2024年06月
2024年06月30日
村上龍・芥川賞受賞のナンセンス
同じく、単行本未収録作品から、「村上龍・芥川賞受賞のナンセンス」。村上龍のデビュー作にして芥川賞受賞作の『限りなく透明に近いブルー』の批評。
江藤は読後感を、「限りなくもどかしくとりとめない感じ」と書いてる。ある女性ジャーナリストは「エンドレス・テープを聴いているよう」と評したと聞いて、それを面白いという。「麻薬患者の独白を、エンドレス・テープで聴いているよう」といえば、さらに正確で、これは「他人のいない世界のおしゃべりの自動記録」だという。
本来、文学作品という「表現になるには素材超える視点がいる」はずだが、
江藤は読後感を、「限りなくもどかしくとりとめない感じ」と書いてる。ある女性ジャーナリストは「エンドレス・テープを聴いているよう」と評したと聞いて、それを面白いという。「麻薬患者の独白を、エンドレス・テープで聴いているよう」といえば、さらに正確で、これは「他人のいない世界のおしゃべりの自動記録」だという。
本来、文学作品という「表現になるには素材超える視点がいる」はずだが、
64：村上龍氏の作品は、サブ・カルチャーの「反映」にすぎず、その「表現」にはなっていない。
「極度にナルシスチックな小説」という点では、三島由紀夫も同じだが、「三島はナルシズムを普遍化する努力をしたが、村上氏は努力せずに居直っている」。当時も、やはり若くして芥川賞を受賞した『太陽の季節』と比較されたらしい。
66：『太陽の季節』が持ちえた普遍性ほとんど古典的な青春小説で、一時代のトータル・カルチャーの表現。
67：選考委員会の自信喪失従来、芥川賞は、新しい作品を全体文化＝トータル・カルチャーの一部に繰り入れるという役割⇔今度は、トータル・カルチャーと関わり合いを持つことを、少なくとも文学的に拒否している作品に与えられた。
2024年06月29日
「1960年代を送る」江頭淳
1960年代生まれなので、自分の生れた時代がどんな時代だったのか、両親はどんな時代を生きていたのかに興味がある。
本書は、江藤淳没後20年にいわば追悼本として出た本。その中に、単行本未収録作品コレクションとして「1960年代を送る」というのがあった。
57：きわめて政治的な10年間。岸内閣の下における日米安保条約の改定にはじまり、佐藤内閣の下での沖縄返還交渉の妥結に終わった。
58：「われらのうちなるアメリカ」をどうするかという問題について、文学者がその内面を外部の政治運動に直結させて表現しようとする衝動にかられた。
59：経済成長もまた「外国の支配下に委ねられた民族」の「憤激」のひとつの表現
60年代の日本人は、いわば「バビロンの虜囚」の状態を続けながら、フェニキアの繁栄を味わっていたようなものであった。フェニキアの繁栄であることによってここには神が不在であり、「バビロンの虜囚」であることによってここには富の所有感が欠落している。
60：60年代の文学的事件は、川端康成のノーベル文学賞受賞
しかしこれは60年代の日本文学にあたえられた賞ではなく、それまでの日本文学に与えられた賞である。新進批評家川嶋至氏によれば、川端氏の作品は「雪国」をもって頂点とし、戦後の諸作はそれに及ばないという。
2024年06月28日
2024年06月27日
ロンドンの熊楠
アメリカの大学で過ごしたのち、ロンドンに渡った熊楠。マルクス同様、大英博物館に入り浸っていたことはよく知られている。
ロンドンに渡った翌年の1893年。熊楠は、科学系学術誌Natureに「東洋の星座」で華々しくデビューする。その後も英文論文を投稿し続け、大英博物館で東洋美術の仕事を手伝うことになる。しかし、次第に東洋人差別に耐えられなくなり、帰国する。日本では神社合祀運動が進んでいた。134：1892NY→Liverpool→London25歳。1900年33歳のときまで8年間ロンドン滞在。大英博物館の充実した研究環境を十二分に活用。
これは、全国津々浦々、数限りない神社を、明治政府の国教として、政府の統制下で整理統合しようとするものだった。151：神社合祀反対運動「ロンドンは世界一の都だけれど、汽車で一時間も行けば、有名なエッピングの森などがある。ここには巨木が天空を支えているようにそびえ立ち、昼間でも暗く、古い教会はツタに覆われている。来訪者は秋の日の晩鐘に悲哀を感じ、清らかな水が深く湛えられていて、浮き草がよるべもない人の世の定めを示している。（中略）ロンドンのホコリだらけの空気に汚れきった自分の内臓を吐き出して、洗い終わってまた飲み込んだような気持がした」
つまり、熊楠は、各地の神社が、ともすれば、根こそぎ開拓して農地にしようとする人間の欲望に歯止めをかけ、多様な自然環境を守ったと考えた。154：英国科学振興会「日本のタブーシステム」日本の神道はその全体が禁忌、つまりタブーの集合。そのことが多彩な文化を育むのに役立った。「遠い祖先の時代から祀られてきた神社や森、川、山々、岩屋などを心のよりどころとすることは、東洋でも類をみない繊細な文字文化が生み出される上で、強い方向づけとなった」
155：エコロジー「生態学」神社林を伐ることによって引き起こされる深刻な環境破壊について論じる。
ちょうど同じ時期、イギリスでポターがナショナル・トラスト運動を始めた。湖水地方に引っ越したポターは、「ピーター・ラビット」の印税が入るたびに、自然環境を保全することを目的として近隣の不動産を買い足していった。1943年にポターが亡くなった時、遺言に従って、彼女の16㎢の土地と14の農場がナショナル・トラストに寄付された。
2024年06月25日
中退そして渡米
熊楠が渡米したのは、19世紀の終わり。当時のアメリカ人の感覚は、「アジア人は鉄道敷設や農場で働く安い労働者」。米国でのアジア系差別に直面し、「東洋人のために気を吐くのだ」と熊楠が憤慨したのもうなづける。
その熊楠が学んだのは、ミシガン大学。国際法の権威であったJ.B.エンジェル教授が学長を務めており、不平等条約改正のために必要な国際法の勉強のため当時すでに20人ほど、後には30〜40人もの日本人留学生が学ぶ当時としては日本人留学生の多い米大学であった。
67：東京大学予備門中退
第数で不合格、落第。中退。
1886年の暮れに19歳で横浜を出航し、アメリカに。そして33歳で英国から帰国するまで、14年間にも渡る長い海外生活。
105：ミシガン大学博物館
アナーバー滞在中の熊楠さんは、独学でさまざまな西洋の学問をきわめようとする。
2024年06月24日
冒険と学問のマンダラへ
幼い頃から和歌山の森と図鑑に遊び、アメリカでの学生生活やキューバでの冒険旅行後に渡英。大英博物館に通いつめ、帰国後は粘菌などの研究や、故郷の森の保護運動で知られる南方熊楠。
和歌山と言われると、今では田舎のイメージだが、「江戸時代には全国で8番目の大都市」というのに驚き。徳川御三家と言えば、水戸に尾張に紀州。親藩の中でも最高位とされる大藩を置いたのだから、それだけ地政学的にも重要だったことがうかがえる。「徳川」の姓と「三つ葉葵」の家紋使用を許されたのは御三家だけだ。
江戸時代の経済の中心は大坂で、政治の中心は江戸。その二カ所をつなぐ物流を担うのは船であり、紀州はその要衝にあった。さらに、現在でも使われるたまり醬油は紀州発祥で、それが、黒潮に乗って房総半島にまで漁に出ていた紀州の漁民によって銚子に伝わる。大消費地である江戸に川を下るだけで醤油を運べる野田にやがて生産の中心は移っていく。
2：神童クマグス
江戸時代の経済の中心は大坂で、政治の中心は江戸。その二カ所をつなぐ物流を担うのは船であり、紀州はその要衝にあった。さらに、現在でも使われるたまり醬油は紀州発祥で、それが、黒潮に乗って房総半島にまで漁に出ていた紀州の漁民によって銚子に伝わる。大消費地である江戸に川を下るだけで醤油を運べる野田にやがて生産の中心は移っていく。
2：神童クマグス
慶応3年（1867）生まれ。紀州藩の和歌山城下の金物屋。明治維新の前年。
江戸時代には全国で8番目の大都市だった和歌山城下。
7：東洋と西洋の異なる二つのものの考え方
青年期までは漢詩や俳句に親しんでいたものの、大学では英文学を専攻せざるを得ず、東洋と西洋の考え方のちがいに悩み続けた夏目漱石（熊楠さんと同い年で、東京大学予備門では同級生）。
13：図鑑に夢中
幼少の頃のおびただしい量の細字による写本。驚くべき読解力と記憶力。
21：『和漢三才図会』を数え13歳から2年以上かけて筆写
1893Nature投稿論文に引用。
2024年06月23日
ロードバイクに乗るときに読む本
末娘がなぜか最近になって自転車に興味を持ち、別荘に置いてあったBianchiを持ち帰ることにした。代わりに、そちらにはシクロクロスを持っていった。グラベルもある日光の方が活躍しそう。
その娘が図書館から借りてきたのが本書。どうやらクロスバイクとロードバイクの違いが分からず、間違って借りたらしいのだが(笑)、自分で読んでみる。著者紹介には、「茅ヶ崎にあるプロショップ［エイドステーション］の店主にして作家、革命家・・・」。大丈夫か？と思ったが、早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒らしく（著者紹介には書いてない）、合理的で科学的だった。
その娘が図書館から借りてきたのが本書。どうやらクロスバイクとロードバイクの違いが分からず、間違って借りたらしいのだが(笑)、自分で読んでみる。著者紹介には、「茅ヶ崎にあるプロショップ［エイドステーション］の店主にして作家、革命家・・・」。大丈夫か？と思ったが、早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒らしく（著者紹介には書いてない）、合理的で科学的だった。
18：シクロクロスという選択肢
ロードバイクは走りそのものを楽しむストイックな機材⇔シクロクロスは、風景を眺めたり、観光地で写真を撮ってみたり、行った先で魚釣りをしたり、現地で美味しいものを食べたりするのにより適している。
20：コンポのグレード
高いグレードのほうが早く走れるということはない。コンポの価格差は、素材や仕上げの違いによって生じていて、その設計に大きな差はない。高いコンポの方が寿命が長くて壊れにくい。週末しか走らないのであればコンポのグレードは何でもいい。ティアグラでも十分。
126：ハートレートモニターを活用
目標心拍数を決める（数字は私の場合）。
�ゝ�きてすぐの心拍数 60
�∈蚤膺看鐃堯�220-年齢） 160
�Ｌ榲�に合った運動強度を選ぶ
・持久力アップ基礎体力 80%
�ぬ槁舷看鐃�
（最大心拍数ー安静時心拍数）ｘトレーニング強度％＋安静時心拍数
（160-60)ｘ80%＋60＝140
130：ウォームアップとクールダウン
15分ずつ必ず必要。
2024年06月22日
最高の居住地を見つける
本書の最後に、「最高の居住地を見つける」ステップが説明されている。常識的と言えば常識的で、多くの人が引っ越し先を見つけるときに頭の中でなんとなくやっていることだと思う。しかし、厳密にプロジェクトとしてやる人は少ないと思うので、自分でも試しに考えてみた。
１．優先順位を明確にする
２．候補地リストを作る
３．下調べをする
４．得られるものは何か
・労働市場
・専門能力の開発
・ネットワーク
５．基本的サービスを押さえる
・教育
・安全と健康
・住宅の入手しやすさ
・移動手段と通信インフラ
６．リーダーシップは十分か
・政治、経済のリーダーの業績や評判、価値観やビジョン
７．価値観を確認する
・寛容性
・信頼関係
・自己表現
８．心躍るものはあるか
・美と、それを感じるものの視点
・本物か
・快適性
・活気
９．すべてを集計する
10．下見をする
最後：新天地を求める
2024年06月21日
「新しいアイデアには古い建築が必要」
集積度が重要だとすると、「クリエイティブ・クラス」の好む世界のメガ地域とその他の格差は拡大し続けるのか？幸い、そうはならない。ジェーン・ジェイコブスが「新しいアイデアには古い建築が必要」といった通り、創造的で革新的な活動の多くは「安価な空間」を必要とするからだ。
すでに欧米の成功したメガ地域の不動産価格は、東京の数倍に達している。そうなると、政策的に安価な空間を確保しないと、既に成功した人しか住めなくなる。167：不動産価格の高騰はイノベーションの妨げになりかねないかつてSV,SD, Cambridge（MA）、NYCのダウンタウンには安価な空間が豊富に存在し、ジョブズやディランら大勢の人が自らの出発点とした。
面白いのは、「アメリカの持ち家政策が社会的流動性を妨げている」としていること。アメリカは世界トップクラスに社会的流動性が高いことで有名だが（転職頻度など）、著者はそれでも十分でなく、その最大の理由は持ち家政策だとしている。170：アメリカの持ち家政策は社会的流動性を妨げているチャンスを生かすには流動性が重要。クリエイティブは時代では、所有と賃貸との中間に位置する、何らかの新たな仕組みが必要。
「持ち家比率が2/3」というのは、同じく持ち家優遇政策を取る日本と同じ。賃貸物件の選択肢は限られ、改造できない、原状復帰費用がかさむなどで、長く住むなら「ローンが支払えるなら持ち家」というのが日本でも一般的。ローン金利の所得控除や断熱工事、太陽光発電などに対する補助金もある。
しかし、買ってしまうと、その場所に縛られ「社会的流動性を妨げる」。人口減少かつ社会的流動性の低い日本こそ、持ち家優遇政策からの転換が求められる。
2024年06月20日
集積力
「孟母三遷」は不変ということか。
9：居住地の選択は、人間の生き方のあらゆる側面に影響
得られる収入、出会う人々、友人、伴侶、子供や家族に与えられる選択肢。
13：物理的距離の消滅は最近に始まったことではない
初めは鉄道によって、交易と交通に大変革。次に電話、自動車や飛行機。そしてWWW。
14：集積力
現代のクリエイティブ経済における経済成長の真の原動力とは、才能と生産性に満ちた人々の集積と集中力。彼らが特定の地域に寄り集まって住むことで、新しいアイデアが生まれ、その地域の生産性は増加する。集積化によって個々の生産力が高まり、今度は生産物と富の増加を生成しつつ、地域そのものの生産性を高める。
16：幅広い選択肢を与えられた私たちに必要なのは、主要なニーズと優先順位を把握してから、自分の希望と支払い可能な予算に見合った場所を探すこと。
105：多くが転居を繰り返した後、人生の後半になって故郷に戻る
2024年06月19日
WHO'S YOUR CITY?
未だ収束する様子のないガザの惨状や、ウクライナでの戦争を考えれば、「どこに生まれたか」「どこに住むか」が無視できないどころか、今でも非常に重要であるのは言うまでもない。2000年代にNYTimesのコラムニストThomas Freedmanが『フラット化する世界』で、「経済競争の舞台は平均化し、住む場所は関係なくなった」と主張したが、その当時でさえ、それは先進国内だけでの話だった。
著者は、「クリエイティブ・クラス」という新たな経済の支配階級の動向から、グローバル経済における地域間競争の変質を読み取り、世界中から注目を浴びた都市経済学者。クリエイティブ・クラスが主導する経済において、先端的な経済発展はメガ地域に集中し、「世界はフラット」どころか「スパイキー」であるという。
日本は明治維新以来、中央集権国家が続き、産業革命が進む中で都市化が進んだ。その反動で、高度経済成長期以降、税収が増えると、地方交付税交付金でせっせと都市で上がる税収を地方に還元して、地域格差をなくそうとした。その結果、日本は個人間でも、地域間でも経済格差が世界でも最も低い国の一つになっている。
この常に「平準化」を求める政治志向は、社会の安定をもたらす一方、イノベーションの大半をもたらす世界の「クリエイティブ・クラス」から避けられている。今でも東京への一極集中を避けようという政策圧力は強く、結果、日本全体が富裕層の「クリエイティブ・クラス」が遊びに来るだけの観光地になっていく可能性がある。
日本は明治維新以来、中央集権国家が続き、産業革命が進む中で都市化が進んだ。その反動で、高度経済成長期以降、税収が増えると、地方交付税交付金でせっせと都市で上がる税収を地方に還元して、地域格差をなくそうとした。その結果、日本は個人間でも、地域間でも経済格差が世界でも最も低い国の一つになっている。
この常に「平準化」を求める政治志向は、社会の安定をもたらす一方、イノベーションの大半をもたらす世界の「クリエイティブ・クラス」から避けられている。今でも東京への一極集中を避けようという政策圧力は強く、結果、日本全体が富裕層の「クリエイティブ・クラス」が遊びに来るだけの観光地になっていく可能性がある。
日本語への序文：「世界はフラットではない」
現実の世界は鋭い凹凸があって「スパイキー」。
大前研一は、グローバリゼーションから見た時の経済的な主要単位は、従来の「国民国家」から彼が定義するところの「地域国家」に移ったと記している。
グローバル経済は概ね20~30のメガ地域が担っている。これらメガ地域の人口は全世界の1/5にも満たないが、経済活動の2/3とイノベーションの8割を産出。
人生の3つの選択「何を」「だれと」「どこに」
・職業やキャリアの選択
・伴侶を見つけること
・住む場所→職業的成功や仕事上の人脈から、幸福感や快適な暮らしに至るまで全てを決定
2024年06月18日
人がすべての会社
ランナーではないので、有森裕子さんのことも、オリンピックでメダルを取ったマラソンランナーくらいにしか知らなかった。高校でも大学でも注目される選手ではなく、リクルートには小出監督の指導を受けるべく、紹介もなくいきなり訪ねて行ったという。
松永さんは、リクルートで有森裕子とも親しく、アトランタオリンピックの時は、現地まで応援に行ったという。結果は、バルセロナでの銀メダルに次いで、銅メダル。日本女子選手初の2大会連続メダルとなった。また、ゴール後の記者会見で言った「自分で自分を誉めてあげたい」は、その年の流行語大賞になった。184：有森裕子〜能力は二流でも、意識が一流練習を積んで積んでひらすら積んで、いつのまにか一流のランナーに。
「人が一番大事」とは、100社に聞けば99社はそういうと思う。しかし、その割に、給料は低いままだったり、社員とのコミュニケーションに時間を掛けてなかったり、人事制度に工夫がなかったりと、言っていることとやっていることが違う会社が多い。言葉を持ったランナー「ただ者で終わりたくない」「よろこびを、力に」「自分で自分を誉めてあげたい」＊言葉とは、意思の表れ
野田先生の言う「コンテクスト経営」なんでしょうね。194：人がすべての会社昨日入ったばかりのアルバイトから経営トップまで、誰もがそう信じている＝リクルートの成長の原動力
あとがき：偶然というものを初めて私に意識させてくれたリクルート現実には無数の因果が交錯しながら、でも常に偶然がついて回る。
2024年06月17日
リクルートの、働く気にさせてしまう「装置」
もともと、目的意識もなく、怠け者だったという松永。それが、リクルートに入ってしばらくして、スイッチが入ったように働きだす。
今では制度が変わったようだが、最近まで「40歳定年」と言われていた。退職金がその頃にピークになるように設計されていた。結果、平均年齢が若く保たれ、創業来の「よく遊び、よく働く」社風が維持されていた。休日が多い「ステップ休暇」制度もあり、3年務めると1ヶ月の休暇＋給与一か月分の小遣いがもらえる。それでも、その中心にあるのは、働くことでの満足度だった。149：リクルートの、働く気にさせてしまう「装置」「高能率・高賃金」が創業以来の経営テーマ。
151：・仕事を成し遂げたときの達成感・自分が成長していることを実感できる成長感・自分が人の役に立ったと感じられる効力感
158：リクルートでは、個人の能力や資質にあった機会を提供することがフェアであって、全員一律な処遇がフェアだとは思っていない
フェアであることの納得感を高める方法に、知恵を張り巡らせる。
どういう指標で業績を評価するかは、あらかじめ明示し、数字をきちんと取る。
164：社内報『週間リクルート』月刊『かもめ』
174：カオス→活性化
組織の中に不均衡を創りだし、かき回し、できあがったものを捨てる。活性化とは、きれいごとで実現できるようなテーマではない。汗と泥にまみれ、ときには血のにじむ葛藤の中にこそ活性化の素がある。修羅場に身を置くことではじめて、一皮も二皮もむけた新しい局面が開かれたりする。
2024年06月16日
「暗いうちに帰ろう」
かつては、ハードワークで知られたリクルート。しかし、あれだけ働いて過労死で死んだというのを聞いたことがない。『とらばーゆ』編集室では、「暗いうちに帰ろうが合言葉だったという。
53：毎週、締切日の金曜は、仕事が終わるのが深夜。夜が白んでくる前に、暗いうちに帰るのが目標。社内はいたって元気。悲壮感ゼロ。
70：リクルートの創刊オトコ倉田学『とらばーゆ』『ベルーフ』『フロム・エー』『エイビー・ロード』『じゃらん』
「銀座の二つのビルは、江副ではなく倉田が建てたようなものです」
79：「アポイントを入れるときは、遠い人からいれる」
誰かと会う約束をする時に、できるだけ遠い人からの約束を優先するという倉田流。
年齢の近い人より離れている人、社内の人より社外の人、同性よりも異性、日本人よりも外国人。
84：『とらばーゆ』編集長を外される
一つのメディアにのめり込み過ぎて、完全に同化してしまっていた。
2024年06月15日
2024年06月14日
リクルートという装置
「iモード生みの親」松永真理が、『iモード事件』の次に書いた本。「iモード以前」ということは、大学卒業後20年間勤めたリクルートということになる。
1977年に明治大学（仏文）を卒業した松永。当時は、就職氷河期であったらしい。第一次石油危機と第二次石油危機の間だから、そうなのだろう。そして、「20歳まで、のほほんと生きてきた」松永は、人生初めての挫折を味わう。手当たり次第に就職試験を受けるが、次から次へと落ちるのだ。
ある銀行の面接では、「あなたは銀行には向いてないと思う」と言われたという。その時はショックだったらしいが、その後のリクルートでの活躍を考えれば、面接官は慧眼であったというべきだろう。松永が当時の銀行で輝くことはなかった。
16：2000人の受験者から大卒女子は7人しか採用されない1977リクルート創業17年目 社員数699人 売上100億円
やっとの思いで入社したリクルートだが、希望の配属とは違って、2日目で辞めたくなる。文学部を出た松永は出版部を希望していたが、配属されたのは媒体部だったらしい。ところが、「私以上に腐りかけていた」同期が居た。
32：関一郎早稲田政経。新聞社志望→クリエイター試験で入社⇔営業部配属6月に初受注した時、新人では最後から2番目。
スロースタートであった関一郎だが、1年を終えたときにはなんと全社トップ！それは、営業が、実はクリエイティブな仕事だと気づかせてくれた顧客（錠前屋）との出会いだった。関は優秀な技術者に来てもらえるような会社になるよう、全社を巻き込んでいく。
それ以降、席はトップ営業マンとして名前を轟かせ、社内の営業企画の論文審査でも連続表象される。38歳で役員となり、本書が書かれた当時は常務取締役であった。
2024年06月13日
2024年06月12日
氏族長のリムジン「タラーデ」
聖書に出てくる「エデンの園」ではないかと言われているイラク南部の湿地帯アフワール。
222：見渡すかぎり、青い水が広がっていた。豊かに生い茂った緑のカサブ（葦）、蒲、カヤツリグサなどの水生の植物の合間を水牛の群れが浮き沈みし、草を積んだ小舟が忙しげに行き交う。
そこを行き来するなかで、氏族長のリムジンみたいな豪華ボートを「タラーデ」という。今では、モーターボートに置き換えられて、ほとんど見ることがないという。
著者は、タラーデを造れる船大工を探し出し、造ってもらうことにする。製法は4000年前から変わらないが、使われる木材はしっかりと国際化しているのが面白い。そこに需要があれば、治安が悪かろうが、内戦状態であろうが、世界中から品物は流通するのだ。227：氏族長のリムジン「タラーデ」4000年前から使われているアフワールの舟1970年代まではシェイフ（氏族長）が乗っていた「リムジン」みたいな豪華ボート。ウルの遺跡から発見された舟の模型がこのタラーデに瓜二つ。
244：タラーデの木材6mの縦板「チャム」シベリア産の針葉樹舳先と船尾と船底「ジャーウィ」マレーシア産のラワン材肋骨「シドレ」イラク国内産で、3つの中で最も固い木
2024年06月11日
「失われたエデンの園」
「メソポタミア文明が3000年以上続いた理由」というのが興味深い。
122：多くの文明は自然破壊で滅びた。具体的には森の消失。燃料に木を切って、森が喪失。森が無くなると洪水が起き、土地がやせる。同時に、直射日光を浴びて地表の温度が上がり、砂漠化。黄河文明はこうして滅びたと言われている。日本でも、平城京を捨てて、平安京に都を移したのは、奈良盆地の木を伐りつくしたからだと推察されている。これに対して、「イラクの湿地帯には燃料が無尽蔵」なのだ。
湿地には絶えず水と栄養分が運ばれてくるから、カサブの再生力は桁違いに高い。薪を獲るのも運ぶのも容易。
80：イラクの国民的朝食「ゲーマル」
水牛の乳でつくったヨーグルト。これと、「鯉の円盤焼き」がイラクの二大国民食。
85：マンダ教徒の船大工
マンダ教徒はアマーラ周辺から姿を消す。前は「1万人以上いたが、今はアマーラ全体で3，4百人」。マンダ教徒への嫌がらせや犯罪は続いている。海外脱出。
92：カリーム・マホウド「アミール・アル＝アフワール（湿地帯の王）」フセイン政権下で反政府ゲリラ活動
「アフワールはアマーラの東からバスラ、ナーシリーヤまで広がっている。ノアの洪水以来、何も変わっていない」
115：「失われたエデンの園」
サーレ先生 大学教授→湿地帯保護活動
119：ハウィザ湖
イ・イ戦争の最大の激戦地〜今も地雷と不発弾で住民被害。
2024年06月10日
米軍侵攻で内戦化したイラク
その末裔であるイラクに2003年イラク戦争が起こる。2001年9.11で米独立後、初めて米本土が外国からの攻撃に合う。激震が走った米国は執拗な犯人探しを始める。しかし、犯行声明を出したアルカイダはゲリラ組織でしっぽがつかみにくい。その時、「報復の相手」になったのがもともと反米的だったイラク。フセイン政権は大量破壊兵器も持っていなければアルカイダとも無関係だったが、復讐に燃えていた米国民は米政府に「報復」を求めていた。72：小林登志子『古代メソポタミア全史』かつてメソポタミア南部（だいたいイラク南部）を「バビロニア」と呼び、さらにその中でニップル市（現在のヌファル）を境に北部を「アッカド」、南部を「シュメール」と呼んだ。（中略）そしてシュメールは「ペルシア湾に近い低湿地」＝アフワール
米軍侵攻前はシーアかスンニーかという意識はなかったという。それが、2003年のイラク戦争で全てが変わる。それまで政権中枢に居たのは首都バグダッドのあるイラク北部に多いスンニー派。米軍統治の下、普通選挙が実施され、数的に多いシーア派が政治的に優位になる。スンニーの人々は恐怖し、武力でシーア派を押さえようとする。こうして、イラクは内戦状態に突入。そして、米軍は撤退する。
民主主義がいつもどの国にとってもいいのではないという見本をまた米国は作った。
民主主義がいつもどの国にとってもいいのではないという見本をまた米国は作った。
2024年06月09日
一神教の元祖⁉
イラクには、マンダ教という「一神教の元祖」とも言われる古代宗教が残っているらしい。
キリスト教成立直後という説が正しければ、その前に、ユダヤ教も、さらにその前にゾロアスター教もあったので、「一神教の元祖」というのはおかしいが、迫害を逃れてアフワールで2000年前の形を保っているという意味で最古らしい。ゾロアスター教はインドに逃れた少数を除いてほぼ滅んだし、今のキリスト教は初期キリスト教とは違う。52：ジェラード・ラッセル『失われた宗教を生きる人々 中東の秘教を求めて』キリスト教成立直後にパレスチナ辺りで生まれ、ユダヤ教、キリスト教、ゾロアスター教などの迫害から逃れ、紀元2世紀にイラクのアフワールに逃げ込み、2千年近くひっそりと暮らす。
その絶対平和主義者のマンダ教徒は、2000年間イラクに溶け込んで暮らしていたが、フセイン政権崩壊後、治安が悪化して、ムスリム民兵による強盗が多発したため、大半が海外に移住したという。絶対平和主義は、誰かによって社会秩序が保たれていれば成り立ちうるが、それが無くなった時維持できないのはこの事例からも明らかなようだ。57：マンダ教徒は宝石商や金細工師で武装しない（絶対平和主義者で戦うことを禁止）世界に50万人？かつてはその大部分がイラクに住んでいたが、今では1.5〜3万人しか残っていない。
60：独裁者の下では宗教や民族による対立は生まれない無派閥状態はアメリカによって破壊され、迫害されるように。
68：毎週日曜日に洗礼
ヨハネがイエスに洗礼を施している場面をじかに見ているよう。二千年前の洗礼が冷凍保存。
2024年06月08日
元祖・梁山泊
ティグリス・ユーフラテス川と言えば世界最古のメソポタミア文明。そこには「元祖・梁山泊」とも言える湿地帯があったのだという（はじめに）。
ティグリス川とユーフラテス川の合流地点付近にはかつて最大で日本の四国を上まわったこともある面積の「湿地帯」が存在し、30〜40万人もの水の民が暮らしている。アラビア語を話すアラブ人でありつつ、生活スタイルや文化がまるで異なる。
「梁山泊」といえば、中国の伝奇小説『水滸伝』に登場する黄河の氾濫で形成された内陸低地。腐敗と悪政がはびこる宋代に、「官憲が近づけない湿地帯の中に次々に集まり、山賊的な行為をはたらいたり政府軍と戦ったりする」。
世界史上には、このようなレジスタンス的な、あるいはアナーキー的な湿地帯がいくつも存在する。水滸伝自体、山東省の湿地帯に実在した盗賊集団をモデルにしているというし、他にも、ベトナム戦争時のメコンデルタ、イタリアのベニス、ルーマニアのドナウデルタなどがある。日本では、濃尾平野を流れる木曽川、長良川、揖斐川のデルタ地帯に、かつては権力から独立した人々が住んでいた。
近代になってそんな地帯は少なくなったが、イラクでは1970年代までこうした状況が続いたのだという。反フセイン勢力が湿地帯に逃げ込んで抵抗したため、フセインは堰を築いて湿地帯に流れ込む水を止めた。フセイン政権が崩壊した後、住民が堰を壊して水が再び流れ込むようになり、湿地帯は半分くらい復元したという。
それが、アフワールで、「イラク南部の三つの考古学遺跡と四つの湿地帯からなる地域」だ。都市遺跡には、ウルク、ウル、エリドゥある。ここで、BC4000~3000にシュメール文明が栄えた。そこが今どのような状態にあるのか。そこに住む人々はどのような暮らしをしているのかを見に行くという話。
現在のイラクは、「断層国家」であるという。英米軍が侵攻するまでは「独裁者サダム・フセインが巧妙にまとめていたが、2003年フセイン政権が崩壊後、中央政府の力が衰えたいっぽうで武器が拡散し、武力した勢力が割拠」している状態にある。当然、治安が悪いので、一般旅行者は行かないし、政府関係者や国際機関職員は、首都バグダッドの厳重に警備された一角に住んでおり、原則そこから出ないから、地方のことはまるで分らない。
アメリカ侵攻深刻な人権侵害。フセイン政権の軍隊を安易に解体し元軍人と武器が大量に民間へ流出。警察と官僚の多くを解雇し、行政や治安維持が機能不全。職を失った人たち（主にスンニー派）は反米武力闘争に入り、新たに政権を奪取したシーア派と激しく抗争。
山田隊長（山田高司）「世界の川を全て旅する」
東京農大探検部OB。ナチュラリスト・林業専門家・環境活動家。
日本の川のほとんどを源流近くから河口までカヌーかゴムボートで下る。
南米オリノコ、アマゾン、ラプラタの三大河川をつなげて縦断。
長江源流をゴムボートで下り、アフリカでは5年以上かけて、ニジェール川、コンゴ川、セネガル川を旅する。
2024年06月07日
コントロール可能な活動に集中
多くの場合、予測困難な事業に挑戦しているのが起業家なので、予測そのものに意味がない。それよりも、「コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる」というのが"pilot-in-the-plane"。
142：熟達した起業家の世界観(pilot-in-the-plane)
151：パイロットが有効に機能する問題空間
１．未来の結果に関する確率計算が不可能である「ナイトの不確実性」
２．選好が所与でない、もしくは秩序だっていない「目的の曖昧性」
３．どの環境要素に注目すべきか、あるいは無視すべきかが不明瞭である「環境の等方性」
164：氷のホテル（スウェーデン）
1988さっぽろ雪まつりを訪れたベリークヴィスト（創業者）。「雪と氷ならもっとある」
2024年06月06日
熟達した起業家は「命懸けのジャンプ」をしたりはしない
私の知っている範囲でも、成功した起業家は皆「慎重」。リスクの捉え方が独特で一般人と違うこともあるが、いずれにしても、ゲームオーバーになるようなリスクは取らない。ゲームに残っていることが大事で、残っているかぎり、次のチャンスはある。
64：熟達した起業家は「命懸けのジャンプ」をしたりはしない
高い不確実性に繰り返し熟達した起業家は、事前に予測された期待利益ではなく、逆にマイナス面、うまくいかなかった際に生じる損失可能性に基づいて、行動へのコミットメントを行う傾向。避けられるならば絶対にリスクは取るべきではない。
97：偶然を活用するための４つのステップ
�〕輯�せぬ事態に気づく
��同じ現実に対する見方を変える（リフレーミング）
�Ｍ輯�せぬ事態をきっかけに「手持ちの手段（資源）」を拡張する
�こ板イ靴深蟷�ちの手段（資源）を活用して新たに「何ができるか」を発想する
115：キルトづくりに似たエフェクチュエーションのパートナーシップ
エフェクチュエーションのパートナーシップが「パッチワークキルト」であるのに対して、コーゼーション的なパートナーシップは、「ジグソーパズル」。ジグソーパズルの場合、完成すべき絵は最初から決まっている。
131：「じゃあ私は誰を目指せばいいんですか？」
クラウドワークス吉田社長が谷屋さんに、「岩瀬さんとは違う」と言われ。
「人間力で組織を率いるタイプの経営者」→面会し、CA Capitalから10億円の出資を得る
「人間力で組織を率いるタイプの経営者」→面会し、CA Capitalから10億円の出資を得る
138：問いかけ(the Ask)
不確実性への対応に熟達するうえで最重要の活動
2024年06月05日
優れた起業家が実践する「５つの原則」
仕事ができる人たちの「突破力」や「諦めない力」の正体は、エフェクチュエーションなのかもしれない
この10年ばかり話題のエフェクチュエーション。英語としても聞いたことのない単語で訝しがっていたが、読んで納得。多くの実務家が「こんな感じ」と思っていたことが、整理され、実証されている。発案者のサラスバシーはインド出身の経営学者。Carnegie Melonの博士論文として当初発表され、本人はその功績で現在Dardenの教授に就任している。
はじめに：エフェクチュエーションの大きな特徴は、従来の経営学が重視してきた「予測」ではなく、「コントロール」によって、不確実性に対処する思考様式であること
はじめに：エフェクチュエーションの大きな特徴は、従来の経営学が重視してきた「予測」ではなく、「コントロール」によって、不確実性に対処する思考様式であること
そのため、例えば、既存の顧客ニーズを前提にできない製品・サービスの事業化、最適なアプローチを定義することが困難な課題解決など、高い不確実性を伴うがゆえに、予測に基づく意思決定では合理的と見なされないような取り組みの推進にも、適用することができる。
・実践を伴うことで初めて深く理解できる思考様式
・身近にエフェクチュエーションの実践者の先達を見つける（世の中に一定割合存在）
20：サラスバシーによる熟達した起業家に対する意思決定実験
個人・チームを問わず、1社以上を起業し、創業者としてフルタイムで10年以上働き、最低でも1社以上を株式公開した人物。
30：エフェクチュエーションの5つの原則
�ー蠱罎猟�(Bird in Hand)の原則
「目的主導」ではなく、既存の「手段主導」で何か新しいものを作る。
��許容可能な損失（Affordable Loss）の原則
期待利益の最大化ではなく、損失（マイナス面）が許容可能かに基づいてコミットする
��レモネード（Lemonade)の原則
予期せぬ事態を避けるのではなく、むしろ偶然をテコとして活用する。
�ぅ�レイジーキルト（Crazy Quilt）の原則
コミットする意思を持つ全ての関与者と交渉し、パートナーシップを築く。
�ト�行機のパイロット（Pilot in the Plane）の原則
コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる。
45：あなたが手にしている1羽の鳥は、姿の見えない多くの鳥よりも価値がある
１．私は誰か（Who I am）
特性や興味、能力や性格など、その起業家のアイデンティティ。
２．私は何を知っているか（What do I know)
起業家が活用できる知識。
３．私は誰を知っているか（Whom I know）
起業家が頼ることのできる社会的ネットワーク。
2024年06月04日
サイレント・ネービー
戦後、山梨は学習院院長に就任。戦争前に海軍は退官していたので、それが功を奏した。そこで、明仁皇太子（現・上皇閣下）の教育責任者として晩年を過ごす。
467：日清戦争でも日露戦争でも形はメッケルの作った陸軍であるけれども、魂は川中島
形はメッケルが指導したのですが、その戦闘精神は武田・上杉の精神。すなわち穀山陽が『日本外史』に書いているように「すばやくて、軽くて、勇敢で、死を軽んじ恥を重んじる国民性」によるもの。
499：ヴァイタリティ＋サムシング
アングロサクソンの特性。信仰の自由の精神に加え、アングロサクソンの持っている元気と強い勇気。
594：英国的公生活（British public life）
警察政治も憲兵政治もやらず、抑圧せず、言論統制もせず、言いたいだけ言わせ、聞くだけ聞いてまとめていくから、結局、こういう強固な団結が得られる。（中略）イギリスは、議会制民主主義の強み、これによって、今次大戦に勝利を収めた。
解説：サイレント・ネービー（戸高一成）
山梨は、語るべきは大いに語ったが、秘すべきことを弁えていた。
明治10（1877）仙台生れ
明治30（1897）海軍兵学校卒業
当時は、海軍士官としての教育は第一にマスト、ヤードの昇り降りで、軍人であるより先に船乗りであることを要求される時代。しかし、山梨が海軍兵学校を卒業して勤務を始めた日本海軍は、対露戦備の66艦隊整備中であり、まさに帆走海軍から蒸気海軍に発展しつつある時期。
明治33（1900）英国で建造中の新鋭戦艦「三笠」の回航員として渡英。
日露戦争後は海軍大学校に進み、戦略、戦術の研究。戦術教官：秋山真之、佐藤鉄太郎
2024年06月03日
コペンハーゲン焼き討ち事件
今年の3月に初めてデンマークを訪問した。その時、コペンハーゲン市歴史博物館で見た展示が正に「コペンハーゲン焼き討ち事件」。
19世紀の初頭、ナポレオン戦争下の欧州で、デンマーク王国は中立を宣言していた。イギリスは、北海とバルチック海の海峡に位置し、強力な海軍を擁するデンマークがフランス軍の手に落ちるのを恐れ、デンマークに海軍と軍需品を引き渡すように要求した。「戦争が終わったら利息を付けて返すから」というのだ。
デンマークは独立国に対して「そんなバカな話はない」と、これを拒否。そこで、イギリス海軍はコペンハーゲンを包囲し、市街地を砲撃する。このため、コペンハーゲン市街の3/4が焼け落ちたという。その間に、イギリス海軍はデンマーク海軍の軍艦と軍需品をかっさらってイギリスに持ち帰った。
この事件を知った欧州各国は「国際法違反である」とイギリスを責めたが、イギリスはこれは「緊急避難」であると釈明。最後まで非を認めることはなかった。歴史研究者によれば、イギリスには、こうした「必要は法に優先する」という（自分勝手な）伝統があり、第二次世界大戦中にもドイツの手に渡るのを恐れたフランス艦隊を先に攻撃して沈めてしまった（動画👇）。
ちなみに、歴史博物館の解説では、この首都焼き討ち事件はデンマークのトラウマになったようで、それまでデンマーク領であったノルウェーは一瞬の独立を経てスウェーデンに併合される。以後、デンマークは欧州政治の中心舞台からは消えることになる。
19世紀の初頭、ナポレオン戦争下の欧州で、デンマーク王国は中立を宣言していた。イギリスは、北海とバルチック海の海峡に位置し、強力な海軍を擁するデンマークがフランス軍の手に落ちるのを恐れ、デンマークに海軍と軍需品を引き渡すように要求した。「戦争が終わったら利息を付けて返すから」というのだ。
デンマークは独立国に対して「そんなバカな話はない」と、これを拒否。そこで、イギリス海軍はコペンハーゲンを包囲し、市街地を砲撃する。このため、コペンハーゲン市街の3/4が焼け落ちたという。その間に、イギリス海軍はデンマーク海軍の軍艦と軍需品をかっさらってイギリスに持ち帰った。
この事件を知った欧州各国は「国際法違反である」とイギリスを責めたが、イギリスはこれは「緊急避難」であると釈明。最後まで非を認めることはなかった。歴史研究者によれば、イギリスには、こうした「必要は法に優先する」という（自分勝手な）伝統があり、第二次世界大戦中にもドイツの手に渡るのを恐れたフランス艦隊を先に攻撃して沈めてしまった（動画👇）。
ちなみに、歴史博物館の解説では、この首都焼き討ち事件はデンマークのトラウマになったようで、それまでデンマーク領であったノルウェーは一瞬の独立を経てスウェーデンに併合される。以後、デンマークは欧州政治の中心舞台からは消えることになる。
373：中立論中立ぐらい力がいるものはなく、力がなければ中立はできない。ところが中立というのは、骨を折らないで力が無くてもいいのではないかと、考え違いしているのではないか。政治家でも、言論社会でも、中立を論ずる人は抽象的な議論はやめて、歴史の上からこういう実例を調べてみて、中立というものの可能性、実効性、結果論を論ずるのが本当。
344：ナポレオンの文才
ナポレオンは文才があって、学者としても、文才の上でも最高峰の人であった。ナポレオンの出した檄文というものは非常な名文であって有名。（中略）だがナポレオンがシーザーに比べていちばん劣るところは、比重の問題がナポレオンに欠けている。それから可能性という人間の能力の限界を知ること、つまり、こいつは無理なことだという可能の枠がナポレオンにはよく見えない。（中略）そしてこれが欠けていては、世界的大外交家、大政治家にはなれない（フィオッシュ元帥）。
371：イギリス海軍のデンマーク海軍押収
ナポレオンがうろうろしているうちにデンマークに押し寄せ、デンマークの海軍をひったくって、そしてイギリスの海軍で網つけて引っ張るように、また陸上にある軍需品はみなイギリスの軍艦に積み込んでさっさと引き揚げて来て、戦争が済み、フランスとイギリスが平和になってならば、利息をつけてそっくり艦隊を返すから、それまで預かると、こういうのです。こういう乱暴なやり方は、世界の歴史にはありません。
372：イギリス海軍のこういう場合の早い行動は、本当に敬意を表する。また他人が何と言おうと、人の評判などどうでもいい。それは後から何とでも言い訳するのだということ。
2024年06月02日
ワシントン・ロンドン海軍軍縮会議
ロンドン軍縮会議で決まった米英日の補助艦の比率＝10：10：7。当時の国力からすれば、日本の比率は十分どころか、十二分だったはずだが。
207：はじめてイギリスに行ったのが1900
ドイツ製の製品はばかにされていた。また造船の方でも、アームストロング会社にドイツの造船家が造船術を習いに来ていて、海軍でも幼稚なもの。ところが2回目に行った1909年（中略）ドイツの伸び方は実に大したもの。
243：1921ワシントン会議、1930ロンドン会議
これに関係された先輩は全部故人となり、生存しているのは私一人。
259：日本人排斥
日露戦争後、米国の態度が急に悪くなり、まず移民問題としてあらわれ、カリフォルニアを中心として、長期にわたる悪辣で執拗な日本人排斥運動。
2024年06月01日
日本海軍の生い立ち
1981年に出版された山梨提督の名著が新書になって復刊されたというので読んでみる。元は、戦後に、海上自衛隊幹部学校の指揮幕僚課程学生に行った講和をまとめ、開示内の教育資料とした「山梨大将講話集」を再編集し、書籍化したもの。
日本の近代海軍の創設は、徳川幕府の海軍伝習所（長崎）に始まる。当初は欧州ではオランダとしか交易していなかったから、遣米使節団を乗せて日本の舟として初めて太平洋を渡った咸臨丸（軍艦）はオランダ製だ。
その後、日本に内戦の匂いをかぎ取った列強は、それぞれの思惑でフランスは幕府を、イギリスは薩長を支援する。幕府はフランスの技術支援を得て、日本初の西洋船建造所を横須賀に建造。明治になると、その流れで、新政府はイギリス式に海軍の整備を進める。
米海軍との交流もあったようで、『坂の上の雲』の秋山真之が留学したのは米海軍。日本海海戦後、海軍大学校の教官となった秋山は「自分はこの戦争で国に奉仕したのは戦略・戦術ではなく、ロジスティクスであった」と言っている。
135：日本海軍の生い立ち
ペリー来朝（1853,1854）→鍋島公が長崎のオランダ商会に対して船を造りたいと申し入れ、また幕府からも同時に数隻を日本に買い入れたい。オランダが幕府に250tの商船を贈呈して、士官や兵隊が世話。→海軍伝習所（長崎）
小栗上野介がフランスに交渉して、長浦にフランスの東洋艦隊。地理、沿岸がツーロン港に似ているからというので、隣の横須賀港をえらんで、ヴェルニーという人が上海にいたのを呼んで、造船所を造る。1871第一ドック。
160：秋山真之
アメリカから帰ってきて戦略・戦術・戦務の体系づけ。
