その他
2025年11月03日
新・代表的日本人
内村鑑三『代表的日本人』は実は英語の著作（日本語訳が出たのは戦後）。そこで紹介されているのは、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮の生涯。
283：西郷が成し遂げようとしていた維新革命は、彼の理想に反して文明開化一色に突き進んでしまった。サムライ精神は無視され、優柔不断となり儒教の道を喪失し、日本人の堕落を招いた。打ちひしがれた西郷を救ったのは、「天」の声。
著者は戦後の「新・代表的日本人」を提案する。
285：柳田國男、伊藤静雄、小林秀雄、江藤淳
彼ら人文学の空気を吸う者たちが取り組んだ課題は、西郷隆盛的なものであった。
4人に共通するのは、死への嗅覚。
柳田國男がテーマとしたのは「近代の死」。柳田民俗学を特徴づけたのが、氏神信仰と常民にまつわる研究で、柳田が死について考え始めた明治末期の現実は、日清日露戦争を経て、日本が急速に工業化し、都市部へ人口が移動した時代。それは家と村から個人を解き放ち、自由を与えた。
286：家の自殺
自分の意思を超えた先祖の願い、家繁栄の願いを受け止めること、宿命を引き受ける常民の生き方の消滅。未来にいたはずの子孫の声なき声を、絞め殺した。
287：魂として「宙づり」
何ものにも束縛されないことは、自由とは逆の不安しか与えてくれない。個人とは、悲しく抒情する存在にすぎない。
伊藤静雄「水中花」
291：柳田國男が描いた氏神信仰の世界
先祖代々の家を継承し、未来の子孫のために引き継ぐ役割を果たすことが、自己の存在証明であり、良い人生の判断基準。それが自己が歴史という時間に充たされているという意味。
2025年11月02日
天皇と人間
天皇や伝統がなぜ必要かと問われれば、それは、人は空虚を抱えるがゆえに、他者抹殺の衝動を持つからだと言えよう。それを防止するには、合理性を超えた存在が必要だ。
30：昭和20年代 天皇をめぐる二つの発言
「わたくしはこの天皇の伝統的権威が、日本の歴史を貫いて存在する事実だと考えるのである。それは天皇が国民の全体性を表現するがゆえに生じた権威であって、国法の定めによりはじめて成立するのではない。それは厳密な意味での国家の成立に先立って存し、また国家の統一が失われた時にも存続した」（和辻哲郎『佐々木博士の教示について』）
40：日本という身体に、天皇は良薬なのか劇薬にすぎないのか
和辻はどうして、天皇や伝統が必要だといい募ったのか。なのに、安吾はなぜ天皇制を危険だといったのか？
49：「私は偉大な破壊が好きであった。私は爆弾や焼夷弾に戦いながら、凶暴な破壊に劇しく亢奮していたが、それにも拘わらず、このときほど人間を愛しなつかしんでいた時はないような思いがする」（坂口安吾『堕落論』）
52：安吾から手渡されている問題
�＼鐐茲箸いλ塾呂砲茲辰討發燭蕕気譴襦崘剖鼻廚箸浪燭覆里世蹐�
�∪鐐茲函嵌�」とはどのような関係にあるのだろう
��戦争の中で「堕落」することで保たれる「人間」とはいったいどんな顔つきをしているのだろう
58：シュミットの他者抹殺の衝動
アガンベン「白い終末論」
この空虚を満たし、抹殺衝動を回避するためにシュミットが行ったのが、法の重要性を訴えること。
69：坂口安吾はシュミットによる「政治の美学化」を拒絶
政治によって人間をまるごと描けるという思考態度を拒絶。天皇制から民主主義、さらに世界平和から共産主義も含めて、こうした政治的スローガンによって「人間」はつながりつづけることはできない。
72：安吾の問い
天皇という「カラクリ」は、静かな日々の秩序を取り戻すためにのみ意味をもつ。政治にからめとられない天皇、美しすぎない天皇を日本人はつくりだせるか。戦後の日本人は象徴天皇を抱きながら、「人間」になれるか。
2025年10月13日
藪の中
元祖『藪の中』は芥川龍之介の短編小説。初出は1922年というから、今から100年余り前（「新潮」）。こちらも当然、群像劇。これは、映画化されるだろう。
9：木戸悠介
大抵の人間が、自分の一世一代の実体験を活かして小説を書けばそれなりに面白いものが出来上がるものだし、それなりの文章力と語彙と構成力とポエジーがあれば新人賞デビューもできる。しかし書き続けられるかどうかは、己を生涯小説へと駆り立て続けるテーマがその人自身にあるかどうか、で決まるのだ。
41：長岡友梨奈
木戸はつまらない男だ。でも他になんの趣味もない文学かぶれがとうとう文学にすら何も求められれなくなった成れの果てのような彼を見ていると、感情移入しないではいられない。小説に関わる人々は皆、小説の力と、小説の無力さについて日々考え、打ちのめされ続けているからだ。
73：五松武夫
（マチアプ廃人）自分は雄専用ベルトコンベアに乗って、あ、こっちは嫌だな、こっちに行きたいな、と片手で頬杖をついて寝そべったままリモコン操作をして、選択制あみだくじの先で「これでどうよ」的な雌をあてがわれ、数回のデートで終わったり、何回かセックスをして付き合ったり別れたりして、そうしてまたベルトコンベアに乗って送り出されていく。
87：現代では仕事相手を恋愛相手として品定めしたり口説いたりするような野蛮な行為に及ぼうものなら、セクハラと切り捨てられ社会的死を迎える可能性だってあるのだ。
183：安住伽那
互いにその場限りの関係だけで人生を構成したい。だからこそ、私はインターネットの世界に没入しているのかもしれない。（中略）色んなソーシャルメディアを股に掛けて生きているけど、どの世界もこの世界より居心地が良い。
2025年10月02日
SNS
電信の誕生に貢献したクックとモールス。二人とも専門はそれぞれ解剖学に絵画と関係ないのだが、当時はまだ電気が発見されて間もなく。専門家はいなかったわけで、他分野から電気に興味を持った研究者・発明家・技術者があれこれ試していた時代。
342：電信の誕生〜米英の2人の男の開発競争
英ウィリアム・フォザギル・クック 専門は解剖学
King’s College Londonの物理学者チャールズ・ホイートストンの協力で1839開発に成功
米サミュエル・モールス 本業は画家
NYCU化学教授レナード・ゲイルの助言で1837長距離実験に成功（リレー回路）
358：TCP/IP@ARPA
コンピューターネットワークにつなぐための共通規格
360：WWW
1990CERNの研究者ティム・バーナーズ＝リーとロベール・カイユ―が発明。
366：2010Instagram
2011LINE 2013メルカリ
379：なぜ人類はこんなにも単純にSNSに操られてしまうのか
2016BREXIT 投票直前にロシアから離脱をうながす投稿やフェイク・ニュース。
381：グローバルなネットワークは、熱狂やパニックの伝達メカニズム
政治的暴力のレベルが高まる。
2025年09月28日
ギックリ腰の駆け込み寺
「ギックリ腰の駆け込み寺」という（セルフ？）プロデュースをしている品川区の鍼灸師による本。今年6月に人生3回目のギックリ腰となり、再発防止のため、そしてまたなってしまった時の緩和措置を知りたくて読んでみる。
初めてギックリ腰になったのは10年ほど前。MTBで山を下っていて、枝を避けようと上半身をひねったとき。2回目は自宅で、立ち上がろうとした拍子に。今回は、旅行先で山に登り、展望台で寝そべって休憩してから立とうとして。いずれも同じ箇所。
ということで、原因にはいろいろある。まえがき：男性の体の悩み第1位が腰痛（女性は肩こりに次いで第2位）疲労（筋肉の緊張、骨格のゆがみ、自律神経の乱れ、血流不足、むくみ）→腰痛
これなど、今回、汗が引いて体が冷えたのが原因に思えてくる。46：冷たい食べ物や飲み物は体を冷やしてしまう冷たい食べ物、飲み物→胃腸が冷える→腰も冷える→ギックリ腰の引き金
76：背骨を整える
背骨を整えるだけで骨のゆがみが整い、筋肉の緊張がほぐれ、神経伝達や血流がよくなり、内臓も正常に動き出す。背骨は脳神経ともつながっているため、頭もスッキリし、精神面も安定する。
84：腰痛改善エクササイズ
第一歩は「背骨」を動かすこと。
137：ギックリ腰に効く特効ツボ
手の甲（腰腿点）
人差し指と中指、薬指と小指の骨の付け根の間。
2025年09月27日
コンピューターの黎明期
「史上最初のコンピューター・プログラマー」が女性であったというのは興味深い。しかも、ビクトリア朝の伯爵夫人で、父親はかの有名なバイロン卿だ。
284：Ada Lovelanceバベッジの共同研究者であり、最良の紹介者。
289：IBM
1930年代までに、IBMは年間30億枚のカードを販売しており、それは収益の10%、利益の30~40％を占めていた。装置をリースすることで固定収入を確保し、パンチカードで利益を上げる。
290：Harvard Mark1（リレー式）
1886年にバベッジの息子ヘンリーによってハーバード大学に寄贈されていたバベッジの計算機関の断片をハーバードで真空管を研究する大学院生ハワード・ハサウェイ・エイケンが見つける。
294：弾道計算
典型的な射撃表には、約3000の弾道データが記載されていた。弾道１つあたり７つの変数を持つ常微分方程式を積分する必要があり、これにはアナログ式の微分解析機で10~20分を要した。
296：ENIAC（真空管式）
約17千本の真空管＝信頼性が低い。
300：改良版EDVAC
プログラム内蔵式のコンピューター。
2025年09月25日
技術革新と歩んだホモ・サピエンスの20万年
「世界初の株式会社を作ることができた背景には、簿記・会計知識の普及」があったという指摘は面白い。確かに、世界にまたがる巨大組織がどこでどう動いているかが数字で分かって、経営ができるようになった。
『スムマ』は複式簿記をヨーロッパ中に広めた最初の本となったが（本全体としては広く数学を扱っている）、以降も複式簿記の教科書が次々に作られて、ヨーロッパでは中産階級以上の人々にとっては基礎教養の一つになったという。
�／洋爐寮戸�学に影響を与えて、生物学的に進化させた発明
例）火の管理・利用
�⊂霾鵑鯡閏膕修靴身�明
人類の歴史のうち、文字のない時代のほうが圧倒的に長かった。
��人類にはできなかったことをできるようにした発明
例）北欧ヴァイキングの優れた船→活動範囲が広がる
�た洋爐砲任�ることをより効率よくできるようにした発明
例）コンピューター
46：ヒトは哺乳類のなかでは極めて暑さに強い動物
皮膚１㎠あたりの毛根の密度は、ヒトとチンパンジーにさほど違いはない。私たちの表皮が露出しているのは、毛の1本ずつが細いから。また、汗腺も発達しており、大量の汗をかくことで体温を下げることができる。
127：1453コンスタンティノープル陥落
十字軍を組織するための資金源として、贖宥状が盛んに発行される。グーテンベルクも教会からの要請に応え、贖宥状を印刷。
142：1671鴻池両替店「算用帳」
江戸時代の日本でも、独自に複式簿記を発明。
143：オランダ東インド会社
世界初の株式会社を作ることができた背景には、簿記・会計知識の普及。『スムマ』以降も複式簿記の教科書が次々に作られて、ヨーロッパでは中産階級以上の人々にとっては基礎教養の一つに。
2025年06月29日
高峰秀子「私のごひいき」
雑誌『TWO WAY』に1974-95年の20年間に渡って連載されていた高峰秀子のコラム「いいもの見つけた」から95本を選んで、分野別に再編集したもの。
もともと、厳選されたお気に入りのものだけを使う主義である高峰秀子が、そこを見込まれて、このコラムを依頼される。そこは、引き受けたからにはプロ意識の高峰秀子。もっと良いものがないのか確かめないと活字にするわけにはいかないと、関連商品も買い集めることになり、気が付けば、家は商品で溢れかえっていたという。
コロナ初期に不足して今更ながら、「国産がない」と思い知らされた使い捨てマスクがまだ市販されてなかったり（医療施設用のものがあると紹介されている）、アメリカでPost-itを初めて入手し「便利で驚いた」など、時代を感じさせる。
もともと、厳選されたお気に入りのものだけを使う主義である高峰秀子が、そこを見込まれて、このコラムを依頼される。そこは、引き受けたからにはプロ意識の高峰秀子。もっと良いものがないのか確かめないと活字にするわけにはいかないと、関連商品も買い集めることになり、気が付けば、家は商品で溢れかえっていたという。
コロナ初期に不足して今更ながら、「国産がない」と思い知らされた使い捨てマスクがまだ市販されてなかったり（医療施設用のものがあると紹介されている）、アメリカでPost-itを初めて入手し「便利で驚いた」など、時代を感じさせる。
52：紙マスク
日本メディカルサプライ「マスクA」100枚入り1000円
57：修正液
LiQUiD PAPER
92：ノリつきメモ用紙
3M Post-it
「二十年の連載を終えて」
三つの条件
�‘票圓里澆覆気鵑�、2，3回のコーヒー代を節約する程度の価格で購入できるもの
�▲轡鵐廛襪納騨囘�で、常時役に立つもの
��どんなにいいものでも日本国で購入できないものは選ばないこと
2025年06月28日
高峰秀子「私の生い立ち」
高峰秀子の講演、エッセイ、インタビューをまとめたもの。最初に出てくるのは、昭和60年に神戸で開かれた講演会（『済生』1986収録）。当時、高峰秀子は60歳の還暦。
ここで出てくるのが「百貫デブ」。何十年ぶりかで聞いた。確かに、私が四国で育っていた50年前にはそうした言いまわしがまだ使われることもあったし、古い体重計にkgと合わせて「貫」が書いてあることもあった。ちなみに、1貫＝3.75kgだから、「百貫デブ」は375kg。さすがに、お相撲さんでもこれはない。
巻末の方に、『アサヒグラフ』1955/7/20号のインタビュー記事が収録されていて、そこにはこうある。
94：身長は5尺2寸、体重は100ポンド、バストは33インチ、ウエストは23インチです。
これを今風にメトリック法で表すなら、
身長：157.56cm
体重：45kg
バスト：84cm
ウエスト：58.4cm
1955年といえば、昭和30年。終戦後10年経った「もはや戦後ではない」と言われた年だが、体重も体格もポンド・インチなのが興味深い。それだけ、占領時代にアメリカ方式が徹底されたのか、それとも、戦前から映画界ではハリウッドの影響からポンド・インチだったのか？
さらには、身長だけが尺貫法なのが気になる。
10：食いしん坊
身長：157.56cm
体重：45kg
バスト：84cm
ウエスト：58.4cm
1955年といえば、昭和30年。終戦後10年経った「もはや戦後ではない」と言われた年だが、体重も体格もポンド・インチなのが興味深い。それだけ、占領時代にアメリカ方式が徹底されたのか、それとも、戦前から映画界ではハリウッドの影響からポンド・インチだったのか？
さらには、身長だけが尺貫法なのが気になる。
10：食いしん坊
ものすごい大金持ちと結婚して、食って食って食いまくって、デブデブの百貫デブになっちゃおう。そう思っていたのです。
12：松山善三（助監督）
私が一本百万円もらっているというのに、彼は月給13,500円ポッキリでした。月給日に五目ラーメンを食べるのが唯一の楽しみ。（中略）栄養失調でヒョロヒョロしていて・・・
26：子役
私は昭和6年、6歳のときには35円という高給取りでした。（中略）6歳の少女が、大学卒の初任給、大の男の東大出よりももっとお金を取るようになっていたわけです。
38：私自身
そういう高峰秀子のどこからどこまで全部いや、嫌い！という一人の人間。
40：金の卵を産む鶏
母は、私に対して娘というよりは、一人の女性に対するような嫉妬の目を向けて、どこまでも私と張り合うようになっていってしまいました。
2025年06月27日
占星術
世界有数のIT大国であるインド。IT技術者・IT経営者の排出量で他を圧倒している。そのインドで、「インド人の多方面の友人、知人が、たとえば結婚の取り決め、日取りの決定、破談など、ありとあらゆる判断を占星術に頼っている」というのが面白い。
375：「二人は7回前の前世からの夫婦で、7回後の来世まで夫婦でいるでしょう」
378：プロの預言者
常識に心理学的洞察と演劇の要素を組み合わせて、未来を「見せる」ことの達人。
392：選択は人生を切り開く力
わたしたちは選択を行い、そして選択自身がわたしたちを形作る。科学の力を借りて巧みに選択を行うこともできるが、それでも選択が本質的に芸術であることに変わりはない。
2025年06月24日
人はなぜコカ・コーラを選ぶのか
バフェットお気に入りのコカ・コーラ。
237：人はなぜコカ・コーラを選ぶのか好きだと思っている飲み物を飲んでいる時の方が、腹内側前頭葉皮質（報酬系）と呼ばれる部位が活発に動いている（fMRI)。
1980年代前半、ライバル・ペプシコの攻勢に徐々にシェアを落としていたコカ・コーラ社は、入念なブラインド・テストの末、創業以来100年間変わることのなかったレシピを変更。「New Coke」として売り出した。しかし、消費者は「なんてことをしてくれたんだ！」と大反発。たった3か月で、Classicとして旧レシピを復活させる（その後、New Cokeは廃版）。
結局、消費者はCokeという「ブランドを飲んでいる」のだった。これこそ、バフェットのいう「堀」。
189：確認バイアス
私たちはすでに持っている思い込みを裏付けようとするだけでなく、その誤りを証明しかねない情報を、すばやく退けてしまう。
フィリップ・テトロック『専門家の政治判断』その傾向は専門家にさえ認められる。
227：ブランドを飲んでいる
NYの町中で、通行人にミネラルウォーターのエビアンと水道水を、どちらか分からないようにして飲んでもらったところ、75%の人が水道水の方がおいしいと答えた。
234：ランコムとメイベリンは、イメージも、標的とする消費者層も全く異なるが、いずれもロレアルの参加企業
どちらもブランドのマット・ファンデーションも、同じ工場で製造され、配合も同じ。
値段：メイベリン$9 ランコム$37
240：赤い服に帽子、黒いブーツにベルトを着けた、太った陽気なおじさんが、赤ら顔に満面の笑みを浮かべているサンタクロース
スウェーデン人画家のハッドン・サンドブロムが、世界中ののどの渇いた子供たちにサンタクロースがコーラを届けている広告を描くようコカ・コーラ社に依頼されて、このイメージを生み出した。「サンドブロムのイラストが登場する前は、クリスマスの聖人は、青や黄や緑や赤のさまざまな服を着ていた」（マーク・ペンダグラスト『コカ・コーラ帝国の興亡』）
サンタの服がコーラのラベルとまったく同じ色の赤（コカ・コーラ社の特許）
2025年06月20日
取り決め婚と恋愛婚はどちらが幸せか
「旧約聖書」申命記には、ある人の兄弟が亡くなったら、その人は兄弟の残した未亡人をめとって養わなくてはならないと記されているし、インドでは今なおこれに似たしきたりが続いている。似たような話は、日本でもかつてはあった。貧しかった時代、夫婦共働きが当たり前で、女性が一人で生きていくのは難しかった。
親同士が決める「取り決め婚」も日本だけの話ではなく、世界の標準であったらしい。79：取り決め婚特異な現象でも、インドに特有の習慣でもなく、過去5千年にわたって世界中で見られた行動規範の重要な一部だった。古代中国から古代ギリシャ、古代イスラエルの12部族に至るあらゆる世界で、結婚は一般に家族の問題と見なされていた。男女の結婚は、家族間のきずなを生み、強めるための手段だった。
今も「取り決め婚」が普通というインドの調査では、結婚当初は「恋愛結婚」の方が満足度が高いものの、そのスコアは徐々に低下し、10年超の時点では「取り決め婚」のスコアがはるかに上回るという。83：取り決め婚と恋愛婚はどちらが幸せかラージャスターン大学（インド）調査恋愛結婚をした夫婦のスコアは、結婚期間が1年以内の場合、91点満点中、平均70店だったが、結婚期間が長くなるにつれてスコアは徐々に低下し、10年を超えるとわずか40点。取り決め婚の夫婦は、結婚したては平均で58点と恋愛感情はそれほど高くなかったが、期間が長くなるにつれて感情が高まり、10年超の時点で68点になった。
84：「あらゆる感情の中で最も暴力的で、最も狂気をはらみ、最も人を惑わせ、最もはかない情熱に翻弄される。二人は死によって分かたれるまで、この興奮した、異常な、消耗する状態でいることを誓わされるのだ」（ジョージ・バーナード・ショー）
IT人材の豊富さでも有名で、経済発展著しいインドで今も90%が「取り決め婚」というのは意外だ。
86：インドでは、90%を超える結婚が取り決め婚だが、そのことを悲劇だと考える人はまずいない。そうは言っても、インドのような集団主義的文化も、最近は個人主義的傾向を強めており、取り決め婚にも個人主義的要素が取り入れられるようになっている。そのため今日の取り決め婚は、「見合い求婚」と言った方が近いようだ。
2025年06月19日
個人主義指標
「個人主義指標」で、アングロ・サクソン国が上位（個人主義的）で、それに続くのが欧州大陸国。中間的なのが日本・インドはいいとして、日本よりもロシアや中国の方が「集団主義」というのは意外。さらに、最も集団主義的なのは中南米諸国だというのだが。
確かに、中南米諸国がその豊富な天然資源に関わらず、長年経済的に発展できない最大の理由は「政治の腐敗」。その根源には、家族や仲間を大事にして、頼まれると断れないラテン系の伝統があるのかもしれない。
最も、この有名な調査も数十年前の話なので、時代を経て、変化している可能性もある。
61：宗教への帰依が人々の健康と幸福に与える影響
原理主義に分類された宗教の信徒は、他の分類に比べて、宗教により大きな希望を求め、逆境により楽観的に向き合い、鬱病にかかっている割合も低かったのだ。実際、悲観主義と落ち込みの度合いが最も高かったのは、ユニテリアンの信徒、特に無神論者だった。
67：個人主義の歴史
近代の個人主義の直接のルーツは、17世紀から18世紀の啓蒙運動。
70：集団主義の系譜
集団主義者は、個人的特性だけが自分自身を形作っているとは考えない。かれらは、自分の属する集団との関係を通して、自分のアイデンティティを理解するのだ。そのためかれらはできるだけ社会の内集団にとけ込み、集団との輪を保とうとする。
73：個人主義指標（100点中）
アメリカ 91
オーストラリア 90
イギリス 89
西欧諸国 60~80
インド 48
日本 46
ロシア 39
中国を含むアジア 20点台
中南米諸国 10~40
グアテマラ ６
2025年06月15日
神経変性疾患
昨年、母をパーキンソン病で失った私としては、気になる章。薬を飲むと、一時的に回復することもあるが、今のところ治療法はなく、徐々に体の自由が奪われていく。母の場合は、特に、痛みがひどく、見ていられなかった。
186：パーキンソン病
中脳黒質のドーパミン神経細胞が変性する病気。
187：神経変性疾患
どれもタンパク質の立体構造が異常になって、その結果タンパク質が凝集してしまい、神経細胞が死に至るという共通のメカニズム。
205：薬物中毒
日本ではとくに、メタンフェタミンやMDMAといった覚せい剤が多く乱用。
おわりに：安易な「要素還元論」を避ける
全体を部分に分けて、部分の性質を調べさえすれば、全体が分かるという考え方。
2025年06月14日
自然科学的人間観
人間は、脳が発達して、抽象的世界を認識できるようになった一方、それで自ら混乱してしまう。
120：自然科学的人間観
「頭で考えた理性によって、感情的なふるまいを抑えて、世の中をうまく収めていこう」という人間に対する見方。
126：脳科学的アプローチ
１．解剖学的な構造と物質のレベル
２．生理学的な機能と作用のレベル
３．心理学的な解釈と説明のレベル
134：知と情
知は主に霊長類でとくに発達した進化的に新しい大脳新皮質が、情は主に大脳辺縁系と呼ばれる系統発生的に古い領域が担う。
146：人間社会
実態のある物理法則から乖離した、人間の精神世界の中にのみ抽象的に存在する「象徴的世界」。リアルタイムな空間的広がり（いま・ここ）のみならず、過去から現在を経て未来に向かっても長く続く時間的ひろがりももっている。そしてそれは、いま・ここに現実には存在しないものによって構成されていて、人間精神の中にのみ存在する抽象的な世界。
2025年06月13日
人間のこころの源
「日本人では特別に、漢字と仮名の「失読・失書」が乖離して起こる」というのは興味深い。
はじめに：脳・神経
人間のこころの源であり、その集合としての社会の要素であり、人間の生き方ともかかわる。
48：大人になったら、脳の形はそうそう変わるものではないと考えられていた
最近の研究によって、何かを練習したりすることによって、脳の形が変わることが報告された。
脳の病気によっても脳の形が変化する。
59：REM（Rapid Eye Movement)睡眠
目がきょろきょろ動くことから（急速眼球運動）。
64：脳を作る細胞
成人男性の脳はおよそ1600億個の細胞からできており、約半分が電気的に活動して情報をつたえる神経細胞、残りの半分がグリア細胞（アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア）。
73：言語野の発見
右利きの人のほとんどで、左半球に限られる。また、左利きの人でも約2/3が言語に関しては左半球優位。
83：日本人では特別に、漢字と仮名の「失読・失書」が乖離して起こる
漢字がより視覚的なイメージと、仮名がより聴覚的なイメージと結びついていて、それぞれの情報を処理するルートが異なっているためだという説。
2025年06月12日
運動のしくみ
「体で覚える」というのは、「小脳のシナプスの結合の変化の蓄積」なんだ
162：小脳
各種の脊髄反射のはたらきをコントロールして、指令された運動がすばやくスムーズに実現できるように、運動ニューロンの興奮性や、運動ニューロンが活動するタイミングを調整している。
163：「体で覚える」
反射の調整を行うたびに、小脳のシナプスの結合の強さは変化するので、運動の記憶というのは、小脳のシナプスの結合の変化の蓄積だと言える。
191：利根川進博士（理化学研究所脳科学総合研究センター長）
免疫に関する驚くべき発見によりノーベル生理・医学賞を受賞したが、その後、脳科学の研究に転じ、記憶と可塑性の関係を明らかにしてきた。
210：睡眠
記憶の固定化（短期記憶→長期記憶）には、睡眠が重要。
217：PTSD
忘れることができなくなるのではなく、安全だという新しい記憶を獲得することができなくなる症状。
2025年06月10日
脳の進化と発展
脊椎動物の脳の進化については「マックリーンによる脳の三位一体的構造仮説」が長年定説だったが、今では否定されているんだ！
60：神経系の基本単位や神経活動の調整メカニズムは種を超えて保存されている
無脊椎動物と人間共通。
62：脊椎動物の脳の進化
「マックリーンによる脳の三位一体的構造仮説」
�÷�虫類脳（動物が生きていくために最低限必要な自律的反応や反射をコントロール）
��哺乳類脳（「好き・嫌い」などの情動をつかさどる）
��新哺乳類脳（理性を制御）
＊その後の研究で、魚にも、両生類にも、爬虫類にも、「好き・嫌い」の情動があり、さらには学習による理性的な判断もできることが分かってきた。
→進化によって新たな脳の領域が付け加わったのではなく、基本的な脳の領域は、どの脊椎動物でも共通
90：人間の五感について最古の記述
「人間の感覚には、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つのものがある。これらの感覚は自身の中にただ単なる潜在的能力として存在する。それらが実現されるためには、感じられる対象に従って機能させられねばらなない。この実現化が感覚作用である。それは媒体を要求する。この媒体は感覚対象によって活動させられ、感覚器官に刺激を与え、それによって感覚目標にそれを融合する」（アリストテレス『魂について』）
2025年06月09日
脳とコンピューター
「ビビッとくる」のは本当だった⁉
28：ニューロン内部の伝達のしくみニューロン自身が電気信号を発生＝インパルス（活動電位）＝ニューロンの「興奮」
はじめに：脳「人間らしさ」のみなもと（利根川進）
生物学としての立場意外に、情報処理を担う機関であるといいう面から、情報学・数理科学・コンピューター科学的な視点も必要。
2：脳とコンピューター
人間の脳には、約1000億個のニューロン（神経細胞）が存在。脳が他の臓器と最も異なる点は、こうした莫大な数のニューロンが作り上げる、精密な神経ネットワーク（神経回路網）にある。
37：神経伝達物質
中枢神経系のほとんどの「興奮性ニューロン」で働いている神経伝達物質は「グルタミン酸」。
38：抑制性ニューロン
抑制性神経伝達物質を放出して、標的ニューロンの活動を抑制。代表的な抑制性神経伝達物質は「GABA」。
45：ミクログリア
中枢神経系における免疫担当細胞。通常、免疫系では外界から細菌やウイルスが侵入すると、さまざまな免疫細胞（T細胞、B細胞、マクロファージ、好中球など）が活性化して、身体を守る。しかし、脳の中にはこうした通常の免疫細胞は入らない。その代りに働くのがミクログリア。
2025年05月31日
瘋癲老人
言わずと知れた、谷崎潤一郎晩年の傑作長編。「瘋癲」が最初読めなかったが、「フーテンの寅」のふうてん。瘋癲とは二つの意味があって「�＼鎖西�態が普通でないこと。そういう人。��定職を持たず、ぶらぶらと暮らす人」。寅さんは�△如△海舛蕕廊，世蹐Α�
主人公の年齢は77歳であり、作品完成時の谷崎潤一郎も77歳（解説�ゝ塙埆瀁群陝法Ｃ棒�の平均寿命が81歳になる現代からすれば普通の老人だろうが、昭和37年当時の男性平均寿命は65歳。相当な長生きだ。
その主人公が心を寄せるのは、同居している息子の嫁「颯子」。7歳の子どもがいるレビューの踊り子だった女。男性でもまだ運転免許を持つのが珍しかった時代に、颯子は自分でヒルマンを運転する現代女性だ。
そのモデルは、谷崎にとって「義妹の息子の嫁」の渡辺千萬子さんということ（解説�∪虱媾啼鵝法Ｃ�崎は昭和31年に下鴨の家を売り、以後、上洛の折には北白川の千萬子さんたちの家に泊まっていた。
この頃より千萬子さんとの頻繁な文通がはじまっている。今も残るその手紙は、千萬子さん宛ての谷崎書簡が実に200通を超え、千萬子さんが谷崎に宛てたのは88通という（中央公論社『谷崎潤一郎＝渡辺千萬子 往復書簡』）。晩年の谷崎の執心ぶりが窺える。
13：不能ニナツテモ或ル種ノ性生活ハアルノダ
23：颯子モスグ後カラヒルマンデ出カケル
25：「今日己ハ死ヌンヂジャナイカナ」ト、日ニ二三度ハ考エル
2025年05月21日
現実主義者
「人間の幸福というものは、ごくまれにやってくるすばらしい幸運からではなく、日々の生活のなかにあるささやかな利益から生まれるものだ」
というフランクリン。同じようなことを言った人は他にも多数いると思うが。
フランクリン自身も、この自伝を書いた後、84歳まで生きたから、その多忙な人生、時代を考えれば大変な長生きだ。54：長生きの家系私の母も父と同じく身体が丈夫で、10人の子どもを自分の母乳だけで育てた。父は89歳、母は85歳で亡くなったが、ふたりが生前に病気らしい病気にかかっているのを見たことはない。
この昔から欧米でも、菜食主義があったというのが意外。アジアでは、ヒンズー教、ジャイナ教、仏教などの宗教制約から菜食主義の伝統があるが。66：菜食主義16歳ぐらいのころ、トライオンという人が書いた菜食に関する本を読み、私も実践してみようと思い立った。
115：現実主義者初めてボストンを飛び出したとき、風が凪いだため、私が乗った船はブロック島のそばで動かなくなってしまった。乗組員たちはしかたなく釣りを始め、大量のタラを釣り上げた。
それから数年間、菜食だったようだが、上記の通り、乗った船がボストン沖で動かなくなった時、船員が大量に釣り上げたタラを見て、「あほらしい」と菜食主義を止めてしまったとのこと。当時のアメリカで菜食主義を通すのは難しそうだ。
2025年05月13日
ウルバンの巨砲
ハンガリア人のウルバン。キリスト教徒だからか、巨大な大砲を売り込みに、最初はコンスタンティノープルに行ったが、実績がないので相手にしてもらえない。
「ならば」と向かったのは、ビザンツ帝国征服をもくろむオスマン帝国。重用してもらえるなら宗教は関係ないらしい。67：ウルバン一人のハンガリア人が、アドリアーノポリに姿をあらわし（中略）、自分はコンスタンティノープルの城壁を破壊できるほど強力な大砲をつくれる、と言った。
彼の祖国、ハンガリーは陸上から援軍を送れる唯一のキリスト教国であったが、オスマン帝国と同盟条約を結んでいた。84：ビザンチン文明滅んだ古代ギリシア文明とローマ文明から吸収したすべての要素と、オリエントから受けた影響との総和を、さらに上回るなにものか。
当時の大砲は、石弾を飛ばすだけ。砲弾ではないので、着弾して破裂しない。それでも、歴史上一度も破られたことのないコンスタンティノープルの城壁を破る効果があった。101：ウルバンの巨砲砲身の長さは8m以上、石弾の重さは600kg。大砲を乗せて動かす砲台も、30頭の牛が左右に並んで引っぱらないと動かない。
2025年04月29日
脱アップル記
私も90年代はMacを使っていた。iPhoneとかiPadとかが出るはるか前の話だ。Apple社はご存じの通り、ハードもソフトも両方を自社で設計することで最良の顧客体験を作ることを目指している。
一度このループに入ると、Apple社の言うことに従って、割高な同社製品を買っている限り快適。
それが、愛用していたiPod旧型が廃盤になったのを機に、脱アップルを進め、今では音楽はWALKMANで聴いているらしい。
「排他的な設計思想」というのが楠木先生はいやだったというのは、私も共通。多少不便なことがあっても、自由度の高いほうが私はいい。
42：禍福は糾える縄の如し
人間ドックで２つの発見がありました。第一に、身長が1cm低くなって182cmになっていました。60歳前後になると、骨のジョイントが劣化して普通に身長が低くなるそうです。
46：気づくのが遅かった！
日本の冷凍食品のレベルの高さは世界の中でダントツ。日本発のデジタルプラットフォーマーはなくても、この際そんなことはどうでもイイ。日本には冷凍ギョーザがあります。冷凍エビピラフもチキンライスもある。冷凍焼きおにぎりも鍋焼きうどんもある。
47：能動的休憩
休憩のピークは毎年夏と冬に2回とる長期の休暇。入念にスケジュールをブロックして、10日間ほど連続して休みをとります。何をするのかというと何もしません。ひらすら休む。全身で休む。休みが終わるころにはほとんど廃人と化しています。
54：脱アップル記
長年の使用の後にiPodがぶっ壊れたため、さて新しいのを買おうかなとチェックしてみると、僕の気に入っていた旧来型がもう販売されていないという衝撃の事実に直面しました。
どうしようかと思案した結果、完全な脱アップルを実現しようと決めました。だいたいiTunesというソフトが排他的な設計思想でイヤな感じでした。（中略）これが2013年の話。以来、脱アップルを完遂して現在に至ります。
2025年04月28日
楠木健の頭の中
本当は、同じタイトルの姉妹本「戦略と経営」の方を読もうと思ったのだが、間違って予約してしまった。せっかく届いたから読んでみる。タイトル通り、楠木教授の「仕事と生活」に関しての考え方・好みが延々と綴られている（336pもある！）。
本のあちこちで表明されているのだが、ご本人は「考えて、それを発表するのが大好き」だということ。重鎮が並ぶ学会での発表など、駆け出しの研究者は緊張するものだが、楠木さんの場合、最初から大勢の前で発表できることが楽しみで仕方なかったという。
では、社交的なのかと言えば、そうではなく、酒が飲めないこともあって夜出かけることはほとんどないのだとか。たまに親しい友人に誘われて出かけるぐらい。会食などはもってのほからしい。そして、その時間を、「ベッドでダラダラ本を読みながらあれこれ考える」ということ。
確かに、本を読むには布団よりベッドの方がいい。背もたれがあるので。私の場合、布団で寝ているので（部屋が狭くてベッドが置けないからなのだが）、夜は居間のソファで読書して、眠くなると自分の仕事部屋兼寝室で寝る。ベッドなら、軽いものをもう1時間読めるかも。
はじめに：考えて書くという行為がとにかくスキ
24：独りご飯（外食編）
独りご飯はご馳走であってはなりません。独りご飯ならではの「日常の美味しさ」というものがあります。そのど真ん中を突いてくる串カツ田中。これからも四半期に一度は行くことでしょう。
25：独りご飯（自宅編）
冷蔵庫の中には、ギョーザ、シューマイ、チャーハン、チキンライスなどが独りご飯用に常備してあります。最近とくに重用しているのが冷凍うどんの「丹念仕込み」（テーブルマーク謹製）。冷凍うどん界の東の横綱に値する逸品。コシが強く、食感はあくまで滑らか。驚くほど美味しい。
36：見くびられるのがうまい人
初老の紳士はニコニコと黙って話を聞いている。傍から見れば、大谷翔平に野球を、藤井聡太に将棋を、小池百合子にポピュリズムを説くような危険行為なのですが、すっかり気持ちよくなっている本人はますますヒートアップ。こういうのは見ていて辛くも面白いものがあります。
2025年04月20日
「生命の讃歌」川端康成
作家だから当たり前かもしれないが、三島由紀夫の語彙がすごい。
「清冽」はなんとなくわかっても、「畢竟」は分からなかった。いや、これを普通に読みこなしていた当時の読者がすごいのか。114：生命の讃歌全集にまとめて俄かに輝きを失う作家と、いよいよ輝きを増す作家とがあるが、川端康成は云うまでもなく後者の代表格の作家である。全集の第一巻から最終巻まで、清冽な一筋の流れ、あの「イタリアの歌」のような、明るくて哀切な一つの歌声が貫いている。個々の作品には暗さがひそんでいても、全集を通読する読者は、川端文学の貴重音が畢竟ひたむきな生命の讃歌であることを知るであろう。
正直、川端作品を教科書以外で読んだことがなかったので、『眠れる美女』をこの後読んでみた。161：川端さんにとっての生命とは、生命イコール官能「この間、川端さんの少女小説を沢山、まとめて一どきに読んだが、すごいね。すごくエロチックなんだ。川端さんの純文学の小説より、もっと生なエロティシズムなんだ。ああいうものを子供に読ませていいのかね」（中村真一郎）
229：川端康成「眠れる美女」解説この作品を文句なしに傑作と呼んでいる人は、私の他には、私の知る限り一人いる。それはエドワード・サイデンスティッカー氏である。およそ氏と私の文学観は夏と冬ほど違っているのに、会うたびにいつもこの作品の話が出て、この作品の話になると、それまで喧嘩をしていたわれわれが握手をすることになる。
267：長寿の芸術の花を〜川端氏の受賞によせて
川端氏は日本文学のもっともあえかな、もっとも幽玄な伝統を受け継ぎつつ、一方つねにこの危うい近代化をいそいできた国の精神の突端を歩いて来られた。その白刃渡りのような緊迫した精神史は、いつもなよやかな繊細な文体に包まれ、氏の近代の絶望は、かならず古典的な美の静謐に溶かし込まれていた。ノーベル文学賞が、氏の完璧な作品の制作と、その内面の葛藤との、文学者としてのもっとも真摯な戦いに与えられたことの意義はまことに大きい。それはいひとり川端氏のみでなく、千数百年にわたる日本の文学伝統と、同時に、日本の近代文学者の苦闘に対して与えられたものと感じられるからである。
274：北欧の町と海と〜「永遠の旅人」川端さん
さきごろ川端氏のノーベル文学賞演説を読んで深く心を打たれた。外国人に分からせようなどという配慮が一切なく、じかに本物を、日本人のこころのもっとも純粋微妙なものを、ぶつけようとされた気魄に感動した。これでなくてはいけない。あとは文化交流屋の仕事である。文学者は、素裸の、純粋なものをぶつければよいのである。以前、外国旅行中世話になった人への礼状を、川端氏が、すべて巻紙に墨で和文でしたため、もらった人は、みんなドナルド・キーン氏のところへ判読と翻訳をたのみに殺到し、キーン氏が困り切ったという噂を、いかにも川端氏らしい逸話だと聞いたことがあるが、すべてこの精神である。
2025年04月19日
谷崎潤一郎論
日本文学の師匠（会計士）が、「三島由紀夫の谷崎潤一郎評がいい」といいうので、読んでみる。「瘋癲老人」を目指しているらしいのだが
大谷崎（おおたにざき）筑摩書房『現代日本文学全集18谷崎潤一郎集』月報 昭和29年9月
10：谷崎氏には一流趣味があって、若年のころから中央公論にしか執筆しなかったと自分で書いている。仄聞するところによると、近年でも、主治医は一流の国手の由である。食べ物も菓子も、日常生活すべてに、氏は今日なお一流趣味を貫いているようである。
13：おそらく谷崎氏の生き方には、私の独断だが、芥川龍之介の自殺が逆の影響を与えているように思われる。芥川の死の逆作用は、大正時代の作家のどこにも少しずつ影を投じている。谷崎氏は、芥川の敗北を見て、持ち前のマゾヒストの自信を以て、「俺ならもっとずっとずっとうまく敗北して、そうして永生きしてやる」と呟いたにちがいない。
実際、芸術家の敗北という、これほど自明な、これほど月並みな、これほど必然的な帰結について、谷崎氏ほど聡明に身を処した人はなかった。戦わずして敗北し、ご馳走をたべ、そして永生きすればよいのだった。
19：日本橋三越「文豪谷崎潤一郎展図録」昭和41年11月）
氏は日本文学における万能の天才であり、王者である。このような絶対的王権は、日本近代の他の作家が、望みつつ、ついに誰一人、手にしえなかったところのものであった。
76：『瘋癲老人日記』ちらし 昭和37年5月
「瘋癲老人日記」は正真正銘の傑作であるのみならず、谷崎連峰の、「刺青」「痴人の愛」「蓼食う虫」「卍」「春琴抄」「細雪」「少将滋幹の母」につづく、否その中で最高峰を占めるかもしれない完璧な芸術的達成である。老境にいたってこの大文豪が、かくも強い筆致と濃い艶情を持し、衰えを見せぬどころか、却って芸術の奥殿へ跳躍したその力には瞠目の他はない。
88：身も蓋もないことを言いつづけた人（『サンデー毎日』昭和40年8月15日号）
それはいわば周到な礼譲に包まれた無礼な心という点で、氏の生活と照応しているが、晩年の不気味な傑作「瘋癲老人日記」にいたるまで、氏は、人間精神が官能に必ず屈服するという一つの定理をしか語っていない。
2025年04月18日
G7最悪の自殺者
昔から自殺率の高い日本。徐々に減っているとは言え、G7で最悪。世界で見れば人口当たり第6位で、主要国では韓国が高い。
出生率と反比例しているのかと思ったが、欧州の中で出生率が昔から低かったイタリアは、自殺率も低い。一方、出生率が高くて、G7で唯一人口増が続いている米国は自殺率も高い。
コロナで緊急事態宣言を出して、全国民に現金給付迄したことを考えれば、それだけの予算を付けるなら、自殺者対策はかなりできそう。174：日本人の10万人当たりの自殺者数は20人近くG7で1位。新型コロナ死者10万人当たり約0.5人（2020/5）
最近でこそ聞かないが、人気作家がこれほど自殺している国は他にないのではないか？米国ではヘミングウェイくらい？181：日本の人気作家の多くが自殺芥川龍之介、有島武郎、太宰治、川端康成、三島由紀夫。なぜか日本では自ら生きることを否定する作家が人気。
188：時間共有の法則「時間」を共有することで、「楽しみ」が増加する。同じ「時間」を、複数の人々が「楽しい」と感じると、その「時間」は濃くなる。
203：「止まれ、お前は美しい！」（ゲーテ『ファウスト』）
2025年04月05日
古事記
現存する日本最古の書物である『古事記』。国造りの話など、日本古来から伝わる神話が収められている。それを基に、小説化したもの。
主な舞台になるのは、沖縄の久高島。本書では「海蛇の島」ということになっている。知らなかったが、「日本人の魂の原郷」という説もあるらしい。
古今東西、人類は物語を通して物事を理解し、伝承してきた。どの民族にも神話があり、それを伝承することが民族としてのアイデンティティであった。原書の『古事記』を読んでみたくなった。
75：イザナミ
私とイザナキは仲の良い夫婦だったのに、私だけが死んでしまった。
94：二人で国土と自然界の神様方をたくさん産む
イザナミ様が、火の神であるカグツチを出産された際、下腹部に大火傷。
103：イザナキ様は、今度は人間の姿になって、ご自分が優れた子供を作ることを決意
ヤマト各地にいる美しい女の評判を聞くとお出ましになり、すべて妻に。
2025年03月23日
自殺の名所
投身自殺の名所マリオット・マーキス（ミッドタウン）。何十年にもわたり幾人となく飛び降りているし、しかも、ホテル吹き抜けの中をロビーまで落ちるので、何千人という宿泊客が目撃してきたはずだ。しかし、未だに通常営業しているというのは、やはり欧米人の死体に対する考え方の違いを感じる。
234：ホテルのロビーは広くて高い吹き抜けになっていて、ガラス張りのエレベーターと屋内バルコニーにぐるりと囲まれていた。（中略）マリオット・マーキスで投身自殺した人の身体は、バルコニーの手すりやエレベーターシャフトにぶつかったり、はね返ったりしてあちこちが砕けてから、衝撃で怯えている客の足下に落下することが多い。
225：職務記述書
法医学調査官の理想的な候補者は、どんな恐怖を目の当たりにしても、傷つくことなく現実世界を動き回れる能力を備えている人です。
226：ウォール街にある職場の25階から、歴史あるトリニティ教会の墓地へと飛び降りた男性
（検死中）見世物を隠されたことに不満を抱くブーイング。
228：カトリック教会は1983年まで自殺したものを神聖な教会の墓地に埋葬するのを禁じた
commit suicide → die by suicide
suicide attempt → unsuccessful suicide
2025年03月20日
無謀な行為による死亡
110：NYCでは毎年地下鉄サーフィンで死亡または負傷する事件が400件ほど報告されている。
という「地下鉄サーフィン」（動画）。走っている地下鉄の屋根に乗って、スリルを味わうと同時にSNSでバズらせることを目的にしている。
バカじゃないかと思うのが普通の人だが、米駐在中も、「やはりアメリカ人はリスク許容度が違う」と思ったことがしばしば。遺伝的にも違うそうで、アメリカ人には「冒険遺伝子」が多いそうだ。故郷でどれだけ困っていたか知らないが、リスク覚悟で海を渡った人たちの子孫なのだから、当然だろう。
バカじゃないか
と思うのが普通の人だが、米駐在中も、「やはりアメリカ人はリスク許容度が違う」と思ったことがしばしば。遺伝的にも違うそうで、アメリカ人には「冒険遺伝子」が多いそうだ。故郷でどれだけ困っていたか知らないが、リスク覚悟で海を渡った人たちの子孫なのだから、当然だろう。17世紀、アメリカ＝新世界はヨーロッパ人にとって「空想の場所」であり、「熱病が生み出す夢、神話、楽しい妄想、幻想の場所」だった。新世界を目指す者たちは「スリルと希望に満ちたフィクションを信じるあまり、この夢が叶えられなければ死ぬ覚悟で、友人、家族、仕事、分別、イングランド、既知の世界など、あらゆるものを捨てて旅に出た。そして大半が本当に死んだ」。（橘玲）
68：アメリカでは毎年6000件もの殺害事件が未解決
プロファイラーに作業をしてもらうための材料を提供するのがわたしの仕事。文章は綿密に、監察は鋭く。被害者の手の置き方の特徴や腹部に刺さった刃物の角度をきちんと撮らないと、法執行機関が凶悪な犯罪者を特定して逮捕するのに必要な情報を入手できなくなる恐れがある。
71：マンハッタンで二人目の女性死体調査官
一人目は一ヶ月ちょっとで辞めてしまった。
99：無謀な行為による死亡（death by misadventure）
死亡者は19歳の少年。土曜日に初めて銃を購入。日曜日の朝、彼はイースト・ヒューストン通りでその拳銃を友人たちに見せびらかした。目撃者たちの話によると、彼は銃の撃鉄を起こして、カウボーイのようにくるくる回した。すると指から拳銃が抜け落ちて飛んだ。たまたま撃鉄が道路に当たって発砲し、巡り巡って彼の眉間に命中した。つまり彼の最初の一発は、ベストショットにしてラストショットでもあったということです。
104：人間は快楽のためにとんでもないことをやって、翌日はまじめくさった顔で仕事へ行く
異常で危険な行為を試した挙句に亡くなった人を何百人も見たあと、わたしはあらゆる人々を疑いの目で見るようになった。
2025年03月08日
青春小説の金字塔
長崎出身で市ヶ谷の大学に通う主人公「横道世之介」。当然、長崎出身で法政大学に進学した著者自身をモチーフにしている。
1968年生まれで、上京するのが1987年。私とはちょうど5年違うが、重なっているので、小説のそこかしこに懐かしい描写がある。先日閉鎖されたアルタではその後超長寿番組となる「笑っていいとも！」が毎日制作されていたし、Filofaxのシステム手帳が流行り（私も一度使ってみたが、重いしかさばるので半年で元に戻した）、イタ飯が流行っていた。
7：4月（上京）
若者の目の前には、新宿アルタの大画面がある。振り返れば高層ビルがあり、あっちにもこっちにも地下へ通じる階段がある。人も多い。高校の全校集会より多い。
10：東久留米市
家賃4万円で風呂付且つ鉄筋マンション。
73：先に空いている日を言い合えば早いのに、なぜか互いに分厚い皮のシステム手帳を広げ、スケジュールが埋まっている日を羅列する。
131：カプリチョーザ
人気店らしく、すでに階段まで行列が伸びている。
2025年02月24日
闇金ウシジマくん
マンガを読まないので知らなかったが、ホリエモンが「読んでおくべきマンガNo.1」として挙げているのが『闇金ウシジマくん』。
はじめに：思考が浅かったり、ラクな判断ばかり続けたり、何でも他人任せにした結果、カネも仕事も、そして人生までも、何者かに吸い取られてしまい、破滅の道へと進んでいく。
141：フジテレビ日枝久会長
主要株主でもないのに、いまだにフジテレビグループの最高権力者。会社全体をほぼ完全に掌握。あのグリップ力はすごい。フジテレビほどの巨大企業で、グリップ力を発揮している手腕は見事。
160：洗脳犯罪のおそるべき凶行
北九州連続監禁殺人事件 松永太
明るく爽やかなルックスで、しゃべりが上手い、魅力的な男。だが正体はサディスティクで、他人を支配し、財産を絞り尽くすカネの亡者。しかも他人の命を奪うことも平気なサイコパス。
高校の同級生緒方純子を暴力で支配し、内縁関係に。緒方一家を洗脳、1997年から一家6人を小倉のマンションに監禁、半年で全員死亡。「自分たちで殺し合う」ように仕向ける。
監禁した者たちに電気ショック。日常的に通電されていた純子は足の親指が欠け、肉が溶けて右足の小指と薬指が癒着。
170：悩んでいるとスキが出る
そこをピンポイントで、詐欺師が言葉巧みに解決したら、信じてしまう。悩みをどうにか解決しようとしているけれど、一発解消してくれる存在を、心のどこかで待っているような環境が、洗脳される危険性を高める。
228：マイルドヤンキーの楽園が成立しているのは、地方交付税交付金があるから
本当は不便なはずの地方に、東京のカルチャーを凝縮した商業施設を建てまくって、マイルドヤンキーライフを快適にした経済的負担は甚大に。
2025年01月11日
2004柴田錬三郎賞
2004柴田錬三郎賞受賞作品。少女監禁で思い出すのは、2000年に発覚した柏崎での事件。
解説：斎藤環（精神科医）本作の加害者ケンジは、ひきこもりではないが、孤児として施設で育ち、言語能力が低いという設定になっている。監禁期間も柏崎事件が9年に対して、本作では1年とかなり違う。事件に触発されたが、本作のテーマは加害者と被害者との関係。
私が専門とする「ひきこもり」問題を一挙に全国区にした特筆すべき事件。犯人の佐藤宣行は中学以来37歳で逮捕されるまで、20年以上もひきこもり生活を送っていた。佐藤は誘拐してきた9歳の少女を9年もの間、自室に監禁していたが、たまたま佐藤の家庭内暴力が激しくなって警察沙汰となり、これをきっかけに少女は救出された。
私は読んでないのだが、本作の構造は、谷崎潤一郎の晩年の傑作『鍵』によく似ているという（佐藤環）。桐野夏生自身、「最も好きな小説」として本書を挙げているそうだ（「婚礼を描く谷崎」『文豪ナビ 谷崎潤一郎』）。
95：この事件で得た私の屈辱は年を経るごとに分厚くなって角質化し、今は鱗状になって、変わらず私を守っているのである。
113：現在、私が思い出しているのは、母や父が変わったのでなく、監禁生活を経た私が劇的に変化したのだ、ということである。両親は変貌した娘に戸惑い、どう接していいのかわからなかったのだ。
120：私の加害者にして理解者。私をこのような運命に落としたのに、私を救うことのできる唯一の人間。私とケンジの関係はこうしてねじくれ、事件が終わってもメビウスの帯の如く、終わりのない関係になったのだった。
226：理不尽な目に遭った子供は、必ずは何かで精神の欠落や心の傷を補おうとするところから始める。だから、欠落はむしろ素晴らしいことなのだ。でなければ、生き残って大人になることは不可能です。
2025年01月01日
血圧推移
2023年の11月末に脳動脈瘤になってから1年余り。1年間生き延びた。
11月に数か月ぶりにMRIも撮り、患部は1年間変化なし。自然治癒するものではなく、大きくなっていなければ血管が解離したまま安定しているということなので、一安心。統計的には、脳動脈瘤を持つ人の年間死亡率は10%。10人に一人が1年のうちに死んでいるが、危険な初期段階は過ぎたので、今のまま大人しくしていれば60代男性の一般的な死亡率である年間1%+α位で収まりそう。
この1年間毎日血圧を取るように言われて、取り続けた結果が下のグラフ。実データは毎日だが、これは朝一で取った数値の月平均を出したもの。夜も取っているのだが、夜は飲んでいたりいなかったり（少量ならOKが出た）、風呂に入る前と後で大きく違っていたりで安定性がない。
「発症前」のデータは毎年の健康診断の記録から取ったもの。こちらは発症前5年分の平均値。発症前は「105-72」で低血圧。それが、発症後「126-87」に急上昇したのは、動脈瘤で血管が狭まったせいか。
当初「飛行機も気圧が下がるのでダメ」と言われていたが、発症後3か月近く経ち、一番危険な時期は過ぎて2月にタイ、3月に欧州出張。血圧を測っていて分かったのは、出張準備が始まった段階から血圧が上がる。興奮状態というかプレッシャーが掛かっているのか、出張中はさらに高くなる。出張中は特に注意が必要な下の値が100を超えていたので、緊張した。
夏のあいだは出張もなく理想的に推移。9月に母が亡くなり、ストレスで上昇。10月は国内出張と、1週間のフランス人夫妻のアテンド。日本に10回以上来ている友達が今回訪問したいと言ったのは、辺鄙なところばかり。しかもその1週間の間に「四国→山陰→京都」で、「それはクルマでないと無理だろう」と、旅行相談にのっていた私が運転して案内することに。
私自身行ったことがない場所が多かったのでそうしたのだけど、彼の旅行スタイルが予め決めた場所が終わると、サッと次へ移動の繰り返しで、自分のペースと合わないので疲れた。連日200km以上の移動で血圧が上がる。
今年の目標は、出張ではない海外旅行。お得な「世界一周チケット」が、コロナ後の航空需要ひっ迫で近々無くなるらしいので、無くなる前に使ってみたい。
11月に数か月ぶりにMRIも撮り、患部は1年間変化なし。自然治癒するものではなく、大きくなっていなければ血管が解離したまま安定しているということなので、一安心。統計的には、脳動脈瘤を持つ人の年間死亡率は10%。10人に一人が1年のうちに死んでいるが、危険な初期段階は過ぎたので、今のまま大人しくしていれば60代男性の一般的な死亡率である年間1%+α位で収まりそう。
この1年間毎日血圧を取るように言われて、取り続けた結果が下のグラフ。実データは毎日だが、これは朝一で取った数値の月平均を出したもの。夜も取っているのだが、夜は飲んでいたりいなかったり（少量ならOKが出た）、風呂に入る前と後で大きく違っていたりで安定性がない。
「発症前」のデータは毎年の健康診断の記録から取ったもの。こちらは発症前5年分の平均値。発症前は「105-72」で低血圧。それが、発症後「126-87」に急上昇したのは、動脈瘤で血管が狭まったせいか。
当初「飛行機も気圧が下がるのでダメ」と言われていたが、発症後3か月近く経ち、一番危険な時期は過ぎて2月にタイ、3月に欧州出張。血圧を測っていて分かったのは、出張準備が始まった段階から血圧が上がる。興奮状態というかプレッシャーが掛かっているのか、出張中はさらに高くなる。出張中は特に注意が必要な下の値が100を超えていたので、緊張した。
夏のあいだは出張もなく理想的に推移。9月に母が亡くなり、ストレスで上昇。10月は国内出張と、1週間のフランス人夫妻のアテンド。日本に10回以上来ている友達が今回訪問したいと言ったのは、辺鄙なところばかり。しかもその1週間の間に「四国→山陰→京都」で、「それはクルマでないと無理だろう」と、旅行相談にのっていた私が運転して案内することに。
私自身行ったことがない場所が多かったのでそうしたのだけど、彼の旅行スタイルが予め決めた場所が終わると、サッと次へ移動の繰り返しで、自分のペースと合わないので疲れた。連日200km以上の移動で血圧が上がる。
今年の目標は、出張ではない海外旅行。お得な「世界一周チケット」が、コロナ後の航空需要ひっ迫で近々無くなるらしいので、無くなる前に使ってみたい。
2024年12月08日
怪物
一流企業に勤めながら、30歳にして売春を始めた和恵。最初は店で、その後はホテトルで勤めていたが、歳を取って指名を受けにくくなる。そうして渋谷の街で街娼となるのだが、そこでQ女子高時代、学園一の美人と言われたユリコと再会する。ユリコは、自分たちのような「怪物」は、そのうち「客に殺される」という。
331：「今に怪物をめでる男が現れる。きっと、そいつはあたしたちを殺す。」
そして、ユリコはその時はじたばたせず殺されたいという。
424：いつまでも溶けない日陰の黒ずんだ雪わたしはユリコの、和恵の、ミツルの、チャンの、心の底に密かに隠された黒い残雪のような存在。
「わたし」というのは、本書の語り手であるユリコの姉。姉妹でありながらユリコのような美貌を持たず、生涯ユリコに嫉妬し、世を拗ねて生きてきた。
426：売春日記高校時代と同じく、丁寧な和恵の文字でぎっしりと埋まっている手帳。客から貰った金額を馬鹿正直に付けて、その日あったことを書かずにいられない几帳面で律儀な性格。頭がいいと称賛されたかった優等生、いい家柄のお嬢様と言われたかったお嬢さん、最高の仕事人生を送りたかったOL。
この日記は、モデルとなった東電OL殺人事件でも話題になった。その記録から被害者の長年の売春活動が明らかになり、世間は驚愕した。
2024年12月03日
2024年11月29日
日本人は「原理」じゃなくて「便利」でやってきた
今回の対談相手は韓国の李御寧梨花女子大碩学教授。1990年から韓国の初代文化相を務めた。
272：日本人は「原理」じゃなくて「便利」でやってきたというのには納得。イデオロギーなんかは苦手で、ナアナアで済ますのが得意。それは、漢字の音訓読みにも表れている。「みんな積み重ねて抱擁してしまうのが日本的な感覚」なのだ。
249：日本はなぜ同じ漢字を、古い音でも読むのか。新しい音でも読むし、音と訓とを自由自在にやるのか、一つに統一しないのか。韓国だったら気がすまない。二者択一。
250：なぜ自殺が美学になるか
イデオロギーの世界だったら、死に物狂いで、忠か孝か、択一。日本では、あれもこれもできなかった場合は、十分悲しみとか矛盾の苦しさを見に受けて、自殺という形になる。なぜ自殺が美学になるかというと、矛盾を一つに統一するものだからでしょう。
254：朝鮮通信使の記録
日本を儒教的な社会とみていない。
254：若衆宿とオトナ体制（司馬遼太郎）
きわめて南方的。ポリネシア、インドネシア、台湾のヤム族の社会と共通する。
260：日本は島国で、平和で、外国とは比較にならないほど戦争がなかったけれども、ときたまには、爆発的に「攻めて来る」という危機感を抱く。
266：自衛隊
言葉が実態の意味からかけ離れすぎると、オーウェルの『1984年』のような状況になってしまう。あそこでは戦争が平和の意味に使われています。
2024年11月28日
中世歌謡の世界（大岡信）
今年の大河ドラマ「光る君へ」は、『源氏物語』の作者紫式部がヒロイン。平安貴族と庶民の身分の違いに愕然とする。さらには、貴族内での細かな位の違い。互いにマウントを取ろうと、天皇家に近づこうと腐心する。
221：室町歌謡『閑吟集』
そんな中、「連歌という芸を中心においたサロンでは、人間は階級も身分も何もないという、不思議な社会慣習ができてた」という。尤も、これは室町時代の話なので、平安時代からは数百年後。武家社会になって、階級制度が緩んだのか？そこまでは触れられていない。
221：室町歌謡『閑吟集』
歌謡というのは、古い時代の『古事記』歌謡、『日本書紀』歌謡からずっとありますけれど、いいなあ、おもしろいなあと思うのは、『閑吟集』。
222：「しやつとしたこそ、人は好けれ」
女が自分の理想とする粋な男を定義している。
室町の歌謡では簡潔に言い残されたものがいっぱいある。
227：後白河院『梁塵秘抄』
法皇が遊び人を集めたり、いろいろ諸国の歌謡を集めたりするのは、世界に例がない。
228：後鳥羽院『新古今和歌集』
この二人だけが、とりわけ傀儡とか巫女とか、あるいは白拍子とか、そういう女たちの中に何人もの優れた芸術家を見出している。後鳥羽院の場合には、何人か寵愛する白拍子などがいて、隠岐に流された時、亀菊という白拍子の出の女性を連れて行っている。この二人が日本文化の中で最高の詩集を編纂した。
『閑吟集』
ただ人は情けあれ夢の夢の夢の
昨日は今日の古へ
今日は明日の昔
2024年11月27日
私たちは星屑でつくられている
「太陽の8倍くらいまでの星は炭素や酸素がつくられるところで核融合が止まる」というから、地球に鉄を含め、重い原子が存在するのは、太陽よりはるかに大きな星の超新星爆発で宇宙にバラまかれたチリの集まり。その星に生まれた我々も文字通り「星屑でつくられている」ということになる。
177：宇宙で最初にできた元素は水素とヘリウム
水素は陽子と電子が一つずつくっつけばできるし、ヘリウムは陽子、中性子、電子が二つずつ集まるとできる。水素原子とヘリウム原子が暗黒物質の多いところに集まっていくと、星になる。たくさん集まると重くなり、自分たちの重みで中心部分がギュウギュウに詰め込まれた密度の高い状態になる。ある程度の密度になると、核融合がはじまり、周囲に熱や光を放出する。
水素→ヘリウム→炭素・酸素→ネオン→マグネシウム→ケイ素→鉄
＊重さが太陽の8倍以上ある場合は核融合は鉄まで進み、最終的には超新星爆発を起こす
178：超新星爆発
鉄より重い元素をつくる原動力。核融合を終えた星は中心部分が冷えていき、ものすごい勢いで収縮。すると、中心部分が超高温度になり大爆発→重い元素
179：私たちは文字通り星屑でつくられている
超新星爆発は新しい星の材料となるガスやチリを宇宙空間にばらまく→重力の強い場所に集まり、新しい星に。
地球は太陽をつくるために集まってきたガスやチリの一部で作られた。
おわりに：PET（ポジトロン断層法）
ポジトロン＝電子の反物質（陽電子）
反物質は物質と出合うと、ペアで消滅してエネルギーに変わる。このエネルギーを光子という粒として捕まえることで体内を調べる。
2024年11月26日
宇宙になぜ我々が存在するのか
生れたばかりの宇宙は10^-35mだった
それが、「インフレーション」で3mmの大きさになったという。指数で30桁以上もの急激な拡大だが、それでも蟻んこほどの大きさ。それが、現在の大きさにまで膨張するというところは、読んでも未だに理解できず
154：インフレーション理論
ビッグバンよりも前にインフレーション（佐藤勝彦、アラン・グース）。
生れたばかりの宇宙は、原始よりもはるかに小さなもの。そこから1秒もしないうちに、数mmほどの大きさに広がるインフレーションを起こす。その後、大爆発のビッグバンが発生して、現在の宇宙の姿に。
155：宇宙は膨張している
1929エドウィン・ハッブル。銀河から来る光の波長が伸びている。遠くにある銀河の光ほど波長の伸びが大きい。
167：宇宙の始まり
クォークよりも小さな宇宙が誕生→重いニュートリノの超対称性パートナーのエネルギーによってインフレーション→ビッグバンでたくさんの物質と反物質が生まれる→（物質と反物質が1対1で消滅するはずが）何かのきっかけで物質と反物質に違いができ、物質だけが残る
169：インフレーションがどのように引き起こされたのか
重力波は宇宙誕生直後の重力の変化を今も伝えている。
2024年11月25日
素粒子論入門
チョット古いが読みやすい素粒子論の入門本。CERNにヒンドゥー教の宇宙破壊の神シヴァが祀られているとは怖い。
はじめに：原子が根源的な粒子でない
プラスの電気を持った原子核とマイナスの電気を持った電子。さらに、原子核は陽子と中性子からできていて、その陽子と中性子はそれぞれ、３つのクォークでできている。
82：ニュートリノはものすごく軽い粒子
これまでとても軽いといわれていた電子の重さの1/1M以下。
99：宇宙に私たちがいるのはニュートリノのおかげ
ニュートリノだけは物質と反物質を入れ替える力があるのでは？
112：大型加速器LHC＠CERN
スイスとフランスの国境付近の地下にあるこの装置は、1周27km（山手線と同じくらい）。
この大きな円形のトンネルの中で二つの陽子を飛ばし、超電導磁石によってどんどん加速。高いエネルギー状態にまでもっていって、ガチャンとぶつける。
2024年11月10日
開拓農民文学
百万年書房の北尾修一さんが『自分が思い上がってました日記』（非売品）で絶賛していたので、読んでみる。
著者は「1899年（明治32年）、福島県小名浜生まれ。高等小学校卒業後、検定で教員資格を取得し小学校教員を務める」と紹介にある。1921年（大正10年）吉野義也（詩人、三野混沌）と結婚し農業に従事。70歳を過ぎてから筆をとり、75年に本書で第6回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。その2年後の77年に亡くなっているため、本書が唯一の著作。
現代社会からは想像もできないような戦前の開拓農民の厳しい暮らし。1920年頃には「文学よりも社会主義思想の模索」に傾き、それを振り返って「時流に浮かされた若さ、正しさ、弱さ」だと本書「あとがき」で振り返っているが、これほど生活が苦しいのは社会の仕組みが悪いと思うのは当然と思える。社会主義はその解決策にはならなかったが。
序：串田孫一
刃毀れなどどこにもない斧で、一度ですぱっと木を割ったような、狂いのない切れ味に圧倒された。
9：春
秋の頃からぬくぬくと土の中に眠りこけていた蛙めらが、がちりとうないこんでひっくり返した鍬の下から、まっぷくれにふくれた白い腹を春のひざしにさらけ出されてびっくりしてとび起きます。
18：大正11年春
一人の子を生むのにさえ人間はおおぎょうにふるまいますが、一羽のこの地鶏は何もかもひとりでかくれて、飢えも疲れも睡む気も忘れて長い三週間の努力をこっそり行ったのです。
35：洟をたらした神
青洟が一本、たえずするするとたれ下がる。ぼろ着物の右袖はびゅっと一こすりするたびに、ぱりぱりぴかぴかと汚いにかわを塗りつけたようだ。
2024年11月01日
死亡場所の推移
「自宅死」と「病院死」の割合は1977年に逆転して以来、差は開く一方だった。ほとんどの人は、老化に伴い、最後は何らかの病気になる。平均年齢50歳の昔は死ぬまで働くのが当たり前だったが、今は定年になってからも20年以上生きるのが普通になった。
ところが、増え続けていた「病院死」が減ったのがコロナ禍。コロナで通院・入院を避ける人が増えたためと考えられる。最後まで自宅で居たいと考えていた人にとっては良かったのか。
先日亡くなった母は長年、在宅看護で過ごしてきたが、本人の病状悪化ではなく、一時的に介護人材が居なかったために緊急措置として入院。入院したとたん、嚥下困難だったため、点滴となりみるみるうちに衰弱した。病院では時間を掛けて食事を助けてくれる人がいないので、必然的に点滴となってしまう。
おまけに、コロナ対策が続いており、家族も一日最大30分しか面談できないので、家族が食事介助することもできない。家族以外の訪問は禁止されていて、一日中寝ているだけ。入院まではしっかりしていた認知機能も怪しくなり、表情が消えていった。
死亡場所の推移（厚生労働省「人口動態調査」）
1955 自宅死77% 病院死15%
1977 逆転
2014 自宅死13% 病院・施設死85%
202：お墓を守るのは子孫の義務だと思うか
団塊世代「そう思う」「ややそう思う」53%
2024年10月12日
百万年書房
『自分思い上がってました日記』北尾修一2023
いつもだとAmazonで本のタグ付けをしているのだけど、今回は非売品なので、Amazonで売ってない。帰国早々、姫路に引っ越した長女のところに遊びに行った次女が、「面白かったから」と渡された本。
著者は「百万年書房」という「ひとり出版社」を経営する編集者。本篇は、大腸がんが見つかり、その手術のため入院するまでの2023年6月6日から同年8月21日までの2か月余りの日記。
私も昨年来、脳動脈瘤が見つかりしばらく禁酒・禁フライトだったり、膝関節症でしばらく走れなかったり（リハビリして今は騙しだまし）、同郷で40年来親しくしていたＡ先輩が亡くなったり、ついには先月、長年パーキンソン病で闘病していた母も死に、イヤでも自分の年齢と年代（親しい人がだんだんといなくなる）を痛感する出来事が立て続けに起こった。なので、読んでいて初めて大病したという著者の揺れ動く心持に共感した。
いつもだとAmazonで本のタグ付けをしているのだけど、今回は非売品なので、Amazonで売ってない。帰国早々、姫路に引っ越した長女のところに遊びに行った次女が、「面白かったから」と渡された本。
著者は「百万年書房」という「ひとり出版社」を経営する編集者。本篇は、大腸がんが見つかり、その手術のため入院するまでの2023年6月6日から同年8月21日までの2か月余りの日記。
私も昨年来、脳動脈瘤が見つかりしばらく禁酒・禁フライトだったり、膝関節症でしばらく走れなかったり（リハビリして今は騙しだまし）、同郷で40年来親しくしていたＡ先輩が亡くなったり、ついには先月、長年パーキンソン病で闘病していた母も死に、イヤでも自分の年齢と年代（親しい人がだんだんといなくなる）を痛感する出来事が立て続けに起こった。なので、読んでいて初めて大病したという著者の揺れ動く心持に共感した。
5：自分と百万年書房はしばらくこのまま続くと過信していた
2年続けて健康診断の消化器検査がE判定だったので、勇気を振り絞って恵比寿のクリニックで大腸内視鏡検査を受けたら、数十分後、「がん腫瘍がありますね」と医師からフランクに告げられた。
マジか、貴様誰にでもこんな軽いノリでがん告知するんか⁉
と、そっちに驚いた。
6：帰りにアトレ恵比寿3階の君嶋屋で日本酒750mlを3本買い込む。「手術日までは禁酒」と言われたけれど知るか。がん患者だ好きにさせろ。
10：6月28日朋世の誕生日。思いついて、近所の老舗レストラン（アントニオ南青山）を予約
なんか、おれは朋世に、自分のことを良い人だったと記憶に留めてほしいと思っているっぽい。何だこの「誰かの良い思い出になりたい欲」は。おもろいな自分、と思う。
2024年09月30日
まきがくる
1975年、弘前大学医学部附属病院に41歳の女性が家族に付き添われてやってくる。リンゴ農家の嫁である陽子は、40歳になった時、農作業がうまくできなくなっており、整理整頓も次第にできなくなっていた。
一族のものは、「まきがきた」とささやき合ったという。その一族では、40代、50代になるとそうなるものが多かった。津軽のその地方では、家族性の病気のことを「まき」と呼んでいた。陽子の母親も50代で発症、兄や姉も同様だった。
家族はやがて陽子を家で見ていることが難しくなり、入院する。45歳で、他の患者との交流が見られなくなり、病院内で徘徊を始める。48歳でほとんど言葉を発することができなくなる。50歳で寝たきりに。54歳で、夫や娘たちが呼びかけても、反応が無くなる。55歳で口から食べれなくなり、胃ろうをつくる。
1993年に62歳で亡くなったあと、陽子の脳は弘前大学で解剖される。大脳を見た執刀医は息を吞んだという。それは「霧ヶ峰のように尖った紙のような脳」で、くるみのように縮み、脳溝がすかすかに広がっていたという。脳重量は680gしかなく、これは成人女性の平均1350gの約半分だ。
1906アロイス・アルツハイマー＠南西ドイツ精神医学会で発表
2021年、全世界で5000万人の患者。
14：1970年代まで「ぼけ」という老化に伴う自然現象
1960日本平均寿命 男性65、女性70
アルツハイマーを発症する前に多くの人は他の要因で亡くなっていた。
2024年09月28日
初七日法要
「初七日法要」はその名の通り、本来は「亡くなってから7日目」の法要。現在では、葬儀で集まってからまた数日後（初七日は葬儀からではなく、「亡くなってから7日目」）に集まるのは難しく、葬儀を行い、その後火葬、遺骨を迎えてその日のうちに初七日ということも多い。少なくとも、香川県西部ではそのパターンが多いと思う。
母の場合は、献体したので火葬はなく、従って遺体を徳島大学に送り出した後、直ぐに初七日を実施した。地元の人だけならいつでも集まれるが、私も含めて、参列した1/3ほどは県外から来ている。なので、亡くなって最初の一週間後、本来であれば最初の衝撃が和らいだところで、改めて振り返るという機会がないまま昨日の初七日が過ぎた。
備忘のために今の心境を書いておくと、41年前に父が急逝した時をはるかに上回る衝撃。父の場合は突然死（くも膜下出血）で全く予期してなかったので、現実感がなかなかわかなかった。現実感がなかったのは、当時19歳という年齢のせいもあると思う。子を持つ父親としての気持ちもわからなかったし、下に妹も弟もいる長男と言うこともあって、「自分がしっかりしなければ」という気持ちの張りもあった。もちろん、当時42歳の母もいた。
というわけで、前回は葬儀後の挨拶もそれなりに考えて、しっかりと出来たと思う。今回も遺族代表で挨拶することになったのだが、言葉を出そうとしたとたんに感情がこみあげて、声を絞り出すのがやっと。あれから41年もたって、もはや初老。びしっと、親戚や母に縁のあった方々に感謝し、残された遺族にも変わらぬご厚情をというべきところ、しどろもどろに。馬齢を重ねたことが明らかとなった。
母の場合は、献体したので火葬はなく、従って遺体を徳島大学に送り出した後、直ぐに初七日を実施した。地元の人だけならいつでも集まれるが、私も含めて、参列した1/3ほどは県外から来ている。なので、亡くなって最初の一週間後、本来であれば最初の衝撃が和らいだところで、改めて振り返るという機会がないまま昨日の初七日が過ぎた。
備忘のために今の心境を書いておくと、41年前に父が急逝した時をはるかに上回る衝撃。父の場合は突然死（くも膜下出血）で全く予期してなかったので、現実感がなかなかわかなかった。現実感がなかったのは、当時19歳という年齢のせいもあると思う。子を持つ父親としての気持ちもわからなかったし、下に妹も弟もいる長男と言うこともあって、「自分がしっかりしなければ」という気持ちの張りもあった。もちろん、当時42歳の母もいた。
というわけで、前回は葬儀後の挨拶もそれなりに考えて、しっかりと出来たと思う。今回も遺族代表で挨拶することになったのだが、言葉を出そうとしたとたんに感情がこみあげて、声を絞り出すのがやっと。あれから41年もたって、もはや初老。びしっと、親戚や母に縁のあった方々に感謝し、残された遺族にも変わらぬご厚情をというべきところ、しどろもどろに。馬齢を重ねたことが明らかとなった。
2024年09月27日
戦後最大の奇書
本書の一面は、戦後世界秩序の風刺。
32：人類の宇宙征服はアングロ・サクソン族によって達成されたから、英語が宇宙帝国『イース』の共通語になった。
征服された「ヤプー」はアングロ・サクソン族の狩猟対象にされる。
アングロサクソンは「新地球」に移住して、ここでも原住民だった有翼四足人を家畜化する。52：黄色猟獣ヤプン諸島から捕獲してきた土着ヤプーを狩猟する。
これなど、『ハリーポッター』に登場するホグワーツ魔法学校の人気スポーツ「クイディッチ」にそっくり。まさか、J.K.ローリングが本書を読んでいた67：ペガサス・ポロ昔の平面競技場の上空百メートルに達する空間を競技場とし、内部に回転体を包んだ重力の作用を受けない特殊球を、地上50mの高さの標穴にたたき込む三次元の馬上打球戯。
2024年09月26日
『家畜人ヤプー』
三島由紀夫が「戦後文学史上の最高傑作」と絶賛した『家畜人ヤプー』。
戸川純のバンド名がこの本から取った「ヤプーズ」とは知らなかったそして、このボリューム。
戸川純のバンド名がこの本から取った「ヤプーズ」とは知らなかった
そして、このボリューム。151：『ヤプー』
これまでの漫画や舞台は全部、プロデュースに関わっている。映画化に関しても沼さんはすべて僕に任せていた。
160：石原慎太郎
兄弟で派手にやって、まさにこの戦後超高度情報化社会の象徴的存在。アピアランスの時代。見栄えがいいという、そこが一番の要。（中略）石原慎太郎がブ男だったら、とっくに消えている。
229：沼昭三
本名＝天野哲夫
長い間、新潮社の校閲にいた。『家畜人ヤプー』はフランスでも刊行され、マルキ・ド・サド賞を受賞。
2024年09月17日
現代の野蛮人
100年前に、ヨーロッパ流の教養人の没落と、アメリカ流の「大衆」の危険性を警告していたオルテガ。
専門知識を持つ科学者を原始人、はては「現代の野蛮人」とまで呼んでいる。100年前は化学や物理学が大発展を遂げた時代だった。だが、それを制御する社会制度が追い付かない。好奇心と功名心に駆られて立ち止まることを知らない科学者達を懸念した。41：現代の科学者は大衆的人間の原型科学自体がかれらを自動的に大衆的人間に変えてしまう。科学者を原始人に、現代の野蛮人に変えてしまう。
43：ヨーロッパの退廃の直接的な原因
「知者」はまず、人間は知を完成することができず、過ちやほころびがいかに多いのかを認識しなくてはならない。総合的であろうとする人間ならば、自分の専門以外の分野や「知らない」ことに対して謙虚な態度を取るはずだが、そういう「知者」は近代にはいなくなった。実際にはほんの一部のことしか知らないのに、「俺は何でも知っている」と偉そうな顔をする人間がはびこっている。
44：バランスの崩れた専門家傾向
今日、かつてないほど多数の《科学者》がいるのに、《教養人》が、たとえば、1750年よりもずっと少ない。
31：「みなと同じである」ことを選ぶ「平均人」
「大衆とは《平均人》である」
自分の存在を意味づけられている共同体（トポス）を失った人間、それこそが平均人。
平均人の特徴の一つは、他人の意見に「耳を傾けない」こと。
33：平等という名の平均化
アメリカ的な精神がヨーロッパをも席巻している。
34：平均人とは、社会の無宿者
「私」は私と、私の環境でできているのだから、その「環境」なき人間は、「私」を失っているに等しい。揺るがない土台がなく、宙ぶらりんの虚構をむなしく生きているというのが、「大衆の時代」である現代の風潮。
35：大衆は人間というものに対する謙虚さを持ち合わせておらず、「大衆であること」に対してある種の万能感をもっている
われわれの時代の凡庸な人間、つまり新しいアダムには、自分の完璧性を疑うという気が起こらない。
36：人間は本質的に不完全なもの
真に理性的な人間とは、その理性に限界があることを理性的に把握できる人間。
38：「慢心した坊ちゃん」
自らの限界に気づかず、その能力を過信して「何でもできる」と勘違いしている。自己懐疑の精神を持たず、「正しさ」を所有できると思っている。そして、そうした大衆の「正しさ」の根拠は何かと言えば、「数が多いこと」でしかない。
39：専門家こそが大衆の原型
「専門のことしか知らない」ために複雑な思考ができなくなった専門家が社会をコントロールしようとすることによって、世の中に混乱が起きている。
＝オルテガの考える「大衆化のプロセス」
2024年09月11日
紳士の国
「鳥肌が立つ」といいう語を「感激した」という意味で使っているのをはじめて聞いたときには、かなりショックだった、という著者。私でも違和感があったので、私の親世代（1936年生まれ）の著者にしたら、それが「ショックだった」というのも理解できる。
本書から25年、「鳥肌が立つ」の誤用はすっかり市民権を得て、国語辞典にも載っているらしい。
「教養とは自己抑制を学ぶこと」には納得。ロンドン在学中に公共の場で怒鳴り散らす人を見たことがない。いや、それも30年前の話なので、今は高齢化でいるのかもしれないが。
本書から25年、「鳥肌が立つ」の誤用はすっかり市民権を得て、国語辞典にも載っているらしい。
「教養とは自己抑制を学ぶこと」には納得。ロンドン在学中に公共の場で怒鳴り散らす人を見たことがない。いや、それも30年前の話なので、今は高齢化でいるのかもしれないが。
129：日本人は口下手？
口下手でも寡黙でもなくて、筋の通った意見が言えないだけ。それが証拠に、プライベートなおしゃべりとなると、これほどおしゃべり好きな国民はいない。公の席ではっきりとものを言うことができないのは、おそらくあとで責任問題が起きては困ると思っているから。
142：日本語が危ない！
英語の論理がわからないと言うけれど、その前に、話す場合も書く場合も、日本語で論理が組み立てられていないし、筋の通った表現になっていない。
172：「個性的」のはきちがえ
子ども同士がけんかをしたり、殴り合ったり、取っ組み合いをしたり、言い合ったり、理屈を言って相手をやっつけたりすることは、おおいに奨励すべきであって、それを抑えてお行儀のいい子供をつくるというんは、けっして教育的に効果のあることではない。
184：教養とは自己抑制を学ぶこと
イギリス人のなかでは、そういう感情の爆発や怒りや嘆きの暴発は、無教養な人、無教育な人がやるものだと考えられている。
195：使い捨てや大量消費
アメリカ的な生き方、アメリカ的な思考を尊重するだけでなく、日本の伝統を破壊し、自分自身の思考を放棄してしまった。
199：過去を否定することは、未来を否定すること
敗戦のショックで、しつけも道徳も伝統も、誇りさえも忘れてしまった。いま70歳以上の人たちが、若い世代に歴史を伝えなかったことの罪は大きい。
