほど極端な格差にはなっていない。219：ヨーロッパ・米国・中国人口の上位1％が富に占める割合は1985年には26%だったが、2015年には33%に達した。この増加分は中流家庭が富に占める割合の低下と一致している。
2025年04月09日
洋上の巨人マースクライン
輸送コスト削減のため、大型化の一途をたどったコンテナ船。それを主導したのは「洋上の巨人」と呼ばれるマースクだ。人口500万人の小国デンマークの会社。
175：1990年代のアジアの輸出ブームは、コンテナ船最大手マースクラインに又とない好機となった。他社に先駆けてグローバル化の波に乗った同社は、ヨーロッパ＝アジア間および太平洋航路で最大のシェアを獲得した。1999年には親会社のモラー・マースクが南アフリカのサフマリン、さらにマルコム・マクリーンが創業したシーランドを買収し、持ち船を120隻増やし、巨大なクレーンでコンテナの積み下ろしを行う港湾ターミナルの大手オペレーターにもなり、ますます他社との差を広げていた。2003年時点でボックス船（コンテナ船）280隻を所有、30カ所で港湾ターミナルを経営し、輸送用コンテナの製造工場2カ所も所有していた。積荷はほぼ満載状態で、収益も良好だった。
2003年、会長指示の秘密委員会「新船建造プラン」が始動する。
これに刺激されたのが競合他社で、マースクに対抗するため、各社が競って大型コンテナ船を発注する。それを助長したのは、造船大国の韓国や中国の政府補助だった。177：積載量の飛躍的拡大を目指すEUROmax全長400m、当時の最大船の2倍の積載量。1基の大型プロペラを重量2300tの巨大エンジンで回転させ、排気をエンジンに戻して再利用。満載時でも25~27ノットの高速航行。⇔積み下ろし作業が複雑→47日で周るループの1/4は港での積み下ろし
しかし、巨大なコンテナ船は単独で使えるわけではない。受け入れ側の港の整備が必要で、それは各国のインフラ整備で賄われた。182：エマ号の就航から16か月後の2007年末までに118隻の1万TEU以上のコンテナ船発注スケールメリットに誰もが目がくらんでいたし、造船活性化を望む各国政府からの低利融資や補助金で、造船コストは極めて魅力的。
大型船は陸側のインフラや外航船を受け入れる港への負担が大きく、大型クレーンの設置、ターミナルゲートの拡張、高速道路との接続、外洋から埠頭までの水路拡幅や水深確保のための高額の浚渫工事などを必要。
2025年04月08日
伝統的な貿易概念の終焉
低い関税と、安い物流費を前提に最適化されてきた世界最適生産体制。そこに突然現れたトランプ関税。時代を一気に1930年代のブロック経済に戻すようなものだが、それは1年や2年でできるものではないし、世界経済全体として大きなマイナスになる。
仮にそのまま実施されたとして、予想されるのはスタグフレーション。当然、一番の被害者はトランプ政権の岩盤支持層であるMAGA層となるが、それは自業自得だから仕方ないのか。
156：バリューチェーン
スマートフォン自体の設計や内臓半導体の設計、さらにはテキストメッセージや写真に使う多様なソフトウェアの設計など、無形の投入財が製品の市場価格の大きな部分を占めている。
161：英国ホンダ工場（スウィンドン）
米国に輸出されたスウィンドン製のCivicには英国製品が20%、日本製品が20%、北米製品が20%、さらにインド製のトランスミッション。
165：2009 iPhone 3G $500
物理コンテンツ全体の総コスト販売価格の1/3。残り2/3はApple（技術者・設計者・広告・利益）。
2025年04月07日
2001中国WTO加盟
1995年に発足したWTOは今年30周年。しかし、第二次トランプ政権の発足で存続の危機にある。なにしろ、その発足を推進した米国が脱退を検討している。
戦後の自由貿易体制は、第一次世界大戦でそれまで人類が経験しなかった大量殺戮があったにも拘わらず、20年ほどで再びそれを上回る悲惨な第二次世界大戦を引き起こしたことへの反省があった。それは、1930年代に不景気への対策で主要国が関税を引き上げ、世界貿易が縮小したことで大恐慌を導き、大衆の不満が第二次世界大戦を引き起こしたことだ。
それからほぼ100年。3世代も経つと人は歴史を忘れてしまうというが、今が正にそれか。
146：1990年代に中国の工業品輸出は5倍に増加し、成長の大部分をこれまで中国がほとんど参入していなかった化学品・機械・通信機械などの製品が占めた。1998年には、中国の輸出品の45%を外国資本の工場が生産するまでになった。
148：2001年12月中国WTO加盟
各国の製造業者は供給業者に対し、「中国並みの価格」を実現できないなら、中国から調達するよう要求するようになった。
150：1995~2005中国政府の産業補助金2100億ドル（国有企業がその半分）
2000年中国GDPの1/4。企業に直接支払われた金額に限って。年間約150億ドルに達する輸出税還付、電力割引、ハイテク工業団地における製造業者への減税は含まれていない。
152：特許やデザインは保護してもらえない
中国企業が外国の製品や技術を模倣しても罰則を受けることはない。
2025年02月18日
ジンバブエ
これを読むと、日本に生まれて良かったと思う。（先進国で一番貧しくなったとは言え）豊かになれたのは「包括的制度」を確立できたおかげで、それは偶然の産物ではない。
190：名誉革命やフランス革命後により包括的な政治制度の出現を促した要因
�／靴燭幣�人・実業家階級の台頭
��広範な同盟の性質＝特定の限られた利害関係者や限定的なグループのクーデターではなく、商人、産業資本家、ジェントリー、幅広い政治グループが支援した運動
��イギリスとフランスの政治制度の歴史＝両国とも議会及び権力分担という伝統
192：富裕国が豊かなのは、主として、過去300年のいずれかの時点で包括的な制度を発展させることが出来たから
こういった制度は好循環のプロセスを経て生き残った。好循環が包括的な制度を存続させるように、悪循環は収奪的な制度の存続へ向けて強い力を発生させる。
200：国家が衰退する理由で最も一般的なのは、収奪的制度の存在
ムガベ体制下のジンバブエ＝2008年の平均年収は、同国が独立を勝ち取った1980年の半分以下
国家は崩壊し、基本的公共サービスはいずれも休止状態。2009年の失業率は94%。
201：1901南ローデシア
セシル・ローズのイギリス南アフリカ会社の私有する植民地（ローズの名前から）。
1923白人だけのアパルトヘイト国家建設
202：1980ジンバブエ建国
独立するや、ムガベはすばやく個人支配を確立。対立する相手は暴力で排除するか味方に引き入れるか。1980年代前半に2万人を殺害。白人統治時代につくられた収奪的経済制度を引き継ぐ。1960年代のガーナとそっくり。
204：白人の土地収用
大半はZANU-PF（ムガベの支持団体）のエリートの手に渡る→農産物の収穫量と生産性低下→経済破綻
2025年02月17日
Sir Arthur Louis「二重経済」
「二重経済」とは、イギリス人経済学者Sir Arthur Louisが1955年に発表した経済理論で、彼は後にこれでノーベル経済学賞を受賞している (1979）。
彼は、経済発展を妨げている二重経済を自然発生したものと捉えたようだが、実は、二重経済は、ごく最近のものである。38：発展途上経済や低開発経済の多くは二重構造になっている＝近代部門＋伝統部門伝統部門では労働力の利用効率がきわめて悪く、農村部門の産出総量を減らさずに、労働力を近代部門へ再配分することが可能。
40：白人エリート層が、自分たちの事業で使う安い労働力の「溜め池」をつくり、アフリカの国民との競争を減らすために生み出したもの
ヨーロッパ人が南アフリカに進出し始めた当初、その人数は少なく、鍬や鋤などの金属製品を持ち込んだことで、アフリカ人の労働生産性も上がった。当時の記録では、裕福なアフリカ人農民がイングランドの貧しい繊維労働者救済のために寄付をした例もある
この状況は、南アで金やダイヤモンド鉱山が発見されたことで変化する。イギリスが南アフリカ全土を支配しようと決意したのだ。
この状況は、南アで金やダイヤモンド鉱山が発見されたことで変化する。イギリスが南アフリカ全土を支配しようと決意したのだ。41：ボーア戦争(1880-81, 1899-1902)1867キンバリーで莫大な埋蔵ダイヤモンド1886ヨハネスバーグで金鉱発見
その後、発展を遂げるかに見えていた南アフリカ経済は突然終了する。それは、支配者となったイギリスの都合による政策変更だった。それには二つの理由があった。
こうして、制定されたのが1913年の「先住民土地法」。南アを2地域に分割し、近代的で豊かな地域と伝統的で貧しい地域に分けられた。国土の87%が人口の20%を占めるヨーロッパ人に与えられ、その地域に先祖代々住んでいたアフリカ人は強制的に残りの13%の土地に押し込められた。耕せる十分な農地はなく、農作物はヨーロッパ人の経営する農園に独占され、貧困にあえぐアフリカ人はやはりヨーロッパ人の経営する鉱山で奴隷のように働くしかなくなった。46：�．▲侫螢�人と競合するヨーロッパ農民の敵意（作物価格の下落）��工業分野での安価な労働力確保の必要→アフリカ人を貧困化させる
2025年02月06日
歯科医の船
第９章「歯科医の船」とは、20年前に起こったドイツでの造船投資ブーム。
120：ドイツ政府の優遇税制こうした船舶ファンドの投資家は、他になかなか節税方法がなかった高収入の医者、特に開業医の多い歯医者が多かったため、「歯医者の船」と呼ばれた。
節税効果のある船舶ファンド→年間配当に対する税金軽減
船舶ファンドへの年間投資額200億ユーロ＝数百隻の船舶建造相当
122：21世紀最初の年に建造されたコンテナ船の1/3はドイツ船主。船会社はドイツ所有船を有利な条件でチャーター。
2000年代の前半、国際貿易は拡大を続け、船舶ファンドの配当も良かった。しかし、2008年のGFC後、船価は急落し、船舶ファンドの投資家は壊滅的な打撃を受ける。このため、数百の投資パートナーシップが破産した。
2025年02月05日
第三のグローバル化
第７章「第三のグローバル化の火付け役」。第一のグローバル化が20世紀初頭、第二のグローバル化が第二次世界大戦後として、第三のグローバル化は1980年代後半。その火付け役は、英米の規制緩和であった。
87：市場が経済グローバル化をけん引
一方で、「市場メカニズムを導入して経済発展を図ることで、貧困から繁栄へと駆け上った国はかつてない」というのが歴史の教訓だ。経済が停滞した先進国に市場メカニズムの強化は必須だが、発展途上国にいきなり導入しても先進国に成れるわけではない。
そんな中取り残されたのが欧州。EU単一市場を創ることで対抗しようとする。
101：万策尽きたヨーロッパの指導者たちの賭け1985関税撤廃からさらに一歩を進め、ギリシャからアイルランドに至る単一市場創設。
2025年02月04日
ホットマネーの功罪
第６章は「ホットマネーの功罪」。石油危機を経て、中東の産油国は莫大な利益を上げるが、国内に投資先はない。
その資金は、NYやシティの金融機関を通じて世界中に投融資される。しかし、発展途上国に融資された資金の多くはデフォルトしてしまう。77：産油国から流れ込んだ「オイルダラー」第一次世界大戦以後初めて、銀行が中南米・東欧・アフリカ・アジアの貧困国に巨額の融資。
一方で、東アジアの国々は日本を参考に工業化を成し遂げ、輸出を急増させる。83：80年代「失われた10年」LCDs債務危機メキシコ、ブラジル、トルコ、アルゼンチン、インドネシア、ポーランドがデフォルトもしくは延滞
85：東アジアの発展途上国に対する米国の貿易赤字は、1980年の40億ドルから1986年には300億ドルに拡大。アパレル・製靴・鉄鋼などの工場で何万人もがレイオフ。
しかし、そうしてアメリカの産業構造はより付加価値の高いハイテク産業に移行し、結果、今の繁栄がある。トランプ大統領の頭の中は80年代までの伝統的製造業（と不動産業）中心のように見える。一方、そのトランプ大統領を支援しているのは巨大テック企業。こちらの期待は規制緩和。この二股かけた蜜月はいつまで続くのか。
2025年02月03日
コンテナ革命
いよいよ、物流に革命をもたらせた、第５章「コンテナ革命」。
戦後の1956年、工業製品の貿易額が1次産品のそれを歴史上初めて上回った。その大きな原因は、画期的なコンテナ輸送が実用化されたことにあった。
そこに登場したのがコンテナ。当初は、各社が独自に規格を作っていたので、サイズはバラバラだった。それでもバラ積みに比べればはるかに効率的だったので徐々に普及していったのだが、規格を統一したのは米軍だった。62：1950年代貨物の積み込みだけで2週間かかり、100人以上の港湾労働者が必要。
当初はアメリカを中心に普及していったコンテナ輸送。これが国際化したのはベトナム戦争が契機で、米国本土からベトナムへ物資を輸送するためにインターモーダル輸送が始まる。68：1965コンテナ規格の統一有事に補助船を徴用する権限を持つ米海軍が、コンテナ規格がバラバラでは後方支援活動が煩雑になると懸念。
71：1967シー・ランドが米国本土とベトナムを結ぶコンテナ輸送開始
2025年01月31日
第二のグローバル化
「第二のグローバル化」とは第二次世界大戦後に始まったグローバル化をいう。
44：世界貿易は1929年から1933年に1/3近く減少し、その後も思うように回復しなかった。同じ時期の工業製品の貿易は42%も減少した。外国からの投資は、各国が国民の海外送金を制限するようになったため、ほぼストップした。国際連盟の統計によれば、1931年9月1日からの16か月の間に23ヵ国が全面的に関税を引き上げ、50ヵ国が特定品目の関税を引き上げ、32ヵ国が輸入許可制度を導入した。
世界恐慌後に多くの国が保護貿易に走り、グローバル化が逆行したことで、世界経済は益々低迷し、そんな中でイタリア、ドイツが独裁国家となる。それが第二次世界大戦につながっていくわけだが、この反省から多国間協定に基づく、国際ルールが作られていく。
ブレトンウッズ体制は1971年の金ドル交換停止で終了するが、米ドルの基軸通貨態勢は今も続いている。48：ブレトンウッズ体制より柔軟な金本位制＝各国の為替相場を米ドル建てで表示二つの抜け穴�ヽ胴饑�府が為替レートを発足時から10%以内なら変動させることができる�△△觜颪�「根本的な不均衡」に陥った場合、IMFの許可を得て為替レートを変更できる
GATTは1995年に常設のWTO（世界貿易機関）となり現在に至るわけだが、WTOのルールを無視して関税を一方的に引き上げようとしているのが米トランプ大統領。49：GATT（General Agreement on Tariffs and Trade）の誕生第三次世界大戦を回避するには国家間の経済的結びつきが不可欠→国際貿易を拡大する�ヾ慇念�き下げに拘束力を持たせる（関税を引き上げられない）��一国が完全引き下げに合意したら、それがすべての加盟国に平等に適用される
2025年01月29日
第一のグローバル化
第2章は、「第一のグローバル化」。16~17世紀には奴隷貿易が盛んになったが、その影響を受けたのはまずはアフリカで拉致されて奴隷として売られた黒人たち、その貿易で大儲けした奴隷商人（アフリカで奴隷商人と組んで同胞を拉致していたアフリカ人も多い）、それにその奴隷を買って労働力としていたプランテーション・オーナーである。一般人には「グローバル化」はまだ関係なかった。
18世紀になり、リカードが貿易の大原理となる「比較優位説」を発見する。各国は自国の特異なモノの生産に特化し、それを輸出することで、後は他国から買った方が両方が豊かになるという国際貿易の原則だ。そして、それを実現させたのは、産業革命であった。17：グローバル化への道を開いた思想家デヴィッド・リカードセファルディ系ユダヤ人の家に生まれた。ポルトガル出身の父の家系は、16世紀初頭の異端審問を逃れてイタリアに渡り、1662年頃、当時急成長しつつあった金融センターのアムステルダムに移った。父エイブラハム・リカードは1760年にアムステルダムからロンドンに移住し、アビゲイル・デルヴィアッレと結婚した。（中略）1772年、少なくとも17人いた子どもの3番目としてデヴィッドが生まれる頃には、エイブラハムは市民権を取り、株や債券の売買で財を成していた。
23：グローバル化を実現させた蒸気船を設計した英国人技師イザムバード・ブルネル
600tの貨物を積んだグレートウェスタン号が1838年に大西洋を横断。外輪をスクリュープロペラに変え、木造を鋼鉄製に変えた改良型の蒸気船によって航行速度は向上。
25：蒸気船と電信という二つの技術が長距離貿易に革命
1860年代にはギリシャ出身のヴァリアーノ兄弟をはじめとする起業家たちが、ロシアの黒海沿岸、コンスタンティノープル、マルセイユ、北西ヨーロッパ、ロンドンなどを結び、年間何十万トンもの穀物や石炭の購入・売却・移動を仲介するようになった。
27：金本位制→為替レートの安定→国際金融の発展
米国の鉄道建設が最高潮を迎えた1880年代、鉄道に投下された資金の2/5はヨーロッパからの資金。1913年になると英国の富の1/3が外国に投資され、アルゼンチンの全事業資金の半分が外国人所有。
28：大規模な移民の波
1914年までの数十年で、推定2900万人のインド人がフィジー、ガイアナ、ケニアなどの多様な土地に移民し、中国南部からは推定2000万人がビルマ、シンガポール、オランダ領東インド、インドシナなどへ移住した。（中略）20世紀初頭はそれ以前のどの時代をも上回る、年間300万人以上が国境を越えて移動していた。
31：世界全体のGNPに占める輸出入の割合（試算）
1815 <3% （ナポレオン戦争後の平和）
1913 8~12%
2025年01月28日
グローバル化の夢
第１章は「グローバル化の夢」。大陸を行き来するグローバル化はシルクロード交易のころから始まった。新大陸が発見されると、大西洋を横断する奴隷貿易が始まり、それは巨大なビジネスへと発展した。
5：1271 ヴェネツィアを出発したマルコ・ポーロと父・叔父の一行は、シルクロード経由でかの有名な中国への旅に出て、こちらは交易に成功して富を得た。16世紀初頭には大西洋を横断する奴隷貿易が始まり、1750年以降は本格的な巨大ビジネスへと成長した。英国商人が銃やヤカン、織物、靴などをアフリカ沿岸に所有する貿易拠点へと運び、これらの品物を奴隷と交換し、奴隷をアメリカ大陸へ運んで売り、帰りの船に砂糖とタバコを積んで英国に帰るという三角貿易だった。アフリカの奴隷貿易はきわめて収益性が高く、高度にグローバル化されていた。36千回を超える大西洋横断航路によって推定1250万の人々が奴隷として拉致されたほか、南北アメリカ間でも50万人の奴隷が海上輸送された。
７：北ドイツの商業都市同盟「ハンザ同盟」
15世紀まで300年間にわたってバルト海沿岸の貿易を独占し、リューベックやハンブルクなどの都市に大きな繁栄をもたらした。それでも現代の尺度からすると、貿易の規模はきわめて小さい。ハンザ同盟の商人たちが所有する船を全部合わせても、年間の貨物量は21世紀の中型コンテナ船1隻にも満たない。
9：1499年にヴェネツィアに向けて航海した107隻の商船の総輸送量は、貨物・人員合わせて26千トンにも満たなかった。2020年なら、1隻でその何倍も運べただろう。
2025年01月27日
グローバル化の主役交代
はじめに：2006エマ・マースク号＠オーデンセン造船所
全長はサッカー場4つ分、キールから甲板までの深さは35m。世界最大のプロペラ。
20世紀最後の数十年間に、コンテナのおかげでモノをどこで製造し、どこで栽培し、どうやって顧客に届けるかを決めるのに輸送コストはほぼ無視できるようになった。（中略）中国が世界最大の工業国へと驚くべき変身を遂げたのも、高い輸送コストに守られてきた各国の国内市場が国境なきグローバル市場へと吞み込まれ、デトロイトからドルトムントに至る歴史ある工業地帯が衰退していったのも、コンテナのおかげ。
工業品の貿易量は1950年から1986年にかけて約15倍の成長を遂げた。原油高の中、スーパータンカー、具体的にはULCC（30万トン以上の超大型原油タンカー）の登場で、石油市場は完全にグローバル化された。ULCCはペルシャ湾からヨーロッパ、日本、北米の製油所まで、1回の航海で数百万バレルの原油を運ぶことができる。こうして産油国に流れ込んだオイルマネーは、ロンドン、NY、東京の金融機関に蓄積され、これらの国から発展途上国政府への大型融資や、多国籍企業の世界展開への融資に使われていった。
グローバル化は終わっていない。これまで何度もあったように、グローバル化は新たな段階に入ろうとしている。
2025年01月23日
ヴェネツィアはいかにして博物館になったか
15世紀の始め、明の永楽帝は東南アジアから、インド。さらにはアフリカにまで至る大航海を鄭和に命ずる。この「鄭和の大航海」は第7次まで行われた。しかし、この後、明は海上交易を全面的に禁止してしまう。
372：国際貿易とアメリカ大陸の発見がイングランドの制度を根底から変えつつあったまさにその時期に、中国はこの決定的な岐路に背を向け、内向きになっていた。この内向きの姿勢は1567年まで変わらなかった。
「鄭和の大航海」は明に朝貢する国々開拓ためであり、あくまでも政治的権威の確立にあり、朝貢貿易は二の次。
373：創造的破壊への恐怖〜統治者のいちばんの目的は政治の安定イングランドの商人が大西洋の両岸で勢力を拡大していたように、外国と取引すれば、商人が豊かになって大胆になり、政治の安定が損なわれる恐れがあった。こう思っていたのは明と清の皇帝だけでなく、宋の皇帝も同じだった。宋の皇帝は、技術革新を支援し、より広い交易の自由を認めてはいたが、それも自分の目の届くところまでという条件付きだった。
明治維新の中心勢力が、幕府の目を逃れて琉球貿易で富をなした薩摩の軍事力で行われたことを考えれば、この恐れは不当ではない。しかし、自らの権力に対抗する者が出ないように貿易を禁止した結果、中国は西欧に決定的に後れを取ることになる。
370：中国は絶対主義の国であり、宋の成長は収奪的制度によるものだった。皇帝以外には集団を代表する政治組織は存在せず、イングランドのパーラメントやスペインのコルテスに当たるものが社会にまったくなかった。
262：包括的制度への動きは反転することがある
ヴェネツィアは繁栄した。だが、その政治・経済制度は覆され、繁栄は反転し始めた。現在のヴェネツィアが裕福なのは、そこかほかの場所で収入を得た人々が、ヴェネツィアの過去の栄光を称え、そこでお金を使ってくれるからにすぎない。包括的制度が反転する可能性があるという事実が示すのは、�＼�度の改善が単純に積み重なっていくプロセスは存在しないということだ。
��決定的な岐路で重大な役割を果たす小さな制度的相違は、そもそもはかないものである。小さいがゆえに反転することもあるし、その後ふたたび現れ、さらに反転することもある。
2025年01月20日
権力・繫栄・貧困の起源
ここに登場する米墨国境の町ノガレスには行ったことがある。大学卒業を控えた1986年2月、グレイハウンドの30日パスを買い、LAから出発。アリゾナ州のツーソンでホステルに泊まっていたところ、同じ宿に泊まっていたメキシコ人と知り合った。
ソノーラ州のワタバンポという町に住む弁護士だという。当時のメキシコは自国産業育成のために工業製品の輸入関税を高くしており、自動車タイヤなどを時々国境を越えて買い出しに来るのだという。なぜ、弁護士がそんなことをしなければならないのか不思議だったが、話していると確かに理知的な感じで、同じ宿に泊まっている危ない感じのアメリカ人とは違う。
それで、「メキシコに行ってみるか？」と言われ二つ返事でOKし、彼のVWバン（当時のメキシコでまだ生産していた）でツーソンを出発した。ノガレスで国境を越え、メキシコへ。ノガレスは国境を挟んで両国にある。北と南では道路も建物も違う。北から南に入れば、道路はガタガタ、建物はボロボロ、そして、賄賂が横行する。
税関も賄賂、道路で警官に止められても賄賂。彼は弁護士だが、これが現実。渡さなければ難癖付けられ、高額の関税をとられたり、荷物を没収されることになる。同じ市はこうして国境で分断され、人々は全く違う運命になった。
序文：世界の裕福な国々と貧しい国々とを隔てる収入と生活水準の巨大な格差
序文：世界の裕福な国々と貧しい国々とを隔てる収入と生活水準の巨大な格差
エジプト人にとって、自分たちを抑圧してきたものの一部は、無能で腐敗した国家であり、自分たちの才能、野心、創意、受けられる教育を活用できない社会。
イギリスや合衆国のような国々が裕福になったのは、権力を握っていたエリートを国民が打倒し、現在のような社会をつくりあげたから。
91：アリゾナ州ノガレスがソノラ州ノガレスよりもはるかに裕福な理由
国境の両側で制度がまるで異なるということ。それらの制度が、まるで違うインセンティブを生み出す。
103：社会科学者が貧困と繁栄の起源について提示してきた仮説の大半はまったく役立たない
�｜詫�説（モンテスキュー、ジャレド・ダイヤモンド）
�∧顕柔癲淵泪奪�ス・ヴェーバー）
�Ｌ誼寮癲陛�治者が貧しい国を裕福にする方法を知らないから）
144：繁栄の原動力
包括的な経済制度は包括的な市場を生み出す。この市場は、自分の才能に最適な転職を追求する自由を人々に与えるだけではない。そうする機会を得られる公平な場をも提供する。
149：包括的な政治制度
十分に中央集権化された多元的な政治制度。
⇔収奪的な政治制度
限られたエリートの手に権力を集中させ、その権力の行使にほとんど制約を課さない。
→社会の残りの人々から資源を収奪するための経済制度を構築
2025年01月19日
アクロイド殺し
第9章は「アクロイド殺し：ドルを殺す者は誰か」。『アクロイド殺し』とは、アガサ・クリスティーの名作（ネタバレになるが、概要を知りたい方は下記動画へ）。
252：現在の国際経済・金融秩序の中でドルは圧倒的な地位
ドルに匹敵する力をもつかもしれないと予想されたユーロは、それなりに大きな国際通貨の地位を獲得したものの、内向きの政治的意思に基づいており、域内の意思統一が難しいこともあって、ドルに並ぶ実力を備えるには至らず。アジアでの主導的地位を宣言した円は、その後の経済の低迷もあり、むしろ国際通貨としての地位が徐々に低下。人民元は自由化を巡るジレンマ。
254：変動相場制
経常収支が赤字となりがちな発展途上国にマクロ経済上の安定を与える柔軟な仕組み。
255：アメリカの行動のもたらす反作用
�〃从兩�裁
通常外貨準備は、その通貨を発行した国の国債に投資されて、相手国の中央銀行に預けられている。ウクライナ戦争でロシア保有のドルは凍結された。
�∧胴馥發寮�治対立
かつては左右対立と言えば、大きい政府か小さい政府か、という経済政策を巡る立場の違い。最近は「文化的なアイデンティティを巡る価値観の対立」（フランシス・フクヤマ）。
＊債務上限に合意できず幾度もデフォルトの危機
リスク・フリー資産と見なされる米国債が実際にデフォルトすると、米国株や債券は暴落、金利暴騰、世界市場は大混乱に。
�Ｊ胴颪慮瀕�主義
特に軍事面で国際的な責務を軽減して国内に回帰したいとする動き。
264：最も確実に「ドルを殺す者」はアメリカ自身
2025年01月18日
人民元の興隆
第7章は、「レッド・ドラゴン：人民元の興隆」。
今、グローバル・サウスで人口・経済最大の国はインド。その地政学的重要性からも、下記3グループの�´∩佇�が��に接近していて、最大の恩恵を受けているのはインドだ。ロシアの経済制裁には参加せず、ロシア産原油・ガスを安く輸入し、それで作った石油製品を欧州へ輸出している。
元々、中ロ主導の上海協力機構（SCO）の一員であるにも関わらず、日米豪との安全保障QUADにも参加。こんなことができるのはインドだけ。
210：3グループ
�．▲瓮螢�をリーダーと仰ぐ自由主義陣営（現行秩序）
�▲▲瓮螢�的な価値観を拒否し、戦後秩序に挑戦する国々
��グローバル・サウス（発展途上国・中進国）
212：人民元の実力
�〃从儺�模 1990→2022 名目GDP50x アメリカの7%規模が70%に
�∨念廖 �2001 2019
世界全体のモノ輸出シェア 4.5% 13.1%
同輸入シェア 3.8% 10.7%
226：今後の見通し
�々畊舛竜’宗淵�フショア金融センター）人民元建て対外決済の約半分は香港
�⊃楊姥議潅�の必然的（戦後アメリカはマーシャル・プランでドルを供給 中国は？）
��資本規制の緩和（資本移動の自由がない）
234：現段階で人民元に「ドルを殺す」能力はない
殺すために必要な措置を採る「動機」もない。
2025年01月17日
大いなる幻想：ユーロの挑戦
第５章は「大いなる幻想：ユーロの挑戦」。1999年1月1日に1ユーロ＝$1.17でスタートしたレートは、2008年のピーク時には$1.59まで行った。それが2022年の10月には$0.97と$1を下回る。その後ほぼパリティで推移している。
EUが拡大を続け、その経済効果が出ている内はいいのだが、2008年の国際金融危機、それに続く南欧EU加盟国の債務危機で、寄合所帯の弱さが露呈した。160：ドルに代わる実力を獲得する？ユーロ紙幣が流通し始めてから10年もたたない2010年には、ほとんど崩壊の瀬戸際まで追い込まれる。
日本のバブル経済の頃「円の国際化」という話も出ていたが、バブル崩壊とともにアジア諸国にとって日本の経済重要性が落ちて、それに取って代わったのが中国。米国との貿易総額も増える中、日本だけがシェアを落としている。174：ユーロの限界�ヾ鷙臀蠡���安全資産の供給不足（共同債は限定⇔米国債）��ユーロの対外供給（ユーロ圏全体の経常収支はほぼバランス⇔アメリカは大幅な経常赤字）�だ�治的野心の欠如（欧州諸国間の平和という「内向き」な政治目的のために創設）
197：ASEAN貿易総額 2010 2020対日本 11％ 7.8%対米国 9.2% 11.2%対中国 12% 19.4%
2025年01月16日
短命に終わった「基軸通貨」としてのドル
第3章は「黄金三角：短命に終わった基軸通貨としてのドル」。
というと、ドルはまだ「基軸通貨」ではないか
と思うが、ここでは「法的地位」を持った基軸通貨という狭義の意味で使われている。二度の世界大戦とその間の世界恐慌を経て、第二次世界大戦終結時にイギリスは破産状態にあった。英ポンドの基軸通貨としての役割は、既に第一次世界大戦後の金本位制度への復帰の失敗で終わっていた。各国の要請にもかかわらず、アメリカはドルを英ポンドに代わる基軸通貨にすることを断る。
基軸通貨の不在が世界恐慌を長引かせ、そしてそれが第二次世界大戦につながったことから、今回はアメリカも覚悟を決め、その条件として、自ら定めるルールを大戦を共に戦ったイギリスにも強要する。
119：IMFと世界銀行
ブレトンウッズ体制では英ポンドは何の特別な地位も与えられず、経常収支赤字と外貨不足に対する二国間支援（ローン）は厳しい条件を付された上、英連邦諸国に支えられた特権も否定され、英ポンドは衆人環視の下で暴落した挙句に切下げを余儀なくされる。
しかし、ブレトンウッズ体制の崩壊は早かった。1971年の「ニクソン・ショック」で、アメリカは突然、「10%の輸入課徴金と、ドルと金の交換停止」を発表。ドルと金の交換比率＋ドルと各国通貨の固定相場制に基づくブレトンウッズ体制は停止し、為替は変動相場制に移行する。
127：「国際金融のトリレンマ」（ロバート・マンデル）・為替の安定（固定相場制度）・国内景気に合わせて金融政策を策定する自由・国境を超えた資本移動の自由の３者を同時に満足させることはできない。
ドルはブレトンウッズ体制という「現場」を捨てることで、その後も生き延びた。1971年の段階で、アメリカはまだ世界一の経済大国であったし、西側諸国は東西冷戦の中でアメリカのリーダーシップを求めた。ドルは基軸通貨の（法的）地位を失ったにもかかわらず、他に代わる通貨がなかった。結局、そのままドルを使い続けることが西側諸国にとって便利だったのだ。
141：ドルを生かした者�〃从冦���金融市場（規模が大きく深み）��信認（西側諸国の盟主）�ね�便性�グ貅〇塞焚然覆猟眠澤�て（原油の大半はドル建て取引）�β召冒�択肢がない��他国がコスト負担に消極的
2025年01月15日
世界最初の基軸通貨英ポンド
第2章は「最初の基軸通貨英ポンドの凋落」。19世紀末にアメリカは世界最大の経済国となっていたが、それによって自動的に、ドルが基軸通貨になったわけではない。
76：英ポンドが基軸通貨の地位を失う→世界経済の混乱とWW2→アメリカがリーダーの責務を負う決断
つまり、本来なら第一次世界大戦で勝ったとはいえ、多大な打撃を受けた英国に英ポンドを支える経済力はなかったのだが、当時のアメリカはアメリカファーストであり、そうした国際的な責務を負うことには関心がなかった。ウィルソン大統領自ら提案した世界初の国際的平和維持機構である国際連盟に議会の承認が得られずアメリカ自体加盟しなかったのもその表れだ。
英ポンドは金に裏付けされており、世界初の産業革命を成し遂げた英国経済が強力であったので、世界から信頼されたということだ。ただそれだけではなく、以下の理由があったという。77：英ポンドを基軸通貨にしたのは金本位制19世紀前半に英国で始まる→1870年代に仏、独、米、日などが次々と採用産出量の限られる希少金属の金に結びつけるシステムなので、極めて安定的だが、硬直的。不景気の際の利下げや財政出動ができない（金との交換要求が増えてしまう）。不景気の際は、企業が倒産したり失業が増えて、労働者の賃金が下落することで、輸出競争力を回復。
79：英ポンドが基軸通貨となった理由�〃从冦呂鳩鎧�力�∋駛寨⊇弌�1870~75には平均毎年£75Mの対外投資→£50M＋の利子・配当収益）�６睛札札�ターが発達し、トラブル解決のための法務などのインフラが整っていた（シティー）�ぅ櫂鵐匹悗凌�認
要は、「使い勝手が良く、シティーを通じて海外にも多く供給され、恒常的な経常黒字により累積した豊富な金準備を背景に価値が安定している一方で、調達金利は安く信頼性は高い」から基軸通貨なのだ。では、「誰が英ポンドを殺したのか」？
89：�ゞ睨椣明�復帰の失敗WW1中のインフレ率はアメリカに比べてイギリスの方がかなり高かった��大陸の金融危機（ドイツやオーストリアの混乱→不良資産化）��スターリング・ブロック1932オタワ会議 イギリスと自治領・旧植民地が、グループ外に関税障壁
戦時中は金本位制を停止しており、第一次世界大戦後の市場レートは戦前に比較して3割ポンド安であったという。なのに、戦前のレートで無理やり金本位制に復帰したことから、金への引き換え依頼が殺到した。戦前レートでの復帰には、ケインズが「デフレ政策」になると反対したが、チャーチル蔵相（後の首相）が「大英帝国の威信」に関わると押し通したという。
他にも、シティに集まった資金を当時の新興国であったアメリカやドイツなどに投資し、将来のライバルをせっせと育成したという面もある。基軸通貨を失った世界はやがて世界恐慌に突入する。
1930年代の世界恐慌「システムを安定させる能力をイギリスが失っており、その能力を持っていたはずのアメリカには責任を負う意思がなかった」（チャールズ・キンドルバーガー）
2025年01月14日
米ドルの歴史
米国には1776年の建国以来、1913年のFRB設立まで中央銀行がなかったというのが驚き。世界最初の中央銀と言われるイングランド銀行の創立は1694年。その当初の目的は戦費を調達するための国債発行だった。
実は、第一合衆国銀行・第二合衆国銀行が設立されたこともあったのだが、どちらもすぐに廃止された。第二合衆国銀行は第7代大統領Andrew Jacksonが反対し、免許を更新しなかったために廃業。ジャクソン大統領は南部の農民の出身で、東部上流階級に反感があり、それで中央銀行の意義を認めなかったらしい。
中央銀行が無くなると、各州の銀行が融資量を拡大。インフレを志向する南部や西部の農民・開拓者の熱狂的な支持を得たという。いつの世も、大衆は目先のことしか考えないようだ。第二合衆国銀行の廃止後、州法銀行が再度増加し、1860年には州法銀行数1572行、銀行券の種類7000種（うち4000種が偽造ないし変造）に登ったという。
米国中央銀行の歴史を変えたのも戦争だった。1861年に南北戦争が勃発すると、連邦政府（北部）は戦費を賄うために独立以来初めて何の裏付けもない紙幣発行を発行する。この紙幣は裏が緑で印刷されていたので「グリーンバック」と呼ばれた。今でも、ドル紙幣の通称となっている。
52：米ドルの歴史
1792貨幣法 初代財務長官Alexander Hamilton
ドルの価値＝スペイン・ドル硬貨（当時、米大陸で広く流通）＝金1.6g
70：1913FRB
1907金融恐慌後、金融システムの安定には中央銀行が不可欠であるとの認識がようやく一般化。
ドルの起源
16世紀にボヘミアのJoachimsthal（ヨアヒムの谷）の銀鉱山で産出した銀を用いて、現地のシュリック伯爵が鋳造した大型の銀貨ヨアヒムスタラーが語源。スペインでは「ドレラ」。北米植民地ではスパニッシュ・ダラー。元々の語源は、ドイツ語の「谷」。
2025年01月13日
ドルを「殺す」者
日々実感するとおり、円の実効為替レートは1970年代初めの水準にまで落ちている。この20年で見てもその価値は半減しており、なんとその下落幅はアルゼンチン・ペソを上回る。ピークだったのは1995年でその時に比べると1/3近い。
円で給料をもらい、円資産しか持ってない人は円建ての資産が変わらなくても、その分、世界の中では相対的に貧しくなっている。政府が借金を重ねて、バラマキ政策を継続し、社会保障制度が破綻しないようにしてきたが、エネルギーの90%、食料の65%はどうしても輸入しなければならないので、円安が続けば買値が高くなった分貧しくなる。
35：円の実効為替レートは1970年初頭に戻る�．ぅ離戞璽轡腑鵑亡陲鼎�収益機会がアメリカに比べて劣っている��円の国際的な利用が限定的�１澆鮟笋訶譽▲献△涼論�学的状況に漠然たる不安感＋金利差・貿易赤字（短期的要因）
日本に次いで通貨が弱くなったアルゼンチンでは、新任のミレイ大統領が「ドル化」（ペソの廃止）と中央銀行の廃止を進めている。ポピュリズム政治が長く続いたアルゼンチンでは、中央銀行の政治からの独立性が担保できなく、政府財政をペソの増発で支えてきた。当然、それはハイパーインフレーションをもたらし、国民生活に大打撃を与える。そして低所得層が更なるバラマキを求める悪循環だ。
やっていることは日本と同じなのだが、日本の方が経済規模も大きく、円の国際通貨としての信認もあるので、これまでのところハイパーインフレの状況には陥っていない。しかし、物事には何事も限界がある。日本が「ドル化」しなければならない日は来るのか。
やっていることは日本と同じなのだが、日本の方が経済規模も大きく、円の国際通貨としての信認もあるので、これまでのところハイパーインフレの状況には陥っていない。しかし、物事には何事も限界がある。日本が「ドル化」しなければならない日は来るのか。
はじめに：マイノリティ・リポート
ほとんどの国は、自分たちの国に特有の通貨をもつ。
強い経済関係にある大国の通貨をそのまま国内で用いたり、国内の高インフレへの解決策として信用力のある他国の通貨（主にドル）を自国内で流通させたりすることはよくある（「ドル化」）。
自国通貨と他国通貨が併用されるのを公認するケースが多いが、自国通貨辞退を廃止してしまうケースもある（ジンバブエ）。
覇権通貨：アメリカが主観的にドルを世界最強の通貨として見ているだけでなく、各国ともその状況を追認し、特に困らない限りアメリカの行動の自由を容認している。
