2019年01月
2019年01月31日
明治45年Japan Tourist Bureau設立
20歳の春、私は日本交通公社（現JTB）で働いていた。大学の3-4年の間の春休みに外国人旅行事業部で添乗員のアルバイトをすることにしたのだ。そろそろ就職を意識し始める時期で、商社志望の同級生には英会話学校に通う者もいた。
私も漠然と、「いつかは海外で働いてみたい」と思っていたので、大学で英語の授業を多く選択する一方、英字新聞を読むなどコツコツと勉強していた。インプットは自分の努力次第で何とでもなるのだが、アウトトップの機会が限られている。そうしたところ、学生課の掲示板で見つけたのがJTBの添乗員アルバイト募集。英語力が必要な割には普通のアルバイト料だったが、良い経験になると思い応募した。
英語での面接を通り、仕事内容の説明がある。担当するのは、JTB伝統の外国人用サンライズツアー。「日出処」でサンライズなのだと思うが、ツアー自身も朝が早い。毎朝夜明け前に起きて、バスがスタートするホテルに向かう。6:30頃から都内各ホテルを回ってツアー客を集める。自分の担当ホテルを3-4カ所廻った後、7:30頃東京プリンスホテルに集合。ここの広い駐車場で、ツアーの行き先毎にバスに乗せ換える。
ここから、自分がその日担当するツアーの添乗が始まる。私が好んで担当したのは当時開催中の「つくば万博」。万博会場まで送り届け、入場券を渡して、夕方バスに乗せて、都内のホテルまで送り届ける。料金を取って案内できるのは法律で通訳案内士に限られていたので、バイトができるのはあくまで添乗員。日中は自由だったので、行きのバスの中で仲良くなれそうな客を見つけて、会場内の案内を買って出て仲よくなった。一日中英語を話す環境は初めてのことで、インプットとアウトプットのバランスが取れた英語力はぐんと伸びた。
そのJTBが設立されたのが明治45年。鉄道開業の明治5年(1872）以来現在まで、「この時代（ビューロー創設からの数年間）ほど鉄道に携わる人たちが訪日旅行者誘致の中心的役割を担い熱心に活動したことはない」と著者はいう。それほど、鉄道関係者が中心になってつくられたJTBは、ロシアとの連携で欧州からの旅行客をシベリア鉄道経由で日本に送り込むなど成果を上げた。
それも、その後すぐに第一次世界大戦が勃発し、さらにロシア革命でふいになるのだが。JTBは生き残り、昭和20年、財団法人日本交通公社に、さらに昭和38年に営利部門が民営化して(株)日本交通公社（現JTB）となる。財団法人日本交通公社は今でも旅行関係の調査研究を続けている。
115：明治45年Japan Tourist Bureau設立鉄道開業の明治5年(1872）から同書出版までの80年間、さらにその後現在までの60年を含めて振り返っても、この時代（ビューロー創設からの数年間）ほど鉄道に携わる人たちが訪日旅行者誘致の中心的役割を担い熱心に活動したことはない。130：後藤新平の大風呂敷で作った『公認東亜案内』予算20万円。現在価値で約20億円。5巻あるので1巻4億円。現在書店に並んでいる500p程度の「中国」の旅行ガイドブックを5万部作るコストの10倍程度。138：日本人が、見せたくないと思った遊郭「吉原」『テリーの日本帝国案内』では、7ページにわたって江戸時代からの遊郭の歴史、建物のスタイル、遊女の日々の行い、昼と夜の様子を詳述。『公認東亜案内』にはまったく記載なし。地図にもその名がない。
2019年01月30日
国際観光地、日光と箱根の発展
1995年に米国駐在から帰国後、その年末に「通訳ガイド士」試験に通った。試験合格者は年明けに実施される実地研修に参加することになっており、その研修の地が日光と箱根。日光では、日光東照宮の歴史や見どころをベテランガイドの案内で習った後、金谷ホテルのダイニングルームでランチがあった。
これも研修の一環なので、金谷ホテルの歴史が説明される。その時、金谷ホテルの前身である金谷カッテージ・インの開業が、ヘボン式ローマ字の考案者で知られる米国人宣教師ジェームス・カーティス・ヘボンを、東照宮の雅楽師をしていた金谷善一郎が自宅に泊めたのがきっかけであることを初めて知った。
日光にはその後鉄道が敷かれ、日本人観光客も来るようになる。日光市内の混雑を避けて、外国人が別荘を設けたのがいろは坂を上がった中禅寺湖畔。そのきっかけになったのが、スコットランド出身の武器商人トーマス・グラバーだったというのも面白い。幕末、幕府と薩長両方に武器を売って大儲けしたグラバーだが、明治維新後は戦争が無くなり、倒産も経験した。
50歳半ばになったグラバーが安住の地としたのは、故郷スコットランドに似た中禅寺湖畔だった。グラバーは中禅寺湖にマスを放し、別荘を拠点に夏の間マス釣り三昧の日々を過ごしたという。
これも研修の一環なので、金谷ホテルの歴史が説明される。その時、金谷ホテルの前身である金谷カッテージ・インの開業が、ヘボン式ローマ字の考案者で知られる米国人宣教師ジェームス・カーティス・ヘボンを、東照宮の雅楽師をしていた金谷善一郎が自宅に泊めたのがきっかけであることを初めて知った。
日光にはその後鉄道が敷かれ、日本人観光客も来るようになる。日光市内の混雑を避けて、外国人が別荘を設けたのがいろは坂を上がった中禅寺湖畔。そのきっかけになったのが、スコットランド出身の武器商人トーマス・グラバーだったというのも面白い。幕末、幕府と薩長両方に武器を売って大儲けしたグラバーだが、明治維新後は戦争が無くなり、倒産も経験した。
50歳半ばになったグラバーが安住の地としたのは、故郷スコットランドに似た中禅寺湖畔だった。グラバーは中禅寺湖にマスを放し、別荘を拠点に夏の間マス釣り三昧の日々を過ごしたという。
82：金谷カッテージ・インの開業明治3年ヘボン式ローマ字の考案者で知られる米国人宣教師、ジェームス・カーティス・ヘボンが日光を訪れた。日光にはまだ外国人を泊める宿泊設備は存在せず、僧坊などを宿とするしかなかった。このとき、東照宮の雅楽師をしていた金谷善一郎が、自分の家は相当広いからうちに来て泊るといいといって、ヘボンを自宅に泊めた。ヘボンは善一郎に、これからは日光に外国人旅行者が増えるので、外国人専用の宿泊施設を作ることを進言した。明治6年、善一郎は、日光山内近くの四軒町（現在の本町）の自宅を改造して、金谷カッテージ・インを開業する。これが現在の日光金谷ホテルの前身である。ヘボンの言葉どおり、開業の翌年、外国人の内地旅行規制が緩和されている。84：中禅寺湖畔のトーマス・グラバー別荘グラバーはスコットランド出身で幕末に武器商品として財をなしたが、維新後は武器が売れなくなり破産も経験した。その後は高島炭鉱の経営、三菱財閥の相談役、キリンビールの前身であるビール会社の設立に関与するなど、社会的地位と名声を取り戻していた。そのグラバーが50歳代半ばになって、初めて中禅寺湖にやってきた。その風景を一目見たとき、マス釣りに興じた少年の頃を思い出し、望郷の念にかられた。彼は奥日光で自分の別荘を拠点にして、夏の間マス釣り三昧の日々を送っている。90：富士屋ホテルと奈良屋の外国人獲得合戦明治11年（1878）、宮ノ下に富士屋ホテルが開業した。アメリカ帰りの山口仙之助が、500年の歴史をもつ藤屋旅館を買収し、同地に三階建て洋館のホテルを建設したのである。宮ノ下には、それ以前から外国人を多数泊めていた日本式旅館の奈良屋があった。奈良屋は江戸時代には多くの大名が宿泊した本陣であり、明治になっても、箱根一体では群を抜く設備や格式を誇っていた。サービスとティーハウス（茶室）が外国人に好まれていたという。94：明治25年（1892）湯本の旅館経営者が集まって箱根電燈を設立湯本の須雲川に水力発電所を建設。京都蹴上発電所に続き、電力事業用としては日本で二番目。99：日光東照宮のブルーノ・タウト・ショック昭和8年(1933）5月3日近代建築学の巨匠タウトが初来日〜東照宮を「俗悪だ」と切って捨てる。その一方、東照宮とほぼ同時期に造営された京都の桂離宮を絶賛する。京都にいくつもある有名寺社と異なり、桂離宮はそれまではほとんど注目されたことがなかった。サトウらの『明治日本旅行案内』にも掲載されていない。102：「だいたい、昭和10年代の日本の知識階級の精神状況は、西洋人がそのように言うと、皆右にならえみたいなところがありましたね」（中村真一郎「東照宮のみどころ」）
2019年01月29日
明治日本の外国人旅行環境
明治政府が第一に目指したのは江戸時代末期に結ばれた「不平等条約」の改正だった。政権交代どころか、政治体制から法律からすべてが変わったのだから「知らない」ということも可能だった。しかし、軍事力の差は歴然。明治政府は徳川幕府の結んだ国際条約を尊重せざるを得ない。西欧列強に「猿真似」と笑われた鹿鳴館外交も、必死のアピールであったのだ。
国内自由旅行の制限が撤廃され、一般の外国人が日本国内を自由に旅行できるようになったのは、明治32年（1899）のことで、改正条約の実施以降のことだった。これは、条約改正の交渉材料として内地通行権が使われたからで、治外法権や関税自主権の獲得と引き換えに内地雑居の禁止も撤廃された。
第2章 明治日本の外国人旅行環境55：国内自由旅行の制限一般の外国人が日本国内を自由に旅行できるようになったのは、明治32年（1899）、改正条約の実施以降。明治2年スエズ運河開通＆アメリカ大陸横断鉄道全通。60：条約改正の交渉材料としての内地通行権明治7年（1874）、学術研究と病気養生の場合に限り「旅行免状」を発給→イザベラ・バード63：治外法権と内地雑居の禁止は明治32年の条約発効と同時に撤廃、関税自主権はそのまた12年後（明治44年）に回復。72：ロシアのイスラム指導者イブラヒム『ジャポンヤ』「日本へ来た旅行者は誰でも、東京では（喜賓）会の本部へ、またその他の都市では支部へ申し込んで会員になることができる。協会では、まず旅行者に日本の詳しい地図を手渡す、大きな都市の市街図もその周りに載っている。この他に、仏語、英語で書かれた二冊の手帳（旅行案内書）がもらえる。この手帳には日本中の主な観光地の説明、それがどこにあり、どうやって行くのか、費用はどれだけか等すべてが書かれている」
2019年01月28日
妖精の住む「古き良き日本」時代
友人のイギリス人夫妻は日本びいきで毎年日本に来る。慶應義塾大学で政治学の集中講義をもつ夫人に合わせてひと月以上滞在し、地方への旅行も入れるのが常。「清潔で、安全で、自然豊かで、人は親切で、美味しくて、安い」と毎回べた褒めだ。
日本に来はじめた最初の頃は、他の国同様、事前に宿を調べて料金を確認し、他に安いオファーはないかとチェックしていたという。同じホテルの同じ部屋でも、予約時期やパッケージによって料金が違い、いわゆるラックレートと全く違うので、「調べないと損をする」のが世界の常識だ。
ところが、しばらく地方の旅館に泊まっていみて、予約なしで当日行っても同じ料金だと気づいてからは、予約なしでその日着いた街で泊まることも増えたという。
日本が外国人旅行者を受け入れ始めたのは、明治時代中期。鎖国を解いてからしばらくは、植民地化の恐れもまだあり、外国人は居留地以外に住むことはできず、旅行にも許可が要った。しばらくして研究のための旅行が認められるようになり、明治11年(1878）外国人未踏の地だった東北から北海道へと旅したのがイギリスの女性旅行家イザベラ・バードだ。
「ヨーロッパの国の多くでは、またたぶんイギリスでもどこかの地方では、女性がたったひとりでよその国の服装をして旅すれば、危険な目に遭うとまではいかなくとも、無礼に扱われたり、侮辱されたり、値段をふっかけられたりするでしょう。でもここではただの一度として無作法な扱いを受けたことも、法外な値段をふっかけられたこともないのです」『イザベラ・バードの日本紀行』
バードは同時期に清朝末期の中国や、李氏朝鮮にも旅行して、それぞれ旅行記を書き残している。三冊を読み比べてみると面白い。
はじめに自分たちの魅力は、本人自身では分かりにくい。思い込みが激しく誤解している例も多い。外国人旅行者に対して、好みを聞き親身になって考えた人もいるが、これが見たいはずだと独りよがりに判断して押しつけた人もいる。喜んでもらえるかよりも自分たちが見せたいもの、自慢したいこと、儲かることを最優先に考えた人も大勢いた。第１章 妖精の住む「古き良き日本」時代1：世界に例がないほどすばらしいニッポンの都市「古い日本は、妖精の住む小さくてかわいらしい不思議な国であった」（明治期のイギリス人日本研究者バジル・ホール・チェンバレン『日本事物誌』）2：初代英国駐日総領事ラザフォード・オールコック『大君の都』「市街は、湾の青い海のところまでのび出しているが、その湾上には奇妙な帆装をした小舟や船が一面に浮かんでいる。ヨーロッパでは、これほど多くのまったく独特のすばらしい容貌を見せる首都はない」5：チェンバレン「貧乏人は存在するが貧困は存在しない」庶民の間で仲間を大切にする意識、相互扶助の精神が存在。大森貝塚を発見したアメリカ人エドワード・S・モースの明治10年日光を訪ねた時の栃木県の寒村の様子「人々は最下層に属し、粗野な顔をして、子どもは恐ろしく不潔で、家屋は貧弱であったが、然し彼らの顔には、我国の大都市の貧民窟で見受けるような、野獣性も悪性も、また憔悴した絶望の表情も見えなかった」（『日本その日その日』）「人々が正直である国にいることは実に気持ちがいい。私は決して札入れや懐中時計の見張りをしようとしない。鍵をかけぬ部屋の机の上に、私は小銭を置いたままにするのだが、日本人の子供や召使は一日に数十回出入りして、触ってはならぬ物には決して手を触れぬ」また賄賂は日本武士道の誠の心に反するものとして、その悪習に触れることがなかったことにも、何人もの外国人が感銘を受けている。6：オールコックは自分の前任地だった中国を「あらゆるものが朽ちつつある」とし、それに比べて日本への賛辞を送る。この時代日本にやってきた欧米人の多くは官僚、学者、旅行者であり、異文化をいくつも体験してきている。経験豊かな彼らの目に、日本が称賛に値する国に映ったとしたら、それはそう感じさせる何かが確実にあったはずだ。7：明治半ばに消滅した[m:75]「古き良き日本」日本近代史家の渡辺京二も『逝きし世の面影』（1998）において、チェンバレンらがいう古い日本、すなわち18世紀初頭から19世紀にかけて日本に存在した一つの文明が、明治半ばには消滅したと指摘する。同書は、幕末から明治にかけての外国人の日本に対する膨大な量の著作をもとに多くの引用を駆使しながらこの特異な文明の滅亡を浮かび上がらせたものである。15：450日間、日本各地を旅行したイギリス人外交官アーネスト・サトウマレーの旅行案内書で日本を対象とした巻が発行されたのは、明治17年(1884）が最初。37：明治時代、外国人による東京案内サトウ『明治日本旅行案内』記述の多い順（Michelin Japan H29)�ー覗�上寺 10.5p (★0.2) 空襲で喪失�∪�草寺 5p （★★3.0)�Ｃ咯緞槎膸� 2.5p −�ぞ緻邊憶併� 1.7p (上野★★★4.5)�テ狙邁噺耄邁亜兵如�1.6p − 空襲で喪失41：回向院(両国) サトウ『明治日本旅行案内』「東京で最も有名な仏閣」10万人以上が亡くなった明暦の大火（1657）での焼死者を幕府の命で葬った万人塚が始まり。それらは無縁仏のため檀家が存在せず経済的基盤がない。そのため地方の仏像を一定期間江戸の人々に開帳する会場としたり、公的行事や相撲、見世物の開催場としたりして寺は収入を得ていた。江戸時代半ばから回向院で行われていた勧進相撲が現在の大相撲の起源であり、明治42年（1909）境内に旧両国国技館が建てられる。47：『明治日本旅行案内』編集方針�―ゞ気領鮖砲暴鼎�を置く・・・京都・奈良トップは西本願寺（日本における宗教戦争の代表例）��建造物よりも絵画などの美術品に価値を置く・・・ジャポニズム53：伏見稲荷大社のブーム2013年ころから外国人が大勢訪れるようになった。1万基ある「千本鳥居」TripAdvisor「外国人に人気のある日本の観光スポット」トップ鳥居をくぐりながら1時間ほどのウオーキングとなる稲荷山へのお山めぐりが欧米人に好まれる。駅から近く拝観料も無料、閉門時間がない。
2019年01月27日
陰険な中国人の策略
「ナイーブな」というのは、日本では「初々しい」とか肯定的な意味で用いられることが多いが、英語で"naive"といえば、「騙されてもしかたのない間抜け」といった否定的な意味になる。旅行中に何か盗まれたとして、日本では警察に駆け込めば丁寧に話を聞いてくれるだろうが、海外で経験した人はよく分かるだろうが、面倒がられるだけである。
民族学者としてアジアの地を昔から歩いて来た梅棹忠夫は、はっきりと、「日本人のようなナイーブな（能天気な？）民族が手を出してうまくいくところではない」とアジアの大陸的古典国家への手出しを忠告している。
誤解してはならないのは、中国だけがそうであったのではなく、アジアの大陸的古典国家は長い歴史の中で互いに侵略し、侵略されており、どこもそうした気質を持っているということだ。チベットは中華人民共和国が成立した途端、人民解放軍によって、侵略された（1950年）。以来、中国の支配下に置かれ、弾圧されている。しかし、歴史を振り返れば、中国の力が弱い時は、逆にチベット（吐蕃）が中国領土に侵入したこともある。
245：中国は日本と比べて国土も歴史も比較にならない位スケールがでかい。物理的なスケール以上に、彼らは日本人には想像を絶する異民族のすさまじい寇掠を生き抜いてきた逞しさがある。現実の中国に向き合う前に、資治通鑑のような赤裸々に中国の恥部をえぐった歴史書を読み、彼らの思考体系の一端をしっかり把握することが、歴史的に長らく「平和国家」の幸運に恵まれた日本人には必須であると私は考える。
というのが、麻生川さんの結論だ。
第3章 陰険な中国人の策略168：ナイーブな日本人「アジアの大陸的古典国家は、人間のあらゆる悪 ― 悪というと言葉が悪いですが ― どろどろした人間の業がいっぱい詰まっているところなのです。日本人のようなおぼこい民族が手をだしてうまくいくものと違うのです。わたしはアジアをずいぶん歩いていますので、そのことを実感しています」（梅棹忠夫編『文明の生態史観はいま』）「おぼこい」＝naive（騙されてもしかたのない間抜け」日本人は確かに善良であるかもしれないが、国際社会に出てみると、皆からカモにされる民族。202：戦争に関する日本人の考え方の異質さ日本では奈良や平安の一時期を除き、1000年以上の歴史において命がけの戦争には庶民が直接携わることがなかった。それというのも、律令体制における兵制が崩壊したあと、武士という階級が発生し、戦闘要員という職業を世襲化したためだ。（中略）明治以降第二次世界大戦までの国民皆兵は日本の伝統からすれば極めて異質な状態であった。戦争とは、中国や朝鮮半島だけでなくユーラシア大陸全般において、建前はともかく、実態は財産の強奪に他ならない。例えば、1202年から1204年にかけて行われた第4回十字軍では、十字軍の本来の目的とは無関係なビザンチン帝国の首都コンスタンチノープルが同じキリスト教徒によって略奪された。（中略）同様の例は、西洋や中国の歴史に枚挙に暇がない。彼らにとっての戦争とは、「理屈はどうであれ、戦争に勝てば相手の財産をそっくり略奪でき、捕まえた人は奴隷としてこきつかったり、売り飛ばすことができる絶好の機会」なのだ。205：中国では国内だけでなく周辺の異民族との戦いで、住民が大虐殺されたり大移動を強制されたりしている。例えば、チベット（吐蕃）は安史の乱（755年）以降、唐の弱体化につけ込んでしばしば中国領土を荒らしまわった。763年の侵攻では長駆して長安にまで迫ってきたので代宗は慌てて都を逃げ出さざるを得なくなった。難なく長安に入ったチベット軍の強奪による長安の荒廃の様子を資治通鑑は「市内の倉庫や家を略奪したあと、火を放ったので、長安は一面焼け野原になってしまった」と記す。その後、中国に2年もの間滞在し、散々荒らしまわった後、チベット軍は引き揚げたが、そのとき住民数万人をかっさらっていった様子は残虐を極める。226：文化大革命当時、数多くの政治家・役人の冤罪を見ても分かるが、一旦権力を失うと、単に自分の命だけでなく一族郎党、何十人、いや最悪の場合は何千人もが犠牲になる。このために中国の権力闘争は日本人の想像を絶するほど、熾烈でかつ陰惨なものであったし、今なお、この忌まわしき伝統は中国・韓国・北朝鮮に脈々と息づいている。
2019年01月26日
中国人のド派手な贅沢・桁外れの蓄財
長年に渡り世界最大の帝国であった中国は世界一豊かな国でもあった。資治通鑑を読むと、権力者たちのド派手な贅沢・桁外れの蓄財は今に始まったわけではないことがよく分かる。
近世では、清の西太后のグルメぶりが有名だ。「毎日2回の正餐と同じく2回の間食をしていたが、正餐には100皿、間食でも数十皿に料理が盛られていた。食べ切れるわけではないが、贅沢でド派手な食卓が権力の証なのだ。この伝統は紀元前16世紀の殷の時代から続く」
韓非子には、「殷の紂王が、水牛や象、あるいは豹の腹子を食べていた」との記述がある（p137）。また、中国には食人の風習があり、飢饉のときだけでなく、美味・珍味として食べることがあった。斉の桓公（紀元前7世紀）が「まだ人肉を食べたことがない」とつぶやいたのを小耳にはさんだ王室のコック長の易牙が早速我が子を殺して、蒸し物にして差し出した。
第2章 中国人のド派手な贅沢・桁外れの蓄財146：楊貴妃の3人の姉と兄、従兄の「五家」玄宗からの下賜品や方々からの贈り物は、まるで五つの家が一つであるかのように届いた。互いに競い合って壮麗な邸宅を建てた。ややもすると一つの建物の建築費が一兆円をオーバーすることもあった。完成しても他家のものが優れていると見るや、たちどころに壊してまた作り直すありさまだ。148：当時、貴族たちの間でお互いを食事に招くことが流行した。玄宗皇帝は宦官の姚思芸を検校進食使（食事チェック係）に任命し調査させた。その結果、貴族たちの食卓には、数千枚もの皿に海の幸、山の幸や珍味などが山と盛られていたことが分かった。一席の食事代といえば、中産階級10軒分の資産に該当した。154：北斉では、武成帝が贅沢三昧していた影響が残っていて、帝王たるものは贅沢すべしと考えられていた。後宮の后妃たちは皆、豪華な服を着、贅沢な食事をしていた。1着の服装が1億円もする高価なものもあった。新奇なスタイルを競い、朝に着たものは、夕方に捨てられた。建物や庭に贅をこらした。好みがころころと変わるため、造っては壊し、壊しては作ったので、技術者や職人は休む暇がなかった。（中略）宮殿の華林園に貧乏人の村なるものを作り、後主自らが乞食のみなりをして、物乞いのパフォーマンスを楽しんだ。
2019年01月25日
残酷を極める中国人
中国はじめ、大陸の都市は城塞都市だ。それに対して、日本の城は武士だけのもので、庶民は城の周りで暮らしていた。何故か？それは、日本では1000年以上にわたり、戦争は専門の武装集団である武士だけのものであり、庶民が巻き込まれることは原則なかったから。庶民からすれば、納税先が変わるだけのことだった。
中国語には「屠城」あるいは「洗城」という言葉があり、「ひとつの城全部の人を殺し尽くして、あたかも城を洗ったように空っぽにすること」だという。殺されない場合も、奴隷として連れていかれた。したがって、戦いに負けることは身の破滅を意味するので、戦争の重要性は日本とは比較にならないほど高い。そのためにどんな手を使っても勝とうとするし、街全体を城塞で守ったわけだ。
また、「夷三族」という言葉もある。政権が交代すると、あるいは宿敵を倒すと、後で関係者が報復に来ないよう、一族郎党皆殺しにするのである。中国や、その文化をそのまま受け入れた朝鮮の政治闘争を見ていると、この風習は今でも根強く残っていると言える。
毛沢東の文化大革命では、数千万人を巻き添えにして政敵を排除した。韓国の大統領経験者のほとんどが、殺されているか、自殺しているか、逮捕されているか。経済的には日本と肩を並べるほど豊かになった韓国人が、今でも海外移住に熱心なのも頷ける。
民主主義国家の韓国だからこれで済んでいるが、独裁国家の北朝鮮になると、「夷三族」が今でも行われている。それまで「北朝鮮のNo.2」と言われていた張成沢の粛清（2014年）はまだ記憶に新しい。一族郎党数十人が処刑され、遠縁も含めて数百人が強制収容所に送られたようだ。
「『読売新聞』によると、金正恩政権は1月、中国や欧州、東南アジアなどの主要国の在外公館に、16人の処刑リストを送付した。リストには張成沢、李龍河、張秀吉の他、パク・チュンホン、ヤン・チョルソン副部長などが挙げられていた。また、韓国の聯合ニュースの1月26日報道によると、複数の北朝鮮消息筋からの情報として、全英鎮前駐キューバ大使（張の姉の夫）、張勇哲前マレーシア大使（張の甥）を始め、張成沢の一族の大半が処刑され、特に張の2人の兄（故人）の直系子孫は幼い子供まで皆殺しにされたという」（Wikipedia)
第1章 残酷を極める中国人38：中国人の食人の風習�“�味・珍味として食べる斉の桓公（紀元前7世紀）はまだ人肉を食べたことがない、とつぶやいたのを小耳にはさんだ王室のコック長の易牙は早速我が子を殺して、蒸し物にして差し出した。��罰として罪人の身内を殺して食べさせる殷の紂王（紀元前11世紀）は周の文王の子、伯邑を捕らえて煮てシチューにして送ったところ文王はそれを食べた。�Ｌ瑤箸靴匿�べる�ち�い相手を食って鬱憤をはらす�サ会爾里箸�、人を食べる41：中国の人口は前漢末には6000万人ほどもいたが、飢饉、騒乱で、4000万人も減少し、後漢の初めには2000万人程度にまで落ち込んだ。毛沢東の大躍進の失敗で数千万人餓死したというが、中国にとっては、いつか来た道だったのだ。つまり、中国の本当の理解には、論語や三国志や唐詩だけでなく、史書の記述から当時の悲惨な実態を知ることが欠かせない。63：斉の顕祖が晋陽に出かけようとしたが、後腐れのないように、前の王朝の元氏一族を皆殺しにしようと決意した。先祖が王であった者の子孫、あるいは前政府で高官に就いた者の子孫、それらを皆、公開処刑した。赤ん坊は空中に放り投げて落ちてくるのを槍で刺した。合計で721人を処刑し、死体を尽く漳水に流した。71：屠城（『辞源』）「ひとつの城全部の人を殺し尽くして、あたかも城を洗ったように空っぽにすること」113：夷三族武則天は閣知微を天津橋の南に磔にするように命じた。そして朝廷の官僚全員で閣知微に矢を射るように命じ、骨まで肉をそぎ、骨を砕くよう命じた。閣知微の親族を皆殺しにした。親族と言っても、それまでお互いに一度もあったこともないような人たちが一緒に殺された。
2019年01月24日
大著「資治通鑑」を読み解く
「リベラルアーツ研究家」を名乗る畏友麻生川さん。司馬光が編集した『資治通鑑』ということくらいは高校の世界史で知ってたが、これを実際に原文で読んだことがある人は聞いたことがない。戦前は中国研究が盛んでそれなりに読まれたようだが、戦後、『大日本史』が否定されると同時に、そのモデルとなった『資治通鑑』も顧みられなくなった。というわけで、現状では抄訳しか一般には手に入らない。
改めて見てみると、その分量にまず驚く。「司馬光をリーダーとする数十人の編集チームが20年近くかけて1084年に完成。カバーする範囲は紀元前403年から959年までの1362年間。字数は『史記』の6倍（330万文字）、登場人物は1万人、ページ数は1万ページ（中華書局版）」という。
序章 資治通鑑とはどういう本か？
改めて見てみると、その分量にまず驚く。「司馬光をリーダーとする数十人の編集チームが20年近くかけて1084年に完成。カバーする範囲は紀元前403年から959年までの1362年間。字数は『史記』の6倍（330万文字）、登場人物は1万人、ページ数は1万ページ（中華書局版）」という。
この本を、麻生川さんは1980年京都大学大学院を卒業する直前に入手する。ふと、『正史三国志』が読みたくなって寺町通り(京都）の中国書籍専門店に行って偶然見つけたそうだ。中華書局版・全4巻。一巻約2500ページで、計1万ページ。「到底生きているうちに読めないだろう」と思ったという。
「時折拾い読みし、半分近くは目を通したものの、腰を据えて全巻を読み通そうと決心したのは、買ってから20年ほど経っていた」とのこと。そもそも、麻生川さんは工学部である(笑)。
そして、中国語で1万ページを読み通した麻生川さんの結論。
「時折拾い読みし、半分近くは目を通したものの、腰を据えて全巻を読み通そうと決心したのは、買ってから20年ほど経っていた」とのこと。そもそも、麻生川さんは工学部である(笑)。
そして、中国語で1万ページを読み通した麻生川さんの結論。
「『資治通鑑』を読まずして中国は語れない。そして、中国人を理解することも不可能である」
序章 資治通鑑とはどういう本か？
8：幻の書『資治通鑑』司馬光をリーダーとする数十人の編集チームが20年近くかけて1084年に完成。カバーする範囲は紀元前403年から959年までの1362年間。字数は『史記』の6倍（330万文字）、登場人物は1万人、ページ数は1万ページ（中華書局版）。現状では、抄訳の資治通鑑を読むしかないが、これらはあまりにも断片すぎる上に、資治通鑑からおぞましい部分をカットして日本人の感性にフィットする倫理・道徳の教訓的な部分を中心に編集したため、とても資治通鑑のもつ凄さが伝わらない。12：中国の史書二十四史というのは、司馬遷が史記を書くときに考案した「紀伝体」に倣って書かれた一連の史書。紀伝体とは、歴史を俯瞰する中心軸を時ではなく人物とし、さらに人物を王朝の中心人物(帝王）と一般人とに分けて描いた。さらに、現代でいうと経済白書・社会白書で社会の大きな変動を描いた。資治通鑑は春秋左氏伝のように歴史の俯瞰軸を時に取った「編年体」というオーソドックスな方法を採用した。しかし、記述するための材料の多くはこれらの史書（十七史）に拠っている。子の維持で、資治通鑑と二十四史は補完関係にある。十八史略は帝王と政治体制の変遷を中心とした記述であるのに対し、資治通鑑は史実に忠実であることを旨としているため、悪事が数限りなく書き連ねられている。資治通鑑には、次々と発生する盗賊や軍閥の理不尽な寇掠と暴行、それに引き続いて起こる大飢饉、まさに広大な生き地獄の世界が際限なく描かれている。つかの間の平和も、官吏の底なしの苛斂誅求と宦官や悪徳官僚の桁違いの賄賂政治、どこを見ても義などは存在しないように見える悖乱の世界、それが、文化栄えたる中華と言われたところなのだ。いつの時代でも資治通鑑を真剣に読んだ人は中国の歴史に限りない絶望感を感じたに違いない。17：日本では資治通鑑はどういう風に読まれたか？幕末になると、資治通鑑は志士たちにも読まれた。橋本佐内は安政の大獄で投獄されたが、獄中で資治通鑑を読みながら注をつけたと言われる。その他、岩崎弥太郎、西郷隆盛、坂本龍馬、徳川慶喜なども資治通鑑を愛読したことが知られている。20：なぜ資治通鑑を読む必要があるのか？論語や三国志の時代の中国は漢民族の倫理が支配していた。しかし三国志の後の王朝である晋の時代に異民族が中国に大量に流れ込み国全体が大混乱に陥った。異民族が力をつけ、五胡十六国という異民族の国家が中国の北部を支配した。この結果、中国の徳治や仁義という政治倫理が全く地に落ちてしまった。代わりに、詐術と武力が支配原理となった。23：資治通鑑から何を学び得るのか？毛沢東の言動や策略には、資治通鑑のエッセンスが極めて忠実に反映されている。一例をあげると毛沢東が始めた文化大革命は社会主義の徹底という触れ込みで走資派を排除したが、その実は劉少奇など数名の政敵を抹殺するのが最終目的であった。その意図を隠したまま、全く関係のないような文芸上のテーマ「『海瑞罷官』を評す」から事を起こした。そうして、徐々に敵方の勢力を削いでいき、最後に孤立した劉少奇を無惨な監禁死に追いやった。その過程で、数千万人もの罪のない人々を巻き添えにしたが、毛沢東のこの手法こそまさに資治通鑑を地でいく奸計だった。32：資治通鑑を読むと人生観が変わる日本人は善悪のレンジが狭いのに対し、中国人はとんでもない極悪人から、ウルトラ善人まで、善悪のレンジが極めて広い。中国の悪だけではなく善のパターンが、それも極端な場合も含め、全て網羅されている資治通鑑という長編ドキュメンタリーはこの意味でも中国社会の実相を知るのに非常に有益な書であるのだ。
2019年01月23日
賞与は「半期の成果」に基づいて決定する
武蔵野の場合、賞与は「半期毎の成果」に基づいて支給総額が決まり、その分配を、社員毎の「ポイント」で決めている。ポイントは�ゞ叛喇床租澄↓▲廛蹈札紘床租澄↓Ｊ�針共有点、�ご超�整備点の4項目を点数化している。項目は同じでも、職責下位の社員は「プロセス重視」、職責上位の社員は「業績重視」とバランスを変えている。「どうしたら評価されるか」を明確にしているので、社員の自主性に任せても、自然と成果が上がる仕組みだ。
面白いのは、「賞与の額がもっとも少なかった社員に賞与を袋詰めさせる」仕掛け。現金で渡すのは手間がかかるし、万一の事故を考え、給与同様振込にする会社がほとんど。しかし、武蔵野では所与だけは現金支給を続けているという。労働対価として支払う給与と区別するためだろう。そして、その賞与を袋詰めさせるのが「賞与の額がもっとも少なかった管理職(部長・課長）」。「賞与の袋詰めをした社員で、会社を辞めた社員は一人もいない。2回連続で袋詰めをした社員もいない」というから、よほど効果があるようだ。
さらに、武蔵野の総務では賞与袋を1000円で売っているそうだ。社員は新しい袋を買って、金額を書き換えて、奥さんに渡す。そしてその差額を、部下とのコミュニケーションに使う上司は出世する。
102：最初に支給総額を決め、賞与単価はあとから計算する会社の業績がよければ、支給総額が増える。支給総額が増えれば、1点あたりの賞与単価も上がり、賞与の額が増える。110：4つの項目を点数化して評価を決める職責下位の社員は「プロセス重視」、職責上位の社員は「業績重視」下位＝30:70 課長＝50:50 部長＝70:30 本部長＝80:20�ゞ叛喇床租澄柄突�益額と営業利益で算出）�▲廛蹈札紘床租澄併纏�の基本行動・態度に関する6項目）�Ｊ�針共有点（勉強会、オリエンテーション、社員旅行など「価値観を共有」行事への参加ポイント）能力よりも価値観を共有できることを重視。価値観が揃っていると、「同じ優先順位で行動」できるため、組織力を強化することが可能。�ご超�整備点（毎朝、業務時間内に、全社員に30分間の「環境整備」義務付け）4週間に1回の環境整備点検で、賞与評価に反映。126：給与はお客様に感謝、賞与は社長にありがとう賞与は労働対価ではなく、利益の一部配分。賞与を払っているのは「社長」。利益が出なければ分配できない。130：「賞与の額がもっとも少なかった社員」に賞与を袋詰めさせる賞与は現金（万単位）、手渡しで支給する。端数は口座振り込み。部長と課長の中で、賞与の額がもっとも少なかった社員が、他の社員のボーナスを袋詰めする。袋詰めをしながら、「こいつがこんなにもらっているのか」「次は絶対いい評価を取ってやる！」と思わせ、次の半期に向けての闘志を燃やさせる。賞与の袋詰めをした社員で、会社を辞めた社員は一人もいない。2回連続で袋詰めをした社員もいない。136：家族が増えるほど、一人当たりの家族手当を厚くするこの7年間で退職した管理職はゼロ。配偶者＝5千円第1子＝1万円第2子＝1.5万円第3子＝2万円第4子＝2.5万円＊１と２グループ（職責下位）社員の子どもは半額＊中途入社は、入社した年は配偶者分のみ。次の年は配偶者＋第1子、さらに次の年は配偶者＋子供二人分と、1年ごとに一人分ずつ増やしていく。いきなり3人分を支払うと、不公平感を覚える社員があらわれる。150：社員を辞めさせないために「特別手当」�〇�ち家購入手当��永年勤続手当�５⊂兵蠹���10年以上勤続している部長職以上が持ち家を購入した場合6グループ A100万円 B80万円 C60万円5グループ A80万円 B60万円 C50万円4グループ A60万円 B50万円 C40万円＊事前に社長の許可を得る＊購入物件が本社から通勤1時間以内
2019年01月22日
基本給は「過去の実績」に基づいて決定する
「給与」と一言に言っても、中身はいろいろだ。基本給、手当、賞与と、それぞれ本来の意味合いがあり、全く性格の違うものなのだが、いつの間にか曖昧になってしまっている会社も多い。
武蔵野では明確で、
�ヾ靄楜襦焚甬遒亮太咫ε�級によって決まる）
�▲哀襦璽彈蠹�(管理職手当・属するグループによって決まる）
��賞与（どういう成果を出したかで決まる）
�い修梁昭蠹�（福利厚生費として支払う）
となっている。賞与はまず会社の成果が出ることが前提。したがって、赤字であれば全員がゼロになる。賞与の源泉がないのだから当たり前なのだが、いつの間にか賞与を出すのが「風景」になってしまっている会社も多い。ルールを明文化してなければもめる原因になりそうだが、ルールが決まっていれば納得するしかない。「来期は黒字に」と気持ちを入れ替えられる。
上司に、部下の成績に「順位」を付けさせるための仕組みが秀逸。放っておくと、ほとんどを中位の評価にしてしまいかねない。そもそも、武蔵野は相対評価で各グループ内でのS-A-B-C-Dの割合が決められている。さらに必ず「順位」を付けさせるという。
そうすると、降格になる人も出て来る。昇級評語（上期、下期の評価を踏まえて決定した1年間の評価）が3回連続「C評価」の場合、降格対象ということだが、ここでも社員を腐らせない仕組みがある。通常昇格では「A評価3回」必要なのだが、降格しても、下の等級で「3年以内にA評価を取れば、昇格ポイントに関係なく、復帰できるのだそうだ。「復活のしくみ」が明確だからやる気を失わない。
２．基本給は「過去の実績」に基づいて決定する60：基本給は、等級制度。「賃金テーブル」をつくって計算�ヾ靄楜襦焚甬遒亮太咫ε�級によって決まる）�▲哀襦璽彈蠹�(管理職手当・属するグループによって決まる）��賞与（どういう成果を出したかで決まる）�い修梁昭蠹�（福利厚生費として支払う）78：たとえ1点差でも部下の成績に「順位」をつける社員が全力を出すには、仕事ぶりに順番をつけなければならない。�”�下に「A評価以上」の評価を付けないと、部下が昇進できない��部下に「A評価以上」の評価を付けないと、上司が昇格できない�Ｉ床舛忘垢鬚弔韻襪函�部署全体の賞与支給額が増える賞与配分点数 A=200 B=140 C=10081：降格しても頑張れるのは「復活するしくみ」があるから昇級評語（上期、下期の評価を踏まえて決定した1年間の評価）が3回連続「C評価」の場合、降格対象として12月の役員会で審議。降格＝等級が下がる「復活のしくみ」が明確。降格しても、下の等級で「3年以内にA評価を取れば、昇格ポイントに関係なく、復帰できる。通常昇格では「A評価3回」必要。腐らせないため。84：ベースアップとは「1等級1号俸」の金額を上げること「変わらないもの」は、しくみ。「変わるもの」は、賃金テーブルの数字。「ベア」は基本給を全員、一律の金額で上げること。94：管理職は部下と一緒に現場を回らないと、手当がもらえない他事業部へ管理職として異動した時は、自分の部下と一緒に現場に出て、「部下から仕事を教えてもらう」のが決まり。現場に50回ないし100回同行しないければ、管理職手当をもらうことはできない。「早く手当をもらいたい」から、早く現場に出るので、早く仕事を覚える。上司と部下のコミュニケーションがよくなる。
2019年01月21日
人事評価制度を「今すぐつくる」ことを決定する
中小企業の社長の9割は「鉛筆ナメナメ」している（はじめに）、という。
「給与と賞与に明確なルールがなく、社長の好きなように決まったら、社員が納得できるはずがない。人事評価の基準が経営計画書に明示されているから、賞与がゼロになっても、半額になっても、罰金を取られても、何度も降格しても、社員がやる気を失わない」
私もいろんな会社を見てきたが、これが実態だろう。ルールがないので、信賞必罰をやりたくても、罰を与えたときに「辞めてしまわないか」と怖くてできない。結果として、社長に取り入るのがうまい社員が幅を利かせることになり、優秀な社員はやる気を失っていく。
そうならないために、人事評価制度を「今すぐつくる」ことを決定する、ことだという。最初から「正しい人事評価制度」をつくろうとしない。「正しいルール」があることよりも、「ルールがあること」が重要だからだ。正しいことにこだわると気が重くなって、先延ばししてしまうのが普通の経営者。あくまで中小企業経営者に寄り添っている。
30：最初から「正しい人事評価制度」をつくろうとしない「正しいルール」があることよりも、「ルールがあること」が正しい。43：社員の成績は「相対評価」によって決まる・グループに属する社員を比較し、評価結果に順位を付ける・賞与額、昇給額、昇格昇進のすべてが、相対評価の成績によって決定・会社の業績の良し悪しに関わらず、必ず順位をつけるS 5%A 20%B 55%C 15%D 5%54：「残業時間の減少」を人事評価に連動させる前年同月よりも総残業時間が減ったら、賞与を増やす
2019年01月20日
ブロックチェーン
この章は、仮想通貨に使われるブロックチェーンの話が軸になって展開する。
昨年の相場下落で、GMOやDMMなど、マイニングからの撤退が相次いだビットコイン。莫大な電力を使って、「2万ほどの採掘業者が、20億台のコンピューターを稼働させて、電子サイコロを転がし続けている」状況なのだ。主要4仮想通貨のマイニング電力消費量は、「スロヴェニア一国の電力消費量に匹敵する」（下図）。
これを聞くと、どうも仕組みに無理がある。ブロックチェーンそのものの技術には「スマートコントラクト」や電子政府など可能性があるが、仮想通貨のルールは変える必要がありそうだ。
めぐみの雨が降る215：改竄を許さない＜ビットコイン＞のブロックチェーンという仕組みは、通貨以外にもいくつかの派生的な発明品を生み出した。その一つが、契約を執行するスマートコントラクトだ。AとBが交わした契約を暗号化して世界中のサーバーにアップロードし、その執行まで行わせる仕組みだ。サーバーを運営するボランティアには、契約の追加や契約執行などの様々なタイミングで、スマートコントラクトの発行する仮想通貨が支払われる。225：<ビットコイン＞は確かに画期的な発明だったが、問題はいくらでもある。例えば世界中のサーバーが無駄に使う電力消費量は無視できないレベルに達しつつある。二万ほどある<ビットコイン>のサーバー事業者が、全世界の取引を十分おきに追加していくのだが、そのプロセスは奇怪としか言いようがない。それぞれのサーバーは、2009年1月3日の「創世ブロック」から現在まで連綿と連なる取引履歴のデータ指紋と、過去10分間の取引伝票、さらにnonceと呼ばれる256桁のランダムな数字を用意する。次に、この三つをつなぎ合わせた文字列から新たなハッシュを作成する。64文字からなるハッシュは常にランダムな文字になるが、nonceの値を変えて試していくと、ごくごくまれに、先頭に「0」が17個以上並ぶことがある。その確率は２垓9500京分の１―26個のサイコロを振った時にすべてが「１」の目になるよりも稀な出来事だ。指数の先頭に「０」を並べる実用上の意味は一切ないが、そんな指紋を真っ先に探り当てたサーバーだけが、過去十分の取引データを追加できる。電子的なサイコロを振っているようなものだが、得られる報酬は12.5BTCにもなるので、2万ほどの採掘業者が、20億台のコンピューターを稼働させて、電子サイコロを転がし続けている。
2019年01月19日
中国政府が運用する国家的ファイアウォール「金盾」
5年前に久しぶりに中国に行った。気管支の弱い私は空気が悪いのが大の苦手。PM2.5の報道を見て恐れをなしていたのだが、あるフランス企業の現地法人役員を務めるフランス人の旧友から「そろそろ転勤になりそうだから早く」と急かされて、意を決して行ってきた。
よく知られているように、中国ではFBもGoogleも使えない。その中国政府が運用する国家的ファイアウォールは「金盾」と呼ばれている。しかし、そこは「上に政策あれば、下に対策あり」の国。抜け道はある。VPネットワークを設定して、ストレスはあるものの、滞在中もFB更新は時々行った。
インターネット検閲のある国は中国だけではない。米国、ロシア、イスラエルも「テロ対策」を名目に監視しているし、アジア諸国では、中国以外にフィリピン、タイ、インドネシアが実施している。
物語では、日本を脱出することにした主人公は、「検閲がなくてネットワーク環境が悪くないところ」という観点で、「台湾、韓国、シンガポール、そしてマレーシアとベトナム」のどこか、ということになり、物価の安さも考慮してベトナムに移り住む。
五色革命99：タイで白人はファランと呼ばれる。豊かな文明の使者に向ける憧れの言葉でもあるが、締まりのないサイフからドル紙幣をこぼすカモの意味でも使われる。麻薬や少女が売買される裏通りで囁かれるとき、ファランという言葉は蔑みの言葉に変わる。109：タイの政争は年を追うごとに大人しくなっている。1992年の暴動では300名以上が命を落としたが、2006年のクーデターは無血、2010年の弾圧では取材陣を含めた死者が約90名に達したが、2012年の暴動と現在の体制を作った2014年のクーデターで血は流れていない。132：演者が放送できない言葉を発した時に「ピー音」を入れるのに必要な遅延は約3秒。カメラが死体や傷口などの映像を映してしまったときに、画像を差し込むには5秒以上かかる。生命を狙われる可能性がある「対象」を映す時に必要な遅延は30秒だ。遠隔地からリアルタイムで要人の行動を知ることができれば、仕掛けた爆弾をタイミングよく爆発させることもできてしまう。139：タイでは5年前の2014年、軍事クーデターがあった。そのとき約束されていた総選挙はまだ行われていない。クーデターで暫定政権を握ったプラユット司令官が今も実権を握っている。タイに言論の自由はない。検閲がある。結社の自由もない。五人以上の集会は禁止されている。どれだけ酷い王様でも、揶揄すれば不経済で監獄行きだ。巨象の肩に乗って153：中国政府が運用する国家的ファイアウォール、金盾には時折大きな穴が空く。特に天安門事件の記念日を控えた春先には、大きな設定変更が行われる。出張している最中に普段使えているサービスが突然使えなくなったり、逆にグーグルの地図が使えるようになったりすることもあった。そんなとき、中国のネットユーザーたちは普段真っ白な地図しか表示されないポケモンGOをダウンロードして遊ぶ。187：横長のデスクには5台のコンピューターが並ぶ。中央が自分が作業用に使うiMac、残りは中国やロシア、イスラエルなど、検閲のある国のネットワークに接続している検証用のコンピューターだ。199：検閲を行っている国ーー中国とフィリピン、タイ、インドネシアを外し、ネットワーク環境が貧弱なミャンマーやカンボジアなどを外していくと、行ける国はそれほど多くない。台湾、韓国、シンガポール、そしてマレーシアとベトナムだ。
2019年01月18日
Hello, world!
SEが主人公の小説というのは初めて読んだ。流行りのIT技術がやウェブサービスが織り込まれていて、門外漢にとってはちょっとしたIT技術入門書にもなっている。AWSなど、なるほど、こういう契約をするのだと感心した。
あるIT企業で働くSEの主人公は、セミナーで知り合った仲間二人（日本人SE＋中国人マーケッター）と組んで、副業を始めた。iPhone向けアプリを開発してAppStoreで売るのだ。開発したのは、広告ブロッカー。技術的には先進性はなかったのだが、ある時から突然インドネシアで売れ始める。DLのログから場所を確認したところ、それは、インドネシアからの独立運動が起こっているある島だった。
ハロー・ワールド10：WWDC基調講演でiPhoneの新機種が発表されるため、日本からも大勢の記者が押しかけてアップル社の今年を占うイベントだが、その実態は開発者向けのセミナーだ。MacやiPhone用のソフトを開発しているエンジニアたちのために五日間かけて行われる技術セッションは公式なものだけでも百を超える。参加費は$1599で、日本から参加するには航空券とホテル代まで合わせると50万円を超える。サンフランシスコのホテルは高い。12：僕たちはその場でチームを組んだ。リーダーと開発は僕。アドバイザーに郭瀬を迎え、販売管理は汪に任せる。24：打ち合わせはいつも使っているカラオケボックスに決めた。もちろん歌うわけではない。大きなモニタが使える個室があるからだ。軽食も頼めるし、打ち合わせが終わったらビールで締めることもできる。34：AWSサーバーはアマゾンで借りた。インドネシアから近いシンガポールのデータセンターだ。これに三分。サーバーを起動し、画像サーバーのスクリプトが動作しておくようにする ― ここまで十分。転送する動画が増えたときのために、自動的にサーバーを追加できるようにしておく。上限は二百台。
2019年01月17日
資本主義のゆくえ
それでは、今後の資本主義はどう変遷するのか？本書では三つのシナリオを想定する。
シナリオ� Д妊献織襪�Cを強化する「純粋デジタル資本主義」
シナリオ�◆Д妊献織襪�CとDの両方を強化する「市民資本主義」
シナリオ��：デジタルがDを強化する「ポスト資本主義（潤沢さの経済）」
（C＝資本 D＝デジタル・コモンズ）
�▲妊献織襪�資本主義の強化だけでなくデジタル・コモンズを発展させ、CとDの領域がお互いに補完することで格差問題を緩和していく。デジタル技術が人間を代替するというよりは補完・拡張してくれる。お金だけが資本ではなく、各人が持つスキル、未稼働資産も価値を生み出す資本になる。
が可能性としては高そうだ。現状�，�先行したが、プラットフォーマーに対する警戒感も出ており、市民の利益を守るため国家権力の介入も必要になりそうだ。
面白いのは、先進国の中でデジタルトランスフォーメーションが最も遅れていると見なされている日本が、実は、土壌としての「デジタル許容度」が高いのではないか
という点。その理由として挙げているのが、
が可能性としては高そうだ。現状�，�先行したが、プラットフォーマーに対する警戒感も出ており、市民の利益を守るため国家権力の介入も必要になりそうだ。
面白いのは、先進国の中でデジタルトランスフォーメーションが最も遅れていると見なされている日本が、実は、土壌としての「デジタル許容度」が高いのではないか
という点。その理由として挙げているのが、・無料のデジタルサービスが生み出している消費者余剰の大きさが、対GDP比で米国より大きい
・欧米先進国以上にインターネットの普及率が高く、デジタルデバイドが小さい
・ロボットやAIに対する受容度が高い
なのだが、「デジタル許容度」としては確かにそうかもしれない。しかし、「デジタル許容度」と世界で稼げるデジタルトランスフォーメーションを生み出せるかはまた別の話。どうなるかは、予断を許さない。
なのだが、「デジタル許容度」としては確かにそうかもしれない。しかし、「デジタル許容度」と世界で稼げるデジタルトランスフォーメーションを生み出せるかはまた別の話。どうなるかは、予断を許さない。
PART3 デジタル資本主義の多様性とその未来208：３つの技術文化（文化人類学者 川田順造）モデルA：二重の人間非依存性（欧米）→道具の脱人間化（個人的な巧みさに依存せず、誰がやっても常に一定の結果が得られるよう道具や装置を工夫する）モデルB：二重の人間依存性（日本）→道具の人間化（機能が未分化の単純な道具を、人間の巧みさで多様に、そして有効につかいこなそうとする）モデルC：依存のなかの働きかけ（アフリカ）→人間の道具化216:資本主義のゆくえシナリオ� Д妊献織襪�Cを強化する「純粋デジタル資本主義」シナリオ�◆Д妊献織襪�CとDの両方を強化する「市民資本主義」シナリオ��：デジタルがDを強化する「ポスト資本主義（潤沢さの経済）」（C＝資本 D＝デジタル・コモンズ）�仝�率至上主義で、人間代替型のデジタル活用が特に進む「民主主義を促進すると考えられていたソーシャルメディアが、民主主義を破滅に向かわせている」（The Economist 2017/11）219：Basic Income生活できる最低限のお金を国民全員に特別な審査なしに均一に配布C資本主義の領域でデジタル技術が猛威をふるうと、大量の失業者が生まれるなど社会に壊滅的な影響をもたらすので、それをB国家が救済すべき。�▲妊献織襪�資本主義の強化だけでなくデジタル・コモンズを発展させ、CとDの領域がお互いに補完することで格差問題を緩和していく。デジタル技術が人間を代替するというよりは補完・拡張してくれる。お金だけが資本ではなく、各人が持つスキル、未稼働資産も価値を生み出す資本になる。��ユートピアニズムが非常に強いシナリオ。思考実験。「限界費用ゼロ社会」多くの分野で希少性がなくなり価格もほぼ無料になる。そこでは利潤の獲得や資本の蓄積といった資本主義体制の存在感が薄れていく。203：デジタル・トランスフォーメーション2017�．轡鵐�ポール�▲好ΕА璽妊��Ｊ胴��ぅ侫�ンランド�ゥ妊鵐沺璽�＊米国を除けば、上位は人口規模が小さい先進国で、コンパクトさ（機動力）と高い経済力がアドバンテージになっている。232：日本は先進国の中でもデジタルが社会経済に及ぼしている影響度が実はかなり大きい・無料のデジタルサービスが生み出している消費者余剰の大きさが、対GDP比で米国より大きい・欧米先進国以上にインターネットの普及率が高く、デジタルデバイドが小さい・ロボットやAIに対する受容度が高い＊IMDデジタル競争ランキングでは捉えきれていない、土壌としての「デジタル許容度」が高い
2019年01月16日
デジタル資本主義の登場
PART1で見た通り、デジタル化は限界費用を低下させる威力が従来のイノベーションよりも桁違いに強いので、価格比較が容易になった結果、モノの低価格化が進んだ。プラットフォームで世界を牛耳る米国は、それと同時に、たくさんの富裕層を生み出し（Facebookの世界3万人の従業員給与の「中央値」は2500万円＋）たためデフレになることはなかったが、そうした企業を生み出すことなく、モノの低価格化だけが進んだ日本ではデフレが進行した。
物価が下がるということは、経済学的に言うと、「生産者余剰が減る」つまり、生産者の利益が減ることになる。その分、「消費者余剰（消費者が本来払ってもいいと思っている価格から実際の購買価格を差し引いた額）」が増えるので、これは消費者の満足度向上につながる。しかし、我々は消費者であるとともに、生産者でもある。勤めている会社の業績が悪化すれば、給与も上がらず、場合によっては減ることになる。そうすれば、購買力が下がり支払意思額も低下する。これでは、縮小のスパイラルになる。
デフレの進行した日本では、この消費者余剰は対GDP比で米国5.8%よりも大きい、8.4%と推計されている。簡単に言うと、消費税分くらい「思ったより安く買えてラッキー」と消費者は思っているわけだ。給与は増えてないのに、「生活レベルが上がった」と感じる人が増えるわけである。
本書では、「デジタル資本主義は第3のフェーズに入れるか」を議論している。第3フェーズとは、「デジタルによって支払意思額と価格を上昇させる」段階のことだ。これまで、デジタル資本主義は、
�＿然丙弘曚�ら利潤を蓄積（価格比較サイト、EC、オークション）
�▲灰好般未任虜弘曚�ら利潤を蓄積（コスト面での差異の違いで、競争優位性を築く）
という段階を経てきた。次は、
という段階を経てきた。次は、
�８�率性の向上と顧客体験の向上
により、顧客満足度を向上させながら、価格上昇できるかが重要になってくる。PART2 デジタル資本主義の登場63：Digital Disruption限界費用を低下させる威力が従来のイノベーションよりも桁違いに強い。デジタル技術はこれまでのイノベーションに比べると投資抑制的であるだけでなく労働節約的でもある。デジタル武装した新規参入企業は、非常に少ないスタッフ数で事業が運営されている。70：消費者余剰推計米国（MITブリニョルフソン） 78兆円（2007-2011平均） GDP比 5.8%日本（NRI試算値） 42兆円（2007-2015平均） GDP比 8.4%国内総余剰（生産者余剰＋消費者余剰）＝金銭面で評価できない生活の質の向上80：シェアリング・エコノミー��AirBandB(宿泊場所のシェアリング2008）��Cohealo（高度医療機器のシェアリング2012）��BlaBlaCar(自動車の空きシートのシェアリング2006）��JustPark（駐車スペースのシェアリング2006）��Turo（自動車のシェアリング2009）137：デジタル資本主義時代の希少性「時間」即時性、時間節約「こだわり」自分のこだわりは自分にしかなく、希少「信頼」簡単にコピーできない145：公共財・準公共財の領域を拡大させるデジタル資本主義�．妊献織覯修砲茲訃暖颪龍ス臉�低下�▲轡Д▲螢鵐亜Ε┘灰離漾爾砲茲詛喀�性の低下157：生産者余剰の縮小で中長期的には総余剰の縮小も我々は生産者であると同時に消費者でもある。賃金は生産者余剰の中から支払われるので、もし生産者余剰が縮小して賃金が減れば、購買力が下がり支払意思額も低下する。下手をするとデジタル化による価格の下落以上に支払意思額（と支払能力）が低下する可能性もある。158：デジタル資本主義は第3のフェーズに入れるかデジタルによって支払意思額と価格を上昇させることができるかどうか。�＿然丙弘曚�ら利潤を蓄積（価格比較サイト、EC、オークション）�▲灰好般未任虜弘曚�ら利潤を蓄積（コスト面での差異の違いで、競争優位性を築く）�８�率性の向上と顧客体験の向上162：ドイツの哲学者ハンナ・アレント『人間の条件』「労働」「仕事」「活動」の３つが人間の基本的な活動力近世以前は、生きるためにやむなく行われてきた労働が3つの中で最も序列が低く、なるべく人目につかないよう私的領域に隠された存在であったのに対して、産業資本主義の時代に入ると、労働が公的領域に現れ組織化されたこと、さらにマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に表れているように、労働が最も価値のあるものとして序列が完全に逆転した。産業資本主義は「労働社会」を生み出したのに対して、現在進行中のデジタル資本主義は、これまで私的領域に隠されていた個人の「活動」情報が公的領域に現れ、ビッグデータとして組織化されるという「活動社会」を生み出しつつある。そこでは人やモノのあらゆる活動（とその情報）が社会を動かす原動力になる。
2019年01月15日
資本主義に何が起こっているのか
野村総研（NRI）による「未来予測の決定版」との宣伝に惹かれて読んでみた。
「2006年以降、平均賃金が低下している中で、自分の生活レベルが向上したと感じる人が増えている」というのが興味深い。なぜなら、本blogでもたびたび指摘している通り、�＼菴聞颪涼罎如�日本（とイタリア）だけが経済停滞してきたのが平成であったなかで、逆に、�⊇蠧誠綵爐�倍増した米国で一番不満の声が高まり、ポピュリズム政治を生み出したからだ。普通なら、所得が伸びなかった日本で政権批判が起きなければならないのに、少なくともこの5年間は政権は安定している。その答えが、ここにあるのかもしれない。
つまり、人々が不満を覚えるのは、(一定の生活水準を超えれば）絶対的な生活水準ではなく、不平等や不公平感から来る。米国では好景気が続き、GAFAなどプラットフォーマーの大成功で、大富豪を次々と生み出した。そして、その好景気の恩恵を受けなかった層もいる。もともと、米政府は所得の再分配機能が弱いので、所得格差が開きやすい。
一方、日本は、長期にわたる景気低迷で、「皆が悪いんだから仕方ない」という納得感があった。日本企業は法律的にも簡単に解雇できず、「皆で痛みを分かち合う」という方向に行きやすい。それが、問題の根本解決を遅らせることにもなるのだが、とりあえず、雇用は確保される。
そんな収入の伸びない中間層を助けたのが、デジタル化。ネット上で簡単に価格比較が出来、クリック一つで宅配されるので、物価が下がった。さらには、中古に対する違和感も薄れ、ネットオークションやメルカリで中古品の流通が飛躍的に増えた。この結果が、「平均賃金が低下しているので、自分の生活レベル向上」なのだ。
24：イノベーション停滞論 タイラー・コーエン�〕動廚房�穫できる果実はかなり減ってきている「物質的な面に限ると、私たちの暮らしは1953年以降たいして変わっていない。自動車も、冷蔵庫も、電気照明も当時すでにあった」��近年のイノベーションが「公共財」から「私的財」化している大多数の人間がイノベーションの成果を享受するのではなく、少数の人間がその成果を享受するようなものに変質してきた。32：NRI「生活者1万人アンケート調査」2006年以降、平均賃金が低下している中で、自分の生活レベルが向上したと感じる人が増えている。40：デジタル資本主義現在起こっている経済成長率の長期的な低迷や、さまざまな社会的課題の噴出は、資本主義終焉のサインではなく、むしろ資本主義が変化をしている中で社会構造がそれに追いつけずに摩擦が生じている。�〇唆隼駛楴腟舛旅眦找修�進んでいるのか、�∋駛楴腟措�体が別の段階（第三段階）に突入したのかPeter Drucker「知識社会」経済成長の源泉が知識に移行した岩井克人「ポスト産業資本主義」「インターネット資本主義」インターネット黎明期の資本主義は情報の差異から価値を生み出しているという点で、むしろ資本主義の原初的な形態である商業資本主義の特徴を備えている。44：資本主義と民主主義の相性代表制民主主義の歴史は資本主義の歴史よりも圧倒的に短く、国ベースで見ると過半数にも達していない。男子普通選挙権もしくは完全な普通選挙権が認められている国の数は、1990年時点でも65/192ヵ国。ロバート・ダール「民主主義と資本主義の関係は、喧嘩を繰り返しながらも結婚生活を続けている夫婦のようなもの」
2019年01月14日
線にも菅にも繋がれていない小屋
「小屋」はなんだか男心をくすぐる。それは、ガレージや書斎でもいいのだけど、家とは違う自分だけ、あるいは気心知れた仲間だけの場所。子供の頃、誰しも、秘密基地づくりをした経験があると思うので、これは男子の本能なのか。
小屋を「偏愛」しているという建築家が、「エネルギーを自給自足する小屋」を建てたら（正確には、廃屋の骨格だけ残した大改装）こうなったという実例を紹介する。
＊エネルギーを自給自足する小屋暮らし
小屋を「偏愛」しているという建築家が、「エネルギーを自給自足する小屋」を建てたら（正確には、廃屋の骨格だけ残した大改装）こうなったという実例を紹介する。
＊エネルギーを自給自足する小屋暮らし
・電力は風力発電とソーラー発電でまかなう
・水は屋根で集めた雨水を浄化して使う
・調理は炭火を燃料とする七厘またはキッチンストーヴ
・お風呂は薪で焚く五右衛門風呂
・トイレは簡易水洗トイレ（汲み取り式）
こう聞くだけでワクワクする。
12：ユカタン半島の質素で贅沢な暮らし建築の材料や技術の進歩によって、建物は壁であれ、屋根であれ、窓であれ、思いのままにつくれるようになりました。しかしそのことで、建築を健全な姿に保っていたタガが外れ、「建築の初心」は忘れられて、自己満足のための表現や、新規性を追い求めることで建築形態を弄ぶ傾向に陥っているようにも見受けられます。ユカタンの民家と集落を眺めているうちに、そんなことも自戒の気持ちと共に湧き上がってくるのでした。43：屋根で集めた水のゴミを巧みに取り除くドイツ製の集水器その巧妙な仕組みに、私は思わず感嘆の声をあげ、この集水器に巡り会えただけでも小屋づくりを決心した甲斐があったとさえ思いました。102：私のとっておきの場所敷地の南東の隅っこに建てた建物です。一見、物置のように見えますが、この粗末な建物は実は五右衛門風呂の小屋です。（中略）それだけではなく、ここは私の書斎であり、寝室でもあるのです。
2019年01月13日
「左」、「右」という「バカの壁」
結局、ロシア革命とは何だったのか？マルクス・レーニン主義は宗教を否定したが、ロシア共産主義が「ロシア正教の修道院においてときどき現れる異端派の伝統を引いている」というのは興味深い。ロシア正教の狂信的な異端のような少数者によって、「革命が引き起こされ、社会は少数のエリートによって指導されると信じるところにボリシェビキの特徴がある」のだ。
スターリンはチフリス（現トビリシ）の正教神学校の生徒だった。(p581)
サーシャ「スターリンはむしろ正教側がとりあえずの方便と考えたカトリック神学の枠組みから影響を受けたように思う。特に、状況に合わせて、本質と関係のない部分については、いくらでも妥協してよいというイエズス会の神学の影響を受けていると僕は思う。それだからスターリンはロシアにとって異質なんだ」
佐藤「そう言われてみると、そんな感じがする。スターリン主義はカトリック的だ。明確な教義が存在して、真理を体現した共産党という名の教会が存在する。そして、教会（共産党）に所属する以外に救いの道は存在しない」
「共産党＝教会」と考えれば、合点がいく。「共産革命=最後の審判」であり、皆が平等な（はずの）共産社会が千年王国（天国）というわけである。共産党が宗教を否定しなければならなかったはずだ。
そして、ソ連崩壊後のロシアの方向は、ソ連共産党によってカトリック的になってしまった国家体制の、ロシア正教への復帰なのだ。単なる、「左」か「右」という話ではない。
あとがき524：2005年9月11日の衆議院議員選挙で「新党大地」を立ち上げた鈴木宗男氏が43万票を獲得して当選ソ連崩壊により東西冷戦が終結してから15年が経つのに、いまだ日本の論壇には「左」、「右」という「バカの壁」がある。文庫版あとがき536：ロシア共産主義（ベルジャーエフ＝レーニンによってソビエト・ロシアから追放された反革命のレッテルを貼られた人物）ロシア正教の修道院においてときどき現れる異端派の伝統を引いているとベルジャーエフは考える。超人的な禁欲によって神の秩序をこの世界で実現しようとするのである。もっともこのような発想は、異端派だけでなく、ロシア正教の伝統でもある。540：ベルジャーエフはボリシェビキ（サーシャ）「ボリシェビキ、すなわちロシア共産主義とマルクス主義の間には断絶があるというのはベルジャーエフの言うとおりだ。そして、ロシア正教の狂信的な異端のような少数者によって、革命が引き起こされ、社会は少数のエリートによって指導されると信じるところにボリシェビキの特徴があるというのもベルジャーエフの言う通り」550：「ソ連は壊れる。時間の問題だ。ただ、この体制が生きながらえれば、生きながらえるほど、ロシア人もラトビア人も苦しむ。だからできるだけ早くソ連を破壊するのだ」（サーシャ）実際はそれに続け、サーシャは「ソ連を壊すことでロシアを回復するのだ」と言った。555：ファシズム国家が一つの方針を定めて動員を行うと、個人がそれに反対する自由はないイリインは、個人の自由をあくまでも担保し、「生産の哲学」によって国内の生産性を向上させることを基本に、植民地からの収奪という形をとらない形態にファシズムを転換しようとしたというのが、サーシャの解釈。557：現在、イリインの思想は、ロシアの現実政治によみがえっているプーチン大統領がイリインの信奉者だからである。2005年4月25日の連邦議会に対する大統領年次教書演説＜偉大な哲学者であるイワン・イリインは次のように書いている＞「国家権力には、まさに外部から人間に接する権力であるが故の限度がある。・・・愛、自由並びに善意を前提としている心と精神の創造的状態は国家権力の指導を必要としないし、国家権力の命令を受けることはできない」
2019年01月12日
ソ連はどうして崩壊したか
ソ連崩壊後、ロシアを始め、旧ソ連邦の国々は大混乱に陥る。通貨は暴落し、物価は高騰。一般市民は生活に困窮した。
しかし、もともとロシアは資源大国で軍事大国でもある。一時的に管理者不在になった国営企業の資産を勝手に処分したり、横流しが横行する。
LBSでの社員研修に来ていたある商社マンの話では、この時期にロシア＆東欧に行って、片っ端から在庫を買い集めたという。その運搬にも、場合によっては、軍隊を雇って運んだというから、さすがは商社マンだと思った。
第9章 運命の朝475：ソ連はどうして崩壊したか（エリツィン政権の国務長官ブルグリス）「自壊だよ。ソ連帝国は自壊したんだ。1991年8月の非常事態国家委員会によるクーデター未遂事件は、政治的チェルノブイリだ。ソ連という帝国の最中心部、ソ連共産党中央委員会という原子炉が炉心融解を起こし、爆発してしまったということさ。ゴルバチョフはゴミだ。あいつは共産全体主義国家であるソ連の維持しか考えていなかった。そして、ソ連という欠陥発電所の原子炉を締め上げることで、電力が確保できると勘違いした。その結果、国家が崩壊した」478：1991年8月クーデター未遂事件アメリカ人やドイツ人はそもそも守旧派との人脈が細い。この細い人脈が切れてしまうだろう。その隙間にも入り込んで、守旧派系の人脈を日本大使館に取り込んでしまおうと考えたのだ。483：プーゴ内相夫妻拳銃自殺（アルクスニス）「プーゴはラトビア人だからね。名誉ために死を辞さないというラトビアの民族社会の掟が今も残っているんだよ。ただ、僕はキリスト教徒だから絶対に自殺はしない。ただし、カミカゼ攻撃は自殺ではない。あくまでも、死を代償として行われる攻撃作戦の一環だ」495：ソ連共産党中央委員会の金庫番クリュチナ殺害ソ連共産党中央委員会だけではなく、コムソモール（共産青年同盟）中央委員会の資金も行方不明になり、その問題については追及されないまま、時が過ぎていった。一方、ソ連崩壊後、共産党やコムソモールの幹部で金融界に転出した者は多いが、その原資がどこから得られたかについては実に不透明だ。たとえば、非常事態国家委員会に加わったパブロフ首相も、恩赦を受けた後に商業銀行の頭取になっている。499：チェチェン問題（イリイン）「チェチェンについて、クレムリンはあえて無法地帯を作り出しているんじゃないだろうか。無法地帯となっているチェチェン経由ならば関税を払わずにモノが外国から入ってくる。それから武器がチェチェンから外国に密輸出される。この利益の一部が政治エリートに流れていると思う。チェチェン問題は政権を根っこから腐らせる深刻な問題になるよ」508：ロシア人の不文律では、友人間にカネの貸し借りはない。「貸してくれ」というのは、「うまくいったときは返すが、そうではいときはくれ」ということだ。したがって、「カネを貸してくれ」というのは「カネをくれ」というのとほぼ同義だ。私の場合、ロシア人にカネを課したことは百回以上あるが、戻ってきたのは二回だけだ。515：1997年11月クラスノヤルスク合意西シベリアのクラスノヤルスクで橋本龍太郎総理とエリツィン大統領が非公式会談を行い、「東京宣言に基づき、2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」という約束をした。北方領土問題を解決することなくして平和条約は締結できない。首脳が約束したということは、日本国家とロシア国家が約束したということだ。日露外交の進展に対する期待感はピークに達し、総理官邸も日本外務省もこれまでにないほど熱気に満ちてきた。その過程で、ロシアの政治、経済、学術エリートに人脈をもつ私の省内における位置づけも大きく変化し、多忙を極めるようになった。平均すれば一か月に一回くらいモスクワを訪れ、ロシア要人との人脈の維持、強化に努めた。
2019年01月11日
ソ連からイスラエルへの「新移民」
イスラエルが独立を宣言したのは1948年。これにより紀元前にローマ帝国に併合されてから約2000年ぶりにユダヤ人は自分たちの国をもつことになった。建国には欧州を中心に世界中からユダヤ人が入植していった。
これが、「旧移民」で、旧移民たちはユダヤ教の風習を守り、ヘブライ語を学び、急速に一体化していった。周りをイスラム教国に囲まれ、常に戦争状態にあるから、まとまらなければ滅ぼされるという危機感がある。
これに対して、1989年のベルリンの壁崩壊以降、ソ連東欧の共産圏からの出国が認められて移住したのが「新移民」。短期間に百万人もが大挙して移住したので、ロシア語を話し、ロシアの風習から抜けなかった。
最初の2年間はイスラエル政府から生活費が支給されたのだが、何しろ、人口400万人のイスラエルに急に100万人が加わったのだから、言葉もまともに話せない新移民には仕事がない。結局、生活の目途が立たずに、半分くらいが北米などに再移民したらしい。
ロシアがソ連崩壊後の混乱で困窮していた間、ロシア系ユダヤ人技術者達は、イスラエルの軍事産業やIT産業で活躍の場を見つけて貢献していた。
第7章 終わりの始まり335：ソ連からイスラエルへの「新移民」80年代末、新移民を受け入れた時点でのイスラエルのユダヤ人人口は四百万人だったが、十年でそこに新移民の百万人が加わった。最初の二年間はイスラエル政府から生活費が支給されるのだが、就職難で生活の目途がたたない。第8章 亡国の罠372：リトアニア最高会議建物バリケードの隅の暗闇で何かが動く気配がした。よく見ると、毛布にくるまった男女がセックスをしている。注意深く観察すると、そこここで、毛布や寝袋に入った男女がセックスをしているのがわかった。380：リトアニア独立それから1年後、1992年1月13日にリトアニア政府は、リトアニア独立に貢献した外国人64名に対する叙勲を発表した。エリツィン・ロシア大統領を筆頭とするそのリストに私の名前が入っていることをイタル・タス通信の報道で知って、一番驚いたのは私自身だった。420：ゴルバチョフ派の官僚私はゴルバチョフ派の官僚に、霞が関官僚と同じ臭いを感じていた。権力者の動向や目先の利益には敏感だが、信念がない。言葉と行動が乖離している。これに対して、エリツィン派、ロシア共産党は、それぞれ世界観や政治路線は対峙しているが、自らの発した言葉に責任を持つという姿勢では共通していた。
2019年01月10日
ロシア正教
中国の宦官制度は有名だが、オスマントルコにもあったらしい。皇帝が集めた国中の美女に官僚が手を出させないための措置かと思っていたが、それだけではないようだ。
帝国の官僚は大きな権限をもつ。子どもがいれば、その権限を継承したいと思うのが自然だ。しかし、そうすれば官僚は腐敗し、帝国を支える官僚制度が揺らぐことになる。そこで、高級官僚になれるのは宦官だけとした。
カトリック教会の聖職者も独身制である。
「教会自体も強大な権力と財力を持っている。カトリックが独身制を固守するのは、聖職者がこうした富や力を子供に継承することを望み、そのため家族という要素が教会の意思決定に影響を与えるようになることを恐れているからだ。国やオスマン（トルコ）帝国の場合、去勢制、つまり宦官制度を設けることで、権力が集中する官僚が生物的に後継者をもつことができないようにした。カトリック教会の場合は生物的去勢は行わなかったが、聖職者を社会的に去勢したのである。」
第4章 リガへの旅213：帝政ロシアのモロゾフ財閥も分離派モロゾフ一族の一人が日本に亡命し、お菓子屋を作った。モロゾフという会社で、今もロシア風のチョコレート菓子を作っている。214：ソ連維持運動の中心人物だった「黒い大佐」アルクスニス1991ラトビア政府はアルクスニスを国外に追放1999国政に返り咲き、ロシア国家院（下院）議員当選当選を祝うホームパーティーに外国人では唯一招待される。2002年5月14日逮捕後、大室弁護士にFAX「サトウマサルを助け出すためにロシアの国会で署名を集め、日本政府に送ろうと思うが、獄中の砂糖の意見を聞いて欲しい。上下院あわせて百名以上は署名する。改革派も共産党も、ジリノフスキー・グループもみんなサトウさんのことを心配している」第5章 反逆者たち253：バルト三国（サーシャ）「リトアニアはだいぶマシだ。エストニアは酷い。ユーリー・ロットマンをはじめ優れた学者はタルトゥー大学からモスクワの文書資料大学（現ロシア国立人文大学）に逃げ出した。ユダヤ人のインテリはテルアビブかモスクワに移住している」第6章 怪僧ポローシン290：カトリック教会の聖職者は独身制教会自体も強大な権力と財力を持っている。カトリックが独身制を固守するのは、聖職者がこうした富や力を子供に継承することを望み、そのため家族という要素が教会の意思決定に影響を与えるようになることを恐れているからだ。中国やオスマン（トルコ）帝国の場合、去勢制、つまり宦官制度を設けることで、権力が集中する官僚が生物的に後継者をもつことができないようにした。カトリック教会の場合は生物的去勢は行わなかったが、聖職者を社会的に去勢したのである。303：ロシア正教は習慣という名の事実上の国教「国家は事実上の国教を持たないと内側から崩れる。イギリス人はそのことをよくわかっているから、女王を首長とする英国国教会を今も維持している。アメリカの自由民主主義も国教だ。西欧もその深いところにはカトリック精神という国教がある」326：無神論者→神父→政治家「キリスト教的な問題の組み立て方が諸悪の根源のように思える。人間に原罪なんて存在しない。そのままの人間は善でも悪でもないと素直に認めればいいんだ。結局、ユダヤ教、キリスト教という原罪観にとらわれた宗教が世界をねじ曲げて解釈し、人為的に問題を作り出すというように僕には思えてならない。勉強をすればするほどイスラームに惹きつけられる」327：1999年12月ロシア国家院選挙ゾルカリツエフ再選→再び宗教社会団体委員会委員長イスラームへ転宗→アリ・ポローシンに改名体重150kg→80kg
2019年01月09日
情報分析官、佐藤優の誕生
モスクワ大学での「手抜き」ロシア語コースに飽き足らない佐藤は、専門を生かして哲学部宗教学科に出入りし始める。宗教学といっても、共産国の大学なので、「神は存在しない」ことを明らかにするための学問というのが建前になっていたそうだ。ここで一番仲よくなったのが、ラトビアからの留学生サーシャ。サーシャは、典型的「ロシア・インテリゲンチャ」であったという。
64：モスクワ大学
ソ連は極端な中央集権国家で、それは教育にも反映されていた。モスクワ大学にはエリート中のエリートが集まっている。モスクワ大学は5年制。これは旧いドイツの大学システムを踏襲したものだった。大学5年生の前期には卒業論文を出すが、質量ともに日本の修士論文のレベルだ。
エリート学生には、表面上は控えめであるが、負けず嫌いで、集中して机に向かうことができるという共通の気質があった。しかし、モスクワ大学生の場合、いわゆる優等生の枠におさまらない。ロシア・インテリゲンチャ（知識人）として真理を追究していくことに文字通り命を懸けている。
佐藤は、サーシャから、「昔からロシア修道院の狂信家が様々な陰謀を企てる。レーニン、トロツキー、スターリン、ブハーリンはこの種の狂信家だ。自らの夢想を実現するのにマルクス主義が役に立つから使っただけに過ぎない」と言われ衝撃を受ける。そして納得する。さらに、ソ連帝国の崩壊を確信する。「情報分析官」佐藤優の誕生だ。
第3章 情報分析官、佐藤優の誕生115：スラビャンスキー・バザール（帝政末期の有名なレストラン〜チェーホフやチャイコフスキーもよく出入りしていた）ソ連時代、ホテルや高級レストランの前には、門番が立ち、人の出入りを厳しく制限していた。レストランならば事前に予約をしていなくてはならないが、フロアマネージャー、ウェイター、コックを含めチームが偶数日と奇数日に完全に分かれていて、同じチームでないと予約を受け付けてくれない。だから、電話で「明日の予約」といっても「チームが違う」と断られてしまう。122：サーシャ「ソ連共産党中央委員会には全ての権限がある。だが、権限を行使したことに対する責任を一切負う必要がない。ここから無責任の体制が国家のうえから下まで完全に行き渡っている。ソ連国家を抜本的に立て直すためには、ソ連共産党を叩き潰さなくてはならないんだ。しかし、共産党を叩き潰したらソ連はなくなってしまう。共産党というシステムに部分的に自由化や民主主義を入れることはできない。ゴルバチョフはそのことがわかっていない。だからジグザグを始めた」124：アンドレイ・サハロフ博士サーシャを通じて私はサハロフ博士の周辺の「異論派」活動家と知り合い、そこからエリツィン大統領の知恵袋であったゲンナジー・ブルブリス国務長官への人脈に繋がっていくのである。147：ボリシェビキ革命はロシア特有の病理現象（サーシャ）「昔からロシア修道院の狂信家が様々な陰謀を企てる。レーニン、トロツキー、スターリン、ブハーリンはこの種の狂信家だ。自らの夢想を実現するのにマルクス主義が役に立つから使っただけに過ぎない。マルクス主義のドクトリンなど小指の先ほども信じていない。狂信家は、いちばん初めに理性を飛び越える。その後は、合理的でシニカルになる。だからレーニンが狂信家型の修道士だということが見えにくい。しかし、僕たちインテリにはそれが見える」157：外務省ソ連課長席横の四段キャビネット「ここにロシアスクール関係者全員のセックス絡みのスキャンダル、ロシア娘やKGBとのトラブル、カネを巡るスキャンダルなどの情報がメモの形で入っている。ソ連課長になるとそのメモを見て、いざとなるとスクールの関係者を脅す。課長自身に関するメモは、消し去ってしまう」
2019年01月08日
モスクワ大学
佐藤青年のように社会主義に興味をもつこともなく育った私は、ソ連との関連はほとんどない。ただ一度だけ、ゴルバチョフ時代の1990年春、ヘルシンキ経由で、レニングラード（現サンクトペテルブルク）に数日間滞在したことがある。LBSと交流のあるヘルシンキ経済大学（現アールト大学）を訪問した際に、「飛行機ですぐだから」と足を延ばしたのだった。
ペレストロイカで改革開放が進みつつあるとはいえ、まだソ連。外国人が泊まれるホテルは決まっていて外貨での支払い。玄関にはKGBの監視が付く。メシは不味く、石鹸は泡立たず、水道水は化学薬品の匂いがする。一方、エルミタージュ美術館は素晴らしく、これは帝政ロシア時代のものだから、「ソ連が生み出したのは何なのだ？」と思った覚えがある。
後年（90年代の終わり頃だったと思う）、MITレスター・サロー教授（1981『ゼロサム社会』が日本でもヒット)の講義をMIT日本同窓会に混ぜてもらって東京で聞く機会があり、その際に、サロー教授が「どんな体制にもいい点はある。社会主義のソ連が秀でていたのは高等教育だ」と言った。「今や、MIT大学院生の1/3はロシア人だ。特に数学では過半を占めている」と続けた。
中国人やインド人が大挙して留学し始める前の話なので、今では状況が違うかもしれないが、本書のモスクワ大学での様子を読むと、さもありなんと思えてくる。
第2章 サーシャとの出会い58：KGBで、ソ連国内で外国人の動向を監視する第二総局は、防諜（カウンター・インテリジェンス）の専門家集団だ。異性関係のスキャンダルや交通事故の揉み消しで大使館員、商社員、新聞記者を協力者に仕立て上げていくのは第二総局所属の機関員の仕事だ。64：モスクワ大学ソ連は極端な中央集権国家で、それは教育にも反映されていた。モスクワ大学にはエリート中のエリートが集まっている。モスクワ大学は5年制。これは旧いドイツの大学システムを踏襲したものだった。大学5年生の前期には卒業論文を出すが、質量ともに日本の修士論文のレベルだ。エリート学生には、表面上は控えめであるが、負けず嫌いで、集中して机に向かうことができるという共通の気質があった。しかし、モスクワ大学生の場合、いわゆる優等生の枠におさまらない。ロシア・インテリゲンチャ（知識人）として真理を追究していくことに文字通り命を懸けている。70：ラトビア出身学生サーシャのゼミ発表「共産主義体制下ではロシア人は、『どれだけ分け前を得られるか』という分配にしか関心をもたない。急進ペレストロイカ派で鳴らしているエリツィンにしても、共産党官僚の特権打破というスローガンでポピュリズムに訴えているが、国家に訴えれば何かが出て来るという発想自体が間違いだ。ロシア人はもう一度生産に目を向けなくてはならない。そのためには、マルクス・レーニン主義という腐り切ったイデオロギーと一日も早く訣別し、ロシア正教の伝統に則った保守主義を復活させなければならない」
2019年01月07日
ソ連邦消滅
「国家は内側から自壊することがある」
これが本書のテーマだ。同志社大学神学部と大学院で「組織神学」を学んでいた佐藤氏はチェコスロバキア留学を目指す。しかし、彼が研究していたチェコ人神学者のヨセフ・ルクル・フロマートカという人物は、チェコスロバキアでは反ソ主義を標榜した反体制派と見なされていたので、この神学者の研究を目的としてチェコスロバキアに留学することは不可能だった。そこで、外務省の専門職員としての留学を目指す。
外交官試験（ノンキャリア）に合格したものの、いざ入省してみると、チェコ語ではなくロシア語研修を命じられガッカリするのだが、熱心に仕事をする先輩たちの姿を見て、外交官という職業に本気で取り組もうと決意する。
外務省での語学研修は2年間。研修した語学によってその後の仕事も似るので、アメリカンスクール、チャイナスクール、ロシアスクールといった派閥があるということ。モスクワ大学で2年間の研修を希望するのだが、上司の判断で、まず1年間イギリス陸軍語学学校でロシア語の基礎を徹底的に学んだ後、モスクワ大学に入ることになった。モスクワ大学では、資本主義の外交官のためにわざとロシア語を上達させないようにする特別コースがあった。
イギリスの学校は伝統的に評価に厳しい。
「陸軍学校の授業は厳しかった。1日25から30個の単語と5から7のフレーズを暗記しなくてはならない。午前8時から正午までが文法の授業、午後1時から4時までが会話、その後、こなすのに4，5時間はかかる宿題が毎日出る。週に1回単語テスト、月に1回文法・解釈・作文のテストがあり、100点満点で80点以下を2回取ると退学になる」
これをこなせば確実に外国語をマスターできるだろう。ロシア語のクラスは25人程度のクラスが二つあったということだが、佐藤氏のクラスからは4名が学業不振で退学になっている。LBS留学時についていこうと必死に勉強したのを思い出した。
序章17：国家は崩壊することがある外国に征服された結果、国家が解体されてしまうこともあるが、国家が内側から自壊してしまうこともある。61年前に連合国によって解体された大日本帝国が前者の例で、15年前に自壊したソビエト社会主義共和国連邦が後者の例だ。19：ソ連は帝国であった通常、帝国は宗主国と植民地をもつ。（中略）ソ連は帝国だったが、目に見える宗主国はなかった。（中略）ソ連帝国の中心は、ロシア人を含む全ての民族を抑圧したのである。そして、その中心がソ連共産党中央委員会だった。中央委員会は絶大な権力をもつが、絶対に責任を取らない。20：地政学論者の外交官日本国家が生き残るためには、今後、国力を増大し、自己主張を強める中国を牽制する必要がある。そのためにはロシアとの関係を改善することが日本の国益に適うはずだと、地政学的発想に立つ外交官は考えたのである。この考えは、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗という三代の内閣総理大臣によって支持されたため、人数こそ少なかったが、地政学論者の影響が外務省で拡大した。20：小泉政権誕生→田中眞紀子外務大臣外務省内部の権力抗争で、日本政府の対露新外交戦略は内側から崩壊40：東欧専門古本屋Interpressのマストニーク氏チェコスロバキア中南部モラビア生まれ。1947年に留学するためにイギリスへ渡航したが、48年に祖国が共産化し、帰国を断念した亡命チェコ人。
2019年01月06日
テクノロジーで知覚を拡張する
今年の仕事始めはワークショップから
リクルートや日経新聞などで一貫してデジタル系の新事業を手掛けられてきたFACTORIUM久米村さんのお誘いで、「創り出したい未来について語り合うガチなヤツら」に休み明けに参加。「課題図書の中から一冊読んでくる」というのが参加条件で、正月に読んだのが本書。科学ジャーナリストの著者が、「テクノロジーで知覚を拡張する」ことに挑んでいる世界中の研究者や発明家、組織・団体に取材している。
グラインダーと呼ばれる、人間の経験の拡張を目指して身体に手を加える「身体改造」装置を製作するバイオハッカーが出て来たり、「ここまでやっている人たちがいるのだ」と興味深い。個人的にはゾッとしないが、機能的にはSmart Watchを埋め込んだだけだから、行動履歴やバイタルデータを取る延長線上だといえばその通り。
多分、私がそうしたサイボーグ化にワクワクしないのは、�（慷�になればそれで幸せかという疑問と、�⊆�分がコントロールできるのかという不安、から来ているように思う。人類は易きに流れるので、便利な技術が出てくれば大抵使われているが、それで以前より幸せになっているかといえば、そうではなさそうだ。日本人の寿命は戦前に比べたら倍になり、所得は何十倍にもなったが、高度経済成長期以降の幸福度は変わっていない。
二つ目の、「自分がコントロールできるのかという不安」は、例えば、スマホやSmart Watchなら、電源を切ったり持ち運ばなかったりと、物理的に離れる方法がある。一旦埋め込んでしまえば、忘れることがなくなる代わり、思いがけないところで誰かにハックされているのではないかという漠然とした不安が残る。
逆に、これは
と思えたのは、「PTSD治療用のツールとしてVRを利用」（USC創造技術研究所アルバート・リッツォ）の話だ。米軍では既に、PTSD治療にVRを利用しているそうだ。ストレス耐性が下がっているためか、精神疾患の増大は先進国共通の悩み。これにVRを利用することで、薬物に頼らない治療法ができる可能性がある。はじめに7：グラインダー人間の経験の拡張を目指して身体に手を加える「身体改造」装置を製作するバイオハッカー8：バイオハッカーは有機体の世界に関心をもつインターネットで遺伝子操作に関する情報が容易に入手できるようになり、事件技術のコストも下がってきたおかげで、植物や細菌のDNAに手を出すバイオハッカーも現れてきた。これは「DIYバイオ」と呼ばれている。また、特殊な食事や栄養サプリメントを摂取したり、睡眠や運動や体力レベルや脳の健康状態を監視して最適化するのを助けるウェアラブルな整体データ測定装置を使ったりして、体のアップグレードを目指すバイオハッカーもいる。10：彼らの基本的なやり方としては、体を切開して装置を埋め込み、それが神経系に働きかけることができるか調べる。これができていれば、進化という鈍重なプロセスを待たずに感覚の世界を拡張できたことになる。12：唯一の普遍的な「現実」の経験など存在しないし、私たちが集団として共有する世界を描く客観的なポートレートも存在しない。あるのは「知覚」だけ、つまり自分にとってリアルだと感じられるものだけだ。26：私たちは種として自らの進化をもてあそぼうとしている。体の末梢から奥深くへ、近くの宿る場へとテクノロジーを送り込もうとしている。脳の言語、すなわち電気化学的なざわめきを感覚や経験や感情 ― つまり存在そのもの ― に変えるデータの流れを解釈する方法を学びつつある。１ 味覚30：うま味が正式に基本味に仲間入りしたのは2000年日本ではすでに100年前からその概念が存在していた。1908年にこれを発見した池田菊苗は、それがアミノ酸の一種であるグルタミン酸から生じる第五の味だと主張した。53：だし味噌汁、たれ、つゆ、煮汁 ― 和食の9割近くはだしがベース。だしは、乾燥と熟成によって風味を凝縮させた昆布を水に浸し、グルタミン酸を抽出してつくる。これにかつお節を加える。（中略）大量のイノシン酸を含んでいる。この二つの食材が相乗効果を起こすことで、うま味のインパクトは二つの合計を上回る。62：コク味サイトウ「コクというのは隠れたパンチ」「前面に出て来る味ではなく、奥にひそむ味」２ 嗅覚73：アルツハイマー病と嗅覚マルセル・プルースト『失われた時を求めて』マドレーヌを菩提樹のお茶に浸すと、コンブレに住むおばの家を訪ねた幼少期の旅の記憶が押し寄せてくる。科学者は彼に敬意を表して、このように記憶から消えていた時が強烈な感情を伴ってよみがえってくる現象を「プルースト効果」と呼んでいる。嗅覚は原始的な感覚で、危険な化学物質や望ましい化学物質に遭遇した時に知らせてくれる通報システム。（中略）それゆえ嗅覚は、現在の感覚と過去の経験を結びつける方法となる。そしてその結びつきが壊れると、私たちは忘却する。75：アルツハイマー病患者でも、思い出をとても鮮烈によみがえらせることがある５ 触覚171：ダ・ヴィンチ・サージカル・システム世界でいち早く発売された手術支援ロボットの一つ。Intuitive Surgical社製造。1999年の発売以来、膵臓、心臓、腸、生殖器といった深部臓器に対して侵襲性を抑えた手術を支援する。174：触覚と感覚代行一つの感覚が別の感覚の代理を務める。「ダ・ヴィンチは触覚のフィードバックがなくても機能できる」６ 時間202：一万年時計とロング・ナウ協会（テキサス州）山に垂直坑を掘り抜き、柱状のステンレス鋼を入念に加工した巨大な装置を収めたもので、一万年動き続ける時計になる。時間に対する人間の認識を象徴するモニュメントであり、またその認識に対する挑戦。207：時間を測るニューロンはあるか？時間とは私たちを取り巻く世界がどれだけ変化するかを測る尺度である。217：グリニッジ標準時1884世界の国際化が進むにつれて、子午線を一つ選んでそれを本初子午線にするほうが好都合となった。世界の船も大半がロンドンでつくられた海図を使用していたためロンドンに。７ 痛み241：痛みは多感覚複数のチャネルを通して感じられる。痛みというと真っ先に触覚を思い浮かべる人が多いが、一部の研究者は痛みを体性感覚のサブセットと見なしている。259：なぜ痛みを感じるように進化したのか？痛みとは基本的に防護装置。「はるか昔の単細胞生物の時代から存在してきた。痛みは私たちを危険から守り、危害や脅威といった危険をもたらすおそれのあるものから遠ざける役目」（マッキー）８ 情動276：アメリカ文化は一般に感情を表現して人に伝えることを奨励自分の感情について書かせると、大抵の学生は記入するのに1分もかからない。対照的に、「アジア人、ロシア人、そしてとりわけガーナ人は、このタスクを極度に難しいと感じる。ガーナ人は記入するのに20分ほどかかり、ロシア人は、5，6分かかる」296：リーダーシップに関する見方政治家の笑顔比較アメリカはドイツやフランスと並んで、力強い笑顔を見せる政治家の割合でトップ。一方、中国、香港、台湾は下位となり、メキシコと日本は中間。韓国はヨーロッパ諸国と肩を並べた。韓国はキリスト教人口が多いから？キリスト教の書物や信者が仏教と比べて興奮状態を重視する。９ 仮想現実303：戦争を体験させるVRPTSD治療用のツールとしてVRを利用。（USC創造技術研究所アルバート・リッツォ）PTSDとは、危険が去ってから長時間が経過しても、脳の自然な「闘争が逃走か」というストレス反応が持続する状態。328：牛になる「最初にあなたがいた柵が見えるまで左に回ってください。あなたはここで200日過ごして、目標体重に達しました。そこで、食肉処理場に行ってもらいます」336：スペンスのアイカメラ2009AR装置は、通常は恒常的に埋め込むのではなく装着または携帯して、ユーザーの知覚を変化させたり、ほかの方法では得られない情報を伝えたりする。341：自家製造方式で、企業や大学のプロジェクトを滞らせる問題を回避政府機関の承認や、臨床試験に関する大学の規則、助成金申請書の作成、マウスモデルの制作などにわずらわされる。
2019年01月05日
美術品取引の世界を変えたオークション
現代の美術品取引の華といえばオークションだろう。Christie'sやSotheby'sなどで「XXXが○○億円で落札
」といったニュースが世界を駆け巡る。しかし、美術品オークションが脚光を浴びるようになったのは戦後の話で、戦前は「競売人は基本的に卸売業者」で、切迫した事情で一時に現金化したい売手にしか利用されていなかったらしい。通常は、売り急いでない持ち主は画商に頼む。オークションに出すのは、遺産、離婚、借金など切迫した事情によるものだった。
「オークション会社のもつ機能を変容させ、それによって画商たちの直接のライヴァルとなり、さらにはその役割を奪うことさえした」と言われているのが、1958年から1979年までサザビーズの会長を務めたピーター・ウィルソン。それまではクリスティーズが老舗で最大手であったが、サザビーズはマーケティングとプロモーションに先見の明があったウィルソン会長の下で大躍進を遂げる。
Part 4 現代（第二次世界大戦後のパラダイム・シフト）394：美術品取引の世界を変えたオークション1958年から1979年までサザビーズの会長を務めた競売人のピーター・ウィルソンが、その間にオークション会社のもつ機能を変容させ、それによって画商たちの直接のライヴァルとなり、さらにはその役割を奪うことさえした。ウィルソンがサザビーズを引き継いだ時には、競売人は基本的に卸売業者だった。彼らが売るのは伝統的に、英語では「d」の文字で始まる切迫した事情によって委託されたものだった。death, divorce, debt + dealerの自暴自棄396：ピーター・ウィルソン1913年11月、英国の尊敬すべき貴族階級だが、階層としては中級のやは下部に属する家に生まれた。父のマシュー・ウィルソンは准男爵で、金遣いの荒いならず者だったことから「スキャッターズ（散在する人）」という名で呼ばれていた。人妻を誘惑することに熟練していた彼は、女たらしとしては一流だった。母はリブルスデール卿の娘で、一時はフランスで育った彼女はその国の文化を称賛していた。この母からウィルソンは、ヨーロッパ大陸への共感を受け継いだ。401：サザビーズの共同経営者にマーケティングとプロモーションに対する彼の本能は、常に先見の明があった。サザビーズに入って3年がたったときに、これまでの共同経営者がが引退するという機会が訪れた。ちょうど直前に妻のヘレンが5000ポンドの遺産を受けていたウィルソンは、その金で引退者の経営権の持ち分を買いとり、共同経営者となることができた。401：美術品取引に役立つスパイの技能1943年ウィルソンは情報部で働くためにアメリカのワシントンに派遣された。（中略）ワシントンで過ごした時間は、彼にアメリカという国とアメリカ人に対する洞察をもたらし、それは彼の残りの人生の間、大いに役立ち続けた。408：ゴールドシュミット・コレクションワインバーグの遺産のために働いていたNYの弁護士たちは、当初はサザビーズとクリスティーズ、そしてNYのパーク＝バーネット社のもとに手紙を送って、オークションによるセールの見積もりを依頼していた。だが弁護士たちが驚いたのは、相手から受け取った返事がまったく異なっていたことだった。パーク＝バーネット社はセールを引き受けたいと申し出たが、手数料率は23.5%だった。クリスティーズの返事は礼儀正しく、ある程度の興味を示すものだったが、その返信がようやく到着したのは三ヵ月後だった。ところがピーター・ウィルソンは、弁護士たちの問い合わせを受け取ったその日のうちにNYに国際電話をかけ、しかもそのすぐあとに、たった8%という特価の手数料率を遺言執行人たちに提示したのだった。オークション税がないことは、ロンドンにNYやパリに勝る非常に利点を与え、さらにウィルソンが取引を確保することをいっそう容易にしていた。416：ロシアのセルゲイ・ディアギレフのバレエ団「バレエ・リュス」と、そのあとを引き継いだ「ド・バジール・バレエ団」から出された舞台芸術の遺品のセール実際の劇場が会場として選ばれた。そしてそのオークションには、バレエの振り付けも付されていた。作品の登場に合わせてロイヤル・バレエ学校の生徒たちが舞台上で踊りを披露した。こうした演出は、伝統的で古めかしいライヴァル会社クリスティーズでは、決して想像できないものだった。480：レオ・カステリ「ロックスターのようなアーティスト」という存在はカステリの発明のひとつだった。そしてまた、「ロックスターのような画商」も同様である。カステリは小粋で、洗練されていて、魅力的で、そして徹底したプレイボーイだった。1977年3月、アンディ・ウォーホルは、もうひとつのパーティに出席したことを記録している。今回は、カステリの美術界での事業の20周年を祝うものだった。ウォーホルはうらやましそうに書いている。「この女の子たちはみんな、なんらかの理由で彼に恋している」
2019年01月04日
普仏戦争で出会った印象派
産業革命までの美術品は、主に、貴族や成功した商人など特権階級のものだった。一般大衆は貧しく、美術品を買う余裕などなかった。
19世紀半ばから、イギリスを皮切りに産業革命で生産性が向上し、所得水準が上がってくる。「都市中間層」が出現し、彼らは家を飾る絵画を求める。当初ロンドンで売れたのは、版画だったという。版画ならある程度量産できるので、価格安い。
デュラン＝リュエルは、印象派を世に出したフランス人画商として知られるが、モネやピサロとの出会いは普仏戦争から逃れるために亡命したロンドンであったというのは興味深い。画家の二人もやはり亡命してきていたのだった。
「そして彼は二人から初めて直接作品を買いとった。終戦後、パリに戻ったデュラン＝リュエルは、モネとピサロからルノワールやシスレー、そしてドガを紹介され、彼らからも作品を買いとっている」
これは、ヨーロッパにおけるイギリスの地政学的立場を象徴している。欧州大陸で何かある度に（大抵は戦争だ）、亡命者や移民を受け入れてきた。イギリス貴族はノルマンコンクエスト以来ノルマン系が多いが（そのために英語にはフランス語が多数取り入れられている）、その他は雑多。戦前はユダヤ人が迫害を逃れるために、戦後は共産化を避けてまた多数の移民が英国海峡を渡った。
日本も歴史的には「ユーラシア大陸の吹き溜まり」であり、長期的に見れば、渡来人や南方系など、やはり雑多。混じり合って独自の日本文化を作り上げてきたわけだから、元来、適応性はあるのだと思う。戦後は、朝鮮半島の混乱を避けて数十万が密入国している。SB孫正義社長の祖父と父が密入国したのも1947年だ。
その後、ベトナム難民も押し寄せたが、大半は日本を経由してアメリカを目指した。今になって労働力不足と慌てるのではなく、もっと計画的に移民受け入れができなかったのかと思う。
「そして彼は二人から初めて直接作品を買いとった。終戦後、パリに戻ったデュラン＝リュエルは、モネとピサロからルノワールやシスレー、そしてドガを紹介され、彼らからも作品を買いとっている」
これは、ヨーロッパにおけるイギリスの地政学的立場を象徴している。欧州大陸で何かある度に（大抵は戦争だ）、亡命者や移民を受け入れてきた。イギリス貴族はノルマンコンクエスト以来ノルマン系が多いが（そのために英語にはフランス語が多数取り入れられている）、その他は雑多。戦前はユダヤ人が迫害を逃れるために、戦後は共産化を避けてまた多数の移民が英国海峡を渡った。
日本も歴史的には「ユーラシア大陸の吹き溜まり」であり、長期的に見れば、渡来人や南方系など、やはり雑多。混じり合って独自の日本文化を作り上げてきたわけだから、元来、適応性はあるのだと思う。戦後は、朝鮮半島の混乱を避けて数十万が密入国している。SB孫正義社長の祖父と父が密入国したのも1947年だ。
その後、ベトナム難民も押し寄せたが、大半は日本を経由してアメリカを目指した。今になって労働力不足と慌てるのではなく、もっと計画的に移民受け入れができなかったのかと思う。
Part 2 19世紀（オールドマスターの画商と現代美術の画商）94：投機というアート1800年までには、驚くほど多様な人々が収益目的で美術品を買っていた。英国貴族、大使館員、そしてローマ教会の高位の聖職者すらもいた。その市場に加わった者たちの間では、縄張り争いが繰り広げられていた。潔癖な純粋主義者たちは画商になった芸術家を中傷した。一方、芸術家たちはオールドマスターたちの名作の鑑定家として、自分たちがより優れていることをいまだに主張していた。高潔な鑑定家は投機家とかしたコレクターを批判したし、画商たちもまた、自分たちの縄張りにずうずうしくも不法侵入してくるコレクターたちに憤慨していた。127：版画商から現代美術の画商に19世紀が進むにつれ、オリジナルの絵画自体の市場もまた拡大している。1820年のロンドンでは、事業者の登録簿にはかろうじて10人の画商が記載されているだけだった。だが1840年、ガンバートがロンドンに着いた年までには登録者は160人になっている。Part 3 近代（モダニズムの時代の画商たちの活躍）225：印象派の画家たちの勇気ある擁護者1870年、デュラン＝リュエルは普仏戦争を逃れてロンドンに亡命し、ニューボンド・ストリートの168番地に画廊を開いた。皮肉にも、彼がモネとピサロに出会ったのは異国のこのロンドンでのことだった。二人の画家も同じく普仏戦争から逃れてきていたのである。そして彼は二人から初めて直接作品を買いとった。終戦後、パリに戻ったデュラン＝リュエルは、モネとピサロからルノワールやシスレー、そしてドガを紹介され、彼らからも作品を買いとっている。237：アメリカへの進出と市場の開拓「アメリカは、旧世界の偏見からは自由だった。彼らには新しいものを好む雰囲気があった。その新しい世界で根付くために、新しい芸術が唯一打ち勝たねばならなかったのは、その作品の独創的な形態や形式といった外観が自ずと引き起こす驚きから生じる最初の抵抗心だけだった」（フランスの美術評論家テオドール・デュレ）260：ヴォラールにとってのキュビストのピカソとドランキュビスム（立体主義）は、ヴォラールにとっては「どこが良いのかまったくわからない」ものだった。（中略）だが、画商たちはセンチメンタリストではない。ヴォラールは、その2年後にロシアの著名なコレクターのイワン・モロゾフにその肖像画を3000フランで売却し、その結果にまったく満足していた。307：モダニズム作品の鑑定の難しさカーンワイラーは、その筆跡のスタイルを充分に容易に特定することができた。それはレジェのものだった。しかし、彼はさらにもう一歩進んで、レジェの筆跡を模倣したものと正真正銘の筆跡の間の区別をすることはできなかった。
2019年01月03日
誰が「名画」をつくりだしたのか？
帯に「美術史を動かした画商たち」とある通り、普段なかなか表に出てこない、画家の裏にいる画商たちを主人公にしている。画商たちは、画家と契約してその絵を売買するだけでなく、時には画家のプロデューサーとなり画風や画題を決め、時にはコーチとして画家を励ます。画商たちが芸術家たちの生み出すものに影響を与えてきたのだ。
「オランダのファン・アイレンブルフがレンブラントに、フランスのヴォラールがドランに、ギヨームがモディリアーニに、ポール・ローザンベールがピカソに。ただしこれらは、芸術家たちの全キャリアに及んだ抑圧的な影響というより、むしろつかの間のエピソードだった」（結びにかえて）
例えば、セザンヌの評価を築いたことでも知られる画商アンボロワーズ・ヴォラールは、デュラン＝リュエル画廊で開かれたモネの「テムズ川」の連作展を見て、自らのお抱え画家ドランにテムズ川の連作を描かせることを思いつく。この連作は、大英帝国の栄華を極めていたロンドンのコレクターに受け入れられ、ヴォラールとドランに大金をもたらす。
はじめに25：画商「征服者のように行動する男、評論家のように判断する男、使途のように情熱をもつ男」（フランス印象派の画家たちを擁護した画商ポール・デュラン＝リュエルについて、美術評論家でコレクターでもあったアルセーヌ・アレクサンドル）「アーティストの背中についたシラミ」（芸術家マルセル・デュシャン）「神秘を売る金融家」（ウジェーヌ・ドラクロワ）画商はとりわけこの神話づくりが得意で、合理的であるよりもむしろ情熱的である市場において、ファンタジーという魅力的なブランドをつくって提供している。そしてファンタジーはまた、伝染するものでもある。ときおりそのファンタジーは、その売っている品物から売手自身へと浸透する。彼は自らがつくった神話を信じ始めるのだ。28：画商が売りこんでいるのは、何か漠然とした、はかり知れない、だが無限の値打ちをもったものだ。すなわち芸術家の天賦の才能である。
Part 1 ルネサンスと啓蒙主義の時代（画商という存在の誕生）32：ローマ帝国古代ローマの詩人ホラティウスは、ローマ帝国においては、古代ギリシアの彫像の取引を行うコレクターたちが美術商に転じていったと証言している。やはり古代ローマの歴史家プリニウスによると、古代の画家たちによる絵画も同様に売買されていた。34：フランドルに出現した初期の美術市場「パンド」年間を通じてあらかじめ決められた日に露天商が集まり、売り物の美術品を提供する。38：17世紀にヨーロッパ美術の取引で活躍した人たちはほとんどすべてが画家多くは絵を描くことでは食べていけなかったので、その取引に転じた。61：18c鑑定家英国海峡の両サイドの社交界の洗練された人々にとって、美術の専門知識をもつことや鑑賞することは望ましい特質とされるようになっていた。コレクションを形成することは、精神的で知的で社会的な特権をもつこと。72：鑑定家マリエットマリエットの仲間たちの間から、<手＞という概念が発展した。これはただそのデッサンや絵画のテクニック、すなわち文字通り芸術家の「手」による筆触や筆跡を参照することで、その芸術家が誰であるかを識別するものだ。この発展には、商業面に対する明らかに重要な影響があった。それは、絵画やデッサンに必ずしも画家のサインがほどこされていなくても、あるいはその作品が作者の手許を離れてからどのような所蔵家を経てきたのかという確固たる「来歴」があることを誇らなくても、特定の巨匠の作品として売ることができることを意味していたからだ。
2019年01月02日
一人の人間に魂が複数
佐藤優のお母さんは沖縄出身なのだそうだ。14歳で沖縄線に従軍する。本書の後に出た『自壊する帝国』に、「手榴弾をもって自決するつもりだったが、横にいた伍長が手を上げてアメリカ軍に投稿したので、捕虜になった」とある（p482）。
父親は日本陸軍航空隊の通信兵で、中国に居た。佐藤少年が小学校6年生でアマチュア無線資格を取ったり、SONYスカイセンサーを買ってもらって短波で海外放送を聞いていたのは父親の影響があるのだろう。
「終戦時に蒋介石（中国国民党）軍から軍属として残らないかと誘われたが断った。日本に帰国した後、仕事がないので、アメリカ軍の軍属になり、沖縄に行き、米軍航空基地の建設に従事した。母親とは沖縄で知り合った」
その沖縄には独特の人間観があり、「一人の人間に魂が複数ある」と信じられているというのは面白い。「その一つひとつの魂が個性をもっており、それぞれの生命をもっている」だから、「一人の人間は複数の魂に従って、いくつもの人生を送ることができる」のだそうだ。
この考えは、「人生100年時代」にはピッタリではないか。
あとがき507：私や鈴木宗男氏は「天狗」困難な外交交渉を遂行するために、日本国家が天狗の力を必要とする状況は今後も生じるであろう。そして、天狗の善意が再び国策捜査によって報いられることもあろう。これについては「運が悪かった」と言って諦めるしかない。それでも誰かが国益のために天狗の機能を果たさなくてはならない。522：私の中の沖縄性沖縄には独特の人間観がある。一人の人間に魂が複数あるのだ。その一つひとつの魂が個性をもっており、それぞれの生命をもっている。一人の人間は複数の魂に従って、いくつもの人生を送ることができる。玄侑宗久「江原啓之ブームに喝！」『文芸春秋』2007/5「だいたい、魂が一つしかないということ自体、西洋的な見方にすぎない。ユングもその見方はむしろ世界の少数派だと書いている。沖縄では一人の人間に魂は六つ、ラオスに行けばなんと魂は32あるという」
2019年01月01日
私の平成元年
謹賀新年
今年で30年続いた平成も終わりということで、新聞もTVも「平成特集」が目白押し。僭越ながら、私も「平成30年」を振り返ってみたい。
のちに平成元年となる30年前の1989年の正月、私はいつもの四国への帰省を止め、年末から千葉にある親せき宅に籠って、GMAT（ビジネススクール受験の世界共通試験）の準備をしていた。当時、JAFCO入社3年目で、前年にJAFCOが店頭登録（IPO）。小金の出来た私は「これでMBA留学しよう」と思い立った。父親の急逝で大学時代バイトばかりしていた私はあまり勉強しないまま早稲田を卒業したので、「次にチャンスがあったら思いっきり勉強してみたい」と思っていた。そのチャンスが来たのだ。
JAFCOにはMBA留学制度がなかったので、自分で情報収集を開始。インターネットもない時代なので苦労したが、幸い、同じ野村証券グループの同期何人かがMBA留学生に選抜され、同時期に研修部所属になって「専業で」受験準備していたので、彼らに頼んで情報を貰った。他に、つてで知り合いの知り合いなど留学経験者に何人か会うことができ、志望校を選ぶと同時に準備方法を教わった。
問題は受験準備時間の確保だった。会社派遣留学生の多くが、仕事を免除され、また、会社費用でビジネススクール受験予備校に通って準備するのに対し、私は会社に内緒で準備しているから通常業務をこなさなくてはならない。なるべく残業はせず、寮に戻って夕食を食べ、それからTOEFLやGMAT、応募書類のエッセーなどに取り組むのだが、仕事の疲れがあるのでよくうたた寝してしまう。寝不足になると、翌日の仕事にも差し支えが出るので、結局平日はあまり準備できなかった。いきおい、週末に準備することになるのだが、それだけでは追いつかない。TOEFLは9月に初回で足切り点をクリアしたものの(610）、やはり初めて受けたGMATの点数が志望校の水準に届かず焦っていた。時期的にも最後のGMAT受験チャンスが年明けの1月だったのだ。
この年の冬休みは4-5日だったと思うが、流石にこの期間は集中した。一日中開けても暮れてもGMATの問題集に取り組む。GMATは英文読解と数学問題の配点が半々（当時）。英文読解は受験生の大半である英語が母国語の受験生が受けて差がつくようにできているので、とんでもなく難しい。数学は中学程度の初級で易しいのだが、その代わりに数がとてつもなく多い。数時間ある試験時間中、集中力を切らさずに、早く正確に解くことが求められる。
年明け7日に昭和天皇が崩御され、8日に「平成」となる。世間では翌月に実施されることになった「大喪の礼」（因みにPAは投資先のHIBINO!が担当した）が話題になっていたが、私は2週間後のGMATで頭がいっぱい。世の中が喪に服し、経済活動も自粛ムードなのをいいことにラストスパートをかけた。その結果が来たのは一月後くらいだったと思う。結果は、こちらも志望校の足切り点をクリア。面接できる人数には限りがあるので、LBSの場合（他校もだいたい同じ）TOEFLとGMATの点数＋応募書類（経歴、エッセー、学業成績、推薦状）でふるい落とし、世界各地で実施される卒業生との面接に進めるかどうかが決まる。LBSのような上位校だとここで大半が落とされる。
私の場合は、GMATの結果が出た2月に面接の連絡が入り、3月に面接を受けた。面接会場は、飯田橋にあるBritish Councilだった。そして、入社4年目に入った平成元年4月、入学許可証が航空便で届いた。その後は退職に向けて多少のごたごたはあったものの、6月末に退職。7月にロンドンに向けて旅立った。
あれから30年。当時はバブル景気の真っただ中で、日経平均は平成元年の年末に史上最高値38,915円を付ける。現在はその半分の水準だ。一方、NYダウは当時の10倍。資産価値で20倍の差がついている。経済規模では米GDPは4倍になり、日本はドルベースで倍。その大半は円高によるもので、円ベースでは所得はほとんど伸びてない。
平成元年の末と平成30年末、この2期間比較ではその通りだが、この間にあった30年という時間の経過と蓄積を捨象してはいけない。従来述べてきたことだが、日本株は平成の初めの20年は80年代バブルの清算に充ててきた。ずっと右肩下がりのトレンドだった。80年代バブルがあまりにすさまじかったために、その清算には20年もの年月を要したのである。しかし、平成最後の10年は米国株市場と同様の右肩上がりのトレンドに回帰した。株式という資産が本来持っている長期的な平均リターン（年率7％程度）を期待できる市場に生まれ変わった。(MONEX広木隆）
日本企業はその間何もやっていなかったわけではなく、陸から見れば動いてないが、潮の流れに逆らって必死で泳いでいたのだ。ようやく、バブル清算が終わって「通常」になってきたのがリーマンショック後のこの10年。この流れをここで止めてはいけないと思う。
