2022年05月
2022年05月30日
異端のリーダーシップ
2012~2018年の6年間にわたってソニーの社長を務めた平井元CEOが初めて書いた「ソニー再生」の書。
就任した時、ソニーの連結最終損益は4年連続赤字。2011年度は過去最大となる4550億円の赤字を出していた。TV事業に至っては8年連続の赤字。正に瀕死だと言っていいだろう。ソニーブランドも輝きを失っていた。
その再生を任されたのはゲーム事業を手掛けるSCE社長をしていた平井。そもそも1984年に新卒で入社したのはCBSソニーで、好きな音楽を仕事にしたかったからだという。帰国子女（小中高と父親の赴任でNY、トロント、SF）であることを活かして、外国人アーティストのアテンドをしたり、日本人アーティストの海外マーケティングを担当していた。
ソニーの本流であるエレキの出身ではないから「異端」という事なのだが、改革に向くのは異端者。特に、日本企業では「痛みを伴う改革」が先輩や同僚に配慮してなかなかできない。そうした忖度抜きに、必要なことを合理的に進めるためにはしがらみのない人の方がいい。
日立の再生を担った川村社長ももともと主要事業部の発電部門に居たとはいえ、社長に就任する前は傍流の日立マクセルに出されていた身分だった。普通なら、そこでサラリーマン人生が終わっていたはずだが、2008年に日立が日本製造業として過去最大の7873億円の赤字を出すに及び、「彼なら情に流されない」と呼び戻されたという。
もちろん、合理性だけで再生ができるわけではない。赤字事業をやめるだけでは縮小均衡に陥り、リストラの繰り返しになる可能性が高く、従業員はやる気をなくす。平井社長も本書で強調しているが、社員との信頼関係を築くEQの高さがリーダーには求められる。
はじめに：ソニー再生の核心
自信を喪失し、実力を発揮できなくなった社員たちの心の奥底に隠された「情熱のマグマ」を解き放ち、チームとしての力を最大限に引き出すこと。
これまで3度の事業再生
社員との信頼関係を築き、困難に立ち向かうためにはリーダーのEQの高さが求められる。
14：2017年度決算
営業利益7348億円 20年ぶりに最高益更新。
「エレキが分からない平井に社長が務まるハズがない」
19：1984ICU卒業・CBSソニー入社→30代半ばでSCEA出向
組織の体をなさない、人間関係が崩壊してしまった職場。指揮命令系統がバラバラでカオス状態。経営者としての原点。
ソニー株価
2022年05月29日
ハンセン病と四国遍路
堀場清子による巻末の「解説」が詳しい。
本書は最初、「娘巡礼記」と題して1918年6月6日〜12月16日まで、『九州日日新聞』105回連載された。九州日日新聞（現・熊本日日新聞）は熊本の地方紙だが、当時の新聞は政党毎の機関紙の側面があり、その政党支持者には他県でも読まれていたようだ。
301：九州日日新聞社の社会部長宮崎大太郎に、巡礼記を送ると約して10円を与えられ、それを豊予海峡を渡る船賃にあてるつもりであったほかは、無銭旅行の、生死さえも運命の手にゆだねる出発であった。
303：読者のあいだにセンセーション。当時の日本社会では、若い娘の一人旅というだけで、瞠目に値した。また情報量の少なかった時代に、社会のどん底にある遍路らのなまなましい生態描写や、各地の珍しい風物の報告が、読者の好奇心を代行した。
それほど評判となり、著者の高群逸枝も一躍有名人となるのだが、この連載は出版されることはなかった。出版の話は何度かあったのだが、高群自身が、乗り気にならなかったためである。夫となって高群の女性史研究を支えていた橋本憲三も同意見で、出版が実現したのは二人が亡くなった後になる。
306：読むことが不可能にちかい、幻の評判作新聞に掲載されたきり、本にならなかった。「未熟をはぢて出す気がしなかった」（高群逸枝『お遍路』はしがき）
本書には行く先々で「業病」の遍路と出会う様子が描かれている。ハンセン病と四国遍路には強い関連があったわけだ。以前読んだ石牟礼道子『椿の海の記』では、江戸時代までは、ハンセン病患者は集落の外れで住民に助けてもらいながら暮らしていたらしい。明治時代になって、欧米諸国から患者を隔離していないことを非難され、徐々に欧米式に隔離することにことになる。ライ予防法が成立して強制収容が始まるのは昭和6年（1931）だ。
315：ハンセン病が不治の病でなくなった現在では、かつて遍路が社会に対してもった機能は、すでに変質してしまっている。（中略）往時の遍路は、「お大師さま」と同行二人で362里を歩きぬく、苦しい信仰の旅であり、人に忌まれる「業病」にかかったり、失敗によって家郷にいられなくなった悲運の人々の、おのれ自身を捨てにゆく場所でもあった。行き倒れて命の果てるまで、歩き続けるほかなかった人々にとって、遍路は文字どおりの死出の旅である。そして遍路の着る白衣は、もともと死装束にほかならない。
302：この熊本での窮乏時代に、日に三度血書を届けたというH青年から、彼女は求愛されていた。もともと拒絶のできない性格であり、他者に対しては無抵抗を旨とする愛の人であった彼女は、同情心にひきずられてH青年を振りきることが出来ず、窮地におちていた。後に夫となった橋本憲三とは、すでに恋愛関係にあって、故郷払川での教職を強引になげうち、前年秋に熊本に出てきたのであった。
309：「観音の子」
逸枝より先に3人の男の子が生まれたが、いずれも育たず。築後山門郡清水観音に女児出生の願をかけたところ、観音の縁日の18日に逸枝誕生。
7歳の暮れには和歌二種を詠み、（中略）12歳の彼女がすでに父の代講をして、大人のお弟子に『十八史略』の素読を教えていた。
316：江戸時代
江戸期から四国遍路には病人が多く、11月の末ころから2月までは、暖かい土佐の海岸で過ごし、春になると伊予に向かい、7，8月ころ今治のあたりに達し、10月には阿波に渡っていって、11月末にはまた大挙して土佐に入る。バタバタと行き倒れる「乞食遍路」の始末に手をやいた土佐藩の布告が残っており、明治・大正の時代になっても、冬の土佐の海岸には、こうした「乞食遍路」が千人近くもいたという。四国からはるかに離れた奥羽地方でも、「遍路に出る」といえば、やはり「業病」だったかととられ、北陸地方で「お四国へ行く」とは、「夜逃げをする」の同義語だったと記されている。
322：詩人として、またアナキズムの立場に立つ評論家として、華々しく活動し、論争し、雑誌『婦人戦線』（解放社1930-31通算16号）の主宰者となったのが、前半期。憲三が彼女のためにと、世田谷の林の中に建てた研究所にこもって、30年間門外不出、一日平均10時間の勉強に努め、『母系制の研究』（1938）、『招婿婚の研究』（1953）の二大著書をはじめとする業績によって、女性史学をうちたてたのが、後半期である。
2022年05月28日
100年前の四国遍路
熊本生まれの小学校教師、高群逸枝（1894-1964）が大正7年（1918）24歳で四国遍路へ旅立つ。高群は後に上京して、女性史の開拓者となるのだが、この時は、故郷の熊本で教師になったものの、恋愛の三角関係で悩んでいた。
当時の遍路は今とはずいぶん違う。高度経済成長期以降、庶民も旅行をする余裕ができ、四国遍路も観光の延長となった。観光バスやマイカーで廻るのが主流となり、宗教的修行ではなくなった。
この本を読んでも分かるが、それまでの四国遍路は死に場所を求めるようなもの。不治の病、経済困窮などさまざまな理由で人生を諦めた人が、多くは無一文で、「修行」（乞食）しながら、地元民の恩情に頼って遍路を続ける。地元民だって多くは貧しいのだから、いつも恩情に預かれるとは限らない。野宿になることも多いから、冬のあいだは暖かい土佐で過ごし、1年かけて四国を回っていたようだ。
早い話が、お遍路さんは乞食でもあるので、ほとんどが「40から上の年配の人たち」（当時の平均寿命を考えれば、今の60歳以上の感覚だろう）だった。若い人がいても病気などで「若いやら老人やら分からない種類の者」だという。「総括すると、灰色の敗残者」だと著者は書いている。
私が物心ついたときは、1960年代の高度経済成長期が終わるころで、国民皆保険制度が導入（1961）され、経済問題で医療が受けられないということが急速に減った頃。従って、乞食のようなお遍路さんも姿を消していた。祖母から、昔は遍路道からは外れている我が家にもときどき乞食遍路が物乞いに来ていたと聞いた。
27：観音様信心
私が生まれる時母が、観音様に「この子を丈夫に成長さして下さいましたらきっと一人で巡礼いたさせますから」と誓った。
125：四国遍路のお修行（乞食）
お修行するのに一等楽なのは伊予と讃岐で、土佐と来ては人情が紙のようだ。
126：遍路
総括すると、灰色の敗残者だと見なして好いかと思う。どれもこれも足を痛めていたり口を歪めていたり痩せて骨ばかりになっていたりまるで死の勝利に出ている乞食の群れを思わせるようだ。
それに若い者はほとんど見かけない。先ず40から上の年配の人たちだ。否全然見かけない事もないが、そのいずれもが若いやら老人やら分からない種類の者で、みずみずしい少女だのは見ようたっても見られない。
134：遍路の墓
そこここで遍路の墓というのを見たが、そのいずれも遍路道に近く面して立てられ新しいのは杖や笠などまで置かれてある。（中略）先日は四万十川のわたしで40人の遍路が死んだそうな。
215：業病
顔も手足も紫色に腫上っている。人々はクスクス笑った。何というこのいたましい光景、顔をそむけずにはいられない。（中略）人々はよく話しかけることが出来る。羨ましい事だ。
2022年05月27日
開高健のベトナム戦争
ロシアによるウクライナ侵攻を先頭に立って非難している米国だが、歴史を振り返れば、正義を誇れるようなものでもない。スペインにいちゃもんをつけて戦争をしかけフィリピンやグアムを手に入れているし、多国籍軍を率いて侵攻したイラクでは大量破壊兵器は発見されず、9.11後にアルカイダを追って侵攻したアフガニスタンでは内戦を引き起こしたうえ、再びタリバン政権に戻った。
その間、イラクでもアフガニスタンでもたくさんの民間人が巻き込まれて無残に死んでいったが、それは西側ではほとんど報道されなかった。それは、スマホが普及して誰もが映像を取れるようになる前だったことに加え、イラクもアフガニスタンもウクライナ程経済水準が発達しておらず、通信インフラも貧弱だった。
米軍が初めてゲリラ戦に直面したのがベトナムで、ゲリラが民衆に紛れ込んでいるものだから、これが無差別爆撃、それも、ゲリラへの中国からの補給路を断つために隣のラオスまで執拗に空爆した。農村はゲリラをかくまえないよう丸ごと焼き、そのために、大量の難民がサイゴンに逃げ込んだ。
大量の兵器、爆薬、人員を注ぎ込んだにも拘わらず、米国はその歴史上はじめて敗北。もともと南北ベトナムによる内戦が、米国が介入することによって大戦争に発展した挙句、大量のベトナム人犠牲者を出した。
このように、政治的に不安定な国に大国が軍事介入すると、ろくな結果をもたらさないのは歴史が示すところ。ウクライナの早期外交解決が臨まれる。
その間、イラクでもアフガニスタンでもたくさんの民間人が巻き込まれて無残に死んでいったが、それは西側ではほとんど報道されなかった。それは、スマホが普及して誰もが映像を取れるようになる前だったことに加え、イラクもアフガニスタンもウクライナ程経済水準が発達しておらず、通信インフラも貧弱だった。
米軍が初めてゲリラ戦に直面したのがベトナムで、ゲリラが民衆に紛れ込んでいるものだから、これが無差別爆撃、それも、ゲリラへの中国からの補給路を断つために隣のラオスまで執拗に空爆した。農村はゲリラをかくまえないよう丸ごと焼き、そのために、大量の難民がサイゴンに逃げ込んだ。
大量の兵器、爆薬、人員を注ぎ込んだにも拘わらず、米国はその歴史上はじめて敗北。もともと南北ベトナムによる内戦が、米国が介入することによって大戦争に発展した挙句、大量のベトナム人犠牲者を出した。
このように、政治的に不安定な国に大国が軍事介入すると、ろくな結果をもたらさないのは歴史が示すところ。ウクライナの早期外交解決が臨まれる。
101：ゲリラというのは闇討ち、待伏せ、うしろから射つ。子供、女を使う。田舎だろうとサイゴンだろうと時限爆弾をしかけるし、いつ、どこから射ってくるかわからないし、誰が見方で誰が敵かもわからない。誰も何もいわない。ヴェトナム人同志の殺し合いのとこへアメリカがまぎれこんで、テンヤワンヤだって。毎月平均千人から二千人死ぬんですってよ。
28：彼女たちは若いのにみな濁った眼をし、待っているあいだどことなく娼婦そっくりである。顔の海のなかに自分をめがけて進んでくる男の眼を発見した瞬間に、娘たちは蛾のように身ぶるいして脱皮する。
78：いま私が見るのは、魚屋の内臓桶である。暗い、まじまじとした眼である。緑の野戦服にじわじわとひろがっていく黒いしみである。彼らはゆっくりところがると、泣きも、叫びも、訴えもせず、奇怪な沈黙のうちにじわじわと空袋になっていった。
2022年05月26日
アジアの革命
『ベトナム戦記』でも最後のほうに出てくる、開高健が体験した絶体絶命の戦闘。普段からやる気のない南ベトナム軍だが、なぜか急に、「D地区」と呼ばれていたベトコン支配地域に進軍することが決まる。
311：無謀な計画ゲリラ戦には10対1から12対１の兵力と火力が必要とされるという定則からすると、目を覚まして身構えている手負いの虎のひげに素手で触ろうという行動のようであった。
途中、ベトコンの兵器庫（といっても、草木で囲った粗末なものなのだが）を見つけて喜んだりしながら、何の抵抗もなく進んでいく。そして、突然攻撃を受けたときには、完全に包囲されていた。進むことも退くことも出来ず、あらゆる方向から飛んでくる弾丸を木の陰や蟻塚（熱帯なので人が姿を隠せるほどの蟻塚があるらしい）に身を隠して防ぐのが精いっぱい。
不思議なのは、本書に出てくる開高健が基地で親しくしていたベテランのアメリカ軍将校や下士官は全員その生き残った17人に入っていた。兵隊を放って、一人で逃げ出した南ベトナム軍の大佐もだ。死んだのは、南ベトナム軍の兵士ばかり。生まれてこのかた理不尽なことばかりで、生きる残る気力さえなかったのかもしれない。326：とつぜんキェム大佐が蟻塚のかげからたちあがってかけだした。通信兵と副官がそれにつづいた。誰にも声をかけず、軍医も負傷兵ものこして大佐は一人で逃げ出した。329：あちらこちらの木の根かたにもたれている兵たちを眼で数えてみると、200人いたはずの一大隊が17人になっていた。
331：重傷、軽傷を問わず兵たちは呻かないのだ。彼らは泣きも、叫びも、悶えもしなかった。或る兵は木にもたれ、或る兵はよこたえられていたが、どの兵もらくらくと体をのばし、轢かれた犬の眼で私や空を眺めた。それは日光浴をする人、休憩する人の姿勢であった。開高は、そうした兵士の墓標にはどう書かれるだろうかと考える。
336：故人は激しく盗まれ、激しく盗んだ。なけなしの給料を上官にくすねられ、棺桶代をくすねられ、やりもしなかったバクチ代をくすねられた故人は、作戦に出ると砂糖キビを盗み鶏を盗み、キャベツを盗んで、農民に憎まれたり、さげすまれたりした。開高は、この国の革命を「榕樹」であると結論付ける。
231：一塊の土、一滴の水がなくても石に根をおろして、たった一本で密林をつくってしまう木がある。それがこの国の悲愁と激情ではないのか。アジアの革命とは榕樹ではないのか。斧を手にしてその行進をはばもうとする人は蒼暗な夢魔とのとめどない闘争に困憊しついに石像と化してしまいたいと願うにいその瞬間にも彼は根に栄養をあたえ、根は音なくのびて彼をからみとり、幹へ吸いこんでしまうのだ。
2022年05月25日
北ベトナム政府
腐敗を極め、「千年の中国と80年のフランスの征服期間中にありとあらゆる詐欺の技巧をおぼえこんだ連中」（開高健『ベトナム戦記』）が支配した南ベトナム政府。庶民は搾取され、貧困にあえいだが、政府も軍部もエリート層は豊かだった。
では、北ベトナムは理想国家だったのかと言えば、そうではない。フランスからの独立を果たし、政治体制が固まった後の1956年に《百ノ花》という自由化運動が少々認められるのだが、「労働党と党官僚の汚職、腐敗、専制、狂信、硬直党が攻撃」された結果、たった3か月で終了する。そして、「作家、詩人、編集者、記者たちが行方不明になったり、急死したり、変死したり、自殺するものが続出」という恐怖政治に戻る。
166：ホー・チ・ミンの故郷ゲアン省で農民蜂起ハノイはヴィトミン第325師団の全部隊を派遣し、4日間で鎮圧。約6千人の農民が連行され、または処刑される。ハノイは情報を密封。ブダペストではロシア人がハンガリー人を粉砕したのだが、アジアの水田ではヴェトナム人がヴェトナム人を粉砕したのであり、かつての植民地時代や解放戦争中とおなじ様相で無名のはだしの死者の原ができたのだった。
200：《体制の情婦》知識人
民族独立運動が民族コミュニズム運動に変り、洗脳や自己批判が徹底的に強化され、ひろめられ、人びとはたがいの口に手をつっこんでははらわたをひきずりだすようにして告白し、懺悔し、大義への献身を誓い合わねばならなくなる。
2022年05月24日
南ベトナム政府
開高健が南ベトナム軍に従軍取材した際、アメリカ軍は「軍事顧問団」の立場で、南ベトナム軍が指揮権は持っていた。南ベトナム軍は外国に長く支配された経験からか、軍トップは政治力に長けていてアメリカから支援を引き出すのが上手い一方、あまりに腐敗していた。
アメリカは「たった1日に100億円から200億円にも達するめくらむような浪費」をして、南ベトナムの政治家、将軍、政商を富ませる一方、徴兵された兵隊や庶民からは蔑まれていた。
開高は日本人として中立的な立場だったので、アメリカ軍、南ベトナム軍、両方の将校からそれぞれの不満を聞く。「アメリカ人はソフト・ハートだ。それでいて戦争には熱心だ。妙なやつらさ」とは、言い得て妙。
83：マーク・トウェイン『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』
ここに何もかもが書かれてあった。たった1日に100億円から200億円にも達するめくらむような浪費をアメリカ人はいまこの国でやっているのだが、すべては75年前に書かれた200円足らずのこの一冊の文庫本にある。発端から結末が、細部と本質が、偶然と必然が、このドン・キホーテとガリバーが手を携えてゆく物語のなかにあった。
85：キェム大佐（南ベトナム軍）
「われわれが拷問をはじめるとやつらはいつもどこかへいってしまうのさ。ちょっと散歩すると言って、どこかへいってしまうのさ。そうしてわれわれの悪口をいうんだ。ナパームをおとすことは平気でいながら拷問は見てられないっていうわけだ。やつらはソフト・ハートの偽善者だよ」
126：フランスが第二次世界大戦後にさっさとこの国を独立させてさえいたらいまごろは彼は赤土の穴の中で不眠の夜をかがんですごさなくてもいいはずだった。蛙どもは《民主市議防衛のために》とか《自由世界防衛のために》とかいってアメリカから武器をねだり、さんざんナパームで女、子供を殺し、われわれをぬきさしならずひきずりこんでおきながらいまやわれわれを罵る。まるで自分たちの手が汚れていないみたいに罵る。
PlayStation3の立て直し
SMEからSCEの米国事業立て直しに駆り出された平井社長。SCE米国現地法人の社長に抜擢され、経営者として目覚める。
その実績が買われ、2006年に東京に戻り、SCE本社社長に就任。当時のSCEは発売されたばかりのPlayStation3が原因で2300億円の大赤字になる経営危機に陥っていた。本社の取締役から、「お前たちはソニーを潰す気か
」と電話がかかってきたという。その原因は、前社長である久夛良木健「プレイステーションの父」のCell Broadband Engine採用にあった。IBMと共同で先進的なマルチコアCPUを独自開発し、それをPlayStation3に採用したのだ。
莫大な開発費を注ぎ込んだCELLの原価は高く、IBMはそれを使ってスーパーコンピューターを売ったが、PlayStationはあくまでゲーム機であり、コンピューターのような値段では売れなかった。製造原価は売価をはるかに上回っていて、「売れば売るほど赤字」という状況だった。114：鬼才・久夛良木健「プレイステーションの父」マルチコアCPUの原型であるCell Broadband EngineをPlayStation3に搭載。圧倒的な能力をまずはPlayStation3につぎ込み、TVなどの家電に広げる。最後はソニーのデジタルシフトを実現。
平井社長は、一つ一つ地道な原価低減を図り、2年かかって黒字化する。これが、2度目の経営者としての目覚めだった。
20：2006SCE本社社長（45歳）
PlayStation3の立て直し〜2300億円の大赤字
28：1967銀行員の父親がNY転勤（小学校1年生）
Queensで3年間。4年生で帰国。
41：中学校はトロント
ASIJ（調布）→父親がSFに転勤
116：「クタちゃんはマライア・キャリーみたいなもんだ」SME丸山副社長
冷却ファンのデザインひとつとっても納得するまでやり直させる。
133：臨場感が危機感を生む
「このままでは会社は潰れる」という危機感を現場に伝える。社長が本気で取り組もうとしている。
137：まずは成功した状態をイメージ
「PlayStation3はゲーム機。そして利益を出す」
2022年05月23日
ベトナム戦争
九死に一生を得た1965年のベトナム戦争取材を基にした小説。これを皮切りに、この後『夏の闇』『花終わる闇』（未完）と続く、「闇三部作」の最初で1968年に発表されている。
ベトナム戦争は、ゲリラ戦だった。最初は、フランスの植民地から独立した後分裂した南ベトナムと北ベトナムの戦いだった。南ベトナムは資本主義でアメリカが後ろ盾となり、北ベトナムは共産主義で主に中国が支援した。
南ベトナム政府はアメリカの支援をいいことに、腐敗がひどく、政治家も将軍も高級官僚も私腹を肥やすことばかり考えている。支援物資は盗まれて市場で売られ、彼らの懐に入った。北ベトナムはゲリラ戦を展開し、潜入したテロリストや南ベトナムのシンパが南ベトナム中でテロやサボタージュを繰り返す。
そうした将軍に率いられた南ベトナム政府軍は、当然、士気も規律も低かったので、たびたび暴行略奪し、南ベトナム国民からも憎まれていた。そうなると、南ベトナムの大半を占める農民は、「ベトコン」（ベトナムの共産主義者）になびいて、彼らを匿い、場合によっては彼ら自身がベトコンになる。そうなると、政府軍も（のちには直接参戦したアメリカ軍も）農民とベトナムの見分けがつかないから、疑わしいと村ごと焼き払い、村民を皆殺しにするという戦争犯罪も起こった。
そんな状況を開高は、日本将棋に例える。古代インドに起源があると言われる将棋は、西洋ではチェス、中国ではシャンシーと各国に似たようなゲームが現存しているが、将棋だけの特徴は、駒の再利用ルールだ。これによって、将棋は格段に複雑で奥が深くなった。AIがチェス世界王者（当時）に勝ったのは1997年だが、将棋のプロに勝ったのは2013年で、16年も間が空いている。それだけ将棋の方が複雑だったのだ。
ベトナム戦争は、ゲリラ戦だった。最初は、フランスの植民地から独立した後分裂した南ベトナムと北ベトナムの戦いだった。南ベトナムは資本主義でアメリカが後ろ盾となり、北ベトナムは共産主義で主に中国が支援した。
南ベトナム政府はアメリカの支援をいいことに、腐敗がひどく、政治家も将軍も高級官僚も私腹を肥やすことばかり考えている。支援物資は盗まれて市場で売られ、彼らの懐に入った。北ベトナムはゲリラ戦を展開し、潜入したテロリストや南ベトナムのシンパが南ベトナム中でテロやサボタージュを繰り返す。
そうした将軍に率いられた南ベトナム政府軍は、当然、士気も規律も低かったので、たびたび暴行略奪し、南ベトナム国民からも憎まれていた。そうなると、南ベトナムの大半を占める農民は、「ベトコン」（ベトナムの共産主義者）になびいて、彼らを匿い、場合によっては彼ら自身がベトコンになる。そうなると、政府軍も（のちには直接参戦したアメリカ軍も）農民とベトナムの見分けがつかないから、疑わしいと村ごと焼き払い、村民を皆殺しにするという戦争犯罪も起こった。
そんな状況を開高は、日本将棋に例える。古代インドに起源があると言われる将棋は、西洋ではチェス、中国ではシャンシーと各国に似たようなゲームが現存しているが、将棋だけの特徴は、駒の再利用ルールだ。これによって、将棋は格段に複雑で奥が深くなった。AIがチェス世界王者（当時）に勝ったのは1997年だが、将棋のプロに勝ったのは2013年で、16年も間が空いている。それだけ将棋の方が複雑だったのだ。
考えてみれば、これは確かに不思議だ。日本は世界史的に見て、例外的に平和な時代が続いた。外国から攻め込まれたのは、太平洋戦争の敗北までは、元寇だけ。それも、占領されることなく、失敗に終わっている。それに対して、ユーラシア大陸では日本が狩猟採集をやっている昔から、武器を持ち、国同士で戦争を繰り返してきた。負ければ殺され、残れば奴隷になるから、どちらも必至だ。13：日本将棋一瞬で＜敵は味方＞となるその非凡な精妙さと辛辣さのことを考えている。いったい誰があの比類ないルールを編み出したのだろうか。敵からとったばかりの駒をすかさず味方の駒として敵陣へうちこみ、たった一線を越えただけで歩がたちまち金となる。駒はおかれる場で敵にもなれば見方にもなる。いつごろの戦争の経験から編み出された知恵だろうか。
駒の再利用ルールが導入されたのは15〜16世紀と言われる。ちょうどこの頃起こったのが、応仁の乱（1467-1477）。これを機に室町幕府は有名無実化し、群雄割拠の戦国時代に入る。日本史上まれな秩序が崩壊た、何でもありの時代。そんな状況に刺激
21：フェイフォ（会安）ダナン近くの河港
小さな田舎町だが、昔の日本人町の跡がある。切支丹弾圧に耐えかねた日本人はここまではるばる逃げてきて花を育て、切り花を売って生計をたてたと伝えられている。御朱印船もよく来航したらしい。その頃の遺跡として橋や寺や墓がのこっている。
35：南ベトナム政府
「サイゴンでアメリカは10匹の豚をヴェトナム政府にわたす。するとどこかの村についたらそれが1匹になる。米が蒸発する。毛布もトラクターも蒸発します。このあいだ洪水があって、農村に毛布を送ったら、翌日にダナンの闇市にでていたそうです。」（ウェイン大尉）
72：化学薬品を空からまかれて枯れ崩れた広大な灌木林のよこを通ったが、月光を浴びてそれは凄愴な形相をおびえていた。立ち枯れした木たちが数知れぬ蒼白な骨と見えた。どこまでもそれがつづくので私は何か古代の爬虫類の肋骨の林の中を歩いているような気がした。これほど広大な面積にわたって自然の因果律の環を破壊してしまったからにはきっと何かの新しい災禍が起こるにちがいない。
2022年05月22日
ペルソナという謎
一般的日本人にはまことに分かりにくいのが、キリスト教の「三位一体」という概念。
12：正統キリスト協会は３つのペルソナをもつ唯一の神を信じる共同体イエスの死後数世代を経て、使徒たちの信仰は「三位一体の神を信じる」信仰であると教会が決定し教会
つまり、この「三位一体」はキリスト教の根本であって、他の一神教との違いでもある。世界初の一神教と言われるユダヤ教、キリスト教の後に誕生したイスラム教もみな同じ唯一神を信仰している。本書によれば、この「三位一体」が近代国家の「人権」を作ったという。
5：国家と人権「人権」という言葉は、近代ヨーロッパにおいて民主主義国家をつくるとき、ときの政権がその権力によって個人を不当に扱わないようにするための配慮から生じた者。法律によって権力の乱用を抑止するための概念であって、一般人どうしの問題から生じた概念ではない。だから法的には「差別の種類」によって人権擁護の政治的方法が明確にされる。
「人権」が超国家的であるのは、カトリック教会がやはり超国家的であったことの遺産なのだ。
8：近代国家と個人「民主主義」の超国家性の原則の由来は、カトリック教会が国家を超えた権威をもって中世ヨーロッパの国々を統括した遺産。さらにさかのぼれば、古代においてローマが帝国制度によって諸地域を支配したやり方を、「神聖ローマ帝国」の名のもとにカトリック教会が受け継いだ遺産。
それで、唯一神が取る「父と子と精霊」という形態がペルソナという事なのだが、その重要性がやはり分からなかった。
10：「人権」と中世神学ペルソナ論は、キリスト教の「神の三位一体論」から生じている。キリスト教の三位一体論は「父と子と精霊の３つのペルソナは、ひとつの神である」と主張。つまり複数のものがひとつ。
2022年05月21日
戦争があるたびに豊かになった国
![ベトナム戦記 [新装版] (朝日文庫)](https://m.media-amazon.com/images/I/51xsGg3apoL._SL160_.jpg)
開高がベトナム戦争を取材した1964年末（執筆1965年）はベトナム戦争が泥沼化する前。というか、開高が見たように、実際は泥沼化していたのだが、それはまだ世界に知られていなかった。今の時代なら、ベトコンが毎日SNSにアップして世界に惨状を訴えたことだろう。
では、今のウクライナは違うのか？かの国も欧州一腐敗した国として知られ、政情も安定しないので、ロシアの侵攻前まではEUどころかNATO加入も夢のまた夢。それが、一夜にして、米国＆NATOが大量の最新武器を供与する状態に。
ロシア地上軍はこのままだと7月には瓦解すると言われている。近代戦は経済力無しには戦えない。ロシア戦車を破壊しまくっている携帯型対戦車砲は一発2000万円という。対決姿勢での終結は、さらなる紛争の火種を蒔く気がしてならない。
310：アメリカは買う札をまちがったのだ。彼らはアジアを理解できず、ゴーの暴走をとどめることができず、ゴー打倒については自分も賛成するよりほかない立場に追いこまれたのである。そしてそれ以後も陰謀好きで蓄財術に長けた将軍や政治家連中、千年の中国と80年のフランスの征服期間中にありとあらゆる詐欺の技巧をおぼえこんだ連中にだまされつづけつつアメリカは彼らを”反共”の”自由”の闘士として買いつづけて今日にいたったのである。
311：ベン・キャット砦の兵卒や将校の持っている、迫撃砲をも含めた火器類は大半が第二次大戦用に製造された年式の刻印を持っていた。ロケット弾や武装ヘリコプターやジェット機などは最新式である。漠然と私はアメリカの武器商人が古くなった武器の倉庫の戸をサイゴンに向けて全開しているのだという印象をうけた。
314：くたびれきった、もつれきった、複雑きわまる、ベトナム人自身がよくわからないと告白するベトナム人の心のなかの、唯一でもっとも発火力のついよいゼノフォビア（外国人ぎらい）である。この火の爆発力をもっともよく察知し、把握したのがベトコンである。それはベトコンの血みどろの度量を待つまでもなく、アメリカ自身が日ごと夜ごと拡大し、深化しつつあるものだ。
315：アメリカは負けるが勝ちという知恵を身につけるには若すぎるのであろうか。負けたことがなく、異民族に踏みにじられたことがなく、戦争があるたびに豊かになった、何一つとして戦争を知らないアメリカは、誇りと偏見のために、ベトナム農民が建国当時のアメリカ人と同根の情熱にかりたてられてアメリカに叛逆しているのだというところまで洞察できないのであろうか？
2022年05月20日
南ベトナム兵
開高健の見た南ベトナム兵は、「兵士としては最低であった」。
306：人間としてはいじらしいばかりであるが、兵士としては最低であった。彼らは戦意もなく、使命感もなく、情熱もなかった。荒野や沼地を歩いている彼らは銃をさかさまにかつぎつつ、鉄や米袋の重さにひしがれて、ただ命令のままにうごく昆虫にすぎなかった。彼らは仏壇にお燈明をささげ、暗い小屋のなかで家畜のように眠る。野ネズミやナマズを食べ、森がはためきはじめると銃を投げてしゃがみこむ。彼らはなぜ戦っているかを理解していなかったし、あるいは逆に、将軍たちの権力欲や政治家たちの蓄財の片棒を担ぐだけだと分かっていたのかもしれない。ベトコンに投降した兵士は「一ヶ月も経たないうちに豪勇無双のゲリラ戦士として再登場し、かつての仲間を信念によってうち殺し」たという。
298：あいかわらず彼らは公開銃殺をやり、クーをやっていた。北のほうのクァン・ティン省のタン・ビンという町で2000人の農民がデモをやると、指導者を逮捕して朝の10時に銃殺したのである。農民たちは町へやってきて、村を大砲や飛行機で爆撃するのをやめてほしいと叫んだ。軍隊が鎮圧に出動し、悲しい奴らは命令されるままにだまってカービン銃の引金をひいた。大半が農民の出身である政府軍兵士は、同じ農民の苦難はよく理解できただろう。やってられない、と思うのは当然だ。
299：パンツ一枚にゴム草履をつっかけた、中学生みたいに小さいベトナム人の砲兵たちが砲弾をつめ、火薬をつめ、ツンボになってうちまくる。一日に十本ビールを飲んで出産間際の新妻を恋しがっている歩兵中尉はベン・キャット砦で私にこういう砲撃は生き残った農民をベトコンに走らせるだけであり、政府は必死になって敵を製造しているのだと告白したが、まったくそのとおりだろうと想像する。あるとき、開高健は南ベトナム軍の少尉に、ベトコン指導者のグェン・フウ・トゥ（民族解放戦線評議会議長）のことを聞いてみる。驚くべきことに、少尉はグェン・フウ・トゥを知らないという。
294：文盲の一兵卒ならいざ知らず、この少尉は砦では機敏で沈着な、反射の速い、なかなかたのもしい青年将校なのである。それが何年となく毎日毎日たたかいつづけている相手の指導者の名前も知らず、つづりも知らず、正しい名称も知らないというのである。秋元キャパと私は思わず暗がりで顔を見あわせた。彼もひくく唸ったきり声が出なくなっていた。この戦争は政府側の負けだ。
2022年05月19日
ベトナム人は”ゼノフォビア”
戦中派の開高健は、アメリカ兵といっしょに寝起きするのは初めての経験で、「じつにさまざまなことを教えられた」という。
224：彼らは茶目で、陽気で、人がよく、素直で、忍耐心に富み、義務感はきわめてつよかった。どん底の乱戦におちこんでもさいごのさいごまで弾丸は射たなかった。私をおどろかしてのは彼らが平気で反戦的なことを口にしてはばからないことであった。この辺、言論の自由が徹底されたアメリカという事なのだろう。しっかりと勤務していれば、つまり、戦地では戦争を戦う事なのだが、意見として反戦であってもそれが咎められることはない。
朝鮮戦争に2回参加したベテランのヴォイティコ曹長は、のちにショロンの中華料理店で無事を祝しあったとき、「なんだっておれたちアメリカ人はこんなに憎まれなくちゃいけないんだろうと、ほとんど叫ぶような声を出した」。
224：「中国に一千年やられ、フランスに80年やられたからベトナム人の、”ゼノフォビア”（外国人ぎらい）は骨にまでしみ込んだ本能だろうと思うな。これだよ。ゼノフォビアだよ。君たちがいればいるほど憎まれる。戦争がつづけばつづくだけ親米派のベトナム人も反米派になっていく。一日200万ドルつぎこんで必死になって善意をもって君たちは敵をつくっていることになるんだ。ホー・チ・ミンもコミュニストにはちがいないだろうけど彼はそれ以上に民族主義者だと思う。北京に対しても彼は警戒心を持っているにちがいないんだ。南ベトナム人で反共主義者でもホー・チ・ミンは好きだという人がたくさんいるよ」
「北京に対しても彼は警戒心を持っているにちがいないんだ」の通り、ホー・チ・ミンが南北ベトナムを統一した後、中国はベトナムに侵攻する。米軍に勝つために中国の支援を最大限利用したホー・チ・ミンが、戦後、中国と距離を置いたためだった。
192：ベトナム兵は、何故か、どんな傷をうけても、ひとことも呻かない。まるで神経がないみたいだ。ただびっくりしたように目を見張るだけである。呻きも、もだえもせず、ピンに刺されたイナゴのように死んでいった。
201：最前線がどこにもない。いや、全土が最前線だというのがこの国の戦争の特徴である。ベン・キャットも最前線ならサイゴンのマジェスティック・ホテルだって最前線である。いつフッとばされるかわからないのである。戦争は水銀の粒のように、地下水のように、たえまなく流動して、つかまえようがない。
219：ベン・キャット砦
重油発電機の巨大なのが24時間唸っているので映画が見られる。スポーツが一本、劇映画が一本の二本立て興行で、番組は毎日変わる。サイゴンから毎日、チョッパーが運んでくるのである。
2022年05月18日
ベトナムには３つの性格
本書が出たのは1965年。開高健が南ベトナムで取材していたのは前年末からその年の2月までの約100日だ。
「ベトナムには３つの性格」というのは、うなずける。世界中、北半球では北部程「勤勉で、忍耐心に富み、思考が計画的」という傾向はあるだろう。気候が厳しければ、そうでなければ生きていけない。一方、南方は「お人よしで、怠けもので、情熱的、衝動的」というのも一般に共通しているのではないか。南は、温暖で食べ物に困らず、そう労働しなくても飢えることがない。
ベトナムの場合、それに加えて、北部はもともと中国から南下した中国人で、南部にはタイから進出したタイ人が多いことが影響しているようだ。そして、ベトナムの先住民族であったオーストロネシア種族は山へ逃げて「山の人」となった。
山の人はベトナム人に騙されてばかりいるので、ベトナム人を本能的に憎んでいる。アメリカと南ベトナム政府軍はこの憎悪を利用してベトコンにたちむかわせようとする。同じことは隣国のラオスでも行われ、山岳民族であるモン族が利用された。アメリカの敗戦後、彼らは見放され、共産化したベトナムとラオスで掃討作戦にあい、虐殺される。
難民となった彼らの一部はアメリカに政治亡命するのだが、異国での新生活になじめず、ギャング化する者が出てくる。その話が出てくるのが映画「グラントリノ」。これだけの戦争が起これば、アメリカが負けたからといって、それで終わらないのだ。
125：ベトナムの17歳には、すぐ火がつく
このあいだ仏教徒の反政府断食闘争があったとき、ニャチャンの県庁前に一人の若い尼僧がすわりこみ、頭からガソリンをかぶって、”法難打開”のため焼身供養を敢行したが、彼女は17歳であった。
132：ベトナムには３つの性格〜ハノイを中心とする北部、ダナンを中心とする中部、サイゴンを中心とする南部
北部人は勤勉で、忍耐心に富み、思考が計画的である。組織力もゆたかで、団結力がある。けれど、自制心がつよく、なかなかハメをはずさず、口が上手で、手のこんだもののいいかたをする。
南部人はお人よしで、怠けもので、情熱的、衝動的であり、心で考えていることをすぐ口にだす。率直でもあり、軽薄でもある。親切で、おおまかで、おだてにのりやすく、気前がいい。
中部人はこの北と南のあいだをふらふらゆれている性格である。一つのとくちょうとしては、海と山にはさまれてたいへん貧しいから、おそろしくケチンボだといえようか。
152：山の人オーストロネシア種族
この国の先住民族である。それが蒙古族の中国人やタイ族に追われて山へ逃げ、今日にいたったのである。鋭い、暗い憂鬱のこもった顔だちをしている。戦士としては果敢であるが、お酒が大好きで、たいへんお人よしである。ベトナム人にだまされてばかりいるので、里へおりるのを好まない。彼らはベトナム人を本能的に憎んでいる。アメリカと政府軍はこの憎悪を利用してベトコンにたちむかわせようとする。
165：Operation Fallen Leaves（枯葉作戦）
街道に沿って左右何キロからのジャングルがことごとく枯れ、木は倒れたり、折れたりして土にとけかけていた。たっている幹でも枝の葉はことごとく枯れて赤くなっていた。
170：日本工営の当間氏
太平洋戦争のとき、彼は沖縄から兵隊にとられて参戦し、シンガポールへいった。そこからハノイに送られ、1945年まで、日本兵としてかけまわった。1945年、日本は敗れて、キャプ・サン・ジャックから引揚げた。しかし彼は多くの日本兵といっしょにベトナムにとどまり、ホー・チ・ミンのひきいるベトミン軍に入って、インドシナ独立戦争をたたかった。日本工営にはこういう日本人がたくさんいて、私は話しあった。（中略）彼らはベトミン軍に参加してベトナム兵を帝国陸軍の戦法と規律によって鍛え上げ、たいへん尊敬された。水田、ジャングル、山岳地帯、彼らは貧しいベトナム農民兵といっしょに起居しながらわたり歩き、フランス植民地主義追放のために血と汗を流した。
2022年05月17日
ホー・チ・ミン生活
私自身はベトナムに行ったことがないのだが、周りで、ベトナムで何年か駐在したり、あるいはベトナムに進出してビジネスをやっている経営者が何人かいる。彼らの話を聞いていると、一つの傾向がある。
旅行者はもちろん、何年かの駐在で帰国した人たちのベトナムの印象はすこぶる良い。曰く、真面目、素直、食べ物がおいしい等々。ところが、現地に進出して腰を落ち着けてやっている人たちの話は違ってくる。頑張って繁盛店にしたら家賃を吹っ掛けられた。断ったら店を乗っ取られた。何年も親しくして心が通じていると思っていたのに、裏切られたなど。
まぁ、東南アジア諸国あちこちで聞く話なので、ベトナムに限らないのだろうが、「ホー・チ・ミン生活はあのオーウェルの『1984年』そのまま」と聞くと、長い内戦で、家族同士でも南北に分かれ、信頼できなかった歴史が影響しているのではないかとも思う。
69：女の子たちはよくはたらく。じつによくはたらく。細い、小さな肩に天秤棒をかつぎ、籠に砂糖キビの輪切りや米飯やモツ料理などを入れてひょいひょういと調子をとりつつ歩く。一日中そうやって歩きまわっている。ベトナムではだいたい子供でも大人でも、男より女のほうがよくはたらくのではないかと思う。
79：従軍僧隊長チク・トム・ジャック師
ハノイ出身。1953年、ジュネ―ヴ協定の1年前に日本へ脱出。8年東京に住み、仏教哲学と柔道を学んで帰国した。講道館三段。
81：この国には4つの政府があるようだ。内閣と、将軍たちと、仏教徒と、ベトコンである。4つのうち内閣と将軍たちはネコの眼よりいそがしく変わるからお話にならぬ。仏教徒とベトコンだけが統一力を持っている。農村に浸透しているのもよく似ている。教祖的な、象徴的な一人の指導者をつくらず、何かしら集団指導制とでもいうべき態度をとっているのもよく似ている。
98：ホー・チ・ミン生活はあのオーウェルの『1984年』そのままになりそう
個人はすべて国家と政治原理という抽象体に捧げられ、生活は刑務所か軍隊のそれと異なることなく、子が親を密告し、兄が弟を監視し、政府は絶えず大きな、美しい言葉で悲惨な現実を未来に賭けてかくし、かつ、ぼろぼろにやぶれた噓をつく。（中略）要するにいまの北ベトナムは、かつてのスターリン時代（中略）とおなじだということになるのであった。
2022年05月16日
ニョック・マム
おりしも、ウクライナでは戦争中。アメリカは直接参戦しているわけではないが、ウクライナ軍の武器の最大供給国。そんな時に、この本を読み返すのは無駄ではないだろう。
アメリカが初めて対外戦争で負けたと言われるベトナム戦争。アメリカは第二次世界大戦の何倍もの大量の兵器と弾薬を小国に投入したにもかかわらず、敗北する。その理由はどこにあったのか？この本を読むとそれがその場にいたものの感覚として分かる。
これで懲りたアメリカはしばらく対外戦争から遠ざかっていたが、30年もすると世代が変わる。9.11を機に「テロとの戦争」を掲げ、イラク、アフガニスタンに侵攻し、統治下に置く。それで、成果は上がったのかといえば、いずれもかき回した挙句、撤退している。
ウクライナは地元民の要請があるので、違うと思いたい。
11：ベトナムの匂いはすべてニョック・マム
ベン・ハイ河からカマウ岬まで、どの町、どの村へ行っても、ニョック・マムの匂いが染みこんでいる。サイゴンの歩道にも染みこんでいるし、カマウの『亜州大旅店』の暗い湿った壁にもしみこんでいた。
17：サイゴンの特産品は何といってもテロ、デモ、デマ、クー（デター）の4つであった。それもよりぬきにはげしいやつばかりである。去年のクリスマス・イヴにはものすごいプレゼントがあった。米軍の6階建ての宿舎に50キロの爆薬をつみこんだ自動車を乗り入れた者があって、時限装置で自動車ごと建物をフッとばしてしまった。
20：正午から3時間ほどはシエスタである。サイゴンでも前線基地でも昼寝をする。会社、官庁、銀行、みんな昼寝をする。真冬でもギラギラした白熱の光が道にあふれ、人びとはたまゆらの仮死に沈みこむ。ベトコン、政府軍、アメリカ兵、従卒から将軍にいたるまで、一人のこらず昼寝をするから、毎日、3時間だけは戦争がないのである。
24：空にまでとけこむ水田の巨大な豊饒さと土にとけこむ貧しさのこの対照は異様なものである。何者かによる搾取のすさまじさをつくづく感じさせられた。
2022年05月15日
サトシ・ナカモト
第160回（2019）芥川賞受賞作品。仮想通貨をテーマにしている。早稲田大学法学部卒でありながら小説家になったという点にも興味を持ち、読んでみる。主人公は中本哲史。そう、ビットコインの発明者
として有名なサトシ・ナカモトと読みは同じだ。
話は現実の世の中と、劇中劇とでもいうべき、未来小説を行き来しつつ進む。その小説の中の未来では、不死が実現され、「最初富裕層にしか適用できなかったその技術の普及速度は、ある時を境に急激に上がっ」ている。
これはそう遠くない未来に起こりそうだ。既に美容整形手術などでお金さえあれば、ある程度老化は遅らせられる。先日行われたブタの心臓移植は失敗に終わったが、ips細胞で臓器培養ができるようになれば、すり減った部品を交換できるように、臓器を入れ替えることができるようになる。
57：サトシ・ナカモト
資産は、ざっと1兆9千億円（Wikipedia）
69：ニムロッド
「ドルは紙切れとコイン、それから武器でできている。仮想通貨はソースコードと哲学でできている」
94：不死
《寿命の停止》を受ける条件の一つとして、規定の資産額が必要であるとされている。《寿命の停止》を受けるためには、技術を管理する財団が定めるあのファンドにそれを信託しなければならない。
2022年05月14日
M&AのNPV
M&Aが成功したと言えるかどうかは、他のプロジェクト投資と同じく、正味現在価値が正か負かということになる。
M&AのNPV＝M&Aによるシナジー効果ー支配プレミアムの金額
このシナジー効果が曲者で、期待通りの効果が出ることは稀。一方、支配プレミアムとは、M&A発表前の株価（時価総額）にどれだけ上乗せして買ったかということ。当然、買値が安いほどM&Aの成功確率は高まり、想定通りのシナジー効果が出たとしても、それ以上のプレミアムを払った買収であれば、NPVはマイナスになってしまう。
研究結果によれば、「日本のM＆Aで大きな利益を獲得しているのは、大きな支配プレミアムを支払われている買収対象企業の株主で、買い手企業の株主は平均するとほとんど利益を得ていない」（井上＝加藤2006）ということで、確実に儲けているのは売った方ということになる。尤も、NPVがゼロということは、「半分は成功で半分は失敗」ということもできるので、実務者の感覚としても合うのではないか。
305：余剰現金の市場価値
Faulkender and Wang 2006 米国企業保有現金の限界的な価値 $0.94
しかし資金制約のある企業では、現金1ドルの限界的な価値は1ドル以上になる。
308：日本企業は、ガバナンスの質が低い企業ほど、長期的な企業価値の増進にとって重要な投資である研究開発費の増加と配当増とを同時に実行する傾向。
337：非流動性ディスカウント
EV/EBIT倍率基準 -30.7%
EV/EBITDA倍率基準 -24.0%
非上場会社のM&A取引データを基に、上場会社の倍率との比較（山本＝杉本＝鈴木2016）
361：M&AのNPV＝M&Aによるシナジー効果ー支配プレミアムの金額
日本のM＆Aで大きな利益を獲得しているのは、大きな支配プレミアムを支払われている買収対象企業の株主で、買い手企業の株主は平均するとほとんど利益を得ていない。（井上＝加藤2006）
374：支配プレミアムの決定要因
最も強い影響を及ぼしている決定要因が、TOB前の1年間の高値（井上＝小澤2016）
ターゲット企業株主の参照点を基準とした応募行動を認識する経営陣が、株主が利得を認識する最低水準以上にTOB価格を設定している。
392：コスト・アプローチにおけるプレミアムとディスカウントの取り扱い
時価純資産法にお再調達価格の計算では資産・負債の取得または購入の概念をベースにしており、経営の支配権の有無によってその金額が変わるものではない。→考慮しない
2022年05月13日
企業評価実務の問題点
企業評価に携わる経済学者に、M&A、会社法、会計学、デリバティブの専門家が加わって発足した「バリュエーション研究会」での研究成果をまとめたもの。
まえがき：実務の現場において、実務家の一部が自分たちに都合の良い結論を導くために、背景となる理論の一部をつまみ食いして使っており、企業価値評価実務の全体を通してみると、必ずしも理論的一貫性が取れていない。（中略）裁判所における係争事案を念頭に置いて、その論点と背景となる理論を整理したのは、本書が初めて。
発端は、独立したバリュエーション・サービス企業として有名なプルータス・コンサルティングの野口社長が、同分野の研究者として著名な鈴木教授（早稲田大学）を2016年に訪ねたことらしい。「実務家と学者の領域にそびえる大きな壁をぶち壊そうと意気投合」したという。
私も仕事で時々企業価値評価をすることになる。私の専門はスタートアップ企業だから、M&Aのように、分析できる過去の企業業績があるわけではない。したがって、信頼できる未来予想も難しく、昔から「サイエンスではなくアート」、率直にいえば「いい加減」と言われてきた。
それでも他人の資金を預かって運用するVCでは、説明責任もあり、何らかの根拠が要る。そこで私が新入社員だった80年代から行われてきたのが、期待投資利回り（IRR）で事業計画の予想値を割り戻すこと。DCFではあるのだが、割引率にIRRを用いる。
このIRRの、米国でのVC調査結果が紹介されていて興味深かった。
11：M&A取引におけるバリュエーション
私も仕事で時々企業価値評価をすることになる。私の専門はスタートアップ企業だから、M&Aのように、分析できる過去の企業業績があるわけではない。したがって、信頼できる未来予想も難しく、昔から「サイエンスではなくアート」、率直にいえば「いい加減」と言われてきた。
それでも他人の資金を預かって運用するVCでは、説明責任もあり、何らかの根拠が要る。そこで私が新入社員だった80年代から行われてきたのが、期待投資利回り（IRR）で事業計画の予想値を割り戻すこと。DCFではあるのだが、割引率にIRRを用いる。
このIRRの、米国でのVC調査結果が紹介されていて興味深かった。
11：M&A取引におけるバリュエーション
会社法は、会社が組織再編と総称される一定の行為（合併・株式交換・株式移転・会社分割・株式交付）をする場合、原則として、株主総会の特別決議によってこれを行うことができるものとする一方で、組織再編に反対する株主（反対株主）は、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができるものとしている。買い取り請求された株式の価格は、会社と反対株主との間の協議によって決せられるが、一定期間内に協議が調わない場合には、会社または反対株主の申し立てにより、裁判所が、価格を決定する。
67：評価手法
インカム・アプローチとマーケット・アプローチは、固有の正室と取引環境を評価に取り入れるという点で共通するものの、インカム・アプローチはより固有の性質の反映に優れ、マーケット・アプローチはより取引環境の反映に優れるという違いがあるにすぎない。
115：株式リスクプレミアム
日本の最長期間データ（1955~）8%
実務家 6%
Fernandez et al調査(2020) 6.2%
274：スタートアップ企業のバリュエーション
CB Insights 2018レポート
2008-2010にVCなどから投資を受けた1100社のうち、事業が順調に推移し、4ラウンド目の出資を受けられた企業は15%。
2/3は経営破綻。ユニコーンにまで斉唱した企業は1%。
277：スタートアップ企業の株主資本コスト〜VCの要求収益率の適用
Shalman and Scheris 2009
Startup 50~70%
1st Stage 40~60%
2nd Stage 30~50%
Bridge 20~35%
281：スタートアップ企業の継続価値（TV）と株主資本コスト
仮に予測期間内で一定の株主資本コストを用いるとして、そうした非常に高い資本コストを、TVを計算する際の、成長型永久債の公式（CF/（r-g））の割引率として用いるとこは避けるべき。スタートアップのTV計算には、EV/EBIT倍率もしくはEV/EBITDA倍率といったエグジット・マルチプルを併用する方が、有効ではないか？
2022年05月12日
リアルオプション
2005年の初版から版を重ねているロングセラー。評判を聞いて読んでみたところ、なるほど、MBAファイナンスで習う内容が分かりやすくまとめられている。そして、EXCELを使って実際、どうデータを取って、どう計算するかも出ているので使いやすい。
著者は三菱銀行勤務に9年間の後、2002年にMBA取得（インディアナ大学）。卒業後5年間日産自動車財務部に勤務。MBAで学んだことを、日産自動車ですぐに実践していたわけで、本書にも日産自動車での例が多く出てくる。当時は、ゴーンCEOによる「V字回復」で輝いていた日産。その点が、今読むと違和感もある。
72：リスク「リスクのない企業など存在しない。もしそんな企業があるとすれば、それはすでに死んだ会社だ」（カルロス・ゴーン日産CEO当時）
など、ゴーンCEOが後から思うと日産の最大のリスクだったわけで、皮肉。
本書の最後の章でカバーされている「リアルオプション」は1995年ごろから使われ始めた概念で、私が留学していた当時は教えられてなかった。ここは参考になった。
本書の最後の章でカバーされている「リアルオプション」は1995年ごろから使われ始めた概念で、私が留学していた当時は教えられてなかった。ここは参考になった。
84：共分散(covariance)＝2変数の相関関係の方向
�，修譴召譴粒�式の偏差（リターンと平均値の差）を計算し、それを掛け合わせる
�△修譴蕕粒櫃厩腓錣擦燭發里諒振冀佑鮖蚕个垢�
85：相関係数(correlation coefficient)＝相関関係の強さ
共分散を２つの変数の標準偏差の積で割る
95：相関係数とポートフォリオのリスク分散効果
・p=1:リスク分散効果なし
・-1<p<1:リスク分散効果あり
・p=-1:２つの株式はまったく反対の動きをするため、組み入れ比率によっては、リスクフリー（標準偏差ゼロ）にすることが可能
145：経済的付加価値（EVA）
EVA＝NOPAT（税引後営業利益）ー資本コスト(額)
＝NOPAT（税引後営業利益）ー投下資本ｘWACC
＊投下資本＝有利子負債＋株主資本（簿価）
155：MM理論
「1枚のピザを２つに切っても、４つに切ってもピザ全体の価値は変わらないということを発見しました」（ノーベル経済学賞受賞時のミラー教授）
273：リアルオプションの評価
�‘鷙爛皀妊�
�▲屮薀奪�＝ショールズ・モデル
��モンテカルロ・シミュレーション
277：リアルオプションの種類
�．織ぅ潺鵐亜Ε�プション
市場の需要が堅調であるか否かを判断するための情報を入手するまで、本格的な投資を延期するというオプション
�∪�長オプション
初期投資を行うことによって、今後高い成長が見込める市場に早期に参入して、競合他社より有利なポジションに立つオプション
�Ｃ奮�的オプション
投資を一度にではなく、少しずつ段階的に行い、各段階で投資結果を評価することによって、さらに投資を行うか、中断するかを決定できるオプション
�づ餌爛�プション
市場の需要が予測を下回ったときに生産を中止し、工場を売却するなど、事業から徹底することができるオプション
278：プロジェクトの価値
＝プロジェクトのNPV＋リアルオプションの価値
パラメーター
・現資産価格
投資機会の原資産に相当するものは、プロジェクトが生み出すCF（NPV）。
・権利行使価格
プロジェクト実行決定にあたり投資するコスト。原資産を得るために支払うコスト。
・リスクフリー・レートと満期日までの期間
NPV法では、原資産の価格変動性をリスクと定義しWACCに織り込むが、オプション理論では、リスクをボラティリティとして加味する代わりに、割引率はリスクフリー・レート。
・ボラティリティ
現資産価格の変動率。推定方法：�‘韻犬茲Δ淵廛蹈献Д�トの例から。��同じような事業を行っている上場企業の株価のボラティリティの平均を利用。
2022年05月11日
イノベーションとは「新しい軸」を生み出すこと
著者が直接聞いたという、日本で働くGoogleのインド系アメリカ人の話が面白い。
56：組織の名前に「イノベーション○○」なんてつけたりするのは日本だけ。そのくせ日本人は、席に戻ると「オペレーション」ばかりしている。（Googleのインド系アメリカ人）
確かに、日本企業では組織名にイノベーションを付けるのが流行りともいえるが、海外では聞いたことがない。社是なども、大事にしたい価値観を採用してるところもあれば、会社の弱点を戒めとして社是にしたのではないかと思えるものもあり、組織名にイノベーションを付けるのは後者なのかもしれない（あるいは、単なる流行りか）。
もう一つ、オペレーションが好きなのが日本企業の特徴。現場レベルでオペレーションを効率的に回すことには拘るのだが、そもそもそのオペレーションが付加価値を生み出しているのか、全体最適になっているかなど、グランドデザインがおろそかになっているケースも。
30年前にアメリカで働いたとき、既にホワイトカラーは全員がダイアルイン。日本企業のように代表電話を皆が取るという習慣はなく、自分に期待されている仕事以外をすると怒られそうな雰囲気だった。全員が定められた職務規定に沿って働き、曖昧さがほとんどない。なので、グランドデザインする人がとても大事で、そのために、あれほど役職によって給料が違うのだと理解した。
61：新しい世界観
もう一つ、オペレーションが好きなのが日本企業の特徴。現場レベルでオペレーションを効率的に回すことには拘るのだが、そもそもそのオペレーションが付加価値を生み出しているのか、全体最適になっているかなど、グランドデザインがおろそかになっているケースも。
30年前にアメリカで働いたとき、既にホワイトカラーは全員がダイアルイン。日本企業のように代表電話を皆が取るという習慣はなく、自分に期待されている仕事以外をすると怒られそうな雰囲気だった。全員が定められた職務規定に沿って働き、曖昧さがほとんどない。なので、グランドデザインする人がとても大事で、そのために、あれほど役職によって給料が違うのだと理解した。
61：新しい世界観
そもそもの存在価値とは、何か。
63：グランドデザイン
「構想設計」のデザインの良し悪しでビジネスの成否も変わる。
80：EMS再建で、「九州一の旅館」を目指す
EMSはサービス業。
挨拶→清潔さ（ゴミ拾い）→社員との対話（昼食会）
2022年05月10日
自律社会
自律社会では「誰もがイノベーターになり得る」。「それぞれの仕事の場で、新しいやり方で新しい価値を創ったら、それはイノベーション」なのだ。
もともとSEとしてオムロンに入社した「しーさん」。2000年に責任者として手掛けた、20世紀最大の「駅務システム」構築をどうマネジメントしたかは参考になる。2000年10月にサービス開始した「パスネット」で、これで関東公民鉄17社の磁気カードが共通化された。これが、後にJR系の各サービスとも統合され、現在のように全国で非接触カードが使えるようになる。
パスネットは、「設計期間1年、600プロジェクト、プログラム430万ステップ」という壮大なプロジェクトだった。下記のようなやり方で、オープンの1か月前に全テーマを完了。再テストをする余裕迄あって、大成功したという。
もともとSEとしてオムロンに入社した「しーさん」。2000年に責任者として手掛けた、20世紀最大の「駅務システム」構築をどうマネジメントしたかは参考になる。2000年10月にサービス開始した「パスネット」で、これで関東公民鉄17社の磁気カードが共通化された。これが、後にJR系の各サービスとも統合され、現在のように全国で非接触カードが使えるようになる。
パスネットは、「設計期間1年、600プロジェクト、プログラム430万ステップ」という壮大なプロジェクトだった。下記のようなやり方で、オープンの1か月前に全テーマを完了。再テストをする余裕迄あって、大成功したという。
・3か月かけて徹底的に作戦会議
・各部署からトップSE
・マトリクス型組織（鉄道会社ｘ個々の駅務機器）
・PMOメンバーが現場に出向いて情報を把握し、トラブルを事前に潰す
・PMOメンバーが現場に出向いて情報を把握し、トラブルを事前に潰す
49：「本を書け」
『ここまできた！モバイルマーケティング進化論』で鉄道会社トップに会う。
53：2025年から始まる「自律社会」
便利軸だけではなく感動軸からもイノベーションを考える。
2022年05月09日
SINIC理論
プロローグ：チキンラーメン、ボンカレー、回転寿司、屋上ビアガーデン、自動改札機・・・・・
いずれも関西発祥。関西には「ぶらぶらしている人」がたくさんいる。「視座視点」が違う。
1970年大阪万博の年、立石電機が国際未来学会で発表した「SINIC理論」。「情報化社会の出現など、21世紀前半までの社会シナリオを高い精度で描き出している」ことに驚く。50年以上たった今も、オムロンの経営の羅針盤になっているという。
「科学・技術・社会は相互に作用しながら発展していく」というのがその考えの基になっていて、「時代の流れは、効率や生産性を求める工業社会から最適化社会を経て、2025年以降には精神的な豊かさを求める『自律社会』になる」という。
23：「自律社会」は一人ひとりが世界を創っていく自分自身の生き方を思い描き、その実現に向けて目的を設定し、自分を磨き、目標を乗り越えながら「なりたい自分」を実現させていく。自ら定めた規範によって自らをコントロールする。
というから、マズローの「自己実現」にも影響を受けていそう。それで今はどうかというと、工業社会の最終段階である「情報化社会」が終わった後の「最適化社会」。日本は「情報化社会」にも遅れたままかもしれないが。
2022年05月08日
8050問題
「8050問題」をテーマにしたおそらく最初の小説。さすが林真理子で、グイグイ読ませる。8050問題とは、「年とった親の年金めあてに、引きこもりの子どもがべったりくっついている」状態。80歳前後の親と、50歳前後の子どもということで、こう呼ばれる。
全国に引きこもりの人数は100万人以上らしい。年間の出生数が100万人を割って久しいが、それ以上の人たちが、家に引きこもって親の収入をあてに暮らしていることになる。「40代以上が多い」というのは、引きこもりは少年時代に不登校から始まるが、そこに受験や就職などの挫折で人数が増え、またいったん社会に出たものの、失業を機に加わる人もいてだんだんと人数が増えていくという事。一方、そこから抜け出す人の数は、加わる人よりも少ない。当然、長引けば長引くほど、脱出できる可能性は少なくなる。
本書のストーリーは、代々歯科医を営む父親が、息子は医者になってほしいと中学受験させるところから始まる。うちはやったことがないので分からないが、「中学受験は母親が中心となり、子どもに徹底的に尽くす」という。
ところが、そうして苦労して入った中高一貫の男子校でいじめが起こる。いじめに耐えられなくなった息子は登校拒否になるが、理由は言わない。いじめが原因であったことが発覚するのは、なんと、7年間も引きこもった後で、その時息子は21歳になっていた。
その間、息子の引きこもりで、夫婦関係は悪化。娘はいたたまれなくなり、就職と同時に家を出ていく。そこから家族はやり直すことができるのか？ハッピーエンディングとはいかないが、希望は持てる内容だった。
9：歯科医とふつうの医者
同じように6年間医大に通い、授業料もそう変わらないというのに、歯科医とふつうの医者とでは、生涯所得にかなりの差。今や、私立の歯学部の偏差値は50台で、60を超える医学部とはまるで違う。
11：「医者になるんだったら、10歳から始めるんだ」
29：食べ物と冷暖房、そしてパソコンという娯楽を与えたために、彼は長い時間、あの部屋に籠城したのだろう。そう、それはまさしく籠城であった。そこで息子はたった一人の城主だ。何不自由なく、誰からも命じられることなく、気ままに暮らしていた。
116：息子を手にかけた元高級官僚の事件
彼の息子もまた、長いこと引きこもりで家族に暴力をふるうようになっていた。その事件が起こったとき、父親への非難の声よりも、同情の方がはるかに多かったと正樹は記憶している。なぜならば、殺された息子には妹がいたが、兄のことで結婚が破談になり、それを苦にして自ら命を絶ったと報道されていたのだ。
202：いじめの場合は、加害者が被害者に、被害者が加害者にたやすく入れ替わる。
弁護士：高橋知典、菅原草子
精神科医：和田秀樹、押川剛『「子供を殺してください」という親たち』
2022年05月07日
信仰と理性の調和
「信仰と理性の調和」は、「信仰と理性が全地球的規模で鋭く対立する」今こそ必要。トランプ前大統領の「盗まれた選挙」とか、ワクチンをめぐる陰謀説とか、正に二極化して「エコーチャンバー」になってしまっている。SNSはフィルタリングされているので、自分が反応した履歴に基づいて、同じような投稿を上位表示するのだ。
訳者あとがき：アリストテレスの思想やものの見方を援用して信仰と理性の調和をはかる緊張をはらみながらも創造的な、信仰と理性の対話を復活させよう。
507：ミシュレ『魔女』カトリック教会から禁書
スペインで「イスラーム教徒たち、このサタンの息子たちが努力を傾けているいたるところで、すべてが繫栄し、泉は湧き出し、大地は花々で被われている」
ムスリム帝国が国家をあげて取り組んだ翻訳事業で、イスラーム世界の人々はギリシャの遺産だけでなくインドやペルシア由来の諸々の学問をアラビア語で論じるようになり、アラビア語は知的言語・共通言語としての力を高めた。
508：パリ学派の歴史的意義（デュエム）
「近代科学はけっして無からの創造なのではない・・・・・ガリレイやその同時代の人々は、古代の幾何学者たちとの知的交流をとおして獲得した数学的熟達を用いて、一つの力学的科学を精緻化して発展させたが、この力学的科学は、キリスト教的な中世がその諸原理を提示するとともに、その最も本質的な命題を定式化したものなのだ」
2022年05月06日
アリストテレス革命
12世紀半ば以降、古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスのテクスト群が、保存されるだけでなく継続して研究されていたイスラム世界から、ラテン・キリスト教世界に流入する。それまでも一部の修道院などで密かに保存されていたテクストもあったが、聖職者を中心とする知識階級に広く知られたのは1000年ぶりになる。
その時の反応は、３つに分かれた。
�（歇蘚�アウグスティヌス主義キリスト教成立以前に活動した異教の哲学者であるアリストテレスの教説の流入を警戒し、キリスト教の教えの基礎を築いた教父アウグスティヌス（354-430）以来の伝統的な立場。�▲薀謄鵝Ε▲凜Д蹈┘梗腟�イスラーム世界の哲学者であるアヴェロエスが解釈したような仕方。「知性の単一性」の教説のように、キリスト教の教えと明確に対立していても、哲学的に探究する限りそうならざるを得ない「真理」として受容。�Ｃ翔仕�アリストテレス主義アルベルトゥス・マグヌスやトマス・アクィナス。アヴェロエス以来受け継がれてきた従来のアリストテレス解釈を確信し、アリストテレスの理性的世界観がキリスト教信仰の立場と矛盾しないことを示し、そのことを通じて、キリスト教神学自体を革新しようとした。
最後の、「信仰」と「理性」の調和的統合を図った中道的アリストテレス主義が、「アリストテレス革命」と呼ばれる。
513：西洋中世のスコラ学者
ペトルス・アベラルドゥス（1079-1142)
アルベルトゥス・マグヌス（1200頃-80)
トマス・アクィナス（1224/25−74）
ボナベントゥラ（1217/21-74）
ドゥンス・スコトゥス（1265頃-1308）
ウィリアム・オッカム（1285頃-1347）
515：ラテン・キリスト今日世界に対するアリストテレスの流入
12世紀半ば以降、古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスのテクスト群が、イスラム世界から、ラテン・キリスト教世界に流入。イスラム世界では、既に長らくアリストテレスの諸々の著作がアラビア語に翻訳され、アヴィセンナ（980-1037）やアヴェロエス（1126-98）のような優れた哲学者たちによって註釈され、活用されていた。
516：アリストテレスの哲学体系→伝統的なキリスト教的世界観への挑戦
521：中世においてアリストテレスの「知恵」を発見し、それを活用することによって、「信仰」と「理性」との調和的関係を構築しようとしたのは、キリスト教徒のみではない
アヴィセンナやアヴェロエスのようなイスラム教徒、そしてモーセス・マイモニデス（1135-1204）のようなユダヤ教徒も類似した試み。中世の偉大な神学者・哲学者たちは、宗教の相違を超えて、「アリストテレスの子どもたち」と呼べるような兄弟的類似性を有していた。
2022年05月05日
「レディー・フィロソフィー」の殺人
中世を通じてアリストテレスは欧州から完全に抹殺されたというのがこれまでの通説だったが、アリストテレスの書を代々筆写して守っていた修道院もあったらしい。一般人は、カトリック教会の説く天動説を信じていたが、教育を受けた人は地球が平だとは思っていなかったというのも初耳。
97：ヒッポ司教アウグスティヌス（354~430）
その後の700年間というもの、聖書とアウグスティヌスの自伝的著作の『告白』を除いては、『神の国』（430）ほど西ヨーロッパ人の思想に大きな影響を及ぼした著作は現れなかった。
『神の国』はアリストテレスの世界観を決定的に排斥し、プラトン及び新プラトン主義者の世界観を受容する立場を表明。
98：時代によってプラトンとアリストテレスの需要度が異なっている
歴史上のある時期には、プラトンの思想やものの見方がきわめて納得のゆくものと受け止められ、別の時期には、アリストテレスの世界観の方がはるかに現実的で、精神を鼓舞するものとみなされていたのだ。アリストテレスが重視される時代には、経済的な成長と、政治的な拡大主義と、文化的な楽観主義が知的な雰囲気を彩っている。
120：ポエティウス「最後のローマの哲学者にして、最初のスコラ学者」
アリストテレスに註解を施し、哲学的な概念と方法を神学上の問題の解決に応用しようとしたためばかりではなく、信仰と理性の問題に対する彼の姿勢が、その後の西ヨーロッパの知識人たちに一つのモデルを提供した。
126：
ポエティウス『哲学の慰め』
エドワード・ギボン「黄金の書」
その著者を権力と名声と富の頂点から奈落の底に突き落とした運命の激変について、思いを巡らせた書。
128：カッシオドルス「ウィウァリウム」修道院
蔵書を収蔵するために建てた修道院は、古代の文書を保管し筆写するという修道院の伝統の嚆矢となる。
ポエティウスの手になるアリストテレスの翻訳書と註解書、彼が著した教科書、そして獄中で認めた回顧録は、今日もなお生命を保っている。彼が処刑されてから500年ものあいだ、これらの書物は修道士たちによって繰り返し筆写された。
133：アレクサンドリア図書館焼
気の荒い司祭テオフィロス（345頃~411）に煽られて、熱狂した群衆がセラピス神殿を襲撃し、跡形もなく破壊。このときに、クレオパトラが寄贈した膨大な数の書籍もろとも、世界的に有名なアレクサンドリア図書館の分館も焼失。
134：415アレクサンドリアで史上最初の大規模なユダヤ人虐殺
415年、キュリロスはキリスト教徒を扇動し、ユダヤ教徒居住区を襲撃。
シナゴーグは打ち壊され、財産は略奪され、多くの住民が暴行され、虐殺された。
148：アリストテレス「不動の動者」と称する神のごとき存在
このみずからは動かないという抽象的な存在は、アブラハムやイサクやヤコブが奉じた神とも、宇宙を創造人間のもとに救い主を遣わした神とも全く無縁。キリスト教徒の見るところでは、アリストテレスの世界観には神が存在しない。
457：中世は無知の時代だったという謬説（アリストテレス『天体論』）
中世をつうじて、一般庶民は地球は平だと信じていたかもしれない。だが、教育を受けたヨーロッパ人はほぼ例外なく、地球が平だとは思っていなかった。
475：17世紀には、フランシス・ベーコンのようにアリストテレスに対して批判的な人々は、攻撃の範囲をアリストテレスの形而上学と方法にまで広げた。
479：トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
人間の最も基本的な権利は自己保存の権利。人民はみずからの安全保障のために、自己保存の権利以外のすべての権利を国家に譲渡し、それによって国家に権力を独占させ、臣民に対する無制限の法的権限を与えなければならない。国家の法律が唯一の法。
⇔アリストテレス『政治学』政治は道徳の一部門であり、国家の目的は単なる安全保障ではなく、正義の実現である。
アリストテレス主義的キリスト教は、カトリック教会の権力を粉砕し、教会に教育資源の独占を終わらせたいと願う者たちすべてにとって、大きな障害。
2022年05月03日
創立者ジョナサン・ラブラス
一言でアメリカと言っても、各地域で気質はずいぶん違う。欧州のように、「1時間で別の国」ということはないので、その広大な国土から考えれば言語も同じで「驚くほど同一」ということになるのだが、日本のように中央集権的に同一な国と比べれば、やはり相当違う。もともとが緩い連邦制として建国された国で、州によって法律が違うのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
地域別に大雑把に見ると、東部、南部、中部、西部の4地域に分かれる。金融業やメディアが発達し、サービス業の強い東部。かつて奴隷制度をめぐって東部と激しい敗戦を戦った南部。ドイツや北欧系の移民が多く、製造業と農業の中心の中部。そして100年前まで未開で、長くアメリカのフロンティアで起業家精神の強い西部ということになる。
キャピタルの創立者ジョナサン・ラブラスは、中西部の出身で、もともと技術者。第一次世界大戦での戦友に誘われて戦後、金融業界に足を踏み入れる。彼はスコットランドで発明された投資信託のアイデアをアメリカに持ち込もうとした。
本当は、アメリカ初の投資信託になるはずが、ミシガン州銀行当局が初めての仕組みに戸惑い、認可を遅らせてしまう。24：創立者ジョナサン・ラブラスラブラスは当時、スコットランドの中産階級向け投資信託のアイデアを、アメリカに持ち込むことにも夢中だった。個人投資家が投機的に個別株を買ったり売ったりするのはリスクが大きすぎる。
その後の大恐慌で、ラブラスを誘った戦友の証券会社は倒産。ラブラスは独立して、投資信託事業を行うことにする。こうして、キャピタルが登場する。25：Investment Company of America 1926会社型投信に借入と優先株という負債を組み入れられる形に設計した。ミシガン州銀行当局は、銀行からの預金流出を懸念し、難色を示した。こうして、「アメリカ初の投信」という栄誉は彼らの頭上から滑り落ち、ボストンのMassachusetts Investment Fundの上に輝くことになった。マサチューセッツの実績を見た後で、州当局は申請を認め、1926年3月27日、アメリカ市場2番目の投信としてICAファンドが誕生した。
30：ラブラスは「中西部」の価値観を持った企業に力を貸すのが好きだった。深みのあるビジネスと保守的な財務戦略を大事にしていたからだ。対照的に、NYの投資銀行のような攻撃的な行動をひどく嫌っていた。
33：キャピタル・グループ人事政策
�〜杼�力を駆使した粘り強い人材発掘
��一貫して高レベルの採用基準
�９弩ヅ戮亡陲鼎�権限と報酬制度
�だ賁臉�と顧客サービスの徹底した追求
�ゥ繊璽爛廛譟爾僚纏�
2022年05月02日
驚異の資産運用会社
チャールズ・エリスと言えば『敗者のゲーム』で知られる、パッシブ運用信奉者。それが、アクティブ運用で知られる資産運用会社の本を書いていたとは知らなかった。LBSのクラスメートも30年前に偶然就職して、一度も転職せず、未だに勤めている。
シティでは稀なことで、不思議に思っていたのだが、本書を読んで分かった。キャピタルは資産運用業界ではよく知られた優良会社で、とても働きやすいらしいのだ。10数年前に同窓会の用事でロンドン訪問したときに一度泊めてもらったのだが、ちょうど引っ越す前で、家を売りに出していた。値段を聞いたら10億円。ロンドンに比べれば、東京は格安だ。
まえがき：バートン・マルキール（『ウォール街のランダム・ウォーカー』著者）この本の著者がチャーリーで、私のような人間がそのまえがきを書くというのは、読者の皆さんには意外に映るかもしれない。何しろ二人とも、アクティブな銘柄選択は敗者のゲームであり、このゲームに勝つためには株、債券、不動産投資信託といった資産を、広義の市場インデックスに合わせて長期保有するべきだと固く信じているからだ。市場で数多くの優れた機関投資家がしのぎを削っている以上、長期に勝ち続けることなど不可能である。そう主張するチャーリーが、なぜ、アクティブ運用を命とする会社を評価する物語を書いたのだろうか？
ピーター・ドラッカーの言う「知識労働者」の組織として、キャピタルはその最高傑作と言えるだろう。
�…拘�戦略的な思考
キャピタル・グループは常に前向き。しかし行動そのものは保守的。
��一貫した目的意識
合理的な思考と行動が基本原則。運用実績は定期的に報告される一方、各人の評価は長期的な経営目標とリンクして行われる。
��社員重視の経営
日々の業務運営や長期戦略からは、驚くほど社員に対する配慮がうかがえる。チームとして高水準の運用成果や顧客サービスを実現するために、人材の採用には大変な時間と労力をかけている。さらに、各人の能力を最大限に引き出すため、研修も含め巨額の投資を行うほか、個人の持ち味を十分に生かせるよう絶えず職務分析を欠かさない。
�ぅ罐法璽�な運用体制
一つのファンドをいくつかに分け、それを複数のファンドマネジャーが担当する。一般に運用機関では、資産の増大とともに運用成績が悪化するという傾向が見られるが、この問題を解決するために編み出された仕組み。
�ッ椴賄�な組織運営
キャピタルの組織は外部から見れば曖昧で、いい加減に映るほど柔軟。意思決定の権限を分散し、常に将来の環境変化に機敏に対応できる余地を残すよう工夫されている。
�Δ靴覆笋�な報酬体系
投資家、同僚、オーナーという３つのコア・グループへの貢献を長期的に評価しながら決めている。
��非公開会社
非公開会社でありながら、広く所有された公平な株主構造。
�┯沈�の尊重
チームの一員として高い運用成果を目指す一流のプロは、確固たる意見と強い個性を備えていなければならない。
ナンバーワンになるのは大変だが、ナンバーワンであり続けることはもっと難しい。キャピタルは今日までの成功と、将来もその創造性を競争力を維持するという困難な課題を同時に達成してきた、稀に見る組織。
2022年05月01日
アリストテレスの再発見
歴史上、こうした、「征服された側の社会が、征服した側のそれよりはるかに進んでいた」という例は何度もある。ローマ帝国はゲルマン人に占領され、レコンキスタではキリスト教国がムスリム支配下のスペインを武力で制圧した。
日本国憲法には、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して」とあるが、誰がどういうつもりで書いたのかは気になる。
39：レコンキスタは5世紀初頭の「蛮族」によるローマの奪取に似ていた征服された側の社会が、征服した側のそれよりはるかに進んでいた。ヨーロッパが数世紀に及んだ貧困と社会的混乱からようやく抜け出そうとしていたときに、アラブ人が「アル・アンダルス」と称していたムスリム支配下のスペインは、国際貿易や、優れた職人技に基づく製造業、高度に生産的な農業によって繁栄を誇って久しかった。
73：アリストテレスは第一に普遍主義者
常に、人間を人間として、自然を自然として、存在を存在としてあらしめている諸々の原理を追求。
75：逍遙学派
リュケイオンのカリキュラムはアカデメイアのそれより多岐にわたり、自然哲学をより重視していた。アリストテレスは午前中は学園の屋根付きの散歩道を逍遙しながら、高弟たちと哲学上の難問について議論した。こうした習慣から、彼の学派は「逍遙学派」と称されるようになった。
76：『アリストテレス全典』と総称されている約50篇の論文は、全著作の1/3
80：反マケドニア派はアンティパトロスを打倒して、新しい政権を樹立
アテナイ人に「再び哲学を冒瀆する罪」を犯させはしない
エウボイア島西岸の古代都市カルキスが終の棲家に。享年62。
83：アリストテレスの著作にはそれを不滅の存在と思わしめるような何かがある
アリストテレスの著作は再三再四、一つの文明世界から姿を消し、何世紀か後に別の文明世界に現れては、しばしば尋常ならざる影響を及ぼした。
84：アリストテレスの著述は、筆者の利己心や悪意や自己満足を免れているという点で際立つ
まず論点を提示して基本的な用語を定義する、ついて他者のさまざまな見解を紹介して公正に論評する、しかるのちに自考え方を示して、それが論理的に首尾一貫しているとともに既知の証拠と矛盾しないことを証明する。かかり論証形式には、信じることを強要する要素が入り込む余地はない。
88：ユダヤ教徒やムスリムやキリスト教徒は、こうした知的能力を超自然的な創造者の存在を示す証とみなしている。アリストテレスは彼らとは異なり、自然の宇宙は意味を有する自律的な存在であると主張した。後世の世俗主義者たちは、宇宙は固有の意味を何ら有していないと考えた。アリストテレスは彼らとは異なり、宇宙は目的で満ちていると主張した。
91：アリストテレスの「神」
永遠に存在する、秩序と調和の現れとして宇宙に永遠に住み続ける居住者。
