2025年04月26日

デカダンス文学の逸品

眠れる美女(新潮文庫)
川端康成
新潮社
2013-06-14



三島由紀夫が「デカダンス文学の逸品」と評論していたので、読んでみた。恥ずかしながら、川端康成は『雪国』を一部読んだだけで(教科書?)、読んだことがなかった。

14:眠らされ通しで目覚めのない娘のそばに一夜横たわろうとする老人ほどみにくいものがあろうか。江口はその老いのみにくさの極みをもとめて、この家に来たのではなかったか。

主人公の江口は67歳の「老人」。今なら初老ということだろうが、本書が月刊『新潮』に掲載された昭和35,6年の平均寿命は男性65歳(女性70歳)だから、当時の認識では紛れもない老人。そして、これを執筆した川端康成は61歳であった。

19:江口はものずきにそそられて、この秘密の家にはじめて迷いついたのだけれども、もっと老い衰えた年よりどもは、もっと強いよろこびとかなしみとでこの家に通うのだろうかと思われた。

「秘密の家」では、10代後半の少女が眠っていて、そこに老人が一晩添い寝する。少女は睡眠薬で眠らされているらしく、触っても起きない。少女たちは安全な?老人相手に寝ているだけでいい楽な仕事だと思っているらしい。

28:老人は人間の女の乳房の形だけがあらゆる動物のうちで、長い歴史を経るうちに、なぜ美しい形になってきたのだろうかと、あらぬことを考えたりした。女の乳房を美しくしてきたことは、人間の歴史のかがやかしい栄光ではないのだろうか。

川端康成が日本人初のノーベル文学賞を受賞するのは1968年。本書が単行本として出版された翌年だ。単行本には三島由紀夫が「解説」を書いている。

この作品を文句なしに傑作と呼んでいる人は、私の他には、私の知るかぎり一人いる。それはエドワード・サイデンスティッカー氏である。およそ氏と私の文学観は夏と冬ほどちがっているのに、会うたびにいつもこの作品の話が出て、この作品の話になると、それまで喧嘩をしていたわれわれが握手をすることになる。

サイデンスティッカーは、日本文学者であり翻訳家。川端康成の他、三島由紀夫や谷崎潤一郎などの作品を英訳し、世界に広めた。川端康成がノーベル文学賞を受賞した時は、「ノーベル賞の半分は、サイデンスティッカー教授のものだ」として賞金の半分を渡している。

『眠れる美女』は、形式的完成美を保ちつつ、熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品である。デカダン気取りの大正文学など遠く及ばぬ真の頽廃がこの作品には横溢している。

石田衣良も「川端康成の最高傑作」としているのは知らなかった。




shikoku88 at 17:40コメント(0) |  | 映画・TV 

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