2020年05月22日
絶妙なバランスの必要性について
本書にこれまで日本の話はほとんど出てこない。やはり、世界初のイノベーションにはあまり関わってないかと落胆していたら、最終章で突然登場

それも、「精密さと不精密さという二つの概念を同時に大切にしながら、社会生活のあらゆるレベルで優れた能力を発揮できる人たち」がいるとしたら、それは日本だろうとえらいもち上げようなのだ。
具体的には、1969年、世界初のクオーツ式電子腕時計Seiko Astronを発売して、「クオーツ革命」を主導したセイコーの話が出てくる。それまでは職人が時間と手間をかけて作らなければ達成できなかった精度を、セイコーの開発した水晶発振式時計は難なく凌駕した。しかも、安価に。
それから5年とたたないうちにスイスの腕時計産業は壊滅寸前までいく。セイコーは特許を取れなかったので(クオーツ時計自体は以前からあったが、それは大型で高価な研究室用だった)、スイスは巻き返しを図る。1983年発売のSwatchはファッショナブルで、世界中でブームとなる。
そして、携帯電話が普及した1990年代以降、高級機械式時計が復権する。携帯電話は常に基地局と通信して時間の補正をしている。GPS搭載なら、GPS電波に時刻情報が乗っているので、ナノ秒単位で補正している。
時間の正確さという意味ではこれ以上正確な時間はないので、携帯電話を持っていれば腕時計は必要ない。では、時間を知る以外に何のために腕時計を持つのか?そこで改めて認識されたのが、時計の持つファッション性やステータスということなのだろう。携帯電話の普及と機械式時計の復権という一見矛盾する動きは、関連していると思うのだ。
著者のサイモンは、グランドセイコーを製造する雫石工場に向かう。グランドセイコーは1960年にセイコーの最上級モデルとして登場する。1969年にセイコーが世界初のクオーツ腕時計を売り出した後に、グランドセイコーの売上は落ち込み、1978年製造が打ち切られる。
その後80年代半ばからグランドセイコーの復活が計画され、80年代後半にはクオーツ版が登場した。しかし、クオーツ方式では自社を含めた他の時計と差別化できず、ついに機械式を復活させることになる。第2世代の機械式グランドセイコーが登場したのは1998年のことで、78年の製造停止から実に20年経っていた。
382:精密さと不精密さという二つの概念を同時に大切にしながら、社会生活のあらゆるレベルで優れた能力を発揮できる人たち日本は古来から今日に至るまで、厳格なまでに完璧さを重んじてきた。389:二面性言葉にはされないものの、日本人の精神の奥深くには二つの対立する考え方が潜んでいるようだ。一方では、完璧を求める現代ならではの必要性を理解しつつも、他方では、断ち切りがたい愛着を不完全なものに対して抱いている。390:1969「クオーツ革命」世界初のクオーツ式電子腕時計Seiko Astronスイスには約1600軒の腕時計工房があった。1970年代が終わる頃にはその数はわずか600ほどに減り、この仕事に従事する人の数も1/4になっていた。
shikoku88 at 18:48│Comments(0)│本
