2020年05月13日

一家に一丁の銃を、どんな小屋にも時計を(公差=0.00001")

精密への果てなき道 シリンダーからナノメートルEUVチップへ
サイモン ウィンチェスター
早川書房
2019-08-20



それまでの工房とは違い、近代工場での大量生産に欠かせない考え方とは何か?

それは、「標準化」。部品が標準化されることで、初めて大量生産が可能になる。そして、標準化されるということは、各部品が寸分たがわず精密に作られていなければならない。

意外なことに?「標準化」の発想が初めて実現したのは革命直前のパリだったという。それまでの銃はすべて鉄砲鍛冶によって作られていた。一台ずつの手作りなので、部品は銃ごとに微妙に違った。従って、戦場で故障しても、部品を交換して直すわけにいかない。

そこで、戦場の兵士たちを助けたいと立ち上がったのが鉄砲鍛冶のオレノ・ブランで、鉄砲鍛冶仲間は鉄砲の値段が下がると大反対したという。すでに大砲で標準化方式を実現していたグリボーヴァルの影響を受けて、大砲よりはるかに部品点数が多く精密なマスケット銃の標準化に挑戦する。

ブランはまず一個のマスターモデル(原型)を完璧に作り、すべての仕様を細かく書き記した。公差は約0.02mmである。それから、製造される発火装置が大元のマスターモデルと寸分たがわぬようにするため、様々な測定器やジグを製作した。そうやって製作された部品は非の打ち所なく嵌め合わされ、組みあがった発火装置はどんな銃にでも問題なく装着できた。

1785年にはそれを役人や将校に披露するのだが、その中に一人のアメリカ人も招待されていた。独立して間もないアメリカ合衆国の駐仏公使トマス・ジェファーソンである。ジェファーソンは初めて目撃した「互換性」に感激して、当時の外務長官(国務長官の前身)だったジョン・ケイに長い手紙を書き送っている。

それがきっかけで、アメリカ合衆国はマスケット銃の大量生産に乗り出すことになるのだが、本家のフランスでは、それから4年で「標準化」は終わってしまう。フランス革命が起こり、ブランの工房は暴徒に荒らされて略奪されるのだ。労働者階級に支持された急進派は機械化に反発し、のちには狂信的なまでに極端な憎悪へと変わっていく。

こうして、フランスの産業革命はイギリスに100年遅れることになり、それ以降二度と国力でイギリスや、やがては新興国ドイツに敵わなくなる。

117:1785年パリ
銃の部品を互換性のあるものにしようという発想が、初めて適切な形をとった。そのためには精密な製造工程が必要であり、それを実現すべしと初めて命が下った。

124:1789年、革命、グリボーヴァルの死、恐怖政治
ヴァンセンヌ城は急襲を受け、ブランの工房は暴徒に荒らされて略奪された。自分を守ってくれる後援者も突如として消えた。まもなく、急進派のあいだに機械化への反感が急速に膨れ上がり、のちには狂信的なまでに極端な憎悪へと変わっていく。機械化や効率化の技術は中産階級を利するだけであり、職人や細工師の誠実な仕事を害するものだというのだ。フランスでは互換部品という発想が衰えていき、19世紀が幕を開けることには息絶えていた。


shikoku88 at 18:52コメント(0) |  | 経済 

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