2019年04月01日
「新素材」が歴史を動かす
5年前に出た『炭素文明論』が良かったので、新刊を読んでみる。
6:レコードは当初、カイガラムシの分泌液を固めた「シェラック」という樹脂が用いられていた。しかし1950年代に入り、ポリ塩化ビニル(塩ビ)製のレコードが登場し、一挙にポピュラー音楽という巨大市場が形成された。もろく摩耗しやすいシェラックに比べ、塩ビは丈夫で軽く、保存性にも優れ、量産も可能だ。この素晴らしい材料がなければ、音楽がここまで多くの人の手に届くことはなかっただろう。
言われてみれば、その通り。レコードが発明されて初めて音楽の「二次利用」が可能になったが、当時のレコードは高価で扱いにくく、アーティストがレコードの印税で稼ぐということはなかった。塩ビが発明されたことで、レコードは大量生産が可能になり、それによって巨大なポピュラー音楽市場が形成されたのだ。
記憶媒体の進展は音楽の内容そのもの、あるいは音楽家という職業の在り方をも大きく変えてしまったと言える。200年、300年前にも、素晴らしい歌い手や演奏家はたくさんいたが、現代にまで名を残しているのはモーツァルトやベートーベンといった作曲家たちだ。彼らは紙の楽譜によって、自分の作品を遠い国や後世にまで伝えられるのに対し、演奏はいかに素晴らしくともその場限りであり、居合わせた聴衆以外にその感動を伝える手段はなかった。
時代が求める材料の登場こそは、世に大きな変化を起こすのである。
