2022年08月
2022年08月31日
帝国主義の終わり ノーム・チョムスキー
第二章は、「帝国主義の終わり」（ノーム・チョムスキー）。ノーム・チョムスキーはMIT言語学教授にして、哲学者かつ政治活動家。「プラトン、フロイト、聖書と並んで、最も引用回数の多い著者」だという。「生きている人の中でおそらく最も重要な知識人」（NY Times）との声も。
82：アメリカが考えているのは「核抑止」ではなく「核支配」
2010NATO「無差別の相手に対する核兵器優先使用権をかざして、世界を威嚇することが重要」
87：ディエゴ・ガルシア島
もともとイギリスの植民地。アメリカの要求に従って、島民を追い出し、アメリカが巨大軍事基地を建設。中東や中央アジアへの爆撃基地。核兵器保管。オバマ政権下で、核潜水艦のための設備拡張。
89：アメリカ帝国主義
1980年代、レーガン政府は中央アメリカで凶暴なテロリスト戦争。何万人もの人々が殺され、4ヵ国が破壊される。
98：自由国家では、国内の支配がごくわずかの巨大なパワープレーヤーに集中してしまいがち
アメリカでは1/3が聖書に書いてあることを文字どおり信じている。この二つが一緒になると危険。
106：福音書は異端の書
4世紀になって、ローマ皇帝コンスタンティヌス1世がキリスト教を公認してから、キリスト教が迫害される立場から今度は迫害する立場に。
111：MITのような世界的に優れたエンジニアリングとサイエンスの大学では、授業に出てノートをとり、それを試験で再確認するようなことは一切期待されていない。むしろ、たとえば教授の言っていることに見事に挑戦できること、あるいは、他の人たちと協力して独自の創造的な仕事をすることが期待されている。
120：大躍進（great leap forward)
約5万年前、ごく小さなグループの人間が東アフリカを出て、急速に全世界に広がっていった。それ以来、認識能力の進化は起こっていない。その頃、記号を使った行動や表記が始まり、天体の記録や複雑な社会構造が生まれ、考古学上の記録だけでも、人間能力の突然の進展や向上が見られる。
122：音楽・数学・アートは言語の副産物
数学の基本的な部分は言語の副産物である可能性が高い。言語の要素をその骨のレベルまで削ると、ほぼ数学的なものに帰趨する。
2022年08月30日
文明の崩壊
進行中のウクライナ戦争はじめ、印象としては、昔の伝統的社会は貧しくも平和であり、近代国家が成立してからは戦争は総力戦となり、大量殺戮が始まったと考えがちだ。
しかし、『銃・病原菌・鉄』で有名なジャレド・ダイアモンドによれば、「伝統的な社会では、殺人が日常茶飯事だった」という。
60：いったん政府というものができると、そういう国家社会では、実は戦争は時々しか起こっていないし、戦争が終結すると和平条約を結んで、それを遵守するようにしている。ニューギニアの部族社会における死亡確率のほうが、第二次世界大戦中のヨーロッパにおける死亡確率よりも高い。ここで、ダイアモンドは、数十年前に調査したニューギニアの部族社会と比べているが、欧米や中国でもそうだったのだろうか？確かに、中国古典を読むと神への生贄にしても、古代国家の戦争にしてもやたらと人が死ぬ。
外敵に攻められることがほぼなかった一方、自然災害は多い日本でもそうだったのかどうか？今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見ていると、仲間内の権力闘争で、次々と暗殺していく殺伐さに、さもありなんと思う一方、社会全体としてどうだったのかは分からない。再びダイアモンドによれば、
ということなので、どんな政府でも、秩序のために、ないよりはあった方が良いということになる。38：人間の暴力は今に始まったことではない他のチンパンジーを皆殺しにするという、チンパンジーの強い暴力性はよく知られている。
22：『銃・病原菌・鉄』
西欧の成功は、いくつかの幸運な地理的条件が偶然重なったから。ヨーロッパ人の能力が他の地域の人々よりも優れていたのではない。たまたま良い気候にめぐまれ、家畜化できる野生動物や農業化できる野生植物がちかくにあった。そのうえユーラシア大陸という、同じような気候条件下で東西に広がっている土地だったために、家畜化した動物や農業化した植物を簡単に別の土地に広めることが出来た。
「肥沃な三日月地帯」
人類が家畜化に成功した動物14種類のうち13種類はユーラシア大陸にあり、Big5と呼ばれる羊、豚、山羊、馬は全て肥沃な三日月地帯で家畜化され、農業化に成功した50種類の穀物のうち30種類は、肥沃な三日月地帯にあった。
24：リーダーが大衆から隔離されると国が亡びる
14〜17世紀まで中国を支配した明朝の場合、当時のヨーロッパより優れた航海術を持っていたにもかかわらず、「海禁」という、領民の海上利用規制政策を実施したため、貿易が抑制されて経済の発展が妨げられ、西欧に後れをとってしまった。
26：『文明崩壊』
�ヾ超�に対する取り返しのつかない人為的な影響
��気候の変化
�Ｅ�対する近隣諸国との対立
�ねЧス颪�らの疎遠
�ゴ超�問題に対する誤った対処
31：アメリカ人の消費の半分が浪費
ヨーロッパのガソリン消費量は、アメリカの約半分ですが、どう比較してもヨーロッパの生活水準は上。
35：環境への衝撃をどう減らすか
日本では、徳川幕府が森林の保存に成功して、人口増加にともなう日本列島の環境破壊を未然に防ぎましたが、イースター島では、最後の一本の木まで切り倒されて、食料にする動物や鳥も消え、魚を捕るためのカヌーも作れず、ついには食人にまで追い詰められて、社会が崩壊してしまった。
2022年08月29日
現代最高の知性が語る
サイエンスライターの吉成真由美が10年前に「現代最高の知性」と言われる科学者10人にインタビューしたのをまとめたもの。吉成真由美さんの本を読むのは初めて。MIT卒で、ハーバード大学大学院修士課程修了（心理学部脳科学専攻）とある。大変な才女のようだ。
卒業後は帰国して、NHKディレクター。教育番組を担当し、担当した特集番組「21世紀は警告する」でノーベル賞学者の利根川進と知り合い、結婚。NHKは退職して、ボストン在住だという。それで、インタビュー相手がMIT筆頭にボストンに多いのか。
まえがき：
５：敵が百万あろうとも
世界の英知であるのはもとより、その正直さ、潔さ、勇気の点で、ぬきんでている。敵が数百万あろうとも、自らよって立つプリンシプルを曲げたりひよったりしない。
７：失われしロマンを求めて
文学も、音楽も、芸術も、恋愛も、結婚も・・・・・あらゆることが少しずつロマンティックではなくなってきている。恋愛も結婚も、「運命の赤い糸」というより、むしろ自らの遺伝子をうまく残すために、その可能性の高い相手を選んでいるということだし。
2022年08月28日
カンブリア宮殿
同じく、私が欠かさず見ているのが「カンブリア宮殿」。多くは企業トップが招かれて、その企業についてスタジオでインタビューされる。感心するのは、インタビュアーである村上龍の質問術なのだが、村上龍は事前準備をスタッフ任せにしないという。
201：村上龍さんの質問術「想定質問」を練るために、インタビュー相手のことを徹底的に調べ上げる。
1本の番組を作るために、その10倍もの取材をしている番組ディレクターが事前に、村上龍にその企業や経営者についての情報は届ける。しかし、それを上回る調査を村上龍は自分でやるという。
207：「準備して、好奇心を持って、疑う」
164：未来世紀ジパング
2012年12月10日「バナナとレアアース ー 価格暴落の裏側に中国の戦略と誤算」
178：高いハードルを飛び越える”池上力”
2013年10月テヘラン
20年くらい前に上野公園にたくさんいて話題になった「出稼ぎイラン人」。
2022年08月27日
「ガイアの夜明け」
「戦争が起きてもアニメをやっている」（はじめに）と揶揄されていたテレ東。言わずとしてた、日本経済新聞のTV子会社。地上波最弱だっただけに、「他と同じことをやらない」社風だった。上にあれだけいれば、真似では生き残れない。
日経新聞グループの強みを生かして、始まったのが、2002年4月スタートの日経スペシャル「ガイアの夜明け」。社運をかけた大型報道番組だった。その立ち上げから関り、後に「カンブリア宮殿」のプロデューサーになったのが、本書の著者大久保さん。
38：ガイアの夜明け「中国的”金の卵”1億人の大移動」
「2001年2月、中国内陸部、河南省の農村で、ガイアのカメラは一人の少女と出会いました」
厳建麗の家族は、父、母、2人の妹に祖母の6人。一家の年収は16000円。
75：「明日はもっと良くなる」2004年中国の流行歌
建麗は3年ぶりに実家に帰省。
78：北朝鮮に潜入
「日本で売られている、1着1万円未満の格安スーツ。生産地としては中国がよく知られているが、実は北朝鮮でも生産され、日本に輸出されている」
91：2002年「検証・アメリカ市場」
ジム・ロジャーズ「この20年間、原油も金も安すぎた。これからは商品の時代」
2022年08月25日
「自分が最も尊敬している人の下で働きなさい」
「10歳のときにはすでに、オマハ図書館にある『金融』という言葉がタイトルに入っている本はすべて、2回ずつ読みました」（『バフェットの株主総会』）というバフェットは、「大学で学ぶものなどない」と感じていた。6歳で小さなビジネスを始め、11歳で株式投資を開始したバフェットは既に「オマハでもっとも金持ちの16歳」だった。
しかし、国会議員だった父親の勧めで、ペンシルバニア大学ウォートンスクールに入学する。彼の懸念は現実となり、「会計やビジネスについて教授たちよりも彼の方がよく理解していた」ことから、2年で退学した。故郷のオマハに帰り、ネブラスカ大学に編入。1年で必要単位を取り、卒業している。
卒業後も大学の図書館で読書に勤しんでいたバフェットは、ベンジャミン・グレアムの『賢明なる投資家』に出会う。グレアムに直接学びたいと、コロンビアBSに進学。入学前に『賢明なる投資家』とグレアムの前著である『証券分析』は暗記するほど読み込んでいた。
バフェットは、他人の会社で働いたのは一度だけで、それがベンジャミン・グレアムが経営していた投資会社グレアム・ニューマン社。
働く人間を選ぶときは結婚相手を探すくらいの気持ちで臨みたいし、それを怠ればあっという間にポールを滑り落ちることになる。
185：バークシャー・ハザウェイの経費率は同業他社平均の1/250
決して実用的とはいえない建物を莫大な費用をかけて建てることほど、この二人（バフェットとマンガー）が忌み嫌うことはありませんでした。バフェットにとって質素倹約を重んじること、日々コスト意識を持つことは当然のことでした。
200：会議は最低限、手帳は真っ白
バフェットは会議にはほとんど出ませんし、電話もほどほどの本数しか出ることはありません。コンピュータはブリッジ以外に使わないため、メールの相手をする必要もありません。
219：猛烈な読書家
228：「自分が最も尊敬している人の下で働きなさい」（『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ！』）
238：「人生の目的は、愛されたいと思っている人たちから、ひとりでも多く愛されること」（『スノーボール』）
おわりに：バフェットは6歳で小さなビジネスを始め、11歳で初めて株式投資行う
同時に幼いころからたくさんの本を読み、「良き習慣」や「原理原則」を身につけるために懸命な努力をしている。
2022年08月24日
「投資の世界には、見送りの三振がない」
バフェットは比喩が巧み。だから、頻繁に引用される。面白いのは、バフェット本は毎年のように出版されるのに、バフェット自身が書いた本はないこと。
109：チャンスが巡ってきた時だけ、行動する
「投資の世界には、見送りの三振がありません。投資家は、バットを持ってバッターボックスに立ちます。すると、市場という名のピッチャーがボールをど真ん中に投げ込んできます。（中略）投資家がストライクをとられるのは、空振りしたときだけなのです」（『ウォーレン・バフェット自分を信じる者が勝つ！』）
123：大切なのは判断する回数ではなく、その質
「自分は一生に20回しかパンチを入れてもらえないカードだと考える。財務的な決定1回につき1度のパンチだ。小さなものにちょこちょこ手を出すのは控えるようになる。決定の質が上がり、大きな決定をするようになる」（『スノーボール』）
135：「株を買うなら、どんな愚か者にも経営を任せられる優れた会社の株を買いたいと思うでしょう。なぜならいつかは愚かな経営者が現れるからです」（『バフェットの株主総会』）
2022年08月23日
ビジネスの世界で最も危険な言葉
ビジネスの世界で最も危険な言葉は、次の5単語で表現できるという。
Everyone else is doing it.
つまり、「ほかの誰もがやっている」。これがいけないのは、思考停止になり、他人と同じことをやっているから大きく儲けられることもないだけでなく、それが問題行動や不祥事にもつながるから。
79：周りの声に惑わされず、自分の頭で考える
83：「『なぜ自分は現在の価格でこの会社を買収するのか』という題で、1本の小論文をかけないようなら、100株を買うこともやめた方がいい」（『バフェットの株主総会』）
87：横並び意識→問題行動・不祥事
ビジネスの世界で最も危険な言葉：Everyone else is doing it（ほかの誰もがやっている）
98：「他人が貪欲になっているときはおそるおそる、まわりが怖がっているときには貪欲に」（『スノーボール』）
2022年08月22日
Never bet against America
"Never bet against America"
「米国が衰退する方向に決して賭けるな」
あらゆる長期指標で、最も経済成長している米国。一人当たりGDPなら、米国より高い国は、欧州の小国を中心にある。しかし、経済成長という意味では、先進国では米国がダントツ。
社会の競争は激しいし、うっかりすると騙されることも多いので、生活は緊張を強いられる。そのためか、さまざまな幸福度調査では中位くらいであまり高くない。
強みとしては、才能に市場価格が付くので、世界中から能力の高い人が集まること。シリコンバレーの起業家の半分は移民だ。
27：ジェフ・ベゾスがITバブル崩壊後、全社集会で
「株式市場というものは、短期的には投票機、長期的にははかりである」（『ジェフ・ベゾス果てしなき野望』ブラッド・ストーン）
58：投資するに値する企業は、成長し続ける企業
そしてこの成長は「ほんの束の間の成長ではなく、可能な限り続くものであることが肝心」。
2022年08月21日
ハンニバル戦争後
ローマの名門家に生まれ、自信に満ちていた青年スキピオ。しかし、副官としてハンニバルとの戦争で連戦連敗。わが身の至らなさを思い知る。
そこで、まず、古今東西の戦史を研究する。それでは不十分と思い、次に行ったのは、当代一の戦略家であるハンニバルの徹底研究。ハンニバルになり切り、ハンニバルと同じレベルで考えられるように研鑽を積む。そうして最終的には、ハンニバルを打ち破る。224：スキピオ偉大なる凡夫になろう。自分が下らないからこそ、空の器になれるのだ。なるたけ多くを学んで、この身いっぱいに先人たちの知恵を蓄えるのだ。
ローマはカルタゴに莫大な賠償金を課す。カルタゴの執政官となったハンニバルは行財政改革に取り組み、あちこちの領土をローマに取られたにもかかわらず、賠償金を予定より早く支払う。カルタゴの経済力に驚愕したローマは、言いがかりをつけ、結局滅ぼしてしまった。街は元老院の命令によって17日間燃やされ、完全に廃墟となる。
298：共和制ローマ
ローマにおいて「王」ほど嫌われる称号はない。王を追放して、共和制を打ち立てた歴史を、誇りにしているからだ。王といえば専制的な暴君と同義であり、それを嫌うがゆえに共和制ローマでは、執政官をはじめ全ての政務官が独断を許されない二人制なのだ。
382：241BCカルタゴで傭兵の反乱
ローマがサルディニア島とコルシカ島を占領。
407：ハンニバル戦争後
ハンニバルはカルタゴの執政官に就任。数々の国政改革、なかんずく財政改革。
その尋常な仕事ぶりをローマは許さなかった。
411：この世では凡夫が勝つ
選ばれた人間の煌めきとは無縁ながら、生きる力、あるいは生きようとする意志の力、そのあさましいばかりの意欲に溢れているからだ。
ハンニバルが戦争を始めた動機も、凡庸極まりない感情だった。そのハンニバルを相手にスキピオがザマで勝つことができたのも、凡夫として勝ちに執着し、最後まであきらめなかったという、その一点ゆえの話である。
2022年08月20日
第2次ポエニ戦争
第2次ポエニ戦争（ハンニバル戦争）を題材にした歴史小説。主人公はカルタゴの英雄ハンニバルと対決した若き将軍スキピオ。
大きな歴史の流れで見れば、紀元前3世紀頃の大国カルタゴと新興国ローマの対決。カルタゴは地中海の南岸であるアフリカ北部（今のチュニジア）にフェニキア人が築いた都の名前。「ポエニ」はローマ人が用いるフェニキア人の別称だ。
17：カルタゴフェニキア人は通商民族であり、各地に交易港。北アフリカ中心に、西地中海全域に及ぶ巨大な勢力圏。
千年近く西地中海で栄えてきたカルタゴだが、そこにローマが勃興してくる。最初に衝突したのがシキリア島（シシリア）を巡っての攻防。もともとギリシア人の島だったが、ギリシアの勢力が衰え、カルタゴの勢力圏に入ろうとしていた。
18：264BC~第一次ポエニ戦争ローマが編み出した新戦術で海戦で勝利。「烏」船に鉤付きの稼働桟橋を装備して、介して敵船に兵士を乗り込ませ、甲板での白兵戦で勝負を決めてしまう。
第一次ポエニ戦争に勝利したローマは、シキリアをローマに編入。さらに、戦後カルタゴで傭兵の乱が起きたのを見て、その混乱に乗じてカルタゴ領であったサルディニア島とコルシカ島も占領してしまう。カルタゴにはこれを取り返すだけの力がない。これが、次の第二次ポエニ戦争の原因になる。
9：ローマの6大名家
コルネリウス、マンリウス、ファビウス、アエミリウス、クラウディウス、ウィレリウス
11：ハンニバル・バルカ
カルタゴ政府に任命された「リビュアとイベリア方面軍司令官」
イベリアに「新カルタゴ」と名付けた都を建設し、自らの横顔を刻んだ貨幣を流し、一国の王の振舞い。
54：ローマの執政官
2022年08月19日
「鷲は舞い降りた」その後
この「完全版」では、初版時に削除されていた戦後のエピソードが補完されている。作戦参加者で生き残ったのは、ドイツ落下傘部隊ではリッター・ノイマン副隊長のみ。彼は戦後フランス軍に参加し、ベトナム独立戦争で死んだ（ことになっている）。
落下傘部隊を悪天候の中、無事ノーフォークの海岸に届けたものの、帰還中に友軍機に襲われて（カムフラージュのため英空軍塗装を施していた）重傷を負ったゲーリケ大尉は、アムステルダムで遊覧船を運営している。
本小説はもちろんフィクションだが、史実も入っている。まず、ヒムラーの最後は本当。身分を偽って逃げようとしたが、捕まってイギリス軍の捕虜収容所へ。そこで、一捕虜としての待遇に我慢できず、自らヒムラーだと名乗ったそうだ。所長に待遇改善を交渉しようとして、その前に全裸で身体検査を求められる。待遇改善どころか、裁判で死刑になることを悟ったのか、その時に隠していた青酸カリで自殺している。
579：ハインリヒ・ヒムラー（親衛隊長官）
片目に黒い眼帯をかけ、兵卒の制服を着て、終戦直後のドイツの混乱状態の中に姿をくらまそうとした。イギリス軍につかまると、歯茎に隠していた小さなガラス瓶の青酸カリをのんだ自殺した。
581：マックス・ラードル（アプヴェールZ部第3課課長）
病人のまま生き延びて、バヴァリア・アルプスのホルツバッハという美しい村で、愛する妻トルーディと3人の娘たちと共に2年近く暮らしていた。そこで彼は、あの緊迫した数週間の日記を書き上げ、編集することに時間の大半を費やした。私が懸命に説得した結果、1973年6月のある忘れ難い週末に、彼の未亡人がついにその日記を読むことを許してくれたのである。
582：リッター・ノイマン副隊長
フランス外人部隊落下傘連隊の軍曹として、1954年にディエン・ビエン・フーで戦死し、あの暗夜、人生で最大のばくちを打った若い勇敢な船乗りパウル・ケーニヒは、連合軍が侵攻を開始した日の3日後、マルベリイ港を基地にしていたイギリス輸送船団に魚雷攻撃をかけ、彼のEボートがアメリカ駆逐艦の大砲で撃沈された。
2022年08月18日
IRA
作品中、一番の存在感を出しているのが、IRA兵士であるリーアム・デブリン。アイルランド一の名門大学トリニティ・カレッジで英文学を専攻した秀才だったが、父親がイギリス軍に暴行を受けたことがきっかけでアイルランド共和国軍（Irish Republican Army）に参加し、北アイルランドの独立のため軍事活動を行う。
アイルランド人らしい役作りで、酒飲みで、皮肉屋で、詩人。彼は先発隊としてただ一人、アイルランド経由でイギリスに送り込まれ、後から来るドイツ軍落下傘部隊のために車両その他を調達する。そのたった3週間の間に、地元の娘と恋に落ち、それが作戦に影響を及ぼす事になるのだが。
57：1901ボーア戦争
イギリス軍は、ゲリラへの対抗手段として農場を焼き払って全地域を掃討し、住民を強制収容所に送り込んでいた。
138：リーアム・デブリンIRA戦士
人生は不運な笑い草であったことを知り、それを笑う以外になすすべがないと決めた男の顔であった。
142：同
「この世は、万能の神様が、頭がどうかしているときに思いついた下手な冗談ごとにすぎないんだ。わたしはいつも、神様はその朝、たぶん二日酔いだったのだろう、と考えている」
146：同
「もちろん、それが戦争の帰趨になんら影響を及ぼさないこともたしかだ。イギリスは、たんに、アトリイを昇格させて空席を埋めるだけだし、夜はランカスター重爆が、昼は空の要塞が飛んでくることに変わりはない」
2022年08月17日
MI6
原作が1975年に出版されたJack Higginsによる傑作冒険小説。その後映画化されたのを見ていたのだが、原作を読んでなかったので、コロナ療養中に読んでみる。1992年に日本語訳が出た完全版。
イギリスの冒険小説らしく、舞台設定が巧みで、登場人物が多彩で国際的。それぞれが歴史的、国際的運命から、この敵地でチャーチル首相を誘拐するという計画に参加する。ドイツ軍情報局のカナリス提督は否定的で、まず成功の確率が少ないし、万一成功したとしても、次の首相が就任するだけなので、戦争の帰結に影響を及ぼさないから無駄だという。ドイツのヒトラー総統と、議会で選ばれるイギリスの首相の違いだ。
ドイツ秘密警察ゲシュタポ長官のハインリヒ・ヒムラーは、イタリアからムッソリーニをSS奇襲部隊がグラン・サッソから救い出したことを例に、実施をヒトラーに進言する。
44：ドイツ軍情報局アプヴェール長官ヴィルヘルム・カナリス提督「人が何といおうと、イギリス人はばかではない。英国諜報部第5部、第6部とも、オックスフォードやケンブリッジで学んだ非常に丁重な口のきき方をする若者を大勢使っているが、彼らは怪しいと思ったらなんのためらいもなく拳銃を撃つ」
有名な007が所属するのが、英国諜報部第6部で通称MI6。これはMilitary Intelligence 6の略で、直訳すれば軍情報部だが、実際は外務省管轄の情報機関だ。こう呼ばれるようになったのは、本格的に活動を始めた第二次世界大戦中、その存在の秘匿のために、陸軍情報部内の空き番号であった5番が保安部（国内担当）、6番が秘密情報部（国際担当）に当てられたからだ。
長年、その存在は公然の秘密になっていて、イギリス政府は存在を認めていなかった。関連法が整備され、その存在を公式に認めたのは1994年のことだった。最近では、MI6長官が歴史上はじめて公開演説した（中国の脅威について）。
2022年08月16日
1906（明治39年）「馬匹改良計画」
戦前の方が競馬は盛んだったよう。当初は、不平等条約改定のため、欧化政策の柱として。
1879年に設立された「共同競馬会社」の社長は小松宮彰仁親王。副社長は、毛利元徳。幹事には、伊藤博文、西郷従道、松方正義、岩崎弥太郎が名を連ねた。そして、会計は三井八郎右衛門
正に、当時の政財界のWho's Who。会員は606人に上り、鹿鳴館内に設置された東京倶楽部の270人をはるかにしのぐ日本最大の社交団体だったという。
正に、当時の政財界のWho's Who。会員は606人に上り、鹿鳴館内に設置された東京倶楽部の270人をはるかにしのぐ日本最大の社交団体だったという。日清・日露後には空前の競馬バブルが訪れる。背景にあったのは、富国強兵。大陸での戦争で、日本の軍馬が大陸の馬に体格で負けていることが実感され、1906（明治39年）「馬匹改良計画」が始まった。馬の品種改良や訓練法の見直しが図られたが、その資金源にあてられたのが競馬。それまで明治政府はギャンブルを厳しく取り締まり、競馬が開催されても、馬券販売は解禁されていた。それが政府の公認となり、全国で競馬場が誕生したのだ。競馬は大ブームとなる。
174：靖国神社は昔、競馬場だった
東京最古の近代競馬は靖国神社で行われた。
1869東京招魂社として創建。翌年、第1回の競馬。1898年まで続く（大村益次郎銅像1893）。
176：上野不忍池のカーブは競馬場にぴったり
1周約1600m。競馬場としてはちょうどいい大きさ。
177：戸山競馬場
現在の早稲田大学理工学部。
178：目黒競馬場
1907-1933．1932年（昭和7年）には東京優駿大競走（日本ダービー）開催。
そこかしこに痕跡。現在は閑静な住宅街。
180：日本人初優勝は「ミカン号」馬主は西郷従道
1860（開港翌年）初の西洋式競馬＠横浜
現在の中華街辺りで、1周1200m
1866初めての本格的な競馬場 根岸
182：競馬は鹿鳴館と並ぶ国家事業
明治時代前半の競馬は、鹿鳴館と並ぶ欧化政策の柱。不平等条約の改正を目指した社交の場。
2022年08月15日
丸の内から「ビルヂング」が消える
東京の顔ともいえる東京駅前の「丸ビル」。大正時代に建てられ、2002年に建て替えられるまで正式名称は「丸ノ内ビルヂング」。それが建て替え後は「丸の内ビルディング」に変った。持ち主は言わずと知れた、「丸の内の大家」三菱地所。
私は戦前は「ビルヂング」が主流で、戦後、「ビルディング」に変ったのかと思っていたが（旧仮名遣いから新仮名づかいに変ったように）、そうではなかった。これは、三菱地所という日本の近代オフィスの歴史を作ってきた企業内での話だったのだ。
まず、丸の内で最初のオフィスビルが出来たのが1894年（明治27）「三菱一号館」。戦後一旦解体されたが、2010年に復元された。設計は東大教授もしていたイギリス人建築士ジョサイア・コンドルで、彼は政府から丸の内の払い下げを受けてオフィス化を進めた三菱の3代目社長弥彦の本宅（池之端）も設計した。その後も、三菱〇号館が丸の内に次々と建ち、赤レンガ造りビルが建ち並ぶ一角は「一丁倫敦（ロンドン）」と呼ばれる。
その流れが変わったのが、1918年の東京海上ビルディング竣工。それまでの「装飾性を重視した欧州式から、外観をシンプルにまとめた実用重視の米国式へ転換」したのだ。ビル名は「ビルディング」だった。
その流れを見て、三菱地所が満を持して建設したのが、1923年の丸ノ内ビルヂングなのだ。米国式の大規模ビルディングで、日本のオフィスビルで初めて建物内に商店街が出来た。それまでの「一丁倫敦」から、今度は、「一丁紐育（ニューヨーク）」と呼ばれるようになる。三菱地所では、これ以降建設するビルの名称は「ビルヂング」が基本になる。つまり、これは、三菱〇号館の欧州式から、米国式に変えたことによる名称変更だった。
では、なぜ、ビルディングではなく、ビルヂングなのかと言えば、これは三菱地所でもはっきりしないらしい。ローマ字表記として、「di」は「ヂ」と表記する日本式と言われるルールもあったので、それが影響したという説もある。丸ビルの前に完成した東京海上ビルディングがビルディングであることを考えると、三菱地所のビルであることを強調あるいはブランド化するために、そうしたのではないかとも思えてくる。
2022年08月14日
23区で唯一の「スタバ空白区」
「スタバはないが砂場はある」（ウマイ
）で注目された「スタバ空白地帯」。鳥取県は47都道府県中、唯一スタバがなかったのだが2015年、ついに鳥取県にも出店し、スタバは全都道府県制覇
ということになった。都心など、今や、「石を投げればスタバに当たる」ような状態で、かつての特別感はなくなった。まぁ、それだけ日常に溶け込んだ気はする。
ところが、23区内で未だにスタバが区があるという本書執筆時点は2019年なので、3年間のうちにできているかとも思ったが、スターバックスHPで確かめたところ、ない。それは荒川区であった。荒川区にも駅はたくさんあるし、逆に、なぜと思ってしまう。
ところが、23区内で未だにスタバが区があるという
本書執筆時点は2019年なので、3年間のうちにできているかとも思ったが、スターバックスHPで確かめたところ、ない。それは荒川区であった。荒川区にも駅はたくさんあるし、逆に、なぜと思ってしまう。88：台東区に男性が多く、港区に女性が多い
23区で最も面積が大きい�‖臈超茵�73万人）、�∪づ鎮�区（93万人）、�Ｂ�立区（68万人）
狭い �‖翕豢茵�21万人）、��中央区（16万人）、�９喟邏茵�22万人）
2022年08月13日
世界一深い穴
世界一深い穴は、ロシア北西部「コラ半島」にある。地表からの深さ12261m
なんと12km以上。1970年に堀り始め、1992年に中止したというから、22年間掘りつづけた。科学掘削のためで、当初計画では上部地殻の終わり15km程度まで掘り進める予定だったが、この時底点で抗底温度が205℃となり、機材の限界に達した。上記は、人類が掘った世界一深い穴だが、人類が降り立った最も深い場所としては、南アフリカの金鉱山（ムポネン鉱山、タウトナ鉱山）で、4000m前後という。すごい気圧になるはずだが、一体どうやって降り立ったのか気になる。国内では、スーパーカミオカンデ（旧神岡鉱山）で、深さ1000m。
どちらも、地下資源欲しさに掘られた穴。人類の欲望はスゴイ。
どちらも、地下資源欲しさに掘られた穴。人類の欲望はスゴイ。
56：世界一深い穴
ロシア北西部「コラ半島」地表からの深さ12261m（科学掘削）
2022年08月12日
幻の1940年万博
1940年の「幻の東京五輪」は有名。2019年の大河ドラマ「いだてん」にも出てきた。その実現に心血を注いだ嘉納治五郎と、その遺志を引き継いで、1964年に東京五輪を実現させた田端政治。これで前人気を上げて、翌年のオリンピックにつなげようというNHKの目論見だったと思うが、なんとコロナ禍でオリンピック史上初の延期になったのは記憶に新しい通り。
しかし、その「幻の東京五輪」よりも大きなプロジェクトが同年に予定されていたとは知らなかった。
まえがき：1940「アジア初の万博」幻の東京五輪よりも大きなプロジェクト（万博も中止）。晴海に日本館、豊洲に外国館。藤山一郎がテーマソングを歌う。懸賞付き入場券は100万枚発売→大阪万博、愛知万博でも有効。
東京は江戸時代から、埋め立ての歴史ともいえる。都市の発展に伴い、土地が足らなくなる。しかも、都市生活で大量のゴミが出る。ゴミで東京湾を埋め立てる開発は今も続いている。
鈴木都知事が目指した1996年の世界都市博覧会は、「幻の1940年万博」の実現だったのではないかと言われている。鈴木氏は都知事選で敗れ、青島知事の登場で中止となった。それに向けて湾岸地区の交通網が整備されていた。38：戦前に五輪・万博・空港・庁舎移転を計画現在の湾岸地区が形成されていくのは明治に入ってから。佃島を皮切りに、明治後期から大正にかけて月島、勝どき、芝浦が埋め立てられる。芝浦町が誕生したのが1919年（大正8年）。
43：湾岸開発1993レインボーブリッジ1995ゆりかもめ1996りんかい線
バブルの本格崩壊（金融危機）で湾岸開発は一時しぼむ。その後就任した、石原慎太郎知事が執念を燃やしたのが五輪誘致だった。
2022年08月11日
地下街
日本の地下街は世界一の規模。その地下街の嚆矢は、1931年、日本初の地下鉄の上野駅にできた「地下鉄ストア」らしい。ただ、ここは駅ビルの地下であり「デパ地下」のようなもの。地下街ということでは、翌年、神田駅にできた「神田須田町地下鉄ストア」が日本初ということになるらしい。
現在の地下街ランキング（面積）を見ると、新宿が日本一。普段あまり使わない駅なので、よくわからないが、広いと思っていた八重洲地下街の1.5xもあるとはオドロキ。ただ、小田急や京王、JRルミネを合わせての話なので、一体感という事ではどうなのだろう。
75：国内初の地下街は神田1930年代上野にできた「地下鉄ストア」が嚆矢。早川徳次「地下鉄の父」早稲田大学→満鉄（後藤新平に師事）1927 大隈重信、渋沢栄一らの支援を得て日本初の地下鉄（上野〜浅草）1931 神田1934 新橋
2022年08月10日
1959「ネオ・トウキョウ・プラン」
1959年に、東京湾の2/3を埋め立てるという、その名も「ネオ・トウキョウ・プラン」があった。ただのアイデアではなく、緻密に練られたプランで、4兆円の投資が見積もられていた。
この「勧告」を出したのは、産業計画会議という私設シンクタンク。財界の重鎮である「電力の鬼」松永安左衛門が主催し、メンバーには、鮎川義介（日産コンツェルン）、池田勇人（後の首相）、小林中（日本開発銀行初代総裁）、永野重雄（富士製鉄社長）、十河信二（国鉄総裁）、白洲次郎など錚々たる政財界の名士が名を連ねていた。
実は、産業計画会議の「勧告」は７回目。それまでに、北海道開発(1957）、高速道路整備（1958）、国鉄の分割民営化（1958）、原油輸入自由化（1958）などが提言され、その多くが後に実現されたことでも、実現を前提とした提言であったことが分かる。その後も、専売制度廃止（1960）、東京湾横断防潮堤（1961）などが提言され、これらも、先見性のある提言であったことが分かる。
しかし、この「ネオ・トウキョウ・プラン」に限っては実現しなかった。何しろ、埋め立てに必要な大量の土砂を房総半島の「鋸山」を核爆発で崩して使うことまで視野に入れていた。会議の「勧告」にはそれは入ってないのだが、このプランを中心になってまとめたのが、日本住宅公団初代総裁の加納久朗氏。彼の著書『新しい首都建設』（1959）でその考えが披露されている。
加納氏は1962年に千葉県知事になる。持論の開発推進を掲げたが、翌年死去する。千葉県の開発は、成田空港にしろ、東京ディズニーランドにしろ、後継の政治家と産業界によって進められていく。
AKIRA（アニメ映画1988）の大友克洋が、このプランを知っていて参考にしたのかどうか、気になる。
東京湾上に生まれた新首都「ネオ東京」で反政府ゲリラと軍が暗闘を繰り広げる。
2020東京オリンピック開催を控え、旧市街（かつての東京）では再開発。
2022年08月09日
テスカトリポカ
題名となっている「テスカトリポカ」とは、アステカ神話で、「煙を吐く鏡」。鏡は各地の古代文明で特別な力を持つとされた。
神へ生贄が捧げられるのも、古代文明に共通している。これは、人知を超える力を持つ神に話を聞いてもらうには、自分たちの最大の犠牲を払わなければならないという考えから来ているのか。アステカ文明では、「すべての神々は人間の血と心臓を食べて生きている」と信じられていたようで、その祭りは凄惨を極めた。
426：いけにえの心臓を入れるための緑岩の鉢には鷲とジャガーの絵柄が精巧に彫られ、心臓をえぐる燧石のナイフにはトウモロコシと矢が彫られていた。卓越した彫刻に貝殻や宝石の装飾を組み合わせて、アステカの職人たちは何もかも美しく仕上げていた。
426：いけにえの心臓を入れるための緑岩の鉢には鷲とジャガーの絵柄が精巧に彫られ、心臓をえぐる燧石のナイフにはトウモロコシと矢が彫られていた。卓越した彫刻に貝殻や宝石の装飾を組み合わせて、アステカの職人たちは何もかも美しく仕上げていた。
427：すべての神々は人間の血と心臓を食べて生きている。血と心臓を捧げなかったら、太陽も月も輝くのをやめるだろう。
429：アステカの太陽暦2月シペ・トテク
人間の皮を剥ぐ祝祭。いけにえの心臓が神殿の頂上でえぐりだされたあと、死体は階段から突き落とされ、落ちてきた死体の皮はていねいに剝ぎ取られる。（中略）祝祭のために選ばれた若者たちが集まって、それぞれが死体の皮を身にまとう。
2022年08月07日
メキシコ麻薬カルテル
私は2度メキシコに行ったことがある。最初は学部の卒業旅行で。1986年2月、グレイハウンドの30日パスを買い、LAから出発。アリゾナ州のツーソンでホステルに泊まっていたところ、同じ宿に泊まっていたメキシコ人と知り合った。
ソノーラ州のワタバンポという町に住む弁護士だという。当時のメキシコは自国産業育成のために工業製品の輸入完全を高くしており、自動車タイヤなどを時々国境を越えて買い出しに来るのだという。なぜ、弁護士がそんなことをしなければならないのか不思議だったが、話していると確かに理知的な感じがして、同じ宿に泊まっている危ない感じのアメリカ人とは違う気がした。
それで、「メキシコに行ってみるか？」と言われ二つ返事でOKし、彼のVWバン（当時のメキシコでまだ生産していた）でツーソンを出発した。ノガレスで国境を越え、メキシコへ。国境を超えるのも賄賂、道路で警官に止められても賄賂。彼は弁護士だが、これが現実。渡さなければ難癖付けられ、高額の関税をとられたり、荷物を没収されることになる。
ワタバンポはカリフォルニア湾に面した小さな町だった。彼の家に2日ほど泊めてもらい、海で泳いだりして楽しく過ごした。驚いたのは、こんな小さな町にも日系人が2家族いたこと。紹介されて、戦前に渡航したという一世の方と話した。何人か息子さんがいて、皆、大学に行って、医者になったり（一人は町に歯医者として残っていて彼にも会った）、学者になったという。移民は一般職では差別されがちだから、どこの国でも、そうした公的資格を目指す。
一世の家には、10年も前の日本の雑誌が取ってあって、何度も繰り返し読まれていた。
9：メキシコ麻薬カルテル
カルテルはコロンビアやペルーに専属契約の農場を持ち、コカイン生産量を管理し、製造、輸送、分配までをみずからおこない、政治家、官僚、検事、警官らを買収して、彼らを麻薬ビジネスの内側に取り込みながら、新しい資金洗浄法を常に考えている。誘拐、拷問、殺人などの計画的な実行も業務の一部であり、壮大なスケールの犯罪企業体を無数の麻薬密売人が支えている。
67：タマウリパス州ヌエボ・ラレド麻薬戦争
処刑、暗殺、死者
橋に吊るされた首のない男女、しめやかに葬儀のとりおこなわれる墓地でサブマシンガンに撃たれる神父と参列者、現実。
71：殺し屋（シカリオ）
指揮を執る者を一人ずつ暗殺し、家族も殺す。365日付け狙うことで、カルテルは警察を怖れさせ、戦意を喪失させる。敵対する検事や裁判官も追い詰める。辞職してアメリカ人の国へ逃亡する日まで。
72：DEAに匹敵する通信傍受システムを構築
暗闇を飛行してきたドローンは大型で、翼の全幅は8mあった。カサソラ兄弟の潜伏先に軍用の500ポンド爆弾を投下し、邸宅を吹き飛ばした。
2022年08月06日
小児臓器売買
臓器売買は世界中で禁止されているが、世界には臓器を買いたい人と、売りたい人がいる。それを仲介する組織が現れるのは当然だといえよう。
小説の話は、メキシコの麻薬カルテル抗争から、東南アジアでの臓器売買に移る。ジャカルタで出会うのが、メキシコから逃れてきた元麻薬カルテルのトップと、日本で医者であったが麻薬に手を出して海外逃亡した外科医。そこで二人は、豪華客船の中に手術室を儲けで、日本の健康な子供の臓器を世界の富裕層に移植することを思いつく。
臓器売買は今も行われており、糖尿病で苦しむ日本人などが違法と知りつつ、利用することもあるようだ。しかし、そもそもが違法だから、政府の規制も監督もない。劣悪な環境で、未熟な外科医によって行われることもあり、手術が成功するとは限らない。
ここに出てくる糖尿病患者の例では、パキスタンで腎臓移植を受けるのに、ブローカーに15万ドル（約2000万円）を払ったという。そして、手術は失敗した。既に、アジアの富裕層は、日本人よりもはるかに豊かだ。いや、一部の富裕層どころか、サラリーマンの年収でも、経営幹部になるとアジアの方が高くなる。小説のように、日本での貧困が臓器売買に結び付かないとも限らない。
178：東南アジアにおける臓器売買
貧しい子供たちが、価格交渉も無しに、ブローカーに腎臓を売っていた。左右二つある腎臓のうち一つを売った金で、子供は携帯端末を買う。遊ぶためではなく、スマートフォンやタブレットPCがなくては、都会で仕事にありつけないからだった。
221：小児臓器売買
自分の子供を生かすために、東南アジアのスラム街の子供の心臓を金で買う富裕層がいる。
247：無戸籍児童
「覚醒剤やMDMAを買う客が戸籍のない子供を育てている」といいう情報を、全国の売人を通じてさまざまな暴力団が買っていた。（中略）追い詰められたシングルマザーに100~150万円を送金し、たったそれだけの額で子供たちを買い取った。
297：死体の値段
心臓 最高値
眼球1個 10~100万円
膵臓 500万円
骨髄1g 200万円
靭帯 50万円
胆嚢 20万円
足首 15万円
手首 5万円
血液1L 3万円
416：心臓移植
娘のために心臓を買ったシンガポール人の投資家は、手術代込みで総額800万SGD（約8億円）の金を、＜チョクロ＞の窓口である奇人（エル・ロコ）という呼び名の日本人に支払うことになった。それはたとえば、移植先進国のドイツやアメリカの病院で合法的に心臓移植をした場合の2倍以上の値段だった。それでも父親や「高い」とはまったく思わなかった。どれだけ待っても提供者に出会えるとはかぎらない心臓移植の世界で、金さえ払えば確実に移植までたどり着ける。しかも闇ルートであるにもかかわらず、空気の汚染されたスラム街で買われた子供の心臓ではなく、日本で健康に育てられた子供の心臓を。
2022年08月05日
アステカ王国
第165回直木賞、第34回山本周五郎賞のW受賞作品。古代アステカ文明とつながる現代。メキシコ、ジャカルタ（インドネシア）、そして川崎（日本）。
話はメキシコの麻薬カルテルから始まる。国境の北側に世界一豊かで、かつ世界最大の麻薬消費市場を抱えたメキシコは、長年、麻薬の供給元だった。自国だけでなく、南米中の麻薬がメキシコを通過して米国に持ち込まれる。
貧しい国の巨大ビジネスだから、業界内での競合も激しい。元々非合法のビジネスだから、競合はイコール戦争となる。カルテル同士の抗争だけでなく、浄化に乗り出した政治家も警察も一家もろとも殺され、死体が晒される。
日本と比べれば、67倍。確か、欧州平均が日本の倍くらいで、米国はさらにその倍。中南米の危険さが際立っている。人口10万人当たりの殺人発生件数は18.91件で、世界第22位だ。1位は中米ホンジュラスの84.29件、2位はベネズエラの53.61件。それらに比べれば、まだ少ない。以下、米領ヴァージン諸島、中米のベリーズ、ジャマイカ、エルサルバドルと続き、すべてが中南米カリブ圏だ。（中略）ちなみに日本は0・28人で211位。大国では最も殺人が少ない。（Wedge）
98：アステカ王国
神官たちは心臓をえぐり取った死体を、下へと突き落とした。神に食べられ、胸に穴の空いた死体は、長い石段を転がり落ち、待ち受ける係が首を切り落とした。首も供え物だった。首なしの死体を囲む人々が、腕と足を切り落とした。神は心臓を食べるが、人間に食べることが許された部位は腕と足のみだった。アステカの厳格な戒律にしたがって、人々はいけにえの腕と足を火であぶって食べた。
130：風の笛（エエカチチトリ）
16世紀の征服者を震え上がらせたアステカの笛、これほどまでにぞっとする音を出す楽器は、おそらくこの世に二つとなかった。征服に同行するスペイン人修道士にも＜死の笛＞として忌み嫌われた。
137：粉（エル・ボルボ）
拉致した人間を生かしたまま、液体窒素で手足を凍らせて、鋼鉄のハンマーで打ち砕く。犠牲者は粉々にされる自分の手足を、自分の目で見ているように強要される。
2022年08月04日
Nokiaの復活
モデルナの起源は、米VC Flagship Pioneeringによるプロジェクト。「自分たちが立ち上げたプロジェクトを自ら育て、成長段階に応じて資金を投じていく」という、いわゆるインキュベーション。
「患者自身の細胞に対して、病気を予防、治療または治療することが出来るタンパク質をつくるように指示を出せるなら」「mRNAの形で、制御できて繰り返せる方法で、人が自ら体内でワクチンや薬を作ることを可能にする”細胞のソフトウェア”を設計することが出来る」
VCファンドがmRNAワクチンという新しい産業を創り上げた画期的な例だと思う。
Nokiaの方は『Nokia復活の軌跡』の抜粋。ガラケーで世界No.1になったNokiaは、「成功の罠」に陥る。iPhoneが出てきても、所得水中の低い発展途上国で高いシェアを持っていたNokiaは、その優位性がすぐに揺らぐとは思わなかった。しかし、Androidの出現で、スマホ価格は一気に下がり、ガラケーの売上はみるみるうちに下がる。
その後Nokiaは、新しく経営トップとなったシラスマの下で、携帯端末事業からの撤退とネットワークインフラ事業への集中を決める。本業からの撤退というのは、実はNokiaは2回目。1990年代初めにやはり経営危機に陥り、それまでの林業機械・製紙産業から撤退して、携帯端末に事業を丸っきり換えているのだ。その意味では、そうしたDNAがあったのかもしれない。
243：Nokiaの改革「携帯電話端末事業を捨てる」リスト・シラスマ・起業家リーダーシップ・パラノイア楽観主義・シナリオ・プランニング
2022年08月03日
Amazon病院が誕生する日
第4章は「アマゾン病院が誕生する日」。Appleのパーソナルヘルスサービスもそうだが、IT企業にヘルスケア産業にどんどん入ってきてもらいたい。それも、既存規制に最適化している業界を変えようと思うと大変なので、規制緩和で直接入って来てもらいたい。そうすることで、業界全体の変化も促進されるだろう。
現時点で確かめたところ、Amazon Haloは第2弾が出ていた。本書で紹介されていたのは、2020年に発売開始された第1弾で、ディスプレー無し、マイクで常時録音というのが他のリストバンド型センサーとの大きな違いだったが、そのどちらも新製品ではなくなり「普通」になったようだ。
マイクで常時録音していたのは、声のトーン測定をしていたため。これでユーザーのメンタル状態をAI推定していた。声に含まれた感情を、Amused（楽しい）、Content（満足している）、Reserved（静か）、Displeased（不機嫌）の4つに分類し、1日がどんなメンタルで占められているかグラフ表示できた。
これについては、「常時聞かれるのに抵抗」があるのと同時に、「それが分かってどうするの？」という声もあり、さらにトーン分析をオンにしているとバッテリーが1/3しか持たないらしく、止めたらしい。
2021年アマゾンは従業員向け診療サービスを全米企業を対象に提供開始。
専用アプリを通じてオンライン診療が可能。処方箋デリバリー。必要に応じて訪問診療や看護。
166：Amazon Halo
アマゾンが開発したフィットネス用ウェアラブルデバイス。
リストバンドに加速度計、温度センサー、心拍数モニター、2つのマイク内蔵。
$99.99 ＋月額$3.99
2022年08月02日
ヘルスケア産業の民主化
ヘルスケア産業の特色として、規制業種であることがある。人命に関わるので各国ともさまざまな規制がある。元は国民のため、患者のためにできた規制だが、出来てしまえば、それを守らせるための組織が出来、今度はその組織の存続がしばしば目的になってしまうのは古今東西変わらない。
そうした硬直化を避けるために、制度の定期的な見直しや業界への新規参入が必要だ。著者は、ヘルスケア産業で今起こっている変化を、「既存ヘルスケア企業vsテクノロジー企業」と見ている。
85：４つのゲームのルール��DX化�▲▲Ε肇�ム重視��カスマターセントリック�ぅ廛薀奪肇侫�ーム＆エコシステム
Appleのティム・クックCEOが「ヘルスケアこそアップル最大の貢献になる」と言っているのは面白い。そのインタビューの中で、「ヘルスというものを民主化していく」と答えている。民主化していくということは、今は民主化されてないという事なのだろう。
Appleのヘルスケアへの進出は、創業者スティーブ・ジョブズが2003年、癌で闘病したことがきっかけだったという。病院内のシステムはバラバラで、各専門家が入れ替わり立ち代わりジョブズを診断して、それぞれで対応していた。患者の健康データが、患者と医療提供者との間できちんと連携さることが重要だとジョブズは痛感したという。
Appleのヘルスケアへの進出は、創業者スティーブ・ジョブズが2003年、癌で闘病したことがきっかけだったという。病院内のシステムはバラバラで、各専門家が入れ替わり立ち代わりジョブズを診断して、それぞれで対応していた。患者の健康データが、患者と医療提供者との間できちんと連携さることが重要だとジョブズは痛感したという。
92：アウトカム評価が可能に
インプットベース→アウトプットベース
113：エリック・トポ『ディープメディスン AIで思いやりのある医療を！』
「今日の医療で何が問題かと言えば、それは思いやりが欠落している点だ。（中略）AIが提供してくれる最大の可能性は、過誤や仕事量を減らすことでもなければ、がんを治すことでもない。それは、患者と医師の間の、昔からの貴重なつながりと信頼、すなわち人間的な関りを取り戻す機会だ」
116：ティム・クック＠CNBC
「もし将来、過去を振り返った際に、アップルが人類のために果たした最大の貢献は何だったかと問われたら、それはきっと健康に関したこと、と答えるだろう。私たちは、ヘルスというものを民主化していく。関係機関とともに、私たちは一人ひとりの健康を維持することに必要なことは何かを考えていく」
120：サービス事業がアップル売上の約2割に
2020売上高2745億ドル＝37兆円
サービス売上538億ドル＝7兆円＞NTTドコモ5兆円
2022年08月01日
製薬業界のアマゾン
副反応が強いとされ、日本政府が大枚をはたいて輸入したのに、大量廃棄されることになったモデルナ製コロナワクチン。人口当たりの感染者数が高止まりしている沖縄でも大量廃棄されていて（ワクチン接種率が低いのか？）、6月までに全国政令指定都市だけで73万回分だというから、全国で100万回分以上になるのは間違いない。政府の購入価格は1回あたり3000円位らしいが、超低温での保存が必要なことからそれに伴う保管費、特殊輸送費など考えると＠5000円はしそう。とすると、既に50億円くらいがどぶに捨てられた計算になる。
それはともかく、通常10年以上かかるワクチン開発を9か月で終わらせ、しかも、その効果が90%以上であったことは医療の歴史上画期的だ。しかも、それは時間のかかる臨床試験を入れての話で、ウイルスのDNAを分析してワクチンの設計を終えるまでは、なんと3日間で終わったという。
その結果、モデルナの時価総額は2018年の上場時から最大26倍の20兆円以上にもなった。現在は下図の通りで、ピークの1/3。それでも$65Bで、日本最大の製薬会社中外製薬の時価総額6兆円の10倍以上ある。しかも、実績PER（TTM）で5xと割安。市場は、ワクチン販売が落ちると予想している。
モデルナ：2010設立バイオベンチャー
2019年度まで市販製品なし。製品売上ゼロ。
「製薬業界のアマゾン」
創業以来、自動化やロボティクス、アナリティクス、データサイエンス、AIなどに1億ドル以上を投資してきた。
20：新型コロナウイルスワクチン「mRNA-1273」が初めての市販品
48：従来のワクチン
無毒化した不活性化ワクチン、弱毒化した生ワクチン。
ウイルスベクターワクチン（アストラゼネカ）。
組み換えタンパク（ノババックス）。
53：mRNA-LNPカンパニー
Lipid Nano Particles（脂質ナノ粒子）でmRNAを包み込み、それを細胞にまで届ける。
58：バイオテク業界のテスラ
DNA＝ストレージ
mRNA＝ソフトウェア
タンパク質＝アプリケーション
