2021年06月13日
ファッション業界の栄枯盛衰
黒木亮の最新作にして、岩波書店刊。黒木亮の小説が岩波書店から出されたことはないのではないか?
物語は戦後の焼け野原から始まり、主人公・田谷が長年ワンマン社長として君臨した「オリエント・レディ」が同業の「KANSAIインターナショナル」と合併するも衰退していくところで終わる。オリエント・レディは東京スタイルで、田谷はその中興の祖・高野義雄がモデルだ。
面白いのは、主人公はフィクションでも、その他の登場団体や人物はほとんど実名であること。戦後の北千住でスタートした洋品店・羊華堂(現イトーヨーカドー)に主人公は洋服を納品し、主人の伊藤正敏にかわいがられる。
そして、後にライバルとなる三陽商会は進駐軍のレインコートを受注して、いち早く飛躍する。まだ洋服はオーダーするのが当たり前だった時代。オンワード樫山は、大金をはたいて米国から蒸気プレスを輸入し、既製服の大量生産に先鞭をつける。
50:北千住は、銀座や上野から見ると田舎だが、菓子、履物、雑貨などの町工場が集まり、国鉄常磐線、東武伊勢崎線で郊外の農村ともつながっているので、大きな消費地だ。夜になっても客足が絶えないので、羊華堂は朝9時に開店し、夜9時、10時まで店を開けている。53:昭和18年に東京・板橋区で創業し、銀座に本社を構える三陽商会は、昭和24年に第一通商(現・三井物産)を介して進駐軍から1万着のレインコートを受注したことをきっかけに飛躍したメーカーだ。同社はその年、吉田千代乃というデザイナーを起用し、地味なレインコートをお洒落着に変えた。61:紳士服業界の大手、オンワード樫山は、昭和25年に800万円という大金をはたいて米国から蒸気プレスを輸入した。洋服を上下から挟んで一気にプレスするので、着崩れしない均一の品質を実現し、かつ生産スピードを数倍にし、既製服の大量生産に先鞭をつけた。

