2017年12月05日

アムール句会



圧倒された。ユダヤ人強制収容所での体験を描いた『夜と霧』(V. E.フランクル)のシベリア強制収容所版ともいえる。フランクルは「それでも人生にイエスと言う」。本書の主人公の山本幡男は極限状態の強制収容所で、仲間たちに俳句を教え、いつか帰国できると励まし続けた。フランクルは生き残ったが、山本は力尽き病を得て10年間抑留されたのちに病死する。

死期が近いことを認めた仲間に勧められ、山本は長大な遺書を残す。それはノート15ページ、4500字にも及ぶものだった。しかし、収容所では文章を保存することがスパイ行為とみなされ、厳禁されていた。見つかれば没収されるし、収容所内で隠し通せても、帰国時にはより厳重な持ち物検査があり、見つかれば帰国許可は取り消され、収容所に逆戻りになる。

山本を慕う仲間たちがとった方法は、一字一句「記憶する」ことだった。親しかったものの中から(ソ連は密告を奨励し、俘虜仲間にはソ連側スパイもいた)、若手、記憶力がよいものが選ばれ、手分けして記憶することにしたのだ。

山本のいた強制収容所は「戦犯」達が収容され、最後まで抑留が続いた。帰国できたのは終戦から12年後だ。山本の仲間たちは2年間、毎日、遺書を忘れないように記憶を続けた。そうして、山本の遺書は遺族に届けられた。

山本が収容所内で開いていた句会は、「アムール句会」と呼ばれた。

「ぼくたちはみんなで帰国するのです。その日まで美しい日本語を忘れぬようにしたい」

shikoku88 at 19:02│Comments(0) | 美術館・博物館

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