2020年07月
2020年07月31日
会社設立 一国一城の主に
第7章で、いよいよ会社設立。「一国一城の主に」と副題がついていて、そういえば、この表現もう10年は聞いてない。昔は、大きな野心を持っている人が多かったのだろうか、独立して会社設立するのをよくこういった。
石井氏が設立した江戸橋証券（後に東証会員の立花証券を買収して「立花証券」に）は、敢えて証券業界未経験者ばかりを集めた。戦前の証券業界経験者は、その経験に囚われて、戦後の投資環境に適応できなかったからだ。
80：シロウト集団13人でスタートした江戸橋証券は全くのシロウト集団だった。私を除いて経験者はゼロ。（中略）証券界育ちの人は過去にこだわる。戦前の経験をややもすると振り回すきらいがあった。昭和20年8月15日を境として明治維新に匹敵するような経済的革命が始まったことに気づいていない人が多かったのである。そこで私はシロウトだけを選んだ。「私の方針をお客様に一生懸命に訴えなさい。決して自分の考えでやってはならない」と徹底的に仕込んだ。経済が高度成長し、株価が何倍にも値上がりする。そういう大きな変化の時代に戦前の感覚で対処していたのでは大を成すことはできない。99：大拡張私が経済評論家の高橋亀吉先生の知遇を得たことが一番目の幸運だとすれば、神武相場の最終局面を処理できたこと、併せて立花証券の買収に成功したことは、二番目の幸運だったといえよう。（中略）日本経済を人の年齢でいうと、昭和25年が零歳。それが朝鮮動乱で飛躍のきっかけをつかんで、神武景気の時が7-8歳。そして岩戸景気の昭和35年、所得倍増計画のあたりが10歳。人もそうだが、経済もこのあたりから急速に背丈が伸びてゆく。107：戦前と戦後戦前は少額の資金で株式売買が可能な清算取引が出来高の8割を占めていた。あとの2割が現物取引だった。投機的要素の極めて強い市場で、人気とか取り組みとか仕手関係が過度に影響し、景気や経済で動く度合いは少なかった。だから景気がよいのに株価が下がる現象もしばしば起きた。戦前はこれが逆転した。業績が主役で投機的要素はわき役となった。私は、戦後の株価を分析する場合、まず実態価値に重きを置く。例えば、ここに100円の株があったとしよう。このうち50円は実態価値を表している。30円が需給関係だ。残り20円がその時々の人気である。120：繁栄の原因当時はあのような防衛条約を結ぶと冷戦の硬直化に加担し、ひいては第三次大戦にまきこまれる恐れがあると懸念する人が多かった。しかし、私は、日本経済が大発展した8割方の理由は国防を米国に頼み、日本はあまり費用をかけなくてすんだことにあったと思う。むろん、戦後の日本に軍隊を持たせなかったのは、今になって「安保タダ乗り」論を言っている米国自身だけれども。126：当社は資産も倍増私は会社の「所得倍増3か年計画」を社員に約した際、ついては自分の持ち家をつくるようにすることを訴えた。ボーナスが3年で６回、１回平均15万円とすれば100万円になる。100万円貯めたら会社が100万円貸す。それで土地を買え、そして家を持てと営業マンはじめ社員を叱咤激励した。（中略）所得が増えた後には生活の向上がくる。すでに衣食は量的に足りているわけだから次は住。当時、当社の社員の住環境は貧弱で、部長クラスでもアパートに間借りしているような状況だった。余裕が出ればみんな家を建てる。土地を買う。すると住宅地の価格が上昇する。（中略）女子社員はともかく、男子社員にはボーナスの強制貯蓄をお願いした。国土は増えない。埋め立てなどでは追い付かぬ。早く土地を手当てしろ、もし、10年後の昭和45年に土地を持ってない社員は差別する。自分の家のない社員の仲人はしないとまで言った。苦情がなくもなかったが、この「強制」は良い結果をもたらしたと信じている。当時いた男子社員の9割方は45年までに自分の持ち家を確保したはずだ。129：宰相・池田論我が国は、戦前戦後を通じて経済に明るい首相はゼロに近かった。35年に初めて池田さんという、経済に明るい首相が出たが、おそらく就任時に景気、経済について全力をあげるといって登場したのは、この人が初めてだったろう。しかも実際に、所得倍増10か年計画、経済成長3かねんけいかくを実行に移し、今日の日本経済発展の原動力をつくった。世界的にもこんな短期間のうちに大繁栄を起こした国はない。152：いざなぎ景気この間経済成長率は、毎年二ケタの伸びだった。私流の区分だと40年が人の年齢で15歳、45年が20歳、48年が30歳。日本経済はまさに伸び盛りの時期だった。別の言い方をすれば、30年代に池田首相が所得倍増政策の種をまいておいてくれたことによる「日本経済の収穫期」でもあった。
2020年07月30日
かぶと町の一匹狼
想定以上のインフレで、どら焼き販売で「3年分」のつもりで貯めた資金が減ってしまった石井氏。警察官勤務の傍らやっていた株式取引（東証再開前の店頭取引）が、持ち前の探求心と観察力で好調だったこともあり、弁護士→政界進出の夢から転換、「カネの世界で生きていく」と決断した。
弱小証券会社にもぐりこんだ石井氏は、猛勉強する。数か月もたたないうちに、「ほとんどの銘柄について前日の終値から過去の高値、安値までスラスラ出てくるようになった」という。元々記憶力も抜群なのだ。
その頃、顧客であった高橋亀吉先生の知遇を得ている。戦前、早稲田を出て東洋経済新報の編集長を務めた人だ。著名な民間エコノミストである先生の経済分析は極めて適切であった。
「敗戦で日本経済が構造的変革をとげたことを早くから見抜いていたが、株の売買ではそうでなかった。電力、ガス、紡績など戦前からの財産株を好んで買った。（中略）ソニー、本田、松下などを進めるがおよびでなかった」
その頃の「ソニー、本田、松下」といえば、会社が出来て間もないベンチャー企業。経済構造の転換を見抜いていた高橋亀吉先生も、いざ株を買うとなると、戦前の投資行動を変えられなかったというのは興味深い。
人間歳をとると、頭ではわかっていても、長年の習慣を変えるのは難しいということだろう。いや、頭でわかるだけでも珍しいのかもしれない。気を付けないと
44：かぶと町入り私が証券界に入ったのは昭和23年6月25日。当時設立間もない東京自由証券の平沼両平専務に口をきいてくれる人が見つかり、その好意により入社できた。資本金500万円。食料関係の資産家が出資した会社で、社長以下見習いの私まで含めて５，６人だっただろうか。（中略）私は将来自分で証券会社をつくる考えだったので、拭き掃除から使い走り、日報取まで場立ち以外は何でもやった。戦前の鉄工所時代と同様にだれよりも早く出社し、残業し、日曜、祝日も猛勉強をした。数か月もしないうちに、ほとんどの銘柄について前日の終値から過去の高値、安値までスラスラ出てくるようになった。（中略）何しろ資本金は戦前のまま。加えて株式の半分は財閥解体と財産税でタナ上げの状態。一方おカネの方は戦前に比べて百倍にも増えている。（中略）このブームで私の虎の子10万円が1000万円になった。多くの人が「利食い千人力」と三割も上がればすぐ売却する戦前流のやり方にとらわれていたが、私は第一次大戦後のドイツのインフレを学んでいたため、人より長く持ちこたえることが出来たのである。52：学者の相場観思えば、高橋亀吉先生にめぐり会えたことが私の幸運の第一歩だった。先生は証券会社には出入りしなかったので、いつも私が青山のお宅へ株の受け渡しに伺った。もともと大変な勉強家で議論好きの人だったから、勉強好き議論好きの人間を好んだ。（中略）経済に関する先生の指摘は極めて適切だった。ただ、株の売り買いではいつもタイミングが早かった。（中略）また先生は、敗戦で日本経済が構造的変革をとげたことを早くから見抜いていたが、株の売買ではそうでなかった。電力、ガス、紡績など戦前からの財産株を好んで買った。私は「それは安全だけれども五十女。あばずれになる危険性が多少あっても、やはり子供（増資）を生む18歳の若い女性を」と、ソニー、本田、松下などを進めるがおよびでなかった。
2020年07月29日
波乱の戦後
石井氏は、「天下に野心があった」という。具体的には、本の後半で出てくるのだけど、それは「政界に打って出る」といういことだった。ゴールから逆算で考えるのは、成功者の共通点。石井氏の場合は、小学校の頃から頭脳明晰であったが家が貧しくて小学校しか行けなかったため（この点、田中角栄に似ている）、学歴の関係ない弁護士資格を取って、それを足掛かりに政界へ出ようとした。
そのためには3年間の勉強が必要と考え、まず、その間の資金を蓄えている。戦時中に働いていた九州飛行機はGHQから飛行機製造を禁止され戦後解散した。目を付けたのは、塩づくり。戦争中に軍隊が敵の上陸を想定して塹壕をつくるため松を切り倒した海岸が福岡郊外にあったらしい。松を燃料にして海水を煮詰めて塩をつくる。
それを農家に持って行って、小麦と交換する。小麦を挽いて小麦粉をつくり、サツマイモのあんこと合わせてどら焼きを焼く。これを自転車に積んで売り歩いて、終戦後8か月で3万円つくったという。3万円で3年間は暮らせたというから、今の価値なら500-1000万円くらいだろうか。
s21年8月、その金を持って上京して警視庁警察訓練所の試験を受けている。警官をしながら司法試験の準備をするつもりだったらしい。警察官は法律の行使をするのでプラスになるという考えもあった。
終戦後「海水から塩をつくる」というのは、奇しくも、安藤百福が泉大津でやったのと同じ。百福の場合は、軍の鉄板が残っているのを見て、これを使って天日で濃縮し、それを最後に釜で炊いた。石井氏の場合は、切られた松を見て「燃料代がタダ」だと思いついた。
どちらもさすがだが、安藤百福はそのまま公定価格で専売公社に売り（不法なヤミはやらなかった）、石井氏の場合は、それを小麦に換えて、サツマイモのあんこを入れたどら焼きとして売った。安藤百福は従業員を抱え、規模を大きくした。石井氏は一人で利益率を高くして全部やった。この辺は、人の好みが出るところ。
35：松と海水戦中、福岡市の西、糸島郡前原町の海岸に敵の上陸を想定して塹壕をつくるため軍隊が松を切り倒し、そのまま放置していた。近くに姉の嫁ぎ先があったため、私はそこを拠点に海水と松(燃料）を結びつけて塩づくりをやった。ドラム缶いっぱいの海水を一昼夜二詰めると3-5升の塩がとれた。１斗の塩を農家に持っていくと４斗の小麦と交換してくれた。4斗の小麦を水車小屋に持っていくと75斤(45kg)の小麦粉が手に入った。サツマイモのあんこを使った。鉄板で焼くと一斤で120個のどら焼きが出来る。1個1円。自転車の荷台に積んでは博多駅の周辺を売り歩いた。こうして20年の10月から8か月のうちに当時のお金で3万円をつくった。私にはひとつの目的があった。それは弁護士の資格を取ることである。敗戦直後の感覚だと3万円あれば3年は食えた。3年勉強すれば、何とかなると考えてのどら焼き屋だった。39：交番勤務もともと私は生い立ちが貧しく、小さい頃から世間の空気を肌で感じるようなところで育ったから人心の機微をとらえることは得意だった。警察官の体験は私のこの特性にさらに磨きをかけた。これは学校や机の上の勉強では決して学ぶことの出来ないものだった。のちに相場の世界に入った時、こうした私固有の経験は、市場の心理、群集心理を読むのに大いに役立った。39：急がば回れs22年10月。小岩署に勤務して8か月目に警視庁巡査を辞めた。予想以上のインフレの進行で自分の読みが狂ったためである。当初、私が描いたシナリオは、GHQが占領政策遂行上、3年はインフレを抑え込もうとするだろう、どら焼き屋で貯めた3万円があえば書籍代まで含め3年間は弁護士の勉強が出来る、むしろお釣りがくるくらいというものだった。ところがインフレの速度は余りに急。東京小売物価指数は21年の18.9が22年に51.0と2.7倍にもなった。「こりゃいかん。頭でのし上がろうと思ったが、ダメだ。カネでいこう、それしかない」と考えた。きっかけは、株式投資。この年の2月頃から私は交番勤務の合間を縫って株に手を出していた。インフレに対する防衛策だった。その頃はまだ東京証券取引所は再開されておらず、集団売買といわれる自然発生的な株の闇市で取引が行われていた。42：結婚について生涯独身で通すつもりだった。私には天下に野心があった。妻子を持つと、目的達成がおろそかになると思ったのである。それがついに妻帯することになったのだが、これにはわけがあった。小岩署の交番勤務の頃、私の下宿といつも利用する先頭の間に米屋さんがあった。最初は管轄区域の戸籍調査で立ち寄ったのだが、そのうち風呂の行き来で前を通るたび、そこのおかみさん（妻の実母）が寄ってゆきなさいと声をかけるようになった。
2020年07月28日
生い立ち・戦前編
石井久は、大正12年(1923)福岡県筑紫郡大野村（今の大野城市）に生まれている。農家の五男で、上から数えて7番目。あとにさらに6人の弟妹ができて八男五女となったため、貧乏だったという。そのため、小学校は優等で通したが、旧制中学には進学できなかった。
単に学業成績が良いだけでなく、小学校の頃から機を読むに敏で、抜群の記憶力と分析力、行動力を持っていたようだ。農家がその年値がよいものを翌年みんな植えるので、需給バランスが崩れて損ばかりしている。それを見て、「春先に自転車で筑紫郡をまわって、みんながあまり植えてないものを取り上げるべきだ」と父に進言している。
この進言は、小学生のくせに生意気だと思われたようで、父親に取り上げられることはなかった。この頑固者の父とはそりが合わず、高等小学校を出ると近くの鉄工所に就職して家を出ている。戦争長期化を予測し、実家にも預金をモノに変えることを勧めたが、「金を粗末にするな」と受け入れられない。自分では、欧州大戦の5年間に何が一番上がったか物価の動きを調べて、毎月の給与から「反物貯金」をしていた。
株の戦術になぞらえた太平洋戦争の分析には唸る。山本五十六自身が開戦前から言っていた通り、国力の差から長期戦は最初から無理だった。であれば、短期戦でどう始末をつけるのか、考えてから開戦しなければならなかったが、何の考えもなく、しいて言えば、ドイツの勝利に賭けて開戦してしまった。
そう考えると、外務省の不手際で宣戦布告の手交が遅れ、「だまし討ち」になってしまったことは致命的。山本五十六は真珠湾攻撃前に何度もこの点が手抜かりないよう念を押しており、これは、アメリカの体制が整わない開戦後の数か月で押しまくり、そこで石井氏が言うように講和しようという考えだったと思う。「だまし討ち」で米国世論は一気に悪化。講和を難しくしてしまった。
外務省がこの世紀の不手際をどう処分したか気になる。
24：天一坊小学校低学年の頃から新聞を読むことに興味を覚え、しばしば大相撲や軍事ニュースの予測をした。よく当たった。昭和6年9月18日、柳条湖事件を発火点に満州事変が勃発した。この時も私は9月22日付の新聞で当時の金谷範三参謀総長が宮中に参内する記事を読んで、上海への戦況拡大を予測した。上海での排日運動が激化し、上海事変が起こったのは4か月後だった。（中略）世の中や人の考え方はいきなり変わるというようなことはめったにない。だから詳しく新聞を読んで記憶しておけば、ものごとの流れからある程度の結論は取り出せるものである。26：農業に不満私は、春先に自転車で筑紫郡をまわって、みんながあまり植えてないものを取り上げるべきだと主張したが、やはり「農家は頭じゃない」とやられた。コメの売買で独自の商才を身につけているちちですらそうだった。農作物は天の恵み、自然の授かりものだからみんな一生懸命やってダメなら仕方ないというのである。私はだから農家はダメだ、商人に搾取されるだけだと思った。28：反物貯金高等小学校を卒業すると、私は自宅から8km離れた福岡郊外の渡辺鉄工所に徒弟として入社し、ほどなく家を出た。盧溝橋事件の翌年にあたる昭和13年のことで、国内では国家総動員法が公布されるなど戦時色が次第に濃くなりつつあった。（中略）入社当時の日給が40銭。残業を2時間やると、割り増しが付いて月の手取りが12円50銭となった。大卒初任給が60円くらいだった頃だ。私は12円50銭の中から部屋代と食費を差し引いた残り2円前後の現金で反物を買った。戦争長期化の予感を持っていたため、欧州大戦の5年間に何が一番上がったか物価の動きを調べたところ、一番が砂糖、二番が繊維だった。砂糖は保存がきかない。そこで「反物預金」に絞ったのである。30：見切り千両株の戦術になぞらえて太平洋戦争をみてみよう。開戦当初において日本の生産能力は、瞬間的に米国に勝っていた。艦船、航空機の生産能力でいうと3か月ないし、半年は優位に立てる状況だった。だから、真珠湾攻撃に次いでシンガポールを占領した時点、17年2月11日の紀元節のところで「利食い売り」をすべきだった。満州帝国だけ認めてくれ、あとはすべて退くといったら米国も了承する可能性はあった。ところが、最初があまりにうまくいったため、株の世界でいう「強欲」になってしまった。利食いするところを完全に間違えたと思う。そして、ミッドウェー海戦を契機に彼我の戦局は逆転してゆくわけだが、最初の利食いに失敗したのだから今度はサイパン島をとられたあたりで見切り千両、つまり「投げ」を打つべきだった。東条首相が国民に謝って、満州を放棄すれば、まだドイツが戦っていた時だから連合国側が認めてくれる余地はあったのではないか。ここで投げておけば、30万人の戦死者で済んだものを、さらに1年余も持続するものだから国内は灰になり、死者は300万人になった。相場の世界でもよく言えることだが、得手に帆を揚げるのは禁物だ。私は株式投資をやる場合、ダメだと思ったら常に投げをやる。いつも投げを意識している。決して華々しさを選ばない。32：57人いた小学校の同級生のうち37人がこの戦争で亡くなった。戦争の長期化と敗戦の可能性については早くから家族にも話していたし、第一次大戦後のドイツのインフレを例におカネを反物などモノに変えておくよう主張していたこともあって、今度は、土地や家を買うように父を説得した。敗戦で人心は動揺、山中に避難する人も多く、あちこちに売り家の貼り紙が出ていた。（中略）戦後のインフレで1年もしないうちに父の貯金は、私の反物一反分ぐらいの価値になってしまった。千載一遇のチャンスはこうして消えた。私の手元に残ったのは、コツコツと買い続けた「反物貯金」の36反だけだった。
2020年07月27日
かぶと町興亡40年
「テレビの大河ドラマで伊達政宗が人気になっている。向こうは独眼竜。私のは独眼流。もちろん政宗を意識してつけた。初めてこの独眼流のペンネームを使ったのは昭和24年8月17日。歩合外務員をやっていた頃、『株式新聞』の幹部から『記事を書いてみないか』と勧められたのがきっかけだった。」
・・・というところから始まる。当時の石井氏は、株の世界に入って、まだ1年余り。学歴はないし（高等小学校卒）、年齢は26歳（前職は警察官）。全くの駆け出しが本名で書いても相手にされないので、ペンネームを使ったという。独眼流にしたのは、石井氏の「星が政宗と同じ五黄の亥年であることと、株の世界で天下は取れないまでも、伊達62万石の大大名ぐらいにはなるつもりだったから」。
そもそも、業界に入ってまだ1年の若者に声がかかったのは、たった1年だが、非常に勉強熱心で、その相場観が的を得ていたからだ。昭和24年当時、「かぶと町の先輩たちは、戦前からの株の常識にとらわれ、時代が一変したことに気づいていなかった」という。ちょうどドッジ・デフレが始まろうとしていた時期で、周囲は戦後インフレの株高で浮かれていたが、「独眼流」はカネ詰まりで株安が来ると紙上で訴える。
間もなく暴落が襲う。取引所再開後、初めての下げで、証券会社がいくつかつぶれたという。この予測で独眼流への注目度は一気に上がり、株式新聞の購読も何十倍にも増えた。そして、石井氏は自らの証券会社を設立、後に経営不振で売りに出た立花証券を買収しこれを合併、個人投資家主体の証券会社として大成功させる。
本書は、毎日新聞記者による、石井氏の昭和61年（1986)のインタビューに基づく半生記（出版は翌年）。既に絶版になって久しいが、春山昇華さんが真っ先に推奨していたので読んでみた。名著。もっと早く読めばよかった
1986年と言えば、私が就職した年。石井氏は既に「異常な株高」だという。当時、「円高不況」対策として日銀は金融緩和を進め、カネ余り相場となっていた。そして、本が出版された翌年、ブラックマンデーが起こり、世界同時株安を食い止めるため、日銀はさらに金融緩和を行い、バブル経済の大相場となっていく。
2020年07月26日
元祖「カラー撮り鉄」
ふつうモノクロでしか見ることのできない昭和30年代の日本を、当時としては超贅沢なカラーフィルムで多数撮影。今なお色あせない再上質のコダクロームの写真544枚。
ほぼ全ての都道府県が網羅されている。香川県では、栗林公園の写真以外に、1957年の鉄道写真が3枚。未舗装の道路を土煙をあげて走る琴平参宮電鉄と、同じく善通寺赤門前を走る琴平参宮電鉄。そして、琴平駅を出発する琴電。
著者は1927年米国NJ生まれ。コルゲート大学卒業、ミシガン大学で修士課程修了後、56年に初来日。58年から日本在住。国鉄顧問を務め、現在はJR東日本国際事業本部顧問。現在でも都内在住で、90歳を過ぎて、未だ顧問を続けているとはスゴイ。
どこを見ても、車が少ない。1962年の半蔵門。路面電車とバス。これなら渋滞もなかっただろう。
田舎に行けば、車窓から見えるのは藁ぶき屋根の家々。映画トトロの世界。1959年西宇部駅にはSL。山陽本線はまだ電化されていない。山陽本線・呉線を最後に姿を消したC59、貨物牽引のD52、D51など。
七里ヶ浜(1956)の写真を見れば、浜に打ち上げられているのは自然のものだけで、レジ袋もペットボトルもない。
1964青島。女性たちは着物姿。
1963屋久島。標識はまだ占領時代の名残で「徐」と「SLOW」の二か国語表示。「踏切」には「RAILROAD CROSSING」。
はじめに8：仕事で日本以外のアジア諸国にも行くことは多かったが、放り出された経験は数知れない。ところが、日本は違うのだ。全く話の通じない私を目の前にして、ああ言っているんだろう、こう言っているんだろうと、みんなが私を巡ってあれこれ相談しているのがわかる。彼らは決して放り出さずに、こちらの要望を推察してくれた。そして、これかな、というものを持ってきてくれたり、してくれたりするのだが、それがほとんどの場合、こちらの期待以上だった。これが、私が日本を好きになった大きなきっかけだ。9：鉄道写真、特に地方私が当時の一般的な鉄道よりも、簡易な軽便鉄道に関心があったから。軽便：ゲージが762mm以下のもの。
2020年07月25日
手紙だけが物語る笑いと哀しみ
井上ひさしの代表作の一つ。12人の手紙を軸に展開されるそれぞれの短編と、最後にそれらの主人公たちが一堂に会するエピローグ。それぞれに謎解きや、どんでん返しが仕掛けられていて、さすがは沢木耕太郎が「第二の天職は詐欺師」と呼んだだけのことはある。
沢木耕太郎の上記の評論が出たのは1979年で、本書の初版が出た翌年。本書の設定も昭和51-52年だ。当然、インターネットもなければ携帯電話もない。電話はあるが長距離電話は料金が高かった。市内通話の3分10円に対し、100円はしたと思う。それも、距離に応じて高くなっていくので、現在の国内一律料金になれた「携帯電話以降」世代には信じられないだろう。
だから、一般人はなんでも手紙でやり取りしていた。雑誌に、「文通希望」と住所・氏名を載せていたと聞けば、今のプライバシー保護の観点からは信じられないかもしれない。
本書を読んで、最後に手紙を書いたのはいつだろう？と思った。おそらく、留学していた30年位前が最後で、それ以降はまともな、長文の手紙は書いてない。その後就職した外資系企業では社内はemailが使えたし、社外とはFAXでやり取りすることが多かった。95年ごろからは携帯電話が普及し、国内どこにかけても一定料金となった。
emailの普及につれ、パーソナルなやり取りもemailですることが多くなり、そうなると料金も掛からないので、頻繁に出す代わり、一回当たりの分量は少なくなる。さらには、メッセージアプリが普及すると、会話するように一文ずつのやり取りになる。必然的に、まとまった量の文章を読んだり、書いたりすることは減っている。
「言語＝思考」であるので、条件反射的なやり取りだけでは心配になる。この小説に出てくる手紙は、もちろん、井上ひさしの創作なのだが、昔の人たちはこれくらいの手紙を難なく書いていた。
125：表を人が通るたびに、郵便屋さんじゃないかしらとおもい、胸がどきんと高く鳴ります。昨日は午前十時半に表にだれか立ちどまる気配がし、やがて郵便受けがコトンと音を立てました。228：請われて結婚したものの、1年で離婚した女性わたしはまだ21歳、出直す時間はまだたっぷりありますもの。試験は来春。そこで今は、日中は予備校、夜は近くのスーパーで店員といそがしく自転車で走り回っています。
2020年07月24日
深海底巨大地形
「しんかい6500」に51回乗船し、太平洋、大西洋、インド洋の三大洋初潜航を達成した深海研究の第一人者によるブルーバックスの新刊。ともすれば難しくなりがちな専門領域だが、そこはブルーバックス、わかりやすく書かれている。
人類は莫大な費用をかけてロケットを飛ばし、宇宙から地球を見ることが出来るようになった。昨年は遥か彼方のブラックホールの撮影にも成功したが、実は、足元の深海はほとんど探索されていない。これまで人類が直接目視できた深海は5%にも満たないという。
そして、人類の手がついていない深海底には、地球誕生の秘密が隠されている。宇宙のチリが集結して惑星となった地球の深海底を調べることは、宇宙につながっているというわけ。
地球史の中で生物の絶滅はこれまで大きなものが5回、小さなものは20回ほど起こっている。その間隔はおよそ2200-3000万年で、天変地異や大量絶滅は周期的に繰り返される「天文学的な現象」なのだ。こう考えると、SpaceXイーロン・マスクの言う「火星植民地計画」も必要性があると思えてくる。
はじめに地球上の大きな地形と言えば、私たちはすぐに、エベレストを擁するヒマラヤなど、陸上の大山脈を思い浮かべます。しかし、じつは深海にはそれらをはるかに上回る、とてつもなく巨大な地形がごろごろしています。ヒマラヤ山脈は6000-8000m級の山々が2400kmほど連なる陸上最大の地形ですが、マリアナ海溝には、さきほどのチャレンジャー海淵をはじめ1万m級の溝が、延々と2550kmにもわたって続いています。しかも、この海溝は北端で伊豆ー小笠原海溝、そして日本海溝ともつながっていて、さらに北へ千島海溝からアリューシャン海溝にまで延びてゆき、それらの総延長はゆうに5000kmを超えます。深海大平原海底総面積の30%を占める大平原。134：南海トラフ黒潮の中での潜航調査は困難。2005年、地球深部探査船「ちきゅう」登場。掘削した掘り屑を改定に捨てずに、ライザーパイプとドリルパイプによる二重管構造を使って戦場まで吸い上げて回収するライザー掘削システムの開発によって、削り屑が掘削ビットにからみつくなどのアクシデントが克服でき、理論的には海底下6000m以上もの掘削が可能に。・プレート境界断層の先端部の温度が300-400℃になった痕跡・プレートの沈み込む方向に平行に圧縮の力172：海台何億年もかけて上がってきたスーパーホットプルームは、やがて地表へ到達します。その大きさは、直径が1000kmを超えることがあります。これにより地表近くでマグマができると、膨大な量の火山岩をつくります。洪水玄武岩です。その集積が深海では巨大な海台となるわけです。204：鉱物ができるまで鉱物の基本的な骨格を形成するのは、ケイ素と酸素。太陽系に存在する惑星では、鉱物のほとんどはこの二つの元素を含む。地球には、太陽系で最も多く酸素とケイ素が存在し、最も多くの鉱物がつくられている。太陽系でもっとも多い元素は、水素とヘリウム。太陽系全体の99%。ところが地球では、最も多い元素は鉄で、2番目が酸素、3番目がケイ素、その次がマグネシウム。太陽系の惑星で鉱物がつくられているのは、地球型惑星だけ（水星、金星、地球、火星）。207：岩石ができるまで鉱物がいくつか組み合わさって結晶を作ることで、岩石が形成。造岩鉱物のほとんどは、4つの酸素と1個のケイ素から成る構造を基本単位として、正四面体の形（SiO4)。210：冥王代約46億年前に地球が誕生してから約40億年前までの、最初の6億年間。半世紀前まで、地球の年齢は、アーサー・ホームズが提唱した20億年と言われていた。現在は放射性同位体によって、きわめて精密な測定ができるようになった。243：マイケル・R・ランピーノ『繰り返す天変地異』太陽系は円盤状の天の川銀河を上下運動しながら周回していて、銀河平面を通過するときに可視物質やダークマターと遭遇すると、それが刺激となって弾き飛ばされた彗星や小惑星が地球を直撃し、天変地異が起こる。それは約2600万年周期で起こる。
2020年07月23日
ストーリーで読む「儲ける仕組み」のつくり方
昨日書いたBBTナイトGymの講師の一人が兵庫県立大学経営学部教授の川上昌直先生。講義が面白かったので、著作を読んでみる。「ストーリーで読む」とある通り、小説形式で書かれているので経営の素人にも入りやすい。
話は、大阪にあるスポーツ用品メーカーを舞台に展開していく。80年代にヒット商品を出して大きくなったものの、その後は外資大手に押され、業績は低迷している。そこへ会社再建のために外部から迎えられた社長。
その社長から、単なる新製品ではなく、「会社の収益構造を変えるような製品開発」を任される主人公。主人公は、会社の各部門から人選したクロスファンクショナル・チームを結成し、大学の経営学教授（明らかに著者がモデルだ）の開発した「９セルメソッド」を使いながら、新しいBMを創造していくという話。
106：ハイブリッド思考法顧客価値提案+利益設計＝ビジネスモデルビジネスパーソンは右脳か左脳、どちらかをベースに仕事をしています。しかし経営者はそれらをハイブリッドに考えています。顧客価値も考えながら同時に利益も考えているのです。110：片付けるべき用事（ジョブ理論）製品やサービスを買うのは、その製品が「欲しいから」ではありません。なんらかの「用事を解決したい」からです。116：９セルメソッド横軸はビジネスのコンセプトの軸です。コンセプトとは誰に・何を・どのようにのことです。縦軸はビジネスを構成する要素の軸です。ビジネスの大前提である顧客に価値を提供すること、そして当社がどうやって儲けるのか、それをどうやって実現するのかの軸です。そしてこれらをストーリーとして整合させます。顧客価値1. お客様はどんな用事（課題）を持っているのか（商品ニーズではなく「用事」）2. 当社はそれに対し何を提供するのか3. お客様からみて他の解決策と何が違うのか利益4. 当社は誰から利益を得るのか（１．の「お客様」と同じとは限りません）5. 当社は何で利益を得るのか6. 儲けの時間軸はどうか（最初にしっかり儲けるか、徐々に儲けるかなど）プロセス7. ビジネスを実行する手順はどうか8. 当社の強みを活かす部分はどこか（自社でやる部分）9 他社の協力を得る部分はどこか（調達先、外注先、販売代理店など）
2020年07月22日
BBTナイトGym
先月から始まったBBT「ナイトGym」を受講中。著名講師陣のライブ講義を、月額5000円で週2回以上Zoomで夜9時からの1時間受けられるというもの（過去動画も翌月末まで公開）。6月は10回、今月は9回開催。全部受ければ1回ワンコインほど、5回で一回千円という破格の値段。
イメージとしては、リクルートのスタディサプリのビジネス版。事業責任者の高松さんも同社出身だ。ただ、こちらはライブなので、その分、損益分岐点は高い。
後は、講義の質次第なのだけど、講師陣がなかなか良い。内容も良いし、数百人のオンライン受講者を相手にZoomでどうすれば効果的に講義ができるか、工夫されている。オンラインで、かつ、皆知らない同士。Zoomの自動グループ分け機能（Breakout room)を使って、「さぁ、グループワークしてください」と言われても、どうしていいか分からず、気まずいまま時間が過ぎてしまうこともしばしば。そのために、チアと呼ばれる明るい担当者まで付いて緊張をほぐし、場を盛り上げてくれる。
2か月目に入って、契約更新者にはZoom懇親会も開催された。何度もグループワークをやっているので、顔見知りのメンバーも増えてきた。巣ごもりで人恋しくなり、またこうした知識は本だけではなかなか身につかないし、リアルセミナーに通うには時間とお金が厳しいという人にオススメ。
2020年07月21日
外資系投資銀行のエクセルをあなたにも
5月、6月と連続で、早稲田大学イノベーション・ファイナンス研究所のオンラインセミナーがあり、参加。講師は、Morgan Stanley→M3→Smart Newsの熊野整氏（グロービスMBA）。モデレーターは旧知の樋原先生。
5月のタイトルは、「スタートアップ企業が財務計画を考える上での問題点」。6月は、「スタートアップ企業の資本政策の考え方」。通常、こういう大学でのセミナーでは概念論が語られることが多いが、今回うれしい驚きだったのが、EXCELを使った実務的なものだったこと。
熊野さんは、新卒でモルガンスタンレー証券に入って、新入社員研修のほとんどはEXCELの使い方だったという。これが出来なければ、投資銀行で生き残れない。この点は、どの投資銀行も同じで、私も別の米系投資銀行に入社した後輩から、「まず、ブラインドタッチ、次に、マウスを使わずにショートカットで全部出来るようになるまで徹底的に教え込まれた」と聞いている。
私が新入社員の頃だった80年代はまだPCは普及しておらず、ワープロで資料作成する程度。電卓で計算した結果を、ワープロで清書して提案書にしていた。その後、LBSに留学して、初めて、表計算ソフト（Lotus 1-2-3)で財務諸表を作成したり、統計解析を学んだ。
問題はその後で、90年代以降、Lotus 1-2-3はすっかりEXCELに取って代わられ、せっかく使い慣れた1-2-3は使われなくなる。互換性の問題で、私もしぶしぶEXCELに移行し、2日間のEXCELセミナーを自費で受講した。
今回のセミナーで衝撃を受けたのは、熊野さんのEXCEL操作の素早さと正確さ、そして表の見易さ。それで、これは学びなおさねばと思い、早速、本を取り寄せて練習してみた次第。この本は2015年の出版なので、今のEXCELとは違う部分もある。
例えば、熊野さんの本では、最初に見やすくなるよう、「行の高さ」をデフォルトの「13.5から18に変える」と出てくるが、私が使っている2016ではデフォルトが18.75になっていて、熊野さんの推奨よりもむしろ大きい。これだけの違いのために、設定しなおすのも手間なので、とりあえずデフォルトのまま使っている。
まずは、フォーマットのルール統一が先決で、「わかりやすく体裁が整ったエクセルの表を作れるというだけでなく、会社全体の業務の効率化、仕事の質の向上にもつながる」という。「フォーマットの緩みは気の緩み」「フォーマットの間違いはチーム全体の責任」だという。
はじめに一か所でも計算を間違えたら、数十億円の金額のズレが生じる、という強烈なプレッシャーに耐えながら、完璧なエクセル計算を実現していく。これが投資銀行の現実であり、顧客に提供している価値。・各人が思い付きでエクセルを作るので、とても見ずらい・計算チェックの仕方がわからないので、いつまでも計算ミスが減らない・必要以上に難しい計算をしているため、周囲が混乱におちいる・エクセルのショートカットを知らないので、作業に膨大な時間がかかる・エクセルで収益計画を作りたいけど、何から始めたらいいか分からない19：最初に取り組むべきはフォーマットのルール徹底見やすいフォーマットのルール化は、わかりやすく体裁が整ったエクセルの表を作れるというだけでなく、会社全体の業務の効率化、仕事の質の向上にもつながる。58：行・列を隠す（グループ化）「非表示」は使わない。セルが隠れていることが明示されないので、気づかない。
2020年07月20日
いかに成果をあげ、成長するか
日本で一番有名なビジネス系自己啓発書だろう。プロフェッショナルを目指す人はほとんど読んでいる本で、皆さん一家言ある。今更紹介する必要もないので、本blogで書いたことはなかった。今回は、目下失業中なので、仕事の見直しのために改めて読んでみる。
ドラッカーの場合、毎年夏に2週間ほど自由な時間をつくり、それまでの1年を反省していたという。アメリカでは夏休みを2週間取ることが一般的だが、重要なのは、それを仕事の見直しの時間に当てていたということだろう。
そこで、「コンサルティング、執筆、授業のそれぞれについて、次の1年間の優先順位を決める」。
＊どうすれば一流の仕事ができるのか自らをマネジメントし、成果をあげ、成長するために行うべきこと。●ポスト資本主義社会これからは「知識」が経済活動の中心的な資源。・目標とビジョンを持つ・神々が見ていると考える・新しい仕事が求めるものを考える●「強み」を知るフィードバック分析：毎年、期待と結果を照合する。●集中最も重要なことから始め、しかも、一度に一つのことしかしない。●真に意味のある仕事に集中するために、生産的でなくなった仕事を捨てる仕事を定期的に見直し、「まだ行っていなかったとして、今これに手を付けるか」●人の寿命のほうが組織の寿命より長い若い頃に就職した組織が、ずっと存続するとは限らない。知識労働者は、第2の人生、第2の仕事を持つことが重要。
2020年07月19日
聖者のかけら
著者は、九州大学で博士号を取った言語学者。学者で作家というのも珍しい（学者は意外と忙しい）。前作の『数の女王』がなかなか面白かったので、読んでみる。
「旅先のウィーンで滞在したホテルの目の前にシュテファン大聖堂があり、宝物庫の一角にいろいろな聖人の骨や歯が展示されていて。米粒くらいの大きさの遺物にまで全て説明が付けられており、そのあまりの執念に当てられて、気分が悪くなってしまったんです」（クロワッサンonline著者インタビュー）
物語は、史実とフィクションが混じり合って展開していく。聖フランチェスコの遺体が行方不明になったというのは史実らしい。「フランチェスコ会というのは、アッシジ出身の修道士フランチェスコが1208年に創立した托鉢修道会。フランチェスコは豊かな商人の子であったが、あるとき信仰に目覚め、家を捨てて清貧の生活に入った。その仲間は「小さき兄弟会」といわれが、次第に修道院運動の推進団体として重要な存在になっていった」という（世界史の窓）。
本書が書かれるきっかけになった上の著者の体験にもあるが、中世ヨーロッパでは、「聖遺物」のコレクションが盛んで、これを持つことが権威であり、また財産であったらしい。当然、これを巡る盗難や詐欺などの事件が起こる。
いくら聖人のものであっても、遺体の一部を身近に置いておくというのは、日本人にとってはなじみがない。欧州のキリスト教教会に行くと、裏の墓地だけでなく、教会内部の至る所に墓があり、そこに遺体が埋められている。どうも、遺体に対する感じ方に違いがあるようだ。
245：悪魔は一度憑いた人間には何度も憑くし、良くなったかと思った頃にまた憑く。そして憑かれた人間はたいてい、喜怒哀楽が激しくなる。308：アッシジの人々には適地として認識されているペルージャ8年前の1244年、皇帝派の貴族たちから逃げるようにしてローマを離れ、長らくリヨンに滞在して居た教皇が去年、ようやくここまで戻ってきた。423：破門されたまま死ぬ恐怖その恐怖がキリスト教世界を覆っているからこそ、教皇は破門を武器に、凶暴で信用のおけない王侯貴族たちとも渡り合える。497：「フランチェスコは、『今現在、自分が生きていること』を、全身で感じながら生きていた。それこそが、彼の清貧の本質ではなかったかと思うのです」（ピエトロがエリアに）517：「苦しみには、終わりがある」フランチェスコから東方に遣わされたピエトロの父が異国で説教して。
2020年07月18日
ヴァイキングの序曲と遁走曲
日本からイギリスに行くと、「大人の国にやってきた」という感じがするのだけど、留学して初めて接した北欧人は物静かで優しく、さらに大人という感じがした。大柄だが繊細。何事にも余裕がある感じなのだ。
そんな彼らの祖先が、ヴァイキングとして何世紀にもわたりヨーロッパで恐れられていたというのは面白い。厳しい北洋の海を渡って、アイスランドやグリーンランド、果ては、北米にも達していたことが現在ではわかっている。これは1492年にコロンブスがアメリカ大陸を「発見」するよりも何世紀も前のことだ。
793年のリンディスファーン島（イングランド）襲撃に始まったヴァイキング襲来は、イングランドの東海岸とフランス北部に広がっていく。やがて、イングランドは1016年にデンマーク王クヌートに敗れ、デーン朝が成立。そして50年後の、1066年にはフランスのノルマンディー地方に定着していたヴァイキング（ノルマン人）に征服され（ノルマン・コンクエスト）、ノルマン朝となる。
つまり、11世紀の時点で、イングランドはアングロサクソン系からノルマン系に支配層が交代しているのだ。ケルト人→ローマ帝国属国→アングロサクソン→ノルマン・コンクエストと様々な民族が入り乱れ、さらには植民地の言葉まで入り込んだため、英語の単語数は世界一多いといわれる。
283：ヴァイキングが北大西洋を渡って西方へ広く進出していった過程は、ポリネシア人が太平洋を渡って東へ広く進出していった過程と同じように、われわれにとっては、示唆に富んだ「自然実験」。ヴァイキングたちが出会った先住民イヌイットは、グリーンランドの環境問題に対して、ヴァイキングとは大きく異なる解決策を講じていた。その小さな実験が5世紀後に終了したとき、グリーンランドのヴァイキングたちはすでに全滅していて、その土地は無条件でイヌイットの手に戻った。286：ヴァイキングの勃興中世ヨーロッパ文明の基礎となる要素が、どれも1万年以上前に、南西アジアの「肥沃な三日月地帯」で出現している。その地域から、世界初の作物と家畜、車輪を使った輸送法、銅、次いで青銅と鉄の製造法が現れ、町と都市、首長制と王制、体系化された宗教が生み出された。そうしたすべての要素が、紀元前7000年ごろ、アナトリアからギリシアに農業が伝わったのを皮切りに、ヨーロッパ南東部から北西に向かった徐々に広がりながら、ヨーロッパを変容させていく。肥沃な三日月地帯から最も隔たった場所、ヨーロッパの辺土に位置するスカンディナヴィアがそのような変容を遂げたのは、ヨーロッパでは最も遅い時期、紀元前2500年ごろのことだった。290：ヴァイキングによる襲撃は、793年の6月8日に突如として始まる。イングランド北東部の沖合に浮かぶリンディスファーン島に、裕福だが無防備な修道院があり、同日、ヴァイキングがそこを襲撃したのが端緒となった。以来、ヴァイキングたちは、海が比較的凪いでいて航海しやすい夏を選んで襲撃を繰り返していたが、数年たつ頃には、秋にわざわざ母国へ戻るのをやめ、めぼしい海岸に越冬用の居留地を築いて、それまでより早く、春のうちに襲撃に出られるようにした。293：自己触媒作用千年にわたってスカンディナヴィアにとどまったまま、ヨーロッパの他地域に目を向けなかったヴァイキングたちが、なぜ793年を境に広汎な進出を始め、かくも急速にその活動の最盛期を迎えたのだろうか？そしてなぜ、その活動は、以後300年足らずで失速し、やがて完全に停止したのだろうか？歴史上のどんな進出であれ、その契機となったのが「押す力」（母国の人口増加による圧力、好機の減少）なのか「引く力」）外国を植民地化できる好機、未居住の区域の存在）なのか、あるいは双方の力が働いたのか。ヴァイキングの場合、押す力とは、母国での人口増加と王権の強化であり、引く力とは、入植できる無人の新しい土地や、居住済みでも裕福で無防備ゆえ略奪可能な土地が外国にあったことだ。
2020年07月17日
マヤの崩壊
マヤ文明とは、紀元前1000年ごろから16世紀にかけ、ユカタン半島を中心に、現在のメキシコ、グアテマラ、ホンデュラスなどで栄えた文明。各地の遺跡からは、宗教的な儀式に使ったとみられるピラミッドや、複雑なマヤ文字が刻まれた碑文などが見つかっている。
それだけ栄えた文明がなぜ滅びたか？これは長年の謎だった。近年の調査で分かったことは、
�‘�手可能な資源の量が人口増加の速度に追い付けなくなった
�⊃肯喃鵬�と丘陵地の侵食→農地面積の減少、旱魃、地力の枯渇
�８詐�する資源を巡って、戦闘行為が増加
ことだという。
少なくとも500万人の人間が、コロラド州（27万㎢）より狭い地域にひしめき合っており、熱帯雨林地帯である同地の農業生産力は低かった。現在のアメリカで、農民は全人口の2%に過ぎない。農民一人が平均して125人の他の人間に食料供給（輸出含む）しているという。日本の農民は全人口の3%。食料自給率（カロリーベース）が38%だから、一人当たり13人ほど。生産額ベース（66%)でも22人と、いかにも生産性は悪い。
ところが、マヤでは、農民一人が生産できる量は、自分と家族に必要な量のわずか2倍にしかすぎず、マヤ社会の構成員の少なくとも70%は農民だったと推定される。このため、マヤでは、食料の供給と輸送に限界があったせいで、どの小国も、全地域を統一して帝国を建てることができなかった。
小国の王たちは、よりみごとな神殿をより分厚い漆喰で塗り固め、互いに負けまいと懸命になった。その姿は、より巨大なモヤイ像を作ろうと競ったイースター島の首長たちにそっくりだ。イースター島の首長たちも、マヤの王たちも、現実の重大な脅威を前にしながら、なんら能動的な打開策を講じなかった。
ことだという。
少なくとも500万人の人間が、コロラド州（27万㎢）より狭い地域にひしめき合っており、熱帯雨林地帯である同地の農業生産力は低かった。現在のアメリカで、農民は全人口の2%に過ぎない。農民一人が平均して125人の他の人間に食料供給（輸出含む）しているという。日本の農民は全人口の3%。食料自給率（カロリーベース）が38%だから、一人当たり13人ほど。生産額ベース（66%)でも22人と、いかにも生産性は悪い。
ところが、マヤでは、農民一人が生産できる量は、自分と家族に必要な量のわずか2倍にしかすぎず、マヤ社会の構成員の少なくとも70%は農民だったと推定される。このため、マヤでは、食料の供給と輸送に限界があったせいで、どの小国も、全地域を統一して帝国を建てることができなかった。
小国の王たちは、よりみごとな神殿をより分厚い漆喰で塗り固め、互いに負けまいと懸命になった。その姿は、より巨大なモヤイ像を作ろうと競ったイースター島の首長たちにそっくりだ。イースター島の首長たちも、マヤの王たちも、現実の重大な脅威を前にしながら、なんら能動的な打開策を講じなかった。
251：ディエゴ・デ・ランダ司教（1549-78の大半をユカタン半島）ランダは、一方で史上屈指の悪しき文化破壊行為に打って出て、異教信仰粉砕の名分のもとに、マヤ文字で書かれた書物をすべて燃やしてしまった。その結果、マヤ文字の書物はわずか4点しか現存していない。他方でランダは、マヤ社会に関する詳細な記述を残し、また、ある情報提供者から、マヤ文字に関して誤った解説を受けたが、四世紀近くを経たのち、その内容が判読の緒になることが明らかにされた。252：社会機能の崩壊を理解するための５つの枠組みという観点�／肯喃鵬�と侵食��気候変動（旱魃）�Ｆ睇瑤療�対関係�げζ瓜痢�貴族同士の競争は、社会に内在する問題の解決より戦争と石碑の建造を常に重視258：生産を行わない消費者何人養えるかは、その社会の農業生産力にかかっているアメリカ〜農民は全人口の2%。農民一人が平均して125人の他の人間に食料供給（輸出含む）古代エジプト〜農民一人で自分と家族に必要な量の5倍の食料生産マヤ〜農民一人が生産できる量は、自分と家族に必要な量のわずか2倍→マヤ社会の構成員の少なくとも70%は農民。273：考古学者たちは、長い間、古代マヤ族が平和主義の穏やかな民だと思ってきた。今では、決着のつかない峻烈な戦争が絶えず繰り返されていたことがわかっている。その原因は、アステカ、インカによって統合された中央メキシコ、アンデスなどと違い、マヤでは、食料の供給と輸送に限界があったせいで、どの小国も、全地域を統一して帝国を建てることができなかったからだ。279：マヤ崩壊が語るもの�‘�手可能な資源の量が人口増加の速度に追い付けなくなった�⊃肯喃鵬�と丘陵地の侵食→農地面積の減少、旱魃、地力の枯渇�８詐�する資源を巡って、戦闘行為が増加少なくとも500万人の人間が、コロラド州（27万㎢）より狭い地域にひしめき合っていた281：マヤの王たちも、よりみごとな神殿をより分厚い漆喰で塗り固め、互いに負けまいと懸命になった。その姿は、これみよがしに浪費を重ねる現代アメリカのCEOたちをほうふつさせる。（中略）イースター島の首長たちも、マヤの王たちも、現実の重大な脅威を前にしながら、なんら能動的な打開策を講じなかった。
2020年07月16日
古の人々
第4章は、「古の人々〜アナサジ族とその隣人たち」。アナサジ族というのは、現在の米国ニューメキシコ州の北端、チャコ渓谷にあるプエブロ・ボニート遺跡を築いた「古の人々」。600年頃から1150-1120頃まで5世紀以上にわたり、この渓谷に建物の高さ5-6階建てという都市文明を築いたが、突然消えてしまった。「アナサジ」というのは、その600年後に遺跡を発見したナバホ族が付けた「古の人々」という意味らしい。
良く知られたように、アメリカ先住民（ネイティブ・インディアン）は、氷河期にアジアから凍って地続きだったベーリング海を渡ったモンゴロイド系狩猟採集民族。温かい土地を求めて、そこから南下していった。
そのうちの一部が、このチャコ渓谷に定住し、農業を始めたようだ。ここは当時今ほど深い渓谷ではなく、地下水位が地表近くにあり、灌漑しなくても農業が出来た。周辺は森で、燃料や野生動物の供給源であった。
この文明が終焉したのは、一つには、人口が増えて食料重要が高まり、森林を農地に変えてしまったこと。そして、増えた農地を灌漑するために、水を引いたが、これによって川床の侵食が進み、地下水位が下がって逆に作物が採れなくなってしまった。
食べ物は無くなり、人口は多い。最後は、イースター島でも起こったのと同様、残り少ない資源を争って紛争が起こる。ここにも人肉食の痕跡が残っている。
湿潤温暖な日本では、これほどの悲劇が起こることが少なかったのは幸い。日本人が他民族に比べて特段賢いとは思わず、日本でも後の影響を考慮せず、資源をあるだけ獲り尽くしてしまったことは何度もある。しかし、山が裸になっても日本では何十年かすれば植生は戻ってくる。
ところが、それほど湿潤温暖ではない黄河平原や、アメリカ西部では一度失われた森林は戻らず、砂漠化が進んでしまう。
235：ふたつの環境問題が進行したせいで、作物の生産高が減り、事実上チャコ峡谷内での木材供給が断たれたにもかかわらず、アナサジがこの二つの問題に対する解決策を見つけ出したことで、1029年に始まった建設の躍進期を中心に、人口が増え続けた。特に湿潤な気候が続いた数十年間は、建築物が一挙に増えた。降雨量が増えれば食料も人も増え、建築物の需要も増えるからだ。237：チャコの社会は小型の帝国へと姿を変えた。住民は、じゅうぶんな食事を摂りながら贅沢に暮らす上層階級と、貧しい食事を摂りながら労働に従事して作物を育てる農民とに二分された。239：衰退と終焉プエブロ・ボニートと近隣のチェロト・ケトルのグレートハウスにおいて、年輪年代法により最後の梁材とされた木は1117年に切られ、チャコ峡谷におけるほかの最後の梁材は、どれも1170年に切られている。ほかのアナサジ遺跡には、人肉食の痕跡も含めて、紛争のあった証拠がさらに数多く見受けられる。
2020年07月15日
イースター島に黄昏が訪れるとき
太平洋の孤島イースター島、といえばロマンチックに聞こえる。よく知られている通り、島には巨大なモアイ像が林立し、世界遺産に登録されている。実際のところ、すべてのモアイ像は引き倒されていたのだが、高松市にあるクレーンメーカー「タダノ」の協力で1988年から7年かけて15体のモアイ像が「アフ・トンガリキ」祭壇に建て直された。
それでは、なぜ、モアイ像は建てられ、そして引き倒されたのか？それが本章のテーマ。その背景には、文明による自然破壊があった。
もともと、イースター島に住み着いたのは、他の南太平洋の島々と同じく、東南アジアからやってきたポリネシア系民族だ。やがて文明が栄え、部族の守り神としてモアイ像を集落の周りに建てるようになる。これが、そのうち、より大きなモアイ像をより多く建てるよう競い合うようになる。
一方、建築のため、あるいは燃料にするために森林破壊が進む。近くに他の島のない絶海の孤島イースター島では、他の島から木材を取ってくることもできず、ついには、漁に使うカヌーも作れなくなり、食糧事情は悪化する。
食糧事情が悪化すると、部族間対立が激しくなり、相手のモアイ像を引き倒すことから始まり、やがては殺戮が始まる。こうして、18世紀にヨーロッパ人が訪れるようになるまでに、モアイ像を建てた文明はほぼ絶えていた。残っていた住民も、ヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘の蔓延で激減している。
19世紀、ペルーがスペインから独立してからは、ペルー本土の鉱山などでの労働力として、残っていた３千人ほどの住民のうち半数の1500人が奴隷として連れ去られている。
とまぁ、踏んだり蹴ったりなのだ。元はと言えば、自分たちの文明を、自然破壊によって自ら葬ってしまったところから、民族の苦難は始まっている。かつて島を覆いつくしていた森が半分に減ったとき、このまま破壊が進めばどうなるかを考える人はいなかったのだろうか？いたとしても、その声が為政者に届くことはなかった。
巨石像は残ったものの、文明は滅びた。滅びた文明は、現代の我々にとって、良い教訓になる。
125：ラノ・ララクは、直径約550mの円形に近い噴火口で、その内部に至る細い通路が、外周の低地から急こう配で火口縁に上り、ふたたび急こう配で火口床の湿原沼へ下りている。現在、この付近に住む者はいない。噴火口の内外の壁には、397体の石像が散在している。耳が長く足のない男性の上半身を一様の手法で表したこの石像は、そのほとんどが約4.5mないし6mの高さを持つが、最大のものは20mを超え、重量は10tから最高270tにも及ぶ。144：1862年から63年にペルーの奴隷船が1500人の島民を拉致し、1836年には天然痘の蔓延が2件記録されていて、（中略）1770年以降定期的に島を訪れていたヨーロッパ人が持ち込んだ別の天然痘の蔓延があり、さらに、17世紀には人口の激減も始まっていた。171：倒されるモアイイースター島を総体的に描けば、太平洋における森林壊滅の最も極端な事例となり、世界的にも、かなり極端な部類に属する事例と言えるだろう。なにしろ、森林が丸ごと姿を消したうえ、全種の樹木が絶滅したのだ。その結果としてただちに島民に襲い掛かったのが、原料の欠乏、野生食料の欠乏、作物生産量の減少という事態だった。172：野生の食料源はほとんど失われた。航海用のカヌーが製造できないので、初めの数世紀は農民の主要な食肉だったネズミイルカが、マグロなどの外洋魚と同様、事実上貝塚に骨を残さなくなった。175：武官によるクーデターが起こった1680年ごろになると、士族同士の争いは、より大きな石像を建てることから、あらかじめ設置しておいた石板目がけて敵方の石像を引きずり落とし、破壊することへと変わっていった。こうして、（中略）イースター島の社会も、人口、重要建造物、環境への侵害がすべて最盛期に達した直後に崩壊する。178：黒人狩り1805年から始まり、1862-63最盛期イースター島史上最も苦難に満ちたこの時代には、20隻余りのペルー船がおよそ1500人（生存者の半分）の島民を連れ去り、競売にかけて、ペルーの鉱山における鳥糞石の採掘を始め、さまざまな雑役を強制した。拉致された島民たちのほとんどは、囚われた状態のまま命を落とした。
2020年07月14日
モンタナの大空の下
アメリカの州のうち半分くらいには行ったことがあるのだが、モンタナには足を踏み入れたことがない。風光明媚な場所で、本書の著者ダイアモンドも長年ここに別荘を持ち、毎年何か月も過ごしているそうだ。
表面的には大自然に恵まれた平和な場所に見えるモンタナも、そこで暮らす人にとっては、さまざまな問題、軋轢があるようだ。その一つが、廃鉱から流れ出る有害物質。かつてモンタナには全米屈指の2万を超える鉱山があったそうで、それらのほとんどはすでに閉鎖されている。現在の規制が始まる前に開発され、閉鎖されたので、汚染物質が流出し続けているという。
もう一つは、新旧住民の対立。「数世代にわたってモンタナに住んできた一家に生まれ、鉱業と林業と農業という三本柱に支えられた伝統的なライフスタイルと経済活動とを尊重する人々と、反対に、最近モンタナにやってきた人々や、ある季節にだけこの州を訪れる人々」
州外出身の移住者の多くは、「裕福で、モンタナに二軒目か三件目、ときには四軒目の家を構え、釣りや狩りやゴルフやスキーのために、毎年ごくわずかな期間だけ滞在するような人々」である。一方、伝統産業はいずれも衰退し、古くからの住民は貧しい。
別荘族は、別荘地から出ることは少なく、たまに街に出るときは、「原住民を覗いてみよう」という雰囲気らしい。リゾート開発は少々の雇用ももたらしたが、良い仕事は少ないので、若者はほとんど州外に教育と就職のために出てしまうという。この状況は、日本でも同じ。ただ、アメリカは地理的に広い上、所得格差もすごいので、新旧住民の対立も際立つのだろう。
気になるのは、今回のコロナ禍で顕著になった地方の閉鎖性。世界的パンデミックという特殊事情であるとはいえ、日本だけに限れば、パニックになる状況ではない。感染者の絶対数がけた違いに少ない上、重症者、死者に至ってはさらに少ない。三密での長時間の濃厚接触以外ではほとんど心配ないことも分かっている。にもかかわらず、地方の神経質さは異常に見える。
一つにはマスコミの報道姿勢がある。東京の感染者数を「200人を超えた」と報道する一方、重症者も死者も全く増えてないことはほとんど報道されない。危機を煽って視聴率を稼ぐのはマスコミの常とう手段だが、受信料で成り立つNHKまでもが同じなのはどうしたことか。
もう一つの可能性は、都市と地方間での潜在的わだかまりが表出しているのではないかということ。徳島では、初期に県外でコロナ感染した移住者が地元にいられなくなって引っ越したという。ここは元々都市部からの移住が多いことで「成功例」としてもてはやされていたが、それを快く思っていなかった旧住民が多くいたということだろう。
60：モンタナにはおよそ2万の廃鉱があり、なかには最近閉鎖されたものもあるが、一世紀以上を経たものが多く、そこからは半永久的に硫酸と有毒金属が流出し続けることになる。これらの鉱山の大多数には、金銭的な債務を負う経営者が残っていない。82：モンタナで、ことによると世界中でいちばん明確な形で地球温暖化の影響を被ったのは、グレーシャー国立公園かもしれない。（中略）19世紀後半、自然科学の専門家たちが初めてグレーシャー国立公園近辺に足を踏み入れたときには、150の氷河が確認されたが、現在残っているのはわずか35に過ぎず、そのほとんどが、当初報告された大きさに比べると、小さな破片としか言えない規模まで縮小している。94：在住者と新来者の衝突数世代にわたってモンタナに住んできた一家に生まれ、鉱業と林業と農業という三本柱に支えられた伝統的なライフスタイルと経済活動とを尊重する人々と、反対に、最近モンタナにやってきた人々や、ある季節にだけこの州を訪れる人々。そういう過酷な経済状態から自然の成り行きとして、古くからの居住者と、州外出身の移住者――ことに、裕福で、モンタナに二軒目か三件目、ときには四軒目の家を構え、釣りや狩りやゴルフやスキーのために、毎年ごくわずかな期間だけ滞在するような人々――とのあいだに反目が生まれる。109：数十年前、モンタナの一人当たり個人所得は合衆国の十傑に入っていました。今は50州のうち49位。原因は、採取産業（林業、石炭、鉱業、石油、ガス）の衰退です。実入りがよくて組合も完備した雇用が失われてしまいました。
2020年07月13日
滅亡と存続の命運を分けるもの
名著『銃・病原菌・鉄』の著者による、「人類の過去に起こった文明崩壊」に関する比較研究。自然科学と違い、社会科学では実験による研究が難しいが、ほぼ同じような社会に違った要素がもたらされた時、違う結果になったのであれば、その要因が原因であると推定できる。
本書のエッセンスは、30pほどある長いプロローグにほぼ集約されている。まず、事実として、人類の歴史は環境破壊の歴史であったということだ。一人一人の力は大したことがないものの、唯一大規模な集団行動が取れる人類は、向かうところ敵なしで狩りをし、たくさんの大型動物を絶滅に追いやってきた。
人口増大により環境被害が進んだところに、気候変動が起こると、人は残された資源をめぐって争い、殺戮が起こった。昔の話ではなく、悪名高いルワンダのジェノサイドでも、資源が十分でなくなって住民の不満がたまっているところに、民族抗争が導火線となった。
「後世の人間の目で見るとあまりにも明らかな危険を、ひとつの社会がどうして見逃すことが出来たのか？」というのが本書のテーマだ。グローバル化した現在では、人類史上初めて、グローバルな衰退という危機に直面している。
14：グリーンランド南西部、ノルウェー領時代に司教座がおかれていたガルザル農場は、500年以上前に廃棄されてしまった。グリーンランドのノルウェー人社会が完全に崩壊したからだ。数千人の住民は、飢え死にするか、内乱もしくは戦争で命を落とすか、よそへ移住するかで、生存者が一人もいなくなった。16：過去の社会がみずからの環境を害することによって弱体化していく過程�／肯喩穏里反∪固鵬���土壌問題（浸食、塩性化、地力の劣化など）��水資源管理問題�つ蚕辰陵雎��サ�介類の乱獲�Τ依莠錣砲茲觝瀝莠錣龍鄰燹Π鞠��Э邑�増大�┛貎妖�たり環境侵害量の増加22：環境問題をめぐる差別と過去賛美ハワイ先住民やマオリ人は、自分たちの祖先がハワイやNZで進化してきた鳥類の種の半数を絶滅させたという古生物学者の説を聞かされることを好まないし、アメリカ先住民も、アナサジ族が合衆国南西部の森林の一部を破壊したと考古学者に言われるのをいやがる。23：環境資源を損なうことなく維持していくのは、そもそもの初めから、つまり、ホモ・サピエンスが発明の才や能率という概念や狩猟技術を開花させた5万年ほど前から、むずかしい営為だった。約4万6千年前にオーストラリア大陸で行われた人類最初の入植と、そのすぐあとに起こった大型有袋動物やその他の大型動物の絶滅に始まって、それまで無人だった陸塊に人間が入植するたび、大型動物の絶滅という波が起こった。24：過去の人々は、絶滅や追放に値するほど無知無能な環境の管理者ではなく、かといって、今日のわたしたちにも解決できない問題をみごと解決した全能で良心的な環境保護主義者でもない。26：崩壊についての潜在的な要因�ヾ超�被害��気候変動�６疥戮療�対集団�ねЧヅ�な取引相手�ゴ超�問題への社会の対応（どの社会においても重大な要素）30：森林破壊高地ニューギニア、日本、ティコピア島、トンガは森林の管理に成功して繁栄。イースター島、マンガレヴァ島、ノルウェー領グリーンランドは有効は管理策を施せず、崩壊。35：比較研究法今度は発展ではなく、崩壊に焦点を当て、環境面の脆さ、近隣社会との関係、政治制度、その他、社会の安定性に影響を及ぼすいくつかの「入力」変数などにつぃて、過去と現在の多くの社会を比較する。36：太平洋上の島々の森林破壊を誘因とする崩壊先史時代の太平洋の人々は、自分たちの島の森林を、ほぼ無傷から壊滅状態までの様々な段階に破壊し、その結果、自分たちの社会に、長期存続から完全破壊までのさまざまなシナリオを演じさせた。40：ノルウェー領グリーンランド環境被害、気候変動、ノルウェーとの友好的な交流の喪失、イヌイットとの敵対関係の発生、そしてノルウェー領グリーンランドという名の政治的、経済的、文化的な舞台。グリーンランドは、実験室内で行われた崩壊の実験にいちばん近い実例。41：ルワンダのフツ族とツチ族の抗争人口増大、環境被害、気候変動の三要素がダイナマイトを形成し、民族抗争が導火線。42：後世の人間の目で見るとあまりにも明らかな危険を、ひとつの社会がどうして見逃すことが出来たのか？その社会の終焉は住民自身の落ち度だと言っていいのか？それとも、そうではなくて、住民は解決不能な問題の悲しい犠牲者だったのか？過去の環境被害のどれほどが無作為かつ無自覚で、どれほどが結果をじゅうぶんに承知した人間による意図的なものだったのか？
2020年07月12日
一般財団法人海外産業人材育成協会（AOTS）
ブラジル関係者から依頼があり、ブラジルの日系経営者らを対象にWebinarを実施(ボランティア）。AOTSという団体で、「開発途上国の産業人材を対象とした研修および専門家派遣等の技術協力を推進する人材育成機関」だという。発展途上国の人材育成といえばJICAが有名だが、AOTSは経産省の管轄で、「産業人材」に特化しているという。だが、JICAもこの分野をやっているので、重複していることは間違いない。予算は、海外を専門にする外務省管轄のJICAの方が断然多い。
私もAOTSを知らなかったので、Zoomプレゼン冒頭で、オンライン調査を実施した。その結果、日系人比率は57%で、その多くは、中小企業のオーナーだと分かった。次いで、大企業で管理職や専門職、技術者として働く日系3世を中心とする若手であった。AOTSのプログラムは日系人に限らないので、43%は日系人ではないが、本プログラムで日本で研修を受けたブラジル人ということになる。
話した内容は、
・日本でのコロナ禍の動向
・それが与えた現在の影響
・政府の対策
・今後の影響
だったのだけど、ポイントとしては、
・これまで調子のよかったところは悪影響を受けてないか、場合によっては業績が拡大し(除くインバウンド関連)
・元々、調子の悪かったアパレルや百貨店などはとどめを刺されたところも多い
ということ。
「あらゆるビジネスは変化対応業である」ので、新たな現実に対応していくしかないのだが、新たな現実が急に、そして、全面的に表れて対応できかねているというのが多くの企業なのだろう。これは、日本でもブラジルでも同じ。
そして、海外最大の日系コミュニティを持つ（200万人）日系ブラジル人としては、なんとか祖国日本と繋がっていたいという希望を感じた。日系オーナーはラブコールを送っているのだけど、日本企業は関心を持ってくれないという。
ブラジルは遠いし（時差もちょうど真反対の12時間）、文化も食べ物も違うし、政治も不安定。なので、資源ビジネスをしている商社などを除けば、日本企業の関心は低い。海外進出するなら、物理的に近いアジアか、大消費地である欧米というのが通常の選択になる。
では、どうしたらいいのか？ライセンシングから始めたらどうだろうというのが提案。技術やノウハウをブラジルの日系オーナー企業にライセンスし、ロイヤリティを得る。これであれば日本企業側のリスクはほぼない。
2020年07月11日
戦後日本の「知略」戦時指導者
本書では、戦略現象を「二項動態」的に把握したうえで、情況と文脈に応じて具体的戦略を実践していくことを「知略」と定義する。
『戦争論』のクラウゼヴィッツも、このことを「クー・ドゥイユ」(戦略眼）と呼んで認識はしていたが、その生成プロセスについては＜天才の閃き＞によるものとしている。
戦後日本の「知略」指導者として登場するのは二人だけ。一人は、戦後最初の首相を務め、日米安保条約の下での日本の独立を果たした吉田茂。もう一人は、1980年代に日米関係の再定義と国鉄や電電公社の民営化を成し遂げた中曽根康弘。
それから30年。未だ3人目の「知略」指導者は現れない。
411：過去の成功体験への過剰適応中核概念「情報処理」←戦闘においては情報の伝達や共有など情報処理プロセスのスピードが作戦の成否を分けることが多い。組織は、情報処理によって環境に適応する。情報は、組織が自らを革新しながら変化に対応していく原動力にはなりえない。創造性の源泉となるのは、人間が関係性のなかで主体的に意味づけ・価値づけをしながら行動する「知識」である。思い（暗黙知）を言葉(形式知）にし、言葉を実践（実践知）していくダイナミック・プロセスが、危機を打破する創造の世界の扉を開く。413：クラウゼヴィッツ「クー・ドゥイユ」(戦略眼）戦局の本質直感によってクー・ドゥイユとして出てきた戦略案は、その生成プロセスが無意識的・暗黙的であるがゆえに、どのように結論に達したのかという部分が漠然としている。＜天才の閃き＞「本質直感」「クー・ドゥイユ」の土台となる「相互主観性」には、リーダーの「共感」する能力が重要。ヒトラーと対照的に、度重なる失敗の末にようやく「共感」にもとづく「相互主観」を学んだスターリン。414：国際情勢に、日本は国家レベルで対応できているか国内も少子化が進み、「働き方改革」など本質論とは程遠い議論。いまほど「知略」を巡らす指導者が必要な時はない。戦後日本の「知略」戦時指導者・吉田茂安全保障を駆動する軍事と経済成長、さらに国家の自立と同盟国への依存を、二項動態的に把握。吉田にとってのプロットは復興と独立であり、スクリプトは親米・軽武装・経済優先。「吉田学校」で身体知化できるよう伝承。・中曽根康弘安全保障に関わる軍事と経済成長、自立と依存を二項動態的にとらえた。ただし、国際環境も日本の国力も、吉田の時代とは違う。吉田の「いま・ここ」と中曽根の「いま・ここ」は違う。プロット：平和と経済の国→政治と文化の国スクリプト：日本は経済的には大国でありながら軍事的には非核中級国家
2020年07月10日
「知略」とは
「知略」とは、戦略現象を「二項動態」的に把握したうえで、情況と文脈に応じて具体的戦略を実践していくこと、と定義されている。
西洋の戦略論の強みである分析的な因果推論に基づく「手段・目的アプローチ」が、予測し難く不確実で因果推論が難しい複雑な戦場では必ずしも有効ではない。
それを2500年も前に理論に取り込んでいたのが、『孫子』であり、その『孫子』も、中国の伝統的な「陰陽論」の影響を受けている。
西洋の戦略論の強みである分析的な因果推論に基づく「手段・目的アプローチ」が、予測し難く不確実で因果推論が難しい複雑な戦場では必ずしも有効ではない。
それを2500年も前に理論に取り込んでいたのが、『孫子』であり、その『孫子』も、中国の伝統的な「陰陽論」の影響を受けている。
さらに、「この中国の戦略論の伝統を中国革命の実践に生かしたのが、毛沢東。若き毛沢東は、中国の歴史や文化、哲学、特に伝統的な戦略論を熟知し、マルクスやレーニンの弁証法に学びながら、中国革命を軍事的にも政治的にも指導した実践的な知識人であり、『実践論』や『矛盾論』などの優れた著作を書いた思想家であった」という。
国民党軍に勝利し、政権を取った後は、「大躍進政策」で3000万人以上の国民を死に追いやった毛沢東。それが失敗して表舞台から追われると、今度は「文化大革命」を起こして再び中国を大混乱に陥れる。文化大革命では7000万人が犠牲になったと推定される。これらの犠牲者は日中戦争と内戦のそれをはるかに上回るのだから、何のための革命だったのか。
革命家であり、優れた戦略家として本書で取り上げられている毛沢東。創業者としては力を発揮するが、為政者には向かない人であったのあろう。
359：伸びきった後方連絡線のために、ドイツ軍の兵站が不足したことが機動戦失敗の主因ソ連軍は、大後方（シベリア・中央アジア）から鉄道網を活用し、モスクワに向けて兵員と軍事物資を送り続けた。さらに、ドイツ空軍が、モスクワに向かう活発な輸送を視認していたのに、攻撃しなかった。ドイツ軍首脳部は、ソ連にはすでに予備兵力はないと信じ切っていた。360：Battle of Britainの戦略目的＝戦略的持久チャーチルの政治戦略の目的は、自国の存続を図るために民主主義の大儀と、対ナチ抗戦の不屈の意思と能力を示すことによって、アメリカの全面的支援ないし参戦を勝ち取ること。362：アメリカ軍は、ベトナム戦争では消耗戦を戦い、戦場では一度も敗れたことはなかったが、戦争指導者はベトナム人民の民族独立戦争の本質を見誤って、解放戦線の戦術的破壊工作に対抗できなかった。364：孫子の兵法と毛沢東の「遊撃戦」機動戦に関して、2500年も前に書かれ、今も読み継がれている戦略論の古典『孫子』。中国の伝統的な「陰陽論」の影響。「奇・正」（すべて戦争というものは、正法を用いて敵を受け止め、奇法で打ち勝つものである）老子「水のメタファー」＝状況・帰結アプローチ水は地形や器に合わせて形を変えつつ、高いところから引くところへ流れる（あらかじめ決められた計画に合わせるのではなく、戦況や敵情に応じながら、敵の強いところより弱いところへ攻撃力が向かう）。そのように柔軟な水でも、ときには「激しい流れとなって、石をも浮かべて押し流す」。*一方では情況に従い、他方では我に有利な情況をつくり出す。366：戦略的ゲリラ戦「遊撃戦」の概念を生み出し、資源の質・量ともに圧倒的に格差があるにもかかわらず、蒋介石の指導する強力な国民党政府軍に勝利。ゲリラ戦の本質は、決して負けないが、決して勝てないという矛盾にある。正規軍とゲリラ戦の二項対立、「正」と「反」を止揚する「戦略的に組織化されたゲリラ戦」が毛沢東の弁証法における「合」。368：新総力戦中国戦略の本質を理解し発展させたのが、アメリカ空軍大佐ジョン・ボイド。戦いの「望ましい帰結」�＼錣錣困靴洞�服させること、��長期戦を避けること使用可能ならネットワーク(政治・経済・社会・軍事）すべてを使い、敵の政治的意思決定者の戦意を削ぐ。同時多発的な脅しと多重レベルでの攻撃を強調＝孫子が提案したもの。369：OODAループ戦略的「思考方法」→戦略思想にダイナミックな認知モデルを提供。観察（Observation）→判断（Orientation)→決定（Decision)→行動（Action)371：個人の意思決定過程（ダニエル・カールマン）システム１（直感的、無意識的、感情的でボトムアップ的だが、素早く結論が出る思考回路）システム2（恣意的かつ意識的、分析的、論理的でトップダウンだが、結論が出るまで時間のかかる思考回路）379：フロネシス普遍的な理性と文脈依存的な行為の両方。普遍的な価値合理性にもとづきながら、個々の文脈に応じていかに行為するかを判断する道徳を含む倫理的な実践知。380：実践知リーダー�〜韻ぬ榲�を創る能力共通善という価値判断基準に基づき、共通善に照らして正当な目的を創る能力。過去から現在に至る時間軸に沿って、さらには未来をも構想しようとする「歴史的構想力」を含む。�△△蠅里泙泙慮充造鯆昌襪垢詛塾�個別具体の微細な経験を総合する「部分―全体」の相互作用から現実を瞬時にとらえ、「いま・ここ」で進行している文脈に入り込み、五感を駆使しながら生きた現実の本質を直感する能力。��場をタイムリーに創る能力他者と文脈を共有し、共感を醸成していく能力であり、特定の時空間と人間の関係性を共有する「場」をタイムリーに創る能力。�つ彰兇靴針楴舛鯤�語化する能力メタファーなどのレトリックを使いこなして物語りを創る能力であり、「いま・ここ」での体験を当事者たちと共有しながらどう生きるべきかを問い、相互作用を通じて未来を創造する物語を紡ぎ出す力。�ナ�語を実現する政治力弁証法的議論から感情に訴える演説まであらゆる手段を巧みに使って政治的対立を止揚し、物語を実現するプラグマティックな政治力であり、実現するまで執拗にやり抜く力。��実践知を組織化する能力徒弟制度のように場と体験を共有して組織のメンバーに実践知を伝承したり、文脈に応じた適材適所の人材配置や人材抜擢、組織変革、資源配分、技術革新などを通じて、個人の実践知を効率的に組織知として総合する能力。399：ベトナム戦争では、戦局の本質は伝わらなかったジョンソン大統領から遠ざけられていた統合参謀本部は、非公式の別ルートを使ってジョンソンに進言しようとしたが、大統領は「マクナマラ・チャネルを通して」報告するよう言明した。マクナマラに報告された成果は、つねに誇張され、低く見積もっても30%は水増しされていた。マクナマラの信頼するワシントンのコンピュータは、このように信頼性の低い数字を根拠に、北ベトナム軍と解放戦線の残存兵力を綿密に計算していた。その結果、アメリカ国内では北ベトナム軍の主力部隊はほぼ全滅し、解放戦線組織は崩壊したとみなされるようになった。こうしてサイゴンのアメリカ軍スポークスマンは、テト攻撃の直前、1967年末に「戦争は勝ったも同然」と発表した。408：知略は、共通善という絶対価値を個別具体のなかで追求するという実践であるが、ミクロレベルの実践がマクロ的に「善き実践」となるかを決定づけるのは、一人ひとりの実践知を組織化できるかどうかにかかっている。組織的な賢慮は、共通善(普遍）と目の前で直面する現実(個別）を二項動態的に両立する「生き方」である。科学的アプローチが慎重に避けてきた戦略の実践的・主観的・未来創造的側面こそが、戦略論の実効性を決定づけている。変化する現実で、組織内外の人々との相互作用を高次のレベルで止揚させながら、戦略を定め、文脈や状況に応じて実行するプロセスに、今こそ正面から向き合わなければならない。
2020年07月09日
イギリス1941-1943〜守りから逆転へ
第二章は、Battle of Britainにおけるチャーチルが主役となる。バトル・オブ・ブリテンとは、第二次世界大戦初期でのドイツ空軍からのイギリス防衛空戦。連合軍がフランスから退却した際にチャーチルが国会で演説した、"The battle of France is over. The battle of Britain is about to begin."から来ている。
イギリスは、1918年に空軍省を設置し、世界で最初に陸海軍から分離した独立空軍を創設した。調べてみると、ドイツ空軍は1935年のドイツ再軍備宣言と同時に誕生している。アメリカ空軍の場合は、正式な誕生は1947年と戦後のことだが、1941年の第二次世界大戦参戦と同時に、米陸軍地上軍と対等の部門として再編成されており、陸軍地上軍や海軍と同等の発言権を持っていた。
そう考えると、最後まで陸軍・海軍と別れて編成されていた日本軍の組織的遅れに驚く。
100：イギリス空軍戦略のジレンマイギリスは、1918年に空軍省を設置し、世界で最初に陸海軍から分離した独立空軍を創設した。だが、防空体制の整備はスムーズには進まなかった。防空システムのコンセプトはすでに第一次世界大戦の末期に生まれていたといわれているが、戦後そのコンセプトにもとづいて具体的な措置がとられるまでにはしばらく時間がかかった。�〆瞳拡�に対する国内の抵抗�∪鑪�爆撃という用兵思想の影響爆撃機か、それとも戦闘機か？103：明暗分けたレーダー開発レーダー研究に関しては、実は当初、ドイツのほうが進んでいた。イギリスは、その研究を応用して実用化し、しかもシステム化したことによって、ドイツを凌駕した。164：Operations research統計解析を戦術分野に応用→対Uボート戦法172：チャーチルのリーダーシップ戦時「独裁」航空機生産省を新設し、国防大臣というポストをつくって、自らそれに就任→政治と軍事の最高指導者176：歴史感覚と大儀チャーチルの中にはロマンティシズムとリアリズムが共存。祖先マールボロ公爵以来の家系に根ざしたイギリスの「高貴な」歴史への信頼。178：部下への信頼第一次世界大戦でのガリポリ上陸作戦の失敗。首相となる直前の海相時代のノルウェー作戦も失敗。チャーチルは部下を信頼して権限を委譲し、実際の仕事を一任。と同時に、部下の仕事ぶりと成果をつねに細かく確認した。
2020年07月08日
独ソ戦〜勝利を呼び込んだ戦略と戦術の進化
研究者の間で、「第二次世界大戦の神髄は独ソ戦にある」といわれる独ソ戦。ドイツ・ソ連双方とも全人口の10%以上の死者という壮絶な戦いだ。
基本的には男性しか従軍しておらず、かつ、年齢的に前線で戦えるのは男性の半分くらいだから（当時の平均年齢は50歳）、全人口の25%が従軍してそのうちの10/25が死亡したと考えればなんと死亡率は40%だ。
死者数には民間人の犠牲者も含まれているため、母数は60%くらいで考えた方がいいかもしれないが、軍隊に限れば、3人に一人は死に、他の二人も無傷ではいられなかったと考えていい。
そして、この犠牲者たちは、ソ連ではドイツに攻め込まれた戦争前半に集中し、ドイツではソ連に押し返されてベルリンまで敗走した戦争後半に集中している。
ここで筆者たちがテーマにしたのは、「ソ連は歴史上類を見ないほどの敗北を喫しながら、どうして屈することなく、最終的に勝利することが出来たのか」だ。
一つには、最高指導者スターリンの変化だ。戦争前には、軍のクーデターを怖れ、軍幹部の大量粛清をしたスターリンだったが、独ソ戦が始まってからは参謀たちの意見を聞くようになった。1942年10月には党から派遣される軍へのお目付け役「政治委員」の職も廃止する。
そして、ソ連は勝利ではなく敗北に学び続けた。戦術と戦略は「進化」し続け、これは、最後まで緒戦の「勝利のセオリー」だった電撃戦に固執し続けたドイツ軍と好対比をなす。日本軍と同じで＜過去の成功体験への過剰適応＞したのだ。
81：スターリングラード
�（�的、人的に優位に立つまで、ソ連軍がひたすら耐え忍んだ。
市街戦で時間稼ぎ。
�∪鐔僂諒儿�
スターリングラードでは、ドイツ軍の得意とする電撃戦を封じ込めるため、歩兵を中心とした接近戦を挑んだ。
�７鎧�の専門家である将軍たちへの権限移譲
独ソ戦が始まる前、ソ連軍は党に隷従。戦時中には、将軍たちの地位と名誉を回復させ、活力を引き出す。1942年10月、党から派遣される軍へのお目付け役「政治委員」の職を廃止。
スターリンが参謀たちの意見を聞くようになった。対照的に、ヒトラーは戦況が悪化するにつれ、ますます作戦の細部に口を出した。参謀たちを疑い、経験や能力よりも、忠誠心で評価する傾向も強まった。その結果、ヒトラーの周りにはイエスマンしかいなくなり、有能な将軍たちのモチベーションは下がっていった。
83：戦術と戦略の「進化」
ソ連が勝利ではなく敗北に学び続けた。
対照的だったのがドイツ軍で、モスクワ、スターリングラード、クルスクと、彼らはつねに先手を打った。意表を突く奇襲で、ドイツ軍はいつも目標まであと一歩まで迫った。だが、物資や将兵は無尽蔵ではなく、日を経るにつれ、攻撃は弱まり、進撃する距離も短くなった。ヒトラーや軍幹部は、ソ連軍の実力や規模を過小評価していたので、こうした後半での息切れを想定せず、従来の「勝利のセオリー」だった電撃戦に固執し続けた。＜過去の成功体験への過剰適応＞
2020年07月07日
戦史に学ぶ逆転と勝利
今に続く日本的組織の悪弊の象徴ともいえる旧日本軍の弱点を明らかにした名著『失敗の本質』(1984)。以来、『戦略の本質』『国家経営の本質』と続いた「本質シリーズ」の最終巻。本書では、「勝者に共通する知略」を解明する。
研究対象となるのは、
・圧倒的に不利な条件から勝利を導き出した独ソ戦のスターリン
・英独戦のチャーチル
・インドシナ戦争のホー・チ・ミン
・対イラク戦圧勝もつかの間、非正規戦という泥沼の打破を迫られた米国
である。
勝者はいずれも、「攻撃と防御、機動戦と消耗戦を二項動態的に把握し、縦横無尽に使い分け、状況と文脈の変化に応じて具体的な戦略を実践している」という。このような戦略こそが「知略」なのだ。
序章3：戦略の本質を洞察し理解するためには、それがもともと軍事の分野で実践されてきたことに立ち戻る必要がある。そして、その本質を十分に洞察・理解すれば、戦略の本来の実践分野である軍事や安全保障でも、組織運営や企業経営でも、スポーツやゲームでも、戦略を賢く実践することができるようになるだろう。5：『失敗の本質』過去の成功体験への過剰適応。日本陸海軍は戦略の本質を洞察せず、日露戦争で成功した戦い方に固執したために、大東亜戦争という異なる状況では失敗してしまった。7：知略軍事戦略をめぐっては従来、攻撃と防御、機動戦と消耗戦、直接アプローチと間接アプローチといったような二項対立的なとらえ方があるが、われわれは、そうしたとらえ方よりも「二項動態」的なとらえ方こそ、戦略の本質を洞察していると理解している。
2020年07月06日
「いきなり！ステーキ」立て直しで「ペッパーランチ」売却へ
ペッパーフードサービスは「ペッパーランチ」の事業を東京の投資ファンド「ＪーＳＴＡＲ」におよそ85億円で売却します。また、国内で展開する「いきなり！ステーキ」と「ペッパーランチ」の合わせて114店舗を閉鎖し、200人程度の希望退職も募集するとしています。さらに会社では、現在、4つの店舗を展開するアメリカのニューヨークから完全に撤退することも決めました。
との報道（上記はNHK）が先週流れた。ファンドがどういう論理で買収したのか推論してみる。
ペッパーフードサービスの現状（2019/12決算）
時価総額：105億円
現預金：25億円
有利子負債：82億円
EV:162億円
（出典：MONEX銘柄スカウター）
今回買収対象となる「ペッパーランチ」部門
売上：88億円
セグメント利益：12億円
セグメント利益率：14%
今回の買収額85億円は、ほぼ売上高相当。出店のし過ぎで破綻しかかっている「いきなり！ステーキ」部門に対して、「ペッパーランチ」はその陰に隠れてほとんど話題にならなかったものの、実は着実に成長している(下図）。
仮に、売上がこの成長率を続けたうえで、利益率が元の水準に回復したとすれば、利益額は4年後に倍増し、買値85億円の倍で売れる可能性が高い。「いきなり！」の快進撃が始まってからのここ5年間は会社の経営資源の大半は成長部門である「いきなり！」に費やされていたはずで、その中でのこの年率14%の成長は立派。独立すれば、「ペッパーランチ」はもっと成長できる可能性もある。
ということで、J-STARの計算としては、ベースシナリオ「4年で倍＝IRR19%」、うまく再成長できれば「4年で3倍＝IRR31%」くらいだろうか。もちろん、買収には借入も使ってレバレッジをかけるはずで、ファンドリターンはこれの1.5x位になる。
リスクとしては、コロナ禍の長期化。しかし、ペッパーランチは夜の飲食中心ではないので、そうなった場合でも、影響は少なそうだ。
2020年07月05日
知的教養を深める美術館散策
「日本全国にある美術館の総数は1,100軒以上、世界的に見ても美術館の多い国」らしい。確かに、国立の美術館以外にも、各都道府県の美術館、そして市町村の美術館に、私設の美術館と全国至る所にある。
公立の美術館は、学校教育にも使うという意図があるのか、本書で取り上げられたような各時代の美術品がまんべんなく収集されていることが多い。資金力のある国立はともかく、都道府県の美術館レベルとなると、メリハリがなく、薄っぺらい印象。
その点、私設の美術館のほうが、コレクターの意図が反映されていて面白い。大抵は事業家が自分の好みで買ったものが核になっているから、本書が言う「目玉作品」が揃っている。
本書の最後に勧められているのは、
・原美術館（東京都）現代アート
・DIC川村美術館（千葉県）マーク・ロスコの最高傑作『シーグラム壁画』→写真
・大原美術館（岡山県）エル・グレコ『受胎告知』
と、全て私設。
・画集、ネットの画像からスタート本物と印刷物とでは、自分が感じ取れる「情報量」に歴然とした差がある。・企画展にはホームページを見てから行け必ずしも展示されたすべての作品を観る必要はない。美術鑑賞に慣れていない人、知識が浅いために鑑賞のコツが分からない人などは、「目玉作品」をまず確認する。・「5点集中」で鑑賞するポスターに採用されるような作品は、場合によってはキュレーターたちが何年も所蔵美術館と交渉の末に展示を許されたものなどもある。チケット代は、その一点を鑑賞するためにあるといっても過言ではない。・ギャラリートークは刺激の宝庫・有名作家でも「名画」は少ないどんな作家でも、力が漲ったいわゆる「最盛期」というのは少ない。個展では若い頃の荒々しい「発展期」、技術も感性も磨かれた「充実期」、いち芸術家として芸術を極めようとする「孤高期」の三つを意識して鑑賞。・図録は普通の画集より3倍価値がある研究者や専門家が本気で作っているもので、定価はほとんど採算度外視。・常設展で知的教養を磨く常設展では「5点集中」という鑑賞法を実践しやすい。常設展のよいところは、展示作品以外にも美術館自体を建築として楽しむ余裕もできる点。
2020年07月04日
知的教養を培う鑑賞スタンス
「感じるままに観ればいい」は日本特有で、嘘だという。これには、日本美術の歴史が深くかかわっており、日本人が西洋美術に触れたのが、明治の文明開化以降のことだったから。その頃の西洋美術は、「印象派」全盛の時代で、印象派の絵を見るには、専門的な知識・教養はさほど必要ではない。
しかし、それ以前の、神話や古典を基盤とした従来のアカデミズム絵画は、鑑賞するにあたって高度な教養が求められていた。そして、印象派以降抽象化が進んだ現代美術にも、読み解くための訓練が必要だ。
・「感じるままに観ればいい」の嘘「感性のおもむくまま観る」は日本特有のもの。日本人が西洋美術に触れたのが、明治の文明開化以降のことで、「印象派」全盛の時代だったから。印象派の絵を見るには、専門的な知識・教養はさほど必要ではない。・観たことをその場で言語化初心者は「言葉にしてみる」→意識的に作品を見ることが出来る。・関連知識もざっくり知っておくそれぞれの作品の歴史・社会史的背景。・倫理・自然観の差に注目する西洋において、人間は全知全能の神が自らに似せて創ったもの→人間を徹底的に観察することで、神や宇宙を知ろうと考える。そのため西洋美術では「人間」が根源的なテーマ。キリスト教絵画では、自然を描く風景画は、格が低いもの。産業革命を経て写実派が登場する以前、西洋では風景画はほとんど描かれていない。西洋人の精神には通奏低音のようにキリスト教の思想。・抽象美術は「体験」が狙い抽象美術を読み解けるのが知的教養人の条件。抽象絵画には具体性はなく、「何かモチーフがあるはず」と探してはいけない。
2020年07月03日
西洋美術鑑賞
20世紀になると、絵画は「見たもの」を描くことから、対象の精神性や、それを描く画家の内面を表現することに重点が移っていく。その背景には、写真の発明があるといわれている。見たままを正確に描くなら、写真には敵わず、人が時間をかけて描くことの意味を問われた結果なのだ。
ついには、1917年、NYで開かれた美術展に、男性用小便器が出品される。実行委員から「こんなものはアートではない」と展示を拒否されるのだが、実は『泉』は、実行委員の一人であったデュシャンが偽名で送ったものだった。デュシャンは自作自演で、「芸術とは何か」を問題提起した。
フォービスム:『緑色の筋のあるマティス夫人の肖像』（アンリ・マティス）1905現実から色彩を自立させた現実を写し取ることを使命としてきた絵画の世界で、史上初めて現実から離れた。エコール・ド・パリ：『横たわる裸婦と猫』藤田嗣治1921解き明かされた乳白色の秘密「私の体は日本で成長し、私の絵はフランスで成長した」終戦と同時に陸軍美術協会理事長だった藤田をまっていたのは、自分たちの保身のため、藤田ひとりに責任を押し付けようとする、日本美術界の裏切り。169：芸術や文化については、19世紀からずっとパリが世界の中心ながらくルネサンス発祥の地であるイタリアがヨーロッパの芸術の中心。フランスが15世紀に統一的な国家をつくってからは、歴代の王がイタリアへ侵攻を繰り返した。そのたびにレオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとする画家や音楽家、料理人をフランスに連れてきたり、イタリアのメディチ家から王妃を向けたりしながら、芸術大国となっていった。19世紀になると美術品にも関心の高かったナポレオン1世がヨーロッパを征服して、戦利品である美術品を収集してルーブル宮に展示した。ダダイズム：『泉』マルセル・デュシャン1917視覚だけでは楽しめない革新セラミック製の男性用小便器を上向きに置いただけのもの。市販の工業製品で、彼はサインを入れただけ。そのサインも偽名（R. Mutt)。2004「最もインパクトのある現代美術の作品」アンケート調査� 慇堯��▲團�ソ『アヴィニョンの娘たち』
2020年07月02日
武器になる知的教養
帯には、「『この絵、いいね』以上が語れる」とある(笑)。ここ数年の流行りともいえる「教養」ブーム。中でも、西洋美術は世界的な人気で、欧米だけでなく世界中にコレクターがいるから、資産保全手段としても人気だ。
日本で人気が高いのは「印象派」の絵。これ以降は、抽象化が進み、理解できる人が限られるので、「印象派」がちょうどいいのだろう。日本人として知っておいていいのは、「浮世絵が印象派の画家たちに影響を与えた」のではなく、「浮世絵が19世紀のヨーロッパの画家たちに影響を与え、その中から印象派の画家が生まれた」ということ。つまり、浮世絵を見なければ、印象派は誕生していなかったかもしれない。
第一回印象派展が開かれる12年前の1862年に既にパリで日本の浮世絵を専門に売る画商がオープンするほど浮世絵は人気だった。それが、当時日本では使い捨てのプロマイド扱いだったので、輸出される陶器や茶壷の緩衝材として箱に詰められていたというのだから皮肉だ。
ルネサンス：『モナ・リザ』（レオナルド・ダ・ヴィンチ）1503-1519頃天才が描いた超絶技法の数々斜に構えたモデルのポーズやイメージ的な背景、点描をぼかして描くことで輪郭線を使わずに人物を書くスフマートと呼ばれる技法などの技術は、すべて後世の肖像画に参考にされるほど。どこから見ても、視線がまっすぐに鑑賞者を見据えているように描いたのも、当時としては画期的。ルネサンス以前の芸術作品は、教会などのパトロンの指示に従って作られるもの。この頃から、ミケランジェロやダ・ヴィンチといった芸術家が自らを表現し始める。バロック：市民社会と物語性の誕生『牛乳を注ぐ女』（フェルメール）1658-60頃質素倹約を旨とする原理主義的なプロテスタントでは、キリストや聖人の絵画を教会に飾ることは、もともと旧約聖書で戒められている偶像崇拝にあたるとして禁じられた。フェルメールは18世紀になって、その存在が急速に忘れられていく。あまりに寡作だったことと、それらが個人に所有されたものだったため。印象派：『ひまわり』（フィンセント・ファン・ゴッホ）1888感情を絵画にした作家1888年2月、ゴッホは、パリから南フランスのアルルに移る。パリ時代から日本に憧れていたゴッホは、アルルの澄んだ空気、きれいな水、黄色く輝く太陽をまるで日本のようだと感じだ。
2020年07月01日
Extreme Productivity
著者は、資産運用会社の会長で、HBSで常勤で教え、上場企業2社の社外取締役であり、医療財団と医学研究所の理事も務めていた。その間に、3冊の本を執筆し、新聞雑誌に約100本の記事を発表している。
内容は、いたって普通。これまで私も何冊も仕事術系の本を読んできたが、エッセンスは変わらない。つまり、
�〇纏�を洗い出す
��長期目標を念頭において、優先順位を付ける
��スケジュールを決めて実行する
�せ┿�を避け、重要なことに時間を割く
である。その過程で、多少言っていることは違うのだが、これ以外お目にかかったことがない。
注意点として、重要度は低いがせかされる「雑事」に手間をかけないことだ。これを避けるには、
・雑事に巻き込まれないために事前に工夫する
・時間をかけずその場で処理する
・ながら仕事で処理する（移動中や退屈な会議中など）
ことが重要だ。
＊効率よく働き、生産性を高めるために短時間でより多くの成果を上げるための心構え、具体的な方法。●生産性を最大限に高めるための考え方・目標を明確にし、優先順位を付ける・最終的な結果を念頭に置く・雑事に手間をかけない●優先順位にそった目標設定のプロセス�仝什澆粒萋阿鳩弉菽罎粒萋阿鬚垢戮峠颪�出す�⊇颪�出した内容を、「長期目標（5年後〜）」「中期目標（3か月〜2年後）」「短期目標（日・週ごと）」に分類する��自分がしたいこと・特異なこと・周囲が求めることを考慮したうえで、中期目標の優先順位を決める�っ惨�目標を「発展的な短期目標（中期目標の達成につながる）」と「指示された短期目標（頼まれた仕事）」に振り分け、それから優先順位を決める�ネダ莉膂未隼�間配分のミスマッチを認識し、改善する●優先順位の高い仕事を遂行するには、「最終的な結果を念頭に置く」必要がある・まず、その仕事の方向性を考える。そして、関連する情報を集め、たたき台となる結論を書きだす。・大切なことを先延ばしするのを避けるために、ミニ締切日（目標に向けた段階的な締切日）」を定期的に設ける。・上司が部下に、明確な目標と評価基準をはっきり伝える。●優先度の低い雑事は、気づいたときにすぐその場で処理したり、「ながら仕事」で手早く片づけたりする。そうすることで、優先度の高いことにより多くの時間を割くことができる。
