2021年08月
2021年08月31日
江戸の結界
江戸の結界には、「遊郭と刑場がセットで配される」というのが面白い。表鬼門の方角に当たる千住宿には「吉原遊郭」「小塚原刑場」が置かれた。裏鬼門は、品川宿で、やはり遊郭と鈴ヶ森刑場が置かれた。
「生（性）」と「死」を一対にするというのは日本だけなのか？それとも、陰陽道同様、中国大陸にルーツがあるのか？これについては、まだ読んだことがない。
232：遊女とは幕府公認の遊郭で働く公娼を指し、それ以外での使用は禁じられていた呼び名だった。吉原は遊郭であり、ここで働く女性は遊女と呼ばれたが、その他の岡場所などで働く女性は、女郎などと呼ばれた。また、最上級の遊女は、当初は太夫と呼ばれたが、江戸中期以降になると花魁と呼ばれるようになった。
寛永19（1642）『あずま物語』吉原の遊女987人（内、太夫75人）
元禄2（1689）『吉原大江図』新吉原遊女2800人
2021年08月30日
神田明神
神田明神と言えば、平将門だが、実は、明治維新から昭和59（1984)年まで約100年間にわたって祭神から外されていたというのには驚き。
というのも、天皇親政の明治政府からすれば、朝廷に反逆し、関東に新たな王権を樹立しようとした将門は「朝敵」。朝敵を神田明神に祀るのはマズいということで、「将門は祭神から外され、摂社として将門神社が建てられて将門はそこに移された」。
氏子たちの熱心な活動が実を結び、やっと祭神に復帰したのは昭和も終わろうかという1984年になってからだったという話。
146：神田明神
神田明神には平将門が祀られている。徳川幕府は神田明神を表鬼門の守りとした。
将門が朝廷に反逆し、関東に新たな王権を樹立しようと図り、果たせず大怨霊となったから。徳川幕府は自らも関東にあって朝廷と対峙する立場になり、この将門のパワーを自らの守りとすることを目論んだ。
「当社は天平2(730)年に出雲氏族で大己貴命の子孫・真神田臣により武蔵国豊島郡芝崎村（現在の大手町・将門塚周辺）に創建されました。その後、天慶の乱で活躍された平将門公を葬った墳墓周辺で天変地異が頻発し、それが将門公の御神威として人々を恐れさせたため、時宗の遊行僧・真教上人が手厚く御霊をお慰めして、さらに延慶２（1309)年当社に奉祀いたしました」
2021年08月29日
江戸の表鬼門の霊的防衛
寺社の塀などでよくみられる角の「入隅」。城の石垣にもそうした凹みが見られ、防衛上の必要か、デザインなのかと思っていたが、これは「鬼門除け」だった。
そもそも、鬼門とは、風水における「鬼門」との呼び名と、日本古来の「オニ＝魔物」を恐れる考えが、陰陽道の中で結びつき日本独自に生み出されたものだという。表鬼門が艮（北東）の方角で、裏鬼門はその反対の南西。
江戸城の表鬼門は、大手町方面に当たり、「大手濠の石垣が雁行し、さらに大手濠の外側の平川の付け替え部分も、大手濠とシンクロして雁行する形状となっている」。とりわけ大事な江戸の表鬼門の霊的防衛のため、
・江戸城の鬼門角欠
・東叡山寛永寺
・浅草寺
・神田明神
という、幾重もの防衛策が取られた。
という、幾重もの防衛策が取られた。
132：表鬼門
艮（北東）の方角を特別に恐れる表鬼門は、風水における「鬼門」との呼び名と、日本古来の「オニ＝魔物」を恐れる考えが、陰陽道の中で結びつき日本独自に生み出された。
133：江戸の表鬼門の霊的防衛
・江戸城の鬼門角欠
・東叡山寛永寺
・浅草寺
・神田明神
134：鬼門角欠
大手濠の石垣が雁行し、さらに大手濠の外側の平川の付け替え部分も、大手濠とシンクロして雁行する形状となっている。
2021年08月28日
神田堀の掘削
先日も書いた「神田堀の掘削」。機械化が進んだ今の基準でも大工事なのだが、本郷台地をあれだけ掘り下げるという大工事を実際に行ったのは仙台藩だった
1615年の大坂夏の陣で豊臣家を滅ぼした徳川家の最大の脅威は仙台の伊達政宗。1620年、その仙台藩に神田堀の掘削を命ずる。ついでに、仙台藩は江戸城大手門の造営も担当し、「合計して黄金2600枚以上を費やした」といわれている。
地図を見て思うのは、この工事が本当に必要だったのかということ。無理をして本郷台地を掘削しなくても、台地南側に沿って川を迂回させれば済みそうだ。無理やり大工事をさせることで、仙台藩に散財させようとしたのかもしれない。
96：駿河台の掘削
本郷台地の南のすその部分は、神保町書店街を通る靖国通りの屈曲している部分に当たっている。幕府はここからJR御茶ノ水駅に向かう台地を切り崩し、斜面を階段状の水平な土地に改変する普請が行われた。現在でもよく行われる宅地造成の一般的な方法である。なお、この土地は後に駿河からやって来た武士たちに振り分けられたので、駿河台と呼ばれるようになった。
97：1620神田堀の掘削
神田堀の掘削は、二代将軍秀忠に代替わりした後の天下普請であり、仙台藩の伊達政宗に命じられた。仙台藩は神田堀の掘削工事に加え大手門の造営も担当し、合計して黄金2600枚以上を費やしたといわれている。江戸の普請は外様大名の力を弱め、幕府に逆らえないようにする意味合いも持っていた。
107：月島
明治になると石川島の南東側が埋め立てられて新佃島ができ、さらに南西方向に埋め立てが進んで月島となった。月島は埋め立てられた土地なので、本来は「築地」のように「築島」と書くべきところだが、風雅の心から「月島」と記されるようになった。
2021年08月27日
江戸改造の始まり
大学で建築を教えているという著者による、「江戸の暗号」解読。なぜ建築家がこんな本を書いているかといえば、「若い時から民俗学、宗教学、哲学などへの志向が強く、柳田邦男や折口信夫、海外では、レヴィ＝ストロースやフーコーなどいろいろと読んできた」かららしい（おわりに）。
家康は江戸幕府を開くにあたり、中国の風水から日本で独自に発展した陰陽道を取り入れ、江戸の町を守るべく、さまざまな仕掛けを作ったという。そうした「隠された徳川のメッセージ」を探るのが、本書のテーマ。
それは明日からの楽しみに取っておくとして、「じつは、家康の江戸入りより400年以上前から江戸は栄えていた」というのは初耳。「江戸が寂れた寒村だったといわれるのは、ゼロから江戸の町を造ったとした方が、家康の偉大さをいっそう強調できるため」なのだという。
もちろん、何万人も住むような街であったわけではないが、太田道灌の江戸城は長禄元年（1457)に完成している。これは平安末期に江戸氏（日比谷入江の地形からこの名前）が築いた館の位置と重なり、家康の江戸城に引き継がれる。
城は三重構造で、まわりには水堀が巡らされた「関東の名城」と称賛されたと伝えられている。日比谷入江を一望する位置にあり、その先には、江戸前島が見えた。江戸前島（現在の銀座辺り）には、多くの漁民が住んでおり、江戸城のまわりには市場や宿場も多く建てられえて、活気に満ちた城下町が形成されていたと考えれている。
はじめに：江戸の町は暗号に満ちている
隠された徳川のメッセージ。
74：縄文時代から陸地であった山の手台地と、海の下にあった下町低地の関係
武蔵野台地の東側の崖は、海によって削られた「海食崖」
78：江戸時代以前の江戸
じつは、家康の江戸入りより400年以上前から江戸は栄えていた。江戸が寂れた寒村だったといわれるのは、ゼロから江戸の町を造ったとした方が、家康の偉大さをいっそう強調できるため。
もともと、江戸は平安末期に秩父平氏の一族「江戸氏」が支配。後に江戸氏は鎌倉幕府と争って衰退し、15世紀になると藤原氏に連なる名門上杉家が関東管領になり、越後、上野、武蔵、相模の4ヵ国を支配した。扇谷上杉家の4代目の家宰（当主代理であり家臣の筆頭）が太田道灌。
90：江戸改造の始まり
家康は天正18（1590)年に江戸に入ると、まず一番に江戸前島の根元の部分を東西に横切る「道三掘」の掘削工事に着手した。また、平川をこの堀に接続する付け替え工事が行われた。この一連の普請は天正18年から文禄元年（1592)までの極めて短期間で行われたと考えられており、後の「天下普請」へと続く江戸改造の始まりとなった。
＊生活必需品であり戦略物資でもあった塩の確保のため、最大の生産地である千葉の行徳と江戸城を結ぶ
2021年08月26日
天災は必ず起こる
成毛氏は（というか、成毛さんが調べたところでは）、「温暖化で飢餓に満ちた世界になる」という。「数億人の人々の食糧事情が深刻に」なり、それは戦争に結び付く。「戦争の理由は、基本的には資源と富の収奪であり、「温暖化により異常気象が続くと、食料の奪い合いが起こるからだ。
食料は水とも密接だ。飲み水がなければ動物は生きていけないし、食物を生産するにも大量の水が必要だ。「水」が最も希少な資源になる可能性がある。「水の確保をめぐり、大河流域の国々で緊張が高まる」。不気味なのは、「深刻な水不足に陥る地域はパキスタン、インド、中国」であり、「いずれも核保有国」だ。「平均気温が0.５℃上がるごとに、武力衝突の危険性は10~20%高くなる」と言われている。
244：洪水浸水想定区域人口
1995年以降一貫して増え続け、20年間で4.4％増の3540万人。
253：南海トラフ地震の際は、日本中で地震が連動して起こる可能性が高い
南海トラフ 30年以内に70~80%の確率
首都直下型 30年以内に70%
256：自然災害はパンデミックとは関係なく
1918~1920年のスペイン風邪の3年後の1923年に関東大震災
257：富士山が噴火すると日本中の機能がストップ
「火山学的に富士山は100%噴火する」（京都大学大学院 鎌田浩毅教授）
1年以上、首都圏は機能しなくなる。日本経済が止まれば全世界の経済は滞り、世界のGDPは年率5%程度は下落する。株価、不動産価値は暴落。
260：温暖化によって戦争が起こる
戦争の理由は、基本的には資源と富の収奪。
温暖化により異常気象が続くと、食料の奪い合いが起こる。
262：「水」が最も希少な資源に
水の確保をめぐり、大河流域の国々で緊張が高まる。
深刻な水不足に陥る地域はパキスタン、インド、中国。いずれも核保有国。
「平均気温が0.５℃上がるごとに、武力衝突の危険性は10~20%高くなる」
265：あらゆる経済活動や消費活動が温暖化の原因
地球温暖化は、人口が増え、経済活動を続ける限り、回避は不可能。そして、戦争と違って、世界のだれかによって適切な方針が決められ、あっさり回避することもない。
2021年08月25日
衣食住の未来
「全国マンションの75%で修繕積立金が国の目安とする水準を下回っている」というのは衝撃（2018日経新聞調べ）。
では、「国の目安」は何かというと、「国土交通省のガイドラインによると、30年間の均等払いで、15階建て未満は1平方メートルあたり月178〜218円、20階建て以上は月206円を必要額の目安」という事らしい。
例えば、100�屬離泪鵐轡腑鵑之�200円だとすると、必要な修繕積立金は2万円ということになる。1年分で24万円、これが30年間で720万円だ。仮に100戸のマンションだとすると、総額7.2億円。これで毎年のようにある小規模修繕、何年かに一回の中規模修繕、そして12年に一回程度の大規模修繕工事費用を賄うことになる。
「問題は3回目以降の大規模修繕」らしい。職人の不足で工事費用は上がっているし、当然だが、築年数が経つにつれ、傷みが進むので、工事の規模も大きくなる。本来、そこまで見越して多めに修繕積立金を貯めておかなければならないが、何十年も先のことはわからないので、今住んでいる住民はなるべく負担を減らそうとする。
「積立金を含む管理費の滞納は古いマンションほど増える傾向がある。滞納者には管理組合が督促をするが、転居や死亡などで所在不明・連絡先不通になっていたり、住民の高齢化による役員のなり手不足で管理組合が十分に機能していなかったりすると、積立金の不足につながりかねない」（日経新聞）
193：日本の地価は下落
2030年までは日本の都市部は上がるかも←世界の過剰流動性
198：国が発展すると、肉を食べる
牛肉1kg生産に必要な穀物は8kg。氷に覆われていない地球の土地の1/4は家畜用の牧草地。
211：マンションの価値は下がる
2018年時点で、全国マンションの75%で修繕積立金が国の目安とする水準を下回っている。
まともに修理できるマンションは4件に1件！
232：貧しくなる日本にシェアリングは不可欠
2018年度 1兆8874億円 → 2030年度 11兆？
2021年08月24日
未来の経済
世界最先端の高齢化が進み、社会保険料負担が増える。この点、人口動態でほとんど決まるので、「確実な未来」だ。すでに、「10年前に比べて社会保険料負担率は、一人当たり+26%（賃金は+3%）」増えているが、この傾向は団塊の世代がいなくなるまで続く。
LBSのグラットン教授は「人生100年時代」を唱えているが、現在「65歳以上の7人に一人が認知症」で、2035年には4人に一人になると推定されている。それまでに治療薬ができるかもしれないが、認知症は病気というよりも脳の高齢化なので、これまで治療は難しいとされてきた。
唯一、希望が持てるのが、社会保険料は未納、徴収漏れが多いこと。年間5~10兆円にも上ると推定され、仮に5兆円だとしても、これが徴収できれば消費税2%上げたのと同じ効果がある。徴収できてない分は、真面目に支払っている人が制度を維持するための保険料値上げとして割を食う。
なぜ、これほど巨額の社会保険料が徴収できてないのか？それは、日本が世界にも珍しい「税金の徴収と社会保険料の徴収を別々の組織が行っている」国だから。先進国では唯一で、旧共産圏国家でも一本化されているというから、この点だけ見れば、発展途上国と言ってもいい。
例えば、昨年のコロナ対策現金給付で、日本では支給が大幅に遅れた。今時郵送で受け付けるなど、世界の失笑をかったが、これも、税金の徴収と社会保険料の徴収が「歳入庁」として一本化されてないからだ。
アメリカでは現金給付にあたり、所得に応じて細かい基準で支給されたが、各人の所得が社会保障番号で完全に把握されており、銀行口座とも紐づけられているので、2週間程度で給付金が振り込まれた。
アメリカでは現金給付にあたり、所得に応じて細かい基準で支給されたが、各人の所得が社会保障番号で完全に把握されており、銀行口座とも紐づけられているので、2週間程度で給付金が振り込まれた。
日本でも「歳入庁」が過去にも議論されたが、税収を管轄する財務省と、社会保険を管轄する厚生労働省、どちらも権限を手放したくないので、具体化してないという。
123：日本は世界で見ると「安い国」
自国でモノを買うより日本で買うほうが圧倒的に安い。
131：国の財源は、私たちの社会保険料からまかなうしかない
10年前に比べて社会保険料負担率は、一人当たり+26%（賃金は+3%）
133：すべての問題は高齢者が増えること
100歳を超えると必ず認知症になる。
150：年金、医療、介護の３つは税ではなく「保険」
保険料によって原資の多くを賄っている。
152：未納、徴収漏れが多い
5~10兆円！5兆円＝消費税2%上げたのと同じ効果
154：税金の徴収と社会保険料の徴収を別々の組織が行っている
先進国のみならず旧共産圏でもこれらのふたつの機能は「歳入庁」として一本化。
158：日本ですばやい経済対策ができないのはなぜか
アメリカで細かい基準を設けながらも迅速に対応できたのも、IRSがすべてを取り仕切り、個人情報までを把握しているから。
187：これからの時代はテクノロジーよりも政治が株価を決める
米中貿易戦争。政治の前には、一個人など無力に等しい。
2021年08月23日
テクノロジーの進歩だけが未来を明るくする
今年正月に出版。各分野で予測される今後20年間の変化が簡潔に説明されていて、オススメ。第一章は、成毛さん得意の、「テクノロジーの進歩だけが未来を明るくする」。
さまざまな分野での技術進歩が語られているが、ほとんどの分野で日本は遅れてしまっている。技術の初期段階では差はついてないのだが、技術が実用化されるまでには通常何十年もかかる。先行できるのは、資金的にも制度的にも国民性的にもリスクを取って試行錯誤できるところだけで、何事にも慎重な日本はここで出遅れてしまう。
最近では、コロナワクチン接種でも日本は出遅れた。集団免疫を考えれば、少々のリスクがあっても接種を急ぐほうが得策だが、「一切のリスクを許容しない事なかれ主義」から、接種は遅れた。もとはといえば、mRNAワクチン開発についても、日本も同時期に研究開発は進んでいた。その開発プロジェクトが凍結されたのも、リスクが取れない日本の象徴だろう。
58：自動運転
LiDAR（Light Detection and Ranging)
ミリ波レーダーより波長の短い赤外線レーザーを使っていて、小さな物体も検知できる。
69：無人店舗
万引き防止が大きい。日本における書店や文具店の万引き被害額は売り上げの0.5%。
75：医療技術
画像診断の世界ではすでにAIが人間を凌駕。
薬もAIで効率よく処方。
85：ゲノム編集技術で難病治療
がんは治る病気の時代がすぐそこ。
100：全固体電池
2020全固体電池特許出願数 日本が54%と圧倒的
106：「地上の太陽」核融合
原発に比べて安全で、無尽蔵のエネルギーを生み出す可能性。
113：面白いTV番組はTV局以外がつくる
エミー賞の受賞作品にはもはや三大ネットワークの番組はない。
賞をとっているのは、Amazon、Netflix、HBOのどれか。
アメリカではネット企業のほうが予算が潤沢なこともあり、地上波テレビは完全に白旗を上げている。
2021年08月22日
知恵伊豆
今住んでいるマンションが、江戸時代は伊豆守信綱の屋敷であったことは以前も書いた（そして、その子孫が理化学研究所を創った大河内正敏）。三代将軍家光、四代将軍家綱に仕え、「知恵伊豆」（伊豆守は官位）と呼ばれたほど頭脳明晰。徳川家康亡き後の、幕藩体制を固めた人物だ。島原の乱（1637）では総大将を務めている。一揆鎮圧の勲川越藩主となったのはその後だ。
本書では、伊達騒動の謀略を考えたのは伊豆守信綱であったという想定になっている。信綱は1662年に亡くなるが、その遺志を継いで実行したのが、酒井雅楽頭忠清（老中のちに大老）であったという設定。
もちろん、その証拠は残っていないのだが、当時、幕府が幕藩体制を確固たるものにするため、有力外様大名をさまざまな理由をつけては取りつぶしていたのは事実。酒井忠清が、仙台藩を取りつぶしにする口実にするため、伊達騒動という内紛を起こしたというのが本書の筋立て。
179：伊豆守信綱
「信綱の遺志だな。発頭人は信綱だ、雅楽頭ではない」
247：豆州侯の遺産
「伊豆守が計画し、雅楽頭が引き継いだもの」
「元和このかた、外様大名取りつぶしは幕府の根本政策の一つであり、その主脳は伊豆守であった」
232：刺客
「刺客というものには、多くのばあい扇動者がある、なにが真実であるかをみきわめる能力がなくて、血気にはやる人間は少なくない、そういう者はたやすく人に動かされ、すぐ壮烈な気分になって、どんなことでもやってのけるものだ」
2021年08月21日
伊達騒動
先日来、江戸の土木工事の本を立て続けに読み、そこに仙台藩が直接あるいは間接的に関わっていたことを知る。そこで、江戸時代初期の「伊達騒動」を題材にした本書を読んでみた。何しろ、豊臣家亡き後、徳川幕府の最大の仮想敵は伊達家であった。そのため、江戸初期最大級の土木工事だった小石川普請は仙台藩に任されたし、利根川東遷工事は仙台藩に対する防御の意味もあったともいわれている。
山本周五郎の大作で、1954~56年にかけ、日経新聞に連載されたという。それに書下ろしを加えて出版されたのが1958年というから、60年以上前になる。新潮文庫晩だけで100万部を超えるロングセラー。
本書を読むのは初めて。仙台藩の話で、新入社員の頃、中途入社で新しく上司になった部長が、この本のことを褒めていたのを思い出したのだ。長年勤めていた中堅商社が倒産し、VCに転職してきた、親会社の証券出身者が多かった管理職の中では異色の存在。留学までの2年ほどだったがお世話になった。
1970年にはNHK大河ドラマになり、大人気になったらしい。それを機に、伊達騒動で逆臣とされ、お家断絶となっていた主人公原田甲斐の三百回忌まで行われた。地元、宮城県船岡では「樅ノ木は残った」ブームになったという。
124：綱宗の逼塞はもはやどうしようもない。しかし、60万石を分割するという陰謀は重大である。元和5年に福島正則が除封されてから、蒲生氏、加藤氏、田中氏をはじめ、除風雨削封された諸侯は十指に余っている。もちろん幕府の基礎と権威をかためるためだから、口実さえあれば伊達家だとて遠慮はしないだろう。
231：小石川普請
神田川の筋違橋から、西へ遡り、お茶の水の堀、吉祥寺橋、小石川橋を経て、牛込御門、土橋に至るあいだ、それまで堀形のあったのを、浚って深く掘り下げ、船の運漕ができるようにするのだが、この長さ660間、幅30間、深さ2間半。彫り上げた土で、両岸の土手を築くという、大きな工事であった。
340：宿老 原田甲斐
「私は役に立たぬかもしれない。幾たびも云うとおり、私はこういう事には向かない人間だ、私にできるのはほんの僅かなことだけだと思う」
2021年08月20日
ストリートスマート
賢い社長だと思う。大卒でもなく、それどころか、「中学2年生くらいを境に、真面目に学校に行って勉強をした記憶すらもほとんどない」という。
「若い頃は、強い男に憧れてボクシングをかじり、うまくいかないと今度はモテたい一心でバンド活動に明け暮れる、そんなどこにでもいる普通の男の子だった」（はじめに）
それが、「普通」かどうか知らないが(笑)、行動力があるのは間違いない。20代は脈絡なく色んな商売に手を出し、小さな成功と失敗を繰り返している。
しかし、絶体絶命の中で、いつも最後は首の皮一枚で生き延びたし、29歳の時に買収したOWNDAYSを試行錯誤の末、10年で国内115店舗、海外142店舗の一大眼鏡チェーンにした。2019年の売上は200億円という。買収した時の売上は20億円で2億円の赤字。負債は14億円だったというから、正に瀕死の状態。誰も買い手がなかったというのも当然だ。それを3年前にLVMHと三井物産系のファンドに一部売却し、現在はファンドと一緒にさらなる世界展開を実施中。
つまり、学校の秀才ではないが、自分でたくさん経験することから学べるストリートスマートなのだ。OWNDAYSの再建で悩んでからは、自分の経験だけでは足らないことに気づき、本も読んでいるようだ。本書にも、稲盛哲学との比較や、名著『失敗の本質』を読んで気づいた企業理念の大切さが登場する。
そんな叩き上げ経営者からしたら、経歴的には対極ともいえるエリート経営学者の楠木健が、初対談で「深く共感します」と言っているのが面白い（下記13分ごろ）。
おわりに：OWNDAYSという存在を、ただの営利団体としての集団から多くの人々が必要とするコミュニティとして再定義して構築し直す
あらゆるものが便利で快適になったときに人々が必要とするコミュニティ〜最強なのは「エンターテインメント」
「遊んでいる」と「ふざけている」は同じ意味ではなかった。
「遊んでいる」と「いい加減にやる」も同じ意味ではなかった。
テクノロジーが進化していくこれからの耳朶はつまらない仕事や組織はどんどん機械に置き換わっていく。だからこれからの時代は仕事こそ「真面目に一生懸命、楽しみながら遊ぶ」べきだと思う。
2021年08月19日
経営論のウソ
「社員の不満を解消しようとするのは無駄」というのは面白い。たいていの会社は、不満を解消しようとする。いや、実は、OWNDAYSも当初、そうしようとしたらしい。
社員の不満を聞いて、改善を図る。それで不満がなくなり、皆、仕事に集中してくれるのかと思ったら、また次の不満が生じる。これを繰り返すうちに、不満を解消しようとするのは無駄だと気づいたという。
では、何が必要なのか。それは、関わる人たちの不満を取り除くことではなく「納得」してもらうこと。こうなっているのは、こういう理由だから、ここだけ変えてもダメなんですよとか、これをこうしても、今度はこういう問題が出ますねとか、そう決まったのはこういうプロセスを経たからですね、とか「納得」してもらうのだ。
自分の意見と違っていても、その決定プロセスで、
・自分の意見が正しく理解された
・他の意見も理解できた
・決定は必要要件を満たす
・オープンに議論され、公正に決定された
のであれば、「納得」できるものだ。
205：経営者は聖人君子になろうとしなくても良い
自分の欲望を満たす為には、周りの人みんなを豊かにするのが結果的に一番効率が良い。
210：社員の不満を解消しようとするのは無駄
会社にとって一番大事なのは、関わる人たちの不満を取り除くことではなく「納得」してもらうこと。
217：人事は選挙で決める
OWNDAYSには辞令がない。10年前に廃止。「やりたい人がやる」→選挙
技術や知識、経験は与えられるが、「やる気」は誰にも与えることができない。
給料や待遇、責任などは、できるだけ格差をつける。ただし、そこに挑戦する「機会」は常に平等。
226：中心に近づく
これからの時代に強いリーダーのスタイルは「キャプテン型」
選手と一緒に試合に出て、自分が一番動いて、自分が中心になって戦う。
234：人に期待するのをやめる
社員に期待しない。取引先に期待しない。奥さんにも子どもにすらも期待しない。
男女間のもめごとも、ほぼ全て余計な「期待」のせい。
できる人を連れてくる。
260：「自信」とは自分をダメにする悪魔の言葉
自信なんて、どれだけ待ってもつくものではない。仮に自信があるとしたらそれは既に経験済みのことでしかない。
「まだ自信がない」というのは、問題を先送りするための体のいい逃げ言葉。
265：目的と手段をはき違えた時、会社は倒産に向かって走り出す
『失敗の本質』
2021年08月18日
成功論のウソ
「成功はアート、失敗はサイエンス」という言葉はいつからあるのだろう。私も社会人になっていろいろな会社のいろいろな経営に触れ、成功する方法は様々だが、潰れる会社にはパターンがあることに気づいた。
田中社長も、OWNDAYSを経営していくなかで、「誰もが成功に辿り着ける宝の地図」のようなものは、最初からこの世に存在していない、と気づいたという。
だから、まずは負けないことを考える。「勝ち方を考える前に負けそうな要素を片っ端から潰していく」のだ。愛読書は、帝国データバンクの「倒産情報」だという。
130：会社を伸ばす社長のパターンは千差万別だが、会社を潰す社長のパターンはみんな一緒会社を潰す人の多くは不真面目。132：一番多くの時間を割いて学ばなければいけないのは、「他人が起こした失敗」一番好きな読み物は、帝国データバンクの「倒産情報」。これをいつも研究。
2021年08月17日
OWNDAYSを経営しながら考えていた10のウソ
前回読んだ、小説仕立てOWNDAYS物語『破天荒フェニックス』が面白かったので、昨年出た本書も読んでみる。著者の田中社長は、29歳の蒸し暑い夏の夜、「負債を14億円も抱え毎月2000万円もの赤字を垂れ流していた瀕死の状態のメガネチェーン店OWNDAYSを買収」する。
「はじめに」は、「本書では前著『破天荒フェニックス』では書かなかった、僕が20年間のアップダウンを通じて得た考え方や、今までOWNDAYSの社員たちに伝えてきたメッセージなんかを纏めている」とある。
第一章は、「幸福論のウソ」。田中社長は、「幸せ」という言葉をほとんど口にしないという。
20：そもそも「幸せ」という言葉は「状態」を表すものではなく、瞬間、瞬間に感じる「感情」を表すもの。
しかも、「幸せ」には絶対基準がなく、他人との比較で決まりがちだ。こんな曖昧なものを基準にして経営はできない。
24：「幸せ」ではなく「豊かさ」を基準に考える
そこで、OWNDAYSでは、「OWNDAYSに関わる人たちを豊かにする」を企業理念としている。社長として、社員を「幸せ」にできるかどうかはわからないけれど、社員を「豊か」にすることはできると思っていて、よって、「OWNDAYSに入ったのに、まったく豊かになれなかった」ということがあれば、社長である僕のせいにしてもらって構わない、と考えているそうだ。
これは、有名な京セラの経営理念「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」のアンチテーゼだ。創業者である稲盛和夫は、「全従業員の物心両面の幸福」といった。
昭和の会社は「全従業員の物心両面の幸福」を目指した。それも、昭和はまだ経済的に貧しかったからだろう。経済的に豊かになることが幸福に直結した。平成以降、それはない。そんな時代、豊かさと個人的な幸せは分けた方がいいと思う。
2021年08月16日
デジタルバブル相場⁈
本書出版時の著者のシナリオは、「デジタル庁設置→デジタルバブル相場の号砲」だった。その後、平井担当大臣の打ち合わせ録音事件があったりしたが、民間人採用が始まるなど、準備進行中。
株式相場はともかく、これが成功しない限り、日本に未来がないのは明らか。何としても成功してほしい。他官庁と横並びではなく、他官庁と連携を取りながら最終決定をできる権限が必要だ。それでなければ、これまで通り、時間ばかりかかって、予算オーバーの、誰も使わない妥協の産物しかできないだろう。そのために、長官を置かず、首相がトップということに組織設計はなっているらしいのだが、そんな素養が首相にあった
表は、国連経済社会局が公表している「世界電子政府ランキング」。上位は、�．妊鵐沺璽�、��韓国、��エストニア、�ぅ侫�ンランド、�ゥ�ーストラリアと、韓国（8000万人）を除けば、小国ばかり。エストニアに至っては、人口132万人だ。小国は、政治的透明性が高く、政府への信頼度が高い傾向がある。だから、電子政府への移行も進みやすい。マイナンバー制度導入に、プライバシー侵害とか的外れな野党の反対で50年かかった日本とはエライ違いだ。
21：ハイパー・インフレは起こりえない
量的緩和＝中央銀行が国債を買う→競争原理が働かない→金利は上がらない
60：中期波動
江戸時代の米相場「大回り3年、小回り3か月」
96：エリート層、知識階級のトップの超悲観は買い
WSJや日経新聞などの経済専門紙が超悲観の記事を載せたら底が近い。
120：景気循環
�．�チンの波 3年 在庫投資
�▲献絅哀蕁爾稜函�7〜10年
��クズネッツサイクル 20年 建設投資
�ぅ灰鵐疋薀船Д佞稜函�60年 技術革新
2021年08月15日
「出すこと」は生きること
著者は、「古典エッセイスト」。早稲田大学文学部日本史学を出てから、数十年間にわたって、古典文学に見えるうんこネタをファイリングしてきたという。
中高で習う教科書にこれらが取り上げられることはないが、これだけ著名な古典に登場するところを見ると、現代のようにタブーではなかったことがわかる。明治以降、どれだけ西洋的価値観を押し付けられてきたかの証左でもある。
「町の片隅で野糞をしている子供や若い女、老人の姿」といえば、15年前程、初めて行ったインドを思い出す。首都ニューデリーのホテルに泊まったが、翌朝部屋の窓から外を見ると、隣は空き地で、そこかしこに人がしゃがんでいるのだ。その後の経済発展はすごいだろうから、もうあんな光景は見られないかもしれない。
はじめに：「出すこと」は生きること
生物は、入れて出す。呼吸も生殖も新陳代謝も、この仕組みで動いている。
うんこが神から生まれる『古事記』『日本書紀』の話に始まって、『風土記』の神のうんこ我慢比べ、『万葉集』の糞の歌、『落窪物語』のスカトロ趣味、『源氏物語』のうんこによるいじめ、『往生要集』のうんこ地獄、『今昔物語集』や『東海道中膝栗毛』のうんこ食い等々・・・・・古典文学や歴史書、宗教書に見えるうんこ話は質量共に圧倒的。
45：トイレはあの世とこの世の境
赤ん坊が生まれることを「うんこが生まれた」とする北海道や沖縄の習俗にも相通じる「雪隠参り」という民俗行事が群馬県山田郡相生村にはあるそうで（中略）、「これをもって汚物を食わせる真似をして、犬のように丈夫に育つように祈願をする」（飯島吉春「厠考」）
73：『餓鬼草紙』（12世紀末）には、町の片隅で野糞をしている子供や若い女、老人の姿。
82：道元の説くトイレのマナー
「僧たちがその身心を清浄に保つこと、もっと具体的にいえば、なによりも大小便に関することである」「身を浄めるとは、大小便を洗い、十指の爪を剪ことである」
112：女色と男色の優劣を論じる趣向は、エレキテルで名高い平賀源内が風来山人のペンネームで書いた『根無草後編』(1769）にもありますが、源内が男色家であるためか、こちらは男色が優位になっています。また源内によれば、痔をやまいだれに寺と書くのは、昔は坊主ばかりが男色を嗜んでいたからであろうとのことです（『根南志具佐』）。
134：うんこの値段
江戸時代の長屋の大家は、借家人の排泄する大小便を肥取りに売ることで、結構なお金を得ていた。
「18世紀中期での平均は金銭では年間100名に対して金2両」（藤田昌雄『陸軍と厠』）
当時2両＝8〜12万円
おわりに：ヒトをはじめとする恒温動物は、体温を一定に保つために大量の食糧を必要とする。当然うんこも蛇などの変温動物と違って大量にならざるを得ない。実に効率の悪い生き物。
2021年08月14日
なぜ、日本初の蒸気機関車は海の上の線路を走ったのか
下の錦絵は目にしたことがあると思う。確か、日本史の教科書にも掲載されていたと思う。「1872（明治５）年 新橋ー横浜間に鉄道開通」だ。
日本最初の鉄道は、東海道沿いに敷設された。当然、陸の上だが、一地区だけ、海上を走る箇所がある。それが、この錦絵に書かれた八つ山下。問題は、なぜ、ここだけ、日本初の蒸気機関車は海の上の線路を走ったのか？である。
確かな資料は残ってないのだが、これには、住民の反対運動があったのではないか、というのが著者の推理。このルート沿いには薩摩藩・島津家など明治維新の中心となった藩の武家屋敷があった。その屋敷の前を、うるさくて、黒煙を出す汽車に走られてはかなわないと反対され、仕方なく莫大な追加費用をかけて海を埋め立て、海上を走らせたのだ。
海上を走らせると、今度は、漁師たちの反対運動が起こる。そのままでは、漁港から沖に出られなくなってしまう。これは、線路の土手の一部にトンネルを付けることで解決した。このトンネルはつい最近まで存在していた！
海上を走らせると、今度は、漁師たちの反対運動が起こる。そのままでは、漁港から沖に出られなくなってしまう。これは、線路の土手の一部にトンネルを付けることで解決した。このトンネルはつい最近まで存在していた！
私も何度か通ったことがあり、「やけに天井の低いトンネルだ」と思っていた。人が立って歩くのがギリギリだった。このトンネル、明治にできた当初は10mほどの長さだったのが、その後、線路が複々線化でどんどん海に向かって埋め立てられ、新幹線ができた後には200m程になっていた。
高輪ゲートウェイ駅の工事が始まってから、現在は、閉鎖されているらしい。
2021年08月13日
日本初の電気鉄道
大津と京都を結ぶ逢坂の「車石」は長さが12kmもある。坂のすべり止めのためなら急坂の部分3kmもあれば十分なのにだ。当時の技術では、大工事なのに、なぜこれほど長くしたのか。それが、著者の疑問だったという
後に気づいてのは、これは牛車のためだということ。牛が何かの拍子に突然暴れて事故を起こさないように、牛車専用道路としたのだ。古くから牛は暴れる家畜の代表。去勢してしまえば、発情期もなくなって牛も暴れないのだが、日本人は昔から牛を去勢しなかった。
去勢するのが当たり前だった大陸では、そのために牛馬をエンジンとする車両が発達したが、日本ではそうならなかったという（梅棹忠夫）。先にみたように、これには山がちで平野は湿地帯が多いという日本の地理も関係していたのかもしれない。車両の活躍できる場所が限られていたから、「そこまでしなくても」となったのかも。
「車石」の遺産が後に日本初の市電につながったという説は面白い。「京都には江戸時代から車石という線路があった」というわけだ。おまけに、京都は他の多くの城下町と違い、碁盤の目状に整備されている。城下町は敵の侵入を防ぐため、わざと道路を曲げている。そして、明治になって「京都は琵琶湖疎水という水力を得た」。これを計画したのは、工部大学校在学中に書いた卒業論文がイギリス土木学会の最高賞受賞を取ったという土木工学のレジェンド田辺朔郎であった。この卒論が正に「琵琶湖疎水工事の計画」なのだ。
1890年、琵琶湖疎水は完成し、翌1891年に蹴上にできた日本初の水力発電所は今でも現役で活躍しているという。
235：長すぎる「車石」の謎
大津と京都を結ぶ逢坂の「車石」
12km〜坂のすべり止めなら3kmもあれば十分。当時の技術では、大工事。
239：牛車専用道路
古くから牛は暴れる家畜の代表。去勢してしまえば、発情期もなくなって牛も暴れない。しかし、日本人は昔から牛を去勢しなかった。
242：土木工学のレジェンド田辺朔郎
工部大学校在学中に書いた卒業論文がイギリス土木学会の最高賞受賞
「琵琶湖疎水工事の計画」琵琶湖の水を京都市へ流すために造られた水路。
245：京都で日本初の水力発電所
1890琵琶湖疎水→1891蹴上に日本初の水力発電所（現役で活躍）
248：京都電気鉄道会社
�ゝ�都には江戸時代から車石という線路があった
��京都には市電が走るための街路があった
�５�都は琵琶湖疎水という水力を得た
�い修凌緡呂波�電をしようと決めた優れた技術者がいた
�イ修凌緡枠�電を利用して新しい電気鉄道産業を興そうという商人がいた
社長には、田辺と共に米国視察に赴いた京都商工会議所の高木文平会長が就任。
2021年08月12日
乳幼児死亡率の謎
現在の平均寿命は男性81歳、女性87歳。しかし、日本人が昔からこんなに長生きだったわけではない。今から100年前、1920年（大正9）の日本人の平均寿命は42.7歳と、現在の半分だった。これは、乳児死亡率の高さが影響しており、この時を境に、乳児死亡は劇的に改善される。
「河川屋」として、水道事業にも間接的に関わっていた著者にもこれは長年なぞだったという。上水道の普及が原因なら、横浜に最初の水道が整備された1887年以降、徐々に改善されるはずだが、その間乳幼児死亡率の高さは変わっていない。
この謎は、ある会議の場で出会った化学メーカーOBからの情報を糸口に解決される。それは、「液体塩素」。保土谷化学工業の『社史』に以下の記述があったのである。
この謎は、ある会議の場で出会った化学メーカーOBからの情報を糸口に解決される。それは、「液体塩素」。保土谷化学工業の『社史』に以下の記述があったのである。
「シベリア出兵に際し、陸軍から液体塩素の製造を依頼された。それに応じて液体塩素を開発した。しかしシベリア出兵はすぐに終了してしまったので、液体塩素の使い道がなくなった。これを民生利用として水道水の殺菌に転用することとなった」
シベリア出兵はロシア革命へ干渉するために、1918年、連合国側がシベリアに出兵した。米英仏が撤退した後も日本だけ駐留したが1922年に撤兵している。陸軍が液体塩素の開発を保土谷化学工業の前身の会社に依頼したのは、毒ガス使用も考えてのことだと思われる。1915年にドイツ軍によって初めてつかわれた化学兵器はまだ禁止されていなかった（1925年ジュネーブ条約で禁止）。
これを水道水の殺菌に使うことを思いついたのは、1920年に東京市長になった後藤新平だと推定している。後藤はもともと内務省衛生局勤務の医者で、33歳の時にはドイツに自費留学して、ゴッホ研究所で当時最先端の生物学・細菌学を学んでいる。のちに、政治家に転じ、外務大臣の時に、シベリア出兵を主張し、自らロシアまで軍隊に同行している
外務大臣として、その時、保管されていた液体塩素を知ったのだろう。そして、それがその後使われずに国内保管されていたことも。液体塩素を水道水の殺菌に使うことで、東京市の乳児死亡数が激減した。これが全国の自治体に普及して、日本中で塩素殺菌が行われるようになったのだ。
シベリア出兵はロシア革命へ干渉するために、1918年、連合国側がシベリアに出兵した。米英仏が撤退した後も日本だけ駐留したが1922年に撤兵している。陸軍が液体塩素の開発を保土谷化学工業の前身の会社に依頼したのは、毒ガス使用も考えてのことだと思われる。1915年にドイツ軍によって初めてつかわれた化学兵器はまだ禁止されていなかった（1925年ジュネーブ条約で禁止）。
これを水道水の殺菌に使うことを思いついたのは、1920年に東京市長になった後藤新平だと推定している。後藤はもともと内務省衛生局勤務の医者で、33歳の時にはドイツに自費留学して、ゴッホ研究所で当時最先端の生物学・細菌学を学んでいる。のちに、政治家に転じ、外務大臣の時に、シベリア出兵を主張し、自らロシアまで軍隊に同行している
外務大臣として、その時、保管されていた液体塩素を知ったのだろう。そして、それがその後使われずに国内保管されていたことも。液体塩素を水道水の殺菌に使うことで、東京市の乳児死亡数が激減した。これが全国の自治体に普及して、日本中で塩素殺菌が行われるようになったのだ。
220：乳児死亡率の謎
1920年（大正9）の日本人の平均寿命42.7歳←乳児死亡率の高さ
上水道の普及？横浜1887年以降、順次整備されているが、その間乳幼児死亡率の高さ変わらず。
227：後藤新平
乳児の死亡数が劇的に減少に転じた時の東京市長。
逓信大臣→内務大臣→外務大臣→1920東京市長
内務省衛生局入省→33歳の時にドイツに自費留学（ゴッホ研究所で生物学・細菌学を学ぶ）
外務大臣の時、積極的なシベリア出兵を主張。ロシアまで軍隊に同行。
228：保土谷化学工業『社史』
「シベリア出兵に際し、陸軍から液体塩素の製造を依頼された。それに応じて液体塩素を開発した。しかしシベリア出兵はすぐに終了してしまったので、液体塩素の使い道がなくなった。これを民生利用として水道水の殺菌に転用することとなった」
229：後藤新平が液体塩素による水道水の殺菌を指示？
シベリア出兵時に軍隊に同行し、現地で液体塩素と出会っていた？
→東京市の乳児死亡数が激減→全国の自治体に普及
2021年08月11日
江戸の飲み水
江戸は、徳川幕府の治水事業が完成するまで水害に悩まされる湿地帯であったのはこれまで見てきた通り。では、飲み水の確保は大丈夫だったのかというと、それもダメ。江戸湾の海水が混じる湿地帯であったからである。
「江戸は、都市としての住環境、特に水の確保の面では、最悪の土地でした。当初、家康は小石川を水源として、小石川上水を造りました。江戸開府から3年経った1603年には、虎ノ門に水を貯める堰堤すなわちダムも建設しました。さらに、井之頭池や善福寺池、妙正寺池などの湧水を水源とする神田上水を完成させ、そこから取った水を虎ノ門のダムの溜池に溜めて、江戸の人々の生活水源として利用していました。」
1635年には参勤交代が始まり、諸大名は江戸に屋敷を構える。それを支える町人も増え、江戸はさらに発展する。そうすると、また飲み水が足らなくなり、幕府は多摩川から水を引くことにするのだが、この大工事を担ったのが多摩川沿いの豪農であった庄右衛門、清右衛門兄弟。二人は、工事の成功で「玉川」姓を名乗ることを許され、後に玉川兄弟となる。
この工事、取水口となった羽村取水堰から四谷大木戸まで、全長約43kmで、現在から見ても高度な土木工事だという。ポンプのない時代なので、上水道の水は自然流下式。ということは、43kmにわたって、「軟弱地盤の沈下を克服し、岩盤が出てくればそれを取り除く。コンクリートはなかったので、水が漏れないように粘土を張る」ことで、一定の傾斜を保たなければならない。
玉川兄弟はどうやら、その資産に目を付けられ、工事代金を付け回されたようで、工事奉行は利根川東遷事業と同じ、関東郡代の伊奈半左エ門忠治だった。さらに、忠治には安松金右衛門という技術者が付いていたようだ。
208：玉川上水1653→今も東京の水源
取水口となった羽村取水堰から四谷大木戸まで、全長約43km！
多摩川沿いの豪農であった庄右衛門、清右衛門兄弟→玉川兄弟
ポンプのない時代、上水道の水は自然流下。43kmもの用水工事は、現在から見ても高度な土木工事。軟弱地盤の沈下を克服し、岩盤が出てくればそれを取り除く。コンクリートはなかったので、水が漏れないように粘土を張る。
210：武蔵野台地は稲作という点から見たら、開墾できない役立たずの台地
川崎を開墾（登戸、宿河原、生田、菅生、溝の口、二子玉川）。
211：二ヶ領用水
家康は、宿河原堰を建設し、その堰から川崎一帯に水を引く農業用水を建設。
214：武蔵野台地＝エネルギー資源
延々と続く雑木林→莫大なエネルギー地帯
216：溜池
玉川上水で運ばれてきた水は溜池に貯水され、そこから石樋・木樋などの地下の排水管を通って、江戸市内の各地に配られた。
2021年08月10日
利根川の故郷は東京湾
家康は、江戸に入った直後から、利根川の流れを江戸湾にではなく、東の銚子沖に流れるように「利根川東遷事業」に取り掛かった。工事の完成まで60年以上もかかる一大河川改良事業。その理由が、本来湿地帯で都市づくりに不向きだった江戸の治水以外に、流域の灌漑、そして仙台の伊達政宗に対する巨大な外堀だったのではないかというのが著者の推理。
こうして、地上の水流は人工的に変えられたが、地下水脈まで変わったわけではない。今でも利根川水系の地下水は、元通り、東京の地下を通った東京湾に流れ込んでいる（下図）。そのおかげで、高度経済成長期に汚れに汚れた東京湾の水が入れ替わり、東京湾は再生した。
182：堤防の99.9%は江戸時代に造られた
近代になり河川を拡幅したり、浚渫したり、堤防を補強してはいますが、川の基本的な姿は江戸時代に形成された。
190：深川の海岸線をどんどん埋め立てていった
この一帯は江戸の広大なゴミ捨て場。火事や地震の後始末も。
198：利根川流域の地下水網
今も、地下水は「利根川の故郷は東京湾」と主張。
大量の地下水が東京湾に流れ込み、外洋の海水と湾内の水の入れ替え。
203：利根川の地下水こそが、近代化で一度は汚染されてしまった東京湾を再生した。
2021年08月09日
現代に機能する江戸時代の土木工事
徳川幕府の素晴らしい土木事業を見てきた。しかし、画期的な土木事業は幕府だけではない。
「秀吉は上町台地の地形を利用して、軍事的には難攻不落の城を造り、自然流下で排泄物が海に行く衛生的な町を造り、魚介類豊かな食道楽都市・大坂を誕生させた」という。これは太閤下水と呼ばれ、現在でもそのまま使われているという！（写真）
この高低差で排泄物を流す仕組みは、新吉原遊郭でも同じで、そのために「堤防の標高10mに対して、遊郭を標高14mまで盛土」したらしい。「遊郭から傾斜をつけて排水の木製の樋を設置し、木樋の下に排水汚物を受ける水路を設け、排泄物を農家が利用するシステム」で、排泄物は周囲に広がる田畑の肥やしとなり、江戸のエコシステムだ。
東日本大震災の際にも、各地の下水道が停電で機能しなくなる中で、仙台市の下水道は機能し続けたという。この下水道ネットワークは伊達政宗の時代に原型が造られたもので、全て自然流下式。ポンプが不要なので、停電しても機能した。福島原発もそうなっていたらと思わずにはいられない。
164：新吉原遊郭の大開発
堤防の標高10mに対して、遊郭を標高14mまで盛土。
高低差を利用して排泄物を確実に流し、その臭いをとおざけるため。
遊郭から傾斜をつけて排水の木製の樋を設置し、木樋の下に排水汚物を受ける水路を設け、排泄物を農家が利用するシステム。
167：仙台市民を救ったのは、400年前の伊達政宗の街づくりの遺産
東日本大震災の中で、仙台市の下水道ネットワークは機能。一切、ポンプを使用していなかったため。自然流加で浄化センターまで到達。
2021年08月08日
吉原遊郭の役割
うちの近くにあるのが、上野広小路。あちこちの道路が拡張された今となっては、それほど違和感がないが、江戸の昔では広場ほど広い道路だった。
この「広小路」が浅草と下谷に設けられたのは、明暦の大火（1657）後。江戸城の天守閣が焼け落ちるほどの大火事だったが、三代将軍・家光、四代将軍・家綱の二代にわたって仕えた幕閣である会津藩主・保科正之は天守閣の再建より、江戸の町の再建を優先させた。
この時、保科正之が取った防災対策がこれである。
�ー舁彳擦瞭刺�を六間（10.9m）〜九間（16.4m）に拡張
��火除け地として各町に「広小路」を設置
�Ｎ捷餠兇鮨契�
�ぜ任叛�草に新堀を開削
�タ静沈遒魍板�
もう一つ、その際に行われたのが、吉原の移転。それまでは、京橋具足町の東側にあったがここも被災する。新候補地となったのは、浅草寺の裏、できたばかりの日本堤の先だ。日本堤は江戸の水害対策の要だった。ここが切れれば下町は洪水になる。
そこで幕府はこう考えたというのが筆者の説。
142：吉原遊郭の役割
江戸中の男たちは、否応なく、日本堤を歩いて通うことになる→踏み固め
さらには、男たちが毎日のように日本堤を通れば、土手からの水漏れや堤防の亀裂などの早期発見にも繋がる。
143：隅田堤
桜を植えること、隅田堤を「桜の名所」にして、堤防に大勢の人々を集めて、人々の足で地面を踏み固めさせる。
2021年08月07日
江戸のエネルギー問題
地下資源である石炭が産業革命で使われるまで、世界のエネルギー源の大半は薪だった。そのため、文明が起こると大量の森林資源が消費され、やがて周囲の森林を切り尽くしてしまう。煮炊きに使われる薪無しに都市生活は成り立たない。
運送手段に乏しい昔のことだから、周囲の森林がなくなると、町は捨てられ、他の場所に移っていく。こうして、メソポタミア文明も黄河文明も滅んだと考えられる。何れも、かつては緑豊かな土地だったのだ。
日本でもそれは同じで、著者は、奈良から平安へと都を移したのは、「奈良の都に人が集まった結果、人々は奈良盆地の山々の木を伐り尽くしてしまった。禿山に囲まれた奈良盆地は、社会生活を営めないほど悲惨な土地になってしまった。そのため、森林エネルギー源を求めて、隣の淀川水系に都を遷したのです」と推定している。
アメリカの歴史研究家コンラッド・タットマンが全国各地の神社仏閣を回り、そこに残されている『神社縁起』から、寺の建立にどこの木が使われたかを調べている。その結果が下図で、各年代ごとにどの地方の木々が使われていたかを色分けしてある。
「中央の赤色で示されている範囲は、主に奈良時代後半までの寺社の造営で使われた木材が伐り出された場所です。琵琶湖の周辺から紀伊半島にかけての木々が使われているのがわかります。もう少し広がった紫の範囲が戦国時代（1550年頃）です。この頃には、北は能登半島全域、東は伊豆半島全域、西は山口県、高知県まで伐採の範囲が広がっています。つまり戦国時代には、関西、東海・中部の森林はほとんど伐り尽くされ、なくなっていたのです。それ以外の黄色の部分は江戸時代になって、伐採された範囲です」
84：貴重な燃料の馬糞
薪1kg 3000kcal
馬糞1kg 3690kcal
家康は徳川家の繁栄のためにはエネルギーが必要であり、そのためには関東の手つかずの森林が絶対必要だと考えたのです。
95：記念構造物のための木材伐採圏
コンラッド・タットマン『日本人はどのように森をつくってきたのか』(1998)
104：昭和天皇『昭和天皇独白録』
「日米戦争は油で始まり油で終わったようなものであるが、(中略）実に石油の輸入禁止は日本を窮地に追込んだものである。かくなった以上は、万一の僥倖に期しても、戦った方がよいという考えが決定的になつたのは自然の勢いと云わねばならぬ、若しあの時、私が主戦論を抑えたらば、陸海に多年錬磨の精鋭なる軍を持ちながら、ムザムザ米国に屈服すると云うので、国内の与論は必ず沸騰し、クーデタが起こったであろう」
2021年08月06日
「利根川東遷事業」の隠された意味
先週末、仕事で木更津へ行った。この一帯は「上総」と呼ばれる。それに対して、房総半島の北が「下総」。どうして、東京に遠い側が「上」で、近い側が「下」なのか？もちろん、江戸時代までの「上下」は、京都を中心にして「上る」か「下る」かなのだが、江戸経由ではなかったのか？
これは、江戸時代までの交通が関係している。徳川家康が江戸に来るまで、江戸の大半は葦の生える湿地帯だった。だから、都からやってくる旅人は、三浦半島から船で上総に上陸し、房総半島を経由して江戸に向かうか、もしくはさらに東北を目指したのだ。だから、都に近い房総半島南部が「上総」で、北部が「下総」になった。
家康が幕府を開いてまずやったのが、利根川の東遷事業。江戸湾に流れ込んでいた利根川を銚子に流すという大土木事業。これで、江戸は湿地帯ではなくなり大都市となる基礎ができた。ここまでが、歴史の定説なのだが、利根川東遷事業には、もう一つ、重大な意味があるというのが著者の説。
それは、伊達政宗に対する備え。伊達政宗が江戸を攻めるとすれば、古来から関東支配の重要拠点であった国府台（千葉）をまず押さえ、次に房総半島を制圧するはず。
「房総半島を制圧すれば、西日本と東北を結ぶ海路を支配でき、江戸を湿地帯の中に孤立させることができる」
そうさせないために、利根川を東に流し、江戸を守る巨大な「堀」とした。
72：遠く西から船で海路を来た人々も、房総半島に上陸。房総半島には、館山、上総湊、君津、木更津、袖ケ浦など、船が接岸できる良港が連なっていました。「下総」に対して房総半島南の地域が「上総」と呼ばれるのは、港に近い場所であることを示しています。関西から見れば、上総は、東日本への玄関口。
78：「利根川東遷事業」の隠された意味
東北から独眼竜の伊達政宗の軍勢が江戸に攻め込んでくる可能性。その場合、必ず、国府台の大地を一気に南下し、房総半島を制圧するはず。房総半島を制圧すれば、西日本と東北を結ぶ海路を支配でき、江戸を湿地帯の中に孤立させることができる。
2021年08月05日
「小さく、軽く」が日本人のアイデンティティになった理由
広重の浮世絵と地形で読み解く江戸の秘密。『水力発電が日本を救う』等で、大胆な提言をしてきた「河川屋」土木技術者による「江戸の秘密」解明。
日本人の得意といえば、「小さく、軽く」。その昔、中国渡来の「団扇」から、それを畳んだ「扇子」を作ったり、明治になって伝来した「コウモリ傘」から「折りたたみ傘」を発明したりと、「小さく、軽く」は日本人のアイデンティティともいえる。
しかし、どうして、日本人はそうなのかを解説した本はこれまでなかった（と思う）。それを著者は日本の国土から説き起こす。
「国土の約70%が山。そして平野と言えば沖積平野の湿地帯」
そうした国土では、車はあまり役に立たない。山では荷車を押し上げるのも、下りで制するのも大変だし、平野の大半は湿地帯で、車輪がめり込んでしまう。だから、欧米や中国のように普及はしなかった。
そうすると、日本人はどこへでも歩いて移動することになる。そうすると、荷物が軽くなくてはいけない。そうして、「小さく、軽く」が日本人のアイデンティティになったと著者は考察している。
なるほど、論理的で合点がいく。
8：河川屋
建設省と呼ばれていた時代から、40年近く、国土交通省に勤務。そのほとんどの期間、河川やダムに関する部署に所属。
11：日本人は歩いて移動
日本の地形が車を発達させなかった。国土の約70%が山。そして平野と言えば沖積平野の湿地帯。
14：「小さく、軽く」が日本人のアイデンティティ
中国渡来の「団扇」→扇子
コウモリ傘→折りたたみ傘
＊険しい地形の関係で車の文化が未発達で、荷物を自分で担いで歩くから
28：参勤交代→江戸の共通言葉
地形で分断された南北に長い島国なのに、日本語という共通言語を持つことができたのか？
47：水を制する者は国を制す
宰相・管仲「善く国を治める者は、必ずまず水を治める」
船頭を、江戸にいた漁師たちには任せず、わざわざ大坂から森孫右衛門を呼び寄せた理由→軍事用
2021年08月04日
小説家を志して再び日本へ
香港での結婚式の習慣が面白い。広東人のしきたりがいろいろあって、日本式の教育を受けた台湾人である邱永漢から見れば、違和感があったのは間違いない。それどころか、最後は、大金を払って雇った花嫁の世話係のおばさん（太鼓持ちのようなものか）に腹を立て、それでそれまでの不満が爆発し、花嫁の家族と大喧嘩になる。
家族は花嫁をそのまま実家に連れて帰り、なんと、「花嫁のいない結婚初夜」になってしまったという。
「広東人の習慣では、結婚式の初夜に花嫁が処女であった証拠が確認されると、翌朝、男家から女家に豚の丸焼きが贈られることになっており、もし焼豚が届かなかったりすると、どうしたどうしたとあらぬ噂まで立てられるにきまっている。」（192）
翌朝、仲人に相談したところ、仲人が慌てて花嫁の実家に話を通し、先方も、これはまずいと思っていたのだろう、仲人が花嫁を連れ戻し、なんとか新婚生活が始まる。
娘が生まれたが、彼女には生まれつきの痣があった。香港では治せるものがおらず、日本の友人の紹介で、日本の医者が治療してくれることになる。同じころ、日本語で書いた処女作『密入国者の手記』で作家デビュー。日本での滞在許可も得られることになり、こうして、日本に移住する。
169：20代に稼いだ金は身につかないときかされていただけに、なんとかお金の残る方法はないものかと考え、自分の収入の1/10以下で生活することにした。実際、そのとおり実行したので、たちまち金回りがよくなった。（中略）いまの自分は月に100万円くらいの収入はある。学校時代の友人たちは、一流銀行とか大蔵省に勤めているが、サラリーはせいぜい2千円か3千円だ。
186：香港の結婚式でもう一つ煩わしいのは、宴会の前に麻雀の席が用意されているために、定刻がきてもなかなか宴会が始まらないことであろう。また喜びのしるしとして、宴会の途中で耳を塞ぎたくなるほど喧しい音で爆竹を鳴らすことであろう。
189：花嫁のいない結婚初夜
花嫁のお母さんが、「自分の顔を立てない」と言ってわめき出すし、花嫁の兄弟姉妹まで私に悪態をつくし、とうとう私の家の玄関に立ち塞がって花嫁を連れて帰ってしまった。
199：母娘相伝
うちの娘も嫁に行くまではガスのつけ方一つ知らなかった。食事はすべて家付きのコックにつくってもらったし、夜食は弟たちの手をわずらわした。「そんなことでどうするの」と心配するのは親たちであって、自分で台所に立つようになると、すぐにも腕が上がり、とびっきりの味つけができるようになるものである。
207：勝手なもので、こうなると香港は私にとって住みずらいところになってきた。お金、お金、お金と朝から晩までお金のことにしか夢中にならない町で、お金儲けもできないような人間は落伍者だった。私は真剣になってどこかに移住することを考えるようになった。ただ私はパスポートを持っていなかったし、台湾の国民政府に弓を引いた以上、台湾へ戻ることもできなかった。
214：1954年4月
こうして私は6年間住み慣れた香港を去ることになった。住んでいた家を人に貸し、日本に行ってから小説家として生計がたてられるようになるまでは、その家賃で暮らすつもりだった。一人で命カラガラ逃げてきたのに、香港を離れる時は、娘と三人になっていた。
2021年08月03日
青春の賭けに敗れて商人となる
香港で亡命生活を送る邱永漢は、アメリカが国民党政府の台湾入りを阻止する可能性に賭けていた。国民党政府は腐敗し、中国大陸で共産党の追撃を受けて南京から広州、広州から重慶、さらに重慶から成都へと遷都を続ける体たらくだった。アメリカが蔣介石の台湾入りを認めなければ、台湾で国民投票を実施して、「台湾人の台湾」が実現する可能性がある。
しかし、アメリカは抗日戦争中、盟友だった蔣介石を土壇場になって見捨てることができなかった。
「蔣介石の代わりに国民党政府の代理総統になった李崇仁将軍が中共との和平交渉に失敗すると、蔣介石は再び対中共作戦の最高指導者に返り咲き、その年の12月4日には蔣介石自身が飛行機で台中に入り、国民党政府の台北遷都が宣言された」
中国やキューバで革命は成功し、台湾ではなぜ成功しなかったか。邱永漢は「犬の遠吠え」だったと自ら分析している。
「国民党政府に不満を持った台湾の知識分子の大半は、自分の実力ではなくて、外の力をかりて独立をかちとりたいという虫のよい考え方をしており、私もその例外ではなかった」
台湾独立運動に関わる人たちは、大半が日本留学者など高学歴の元エリートで、同じ中国人と血を流してまで独立を勝ち取ろうという勇気はなかったのだ。
145：共産党に追われた国民党の政治家や将軍たちが次々と香港に亡命
資本家とか地主とかに対する毛沢東の追撃に容赦はなかったから、これらの人々も、持てるだけの財産を持って、それこそ命からがら香港に逃げ込んだ。
146：「台湾人の台湾」の可能性
アメリカが国民党政府の台湾入りを阻止する可能性
155：郵便小包貿易
月に小包を百個送って百万円利益があがるということは、いま坪当たり1億円もしている赤坂や新宿の土地がまだ千円で変えた時代だったから、毎月東京の土地が千坪も買えるお金を稼いだことになる。明日のメシをどうしようと夜も寝ないで考えていた亡命青年が、1年余りで新しいチャンスをつかみ、それから2年でそうした身分になったのだから、人間の運命なんてわからないものである。
156：蒋介石の台湾入り
台湾の治安を維持するために取り締まりはいっそう強化され、ちょっとでも不穏の言動があると、共産党の帽子をかぶせられ、軍事法廷で死刑とか流刑の刑に処される人がふえた。
164：犬の遠吠え
国民党政府に不満を持った台湾の知識分子の大半は、自分の実力ではなくて、外の力をかりて独立をかちとりたいという虫のよい考え方をしており、私もその例外ではなかった。
166：青春の賭けに敗れた亡命者
私はまだ26歳だった。26歳で高級マンションに住み、運転手付きの自家用車を持つことは、香港のような生き馬の目を抜く港町でもそうたくさんあることではなかった。
2021年08月02日
台湾のロレンス
反政府運動で命からがら香港に亡命した邱永漢。ポケットには、住んでいた家の権利金（借家権？）を売った資金から、一緒に逃亡することになった荘さん（中央大学卒→朝日新聞→台湾銀行）の台湾に残る家族のために用立てし、残りの半分を母親に残したら、$1000しか残ってなかったという。1ドル360円時代の話だから、日本円で36万円。
香港では、台湾独立運動を支援していた寥文毅博士宅に寄宿。すでに二人の書生と一人の学生が寄宿しているところに、荘さんと二人が加わったために、部屋は超満員となった。
家と食事にはありつけたものの、収入はない。しばらくして、日本から密航者が訪ねてくる。寥博士は日本との密輸に出資して台湾独立運動の資金に充てていた。それは、船に当時、日本では手に入らなかったサッカリンやストレプトマイシンやペニシリンを積んで、密航するというものだった。外貨のない日本は、それらに高額の関税をかけていたので、密輸すれば仕入れ値の10倍の価格で売れたという。
邱永漢が目を付けたのは、そうしたハイリスク・ハイリターンの密輸ではなく、密航者から聞いた郵便小包を使った「貿易」。一家で使う程度なら、占領軍が「救恤小包」として関税なしで認めていたのだという。一家で使う量だから、送れる量は高が知れている。しかし、密輸船をチャーターする手間もコストも掛からず、リスクもない。
まずは、東京で日本人と再婚した姉宛に送ってみることにする。
127：密輸
当時、日本では手に入らなかったサッカリンやストレプトマイシンやペニシリンを日本に持って行って、帰りは米ドルに換えてもって帰ってくるだけの片道貿易であった。
128：国共紛争
中共軍の攻勢に対抗すると命懸けで応戦しなければならなかったが、城を明け渡して逃げるとなれば、役所の書類を焼いて悪事の数々の証拠隠滅をやった上に公金を持ち逃げすることができたからである。国府軍の敗走は人民解放軍が優勢だったせいというよりも、国民党の腐敗によるものと見たほうが正しいであろう。
134：密輸船
脱いだズボンのベルトの裏側を鋏で切った。すると、なかから金の延棒が何本も出てきた。また別のところをほどくと、タテに折ったドルの束が出てきた。ズボンの折目の中からはダイヤが3粒ほど出てきた。全財産をズボンの中にかくして持ってきたのである。
137：私は半分の500ドルを出して蔡さんのベンチャー・ビジネスに賭けることにした。蔡さんは私と香港の町を歩きながら、靴屋があると、中に入って、ラバー・ソールを買ったり、洋品店があると、男物や女物のセーターからマフラーまで買い入れた。
2021年08月01日
２・２８事件
東大大学院を中退し、台湾に帰国した邱永漢。邱永漢に限らず、日本に留学していた台湾青年エリートたちは「これからの台湾の建設は自分らの手でやるのだ」と建国の夢に燃えていたが、現地では想像を絶することが起こっていた。
「まず最初に耳にしたのは、蔣介石の国民党が送り込んできた役人のデタラメと、威信のない軍隊に対する憎悪の声であった」
「瑞芳の金山を接収にきた役人は、モーターの中に溜まった金粉欲しさにモーターをこわさせたし、ビール会社の接収にきた役人は、原料のホップを売り飛ばして着服し、ビールの生産が支障をきたしても素知らぬ顔をした。親分の陳儀は、台湾総督府の秘密の印刷工場で昼夜分かたず、おびただしい紙幣の印刷をさせ、そのお金で財政を賄ったので、生産が回復するどころか、のちに4万分の1に切り下げたほどの大インフレが台湾全島を襲うことになった」
「瑞芳の金山を接収にきた役人は、モーターの中に溜まった金粉欲しさにモーターをこわさせたし、ビール会社の接収にきた役人は、原料のホップを売り飛ばして着服し、ビールの生産が支障をきたしても素知らぬ顔をした。親分の陳儀は、台湾総督府の秘密の印刷工場で昼夜分かたず、おびただしい紙幣の印刷をさせ、そのお金で財政を賄ったので、生産が回復するどころか、のちに4万分の1に切り下げたほどの大インフレが台湾全島を襲うことになった」
こうして起こるべくして起こったのが「２・２８事件」事件で、事の発端は1947年2月27日に起こった専売局巡視官による殺人だった。台湾では日本統治時代から酒と煙草は専売局しか売れないことになっていた。ところが、外省人は役人と組んで、大陸から煙草を密輸する。密輸された煙草は職にあぶれた台湾人行商によって道端で売られる。それを専売局の巡視官が没収してまわる。
「検挙するなら輸入業者にすべきなのに、密輸には目をつぶって、非力の庶民をいじめるのが国民政府のやり口なのである」
その日も、巡視官が「密輸煙草を売っている老婆をつかまえて煙草を没収しようとした。老婆は巡視官の前にひざまずいて許してくれるように哀願したが、血も涙もない扱いを受けた。その一部始終を二階のベランダから見ていた男が、『おい、許してやったらどうだ』と言葉をかけた。すると、巡視官はいきなり拳銃を抜いて男に向かって発砲した」。男は即死だった。
この事件がきっかけで、翌日に、大規模な政府への抗議運動になる。デモ隊は当初、専売局を包囲。「殺人犯の銃殺。専売局巡視制度の全廃。専売局長の引責辞職。犠牲者家族への弔慰金」を要求して回答を迫ったが、専売局長はいち早く姿をくらませた。しびれをきらしたデモ隊は行政長官公署に向かって行進し、広場は怒れる市民であふれたという。
3時間経っても解散しない群衆に、陳儀は機銃掃射をかけた。群衆は殺気立ち、外省人たちはたちまち復讐の対象になったという。怒り狂った群衆は、専売局を破壊し、放送局を占領して全島にむかって「省政自治」の要求を放送する。
国民政府はどうしたか？大陸から精鋭部隊を上陸させ、これを徹底弾圧した。
「上陸部隊は抵抗する民衆に容赦なく機銃掃射を浴びせ、基隆港は銃殺された台湾人の死体で埋まった。国民党の軍隊は破竹の勢いで台北に進み、2・28事件処理委員会のメンバーたちはいつの間にか、共産党の赤帽をかぶせられ、逃げ遅れた者や、自分は悪いことをしていないと信じて出頭した者はそのまま不帰の客となってしまった。」
これが、２・２８事件の概要なのだが、この一部始終を体験した邱永漢の感想が興味深い。
97：事件が終わってみると、殺された有名人のほとんどは、事件と直接、関係のない人たちばかりだった。以来、私は自分は無辜だという考え方は中国人社会に通用しないことを肝に銘ずるようになった。またどさくさに紛れて仇を討つ習性があることも考慮に入れて行動しなければたいへんな目にあわされるぞ、と自分に言い聞かせるようになった。
台湾で日本式の教育を受けて育った邱永漢は、この時初めて、中国人社会を知ったのだ。同じような惨劇はどの時代にも繰り返されており、1960~70年代に起こった文化大革命も同じ。イデオロギーに関係なく、中国人社会の権力闘争の結末というべきか。
87：反政府運動弾圧
少しでも政府から不穏分子として睨まれると、片っぱしから検挙されて牢屋にぶち込まれるか、でなければ緑島（日本時代の火焼島）に島流しされるようになった。
92：1947年2月27日
汚職は跋扈するし、権力は乱用されるし、台湾人はことごとく官公庁から締め出されるし、その上、インフレが猛烈なスピードで加速したので、民衆の生活は戦争中よりも苦しくなっていた。
95：２・２８事件
外省人の中には台湾人と同じ福建語を喋る者もあったので、怪しげな者を見ると、「おい、『君が代』を歌ってみろ」と強制した。台湾人なら誰でも「君が代」が歌えたが、陳儀について台湾に来た外省人にはそれが歌えなかったからである。
96：鎮圧部隊上陸
上陸部隊は抵抗する民衆に容赦なく機銃掃射を浴びせ、基隆港は銃殺された台湾人の死体で埋まった。国民党の軍隊は破竹の勢いで台北に進み、2・28事件処理委員会のメンバーたちはいつの間にか、共産党の赤帽をかぶせられ、逃げ遅れた者や、自分は悪いことをしていないと信じて出頭した者はそのまま不帰の客となってしまった。
115：台湾独立同盟
国連事務総長あてに送り出したのは、私が香港に到着してから6日目のことであった。翌日、私は任務を終えて、再び香港から台南市の飛行場へ舞い戻った。
