2014年10月13日
BT'63
「10倍返し」以来、池井戸潤にはまってしまい、次から次へと読んでいる。今回のは、うちの社会人学生から薦められた初期(2003)の本。
この作品は、現在に生きるウツで会社を辞め離婚した男が、BT21という名のボンネットトラックを媒体に1963年に生きる父親の中に入ってしまうという話。映画Back to the Futureではデロリアンがタイムマシンだったが、こちらはBT21のカギを握ると昔に戻る。現在と過去を行き来しながら話は進む。
父親はまだ独身で、運送会社で経理を担当している。社長は愛人にうつつをぬかし、勤め先の運送会社は危機的状況にある。世は高度成長でどんどん変わろうとしているが、他方で、戦後の「闇」があちこちに残っている。愛車はスバル360。
うち父の最初の自家用車もスバル360だった。庭に停めたスバル360のハンドルにつかまって運転席に立つ小さな私の写真が残っている。父に連れられて神戸の地下道を通ると、そこにはよく傷痍軍人が物乞いをしていた。薄暗い中、包帯を巻いた姿が怖くて、父を盾に避けて通った。
主人公の男は、寡黙な父親が死ぬまで話らしい話をしたことがなかった。真面目なだけが取り柄と思っていた「つまらない」男が、会社の立て直しに獅子奮迅の働きをするが社員の起こした事件に巻き込まれ、とん挫する。不遇の女性に恋をする。そんな父親の本当の姿を見て、自分にも自信を取り戻す。
30数年前に死んだ父と、オトナの話をしたくなった。
上172:「進化の歴史を考えてみろよ。何世代にも亘って環境に適応する形に変化するのは、前の世代の経験が情報として次世代に組み込まれるからだろう。だったら記憶という、よりリアルなものが次世代に伝わっておかしくないんじゃないか」
上299:銀行には将来を評価する能力がない、とも相馬はいった。銀行は融資先を常に過去の業績でしか評価できない。それなのに融資する金の使い道は常に未来にある。そこに銀行融資の矛盾があるのだ、と。
