四国
2025年02月28日
魏志倭人伝の記述
結局のところ、邪馬台国の話は全て『魏志倭人伝』に基づいている。それ以外に記録がないのだから、それをどう解釈するかに掛かっている。
魏志倭人伝の記述「海に囲まれた島の中にある周囲が400-500キロのところで、海を挟んで東に約80キロ行ったところに比較的大きな陸地があり、温暖で、稲や�慄磧淵�ラムシ）を植え、桑で蚕を飼って紡績を行い、麻糸・絹・綿を算出することができるところ。また、冬でも夏でも生野菜を食べることができ、裸足で過ごすことができるところ」「カササギが生息していなくて、鉄と真珠と青玉と丹を算出する場所」
先述した通り、御荷鉾構造線は地下資源の宝庫であった。
こうして、素直に『魏志倭人伝』の記述通りに推察した結果が剣山の麓「神山町」232：真珠と青玉と丹を算出する徳島県の御荷鉾構造線が走っている付近は、縄文後期から弥生時代、そして邪馬台国の時代にかけてずっと水銀朱の採掘、精錬、生産を行っていた。
267：魏志倭人伝に書かれた邪馬台国の地理的条件、地質的条件、気候的条件にピッタリ合致する場所は、四国の三波川編成帯域付近しかない！
2025年02月27日
藤原京は仮設住宅、平城京が復興住宅？
昨年「臨時情報」が出て警戒感の高まっている「南海トラフ地震」。過去に定期的に発生している地震だが、最も古い記録は684年の「白鳳大地震」。これを受けて、690年に「藤原京」造営が開始開始され、694年に遷都している。さらに、710年には「平城京」が整備され遷都している。地震による壊滅的被害で首都機能を移転したと考えられるが、では、この都に住んでいた人たちは、どこから来たのか？
とすれば、15年ほどしか使われなかった藤原京は仮設住宅、平城京が復興住宅と考えられる。140：藤原京遷都以前の首都は「阿波国」？途中に淡路島があり、昔から「撫養街道」という旧街道が通っていたので、大人数の移動を伴う首都機能の移動も可能。九州では遠すぎる。
『魏志倭人伝』には、邪馬台国には鉱物資源が豊富だという記述がある。今ではそのイメージはないが、かつての三波川変成帯（徳島県〜愛媛県にかけて東西に細長く帯状）は地下資源の宝庫であった。167：日本人の遺伝的集団構造渡来人由来のゲノム成分が高いのは近畿と北陸、四国。粉もん文化、うんどんやパン、お好み焼き好きといった麦食文化圏と一致。
195：地中深くにおいて生成された鉱物が中央構造線と御荷鉾構造線の激しい断層活動によって地上付近にまで押し出されてきたところで、かつては地下資源の宝庫。
2025年02月26日
「水行十日陸行一月」
『魏志倭人伝』には、「水行十日陸行一月」という記述がある。そして、投馬国は「５万戸」もの大きな国だというのだ。
64：現在の愛媛県愛南町から高知県宿毛市、土佐清水市、四万十市にかけての一帯。縄文時代後期から弥生時代にかけての遺跡が多数出土。愛南町の合併前の町名の一部は「城辺町」と「御荘町」。
つまり、現在の四国の南西部が投馬国だったとすれば、まずは豊後水道を通り、「水行十日」の距離には合う。そこから「陸行一月」はどこなのか。四国山地は「褶曲山脈」（何枚もの屏風を並べたような地形）であり、昭和になるまで南北で分断されていた。山にトンネルを穿ち、谷に幾多の橋を架けて高速道路が通ったのはまだ30年くらい前のことだ。
それまでの道路はR439のように基本的に、褶曲山脈に沿って作られた。投馬国が四国南西部だとして、そこから山脈に沿って「陸行一月」行ったところ。98：R439（徳島市〜四万十市）348km「日本三大酷道」他に岐阜県R418や紀伊半島R425
107：縄文時代から弥生時代の集落遺跡が、標高1000mを超える四国山地の中にある往来の多い交易路が通っていた。
2025年02月25日
サイエンスで読み解く古代史ミステリー
丸亀高校の越智先輩による初出版。越智は愛媛県に多い名前で、先輩も今治のご出身。ご尊父の転勤に伴い、高校時代を丸亀で過ごした。全国「越智」会の関東支部長でもある。
という越智先輩は広島大学工学部卒。就職したのが電電公社（現NTT）で、システム開発部門が長い。なので、専門はIT/DX。それがどうして古代史なのか。はじめに：邪馬台国の場所文献の調査・解釈主体、特に時の権力者に関する調査主体というこれまでのアプローチに問題があるのではないか？
DX推進を阻害する5代疾病�＿甬遒寮�功体験からくる「奢り」�∋埔貽宛�・顧客ニーズの変化に対する「鈍感さ」��自己中心的な「供給者発想」�げ甬遒侶亳海箴鐚院Σ樟發貿�られた「思考停止」�ロ瀧爐鯣鬚韻臣翕喩消爾並填┝腟�
これは「歴史学にも当てはまる」のではないか、と考えたという。「これまで思い込んでいた通説や常識を疑い、一度自分の頭で冷静になって論理的に考えてみる」ということだ。
越智先輩は、NTTデータ他各社が出資する民間気象会社ハレックスの社長を10年間務めた。その経験からの信条が上記。15：世の中の最底辺のインフラは地形と気象、すなわち自然である地形と気象がその土地に住む人たち全ての営みに大きな影響を与え、その場所の経済や社会、さらには文化や歴史でさえも、すべてはこの地形と気象をベースとして成り立っている。
17：理系の歴史学地形や地質、気候、自然災害の痕跡といった疑いようのない事実から、論理的に当時のことを推察してみる「サイエンス」。
2024年09月25日
献体
母の遺体は本人の希望で大学病院に献体された。医学部生の解剖実習に供されることになる。
41年前に父が急死したあと、「自分にもいつ何があるか分からない」と思ったのだろう、当時42歳の母は地元の香川医科大学（現・香川大学医学部）に献体会員登録をする。それで今回病状が悪化するなか、手続きを確認しようと香川大学に連絡したところ、なんと、解剖棟の改修工事で受け入れを中止していた（来年春まで）。妹が慌てて探したところ、徳島大学が「搬送費自己負担」（通常は大学負担）を条件に受け入れしてくれることになった。
実習後、遺体は大学内で焼却され、遺骨は返還されるのだが、徳島大学からは今は献体ストックが沢山あるので、「2，3年後になる」と言われた。調べてみると、今は献体希望が多いらしく、会員登録を停止していたり、献体に条件を付けたりしている大学もある。母が登録した当時は、献体の数が足らず、医学部生の実習に支障が出ることもあったのが、この40年で様変わりしたらしい。
献体に関する法律が制定されたのは1983年。これは奇しくも父が亡くなった年で、この直後に母は会員登録している。法律の制定により、「国民への周知」（＝広告宣伝）が行われたようだ。その甲斐あって、1985年から2015年の30年間で献体数は「5倍に増えた」（下図）。それ以外に、「おひとり様」の激増も背景にあるという。確かに、墓に入っても「誰も参ってくれる人もいない」となれば、献体の選択は増えそうだ。
41年前に父が急死したあと、「自分にもいつ何があるか分からない」と思ったのだろう、当時42歳の母は地元の香川医科大学（現・香川大学医学部）に献体会員登録をする。それで今回病状が悪化するなか、手続きを確認しようと香川大学に連絡したところ、なんと、解剖棟の改修工事で受け入れを中止していた（来年春まで）。妹が慌てて探したところ、徳島大学が「搬送費自己負担」（通常は大学負担）を条件に受け入れしてくれることになった。
実習後、遺体は大学内で焼却され、遺骨は返還されるのだが、徳島大学からは今は献体ストックが沢山あるので、「2，3年後になる」と言われた。調べてみると、今は献体希望が多いらしく、会員登録を停止していたり、献体に条件を付けたりしている大学もある。母が登録した当時は、献体の数が足らず、医学部生の実習に支障が出ることもあったのが、この40年で様変わりしたらしい。
献体に関する法律が制定されたのは1983年。これは奇しくも父が亡くなった年で、この直後に母は会員登録している。法律の制定により、「国民への周知」（＝広告宣伝）が行われたようだ。その甲斐あって、1985年から2015年の30年間で献体数は「5倍に増えた」（下図）。それ以外に、「おひとり様」の激増も背景にあるという。確かに、墓に入っても「誰も参ってくれる人もいない」となれば、献体の選択は増えそうだ。
2024年09月24日
コロナ禍での入院
もう終わったものだと思っていた新型コロナ。昨年5月に感染症「5類」になっても、コロナウイルスが無くなったわけではないので、季節性インフルエンザ並みに弱毒化しながらも感染は続いている（下図）。
母のパーキンソン病はコロナ下でも着実に進行し、いや、コロナで外出機会が激減したことで、加速したのではないかとも思っている。私もそれまでは、毎月東京と香川を往復していたのだが、香川県下では「東京の人と会うと2週間来院するべからず」というルールが出され（東京だからリスク高いということはあるはずがないのだが💦）、3年間、香川に行っても、母とは自宅の窓越しに数分間話すだけになった。
ようやく昨年から緩和されて、実家に入ることもできるようになった。ところが、入院すると話は別。面会できるのは「1日1回30分以内、家族2人まで」というルールがあり、東京から半日かけてお見舞いに行っても1日最大30分までしか会えない。家族4人で行けば、1日で会えず、2日に分けなければならない。
病院なので、コロナ対策に神経質になっているのは理解できる。ただ、母の場合、パーキンソン病のため、嚥下に問題があり、自宅では食べ物にとろみをつけて、介助してもらい食べていた。入院すると、介助してくれる人がいない。家族も前述の通り、滞在できないので、食事の介助ができない。
病院は母だけに摂食介助してくれないので、必然的に、入院即点滴となった。点滴では必要な栄養が全部摂れるわけではなく、母は見る見るうちに衰弱していった。医者からも、点滴では無理なので、「胃ろうしますか？」と聞かれたのだが、そこは以前からの母の意向で断った。昨日も書いたが、ここ数年、対処療法の薬もだんだん効かなくなり、全身の痛みで見てられない状態だったので、胃ろうしてまでという判断もあった。
付け加えて、人と会話できる機会が1日で最大30分であり、他の時間は独りになる。看護士は時々体温や血圧の測定に来るだけ。世間話などしてくれそうにない。これでは、孤独と刺激の無さから認知力が低下することは間違いない。母の顔から表情が消えて行った。廊下には、「医療関係者の『働き方改革』にご協力を」とポスターが貼ってある。
病院は特定の疾患を治すための施設。介護施設ではないので、介護を必要としながら治療しなければならない患者にはまことに不向き。パーキンソン病患者を受け入れてくれる介護施設もあるにはあるのだが、母の場合は、自宅で最後まで居ることを望んでいた。どうするのが良かったのか、考えてしまう。
母のパーキンソン病はコロナ下でも着実に進行し、いや、コロナで外出機会が激減したことで、加速したのではないかとも思っている。私もそれまでは、毎月東京と香川を往復していたのだが、香川県下では「東京の人と会うと2週間来院するべからず」というルールが出され（東京だからリスク高いということはあるはずがないのだが💦）、3年間、香川に行っても、母とは自宅の窓越しに数分間話すだけになった。
ようやく昨年から緩和されて、実家に入ることもできるようになった。ところが、入院すると話は別。面会できるのは「1日1回30分以内、家族2人まで」というルールがあり、東京から半日かけてお見舞いに行っても1日最大30分までしか会えない。家族4人で行けば、1日で会えず、2日に分けなければならない。
病院なので、コロナ対策に神経質になっているのは理解できる。ただ、母の場合、パーキンソン病のため、嚥下に問題があり、自宅では食べ物にとろみをつけて、介助してもらい食べていた。入院すると、介助してくれる人がいない。家族も前述の通り、滞在できないので、食事の介助ができない。
病院は母だけに摂食介助してくれないので、必然的に、入院即点滴となった。点滴では必要な栄養が全部摂れるわけではなく、母は見る見るうちに衰弱していった。医者からも、点滴では無理なので、「胃ろうしますか？」と聞かれたのだが、そこは以前からの母の意向で断った。昨日も書いたが、ここ数年、対処療法の薬もだんだん効かなくなり、全身の痛みで見てられない状態だったので、胃ろうしてまでという判断もあった。
付け加えて、人と会話できる機会が1日で最大30分であり、他の時間は独りになる。看護士は時々体温や血圧の測定に来るだけ。世間話などしてくれそうにない。これでは、孤独と刺激の無さから認知力が低下することは間違いない。母の顔から表情が消えて行った。廊下には、「医療関係者の『働き方改革』にご協力を」とポスターが貼ってある。
病院は特定の疾患を治すための施設。介護施設ではないので、介護を必要としながら治療しなければならない患者にはまことに不向き。パーキンソン病患者を受け入れてくれる介護施設もあるにはあるのだが、母の場合は、自宅で最後まで居ることを望んでいた。どうするのが良かったのか、考えてしまう。
2024年09月23日
指定難病パーキンソン病
今回の母の闘病と、その後の介護、入院、そして葬儀後の献体まで、感じたことを記憶が新たなうちに備忘として書いておく。昔なら、そうした体験を親せきや先輩方から聞きつつ心づもりをしてきたと思うが、世代間の交流が薄くなっている今日、多くの人が予備知識もないまま渦中に放り込まれる。
まず、うちの母の場合は、パーキンソン病であった。発症したのは10年程前。最初は「体が重い」と言っていたのが、次第に「体に鉛が入っているよう」と言い出し、自分で着替えが困難になった。ただ、初期のパーキンソン病は判定が難しいらしく（似た症状を示すいくつかの病気が存在）、最初に受診してから決定されるまで1年近くかかった。
パーキンソン病が確定したものの、パーキンソン病には治療法がない。だから指定難病なのだが、主な対処療法としては薬物治療によるドパミン補充がある。しかし、薬物療法の常として、段々と効かなくなってくる。そのため用量を増やしていくと、今度は副作用が出る。
そして、母の場合、これはパーキンソン病でも珍しいらしいのだが、薬が切れると体中の痛みを訴えるようになった。それも、本人曰く「刺身にされて切り刻まれているよう」という鋭い痛みらしく、体をよじって「痛い、痛い」ともだえるので、見ていられない。
このため、ここ2年ほどは、1日に8回、3時間おきに服薬していた。それでも薬が効いている時間は半分ほどで、1日の半分は、痛みに身悶えしていた。薬効が切れている間は、手が動かず自分で服用できないので、介助が必要になる。
うちの場合は、昔介護士をやっていた弟が家にいたため、自宅で介護をしていたが、夜中も3時間おきに服薬するので、介護の負担は大きい。これで「要介護度１」（最も軽い）はひどいと思うのだが、「薬が効いている間は自分で用足しも可能」ということで、ここ数年で2回介護度の再審査をお願いしてきたのだが、2回とも却下されてしまった。担当のケアマネジャーによれば、「パーキンソン病は状態の良い時で判断されてしまうので難しい」そうだ。
ということで、母が介護保険で受けていたサービスは、最後まで週2回の訪問リハビリと週1回の訪問看護にとどまった。デイサービスには一時通っていたが、頭脳は最後までクリアであった母には、子供じみた遊戯を強制するデイサービスは「人を馬鹿にしている」と馴染めずに止めてしまった。食事もマズいと。
かといって、自宅で口に合うものが食べられるかというと、それも難しい。発症とともに自分で料理ができなくなり、宅配の弁当となった。さらに、ここ2年ほどで嚥下障害が進み、通常食が無理になったので、市販の介護食が主食に。加工食品では食欲が出ず、体重は半減して骨と皮だけに。コロナ規制が緩和されてからは、たまにうちの家内や娘が行ったときに料理したが、そうしたものはよく食べた。死亡時には体重が20kg以下であった。
まず、うちの母の場合は、パーキンソン病であった。発症したのは10年程前。最初は「体が重い」と言っていたのが、次第に「体に鉛が入っているよう」と言い出し、自分で着替えが困難になった。ただ、初期のパーキンソン病は判定が難しいらしく（似た症状を示すいくつかの病気が存在）、最初に受診してから決定されるまで1年近くかかった。
パーキンソン病が確定したものの、パーキンソン病には治療法がない。だから指定難病なのだが、主な対処療法としては薬物治療によるドパミン補充がある。しかし、薬物療法の常として、段々と効かなくなってくる。そのため用量を増やしていくと、今度は副作用が出る。
そして、母の場合、これはパーキンソン病でも珍しいらしいのだが、薬が切れると体中の痛みを訴えるようになった。それも、本人曰く「刺身にされて切り刻まれているよう」という鋭い痛みらしく、体をよじって「痛い、痛い」ともだえるので、見ていられない。
このため、ここ2年ほどは、1日に8回、3時間おきに服薬していた。それでも薬が効いている時間は半分ほどで、1日の半分は、痛みに身悶えしていた。薬効が切れている間は、手が動かず自分で服用できないので、介助が必要になる。
うちの場合は、昔介護士をやっていた弟が家にいたため、自宅で介護をしていたが、夜中も3時間おきに服薬するので、介護の負担は大きい。これで「要介護度１」（最も軽い）はひどいと思うのだが、「薬が効いている間は自分で用足しも可能」ということで、ここ数年で2回介護度の再審査をお願いしてきたのだが、2回とも却下されてしまった。担当のケアマネジャーによれば、「パーキンソン病は状態の良い時で判断されてしまうので難しい」そうだ。
ということで、母が介護保険で受けていたサービスは、最後まで週2回の訪問リハビリと週1回の訪問看護にとどまった。デイサービスには一時通っていたが、頭脳は最後までクリアであった母には、子供じみた遊戯を強制するデイサービスは「人を馬鹿にしている」と馴染めずに止めてしまった。食事もマズいと。
かといって、自宅で口に合うものが食べられるかというと、それも難しい。発症とともに自分で料理ができなくなり、宅配の弁当となった。さらに、ここ2年ほどで嚥下障害が進み、通常食が無理になったので、市販の介護食が主食に。加工食品では食欲が出ず、体重は半減して骨と皮だけに。コロナ規制が緩和されてからは、たまにうちの家内や娘が行ったときに料理したが、そうしたものはよく食べた。死亡時には体重が20kg以下であった。
2024年04月14日
忘れ去られた大事件
これだけの惨劇であるので、当然の疑問は、「なぜ福田村に抗議に行かなかったのか」？
142：「2歳、4歳、6歳、そしてお産前の人まで殺害するような鬼のような人たちなんだから、行けばまた殺される」と断念（当時6歳の子どもだった女性の記憶）
ということだ。事件後、福田村では示し合わせたように完全に口を閉ざしており、被害者側からの働きかけが無いまま、事件は長年忘れ去られていた。それが、再び事件に日があたったのは戦後、被害者の姪が名乗り出たからで、事件から実に56年が経っていた。
170：昭和54年（1979）「千葉県における関東大震災と朝鮮人犠牲者追悼・調査実行委員会」事件の被害者の姪が同委員会に「殺された場所を突き止めてほしい」と名乗り出る。→三ツ堀を訪れ、供養。震災から56年。
事件後、事件の裁判は行われている。当然、何人もの無抵抗の家族連れを集団で殺害した事件であり、当然有罪となったが、収監に際し、福田村及び田中村では、一人前800円の餞別を服役者に与えている。1926年（昭和元年）大正天皇の崩御で、翌年全員が恩赦となり、2年5か月で出獄した。受刑者の一人は服役後村長となり、市町村合併後は市議として長年地域に関わった。
185：大正13年（1924）9月千葉地方裁判所で被告8名に有罪判決懲役3〜10年。
裁判の経過は、被害者の遺族や関係者には何一つ知らされなかった。地元紙「香川新報」（現「四国新聞」）も報道しなかったということで、差別があったと推察される。
2024年03月15日
発展する地域の共通点
発展する地域の共通点には「祭り」があるという。
200：祭りを支えてる企業リーダーが明確にいる地域は、毎年訪れるたびに目新しい変化があり、街の景観が明るく変わっていく。
確かに、古今東西、人類の居るところ、「祭り」があった。他の動物が「祭り」をするというのは聞いたことがないので、言葉や道具の発明同様、「祭り」は人類の特徴なのだろう。
日本三大阿波踊りの一つが、「南越谷阿波踊り」なのだという。地元のポラスグループ（不動産）創業者・中内俊三氏（徳島出身）が1985年に声かけしスタートしたもの。越谷（埼玉県）は「東京のベッドタウンで、全国各地からの移住者が多く、地元愛が薄かった」。
日本三大阿波踊りの一つが、「南越谷阿波踊り」なのだという。地元のポラスグループ（不動産）創業者・中内俊三氏（徳島出身）が1985年に声かけしスタートしたもの。越谷（埼玉県）は「東京のベッドタウンで、全国各地からの移住者が多く、地元愛が薄かった」。
237：イノベーションを加速させるOKR
Objective（目標） Googleは10xの驚異的成果を目指す
Key Result（主要な結果） 「どのように」達成するかのマイルストーン
＊野心的な目標と現実的な結果の組み合わせ
・目標には数値を入れない
・人事評価と連動しない
264：マナヘル・タベット博士（イエメン）
世界で最もIQの高い30人の一人。IQ140+の人のネットワーク化
「IQレベルの高い人は、優秀な頭脳を持っているものの、人づきあいが苦手で、社会的に十分活躍していないことが多い」
2023年09月25日
秋山真之『海軍基本戦術』
日本海海戦での圧勝をもたらした日本海軍参謀の秋山真之は、日露戦争の前には、海軍大学校の戦術教官だった。その時の講義録『海軍基本戦術』でこう言っている。
戦術の学び方：温故知新に学ぶ以外の研究の方法はない
本書は、元陸上幕僚で、戦車連隊長や幹部学校主任研究開発官などを勤めた戦術研究家。ご本人は、戦闘に勝つための「戦術」と、戦争に勝つための「戦略」をきちんと分けているようで、本書のどこにも「戦略」という言葉はない。
前半で詳しく紹介されているのが、『坂の上の雲』主人公の一人である秋山真之。彼の有名な「丁字戦法」は一朝一夕に思いつたわけではなく、米海軍への派遣経験が影響しているのは初めて知った。彼の派遣期間は2.5年間だったが、北大西洋艦隊の旗艦装甲巡洋艦New Yorkに個室を与えられ、米海軍の艦隊運用を間近に見ることができた。
英海軍を真似ることから出発した日本海軍が、国家の大事に備えて、将来を嘱望された青年大尉を米海軍に派遣したというのが興味深い。
32：米軍流兵学←ジョミニ『戦争概論』から発展
ジョミニ19世紀中期に、ナポレオン戦争を研究して独自の意思決定方式を確立し実行。
33：1978ハーバート・A・サイモン ノーベル経済学賞
米国軍隊の「状況判断」や「情報活動」なども参考にして意思決定理論を組み立て。
1979『意思決定の科学』
意思決定は暗黙知に属するアート→プログラム化
48：秋山真之『海軍基本戦術』
日露戦争が必至であることを予期した明治国家は、秋山真之という29歳の一海軍大尉に海軍戦術の開発を託し、留学生として米国に派遣した。彼はロシア艦隊に勝つ戦術・戦法の創出を自らの課題として刻苦勉励し、丁字戦法を編み出した。
52：ロジスティクスの研究
秋山が米国滞在中に、北大西洋艦隊の旗艦装甲巡洋艦New Yorkに乗り込んで艦隊実習した当時、日本海軍には「戦務」という用語も概念もなかった。秋山は、艦隊実習で体得したロジスティクスを、ストラテジー（戦略）とタクティクス（戦術）とならぶ重要分野と位置付けた。
54：秋山流戦術思想の根幹
・兵理の定義
・兵戦の三大要素（時・地・力）
・戦闘力の用法
・各個撃破→丁字戦法
2023年04月16日
漫才ブーム
話はこの辺からドロドロしてくる。1970年12月タクシー運転手への傷害事件で、謹慎処分となったやすし。この時やすしは、無免許運転なのに、接触したタクシーが許せず（追いかけて）わざわざ名乗り、逮捕されている。
やすしは仕事から干され、相方の西川きよしはコンビ解消を所属する吉本興業に申し出る。それが許されなかったきよしは、それを隠して「復帰を待つ」と宣言し、単独での司会などの仕事を広げていく。
192：「14年前のあの事件の時な。相方（西川きよし）がじっと、わしの復帰を待っとったというのはきれいごとや。正味の話、相方はわしとのコンビ解消を会社に申し出た」（横山やすし）
61：『上方芸能』木津川計
「過去、テレビは芸を食いつぶし、育てなかった。あるのは視聴率に対する関心だけだった」
68：漫才ブーム
クリエイティブな要素がこれほど少ないブームもテレビ史上珍しい。視聴者を莫迦にしているともいえるが、そんなものを喜んでいた視聴者にも問題がある。
2023年04月15日
漫才の誕生
漫才コンビ「やすし・きよし」の二人の共通点
もちろん、二人は吉本興業所属の漫才師だから共通点は多いのだが、性格は全く違ったという。しかし、二人とも生まれは高知なのだ。これは、＜しゃべくり漫才＞の誕生と深く関わっている。今で言う漫才が誕生したのは、昭和恐慌の時代。漫才は「大阪の大衆」相手に誕生したが、ここでいう「大阪の大衆」とは、四国・九州・広島などから大阪に出稼ぎに来た人々のこと。
48：この人たちは、ある程度の予備知識を必要とする落語の妙味がわからない。レベルの低い大衆を笑わせたのは万歳で、吉本興業では林正之助が万歳部門を担当。映画の入場料が40銭の時代に、林正之助は＜十銭まんざい＞を始める。やすしの一家も、きよしの一家も、高知で食べていけなくなり、大阪に出てきた家族であった。
27：人気が出る直前の横山ノックに弟子入りしたのは、やすしの＜漫才師としての勘＞
一般的な意味では、やすしは世渡りが下手だが、こと漫才となると鋭い。
28：＜コンビ別れの名人＞と＜元（吉本）新喜劇の役者＞
やすしは絶体絶命、きよしも不器用でクビ寸前と、両者が危機にあったのがよかった。
37：＜しゃべくり漫才＞の本格派
1973年にコンビが復活してから、70年代一杯が彼らの最良の時だった。
2023年02月05日
生涯投資家vs生涯漫画家
何かで話題になっていたので図書館で借りて読んでみる。「生涯投資家」の村上世彰と「生涯漫画家」の西原理恵子の対談集。村上氏は1959年生まれ、西原氏は1964年生まれというから、ほぼ同世代だ。西原氏の漫画は読んだことがないが、パートナー（事実婚）はかの高須克弥ということ。西原氏は高須克弥記念財団の理事長らしい。
中身はハッキリ言って薄い。これまで投資とかお金について考えたことがないという人にとっては導入としていいのかもしれない。
逆に、興味をひかれたのは、西原理恵子の生い立ち。高知市の浦戸生まれ。桂浜の近くにある漁村だ。その家庭環境が凄まじい。（Wikipedia）
実父は入退院を繰り返すほどのアルコール依存症であり、母親は理恵子の妊娠中に離婚した。母親は理恵子の兄を連れて実家に帰り、そこで出産・育児をしている。そのため、理恵子が3歳の時に1度も会わないまま、実父はドブに転落して死亡した。
6-7歳の時に母が再婚し、義父となる宏と同居を始める。相手は無類のギャンブル好きで何十種類もの仕事を転々とし、バクチとオンナに入れ込むが、理恵子をわが子のように可愛がっていた。しかし、義父は一週間に一度くらいしか家に帰ってこない上に、理恵子の母親のお金にまで手を出す人物であり、家計は火の車で怒鳴り声が絶えず飛び交う家庭であった。義父は何度も職を変え、家庭は経済的にも浮き沈みの激しい生活を送った。
地元はどこを見ても父親が妻を殴っていて、大人が子どもをぶん殴っていた。女の子は16歳ぐらいで妊娠、18歳頃に別の男に変えてまた妊娠といういうのが普通であった。貧乏人、離婚だらけ、養育費も貰っていない女性ばかりで、手本になる女性や憧れるような女性はおらず、子どもながらに「立派な女性」はテレビに出ている芸能人みたいな夢の存在であった。高知にいたら立派な女性に会えないので、「ここじゃないどこかに行きたい」と考えていた。それで、最後は、母親が死守したなけなしの100万円で上京。大検に合格し、予備校に入って、美大を目指す。武蔵野美術大学卒。
130：日本の中だけで考えていてはいけない（村上）
僕の父親は当時日本が統治していた台湾で日本人として生まれ、来日しました。ところが、戦争が終わったら「お前は日本人じゃないから台湾に帰れ」と。
158：みんなヤンキーで農協の言うこと聞かなくて「農薬なんかめんどくさくて撒けるか」（西原）
そしたら無農薬米とか無農薬野菜ということで売れるようになった。
165：唯一お金を使いたかったのが家（西原）
隣の部屋から子供がバンバン怒鳴られてる声が聞こえてきたり、やっぱり家が狭いと荒む。
2022年12月04日
伊予三島
井川氏は、生まれ育った伊予三島が嫌いだったという。確かに、田舎町の最大企業の御曹司ということになれば、やっかみも半端ないだろう。会えばおべっかを使われるが、裏では陰口をたたかれる。暮らしにくかったのは想像に難くない。
1964年生まれというから私と同世代。そして、私の育った香川県西部（西讚）と、大王製紙が本社を置き、井川氏が小学校まで育った伊予三島（現・四国中央市）とは40km程なので、車ですぐ。ここは江戸時代から続く製紙の町で、戦後洋紙生産が中心になってからは、パルプの匂いで街全体が臭かった。
��追憶
37：1200坪の屋敷
伊予三島は手すき和紙の産地として有名だった。大王製紙が設立されたころ、地元には数百もの小さな製紙会社があったと聞く。書道で使う藩士や奉書紙を1枚ずつ手すきで作ったり、大正年間に導入され始めた小さな機械を使って量産していく。
58：東大入学祝にBMW635
当時の価格で1000万円以上。
�し�臨
111：大王製紙の経営者
日本人が使いがちな「徹底的に」「とことん」といった情緒的な言葉も要注意だった。このような単語が飛び出す会議では、私は容赦なく発言者を叱責した。
2022年12月03日
井川意高の懺悔録
単行本は2013年、懲役4年の実刑判決が確定して出版。2011年の11月に会社法違反（特別背任）で東京地検特捜部に逮捕されてから、それまでの間に執筆していたらしい。もちろん、それを持ちかけたのは、以前から親交のあった幻冬舎の見城社長だろう。
エリエールの家庭用紙ブランドで知られているものの、会社自体が話題になることは少なかった。それが、マスコミに連日取り上げられたのは、10年前のこの背任事件。創業家の3代目である井川意高氏が海外のカジノで100億円以上「溶かして」しまい、その代金を自らが代表を務める複数のグループ会社から「借りて」いた。
�ゞ妨�
14：大王製紙社長
10年5月以来、私は大王製紙社長として、グループ企業から巨額の資金を借り入れる裏技を常態化させていた。その大半は、すでにマカオのカジノ「ギャラクシー」や「ウィン・マカオ」で失ってしまっている。11年5月の時点で、グループ企業から借り入れたカネの総額は実に50億円を超えていた。
19：カジノで負けた総額106億8000万円
マリーナ・ベイ・サンズでは1ゲームに最大で50万SGD（約3900万円）を賭けることができた。マカオのカジノでは1ゲーム2000万円程度が上限だった。
23：VIPルーム
専用の個室や駐車場。1泊30〜40万円のスイートが無料。往復のビジネスクラス飛行機代も無料。
2022年11月02日
Setouchi-i-base2周年！
Setouchi-i-baseが開業2周年！ボランティアでやっている香川県のアドバイザーとしてデジタル戦略課とオンライン会議。私から話したのは以下の3点。
１．香川県には15社の上場企業があり、これは地方県としては異常に多い。例えば、隣の愛媛県は5兆円のGDP規模で香川県の1.3xあるが、上場企業14社。徳島、高知は6社ずつ。ちなみに、関東では、GDPが13兆円ある茨城県も6社。
このことを県職員がほとんど知らない。こうした売上数十億、数百億円の中堅企業をデジタル化で再成長させる方が、従業員数名のスタートアップを増やすよりもよほどROIが高い。結果、成長企業で経験して独立する人も自然と増える。
「政府介入による起業の増加は質低下招く」ことは世界中の研究で明らかになっており、行政が起業数などをKPIに掲げるのは間違いだと思う。それよりも、「数は増えても成長しない日本の上場企業」の方が問題。
このことを県職員がほとんど知らない。こうした売上数十億、数百億円の中堅企業をデジタル化で再成長させる方が、従業員数名のスタートアップを増やすよりもよほどROIが高い。結果、成長企業で経験して独立する人も自然と増える。
「政府介入による起業の増加は質低下招く」ことは世界中の研究で明らかになっており、行政が起業数などをKPIに掲げるのは間違いだと思う。それよりも、「数は増えても成長しない日本の上場企業」の方が問題。
２．地方の中堅企業が困っているのは、�／夕衂埖�（採用難）、��DX、��オープンイノベーション。この対応で、主に東京の企業に依頼して何億円と使っている。ここを県が協力して、Setouchi-i-baseをハブにできれば、企業が成長し、周辺企業も伸びる。
３．香川大学の教員も学生も香川県の上場企業と接点がないから、ほとんど知らない。そもそも、香川県外から来ている学生が多いし（県内では県外への進学が多い）、就職状況がいいので、昨今は大都市での就職がさらに増えている。Setouchi-i-baseを県内学生と地元企業の接点にする。
今年9月に就任した新知事は、少子化対策として「子育てのしやすい香川県」を打ち出しているようだが、この分野は既に各自治体がバラまき状態にある。何といっても、経済活動が活発で、よい職のあるところに人は集まる。香川県の平均県民所得は300万円で、これは日本平均の400万円より少ないし、アジア内でもシンガポールの600万円と比べれば半分
今年9月に就任した新知事は、少子化対策として「子育てのしやすい香川県」を打ち出しているようだが、この分野は既に各自治体がバラまき状態にある。何といっても、経済活動が活発で、よい職のあるところに人は集まる。香川県の平均県民所得は300万円で、これは日本平均の400万円より少ないし、アジア内でもシンガポールの600万円と比べれば半分
2022年10月23日
ことでんレトロ電車の行く先
ところで、2020年に引退したことでんのレトロ電車。どちらも戦前に製造された車両で、近代化産業遺産にも登録されていた。ことでんがタダでいいからと募集していたので、申し出殺到かと思ったらなかなか決まらない。聞いてみると、移設費用が莫大で、どこもそれでしり込みしているという。
それが本書で結末が判明。どちらも高松市内にあった
移送費用を考えれば、やはり、遠くはムリだったようで、市内で引き取り先があってよかった。118：JR瀬戸大橋線 瀬戸大橋
夕陽に列車が突っ込む〜年に2回の奇跡。
129：JR予讃線 比地大
2019私設の鉄道ミュージアム「Kトレインワールド」がオープン。中学教師を定年退職した館長が退職金を使い果たし、自身のコレクションを展示。
131：ことでん2020
20形23号→八栗駅〜志度寺の道中に、お遍路さん休憩所に
5000型500号→高松市内の建設会社駐車場
2022年05月29日
ハンセン病と四国遍路
堀場清子による巻末の「解説」が詳しい。
本書は最初、「娘巡礼記」と題して1918年6月6日〜12月16日まで、『九州日日新聞』105回連載された。九州日日新聞（現・熊本日日新聞）は熊本の地方紙だが、当時の新聞は政党毎の機関紙の側面があり、その政党支持者には他県でも読まれていたようだ。
301：九州日日新聞社の社会部長宮崎大太郎に、巡礼記を送ると約して10円を与えられ、それを豊予海峡を渡る船賃にあてるつもりであったほかは、無銭旅行の、生死さえも運命の手にゆだねる出発であった。
303：読者のあいだにセンセーション。当時の日本社会では、若い娘の一人旅というだけで、瞠目に値した。また情報量の少なかった時代に、社会のどん底にある遍路らのなまなましい生態描写や、各地の珍しい風物の報告が、読者の好奇心を代行した。
それほど評判となり、著者の高群逸枝も一躍有名人となるのだが、この連載は出版されることはなかった。出版の話は何度かあったのだが、高群自身が、乗り気にならなかったためである。夫となって高群の女性史研究を支えていた橋本憲三も同意見で、出版が実現したのは二人が亡くなった後になる。
306：読むことが不可能にちかい、幻の評判作新聞に掲載されたきり、本にならなかった。「未熟をはぢて出す気がしなかった」（高群逸枝『お遍路』はしがき）
本書には行く先々で「業病」の遍路と出会う様子が描かれている。ハンセン病と四国遍路には強い関連があったわけだ。以前読んだ石牟礼道子『椿の海の記』では、江戸時代までは、ハンセン病患者は集落の外れで住民に助けてもらいながら暮らしていたらしい。明治時代になって、欧米諸国から患者を隔離していないことを非難され、徐々に欧米式に隔離することにことになる。ライ予防法が成立して強制収容が始まるのは昭和6年（1931）だ。
315：ハンセン病が不治の病でなくなった現在では、かつて遍路が社会に対してもった機能は、すでに変質してしまっている。（中略）往時の遍路は、「お大師さま」と同行二人で362里を歩きぬく、苦しい信仰の旅であり、人に忌まれる「業病」にかかったり、失敗によって家郷にいられなくなった悲運の人々の、おのれ自身を捨てにゆく場所でもあった。行き倒れて命の果てるまで、歩き続けるほかなかった人々にとって、遍路は文字どおりの死出の旅である。そして遍路の着る白衣は、もともと死装束にほかならない。
302：この熊本での窮乏時代に、日に三度血書を届けたというH青年から、彼女は求愛されていた。もともと拒絶のできない性格であり、他者に対しては無抵抗を旨とする愛の人であった彼女は、同情心にひきずられてH青年を振りきることが出来ず、窮地におちていた。後に夫となった橋本憲三とは、すでに恋愛関係にあって、故郷払川での教職を強引になげうち、前年秋に熊本に出てきたのであった。
309：「観音の子」
逸枝より先に3人の男の子が生まれたが、いずれも育たず。築後山門郡清水観音に女児出生の願をかけたところ、観音の縁日の18日に逸枝誕生。
7歳の暮れには和歌二種を詠み、（中略）12歳の彼女がすでに父の代講をして、大人のお弟子に『十八史略』の素読を教えていた。
316：江戸時代
江戸期から四国遍路には病人が多く、11月の末ころから2月までは、暖かい土佐の海岸で過ごし、春になると伊予に向かい、7，8月ころ今治のあたりに達し、10月には阿波に渡っていって、11月末にはまた大挙して土佐に入る。バタバタと行き倒れる「乞食遍路」の始末に手をやいた土佐藩の布告が残っており、明治・大正の時代になっても、冬の土佐の海岸には、こうした「乞食遍路」が千人近くもいたという。四国からはるかに離れた奥羽地方でも、「遍路に出る」といえば、やはり「業病」だったかととられ、北陸地方で「お四国へ行く」とは、「夜逃げをする」の同義語だったと記されている。
322：詩人として、またアナキズムの立場に立つ評論家として、華々しく活動し、論争し、雑誌『婦人戦線』（解放社1930-31通算16号）の主宰者となったのが、前半期。憲三が彼女のためにと、世田谷の林の中に建てた研究所にこもって、30年間門外不出、一日平均10時間の勉強に努め、『母系制の研究』（1938）、『招婿婚の研究』（1953）の二大著書をはじめとする業績によって、女性史学をうちたてたのが、後半期である。
2022年05月28日
100年前の四国遍路
熊本生まれの小学校教師、高群逸枝（1894-1964）が大正7年（1918）24歳で四国遍路へ旅立つ。高群は後に上京して、女性史の開拓者となるのだが、この時は、故郷の熊本で教師になったものの、恋愛の三角関係で悩んでいた。
当時の遍路は今とはずいぶん違う。高度経済成長期以降、庶民も旅行をする余裕ができ、四国遍路も観光の延長となった。観光バスやマイカーで廻るのが主流となり、宗教的修行ではなくなった。
この本を読んでも分かるが、それまでの四国遍路は死に場所を求めるようなもの。不治の病、経済困窮などさまざまな理由で人生を諦めた人が、多くは無一文で、「修行」（乞食）しながら、地元民の恩情に頼って遍路を続ける。地元民だって多くは貧しいのだから、いつも恩情に預かれるとは限らない。野宿になることも多いから、冬のあいだは暖かい土佐で過ごし、1年かけて四国を回っていたようだ。
早い話が、お遍路さんは乞食でもあるので、ほとんどが「40から上の年配の人たち」（当時の平均寿命を考えれば、今の60歳以上の感覚だろう）だった。若い人がいても病気などで「若いやら老人やら分からない種類の者」だという。「総括すると、灰色の敗残者」だと著者は書いている。
私が物心ついたときは、1960年代の高度経済成長期が終わるころで、国民皆保険制度が導入（1961）され、経済問題で医療が受けられないということが急速に減った頃。従って、乞食のようなお遍路さんも姿を消していた。祖母から、昔は遍路道からは外れている我が家にもときどき乞食遍路が物乞いに来ていたと聞いた。
27：観音様信心
私が生まれる時母が、観音様に「この子を丈夫に成長さして下さいましたらきっと一人で巡礼いたさせますから」と誓った。
125：四国遍路のお修行（乞食）
お修行するのに一等楽なのは伊予と讃岐で、土佐と来ては人情が紙のようだ。
126：遍路
総括すると、灰色の敗残者だと見なして好いかと思う。どれもこれも足を痛めていたり口を歪めていたり痩せて骨ばかりになっていたりまるで死の勝利に出ている乞食の群れを思わせるようだ。
それに若い者はほとんど見かけない。先ず40から上の年配の人たちだ。否全然見かけない事もないが、そのいずれもが若いやら老人やら分からない種類の者で、みずみずしい少女だのは見ようたっても見られない。
134：遍路の墓
そこここで遍路の墓というのを見たが、そのいずれも遍路道に近く面して立てられ新しいのは杖や笠などまで置かれてある。（中略）先日は四万十川のわたしで40人の遍路が死んだそうな。
215：業病
顔も手足も紫色に腫上っている。人々はクスクス笑った。何というこのいたましい光景、顔をそむけずにはいられない。（中略）人々はよく話しかけることが出来る。羨ましい事だ。
2020年11月07日
書き出し小説名作集
小説の書き出しを調べていて読んでみたら、「書き出しだけ」だった
。「書き出し小説は書き出しだけなので、そのつづきは当然ながら読者が創造しなければならない。だがそこにこそ書き出し小説最大の妙味がある。書き手のイマジネーションが読み手のイマジネーションを刺激し、ひとつの書き出しからはまさに読者の数だけ、無数の物語が生まれる。」（はじめに）
小説の書き出しだけをネットサイト「デイリーポータルZ」で募集したところ、膨大な応募があったという。その中から416作を厳選したのが本書ということ。応募総数がいくらだったのか、実数は書かれていないのだが、収蔵作品は確かに面白く（下記）、これを見て、「作品を書きたい」、あるいは、「続きが読みたい」と思った人も多いのではないか。
編者は天久聖一。香川県生まれで、20歳で漫画家としてデビューしたが、以来、「主にマンガ以外の分野で活躍中」とある。検索してみると、現在はYouTuber⁉
熊が冬支度をはじめ、僕は就活をやめた。「これの色違いありますか」八百屋に妙な客が来た。もう米のことなどどうでもいい平八郎だった。（歴史人物編）
2020年03月29日
「2万年前の石を無心に叩く男がいる」
「2万年前の石を無心に叩く男がいる」
静かな男声のナレーションをバックに、夜明けの山頂において舞い踊るようなしぐさで演奏するシルエットが映し出され、清澄な石の音が響き渡る。
という大手音響メーカーのCMが1986年に流れたらしい。サヌカイトの名は、これによってより全国に知れ渡った。それが、下の映像。場所は、香川県丸亀平野の北東部に位置し、西の土器川、東の大東川に挟まれた標高224.5mの青ノ野山山頂だ。
学生時代〜新入社員の時を通じて、TVを持ってなかったので、どうも記憶がない。そういえば、音響メーカーのCMを見なくなって久しい。
160：サヌカイトこれらのサヌカイトは宮脇聲子のご尊父、明治生まれの声明指導者でもあった故・長尾猛が私財をつぎ込んで買った住居の裏山から60余年にわたって採掘されたものである。長尾はその愛娘に聲子と命名されるほど、仏教音楽に用いる「聲石」の音色一筋に探求を続けれ来られ、その志を聲子がしっかりと今に受け継いでいるのである。162：夜明けのサヌカイト「2万年前の石を無心に叩く男がいる」サヌカイトの名は、大手音響メーカーのCMで流されたこの映像によって、より全国に知れ渡ることになった。1986年夏、香川県丸亀平野の北東部に位置し、西の土器川、東の大東川に挟まれた標高224.5mの青ノ野山山頂で、二回目のサヌカイト演奏を行った。169：讃岐のサヌカイトとその時代背景石器としてこの石が多く利用されたのは後期旧石器時代中頃の2万年前あたりからである。主要な産出地は香川県の中央部に位置する国分台と綾北平野を挟んで対する城山一帯の他、大阪と奈良の境にある二上山、広島と山口の境にある冠山、佐賀の多久、岐阜の下呂などがあげられる。なお香川県にかぎってみれば、国分台と城山はともにサヌカイトの原産地としてだけではなく、後期旧石器時代の遺跡としても重要視されており、ここからの原石を用いて作られた石器には様々な種類がある。172：サヌカイトの時代と環境瀬戸内海地方でこの国府型ナイフ形石器が最も普及していた時代はヴュルム氷期（7万年前〜16000年前）の最終段階で、海面が現在より50-150m低下していたと言われている。50mを最低の海退とした復元古地図を見ると、塩飽諸島はすべて陸続きとなり、断続した湖沼が確認される。この地図から分かるように、サヌカイト石器が大量に発見された現在の島々は当時、平原の湖沼近くに位置した丘陵で、その尾根は季節ごとに移動してくる動物の群れや水辺に集まる鳥類を一望できる格好の場所であったと想像されている。176：吉野川上流「土取遺跡」（父の郷里）土取遺跡から旧石器時代と弥生時代の石器が出土しており、それがなんとサヌカイトだった。179：あとがき旧石器時代は、500万年とも600万年ともいわれる人類史のおよそ1/3を占める長い時代で、遊動と狩猟採取という世界共通の文化基盤の上に成り立っている。そのため旧石器時代の一翼を担う音楽はかなり普遍的特徴を持つと考えられ、世界的視野に立ってこの研究が必要となっていくる。
2020年03月28日
旧石器時代・音楽の源流
「先史時代の壁画洞窟、それは絵画芸術の揺籃にとどまらず、人類のイマジネーションをよびさます音響装置だった」
こんな方が地元出身者だとは知らなかった。著者は1950年香川県多度津町の生まれ。パーカッショニスト。1970年代、近藤等則、坂本龍一、阿部薫らと音楽活動を展開。民族音楽、古代音楽の研究を深め、縄文鼓を復元・演奏した＜縄文の音世界プロジェクト＞は各方面から注目を集めたという。
絵画は美術館で、音楽は音楽ホールで、と別れたのは現代社会の都合でしかない。「先史時代の壁画洞窟は、音響装置でもある」という仮説に基づき、実際にフランスにある後期旧石器時代のクーニャック洞窟で鍾乳石を叩いて演奏している。壁画は音響効果の良い場所に描かれており、シャーマンによってなんらかの儀式が行われていたと推定される。
44：東南アジアの鼻笛日本で民族音楽を一般の人たちに広めようと学会で孤軍奮闘してきた民族音楽者の小泉文夫は、フィリピン、ルソン島の山岳民族、イゴロット族の音楽調査に赴いた際、かれらの鼻笛の音に触れ、その感動をこう記している。「人間の心から心へ伝わっていくためには、必ずしも大きな音もいらないし、あるいは音などまったく必要ないかもしれない。そう思わせる音楽が実際にある事実に、私は驚かされたのだった」106：ロルブランシュ博士の絵画技法ヨーロッパ壁画洞窟の大きな特徴はほとんどといってよいほど写実的かつリアリスティックな動物の絵で占められていることだ。しかしこれだけの絵画技法を持ちながら人間の姿をリアルに描いたものは皆無に等しく、半人半獣の形で描かれたものがいくつか見られるにすぎない。それでも、人間を描こうとしなかった彼れらがなぜか自らの身体の一部である掌だけはそのまま写し残した。これがネガティブハンドとよばれるもので、絵というよりは烙印といってもよい図像である。110：鍾乳石での演奏鍾乳石は低い祠のように入り組んだ岩壁から山羊か牛の乳房のように垂れ下がった短いもので、丁度座って演奏するのによい高さだった。演奏にはあらかじめ用意しておいた生木と枯れ枝の二種のスティックや、博士からいただいた洞窟熊の骨、そして素手も用いた。122：壁画は誰が描いたのか洞窟壁画の研究の礎を築いたちえるブルイユ神父は、洞窟壁画はたんなる芸術ではなく、呪術儀礼を表したものだと提唱してきた。すなわち呪術者が洞窟に入り、絵を描くことで獲物である動物に生や死を与え、こうした呪術を通して自然界の生物への支配力をたかめたというのだ。しかしこのブルイユ神父の呪術説に先史学者のルロワ＝グーランはまったく否定的で、図像をもふくめて呪術の存在を示すものは絵画の中には何一つもないとまで言い切っている。この碩学がとった壁画解釈の方法は男性対女性という二つの原理で以て洞窟全体の壁画が構成されているという構造主義に立脚したもので、個々の図像を安易な民俗学的例でもって理解することに警告を発していた。
2019年11月04日
奇跡の靴
先日JICA日系研修で訪問した「四国でいちばん大切にしたい会社大賞」と「日本で一番大切にしたい会社大賞」をダブル受賞している徳武産業の経営手法やエピソードを集めた本。著者は、あさ出版社代表で「日本で一番大切にしたい会社」大賞の審査委員でもある。
タイトルになっている「神様がくれたピンクの靴」とは、90歳になる老人ホームの女性入居者が購入したピンク色の「あゆみ」（徳武産業が作るケアシューズのブランド名）のこと。それは、東京営業所に掛かってきた一本の電話が発端だったという。
「お宅は歩けない人に靴を売りつけるんですか！そうまでしてお金を儲けたいんですか！」
老人ホームの職員から掛かってきたた電話はクレームだった。その入居者は3年前からまったく歩けない。ホームに届いた「あゆみ」を見て、職員は徳武産業が言葉巧みに靴を売りつけたと誤解したのだ。
実際は、同じホームでピンクの「あゆみ」を履いている人を見て、おばあさんが自ら買ったものだった。「もしかしたら、歩けるようになるかもしれない」と。当時、車椅子状態になってすでに3年。足はまったく動かせず、自力で立つこともできなかったという。
半年後、奇跡が起きる。あのおばあさんが歩けるようになったのだ
どうしてもピンクの靴を履いて歩きたいと思ったおばあさんは、諦めていたリハビリを再開。少しずつ機能が回復して、とうとう自分の足で立ち、歩けるようになったという。女性はいつまでも少女の心を持っている。
10：日本で初めて片方だけの販売や、左右サイズ違いの販売11：定番商品3000-8000円パーツオーダー〜変更箇所1カ所につき1500円程度107：手渡しするボーナスには社長直筆のメッセージ日頃から社員と意思疎通を図っているので、ボーナスの時にも社員を具体的にほめることができる。現金を封筒に入れて、一人ひとりに手渡し。その中に、直筆の手紙。111：毎朝の清掃始業30-40分前に出社し、会社周辺の清掃。
2019年10月22日
「四国でいちばん大切にしたい会社」と市場選択
今回、「四国でいちばん大切にしたい会社」受賞企業4社を訪問したが、
・売上25-100億円規模の中堅企業
・ニッチトップもしくは地域独占型
という共通点がある。
推定市場規模50億円のケアシューズでシェア50%の徳武産業と、推定市場規模17億円の日常使いキャリーバッグで70%のシェアを誇るスワニーは典型的な「ニッチトップ」型企業だ。
一方、全国の市場規模は大きいものの、それほど粗利益が取れる業界ではなく、営業範囲を狭めたほうが効率が高いリネンサプライとグラビア印刷は、地域独占型と言えるだろう。トーカイの香川県内医療機関におけるシェアは75%に登る。リネンの回収や配達のためのネットワークの密度が重要なため、他社が参入することは困難だ。
「ニッチ戦略」とは何か？丁度、まとまった記事があったので紹介する。
山田 英夫（早稲田大学ビジネススクール 教授）
１．市場規模をあまり大きくしない
市場規模が大きくなると大企業が参入し、資本力で負ける可能性がある。年間数千億円を売る大企業にとって、参入するかどうかの目安は、市場規模が100億円あるかどうかだろう。
２．あまり利益率を上げない
固定費の高い大企業が参入するには、高い利益率が見込めなければならない。ニッチトップになれば市場支配力も強く、値上げも可能になるが、あえて値上げせず、市場の魅力を下げておく。
３．市場を急速に立ち上げない
今小さくても、急拡大する市場には、将来を見越して大企業が参入する可能性が出て来る。
以上、ニッチ戦略とは「戦わない戦略」なのだ。「四国でいちばん大切にしたい会社」はいずれも従業員が長く働いてくれることを前提に、社員を大切にしている。長く働いてもらうためには、市場環境が急変するのは望ましくない。
「急拡大しないが着実に伸びる小規模な市場で、高いシェアを維持する」ことは、企業理念を達成するために必要なことで、会社のスタイルに合った市場を戦略的に選んでいるということもできる。
2019年10月18日
手袋日本一
JICA日系研修「四国でいちばん大切にしたい会社」訪問の最後を飾ったのはスワニー（東かがわ）。私自身は3度目の訪問になるが、板野社長から1時間にわたってスワニーの経営について講義していただくのは初めてで、楽しみにしていた。
スワニーは手袋製造で日本一の会社。年間の製造販売量は450万双に登るという。製造は中国やカンボジアの製造子会社が担っている。国内販売はOEMやODMなので、SWANYのブランドが出ることはないが、名だたる有名ブランド手袋の多くは実はスワニー製である。米国を中心に海外では自社ブランドで販売しており、北米ではスキー手袋のトップブランドとなっている。
独自の市場を切り拓いて伸びているのがバッグ事業部。4輪のキャスターが付いたキャリーバッグだが、20年前から「デイリー（日常使い）」という市場を開拓してきた。それまでのバッグは、旅行用か仕事用だったという。当時社長であった三好相談役が小児まひの影響で歩行に支障があり、手袋の営業と製造管理のため世界を100周
する間に、キャリーバッグに体をあずけると歩行が楽だったことから開発が始まったという。同社のキャリーバッグの最大の特徴は婉曲したハンドル。通常のキャリーバッグはハンドルが垂直に伸びるので、体重をかけるとバッグの片側に重量が集中し、転びやすい。同社のバッグは婉曲したハンドルで、体重がバッグの中心近くにかかるようになっているので、転倒しにくいのだ。
この結果、同社のバッグは高齢者が日常の買い物などに使うことが多い。同市場におけるシェアは70%というから、年間市場規模は17億円位の正にニッチ。しかし、高齢者の増加と共に伸びている市場だ。年間生産量12万個で、製品に同封しているアンケートはがきが年間8000通届くというから、すごい回収率だ。大半が、このバッグのおかげで外出がいかに楽になったかという感謝の内容で、社員の励みになっているという。
高齢者から圧倒的支持を受けるニッチトップ製品として、先週訪問した徳武産業のケアシューズによく似ている。
2019年10月16日
北四国グラビア印刷
JICA日系研修「四国で一番大切にしたい会社」訪問シリーズ3社目は北四国グラビア印刷。実は、うちの実家からは車で20分ほどの地元と言ってよい場所。なのに、何をしている会社なのかほとんど知らなかった。
印刷会社であるのは間違いないが、高品質のグラビア印刷に特化しており、そして印刷するのは紙ではなく樹脂フィルム。上記の写真のように、食品パッケージの印刷が多い。会社は観音寺市にあり、同じ市内の「加ト吉」（現テーブルマーク）の冷凍食品と共に大きくなった会社である。
着実な成長を遂げ、2018年売上高は33億円、経常利益1億円、従業員116名の優良企業。印刷大手はともかく、この規模でデザイン企画から製版、印刷まで一貫して実施する会社は全国に数えるほどしかないという。
売上の8割が食品パッケージのため、食品メーカーと全く同じISO22000で管理されている。工場に入るのに、髪の毛が落ちないよう専用カバーをすっぽりかぶった上、まつげまでシールで（取れそうなものを）取る。入念な手洗い後、エアシャワーを浴びてやっと中に入った。髪の毛一本でもパッケージに混入していれば大クレームになる。
同社では、社員のことを「グラビアーズ」と呼んでいて、社訓は、「全グラビアーズの物心両面の幸福を追求すると同時に、社会・地域・業界の進歩発展に貢献する」となっている。創業の精神は、「人生在勤」（まじめに生きること、全力で物事にあたることが仕事、家庭、社会における幸福につながる）である。
1970年創業で、来週は50周年になる。何が企画されているのか楽しみ。
2019年10月14日
リネンサプライ
JICA日系研修で訪問する「四国でいちばん大切にしたい会社大賞」受賞企業を訪ねる〜その２。香川県で圧倒的シェアNo.1を誇るリネンサプライの株式会社トーカイ。同賞は2012年の表彰開始以来、県内企業は9社受賞していて、そのうちの一社。
リネンサプライとは、シーツ・タオル・布団カバーなどを病院やホテルなどに貸出しする業態のこと。トーカイは県内シェア75%、隣県の徳島で50%、瀬戸内海を挟んだ向かいの岡山県で25%(シェアNo.2）を誇る。愛媛県ではシェアNo.3で、四国ではシェアトップである（高知では営業してない）。
同社の創業は1962年。それまでは病院に入院する時は自宅から寝間着やシーツを持ち込むのが当たり前だった。中には、清潔なリネンを持ち込まない人もいる。そこで、厚生省(当時）が病院内の清潔さを保つために、欧米のリネンサプライという業態を奨励したらしい。病院にとってみれば、そうしたリネン類を用意するのは本業である「治療」に直接関係なく、自前でやるのは手間。リネンサプライは全国で受け入れられたという。
同社の社名は創業時「東海綿業」。なぜ、四国なのに「東海」なのか。これは、創業に先立ち、創業者の河野兄弟が修行したのが岐阜県で先行していた「東海綿業」で、その社名を「のれん分け」としてそのまま使ったもの。リネンサプライ業は営業エリアが狭いため、四国でやるなら競合の心配がなかったので、教えてくれたのだろうが、なぜ資本参加しなかったのか、あるいは独立企業だったのにどうして全く同じ社名にしたのかは不明。
その後、岐阜の会社が株式会社トーカイとしたのに呼応して、同社もやはりトーカイに社名変更している。そして、2005年に創業以来社長を務めていた河野兄弟は持ち株をトーカイ(岐阜）に売却し、同社はグループ会社となった。トーカイがトーカイを買収したという不思議な
話。現在では、病院・介護施設やホテルのリネンだけでなく、手術用リネンの貸し出しも行っている。これは使い捨てとの競争という。他にも、手術室の環境整備、減菌作業、院内洗濯なども院内業務請負として行っている。医師、看護師に次ぐ、病院における「第三の医療人」なのだ。
工場内は、仕上げ工程を除き、省力化が進んでいる。こうした省力化、自動化を行っているのが、グループのPUREX社で、もともと社内の設備課が独立したもの。リネンサプライは多角化している一部業務を除けば差別化が難しい。そのため、競争戦略上重要なのはコスト削減で、中でも一番大切なのは人件費の削減＝省力化ということになる。これをグループ内で出来るのは強みだ。製作した機械を外販するために独立会社となり、現在の売上はほとんどがグループ外だという。この点も、地元密着型のリネンサプライ業としての特徴だろう。
2019年10月11日
徳武産業のコミュニケーション戦略
会社訪問時に見せていただいたのが、このビデオ。会社で製作したのかと思ったら、あゆみシューズのお客様から送っていただいたDVDだという。テキストにバックグランドミュージックが入っただけのシンプルなものだが、グッとくる。
こうした「返信」がお客様から来るのも、日ごろから徳武産業がコミュニケーションを重視しているから。それは、社外でも社内でも同じだ。
お客様向けには、靴箱に社員からの手書きメッセージカードが入っている。それと一緒にアンケートはがきが同封されており、連絡先と生年月日など属性を記入の上返信すると「お誕生日プレゼント」がもらえるようになっている。そのため返信率は高い。つまり、販売店経由で売ってもメーカーがエンドユーザーを把握できている。
そして、顧客誕生日には手書きメッセージと一緒にプレゼントが届く。プレゼントは毎年変更しているという。私がサンプルにいただいたのは、亀甲紋の日本手ぬぐいだった。これを2年続けるという。2回目の誕生日プレゼントが届くころには、靴の替え頃である。当然、発注につながる。しっかりと、ダイレクトマーケティングできているのだ。
この原点には、ケアシューズ開発当時の十河会長の体験があるという。自ら老人ホームなどを訪問し、受注し、納品していた初期。入居者を訪問すると、靴の話は最初だけで、大半は身の上話だったという。「お客様は寂しい」ということを痛感した会長は、顧客とのコミュニケーションを製品開発と並ぶ事業の柱に据えたのだ。
2019年10月10日
奇跡のシューズ
以前も書いたことがあるが、実は、香川には「ニッチトップ」企業が多い。大企業が参入してこないような小さな市場でトップシェアを誇る企業群である。通常は、大企業の方が生産性が高いので、県の大企業比率が高いほど、県の生産性も高くなるのだが、香川は中小企業比率が高いのに生産性が高いという稀な県なのだ(下図）。
そのうちの一社が徳武産業。通常の靴では不満のある高齢者や身体障碍者向けに「ケアシューズ」を作るトップメーカーである。昨日は、JICA研修で4人の日系ブラジル人研修生を連れて本社にお邪魔した。
現在の業態を開発した実質的な創業者である十河会長から直に話を聞くことができた。徳武産業の社長になったのは1984年、37歳の時で、それは義父の死亡で後継者がいなかったためだそうだ。それまでの徳武産業は、香川県東部の地場産業である手袋からスタートしてスリッパなどを作っていた。
手袋産業は明治時代に大阪の手袋メーカーの下請けからスタートして、第一次世界大戦でドイツの手袋の輸出が止まった事から、大きく発展した。戦後も50~60年代に盛んだったが、高度経済成長を経て賃金が上昇。自動化が難しく人件費の掛かる手袋産業は70年代に転機を迎える。国内生産を縮小し、韓国進出が始まるのがこの頃だ。
銀行員からスタートした十河社長は、親戚の手袋製造会社に転じ、韓国工場に勤めていた。徳武産業創業者の長女と結婚していたことから、帰国して4年経ったところで会社を継ぐことになり、いきなり社長になる。この時の売上は82百万円で、その95%がアキレスへ納める学童用シューズだったという。
仕事は安定していていたが、十河社長は危機感を抱く。手袋産業が競争力を失い、国内生産を捨てて韓国、そしてその頃には中国に進出する企業も出ていたからだ。「同じことが、靴でも起こるのではないか？」そう思った十河社長は、5%しかなかったスリッパを進化させたルームシューズや、奥さんが開発したというトラベルポーチに注力する。はからずしもその4年後、アキレスが中国生産を決め、段階的に受注はゼロになったという。それまでに、自社製品の割合は35%にまで高まっていたので、この危機を乗り越えることができた。
ルームシューズは大手通販会社の相手先ブランドで販売していた。人気商品となっていたが、相手の担当者の交代などで、売上が激減する。下請けやOEMの限界を知り、自社ブランド商品を模索していく。そこで出会ったのがケアシューズなのだ。
きっかけは、知り合いの老人ホーム園長からの「お年寄りが転ばないシューズが出来ないか」という依頼だったという。お年寄りの話を聞き、歩き方を観察し、工夫して納めたシューズは大変喜ばれた。これを機に、夫人と一緒に2年間開発に没頭する。そうして誕生したのが「あゆみ」シューズなのだ。
「あゆみ」シューズは、当初から、靴業界で初めて片足ずつ販売している。これは、片足を引きずって歩く人が、「片足だけ早く摩耗してしまう」ことから片足だけ販売したほうが喜ばれることから始まった。そうすると、両足の大きさの違いや、障害による形の違いなど、様々な方にもニーズがあることが分かった。
こうして、ケアシューズを始めた25年前に2.5億円だった売上高は現在では25.6億円となり（前期）、経常利益は2.5億円ということだ。これでケアシューズ業界でのシェアは55%というから、年間の市場規模は50億円ということになる。まだまだ大企業が本格的には参入できないニッチ市場なのである。
しかし、このニッチ市場は高齢化で伸びている。25年前にはおそらく数億円の市場規模しかなかっただろう。まずは、伸びるニッチ市場を選んだことに先見の明がある。そして、それを見つけられたのは、健全な危機意識があったからだ。
35年前、十河氏が社長に就任した時、アキレスの下請けは全国に70社あったという。このうち、現在も生き残っているのは3社だけ。それも、徳武産業以外の2社は大幅に規模を縮小して家族で細々と継続しており、会社として規模を拡大できたのは徳武産業1社だけだった。
2019年10月06日
讃岐ジオサイト「火山・雨滝山」
香川大学公開講座 「ジオガイドが案内する讃岐ジオサイト」でさぬき市へ。さぬき市津田出張所に集合して、�…電調篝郷綽声辧↓△Δ里抻嚇庫沼罅↓�うのべ山古墳、�け�滝山、��雨滝自然科学館を回るコース。5年前に雨滝山に行ったときは、長谷川修一先生と森館長（雨滝自然科学館）の案内だったが、今回は、ジオガイド養成講座なので、「讃岐ジオサイト探訪」講座受講者であるジオガイドが案内。
今回のお題は、「なぜお山にナマズが泳いでいたのか？」
というのは、雨滝山で世界最古のナマズが発見されているから。これを発見したのが森館長で、1985年に発見した当時は小学校の先生だったという。趣味で週末に四国各地に出かけては化石を発掘していた。雨滝山の道路工事で出来た露頭で見つけた小さなナマズ化石は、その後の鑑定で、それまで発見されていたナマズ化石を大きく上回る1500万年前のものと推定されている。
問題は、なぜ、山の中からナマズの化石が見つかったか？
讃岐の基盤岩は花崗岩。花崗岩が風化し、川に流された石英が美しい瀬戸内海の白砂青松の原料となっている。讃岐の山の頂上付近で多く見られるのが安山岩。讃岐の安山岩はガラス質が多く、叩くとカンカンと澄んだ高音で鳴るので、地元ではカンカン石と呼ばれる。
しかし、花崗岩は地下深くでゆっくりと冷えたマグマであるし、安山岩は噴出したマグマが地表で急速に固まったもの。何れもナマズが住むような環境ではない。雨滝山でナマズが発見されたのは泥岩層。泥が溜まるのは池や沼の底なので、ナマズが住んでいたのは大昔の沼の底ということになる。
泥岩層の上には凝灰岩層があり、その後、火山灰が積もったことが推察される。これは1400万年前の「瀬戸内火山活動」で、この火山活動で沼は埋まり、さらに噴出したマグマが流れ込んだ。
写真：雨滝山山頂から見た津田湾
2019年09月09日
空海と一休
日本人にとって分かりにくい宗教の違い。司馬遼太郎は、「密教というのは仏教でなくバラモン教」だという。
バラモン教とは、インドで仏教が生まれる前に勢力を持っていた宗教で、現在のヒンズー教に繋がっている。特徴は、輪廻思想とその現世への適用。自分の生まれたカースト（社会階級）から現世では逃れることができない。最下位のスードラ（奴隷階級）に至っては、生まれ変わっても永遠にスードラという救いのない教えだ。
こうした社会の底辺の人を救うためお釈迦さまが創始したのが新たな宗教哲学である仏教。バラモン教にはない、輪廻界から解脱した如来や菩薩の住む「仏界」があるとした。
密教の源流は7-8世紀のインド大乗仏教にあるが、伝わった中国では流行らなかったらしい。しかし、空海は20歳で中国に留学した時、密教を取り入れるというはっきりした目的を持って行っている。長安で学んだ密教を、空海は独自に完璧な論理の真言密教にした。これも、日本的外国文化吸収の一つだろう。
バラモン教とは、インドで仏教が生まれる前に勢力を持っていた宗教で、現在のヒンズー教に繋がっている。特徴は、輪廻思想とその現世への適用。自分の生まれたカースト（社会階級）から現世では逃れることができない。最下位のスードラ（奴隷階級）に至っては、生まれ変わっても永遠にスードラという救いのない教えだ。
こうした社会の底辺の人を救うためお釈迦さまが創始したのが新たな宗教哲学である仏教。バラモン教にはない、輪廻界から解脱した如来や菩薩の住む「仏界」があるとした。
密教の源流は7-8世紀のインド大乗仏教にあるが、伝わった中国では流行らなかったらしい。しかし、空海は20歳で中国に留学した時、密教を取り入れるというはっきりした目的を持って行っている。長安で学んだ密教を、空海は独自に完璧な論理の真言密教にした。これも、日本的外国文化吸収の一つだろう。
��空海と一休27：密教というのは仏教でなくバラモン教（司馬）お釈迦さんが救主じゃありませんね。お釈迦さんを教祖としているんじゃなくて、架空の大日如来を教祖にしているんですから、実は、インドの土俗宗教だと思うのです。空海の真言密教というのは、比較することは大胆ですけれども、長安における真言密教ではなかったんだろう、と私は思うんです。原液は同じなんだけれども、それを空海は水晶のような結晶体に構築したのですね。そして論理的に狂いのないようにして、一つでも論理のケタをはずすと、ガラガラと崩れるような、一種の完璧なものにしたのが高野山なり東寺の真言密教だと思うのです。30：仏教の日本化（司馬）親鸞も日蓮も、ほとんどお釈迦さんと関係のない人ですね。極端にいえばお釈迦さんという世界性がどうであれ、自分一個の安心が結定すればよいというところがある。�６發寮こΑΧ笋寮こ�52：キーン応仁の乱のおかげで、公家たちは地方へ行ってしまった。そこで、そのときまでほとんどなきに等しかった日本の地方文化というものが、忽然として花を開く。雪舟の作った庭とか、雪舟の画いた絵は、いろんな所にある。もう一つ前の時代だったら、当然のこととして京都だけにあったはず。
2019年09月05日
マルナカの歌、最後のフレーズわかるかな？
香川の地域No.1スーパーといえばマルナカ。8年前に創業家が持株をイオンに売却。現在は兄弟会社の「山陽マルナカ」ともどもイオンの子会社になっている（本年3月に株式交換で「マックスバリュー西日本」子会社）。売上高1777億円 経常利益16億円（2019年2月期）四国と淡路島合わせて全142店舗。
前身は1926年（大正15年）に創業した中山青果問屋という青果卸。このため、マルナカのシンボルマークにある3本の波のような模様は地元ではバナナではないかと言われてきた。しかし、公式には、
マークの丸はマルナカの「ま〜あるい愛」を表し、イニシャルの「m」の三本柱は経営理念である「サービス」、「フレッシュ」、「情報」を表している。
ということだ。もう一つ、本部へ問い合わせが多いのが、店内で終日流れるテーマソング。いかにも、明るくて前向きで、購買意欲を促進するような曲なのだが、これまであまり気にも留めてこなかった。それが、8月31日付の朝日新聞に記事があったのだ。「マルナカの歌、最後のフレーズわかるかな？」
私は正解で、週三回マルナカで買い物している者としては当然
しかし、無理矢理マルナカにかけていて、ちょっと苦しい気はする。それより、ところどころ入れられている英語が分からなかった(笑)。歌っているのは「ご当地ソングの女王」と言われる演歌歌手の水森かおりということ。1985年、デビュー前の15歳の時の録音だそうだ。2019年08月20日
大正製薬の創業者
リポビタンDと言えば大正製薬。大正製薬といえば上原家。
これが常識だが、実は大正製薬の創業者は上原家ではなく、私と同じ町（香川県三豊市高瀬町）の出身者であることを最近知った。それが石井絹治郎。
明治21(1888)年 愛媛県三豊郡比地中村で生まれる（当時、香川県は愛媛県に併合されて存在しなかった
）明治32(1899)年 比地尋常小学校卒業
明治34年（1901)年 訳業見習いのため上京
明治37(1904)年 大日本製薬に勤務しながら、明治薬学校(現明治薬科大学）夜間部に入学
明治43(1910)年 従兄妹である下勝間出身（現高瀬町）の豊島ムメと結婚
明治44(1911)年 二ノ宮村（現高瀬町）出身の高木好彦(妻は豊島ムメの妹）が上京し、以来大正製薬及び絹治郎の片腕となる
大正元(1912)年 大正製薬所設立「體素」「ヘモグロビンエキス」「ヘモグロビン菓子」等の製造販売を始める
大正15(1926)年 日本薬剤師会理事並びに東京府薬会長に就任（府薬会長は昭和18年に没するまで重任）
昭和３(1928)年 株式会社大正製薬所と改組
昭和12(1937)年 東京商工会議所議員
昭和18(1943)年 5月9日永眠。東京商工会議所会頭、藤山愛一郎が葬儀委員長。
明治薬学校は首席で卒業。当時今よりも難しかった薬剤師国家試験には18歳で一発合格しているから、家が貧しくて尋常小学校しか出ていなかったものの、よほど優秀だったらしい。試験には合格したものの、当時の資格取得年齢は20歳だったため、免許交付は2年間保留になっている。
そして、改元と同時に設立したのが大正製薬所。創業以来、石井の右腕として事業を支えたのは同郷の高木だった（うちの隣村なので遠い親戚かも）。
会社は順調に発展し、昭和18年に絹治郎が亡くなった後は、同じく明治薬学校を卒業して研究者の道を歩んでいた長男輝司が二代目社長に就任する。しかし、本人は徴兵されて戦地におり、形だけの社長であった。戦後、帰国した後も、経営に興味を持たず研究の道を志し、明治薬科大学の教授となっている。孫の敬太朗は現在、明治薬科大学の学長だ。
その後の経営を担ったのが、戦争中専務として会社を支え、昭和21（1946）年三代目社長に就任する上原正吉。上原は19歳のときに絹治郎に見いだされ、大正製薬所で働きながら絹治郎同様、明治薬学校夜間部に通った。そして、その後、上原家が代々社長を務めることになる。
その間何があったのか
Wikipediaには次のように記載されている。上原が社長に就任する際､株で半ば強引に乗っ取り､その後、当時多数勤務していた創業者一族である石井家と、その親族（石井絹治郎の妻ムメ方の豊島家一族など）を大幅に解雇するなど、創業者一族である石井家とその親戚筋とは確執がある。
2019年08月18日
竹槍事件
現在浪人中の末っ子。彼女が今春卒業したのが都立隅田川高校。こちらの有名卒業生の一人が宮部みゆきらしく、在学中に本書を持ち帰った。いや、持ち帰ったのはPTA活動をしていた妻だったか。
とにかく、それから1年以上経ったのをお盆休みに読んだ。1996年の日本SF大賞受賞作ということ。「平凡な現代青年が1994年の冬の東京から1936年の同日同刻同地点へと緊急避難する。そこは二・二六事件の現場である」という時間旅行の物語（解説）。
ネタばれになるので詳しくは読んでいただきたいのだが（さすがSF大賞受賞作でなかなか面白い）、最後の方に登場するのが実際にあった「竹槍事件」。
毎日新聞は昭和19年2月の東條英機内閣の『非常時宣言』を報道した際、海軍担当の新名丈夫?記者が「竹槍では間に合わぬ、飛行機だ。海洋航空機だ」との論説を記載。反戦思想だと激怒した陸軍は37歳の新名記者を2等兵懲罰徴収を行った。海軍は露骨な懲罰徴収を批判したところ、陸軍は高齢の兵役免除者250名の徴収を実施し批判をかわした。新名二等兵は陸軍内の事情で除隊となるが、再徴収を恐れた海軍は、新名を海軍報道班員として従軍させた。（hatena）
この新名記者とそのとばっちりをくらった本来兵役免除の250名が入隊したのが丸亀連隊。新名自身は日中戦争時に陸軍の従軍記者であった経歴と海軍の庇護（新名は海軍省記者クラブの主任記者）を受け連隊内で特別待遇を受けたうえ、3ヵ月で招集解除となった。
しかし、一緒に入隊した老兵250名はその後硫黄島に送られ、全員が玉砕した。たまたま新名記者が同郷であったためにだ。ひどい話である。
2019年03月08日
乱調と諧調と
大正12年（1923）の関東大震災の直後、無政府論者である大杉栄が、憲兵大尉甘粕正彦によって連行され、憲兵隊本部で虐殺された「甘粕事件」。一緒に殺されたのが、内縁の妻であった伊藤野枝と甥の橘宗一。と、ここまでは日本史で習ったので知っていた。
全く知らなかったのが、伊藤野枝という人物。彼女を主人公に小説にしたのが瀬戸内寂聴（徳島出身）の『美は乱調にあり』。伊藤野枝は福岡生まれ。「自分さえ勉強ができれば、母親が困ろうと、きょうだいが泣こうと平気」な姉だったと取材に来た瀬戸内寂聴に妹が証言している。
福岡から東京に出てきて上野高等女学校に入り、そこで英語教師の辻潤に出会い、結婚する。子どももできるのだが、その後大杉栄と知り合い、乳飲み子を抱えて大杉のところへ走った。以後、甘粕事件で殺されるまで一緒に暮らした。
その間に大杉との間に生まれた子供は5人。その名前がスゴイ。よほど生活に差し支えがあったのだろう、全員が後に改名している。
長女 魔子（大杉との四角関係を制した野枝は「悪魔」呼ばわりされ、それを逆手にとって）→眞子
次女 エマ→幸子
三女 エマ→笑子
四女 ルイズ→留意子
長男 ネストル→栄
251：大杉栄の妻伊藤野枝を書いた『美は乱調にあり』「自分さえ勉強ができれば、母親が困ろうと、きょうだいが泣こうと平気」253：福岡から東京に出てきて上野高等女学校に入り、そこで英語教師の辻潤に出会い、結婚。254：辻家を出ると乳飲み子を抱えて大杉の下宿先に走り、そのまま一緒に暮らす。259：恋愛についてエゴイスティックな振る舞いをしていた大杉が、いったん伊藤野枝と所帯を持つと、彼女ばかりでなく生まれてきた子供たちにも無限のやさしさを発揮する。
2019年02月09日
国会で是非が議論されたデス・ゲーム小説
中学校の１クラス全員を無人の島に連れ込み、政府主催の殺人実験を強制される。生還できるのはたった一人で、そのためにはクラスメイト全員を殺害するのみ。
そんな過激な設定ゆえに、「文芸評論家と編集者の間でひそかに噂になっていた」（解説）にも関わらず、本書は1年以上上梓されなかった。日本ホラー小説大賞の予選委員会では高得点を獲得していたが、本選では選考委員たちにかたく拒絶されたという。
「金八先生のダイレクトなパロディが出てきてひじょうに不愉快」（荒俣宏）
「いなーな近未来漫画を読まされているみたいでした。・・・こういうことを考える、この作者自体が嫌い」(林真理子）
「今の時期にこういう中学生が殺しあいするような作品に賞を与えてしまっては、やっぱりホラー大賞のためには絶対マイナス」（高橋克彦・（当時、酒鬼薔薇事件の余震が続いていた））
私も小説の概要を聞いて、「気持ち悪い」と拒否してしまった。それを今頃なぜ読んだかと言われれば、その後評価が定着したから。出版される本のほとんどが数か月で消えていく中、初版から20年経って版を重ねているということは、傑作と言ってもいいのだろう。
驚いたのは、著者が香川県育ちで、小説の舞台が高松市沖の(架空の）島であること。「ほかに女木島、男木島という島があって、三つ南北に並んでいるのだが、沖木島は一番沖合い、一番北になる」（下p314）という記述から、男木島と豊島の間にある（別の個所で「隣に豊島」という記述も）設定だ。
上27：中国の文献は翻訳物でも比較的入手しやすい。まあ当然だ、共和国は中国を”わが国固有の領土”と主張している。上55：よく見知ったクラスメイトと互いに殺し合うのだ。たった一つの、生き残りの椅子をかけて。そう、史上最悪の、椅子取りゲーム。下173：そういうわけで、下品な有象無象が大嫌いだったどちらかというと愚かな男、織田敏憲は、防弾チョッキの存在を過大評価し、桐山和雄の冷静さを過小評価したためにあっさりと死んだ。
2018年08月05日
ガソリン道
高松の仏生山から塩江温泉郷まで「ガソリン道」と言われる道がある。聞けば、戦前、この道をガソリンカーが走ったらしい。
ガソリンカー。正式名称は塩江温泉鉄道。昭和四年十一月、香川郡仏生山町（現高松市仏生山町）から塩江村（現塩江町安原上東）まで約十六キロで営業を始めた。ガソリンエンジンを積んだ四十人乗りの小さな車体は、「マッチ箱」と呼ばれ、親しまれた。昭和十三年、琴平電鉄に吸収合併され、同十六年には戦時統制下のガソリン不足で廃業した。
鉄道なのにガソリンエンジン
昨晩の飲み会でこの話題になり、その時は思いつかなかったが、帰りにことでん琴平線で過剰に揺られながら思いだしたのが、当時建造された世界最先端戦艦であった大和や武蔵もディーゼルエンジンではなかったこと。以前読んだ大和建造の事情を書いた本に、確か、「最先端のディーゼルエンジンも検討したが、技術の熟成が十分でなく、信頼性に欠けるため断念した」とあった。それで結果的に採用されたのは、実績のある蒸気タービンなのだが、蒸気タービンとディーゼルエンジンでは、燃費が倍も違う。同じ出力なら、ディーゼルエンジンは半分の燃料で済むのだ。大和の起工は1937年だ。調べてみると、ドイツのルドルフ・ディーゼルが特許を取得したのが1892年。初の動くプロトタイプを制作したのが1897年である。以下、Wikipediaの年表から抜粋する。
1914 ドイツUボートがMAN製ディーゼルエンジンを搭載
1922 ベンツがディーゼルエンジンを搭載した初のトラクター
1927 ボッシュがトラック用燃料噴射ポンプと噴射ノズルを製造開始
1933 ヤンマーが小型汎用高速ディーゼルエンジンの自社開発に成功
1934 マイバッハが世界初の鉄道車両用ターボディーゼルエンジン製造
要するに、19世紀末にドイツで発明されたディーゼルエンジンは20世紀初頭にはまだ最先端技術で、一般には普及していなかった。ドイツは最も進んでいたが、戦争の影響で普及しなかった。それは、英米による海上封鎖で原油が入ってこなくなり、国内で採れる石炭の液化で燃料を賄っていたが、この方法ではディーゼルエンジン用の軽油が余り採れなかったのだ。そのため、当時世界最高性能を誇ったティーガ重戦車はじめ、ドイツの戦車は皆ガソリンエンジンを採用していた。
これに対して、ドイツで4ストロークのガソリンエンジンが開発されたのが1876年。ドイツの裁判所はなぜか開発したオットー、ダイムラー、マイバッハの3名に特許を認めていない。1879年にカール・ベンツが2ストローク・ガソリンエンジンを発明し特許を得ている。カール・ベンツは1885年に4ストローク・ガソリンエンジンを搭載した世界初の自動車（三輪）を制作し特許を取得するとともに、翌年会社を設立した。ベンツ社は1926年にダイムラー社と合併して、ダイムラー・ベンツ社となる。
つまり、ガソリンエンジンはディーゼルエンジンに対して、数十年早く実用化されており、経験値も積んでいた。このため、昭和4年（1929）に営業開始した塩江温泉鉄道がディーゼルエンジンでないのは当然なのだ。そして、1両だけの編成には、当時鉄道機関車として全盛だった蒸気機関車よりも、ガソリンエンジンのほうが小型で良かったということなのだろう。写真を見ると、列車というよりも、軌道上を走るバスのように見える。
2018年06月17日
藝術喫茶「清水温泉」
「町の銭湯、『藝術喫茶』に衣替え」というので、多度津に行ってみる。多度津に行くのは何年ぶりだろう。近くなのだけど、行く機会が少ない。古くから港町として栄え、坂本龍馬も土佐藩を脱藩した後、ここから船に乗って本州へ渡った。しかし、30年前に瀬戸大橋が坂出にできてからは衰退する一方で、寂しい街になった。
藝術喫茶「清水温泉」があるのは、古い町並みが多少残っている本町1丁目。銭湯として営業していたのは、大正末期から昭和の終わりごろまでだという。銭湯の間取り、照明や壁掛けの扇風機も当時のまま。浴槽を生かしたテーブル席が面白い。
こんなことをやるのは地元の人じゃないだろう、と思ったら、やはり大阪の出身の方。店主の日高さんは八尾の出身だという。店内には、陶芸作品や盆栽もある。
「作陶や盆栽を手がけ、奈良市内でギャラリーを営んでいた。作品の購入者に町の人がいたことで、多度津との縁が始まった」
2018年06月12日
唐辛子の王様「香川本鷹」
先週末の日曜日、月一回の香川大学公開講座「讃岐ジオサイト探訪」で手島へ。瀬戸内国際芸術祭で豊島（てしま）の方が有名になったが、手島は丸亀沖にある島。丸亀港から出た船は、広島の港に2か所寄った後、さらに、小手島を経由し、約1時間かけて手島に着く。広島には何度か行ったことがあるが、手島まで来たのは初めて。
手島では、瀬戸内の基盤岩である花崗岩と、花崗岩マグマの近くで接触変性作用を受けてできたホルンフェルスとの境界が観察できる。熱水変性を受けてタングステン鉱脈が形成されていて、戦時中はタングステンが採掘されていたということ。戦後、輸入が再開されて、採掘は終了した。
もう一つ、手島ではトウガラシの王様といわれる「香川本鷹」が栽培されている。さやの大きさは5cmもあり、鷹の爪の何倍もある。大きいうえに、辛さも鷹の爪の何倍もある。本鷹は生産量が少なく、どの辛さランキングでも発見できなかったのだが、上記ランキング中「三鷹」が本鷹の交配品種であることから、これに近い辛さと思われる。
世界には、まだまだ上がある
トウガラシの栽培で最高の立地条件を備えているのは、瀬戸内海の島々なのです。瀬戸の海は高温で、雨が少なく乾燥しています。これらの島で作るトウガラシにこそ最高の価値があるのです。よい立地条件で栽培されたトウガラシには、辛み成分の主役であるカプサイシンを大量に含んでいるからです。
こうしたことから、昭和３０年ごろには塩飽諸島や荘内半島など、立地に恵まれた地域で盛んに栽培され、アメリカやヨーロッパにまで香川本鷹が輸出されていました。夏場になると、これらの地域では畑一帯が赤いトウガラシで色づいていました。
ところが、社会状況が変化し、外国からの農産物が大量に輸入される時代となり、トウガラシ栽培もその影響を受け、生産農家が激減。現在では、詫間町などほんの数軒で細々と受け継がれ、幻と言われるようになったのです。
2018年03月10日
盆栽の誕生
著者は1977年生まれというから、執筆当時まだ30代。東京藝大博士課程で日本近代美術史を専攻し、専門は茶道史だという。
盆栽の成立が平易に書かれていて読みやすい。また、織田信長から始まり、歴代の著名人の盆栽との関りが面白い。
これまで、なんとなく、盆栽とは長い歴史を持つ日本の伝統文化だと思っていたが、「江戸時代と現代とでは、盆栽の作り方から美意識まで、大きく異なっていた」という指摘は興味深い。現在、我々が思う「盆栽」が成立したのは、思ったより新しく、明治も終わりごろになっての話なのだ。
明治の後半になって国粋主義が高まり、日本の文化が見直され、茶の湯や生け花の権威が高まっていく。この「伝統文化」見直しの中、座敷飾りなどを通じて茶の湯や生け花の要素を取り込み、「伝統文化」としての形式を後追いで整えていったということだ。
現在の盆栽とは、「大自然を縮小して、鉢の中に再現することを目指す」ものだという。なるほど、そういわれてみて、家の中に置きたくなった。
はじめに：盆栽とは何か？・鉢に植えて育てながらも、その樹木の姿かたちに手を加え、年数をかけて鉢の中に一つの景色を生み出していく。・盆栽もまた、自然からそのエッセンスを抽出し、鉢の中に再現することを目指す文化4：織田信長の「盆山」狩り・鉢木「ある容器に植えた小さな木で、冬季には枯れないように家の中に入れて置くもの」・盆山「日本人が、緑色の苔をつけたり、何か小さな木を植え付けたりして、水面に浮かぶ小さな岩の格好につくる、ある種の石や自然木の材」（『邦訳 日葡辞書』土井忠生ほか 原典はイエズス会）61：江戸時代の鉢木の主流は「蛸作り」であり、曲がった枝を見せようというもの。シュリーマンの日記に登場している、蛙の形に仕立てられた松なども、この系譜に入るものだろう。江戸の植木屋は、樹木を曲げて、人間の意志に従わせる技術に長じていた。しかしその美意識は、現在の盆栽が目指す「自然の美」とは方向性の異なる、人工的な造形物だったのである。156：江戸時代後半になると、関西を中心に煎茶趣味の影響を受けた「盆栽」が登場「蛸作り」は「盆栽」へと改作され、鉢も染付から泥物へと移行していく。「盆山」も「石付き盆栽」と呼び変えられ、「盆栽」の枠組みへと吸収されて行ってしまう。このように「盆栽」とは、江戸時代までの園芸文化を下地としながらも、近代になって新しく誕生した文化。
2018年03月04日
鳥井信治郎の奥さんは観音寺出身
サントリー創業者鳥井信治郎は再婚しているらしい。小説では、初婚は子供ももうけたが折り合いが悪くすぐ分かれたという。そして、再婚した相手が、高松の米問屋与志兵衛のところで働いていた観音寺出身の小崎クニ。与志兵衛は米問屋を営む信治郎の本家(兄が継いでいた）の商売仲間で、その縁で、赤玉ポートワインも扱っていた。
信治郎はクニとの間に三男をもうける。長男吉太郎は早世し、二代目社長となったのが次男の佐治敬三(ウイスキー事業進出で倒産の危機に瀕した寿屋に出資した佐治家に養子に出ている)。三代目社長となったのは吉太郎の長男信一郎だったが、社長就任後、急逝する。そして、四代目社長となったのが、４年前まで社長を務めた佐治信忠である。
サントリーが香川に縁のある会社だとは知らなかった。
7：明治32年(1899）2月1日 鳥井商店 鳥井信治郎(20）
72：明治39年（1906）9月1日 寿屋洋酒店に屋号を変更
92：赤玉ポートワイン38銭（米一升10銭）
・日本の葡萄酒の中で一番のシェアを占めている蜂印香竄葡萄酒よりあえて高い値付け
・問屋、商店の利幅も蜂印より大きい
141：大正2年(1913） 合名会社寿屋洋酒店(資本金9000円）
翌年に合資会社に改め、資本金も10万円に。
160：信治郎の走り参拝
・信治郎は神社仏閣があると、必ずそこを訪ねて挨拶し、御布施を惜しみなく献上した
・新年には三が日で20，30の神社仏閣を回った
305：児玉（番頭）の笑顔の裏には、たった二か月半で進駐軍に納入した大量のウイスキーの商いがあった。三日に一度、山崎蒸留所から出荷されるウイスキーの量は半端ではなく、売上も最初の一か月で戦前の寿屋の総売上を楽々と超えていた。
342：昭和55年(1980）サントリーオールドは年間出荷量が1200万ケースを超え、世界洋酒市場でNo.1
343：陰徳「善を為すに、それをあからさまにするは己のための善であり、真の善にあらず」
2018年02月03日
高知市のモーニング
高知と言えば、カツオのたたき
（それもニンニクと塩で
）だろうが、喫茶店のモーニングの充実でも有名らしい。今回は、初めて娘を連れて行ったので、朝食をホテルで食べずに、喫茶店へ出かけてみる。スマホネイティブな娘がサクッと選んだのが、「メフィストフェレス」。昭和39年創業の老舗というから、私とほぼ同い年。同店のモーニングセットがヒットしたことで、他店もモーニングを充実させていったという話もあり、「高知モーニング発祥の店」らしい。
オールドカントリー風と言えばいいのだろうか、店内は広くて開放的。装飾用に並べられた洋書が全部中が空っぽの偽物で、唯一本物だったのが英和辞書だったというのはご愛敬。
注文したのは名物だという「ボリュームモーニング」セット（実は、自分で写真を取り忘れたので、4travelからの拝借・・・冬なので、当然、ホットで頼みました）。これで税別590円は、ゆとりのある朝なら、ホテルで1000円出してバイキングよりかはいいかも。パンにあらかじめマーマレードがたっぷり塗られているのは、好みによると思う。私には多すぎた。
面白いのは、紙ナプキンやスティックシュガーに書かれた「現代企業社」という会社名。喫茶店らしくない社名だ。調べてみると1957年創業、1958年設立の高知県内で喫茶店やレストランを18店舗経営する老舗企業。1960年代にはバーも経営していたらしい。
旧高知工業高校校舎の木材を再利用した「穀物學校」（1999年）、高知大丸内に設けた屋外庭園を伴う「ガーデン食堂 土佐水木」（2002年）、奈半利町にあった国の近代化産業遺産、藤村製糸工場の鉄骨を転用した「農園レストラン トリトン」など、個性的な店舗を展開する。2015年にカゴメが開催した「オムライススタジアム」にはレストラン高知が「南国土佐のオムライス」を出品、日高村の職員も加わって会場で1835食を供食し、準グランプリを獲得した。（Wikipedia）
2017年09月10日
伊吹島はなぜいりこの島になったのか？
讃岐ジオガイド養成講座で、「いりこの聖地」伊吹島へ。率いるのはNHK「ブラタモリ」香川編で案内人として登場した香川大学工学部の長谷川修一教授。何度も行っている伊吹島だが、長谷川先生と行くのは初めて。今回は「ジオガイド養成講座」なので、案内人は地元の受講生である。
今回のお題は、「伊吹島はなぜいりこの島になったのか？」
・香川県では西の端の伊吹島だが、瀬戸内海の真ん中に位置する
・潮流の穏やかな燧灘の漁場の中心に位置する
・潮が早く泥の溜まらない「瀬戸」に対して、「灘」は河川が海に流し込む泥の溜まるところ
・泥が溜まる浅瀬はイリコの原料であるカタクチイワシの産卵場
・伊吹島は1400万年前の火山活動で出来た讃岐岩質安山岩からなる台地状の島で、地下水は無く、稲作はできない
・花崗岩の風化で出来る砂浜がなく、海岸の崖が崩れたわずかな平地にイリコ加工工場がある
・付近の漁場で取れたカタクチイワシは氷を入れて高速艇で直ちに浜野加工場に運び込まれ、熱湯で煮られる
・漁獲から煮沸まで30分であり、この一連の工程を網元が一貫して行うのが伊吹島のイリコが美味しい理由
・煮沸されたカタクチイワシはその後10-20時間かけて乾燥し、1-3日後には専門商社に販売され店頭に並ぶ
意外にも、イリコの名産地となったのは高度成長期以降の話で、それまでは他の瀬戸内の漁港と同じく、鯛、鯵、鯖などと一緒に獲れる鰯にすぎなかったそうだ。江戸時代から、京都まで船で鯛を届けていた。
それが変わるのは、高度成長期に電気と水道が対岸の観音寺市から引かれてから。これで、加工するまでの保存のための氷が作れるようになり、また、加工が乾燥まで機械で一貫して行えるようになった。これで伊吹島のイリコの品質が高まったのである。
その伊吹島のイリコも、昔に比べると生産量は減っている。一つには、高度成長期に船の大型化、魚群探知機の登場で、瀬戸内海一円で乱獲が進んだこと。平成になって一時は1000t前後にまで落ち込んだ生産量は、燧灘を共有する愛媛、対岸の広島とともに資源管理に取り組むことで、近年は2000t弱にまで回復しているということだ（上図）。
2017年08月26日
肉もっそ
今年のホスト役となった「地域づくり研修全国大会」＠三豊市。研修も頑張らなくてはいけないが、地域の食への関心は当然高い。
県外での知名度から言えば、�〇彰瑤Δ匹鵝↓�骨付き鳥、�ｑ果濟┝僉△世蹐Α�初日到着してさっそく昼にうどん屋を目指す人もいたが、到着時間の関係で、翌朝の「朝うどん」に参加した人も多かった。早朝からうどんを食べるのに地元民の方が驚き(笑)。
「骨付き鳥」は丸亀地域発祥のビールのあてなので、三豊では提供せず。「餡餅雑煮」は、季節外れではあるが、懇親会で提供。私自身も、酒席で餡餅雑煮を食べるのは初めて。おまけに、ばら寿司は砂糖＆金時豆入り。どこまでも甘いもの付きの讃岐人である。
二日目に味わっていただいたのが「肉もっそ」。これは私も初めて。三豊市でも、豊中地域で食されていたもので、「やべち」と言われる地域の共同作業（清掃、草刈り、農作業など）の際に、その補給食＆ごちそうとしてつくっていたのが「もっそめし」なのだそうだ。
簡単にいえば、炊き込みご飯のおにぎり。その最高峰で最も贅沢なバージョンが牛肉の入った「肉もっそ」。農業が機械化される高度経済成長期まで、牛は農作業のために各農家で飼われていたので、この大切な労働力を食べる習慣は農村では全くなかった。それだけ特別なご馳走ということになる。
これを商品化したのは、まちづくり推進隊豊中。地域の食材見直しによる活性化活動の一環で行ったということ。調理に関わっているのはまちづくり会員9名で、イベントなどの決められた日に販売している。限定販売のためか、発売以来4年間、いつも完売だそうだ。これはスゴイ
2017年08月20日
ひろめ市場
昨晩は高知でひろめ市場へ。観光客と地元民が入り乱れてのあの雰囲気は楽しい。高知には年に1，2回は行くが、R32で3時間掛かっていた昔と違って、高速で1時間余りで行けるようになり、殆ど日帰り。車なので飲めないのだ。
今回は、ゲームのカスタマーサポート365日を動かしている会社だったので、土曜日に訪問。週末ということで泊まることにして、会社近くのひろめ市場で懇親会。
土曜日ということもあるのだろう、すごい賑わい。席が空くのを待っている人たちが並んでいる。我々はテーブルを予約しておいてくれたので、難なく着席。しかし、ひろめ市場では混雑時は相席が普通ということで、次から次へと「空いているか？」と声を掛けられる。後から来る人が居るので断るのに一苦労。
市場内には70店舗の飲食店や土産物屋がひしめいている。インド料理屋もあったが関連性は不明。もっとわからなかったのはマッサージ屋なのだが、あれはトイレ前の飲食店に不向きの場所を貸したということか。
「友達の友達」的な人も加わり、高知らしく、飲んだ時のオープンさは特筆もの。後から思うと、「あれは何だったのだっけ」となることも多いが（笑）、こういった飲食形態が成り立つのは高知ならではだろう。高松でもひろめ市場をモデルにした屋台村「高松いろは市場」がオープンしたが、1年余りで閉鎖した。高松で、観光客と地元民が入り乱れて飲んでいる姿は想像しにくい。
2017年06月19日
本山寺五重塔 平成大修理「現場見学会」組立編
週末、地元三豊市にある四国霊場第70番札所「本山寺」で行われている、五重塔平成大修理「現場見学会」へ。整備委員会の委員長は地元建築家の多田善昭先生。以前紹介した通り、善通寺の旧陸軍将校の社交場「偕行社」の再生も手がけた方。
丁度1年前に、同「解体編」が行われ、これも押すな押すなの大盛況。約100年前の明治末期に完成した五重塔（八十八か所で4つしかない）を解体しているところが見られるのは今だけなのだから当然だろう。次に解体修理が行われるのは100年以上先になるはずだから文字通りこれが最後。
今回は「組立編」。1年前に解体された五重塔は、傷んでいた部材が補修され、あるいは補強され、現在組立中。1946年の南海大地震にも耐えた五重塔だが、今回、耐震補強もされた。貼りだした屋根を支えるため傷みやすい軒は鋼材で保持して、軒先の下がりを防ぐことにした。
瓦は当時一般的だった葺き土による固定だったが、吹き込んだ雨でかなり流されていて、瓦がずれたりとかなり危険な状態であったらしい。これを今回は、引っかけ桟工法に変更。爪の付いた瓦を使い、釘で固定していく。葺き土を使わないので、その分軽量化されるらしい。
今回の大修理の総工費は4億円。費用の大半は寺のこれまでの蓄財と檀家からの寄進、そして銀行借入によって賄われるという。驚いたことに、公的な支援はどこからも受けていないということ。そうとなれば支援したい。修理のための瓦を奉納した（写真）。
2017年06月11日
SUP体験＠つたじま
今年はいち早く海へ
地元、三豊市にある無人島「大蔦島」で開かれた瀬戸内DAYOUTの最後にかろうじて間に合った。昼までには高瀬に戻っていたのだが、朝5時起き、家を6時に出て東京からの移動だったので、うどんを食べてお昼寝。その後、ロードバイクで仁尾港へ向かう。今回試したかったのはSUP（Stand Up Paddle Surfing）。サーフィンの様なボードにパドルを持って乗り、立ったり座ったりで漕ぐ。カヌーも面白かったが、立って乗れるので視界が広がるという。
3時からの最後のSUP体験に申し込む（1500円）。「初心者は結構落ちます」と驚かされ、携帯はもちろん、メガネも預けて乗船
最初は座って、しばらくして慣れてから立ち漕ぎに挑戦。なんとか落ちずに（自転車に乗る服装のままで水着ではなかったので慎重に）30分ほど漕いで戻ってきた。これは手軽で面白そう。ボードは買えば10-20万円位らしい。
2017年03月13日
丸亀市民球場
土曜日、プロ野球オープン戦「日本ハムｘ楽天」を見に、丸亀市民球場へ。結果は、3-2で日本ハムの勝利であった。楽天フェルナンドと日本ハム森山の本塁打も見れたし、天気も良くて満足。
観客数は6030人と発表された。メインスタンド（3000人）と内野席（2000人）はほぼ満席。外野の芝生に両球団の応援団が陣取る。
丸亀市民球場がオープンしたのは丁度2年前。丸亀高校野球部も使っていた丸亀城内グランドが老朽化して、プロ野球開催も可能な球場として整備された。設計に当たっては、四国アイランドリーグの鍵山CEOもアドバイスし、その結果、観客の快適さに配慮されている。座席のカップホルダー、バックスクリーンの大型LED、BBQスペースがある。
プロ野球を見たのは10年ぶりくらいか。映像や音楽など試合進行に合わせてより工夫されていて飽きさせない。
2017年02月26日
「喫茶王国」香川？
香川県は、うどん県であるとともに「喫茶王国」ではないか。昼休み、うどんを5分でかきこむくせに、その後は喫茶店で30分お茶を飲む。そのせいか、個性的な喫茶店が沢山ある。
中でも、そのユニークさで筆頭ではないかと思っているのが、五色台の麓にある喫茶「麓」（ろく）。場所は高松から五色台トンネルの手前を右に下って行った住宅街の中（亀水町1141-1）。通りすがりでは絶対分からない場所。
どうユニークかというと、自宅がそのまま喫茶店なのだ。自宅併設の喫茶店というのはよくある。裏や二階が自宅になっていて、表がお店。しかし、ここは夫妻が暮らしているご自宅全体がそのままお店。仏間でも寝室でもどこでも好きなところで飲んでくれという鷹揚さ。
そして、ママのコレクションというアンティークや人形が所狭しと並べられている。 写真は、今月並べられているお雛様コレクション。クラッシックカーの上に鎮座している。季節によって変わるから、一体どれだけのコレクションなのだろう?
どう見ても70代には見えない若々しいママが店を開いた（自宅を店にした）のは20年前だという。自家製のパンが美味しい。
営業時間：9-16時 （日曜日定休）
2017年02月24日
クラウドファンディングでインドにかき氷屋さんを開く
高松市にクラウドファンディングで資金調達して、インドでかき氷屋さんを開いた小学生がいる。七海ちゃん9歳。その名も、Nana's Cafe。
先週末その経緯と結果報告が本人（とお母さん）からあったので聞いていた。クラウドファンディングを担当したFAAVO香川からもその仕組みについて説明があった。
その七ちゃん、インドにご両親の知り合いがいてインドの話を聞く。
・不衛生な水で病気になる人が多い
・学校に行けない子供たちがいる
その解決に、
・井戸を掘ろう
・学校を作ろう
と思い立つ。
資金はどうするか？両親が会社をやっている七ちゃんは、お店をやって稼ごうと考える。暑いインドだから（イメージ）かき氷屋はどうだろう？日本のかき氷は独特で、現地にはないと聞いた。
では、店を開く資金は・・・クラウドファンディング
まぁ、これを思いついたのはお母さんだと思うが（笑）。お手伝いをしたり、おやつを我慢して小遣いを貯めたりでテストマーケティングを実施。実行能力の高さもアピールして、見事、100万円の目標に対し147万円を集めた。
昨年はブッダガヤで実施。来月の春休みは、西海岸のゴアで行うそう。
「147万円集まるなら、それを直接目的のために使ったらいい」という意見もあるだろう。しかし、この「日本のかき氷」がインドに定着して、それが社会問題解決のために継続的に使われるとすれば素晴らしい。現在は隔週で現地スタッフが販売しているそうだ。
まぁ、それを差し置いても（社会起業家）教育として興味深い。七ちゃんだけでなく、賛同する香川県の小学生でチームを結成して行ったら面白そう。
帰国後の、七ちゃんの感想。
「子供の時に、仕事をするんじゃなく学校に行けること。そして、日本に生まれたこと。本当にすごいこと
」 
