2016年03月09日
台湾民主共和国
丸谷才一は旧仮名遣いだったり小難しいイメージで敬遠してきたのだけど、先日のエッセイ集が面白かったので、30年前の代表作を読んでみる。やはり、小難しい。

小説をあまり読まない私にはよくわからないが、これが「純文学」らしい。それでいてテーマは「国家」である。
話は、「台湾民主共和国」の実現を目指す在日台湾人組織(洪大統領)と、その友人で50代の画商の主人公(梨田)、そしてその20歳年下で未亡人(朝子)の恋人を軸に展開していく。
時代は1970年代で台湾にはまだ戒厳令が敷かれていた。中国大陸の共産党との戦いは続いていたのである。戒厳令が解かれたのは小説が発表された1982年より後の1987年だ。中華人民共和国の民主化(というより資本主義化)は進んでいるように思われたが、この後天安門事件が起こる。
「台湾独立運動」というのは本当にあったそうで、当初「独立」の意味は、「台湾人が、中国大陸からやってきて占領した国民党独裁政権から独立する」という意味だ。京大卒業生である李登輝前総統は独立派の精神的指導者として有名。作家の邱永漢も若いころは運動に関わっていたらしい。1996年の直接選挙による民主化以降は、「台湾を独立した国家として認めさせる」運動に変わっている。

26:「台湾人が台湾を統治する、台湾人の台湾にするといふ、ただそれだけのことにすぎません。しかも本省人、つまり台湾本来の住民は、全住民の9割を占めるのでありますから、これは別に改めてそのことの妥当を主張する必要もない、当然至極な話なのでありますが、不幸にして今日の台湾は、ご承知の通り、わづか一割の外省人、つまり第二次世界大戦後に渡ってきた中国人によって統治されている。」(洪大統領)84:「やはり違うでしょうね。これもかなり受売りの気味があるんですが、たとへばイギリスの国家なら『ゴッド・セイヴ・ザ・キング』を歌うことで、人民の意思で出来上がった近代国家の君主とキリスト教の守との関係を歌っているでしょう。むづかしく言えばね。それから『マルセーエイーズ』なら、フランス革命を記念する態度がはっきりある。そういふ政治不理念的なものが『君が代』にはないんですね。イデオロギーが何もない。国家がどういふものなのかといふ気持ちがちつともなくて、村の御祝儀とか、お前さん長生きしてねとか、そんなくらいの気持ちしかない。」(梨田)
236:「明治維新といふ大事業を記念する精神がこんなにきれいさっぱり欠落しているのは、われわれ台湾人にはじつに不可解なことなので、いろいろと考えてみたのだが、その結果こういうことが分かった。これはおそらくペルリの来航によってアメリカから圧力をかけられ、やむを得ず藩の連合体としての古い日本をこはし、近代国家としての日本を作ったといういきさつを、みんなが恥辱に思っているせいではなかろうか」(劉)
