2018年11月
2018年11月30日
日本は階級社会なのか❓
まだこんなことを言っている学者（それも早稲田だ
）がいるのかと驚いた。生産手段を持っていなければ豊かになれず、「労働者は資本家に搾取されている」というのは、まるで産業革命時代。1980年代に始まって90年代以降に急拡大した情報化社会（ポスト・インダストリアル社会）とグローバリゼーションの進展を全く無視している。トランプ大統領の経済認識が1980年代のままなのと同じだ。日本で所得格差が開いているかといえば、それも怪しい。まして、それが「階級社会」と言えるほどかといえばNOだと思う。論点は三つある。
�［鮖謀�に見てどうか
1975-1980年頃「一億総中流」社会だったのが、格差拡大が進み、「階級社会」になったという。しかし、歴史的に見れば「一億総中流」が日本の歴史上初の人口ボーナスがもたらした異常事態で、ある程度格差があるのが常態であった。また、日本の所得格差の多くは、年功序列による世代間格差であって、年功序列が崩れてきたことで、所得格差は近年縮まる傾向にある。
��階級間の移動があるか
ここ数十年の情報化社会の中で、長期にわたり好況を維持してきたのは米国を筆頭とする「格差社会」である。階級間の移動がなければそれは「階級社会」だが、階級間の移動が常にあるのなら、それは「格差社会」であっても、「階級社会」ではない。そして、格差はあっても、経済状態が良くなければ、社会福祉政策は維持できない。
��生産手段の保有が所得に影響を及ぼしているか
付加価値を生む主体が、製造業から知識産業に移った現在、生産手段の有無は重要ではなくなっている。Facebookの情報漏洩問題のときに話題になったが、FB従業員の平均年収は2600万円である。対して、本書に出てくる日本の「資本家階級」の平均年収は604万円。日本の「資本家」より、FB従業員の方が4倍以上年収が多い。日本でも最近は、ネット関連企業を中心に、新卒から能力に応じて給与に差をつけることが増えてきた。もちろん、海外では当たり前に行われてきたことだ。
また、人の流動性が高まった現在、能力のある人は国を超えて移動してしまう。累進課税を高めて格差縮小を図ろうとすると、稼げる人がその国からいなくなってしまい、国全体が貧しくなってしまう。これまで日本は、日本語の壁があって人材流出が抑えられていたが、もはやそんな時代ではない。日本人ノーベル賞受賞者を見ればわかるが、半分は何十年も前にアメリカの大学に移った研究者だ。
・1975-1980年頃「一億総中流」社会その後、格差拡大が進み、「階級社会」に。・階級社会階級：収入や生活程度、意識などの違いによって分け隔てられた、いくつかの種類の人々の集まり階級社会：各階級の間の違いが大きく、その違いが大きな意味を持つ・現代社会の階級資本家階級：生産手段を所有する、経営者や役員新中間階級：労働者を管理監督する人々旧中間階級：自営業者や自営農民労働者階級：生産手段を所有しない被雇用者・労働者階級が正規労働者と非正規労働者に分裂非正規労働者は「階級以下」のアンダークラスへ・格差縮小のための手段�…其盂丙垢僚名�：地位、職務による賃金の格差を縮小�⊇蠧世虜栃�配：累進課税を強化し、資産税を導入する��所得格差を生む原因の解消：教育機会の平等化などを行う
2018年11月29日
帰国後の人生
旅行前、あるいは旅行中に出会った大人から何度も言われたように、佐藤少年の生活は確かに変わる。高校生活がつまらなくなり、生徒会本部や応援団での部活動にも身が入らない。
「その分、文芸部室で先輩から小説や評論、そして哲学の話を聞くのが面白くなった。そのうち、授業をサボって近所の喫茶店で、文芸部の先輩たちと読書したり、議論をするのが常態化していった」
実は、このことも旅行中に出会った都立高校教師の酒匂先生（早大文学部出身で在学中は学生運動に熱中していたらしい）から注意されていた通りだった。
「あなたのような問題意識が先行している人は、学校の勉強を放り出す恐れがある」
「先鋭的な問題意識に基づいて本を読み進めているうちに時間が足りなくなる。そうなると高校の勉強や受験勉強のために割く時間が不足する」
「高校時代に基礎学力の欠損があると浪人の1年ではそれを埋めることができなくなる」
この旅行を通じて、佐藤少年が出会った大人たちとキチンと話ができていることに驚く。当時の佐藤優はロシア語はできなかった。英語も学校で習っているだけなのでボチボチである。従って、深く会話したのは現地で出会った日本人たちだ。相手は、15歳の少年が、高校最初の夏休み全部を使って社会主義諸国の一人旅をしていることに驚き話しかけてくるのだが、知的水準の高い人とほど議論がかみ合っている。
「かわいい子には旅をさせよ」は言い古された言葉だが、今でも真実だろう。小さい頃から海外旅行も当たり前になった今日ではあるが、家族旅行では意味がない。格言のいうところは、一人旅をさせて、自分たちの世界と違った風物を見たり、他人と会話させることだ。家族旅行ではいつもの日常空間が場所だけ移動したことになる。
第十章 その後423：旅行から帰って、確かに僕は変わった。時間の経過とともに浦高での生活がつまらなくなっていた。教師も生徒も大学受験については一言も語らない。それは全員が受験のことだけを考え、神経がささくれ立っているからだ。こんな生活をスキップして、早く大学生になって自分のやりたい勉強をしたいと思った。夏休み前は熱中していた生徒会本部や応援団の活動もつまらなくなった。その分、文芸部室で先輩から小説や評論、そして哲学の話を聞くのが面白くなった。そのうち、授業をサボって近所の喫茶店で、文芸部の先輩たちと読書したり、議論をするのが常態化していった。426：僕の場合、問題意識が先行する生徒だったので、受験勉強がたいくつで仕方なかった。倫理・社会や政治・経済、現代国語など、興味がある科目の授業は真面目に聞いたが、それ以外は近所の喫茶店で本を読むか、浦和の社会党埼玉県本部か社青同（日本社会主義青年同盟、社会党系の青年組織）埼玉県委員会に行って、専従活動家の話を聞いてマルクス主義に関する知識を増やしていた。また、北浦和の労働会館で行われている社会主義協会（社会党左派の理論集団）系の学者が講師をつとめる「労働大学」の講義を受講していた。431：堀江六郎先生（浦和高校の倫理・社会の先生）授業では教科書を一切用いずに、人間疎外、宇宙論、部落問題、神の問題などのテーマに沿って講義をし、生徒たちとの積極的な意見交換を通じて授業を進めていた。「ほんとうに好きなことをしていて、食べていけない人を私は一度も見たことがありません。ただし、それはほんとうに好きなことでなくてはダメです。中途半端に好きなことではダメです。ほんとうに好きなことをしている人は、必ずそれで食べていくことができます」433：1985年外務省外務省の内規で共産圏人との接触はすべて報告書を提出しなくてはならない。（中略）ソ連・東欧から来た手紙は、外務省に入った年の夏にすべて処分した。
2018年11月28日
モスクワ放送局
これは懐かしい。私の世代、小学校高学年の頃、短波放送で海外放送を聞くのが流行った。短波は成層圏で反射して遠くまで届くので、海外放送を直接聞くことができる。冷戦の時代だったので、特にソ連や中国など社会主義諸国が強力な出力で放送していた。私も、受信カードを送ってはベリカード（Verification Card）を集めていた。海外に知り合いもいない小学生にとっては、海外から自分宛てに届くベリカードは魅力的だったのである。
この時、3歳上の佐藤優は中学生。1年生の時にソニーの「スカイセンサー5800」（2万円もした高級機）を買ってもらい、モスクワ放送や北京放送を聞き始める。当時の中国は文化大革命の時代。ソ連を「修正主義」と批判するプロパガンダ番組が多く、つまらなかった。佐藤優が、音楽リクエストなどもあるソフト路線のモスクワ放送が好きになったのもうなづける。
東欧・ソ連旅行を実行することにした佐藤少年は、3年間聞いていたモスクワ放送の東京支店も訪ねて、支局長とも仲良くなる。実は、佐藤少年がモスクワ放送に送っていた番組の感想は毎月のように番組で取り上げられ、局内でも評判になっていた。
これがきっかけで、「日ソ友の会」発足時にはインタビューを受け、これはソ連国営テレビで放送される。また、旅行中にモスクワ放送局を訪問し、この時も、ソ連初訪問の感想が国営テレビで放送される。後に、ソ連・ロシア関係の仕事に就くのは、運命づけられていたといってもよさそうだ。
153：袴田陸奥男（日本共産党中央委員会副委員長の袴田里見の弟）「戦争末期にソ連軍の捕虜になりました。その後、袴田さんは帰国することを望まずにソ連に留まり、ソ連国籍を取得しました。現在は翻訳家として活躍しています。モスクワ放送で日本語で報じられるニュースは、すべて袴田さんの翻訳したものです」157：ソ連国営テレビに登場「オフシャニコフ東京支店長が、佐藤さんは将来、ジャーナリストになる資質があると言っていました。それに『日ソ友の会』の総会の時に、オフシャニコフさんのインタビューに答えましたよね。あのインタビューは、ソ連国営テレビで放送されました」193：モスクワの暖房・モスクワは、お湯の工場が、配管を通じて住宅、事務所、工場に熱湯を送って暖房・工場に近い住宅では、真冬に気温がマイナス20度でも室温は27-28度になる・暖房の温度は調整できない235：中央アジアトルコ系：ウズベク人、トルクメン人、キルギス人ペルシャ系：タジク人282：ソ連の自動車・10-15年位待たないと新車は買えない・そのため中古車の方がはるかに高い・中古車は事故車や欠陥車の可能性が高い・小型ジグリ（輸出用はLada。Fiatのコピーなので故障が少なく乗り心地がいい）・中型ボルガ（政府や大企業の公用車→払い下げでタクシー）・大型チャイカ（高級車だが故障が多いのでほとんど使われない）
2018年11月27日
日ソ友の会
かつて「日ソ友の会」というのがあったらしい。会長は、元陸軍の情報将校で、戦後シベリアに政治犯として抑留された篠原氏。そこに、同じく、陸軍のシベリア抑留者が集まっていた。
普通、（戦争は終わっているのに）違法に抑留され、強制労働につかされれば、一生恨みそうなものだが、藤原氏は、そうではなかった。それまでの日ソ交流団体が共産党や社会党あるいは自民党とそれぞれの政治団体毎に組織されていたのでは国策を誤ると考え、民間レベルでの交流を目指した。
「ソ連のことをめぐって、日本人が内輪揉めをしても仕方がない。そんなことをしたら、あいつらに付け込まれるだけだ。確かにシベリアで俺たちは酷い目に遭わされた。どうしてそんなことになったんだろうか。日本が国策を誤ったからだ。こんな過ちを二度と繰り返してはいけない。ソ連とは絶対に戦争をしてはいけない。しかし、日本国家、日本民族としての矜持も絶対に失ってはならない。北方領土について、歴史的な議論や国際法的な論争は、実のところ意味はない。最後は日本人の意志だ」
社会主義を信奉しているほど、「進歩的知識人」と言われた時代に、「ロシア帝国とソ連は本質的に変化していない」と喝破していた元将校がいたことに驚く。旧陸軍のインテリジェンスは伊達ではなかったのだ。悲劇的なことに、インテリジェンスを判断する中枢部エリートが無能だった。日本の組織には、集団心理が働いて、無能な人がトップになることが起こる。
第六章 日ソ友の会12：モスクワソ連にも米ドルやジーンズを買い取る闇屋がいるという話をガイドブックで読んだし、また五木寛之の小説『さらばモスクワ愚連隊』には、闇商売をする不良少年たちのことが書かれていた。まさか、自分が闇屋に声を掛けられるとは思わなかった。19：モスクワ放送僕もときどきモスクワ放送局に手紙を書くようになった。モスクワ放送は、番組の企画と編成をかなり早く決めているようで、僕のリクエスト音楽がかかったり、手紙が紹介されるときは、2-3週間前に、放送時間を伝える手紙が届いた。中学校では、僕以外にもモスクワ放送を熱心に聴いている生徒がいるようで、ラジオで僕の名前が読まれると「放送を聞いたよ。僕は何度も手紙を出したけれど、全然、取り上げられない」と言っていた。モスクワ放送では年末にクイズ大会がある。放送をかなり熱心に聴いていないと、答えられない難問ばかりだ。回答を手紙で送った。2週間後の放送で、僕を含めた2人だけが全問正解だったと放送された。30：「これまでの友好団体は政治の影響を受けすぎている」（日ソTV日下社長）日ソ協会（共産党）、日ソ親善協会（社会党）、日ソ交流協会（自民党）43：「中ソ論争など、くだらない」（日ソ友の会 篠原会長）「共産主義イデオロギーで考えると物事の本質を見誤る。いいか、佐藤君、ソ連に関心を持つことと、ソ連にかぶれることは違う。ソ連かぶれには絶対になってはいけない。ロシア人は共産主義イデオロギーにかぶれている日本人を信用しない。ロシア人が共産主義を信じていないからだ。だから、共産主義にかぶれた外国人を利用することは考えるが、決して尊敬しない」101：日ソ友の会 篠原会長「ソ連のことをめぐって、日本人が内輪揉めをしても仕方がない。そんなことをしたら、あいつらに付け込まれるだけだ。確かにシベリアで俺たちは酷い目に遭わされた。どうしてそんなことになったんだろうか。日本が国策を誤ったからだ。こんな過ちを二度と繰り返してはいけない。ソ連とは絶対に戦争をしてはいけない。しかし、日本国家、日本民族としての矜持も絶対に失ってはならない。北方領土について、歴史的な議論や国際法的な論争は、実のところ意味はない。最後は日本人の意志だ」103：「日ソ友の会」のような、政治とからまない友好運動が重要（日ソ友の会 篠原会長）「共産主義はまやかしの思想だ。マルクス主義をいくら勉強してもロシアのことはわからない。ロシア帝国とソ連は本質的に変化していない。あれだけ広大な国土を維持するためにはイデオロギーが不可欠だ。ロシア帝国時代は、その役割をロシア正教が果たしていた。今は共産主義が果たしている。その差はたいしたことではない」106：人間の卑しい真理（日ソ友の会 篠原会長）「圧倒的な権力者の前では、不当なことをされればされるほど、相手に迎合する傾向がある。皇国神話に取りつかれていた将兵ほど、共産主義思想に引き寄せられた。そして、天皇の代わりにスターリンを崇拝するようになった」
2018年11月26日
ルーマニア
ハンガリーでの滞在は、ペンパルの家庭に泊ったこともあり、快適だった。ブダペシュトを後にした佐藤優は、ルーマニア航空でブカレストに向かう。
ブカレストの空港では税関職員に難癖付けられ時計をねだられる。空港から市内までバスもタクシーもない。運よく、レンタカーを借りたドイツ人ビジネスマンに乗せてもらうことができた。資本主義国の人間が泊まれるのはインターコンチネンタルホテルだけで、１泊$97はルーマニア人平均給与の1.5か月分だ。市内は暗く、夜唯一明かりが灯っていたのは、ニコラエ・チャウシェスク大統領の像や肖像画だけだったという。
当時、西側諸国でのルーマニアのイメージはよかった。東欧諸国でありながら、ソ連とは距離を置いていて、アメリカのニクソン大統領もルーマニアを訪問した。ワルシャワ条約機構の一員だが、1968年の「プラハの春」に軍事介入しなかった。
聞くと見るのとの大違いに佐藤少年は愕然とする。
第五章 寝台列車342：ルーマニア航空タロム「マレブやルフトハンザだったらそれで大丈夫だ。しかし、タロムだと状況はまったく異なる。常にオーバーブッキングをしていて、乗りそびれる乗客が出る。特にブカレスト便はとても混んでいる」356：出張に来ていた西ドイツ人ビジネスマン「ハンガリー人はみんなルーマニア人を嫌っているよ。もともとハンガリーの国土だったトランシルバニア地方をルーマニアは軍事力で奪った。しかもこの地域のハンガリー人は貧困に苦しんでいる。それに親族訪問も厳しく制限している」「対外的な自主外交と国内統治は違う。この国の内政は実に酷い。ソ連の方がずっと自由だ。おそらく、この国よりも国民に対する抑圧が厳しいのはアルバニアしかないと思う。ニコラエ・チャウシェスクに対する個人崇拝は、スターリンを上回っている。対外債務を返済するために、国民に窮乏を強いている。産油国であるにもかかわらず、石油のほとんどを輸出に回しているので、停電が頻繁に起こる。国民の緊張感を維持するために、灯火管制を行っている」360：ブカレストブカレスト北駅は、19世紀末にできた立派な建物だった。第二次世界大戦でルーマニアはドイツについた。兵員、貨物（特にルーマニア産の石油）を輸送する重要な拠点がブカレスト北駅なので、連合国の激しい空襲を受けたという。国際（切符売り場に）は十数人しかいない。これならば1時間くらいで切符を買えると思ったが、大きな間違いだった。1人に20分くらいかかるのだ。正午を少し過ぎたころに行列についたが、僕の順番が回ってきたのは午後3時を回ってからだった。371：インターコンチネンタル・ホテル1泊$97、２泊で$197支払ルーマニア人の3か月分の賃金。市内のルーマニア人用のホテルや民宿なら$5．
2018年11月25日
開かれていたハンガリー
散々だったチェコスロバキアを予定より早く出発して向かったのは、2年間文通していたペンパルの居るハンガリーの首都ブダペシュト。
あいにく、ペンパル一家はユーゴスラビアに家族旅行に出かけていて留守だった。国際郵便到着に数週間掛かっていた時代の話である。向かいの部屋の住人からその事情を聴かされた佐藤優は、翌週の帰宅までホテルに泊まって待つことにする。
ホテルマンが普通に愛想のいいことに驚く。レストランでハンガリー人が話しかけてきたことに再び驚く。チェコスロバキアでは、外国人、特に資本主義国の人間とは接触が禁止され、誰とも話せなかったからだ。同じく、レストランで知り合った東ドイツ家族の子どもとは文通することを約束して住所を交換した。これも、チェコスロバキアではありえない話。
社会主義国にもいろんな国があることを学ぶ。
第三章 マルギット島167：レストランであったハンガリー人グループ3人とも職業は技師だということだ。それなのに安部公房やカフカに強い関心を持っている。ハンガリー人の平均的な知的水準はかなり高いと思った。182：ハンガリーに旅行中の東ドイツ人一家「60歳を超えて、年金年齢に達すると、東ドイツから西ドイツの親族を訪問することもできます」つまり労働者としてもはや期待できない人々は、西ドイツに渡ってもよいということ。第四章 フィフィ260：フィフィのお母さん「ハンガリーはドイツの同盟国だったから、戦争末期のブダペシュト攻防戦もたいへんだった。ソ連兵の略奪や暴行はひどかった。でも、もっと恐かったのは1956年のハンガリー動乱だったわ。ヨーゼフ大通り周辺が戦場になった。あれは内戦だった」297：日本語を夜学で勉強している書店員「第二次世界大戦まで、ハンガリー人は生活していくためにドイツ語の知識が不可欠でした。戦前に教育を受けた人はハンガリー語とドイツ語のバイリンガルです。戦後、ドイツ語は必要なくなりました。ドイツ語の代わりにロシア語が必修科目になった。小学生からロシア語を勉強します。しかし、日常生活で用いる機会がないので、かつてのドイツ語のようには定着していない」「ハンガリー人は誇り高き民族です。言語も周囲と異なります。チェコ語、セルボ=クロアチア語などのスラブ語もラテン系のルーマニア語もインド=ヨーロッパ語族に属します。しかし、ハンガリー語はまったく別の系統に属する。私たちは、日本人と同じアジア起源かもしれません」
2018年11月24日
社会主義国の真実
当時ヨーロッパ路線で唯一ディスカウント航空券が出回っていたエジプト航空の南回り便で、丸一日かけスイスに到着した15歳の佐藤優。そこから鉄道で最初の社会主義国チェコスロバキアに入国する。
列車に銀行職員が乗り込んできて、1日当たり$15、3日間で$45を強制両替させられる。ユースホステルに行くが、資本主義国の人間は泊めないようで、宿泊を断れる。ホテルも外国人旅行者は受け付けてもらえない。国営の旅行社チェドックを通じて、外国人専門のホテルにしか泊まれないのだ。
チェドックでは10人の行列で3時間待たされる。それも、今晩の分しか取れず、翌日分は、当日にならないと予約さえできない。ホテルのレストランでは、ウェイターを何度呼んでも、注文さえ取ろうとしない。相席になったイタリア人は1時間待っているが、まだ料理は来ないという・・・。
社会主義に憧れていた高校1年生が、この現実を知ったのは良かった。社会主義国の現実を知らないまま、頭でっかちに育っていたら、滑稽な「革命家」になっていたかもしれない。
列車に銀行職員が乗り込んできて、1日当たり$15、3日間で$45を強制両替させられる。ユースホステルに行くが、資本主義国の人間は泊めないようで、宿泊を断れる。ホテルも外国人旅行者は受け付けてもらえない。国営の旅行社チェドックを通じて、外国人専門のホテルにしか泊まれないのだ。
チェドックでは10人の行列で3時間待たされる。それも、今晩の分しか取れず、翌日分は、当日にならないと予約さえできない。ホテルのレストランでは、ウェイターを何度呼んでも、注文さえ取ろうとしない。相席になったイタリア人は1時間待っているが、まだ料理は来ないという・・・。
社会主義に憧れていた高校1年生が、この現実を知ったのは良かった。社会主義国の現実を知らないまま、頭でっかちに育っていたら、滑稽な「革命家」になっていたかもしれない。
第二章 社会主義国88：チェコスロバキア僕はチェコスロバキアに3日間滞在する予定なので、45ドルを強制両替させられた。ユースホステルを訪ねたが、満室ということで断られた。（中略）どうも資本主義国の人間を泊めないようにしているようだ。90：ホテル注文から1時間近く待っているが、まだ料理が来ないという。僕の方は、ウェイターを何度呼んでも、注文さえ取ろうとしない。社会主義国で、ホテルを取ったり、レストランで食事をすることがこれほどたいへんとは思わなかった。105：ポーランドポーランドの生徒たちも東ドイツの学生も交通渋滞について、話に聞いたことはあるが、経験がないのでピンとこないようだ。確かに車の数は少ない。プラハでもワルシャワでも、歩行者と車の関係では、車が優先だ。信号のない横断歩道で歩行者が待っていても、車はそのまま突っ切っていく。社会主義国が車優先社会であるというのは、ちょっと意外な感じがした。
2018年11月23日
外交官佐藤優を作った15歳の旅
1960年生まれの佐藤優は、埼玉県立浦和高校に合格したご褒美に（第一志望は早稲田高等学院だったがそちらは不合格）海外一人旅を許される。1975年だから、まだ外貨の持ち出し制限があった時代だ。大人でも海外旅行は珍しく、佐藤の両親も海外に行ったことはなかったという。
しかも、行き先はソ連と東欧の社会主義国。これらの国では外国人の移動が制限され、宿泊先も外国人専用ホテルになるので旅費は西側諸国よりも高くついた。それでも、中学生の時に学習塾の先生の影響で社会主義に興味を持ち、ハンガリー人のペンフレンドと文通していた佐藤はここに行くことを選ぶ。
旅行代金は50万円ほど。今の感覚なら、数百万円か。父親は大学を出ずに、富士銀行のシステム部門で技師として働いていたという佐藤家としては思い切った金額だ。さらに、高校に入ったばかりの一人息子（妹と二人兄弟）を初めて海外に、それも日本人がほとんどいない旅行しない共産主義国に一か月だすというのはスゴイ。出発した後、母親が心配して寝込んでしまったというのもうなづける。父親も、「若いうちに違う社会体制の国を見ることはいいことだ」と賛成したそうなので、父母の役割の違いが鮮明。
驚くのは、40年も前の旅行を佐藤が細部まで正確に覚えていることだ。旅行中日記もつけていたようだが、それだけではないだろう。初めての海外一人旅で感覚が研ぎ澄まされていたこと、そして、やはり、持って生まれた観察眼と記憶力によるものだろう。そうでなければ、外務省の主任分析官は務まらない。
第一章 YSトラベル7：中学時代に学習塾で、面白い先生たちと知り合った。そこで僕は社会主義に関心を持つようになった。僕が学習塾で特に影響を受けたのは、早稲田大学商学部出身の国語の先生と、東京大学の理科�砧爐�ら工学部に進んで、その後大学院を修了した数学の先生だ。国語の先生は、ソ連や東欧は、一応、社会主義国だという。これに対して、数学の先生は、ソ連や東欧は、マルクスやレーニンが考えた社会主義国とは掛け離れた、官僚国家だという。ただし、国語の先生も数学の先生も、若いうちに自分の目でソ連や東欧など、日本と社会体制が異なる国を見ておくのはいいことだといって、僕が夏休みに冒険旅行に出ることを応援してくれた。10：高校の授業は、3時に終わる。僕は応援団と文芸部に属していたので、3時半から5時までが応援団の練習で、5時から7時くらいまでは、文芸部の部室で、先輩たちから小説の読み方と書き方について習う。僕は小説を書く気持ちはまったくないが、本をよく読んでいる先輩の話から、知識を吸収したいと考えていた。46：餞別をくれた東洋経済新報社に勤める同級生の母親「あの人たち（早慶学院の先生）は、優秀よ。ただし、世の中を批判的に見過ぎている。佐藤君には世の中をもっと正面から受けとめてほしいの。自分の小さな世界で充実していればよいという発想ではなく、将来は官僚になったり、大新聞の記者になるというような目標を設定してほしいの」
2018年11月22日
人は仕事で成長する
見城さんは、人一倍劣等感の強い子供だったという。それが、高校進学してから好転していくのだが、不遇な中学時代の人間関係を絶つため、人気のない新設高校に進学して場を変えたことがきっかけになる。
「若い頃、僕が好きになるのは、いつもハードルの高い学校のマドンナや、普通の男が尻込みしてしまうような高嶺の花ばかり」というのは面白い。普通なら、最初から諦めてしまいそうだ。しかし、そうせずに中学校時代から思い続けた「マドンナ」に、高校卒業前に手紙で告白。勉強は学年一、運動も頑張っていた見城さんは思いを遂げられ、これが「努力をすれば報われる」という成功体験になったことは想像に難くない。
その時酷く断られていたら、どうだったろう？今の見城徹はなかったかもしれない。
「若い頃、僕が好きになるのは、いつもハードルの高い学校のマドンナや、普通の男が尻込みしてしまうような高嶺の花ばかり」というのは面白い。普通なら、最初から諦めてしまいそうだ。しかし、そうせずに中学校時代から思い続けた「マドンナ」に、高校卒業前に手紙で告白。勉強は学年一、運動も頑張っていた見城さんは思いを遂げられ、これが「努力をすれば報われる」という成功体験になったことは想像に難くない。
その時酷く断られていたら、どうだったろう？今の見城徹はなかったかもしれない。
92：編集の仕事をしていると、作家やミュージシャンなど自己顕示欲の強い人間に会うことが多い。その時僕は、自己顕示より、むしろ自己嫌悪に目を向ける。それをどれだけ持っているかで、いいものを生み出せるかを見極められる。自己顕示しかない人間は、薄っぺらな野心家にすぎない場合がほとんどだ。（中略）いい仕事の条件は、自己顕示と自己嫌悪の間を、絶えずスウィングすること。105：若い頃、僕が好きになるのは、いつもハードルの高い学校のマドンナや、普通の男が尻込みしてしまうような高嶺の花ばかり。そこには僕の劣等感のみっともない埋め合わせが作用していたと思う。仕事も、普通なら不可能とされる高いハードルをかけげ、それを超えるため、圧倒的努力をする。そして、ここ一番で、勝負をかける。165：編集者の大事な仕事は、作家に刺激を与えること僕はいろんな作家と毎日のように飯を食ったり、酒を飲んだりした。一緒に旅行にも行った。そうしながら、どんな家庭で育ったか、どんな恋愛をしてきたのかを聞く。恋人同士のように濃密な時間を過ごしながら、この人のどこに黒い血が流れていたり、隠し持つ傷があったりするかを探ってゆくのだ。黄金の鉱脈は、そこにしかない。外からは見えない血や傷を、作家自身に突き付けるのが編集者の仕事である。相手の腹の中に手を突っ込み、内臓を引きずり出すような作業が、楽しくてならなかった。
2018年11月21日
人生を挽回する方法
これまた長年にわたり濃い付き合いだった林真理子との対談および往復書簡風のやりとりが載っている。「肉体関係のない恋人同士」と言ってもいいくらい近い関係だったのが、幻冬舎が上場して間もなく、些細なことの重なりで16年に及ぶ絶縁状態になる。
そのきっかけは、「コンプレックスから来る精神的な飢えがなければ、よい文学作品は書けない」が信条の見城が、直木賞を取ってから順調に成功の階段を上る林真理子がこの飢えを無くしてしまったのではないかと感じたことだった。実際、それからしばらく初期の作品を上回るようなヒット作は生まれなかった。
28：見城表面的な付き合いは絶対にしない。付き合うからにはちゃんと付き合う。20代の頃、夜の11時ごろ村上龍から電話が来て、「今、こんなの書いている」とか1時間ぐらいああでもないこうでもないと話して、やっと終わると今度は宮本輝から電話がかかる。またああでもないこうでもないと話して、終わると今度は中上健次やつかこうへいが酔っぱらって家に来ちゃう。�／誉犬鯣垈鵑垢詈�法(見城）43：僕は自分に強いコンプレックスを持っているため、作家と話していると、その人のコンプレックスをすぐに嗅ぎ当てられる。僕はコンプレックスのデパートなのだ。これは一種の特技と言っていい。僕は作家に、そこを掘り下げて書くように進言する。コンプレックスのある所にこそ、文学的な黄金の鉱脈があるからだ。52：「この人たちは、書かずには生きていけない」彼らは自分の中に、浸み出す血や、それが固まったかさぶたや、そこから滴る膿を持っている。それらを表現としてアウトレットしなければ、自家中毒を起こし死んでしまうのだ。それだけのものは、僕にはない。書かなくても、僕は生きていける。71：精神的な飢えこそが、林さんの文学僕は、直木賞を取ったあたりから、林さんがこの飢えをなくしていったように思えてならなかった。金、人気、名誉、結婚・・・・林さんが、自分の望むものをどんどん手にしていったこと。これは構わない。しかし、何を得ても、心の奥底には、やはり飢えがあるはずだ。そこに焦点を合わせ、掘り下げてゆくからこそ、林さんの文学は光り輝くのだ。81：ネットに依存し、それを現実とはき違えることは、人としての浅さや、狂気しか生まない。僕は、ネットを不満のはけ口として利用している人間は、大きな仕事もできなければ、実のある人生も送れないと思う。健全な人間にとって必要な、負のエネルギーの蓄積が行われないからだ。
2018年11月20日
会社の在り方
見城徹は20代前半、最初に勤めた廣済堂出版で編集者をしながら小説も書いていたという。しかし、小説家と知り合い、付き合うようになって、小説家の道をあきらめる。それは、「この人たちは、書かずには生きていけない」と悟ったからで、それだけのものは自分にはない。それで、「自分は文芸編集者になるしかない」と決断できた。
自分も、親が自営業者であったこともあり、「会社勤め」というのにピンと来なくて、いつか起業したいと思ったものの情熱を燃やせる何かもなく、「経営の勉強をしよう」と思ってVCを選んだ。だが、投資先の経営者を見て、「これは自分には無理かもしれない」と思うようになった。
起業は大変だ。成功確率も低い。それを乗り越えて成長を続けている会社の経営者は365日24時間、仕事のことを考え続けられる人だ。小賢くて、「一を聞いて十を知る」ようなタイプよりも、ひとつのことを愚鈍に、しかし多面的に考え続けられる人。
見城氏は、「土日も、夏休みも、正月も大嫌い」だという。遊んでないわけではない。一年365日会食だというし、年に何度かハワイにも行く。でも、潜在意識には仕事があるので、全てが仕事に結びついている。
自分がそうでないなら、起業など考えないほうがいい。
��会社の在り方
145見城：他者への想像力があれば、結果は出せる
編集者に限らず、仕事なんて自分の思っていることを人を動かして、どう実現できるか。そういう意味で、他者への想像力がある人は何をやっても結果を出せる。あと、自分に何かを課すことができて、バーを高く設定できるというのも大事。
�飴纏�を忘れる？
168見城：土日も、夏休みも、正月も大嫌い
172松浦：不倫した人に対するワイドショーとかのバッシングがすごい。あれじゃ、子どものいじめもなくならない。だって、大人がやっているんだもん。
2018年11月19日
時代の流れを変える
今では当たり前になった新聞の全面広告を打っての一つの本の宣伝。あれを最初にやったのは、幻冬舎だったという。
それが、1998年に発売してミリオンセラーになった郷ひろみの『ダディ』の広告で、私も見て衝撃を受けた。�，修譴世厩�告費を掛けて元が取れるのか？�△海譴篭燭劼蹐澆痢嵶ズЧ�告」なのか？��人はそこまでプライベートを金に換えることができるのか。
私はもちろん買わなかったが(笑)、大きな話題になって、本はミリオンセラーとなった。その仕掛けが徹底していて、「当事者の二人には本の発売日に離婚届を出してもらうことにして、郷ひろみの所属事務所にも一切何も知らせなかった」という。著者である郷ひろみはともかく、二谷友里恵までそれに合意したのはどう説得したのだろう
「本の帯を印刷するにも離婚のことがバレちゃうと困るから、全文が把握できないように、一行ごとに違う印刷会社に頼んで打ってもらった」というのも、細部まで手を抜かない見城氏らしい。そうした時に無理を聞いてもらえるよう、独立してからは、広告代理店も印刷会社も中堅の会社にして、彼らにとって幻冬舎がトップクライアントになるようにしていたという。
207見城：1998年に発売してミリオンセラーになった郷ひろみの『ダディ』ある朝起きて新聞を開いたら「離婚。新しい関係の始まり。なぜ二人は離婚しなければならなかったのか」という見出しで本の全面広告。それで大衆は「え？郷ひろみと二谷友里恵は離婚したんだ！」と知った。当事者の二人には本の発売日に離婚届を出してもらうことにして、郷ひろみの所属事務所にも一切何も知らせなかった。209松浦：PPAPのピコ太郎はエイベックス211見城：松浦って実はものすごく心配性。常に最高をイメージしている一方で、最悪も想定している。そういう経営者が一番強い。
2018年11月18日
「私は黒人が好きである」
1987年直木賞受賞作品。
「私は黒人が好きである。何故なら慣れ親しんでいるから。自堕落でやさしくて感情を優先させる自意識の強過ぎる、そして愛に貪欲な彼らが大好きである。私は彼らの中に数年間、自分を置いて来た。そして、今ではただの男好きである。男好きの女は自分勝手でだらしなく、時には過ぎ去った恋を執拗に心の中で飴玉のように舐めまわして小説を書いて金儲けをやってのける。もしも、彼らの中に日本語という美しい言葉を読みこなせる男がいたら、お願いだから『SHIT』なんてはしたない言葉で私をののしったりしないで欲しいと私は願う。けれど、彼らにはこの本が読めないことを私は『男好き』の知恵でちゃんと知っている。これは、日本語の読めない私のかつての男たちに捧げた本である」（あとがき）
それまで日本人女性が黒人男性と付き合うことは稀だったと思う。同じく山田詠美のデビュー作品『ベッドタイムアイズ』（文藝賞受賞）と、この本が大ヒットしたことで一気に広がった気がする。
LBS卒業後働いていた米国企業でも黒人は少なかったが、唯一、数週間研修で一緒になった同僚がいた。研修中は服装も自由だったので、皆カジュアルな恰好で来るのだが、彼だけはスーツ。そして、いつも香水の匂いをさせている。彼だけが特殊ということでなく、アメリカの黒人にはオシャレ好きが多い。この本に出てくる登場人物から、久しぶりに彼を思い出した。
WHAT'S GOING ON26：彼女は今までの生活に終止符を打つことを決意したのだった。そして、その決意を持って恋愛をした最初の男が今の夫だった。MAMA USED TO SAY122：ブルースの肉体と心はもぬけの殻になっていた。すぐに起き上がって服を着ることの出来るドロシーが、まるで彼の生気をすべて吸い取ってしまった化物のように思えた。彼は父親に改めて尊敬の念を抱いた。毎日、ドロシーにあの声を上げさえて、いつもと変わらぬ様子で店に出ているなんて、大人と子供の違いはここにあるのだ。男が女を愛する時190：私の体は彼のお喋りに愛撫されて絵を描いている。弾みで倒れたワイングラスからは深い赤。彼の美しい体から流れ出る体液は混じりけのない白い色。それが溶け合って私の溜息は上気したロゼになる。
2018年11月17日
おしゃれとは究極の痩せ我慢
ユニクロなどこの20年で急成長した企業もあるものの、アパレル業界全体としては縮小が続いている。安くて、着心地が良くて、丈夫な服でいいじゃないかというカジュアル化が進んだ。確か、大前研一が25年くらい前に、「世界中がカリフォルニア人みたいにTシャツと半ズボンで済ませるようになっている」と指摘していた。
「おしゃれとは究極の痩せ我慢」だとすれば、その対極。そんな中、見城氏は毎日スーツだという。オシャレに目覚めたきっかけが、20代のころ付き合っていた「売れている芸能人」だったというのは興味深い。その女性が、毎年春と夏にアルマーニのスーツを5着ずつ買ってくれた。あるとき「まだ去年のものが着られるし、たくあんあるからいいよ」って言ったら、「覚えておきなさい。イタリアのブランドは生地とデザイン優先で実用的に作られてないの。だから、前のシーズンのものは着ちゃだめなのよ！」と言われたそうだ。
「要するに、俺はその彼女にファッションだけでなく、ワインもバレエも、クラシック音楽もオペラも芸術映画も・・・・・すべて教えてもらった」
26見城：靴だけはまったく負荷がないBostonianしか履かない日本には売ってなくて海外のClarksのショップでしか買えない。足元だけは痩せ我慢できない。これまで30足くらいは買い、今でも10足は新品。28見城：俺がおしゃれに目覚めたのは、まだ角川書店のサラリーマンだった頃に付き合っていた女性が売れている芸能人だったんだけど、毎年春と夏に「アルマーニ」のスーツを5着ずつ買ってくれたんだよ。34見城：クレンズ一定期間、固形物を食べない代わりに、ジュースを1日6本飲むことで消化器官を休ませながら、体を内側から浄化する。言ってみればジュースダイエットみたいなものだけど、肌なんかもすごくきれいになる。
2018年11月16日
社風、企業文化とは何か？
アメリカの経営学者の間で企業文化が話題になり始めたのは1980年代だったという。そのきっかけは、1970年代の石油危機をいち早く克服し、車や半導体で世界シェアを拡大した日本企業への危機感であった。日本企業の欧米とは違う企業文化がその競争力の源ではないかと考えたのだ。
その後のバブル経済崩壊を経て、「そうではない」という結論が出たのだが、革新的製品はなかなか出ないものの（ノーベル賞受賞者の数を見ても、技術は生まれているが、変化をきらう傾向が強く、商品化がなかなかできない）、均一な製品を高品質でそこそこ安く作ることについては長けている。そこには文化的背景もあると考えるほうが自然だろう。
本書では、社風・企業文化を扱う。二つを特に区別はしていない。様々な側面から、社風・企業文化を論じるのだが、諸説の紹介とその具体的事例を上げるのみで、結論めいたものがない。
17：企業文化の定義「グループが対外的課題をこなし、内部の人間関係に対処する中で獲得してきた、集団内で共有された暗黙の仮定」（MITエドガー・シャイン）94：予言の書となった『失敗の本質』(1984）「高度情報化や業種破壊、さらに、先進地域を含めた海外での生産・販売拠点の本格化など、われわれが得意とする体験的学習だけからでは予測のつかない環境の構造的変化が起こりつつある今日、(略)異質性や異端の排除とむすびついた発想や行動の均質性という日本企業の持つ特質が、逆機能化する可能性すらある」157：大企業病に罹患する2つの原因ある程度事業が成功を収めたことと、ある程度創業から時間が経過したこと。
2018年11月15日
恋をしていない男女は仕事ができない⁉
雑誌『ヌメロ』で連載していた幻冬舎の見城徹社長と、エイベックスの松浦勝人社長による対談集。見城社長は常々「対談本は売れない」と言っているが、さすがこの本は対談集としては例外的に中身がある。
なぜなら、普通の対談はそれまで余り関係のない二人が話すので、遠慮があって、たいてい互いが相手に合わそうとして緊張感がない。ところが、この本の対談は、もともと親友である二人が、毎月二人で連載するので、遠慮がないのだ。
第一部は「恋をしていない男女は仕事ができない？」。見城説では、恋愛をして初めて相手のことを深く理解しようとし、そうすることで他者に対する想像力が磨かれる。仕事も、顧客に対する想像力が勝負なので、そういう結論になるのだ。
それはそうと、見城社長の「毛深い女性が好きなの。顔が小さくて、髪が太くて多くて、気が強いのがいいんだよ。つまり、野性的ではっきりしている女性がいい」というのもスゴイ。これだけ明確に自分の好みを語れる人も少ないのではないか。それだけ自分を見つめてきた人なのだろう。
思い当たるのは、メキシコの女流画家フリーダ・カーロか。そうでなければ、「もののけ姫」のサン
13見城：毛深い女性が好きなの。顔が小さくて、髪が太くて多くて、気が強いのがいいんだよ。つまり、野性的ではっきりしている女性がいい。16見城：センスも読書量もきめの細かさも他者に対する想像力も集中力も、全部女性の方が上です。18松浦：ほとんどのサラリーマンは「嫌いな人の前でも何時間もニコニコしてご飯を食べていればなんとかなる」と思っていませんか？しかも、そうやって生きてる人の老け方って半端ない。
2018年11月14日
システム会社DeNA
DeNAはネットオークション企業としてスタートし、その後ショッピング、ゲームとオンラインサービスを増やしていった。では、その競争力の源泉は何なのかというと、システム開発力ということになるらしい。
創業時にシステム開発を外注したことでいきなり会社存続の危機に直面したDeNAは、その後自社開発に拘った。そして開発手法の転機になったのは、モバオクだったという。普通に考えれば、業界2位とは言え、それなりのユーザーベースを持つPC版のBidders!と互換性を持たせるだろう。しかし、これでは業界一位のヤフオクが携帯対応した途端、また2番手になってしまう。そこで、思い切って、携帯専門のオークションとしてモバオクを開発することにする。
使い勝手が抜群に良く、利用の急拡大にも耐えられるモバオクを一人で、しかもたった2，3ヵ月で作ったのは元々「オークション統計ページ」というウェブサイトを運営していた川崎。東大の博士課程で人工知能の研究をしていたが、アルバイトからDeNAに入社することになる。
「これを機にDeNA社内のシステム開発のアプローチは、再度大きく見直された。これまでの、要件定義、設計、コーディング、テストというステップを踏んだ開発から、つくり手を企画段階から巻き込み、つくり手自身がユーザーにとっての面白さや使いやすさを考えながらプログラミングしていく方法を取り入れていく。
川崎はその日からずっとわが社にいる。最初はアルバイトでマーケティングなどを手伝い、そのうちひとりでモバオクをつくり、のちのモバゲーもつくった。川崎の入社後、優秀なエンジニアが吸い寄せられるように集まってきた」
第4章 モバイルシフト100：モバオクビッダーズの延長線上につくったら、ヤフオクが携帯向けの展開をした瞬間、また2番手になってしまう。今度は勝ちにこだわりたい。（中略）勇気のいる決断だったが、今振り返ってDeNAの運命を切り拓いた決定的な選択をひとつ挙げろと言われたら、私はこの決断を挙げる。結果、川崎はひとりで、しかもたった2，3ヵ月で感動するほど使いやすいモバイルオークションサービスをつくってしまった。117：モバゲーの大ヒットモバゲーの使いやすさ、楽しさも大きな成功要因だが、すでに運営していたモバオクのユーザーのなかでほかのユーザーとのやりとりが特に激しい「お話好き」1000人をまず招待するという戦術もおおいに功を奏した。第6章 退任171：南場カンパニーか公器かベンチャーと創業社長は通常べったりセットで認識されるが、会社は私の寿命や能力を超えて隆々と発展していかなければならない。そしてその後も、常にその時点でベストな人物がトップを担うべきである。そういったバトンタッチが清々しく行われる歴史の第一歩をしっかりとつくれるのは創業者の自分しかいないと考えた。私自身に課せられた最も重要な仕事として、退任の仕方を見せる、ということを意識して準備してきた。第7章 人と組織200：DeNAの競争力の源泉は「人材の質」�〆嚢發凌雄爐鮑陵僂��△修凌雄爐�育ち、実力をつけ��実力のある人材が埋もれずにステージに乗って輝き�い世�ら辞めない
2018年11月13日
創業期にできる企業DNA
ケチだから成功するわけではないが、継続して成功する会社は大抵ケチだ。Sonetとリクルートの出資で1.5億円の資本金と比較的大きく創業したDeNAも、南場社長がマッキンゼーから退職祝いに貰った会議テーブルと他社からもらった中古で不揃いの机と椅子でスタートしたという。
最初からシステム開発の失敗でいきなり存続の危機を迎えたDeNAはさらにケチを徹底する。「家具から備品まで、可能な限り社員の家族から拝借。どうしても発生する支払は、乙部が『ご恩はいつかお返しします』と交渉し、驚くようなディスカウントを引き出す」
もちろん、並行して会社の根幹事業のためのシステム開発は続けている。数千万円掛かるシステム開発に比べれば、経費で節約できる額はたかが知れている。しかし、それが本当に必要か？どこかに余ってないか？安く代替できないか？どうすれば底値で入手できるか？と考えずに安易に買う会社は、結局、何につけ工夫する習慣が出来ないので、サービスレベルが低い上にコストが高くなってしまう。当然、長く市場に残れず淘汰されることになる。
第2章 生い立ち59：マッキンゼーでの新入社員時代結局、朝9時の指示の意味を理解するのは夜中の1時。一事が万事その体たらくで朝4時、5時の帰宅は当たり前。新米は9時にデスクについている必要があり、平日の睡眠時間は２，３時間。第3章 金策71：DeNAのケチケチ風土が培われる家具から備品まで、可能な限り社員の家族から拝借。どうしても発生する支払は、乙部が「ご恩はいつかお返しします」と交渉し、驚くようなディスカウントを引き出す。トイレにはペーパータオルが置いてあったが、これにも乙部が「手は一枚で拭けます」と書いて貼りつけた。お客様もおそるおそる1枚使用。こんなことでいくら節約できるのか、一見みみっちい話に聞こえるが、こうやって管理部門が1円単位で苦労して節約していることを知ると、システム担当は開発にかかる数千万円の重みを痛感し、効率的なシステムの設計に血道をあげ、調達担当は必至の覚悟で値切る。73：ITバブル崩壊結局どの企業からもよい答えを引き出せず、既存の大株主に泣きつくことになる。環境の厳しさはソネットも同様だった。泉二社長らが親会社のソニー社長に掛け合ってなんとか1億円、NTVPは4億円、マッキンゼーの先輩が個人の資金を7000万円、合計5億7000万円の調達を2001年3月に果たした。79：2002年2月末ヤフオクが手数料値上げを発表我々はヤフオクへの出稿を模索した。むろん、はじめは競合指定があるのでDeNAの広告は出せないと断られた。これは業界の常識。しかし、これで諦めていたら機械と一緒だ。情報収集すると、どうもヤフーの営業部は予算達成が難しく、かなり焦っていいるらしいことがわかる。どれくらい不足しているのか、金額のイメージもつかめてきた。営業トップに直接掛け合い、具体的な出稿金額を提示して粘るうちに、「まあ、内規ですから、例外はありでしょう」とさすが王者、英断だ。数日後から「オークションならビッダーズ！」という広告がヤフオクのすべてのページのトップにでかでかと貼られ、語り継がれる業界の珍事件となった。91：大企業からの出資なんの寄る辺もなく起業する者は、有名な大企業のサポートをとれも心強く感じてしまいがちだ。けれども、大企業を大株主に迎える場合、状況は変わりうる。大企業にはそれぞれ株主がいて、そこからのプレッシャーも大きい。当然こちらを向いて仕事をする人たちではないし、そうであってはならない人たちなのだ。あちらも変わればこちらも変わる。支援の内容や有用性、株の保有意向など、不変のものなど、ひとつもないのである。93：ショッピング事業で2003年3月期の下半期黒字化達成嬉しくて泣けたのは起業してから社長退任までの12年間でたった1回、このときだけだ。赤字の経営はきつい。利益は世の中にどれだけの価値を生み出したかの通信簿であり、赤字は資源を食い潰している状態だ。
2018年11月12日
チームDeNAの挑戦
DeNAの社長時代の南場さんは、採用したい人がいると、板倉雄一郎『社長失格』(1998）を渡して、「これを読んで自分もやりたい、と思うなら一緒にやろう」と口説いていたという。5年前に出た南場さん自身によるこの本も、起業の実態を等身大で表していて、その人材がベンチャー向きかどうかのリトマス試験紙になると思う。
もっと早く読めばよかったのだが、実は、本書にも出てくるDeNAの最大投資家であったNTVPに出資していたので、ファンドを通じてDeNAの状況は創業当初から報告を受けていた。最初のサービス導入でつまずき、ヤフオクの背中は見えない。正直、「もうダメだろう」と心の中で減損していたら、NTVP最大のヒットとなった。上場してからは南場さんの講演を聞く機会も何度かあり、本書に出てくるエピソードも知っていたので、「読まなくても」と思っていたのだ。
インターネットサービスでの成功要因をマッキンゼーのコンサルタントとしてよく知っていた南場さんは「日本初」でオークションサイトを作ることを目指して1999年にDeNAを創業した。徹夜作業の連続でシステム要件を定義。制作会社に仕様書を送ったのに蓋を開けてみたら、コードが一行も書けていなかった。パニック状態になった南場さんは、手が震えて、PCの立ち上げも自分でできなかったという。
関係者への第一報を終え、とりあえずシャワーを浴びようと朝4時に帰宅した南場さん。寝ている旦那に、ボソッと「システム詐欺にあった」と言う。むくっと起き上がった旦那はあらすじを聞いて、三つのことを言う。何を言ったかは、下の引用を見て欲しいのだが、本当に的確。要領を得ていて無駄がない。旦那さんもマッキンゼーの同僚らしい。
この創業時の大チョンボから辛うじて立ち直ったDeNAは投資家の信頼をつなぎ留め、Biddersを開始。しかし、ヤフー＆楽天に次ぎ、大手では三番目のサービス開始となった。そして、ゼロから1.5か月の突貫工事で作ったサイトは脆弱な上、ユーザーの出品機能がないという片手落ちのサービス。毎日、社員が商品を集めて自社で出品しているというオークションサイトだった。
まえがき：1999年、マッキンゼーのコンサルタントとして調子よくやっていた私は、何かに取り憑かれたように起業し、それまで順風満帆だった多くの人の人生を荒波に巻き込み、四方八方に迷惑をかけながら失敗のフルコースを片っ端から経験して、DeNAを立ち上げた。5：苦しい時に意識するふたつのことひとつは、とんでもない苦境ほど、すばらしい立ち直り方を見せる格好のステージだと思って張り切ることにしている。そしてもうひとつは、必ず後から振り返って、あれがあってよかったね、と言える大きなプラスアルファの拾い物をしようと考える。うまくいかないということは、負けず嫌いの私には耐えがたく、単に乗り越えるだけでは気持ちが収まらない。
第1章 立ち上げ16：unlearning世の中のほぼすべての人が知っている「言うのとやるのとでは大違い」というのを年収数千万円のコンサルタントだけがうっかりするというのは、もはや滑稽といえる。しかもコンサルティングで身につけたスキルや癖は、事業リーダーとしては役に立たないどころか邪魔になることが多い。今でも苦しみながらunlearning（学習消去）を続ける毎日だ。18：マッキンゼーにいた川田（尚吾）とナベ（渡辺雅之）を口説き落とす川田は入社3年目の工学博士。在学中にベンチャー企業にかかわっていたらしく、コンサルタントより実業向き。フットワークが抜群に軽い。ナベは入社2年目。若いながらマッキンゼー随一のリサーチ力を誇り、身体も口もよく動く。このふたりを選んだ時点で、DeNAはたとえ時間がかかっても良い会社に育ってゆく運命を半分手中に収められたと思う。川田は、大学の後輩だった茂岩を日本IBMから連れてきた。自称超優秀で自分よりすごいヤツが見つからないナベは、困ったあげく同じ遺伝子だからと兄貴をアクセンチュアから連れてきた。25：リクルート清國さんの指摘でシステムをゼロから作り直し決めたその日の午後6時から共同作業が始まった。午後6時から朝6時までの12時間、銀座のリクルート本社でサービス仕様の議論を行い、その後急ぎ渋谷に戻って朝6時から午後6時までの12時間以内に、前夜の議論で決めたことをなんとか仕様書にまとめあげる。そしてまた銀座へ向かうというパターンを続けた。睡眠時間は銀座・渋谷間の移動時間30分、往路と復路の2回のみだ。31：人生2回目のパニック状態マッキンゼーの1年目。朝9時からクライアントの社長へのプレゼンだというのに、9時半に秘書の電話で飛び起きたことがある。資料は朝4時までかかってひとりで製本したため、全部私が持っていた。一刻も早く資料だけでも届けるべきところ、パニックした私はあろうことか母に電話し、「第四銀行、第四銀行、新潟に帰って第四銀行に転職するってお父さんに言ってください」と意味不明なことを繰り返し、あっ、と我に返ってマンションを飛び出した。33：旦那のアドバイス�…�めるな。その予算規模なら天才が3人いたら1ヵ月でできる。��関係者、特にこれから出資しようとしている人たちに、ありのままの事実を速やかに伝えること。決して過小に伝えるな。��「システム詐欺」という言葉をやめろ。社長が最大の責任者、加害者だ。なのにあたかも被害者のような言い方をしていたら誰もついてこないぞ。37：大失態の発覚から48時間後、全員が同じ方向に向く私は男子が使った寝袋にはどうしても入る気になれず、誰かの家族のアメリカ土産というNASA謹製の銀紙にくるまって寝た。保温性が高いという。茂岩はアパートを引き払い、住民票を会社に移した。IBMのエリートが「ホームレス」になった。41：オラクルから来た安藤「この会社はエンジニアが弱い」「僕が尊敬するエンジニアを連れてきます」とオラクルから5人連れてきた。全員入社を決め、IBMから来た茂岩とともにわが社のシステム内製体制の礎を築いてくれた。そのなかのひとりに、現社長の守安功もいる。
2018年11月11日
田中角栄
田中角栄が権力の絶頂にいた時、自民党内で反田中の急先鋒だったのが石原慎太郎。その石原慎太郎が一人称で田中角栄を書いた小説。2年前に出て話題になったが、今年でた文庫本で。これまでも田中角栄に関する書籍は何冊か読んでいるので、驚くような事実はないのだが、一人称で語られるので、臨場感がある。
物語の、あるいは歴史的な焦点は、政治家としての田中角栄を葬ることになるロッキード事件。今になって改めて考えれば、あの裁判にはおかしな点が多々ある。田中角栄はロッキード社のトライスター導入に関して賄賂をもらって「口利き」をしたということで逮捕された。小説では、金をもらったのは事実だろうという前提で進むが、それはロッキード社側の証言でも数億円と当時の感覚では大物政治家への挨拶程度。おそらく、秘書が右から左へ処理しただけで、田中角栄自身、その事実すら知らなかったと思われる。
ロッキード社についてはそんなことより、対潜哨戒機P3Cの自衛隊への導入をめぐり、けた違いのお金が動き、それに関与していた政治家はもっとたくさんいたといわれる。ところが、そちらは事件にすらならず、一民間航空会社である全日空への旅客機の導入だけが事件になった。そして、田中は裁判でも負けてしまった。
それは、アメリカの頭ごなしに中国との国交回復を果たし、またアメリカに対して臆することのなかった田中がアメリカの怒りを買ったからだといわれるが、果たして真実は
33：最初の選挙は柏崎市から4人の乱立となり落選キャッチフレーズ「若き血の叫び」・裏日本と呼ばれている日本海に面した雪国を表の日本にするために、三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばす・その土を日本海に運んで佐渡島と陸続きにする112：日中国交正常化アメリカは手前たちのことを差し置いて俺がなし終えてしまったことに、中国との関りにさしたる展望もないくせに妙な懸念を抱いていたようだった。それは、まだ冷戦の延長の上にある彼ら白人たちにとって、ソヴィエトの苛立ちへの配慮以上に、やはり未開の大国としての中国と経済成長の目覚ましい日本との新しい関りの未知性への懸念だったのかもしれない。しかしなお、この日本が隣の国との関りを是正するのに、何故彼らのお墨付きがなければならぬのかということだ。150：金権政治要は誰がいかに発想して土地と水と人間たちを救うかということだ。そうした新しい発想の実現でつくり出した金を、俺は俺自身のために用立てたことなどありはしない。それはすぐれた経営者や政治家にとっても同じことだろうが。他人の出来ぬ着眼と発想で新しく何を開発するかということだ。俺が手掛けてきた俺の発想に依る40に近い新しい議員立法にせよ、新規の外交方針にせよ、同じ原理ではないか。
2018年11月10日
股旅物で日本人の心を打ち、後の作家に多大な影響を与えた時代小説の巨星、50年ぶり幻の新作
著者の長谷川伸は、戦前「股旅物」の流行作家で、『瞼の母』や『一本刀土俵入』などの代表作を残した。これらは繰り返し上演・映画化されている。長谷川伸門下から戦後、村上元三・戸川幸夫・新田次郎・池上正太郎・平岩弓枝ら全部で12名の直木賞作家が誕生したという。
1963年に亡くなっているが、この本は55年ぶりに出された「新作」。旧宅の書斎兼寝室に古びた革製のトランクがあり、そこから昭和の初めごろから書き溜めた日本の敵討ちに関する調査研究の草稿が発見されたのだ。その量は、「四百字詰め原稿用紙2300枚、古事記・日本書紀の神武天皇から明治にいたる370件もの敵討ちを取り上げ、膨大な資料をもとに書かれたものだった。おそらく完成には大正末年から終戦頃まで20年近い歳月を要した労作であり大作である」（解説）という。
その未発表草稿370余編の中から、やはり弟子だった伊東昌輝が代表的な敵討ち27編を厳選したのが本書。日本で最も有名な敵討ちといえば、「赤穂浪人の吉良上野介討ち」だろうが、江戸時代、そしてその後も多大な人気を博したこの事件が、明治政府に目の敵にされたというのは興味深い。
文明開化論を背景に、内蔵助等の行動は封建時代の野蛮であるというのだ。そして、「野蛮の者どもを尊敬する如きは、嗤いを世界に買い、国辱を招く」というのだから、笑止千万。外国人に対する過剰な「忖度」で、むしろ、文明開化で打ち捨てられた浮世絵や仏教美術を好んで蒐集したのは西洋人だった。
大石内蔵助等赤穂浪人の吉良上野介討ち172：徳川時代には献残商人があって、献上の物品の払い下げを受けて市販した。払い下げは幕府のみでなく、上は老中から下は町奉行の与力まで、間接、直接に贈り物を献残商人に売った。これは贈り物が謝礼にしろ音物にしろ、賄賂にしろ、いかばかり行われて盛んだったかを語るものだった。191：内蔵助等に集まった同上と好意は、諸侯と旗下といわず市井の者といわず、夥しいものだった。幕府の学者のうち、林大学頭信篤は赦免論者、荻生徂徠は士礼を以って切腹せしむべしという論者だった。195：泉岳寺の赤穂浪人関係について、その遺跡遺物などに徹底した抹殺をやろうとしたことが明治初期にあった。（中略）そのころ行われた文明開化論から生まれたもので、内蔵助等の行動は封建時代の野蛮であるのに拘わらず、これを義士という如きは論外のことである、欧米各国人の来遊多かるべき時に、野蛮の者どもを尊敬する如きは、嗤いを世界に買い、国辱を招くものというのであった。
2018年11月09日
奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか
戦後同じように欧米諸国の植民地支配から独立したアジア・アフリカ諸国。その後アジアの国々がおしなべて経済発展を遂げたのに対し、アフリカでは凄惨な内戦が続き、経済発展が遅れた国が多い。皮肉なことに、白人支配が最後まで続いた南アフリカが政治的に最も安定し、アフリカ大陸では最も生活水準が高い。
どうしてそうなったのか？アジアとアフリカの文化的な違いなのか？アフリカはアジアに比べて、人種的に能力が劣るのか？
「自然実験」の研究結果によれば、「奴隷貿易が行われなかった場合、今日のアフリカは世界のほかの途上国と何ら違いが認められない」。つまり、もし、アフリカに奴隷貿易がなかったら、アフリカは他の途上国と同等程度に発展していたと考えられる。
どうやってそう推論したかだが、アフリカ諸国にも、奴隷貿易が盛んだった地域とそうでなかった地域がある。それらの地域の経済発展度合いを比較したところ、奴隷が多く取られた地域ほど経済発展が遅れているという相関関係が認められた。
奴隷が多く取られた地域では共同体が崩壊し、一度崩壊した共同体はなかなか元には戻らない。結果として政情は安定せず、従って経済発展も遅れたということになる。
147：15世紀に始まり、アフリカ西部、中西部、東部から連れ去られた奴隷が新世界のヨーロッパ植民地に送り出された。大西洋経由の奴隷貿易は期間が最も短かったが、4つの中で最も規模が大きく、最も社会に影響をおよぼした。15世紀から18世紀のあいだに、実に1200万人以上の奴隷がアフリカ大陸から連れ去られた。ほかの３つのルートの奴隷貿易では、同じ期間に全部でおよそ600万人の奴隷が送り出された。4つのルートの合計の人数は、400年間で1800万人ということになる。161：奴隷の出身民族奴隷の出身民族を記録する際には、細心の注意が払われている。奴隷は法的に財産として定義されるもので、奴隷売買の関係者の間では、奴隷の生まれた場所や「国」を正確に確認しようとするインセンティブが強く働いたはずだ。そして奴隷の出身民族は、所有者にとっても重要だった。奴隷のスキルは民族ごとに異なり、それは体力や自殺率や反乱の頻度に具体的に反映されていたからだ。178：共同体内での裏切り共同体同士の対立が激化して、周囲の環境が不安定になったことはひとつの原因として考えられる。不安定になると、自衛の手段としてヨーロッパ人から個人的に武器を調達するケースが増えた。そのためヨーロッパ人との取引に必要な奴隷の人材を、身近から暴力的に拉致する機会が多くなったのである。一方、ヨーロッパ人や奴隷商人も、内部抗争を焚きつけるために一役買った。奴隷商人や襲撃者は村や国の中でも強力な集団と戦略的な同盟を結成し、奴隷を連れ去った。同盟を組む相手は大体が共同体の若手メンバーで、彼らは年長の男性に牛耳られた組織で不満を募らせていた。165：過去の奴隷貿易と今日の所得のあいだの関係はあるのか各国の現在の一人当たりの所得水準と過去の奴隷貿易の関係が示されているグラフを確認。その際には先ず、国の規模の違いを考慮。そこで比較可能にするため、連れ去られた奴隷の人数は、土地面積で測定される国土の大きさによって割る。182：奴隷貿易が行われなかった場合、今日のアフリカは世界のほかの途上国と何ら違いが認められない計算によれば、奴隷貿易が行われなかった場合のアフリカ諸国の一人当たり所得の平均は、$2679-5158のあいだ。これらの数字からは、奴隷貿易が行われていなければ、アフリカとそれ以外の途上国のあいだの所得のギャップの28%から100%は存在しなかったことがわかる。同様に、世界のほかの国とのギャップの12%から47%は存在していなかった。
2018年11月08日
ひとつの島はなぜ豊かな国と貧しい国にわかれたか
カリブ海に浮かぶ小さな島のイスパニョーラ島・・・といっても私にもピンとこなかったが、この島の西側を占めるハイチは「貧しい国」として時折ニュースに出る。その同じ島の東側が比較的豊かなドミニカ共和国であることは知らなかった。
西側（ハイチ）が東側（ドミニカ共和国）と比べ、生活環境が徐々に悪化して絶望的な状況に陥ったのはなぜか。驚いたことに、かつては西側のほうが、はるかに豊かで強大だったのだ。これは、「境界に関する自然実験」で、「ひとつの景観の中に境界が任意に引かれたり取りのぞかれたりすると、どんな結果がもたらされるのかを研究したうえで、人間によって作られた制度が歴史にどんな影響を及ぼすのか確認」することである。
簡単にまとめれば、島の西側に位置する現ハイチの地域の方が土壌や気候がプランテーションに向いており、フランスの重要な植民地として栄えていた。逆に、現ドミニカ共和国側は山がちで降水量が少ないため人口密度が低かった。
18世紀末に独立の機運が高まったが、フランスにとって重要な植民地であったため、数十年にわたる残忍な独立戦争となった。「独立後のハイチでは、島に残っていた白人が殺害され、プランテーションは分断され破壊された」というのは、それまで豊かだったアフリカのローデシアが黒人政権になって白人が追い出されたとたん経済が崩壊して難民となったことを彷彿させる。相互不信の中で、「ハイチ国民はヨーロッパからの移民や投資を何よりも敬遠し、その一方でヨーロッパやアメリカの国々は、奴隷の反乱が成功する事態を何よりも敬遠した」。
そしてもう一つの障害が言語で、ヨーロッパ人やアメリカ人はハイチクレオール語を理解しなかった。アフリカから連れてこられた元の部族語とフランス語が混ざった、奴隷の間で独自に発達したハイチクレオール語である。
一方、貧しい地域であったドミニカ共和国では、スペインからの独立があっさり認められた。ヨーロッパやアメリカからの投資に対する警戒感のなかったドミニカ共和国は、移民や投資を受け入れ、やがてハイチを抜く繁栄を手に入れたのである。
130：ハイチとドミニカハイチ〜世界の極貧国のひとつ森林の99%が切り払われ、土壌浸食が深刻化。水、電気、下水処理、教育など最も基本的なサービスさえ、政府はほとんどの国民に提供することができない。これとは対照的に、ドミニカ共和国は未だに途上国だが、一人当たりの平均収入はハイチの6倍に達し、森林の28%が保存され、自然保護に関する包括的なシステムが新世界の中で最も充実している。アボガドの輸出量は世界第3位で、ペドロ・マルティネスやサミー・ソーサなど、野球の名選手を輩出している。そして民主主義が機能しており、最近の選挙では現職大統領が敗れ、平和裏に引退している。植民地時代には、サンドミニクというフランス語名で知られていたイスパニョーラ島の西側は、アメリカ全域、いや世界の中でも群を抜いて豊かな場所で、フランスの海外投資の2/3がつぎ込まれた。（中略）1822年から1844年にかけて、ハイチはドミニカ共和国を征服・併合している。ところが20世紀の最初の数十年で、ドミニカの経済はハイチを抜いた。突然発生した富の逆転現象をどのように説明すればよいのか。135：人口密度が高く、国民の多くがクレオール語を話し、奴隷の多い社会が発達した西部と、人口密度が低く、国民のほとんどがスペイン語を話し、奴隷の少ない社会が発達した東部の間の文化的違いは、ハイチとドミニカ共和国が独立を勝ち取る以前の1700年代末から、すでに顕著だった。そしてこれらの違いは、独立が達成されるまでのスピードや、暴力的な要素の関りだけでなく、独立後の展開によっても大きく広がっていった。ハイチでは奴隷とフランス軍とのあいだで1791年から残忍な戦いが繰り広げられた。1801年には、フランスによる支配を回復するためにナポレオンの命を受けた軍隊が島に戻り、フランスは交渉の場で奴隷側の指導者トゥーサン・ルーヴェルチュールを裏切って逮捕したが、1803年からフランス系住民はハイチを脱出し始めた。（中略）独立後のハイチでは、島に残っていた白人が殺害され、プランテーションは分断され破壊された。このような状況で、ハイチ国民はヨーロッパからの移民や投資を何よりも敬遠し、その一方でヨーロッパやアメリカの国々は、奴隷の反乱が成功する事態を何よりも敬遠した。（中略）そしてハイチと欧米の関係にはさらなる障害があった。それは言語の障害で、ヨーロッパ人やアメリカ人はハイチクレオール語を理解しなかった。
2018年11月07日
銀行制度はいかにして成立したか
今でこそ銀行と言うと古めかしいイメージだが、人類史において、銀行の登場は大きなイノベーションの一つだった。今でいう、フィンテックだったといっていい。貨幣と銀行と株式会社が資本主義の三大発明じゃないだろうか
銀行の機能は、�ゞ睛暫膕陝↓⊃�用創造、�７荳僉�これを果たす銀行が普及することで、経済は発展していった。江戸から明治になり、欧米視察から帰った渋沢栄一が銀行を創ろうとするのも道理なのである。
銀行があるのとないのとでどれだけ経済発展に影響が出るのか。それを「社会実験」で分析したのがStephen Haber。ほぼ同時期にそれぞれの宗主国から独立したアメリカ・ブラジル・メキシコからのエビデンスを比較している。「三つの国はいずれも、宗主国が銀行の設立を認めなかったため、独立国家となったとき銀行制度が存在していなかった。」
結論から言えば、独立した18世紀から19世紀の各国の政治状況が銀行制度の発展に決定的な影響をもたらし、それが今日まで続く経済格差につながっている。連邦政府の力を制限しようと銀行を州毎の許認可にしたアメリカでは、民主的な政治制度の下、銀行制度が急速に拡大した。「政治の世界で競争原理がうまく働かないと、銀行業界の競争が制約される」のである。
99：大きな銀行制度のもとで国民の幅広い層に信用が供給され、それが急成長を促している国もあるが、銀行がほとんど存在せず、成長が抑制されて社会的流動性が限られている国もある。2005年民間銀行が企業や世帯に融資を行った割合（対GDP）日本 98%スペイン 131%イギリス 155%シエラレオネ 4%カンボジア 8%メキシコ 15%100：新世界の3つの国、すなわちアメリカ・ブラジル・メキシコで19世紀に銀行制度が発達していく過程で進行した自然実験。各国が独立を勝ち取ってから第一次世界大戦が勃発するまでの期間が対象。三つの国はいずれも、宗主国が銀行の設立を認めなかったため、独立国家となったとき銀行制度が存在していなかった。102：アメリカの銀行制度アメリカの銀行制度はとにかく巨大で、支店の開設を禁じられた何万もの小さな銀行から構成されていた。一方、研究対象の時期の大半のアメリカの銀行制度は、政府の財務代理店ともいえる準中央銀行に支配されいなかった。107：アメリカの銀行制度の急成長1820年には全米で327行の銀行が営業し、資本金の総額は$308Mに達した。僅か15年前のばいちかくにまで増加している。この時点では、大都市には10以上の銀行が開設され、小さな町にも、2，3行は存在していた。1825年、アメリカの銀行の資本総額はイギリスのほぼ2.4倍の規模に達した。イギリスは19世紀、世界の金勇のリーダーとみなされ、アメリカの人口はイギリスよりも少なかったが、これだけの成果が達成された。銀行が密集すると、銀行間の競争が激しくなり、融資の対象となる階級はどんどん拡大された。その結果、中部大西洋沿岸地域の州を中心に各地の銀行は、商人や職人や農民など、様々な身分の人たちに資金を貸し出すようになったのである。118：メキシコの銀行制度政治の世界で競争原理がうまく働かないと、銀行業界の競争が制約される事例として、メキシコはさらに際立っている。メキシコでは政府に課される制度上の制約がきわめて弱く、州政府や連邦政府を動かす政治エリートと連携しないかぎり、銀行が設立許可を受けて資本を投じることはできなかった。ただし19世紀の大半、メキシコの政情はきわめて不安定だったため、そのような連携を組むことさえ不可能で、政府の公認を受けた銀行はひとつも存在しなかった。123：メキシコの銀行制度の集約1911年には、全国にわずか34の法人銀行が存在するだけで、全資産の半分をPanamexとBanco Londores y Mexico（BLM)の二行が保有していた。圧倒的多数の市場において、利用可能な銀行は三つに限定された。パナメックスの支店、BLMの支店、州政府から営業許可を受けた銀行の支店の三つである。（中略）パナメックスもBLMも、流動資産を過剰なまで手元に残して収益率を釣り上げるなど、効率の悪い独占主義者のようにふるまったのだ。
2018年11月06日
自然実験が解き明かす人類史
社会科学の分野において操作的実験はほぼ不可能だ。
「まず、過去に関わる科学においては例外なく不可能である。進化生物学、古生物学、疫学、地史学、天文学のいずれも、過去を操ることはできない。つぎに、鳥の群、恐竜、天然痘、氷河、ほかの惑星などを対象とする研究で採用される方法は、今日では道徳心の欠如や違法性を非難される機会が多い。」
ところが、歴史の偶然で、国や地域によって何が結果に影響を与えたかを観察することはできる。統計処理が発達し、様々な要因を分析して因果関係を明らかにすることができるようになった。これが「自然実験」である。
歴史学、考古学、経済学、経済史、地理学、政治学など各界の専門家たちが、それぞれのテーマで比較史、自然実験で分析した論文集。300pほどの本だが、活字も小さいので相当な分量。4回に分けて紹介したい。
「まず、過去に関わる科学においては例外なく不可能である。進化生物学、古生物学、疫学、地史学、天文学のいずれも、過去を操ることはできない。つぎに、鳥の群、恐竜、天然痘、氷河、ほかの惑星などを対象とする研究で採用される方法は、今日では道徳心の欠如や違法性を非難される機会が多い。」
ところが、歴史の偶然で、国や地域によって何が結果に影響を与えたかを観察することはできる。統計処理が発達し、様々な要因を分析して因果関係を明らかにすることができるようになった。これが「自然実験」である。
歴史学、考古学、経済学、経済史、地理学、政治学など各界の専門家たちが、それぞれのテーマで比較史、自然実験で分析した論文集。300pほどの本だが、活字も小さいので相当な分量。4回に分けて紹介したい。
2018年11月05日
VUCA世界における日本の選択
文化の日の土曜日、「就実グローカルフォーラム2018」に出席。このフォーラムは経営学部ができたのを記念して始められ、今年で5回目になる。杉山学部長が資生堂時代にロンドンに駐在していた縁で、The Economist元編集長で国際ジャーナリストのBill Emmott氏が客員教授としてこの時だけ岡山にやってくる。
エモット氏は『日はまた沈む』(1990）で日本のバブル経済崩壊を予想したことで有名だが、今回誘って一緒に行った香川大学経済学部の元学生は「知らない」という。出版からもう28年経つわけだから考えてみれば当然か。その後出版された、『日はまた昇る』（2006）や『日本の選択』（ピーター・タスカとの共著2007）も話題になった。
さて、今回のテーマは「VUCA世界における日本の選択」。VUCAとは、
Volatility（変動性）
Uncertainity（不確実性）
Complexity（複雑性）
Ambiguity（曖昧性）
のことを言う。
最初に基調講演したエモット氏は、「世界はいつもそうだった。VUCAに対応するのがビジネス」と正論。それはその通りで、VUCAがあるからこそ、収益のチャンスがあるともいえる。全てが予測可能なら、全員が利益の出るところに集まり、結果的に誰も利益が出せなくなる。
それはそうとして、3番目に講演した出井伸之氏（元ソニー社長＆グループCEO）が指摘した通り、変化の速度が加速しているのは事実。だから、そのスピードについて行けなくなった企業が衰退しており、ここ数十年で産業構造を替えられた米国は（政治に関わらず）デジタル革命で世界をリードしており、それが出来ずに相変わらず車しか売るものがない日本は25年間所得が増えなかった。
もう一人の講演者グレン・フクシマ氏（元米国通商代表部）は主にトランプ政権の話をしていて、「彼の話は30年間変わっておらず、80年代の日米貿易戦争のまま」ということ。問題は明日11月6日に行われる米中間選挙で、フクシマ氏は「押さえておくべき4シナリオ」を挙げている。これはトランプ大統領になってから初の全国国民選挙だ。
�‐絏識，廼ο妥泙�過半数を維持する
��下院は民主党過半となるが、上院は共和党過半数のまま
��上院で民主党が過半数となり、下院は共和党過半数となる
�ぞ絏識，婆閏臈泙�過半を占める
現状は民主党がやや優位であるものの、改選となる議席数の違いから、�△硫椎柔�が一番高く、��の可能性が一番低い。こうなった場合も、大統領弾劾には上院の2/3の決議が必要なことから、よほどのスキャンダルが起こらないかぎり、トランプ大統領は任期を全うしそうだ。しかし、トランプ政権は議会対応で手いっぱいになり、外交政策まで手が回らなくなる。それが、世界や日本にどう影響するか。
民主党が下院の過半数を取った場合、何が起こるか。大統領の税金問題やロシア疑惑、利益相反疑惑、司法妨害疑惑など2年前の大統領選以来、民主党が申し立ててきたが無視されてきた問題に対して召喚権限を使い、大統領の調査を開始できるようになる。これら多くの問題はロバート・ミュラー特別検察官が調査中の件に関係しており、同氏による最終報告書は中間選挙後に発表される見通しである。
2018年11月04日
岡山城
就実大学でのシンポジウム出席のため、文化の日の昨日、岡山へ。高瀬から瀬戸大橋線経由で岡山へ行く便は限られる。特急はほとんど止まらないので、乗り換えていくか、ほとんどない岡山行きの普通列車で行くか。行きは朝一本しかない岡山行き普通列車で行くことにする。
それでシンポジウムまで2時間ほど時間ができた。そこで訪問したのが以前から気になっていた岡山城。岡山へは何度も行っているのだけど、近いだけに直ぐ帰れるので、用事を済ませてすぐ帰るばかりで、一度も訪問したことがなかったのだ。
旭川に映る漆黒の天守閣はなかなか端正なつくり。城内での説明によれば、安土城にならって作られた日本を代表する城郭建築であるということ。黒壁は戦国時代の名残だそうで、同時期に作られた松本城も黒い。城作りのアドバイスをした秀吉が作った大坂城も元々は黒かったそうだ。
「今の岡山城を築いたのは、宇喜多直家の実子、秀家で、時の天下人、豊臣秀吉の養子となって「秀」の一字をもらった人物である。秀吉が天下を握ると、秀家は父の遺領である備前・美作のほかに備中の一部ももらい、574,000石の大大名となった」
城作りを開始したのが天将8年(1590）で、天守閣が完成したのが慶長2年（1597）。秀吉の死後は若くして、徳川家康や前田利家らと「五大老」の一人になる（正室は秀吉の養女で、利家の娘「豪姫」）。ところが、関ケ原の合戦(1600)で西軍に着いた秀家は敗戦、追われる身となる。一時は、薩摩に身を隠していたが、捉えられ八丈島に流罪(1606）。
驚いたのは、その後50年間生き延びて、83歳で没していること（1655）。よほど八丈島での生活が合っていたのか。逆に、関ケ原の戦いで東軍に寝返って、西軍敗北のきっかけを作ったといわれている小早川秀秋はその論功で岡山城主に収まったものの、たった2年で死去。運命は分からない。
2018年11月03日
教科書通りに人を鍛える
星野リゾートの幹部社員には異業種からの転職組が多い。「前職はメーカー、総合商社、百貨店、コンサルティング会社など多岐にわたる。それまで観光業とは無縁だった人がずらりと並ぶ。」
しかし、教科書通りにロジカルな経営をしているので、そうした企業から転職する人はすぐに溶け込めるのだという。また、そうしたロジカルに考えられる人しか採らないということなのだろう。
218：旅館で働いたことがない社員を「星のや京都」の総支配人に抜擢「メーカー（ニベア花王）で働いていたころは『教科書なんて、古くさくて役に立たない』と思っていた。ところが星野リゾートは教科書的な発想を重視していた」220：全国の施設で働く広報・マーケティング担当者が毎年参加する研修会過去1年間に達成できたことと達成できなかったことを仕分けし、その理由を教科書的なロジックを使いながら徹底的に検証。議論を深めるために2泊3日とたっぷりと時間を取り、アドバイザーとしてマーケティングを専門とする大学教授も招く。222：幹部社員の前職は多岐植田耕司総支配人（ミスミ→ユニクロ→星野リゾート）「私が在籍した3社は、いずれも非常にロジカルな経営をしている。社員が熱心に議論しながら試行錯誤をして、仕組みを磨いている点は共通している」
2018年11月02日
教科書通りのリーダーシップ
社内の自由な議論と積極的な提案を重視する星野社長だが、経営ビジョンの策定では社員の声を集めようとはしなかった。「会社の向かう方向を決めるのは経営陣の専管事項」と考えたからだ。
そして、星野リートは「リゾート運営の達人KPI」という経営ビジョンを掲げた。あとは、「社員の耳にタコができるくらいビジョンを言い聞かせている」という。
ユニークなのは、そのために作ったオリジナルグッズ。「星野リゾート目覚まし時計」は、アラーム音の代わりに「起きてください」という言葉と、「顧客満足度」「経常利益率」「エコロジカルポイント」の数値目標が音声メッセージとして流れるという。そして、アラームを完全に止めないと、今度は星野社長の声で、「リゾート運営の達人を目指して、今日も一日頑張りましょう」というメッセージが流れるそうだ。
「周囲から異常と思われて、はじめて徹底しているといえる」（小山昇）
ユニークなのは、そのために作ったオリジナルグッズ。「星野リゾート目覚まし時計」は、アラーム音の代わりに「起きてください」という言葉と、「顧客満足度」「経常利益率」「エコロジカルポイント」の数値目標が音声メッセージとして流れるという。そして、アラームを完全に止めないと、今度は星野社長の声で、「リゾート運営の達人を目指して、今日も一日頑張りましょう」というメッセージが流れるそうだ。
「周囲から異常と思われて、はじめて徹底しているといえる」（小山昇）
2018年11月01日
教科書通りのマーケティング
サービス戦略の古典。私も留学時にマーケティングの必読書にあげられていて英語版で読んだ覚えがある。星野社長も、読み始めてすぐに「サービス業がどうあるべきかについて、強い説得力を持って書かれている」と気づき、衝撃を受けたという。
これはスカンジナビア航空の当時の社長によって書かれた本で、「真実の瞬間」とはスタッフが顧客と接する瞬間のことを言う。航空サービスでは受付や機内サービスなど、一回当たりの平均時間はわずか15秒。だが、その数は膨大で、その対応力によって、企業に対する顧客の評価は決まっていく。
92：アルツ磐梯の再生スタッフが自分で考えず、指示を待っているために、動きが非常に鈍い。スタッフが上司の方ばかり向いていて、お客様のことを考えてない。93：再生プランレストラン、客室などサービスメニューごとに顧客満足度調査を詳細に行う。その結果を見ながら満足度の低いサービスを一歩ずつ改善して、顧客満足度を上げていく。お客様が満足する施設に変身させることでリピーターを増やす。同時にムダを解消することで収益の改善を進め、黒字化を達成する。107：『真実の瞬間』「真実の瞬間」の対応力を上げるには、スタッフが自分で考えて動く体制が不可欠。判断の根拠となる情報を持つべき→さまざまな経営情報をスタッフに対して積極的に公開。135：ブランド価値（アーカー）・認知＝知られているかどうか＊知覚品質＝お客様がどの様に感じるか・連想＝ブランドについて思い浮かべること・ロイヤルティ＝リピーターとなってくれるかどうか・他のブランド資産＝トレードマークなど
