2022年07月
2022年07月31日
ユーラシア大陸横断9000km
シベリア鉄道に関する最新刊。といっても、2015年に乗車した時の話が中心なので、既に7年経っている。私は鉄道が特に好きということはないので、これまでシベリア鉄道に乗ろうと思ったことはなかったが、これを読んで一度は乗りたいと思った。
今年2月のウクライナ侵攻以来、ロシアには外務省の「渡航中止勧告」が出ているので、当面行けそうにない。また、侵攻で一時下がったルーブルは、その後回復して、むしろ侵攻前よりも高くなっている。資源高で資源のない日本が一人負けしている状態。
著者はシベリア鉄道に乗るのは3回目だったそうで、1回目が大学卒業後の1981年。横浜の大桟橋から船でナホトカに向かい、そこから出発したという。2回目は1985年に改革開放政策が始まったばかりの中国北京からウランバートル経由でモスクワ。
ソ連当時は、軍港であるウラジオストクは外国人立ち入り禁止だった。現在はオープンになっているので、成田空港からウラジオストクまで飛行機で飛ぶことになる。富山県伏木港から出ていた貨客船は2009年に廃止されたそうだ。
1981年に行った時からすると、「ルーブルが15万分の１」になっているというのに驚いた。1981年当時の公式為替レートは１ルーブル＝300円。ソ連崩壊後、ロシア危機の1998年にデノミが実施され1/1000に。そして、現在の価格は約2円。
直通「ロシア号」6泊7日
16：ルーブル15万分の１
31：全線開通はロシア革命前年（1916）
19世紀後半、モスクワとウラジオストクの両方から建設開始。
63：手順
シベリア鉄道予約→宿泊施設の予約→バウチャー取得→観光ビザ取得（2週間）
165：スタンツィーヤ（駅）が女性名詞のため、地下鉄の駅名はツルゲーネフスカヤ、クロポトキンスカヤのように女性形になってしまう。ロシア鉄道のターミナル駅（バグザル）は男性名詞のため、同じ場所であってもロシア鉄道の駅は男性形でキエフスキー、地下鉄の駅は女性形でキエフスカヤというように、異なる名前になってしまう。
2022年07月30日
「このままじゃ『生きジゴク』になっちゃう」
昭和61年の”葬式ごっこ”自殺は何度読んでも悲惨。いじめの対象になった中学2年生が自殺に追い込まれ、「葬式ごっこ」には教師まで参加していたことが発覚。この事件がきっかけで、文部省はいじめの発生件数を調査し、公表するようになった。
それで、減っているかと言えば、この10年小学校で急増している。これはほんとうにこれほど増えているのか、それとも調査方法が変わるか何かで、より多く報告されるようになったのかは不明。20年度は久しぶりに減っているが、これはコロナで登校が制限されたためだろう。
ある空間を支配するのにもっとも易き方法は、特定の人物や集団をターゲットにして、共通の意志をもって排除や攻撃の対象にすることだ。そうなればそこに連帯感が生まれる。（中略）昭和という時代の局面には、そのようなことが幾つもあったと気づく。
㉔グリコ・森永事件
昭和59年（1984）から翌年にかけて
「けいさつの あほども え かい人21面相」
劇場犯罪
グリコ・森永事件のプロセスで、この犯罪に似せた事件は98件起こった。そのうち67件では犯人逮捕。
グリコ・森永事件は、平成12年にすべて時効。犯人グループはひとりも逮捕されることはなかった。
㉕”葬式ごっこ”自殺
「このままじゃ『生きジゴク』になっちゃう」昭和61年2月1日
校内暴力 昭和55年「教師への暴力」YoY+45%
いじめ→登校拒否→ひきこもり
昭和55年 大阪府 中学1年生の少年が縊死
同級生や上級生に日常的に恐喝を受けていた。
㉘天皇の退位についてのおことば
平成31年4月30日
「私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えてきました」（平成28年8月）
「平成の30年間、日本は国民の平和を希求する強い意志に支えられ、近現代において初めて戦争を経験せぬ時代を持ちましたが、それはまた、決して平坦な時代ではなく、多くの予想せぬ困難に直面した時代でもありました」（平成30年2月24日）
近代天皇制＝天皇制絶対の超国家主義的国家→戦後民主主義の平成天皇
2022年07月29日
戦後の檄文
昨日は戦前の檄文だったが、こちらは戦後。日米安保条約改定に反対して、代替案は何だったのか？旧条約での一方的にアメリカが日本を守るという条約から、同盟国として双方義務を負うことになった。
今更ながら、60年アンポ運動とは何だったのかと思う。私はさすがにまだ生まれてなくて、よくわからないのだが、条約改定に反対として、代替案はあったのか？非武装中立という理念の追求❓それとも、自由主義から共産主義への鞍替え
�暗傾弔凌祐崟觚�
GHQが趣旨提示→幣原首相が英文で草案→日本語訳→昭和天皇が「五箇条の御誓文」追加
�伽爾覆�声
日米安保条約改定反対闘争（60年アンポ）
旧条約では日本の防衛はいっさいアメリカ。新条約では、防衛についてアメリカと平等の責任。
労働組合、団体や学生の動員によるデモは、空前の規模に達したが、どの政党にも組織にも属さない市民、婦人、老人がデモに参加しようとしてもその場がなかった。
小林トミ（30歳の画家）→市民運動→ベトナムに平和を！市民連合（ベ平連）、消費者運動、反公害運動
�灰戰肇淵猗神錣両匿伴�殺
昭和42年（1967）
「抗議書 内閣総理大臣佐藤栄作閣下」
「ベトナム民衆の困苦を救う道は、北爆を開始した米国が無条件に北爆を停止することだ。ジョンソン大統領に圧力をかける力を持っている国はアジアでは日本だけである。その日本が圧力をかけるどころか北爆を支持したのに深い憤りを覚える。私は、本日、公邸前で焼身、死をもって佐藤首相に抗議する」
�瓦茲氷羯�件
「我々は”明日のジョー”である」田宮高麿
昭和45年3月31日羽田発福岡行きの日航機「よど号」をハイジャック
赤軍派（議長 塩見孝也、軍事委員長 田宮高麿）
㉑三島事件
昭和45年(1970）11月25日
彼は益田総監と4人の会員の前で、制服のボタンをはずしてから、担当で真一文字に腹を切った。そのあと会員のひとり森田必勝（元早大生）が介錯した。かねて打ち合わせてあったとおりの儀式だった。ついで森田も割腹した。このった3人の会員は、ふたりの首を床にならべ、それに制服をかけた。
㉓中国残留孤児
「私たちは本当の情が欲しいのです」（第6次訪日調査団 武淑芝）
敗戦時 黒龍江省佳木斯市 6歳
訪日調査団は平成7年（1995）までに26次さがしは実質上は無理に近くなっていることがわかる。
国は、昭和10年代初めに満州への開拓移民をあらゆる機関を通じて宣伝している。それに応じて農村からは、百万人余りの人々が東北地方の農村に入っていった。もともとは中国の領土であり、土地なのだから、確かにこれは無謀なことでもあった。だが国はこうした事実を伏せて、甘い言で農民の移民を促したのだ。
2022年07月28日
檄文
「檄」とは、「敵の罪悪などを挙げ、自分の信義を述べて、衆人に告げる文書」（広辞苑）だという。
本書(単行本）が最初に出版されたのは昭和55年（1980)。その後、23年経った平成15年（2003)に単行本出版後から昭和が64年1月に終わるまでの4項の出来事が加筆されて文庫版が出版される。そして、コロナ禍のさなか、この新書版が出版される。実に単行本からは41年で、新書版でさらに平成の2編が追加された。単行本の「あとがき」には、
本書に取り上げた檄文の主役たちを見てみるといい。訴えている字句はちがい、内容や行動も千差万別である。しかし、その底に流れる思考のかたち、行動の起点には、何か共通のものが見つかりはしないだろうか。たぶん、そこに日本人の原型というものがあるのだろう。とある。まず、戦前のを読むと、天皇存在が圧倒的である。何か不条理なことがあれば、それは天皇の取り巻きが悪く、天皇がそれを知らされていないためで、だから、天皇に直訴しようとする。そして、何れも美文なのだ。
昭和史の決行者たちはだいたいが美文調のかきものを残す。漢文の素養があったり、元々は活字によって人格錬磨する方法で生きていたからだ。従って自らの行動を客体化して見つめる余裕も持っていた。本書で取り上げた事件、事象についてもうすこし語るならば、行動第一主義ともいうべき特徴をもつタイプが多い。本書で充分に読み抜けたか否かはわからないが、彼らの孤独感や寂寥感は行為の後にそのカーブが高まっていくように思う。私はここに取り上げた人物はいずれも典型的な日本人だったと思う（新書版あとがき）
�‥傾陳樵併�件
昭和2年11月19日 名古屋城東練兵場 陸軍特別大演習後の天皇閲兵
「訴状 恐れ乍ら訴に及び候」北原泰作
6日後、第三師団軍法会議第一回公判（異例のスピード）弁護士付かず
水平社運動家（大正11年創立）
戦後『賎民の後裔』出版
�Х�側の奸を斬れ（2.26事件）
昭和11年2月26日
「所謂元老重臣軍閥財閥官僚政党等ハ此ノ国体破壊ノ元凶ナリ」
79：陸軍大将真崎甚三郎
決起将校からもっとも頼りにされている将官で、彼自身もこれを機に自らの内閣をつくる肚づもりになっていた。
84：厳戒司令官
東京にはぞくぞく鎮圧部隊がくりこんだ。決起側に好意的だった陸軍首脳も、反乱軍を露骨に避け始めた。真崎でさえ彼らのまえから姿を消した。
�┣燭箸いΕ競泙任后憤詆�浅一の獄中日記）
昭和11年7月5日 東京陸軍軍法会議 非公開で弁護人もつかない
「天皇陛下 何と云う御失敗でありますか 何と云うザマです、皇祖皇宗に御あやまりなされませ」
獄中で「行動記」「獄中日記」「獄中手記」をのこす。その一部が看守によってもちだされ、戦後になってすこしずつ発表された。
2022年07月27日
インフレ対策
戦後、東証が閉鎖されていた間も「集団取引」が行われていたとは。いわば、株式の闇市。日独とも敗戦で、政府は債務不履行に陥ったが、民間企業は生き残ったというのは興味深い。株式会社の方が適応力があったのだ
戦前に持っていた株は普通に売買でき、かつインフレに負けず、株価は上昇。やはり敗戦の憂き目を見たドイツでも同じことが起きており、ダイムラーベンツやクルップ、バイエルなど大企業の殆どが生き残った。
96：インフレ対策
�ー楕�資産、��株
1945-1949 GHQ命令で東京証券取引所閉鎖
その間も東証前の屋台で株式売買は行われた（集団取引）。
125：2020世界債務は対GDP比256%（IMFの世界債券データベース）
過去最大はWW2直前の290%。ちょっとやそっとのインフレで返済不可能になると、戦争に。
中国との戦争で世界中のモノの生産と物流が途絶えるとハイパーインフレに。
126：半導体不足
TSMC（台湾）しか5nm半導体は製造できない。
日本は40nm。建設中のTSMC熊本は20nm（最先端は出さない）。
中国も日本と同様のレベル（30nmまで）。
台湾有事になれば、TSMCをめぐって世界大戦につながる恐れ。
132：日本株の積み立て
防衛、食料、飲料。
162：EV覇権戦略
中国がEV覇者になろうと仕掛け。EUも日本車締め出しに規制を使っている。
EVはガソリン車の3~4倍の銅が必要→EV生産が本格化すると銅資源は30~40年で枯渇。
レアアースが必要。特にバッテリーに使われるリチウム（アフガニスタンに豊富）。
168：2020トランプ大統領「外国企業説明責任法」
米国上場中国企業約200社＝時価総額2兆ドル
デカップリング→日本、インド、ベトナム？
2022年07月26日
FRB緩和バブル
リーマンショックから続く大規模金融緩和はとっくの昔に収束するはずが、コロナ禍で逆に異次元規模に膨れ上がってしまった。このため世界的バブル経済も異次元規模になっている。歴史のしめすところは、「バブルは必ず弾ける」。
47：いまの米国株の値段が半分になってもまだ割高S&P500のPSR=3x（Av.1）バフェット指数（株式時価総額÷名目GDP）＝200%（適正水準は80%）
44：2021年3月アルケゴス・ショック金融機関に割高な手数料を支払うのと引き換えに当該金融機関から資金調達し、レバレッジ投資。GFCのときに先に破綻したベアー・スターンズ証券のようなもの。
36：最後に傾くのが米国経済
先行指数は中国（製造業中心・輸出経済）で、一致指数は日本（ミックス）、遅行指数は米国（サービス業）。
「深圳100指数」
42：ガンマスクイーズ
米国でオプション取引拡大。金融大量破壊兵器。
45：グロース株からバリュー株へ
日本のバリュー株が早開く。
55：1999年TIME Person of the Year = Jeff Bezos
2021 Elon Musk
2022年07月25日
資本家なしの資本主義
香港への共産党支配が強まり、欧米金融機関が退去し始めたのが数年前。その時、東京を国際金融センターとして受け皿にすると手を挙げたのが小池百合子都知事。結果どうなったかというと、シンガポールに完敗した
以前から言われているように、�々埓�届が英語でできない、�⊇抄醗�解雇が困難、��税制など、シンガポールは香港と制度が昔から同等でそのまま移行しやすいが、日本はまるで違う。例えば、��税制については以下の通り。
香港・シンガポールでは、法人税も所得税も20％以下である。キャピタルゲイン（株式等の譲渡益）・インカムゲイン（金利収益）に対する課税もない。個人に対する相続税・贈与税もない。この点で、法人実効税率が33.06%、所得税・相続税が最高55%にもなる日本は到底太刀打ちできない。（安東泰志 小池都知事の公約「アジアNo.1国際金融市場」は実現するか）
それなのに、先日の参議院選挙公約を見ても、ほとんどの野党は消費税減税を掲げ、そのための財源として法人税増税を提案している。そんなことをすれば、東京を国際金融センターにするどころか、日本法人までますます海外に機能を移すのは目に見えているが、そんなことにすら考えが及んでないようだ。
本書の著者、トルコ出身のエコノミストが指摘する通り、日本の問題は「資本家なしの資本主義」であること。本当の資本主義を実行してこなかったからの30年にわたる経済低迷である。それを、野党ならまだしも、政権与党である自民党の総理が「行き過ぎた資本主義」といったのには、心底驚いた。
はじめに
本書の著者、トルコ出身のエコノミストが指摘する通り、日本の問題は「資本家なしの資本主義」であること。本当の資本主義を実行してこなかったからの30年にわたる経済低迷である。それを、野党ならまだしも、政権与党である自民党の総理が「行き過ぎた資本主義」といったのには、心底驚いた。
はじめに
10：新冷戦の開始時期は2013年のシリア内戦と2014年のロシアによるクリミア侵攻
中国とロシアは旧冷戦時代の世界へ戻そうとしている。
12：「資本家なしの資本主義」
日本の問題は、旧資本主義が間違っているから起きているのではなく、そもそも、本当の資本主義を実行してこなかったから。
13：米国式の資本主義は富の分配に失敗し、国民の不満が爆発寸前
歴史的な資産バブル。しかも、歴代のバブルとは違ってありとあらゆる資産において起きている。
2022年07月24日
すかいらーく
レオーネ（ロイヤル）のライバルとして登場するのがサンセット。こちらはすかいらーくがモデル。
倉原が一流好みで、最初出した店が高級フレンチ。常に背伸びして、お金がないときでも身なりだけはキチンとしている。成功してからは、運転手付きの社用ベンツに、自家用車はポルシェ。そうしたDNAがあるのか、同じファミレスでもロイヤルホストの方が高級感がある。なにしろRoyalだ。
対して、サンセット（すかいらーく）は貧しい農家出身の沢（横川）兄弟が創業。年商100億を超えてからも、社用車は持たず、電車で通勤。倉原がメニューの最終チェックを必ず自分で行い、毎日の試食で何度も食べ過ぎで大手術をしたのに対し、沢兄弟は「味が分からないから」と社員に任せていた。
ロイヤルもすかいらーくも上場し、さらに、バブル崩壊後のファミレス不景気を経て、それぞれ創業家の手を離れている。ロイヤルは祖業の機内食、ファミレス、運営受託で安定した経営だったが、コロナで全てが赤字に。航空機事業に強い双日と資本業務提携した。すかいらーくはPEファンドによる非上場化を経て、2014年に再上場している。
倉原が一流好みで、最初出した店が高級フレンチ。常に背伸びして、お金がないときでも身なりだけはキチンとしている。成功してからは、運転手付きの社用ベンツに、自家用車はポルシェ。そうしたDNAがあるのか、同じファミレスでもロイヤルホストの方が高級感がある。なにしろRoyalだ。
対して、サンセット（すかいらーく）は貧しい農家出身の沢（横川）兄弟が創業。年商100億を超えてからも、社用車は持たず、電車で通勤。倉原がメニューの最終チェックを必ず自分で行い、毎日の試食で何度も食べ過ぎで大手術をしたのに対し、沢兄弟は「味が分からないから」と社員に任せていた。
ロイヤルもすかいらーくも上場し、さらに、バブル崩壊後のファミレス不景気を経て、それぞれ創業家の手を離れている。ロイヤルは祖業の機内食、ファミレス、運営受託で安定した経営だったが、コロナで全てが赤字に。航空機事業に強い双日と資本業務提携した。すかいらーくはPEファンドによる非上場化を経て、2014年に再上場している。
119：サンセットの沢修、レオーネの倉原礼一の二人が、それぞれはじめてアメリカを訪れたのは、偶然にも、昭和43年、同じ年のことであった。
140：万博アメリカ館
ハワード・ジョンソンが手を引いたのもわかる気がするし、レオーネに話が持ち込まれるまでに、日本の大手の外食企業のいくつかが打診されても受けなかった形跡があった。要するに、いわくつきの出店話なのである。
205：マルク堂（イトーヨーカ堂）
レストラン・チェーンのマギーを発足させるに当たっても、一々、自社で開発したりせず、ロイヤリティを払って、アメリカのレストラン会社と提携し、一気に展開している。
208：「社長は、鼠をねらう猫だ。とらえてしまうと、興味がなくなる」（235）
欲しいと思った人間に、倉原は夢中になる。子供のように、手に入れるまでは、その場から動かなくなる。何度でも足を運び、待遇もできるだけのことをした。赤坂の一流レストランから料理長を迎えるときには、役員にするとともに、社長である自分より高い給与を出した。
欲しいと思った人間に、倉原は夢中になる。子供のように、手に入れるまでは、その場から動かなくなる。何度でも足を運び、待遇もできるだけのことをした。赤坂の一流レストランから料理長を迎えるときには、役員にするとともに、社長である自分より高い給与を出した。
だが、いったん迎えてしまうと、倉原の熱は、急速にさめた。とまどいもあるのだろうが、たいていの人材が、倉原の期待したほどの力を発揮してくれない。
232：サンセットでは、昭和52年に大学新卒者だけでも120人を採用、53年にも、同様80人を加えた。この他、臨機、中途採用を行った。
そして、新卒者・中途採用者とも、直ちに各店にはりつけた。ビデオによる学習の他は、働きながらの訓練である。その日から戦力とした。
246：昭和53年のレオーネの売上は、約200億。サンセットは、その半分である。これに対し、新しい5ヵ年計画では、最終年次の58年に1200億円という大目標をかかげた。
250：サンセットの沢兄弟は、年商100億を超すようになっても、食料品店「さわ」時代と気分はあまり変わらなかった。借家住まいでこそないが、ほとんど同じ大きさの建売住宅に住み、歩いて通い、電車やタクシーで用を足す。
2022年07月23日
ロイヤルホスト
先日、城山三郎の『鼠』を読んだところ、「城山三郎なら、これが傑作ですよ」と教えてもらったのがこちら。なるほど、面白くて一気に読んだ。読んだのは図書館で借りた昭和57年（1982）の初版本。
前半は主人公である倉原礼一の生い立ちから始まる。倉原の父は東大出で、官営八幡製鉄所に就職。東大出で官営なのだから、出世は早い。八幡製鉄所は昭和9年（1934）に5社が合併して日本製鐵株式会社となるが、政府（大蔵省）が過半数を所有していた。
倉原の父は仕事熱心で出世欲もあり、戦争が始まるころには八幡製鉄所の所長に上り詰める。礼一は長男で、父親の期待を受けていたが、権威主義的な父に反発し、勉強しない。結局、航空機乗員養成所を経て私大に入り直したところで、招集される。9：倉原の父（帝大出）「私大はつまり私大であって、大学じゃない」
敗戦後、大学に復学したものの、卒業せず、郷里福岡へ。そこでは、戦前、あれほど居丈高であった父親が、所長の座を追われ、意気消沈としていた。資産の大半は会社の株券と国債で、どちらも紙くず同然に。所長専用社宅も追い出された。21：戦後世の中は、食物を持つ人間と持たぬ人間の二種類に分かれたかに見えた。そして、全社の頂点に在るのが、GIと呼ばれた駐留米軍の将兵と、その家族たちであった。真っ白なパン、あたたかなオートミール、さまざまな卵料理、香り高いコーヒーの朝食からはじまり、そこにはまるで極楽のような食生活があった。
37：アメリカ基地その分分担については、それぞれ、ごく細かな点まで考え抜かれた作業基準というものがあり、熟練者でなくても、また格別規則正しくやらせなくても、手本どおりにさえやっていれば、仕事を消化できる仕組みになっていた。アメリカとは、システムであり、マニュアルだと、倉原は感心した。
倉原は、福岡のアメリカ基地の食堂で働き始めたことがきっかけで、その後高級フレンチレストランを博多に開く。さらに、アメリカ流のチェーン店をやりたいと、セントラルキッチンを設けて、福岡から多店舗展開していく。
これはもちろん、ロイヤルがモデル。ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」1号店が北九州にできたのは1971年。本当のロイヤル創業者は江頭匡一で、父親は東大卒業後、八幡製鉄所ではなく、三菱に入社。九州の炭鉱で働いていたようだ。やはり、最後は所長を務めている。
これはもちろん、ロイヤルがモデル。ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」1号店が北九州にできたのは1971年。本当のロイヤル創業者は江頭匡一で、父親は東大卒業後、八幡製鉄所ではなく、三菱に入社。九州の炭鉱で働いていたようだ。やはり、最後は所長を務めている。
2022年07月22日
次の世界大戦
原書タイトルは、"A Novel of the Next World War"。つまり、「小説：次の世界大戦」。
邦題で明らかにされている通り、2034年と仮定される米中戦争の話。サイバー戦争が勝敗のカギを握り、その点で、いつの間にか中国が上回っている。米国は最新鋭の空母、戦闘機、攻撃ドローンを投入するが、全てはコンピュータ制御されており、システムをハッキングされなすすべがない。追い込まれたアメリカはついに核攻撃に打って出る。
本書が出版されたのは昨年。当然、ウクライナ危機の前なのだが、小説ではプーチン大統領がウクライナの旧ロシア領を奪還し、80歳を過ぎてもまだ大統領を続けている
89：中国海軍提督
下級将校としてハーヴァード大学のケネディ・スクールで、中級将校としてニューポートの米海軍大学校で学ぶ。
210：プーチン大統領
クリミア、ジョージア、ドニプロ・ウクライナの古来のロシア領を奪還したというのに、よくてギャング呼ばわり。
240：ドローンで核攻撃
レーダーと赤外線の信号特性が小さな昆虫程度しかないため、探知は不可能。
2022年07月21日
ルールか規範か
ルールとは、例えば法律で、「制限速度は60km/h」と決めること。それに対して、規範とは、例えば、「車は状況に応じて、安全な速度で走ること」とすることだ。ルールには大抵客観的な取り決めがあるので、誰もが判断に困らないが、規範の場合は裁量の余地が多くなり、判断のコストが大きくなる。
これまで社会は本書のテーマであるノイズに注意を十分に払っておらず、本来、ルールにすべきことを規範で済ませているので、判断に伴うエラーとコストが莫大になり、不公平にもなっているという。
216：ノイズの最適水準
一般に、権威ある地位についている人は、自分たちの裁量権が取り上げられるのを好まない。貶められた、抑圧された、さらには侮辱されたとさえ感じる。
221：ルールの設計者が目指すのはノイズをなくすこと
ルールがないと、事実確認自体に判断の要素が入り込み、ノイズを生じさせたり、バイアスに影響されたりする。ルールに数字が規定されている場合には、ノイズは激減する。
252：判断ハイジーンの原則
�“獣任量槁犬論騎寮�であって、自己表現ではない
アルゴリズムを適切に使うとともに、判断者固有の傾向や価値観などに左右されないようなアプローチを採用することで、人間の判断の質的向上を図る。
��統計的視点を取り入れ、統計的に考えるようにする
あるケースを判断するときに、そのケースを唯一無二とはみなさず、類似のケースから成る参照クラスの一つと捉える。
�Ｈ獣任鮃渋げ修掘�独立したタスクに分解する
「過剰な一貫性」と呼ばれる心理メカニズムを抑える。人間はストーリーに一貫性を持たせようとするあまり、自分の拵えたストーリーにうまくフィットしない情報を捻じ曲げたり無視したりしがち。
�ち瓩っ奮�で直感を働かせない
情報を判断者に与える順序とタイミングを管理する。判断者に不必要な情報を与えると、判断者に無用のバイアスをかけることになりかねない。
�ナ�数の判断者による独立した判断を統合する
カスケード効果や集団の二極化現象のせいで、グループでの討論はノイズを増やすことになりかねない。議論を始める前に出席者各自の意見を聞いておくという方法で、ノイズの範囲を明らかにし、建設的な解決を導くことが容易になる。
�α蠡佚�な判断を行い、相対的な尺度を使う
相対的な判断は、絶対的な判断よりノイズが少ない。たとえば、誰もが知っているような実例を目盛りとして記載したケース尺度なら、その実例をアンカーとしてメモリに合わせればよいのでノイズが少なくなる。
2022年07月20日
組織に於ける意思決定
組織における人事評価、採用面接と来て、次は意思決定。組織ではトップから末端までさまざまなレベルで日々意思決定が行われている。末端に近いほど、判断基準は単純で、判断に困ると上司に判断を仰ぐことになる。戦略レベルになると、案件ごとに検討され、取締役会において決定される。
この判断にノイズが多く、決定の質が低ければ、組織は衰退し、やがて消滅する。本書の著者であるカーネマン、シボニーと友人のダン・ロバロが少し前に提案したのが「媒介評価プロトコル」という意思決定方法。
�“獣任鯒涓霽床噌猝椶吠�解する
��各項目の評価では、可能な限り「統計的視点」を取り入れる
�Ｊ�析段階でも、可能な限り項目ごとの評価の独立性を維持する
�ぐ媚弖萃蠅鮃圓Σ餤弔任癲�媒介評価項目を一つずつ切り離して評価する
�ゲ餤弔魯妊襯侫．に，鳳茲辰匿覆瓩�
��最終決定に臨むまでは直感を働かせないが、最終決定に際しては直感を禁じない
2022年07月19日
採用面接
人事評価と並んで、企業が手間と時間をかけているものに採用面接がある。会社によっては、納得いくまで何度も繰り返す。候補者も大変だが、面接する方も延べでは同じだけの手間がかかることになる。
その結果、「採用面接評価とその後の人事評価の相関係数0.28（一致数56~61%）」ということで、適当に採ったのより少し良い程度。「社会科学の基準からすれば十分な相関性だが、意思決定のベースとしては十分ではない。」
原因としては、
�．僖拭璽鵐離ぅ此米団蠅旅猝椶剖�く反応してしまい、他の項目が予定調和的になってしまう）
�▲哀襦璽廛轡鵐�ング（集団面接で、一部の面接者の意見に引っ張られてしまう）
がある。
これは、凝った採用をするので有名だったあのGoogleでも同じで、採用面接に基づく将来予想と実際の実績データを分析したところ、「両者の間にはまったく関係はなかった。ゼロだ・・・完全にでたらめだった」ということだ。そこで、Googleは本書で勧められている「構造面接」を導入する。
157：ラズロ・ボック『ワーク・ルールズ！』
Googleでの採用面接に基づく将来予想と実際の実績データを分析
「両者の間にはまったく関係はなかった。ゼロだ・・・完全にでたらめだった」
�（�数の判断の統合
面接回数を4回以下に減らす（それ以上やっても予測精度は高まらない）。
各面接官が個別に候補者を採点し、その後に初めて他の面接官と意見交換する。
�∧�雑な判断の構造化
評価を分解する、評価は独立に行う、総合判断は最後に行う。
Google評価項目
・認知能力
・リーダーシップ
・文化的な適性「グーグルらしさ」
・職務関連知識
2022年07月18日
日本初の政党内閣
日本で内閣制度が発足したのが明治18年（1885）。初代内閣総理大臣はもちろん伊藤博文。それから7代に渡って、薩長出身者が交代で組閣する。
�＾貌�（長州閥）→��黒田（薩摩閥）→��山縣（長州閥）→�ぞ省�（薩摩閥）→�ヂ萋鷦＾貌�→�β萋鷦‐省�→��第三次伊藤大隈重信は、もともと政党政治を目指し、立憲改進党を明治15年に組織して党首になっていた。その後、明治29年には進歩党を設立している。しかし、世間では過激な主張をする板垣退助の自由党のほうが人気が高い。明治31年「藩閥政治を終わらせる」という一点で進歩党と改進党が一緒になり、新たに憲政党が創立される。
憲政党の下、組閣されたのが日本初の政党内閣。大隈重信は内閣総理大臣兼外務大臣となり、懸案の条約改正に当たった。内相についた板垣退助と合わせて「隈板内閣」と呼ばれる。
大日本帝国憲法下での内閣はいずれも短命だ。元老という憲法上規定のない存在が力を持ち、天皇に「助言」しており、天皇が認めるかどうかで組閣も解散も出来た。さらに、天皇は軍隊の統帥権を持っていたので、軍部が力を持ち始めると、軍部はあからさまに内閣を無視し始める。これが軍部の暴走につながっていく。
287：福沢諭吉
総選挙や議会制民主主義が施行されると、政治家は常に国民の意向を気にしていかねばならない。中には国民の人気を獲得するために、西洋諸国に対して強硬論を唱える輩も出てくる。その挙句が軍の強化。
302：三国干渉
列挙の圧力を予想できなかった伊藤と陸奥。元々、清国領に手を出すことを否定し、「清国保全論」を唱えていた大隈にとって痛恨事。
322：明治31年 日本初の政党内閣
�＾貌�（長州閥）→��黒田（薩摩閥）→��山縣（長州閥）→�ぞ省�（薩摩閥）→�ヂ萋鷦＾貌�→�β萋鷦‐省�→��第三次伊藤→��大隈
338：東京専門学校 清国留学生部
5年間で1千人もの清国留学生受け容れ。
348：日露戦争で日本が得たものは国威高揚くらいで、根拠のない自信を無駄に国民に植え付け、政府への不平不満を高めることにしか役立たなかった。しかも山縣ら強硬派は、さらに軍事予算を獲得しようと画策している。
354：明治42年 伊藤博文暗殺＠ハルビン
伊藤は韓国併合後に韓国人による責任内閣を作り、韓国人に一定の自治権を与える構想。
伊藤暗殺で、山縣系官僚が韓国総監府の顕官の座を占め、文字通りの併合に。
366：鉄道国有化
明治39年（1906）に帝国鉄道庁に移管されてから、その利権をめぐる派閥形成。
2022年07月17日
学問の独立
早稲田大学といえば「学問の独立」。これが建学の精神なのだが、これを掲げたのは小野梓。高知県宿毛の出身だ。宿毛と言えば、高知でも西の端で、どこから行くにしても本当に遠い。そこで生まれた小野がどういう経緯で戊辰戦争に参加し、その後、英米留学まで果たしたのか気になる。
203：藩閥政治
かつて築地梁山泊で、夜が白むまで悲憤慷慨していた伊藤が、今ではかつての大久保以上の独裁者として振る舞っている。
212：東京大学では山口・鹿児島両県出身の若者が学生の半数近くを占めているため、他県の若者にとって、政治家や官僚への門戸はさらに狭くなっていた。
215：小野梓「学問の独立」
欧米諸国の影響からの脱出と、政治権力と切り離された学問を教えていかねばならない。
232：ハリー・パークス
平民階級の上、若い頃、広東のイギリス領事官で清国語通訳として採用されたことが、パークスのキャリアの始まりなので、イギリス政府内ではエリートではない。そのため18年の長きにわたり、日本駐在公使に据え置かれていた。
247：鹿鳴館
外国人気質を知る大隈は、こうした上辺だけの欧化政策が外国人に馬鹿にされるだけなのを知っており、その巨額の経費にも呆れるしかなかった。
253：小野梓「国民精神の独立」
国家を独立させようと思うなら、その民を独立させねばならず、そのためには精神の独立は必須で、精神の独立を得るために学問が必要。
2022年07月16日
佐賀の乱
元鍋島藩士の大隈重信は当然、やはり藩士であった江藤新平らと親しかった。明治時代になって、ともに政府に取り立てられ官僚として働くが、薩長の藩閥政治に阻まれる。
先に辞めたのは江藤で、不平藩士の不満が高まっていた佐賀に戻ったのは、それら元藩士の言い分を聞いて、騒動に発展しないようなだめるためだったという。ところが、元政府高官であった江藤が帰郷したことで、逆に、江藤は反乱の首謀者に祭り上げられてしまう。
権力の頂点にいた大久保利通は、これを徹底的に叩く。四国へ逃亡中に捕らえられた江藤は首を刎ねられ、京都三条河原に晒される。「大久保は佐賀を討つことで、鹿児島にいる西郷らに脅しを掛けたかった」のだ。
5：伊藤博文と共に工部省を設置
その一環として富岡製糸場の設立を推進、渋沢栄一らを設置主任に任命。
84：大日本公館（釜山）
対馬藩の賄賂で潤っていた朝鮮の役人たちが反発。日本人商人の活動を制限した上、公館への生活物資の搬入も止めるという暴挙。朝鮮政府は、公館の前に日本の罪をあげつらい、日本を「無法之国」とまで記載した看板を掲示。
107：佐賀の乱
大久保は佐賀を討つことで、鹿児島にいる西郷らに脅しを掛けたかった。それだけのために佐賀は利用された。
2022年07月15日
人事評価「1/4はシグナル、3/4はノイズ」
毎年莫大な労力を使ってあらゆる組織で行われる人事評価。その評価次第で昇進が決まり、ボーナスが決まるので関心は高い。従って、これまでに膨大な量の研究が行われてきたが、論文の結論はどれも、「評価対象者の実績と人事評価との関係は弱い」という。
132：360度評価真の不一致、すなわち評価対象本人の仕事ぶりに起因する不一致は全体の20~30%にすぎず、残りの70~80%はシステムノイズ。
システムノイズとは、おさらいになるが、以下で構成される。
・レベルノイズ（Aさんは全体の評価が甘く、Bさんは辛い）
・パターンノイズ（個人の好みで特定の対象に甘くなったり辛くなったりする）
・機会ノイズ（その時の気分によるブレ）
その比率については、調査によって異なる結論が出されており、それは調査対象組織の違いによるものだろう。
143：Pulakos, Mueller-Hanson, and Arad, "Evolution of Performance Management," 250「過去数十年にわたって続けてきた努力にもかかわらず、人事評価は相変わらず不正確な情報を量産しており、評価対象者の能力向上には役立っていない」
多大な時間を投入しているのに、組織パフォーマンスに貢献していない人事評価。そこで、一部の企業は評価制度そのものを廃止するところが出てきた。多くはハイテク企業、一部のプロフェッショナルサービス企業で、「過去の実績の評価よりも将来思考の能力開発にフォーカス」している。
134：戦略的評価
評価後の本人との面談で気まずくなるのを避けるために故意に評価を高くする。自分のチームにいる仕事のできない奴を他部署で受け入れてもらうためにわざといい評価を付ける。
139：相対的評価
ランク付けによってパターンノイズとレベルノイズの両方を減らせる。
142：2015デロイトトーマツ試算
「65000人の人事評価に毎年200万時間が費やされている」
一人当たり年間31時間！
一人当たり年間31時間！
144：評価尺度
何を評価するのか尺度の余地を限定する。
2022年07月14日
精神科診断のノイズ
「医師の診断には想像以上にノイズが多い」という。X線撮影のようなある意味客観的に見える診断でも、専門家の意見が一致しないことがある。写った画像は同じでも、その解釈は医師の判断に任される。
医療で特にノイズが大きいのは精神疾患の分野で、同じ患者を同じ診断基準で診断しても精神科医の間での不一致が珍しくない。珍しくないどころか、様々な調査が何十年にもわたって行われているが、その一致率は50%前後で、つまり、てんでバラバラなのだ。「医師によって特定の診断を下す傾向。たとえばある医師は鬱病、別の医師は不安神経症の診断を下す確率が目立って高かった」という。
こうしたノイズを減らすため、アメリカ精神科医学会を中心に、診断ガイドラインを確立する努力が続けられてきた。1980アメリカ精神科医学会『精神疾患の分類と診断の手引き』（DSM-3）で初めて精神疾患の詳細かつ明確な診断基準が示された。
最新版は、2013年のDSM-5で、より客観的で明快な尺度が示されている。にも拘わらず、ノイズは一向に減っていないという。
75：指紋
近代的な指紋研究が始まったのは19世紀になってから。スコットランドの医師ヘンリー・フォールズが、指紋は一人ひとりみな違うこと（万人不同）、成長しても変化しないこと（終生不変）に気づき、個人の特定に活用できるとする論文をNature誌に発表。
81：科学捜査における確証バイアス（forensic confirmation bias)
UCL認知神経科学者イティエル・ドロール〜これまでノイズなどないと考えられてきた分野で、精力的にノイズ検査。
科学捜査の決定だとされるDNA鑑定ですら、確証バイアスの餌食になる。
125：精神科診断のノイズ
ノイズが極端に大きく、同じ患者を同じ診断基準で診断しても精神科医の間での不一致が珍しくない。
1964年に経験豊富な精神科医10人が参加した調査では、患者91人の診断を行ったところ、二人の医師の意見が一致したケースは57%。やはりいくらか古い調査では、二人の精神科医が州立病院の患者426人を別々に診断したところ、患者の精神疾患の種類に関する診断の一致度は50%にすぎなかった。
医師によって特定の診断を下す傾向。たとえばある医師は鬱病、別の医師は不安神経症の診断を下す確率が目立って高かった。
126：ノイズの最大の原因は、医師の違いよりも不適切な分類法
1980アメリカ精神科医学会『精神疾患の分類と診断の手引き』（DSM-3）
初めて精神疾患の詳細かつ明確な診断基準が示される。診断ガイドライン確立に向けた第一歩。
2013 DSM-5 より客観的で明快な尺度→ノイズは一向に減らず
2022年07月13日
知的能力と実績
この調査結果から分かるのは、米国では、
GMA（一般知的能力測定試験）≒仕事パフォーマンス
が成り立つこと。
GMAは受けたことがないが、日本でいえば、リクルートが長年提供している適性検査SPIが近い印象だ。
51：知的能力職業で到達した地位、選んだ職業における実績どちらについても、GMAスコアは他の能力、気質、適性、職業経験などよりずっと予測精度が高い。
GMA（General Mental Ability）一般知的能力を測定
アメリカ陸軍が1世紀以上前にGMAテストを導入して以来、テストのスコアとその後の実績との関係について何千もの研究。
53：知的能力と実績
2013Fortune500CEO＋424人のアメリカ人富豪（保有資産で最上位0.0001%）調査
ハイパーエリートたちの知的能力がきわめて高い。この集団の中でも、教育水準が高く知的能力が高いほど報酬が多く（CEOの場合）、純資産額が多かった（富豪の場合）。
67：意思決定プロセス・オブザーバー
最終判断の前でも後でもなく、リアルタイムでバイアスを見つけ出す。バイアスがかかっている最中にそのことに気づく人はめったにいない「バイアスの盲点」
人間は他人のバイアスにはすぐに気づくが、自分のバイアスには気づかない。だから意思決定プロセスを第三者が見ていれば、バイアスに気づく可能性が高い。その第三者が、意志決定や判断に影響する主なバイアスを見抜く訓練を受けていれば、なおのこと。
2022年07月12日
ノイズの構成要素
上巻に続き、下巻。これまで、エラー（判断のブレ）は、バイアスとシステムノイズに分けられることが説明された。バイアスは比較的認識されているが、システムノイズはあまり意識されてこなかった。
システムノイズはさらにレベルノイズとパターンノイズに分けられる。レベルノイズは人によって評価が甘いとか、辛いとか、基準のずれだが、一般的にパターンノイズの影響の方が大きいという。23: ノイズの構成要素平均二乗誤差（MSE）であらわしたおおもとのエラーは、連続的に分解されていく。エラー＝バイアスｘシステムノイズシステムノイズ＝レベルノイズｘパターンノイズパターンノイズ＝安定したパターンノイズｘ一過性の機会ノイズ
確かに、他人によってツボが違い、そこにはまると、他のことが二の次になることがある。例えば、人によっては、出身地や母校に思い入れが強く、相手が同郷だったり、同窓生だと急に好意的になることがある。飲み屋だけでの話なら構わないが、仕事では要注意だ。31：システムノイズの最大要素はパターンノイズノイズの多くを生むのは、個人に固有の傾向やレベルの違いよりも、それと判断対象との交互作用。「判断者としての性格あるいは個性」の副産物。
2022年07月11日
ベルリン
パリで再会。女の住むボンに移動し、山の湖で釣りをした二人。趣味の釣りで一時は回復した男の情熱だが、ボンに戻ると再び元の自堕落な生活に。そこで、再び二人は旅に出るのだが、今回はベルリン。壁で隔てられた東西ベルリンだ。
今年3月に開高健記念館（茅ヶ崎）を訪れたとき、玄関前にあったのが、「入ってきて、人生と叫び、出ていって、死と叫んだ」の碑。それだけでは何のことか分からなかったが、これは本書の最後に出てくるベルリンの環状電車に乗ったときの話だった。
241：ベトナム戦争
いっさい数字をあげないで、市民は逃げつつ殺され、アメリカ兵はたたかいつつ殺され、反政府兵はたたかいつつ殺され、政府兵は逃げつつ暴行略奪しつつたたかいつつ殺されたといったほうがいいかもしれない。
273：大学の同級生
「会えば病気かゴルフの話だね。糖尿や血圧なんかがいい。病気の話をはじめるといきいきしてくる。そうでなかったら戦争中、子供のときに豆カスやハコベを食べた話、これもいきいきできる。無限に語れるね。病気と豆カスの話をするなといわれたら両手を縛って川へほりこまれたようなもんだ」
292：ベルリンの環状電車
頑固に、勤勉に、正確に、止まったり、かけぬけたりするが、おなじことだった。入ってきて、人生と叫び、出ていって、死と叫んだ。
2022年07月10日
パイク釣り
1964~5年のベトナム戦争取材で九死に一生を得た開高健。その強烈な体験からだろう、帰国後、鬱になって、昔の愛人と再会してひと夏を過ごす話。それは、史実では1968年の夏だったらしい。開高は文藝春秋の臨時特派員として「パリ動乱と東西ドイツを取材して、サイゴンを経て帰国」している。
滞在中、「男」の調子が最もよかったのはドイツの山の湖でのパイク（カワカマス属）釣り旅行中。やはり、開高の一番の趣味は魚釣りだったのだろう。パイクが釣れた時の様子をこう書いている。
「更新された。私は一瞬で更新された。私はとけるのをやめ、一挙に手でさわれるようになった。全体が起きあがり、ふちが全体にもどり、眼が見えなくなった。戦慄が体をかけぬけ、そこへすべてが声をあげて走りより、冷酷も、焦燥も、殺意も消えた。」
186：ドイツの山の湖
壁には巨大なパイクの頭がトロフィーとして飾ってあって、虎かと見まがうほどの口をカッとあけ、無数の鋭い歯をむきだしている。これほどの逸品を見ると、北方の古い譚詩のなかでは昔パイクの肋骨を家にしてそこに人が住んでいたことがあると伝えられているのを思いだすが、まんざら誇張ではあるまいとさえ思えてくる。
198：83cmのパイク
これはいままでの”ペンシル・パイク”ではなかった。白い腹がどっぷりと太り、鮮緑に白斑の肌は美しいが、目の威迫的な隆起、下くちびるの傲然とした反りかえり、むきだした牙の凄味、醜怪としかいいようがない。しかし、壮年の男の孤独な冷酷というか、精悍、貪婪だが何事かに諦観してしまったようでもある気配がどこかに漂い、一種の気品があるということはいえそうであった。
204：アーベントロート（赤い夕焼け）
空いちめんに光がみなぎっていた。さまざまな地帯の国でこの時刻を見てきたが、夕焼けではなくて、何かまったく新しいものを見ているような気がした。真紅、紺青、紫、金、銀、無数の光が縞となり、靄となり、層となって、それぞれの色に徹しながらかさなりあって氾濫していた。
225：パイク香草料理
「今度からは私が作ってあげるわ。私とフライパン一つ持っていったら何日でも野宿できるわよ、ウンコちゃん」
2022年07月09日
開高健「第二の処女作」
開高健自身が「第二の処女作」とする純文学長編。
「ヴェトナム戦争で信ずべき自己を見失った主人公は、ただひらすら眠り、貪欲に食い、繰り返し性に溺れる嫌悪の日々を送る」
と裏表紙の紹介にはあるが、本書を通して9割がた倦怠感はあるものの、そう嫌悪しているとも思えない。昔の愛人と10年ぶりに欧州で会う。最初は小説家が滞在していたパリで、その後は女性が大学院生として在籍する大学のあるボンで一緒に過ごす。ボンは小さな大学街ながら、当時の西ドイツ首都だ。
愛人には名前が与えられていない。全編通して彼女との濃厚な交歓が綴られるので、どうしても、モデルが気になって来る。創造だけでこれほどリアルに描けないだろう。モデルはいた。
細川氏（開高健の編集者）が言及している菊谷匡祐『開高健のいる風景』（集英社2002）の中に実名が登場します。さらに菊谷匡祐（1935−2010）が引用している新聞記事には佐々木千代子（19??−1970）という実名が掲載されています。本名が佐々木千代子で筆名が佐々木千代です。『ようこそ！ヤポンカ』（婦人画報社1962）は佐々木千代の名前で出版されています。開高健が「すいせんのことば」を書いています。さて『夏の闇』の「女」のモデル佐々木千代は1970年3月24日午前零時40分ごろ東京都世田谷区玉川瀬田で交通事故死しました。（Amazonレビュー）
佐々木千代は昭和36年（1961）に早稲田の露文を出て、まだ海外旅行が珍しい時代に、世界旅行を企てる。その際に、海外旅行通として、アドバイスを求めて開高健を訪ねたらしい。翌年の帰国後、その体験は『ようこそ！ヤポンカ』（婦人画報社）として出版される。宣伝帯文を書いたのは開高健だった。
本書が発表されたのは1971年。執筆はいつからか分からないが、おそらくモデルである佐々木千代の事故死がきっかけになったではないか。そうでなければ、これほど赤裸々に書けなかっただろう。
「これまで書くことを禁じてきたいくつかのことをいっさい解禁してペンを進めた。これを〈第二の処女作〉とする気持ちで、四十歳のにがい記念として書いた。この作品で私は変った」（単行本の函「著者のことば」）
33：なつかしさがあがってくる。小皺を集めてしっかりと閉じた肛門のかなしげな、とぼけて親しそうな、それでいて嘲っているような奇妙な顔つきも、淡褐色のくちびるをひらけるだけひらいた、びしょ濡れの玄も、そのはぜたような赤いせりだしのたたずまいも、小さな襞の群れのさざめきも、ざわざわするあたたかい森も、すべてがその位置にあり、質にある。
102：ボンの酒場
女の話では300年の伝統を持つ古舗で瓶にレッテルが貼ってない酒をだすが名声はタンポポの種のように広く散っているとのことである。頑強な角材を組んだ古い門をくぐると赤煉瓦を敷きつめた中庭があり、大樽や、馬車や、ブドウ摘みの籠などがころがっていて、熟しすぎたトマトのような大女が微笑しつつあらわれた。
105：私は読めないし、感じられない。ねっとりしたクリームのような睡気が体のなかにひろがっていて、角張っ泥に沈むようにして私は沈んでいくだけである。やわらかな無数の繊毛が音もなくうごめいてしのびよってくると、脳だろうと、腹だろうと、感じたその個所から私は眠ってしまうのである。
2022年07月08日
社外取締役の役割
東証が上場のための必須条件にしたので、ここ数年「社外取締役バブル」とも言われる状況が続いている。上場企業の代表取締役経験者であれば、数社の社外取締役をやっているのが当たり前で、現役のときと変わらない報酬を社外取締役の兼任で得ている人も少なくない状況だ。
しかし、どれだけの人が社外取締役の役割を心得てやっているのか？自分が社長として会社を引っ張っていたときとは違う役割を求められていることを理解してやっているのか？そこは心許ない。
本書で示されている、社外取締役の3つの役割は参考になると思う。
178：順法性・人間性
Level0 法を守れない。非合法。illegal
Level1 合法。legal
Level2 道徳。moral「人の道に外れない」「人に愧じない」
Level3 倫理。ethical「心に愧じることのない」
216：社外取締役との関係
社外取締役の役割の第一は社長の交代時期を提案することと、交代社長候補の品定め。
いささかでも社長に疲れが見えたり、倦怠が感じられたときには社外取締役はただちに交代を進言すべき。
218：第二の役割は、経営上の判断が法令や定款に従って正しく行われているかの確認。
上程された意思決定事項が経済合理性によって吟味され、法令、定款に従って提案されているかどうか。
219：第三の役割は、事業各々のリスクの最大値を検証して一つの失敗によって会社が立ち行かなるケースを避けること
最悪の事態が発生したときにどのくらいの最大損失が見込まれるか。
224：会社はいつでも非常時
社長にとってつぶれる会社を破滅から救うのは日常の事、365日やっていること。常在戦場。
2022年07月07日
不良資産の原因
1兆円を超える不良資産を、およそ3回にわたって整理した発足したばかりの双日。特に、2004年9月からの半年間では6000億円の資産を売却し、4300億円の損失を出している。
どうしてこんなにも多くの資産が不良化したのか？西村社長は調査に乗り出す。
164：会社としての意思決定の際に最初に何が語られていたのか、どんな目算をもって事業に踏み込んだのかを知るため、決済申請書をかたっぱしから読んでみました。もちろん個々のプロジェクトによって狙いも違えば環境も異なる。やっている人たち、業界が違うのですから当然です。が、それでもプロジェクト発掘の動機に一つの性向があるのに気がつきました。
どのプロジェクトも選んでいたのが海外の相手国における有力企業で、双日から一方的に彼等にとって有利な融資条件を持ちかけ、彼らのプロジェクトリスクの負担をしていたという。最初から契約内容が不利で、リスクだけが大きく儲かるはずがない。どうしてこんな契約をしたのか？
それは、90年代の海外アライアンスの流行にあった。経営トップから「海外アライアンスを作れ」という一斉号令がかかり、各部署はよいビジネスを作ることではなく、海外アライアンスを作ることが仕事目的になってしまった。
166：一斉号令の弊害部署は全部が同じような成長、成熟度合いにはない。全社に一斉号令をかけてしまうと、力のない者たちまでが身の程を知らない無理をして、思いもよらぬ傷を負うばかりか、もともと成長過程にあったビジネスモデルさえも壊して、将来性まで失ってしまう。
もう一つの教訓は、「弁護士の使いかたの甘さ」で、肝心の契約の急所に使っていなかった。弁護士意見を求めることが稟議を通すための方便になってしまっていたという。
例えば、東南アジアの某国で100億円で買った森林伐採用の森林があった。ところが法令によって伐採が出来ないため無価値になっていた。プロジェクトスタート時の書類を見ると、弁護士を起用して契約に「問題ない」となっているが、ポイントは何に問題がなかったかだ。
外国法人が森林を持つことは「問題がなかった」。しかし、「当の森林を木材輸出の目的で伐採することには問題があった」。ここも処分した不稼働資産の一つだ。
例えば、東南アジアの某国で100億円で買った森林伐採用の森林があった。ところが法令によって伐採が出来ないため無価値になっていた。プロジェクトスタート時の書類を見ると、弁護士を起用して契約に「問題ない」となっているが、ポイントは何に問題がなかったかだ。
外国法人が森林を持つことは「問題がなかった」。しかし、「当の森林を木材輸出の目的で伐採することには問題があった」。ここも処分した不稼働資産の一つだ。
170：弁護士は使い方が大切弁護士は専門性の合ったところで、適切な時に起用することが大切。それには自社がある件に関してどんな問題を抱えているかという点を的確に知って選任するしかない。
2022年07月06日
「大丈夫」報告ほど信用してはいけない
「事業部門長と社長の判断は違う」という。
134：事業部門長と社長の判断が違う理由社長は、会社が社会的な事件に巻き込まれると、たとえ事件に対する責任がなくても、大きく信用を傷つけて会社をつぶす原因になるということを知っており、契約を約束の通りに遂行しようとする点に判断の基準を置く事業部門長とは異なる判断の基準を持っている。
ある晩秋の休日、西村社長は温泉に出かけていたという。そこで、午後テレビを見ていたら、ロシアから木材を積んだ貨物船が日本海で遭難したというニュースが流れる。双日はロシア材の輸入シェアは50%を超える。
すぐに秘書に電話し、遭難した船の丸太が双日の輸入品でないか確認させる。2時間以内に連絡があり、「それは双日の貨物であった。しかし、双日は荷主ではあるが、海上輸送の責任は船会社にあり、もし損害が出ればその損失は保険会社が負担する」というのだ。
当社には責任もなく損害を被る恐れもないというのだから、普通はここで「では、よかった」となる。しかし、西村社長は木材部の担当者をただちに現場の漁港に急行させる。そして、そこで漁協に事情を説明した上で協力をお願いせよという具体的な指示を出す。
132：船がひっくり返って流れ出した丸太は、放っておくとどんどん広がってばらばらに流れ出し、3，4日もすれば、一部は岸に近づいて小型船にぶつかったり、定置網を破ったりするに違いありません。その時になると各種の被害は警察や海上保安庁に報告され、対応を迫られた監督官庁は事故を起こしたロシアの船会社に善処を求めるように動き出しはしますが、相手は外国船、とても迅速な手段を講ずることは期待できません。そこではじめて契約上の責任はないものの、国内にいる手近な当事者である当社が呼び出され、6000本の流木の回収を命じられることになる。その時に事故の責任や契約関係など、マスコミにとっては何の関係もない。会社存続のため6000億円の不良資産整理を進めている「あの双日」が事故を起こして地元は大迷惑という記事になるに違いない。
133：重大な事故に対しての社会的な責任を果たさないゴロツキ会社としてレッテルを貼られ、木材以外でも会社の全事業分野にわたって信用力の低下をもたらすことであり、結局は会社をつぶすことになるのです。
110：面談の前に二つ課題を作れ
�〜蠎蠅硫饉劼琉貳崑腓�な問題になりそうなことを想定し、その解決に関して相手の社長はどう考えているのか
�⊆�分の会社が今一番やりたいと思っている事柄に対する相手の意見を求め、さらに協力を求める
119：思考時間の確保
朝のウォーキングで歩き始める前に当日のテーマを設定しておく。
123：スピーチは自分で書く
ステークホルダーへのあなたの考え、会社の状況とこれからを示す最大のチャンス。
会社の行く先を正しく示して、つぶれることを防ぐためにあなたの力を発揮する場面。
137：「大丈夫」報告ほど信用してはいけない
下の人たちは悪い情報はなるべく上に報告したくない。報告するにしても、まずあまり大きな問題ではない、当社の被害は大したことないという報告にしたい。部下たちは、できれば対策を立ててから報告をしたいという習性を持っている。
142：その日のうちに発表が鍵
「こんな不祥事が発生したという報告を受けた。大変に遺憾である。対策本部を作って、調査を含めて早急に対処する」と言うだけでいい。
�ー卍垢�知っていて対応しようとしている
�⊆卍垢�関与すべき問題だと会社は認識している
・メディアを大切にして発表を優先してくれたという好感
・次の発表はどうなるのかという期待から、憶測記事を防げる
2022年07月05日
機能型商社
会社再建のためには、どういう会社にしていくかというビジョンが必要。双日初代社長として、西村社長が掲げたのは「機能型商社」だった。
この構想は、2000年代の初め、株式市場では受け入れられなかったという。当時流行っていたのは「選択と集中」。機能型商社も、いわば「商売の質」で選択と集中を進めるという点では、その流れに沿っているのだが、いかんせん、アナリストなど部外者には分かりにくい。94：機能型商社商品の数を誇る間口の大きな商社ではなくて、我々が商取引に存在する価値が取引先に受け入れられる、つまりは我々が介在すること、あるいは我々が果たす機能がお客様のお役に立てる商社。
また当時は、資源価格が安かったので、双日が持つロシア石炭や非鉄金属の権益を売るよう迫られたという。それらは、その後、資源価格が高騰する中で双日の再建の柱になっていく。
49：バッファローの群れ
会社の全部の細胞がそれぞれ成長しなければ、全体も大きくならない。しかし、大きくなれる細胞ばかりでなく、大きくなれない、または小さく衰える細胞もある。最も弱い因子を群れの中から引き抜く役割は社長。
61：グローバル化で地域格差が拡大
収益は海外事業から上がっている。海外の事業体は現地での調達を求められて、その地域の経済を活性化させている。かつてのように日本国内で大手企業の周辺下請け、孫請けから地方の事業会社、サービス産業へと順次おこぼれが回ってくるという図式はなくなった。
78：ダイナミックリスクコントロール
（狩猟民族）彼らは入り口審査より運営中の変化、リスク回避に重点。水田は放棄してどこかに行くというわけにはいかないが、猟場は容易に変えられる。
2022年07月04日
まず「つぶさないこと」
日商岩井最後の社長にして、2004年ニチメンとの合併後、双日の初代社長による経営論。その後のリーマンショックで巨額損失を出す会社が続出したので、今では記録が塗り替えられたが、当時の日商岩井は不良債権処理で6000億円もの巨額損失を計上し、これは日本の事業会社としては過去最大の赤字だった。
当然、会社は存亡の危機に立たされ、取引銀行の融資リスケで生かされている状態だった。そうした修羅場をくぐった経営者だけに、具体的、現実的な経営論になっている。
事業ドメインがきっちりと決まっていない総合商社は、ビジネス機会があるとみれば拡大しがち。しかし、ダボハゼ的にやっているとリスク管理が甘くなる。それは市況が悪くなった時に噴出し、バフェットに言わせれば、「誰が裸で泳いでいたか分かる」。バブル経済崩壊後、それで経営危機に陥ったのが日商岩井だった。
その総合商社で、この10年間で一番伸び、2年前の決算で、長年業界に君臨してきた三井・三菱の両雄を抜いて総合商社トップに立ったのが（利益・時価総額）、伊藤忠商事。ここの岡藤CEOが経営方針として掲げているのが「か・け・ふ」。これは、「稼ぐ、削る、防ぐ」の頭文字で、「商売で稼ぎ、費用を削り、損失を防ぐ」ということになる。
はじめに：「あなた本当に社長をやるの？この時期に社長をやるなんて酔狂だね」
2002年6月日商岩井社長就任前に挨拶に訪れた取引銀行の頭取から。
2004年ニチメンと合併、双日としてスタート。
この間、再建のための不良資産整理、会社の合理化、人員のスリム化、リスク管理体制の確率、事業の選択と集中、ガバナンス強化と、まさに会社の中身を総入れ替えするような荒療治の連続。
14：成長の前にまず「つぶさないこと」
リスクへの対応は大きくならないうちに、小さい間にこれを叩くというのでは生ぬるい。（中略）なぜなら社長が少しでも様子見をしたり、先送りの気配を見せたら、それを見ている部下の末端の末端では増幅されえたゆるみとなって、会社を揺るがせてしまう。
26：本当の原因は別にある
例えば、本当の顧客層が見いだせないまま販売し、費用のロスや在庫が増大する、無理な販売からクレーム負けなどの結果になることはよく目にする。
29：全員が参加しないと合理化はできない
目標設定、回復プラン、求心力醸成、全員参加、協力我慢、期間内達成。
38：毎日毎日リスクを排除する
大がかりな合理化に追い込まれないために、リスクの排除を常に心掛けるのが社長の役目。
2022年07月03日
鈴木商店倒産
商売の天才であった金子直吉。しかし、金融業の役割に理解がなく、おおっぴらに銀行批判を繰り返した。
間接金融に頼りたくないなら、直接金融、つまり増資で資本金を厚くするしかない。しかし、鈴木商店は鈴木家のもので、資本形態は個人商店と変わらず、資本金は小さなままだ。そのため、第一次世界大戦の特需景気が下向きになると、台湾銀行・正金銀行などの特殊銀行融資に過度に依存することになる。
357：昭和2年3月25日台湾銀行は遂に鈴木を見放した。議会では政友会に、そしてコール市場では三井銀行に、鈴木は両面から三井の挟撃を受けた。
336：金子直吉『金利万能論』銀行批判
もともと既成資本と密接な関係にある大銀行筋は、こうした直吉の高姿勢に対して、いよいよ、そっぽを向き、融資の道を断った。このため、鈴木商店の金融は、台湾銀行・正金銀行などの特殊銀行に頼らざるを得ない。借入金は急増、大正12年末には、台湾銀行からの借入だけで2億2千万に達した。
347：高畑帰国
「家の半分が焼けているのに、バケツの水で消そう」という状態。
362：日商
高畑・永井らを中心とした貿易商社である日商は、十ヶ月後、発足した。資本金百万円、社員30の小会社。折からのはげしい不景気に、「三年保てば、逆立ちもの」と言われた。
379：高畑『ゴルフルール百科』
ゴルフ歴50年。最高ハンディ３。
2022年07月02日
鈴木関係者の戦後
昭和恐慌のさなかに倒産した鈴木商店。しかし、優秀な人材の多かった鈴木商店の元従業員は、戦後も各方面で活躍する。まず、鈴木商店の商社部門39名が設立した日商の高畑誠一社長。3代目社長には、鈴木商店の番頭役であった西川文蔵の養子になった西川政一が就任する。
西川政一は丹波の奥地の出身で、小学校しか出ておらず、鈴木商店の見習い店員だった。それを文蔵が才能を見込んで養子として、一旦会社を退職して、神戸高商に学ばせる。卒業後再入社して、文蔵の次女と結婚するのだが、それは鈴木商店が破綻した直後のことだったという。
昭和43年（1968）、政一は岩井産業との合併をまとめ、日商岩井の初代社長となる。
276：大正８，9年の鈴木商店の年商は16億円。三井物産を抜き、日本の商業史上で最高の記録を打ちたてた。
277：東洋高圧
ハーバー式の特許料は1300万ポンドなどといわれ、財閥連合軍がもたついている間に、鈴木商店ひとり先行して、空中窒素固定法を日本にもたらしたのだ。こうして、資本金1500万円のクロード式窒素工業が、関門の彦島に誕生した（鈴木破綻後、三井系に）。
291：日本バレーボール協会会長、国際バレーボール協会副会長 西川政一
鈴木商店破綻後、その商事部門を引き継いだ総合商社である日商社長。
鈴木商店の見習い店員だったのを、西川がその才能を惜しんで、養子に。
326：戦後最も多くの経済閣僚を送り出したのも、旧鈴木系
鈴木関係者の政界・産業界などの各方面に於ける社会的活躍は目立つ。
2022年07月01日
煙突男
金子直吉のあだ名は「煙突男」。それは、常日頃から「関門と阪神の海岸は鈴木のマークで埋める」と豪語していたからだ。
先にのべたように、「国内の商売は、芸者と花札をやるようなもの」として、輸出による外貨の獲得と、国産工業振興による外貨節約を目指した。グループの中心である鈴木商店は昭和恐慌のさなかに倒産するのだが、戦後も残って発展した子会社は多い。
先にのべたように、「国内の商売は、芸者と花札をやるようなもの」として、輸出による外貨の獲得と、国産工業振興による外貨節約を目指した。グループの中心である鈴木商店は昭和恐慌のさなかに倒産するのだが、戦後も残って発展した子会社は多い。
神戸製鋼 大型船のシャフト豊年製油 日本で最初の、本格的な油脂工業帝国石油 国内石油資源開発帝国人絹 のちの帝人
日本冶金 GEの技術とは別個にフィラメント製造
241：鈴木商店焼打ち
夜半過ぎ、今度は鈴木商店の系列である神戸製鋼の白米倉庫が襲撃され、略奪された後、焼き払われた。
244：皇室から3万円の下賜金があり、同時に三井家がもっともらしく救済資金100万円の寄付を申し出た。一方では、ひそかに米の輸出を続けている三井が。
250：大阪朝日はじめ世論がつくり上げた「利己主義の権化」としての鈴木商店の像
