2020年11月
2020年11月30日
イノベーションを生み出す4つの原則
ネーミングの勝利
縄文時代とビジネスを結びつける意外性から思わず手に取る。著者は、老舗の戦略コンサルティング会社Booz Allen Hamiltonを経て、事業開発や地方創生を手掛けながら、BBT大学MBAでも教えている方で、内容もしっかりしている。それが本当に「縄文型」なのかどうかは、縄文人に聞いてみるしかない。
まず、何をもって「縄文型ビジネス」としているかだ。
縄文型ビジネスの特徴
�．咼献優好皀妊襪鮖�って直感的に動く
�∩瓦討離好董璽�ホルダーと協業する
�４�成概念にとらわれず新しい価値を創造する
�い官錣箸箸發縫咼献優垢鯔造�
縄文時代に続く弥生時代の特徴は、水稲農耕。現代のような管理型経営の原型は、弥生時代にあるという。なぜなら、「コメの収穫量の目標を立て、その達成に向けて緻密に管理していく手法」は、現代の企業経営とそっくりだからだ。
違和感があるのは、約15000年前から紀元前10世紀ごろまで1万年以上も続いた縄文時代は、豊かで安定した社会であったと言われる一方、イノベーションが起こっていたかどうかは不明であること。おそらく、イノベーションがあまりなかったからそれだけの長い間「縄文時代」であったと推定される。それがイノベーションのヒントになり得るのか？
大陸から水稲農耕の技術が入り、イノベーションが起こった結果、縄文時代は終わりを告げる。その意味では、イノベーションに必要なのは、外部や異質なものとの接触だろう。とはいえ、作者が「縄文型」として伝えたいことも分かる。
弥生時代には、カロリーの高いコメが安定的に確保できるようになり、人口は増えたが、栄養が偏ったので、弥生人の体格は雑多なものを食べていた縄文人より劣っていたらしい。また、食料が蓄積できるようになったので、貧富の格差が始まる。これがやがてムラ同士の争い、クニ同士の争いに繋がっていく。
成熟社会であり、SDGsが大切な時代。今週は、「縄文型ビジネス」を読んでいきたい。
はじめに：イノベーターが実践しているビジネスの秘密現代のような管理型経営の原型は、水稲農耕が始まった弥生時代。コメの収穫量の目標を立て、その達成に向けて緻密に管理していく手法＝現代の企業経営24：知られざる縄文の英知約15000年前から紀元前10世紀ごろまで1万年以上も続く。世界的に見ても極めてユニーク。�．爛蕕鮑遒辰督蟒酸験茲鮖呂瓩�土器の制作。�⊆�然が広がるハラと共存共栄した大陸の農耕社会では自然を征服してハラをノラに変えることが主流。ハラには自然的秩序が維持され、縄文人にとっては食糧庫であり、必要な道具や住居の材料などを提供してくれる資源庫。�Ｂ深鐶人佑平�べ物を組み合わせて生活した狩猟・採集を基本として、山菜、魚、木の実、動物など、様々な食物を組み合わせて生活。�ぜ�然の声を聞いてコトバを発達させた縄文の文化的遺伝子を継承する日本語には、オノマトペ（擬音語、擬態語、擬声語）が豊富。「自然との共感・共鳴した1万年以上の歴史が厳然とあったことの所産」（小林達雄「毎日新聞」2018/8/29）�テ貶古擺錣棒こΥ僂鯢集修靴�「火焔型」土器〜入れ物という観点からすると、突起は無用の長物火焔型と部分的に異なる造形を採用した「王冠型」縄文土器が必ず併存〜二つで一つの世界38：もし「縄文」と「弥生」のムラが株式会社だったら弥生社会の食料調達は、イネづくりを通じてコメの生産を基本とした。ムラのリソースを稲作に集中投下することで効率的にコメを確保し、利益を蓄積してさらなる投資を志向。事業計画に基づいてイネづくりの緻密な管理を行い、PDCAサイクルを回しながら、確実にイネの刈り取りを目指す。�．咼献優晃桐�〜どうやって利益を生み出すか？【縄文経営】ビジネスモデルを持って直感的に動く（直感的）【弥生経営】ビジネスプランを作って計画的に動く（計画的）�▲好董璽�ホルダーとの関係〜どのように利害関係者との関係性を築くか？【縄文経営】全てのステークホルダーと協業する（協調的）【弥生経営】競合他社との差別化で比較優位を築く（競争的）�６般海紡个垢覺靄椹兩�〜どのようなスタンスで業務に臨むか？【縄文経営】既成概念にとらわれず新しい価値を創造する（フリーダム）【弥生経営】ルールに従って正確に業務を遂行する（コンプライアンス）�ぞγ未紡个垢覺靄椹兩�〜どのようなスタンスで商談に臨むか？【縄文経営】ご縁とともにビジネスを紡ぐ（感謝オリエンテッド）【弥生経営】投資に見合うリターンを回収する（期待オリエンテッド）
2020年11月29日
異形の超大国は何を目指しているのか
「2007年以降、数々の厳戒現場に潜入した特派員が、監視の目をかいくぐって見た軍や党の実態とは？」
とある。朝日新聞だし、大げさかと思ったが、内容を読むとそうでもない。共産党一党支配の中国に対して一貫して批判的姿勢で書かれている。これだけの危ない現場取材をして、何度も警察当局に拘束されながら、無事帰国できたのは、著者が言うように「子どものころから、勘が働く」ということが幸いしているに違いない。
なにしろ、「すべての法や規則よりも中国共産党の指導が上回る国」である。「当局から一度目を付けられたら、都合のいいように法規則を解釈され、不合理な法執行をされかねない」のだ。実際、共産党に批判的なジャーナリストはよくて国外退去、刑務所に収容されたままという人もいる。
著者は、「縦横無尽に取材できた最後の特派員」だという。2010年以降は1億台以上の監視カメラを使った「天網」が整備され、自由な取材活動などできなくなっている。これは「中国内のどこにいても容疑者を瞬時に探し出せる世界最大かつ最高性能の監視システム」で、「外国人も中国に入国した時点から、どこに行って誰と会っているか、完全に把握している」ということだ。
序章〜異形の超大国は何を目指しているのか14：子どものころから、勘が働く方だ。(中略）こと悪い予感に関しては、よく当たった。悪いことが起こる前にはきまって、何とも言えない独特な胸騒ぎがするからだ。17：リスクを取って現場を目指すすべての法や規則よりも中国共産党の指導が上回る国だ。当局から一度目を付けられたら、都合のいいように法規則を解釈され、不合理な法執行をされかねない。�▲汽ぅ弌雫�間を占拠せよ47：ピーター・ナバロ『中国がもたらす死』中国の情報機関、国家安全省は中国内で5万人以上の職員を抱え、海外にも4万人の代理人。さらに何十万人もの中国陸軍のサイバー部隊が諜報活動を支援。「サイバー攻撃による脅威は伝統的なスパイ活動を上回っている」51：「見せない戦争」は始まっていた2010/5米軍専門部隊 U.S. Cyber Commandを発足2010/7中国軍が各部門に分かれていたサイバー部隊の作戦や研究を一元化するため「情報保障基地」設立59：中国でも最も強力な組織の一つ約13万人の職員を抱え、各国の政府や軍、企業のメールなど通信を傍受。対日工作は、黄海を臨む山東省青島市にある第4局が担当。60：中国最大のハッカー組織「中国紅客連盟」2011/9尖閣問題「愛国的なハッカーたちは、日本へのネットワーク攻撃の準備を整えた」日本の攻撃対象として、各省庁のほか、大学や大企業など300ほどを準備。65：「中国＝ハッカー攻撃国」の疑念2018/12米司法省、中国籍のハッカー2人が米国や日本などの企業や政府機関のネットワークに侵入し、情報を盗んだとして訴追。国家ぐるみの犯行と断定。�だこ�最大規模のスパイ活動96：ハニートラップ2004/5上海の日本総領事館に勤務していた40代の男性領事が自殺。領事は外務省と総領事館の暗号通信を担当。�ッ羚顱�海軍大国への胎動112：2009年9月「空母島」へ中国初の国産空母が建造されている、上海市の長興島（長江河口の中州）。121：国民にも高まる「空母熱」世界で空母を擁するのは米国、イタリア、英国、フランス、ロシア、スペイン、インド、ブラジル、タイの9か国。国連安全保障理事会の常任理事国で持っていないのは中国だけ。130：ベールに包まれた国防予算空母「遼寧」の改修費や技術開発費は、公表される国防費には含まれていない。1隻あたり200億ドルとみられる中国軍が建造中の国産空母の建造費も計上されていない。20億ドル以上かかったと見られる「殲15」の開発費も、国防費以外である可能性が高い。「別の省庁の予算に盛り込まれたり、軍の関連企業が兵器を輸出して稼いだ資金が転用されたり」「公表額の3倍以上になる」（英国国際戦略研究所）「公表額の1.5~2倍」（浅野亮・同志社大学教授）�Я反イ埜�る中国軍の実像207：軍事解決を世論支持「南シナ海においては明らかに主権を侵されており、行動を起こさなければならない」（中国軍事化学学会）終章〜最後の中国特派員になるかもしれない227：ハイテク文革カメラやスマホの普及に加えAIも使うことで、厳格な監視。中国内の個人所有を含めた監視カメラの数は1億7600万台（WSJ)。天網「中国内のどこにいても容疑者を瞬時に探し出せる世界最大かつ最高性能の監視システム。外国人も中国に入国した時点から、どこに行って誰と会っているか、完全に把握している」（元警察幹部）232：縦横無尽に取材できた最後の特派員（〜2010)進歩的なメディアは閉鎖に追い込まれたり、党の監視下に置かれたりして、国営新華社通信の記事を横並びで伝えるだけの存在となった。中国メディアは冬の時代に逆戻り。
2020年11月28日
『知的生産の技術』その後
1969年に出版された『知的生産の技術』はひろくうけいれられて、版を重ねた。
「この本が提起した問題というのは、けっきょくは情報のつくりかた、処理のしかた、よみかた、かきかたの問題である。そういうものが普遍的な技術として体系化できるとはかんがえられていなかったのであろうか、類書はそれまであまりでていなかった。この本が刊行されてから、この種の知的活動の技術に関連する本がおびただしくでた。それは出版物のあたらしいジャンルとなったとさえいえるであろう」
これが現在にまで続く、「知的生産の技術」ブームのはしりだったわけだ。それから、19年間の間に知的生産のための機械、道具で、あたらしいものが出現する。コピー機、ワープロ、パソコンだ。1969年当時もコピー機は存在したが、米xeroxが特許によって独占しており、価格も高く、手軽に使用できる状態にはなかった。
キヤノンが独自の電子写真方式「キヤノンNPシステム」で普通紙複写機(PPC)を開発し、その国産第一号機が発売されたのは1970年だ。同時にxeroxの基本特許も切れ、リコー、ミノルタ、ミタなど各社が参入し、価格が一気に下がり、普及期を迎えるのである。
そして、東芝から世界初のワープロ専用機JW-10が発売されたのは1978年のことだ。価格は630万円したと言う。
6：コピー機械とワープロワープロによって問題のすべてが解決したのではけっしてない。ワープロによって事務革命は完成したわけではないのだ。近代文明語としての日本語の問題点は、単に機械化がむつかしいというばかりでなく、学習の困難さ、国際化への障害など、いくつもの難点がある。ワープロの発達は問題を解決しないで、むしろ先送りしたともいえる。8：わたし自身は、コンピューターそのものがよりいっそう人間的なものになることによって、知的生産の強力な道具となることを確信しているのであるが、現状はまだその域に達してない。14：視力をうしなっての知的生産1986年の春、わたしは視神経をヴィールスにやられて、突然に目が見えなくなった。目が見えなくなっても知的生産の方法はあったのである。わたしが永年にわたってつくりあげてきた組織や、友人たちのネットワークがわたしをたすけてくれたのである。あるひとは本を音読してテープにふきこんでくれた。公務にともなう情報や文章も、よんでもらった。かくほうはといえば、口述筆記という方法があったのだ。目がみえていたころは、わたしはいっさいのかきものを自分の手で紙にかいていたので、口述筆記などというのはとてもできないと信じていた。ところがやりはじめて、なれてくると、これが意外にうまくゆくのである。有能な筆記者たちにめぐまれて、わたしの原稿執筆は自分でかいていたころよりも、かえって効率がよくなった。
2020年11月27日
自分のための業務報告
第9章は、「日記と記録」。
過去にも本blogで書いたように、私の場合、何度か日記に挫折したが、毎日blogを書くことでそれを一部代用している。初期はそれこそ日記の代わりに、「風邪を引いた」とか、仕事で感じたことなど書いていた。
これはこれで便利で、5年くらい貯まると、検索しただけで、いつどういう状況で風邪を引いたか分かるようになる。これを基に対策をたてることで、それ以来、風邪をひくことが半減した。今年はコロナで例年以上に手洗い、うがい、マスクを励行しているので全く風邪をひいていない。人との接触が激減していることもあるだろう。
梅棹先生は、日記というのは「自分のための業務報告」であるという。誰かに読まれることを前提にするのではなく、「自分自身にむかって提出する毎日の経過報告」だ。たしかに、「こういうつもりでかいた日記のほうが、ほんとうは役にたつ」のは、風邪の例でも明らかだろう。
162：日記というものは、時間を異にした「自分」という「他人」との文通である、とかんがえておいたほうがいい。手紙に形式があるように、日記にも形式が必要である。164：自分のための業務報告自分自身にむかって提出する毎日の経過報告なのだとかんがえればよいのである。じつは、こういうつもりでかいた日記のほうが、ほんとうは役にたつ。174：個人文書館わたしたちの社会の、制度化された教育体系では、達成された成果を次代につたえることには、なかなか熱心であったが、その達成までの技術を開発し、発展させようという気もちは、あまりなかったようにおもわれる。技術の開発と発展のためには、成果よりも、それにいたるまでの経過の記録と、その分析がたいせつである。��原稿179：学生諸君も、先生がたも、はっきりいって、訓練不足なのだ。というよりも、訓練の欠如といったほうがよいかもしれない。だいたいは、いっぺんもそういう訓練をうけることなしに、原稿用紙にむかっているのである。
2020年11月26日
手紙
第8章は、「手紙」。
「国際的には、手紙の形式はひとつのものに収れんして、人類共通文化を形成しようとしているのに、国内的には、日本の手紙はまさに百花斉放、ますます放散する方向」というところから、話は始まる。
形式がないので、書きずらく、読むほうも読みずらい。どうしてこうなったのか？
「日本において、もともと手紙の形式が確立していなかったわけでは決してない。むしろ、厳格と言えるほどの型があった」のに、「近代になってから、急速にくずれた」。西洋化が進んで、生活様式も道具も変わり、古い形式が崩れたのに、あたらしい形式は開発されなかった。
こうして、日本人は手紙を書かなくなった、というのが既に50年前から言われていたというのは興味深い。私自身、書類ではなく、最後に手紙をやりとりしたのはいつだろうと考えると、これはもう30年近く前になりそうだ。
では、50年前の日本人は手紙を書かずにどうしていたか？これに関しても、面白い記述がある。日本は、「一電話機あたりの通話回数が断然世界一」だというのだ。つまり、日本人は手紙を書かずに、当時一般家庭にも普及し始めた電話で用を済ませていた。
欧米のほうが電話の普及も早かったが、欧米は電話が普及しても手紙の習慣は途絶えなかった。この辺、私信であっても文章に重きを置いていると考えたらいいのか？
147：国際的には、手紙の形式はひとつのものに収れんして、人類共通文化を形成しようとしているのに、国内的には、日本の手紙はまさに百花斉放、ますます放散する方向をたどりつつあるようにおもえるのである。
149：日本において、もともと手紙の形式が確立していなかったわけでは決してない。むしろ、厳格と言えるほどの型があった。紙の質、おおきさ、おり方、書式、文体、用語にいたるまで、きちんときまりがあったはずである。それが、近代になってから、急速にくずれた。和紙から洋紙へ、毛筆からペンへ、そしてタテがきからヨコがきへという、かきもの一般の根本的変革とともに、ふるい形式はあえなくくずれ、しかもあたらしい形式は真剣に開発されることもないうちに、今日の混乱時代をむかえてしまったのである。
151：日本人が手紙をかかなくなったのは、内容第一主義のかんがえかたと、どこかでつながっているにちがいない。内容本位で、形式を否定してしまったから、みんな手紙がかけなくなってしまったのだ。
2020年11月25日
ペンからタイプライターへ
話は、第7章「ペンからタイプライターへ」と飛ぶ。
本書を読んでいて違和感があったのが、ひらがなが多いこと。下記の引用はいずれも、原文のまま。「じっさい、かかれたものをくらべてみると」など、普通なら、「実際、書かれたものを比べてみると」だろう。
これには理由があった。作者は、学生時代にはローマ字論者、そして、1960年代の本書執筆時点では、手紙は全て「ひらかなタイプタイラー」で作成していたという。曰く、手が書くよりも、タイプタイラーのほうが圧倒的に楽だからということ。
「漢字にもカナモジにもあきたらずに、もっと合理的な文字をあたらしくつくって、それで日本語をかきあらわそうというかんがえじつは、ずっとまえから、たくさんある」らしい。明治以降は、欧米文明が入り、比較の中で、漢字教育の困難さ、手書きによる非効率から「新字論」は活発になった。
本書を読んでいて違和感があったのが、ひらがなが多いこと。下記の引用はいずれも、原文のまま。「じっさい、かかれたものをくらべてみると」など、普通なら、「実際、書かれたものを比べてみると」だろう。
これには理由があった。作者は、学生時代にはローマ字論者、そして、1960年代の本書執筆時点では、手紙は全て「ひらかなタイプタイラー」で作成していたという。曰く、手が書くよりも、タイプタイラーのほうが圧倒的に楽だからということ。
「漢字にもカナモジにもあきたらずに、もっと合理的な文字をあたらしくつくって、それで日本語をかきあらわそうというかんがえじつは、ずっとまえから、たくさんある」らしい。明治以降は、欧米文明が入り、比較の中で、漢字教育の困難さ、手書きによる非効率から「新字論」は活発になった。
7：近代日本語は、いろいろな点で、ひじょうに変化のはげしい言語であるが、それはとくに、「かきことば」において、いちじるしい。じっさい、かかれたものをくらべてみると、一世紀まえの文章と今日の文章とでは、これが同一の言語のものであるとは、とうてい信じがたいほど、ちがったものになってしまっている。しかも、その変化は、戦後において、とくにはなはだしい。120：筆墨評論わたしの少年時代には、まだ毛筆がきの手紙は普通だった。帳簿も筆でつけている人がすくなくなかった。この伝統は、履歴書をかくときに、かろうじてのこっているが、それもいまは、きえようとしている。129：石川啄木がローマ字の日記をつけていたのは有名である。岩波版の啄木全集にその全部が収録されているが、簡潔で迫力のある文章である。桑原武夫先生によると、啄木の文章は、このローマ字日記以後、ひじょうによくなった、ということである。132：きえた新字論漢字にもカナモジにもあきたらずに、もっと合理的な文字をあたらしくつくって、それで日本語をかきあらわそうというかんがえは、じつは、ずっとまえから、たくさんあるのである。明治時代にも、さまざまな案があらわれた。カナモジをつくりかえたり、ローマ字を変形したり、なかにはいわゆる神代文字からつくったものもあった。134：カナモジ論の系譜カナモジ運動は、はじめからタイプタイラーの使用とわかちがたくむすびついていた。タイプタイラーをつかうことによって、日本語の字をかく能率をいっきょに数倍にひきあげようというのである。財団法人カナモジカイ伊藤忠兵衛「一代にして巨大な財閥をきずきあげた実業界の英雄であるが、同時に、カナモジ運動の最大の推進者であった」140：ひらかなタイプタイラーひらかなタイプタイラーの手紙をよこしたのは、京都の斎藤強三さんであった。斎藤さんは、日本のローマ字運動の闘士のひとりであって、国語国字問題のすぐれた理論家でもあった。わたしはすぐ斎藤さんの家へいって、ひらかなタイプタイラーの実物をみせてもらった。
2020年11月24日
知的生産の技術
先日読んだ安宅和人『イシューからはじめよ』で、この本のことを思い出し、何十年ぶりかで読んでみた。初版は1969年だから、もう50年以上前だ。
時代が違うので、ツールは違うが、「知的生産の技術」という点では、今でも参考になる点が多々ある。基本にあるのは、「人の記憶はアテにならない。記録をつける」ことの大事さで、記録があるから分析もできて、新たな発見と改善につながる。
驚くのは、コンピュータープログラミングに関する記述。「はじめに」で触れられているのだが、これが「個人としてのもっとも基礎的な技能となる」と予測している。実際は、それから50年間、日本ではほとんど進歩せず、バブル崩壊以降長く続く体たらくをもたらしているのだが。
日本は、高度成長期までは理系のほうが人気で、特に男子は7:3の割合で、理系に進学していたという。それが現在では逆転している。諸外国と比較しても、男女ともに理系専攻比率は世界最低水準だ。IT革命の時代に技術者が全く足りていないのが現状だ。
＊学校では知識は教えるけれど知識の獲得のしかたはあまり教えてくれない。メモの取り方、カードの利用法、原稿の書き方など基本的技術の訓練不足が研究能力の低下をもたらす。はじめに：芸事と学問では、事情の違うところもあるが、まなぶ側の積極的意欲が根本だという点では、まったくおなじだと、わたしはかんがえている。うけ身では学問はできない。学問は自分がするものであって、だれかにおしえてもらうものではない。15：わたしは、たとえばコンピューターのプログラムのかきかたなどが、個人としてのもっとも基礎的な技能となる日が、意外にはやくくるのではないかとかんがえている。すでにアメリカでは、初等教育においてコンピューター用の言語FORTRANをおしてることがはじまったようだ。�“�見の手帳22：高校生だったわたしには、この偉大な天才の全容は、とうてい理解できなかったけれど、かれの精神の偉大さと、かれがその手帳になんでもかんでもかきこむこととのあいだには、たしかに関係があると、わたしは理解したのである。それでわたしは、ダ・ヴィンチの偉大なる精神にみずからちかづけるために、わたしもまた手帳をつけることにした。24：わたしたちが「手帳」にかいたのは、「発見」である。まいにちの経験のなかで、なにかの意味で、これはおもしろいとおもった現象を記述するのである。あるいは、自分の着想を記録するのである。それも、心おぼえのために、みじかい単語やフレーズをかいておくというのではなく、ちゃんとした文章でかくのである。
2020年11月23日
砂の女
知っているが読んだことのない古典シリーズ（1962）。こんな話だったとは
「砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに人間存在の象徴的姿を追求した書下ろし長編。20数か国語に翻訳された名作」（文庫版 裏表紙）
どこからこんな発想を得たのか
と思い調べてみると、それは週刊誌で見た山形県酒田市に近い海辺の村のグラビア写真だったという。その村は飛砂で苦しめられているという話だった。その写真を見た途端、「いきなり言葉の群が、どこからともなく芽をふき、生い茂り、たちまち僕の意識を完全に占領してしまっていた」。上記の解説にもある通り、海外でも「現代文学の最高の収穫」という評価を得ている。特にフランスでは「1967年度最優秀外国文学賞(英語版）」を受賞している。そう言われれば、カミュの『ペスト』やカフカの『変身』に似ている感じがする。あれも、「ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに人間存在の象徴的姿を追求」した作品だった。
話題の作品なので、映画化もされていて、こちらは1964年勅使河原宏監督、主演：岡田英次、岸田今日子。
2020年11月22日
長期投資と短期投資のルールを守れ
Market Hack流投資術の第6条は、「長期投資と短期投資のルールを守れ」。これを分けておかないと、短期投資と思って始めたものが、値下がりするといつの間にか塩漬けになっていたり、長期投資で始めたつもりなのに、2−3割上がったらすぐに売っていたりする。
混同しないためには、物理的に証券口座を分けて、頭を切り替えてやった方がよさそうだ。
・トレーディングならポジションを建てた直後からすぐ利が乗り始めないなら、やっていることが間違っている・長期投資なら、上場して20年くらい時間が経っている銘柄に投資したい・過去10年くらいは営業CFマージンで15-35%をたたき出しているような実績
2020年11月21日
投資スタイルをきちんと使い分けろ
Market Hack流投資術の第5条は、「投資スタイルをきちんと使い分けろ」。投資のスタイルには大きく分けて、「グロース投資」と「バリュー投資」がある。この2つはどちらかが正しいということはなく、多分に、投資家の性格にもよるので、自分の性格に合った投資手法を取り、それを守ることが投資成功につながる。
グロース投資の投資尺度はこれらを重視する。
・EPS成長率
・Relative Strength
・決算のサプライズ
対して、バリュー投資が重視するのは
・PBR
・PER
・株価対CF
だ。
私はといえば、性格的にバリューだろうか。未練がましいから💦
�ヅ蟷颯好織ぅ襪鬚�ちんと使い分けろ・グロース投資で株を買った直後から利が乗り始めないのなら、銘柄選択や買うタイミングを間違った可能性が高い。すぐ処分せよ。・あなたが未練がましい人間なら、グロース投資には向かない・買値にシビアでないくせに、バリュー投資家を自称する人は、もぐりである。・皆が売っている時に、皆が嫌う会社を買うのだから、バリュー投資家は強い信念がなければいけない。・ろくに実社会でのビジネスの経験もないくせに、バリュー投資が極められると思うのは錯覚に過ぎない。
2020年11月20日
分散投資を心がけろ
第4章は、「分散投資を心がけろ」。
分散投資の効用については論を待たないが、銘柄数とセクターには要注意だ。広瀬氏は銘柄数については、「20銘柄まで」としているが、セクターの分散ができていれば、10銘柄でも十分な分散効果はある。
一般に、金利状態と景気循環によって、物色されるセクターが変わってくる。今は世界的に低金利で、景気が弱いから、業績の安定した通信、ヘルスケア、消費財が強いということになる。これは今年ほぼ当たっていたが、一番上がったのはハイテク株だった。これは、金利や景気循環に関わらず、新型コロナの大流行で世界的に人々の行動様式が大変化したからに相違ない。
通常の景気循環からいえば、ハイテクと同時に金融株も景気回復→金利上昇を見越して次に来るはずなのだが、現在のところ、先進各国とも「当面、低金利を維持する」としているので、銀行株は上がっていない。
銀行株の低迷には、低金利だけでなく、IT技術を駆使した新興企業から市場を侵食されていることも大きいだろう。たとえば、これまで送金手数料を取っていたものが、LINEやPayPayで無料で送れる。低金利で貸出金利が下がっているうえに手数料が侵食されれば銀行にとって大打撃だ。
MONEXの大槻さん（LBS同窓生）は、「過度な出遅れ感」があるとして買い推奨している。
・銘柄分散によるリスク軽減効果は、銘柄数が少ない時ほど大きい。しかし銘柄を追加すればするほど、その効果は薄まる。20銘柄を超えた時点で、それ以上分散することの効用は、手間より小さくなってしまう。・景気や金利循環の全ての局面に対応できる分散とは、セクターに偏りがないポートフォリオである・プロ投資家の間でリスクが論じられる場合、それは価格変動を指す
2020年11月18日
保有銘柄の四半期決算のチェックを怠るな
廣瀬さんは、「決算至上主義者」であることを自認する。何が何でも決算であり、四半期決算を確認してからでないと投資判断しない。決算が良ければ、株価が跳ねてからでも買うし、決算が悪くて株価が下げれば損切りになっても売る。YouTubeでよく言っているが、決算が悪ければ「鼻くそピーン」ということ(笑)。
それでは、高いところを買って、安いところで売ることにならないかという質問に対しては、こう答える。
「機関投資家もそうやって売り買いの判断をしてます。株価が本格的に上がるのは、機関投資家が参加してからで、決算確認後、2-3割株価が上がってから買っても十分間に合います。逆に、決算をしくじる会社は、それからも決算をしくじる可能性が高いので、一刻もはやく決別すべきです」（最近のYouTubeから）
�∧殕�銘柄の四半期決算のチェックを怠るな・あなたがどんなに怠惰な投資家でも、最低限、自分の保有する企業の次の決算発表日くらいは知っておくこと・決算発表の前にコンセンサスEPS予想とコンセンサス売上高予想をあらかじめ調べておく・よい決算とは：EPS、売上高、ガイダンスがすべてコンセンサスを上回る・上場後まもなく決算を2回連続でしくじった会社の株は売れ！・株を購入するということは調べ物の終了を意味するのではなく、勉強の始まりを意味する
業績・株価の動きが荒々しい銘柄と、おとなしい銘柄をうまく使い分けろ
Market Hack流投資術の第3条は、「業績・株価の動きが荒々しい銘柄と、おとなしい銘柄をうまく使い分けろ」。
ホームバイアスという言葉がある。投資対象をよく知った自国資産に多く投資する傾向だ。日本だけではなく、世界中どこでもある傾向だが、自国経済が長期にわたって成長せず、株価も低迷する国にいると悲惨な結果になる。
下図は過去30年間の日経平均株価と米国S&P500の比較。日経平均株価は今週「29年ぶりに26000円を回復」したとして話題になった通りで、この30年間上げたり下げたりしながらも全く上がっていない。これに対して、米国S&P500は10倍になっている。
おそらく99%の日本の投資家は、日本株で切ったハッタしているよりも、米国株式指数にドルコスト平均法で毎月積み立てた方が成績が良かったはずだ。30年間で10倍になっているということは、ドルコスト平均法を用いれば、20倍以上になっていることだろう。
いくらバブル経済が崩壊したからと言って、世界中の経済が大躍進を遂げた中で、これだけ長期にわたって一人負けするというのは、どう考えてもおかしい。日本人が急に働かなくなったわけでもないし、能力が落ちたわけでもない。個別企業を見れば、ソフトバンクやユニクロのようにその間に躍進した企業もある。
国全体としてこれだけ成長できなかったという事実から、「制度がおかしい」と考えるしかないだろう。この間に、欧米でも、ITバブル崩壊があり、世界金融危機も、南欧の財務危機もあった。だが、欧米はそれらの危機を数年で乗り越え、経済は成長し、株価も新高値を更新し続けている。
日本は、「構造改革」と言いながら、経済危機の度に、雇用最優先で補助金を出し続けてきた。このために、構造改革で最も重要な「衰退産業から成長産業への人材の移動」を妨げてきた。今回もコロナ危機で雇用調整助成金の大盤振る舞いを継続している。
元居る会社に留まるための助成よりも、転職できるように再教育したほうが次の成長につながる。
ホームバイアスという言葉がある。投資対象をよく知った自国資産に多く投資する傾向だ。日本だけではなく、世界中どこでもある傾向だが、自国経済が長期にわたって成長せず、株価も低迷する国にいると悲惨な結果になる。
下図は過去30年間の日経平均株価と米国S&P500の比較。日経平均株価は今週「29年ぶりに26000円を回復」したとして話題になった通りで、この30年間上げたり下げたりしながらも全く上がっていない。これに対して、米国S&P500は10倍になっている。
おそらく99%の日本の投資家は、日本株で切ったハッタしているよりも、米国株式指数にドルコスト平均法で毎月積み立てた方が成績が良かったはずだ。30年間で10倍になっているということは、ドルコスト平均法を用いれば、20倍以上になっていることだろう。
いくらバブル経済が崩壊したからと言って、世界中の経済が大躍進を遂げた中で、これだけ長期にわたって一人負けするというのは、どう考えてもおかしい。日本人が急に働かなくなったわけでもないし、能力が落ちたわけでもない。個別企業を見れば、ソフトバンクやユニクロのようにその間に躍進した企業もある。
国全体としてこれだけ成長できなかったという事実から、「制度がおかしい」と考えるしかないだろう。この間に、欧米でも、ITバブル崩壊があり、世界金融危機も、南欧の財務危機もあった。だが、欧米はそれらの危機を数年で乗り越え、経済は成長し、株価も新高値を更新し続けている。
日本は、「構造改革」と言いながら、経済危機の度に、雇用最優先で補助金を出し続けてきた。このために、構造改革で最も重要な「衰退産業から成長産業への人材の移動」を妨げてきた。今回もコロナ危機で雇用調整助成金の大盤振る舞いを継続している。
元居る会社に留まるための助成よりも、転職できるように再教育したほうが次の成長につながる。
・なぜか悪い女とばかり付き合う奴がいる。投資の世界でもそういう奴はいる。これは悪い病気だから、直せ！・相場の地合いは悪くないのに、自分の銘柄はことごとく塩漬けだという人は、業績・株価の動きが荒っぽすぎる銘柄ばかりを無意識に選んでしまっている。スランプから抜け出すにはおとなしい銘柄を加えよ。・自分の未熟を「草食投資家」というイメージが先行した流行語で正当化するな。受け身だから儲かるという保証はない。
2020年11月17日
営業CFのよい会社を買え
Market Hack流投資術の第一条は、「営業CFのよい会社を買え」。その理由を以下のように説明している。
・営業CFは会計的に一番ごまかしにくい
・営業CFは毎年着実に増えていることが望ましい
・営業CFは、その年の純利益より必ず大きくなければいけない。もしそうでない場合は、粉飾リスクあり。
・営業CFマージンが15-35%ある会社を狙え
・BUY&HOLD戦略をする投資家は、「ごくつぶし」みたいな株を買ってはいけない
要するに、会計上の利益はごまかしやすいから、「粉飾に引っかからないために」営業CFを使うということ。現金残高はまずごまかせないので、会計上の利益が増えているのに、営業CFの赤字が続いている会社には気をつけろということだ。
ここで気になるのは、日本株で現在「営業CFマージンが15-35%ある会社」はどこかだ。MONEXのスクリーニング機能で探してみたが、そもそも営業CFでスクリーニングはできないようだ。気になる企業の決算書から自分で計算してみるしかなさそうだ。
・企業は何が何でも予想数字を達成したいという気持ちからEPSを粉飾する
・期末に駆け込みで数字を作った企業の四半期決算は、売掛金が多く残る
要するに、会計上の利益はごまかしやすいから、「粉飾に引っかからないために」営業CFを使うということ。現金残高はまずごまかせないので、会計上の利益が増えているのに、営業CFの赤字が続いている会社には気をつけろということだ。
ここで気になるのは、日本株で現在「営業CFマージンが15-35%ある会社」はどこかだ。MONEXのスクリーニング機能で探してみたが、そもそも営業CFでスクリーニングはできないようだ。気になる企業の決算書から自分で計算してみるしかなさそうだ。
2020年11月16日
Market Hack流投資術10か条
長年、米国株投資家の間で参考にされてきたのが著者が2010年から10年続けているブログMarket Hack。もっとも、今回チェックしてみたら2年間更新されていない。YouTubeの方が人気になったので（チャンネル登録者数5万人）、そちらに集中しているようだ。最近は再生回数が7-8万あるし、投げ銭もスゴイ。
その廣瀬さんの唯一の著書が7年前に出版された本書。これを読んで基本的な考え方を学んでから、YouTubeを聞いた方が断然分かりやすい。Market Hack始まって以来、考え方は変わっておらず、それを今の株式市場にどう適用したらいいかをYouTubeで補えば、答えを求めるのではなく、自分の判断力が付く。
廣瀬さんが特異なのは、英米投資銀行本社採用で勤め上げた数少ない日本人ということだろう。投資銀行の日本法人で務める日本人は多いが、アメリカでずっと勤務した人は少ない。ましてや、90年代後半にIT革命の萌芽を感じ取り、それまでいたSG Warberg（NY)を辞め、.comバブルのど真ん中にいたHambrecht & Quistに転職して、IPOビジネスを直接体験している。なので、年齢にもかかわらず（推定60代）90年代以来続いている、ハイテク相場に強い。
投資銀行で勤め上げ（最後はJPMorganでいたが世界金融危機で部門が閉鎖されたようだ）、悠々自適な生活ができるだろうが、Market Hackを始め、MONEX等で米国株の解説をやってきた。YouTubeで直接伝えるのがいいとなれば、YouTuberとなり、「じっちゃま」として大人気になっている。YouTubeは毎回LIVE配信で平均3時間も続く。そのため、配信の議事録を作って配信する人も現れる始末。
「配信の内容をまとめて稼いでいる人が許せない」との視聴者からの質問に、じっちゃま曰く、「ニーズがあるんだから、いいじゃないですか」
・バブルの最中では、どの企業が永続する会社で、どの企業がダメ会社かを見分けることはきわめて難しい当時Netscapeはインターネット企業の中で一番毛並みのよい企業だと広く認められており、例えばAmazonとどちらがよい企業かと問われれば、10人のうち10人がNetscapeだと答えたと思う。Market Hack流投資術10か条�￣超�CFのよい会社を買え�∧殕�銘柄の四半期決算のチェックを怠るな�６叛咫Τ�価の動きが激しい銘柄と、おとなしい銘柄をうまく使い分けろ�な�散投資を心がけろ�ヅ蟷颯好織ぅ襪鬚�ちんと使い分けろ�δ拘�投資と短期投資のルールを守れ�Д泪�ロ経済がわかれば、投資家としての洗練度が格段に上がる�┿埔譴離札鵐船瓮鵐箸魴攣襪垢訶曚鰐戮韻慮�率が悪い��安全の糊代をもて��謙虚であれ(投資の勉強に終わりはない）
2020年11月15日
ワークマン大躍進のカラクリ
この2年で大飛躍を遂げたワークマン。営業収益（大半はFCロイヤリティ収入）は18年3月期の560億円から923億円に、営業利益は106億円から191億円に、それぞれ2年で倍近くになっている（20/3決算）。
それに伴い、時価総額はいわゆるMultiple Expansion(評価替え）が起こり、株価は2500円から約1万円と4倍になった。現在のPERは50倍で、それまでのPER25が倍に、利益も倍になって、時価総額が4倍になったわけだ。
そのきっかけになったのは2018年9月にオープンした新業態「ワークマンプラス」ららぽーと立川で、1.2億円と見積もっていた年間売り上げ目標を3か月で達成したという。それまでの「ワークマン」は、1店舗当たり平均年間売り上げが1億円なので、その5倍近い売上だ。
「これは行ける！」となったあとの横展開も早かった。「ワークマンプラス」店を次々とオープンし、1号店から2年余りで252店舗に達している(今日現在）。業態は新しいが、陳列が変わっただけで、並べてあるのはこれまでのワークマンと同じ商品。品数を増やしたわけではないので、開発コストや管理コストは変わっていない。ターゲットにあわせて見せ方を変えただけで、従来の何倍も売れるようになったわけだ。
どうしてこんなマジックが可能になったのか？それを明らかにしたのが本書。読んで納得したのは、以下のような点。
・ワークマンはベイシアグループで、ベイシアグループがもつオペレーションエクセレンシーのDNAを最初から持っていた
・そこに創業者の甥っ子である土屋専務が三井物産を定年退職後入社して改革を始めた
・「データ経営」をベースにしたSPA形態へ転換
・作業着の機能をそのままにデザイン性をアップし普段着、アウトドアで使えるように製品開発
・アンバサダー制度など販促費を使わないマーケティング
都心にないので、まだ店舗に行ったことがないのが残念。
3：既存店売上高20/3まで17か月連続で前年比2桁成長20/3期チェーン全店売上高1220億円5：作業服専門店が一夜にしてアウトドアショップに2018/9/5新業態「ワークマンプラス」ららぽーと立川120Mと見積もっていた年間売り上げ目標を3か月で達成9：1号店1980/9/30群馬県伊勢崎市昭和町16坪2号店 大間々町 14坪3号店82/4 埼玉県深谷市40坪＊3号店から100店舗チェーンになることを見越し、店のサイズから棚割りまでこと細かくマニュアル化（店舗の標準化）11：ベイシアグループ源流は「いせや」1959群馬県伊勢崎市ベイシア、カインズ、ワークマン総売上高9435億円26：オペレーションエクセレンシーのDNA運営力を伸ばし、店を標準化する、マニュアル化する、余計なことはしない、例外は作らない。28：2014「中期業態変革ビジョン」(土屋専務）１）社員一人当たりの時価総額を上場小売企業でナンバーワンに２）新業態の開発� 峙卅愕搬隋廚膿袈搬屬惴�かう�◆屮如璽新弍帖廚膿袈搬屬魃娠弔垢觸猗�をする３）5年で社員年収を100万円ベースアップ42：土屋哲雄東大→三井物産「ジャングルファイター」→定年退職ワークマン1980年代中国初のベンチャーと合弁企業〜中国語ワープロでシェアNo.11988社内ベンチャー「三井物産デジタル」社長35歳→10年で社員100人、売上高80-90億円本社経営企画室次長〜経営企画メンバー2003上海広電三井物産有限公司 総経理2006三井情報開発 取締役 ゼロからコンサルティング事業を立ち上げ63：95%がFC店直営店は約30店に過ぎず、新入社員のトレーニングストア70：AIにはプロセスがない〜思考のプロセスがブラックボックスになって見えないビジネスで必要なのは因果関係の見極め。152：販促費を使わないアンバサダー1年間で25人。20年中に50人まで引き上げ目標。「販促費を使っているようじゃ、Amazonには到底勝てない」(土屋専務）252：ワークマンが変えたこと�．�ペレーションエクセレンシーからプロダクトエクセレンシーのSPA企業へ商品力が短期間で目覚ましく伸びた。開発部隊を4年間で3倍に増強。デザイン性の高い商品。�◆崛偉稙Ы院廚侶弍弔�らなんでもデータを見て変えていく経営に「意見を変えるのが良い上司」��「本気の経営」〜言ったことは必ずやるという、すごみを見せる�ぅ肇譟璽疋�フ経営〜頑張る代わりに何かを捨てる「個人の頑張り」ではなく、会社全体として「勝てる仕組み」を作る。257：ワークマンが変えなかったこと�”現牴酬弍�売り場は100坪。品ぞろえも、店内業務もすべてマニュアル化。�▲蹇璽灰好鳩弍�売価に占める原価率は驚異の64%(目標65%)��やらないことが決まっている経営余計な仕事はやらない文化。�ぅ好董璽�ホルダーは長期固定「親友を裏切らない」国内メーカーとは30年以上取引。加盟店オーナーは99%が再契約。
2020年11月14日
戦争文学
団塊の世代である村上春樹は、「親の世代のように戦争を体験してないし、ひとつ上の世代の人たちのように戦後の混乱や飢えも経験していないし、とくに革命も体験していないし、熾烈な虐待や差別にあったおぼえもありません」と考え、軽いテーマに相応しい新しい文体を工夫したという（『職業としての小説家』）。
そうした、「親の世代」が書いた戦争文学代表作の一つが本書。たしか、同じ大岡昇平のデビュー作『俘虜記』は昔読んだことがあるが、こちらは初めて。
改めて読んでみると、文章がうまい。丸谷才一が『文章読本』で、修辞技法の説明をするのに、本作品とシェイクスピアの諸作品のみを使ったというのもうなづける。
また、地質にも関心を持っていたことが、石の種類や地形への言及で見て取れる。例えば、以下の文章など。
「私はオルモック街道とほぼ直角に、東の方、脊梁山脈の方へ入っていった。急な丘が錯綜し、谷が迷路のように入り組んでいるのは、この地方が地質時代に沈降して海に溺れた後、再び隆起したことを示していた」
幅広い分野に関心を示し、文壇を代表するディレッタントと言われた大岡昇平らしい。
5：私は喋るにつれ濡れてくる相手の唇を見続けた。致命的な宣告を受けるのは私であるのに、何故彼がこれほど激昂しなければならないかは不明であるが、多分声を高めると共に、感情をつのらせる軍人の習性によるものだろう。48：それは私が過去の様々な時において、様々に愛した女達に似ていた。踊り子のように、葉を差し上げた若い椰子は、私の愛を容れずに去った少女であった。重い葉扇を髪のように垂れて、暗い陰を溜めている一樹は、私への愛のため不幸に落ちた歳進んだ女であった。誇らかに四方に葉を放射した一樹は、互いに愛し合いながら、その愛を自分に告白することを肯じないため、別れねばならなかった高慢な女であった。彼女たちは今私の臨終を見届けるために、ここに現れたように思われた。76：露出した腕と背中は、皮膚の張力の許すかぎり、人体の比例を無視した大きさに膨張し、赤銅色に輝いていた。或る者の横腹からは、親指ほどの腸が垂れ下がっていた。弾丸の入った跡であろうが、穴の痕跡はなく、周囲の肉の膨張が、その腸をソーセージのようにくびっていた。122：雨が降り、木の下に寝る私の体の露出した部分は、水に流されて来た山蛭によって蔽われた。その私自身の血を吸った、頭の平たい、草色の可愛い奴を、私は食べてやった。
2020年11月12日
米国大学学費
本の中で、「PhD学生の年あたりコスト」が日米で比較されている（p282)。
一方、こんな記事もある(gendai）。
「アメリカの大学は学費がバカ高い。州立のカリフォルニア大学なら安いと思っていましたが、州民でも寮費や生活費を入れると年間350万円、州外の大学へ行ったら優に500万円は超えます。レベルの高い私立大学なら学費だけで年間500万円以上。でも、そこまでかける価値がアメリカの大学にあるのかなって……」
なんでも景子の夫の甥っ子は中高オール5の成績で、SATという英数の共通試験もほぼ満点。テニスチームでも活躍し、アイビー・リーグのコーネル大学を目指してボランティア活動も欠かさなかった。それなのに、大学受験のときにはスクールカウンセラーにアイビーリーグどころか、UCLAやUCBといったカリフォルニア大学の名門もお呼びじゃないと言われたらしい。
安宅和人さんはタダだといい、景子さんは「バカ高い」という。どちらが本当なのか？これは、どちらも本当だろう。安宅和人さんは自ら東大大学院修士でYale PhDだし、記事の「景子さん」もアメリカ人と結婚し、最近までカリフォルニア州に住んでいた人の実体験だ。
実際のところ、「景子さん」が言っているのは学部の話で、安宅さんが書いているのはPhDの話。アメリカの有力大学はレベルも高いが（世界TOP10は、Oxbridgeを除けば常に全部米国の私立大学だ）、学費も日本では考えられないほど高い。学費だけで年間500万円以上するので、4年間で2000万円になる。その一方、奨学金も充実しているので、親の年収が低い場合（Harvardの場合年収6万ドル）授業料免除になることが多い。
その後、成績優秀で、MA→PhDと進むのは超エリート。そのエリートが奨学金で生活費も含めてお金の心配なく研究できるのはある意味当然。一方、日本の一流大学で学費は安いとはいえ（上記の例では、Yaleで500万円に対し東大で80万円）、生活のことを考えるとなかなかPhDを取ろうとは思えないというのはその通りで、残念な情況だ。先進国で唯一、日本ではPhD取得者が減っているというのもさもありなんだ。
2020年11月11日
年間数兆円で未来は変わる
「年間数兆円で未来は変わる」には救われた思い。これが何十兆円ないとダメなら、既に国債発行残高がGDP240%という中で絶望的になるが、数兆円なら100兆円を超える年間予算の中で大半を占める「年金」と「医療費」を少しだけ改革すれば捻出できる。
「年金」も「医療費」も、受益者の大半は高齢者である。誰もがいずれ高齢者になるわけだから、それぞれの制度は大切ではあるものの、「未来と過去どちらにお金を使うか」という点で、国家予算の70%が主に退職者に使われている現状はバランスを欠いているだろう。
第一、これでは、制度が維持できないことは目に見えている。緊縮財政は制度の恩恵を受けている人に痛みをもたらす。現状はあまりに不平等なので、それも覚悟しなければいけないが、最も良いのは、分母であるGDPを増やし、結果、税収が増え、制度がムリなく維持できることだろう。
それが年間数兆円で可能なら、やらない手はない。いずれの政策も、十分実現可能だと思う。
219：日本では、教師層も含めてほぼすべての人が、体系的かつ徹底的に論理的な思考や表現をする訓練を受けたことがない。『考える技術・書く技術』『ロジカル・シンキング』221：中学2年生の数学レベルは国際評価システムTIMSS2015参加43か国中TOP5数学を「とても好き」だと答える学生の割合は9%と、ほぼ最低レベル。295：米国主要大学を支えているのは運用益と国からのR&D運営委託費用305：国家百年の計としての運用基金endowment構築案１．トップ研究大学および主要国研強化費用として運用基金として10兆円程度準備２．世界トップクラスの運用professionalを任命・・・平均7%以上の運用益創出を目指す３．運用益の半分を予算化。基本1/2を教員・サポートスタッフの人件費、1/4を人材育成グランと、1/4は施設のリノベーションに４．大学などの教育・研究機関への寄付に対する免税措置５．企業が従業員や配偶者のこれらの寄付にマッチして寄付することも免税325：年間数兆円で未来は変わる・国家endowment・研究者の待遇改善・PhD学生の育成グラント・初等・中等教育のAI-ready化・大学・国研への交付金・スタッフ強化業務改善・科学技術予算補正・大学生の学費と生活費補助・若い人たちへの年金積立
2020年11月10日
データｘAIにおける産業化
続いて、具体的な施策に移る。「データｘAIにおける産業化」はまだ緒に就いたばかりで、Phase1にあると考えられる。
Phase1においては、「データとAI利活用が大半の産業で広がる」「サービス業が萌芽」する。必要な人はData Professionalsで、日本は現在大幅に出遅れている。そして、Phase1は終わりに近づいている。
「ではこれからどうなるかといえば、産業革命同様のフェーズ２、フェーズ３が来ることはほぼ間違いない。すなわちこれらフェーズ１で生み出された技術があらゆる分野、空間、機能に広まっていく。すべての空間、機能、サービスが半ば感覚を持ち、スマート化するようになる。なんでもセンシングされるようになり、それに基づいていろいろなものが見えないところで最適化される」
117：データｘAIにおける産業化Phase1 データｘAI化が進展・データとAI利活用が大半の産業で広がる・サービス業が萌芽Data professionalsPhase2 データｘAIの二次利用が進む・Power to the people（一般利用）の進展・サービス業の拡大専門性をもつ利活用人材Phase3 インテリジェンスネット化・エコシステム構築エコシステム構築人材165：データｘAIの力を解き放つための３つのスキルセット・ビジネス力・データサイエンス力・データエンジニアリング力205：3層での人づくり１．リタラシー層・小中高・高専/学部�（豺餮譟∪こΩ譴妊皀里鮃佑─⊃佑箸笋蠎茲蠅垢詢���課題を設定し解決する力��データｘAIの力を解き放つ基礎能力２．専門家層・理工系学生・院生・情報系＋応用領域�．如璽殖�AI分野そのものの専門家�▲如璽殖�AIの力を使いつつ様々な領域を刷新していく専門家３．リーダー層・PhD学生・ポスドク/若手教員＋世界の才能を集める
2020年11月09日
この国は、もう一度立ち上がれる
先月読んだ『イシューからはじめよ』(2010)がさすがだったので、今年出た最新刊も読んでみる。こちらは、2016年のTED以来、著者があちこちで話してきた提言をまとめたもの。
最初は、「現実を見よ」で、この30年間の日本の体たらくを直視することから始まる。では、どうしたらいいかの提言については、それぞれ重要な内容なので、分割して紹介したいと思う。
世界の中での日本の大学の凋落については、私もこれまで何度かここに書いてきた。あらゆる大学ランキングで全体的に下がっており、例えば、「TIMES 2020」でも、「東京大学、京都大学ですらシンガポールだけでなく、中国や香港の大学にも負けている」のだ。
最近、中国の大学が急速に伸びており、スタッフ一人当たりの大学の収入は世界ランキングトップを独占する米国私立大学並みになっている。それに伴って、教員や研究者の給与水準も日本を超えており、これを放置すれば、この25年間給与が上がらず、研究費は絞られている日本の大学からの頭脳流出が加速しそうだ。
はじめに：日本には不安と停滞感、現実を直視しない楽観、黄昏感が満ちている。悲観論や批判ばかりの人、危険を煽るだけの人も多い。61：未来の方程式未来＝課題ｘ技術ｘデザイン77：日本は途上国、あるいは中進国に戻ってしまった単身を除く世帯の31%が貯蓄を持っていない（2017）。1963年以来の高い水準。93：日本の大学プレゼンス様変わり東京大学、京都大学ですらシンガポールだけでなく、中国や香港の大学にも負けている。
2020年11月08日
ラグビー・リーダーシップ論
受講中のBBTナイトGymで元ラグビー日本代表、廣瀬俊朗さんの特別講義があり聴講。廣瀬さんは昨年BBTでMBA取得したそう。昨年は、TVドラマ「ノーサイド・ゲーム」出演、RWCでの解説と大活躍だった。
北野高校から始まり、慶應大学、東芝、日本代表と主将を務めてきた廣瀬氏。そのリーダーシップ論を書いたのが、2015年出版の本書。前々回のRWCの年に出た本だ。この時は日本代表チームで当初キャプテンを務めた。しかし、本番を前に、ケガなどでレギュラーを外れ、キャプテンもリーチ選手に交代する。
面白いのは、エディージャパンに対する評価。「日本ラグビーを変えた」として全体として評価する一方、「すべてをコントロールしたがる人」で、「僕たちのメンタル面も限界」だったという。言ってみれば、それまでの日本代表は世界レベルにはなっておらず、それを世界レベルに引き上げるために、まずは有無を言わさない理論に基づいたハードワークを課せる監督だったということか。そして、その監督は南アフリカに勝利するという大金星を挙げて、RWC2015後は、ラグビー発祥の地でありながら低迷していたイングランド代表監督に迎えられた。
その意味では、エディーからジェイミーに交代し、基礎レベルアップを図ったうえで、選手の自主性を重んじるというのは理になかったチーム育成計画だったと思う。監督は企業で言えばCOO役だと思うので、この戦略を立案したCEOである日本ラグビーフットボール協会は大したものだと思う。
大儀・覚悟・ビジョン・ハードワークはじめに：南アフリカ戦分析ソフトを使って、いろいろな対策を練った。映像を観る。プレゼンの資料をつくる。その説明を考える。普段、僕たちはミーティングの時間に15分座って聞くだけだが、そのための準備にはパソコンの操作を含めて10時間を要した。101：慶應ラグビー部総勢120名。全員が一緒に練習するわけではなく、チームはシニア、ジュニア、コルツと大きく三つに分かれるのだが、それでもこれだけの人数をまとめ上げるのは至難の業だった。130：エディージャパン6時ごろに集合して、最初の練習。ローイングやバイクなどの有酸素系のトレーニング。朝食を挟んだ午前中はウェイトトレーニングとユニット（FWとBKに分かれての練習）で身体を苛め抜く。そして、午後はチーム練習なのだが、とにかく走る。189：日本ラグビーを変えたエディー自分が嫌われても勝たせる覚悟。選手たちには鬼になってハードワークを課す。誰よりもハードワーカー。練習やプレゼンのための準備は入念。練習が終わると、すぐに分析。すべてをコントロールしたがる人。これからさらに4年間一緒にチームを作っていくことは苦しかった。僕たちのメンタル面も限界。頭が痛くて寝れない日や、飛行機に乗ると息ができなくて苦しくなるようなことが何度もあった。198：なんのために勝つのか大儀を実現するため。日本代表・日本のラグビーファンを幸せにできる喜び・新しい歴史を築いていく楽しさ・憧れの存在になること
2020年11月07日
書き出し小説名作集
小説の書き出しを調べていて読んでみたら、「書き出しだけ」だった
。「書き出し小説は書き出しだけなので、そのつづきは当然ながら読者が創造しなければならない。だがそこにこそ書き出し小説最大の妙味がある。書き手のイマジネーションが読み手のイマジネーションを刺激し、ひとつの書き出しからはまさに読者の数だけ、無数の物語が生まれる。」（はじめに）
小説の書き出しだけをネットサイト「デイリーポータルZ」で募集したところ、膨大な応募があったという。その中から416作を厳選したのが本書ということ。応募総数がいくらだったのか、実数は書かれていないのだが、収蔵作品は確かに面白く（下記）、これを見て、「作品を書きたい」、あるいは、「続きが読みたい」と思った人も多いのではないか。
編者は天久聖一。香川県生まれで、20歳で漫画家としてデビューしたが、以来、「主にマンガ以外の分野で活躍中」とある。検索してみると、現在はYouTuber⁉
熊が冬支度をはじめ、僕は就活をやめた。「これの色違いありますか」八百屋に妙な客が来た。もう米のことなどどうでもいい平八郎だった。（歴史人物編）
2020年11月06日
学校について
村上春樹の両親は二人とも国語の教師だった。母親のほうは結婚したときに退職したらしいが、そのせいか、本を読むことについては一言も文句を言わなかった。大抵の親は、子供が本を読むことに文句は言わないと思うが、村上春樹の場合はその量が尋常ではなかったらしい。
「実にいろんな種類の書物を、燃えさかる窯にスコップで放り込むみたいに、片端から貪り読んでいきました」
本をそれだけ読めるということは、少なくとも高い読解力があったということなので（そうでなければ、それだけ読むことは苦痛だ）、それほど勉強せずとも、成績も進学校で普通だったのだろう。「本なんか読まないで試験勉強をしなさい」とは言われなかったという。
村上が強調するのは、「個の回復スペース」の必要性。
「個人とシステムとがお互いに自由に動き、穏やかにネゴシエートしながら、それぞれにとって最も有効な接面を見出していくことのできる場所です。言い換えれば、一人ひとりがそこで自由に手足を伸ばし、ゆっくり呼吸できるスペースです。制度、ヒエラルキー、効率、いじめ、そんなものから離れられる場所です。簡単に言えば、温かな一時的避難場所です」
なんとなくわかったような。しかし、それについてクギをさすことも忘れない。
「最悪のケースは、文科省みたいなところが上からひとつの制度として、そういうものを現場に押し付けることです。僕らはここで『個の回復』を問題としているわけですから、それを国家が制度的に解決しようとしたりすれば、まさに本末転倒というか、一種の笑劇になりかねません」
そう、教育に限らず、日本の問題は、何か問題が起こった時に、自分たちで解決しようとせず、行政や政治のせいにしてしまうことだ。自分たちの工夫でやればいい。
211：僕の両親は教師でしたし、僕自身もアメリカの大学で何度かクラスを受け持ったことはあります。しかし率直に申し上げまして、学校というものが僕は昔からわりに苦手でした。215：そんなものより、時間が経っても消えずに心に残るものの方が遥かに大事です。当たり前の話ですね。しかしそういう種類の知識にはあまり即効性はありません。そういう知識が真価を発揮するまでには、けっこう長い時間がかかります。220：生まれつき自分の好きなこと、興味のあることについては、身を入れてとことん突き詰めていく正確です。（中略）しかし興味が持てないことは、それほど身を入れてやらない、というか、身を入れようという気持ちにどうしてもなれないのです。230：個の回復スペース僕が子供だった頃は、社会そのものに「伸びしろ」がありました。だから個人と制度のせめぎ合いみたいな問題も、そのスペースに吸収されていって、それほど大きな社会問題にはならなかった。社会全体が動いていたから、そのモーメントがいろんな矛盾やフラストレーションを呑み込んでいきました。（中略）しかし高度成長時代も終わり、バブルの時代も終わった今となっては、そういう避難スペースをみつけることが難しくなっています。大きな流れにまかせておけばなんとかなる、というようなおおまかな解決方法はもはや成立しません。
2020年11月05日
時間を味方につける〜長編小説を書くこと
村上春樹は、もう40年間、いろんな形式の、いろんなサイズの小説を書いてきている。
「でも僕は基本的には、というか最終的には、自分のことを『長編小説作家』だとみなしています」
「長編小説こそが生命線」であり、「短編小説や中編小説は極言すれば、長編小説を書くための大事な練習場」ということだ。
「でも僕は基本的には、というか最終的には、自分のことを『長編小説作家』だとみなしています」
「長編小説こそが生命線」であり、「短編小説や中編小説は極言すれば、長編小説を書くための大事な練習場」ということだ。
その書き方というのは、「毎日（原稿用紙にして）10枚書く」というもの（実際はMacで書いている）。
「もっと書きたくても10枚くらいでやめておくし、今日は今ひとつ乗らないなと思っても、なんとかがんばって10枚は書きます」
なぜなら「長い仕事をするときには、規則性が大切」だからだという。
151：机の上にあるものをきれいに片付ける「小説を書くほかには何も書かない」という体制を作ってしまう。もしそのときエッセイの連載なんかをやっていたら、そこでいったん中止してしまう。締め切りのない翻訳作業なんかを自分の好きなペースで、同時進行的にやることはよくありますが、これは生活のためというよりは、むしろ気分転換のため。翻訳というのは基本的にテクニカルな作業ですから、小説を書くのとは使う頭の部位が違う。153：思い切って心を決め、新しい可能性を追求したことが、僕の場合は良い結果を生んだようです。ヨーロッパ滞在中に書き上げた『ノルウェイの森』という小説がたまたま売れたことで、生活を安定させ、長期的に小説を書き続けるための個人的システムみたいなものを、とりあえず設定することができました。155：「私は希望もなく、絶望もなく、毎日ちょっとずつ書きます」（アイザック・ディネーセン）それと同じように、僕は毎日10枚の原稿を書きます。（中略）朝早く起きてコーヒーを温め、4時間か5時間、机に向かいます。1日10枚原稿を書けば、1か月で300枚書けます。単純計算すれば、半年で1800枚が書けることになります。具体的な例を挙げれば、『海辺のカフカ』という作品の第一稿が1800枚でした。
2020年11月04日
さて、何を書けばいいのか？
最初の小説『風の歌を聴け』を書こうとしたとき、「これはもう、何も書くことがないということを書くしかないんじゃないか」と痛感したという。
団塊の世代の村上は、「親の世代のように戦争を体験してないし、ひとつ上の世代の人たちのように戦後の混乱や飢えも経験していないし、とくに革命も体験していないし、熾烈な虐待や差別にあったおぼえもありません」。こうした重いテーマを書いて、実際に経験した先行する世代の作家たちに対抗する手段はない。
そこで、「何も書くことがない」ということを逆に武器にして、そういうところから小説を書き進めていくしかない。そのためには、「新しい言葉と文体が必要になります。これまでの作家が使ってこなかったようなヴィークル＝言葉と文体をこしらえなくてはなりません」となったわけだ。
前章で、「小説というのは、『たとえば』の繰り返し」という説明があったが、この比喩も腑に落ちる。これまでの小説は、「戦争とか革命とか飢えとか、そういう重い問題」を扱ってきた。言ってみれば、ダンプトラックでなければ運べないような重い荷物を載せてきたわけだ。
ところが、戦後生まれの村上の世代の関心はそうした自分たちが経験してないことではない。過酷な人生体験をしてきた先の世代たちからすれば、「どちらでもいい軽いこと」を扱うのだから、「俊敏で機動力のある」スポーツカーの方が良いということなのだ。
英語で書いてから、それを日本語にするというプロセスで試行錯誤しながらできたヴィークル（言葉と文体）はこうして生まれた。その当時、「こんなもの小説じゃない」「こんなものは文学とはいえない」と先行する世代から厳しい批判を受けたというのも、さもありなん。
122：よくまわりの人々やものごとをささっとコンパクトに分析し、「あれはこうだよ」「これはああだよ」「あいつはこういうやつなんだよ」みたいに明確な結論を短時間のうちに出す人がいますが、こういう人はあまり小説家に向いていません。どちらかといえば評論家やジャーナリストに向いています。128：「イマジネーションとは記憶のことだ」（ジェームズ・ジョイス）イマジネーションというのはまさに、脈絡を欠いた断片的な記憶のコンビネーションのこと。134：何も書くことがないということを書くしかない「何も書くことがない」ということを逆に武器にして、そういうところから小説を書き進めていくしかないだろうと。そうしないことには、先行する世代の作家たちに対抗する手段はありません。135：ちょうど音楽を演奏するような要領で、僕は文章を作っていきました。主にジャズが役に立ちました。142：その当時はよく「こんなもの小説じゃない」「こんなものは文学とはいえない」と先行する世代から厳しい批判を受けました。そういう状況がなにかと重くて（というか、鬱陶しくて）、けっこう長く日本を離れて外国で暮らし、雑音のない静かな場所で好きなように小説を書いていました。でもそのあいだも、自分が間違っているかもしれないとはまったく思いませんでしたし、不安みたいなものもとくに感じませんでした。143：ここで僕が言いたいのは、新しい世代には新しい世代固有の小説的マテリアルがあるし、そのマテリアルの形状や重さから逆算して、それを運ぶヴィークルの形状や機能が設定されていくのだということです。そしてそのマテリアルとヴィークルの相関性から、その接面のあり方から、小説的リアリティーというものが生まれます。
2020年11月03日
「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」
ハルキストには有名な話だろうが、村上春樹が小説を書き始めたのは奇跡のような話。ヤクルト・ファンの村上は、「1978年4月のよく晴れた日の午後」に、神宮球場に野球を見に行く。それは、その年のセントラル・リーグの開幕戦で、ヤクルト対広島だったという。
「1回の裏、高橋（里）が第一球を投げると、ヒルトンはそれをレフトにきれいにはじき返し、二塁打にしました。バットがボールに当たる小気味の良い音が、神宮球場に響き渡りました。ぱらぱらというまばらな拍手がまわりから起こりました。僕はそのときに、何らの脈絡もなく何の根拠もなく、ふとこう思ったのです。『そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない』」
神戸で育った村上は一人っ子で、それまで苦労なく育った。勉強には身が入らなかったものの成績は良く、早稲田大学第一文学部に進学する。学生運動が盛んだったころで、大学は閉鎖状態。授業もまばらにしか行われない。
「僕はまずとりあえず結婚し、それから必要に駆られて仕事を始め、そのあとでようやく学校を卒業することになりました」
学生結婚した村上は、夫婦で3年間さまざまなバイトを兼務で資金を貯め、国分寺にジャズバーを開く。そういう経緯で、「仕事しながら暇を見つけて講義に出て、7年かけてなんとか卒業した」。当時の早稲田大学はとった講義の単位分だけ授業料を払えばいいという制度があったから続いたという。学園紛争で、大学が封鎖されていたからだろう。
学生結婚した村上は、夫婦で3年間さまざまなバイトを兼務で資金を貯め、国分寺にジャズバーを開く。そういう経緯で、「仕事しながら暇を見つけて講義に出て、7年かけてなんとか卒業した」。当時の早稲田大学はとった講義の単位分だけ授業料を払えばいいという制度があったから続いたという。学園紛争で、大学が封鎖されていたからだろう。
42：学生運動その激しい嵐が吹き去ったと、僕らの心に残されたのは、後味の悪い失望感だけでした。どれだけそこに正しいスローガンがあり、美しいメッセージがあっても、その正しさや美しさを支え切るだけの魂の力が、モラルの力がなければ、すべては空虚な言葉の羅列に過ぎない。僕がそのときに身をもって学んだのは、そして今でも確信し続けているのは、そういうことです。45：そんなわけで僕の20代は、朝から晩まで肉体労働をし、借金を返済することに明け暮れました。当時のことを思い出すと、ずいぶんよく働いていたなあという記憶しかありません。47：「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」そのときの感覚を、僕はまだはっきりと覚えています。それは空から何かがひらひらとゆっくり落ちてきて、それを両手でうまく受け止められたような気分でした。51：押し入れにしまっていたオリベッティの英文タイプライターを持ち出しました。それで小説の出だしを、試しに英語で書いてみることにしたのです。（中略）もちろん僕の英語の作文能力なんて、たかがしれたものです。限られた数の単語を使って、限られた数の構文で文章を書くしかありません。センテンスも当然短いものになります。頭の中にどれほど複雑な思いをたっぷり抱いていても、そのままの形ではとても表現できません。内容をできるだけシンプルな言葉で言い換え、意図をわかりやすくパラフレーズし、描写から余分な贅肉を削ぎ落とし、全体をコンパクトな形態にして、制限のある容れ物に入れる段取りをつけていくしかありません。ずいぶん武骨な文章になってしまいます。でもそうやって苦労しながら文章を書き進めているうちに、だんだんそこに僕なりの文章のリズムみたいなものが生まれてきました。
2020年11月02日
書き出しは誘惑する
小説の冒頭は、われわれが住む現実世界と、小説家の想像力によって生み出された世界とを分ける敷居に他ならない。したがって、まさに作家がわれわれを中に、「引きずり込む」場所であると言っていい。（デイヴィッド・ロッジ『小説の技巧』白水社）
日本で最も有名な小説の冒頭というと、双璧は、夏目漱石の『吾輩は猫である』と、川端康成の『雪国』だろう。『吾輩は猫である』であるは、自己紹介？から始まり、『雪国』は情景描写から始まる。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落とした。雪の冷気が流れ込んだ。
「夜の底が白くなった」にしびれる。短い文がリズム感を生む。
「各々の文が独自の鮮明な情景を内包している。（中略）移動の感覚を維持しながら、トンネルを抜けて白い別世界に入った情景を一挙に伝えるのだ。これだけのことなのに、読者はどこか見知らぬ場所に運ばれた気分になる」（p49)
一方、世界でもっとも有名な書き出しということになると、トルストイの『アンナ・カレーニナ』になるらしい。
幸福な家庭はすべて互いに似通ったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。（木村浩訳）
「アフォリズム的な書き出しは抽象性を帯びた施策的な表現が多いだけに、全体の読み方を統合したり、コントロールしたりする傾向にあるとも考えられるだろう。しかし、いくら深い思索を示す惹句が冒頭分であろうと、優れた小説ほど多彩な表現の世界を安易に括れない。むしろアフォリズムに回収されることなく繰り広げられる物語の豊かさを約束するのが傑作に他ならないのだ」（p91)
アフォリズムとは、「簡潔鋭利な評言。警句。金言。箴言」（『広辞苑』�Α砲箸いΔ海函�アフォリズムであったから、あちこちで引用され、有名になった気がする。
それとともに、「本当か？」という疑問を持たせることも理由ではないか。私自身は、逆で、不幸には単一とはいえないまでも貧困とか家庭不和のようなパターンがあるが、幸福な家庭の方がさまざまである気がする。
それとともに、「本当か？」という疑問を持たせることも理由ではないか。私自身は、逆で、不幸には単一とはいえないまでも貧困とか家庭不和のようなパターンがあるが、幸福な家庭の方がさまざまである気がする。
2020年11月01日
九龍城砦
NATIONAL GEOGRAPHIC『地図の博物図鑑』で紹介されていたのが、この本。中でも圧巻は、ここに収録された、九龍城砦の8ページにわたるパノラマ（下図：イラストレーター寺澤一美）。「数百もの部屋や隠し通路が緻密に描きこまれ、簡潔な説明が添えられている」。
九龍城砦は、香港の古い要塞に不法居住者が住みついたのが始まりだ。第二次世界大戦後、本土の内戦を逃れてきた難民で人口が急増。都市計画も安全基準もおかまいなく、上へ上へと違法な増築を重ねていった。
1990年代初頭には、2.8haの敷地に中層建築がひしめきあい、数万人の生活と仕事、娯楽の場になっていた。その人口密度はというと、米国の都市部で最も混みあうマンハッタンの実に50倍の人間が、同じ面積に押し込まれていた計算だ。建物内の状況は劣悪で、現実から目をそむけたくて麻薬に走る者もいた。ヘロインの過剰摂取騒ぎも売春も日常の光景だったのだ。
1993年、堪忍袋の緒を切らした香港当局がとりこわしを開始する。しかしその前に、「九龍城探検隊」を名乗る日本の建築可チームが九龍城砦の記憶を残そうと、迷宮のような建物をくまなく調べて地図化したいと考えた。
