2023年02月
2023年02月28日
VC: AN AMERICAN HISTORY
イギリス人の研究者が書いた米国VC史。通常のVC史は世界初のVCと言われるAmerican Reserch and Development Corporation (ARD)から説き起こしているものが多いが、本書ではVCの起源を18世紀のニューイングランド地方の捕鯨産業に発見している。アメリカの資本主義の土壌から誕生したのがVCなのだ。
はじめに:歴史を知る重要性VCはアメリカで生まれたある種の”ヒット”ビジネス。たくさんのスタートアップ企業で構成される大規模な企業群に投資し、ほんの一握りの投資先のパフォーマンスから莫大な利益を獲得することを目指しつつ、他の大多数の企業が低リターンに甘んじたり、失敗したりするのはやむを得ないと考える、投資の「スタイル」。
投資先はハイテク・セクターに大きく偏っている。というのも、このセクターの資本効率が最も高く、価値の上昇余地が最も大きいから。
VCが社会に莫大な利益をもたらしてきたことは確か。アメリカのVCリストは急進的な新技術の資金調達に積極的に取り組み、ハイテク企業を中心に、非常に広範囲にわたるスタートアップ企業を支援してきた。その結果、半導体から遺伝子組み換え型インスリン、電気通信関連の発明、検索エンジンまで、我々の働き方や生き方、もの作りの方法を根本から変えてしまうようなプロダクトが生み出されてきた。
.縫紂璽ぅ鵐哀薀鵐秒亙の捕鯨産業におけるリスク資本の展開
組織や利益配分方法など、現代のVCと驚くほど似ている。植民地時代のアメリカにおいて、捕鯨業は規模が最大で、かつ最も重要な産業の一つ。なかでもニューイングランドにおける捕鯨船の経営代行業者は、現代のVCリストとの共通点が多い。
▲泪汽船紂璽札奪捗ローウェルにおける最先端の綿織物業(SV的産業クラスターの先駆け)
ニューイングランドの超富裕層が、資金を商取引から工業生産へと振り向けるようになると、テクノロジーを活用する必要性が高まり、まったく新しい契約方法が生み出させることになった(資金を提供する側が経営にどこまで関与するか)。起業家精神と技術、そして資金が揃うと、万全の体制。
VC史の第一段階
VCによるファイナンスの確率に向けて、「インフォーマル」な市場がそれぞれ西海岸と東海岸でどのように発展していったか。19世紀後半から20世紀初めにかけて、今日であれば「エンジェル投資家」あるいは「スーパー・エンジェル投資家」などと呼ばれるような大富豪や、もっとフォーマルな形のプライベート・キャピタルが、新興企業に資金を提供。
VCの歴史を語る上で欠かせない中心的企業ARDの起源と組織構造、戦略、業績
起業と地元の経済成長に資金を投じることが市民の義務だと考えていたニューイングランドの名士たちによって、WW2後のボストンで設立。「クローズド・エンド型投資会社」
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税制上有意な扱い。報酬やファンドことのパフォーマンスといった秘密情報の開示を義務付けている法令の適用を回避。
SVでのスタートアップ企業の資金調達の背景
・教育機関での人材育成
・軍の需要に基づく政府による科学技術投資
・主要ハイテク企業
・高度の技能を持った移民
1980年代VC史の第三段階
1980Apple IPO
VC業界ははじめてハイテクブームの好景気から、その後の不景気までのサイクルを経験。
業界構造の変化→超一流VCという概念
2023年02月27日
2023年02月26日
モルガンお雪
森田繫子は、祖母、母親とも舞子から芸妓になった家に生まれる。父親の顔も名前も知らないが、「祇園の場合、これが当たり前」だという。みんな母親の姓を名乗り、兄弟の父親が同じかどうかも分からない。
23:舞妓さんになるための住み込みの修行期間昔は2,3年。早い子は8,9歳から。今は中学卒業してから1年間。そのあいだに、屋形のお母さんや、お姉さんから、芸妓としての立ち振る舞いや、挨拶の仕方やらを、日ごろの生活の中で鍛える。
「モルガンお雪」の話が登場する。森田さんは戦後、本人に会ったことがあるそうだ。
米モルガン財閥の御曹司が、明治時代に祇園にやってきて、お茶屋「尾花亭」で、売れっ子舞子お雪さんに一目惚れする。実は、お雪さんは、当時できたばかりの京大の学生だった川上さんと恋仲で、夜は祇園の名妓、昼は川上さんの下宿で同棲という二重生活を内緒でしていた。
当然、モルガンのプロポーズを何度も断るのだが、モルガンも引かない。そこで、諦めさせようと途方もない金額を吹っ掛ける。それが「4万円」で、今のお金では8億円相当らしい。これをモルガンあっさりと承諾する。モルガン家の財力からすれば、8億円は問題ではなかった。尤も、一族のなかでは、「東洋の女に8億円
それも、ゲイシャに
」と御曹司は爪はじきにされるのだが
そんなことで祇園でこの話はもちきりになり、意外な結末を迎える。川上が将来のことを考えて、お雪と別れ、お雪はモルガンと横浜で結婚するのだ。二人はその後アメリカに渡るが、第一次世界大戦のさなか、モルガンがスペインで死亡。残されたお雪は、パリに移った後昭和13年に帰国。京都北区でひっそりと暮らす。
以上は、本書からの要約だが、実際は少し違っていて(記憶違い?)、お雪が居たのは外国人専用お茶屋の「小野亭」。川上から身を引いたかどうかも定かではなく、Wikipediaでは「この騒動が新聞に掲載されたため破局」とある。写真はパリ時代のお雪。




そんなことで祇園でこの話はもちきりになり、意外な結末を迎える。川上が将来のことを考えて、お雪と別れ、お雪はモルガンと横浜で結婚するのだ。二人はその後アメリカに渡るが、第一次世界大戦のさなか、モルガンがスペインで死亡。残されたお雪は、パリに移った後昭和13年に帰国。京都北区でひっそりと暮らす。
以上は、本書からの要約だが、実際は少し違っていて(記憶違い?)、お雪が居たのは外国人専用お茶屋の「小野亭」。川上から身を引いたかどうかも定かではなく、Wikipediaでは「この騒動が新聞に掲載されたため破局」とある。写真はパリ時代のお雪。

2023年02月25日
祇園の舞妓・芸妓の暮らし
日経新聞「リーダーの本棚」はいつも読んでいて、各界のリーダーがどんな本を読んでいるのかを参考にしている。昨年末にGSKコンシューマー・ヘルスケア・ジャパンの野上麻里社長が登場。そこで推薦されていたのが本書。こうした機会でもなければ読みそうにない本なので、読んでみた。
以下は、その記事から。
父の姉にあたる森田繁子は、芸妓をやめた後も祇園で小さなクラブを営み、家族の生活を支えました。私の学資も援助してくれたそうです。
この聞き書きには、古い時代の花街のしきたりや「雑魚寝」「見られ」といった独特の風習が紹介され興味深いのですが、それ以上に、厳しい世相の中、仕事を持って生きた一人の女性の気概や強さのようなものを感じます。キャリアウーマンのはしりです。
伯母は3年前に91歳で亡くなりました。生前、私も店には時折、顔を出し、年末に勘定書の作成を手伝うこともありました。お客さんごとの額をソラで言う記憶力に舌を巻きましたね。言葉が通じない海外のお客相手でも、なぜか場が盛り上がる会話の名手でした。
若いころ、お座敷で出会ったダンディーな方にぞっこんとなり、一歩引きつつ、長年お付き合いしたようです。「45年の君」と呼び、晩年まで写真を自室に飾る純な面もありました。
2023年02月24日
「大企業でサラリーマン」ほど、安心できる場所はない
7番目の事例に出てくるのは、デジタルマーケティング企業を経営していたYさん。中学までアフリカで育ち、高校・大学は米国。MIT卒業のエリートだ。卒業後は米系の大手投資銀行のテクノロジー部門にいたという。
その後、不動産投資ファンドでアナリストをやっていたが、投資銀行時代の上司に誘われて起業する。アメリカで既に活用されていた来店集客のソリューションであるO2O(Online to Offline:オンラインでの情報発信で見込客を集め、店舗に誘導して購買を促す手法)ビジネスを日本で展開するというもの。CEOが元上司で、YさんはCTOとCFOを兼務した。
アメリカで活用されている事例があるし、経営陣の経歴はピカピカで、人脈もある。A社を起業した年の年末までに数名のエンジェル投資家から8000万円の調達をして、オフィスを借り、エンジニアやセールスの採用を始める。
サービスリリースに漕ぎつけたものの、無名のスタートアップで、顧客の利用実績もないことから、いきなり大企業との取引は難しい。そこで、始めは、町中にある小さな個人商店を中心に営業活動を行う。これも、ロジカルで妥当な方法。
約400店舗でのサービス利用実績が出来たことで、大手の飲食チェーンに営業をかけ始める。そのうちの一社と協業が決まり、これが評価されて、飲食関連の大企業Bやエンジェル投資家から、追加で2億円の出資が決まる。こうして、株主であるB社への導入プロジェクトが始まるのだが、これが難航する。B社のIT部門はシステム開発を外注に頼っていたため、O2Oをどう活用するか検討に必要なデータが整理されていなかった。
その後、不動産投資ファンドでアナリストをやっていたが、投資銀行時代の上司に誘われて起業する。アメリカで既に活用されていた来店集客のソリューションであるO2O(Online to Offline:オンラインでの情報発信で見込客を集め、店舗に誘導して購買を促す手法)ビジネスを日本で展開するというもの。CEOが元上司で、YさんはCTOとCFOを兼務した。
アメリカで活用されている事例があるし、経営陣の経歴はピカピカで、人脈もある。A社を起業した年の年末までに数名のエンジェル投資家から8000万円の調達をして、オフィスを借り、エンジニアやセールスの採用を始める。
サービスリリースに漕ぎつけたものの、無名のスタートアップで、顧客の利用実績もないことから、いきなり大企業との取引は難しい。そこで、始めは、町中にある小さな個人商店を中心に営業活動を行う。これも、ロジカルで妥当な方法。
約400店舗でのサービス利用実績が出来たことで、大手の飲食チェーンに営業をかけ始める。そのうちの一社と協業が決まり、これが評価されて、飲食関連の大企業Bやエンジェル投資家から、追加で2億円の出資が決まる。こうして、株主であるB社への導入プロジェクトが始まるのだが、これが難航する。B社のIT部門はシステム開発を外注に頼っていたため、O2Oをどう活用するか検討に必要なデータが整理されていなかった。
結局、このプロジェクトは頓挫。B社が持っていた株式は、他社に売却することになる。コインパーキングを運営するC社と、エンジェル投資家が買い取った。この間も資金の流出は続いており、さらに2億円を調達する。O2Oへの参入企業は増えたが、どこもマネタイズで苦労しており、A社は撤退を決断する。199:O2Oビジネスからの撤退店舗への課金は難しい。O2O導入効果を客観的に疎明することが難しい。もともと大手外食チェーンは薄利多売。
コア技術である屋内位置測定技術を活かして、工場内の作業員や運搬車両が、どこでどのように動いているのかを把握することができるトラッキングシステムを作った。間違いなく顧客ニーズはあり、大企業との取引も始まった。しかし、営業を始めてからサービス導入まで1年以上かかる。しかも、いきなり工場全体に入るわけではなく、限られたエリアで導入し、試行錯誤を繰り返して、効果を検証できたら、翌年度の予算で導入範囲を拡大していく。なので、採算に乗るまでは何年も赤字が続くことになる。202:コア技術は無線シグナルを活用した屋内位置測位技術
製造業向けの位置測位サービスにピボット大企業との取引のボトルネック。リードタイムが長すぎる。
これに関しては、製造業向けの営業をやったことのある人ならよく分かっていることだが、大手投資銀行や不動産投資ファンドでしか働いたことのなかった(そして、人脈も同類の多かった)Yさんや、元上司のCEOが知らなかったことだったのかもしれない。ピボットにも失敗したA社は、次の資金調達も難しくなり、会社売却を検討する。M&A仲介会社に入ってもらい、最終的には2社からオファーがあったという。
最後の2億円を調達した時の時価総額は20億円。M&Aで提示された価格は1〜2億円だった。2億円を提示したヘルス関連の上場企業D社の狙いはエンジニアの確保だった。基本合意書を結び、情報交換を始めるがその後のデューデリジェンスが遅々として進まない。キャッシュが尽きようというころ、「3000万円でなら」と連絡が入る。完全に足元を見られていたのだ!
さらに、「キーマン条項」が売却条件として入り、売却後2年間は、A社役員がD社社員として働かなければならない。この金額と条件では、「破産したほうがマシ」という結論になり、破産申立することになった。その前からCEOは癌治療しており、このタイミングでYさんは代表取締役になり、その後の破産処理をすることになる。
破産処理を終え、外資系コンサルティング会社に就職したYさん。久しぶりに従業員として働いてみたら、心地よかったという。スタートアップでの苦しい経営を経て、改めて大企業に身を置いて、安定性やお金に悩まされないことの価値に初めて気づいたのだ。208:「大企業でサラリーマン」ほど、安心できる場所はない次の資金調達のタイミングでは、既存投資家に損をさせたらマズいので、企業価値を下げるわけにはいかない。そうすると、会社の価値を”表面上”上げるために、事業の大きな成長ストーリーを描いて、それを定量化した事業計画を作らないといけない。それを何度も繰り返して、精神的に追い込まれていく。
2023年02月23日
LA発のバッグで一世風靡
4番目に登場するのは、アパレルブランドを経営していたYさん。一時はLA発のバッグで一世風靡したというから、KITSONか?
ファッションが好きだったYさんは、大学卒業後、有名ファッションビルで広報・販促業務を経験する。10年近く経った時、LA発のバッグブランドのアジアの販売権を所有する会社設立に参画し、日本代表に就任する。
ファッションが好きだったYさんは、大学卒業後、有名ファッションビルで広報・販促業務を経験する。10年近く経った時、LA発のバッグブランドのアジアの販売権を所有する会社設立に参画し、日本代表に就任する。
そこから共同創業者との決別、本国の商標権含め、ブランド事業譲渡のため、新たな共同経営者を入れて新会社を設立するなど紆余曲折がある。結局は、店舗展開で資金繰りが悪化し、最後は起死回生で出品したTVショッピングがきっかけで破産する。
120:TVショッピングの罠生放送中に完売!24時間中はキャンセル可能→4割キャンセル。
TVショッピングは一回で何億円も売れることがあるので、徐々に経営が悪化していた同社にとっては、魅力的だった。しかし、出品するには、品切れにならないために、事前に在庫を用意する必要がある。TVショッピングは委託販売なので、売れ残りは返品となる(*ジャパネットは買取りすることで、仕入れ値を押さえている)。
さらに、キャンセル可能なので、放送中に売れたと思っても、後からキャンセルされる可能性がある。番組中、ショーアップして盛り上げるので、それに気分が乗って注文する。翌朝、「必要か?」と思い直して、キャンセルが入るのだ。
TVショッピングでの販売を検討している会社は、その点はよく考えておいた方がいい。
さらに、キャンセル可能なので、放送中に売れたと思っても、後からキャンセルされる可能性がある。番組中、ショーアップして盛り上げるので、それに気分が乗って注文する。翌朝、「必要か?」と思い直して、キャンセルが入るのだ。
TVショッピングでの販売を検討している会社は、その点はよく考えておいた方がいい。
2023年02月22日
バイクレーサーから日本一の住宅販売業者に
3番目に登場するのは、プロバイクレーサーから日本一の住宅販売業者になったEさん。住宅販売会社を設立し、全国7拠点、年商50億円にまでなったが、共同経営者が会社資金を不採算事業に投資。これが原因で破産する。
本業は順調だったので、普通なら再生できそうなものだが、実はこの住宅販売会社はFCで、施工を行うFC本部との間で債権譲渡登記がされていた。つまり、販売会社には住宅販売に伴う債権が残っておらず、このために担保になるものがなく、金融機関の支援が得られなかった。
FC本部からしてみれば、販売会社が倒産して悪評がたっては全国の営業に影響が出るので、やむを得ない契約内容か。下の動画では、FC型だと「販売会社が倒産すると本部は責任を負わないから避けるべき」と言っており、そうしたFC型ハウスメーカーもあるのかもしれない。
破産後は、このFC本部に就職。もともとこの住宅会社のコンセプトに心酔して販売代理店を経営していたので、今ではわだかまりなく働いているという。
80:お客様から選ばれるために何をすべきか
当たり前のことを馬鹿にせず、愚直にやる。
86:破産の一番の原因は「つまらない遠慮」
共同経営者に対して、本来すべき確認を遠慮し、見ないふり。
2023年02月21日
炭シャンプーが大ヒット
2番目の事例に登場するのは、美容商品販売・サロン経営のSさん。もともとオーナー美容師だったSさん、ある時、消臭剤として話題になっていた竹炭をシャンプーに入れてみたらどうかと思いつく。
シャンプー製造メーカーと組んで、開発。完成した商品は、美容師の手荒れが防げるうえ、炭の吸着力を利用することで安全に毛穴の汚れを取り除けるという画期的な商品となった。
「炭シャンプー」が大ヒットし、有頂天になったのもつかの間、コピー商品が現れ始める。なかには品質の悪いものもあり、「炭シャンプー」の評判も悪くなる。また、商品者も新商品に移り気だ。
そんな中、美容室のプロが使うのとそん色ない濯ぎができるシャワーヘッドを開発する。この新商品での形勢逆転に賭けたのだが、価格が高く、濯ぎの効果が分かりにくいので、こちらは売れなかった。在庫を抱えて、負債額10Mで破産する。
睡眠障害とうつ病になり、「もう誰とも話したくない」状態だったという。SNSアカウントを削除し、連絡先も全部消去したという。そんな中でも、家族の支えで立ち直れた。起業して経営者となった息子に、「好事魔多し、気を付けろ」というと、「親父を見ていたから分かっている」と言われるそう。
ちなみに、シャンプーは弊害が多く、しない方がいいという説もある(動画)。
2023年02月20日
倒産社長に学ぶ
事業で成功するのはアートだが、失敗するのはサイエンスだと思っているので、「倒産本」は大抵読む。それらは大抵、事業がおかしくなり始めてから倒産に至るまでを分析しているのだが、本書は、起業家の生い立ちから、どういう経緯で起業し、それが成功してから、倒産に至り、さらには経営者がその後何をしているかまでカバーしているのが新しい。
言ってみれば、成功談だけで終わる立志伝ではなく、8人の実在起業家の人生の浮き沈みを見せ、倒産するとどういう事が起こるかを説明している。その結果、起業して倒産すると何が起きるかを疑似体験でき、必要以上に怖がることもなければ、能天気に最悪の事態を考えずに起業することもなくなる効果を狙っていると思われる。
はじめに:起業から成功、そして倒産から現在に至るまで日本の居酒屋で世界に挑んだ飲食事業経営者、常識はずれの商品を大ヒットさせた美容商品販売・サロン経営者、バイクレーサーから転身し、売上数十億円を達成した住宅販売会社経営者、LA発のバッグで一世を風靡したアパレルブランド経営者。
最初に出てくるのは、居酒屋チェーンを経営していたHさん。「3000円でお釣りがくる専門店」というコンセプトが受け、36店舗まで急拡大する。
23:事業のスピードに人材育成が追い付かないマネージャークラスや経営幹部層の育成が難しい。
このため、店舗のサービス品質が落ち、客足が落ちる。さらには、東日本大震災が起き、3月の送別会、4月の歓迎会が無くなったことで、資金繰りに窮する。業績のいい店舗から売却していくが、ついには破産の道を選ぶ。
31:倒産後、東証一部上場企業2社から好条件でオファー自分が36店舗のオーナーだった時に困っていたことを解決する飲食店向けサポートサービスを企画し、立ち上げ。
倒産後は就職するのだが、自己破産した人間を雇うところなどあるのかと思っていたが、それは杞憂に終わったという。雇う側からすれば、普通の会社員の何倍もの経験をした人なのだから、本人が前向きに勤めてくれれば、欲しい人材なのは間違いない。
43:倒産
債務整理を弁護士に依頼する大半が(事業再生ではなく)破産を選択。
破産手続きは債権者の同意を得る必要がなく、確実に債務整理を進められるから。
44:個人破産すると
・信用情報登録(ブラックリスト)
5年間クレジットカードの利用や、新たな借金を組めない。
・官報に氏名・住所掲載
・職業・資格に制限
免責決定確定まで、弁護士、司法書士、公認会計士、警備員、生命保険外交員などの職業には就けない。
2023年02月19日
「もう一つの事実」
多くの人が驚いたのが、トランプ(前)大統領が言い出した「もう一つの事実」(alternative fact)が受け入れられたこと。
236:彼が既存のメディアのニュースは嘘ばかりだと言い出した当初、人々は苦笑してやり過ごそうとした。合理的に考えれば、気候変動など起こっていない、アメリカが闇の政府に操られている、そんなことを信じる人間はいないだろう、と。しかし、嘘や、嘘の入り混じった主張が繰り返されることで、これは徐々に「もう一つの事実」としての地位を獲得する。
236:ドナルド・トランプ「もう一つの事実」世界中で「私にとっての事実」が解禁。それまでは、根拠のないことを主張することには躊躇があった。特に責任のある地位にある人はそうであった。(中略)証明できなくてもいい、と一国の大統領が言った。
世界最大、最強の経済と軍隊を持つ国の大統領が、根拠なく、「私のとっての事実」を主張するのだから、前代未聞の事態だ。メディアも「事実確認」サイトを作り情報発信しているが、トランプ支持者はそもそもメディアを信じてないのだから、聞く耳持たない。
検証には莫大な労力が係るので、誰がそのコストを負担するかという問題がある。研究者の場合は、それを論文にして実績にするという方法があるが、他人の主張の検証するのと、自分の研究を進めるのとどちらに時間を割いた方がいいかという選択肢になる。歴史修正主義は素人の愚論であるから相手にすべきではないと言って概ね無視してきたのが、これまでの歴史研究者であった。156:歴史の歪曲や否定を「確定」することは難しい日本でも、著名なドイツ指嗾の研究者が、架空の人物による著作や史料を捏造し、これらに基づく本や論文を書き、学術賞さえもらっていた事実が2019年に明らかとなっている。この件でも、注にある史料の信憑性に対しては長年疑念が示されていたが、実際にそれらが実在するかを調べる労を厭わない人はなかなか出なかった。
200:フランス「記憶の法」
フランス革命により共和制を打ちたてたこの国は、人種・民族・宗教などの違いを不問に付して「フランス人」としての国民形成を図ってきた。「日々の国民投票」により国家の理念に賛同し、国民であることを肯定して、政治に積極的に参加する人を「フランス国民」と位置付けてきた歴史。→フランス人としてのアイデンティティを可能とする歴史認識の育成重要視
202:ゲソ法
1945年のニュルンベルク憲章に定義された「人道に対する罪」の存在に異議を唱える者を処罰。
2023年02月18日
歴史修正主義
ドイツでは民衆扇動罪である刑法130条第3項(1994)で「ナチ支配下で行われた行為を是認し、否定し、矮小化する行為」を、第4項(2005)で「集会などでナチ支配を賛美・正当化し、公共の平穏を乱す」ことを禁じている。
ドイツ連邦統計局の直近のデータでは2019年の第3項による有罪判決は114件で、ここ数年、ホロコースト否定による有罪判決数は年間150件前後だそうだ。
近代的なドイツで、言論の自由を制限して、なぜそこまでやらなければならないか

はじめに:歴史的な事実も、攻撃にさらされてきた歴史学とは、過去が全体としてどうであったかを示す学問であり、一点から、一側面からのみ解釈することはしない。また複数の証拠を突き合わせることで判断する。これには専門性と長年の訓練が必要とされる。
5:「言語論的転回」による批判
この世界は、言語という記号により意味を与えられた相対的なもの。
このため、私たちが実態だと思っているものは「表象」に他ならず、その意味では歴史家が明らかにしているのは「事実」ではない。
9:歴史的な「事実」と「真実」の違い
「事実」(fact)とは私たちの認識の基礎となり、私たちの判断の根拠となるもの。
「真実」(truth)の在り方は人によって異なる可能性がある。
40:ニュルンベルク裁判への不満
国際軍事裁判所の設立を謳った1945年8月の「ロンドン協定」に基づく。
第6条 ドイツを裁く犯罪の概念「戦争犯罪」「平和に対する罪」「人道に対する罪」
43:1940年代後半のドイツ
ナチ時代はそれほど悪くなかったという認識が優勢。
1948世論調査
「ナチズムはよい理念だが実行の仕方が悪かった」YES6割
「指導者としてのヒトラーに肯定的評価」YES3割
52:ウード・ヴァレンディ1964『ドイツのための真実』
「真実」という言葉の多用。歴史修正主義者の特徴。
91:ホロコースト否定論
5割は事実、3割は信義のほどが明らかでなく、最後の2割が完全な嘘。
2023年02月17日
2023年02月16日
最適化ループ
「事前検死」はいいですね!「成長型マインドセット」で失敗に注目する。
163:我々は自分の周りで起こる出来事に絶えず意味を見出そうとする→必然的に講釈の誤り
人がもっともらしいと感じる説はシンプル。抽象的ではなく具体的で、偶然よりも誰かの才能・豊かさ・意図などが大きな役割を担う。起こらなかった無数の物事より、ほんの2,3の目を引く現象に目を奪われてしまう。
222:データでF1を勝ち抜いたメルセデス
「私がF1に携わるようになった頃は、マシンに取り付けたセンサーから収集できるデータは8チャンネルしかありませんでした。しかし、今その数は16,000もあります。そのデータから、さらに5万チャンネルを取り出せるんですよ」(イギリスのメルセデスAMGエンジニア)
225:最適化ループ
現代のF1で成功する秘訣は、大きな目立つ要素より、何百、何千という小さな要素を極限まで最適化すること。
230:RCT
2010年時点で、Googleは年間12,000という驚くべき数のRCTを実施している。青の色調を変えた結果、年間売り上げが2億ドルもアップした。
256:処遇を判断する立場の人間を、スタッフは信頼しているか?
本来、不当な非難をせずにミスの報告を促す組織文化と、スタッフに高いパフォーマンスを求める組織文化は共存可能。
293:成長型マインドセット
固定型マインドセットの被験者=間違いを無視
成長型マインドセットの被験者=失敗に興味津々
失敗への注目度と学習効果との密接な相関関係
325:究極の失敗型アプローチ「事前検死」
心理学者ゲイリー・クラインが提唱した「事前検死」
あらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定し、「なぜうまくいかなかったのか?」をチームで事前検証していく。失敗しないうちからすでに失敗を想定し学ぼうとする、まさに究極の「フェイルファスト」手法。
2023年02月15日
認知的不協和
“A blindfolded monkey throwing darts at a newspaper's financial pages could select a portfolio that would do just as well as one carefully selected by experts.”
これは、1973年の名著『ウォール街のランダムウオーク』にある有名なフレーズだ。これを実験すべく、WSJが1987年(だったと思う)から2001年まで、実際に猿に新聞の株価欄にダーツを投げさせて、そのパフォーマンスをプロのファンドマネジャーと比べたことがある。
結果は、「猿にだってできる」どころか、猿がファンドマネジャーを圧倒した

この実験を分析した研究者は、この結果は当然だという。
・小型株効果(ランダムに選んだ結果、小型株が多くなる)
・バリュー株効果(ランダムに選んだ結果、バリュー株が多くなる)
つまり、プロは安定した業績の大型株から選ぶことが多くなるが、猿がランダムに選ぶと、数が多い小型株が多くなるというわけ。注目されなくて株価が低迷しているバリュー株も偶然入ることになる。
これとは原因が違うが、未来予想について「専門家の予測の的中確率は、一般学生と大差はない」という実験もある。それどころか、「有名な専門家の予測ほど外れていた」という。
これは、「認知的不協和」が原因で、「自尊心」が学びを妨げるのだそうだ。
自分の発言が世間に広まりやすい有名な専門家ほど、生活も自尊心もその予測にかかっている。失敗しても自己正当化ばかりに躍起になって何も学べなくなる。
125:1985心理学者フィリップ・テットロック各界の専門家284人に特定の出来事がそう遠くない未来に起こる可能性を予測させる実験。
\賁膕箸陵渋の的中確率は、一般学生と大差はない
⇒名な専門家の予測ほど外れていた!
2023年02月14日
二つの業界の違い
本書で繰り返し対比されているのが、医療業界と航空業界の、「失敗後の対応の違い」。
医療業界:「言い逃れ」の文化航空業界:失敗と誠実に向き合い、そこから学ぶ業界文化。失敗は「データの山」。事故の調査結果を民事訴訟で証拠として採用することは法的に禁じられている。世界中のパイロットは自由に報告書にアクセスし失敗から学べる。
どちらも平均給与が高く、人気の職業。なのに、どうして失敗に対する対応はこれほど違うのか。
本書には記述がないが、一つには、飛行機事故が起こればパイロットも死ぬ確率が高いことがあると思われる。飛行機事故の場合、乗客だけ死んで、乗員だけが助かるということはない。従って、パイロット同士がニアミスを正直に申告し、記録を残して、互いにそこから学ぼうというインセンティブは働きやすい。
これに対して、医療業界の場合、医療過誤が起こって死亡したり、後遺症が残るのは患者のほうで、医療者側ではない。そして、そこには情報の非対称性があるので、「ベストを尽くした」「あの場合は仕方なかった」でほとんどの場合、言い逃れができる。
法的にも、航空「事故の調査結果を民事訴訟で証拠として採用することは法的に禁じられている」ということなので、医療過誤が明らかになれば訴訟の危険があるドクターとは違う。
これに対して、医療業界の場合、医療過誤が起こって死亡したり、後遺症が残るのは患者のほうで、医療者側ではない。そして、そこには情報の非対称性があるので、「ベストを尽くした」「あの場合は仕方なかった」でほとんどの場合、言い逃れができる。
法的にも、航空「事故の調査結果を民事訴訟で証拠として採用することは法的に禁じられている」ということなので、医療過誤が明らかになれば訴訟の危険があるドクターとは違う。
気になるのは、著者の言う「医療業界の文化」。考えてみれば、互いに先生と呼び合う業界は、医療業界の他には、大学と政界くらい。これも、業界文化の象徴なのかもしれない。
81:医療業界の文化
解剖に対する後ろ向きの姿勢。
米国内での解剖件数は、全死亡者の10%に満たない。
学習機会は失われ、失敗は繰り返す。
82:ヒューマンエラー分野の世界的権威ジェームズ・リーズン
「医療業界は本質的にミスを招きやすい構造になっている。しかし医療スタッフは失敗を不名誉なものと決め、エラーマネジメントの訓練をほとんど、あるいは一切受けていない」
2023年02月13日
失敗から学習する組織、学習できない組織
著者は1970年イギリス生まれの異色のジャーナリスト。オックスフォード大学哲学政治経済学部(PPE)を首席で卒業後、卓球選手として10年近くイングランド1位。
誰もがみな本能的に失敗を遠ざける。だからこそ、失敗から積極的に学ぶごくわずかな人と組織だけが「究極のパフォーマンス」を発揮できる。
22:医療過誤は「10人に1人」
組織文化に関わる潜在的な要因。
25:クローズド・ループ現象
失敗や欠陥に関わる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象。
⇔「オープン・ループ」失敗は適切に処理され、学習の機会や進化がもたらされる。
40:「上下関係」がチームワークを崩壊させる
一つの問題に集中するあまりの認識力の低下。
社会的圧力、有無を言わせぬ上下関係が、チームワークを崩壊させる。
2023年02月12日
短期的に評価を下すべきではない
「禍福は糾える縄の如し」という言葉があるが、人生同様、国家の歴史も「どこで切り取るかで評価は変わる」ので、「短期的に評価を下すべきではない」という。
例に挙げられているのは、中国史唯一の女帝「武則天」。唐の初期、残虐な手法を含むあの手この手を使って帝位についた。このため、中国では歴史的に否定的評価になっている。
しかし、武則天が政治的ライバルを次々と暗殺し、「”結果的に”中央集権化が進ん」だことで中国は国家としてパワーアップし、唐は歴史上類をみない大帝国になっていく。対抗勢力になりかねない世襲貴族を追放して実力主義的な人材登用システムを採用する。このため、科挙出身の官僚を重用したのも武則天であった。
こう考えると、「天下の悪人」と言われてきた武則天は中国をスーパーパワーにした功労者であるといえる。そして、この中央集権化が、今度は”結果的に”中国を弱体化させることになる。それは、イギリスで産業革命が起こったのがきっかけだった。
147:資本主義がイギリスで始まった理由
欧州主要国の中でもっとも王権が弱かった。だからこそ個人一人ひとりの自由な経済活動が成立しやすく、産業革命も起こり、資本主義が生まれた。
150:フランス革命の「人権」という概念が、のちに数千万人を殺す世界大戦につながった
国民主体の国民国家の成立。
197:生き方を選ばなければいけない現代
人々が過去のあらゆる時代よりも自由→生き方を自分で決めなければいけない
2023年02月11日
歴史思考
長年聞いているPodcastの番組の一つ「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」。それを制作している株式会社COTEN(福岡)の代表取締役による初の出版。同番組は2019年にJAPAN PODCAST AWARDSを受賞している。今年、ACC TOKYO CREATIVE AWARDSでグランプリも取ったらしい。
同社がミッションとしているのが、書名にもなっている「歴史思考」。
同社がミッションとしているのが、書名にもなっている「歴史思考」。
歴史思考:歴史を通して、自分を取り巻く状況を一歩引いて、客観的に見ることあなたを苦しめている「当たり前」が当たり前ではないことに気づき、目の前の悩みから解放される。
18:「同性愛=悪いこと」という価値観になったのは、キリスト教など一神教の世界だけ
古代ギリシャや中国、近世までの日本では、男性同士のセックスは普通。
27:実在のイエスは、地方都市で処刑されたちょっとエキセントリックな元大工
話はうまかったらしい。
34:イエスと孔子の共通点
世界を変えることになる『新約聖書』と『論語』は、いずれも彼らの死後、かなりの時間が経ってから後世の人間たちによって書かれた。
2023年02月10日
反復と変異
経済的ナラティブは繰り返し現れるが、まったく同一ではないという意味で、疫学における感染症の流行とそっくりだという。
157:疫学におけるスペイン風邪は、経済学における1930年代の大恐慌の軌跡とそっくり大恐慌の「病気」は運んだのがウイルスではなくナラティブだという点だけがちがっている。
158:金銀複本位制ナラティブ
ビットコインと深い共通性を持つ一方で、ウィリアム・ジェニングス・ブライアンの代わりにサトシ・ナカモトが登場。次の新たなお金のナラティブは、また別のセレブの名前を持つだろう。ブライアンが今日ほぼ忘れられたように、ナカモトも将来はほぼ忘れられる。
245:1900年大統領選マッキンリーとブライアン
金銀複本位制が争点。
250:BC8ホメロス叙事詩『イーリアス』
御者のいない車両、自力で移動する三脚器「自動」
2023年02月09日
ナラティブ経済学7つの主張
結局、人々が面白いと思うものが広まり(真偽は関係なく)、さらには、言い出したのが有名人ということにも変わっていくこともある、ということ。人類は物語が大好き。
О果性とナラティブ群
109:感染性の新しいナラティブを作る「少数の人」の影響
ナラティブは通常セレブと関連付けられるが、感染性ナラティブを発明する「少数の人」は通常は有名ではないし、それがだれなのかは決してわからないことが多い。
┘淵薀謄ブ経済学7つの主張
1.流行は速度も規模も様々
2.重要なナラティブは世間的な話題のごく一部でしかないこともある
3.ナラティブ群は単独ナラティブのどれよりも影響が強い
4.ナラティブの経済的な影響力は変化するかもしれない
5.虚偽のナラティブを止めるには真実だけでは不十分
6.経済ナラティブの感染は反復機会を利用する
7.ナラティブはつながりで栄える:人間的興味、アイデンティティ、愛国心
143:「ウソの物語のほうが、真実に比べてTwitterでのリツイートが6倍に上る」(300万人が広めた噂126千件調査)
150:時には、一般人が適切で気の利いた台詞を吐くが、そうした引用は改変されて、言い出したのが有名人だということにならないと感染しない
社会主義者のスローガン「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」
カール・マルクスによるものだとされてきたが、実際には社会主義哲学者ルイ・ブラン(1851)。ルイ・ブランは20世紀初めまでマルクスより有名だったが、今日ではほぼ忘れ去られている。だから20世紀半ばにそれがマルクスによるものとされた。それを行った無名人は、新しいセレブを追加することで改変版の流行を創始させた。
2023年02月08日
なぜ一部のナラティブが流行るのか?
ラッファー曲線といえば、「政府が減税しても歳出を減らさなくていいという説を正当化するために経済学者アーサー・ラッファーが1974年のディナーで作ったグラフ」として知られる。
それまでの常識は、政府が減税すれば歳入が減り、歳出がそのままなら財政赤字になり、これは通貨安や国債価格が下がることでインフレにつながる。だから、出来ないというものだったが、ラッファーは、政府が減税すれば景気刺激策になり、また人々の勤労意欲が増すから、課税所得が増え、税率を下げても税収は減らないと考えた。
言ってみれば、最近まで流行っていたMMTみたいなもの。インフレさえ起こさなければ「政府歳出は無限に増やしていい」とするものだが、歴史の示すところは、政府歳出が増えれば必ずインフレが起こっており、前提条件がおかしい。そんな話を一時は真面目にする学者もいたから、後先考えず歳出を増やして人気取りをしたい政治家におもねる誘惑は強いということだろう。
ラッファー曲線に飛びついたのは当時のアメリカ大統領レーガンで、減税と歳出増を同時にやった。結果、好景気になり当初国民は喜んだが、当然、後からインフレになり、所得格差は拡大した。アメリカではその後増税と減税が繰り返されているが、「ラッファー曲線」以前の高税率に戻ることはなく、その流れが未だに続いているといえる。
前置きが長くなったが、本書の本題はナラティブ。「税収が最大になる最適な税率がある」という考え方自体は昔からあった。では、ラッファー曲線がそれほど有名になったのはなぜか?それが、ラッファーが、それを政府高官とのディナーの席で、ナプキンに書いて説明したというエピソード。
このナプキン話がヴァイラルになって、影響力を持つようになったというのだ。そこには、「この物語が伝える緊急性とひらめきのような感覚」がある。この物語の豊かな視覚イメージ(ナプキンという視覚ディーテール)が、これを経済的な小話として人々の記憶に留めさせたという。
ちなみに、このナプキン話は、ラッファー自身が後に否定している。そのディナーの場は、ワシントンの高級レストランであり、ナプキンは当然布だった。
「布のナプキンにペンで書くようなマナー違反はしません」
ちなみに、このナプキン話は、ラッファー自身が後に否定している。そのディナーの場は、ワシントンの高級レストランであり、ナプキンは当然布だった。
「布のナプキンにペンで書くようなマナー違反はしません」
2023年02月07日
物語と経済の関係
楠木健は『ストーリーとしての経営戦略』で、「優れた経営戦略は思わず人に話したくなるようなストーリー」であると言った。本書の著者であるシラー教授(ノーベル経済学賞)は、「物語は経済さえ動かしている」のではないかという。
はじめに:ナラティブ経済学とは何か資本主義を動かす物語の力。物語の感染が経済事象にどう影響するか。
訳者あとがき(山形浩生)
特に現在、ニュースや新聞記事、書籍内の用語登場頻度の検索を通じて、世間的なナラティブの普及や流通について計測しやすくなっている。最近ではツイッターやSNSなどで、各種のナラティブの普及の様子を細かく追えるようになっている。
セレブは時に自分で自分のナラティブをでっちあげる。トランプの場合がそうだった。
特に現在、ニュースや新聞記事、書籍内の用語登場頻度の検索を通じて、世間的なナラティブの普及や流通について計測しやすくなっている。最近ではツイッターやSNSなどで、各種のナラティブの普及の様子を細かく追えるようになっている。
セレブは時に自分で自分のナラティブをでっちあげる。トランプの場合がそうだった。
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20:「ギャンブルの装置」(ウォーレン・バフェット)
一致性の冒険
違った学問分野、特に科学と人文学との間での知識の統合化。
34:歴史とナラティブ
「歴史の深い理解には、歴史を作り上げた当事者たちの念頭に何があったかを推測することが必要」(歴史家ラムゼー・マクマレン『歴史における感情:古代から現在へ』2003)
35:自社の創業と価値観についての物語
個々の企業によらない共通の特徴。原始的な部族が自分たちの起源について語る創造神話に相当。
2023年02月06日
世界で最も貯蓄をしない国
かつての日本は「世界で一番貯蓄する国」だった。高度経済成長期には家計貯蓄率は20%を超えていた。今でもそのイメージを持っている人が多いのだが、実は、今の日本は「世界で最も貯蓄をしない国」になっている。
貯蓄率が重要なのは、経済学的に「貯蓄=投資」だからである。家計の収入の中から、支出を行い、残ったお金が貯蓄され、それは銀行など金融機関を通じて融資に回ったり(間接金融)、あるいは株式などで企業に投資される(直接金融)。投資が起こらなければ、経済は発展せず、所得も上がらない。
「日本は高齢化が世界一進んでいるから貯蓄できない」というのも一理あるが、日本ほど急速でないにしろ、欧米でも高齢化は進んでいる。それでも、欧米各国の貯蓄率は下がっていない。
スウェーデンのように上がっている国もある。これは1990年代に一度財政破綻し、それまでの高福祉政策を見直したからだと思われる。政府が何でも面倒を見てくれなくなったので、いざという時に備えて貯蓄の必要が出来た。加えて、構造改革が行われ、経済成長率が上がった。
面白いのは、欧米で珍しく、日本同様に貯蓄率が下がっているイタリア。ご存じの通り、EU加盟国内では、最悪に経済状況が良くない。要するに、大半の欧米諸国は経済発展を続けているので所得も上がり、自然と貯蓄もできているということ。日本とイタリアは、産業構造の転換が遅れ、経済成長できず、所得が上がらないから貯蓄もできない。両国には既得権者が強いという共通点がある。
国内で貯蓄が出来ず、投資できない国というのは、経済学的には「発展途上国」か「衰退国」ということになる。発展途上国は平均年齢が若く、人口が増えているので、投資すれば儲かる可能性が高いから海外から投資資金を集められる。衰退国はそうではないから、構造改革で自国で何とかするか、新たに「成長ストーリー」を作らなければならない。
それが、アベノミクスの「第三の矢」だったはずだが、弦は十分に張られることがないまま、矢は地に落ちてしまった。
日本の課題/邑減少、少子高齢化(65歳以上28%で世界一)→∈眄赤字→支出削減「安倍首相と黒田総裁は日本を破滅に導いている」E豕五輪で経済停滞(ますます財政悪化)さ蚕冦呂陵グ明→IT人材育成ソ性の社会進出ο係紊良坩О槎閏け入れ

2023年02月05日
生涯投資家vs生涯漫画家
何かで話題になっていたので図書館で借りて読んでみる。「生涯投資家」の村上世彰と「生涯漫画家」の西原理恵子の対談集。村上氏は1959年生まれ、西原氏は1964年生まれというから、ほぼ同世代だ。西原氏の漫画は読んだことがないが、パートナー(事実婚)はかの高須克弥ということ。西原氏は高須克弥記念財団の理事長らしい。
中身はハッキリ言って薄い。これまで投資とかお金について考えたことがないという人にとっては導入としていいのかもしれない。
逆に、興味をひかれたのは、西原理恵子の生い立ち。高知市の浦戸生まれ。桂浜の近くにある漁村だ。その家庭環境が凄まじい。(Wikipedia)
実父は入退院を繰り返すほどのアルコール依存症であり、母親は理恵子の妊娠中に離婚した。母親は理恵子の兄を連れて実家に帰り、そこで出産・育児をしている。そのため、理恵子が3歳の時に1度も会わないまま、実父はドブに転落して死亡した。
6-7歳の時に母が再婚し、義父となる宏と同居を始める。相手は無類のギャンブル好きで何十種類もの仕事を転々とし、バクチとオンナに入れ込むが、理恵子をわが子のように可愛がっていた。しかし、義父は一週間に一度くらいしか家に帰ってこない上に、理恵子の母親のお金にまで手を出す人物であり、家計は火の車で怒鳴り声が絶えず飛び交う家庭であった。義父は何度も職を変え、家庭は経済的にも浮き沈みの激しい生活を送った。
地元はどこを見ても父親が妻を殴っていて、大人が子どもをぶん殴っていた。女の子は16歳ぐらいで妊娠、18歳頃に別の男に変えてまた妊娠といういうのが普通であった。貧乏人、離婚だらけ、養育費も貰っていない女性ばかりで、手本になる女性や憧れるような女性はおらず、子どもながらに「立派な女性」はテレビに出ている芸能人みたいな夢の存在であった。高知にいたら立派な女性に会えないので、「ここじゃないどこかに行きたい」と考えていた。それで、最後は、母親が死守したなけなしの100万円で上京。大検に合格し、予備校に入って、美大を目指す。武蔵野美術大学卒。
130:日本の中だけで考えていてはいけない(村上)
僕の父親は当時日本が統治していた台湾で日本人として生まれ、来日しました。ところが、戦争が終わったら「お前は日本人じゃないから台湾に帰れ」と。
158:みんなヤンキーで農協の言うこと聞かなくて「農薬なんかめんどくさくて撒けるか」(西原)
そしたら無農薬米とか無農薬野菜ということで売れるようになった。
165:唯一お金を使いたかったのが家(西原)
隣の部屋から子供がバンバン怒鳴られてる声が聞こえてきたり、やっぱり家が狭いと荒む。
2023年02月04日
CFO20分野270スキル
驚くのが、CFOに必要な20分野の計270スキルが羅列されていること。CFOと呼べるには、270スキルのうち約60%の160スキルを実務で習得することが望まれるという。
実はこのスキルは全てビジネススクールの標準カリキュラムに入っている。なので、著者も、MBAで効率よく学び、その後、実践で習得することを薦めている。
経営企画 107スキル
〃弍沈鑪・事業戦略 37
企業価値検証(CVI) 37
6叛喨析・管理 5
IR 8
ゲ歛蝓μ簑蟆魴茵13
Δ修梁勝7
ファイナンシャル 97スキル
Ш睫魁56
┠侏 35
税務 6
その他スキル 46スキル
オペレーション管理 7
購買・販売管理 6
マーケティング 8
情報システム 9
人事・総務管理 8
グループ経営管理 5
哀哀蹇璽丱襯咼献優后3
マネジメント力 20スキル
吋蝓璽澄璽轡奪廖6
佳仗祐愀検環境適応 5
殻簑蟆魴茵意思決定 4
缶槁乎成力、自己管理 5
62:CFOキャリア年表
修行期→勝負期(42~)→サポート期(55~)
63:CFO人材も一流レベルに達すると「独立」の夢
勧めない。オーナー経営者として独立すると、CFOのときには及びもしなかった難題がふりかかる。社会貢献、サポート役に回るのが良い。独立して後悔する理由のほとんどが、営業の難しさ。
76:日本のCFO人材の弱点
『失敗の本質』と共通
\鑪性(戦略構築力)の弱さ
革新に弱い思考法
4存のルールに習熟することのみで、ルールを作り出すことができない
ち和い任呂覆、方法(型)に依存する
ジ従譴魴攣襪靴ち
Υ超変化を乗り越えるための強いリーダーシップが欠如
Ц靴靴じ充造北椶鯒悗韻覺躙韻併弭佑悗僚乎調鏡
2023年02月03日
「資本効率を上げ、企業価値を最大化する」
CEO、COO、CFOという名前だけはやって、日本でもCXOだらけになったが、ではCFOが従来の財務部長や管理本部長と何がどう違うのかは、殆どの人が分かっていない。本書の著者は、90年代末から長年にわたり、主にバイアウトファンドの要望に応じて、買収先に派遣するCFOのサーチ、そしてその絶対数が足りないから、CFO育成のための団体も立ち上げて、いわば日本におけるCFO布教に携わってきた方。
本書が他の本と違っているのは、目指すべきCFO像を示して、そうなるにはどういったスキルが必要で、そのためにはいつ頃どういう経験を積むべきかまで具体的に示していること。コンパクトだが、これだけ読めば、CFOがどういう仕事で、どうしたら成れるかがほぼわかる。
まず、最初に、「CFOとは何か?」で次のように定義している。
〇般資本効率を上げ、企業価値を最大化する。¬魍・経営戦略・事業戦略の立案、実行・企業価値検証(リスクマネジメント含む)・財務戦略・財務計画の立案、実行・IR責任業務・経営企画・ファイナンス
従来の日本企業では、売上や利益といった目標があっても、「資本効率を上げ、企業価値を最大化する」といった効率項目や企業価値という概念が永らくなかった。企業価値=時価総額では必ずしもないが、時価総額が日々株式市場で付く上場企業でも、バブル崩壊までは会社の時価総額など気にしてない会社も多かった。
5:CFOは「経営参謀」
×大企業に見る「財務本部長」ではない
×中小・ベンチャー企業に見る「管理本部長」でもない
14:企業価値検証(CVI)
ヾ覿伐礎揺床
・経営戦略・事業戦略に沿っているか
・企業価値成長サイクルに貢献しているか
・PDCAサイクルに停滞はないか
▲螢好マネジメント
・内在する潜在リスクはないか
・リスクがあるとして、ヘッジを含むその対策は万全か
2023年02月02日
CFO経営
.┘セレント 高収益で高成長→高ROE▲瓮織棔々蘯益だが成長ストップ→低ROEトラディショナル 成長持続だが低収益→低ROEICU行き 低収益&成長ストップ→倒産危機
その「メタボ企業」の例として挙げられているのが、養命酒製造。創業慶長7年(1602)というから、徳川幕府より長生き。その上、高収益(売上高純利益率10%)で好財務内容(自己資本比率87%無借金)の日本人が好きそうな会社。しかし、総資産は480億円もあり、売上高106億円なので、総資産回転率は0.22。結果、低ROE(2%)低ROA(3%)。
売上は何十年間も伸びておらず、設備投資も更新するだけでいいから、ちょうど50年前の1972年を最後に公募増資を行っていない。要するに、何のために上場しているか分からない会社。2005年に大正製薬と資本提携しており、同社が20%を保有する持ち分適用会社。
アメリカなら即バイアウトされそうな会社。当然、日本でもしょっちゅう打診されているはずだが、オーナー家にとっては現状のままで特に問題ない。大正製薬が子会社化して伸ばせばいいのにと思うが、それが長寿企業を貴ぶ日本。
プロローグ:パブリックカンパニー
公的な会社として、社会において経営の範を示し、常に成長し続ける義務がある。
53:原点回帰のROE
ROE=当期純利益/自己資本=当期純利益率x総資産回転率x財務レバレッジ
93:CFOは企業経営者
CEO=経営全体を見渡し、方向性を決める「戦略立案と意思決定」
COO=やると決めたことを最適な方法で実行する「執行」
CFO=投資意思決定を行う「財務」
98:「突然銀行から融資を打ち切られた」

第三者的にはその1年も2年も前から予測できたこと。
129:新規事業投資
入り口は広く、ロスカットルールは明確に。
当面のCFのマイナス幅が、自己資本と既存事業CFで穴埋めできる範囲に留めるのが原則。

2023年02月01日
ネバー・ギブアップ
最終章は、本書の副題のもとになっている「ネバー・ギブアップ」。経営危機を乗り越えてきた経営者GMO熊谷正寿とUSEN宇野康秀を取り上げる。二人とも日本のインターネット・ビジネス黎明期から関り、生き残った経営者だ。
それぞれ若くして経営者となったネット・ビジネス創業者。GMO熊谷社長とUSEN宇野社長は、父親が経営者で若い頃は反発しながらも、それぞれ影響を受けている。
686:動物と人間の違い
「人間は書物を通じて人の一生を数時間で疑似体験できる。だから本を読め。生涯、勉強し続けろ」(GMO熊谷社長の父親)
690:USEN宇野社長の父
元忠は中国から渡ってきた華僑の出身。
698:熊谷正寿
「インターネットでやるべきは鉄道系財閥が築いたビジネスモデル」
708:1998大阪有線二代目社長に就任「正常化宣言」
全国720万本ある電柱のすべてを調べ尽くす。無断使用が確認できれば電柱の持ち主に対して過去の分も含めて使用料を払い、新たに利用契約を結ぶ。
710:「これ以上、私たちを苦しめないでください。死んでください」
宇野社長の自宅に届いた小包に血の付いたわら人形(ある支店の女性社員からと判明)。
715:まぐまぐ大川社長
まぐまぐが抱える登録者数は1400万人。GMOと合弁でメルマガ広告配信「まぐクリック」→史上最速の会社設立から364日でナスダック・ジャパン上場。
730:シティズ判決
2005年8月GMOがオリエント信販買収270億円
2006年1月最高裁が「グレーゾーン金利」について、業者側に返還を求める判決
GMOも300億円の引当金→自己資本比率49.6%→0.5%
732:GMOの組織作り→宗教団体を研究
「同じ場所に集い、同じものを読み、同じものを身に付け、同じポーズを取る、そして神話がある」→GMO「スピリットベンチャー宣言」を唱和
749:USENの「売れ残り」
U-NEXTをMBO→2014マザーズ上場
インテリジェンス、USENに続いて3社目の上場。
2017追い出されたUSENを買収し、経営統合。