2020年06月
2020年06月30日
これって投資？それとも浪費？
「これって投資？それとも浪費？」・・・これがこの本のキーワード。すべての行為の前に自問自答することで、惰性の習慣に打ち勝つ！その他、藤野さんのライフハック的なノウハウが色々紹介されている。
例えば、「投資家みたいに生きるには、普段のコミュニケーションでさえ、将来のための『投資』に変えていく姿勢が大事」だという。もっとも手軽で効果的なのは、「人を褒める」こと。
「『褒めること』と『謝ること』にはコストがかからない。効果絶大。さらにすごいことに税金も掛からない」（堀紘一）
「『褒めること』と『謝ること』にはコストがかからない。効果絶大。さらにすごいことに税金も掛からない」（堀紘一）
218：「年代」を超える方法若くして上に上りつめる人の共通点：年上から可愛がられる「こいつは何かやってくれるはずだ」という期待を上の世代から持ってもらう。235：自己紹介は、自分の価値を相手に伝えるための「プレゼン」一度ちゃんと準備しておくと差がつく。名刺交換のついでの「30秒」。「好き」を伝える→旗を立てる大勢の前で話す機会や、正式な紹介の「3分」。30秒＋起承転結のあるエピソード「鉄板ネタ」笑える程度の失敗談や自虐ネタ。242：いい情報が集まる人は、自ら情報を発信する人。いいノウハウを得られる人は、自らノウハウを開示する人。249：「ちゃんと暮らす人には敵わない」（糸井重里）人はこまめに休む方が、自分の力を長く遠くまで発揮できる。
2020年06月29日
日本人は個人主義
ひふみ投信（レオス・キャピタル・ワークス）の藤野英人社長の新刊。藤野さんの本は内容がいいだけでなく、分かりやすい。工夫して書かれている。
「日本人は個人主義」というのは、私も、本blogで過去に書いたことがある。一般的には、「日本人は集団主義で、集団のために自己犠牲もいとわない」というのが通説だが、これは、「集団同調圧力に弱い」というだけで、同調圧力のない場所・場面ではやりたい放題という傾向がある。
例えば、目につく表通りはきれいなのだけど（それも掃除している人がいるからなのだが）、同じ人が人目がない場所ではポイ捨てする。会社ではおとなしい人が、プライベートで車に乗ると暴走する。周囲に調和しない自宅を建てる、等々。
要するに、気を遣う相手は、家族、同僚、地域社会など直接知っている人間で、「人間関係至上主義」なのだ。これは職場に何を求めるかの国際調査でも顕著で、他国が報酬や出世であるのに対し、日本だけが人間関係最重視なのである。
この結果、（18−29歳の若者の）6割の人が、「働くのは当たり前だと思っていない」し、3割の人は「働きたくない」という（電通総研調査）。従業員エンゲージメント調査（自分の会社に対する「信頼度」）では、日本は世界26か国のうち、下から2番目の59%である。アメリカ80%、中国86%より断然低い。
公共経済学では、世界的に見て「日本人は公共心がない」というのが通説のようだ。「寄付も投資もしないというのは、社会に貢献する意識が薄い」ということになる。寄付だけでなく、投資も、自分の資産をリスクにさらすことになるので、社会への信頼がなければできない。
10：社会全体の基本は「自己責任と自立」自分の人生は自分で支えるのが本来のあり方。12：（夫婦2人が95歳まで生きるとすると）年金2000万円不足解決策�ー磴いΔ舛砲燭�さん稼ぐ�∋拿个鰺泙┐�投資家的解決法�Ｄ垢�働き続ける�ぜ�入の一部を投資に回す99：日本人は個人主義自分さえ得すればいい。自分の家族だけ安心ならいい。自分の会社だけ儲かればいい。自分の地域だけ安全ならいい。自分の国だけうまくいけばいい。129：日本人は本当に「勤勉」なのか（18−29歳の若者の）6割の人が、「働くのは当たり前だと思っていない」し、3割の人は「働きたくない」（電通総研調査）従業員エンゲージメント調査（自分の会社に対する「信頼度」）日本は世界26か国のうち、下から2番目の59%。アメリカ80%、中国86%。
2020年06月28日
ニュータイプの時代
人類を長年悩ましてきたのは、物質的な欠乏だった。この分かりやすい課題がほぼ解消された世界では、人は「生きる意味」見いだせなくなるという。
この問題を最初に指摘したのは、19世紀末ドイツの哲学者ニーチェということ（著者は慶応の哲学科出身）。ニーチェは、現代人が「意味の喪失」という問題に陥り、ニヒリズムに捉えらることを予言している。
ニヒリズムとは、「何のために、という問いに対して答えられないこと」だと彼は定義している。「意味が失われた状態」こそが、ニヒリズムの本質だ。
ニヒリズムに対抗するためには、「ありたい姿」を描くことが重要だ。「望ましい状態」と「現在の状態」の差を問題として確立することが出来る。何が問題か定義できれば、解決に向けて踏み出せる。問題が希少な現在、「問題を見出し、他者に提起する人」がニュータイプだという。
＊今後望まれる人材「ニュータイプ」自由で、直感的で、わがままで、好奇心の強い人材。⇔従順で、論理的で、勤勉な人材「オールドタイプ」●メガトレンド・飽和するモノと枯渇する意味(何のために）・VUCA（急速な変化、不安定で、過去の経験や未来予測が無価値化）・寿命の伸長と事業の短命化（人間の寿命が延び、働く期間が長くなる一方で、企業寿命は短く）●ニュータイプ・問題を解くより「発見」して提案する多くの不満・不便・不安に苛まされていたこれまでの社会では、「問題を解決できる人」が評価された。だが、これからは「問題を見出し、他者に提起する人」が評価される。・未来は予測せずに「構想」する「未来をどうしたいか」を構想する。・市場で「意味のポジション」をとる市場は顧客に提供する価値により、「役に立つ」市場と「意味がある」市場の2つがある。前者は寡占化、後者は多様化が進む。役に立つ市場での熾烈な戦いを避けるには、意味がある市場で独自のポジションを築く。
2020年06月27日
LBS Send off & Welcome back Night
久しぶりにLBSの話題。今週、毎年恒例の新入生歓迎と卒業生お祝いの会が開かれた。例によって、初めてのZoom開催。100人近くの新入生・卒業生・同窓生が参加。
驚いたのは、今年の日本からの（海外在住の日本人と日本在住の外国人含む）MBA入学生が20人を超えていること。イベント参加者を数えただけで日本人20名＋日本で働くインド人1名。新キャンパスが2年前にオープンし、MBAの定員が400名に増え、それに伴い日本からの合格者も増えたのである。
ここ数年の勤務先（企業・官公庁）スポンサー比率は3/4程度で推移している。私が留学していた30年前
はほぼ全員（除く私）であったが、その後バブル崩壊で一時期企業スポンサーは減った。2000年以降、「もう国内市場は伸びない。本気で海外進出するための人材が必要」ということで、再び増加に転じた。他に昔との違いとして、留学前から外資系企業で働く人が増えたことがある。30年前は外資で最初から働く人はほぼ皆無。MBA取得後外資に転じるのが一般的だったが、今年のMBA日本人入学生20人中5人が外資金融機関やコンサルティング勤務者で、外資系企業には基本的にスポンサー制度はないので、退職するか休職で留学することになる。
その他、海外勤務経験者あるいは現在海外勤務中という人も多い。これも5人くらいいて、商社マンが多かった。
MBA以外にも、SLOAN、MiF、MiM、MiAの各コースがあり、それらを合計すると在籍する日本人学生数は60人を超えるというから、MBAを含め留学生が減っている中で、LBSは相変わらず人気のようだ。ちなみにHBSのMBA2020は12人で、学年全体の1.3%ということで、非常に少ない。LBSは例年5%前後だ。
2020年06月26日
兄弟会社
昨日、伊藤忠商事の株主総会のことを書いたが、ここと同じく前期が第96期決算の会社がある。それが、同業の丸紅で、それもそのはず、この2社は創業者が同じ「伊藤忠兵衛」なのだ。元々同じ会社で、それが戦後GHQにより分割された。だから、上場もどちらも1950年で、伊藤忠商事の銘柄コードが8001で丸紅は8002だ。
ところが、この2社の業績は、現在大差がついている。昨日の伊藤忠商事の「株主のみなさまへ」にあった通り、伊藤忠商事が長年業界の雄だった三菱商事と肩を並べる利益を上げ、時価総額を同社と競っているのに対し、丸紅の利益は通常時でも伊藤忠商事の半分。
前期は複数事業で大きな減損損失を出し、五大商社の中で唯一の赤字決算となった。普段の利益率が低い上、環境が悪化すると途端に大きな特損を出す。投資判断プロセスやリスク管理能力に問題があると言わざるを得ない（と総会でも質問した）。結果、時価総額は伊藤忠商事の3.6兆円に対し、丸紅は8500億円と4倍以上の差がついている。
どうしてこれほどの差がついたのか？一般的に、経営者、組織風土、ビジネスモデル、執行能力などが考えられるが、元は同じ会社である。最初からそれらに大差があったわけではない。むしろ、1970年代までは丸紅のほうが規模も大きかった。すぐに思いつくのは、ロッキード事件の影響だ。
1976年に発覚し、田中角栄首相退陣のきっかけとなる汚職事件だが、丸紅はこれに巻き込まれた。当事の会長と二人の専務が有罪判決を受けている。「総理の犯罪」ということで日本中の注目を集めることになり、その後の丸紅の営業活動に多大な影響を及ぼすことになる。
両社の1950年の上場からの業績を70年に渡り比較すれば明らかになりそうだが、今はやる時間がない。誰か、研究した研究者はいないだろうか。大学生の卒論としても面白いテーマだと思う。
2020年06月25日
「来るな」と書かれた株主総会招集通知
先週行われた伊藤忠商事の株主総会は、株主不参加で開かれるという、おそらく日本の上場企業で初めての事態に。他社も、今年はコロナ自粛で、「なるべく議決権は事前行使し、来場しないように」という案内があったが、はっきりと「株主のみなさまにご来場いただくことなく、当社役員のみで開催させていただく」という総会招集通知が来たのは伊藤忠商事だけ。
株主不在の株主総会は果たして適法なのか？「招集」通知なのに、「来るな」とはどういう事
そのため、通常は招集通知の裏表紙に印刷される「会場案内図」もなし。代わりに、「役員のみで開催」「来場されないよう」「事前に議決権行使」が繰り返されている。オンラインで参加できますというのならいいのだけど、総会に参加できないとすると、株主が議決権を行使できるのは事前行使だけ。その対象は、既に上程されている議案だけで、行使にあたっての参考資料は招集通知だけで、質問もできない。株主総会では株主による「動議」も認められているが、この権利も行使できない（滅多にないことだが）。
招集通知に同封されていたのが、「株主のみなさまへ」という岡藤会長の署名が大きく入った小冊子。内容は同業他社との業績や株価比較(写真）、会社状況への想定Q&A。招集通知にこうした「同業他社比較」が入っているのを見るのも株式投資歴30年で初めてのこと。
要は、「これだけの業績上げているんだから、文句ないでしょ」ということで、我が道を行っている。
2020年06月24日
内藤陳さんの『深夜＋１』
内藤陳さんが新宿ゴールデン街に開いたBAR『深夜＋１』。ご本人が2011年に亡くなった後も営業は続けられているようだ。
戦後の闇屋の雰囲気を残すゴールデン街。一軒一軒の店は非常に狭く、ここ数年その雰囲気が外国人旅行客から大人気となっていたが、コロナ自粛で大打撃を受けた。外国人旅行客が蒸発したうえ、隣の客と片寄せあう距離の近さが売り物だったのに、その強みが活かせない。
大学後輩がやっている店に今度寄ってみよう。
293：日劇ミュージックホール女性の裸はみせてはいたが、ストリップ劇場ではなくレビューの劇場であった。だから踊り子さんたちは、自分の体の美しさをただ見せるというのではなく、踊りによる芸として観てもらおうと真剣であった。299：深夜＋１そんなことをやるためには会の運営資金がいる。なんとかせねばと思っているときに、新宿のゴールデン街でBARを一軒やってみないかと話があった。陳さんはその話に乗った。会員が集まれる場所にもなるし、店の売り上げを全部『日本冒険小説協会』の資金に当てられると考えたからだ。300：『読まずに死ねるか！』『読まずば二度死ね！』「自分が読んでみて、これはオススメだなと思える本があると、『面白いぞ！』と伝える。といっても陳メの選択というわけで、独断と偏見による推薦ですが、裏切られたと思う本を買わせないという自信はあります」蜷川幸雄さんのスタジオ343：NINAGAWAマクベス巡演の最後の公演地が、エディンバラの演劇祭であったことは大きな賭けであった。というのは『マクベス』はシェイクスピアの作品であり、その本場での公演であったからである。もしもその上演に彼らが不満を持てば、罵声を浴びる程度ではすまないはずであった。235：彼はアルミの灰皿を投げつけても、決して役者に命中させない。かつて、ぼくが悪戯をしてクリスタルの思い灰皿に替えておいたら、彼はそれを投げずに、タバコの箱を投げていた。
2020年06月23日
「依存症ビジネス」のつくられかた
「スティーブ・ジョブズは自分の子どもにはiPadを使わせていなかった。Twitterを生み出したエヴァン・ウィリアムスも幼い息子二人にiPadは与えていない」
これまでも別のところで聞いたことはあるのだが、半信半疑だった。本書の著者はNYU Stern School of Businessのマーケティング准教授。信憑性は高い。
Instagramの立ち上げに携わったSEのグレッグ・ホッホムートは、自分の仕事は実質的に「依存症製造機」の開発だったという。
「どれだけハッシュタグをクリックしても、常にその先がある」「やがて人間はハッシュタグに執着しだす」
つまり、スマホやPC、その上で展開されるゲームやアプリなど、いずれもが「依存症になるように」設計されており、「節度ある」範囲で使用するのは難しい。依存症は主に環境と状況によって引き起こされるもので、誰もがなる可能性が高い。
子どもは脳の自己制御力が未発達なので、大人以上に依存症になりやすい。ゆえに法治国家では未成年者への酒とタバコの販売を禁止している。デジタル機器がもたらす「行動嗜癖」は、酒やタバコがもたらす物質依存症と何ら変わらない。
＊有害な行動を繰り返さずにいられない、新しい依存症「行動嗜癖」スマホ、ゲームなど、身近にあるテクノロジーがもたらす現代の病。●IT業界の大物たちは、テクノロジーを広める一方で、自分の子供にはiPadなどは使わせない・依存症は、環境と状況によって誰にでも起こる・自分たちが売っている製品は、ユーザーが夢中になることを意図的に狙ってデザインされていることを知っている●スマホは使わなくても、目の前にあるだけで会話に集中できない●行動嗜癖ドラマを一気に何話分も見る、スマホを頻繁に覗くなど、何らかの悪癖を常習的に行う行為。薬物などの物質依存症と似ている。�ー蠅鮨�ばせば届きそうな魅力的な目標がある�⇒渋�できない頻度で、報われる感覚がある�Ｃ奮�的に進歩・向上していく感覚がある�そ�々に難易度を増やしていくタスクがある�ゲ鮠辰靴燭い�解消されていない緊張感がある�Χ�い社会的な結びつきがある●行動嗜癖への対策�〇匐，和膺佑茲蠅皸預絃匹砲覆蠅笋垢ぁ�よって、子供を長時間、デジタルデバイスで遊ばせない。�▲好泪曚筌僖愁灰鵑髻⊆�分の手の届く範囲から遠ざける。�９堝尉亙覆魑媼蠅房茲襦Ｎ磴┐弌∋匐，�嫌がる歯磨きをゲーミフィケーションすることで行動を促す。
2020年06月22日
格差と停滞を生んだ「現状満足階級」
「現状満足階級」が増えているといわれると、日本の話かと思ってしまうが、アメリカの話。これまで過剰なほど「不満足」であったから、それだけ変化が激しいのではないか。
例えば、新興企業の減少と、企業の「高齢化」を日米で比べてみる（『中小企業白書』H30）。米国の開廃業率は10%前後で推移していたものが、最近開業率は下落気味だ。そでも9%ほどで、日本の5%台よりもかなり高い。日本は政府の各種創業支援策が功を奏してか、このところじわじわと上昇している。
しかし、今回のコロナ騒ぎを見ても、「潰すな」「雇用を守れ」で持続化給付金や金利ゼロ貸し出しの大盤振る舞い。従来からしっかり経営しているところは蓄えもあるし、銀行の信頼もある。むしろ、この機に廃業してもらう方が、競争も減って、今後の新規参入も増える。人口減少社会で、経済規模が増えているわけではない。息を吸うためには、まず吐かないといけないのだ。
アメリカの話に戻ると、アメリカでも従来から「現状満足階級」はいた。それが目立たなかったのは、継続して流入する移民がよく働いていたからだろう。彼らは故国を捨てて、アメリカンドリームを体現しようと移民してきている。彼らがよく働くことで、「現状満足階級」を抑制する効果もあったが、トランプ大統領の移民制限で「現状満足階級」はますます増えそうだ。
＊今、アメリカでは開拓者精神が減退し、変化を望まない人が増えている。こうした「現状維持志向」がもたらす負の側面。●アメリカで増える「現状満足階級」所得・教育レベルは様々だが、いずれも穏やかな変化を良しとする。リスクを嫌い、行動パターンを変えず、自分と似た人と付き合う。●社会の活力の喪失現状に満足できるのは悪いことではない。だが社会と経済の活力が減退し、変化が起き無くなれば、階層の固定化が進む。●アメリカ社会の「分断」・所得による分断中流層が縮小し、明白に「貧困」もしくは「裕福」な地区で暮らす世帯が増えている。・教育と社会階層による分断富裕層や教育レベルの高い層は、自分と同じ層の人が多い土地で暮らしたがる。・人種による分断学校での人種統合が進んでいない。・保守派とリベラル派の分断民主党、共和党の支持者が、それぞれの支持者が多い地域に住むケースが多くなっている。●社会・経済の停止状態・新興企業の減少と、企業の「高齢化」により、産業界の変化が滞り、雇用の流動性が落ち込んでいる・様々な業種で、大企業による市場の独占が進んでいる・産業界が新しいアイデアへの投資に消極的になっている・生産性が伸び悩んでいるため、賃金が上がらず、生活水準も上昇していない●背景には構造的な要因今日の社会的・経済的停滞は一時的な現象ではない。小手先の改革では解決が難しい。
2020年06月21日
倉本聰さんの丸太小屋
倉本聰のライフワークといえば、「北の国から」が真っ先に思い浮かぶ。本書で富良野塾が取材された1985年は、1981年から始まった同TVシリーズの真っただ中だ。
富良野塾は倉本聰氏が1984年に私財を投じて作った俳優と脚本家の養成所。2年間共同生活をしながら脚本の創作や俳優としての稽古をする。授業料は無料だが、「塾生は、5月から11月までは休日なしで、農作業や酪農の仕事」で生活費を稼ぐ。
今から10年前の2010年4月、25期生の卒塾をもって、富良野塾は閉鎖された。卒業生は380名に及ぶ。
249：富良野塾「確かに冬は厳しいのですが、実は、雪のない期間の肉体労働の方がきついかも知れません。塾生は、5月から11月までは休日なしで、農作業や酪農の仕事に出ています。冬場の生活費も稼いで溜めなくてはなりませんから・・・・・。朝食と弁当を作る班は、4時半に起床、全員6時半に出て、夕方の5時過ぎまで作業。帰ってきてから、塾内作業をやり、晩飯を食べ、7時から勉強です」252：「ぼくが教えられることは、ごくわずかしかありません。役者やライターに一番必要な、感動することを、富良野の自然や人と接することで、自ら学んでほしい。そして、この塾は、自分たちで創っている塾だと思ってほしい」
2020年06月20日
水上勉さんの水車小屋
水上勉は母が好きな作家で、よく読んでいたのを覚えている。その水上さんは若狭出身らしい。尤も、「十歳で京都へ出たので、村の小学校も卒業していない」という。
一家で京都に引っ越して、後に小説家として成功した後、増え続ける蔵書のために、「どこかに書庫を考えたが、生まれた村に小さな図書館を建てて、ぼくと同じように本を読みたくても買えない少年に開放することにきめた」。
こうして1985年にできたのが『若州一滴文庫』で、現在でもNPOにより運営されている。水上氏は、竹を原料にして和紙を漉いていたが、これも現地で体験できるようだ。
「古くから中国では『竹の紙』は書家に珍重され、貴重品であったという。日本ではあまり広く知られていないが、その書き味の良さは群を抜いている。しかし、それを作るのは、面倒な作業を経なければならない」
そんなに良いものであれば、竹が増えて困っている中で竹の利用につながるかもしれないが、工程が効率化できないと難しいのだろう。
232：水上勉さんが、福井県の若狭で『若州一滴文庫』という図書館と、その隣に、竹人形の芝居を上演するための劇場を、藁ぶき屋根で建てたことを聞いた。かなり興味を持っていたが、その人形の頭に使う和紙も、自分で漉いていると知って驚く。しかも念の言ったことに、紙も竹を原料にして作るという凝りようとか・・・・・。233：「若狭の二つの原子炉が、1157kwhの出力で、京都、大阪、神戸地域などに送っているわけ。都会の夜の明るさはここから送られているの。昔から地場産業を持たなかった成長ゼロの村としては、迎えるものはこれしかなかったわけですね。お金や道路や橋や学校の建物など、貧しかった生活が世間なみになった代わりに、若狭は大きな不安を抱えてしまった。捨て場に困る廃棄物が現実に出続けているという問題です。私が恐ろしいと思っているものがもう一つあります。人の心の変化ですよ。日常の喜びや楽しみまで、余所からもらうのが、当然のことのようになったことが悲しい。喜びや悲しみも、自ら作るものでしょう」235：『たった一人の少年に』「ぼくはこの村に生まれたけれど、十歳で京都へ出たので、村の小学校も卒業していない。家には電灯もなかったので、本も読めなかった。ところが諸所を転々して、好きな文学の道に入って、本を読むことが出来、人生や夢を拾った。どうやら作家になれたのも、本のおかげだった(中略）本は多くの人によってよまれた方がいいにきまっている。どうか、君も、この中の一冊から何かを拾って、君の人生を切りひらいてくれたまえ。たった一人の君に開放する」
2020年06月19日
笑っていいとも！
長寿番組というと「笑点」（55年）や「サザエさん」（50年）などもっと長いのがあるのだが、これらは週一回。生放送で、単独司会で、平日毎日31年間、合計8054回も続いたのがフジテレビ「笑っていいとも！」で、これだけの放送回数を誇るテレビ番組は世界になく、「生放送バラエティー番組放送回数最多」ギネス世界記録となっている。
平日昼間ということで私はほとんど見たことがない。それでも、社会現象といわれるほど長年高視聴率を保っていたので、遊びに行った親せき宅で土曜日の再放送が流れていたり、あるいは昼ご飯を食べに入った食堂で放映されていたりで、数十回は見たことがある。
放送が開始されたのは1982年10月で、終了が2014年３月。31年間の平均視聴率が11.5%。80年代は平均で20%近くあったから、全国で2000万人以上が毎日のように見ていたことになる。
この番組の初代プロデューサーがフジテレビの横澤彪さんで、当時日本で一番有名なTVプロデューサーだった。フジテレビの全盛時代を築いた。番組終了を見届けることなく、2011年に亡くなっている。
横澤彪さんの仕掛け場78：『笑っていいとも！』の司会が、タモリ氏になると聞いたテレビ界のプロたちも、「タモリは夜の顔だよ。真昼間の番組に起用するなんて、横澤もいい気になりすぎている。こんどは無理。失敗するに決まっている」と断言した人が多かったのである。
2020年06月18日
立花隆さんの書斎
「田中角栄研究」（1974〜『文芸春秋』）で一躍有名になった立花隆さん。さすがに最近見ないな（80歳）と思っていたら、今年1月に新刊を出されていた。『知の旅は終わらない』〜これも読まなきゃね。
科学関係の著作も多く、もともと「無類のメカ好き」らしい。そして、音楽好き。結果、オーディオマニアとしても有名だ。この取材の時点（1985）で、自宅のオーディオ機材は以下の通りだった。正にオーディオ全盛時代のオールスター達。ナカミチやサンスイなど、今は会社がなくなってしまったメーカーもある。
Speaker: 4ch 5way
Front Main; JBL, Technics, Exclusive, TAD
Front delay; BOSE, Rear Tannoy
Accuphase, Exclusive, Marantz, Yamaha
Premain Amplifier:
Exclusive
Record Player:
Technics
Cassette Tape Player:
Nakamichi
CD Player:
NEC
Tuner: Marantz
PCM Recorder:
Sansui
VTR:
Sony, NEC, National
LD:
Pioneer
151：『ロッキード裁判傍聴記』全4巻重さ2050g、1465p、四百字詰め原稿用紙で3660枚153：無類のメカ好き人間あの『田中金脈』を追求した仕事にしても、小さい部品を一つ一つ拾い集めて組み立てるように、構造を解明したのであろう。分析し、整理し、構築する才能は、それにつながっている感じがする。154：彼に会って話していると、話題はもっぱら音楽の話であり、彼の仕事のイメージからは遠い。彼は、知る人ぞ知るオペラ好きだし、オーディオに凝っている凝りようも、「完全にビョーキだ」と友人たちは笑っている。
2020年06月17日
マルチ人間
残念ながら和田誠さん、昨年亡くなりましたね。今年の「第93回キネマ旬報ベスト・テン」授賞式で奥さんの平野レミさんが本人に代わって賞を受け取っていましたが、その時のスピーチがいいな。
坂東玉三郎さんの楽屋19：実は、親しい間でも楽屋を訪ねるタイミングには気をつかうのである。人によっては、終演後に訪ねた方がいい場合もある。楽屋入りをしたときから、芝居の世界に入るタイプの人には、開演前には会わない方が無難だ。反対に、楽屋でリラックスした気分を維持しておきたい人は、それほど神経質でなかったり・・・・。一人一人に違いがある。川端康成さん『雪国』の間44：ここで出会った松栄さんは、19歳で、感受性の豊かな好奇心に溢れた情勢だったとか・・・・。彼女は、自分が、『駒子』として小説に書かれていることを知らず、人から教えられて初めて知ったという。川端さんが黙っていたのは、彼女の態度が変わり、小説の想が乱れることを恐れたのかもしれない。(中略）驚いたことに、雪の降る季節には、一度もここへ来ていないのである。あの有名な、『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』の文章は、彼のイメージであった。和田誠さんのクリエイティブ・ルーム68：「マルチ人間」という言葉を聞くたびに、すぐ『和田誠さん』を思い浮かべる。本職は、グラフィック・デザイナーでありイラストレーターだが、それ以外の仕事も、本職との境目がどの辺にあるのか分からないような人である。最近の、『麻雀放浪記』の映画監督の仕事ぶりを見ても、それがよくわかる。72：「多芸多才だなんてとんでもない。ぼくのは、芋づる式で、それほど異質なことをやっているわけじゃないもの。例えば、イラストを描いていて、子供も楽しんでくれそうだなと思ったら、それにお話をつけたくなる。童話のようなものができ、その話が韻文的なものだと、曲をつけ歌えるようにもしたくなるわけ。それを面白がる人がいて、レコードにしないか、ということになって、じゃ、同じ作るならと、レコードのプロデューサーもやっちゃたりとかね。だから、絵の延長線上のことで、別に違ったことやっているつもりはあまりないけど」
2020年06月16日
井上ひさしさんの書斎
「仕事場」紹介のトップバッターは「井上ひさしさんの書斎」から始まる。千葉県市川市にあった自宅の書斎。2010年に死去した場所は鎌倉とあるので、1985年の前妻との離婚の後、引っ越したのかもしれない。
孤児院で育った環境が影響したのかどうか、すぐれた作品を残した一方で、ひどいDVであったことが離婚騒動で明らかになった。それでも、当時の「仕事ができたらそれでいい」という風潮から、井上作品で恩恵を被っていたマスコミはそれを追求しなかったので、すぐに忘れ去られた。
改めて前妻の手記を読むと、凄まじい。今なら逮捕されているのではないか。
「肋骨と左の鎖骨にひびが入り、鼓膜は破れ、全身打撲。顔はぶよぶよのゴムまりのよう。耳と鼻から血が吹き出て…」（西舘好子は『修羅の棲む家』）
11：本がもうやたらに多い。ここに入りきらない本を収納するための書庫が、書斎を中心に、無限繁殖のようにどんどん広がっている。書庫というより、全ての部屋が本で埋め尽くされた感じなのである。床の間のある部屋も渡り廊下も、本・本・本であった。
2020年06月15日
覗きの達人
「覗きの達人」妹尾河童さんによる有名人の仕事場を「覗く」企画。元は、1985年の『週刊朝日』に連載されたもの。それをまとめた単行本が出たのが翌年で、ちょうど、私が就職した年だ。
私も学生の頃に、『河童が覗いたヨーロッパ』や『河童が覗いたインド』などを読んで、「自分でも見てみたい」と海外への夢を羽ばたかせた。1997年には自伝的小説『少年H』がベストセラーになった。
1980年代前半各界の有名人が登場するが、今ではほとんど話題にならない人もいれば、未だに現役で活躍する人、そして鬼籍に入った人も多い。
それはそうと、妹尾「河童」が本名だとは知らなかった
いや、本名は『少年H』にある通り、「肇」のはずだ。それが、今や戸籍も「河童」なのだという。話は、まだ二十歳のころ、大阪の旭会館でグラフィックデザイナーの仕事をしていた時にさかのぼる。近くのバーの女の子にほれて入りびたりだったらしい。閉店後もそこで寝て、朝起きるとそこから出社していたという。
「ある日その店で、つまみに菊の花の入った漬物が出た。ぼくが、『ひょっとして、まだ他にも食べれる花があるんじゃないかな？」といって、その店にあった花を一輪ずつ片っ端から食べた。花が多い店でね。全部で７，８種はあったかな。苦いのや、えぐいのや・・・・・。
しばらくして、急に腹が痛くなってきた。どれがいけなかったのか分からないけど、痛くて床の上を転がりまわった。文字通り七転八倒の苦しみだったんだけど、みんな笑って見ているだけ。(中略) その日の客の一人で、『航空朝日』の編集長をしていた斎藤寅郎という人が、
『お前は、河童みたいな奴だな』
といった。そうしたみんなが、
『そうだ河童だ、河童だ』
といいだして、翌日には、朝日新聞社の社内全部にそのアダ名が広まってしまった。毎日変なことばかりしていたから、前から、『あいつは人間じゃないぜ」という定説ができていたわけ。(中略）それ以来、誰からも『河童』としか呼んでもらえなくなってしまった。
最初に藤原歌劇団で舞台美術の仕事を手掛けたときも、藤原義江ダンナがぼくの本名を思い出せなくて、プログラムに『妹尾河童』と書いてしまった。それでデビューしてしまったから、後の仕事も全部『河童』でやるしかなかった。そのうち、両親からの手紙まで、宛名は『妹尾河童様』になった。で、いっそのことと、裁判所に改名願を出し、本名も河童にしてもらったわけ」
2020年06月14日
江戸の七福神めぐり
江戸の七福神めぐりにおいて最古とされる「谷中の七福神めぐり」。宝暦年間（1751-1764）に成立。
不忍池の弁財天→大黒天の護国寺→寿老人の長安寺→毘沙門天の天王寺→布袋尊の修性院→恵比寿の星雲寺→福禄寿の東覚寺（田畑）まで5km以上におよび、すべてが寺院。
それは、谷中が東叡山寛永寺の門前町であることと関係している。寛永寺を中心に多くの寺院が集められ、その周辺に宗教文化の集積した空間が形成された。
それは、谷中が東叡山寛永寺の門前町であることと関係している。寛永寺を中心に多くの寺院が集められ、その周辺に宗教文化の集積した空間が形成された。
41：多様な森林植生標高分布をみると、東京湾から奥多摩町の雲取山（2017m)まで2000m以上の開き（標高差は47都道府県の中で上から15番目）。雨が十分に降る日本では植物の分布は気温の高低で決まる。74：江戸の都市空間における職業・身分による棲み分け武家地は江戸城を中心に時計回りに渦巻き状に配置され、主に台地上の高台に立地。町人地は江戸城の東の埋め立て地であった日本橋などの低地や台地を刻む谷筋に立地。76：谷中の七福神めぐり江戸の七福神めぐりにおいて、谷中のものが最古。宝暦年間（1751-1764）成立。不忍池の弁財天→大黒天の護国寺→寿老人の長安寺→毘沙門天の天王寺→布袋尊の修性院→恵比寿の星雲寺→福禄寿の東覚寺（田畑）まで5km以上。すべてが寺院。78：江戸の災害明暦の大火（1657)→都市空間の大改造中心地の寺院は市域周辺に移動吉原(人形町）→新吉原各地に火除地としての広小路81：江戸の範囲江戸所払い時に、江戸の境界線が必要→御府内外伺（1818)
2020年06月13日
東京地理入門
新刊。東京に住んでいるのに、地理なんて知らなかったという人にお勧めの本。我々が住んでいる東京がどういう土台の上に成り立っているのかが分かる。
私が住んでいるのは不忍池近くだが、これは「海跡湖」だという。つまり、7000年前の縄文時代、この辺りは海岸線で、不忍池は「元々海とつながっていたところが、海流または波浪によって海岸付近の砂が運ばれ、海と隔てられることによって形成された湖」なのだ。
1590年に徳川家康が江戸に入ったときも、日比谷辺りまで入江であった。周辺は低湿地帯で、洪水の度に水中に没する。そのため、江戸に幕府を開いた家康が最初に行ったのが、利根川東遷事業で、これによりそれまで江戸湾に注ぎ、度々水害をもたらしていた利根川は銚子から太平洋に注ぎ込むことになった。1621年から30年以上にわたる大工事で、その任にあたったのは家康の家来だった伊奈忠次。忠次から三代にわたり、この大工事にあたった。
この工事の成功で、江戸は水害が少なくなり、利根川流域は新田開発が進み、そして利根川は東北諸藩への防御となった。
3：2017年10月1日東京（23区）
面積2,194㎢（627㎢）
人口13,754,043人（9,484,125人）
人口密度6,269人/㎢（15,112人/㎢）
東京大都市圏：都心から70km圏内
�‥豕� 3,533万人(2007)
�▲瓮�シコシティ 1,874万人
��NYC 1,873万人
4：1590年に江戸に入った徳川家康がまず行ったは治水
江戸湾に流れ込んでいた利根川を、銚子で太平洋に注ぐように流路変更。
不忍池：海跡湖
元々海とつながっていたところが、海流または波浪によって海岸付近の砂が運ばれ、海と隔てられることによって形成された湖。かつては上野付近はおろか、関東平野の内陸部、埼玉県東部地域まで海岸線がきていた（7000年前の温暖期）。
10：大都市成立の条件を持つ東京の地形
台地では水の確保が困難→水田耕作には不利→江戸時代までは低地に比べると開発進まず。
水害危険性も低く、地盤も安定。平坦で便利→武蔵野台地の開発
20：複数のプレートからなる東京の地下
北米プレート上
深度20-30kmからはフィリピン海プレート
深度80-90kmでは太平洋プレート
＊東京の地下は著しく不安定
21：首都直下地震
大正関東地震から90年経過した現在は静穏期が終了
今後M7クラスの地震が複数回発生した後、M8クラス
2020年06月12日
森助教授vs理系大学生
私はミステリーをほとんど読まないので知らなかったが、ミステリー作家として有名らしい。そのミステリー作家は、長年国立大学工学部で教員でもあった。2001年の本編執筆時点では現役であったので、「某国立大学」となっているが、その後2005年に大学を早期退職して、母校の名古屋大学であったことが明らかになっている。専門はコンクリート！
大学での授業方法が変わっていて、「学生に質問させることで出席を取り、その質問に自身が答えたプリントを配布するという方式」で、長年続けていたという。「理解度を評価するとともに、自主性や創造性などを高めるため」だという。
質問は授業内容に限らず、科学、雑学、人生相談などバラエティ豊かだ。その数万にも上る多種多様な質疑応答の中から、ユニークなもの・印象深いものを独断的に選んだ（編集が？）のが本書。
学生からの質問には概ね次のように答えていた。
�‐霾鵑鯡笋�質問には、情報を存在する範囲で答え、その情報を得る方法を教えれば良い。
��意見を問う質問に関しては、意見を誇張してずばり答えるか、あるいは、その意見を問う理由、意見を一つに絞らなければならない理由、を問い返す。
��人生相談、あるいは哲学的な質問に関しては、まず定義を問い返す。
�じ朕妖�な質問に関しては、ある面は誇張して答え、ある面はかわす。
�ゼ�分で解決しなければ意味がないことを気づかせる。
例えば、こんなのがある。
A 日本の建物は頑丈なのでうまくいかない。隣接した建物があって条件が揃わない。
14：教育が包含するジレンマ結局のところ、教育とは、受け手に「学んでやろう」「吸収してやろう」といった積極性が存在しないかぎり、ほとんど無駄だと断言してよい。教育そのものが成立しない、といっても過言ではない。すなわち、「教える」という行為は単独では成り立たない。学習する側の「求める姿勢」「意気込み」こそが不可欠であり、それが教育の必要最小限の成立条件といえる。121：豊かな社会豊かな社会になった。子供のうちに面白いもの、おいしいものがふんだんに与えられる。それはとても幸せなことである。しかし、そういった幸せな子供は、大人になりたがらないかもしれない。子供のままの方が楽だ。誰だって、今の状況がよければ、変化を求めないだろう。151：ブラックボックス化何も知らなくても、いろいろ便利な道具が使えるようになった。ブラックボックス化した、といえる。たとえばCDで音楽を楽しんでいても、それがどんな原理で音楽を記憶し再生しているのか知らない人の方が圧倒的多数だろう。
2020年06月11日
教えるということ
3年間だけだけど、フルタイムで大学院で社会人MBAクラスを教えた。それ以前にも立命館大学院でMOTを非常勤で教えていた時の延長だったが、それまでの民間企業での経験とは違った充実感があった。
それは、教師と学生との関係は特別であること。たった3年間だったけど、その時の教え子は今でも「教え子」であるし、大学を離れて5年経っても、「先生」と呼んでくれる。子供はいくつになっても子供だが、ちょっとそれに似ている気がする。
著者は1906年横浜生まれで、1928年東京女子大学を卒業後、国語教師として長野県の諏訪高等女学校に就任。1947年、新制中学の教師に転出し、以来、単元学習など数多くのユニークで実践的な指導を編み出してきた。
16：東京女子大学の安井哲学長が卒業に当たって「今日まで、早朝から深夜まで一生懸命に勉強したでしょう。そのままで10年間は暮らさなければいけませんよ。10年間は先生なんて言うもんじゃない、今のとおりでね・・・」70：私の受け持った卒業生は、「先生のことを忘れない」と言ったこともないし、また私も忘れてほしいと思っています。私は渡し守のような者だから、向こうの岸へ渡ったら、さっさと歩いて行ってほしいと思います。「どうか、自分の道を、先へ向かってどんどん歩いて行ってほしい。私はまたもとの岸へもどって、他のお客さんを乗せて出発しますから」88：でも・しか先生教師になった動機はともあれ、ここに今こうして研修のために集まったり、教育の世界に身をおいて、「でも」であろうと、「しか」であろうと、「のみ」であろうと、そんなことに関係なく、未来の建設にみなさんがいそしんでいるという、そういう姿勢こそがたいせつだと思うからです。
2020年06月10日
経営に終わりはない
ホンダを本田宗一郎と二人三脚で世界的企業に育て上げた名経営者藤澤武夫。この本も読むのは3回目になる。本田宗一郎『夢を力に』とペアなので、一緒に読んでみる。
以前読んだときには気づかなかったが、「本田はあれだけの技術者でありながら、自分から設備や機械をほしいといったことがない」という。技術者は技術そのものが好きだし、製品をよくしたいという思いがあるから、設備や機械を欲しがるのが常だ。技術部門が予算請求し、それを管理部門が削るというのが普通の会社。
初期のホンダは、技術部門トップの本田と経営トップの藤沢に役割分担されていたから、創業社長のワンマン企業と違い、本田と藤沢の間でそうしたやり取りが起こっていたものと思っていた。それが本田から設備や機械を欲しいといったことがないというのはスゴイ。まずは、「与えられた条件の中で可能性を見つけようとする」。よくよく考えたうえで買うから、買いれたものをムダにすることがない。
だから、藤沢は資本金を大幅に超える設備投資に踏み切れた。後半、「経営のタテ糸をこわさずに伝えるのが創業者の務め」というのもいい。
36：本田はあれだけの技術者でありながら、自分から設備や機械をほしいといったことがない。与えられた条件の中で可能性を見つけようとする。決して弱音を吐かない。だから、新しく金を出して買い入れたものをムダにすることは決してありませんでした。本田へのこの信頼がなかったら、たとえ財務面では余裕があっても、この大冒険には踏み切れなかったでしょう。とにかく、含み資産のない、資本金6千万円の会社が、S29までに逐次決済をする設備投資15億円という大冒険をしたんです。本田技研は、こうして昭和28年には他のメーカーを引き離して、独走態勢に入ったかのように見えました。105：社長には欠点が必要・欠点があるから魅力がある「付き合っていて、自分の方が勝ちだと思ったとき、相手に親近感を持つ」181：輸出をするからには、やはり国内がしっかりしていないといけません。もし不安が残るままに輸出に手を付けていたら、あんなに金を注ぎ込むこともできなかったし、現地も動揺して、その後の成功は望めなかったでしょう。249:自分たちは何をしてきたか語り継げる人生s29 ホンダの近代企業への転換点・マン島TT出場宣言（5年後実現）・生産管理s33-34（部品在庫3日分に）s44 組織の完成点・s44マスキー法・空冷･水冷問題・社長か技術者か229：ホンダに流れている考え方、みんなの努力している姿が私にはわかっているから、安心していられる。もう私がしゃべることを必要としない連中になってしまった。私の望んでいた環境ができあがったということです。233：よく私に経営哲学があるかのようにいわれますが、それは本田という人と出会って、一緒に仕事をしたから、結果としてできたことであって、あの人と組まなければあり得なかったものです。234：初代の経営者の役割の一つは、後継者に経営の元本をしっかりと受け渡すということです。二代目、三代目の経営者は、もちろん優秀な人材であることはまちがいない。しかし、彼らが仕事をしやすいように、経営のタテ糸をこわさずに伝えるということは、創業者の務めなんですね。次代の人が経営しやすいように配慮しなければならないのです。
2020年06月09日
夢を力に
記録を見てみたらちょうど10年前にも書いていた。初めて読んだのは学生の頃だったと思うので、三度目になる。読むたびに、本田宗一郎とそれを支えた藤澤副社長の志の高さ、視線の高さに背筋が伸びる思いがする。
野心の大きさという点では、SB孫社長のエピソードも有名。福岡で創業間もない頃、ミカン箱に乗って倉庫でIT革命の夢を語ったら、バイトが呆れて翌日から来なくなったという。しかし、本田宗一郎はもっと説得力があったのかもしれない。1951年入社の川島喜八郎（元副社長）は大学を出た後、故郷の静岡で油屋を自営していた。
「ホンダというオートバイを作っている会社が営業マンを募集しているという。面白そうな会社だというから、浜松まで出かけた。面接したのは本田さんでした。どう見ても町工場のおやじさん然とした人が、初対面でいきなり、今にウチは世界一の二輪車メーカーになる、とこともなげに言う。なのに全然嫌味がない。不思議な魅力の人でした」
66:自分と同じ性格の人間とは組まないという信念を持っていた。自分と同じなら二人は必要ない。80:生産機械を輸入すれば、たとい会社がつぶれても国民の外貨は決してムダにはなるまい。･･･こうして当時わずか6千万円の資本金しかない会社がストロームという自動旋盤やその他の工作機械をスイス、アメリカ、ドイツなどから4億円も輸入した。161：「本田のやることに口を出さない。そのかわり本田も、私のやることを掣肘しない、という約束です。私はあの人の話を聞いていると、未来について、はかりしれないものがつぎつぎに出てくる。それを実行に移していくレールを敷く役目を果たせば、本田の夢はそれに乗って突っ走って行くだろう、そう思ったのです」（藤澤武夫）199：集団思考型の重役室（藤澤武夫）「本田さんと藤澤さんが出会ってすぐのころ、まるで新婚夫婦のように常に行動を共にし、議論を重ねていました。ホンダが創立されて7年ぐらいまでの間に企業理念というべきものが固まった。それと同じように、形こそ違いますが、私たちも、さまざまなことを議論しあいました。お互い性格までもよくわかり会えました」（西田道弘元副社長）
2020年06月08日
売らなくても儲かる仕組み
ドラッカーは「マーケティングの究極目的は販売を不要にすることだ」と言った。ユニ・チャームでその昔取締役を務められ、その後マーケティングコンサルタントになった長井さんは、「マーケティングの8割は製品開発だ」と言った。ユーザーのニーズを的確にとらえ、それに合致する製品を設計し、適切なコストで作ることがマーケティングの中心だという意味だ。ニーズのない製品を作ってからやれることは少ない。
モノの少ない時代は販売中心で売れたが、そんな時代はとうに終わっている。にもかかわらず、昭和時代の成功体験に引っ張られている会社も多い。
ファーストリテイリングが2002年に始めた、生鮮野菜の生産・販売をする新規事業SKIPは有名な失敗事例。「野菜の生産と流通はムダだらけ」と鳴り物入りでスタートしたものの、1.5年後に30億円の赤字を出して撤退している。
そこまではどの会社でもよくある話。まぁ、そもそも役員全員が反対したのに、柳井社長の「やってみろ」で実施できたというのが、上場企業ではあってはならない話だが（笑）。
しかし、失敗してからが違う。柳井社長は、社内の課長職以上を集め、反省会を開催した。事業責任者であった柚木さん（現GU社長）は辞表を出しに行ったが、「一回失敗したくらいで何を言っている」と留意されてのことだ。
今から考えると、取締役会で全員反対したのに敢えてやらせたのは、優秀だが「失敗体験」のない柚木さんの将来を見込んで、「ここらで大失敗させることで、大化けさせよう」という深慮があったのではないかと思いたくなる。
122：『ダン・S・ケネディの世界一ずる賢い価格戦略』ウォルマート出店が決まったある地域に、小さな模型屋があった。「ウォルマートには勝てない」と悩む店主に、ケネディは一言だけ言った。「大きなチャンスだ！ウォルマートで買える商品は、一つも置かなければいい」この模型屋は、熱狂的なマニアやコレクター向けの商品を揃えるようになった。(中略）ウォルマート出店後、この店は逆に繁盛した。126：心理学者による「選択肢」の実験心理学者のシーナ・アイエンガーは、スーパーマーケットの品ぞろえが売上に結びついているか、疑問に思った。そこで、スーパー店内にジャム試食コーナーを作り実験をした。一つの試食コーナーには24種類のジャムを、もう一つには6種類のジャムを置いた。24種類のほうは6割の客が立ち寄り、そのうち3%が買った。6種類のほうは4割の客が立ち寄り、そのうち3割が買った。151：倉持由香「尻職人」グラビアアイドルSNS戦略芸歴15年で最初の9年間は売れず。お尻が大きいのがコンプレックスで、サイズを小さめに申告。カメラマンから「その大きなお尻がいい。使わなければ『ムダ尻』」と言われたのがきっかけで、ツイッターで「尻職人」というキャッチコピーで5分に1回お尻の写真を「自画撮り」投稿。「グラビアアイドルの顧客＝女の子の身体が好きなおじさん」「顧客であるおじさん目線で考えることが大事」160：セグウェイ、プレミアムフライデーが失敗した理由顧客のどんな課題が解決できるかがよくわからない。・セグウェイは見た目はすごいが、何に使えるのかが不明。自転車のほうが手軽で安い。すべてが中途半端。・プレミアムフライデーの月末は、多忙な締め日。「目の前の仕事はどうなるの？」必要なのは早く帰宅できる機会の提供よりも、早く仕事を終える解決策。179：必要なのは顧客観察・顧客に訪ねる→誰もが見えるニーズしか見つからない→消耗戦に・顧客を観察する→潜在的なニーズを発掘する→ヒット商品231：サブスク「売ってからがスタート」これまでの「売り切り」では、販売時に大きな売上→「売るのがゴール」サブスクの場合、販売後に継続的に小さな売上が積み重なる→「売ってからがスタート」＊顧客に使い続けてもらって満足してもらうことで利益。難易度は、通常のビジネスよりも高い。233：売れない失敗こそ、バカ売れの種失敗には必ず原因。失敗を放置して新しい挑戦をしても、失敗の原因が消えることはない。失敗は貴重なチャンス。234：ファーストリテイリングで30億円の赤字を出して作った「失敗の小冊子」2002生鮮野菜の生産・販売をする新規事業SKIP「野菜の生産と流通はムダだらけ」→1.5年後に30億円の赤字を出して撤退柳井社長は、社内の課長職以上を集め、反省会を開催。�仝楜劵法璽困稜聴�が甘かった「よいものを作れば売れる」という商品中心の考え方で、顧客の視点がなかった。多忙な主婦は一か所で全部買いたいと考えていたが、SKIPは野菜だけ。�¬邵擇寮源此ξ�通・小売りの全工程について勉強不足農産物の企画・生産・流通を全部コントロールすればOKと考えた。�４愀玄圓悗留洞舛亡悗垢詛Ъ韻�甘かった農家、出店先の百貨店などの期待を裏切ってしまった。237：SKIPはファーストリテイリングの数多い失敗プロジェクトの一つに過ぎない1997「スポクロ」「ファミクロ」→1年以内に撤退2001ロンドンで海外1号店→1.5年で英国21店舗中16店舗を閉鎖。失敗しても素早く見切って損切り→失敗から確実に学ぶ→成長238：1勝9敗でもいいいまの日本の問題は、「失敗は許されない」を、全員に強要していること。数十億年前に単細胞だった生命が人類に進化したのも、実は、失敗の積み重ねの賜物。誰もが失敗を怖れて挑戦しない社会は、何の変化も生み出せない。
2020年06月07日
ハドソン川の奇跡
「巣ごもり」で動画を見る習慣がついてしまい、毎日のように何か見ている。YouTubeでの経済番組が多いが、 有料チャネルでの映画も。
先日観たのは、クリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演の「ハドソン川の奇跡」。最も好きな監督と、最も好きな俳優の組み合わせで、観ないわけにはいかない。
2009年1月15日に実際に起こったアメリカ国内便のハドソン川への不時着事故。NY Laguardia空港をNC Sharlotteに向けて飛び立ったU.S.Airways 1549便は離陸直後にカナダ雁の群れに突っ込み、全エンジンが同時に停止するというトラブルに見舞われる。
この時操縦していたのは副操縦士のジェフだったが、機長の”サリー”が操縦を交代。冷静沈着にエンジンの再始動を試みながら、空港へ引き返そうとするが、高度と速度が引くすぎるためこれを断念。NYの市街地を避けて、ハドソン川に不時着水する。
機長の適切な判断と、乗務員の的確な乗客誘導、そしてすぐに救助に駆け付けた水上バスとNY消防局ヘリのおかげで、乗客150名、乗員5名の合計155人全員が助かった。しかも、重傷は5名だけという「奇跡」だった。
ところが、話はこれだけでは終わらない。当然、連邦航空事故調査委員会の調査が入るが、調査委員会はフライトレコーダーの記録をもとにA320のメーカーであるエアバスでコンピューターシミュレーションした結果、「空港に安全に戻ることは可能で、機長は誤った判断で、乗客乗員の命を危険にさらした容疑者」としたのである。
これに操縦していた二人は反論する。エンジン停止すれば、まずエンジンを再始動するのが手順だ。シミュレーションでは、エンジン停止後直ちに空港に引き換えす判断をしていた。しかし、これは結果を知った後の後付けで、バードストライクによるエンジン停止直後は再始動できるかどうか分からない。
機長は、エンジン再始動を試みた25秒後からシミュレーションをやり直すことを求め、これにベテランパイロットらが挑戦するが、誰も無事に着陸することはできなかった。こうして、機長の判断は最良であったことが証明され、めでたしめでたしとなる。
事故調査のためハドソン川から引き揚げられた事故機は1年後にオークションにかけられ、現在は、シャーロット国際空港にあるカロライナズ航空博物館にある。2011年6月4日に開かれた移送完了パーティーには乗員乗客が招待され、多くの乗客が機長との再会を喜んだとのこと（映画の最後に出てくる）。
2020年06月06日
人の身体の内と外
コロナ騒ぎでまた読んでみたくなった。動物を介したウイルスが人に感染するというモチーフで思い出したのだ。「あとがき」の副題には、「人の身体の内と外」とある。
本書を執筆するきっかけになったのは、一冊の本との出会いだったという。それが、『破壊する創造者』という、生物進化論に関する本。
「人の身体を侵す敵であるウイルスが、時として、身体を変化させる役割を担う共生体としてふるまうことがあるのではないかという発想から、様々な事象を検証していく内容で、これを読んで、一晩眠って、目が覚めたとき、ふわっと、腕を狼のような獣に噛まれて、体内に入ってしまったウイルスによって徐々に変化していく男のイメージが鮮明に浮かんできたのです」
こうして書きだしたものの、完成するまで3年もかかった。途中で、もうやめようかな、と思ったとき、もう一冊の本と出会う。
「柳沢桂子著『われわれはなぜ死ぬのか』という本を読んで私は初めて、条件さえ整えば不死の生き物がいること、そして、性の分化が死を生み出していったことを知ったのです。産卵後に死ぬサケの場合、産卵後に著しく免疫が低下して病を発症している可能性がある、と知ったとき、『破壊する創造者』のウミウシ「エリシア・クロロティア」の印象的なエピソードを思い出し、そのとき、ふたたび、物語が動き出してくれたのでした」
ここに出てくるウミウシは、「卵から生まれたばかりの幼体のときは、元気よく泳ぎまわっているのに、大人になると全く動かなくなる。まるで、緑色の葉っぱのような姿になって、ただ、じっと藻にくっついていて、日の光を浴びると緑色に光る」ということ。「幼体のときには口があったのに、成体になると口すらなくなってしまうんだよ。口がないままで、1年近く生きるんだ」「そいつは、卵を産むと死ぬ。みんな一斉に、病気になって死んでしまうんだ」
そのウミウシが絶滅の危機に瀕しているらしい。
��315：黒狼熱はじめは喉の痛みや倦怠感など風邪に似た症状しか出ないが、いったん発疹が出た後は、症状が激烈に進む。��301：「海から帰ってくる鮭もそうだ。故郷の川を遡り、雌が産卵し、雄が寄り添って精子をかけ、新たな命を生み終えると、彼らの身体はあっという間に病に侵されていく。まるで、用が済んだといわんばかりに、その命を終えていくんだ」
2020年06月05日
生きるとは、自分の物語をつくること
臨床心理学というものの存在を知ったのは、河合先生を通してだったと思う。もともと京大では数学を専攻。それが、アメリカ留学を経て、スイスのユング研究所で日本人初のユング派分析家の資格を取り、ユング分析心理学の日本の第一人者となった。
これは、河合先生の没後、翌年2008年に出た追悼集。『博士の愛した数式』で知られる作家、小川洋子
との生前の対談の再掲と、小川洋子書き下ろしの「少し長すぎるあとがき」から成る。
「カウンセリングはスポーツに非常に似ている」という。患者に対してどう対応するか？「答え方はいっぱいある」という。多彩な交友を誇った河合先生らしく、ラグビーの平尾誠二から聞いた話としてこんな話を紹介する。
「一流の選手ほど選択肢をたくさん持っていてその中からパッと最善の方法を選ぶ。だけど、下手な選手は球をもろたらただもう走らないかんと思いこんどる」
49：小川患者の方の深い悩みに付き添って、どこまでもどこまでも下へ降りていくと、河合先生は依然おっしゃっておられました。小説家もやはり、小説を書いている時は、どこか見えないくらい世界にずうっと降りていくという感覚があるんです。51：河合患者の人が怒ったら、それを吸収する。ほんまに吸収するときもあるし、こっちがどなり返す時もある。それはもう、その時の勝負ですね。そういう点で、カウンセリングはスポーツに非常に似ていると思います。52：河合帰りぎわに「これが最後の挨拶です」なんて言う人がいる。「あ、どうぞ」と言った方がええ時もあれば、「まあ座って、ちょっと聴きましょう」って言わんとならん時もある。「どうぞさよなら」と言って亡くなられたら、絶対的な失敗ですからね。答え方はいっぱいある。そういう時下手な人ほど「死ぬのはやめて下さい」と答えが一つしかない。82：河合まさに「出家」は「家出」ですから。(中略）「絆し」を断ち切って出家するから意味があるんだけど、初めからなかったら家出は価値がないんです。今の若者たちは、その絆がなさすぎて、出家もくそもないということなんですよ。何していいか分からない。126：小川物語を持つことによって初めて人間は、身体と精神、外界と内界、意識と無意識を結びつけ、自分を一つに統合できる。人間は表層の悩みによって、深層世界に落ち込んでいる悩みを感じないようにして生きている。表面的な部分は理性によって強化できるが、内面の深いところにある混沌は論理的な言葉では表現できない。それを表出させ、表層の意識とつなげて心を一つの全体とし、更に他人ともつながってゆく、そのために必要なのが物語である。物語に託せば、言葉にできない混沌を言葉にする、という不条理が可能になる。生きるとは、自分にふさわしい、自分の物語を作り上げていくことに他ならない。
2020年06月04日
マザーハウス起業物語
発展途上国支援のソーシャルビジネス起業家としてメディア露出も多い山口社長による、半生記。発展途上国で仕事をすることの苦労は大体想像できるようなことだが、どうしてその道を選んだのかという方に興味をもった。
まず、小学校でいじめを受け、登校拒否になっている。中学校では当初、いじめられないよう周りに合わそうとするが、その反動で非行に走る。
「授業をサボってコンビニでお酒を買っては、先輩たちの家で色々面白いことをした」
「授業をサボるのは日課になり、あるときはパチンコ屋に行ったり、あるときは他校の生徒とケンカをしてみたり、あるときは学校の廊下で打ち上げ花火を発射させたりした」
そうしながらでも、気に入らなかった理科の先生を困らせようと、他の教科では95点以上をテストで取り、理科だけ白紙回答することもしているから、頭はよかったのだろう。そうやって理科の先生をいじめ抜き、「理科の先生は半年余りで髪の毛が真っ白になってしまった」というから、強烈な「粘着質」だ。一歩間違えれば犯罪である。
非行仲間は麻薬や覚醒剤に手を出し、学校から抜けていく。さすがにマズいと思い、持て余す「エネルギー」を発散しようと入部したのが柔道部。すぐに女子部では一番強くなり、男子を投げ飛ばしていたという。
埼玉県で一番になったものの、全国中学校柔道選手権全国大会では2回戦で負ける。これが悔しくて、進学したのが、埼玉県下で過去50年間トップを走り続けていた、超名門「男子」柔道部がある大宮工業高校。女子部のない柔道部に初めての女子部員として入部するのだ
それも、女子柔道部で埼玉トップの埼玉栄高校から誘われていたにも拘わらず、「自分の力で勝ちたい」と。高校柔道部では猛練習し、マイナス48kg級で埼玉代表となる。ジュニアオリンピックでは関東大会準優勝。全国7位の成績を残している。偏差値は40くらいの工業高校。ほとんどが卒業したら就職するかフリーターで、大学受験する生徒は3%くらい。そこから、「政治家になりたい」と青学、早稲田、慶應を受ける。いくらAOでも、余りに基礎学力がない。高校3年生の10月から猛勉強し、慶應SFCに受かるのだ
こうしてみると、起業家に必要と言われる資質が全て揃っていたことが分かる。
・集中力
・粘着質
・エネルギー
・競争心
・人と違った考え方
プロローグ：バングラデシュアジア最貧国。政治汚染度ランキング世界ワースト１位。人口の約40％が貧困（1日＄1以下で生活）。18：学校なんかより楽しいことが、世の中にはいっぱいあるんだと思ったら、学校に行くのは馬鹿馬鹿しく思えた。23：悩んだ末、私は埼玉県下で過去50年間トップを走り続けていた、超名門「男子」柔道部がある大宮工業高校に入学した。67：米州開発銀行でインターン「国際機関はいつだってトップに存在する。現場では、NGOを使い、そしてフィールドで生臭い活動ができる人たちを使い、僕たちトップは頭を使う。」173：「ありがとう」という習慣がない人に何かしてもらっても、当たり前の顔をして過ぎ去っていく人たち。257：エピローグ私は、学校でも、柔道でも、そして大学生活でも、つねに一番にならなきゃ意味がないと思ってきた。競争に勝った者だけが言える言葉があり、また見える世界があると信じて行動してきた。つねに他人と競争し、比較し、相対的な価値観に頼り生きてきた。
2020年06月03日
お金が貯まるのは、どっち⁉
GW中に見た不動産投資のYouTubeで推薦されていて、読んでみた。予備知識のある人なら1時間で読めるお気楽本。これがほとんど内容が同じ新刊合わせて50万部というのだから、ニーズもあるし、金融知識のない人向けにちょうどいいということなのだろう。
著者は三井住友銀行の支店長経験者（金沢八景→中野）。その後、銀行を早期退職して（48歳）アパート経営を始め、現在では、6棟のオーナーとして年間7000万円の不動産収入があるという。起業したのは2008年なので、リーマンショックの年。不動産価格は暴落し、まさに絶妙のタイミング！
「まじめで粘り強い人が、じつは破綻しやすい」にはドキリとした。まじめな人は大抵実績も残している。成功体験があるから、「今回も頑張れば挽回できる」と考えるのだそうだ。投資の世界では、頑張ってどうにかできるということは少ない。「まじめな人はプライドが高いため、人に相談できない」というのにも心当たりがある。
若い時の自分は、金こそ人生でもっとも大切なものだと思っていた。
今、歳をとってよくわかったのだが、まったくその通りだった。
（オスカー・ワイルド）
19：給与振込口座をメガバンクにするか、信用金庫にするか？将来、銀行からお金を借りやすくする選択。139：お金を稼ぐ力とお金を管理する力はちがう資産を形成するためには、両方必要。157：まじめで粘り強い人が、じつは破綻しやすい危険を察知したら、早めに損切りして逃げる。まじめな人はプライドが高いため、人に相談できない。175：ごちゃごちゃした立地を選ぶ歴史のある地域は家賃の相場が下がらない。新しくつくられた住宅街は危ない。
190：銀行が貸したくない7つのタイプ�〕靄修併�を書く人�⊇駑爐剖�欄の多い人�Ｊ�数の銀行に同時に審査をお願いする人�だ賁舁儻譴鮖箸�人�ゼ擇蠅燭ざ盂曚�決まっていない人��借金を隠す人�А屬�客様は神様だ」と思っている人
2020年06月02日
再建型私的整理とハンズ・オン投資
同じく『メーカー再生入門』（堀越康夫2007)の続き。堀越君はジャフコの後輩で、8年間ロンドン勤務をしていた。90年代のジャフコは日本のバブル経済崩壊と株式市場の下落でVC投資が低迷し、次の成長戦略としてバイアウトの勉強を欧米で進めていた。
VC投資の発祥地であり、ベンチャー企業が継続的に興ってきたアメリカはVC投資が盛んだが、戦後社会主義的政策を取ってきた欧州は経済が低迷していた。そのため、伝統的にVCよりもバイアウト投資が盛んに行われてきた。堀越君は、シティの有力PEに出向して多くの案件に関与してきた。
1998年、ジャフコは日本でバイアウトを始めることになる。
VC投資の発祥地であり、ベンチャー企業が継続的に興ってきたアメリカはVC投資が盛んだが、戦後社会主義的政策を取ってきた欧州は経済が低迷していた。そのため、伝統的にVCよりもバイアウト投資が盛んに行われてきた。堀越君は、シティの有力PEに出向して多くの案件に関与してきた。
1998年、ジャフコは日本でバイアウトを始めることになる。
191：スポンサーになることの意味「株主になる」ということは、会社の経営全てに「コミットメントする」ということである。欧米では一般常識である「概念」であるが、わが国ではいまだにこの言葉の意味を軽視している投資家が多い。コミットメントとは、投資を実行し、株主となったからには、その会社の成長に誠心誠意尽力するという意味である。197：オーナーを説得するむずかしさオーナーを説得するということは、まさに人格と人格との闘いである。少なくとも全人格的にオーナーと真正面から向き合う姿勢は不可欠である。�￣海呂弔�ない�⇒彑岨�項をすべて列挙する��メインバンクの責任者が説明にあたる�じ鮠弔亙�数人で�ノ篝鼎�つ真摯な態度で273：会議の運営方法決定経営方針、事業計画、組織図が固まったら、次に会議の運営方法を検討しなければならない。数多くの会議の開催を、その目的に照らしながら、部門ごと、役職ごと、全社会議などに区分し、開催方法を日次、週次、月次、半期、年次その他、細分化して設定するのである。情報を効率的、かつ、円滑に伝達、吸収するために、最適な会議の設定は会社運営上、最も重要な事項ということができる。275：人材の採用財務部門に人材が不足している場合、証券会社や銀行の出身者を紹介してくれるキャピタリストがいるかもしれないが、筆者の経験上、製造会社で高度に細分化されたシステムを導入している企業の財務担当の仕事を満足にこなせる銀行員に出会ったことはない。5か年の事業計画書を策定する方法さえ知らない。278：CFOの要件いかにして企業価値を創造していくか。� 峩箙團泪鵝畤�字に万能」という幻想�△曚�の仕事に目が行ってしまう�Ｄ拘�的な視点を持てない
2020年06月01日
『メーカー再生入門』
2007年に出版された際に堀越君から献本いただいた本。コロナ騒ぎで自宅軟禁となり、改めて読んでみる。よい本なのに、惜しいことに絶版。
��投資家が企業を選ぶ基準10：経営者はキャッシュの重要性を知る人かキャッシュを生み出す能力とは、換言すれば「世の中で必要とされている」ということである。なぜなら「不必要なもの」にキャッシュを払う人はいないからである。��DDによる対象企業の実態把握28：「一枚でも多くの紙を見る」決算書類や経理帳簿の閲覧にとどまらず、社内のあちこちに散らばる各種会議の議事録や課会ノートといった業務資料のなかにこそ、見落としてはならないポイントがある。特に末端の課会ノート等には、会社に対する要望や不満が書かれることがよくあり、そこに真実が含まれていることも少なくない。38：関係者の思惑の排除DDの終盤になると、関係当事者は「案件の着地〜完了」（クロージング）が気になり始め、案件に着手した当初の「推進力」とは別の意識が頭をもたげてくる。（中略）いずれもが費用対効果を意識しながら、それぞれ自らの作業内容に対する対価を意識するようになるのである。このような局面では、問題点を無理に合理化しようという「力」が発生する。プロ・マネもどこかの組織に属しているのであるから、そのような「流れ」に引きずられがちである。そこで、案件成約後の当事者、たとえば、経営に参画するメンバーや投資家は、「絶対に譲ることのできないリスク」について、最後まで追求する姿勢を崩さないよう気を引き締めなければならない。�せ�業計画の策定111：市場分析の主要7項目・現在の市場規模・潜在的市場規模・市場の成長性・収益性・コスト構造・流通システム・市場トレンド・主要成功要因（KSF）最重要＝KSF・競争優位の基礎ではないが、戦略上不可欠なもの・競争優位の基礎となるもの
