2017年11月05日
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」
物語は下巻に入って、急展開を見せる。
「姉はおかしな巻貝を作り続け、母は祖母が死んですぐに再婚し、唯一まともだと思っていた父は出家するなどと言い出す。この家族は、一体なんなんだ!」
そして、売れっ子のライターとして仕事も順調、美人の恋人に困ることがなかった主人公は30歳を過ぎて薄毛になったのをきっかけに出不精になり、仕事も暗転する
行き詰った歩をよそに、変わり者の姉は知らぬ間に米国で結婚していた。そして、明かされる、両親の離婚の事情。
そして、歩は小説を書き始める。
下17:恐らく既婚の恋人と別れ、ふてくされた母と、二十歳を過ぎてまた、部屋に閉じこもるようになった姉との三人暮らしは、われ関せずを貫くことで生きてきた僕でも、さすがに揺すぶられざるを得ない状況だった。僕の唯一の光明は須玖だった。下63:それにしても、父の忍耐力と懐の深さには、本当に恐れ入る。厄介な長女を引き受け、分かれた妻とその家族を援助し、ほとんど関係がなくなった親戚の借金まで共に返済、そして長男を、東京の私立大学に行かせているのだから。下109:祖母は、僕の人生の中で初めて「死んだ人」だった。僕にとって死は、テレビの中や、どこかよその家で起こることだった。鴻上の姉ちゃんが自殺したという話を聞いたときも、僕はだから、鴻上の体験に寄り添うことが出来なかった。その事実に、ただ驚いていた。でも、祖母の遺体、まるっきり死んでいる死体を前にして初めて、死が僕の手の届く場所に突きつけられた。皆死ぬんだ。下128:姉はおかしな巻貝を作り続け、母は祖母が死んですぐに再婚し、唯一まともだと思っていた父は出家するなどと言い出す。この家族は、一体なんなんだ!下296:母は、父と幸せになりたかったのだ。こんなに悲しいすれ違いはなかった。そして、こんなに悲しい皮肉はなかった。「絶対に幸せになる」と言った母は、ちっとも幸せじゃなかった。「幸せにならないでおこう」と思った父は、ずっと幸せだった。下350:小説の素晴らしさは、ここにあった。何かにとらわれていた自身の輪郭を、一度徹底的に解体すること、ぶち壊すこと。僕はそのときただ読む人になり、僕は僕でなくなった。そして読み終わる頃には、僕は僕をいちから作った。僕が何を美しいと思い、何に涙を流し、何を忌み、何を尊いと思うのかを、いちから考え直すことが出来た。

