2014年12月05日
クライマーズハイ
あの夏は確か、東京で就職活動の後内定をもらい、安心して最後の夏休みを楽しもうとバイクで四国まで戻って直ぐだった。単一の飛行機事故としては今も世界最大の犠牲者を生んだ1985年の日航ジャンボ機墜落。その事故を軸に展開されるスゴイ小説。
日航機の墜落事故を報道する地元新聞社の一週間を描く「マスコミとは何か」、小さな地方新聞社でもある社内での「派閥抗争」、「親子の葛藤」、そして「登山」が織り糸のように絡んでいるのだけど、無駄がない。文章も簡潔で、なるほど、元新聞記者なのだと思わせる。
31:「こんな山を登った」という話は、事件記者が得意げに語る「こんな事件を踏んだ」によく似ている。登った山や担当した事件の中身と数が、その人間の金看板となり、発言力の大きさとなる。所詮はどちらも自慢話でしかない。ただ一点違うのは、山は仕事ではなく純然たる趣味であることだ。
63:御巣鷹山――。
悠木は、その猛々しく気高い山の名に心を揺さぶられた。
ゆうべから一度も浮上したことのない山だった。なのに、そうなのだと言われてみれば、名前が挙がったどの山よりも、歴史的な事故現場として名を刻むにふさわしい名前の山だった。
102:若い自衛官は仁王立ちしていた。
両手でしっかりと、小さな女の子を抱きかかえていた。赤い、トンボの首飾り。青い、水玉のワンピース。小麦色の、細い右手が、だらりと垂れさがっていた。
339:「ひょっとしたらこれがこの世で最後の会話になる。無意識にそう思っているからですよ。山って、そういう場所ですから」
462:生まれてから死ぬまで懸命に走り続ける。転んでも、傷ついても、たとえ敗北を喫しようとも、また立ち上がりつ走り続ける。人の幸せとは、案外そんな道々出会うものではないだろうか。クライマーズ・ハイ。一心に上を見上げ、わき目も振らずにただひたすら登り続ける。
