2020年08月09日

ウイルスとの共生

感染症と文明 共生への道 (岩波新書)
山本 太郎
岩波書店
2020-05-25


「病原体の根絶は、マグマを溜め込んだ地殻が次に起こる爆発の瞬間を待つように、将来起こるであろう大きな悲劇の序章を準備するにすぎない。根絶は根本的な解決策とはなりえない。病原体との共生が必要だ」というのが、著者(長崎大学熱帯医学研究所教授)の結論。

「長い目で見たとき、強毒ウイルスは、自らの生存を支える宿主集団を巻き込みながら消えてゆき、潜伏期間が長く、感染効率と致死性の低い弱毒ウイルスが優位となる。このようにして、ウイルスとヒトとの間にある種の安定した関係が築かれていく」だけでなく、「ウイルスのように宿主の存在なしには生存できない病原体への選択圧は、最終的には宿主の環境へ適応度を高める方向に作用する」(ジョン・メイナード=スミス)という。

つまり、ウイルスはヒトが環境適応度を高める手助けをするので、ヒトは積極的にウイルスを取り入れているという見方もできるそうだ。感染症を無くそうという努力は、「川に堤防を築くようなもの」だという。

「大惨事の保全」(歴史家ウイリアム・マクニール)
人類の皮肉な努力としてマクニールは、アメリカ陸軍工兵団が挑んだミシシッピ川制圧の歴史を挙げる。ミシシッピ川は春になると氾濫し、流域は洪水に襲われた。1930年代に入り、アメリカ陸軍工兵団は堤防を築き始め、ミシシッピ川の封じ込めに乗り出した。おかげで毎年の洪水はやんだ。しかし川底には年々、沈泥が蓄積し、堤防もそれにつれて高く鳴っていった。堤防の嵩上げは続いている。しかし、この川が地上100mを流れるようなことにはならない。いずれ破綻をきたす。そのとき、堤防建設以前に彼の地を襲っていた例年の洪水など及びもつかないような、途方もない被害が起こる。

129:ポリオ・ワクチン
 1954年には、ジョナス・ソークが開発した不活化ポリオ・ワクチンの大規模野外実験が始まった。体内に入っても増殖しないため、安全性が高いが、免疫の持続時間が短いという欠点がある。不活化ワクチンは、通常、数回の接種が必要になる。
 1950年代後半には、アルバート・セービンによって、弱毒性ワクチンが開発された。これによって、世界標準ワクチンが確立した。
 広範な大衆運動によるワクチンの開発、それによるポリオの制圧といった成功体験は、その後のアメリカ社会の医療・医学に対する考え方に大きな影響を与えた。現在でも、インフルエンザに対するアメリカの対応はワクチンが主体となっている。1960年代半ば以降の天然痘根絶計画に対するアメリカの貢献の背景にも、こうしたポリオワクチンによる成功体験があるような気がする。

190:長い目で見たとき、強毒ウイルスは、自らの生存を支える宿主集団を巻き込みながら消えてゆき、潜伏期間が長く、感染効率と致死性の低い弱毒ウイルスが優位となる。このようにして、ウイルスとヒトとの間にある種の安定した関係が築かれていく。

191:病原体とヒトとの共進化
ウイルスのように宿主の存在なしには生存できない病原体への選択圧は、最終的には宿主の環境へ適応度を高める方向に作用する。(ジョン・メイナード=スミス)

194:感染症のない社会を作ろうとする努力は、努力すればするほど、破壊的な悲劇の幕開けを準備することになる。大惨事を保全しないためには、「共生」の考え方が必用。


shikoku88 at 20:53コメント(0) |  | 提言 

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