2018年10月
2018年10月31日
禍福はあざなえる縄のごとし
剛腕で名高い久保利弁護士。総会屋を投げ飛ばした伝説もある。その久保利弁護士が書いた「交渉術」というから、戦闘的な内容かと思ったらそうではない。
「交渉は引き分けぐらいがちょうどいい」という。「勝ちすぎれば必ず相手に仕返しされるし、自分自身で振り返っても、『ここまでは勝たなくてもよかった』『ある程度の勝ちにとどめておけば、相手とも今後もつきあっていけたのに』と、後悔が残ることもある」のだそうだ。
「交渉は引き分けぐらいがちょうどいい」という。「勝ちすぎれば必ず相手に仕返しされるし、自分自身で振り返っても、『ここまでは勝たなくてもよかった』『ある程度の勝ちにとどめておけば、相手とも今後もつきあっていけたのに』と、後悔が残ることもある」のだそうだ。
はじめに：禍福はあざなえる縄のごとし事件が終わり、交渉がまとまって、10年以上もたってみたら、勝ちを手にした事件の依頼者が、大金を得たことに有頂天になって、つまらぬ保証をして、すってんてんになってしまったり、偽造文章をつくってまで勝利を盗んだ相手方が、同種事案で逮捕されたりした。不利な和解をせざるを得なかった理由となった、自社の契約管理体制の不備に目覚めた依頼会社が、他社に先駆けて法務体制を整備して急発展を成し遂げるなど、交渉の勝敗などは一時のことで、長い目で見れば「禍福はあざなえる縄のごとし」を証明することばかりである。62：江戸城無血開城世の中では、この交渉は勝が勝ち、西郷が負けたと言われている。しかし、私はこの交渉の真の勝利者は勝でも西郷でもなく、新生・日本国が誕生し、日本国民が勝利者になったと言いたい。その意味で、無血開城という結論を共有した二人ともに、勝利を得たと言えるかもしれない。111：交渉中の「感情」は一切タブー怒って何かが解決するということはない。また交渉に入る前に、怒りで自分の大事なエネルギーを使い切ってしまうことにもなる。134：終わりの時間を気にしたほうが負けやすい相手のところへ行く場合は、あとの時間は空けておく。飛行機などで行く場合も、帰りの切符はとらないか、思い切り遅い時間を押さえておきたい。
2018年10月30日
教科書通りの戦略
『星野リゾートの教科書』第�局堯峩飢塀馗未蠅寮鑪�」で取り上げられているのが、『コトラーのマーケティング・マネジメント基本編』。星野社長はリゾート再建にあたり、「コトラーの競争地位別戦略論」を取り入れたという。
2004年に運営を引き継いだトマムは、調査した結果、北海道のリゾートの中で埋没していることが判明した。売上高、集客数などで、トマムはトップでも2番手でもなく、星野社長は「これ以上フォロワー戦略を続けるのは無理だ」と判断した。だからといって、破綻したトマムが突然、リーダーやチャレンジャーになることもできない。そこで小規模な市場でトップに立つニッチャーとして、トマムの戦略を練り直すことに決めた。
2004年に運営を引き継いだトマムは、調査した結果、北海道のリゾートの中で埋没していることが判明した。売上高、集客数などで、トマムはトップでも2番手でもなく、星野社長は「これ以上フォロワー戦略を続けるのは無理だ」と判断した。だからといって、破綻したトマムが突然、リーダーやチャレンジャーになることもできない。そこで小規模な市場でトップに立つニッチャーとして、トマムの戦略を練り直すことに決めた。
ニッチ市場のターゲットとしたのはファミリーであった。日本ではスキー経験者は85%と欧米と比べて非常に高い。しかし、経験者のうち「現在スキーを楽しんでいる人」は25%で、残りの60%は「かつてスキーを楽しんだが今はスキーをしない人」である。この層の中心は80年代後半のスキーブームに学生時代を過ごした人である。その多くが、結婚し、子供が生まれ、仕事が忙しくなって、スキー場に足を運ばなくなっていた。
スタッフはファミリー客の満足度を高める戦略に合致したサービスを積み重ね、競合するリゾートとの差別化を図った。ターゲットを明確にしたサービスの充実で、トマムの集客力は向上した。
同じスキーリゾートでも、アルツ磐梯では別の戦略を取っている。アルツ磐梯は地域集客力トップで、採用すべき戦略はリーダー戦略だ。この戦略に基づいて、アルツ磐梯は割引券の乱発による価格競争を止め、同時に、周囲のニッチャーのスキー場が打ち出しているサービスをすべて取り入れて、同質化対応をした。赤字が続いていたアルツ磐梯は黒字化した。
スタッフはファミリー客の満足度を高める戦略に合致したサービスを積み重ね、競合するリゾートとの差別化を図った。ターゲットを明確にしたサービスの充実で、トマムの集客力は向上した。
同じスキーリゾートでも、アルツ磐梯では別の戦略を取っている。アルツ磐梯は地域集客力トップで、採用すべき戦略はリーダー戦略だ。この戦略に基づいて、アルツ磐梯は割引券の乱発による価格競争を止め、同時に、周囲のニッチャーのスキー場が打ち出しているサービスをすべて取り入れて、同質化対応をした。赤字が続いていたアルツ磐梯は黒字化した。
48：コトラーの競争地位別戦略論�．蝓璽澄次〇埔譴妊肇奪廛轡Д△鮖�つ会社�▲船礇譽鵐献磧次〇埔譽轡Д�2番手でシェアを拡大するためにリーダーを攻撃��フォロワー 市場シェア2番手だが、市場に波風を立てずリーダーを追走�ぅ縫奪船磧次‖腓�な市場でフォロワーになるのでなく、小さな市場でトップに立つことを目指す53：リーダー戦略・需要の拡大・価格競争に陥らない・同質化（ニッチャーの打ち出してくる独自のサービスをすぐに取り入れる）54：ニッチャー戦略・市場と戦略の選び方・製品を顧客ごとにカスタマイズする「注文製品専門化」・最高品質にこだわる「品質・価格専門化」・１つのチャネルのみに集中する「チャネル専門化」
2018年10月29日
「教科書通り」の経営
「教科書通り」というと、応用力がなくて、実践で役立ちそうにないイメージだが、そうではない。どんな世界でも基礎があって応用がある。基礎のない応用には再現性がない。
経営に関しては、100年以上前にビジネススクールでの経営教育を確立させたアメリカにやはり一日の長がある。よくある、成功した経営者による体験談は、「その経営者が、その時代に、その業界で」やったから成功した要素が強く、読んで励まされる効果はあっても、再現性はほとんどない。それに対して、MBA教育で使われている教科書は、多数の事例を客観的に調査研究し、理論の裏付けがあるものだから、再現性が高い。
20年にわたってホテル旅館業界で快進撃を続ける星野社長は、ビジネススクール（コーネルMBA）で習った「教科書通り」の経営を続けているのだという。これなら、カリスマ経営者でなくても、教科書の理解力と、今どの理論を当てはめるべきかという判断力、そしてそれを徹底する実行力があれば経営できる。
16：小さな会社ほど「教科書通り」の意味が大きい1904 星野温泉旅館1991 4代目社長就任�ゞ飢塀颪瞭睛討鮗卞發某仔�させやすく、理論に沿った方向転換もしやすい��経営リスクを減らす意義が大きいStep1 本を探す書店に1冊しかないような古典的な本ほど役に立つ。時代の波を乗り越えて、体系化された理論として生き残り、定石として一般的に認知された古典的な理論。学問と実践を行き来した研究者の本。Step2 読む一行ずつ理解し、分からない部分を残さず、何度でも読む。「自分への宿題」を課して持ち歩き熟読する。Step3 実践する理論をつまみ食いしないで、100%教科書通りにやってみる。「教科書通り」なら苦しい時も耐えられる。
2018年10月28日
大磯迎賓館
ランチコースは2400円から(ピザランチ）。そこそこの値段でもあり、郊外なので甘く見ていたが、数日前に「念のため」と予約電話したら午後は満席で1130からしか入れないという。
国登録有形文化財「旧木下別邸」を利用したこのイタリアンレストランは明治期の貿易商によって別邸として建てられた。明治の元勲たちが明治後期に競うように大磯に別邸を建てたので、商売人の間でも大磯の価値が上がったものと思われる。
海岸段丘の上にあり、眺めはよいが、流石に明治の元勲たちの広大な敷地に立った平屋建ての邸宅に比べると、洋館3階建てはこじんまりとした印象。庭がほとんどない。実は、この木下別邸、日本で最初のツーバイフォー住宅なのだそうだ。
2018年10月27日
明治記念大磯邸園
カナダに移住した香港人のLBS同窓生が来日。前回会ったのは、ロンドンでの理事会だったので10年以上前。当時、彼はRAB (Regional Advisory Board) memberで、私はIAB（International Alumni Board) member。その後、彼は香港での仕事を辞めて絵描きになっていた
McKinseyでのコンサルタントを振り出しに、その後著名企業の経営者も務め、「金儲けはもういい」んだとか。経営者時代の彼はアジア地域のトップだったので、最大市場であった日本にも頻繁に来ていた。しかし、いつも、空港に迎えが来てホテル。ホテルから日本法人や顧客訪問。そして夜は会食と、東京から出たことがないという。それなら、というので、郊外に案内することにする。行くことにしたのは、「明治150年」で整備されることになり、特別公開中の「滄浪閣」へ行くことに。
伊藤博文はじめ明治の元勲たちの多くが別荘を構えた大磯。伊藤博文邸、大隈重信邸、陸奥宗光邸は国道1号線（旧東海道）沿いにお隣同士で並んでいる。「明治政界の奥座敷」と呼ばれたわけが、こうしてみると分かる。
これらの屋敷は歳月を経て人手に渡り、伊藤博文邸は戦後長らく大磯プリンスホテルの別館として使われていた。2007年にホテル営業が終了後は閉鎖されており、見学はできなかった。大隈重信邸と陸奥宗光邸については、戦前、古川財閥の古川家の所有となり、戦後の財閥解散後は、古川電工所有となった。
今回、これら3邸とそれぞれの庭園を「明治150年」関連施策として、一体的に保存・活用することになり、整備が進められている。本格的な整備工事に入る前に10月23日〜12月24日までの2か月間公開中。邸宅内はガイドツアーのみで、事前申し込みが必要。
2018年10月26日
企業経営失敗の法則
「成功はアート、失敗はサイエンス」
これは真理だろう。成功に定石はないが、失敗には定石がある。全てのゲームには「定石」があり、それを知らずしてゲームに勝つことはできない。失敗は再現性が高いのだ。
23社のケーススタディは、月刊誌『日経トップリーダー』の連載「破綻の真相」を基にしたもの。この連載は1992年にスタートしたもので、実に25年以上の歴史がある。中小企業の破綻がメディアに取り上げられることはまずないから、この連載は貴重だ。
23社の事例で過大投資や経営者が数字に弱いなどよくある理由以外に目に留まったのは、行政から「表彰された企業」。その時点で何か優れた点があったから、そこが評価されて表彰されているのだが、受賞企業がその後おかしくなる事例は昔から多い。
仮説だが、
・そもそも対象企業の技術など特定のポイントをある時点で評価して表彰されるので、バランスが大切な経営全体を評価対象としていない
・それなのに、行政から表彰されると、それを勘違いした金融機関や取引先からの信用力が上がる
・そして、これが最もいけない点だと思うのだが、受賞で周りがちやほやするので、経営者が舞い上がってしまう
ということが起こってしまいがちだ。
ベンチャー振興は良いことだが、規制緩和など経済全体に影響のある制度改革に集中すべきで、各省庁や地方自治体が競うように賞を設けて十分に実績を上げていない企業を表彰するのは差し控えるべきだろう。
企業はあくまでも顧客から評価されてナンボ。顧客から評価されて十分な実績を上げれば表彰してもらう必要もないので、結局、ベンチャー向けの各賞は意味がないことになる。
�￣麁�商事 格安ピザ店で80店超に急成長 借入頼みで資金繰りが限界に22：積極出店の武器となったのが、誰でもピザがうまく焼けるという窯や生地伸ばし機のセット。アルバイトでも1枚90秒で本格ピザを提供できるコック不要の店を追求した。この仕組みが評価され、遠藤商事は2015年、16年と相次いで、飲食業界を変える優れたベンチャー企業として表彰を受けた。��みらい 植物工場ブームの旗振り役 事業の急拡大で制御不能に41：植物工場の会社といえば、真っ先にその名が挙がるほど、みらいは業界をリードする会社だった。2015年6月29日、突然、東京地方裁判所に民事再生手続開始の申し立て。48：販路を確保しないまま、大型植物工場を立ち上げ49：原価割れで、粗利益すら確保できていなかった�Д┘襯圈宍燦�工場 積極投資が裏目に出て資金難に84：埼玉県からモデル企業の指定を受けた後だけに香川社長(仮名)は自信があったのか、強気の投資に踏み切った。㉓ユタカ電機製作所 創業間もないベンチャーに買われ、資産超過の老舗が謎の破綻264：経済産業省の『円高・エネルギー制約対策のための先端設備等投資促進事業費補助金』に採択されていた。
2018年10月25日
インプットした情報を「お金」に変える
成毛さんの本は読みやすい。決して中身が薄いわけでなく、長年の経営者としての経験と持ち前の好奇心に裏打ちされた知識・思考法はとても参考になる。
本書を読むと、どうして成毛さんの本は読みやすいのか？そして、どうして成毛さんの話は面白いのか（残念ながら講演を聞いたことはないが、これだけ考えて、工夫していれば面白くないわけはないだろう）が分かる。
私も、本blogを書き始めてから15年。書評を中心にほぼ毎日書くようになってから10年になる。書き始めた最大の目的は自分のための忘備録で、それまでのノートに手書きからオンラインに移行したのを機に、どうせデジタル情報なら公開してしまおうと考えたのがきっかけ。本を読むだけでの思考を1とすれば、気になった個所を書き出してそれに自分の感想も付け加えれば２になる。さらに対象は友人だけとはいえ、公開することを前提とすると、最低限の事実チェックや読みやすさも考えなければいけないので、作業量も思考量も4くらいになる。
成毛さんのおすすめは、さらに、どう「お金」に変えるのかを意識せよ、というもの。誰かにお金を払ってもらうには、それ相当の価値がなければいけない。「それを強烈に意識してより良質なアウトプットができれば、センスが磨かれ、アイデアが生まれ、人脈が広がり、評価が上がり、必ず成果がついてくる。そして、さらなる情報が自分のもとに集まってくる。」
はじめに：今の時代、情報収集、勉強をして、知識、教養をため込んで満足しているようでは、もうダメだ。得た情報をどう発信して、自分の血肉とするのか、価値あるものに変えていくのか、もっと分かりやすく言えば、「お金」に変えるのかを意識せよ。65：HONZでの書評の書き方 100字ｘ８�，修遼椶琉�象100文字で、この文章を読む人に、どう思って欲しいかを伝える。�△修遼椶瞭票圓料枋�100文字で、この本はどんな人におすすめか、読者について言及する。できるだけ具体的に。��その本の中身の紹介１100文字で、その本の面白さはどこにあるのか、その全体感を伝える。歴史の本なのか、科学の本なのか、書いたのはどんな人なのか、このブロックを読めばざっと把握できるようにする。�い修遼椶涼羶箸両匆陦��グ�用代表的かつ特徴的な文章を引用し、なるほどおういうことが書いてある本なのかと理解してもらう。ここは100文字にこだわらない。�Π�用２��著者の具体的な紹介�┐覆爾海遼椶鮗茲蠑紊欧燭里�だめ押し面白そうだな、読んでもいいかなと思っている読者に、読みたい、読む、と決断させる。75：接続詞は書き手も読み手も助ける読みやすい文章とは、サプライズのない文章であり、その先に曲がり角がある場合にはそれを予め教えてくれる文章のこと。サプライズだらけの文章を悪文という。86：話すことは書くことよりも難しい話すことは誰にでもできる。しかし、わかりやすく、面白く話せる人は驚くほど少ない。それでも、だからこそ、ただ話すだけなのと、準備をして話すのとでは伝わりやすさ、面白さがまったく異なる。149：英語より落語話術で最も学ぶべきは、言葉遣いや滑舌ではなく、まず、リズム感だ。田中角栄が幼い頃、吃音に悩んでいて、それを浪曲で習うことで克服したのは有名な話だ。後のイギリス王・ジョージ6世もヨーク公時代に吃音で、史実に基づいて作られた映画『英国王のスピーチ』では、歌うときには吃音が出ないことが指摘されていた。203：子どもに最も影響を与えるインプットは親の姿社会人になってぐっと伸びた新卒は、ほとんどが経営者の子ども。嫌々仕事をしているサラリーマンの子どもは伸びない。子供にはよくわからない会社という場所に出かけていって、そこはどうも面白くなさそうで、それでも金のために通っている親を持つ子は、伸びないのだ。仕事への真剣度が違うからだろう。
2018年10月24日
血で血を洗う読書という荒野を突き進め
昭和45年（1970）三島由紀夫の自衛隊市ヶ谷駐屯地での割腹自殺。当時7歳の私には記憶がない。後に当時の話を読んでも、なぜ、ノーベル文学賞候補にもなったほどの天才作家が自衛隊で割腹自殺しなければならなかったのか
「気が狂ったのだろう」くらいにしか考えていなかった。本書で初めて、この時の演説全文を読んだ。三島が命をかけて訴えたのは、憲法改正であった。左翼思想が輝きを持っていた時代、今以上に正式な国会手続きを経て改正するのは全く不可能であった。そこで、自衛隊にクーデターを起こすようにアジったのだ。
どうして三島はそこまでしなければならなかったのか？見城徹の見方が面白い。
「彼ほど繊細に日本語を駆使する作家はほかにいない。日本語は彼にとってのすべてである。それだけに三島は、言葉で綴られた日本国憲法の欺瞞が許せなかった」
なるほど、それはありうる。
201：三島由紀夫・自らの観念に殉じて死ぬ生き方死について書かれた文章を読めば、死について深い思索ができる。なかでも自殺した人が書いた作品ほど、死について正面から向き合っているものはない。直視できないほどの強烈なエネルギーを発しているのが、三島由紀夫である。212：『潮騒』にしても『金閣寺』にしても『豊饒の海』にしても、彼ほど繊細に日本語を駆使する作家はほかにいない。日本語は彼にとってのすべてである。それだけに三島は、言葉で綴られた日本国憲法の欺瞞が許せなかった。自衛隊ができてからの日本の戦後20年はまやかしだと三島由紀夫は言っているのだ。だから、積み重ねたすべての作品を犠牲にしても、彼は真価値があると考えた。217：「夢」や「希望」など豚に食われろ僕のところにはいろんな若者が会いに来るが、「社会や人の役に立つのが夢だ。だから起業したい」と言う人がいる。結果が一つも出ていないで語るそんな言葉は豚の餌にでもなればいい。悪戦苦闘して匍匐前進している人たちは決してそんな言葉を口にしない。何かを目指す者は「地獄」と「悪夢」を身をもって生きたらいい。
2018年10月23日
編集者という病い
本の編集者というのは、ここまで作家と濃密に寄り添うものなのか
「何事にも過剰」を自認する見城徹が「異常」なのだろうが、それで圧倒的な成果を上げているとしたら、編集者という職業にとって、それはKFS（成功要因）ということになる。とにかく、作家との付き合い方が半端でない。村上龍とは、会社の金で年に何回も「川奈ホテルに泊まりこみ、日中はひたすらテニスをし、夜は白ワインを次々に空けていった」。会社には、「原稿を書かせるため」と言っていたらしいが、実は、村上龍は二人でのテニス三昧を楽しみに、自宅で原稿を仕上げてしまっている。「絶対に本を書かせる、会社に稼がせる」という鉄の覚悟があったから、こうしたお金の使い方ができたという。
ただ単に熱心に付き合うだけでなく、そこには編集者になったときから戦略があった。「3人の大物と、きらめく新人3人をつかむ」というもので、「そうやって大物作家と若い世代を押さえると、中間にいる作家たちは向うから声をかけてきてくれる」からだ。こうした体制ができると、評判を聞きつけて、向こうから売り込みに来てくれる。
こうして、見城徹は編集者としては無敵になった。
130：「3人の大物と、きらめく新人3人をつかむ」そうやって大物作家と若い世代を押さえると、中間にいる作家たちは向うから声をかけてきてくれる。そうなれば、自分から開拓をしなくても、来たなかから才能を見つけていけばいい。一度こうした好循環に入ると、編集者としては無敵。131：中上健次・時空を超えた地と憤怒と哀切1977『枯木灘』被差別部落出身者136：村上龍・虚無と官能1976『限りなく透明に近いブルー』セックスとドラッグ、暴力に満ちた若者たちの自堕落な日常140：林真理子・過剰と欠落1982年に知り合って以来、毎晩のように飲み明かして放蕩を尽くした。僕が幻冬舎を設立した直後、些細なことがきっかけで16年間の絶縁期間に入ったが、和解して2015年に『過剰な二人』という共著を出した。お互いに濃い愛情があった。だから深く訣別して、16年後深く抱擁した。143：山田詠美・抑えがたい性的な衝動デビュー作『ベッドタイムアイズ』抑えがたい性的な衝動を文学作品に昇華直木賞『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』黒人こそセクシー145：村上春樹・生き方を犯すほどの才能ペーパーバックの影響1979『風の歌を聞け』ジョージ・ルーカス『アメリカン・グラフィティ』を日本文学としてよみがえらせる147：宮本輝・仏教的世界観への変換『避暑地の猫』神話的な構造を、日本的な仏教の世界観に変換しながら描いていく148：百田尚樹・驚異的なオールラウンドプレーヤーこれほどまでに情景が浮かぶ小説はない。おそらく、まず映像を撮るようにストーリーを考え、そこから文章に落とし込んでいる。作品のテーマやストーリーが多種多様。『影法師』自身の想いが最も色濃く映し出されている小説155：草間彌生・性の情念1970年代後半、草間がまだ40代で僕が20代のころ、人づてに僕の連絡先をさぐり当て、「私は小説で芥川賞をとりたい」と言ってきた。草間彌生は、NYを拠点に、男女の性器をモチーフにした作品を発表したり、街中を全裸で歩くパフォーマンスを展開したりする前衛芸術家として知られていた。156：坂本龍一・残酷と悲惨に血塗られた崇高で静謐な創造受賞の夜、アカデミー賞側が用意したパーティーをキャンセルし、ビバリーヒルズの私邸を借り切って『ラストエンペラー』関係者だけで祝勝会を行ったときも、坂本と生田、そして僕は一緒だった。坂本とは、彼が「トラフィコ」という事務所を設立した頃から急速に親しくなった。当時、僕はほぼ毎夜、広尾にあった「ピュルテ」という店で坂本と酒を飲んでいた。夜11時ごろまでに日常の仕事を終え、「ピュルテ」で坂本と落ち合い、朝9時過ぎまで飲みつづける。そんな生活が4年ほどつづいた。160：尾崎豊・自己救済としての表現一時も気を抜かずにひたすら自分を愛してくれというメッセージを、時にはストレートに、時には逆説的に熱く激しく放ち、最後には命を代償にしてまで友人たちの気を引こうとした人物。
2018年10月22日
「圧倒的な努力」
念願かなって、角川で文芸編集者になった見城徹。彼にはどうしても仕事をしたい作家が二人いたという。それが、学生時代から愛読してきた五木寛之と石原慎太郎で、彼らと仕事をするために、1日24時間働いた。
五木寛之を落とすために、「五木さんのすべての作品を読み、感想を手紙にしたためて送ること」にする。通常の業務も忙しいのに、売れっ子の五木さんの発表するものをすべて読んで、感想を書く。それも、ありきたりではないけない。
「その感想が、仕事をしている本人も気づいていないことを気づかせたり、次の仕事の示唆となるような刺激を与えたり」するものでなければ、評価してくれないだろう。徹夜してフラフラになりながら何度も何度も書き直した。
そして、25通目の手紙を書いたあと、ついに五木さんに会えることになる。場所はホテルオークラのロビー。
「君、あれだけの手紙大変だったね」
「いいえ。ただ僕は、なんとしても五木先生と仕事がしたいんです」
「うん、やろう」
もうそれまでの手紙で、何百という言葉を費やしてきて、それだけのものが胸に届いているから、言葉を弄する必要がなかった。これが、見城徹のいう「圧倒的な努力」。その時、20代後半に差し掛かっていた。
101：「野性時代」僕は五木さんを落とすことに決めた。五木さんのすべての作品を読み、感想を手紙にしたためて送ることにした。（中略）その感想が、仕事をしている本人も気づいていないことを気づかせたり、次の仕事の示唆となるような刺激を与えたりしなければいけない。（中略）徹夜してフラフラになりながら手紙を書いた。何度も何度も書き直しながらやっとの思いで感想を書く。114：当時の石原さんは衆議院議員である。会うだけでも大変なことだった。『太陽の季節』と『処刑の部屋』を一言一句、最後の一行に至るまで暗唱できるようにしていた。115：一人の書き手について、キラーカード（「このテーマで書いてもらえればベストセラー間違いなし」という企画）を3枚は持っていなければいけない石原慎太郎�…錙弊亳兇気鵑郎�まで私小説を一本も書いていない）→『弟』�∪�治（政治に身を転じた文学者だけが書ける黄金のコンテンツ）→『天才』�Ｏ靴ぁ兵�分の過剰な肉体を信じた小説がデビュー作）→『老いてこそ人生』いつもキラーカードを出すタイミングを計っていた。作家本人も書きたいというテーマなら、いつでも好きな時に切り出せばいい。しかし作家にとって書きたくないテーマだからこそ価値がある。小説に限らず、作品というのは、その人が一番書きたくないものを書かせたときに一番いいものができるし、売れる。
2018年10月21日
現実を戦う「武器」を手に入れろ
見城徹は、「団塊の世代で、学生運動に傾倒しなかった人間を信じない」という。なぜなら、「世の中に対する理想を持ち、その理想を貫徹するために苦しみ、悩み抜いた経験を持つことは、どの世代にも重要」で、「理想を持つことは、すなわち自分の一生をどう生きるかという命題にもつながる」からだ。そこを真剣に考えずして大人になった人たちは、どこか薄っぺらい気がするという。
確かに、若い頃知り合ったバリバリのビジネスマンが、よく聞いてみたら、昔学生運動に傾倒していたということはよくあった。よく知られたところでは、7-11の実質的創業者である鈴木敏文など。世の中のことを真剣に考えたから、消費者の潜在的ニーズもよく分かったのだろう。
確かに、若い頃知り合ったバリバリのビジネスマンが、よく聞いてみたら、昔学生運動に傾倒していたということはよくあった。よく知られたところでは、7-11の実質的創業者である鈴木敏文など。世の中のことを真剣に考えたから、消費者の潜在的ニーズもよく分かったのだろう。
69：世の中の改革を試みた若者時代を持たない人間を信じない世の中に対する理想を持ち、その理想を貫徹するために苦しみ、悩み抜いた経験を持つことは、どの世代にも重要。理想を持つことは、すなわち自分の一生をどう生きるかという命題にもつながる。そこを真剣に考えずして大人になった人たちは、どこか薄っぺらい気がする。85：ベストセラーの条件�．�リジナリティがある��極端である�Ｌ晴�である�ぬ�着がある（関係者が買ってくれる）87：努力は圧倒的になって初めて意味がある人が寝ている時に眠らない。人が休んでいる時に休まない。どこから始めていいか分からない、手が付けられないくらい膨大な仕事を一つ一つ片づけて全部やりきること。
2018年10月20日
読書とは「何が書かれているか」ではなく「自分がどう感じるか」
当代一の編集者として名をはせる見城徹の最新刊。大学を出て最初に入った廣済堂出版で、初めて企画した『公文式算数の秘密』が38万部のベストセラーになり、公文本部の電話は入塾希望者と教室開設の問い合わせで、数か月間電話が鳴りやまなかったという。
もともと文芸書がやりたかったため、その後数年で角川書店に入社。最初は、「何でもやりますから」とアルバイトだったという。角川春樹社長の無理難題を一人で寝ずにこなして正社員に昇格。「野性時代」「月間カドカワ」での活躍は今や伝説だ。
1993年に幻冬舎を設立し、独立。出版不況の中での新会社設立に行く末を危ぶむ声が多かったが、五木寛之『大河の一滴』、石原慎太郎『弟』、天童荒太『永遠の仔』村上龍『13歳のハローワーク』渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』など24年間で23冊ものミリオンセラーを出す。
なぜ有名作家が次々と新興出版社で出版してくれたかといえば、角川時代を通じて、会社の枠を超えて、作家と徹底して向き合い、そして結果を出していたから。本書は、一流の仕事の仕方と、一流の読書人の推薦図書集にもなっている。
もともと文芸書がやりたかったため、その後数年で角川書店に入社。最初は、「何でもやりますから」とアルバイトだったという。角川春樹社長の無理難題を一人で寝ずにこなして正社員に昇格。「野性時代」「月間カドカワ」での活躍は今や伝説だ。
1993年に幻冬舎を設立し、独立。出版不況の中での新会社設立に行く末を危ぶむ声が多かったが、五木寛之『大河の一滴』、石原慎太郎『弟』、天童荒太『永遠の仔』村上龍『13歳のハローワーク』渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』など24年間で23冊ものミリオンセラーを出す。
なぜ有名作家が次々と新興出版社で出版してくれたかといえば、角川時代を通じて、会社の枠を超えて、作家と徹底して向き合い、そして結果を出していたから。本書は、一流の仕事の仕方と、一流の読書人の推薦図書集にもなっている。
はじめに3：読書とは「何が書かれているか」ではなく「自分がどう感じるか」人間と動物を分けるものは、「言葉を持っている」という点に尽きる。人間は言葉で思考する。
4：日本には読書をせずとも、実生活から多くを学んでいた世代もいる。
戦争という圧倒的に理不尽な環境下で、他者が傷つき、倒れていくのを目にしていた。こうした世代は、読書経験がなくても人間や社会に対する洞察力に長けている。
5：自己検証、自己嫌悪、自己否定の三つがなければ、人間は進歩しない9：左翼に傾倒しなかった人はもろい矛盾に苦しむからこそ、その先に新たな視界が開ける。ヘーゲルの言う「アウフヘーベン」のように、両極を揺れ動くからこそ、一段高いところに登ることができる。14：知識を積み重ねてもしょうがない教養とは、単なる情報の羅列ではない。人生や社会に対する深い洞察、言い換えれば「思考する言葉」にほかならない。
2018年10月19日
自分の人生、自分で守れよな。
2000年代、匿名掲示板「２ちゃんねる」の管理人として有名になる。2005年にニワンゴ取締役に就任。翌年始まった、動画にコメントをつける機能をもったサービス「ニコニコ動画」が大ヒット。
読んでみると、基本、リバタリアン。本blogでも何度か紹介したPeter TheilやElon Muskなどネット業界で成功した人に多い考え方。ベーシックインカムに賛同している。究極の社会保障という見方もあるが、幾重にも重なり複雑になった社会保障をベーシックインカムに一本化したほうが、結局、安くつくという考え方もある。何より、高齢者医療に偏った社会保障費を国民全員に平等にいきわたらせることで、経済が活性化する可能性が高い。
はじめに：２ちゃんねる成功の要因匿名掲示板の仕組み自体は元々あったけれど、途中でやめちゃう人が多く、たまたま僕だけが長く続けたから。世界史を学ぶと、世界で覇者になる民族がいくつか現れるが、それは彼らが優れた能力を持っていたからではなく、地政学的に有利な場所にいたことが要因として大きい。「たまたま、そこにいたから勝てた」9：スキルｘ理論ｘ経営者視点ｘ環境＝無双63：ニコニコ動画川上量生さんが「しょうもない名前にしよう」と言い出して決めた。著作権違反の動画があっても、しょうもない名前だったら本気で怒りにくい。161：働き方改革みんな一律に「もっと休みましょう」と言ってしまうのは、単に頑張りたい人の可能性をしぼませてしまっているだけ。180：ワイドショーという大衆文化「足を引っ張る」「人を叩く」元凶。おわりに：みんな仲良く落ちていく日本は、みんなと同じことをしていれば安心だった国から、みんなと違うことをやらないとどんどん落ちていく国に。
2018年10月18日
文字をテーマにした小説
芥川賞受賞作家による、今年の川端康成賞受賞作品。区立図書館で借りて読んだのだが、通常、賞を取った作品は予約待ちが大量に入っていることが多い。直木賞を受賞した『下町ロケット』の最新作など数百件の予約が入っていて、予約しても回ってくるのがいつになるか分からない状況。
ところが、本書は予約待ちなくあっさり入手。読んでみて分かった。これは文字好き(特に漢字）でないと難解だ。漢字が苦手な私は、読んでいて何度もうたた寝してしまった。
仕事の本なら1時間もあれば1冊読んでしまう私がである。表題作の他、「文字の起源から未来までを幻視する」全12編。文字好きの人に挑戦してほしい。
新字110：第5回遣唐使天智4年（665）12月 境部副使112：660年 唐の支援を受けた新羅が百済を滅ぼす。663年 百済の遺臣を助け、百済復興を目指した日本の艦隊が白村江で壊滅。664年 唐が百済鎮将、劉仁願が部下を使節として派遣。115：回教僧 阿羅本「三皇五帝の以前から地上には国があり、文字の記録が存在していました。それ以前に滅びた国も多くあります。世には、三皇五帝の時代からこの唐の時代までに匹敵する期間存続し続けた大帝国も存在したのです」119：回教布教の拠点を築く際に、図書室と医療施設を整えていくのが教会のやり方であり、それから耳を傾ける気になった者には協議を説明することになり、無理強いをすることはないという。まずその正しさを実感してからでなければ、物事を信じることなどできないだろうということらしい。
2018年10月17日
スマホでできる、精子セルフチェック
今週、若手起業家を中心とした交流会に出席。若いということは普通元気な上に、起業或いはスタートアップで働こうという人たちはそれでなくても元気なので、このところ足が遠ざかっていた。しかし、イノベーションは大抵そういう人たちがもたらす。
そこで出た様々な話を私が勝手にblogで公開するわけにはいかないのだけど、こちらはリクルートが昨年から開始しているサービス。「スマホでできる、精子セルフチェックSeem」「アプリが精液を解析し、精子の濃度、運動率がわかる」とある。
これが、GOOD DESIGN賞を獲っただけあって、キットがよくできている。肝になっているのは、スマホ用の顕微鏡レンズ兼スライド。これで200倍くらいに拡大できるらしい。価格は4980円(税込み)で、これで1回の測定ができる。
精子の状態は体調や環境、生活によって日々変化します。一度の測定結果で判断せず、複数回の測定を見て自分の傾向を確認しましょうとあるので、何度か測る必要がありそうだ。それでも、不妊に悩むカップルにとって、不妊治療費全体を考えれば微々たるもの。不妊原因の半分は男性側の「精子異常」にあるといわれている。
これを導入商品として、バックエンドの不妊治療サービスにつながっているのかどうか？残念ながら、参加者の人数が多くて、そこまで聞く時間がなかった。
2018年10月16日
Dean Francois Ortalo-Magne
昨年8月に就任したLBSの新学長Francois Ortalo-Magneが今日のWAC (Worldwide Alumni Celebration Day）に合わせて来日。学長としては初来日。プライベートでは2007年に家族で1週間来たことがあるそうで、今回は2度目の来日だとか。
日本の同窓生の数は世界でも有数なので（「企業派遣」という日本だけの制度もある）、任期中に学長は少なくとも1度は来日する。私がこれまでに日本で会ったのは、Sir George Bain, Laura Tyson, Sir Andrew Likiermanの3人。人気の短かったJohn QuelchとRobin Buchananは来日しなかったと思う。
今回の来日の準備メンバーに入っていたので、今朝は宿泊先のパレスホテルで朝食を食べながら初顔合わせ。フランス南西部の出身で、ミネソタ大学で学位取得。最初に教えたのはLSEで、直近ではウィスコンシン大学ビジネススクールの学長であった。毎年60ヵ国以上から学生が集まる「世界一国際的」と言われるLBSの学長として相応しい国際人のようだ。
フランス人がLBSの学長になるのは初めて。ちなみに、これまでの学長は以下の通り。こうしてみると、やはりアングロサクソン系が多く、ラテン系の学長は初めて。尤も、Sir Andrewも第二次世界大戦中に東欧からイギリスに逃れてきたユダヤ系移民の子どもなので、アングロサクソン系ではない。やはり、この辺り、世界から才能を取り込む大英帝国の知恵か。
Deans of London Business School
- Dr Arthur Earle (1965-1972) Canadian
- Professor Sir James Ball (1972-1984) British
- Professor Peter Moore (1984-1989) British
- Professor Sir George Bain (1989-1997) Canadian
- Professor John Quelch (1998-2001) British
- Professor Laura Tyson (2002-2006) American
- Robin Buchanan (2007-2008) British
- Professor Sir Andrew Likierman (2009-2017) British
- Francois Ortalo-Magne (current) French
2018年10月15日
TechShop Tokyo
「会員制オープンアクセス型DIY工房」TechShop Tokyoへ。2015年に米国TechShopのFCでスタートしたTechShop Tokyoは富士通の子会社が運営。
アークヒルズにある1200�屬離侫蹈△砲篭眤芦湛�機、木工機械、ミシン、3Dプリンタなどの工作機器が備え付けられていて、会員になって各機械の講習を受ければ使えるようになっている。材料は個人で持ち込み。個人の入会金は3000円で、後は利用ニーズに応じて、1日利用（4,500円）、月間利用（18,500円）、年間利用（198,000円）が選べる。その他、家族、学生、土日限定などの割安料金も。法人会員もあって、企業が試作品製作などで使う例が多いそうだ。
会員数は現在個人1000人、法人100社ほどで、損益分岐点は越えたとのこと。キャパ的には3000人くらいまで受け入れ可能だそうで、ほとんど固定費なので、会員数が増えれば利益が出始める。
それぞれの工作機器は数十万円から数百万円する。これらを個人で揃えることは金額からも設置場所の面からも難しい。また、法人にとっても、常に使うものではないし、これまで試作品製作会社に外注していたものを、自ら試行錯誤できるとすれば、開発スピードを上げられる可能性がある。フロアはオープンアクセスになっていて、会員同士の交流が生まれやすい仕掛けにしている。オープンイノベーションも期待できそうだ。
とてもいい事業モデルに思えるのだが、本家の米国TechShopは2017年11月15日に破産宣告、会社を清算してしまった。2006年10月のオープン以来11年に渡って"maker movement"の象徴であったTechShopだが、その間急成長したのはGAFAを中心としたインターネット企業であり"maker movement"は主流にはならなかった。逆に、"maker movement"の本拠地は深圳に移ってしまったことがTechShop倒産の主因ではないか。
米Techshopは、2006年10月に会員制オープンアクセス型のDIY工房／ファブ施設としてオープン、以来10年以上にわたりmakerムーブメントを牽引、多くの教育機関や大企業ともコラボレーションする企業へと成長し、アメリカ国内のアクティブユーザーは9000人以上、これまでメンバーやトレーニング、STEAM教育プログラムなどを10万人以上に提供している。3Dプリンターを米製造業のものづくり革命の要と一般教書演説で述べたオバマ前大統領が、2014年6月にピッツバーグの店舗を訪れたことでも知られている。
米Techshopは閉鎖の理由を「同社の抱える債務を再編し、新たな資金調達を試みつつ企業戦略の転換を模索してきたが、資金が底をつき倒産に至った」とし、米連邦倒産法第11章に基づく会社再建も検討したが、新たなビジネスプランを提案する余地がなく、米連邦倒産法第7章、すなわち会社倒産以外に道がなかった、としている。
2018年10月14日
バシェ音響彫刻
1970年の大阪万博・鉄鋼館に展示された「バシェ音響彫刻」。幼少の私も万博に連れていかれたのだが、長蛇の列に恐れをなして、ほとんど展示も見ずに帰宅した記憶しかない。鉄鋼館にも入ってないと思う。
万博での出品を依頼されたバシェ兄弟は来日して、日本の協力者たちと国内で17種の「音響彫刻」を製作する。それぞれの作品には制作に協力した日本人の名前が冠され、「池田フォーン」「川上フォーン」「桂フォーン」など。「高木フォーン」というのもあるが、残念ながら、私と関係はない。
万博終了後、これらの作品は、一部は引き取られたものの、大半は引き取り手もなく、分解されて鉄鋼館の倉庫に眠っていた。こうして忘れ去られていた「バシェ音響彫刻」に再び光が当たったのは、2010年のExpo'70パビリオンオープンで「池田フォーン」が修復・展示されてから。
2016年に万博公園から「最終処分」の連絡を受けた、東京藝大の川崎先生（サウンドアーティスト）が学生とトラックをレンタルして残りの作品を引きとる。現在、取手キャンパスで古川研究室とファクトリーセンターが中心となって修復中。
今回、私が体験させてもらったのは、修復した「勝原フォーン」。11枚の音響増幅部分とハープ状の３オクターブからなる。ガラスの棒を水で濡らした手で触ると、振動が増幅されて、扇上のアルミ板から音が出る。
見て楽しく、触ってオドロキの「音響彫刻」だった。
ベルナール(Bernard Baschet: 1917-2015) とフランソワ（Francois Baschet:1920-2014）のバシェ兄弟は1960年代頃から「音響彫刻」と呼ばれる独自の作品によってニューヨーク現代美術館(MOMA)をはじめ、べルリン美術館、パリ博物館など世界各地で活発に展覧会や演奏会を行ないました。
彼らは音響学の原理を応用し、素材と形態の組み合わせの実験と研究を重ねてこれまでにない「音響彫刻」ををつくりだし、これらを用いた前衛的なオーケストラを結成して世界中をツアーしました。彼らの活動は世界中の多くの音楽家に影響を与えました。日本では、世界的な作曲家である武満徹がバシェの楽器のために作品を書き、ツトムヤマシタが演奏しています。武満徹は黒澤明の映画「どですかでん」の中でもバシェの楽器の音を使用しています。（Readyfor東京藝術大学）
2018年10月13日
中国国歌に唄われたヒーローは日本人⁉
「大正から昭和の戦前まで、日本人でその名を知らぬ者はなかった」という馬賊。
大陸雄飛の夢といえばまずうかぶのが”馬賊“である。僕も行くから君もゆけとか、大学出てから十余年、とか、これらみんな”馬賊”の唄である。日本人でありながら、その満州馬賊の”総攪把”であり、のちに馬賊を再編して結成された「東北抗日義勇軍」の総司令にまでなったのが小日向白郎。馬賊が惚れる馬賊である「小白竜」が日本人だということを、大東亜戦争が終わってずっと後になるまで、誰も知らず、また信じなかったという。
この「東北抗日義勇軍」を称えたのが「東北抗日義勇軍行進曲」であり、その後日中戦争が拡大するにつれて、中国全土にわたり大ヒットの国民歌となった。そして、これが現在の中国国歌「義勇軍行進曲」だ。内容は、抗日歌であるから、「敵の砲火を冒し、前進！」と勇ましい。
馬賊時代、抗日義勇軍時代、そして上海日本軍特務機関のトップとして働いた間にできた中国人「門弟」が、終戦後、完全に失脚した”尚旭東”こと小日向白郎を助ける。
漢奸として、或いは戦犯として一たんは獄に入った白郎のもとへ、この人たちは恐れることなく送金し、見舞品の持ち込みをつづける。中国人の信義とそれにもとづく行動の中には、やはり我々日本人の理解を超える深さ、強さがある。
こうして、白郎は中国人の助けで無事に上海を脱出、台湾を経て、帰国を果たしたという。ほとんどの馬賊仲間が若くして戦死、あるいは事件・事故で亡くなる中、天寿を全うし、1982年新宿で死去。享年82歳。
25：奉天城襲撃計画当時これを知る人によって、或いは暴挙とされ、或いは日本男児ここにありの痛快事とも受けとられた極秘事件である。事の重大性に恐れをなした日本軍、日本外務省によっていち早く厳重な記事差し止めがなされたため、まったく世人一般の耳に入ることなく闇から闇へほうむられたが、少なくともそのことの”部分”を知る人は今も多く、また戦後、はいくつかの書物によって紹介され、「知る人ぞ知る」物語である。26：奉天占領計画が日本領事館警察に発覚してしまったと知った尚旭東は、即刻、馬賊隊2000を奉天城外30華里以遠に退かしめ、かれじしんは日本人同志とともに自首して出た。奉天総領事林久次郎は、かれに3年間の在留禁止を命じた。かれは大陸を追放されて、日本に渡り、頭山満や緒方竹虎らの庇護を受けた。55：三勝の謀殺戦いの場にあると強硬論が勝ちやすい。日本軍は三勝一人を殺したため、多くの馬賊たちと無益な、しかも無数の戦いをし、将兵は苦痛をなめ、戦死したり、傷ついて不具になったり、重病にかかったりした。あまつさえ更に多くの良民を匪賊と誤って虐殺し、中国の民心を失うことになった。124：馬賊大正から昭和の戦前まで、日本人でその名を知らぬ者はなかった。大陸雄飛の夢といえばまずうかぶのが”馬賊“である。僕も行くから君もゆけとか、大学出てから十余年、とか、これらみんな”馬賊”の唄である。131：昭和7年 馬賊大移動東北抗日義勇軍に参加した名だたる総隊長たちはことごとく華北へ移った。満州に於ける歴史的存在だった”正統馬賊”は、この時期をもって消滅したのである。168：中国の秘密結社盟約に背くものを本当に殺す。殊に青幇の組織は強烈な実力を持っている。裏切者に対する制裁は”死”であり、しかも官民合同であるから犯人は誰からも処刑されることがない。180：アヘンその頃の世界のアヘン産地は、ペルシャと中国だった。が、ペルシャには加工精製の技術がなく、従って世界中の注文は中国に集中し、天津は世界中の麻薬の中心地だった。需要者は欧米の各先進国である。それら先進国は集まってシンジケートを作り、代表者をきめ、各国政府機関が次年度の医療用麻酔薬の必要量をその代表者の手元に集める。197：普安協会（天津）普安協会の出現は、「それまで連日の如く頻発していた華北の陰惨な抗日テロをピタリと止めてしまい、日本軍の莫大な謀略の資金源となり、更に、思いもよらぬ大掛かりな諜報網を持つことにもなった」（清水実『人物往来』昭和32年2月号）にもかかわらず、それを創り、育てた小日向白郎は、茂川機関によって天津を追い出され、こんどこそ完全に失脚して、日本へ去るのでる。219：日本軍は一体何をしているのか一方では万里の長城周辺にこもる武装馬賊団が蒋介石側につくことを恐れそれを味方につけようと小日向白郎を使ってさかんに工作している。他方では、同じ日本軍が同じ馬賊軍をいちいち敵に廻し、小競り合いをしては勝った勝ったと”報告”する。出先日本軍の手柄顔、功名心ぐらいわけの分らんものはない。そもそも、たった一個の雑軍に対し”連隊”までも動かすことの不利を考えたことがあるだろうか。部隊を一日動かせばいくら費用がかかるということを常に忘れぬ白郎からみれば、いかに親方日の丸とはいえ、戦費、軍費の浪費には許しがたいものがある。
2018年10月12日
日本人馬賊王「小日向白郎」
「馬賊」と聞いて知っている人がどれだけいるだろう？私は、かろうじて、満州からの引揚者である祖父母から小学校の頃に聞いたことがあった。といっても、小学生にとって戦前の満州に興味も持てず、「馬賊が・・・」という言葉だけが頭の隅の残っていただけ。もし、祖父母が私に興味を持てるように話してくれていたら、社会人になって直ぐに満州を見に行こうと連れ出していたかもしれない。
それはともかく、本書を読んで初めて「馬賊」なるものの実態に触れた。しかも、中国現代史と深くかかわるその馬賊の中心に日本人がいたというのだから驚きである。その人が、小日向白郎で、新潟県三条の生まれ。14歳で東京に出て屑鉄で一儲けした後、16歳で中国に渡る。
北京で陸軍将校と会い、スパイとして単身モンゴルを目指すのだが、途中の内モンゴルであっけなく馬賊につかまって捕虜になる。元来、働き者のうえ、賢く、度胸もあった白郎はとんとん拍子で出世し、3年後には満州馬賊の大頭目になっていた。
度重なる牢獄破りと県公署の焼き討ちで指名手配された白郎は、満州正統馬賊の総本山ともいうべき道教の寺に身を隠しつつ、秘伝の拳法を習う。そこが、千山・無量観で、ここは現在も残っているようだ。
32：少年時代ふつうなら小学生の納豆売り、新聞配達はかわいそうな感じのものなのに、白郎のそれには揚々たるところがある。金持ちの子どもが見たら、いかにも愉しそうで、自分でもやってみたいと思うところがある。こうしてかせいだり使ったりの残りの貯金が、卒業までに40円を少しこえた。54：馬賊馬賊には馬賊なりの厳格な統制があり、独自の作法や習慣があって、それはあくまでも住民の自衛のための組織集団、ないしは住民の唯一の保護者であったといっても過言ではないのである。96：中国語異民族の中にあって唯一生活をするようなとき、もって生まれた想像力推定力？そうしたカンの良さが大いにものを言う。また、一を聞いて十をさとるかしこさも、助けになる。こうした要素は、白郎にはあり余るほどあった。こうして白郎は、少しも苦心の自覚なしに、言葉をおぼえただけでなく、文字の読み書きまでが、できるようになっていった。105：馬賊の任侠馬賊のいう任侠は、道教の教えに従うもので、仁は人をたすけること、侠は、命をすてても人を助けることで、これは単に口にするだけではなかった。人に助けを求められると、常識では全く判断できぬ無謀な戦いもかれらはやってのける。事実そのために、多くの名だたる勇士が惜しげもなく死んでいったのである。159：貪官汚吏（どんかんおり）貪官汚吏の害というものは、それ自体が馬賊発生の一つの原因であった。当時の中国の官吏は、国家や主君を自己犠牲的に愛したりするふうは全くなかった。彼らは、富を蓄え、自分が富むことと一族の繁栄を願って官吏になる。そのために多額のワイロで地位をあがなう。だから一たん役職につくと、今まで使ったワイロのまずもとをとり更にしこたまもうけよういうので、あらゆる機会をとらえては農民をしぼりたてたものである。218：道教孔子によって始められた儒教が帝王、権力者の教えと堕したのに対し、一貫して権力と戦う民衆のがわの宗教であった。貪官汚吏の圧政に抵抗して戦ったかずかずの秘密結社、革命組織はいずれもこの道教の思想によっておこり、戦ったのだ。222：経棚（ちんぽん）県襲撃「経棚県城に夜襲をかけて、官公署を焼き討ちし、刑務所を襲い、女子供を除いて、呂辣手(知事)をはじめ、抵抗するやつをことごとく殺し、何十人という人質を救い出した。呂辣手は私みずから一騎打ちをして、その首を切り取って場外にさらした。このときの夜襲は、朝の4時頃まで行われたが、炎々と燃えさかる県公署の中の、阿鼻叫喚の激闘は、実に凄惨を極めた」233：ラマ僧大正11年の春晩く、ラマ僧の一行は長蛇の列となって北京に到着した。春は3月から6月にかけて蒙古風の季節である。ラマ僧たちの黄衣は旅塵にまみれ、黒人さながらの顔には、目と歯だけが異様に光っている。が、旅慣れたラマ僧たちに旅の疲れはない。ドラを打ち、鐘を叩き、大きなラッパ小さなラッパを吹き鳴らし、二百人のラマ僧らは喜々として行進してゆく。254：中国に於ける宗教（白郎が千山に入った大正12年頃）四大宗教とよばれるものは、道教、回教、仏教、儒教で、そのさかんな順番もこの通りである。が、仏教は各地に豪華堂々たる寺院はあるが、そしていかにも目立っているが、それほどにさかんではない。（中略）仏教はブルジョア階級によって主にささえられ、さほど大衆の信仰は集めていなかった。268：中国は文字の国中国は文字の国であり、言論の国である。街頭の車夫、人夫のけんかはもとより、馬賊同志の決闘もまず演説から始まる。それも、相手に聞かせるより、周囲のヤジ馬に聞かせて世論を自分の側につけようというこんたん。274：同郷観念国家に頼るどころか、逆に国家の圧力から身を守るために発達した彼らの社会の特徴は、その強い同郷観念である。地方農村では血縁団体、都市部では職業団体が発生、発達し、また、秩序の維持の面では、部落内の自治をととのえ、紛争に対する裁判、匪賊に対する武装自衛と、一切のことを自分の手でやるよりほかなかった。
2018年10月11日
DeNA不格好経営の裏舞台
DeNAの創業期から、上場、横浜ベイスターズ買収までを主にCFOとして担った春田（当時）会長による本。出版された2015年4月時点ではまだ取締役会長で、「6月に退任予定」という経営者が退任前に出版するというのは聞いたことがない。もう一つ珍しいのは、この本が、企業No.2によって書かれていること。長年代表を務めた南場社長が先に『不格好経営』を出版し、創業者としての思いを表している。
成功した経営者が本を出すのは珍しくない。やがては「私の履歴書」執筆依頼も来るのだろう。それを見ていて興味深いのは、起業家には結構訂正が入るのだ。先月のすかいらーく創業者の横川氏もそうで、連載中に何度も訂正？があった。本人はそれが事実だと信じて書いているのだが、どうやら思い込み或いは勘違いであったようだ。この、「思い込み」が激しいというのは創業者にありがちな特徴なので、春田氏が南場さんをそう思っていたのも無理はない。
こうしたトップを補う冷静なNo.2が居ると成功確率が上がる。面白いのは、同じことを同じ場所で経験しても解釈が、或いは見ているものが違うこと。例えば、春田氏は、DeNAが「最終的に生き残れたのは、ひとえに南場さんが初期のタイミングで多くのお金を集めることができたからだ」（はじめに）と身も蓋もない。
CFOとして上場準備の中心にいた春田氏だが、部下の女性が過労で倒れるほど苦労したにも関わらず、「上場できたことよりも2001/12に初の単月黒字を達成した時のほうが喜びははるかに大きかった」というのも実感がある。上場しなくても企業は存続できるが、黒字でなければ企業は存続できないし、また、存続する価値もない。
はじめに：最終的に生き残れたのは、ひとえに南場さんが初期のタイミングで多くのお金を集めることができたからだ。つまり、南場さんが多くの人から信頼されていたことが最大の要因だったといっていい。まったくもって格好のいい経営者なのだ。�ゝ絣�参入45：直接かつ短期的に高いプロモーション効果が望める。46：参入1年目の広告価値換算値は1000億円を超える。48：買収に関して注目が集まる中、楽天の三木谷社長が「DeNAの参入は認められない」という完全否定。まさか楽天から否定的なコメントが出るとは思っていなかった。��ベンチャー112：「給料はどこまで落とせますか？」（最初の面接）そのころの私は年収1000万円弱（住友銀行30歳）→DeNA公開準備室長600万円121：土曜日も日曜日も関係なく、たくさんの社員が泊まり込みで勤務132：投資などの話を受けた際には、相手のことを考えてすぐに回答時間だけを掛けて、いたずらに期待させてはいけない。154：二人だけで上場準備帰宅は午前3時、4時。2005/1上場前に真田CPA過労で入院155：上場できたことよりも2001/12に初の単月黒字を達成した時のほうが喜びははるかに大きかった。自分たちの仕事がやっと儲けを出せるようになった瞬間。それに比べれば、上場はDeNAにとって通過点でしかなかった。
2018年10月10日
水爆の運河
5月に15年ぶり2回目のマレーシアに行ったのをきっかけに『マラッカ物語』を読んでみる。その間に、マラッカは世界遺産に指定され、多くの観光客でにぎわっていた。この海峡の支配をめぐって、古くから欧米列強が覇権を競い、現在でも、「世界で最も混雑した海」として戦略上の重要拠点となっている。
「水爆の運河」というのは、この海運のボトルネックを解消するために、マラヤ半島の付け根のくびれたクラ地峡に運河を掘る計画が1970年代にあったこと。掘削手段の一つとして水爆の利用が真剣に検討されたという。当時はビキニ環礁でのアメリカ、カザフスタンでのソ連、新疆ウイグル自治区での中国、大気中でどんどん水爆実験が行われていた時代だから、どうせ爆発させるなら「原子力の平和利用」として、水爆を地下数百メートルのところで爆発させても驚くことではない。
1：マラッカ海峡インドネシア領スマトラ島とタイ、マレーシア領マラヤ半島にはさまれた狭く細い南北の海峡である。両岸の迫った地点で海峡の幅は60キロ、長さは800キロにおよぶ。7：クラ運河中東と日本を結ぶ航路は、クラ運河によって、マラッカ海峡軽油の場合よりも約520キロ（中略）短縮される。世界で「もっとも混雑した海」といわれるマラッカ海峡は、水深も浅く喫水線下約20m（22万トンのタンカーが石油を満載した場合にあたる）以上の船はほとんど通れない。17：5Aルート１ないし0.25メガトンのものが5Aルートに沿って並べられ、1回の爆発が5メガトン以内に収まるように、何発かの水爆を一斉爆発させることになる。5メガトンというと、広島で用いられた原爆の250倍にあたる。26：十字路の歴史東か西の文字による他人の記録だけが、マラッカ古代史に手掛かりを与えてくれる。漢字による中国史書、サンスクリット、パーリ語などインド系言語による古代説話、アラビア文字によるペルシャ、アラブ系の史料、そしてヨーロッパ語による記録などである。土地の人間は、その暮らしの古い痕跡をほとんど残さなかった。165：アンボンの虐殺香料をめぐる抗争は殺戮に次ぐ殺戮だった。1623年、クーン総督の部隊は英国商館を襲い、英人10人、日本人9人、アンボン人1人を虐殺した。事件は英蘭抗争の火種となった。239：華人労働者スズ鉱山の華人苦力が労働者であると同時に、アヘン消費者。かれらは技術者でもあった。18世紀から今世紀初めまで、マラヤのスズ鉱山を実際に動かしたのは、華人の技術だった。253：スズ鉱山スズ鉱の開発は、多くの危険を伴った。華人資本家をこの危険の多い事業に誘引するために、植民地当局は、進んで華人鉱山主にアヘン専売権を与えた。鉱山主はアヘン宿の主人でもあったのである。
2018年10月09日
ジリ貧か、ドカ貧か
日米開戦前の昭和15から17年にかけて、陸軍省主計課に「秋丸機関」なる秘密の組織が置かれた。東京帝国大学経済学部を出て陸軍省に入った秋丸中佐を中心に、当時の日本の一流の経済学者達が集められ、中には治安維持法違反容疑で検挙され保釈中の有沢教授（東京帝国大学）まで居た。つまり、思想信条に関係なく、各国の戦争遂行力を分析するために、実力で集められた。
その報告書の内容は、戦後振り返ってみても、驚くほど正確に戦争の行く末を予測していた。また、この報告書の内容は隠匿されたわけではなく、陸軍省だけでなく、政府やマスコミにまで内容が伝えられていた。
にもかかわらず、日本は開戦の道を選ぶ。「なぜ日本の指導者たちは、正確な情報に接する機会があったのに、アメリカ、イギリスと戦争をすることを選んでしまったのか」が本書のテーマ。
昭和16年8月の日本の選択肢は二つあった。
「ジリ貧」：アメリカの資金凍結・石油禁輸措置で日本の国力は弱っており、2-3年後には戦わずして屈服。
「ドカ貧」：アメリカを敵に回して戦うことは高い確率で日本の致命的な敗北。しかし、低い確率ではあるが、�，發憩肇柔錣�短期間でドイツの勝利に終わり、�▲熟△了餮擦範�働力を利用して経済力を強化したドイツが英米間の海上輸送を寸断するか対英上陸作戦を実行し、��さらに日本が東南アジアを占領して資源を獲得して国力を強化し、�ぅぅ�リスが屈服すれば、�ゥ▲瓮螢�の戦争準備は間に合わず抗戦意欲を失って講和に応じるかもしれない。
合理的には、「ジリ貧」を選んで臥薪嘗胆、好機を待つべきなのだが、日本が選んだのは「ドカ貧」だった。確実な「ジリ貧」よりも、確率は低いが全てが上手くいく「幸運」に賭けたのだ。これは宝くじを引くのと同じで、まず当たらない。そして、確率論通り、「ドカ貧」になった。
本書では、秋丸の下に集まった経済学者がどの様な報告をしていれば、戦争を避けられたかも論じている。「ジリ貧」が選ばれなかったのは、その先の展望がなかったからだ。従って、この点を強化する必要がある。それには、�．疋ぅ弔旅駑呂郎�がピーク→��独ソ戦が長引けば、ドイツはソ連と英米に挟撃されて敗北する→��ドイツがいなくなれば元のように英米とソ連は対立する→�け冓討抜愀顕�善できる機会が訪れる。
日本の「非合理的」な決定には、今でいう行動経済学の「プロスペクト理論」と、社会心理学の「リスキーシフト」が影響したという分析は興味深い。プロスペクト理論は、日本以外でも個人レベルで起きがちなのだが、それを集団での意思決定で排除する仕組みが日本は弱かったのだろう。
もう一つの、「リスキーシフト」はリーダー不在で「集団意思決定」するときに起きる現象。戦時下のオーストラリアの捕虜収容所でも、極論を言う少数に引っ張られて、無謀な脱獄で多数の日本人捕虜が死亡するカウラ事件が起きている。日本は「中空構造」で、権力者の出現をきらう。平常時はいいのだが、非常時にはリーダーシップの不在は悲劇を招く。
20：秋丸次朗宮崎県飯野村（現・えびの市）出身陸軍経理学校高等科→東京帝国大学経済学部関東軍参謀部付第四課主任（満州国の経済建設）26：ブロック経済「アメリカブロック、ソ連のブロック、英帝国ブロック、中部欧州ブロック（独伊）が形成されている。東亜のみが取り残されるわけにいかない→東亜経済ブロック(日満支）の建設必要性」96：秋丸機関『独逸経済抗戦力調査』判決1「独ソ開戦前の国際情勢を前提とする限り、独逸の経済抗戦力は本年（1941）一杯を最高点とし、42年より次第に低下せざるを得ず」・ドイツの経済抗戦力はすでに限界・1937-38年頃には完全雇用に達し生産力は増強されなくなった・1939-41まで生産力のみでは消耗を補えないため過去の生産による軍需品ストックに頼っているが、そのストックも来年（1942）から枯渇判決２「独逸は今後対英米長期戦に堪え得る為にはソ連の生産力を利用することが絶対に必要である。従って独軍部が予定する如く、対ソ戦が二ヶ月間位の短期戦で終了し、直ちにソ連の生産力利用が可能となるか、それとも長期戦となり、その利用が短期間になし得ざるか否かによって、今次大戦の運命も決定さる」・ドイツは労働力の限界→ソ連の労働力が必要・食料不足→ウクライナの農作物が必要・石油不足（戦時需要量年1800万tとして1000万t不足）→年産2300万tのバクー油田が必要「もしソ連生産力を利用せんとして開始された対ソ戦が、万一長期化し、徒に独逸の経済抗戦力消耗を来すならば、既に来年度以後低下せんとする傾向あるその抗戦力は一層加速度的に低下し、対英米長期戦遂行が全く不可能となり、世界新秩序建設の希望は失われる」153：なぜリスクの高い選択が行われたのか�々堝扱从儚悒廛蹈好撻�ト理論「損失回避性」確実な損失を嫌がって、低い確率でも損失がゼロになる可能性に賭ける傾向158：なぜリスクの高い選択が行われたのか�⊆匆饋翰�学・日本では強力なリーダーシップを取れる人物は誰もいなかった・「集団意思決定」の状態では、個人が意思決定を行うよりも結論が極端になることが多い（group polarization）・他者と比較して極端な立場を表明することが他のメンバーの印象を善くし、注意をひき、集団の中での存在感を高める（リスキーシフト）
2018年10月08日
自己啓発の源流「アドラー」の教え
4年前にベストセラーになったので、読んだ人も多いと思う。「トラウマは存在しない」など、非常に面白い。
フロイトのいう「原因論」では、例えば、「トラウマがあるから、こういう現象が起こっている」と説明する。いわば、過去の出来事が現在に影響を及ぼすという「決定論」だ。これに対し、アドラー心理学では、「何かの目的があって、その人間はその行動を選んでいる」と考える「目的論」だ。
例えば、父親との関係が悪い息子がいる。息子は小さなときに父親に殴られたことがある。「あのとき殴られたから関係が悪くなった」と考えるのがフロイトの原因論的な発想。アドラー的な目的論では、因果律の解釈が完全に逆転し、「父との関係をよくしたくないために、殴られた記録を持ち出していた」となる。関係改善したくないという「目的」が先にあるのだ。
父親に殴られたことのない息子など一昔前まで居なかったが、ほとんどの家庭で親子関係は良いだろう。今は昔ほど殴ることもないだろうから、親子関係は改善しているのか？そんな統計は見たことがないが、おそらく、答えは「無関係」。
フロイトの原因論は、「これが原因だ」と解説することで分かったような気にさせるが、本人に関係改善の意思がない限り、問題解決につながらない。フロイトのおかげで、診療心理学は一大産業になったが、果たして社会に貢献したのか疑問だ。「自分を変えることができるのは、自分しかいない」というのが変わることのない真理だろう。
23：アドラー心理学は、人間理解の真理、また到達点として受け入れられているカーネギー『人を動かす』『道は開ける』スティーブン・コヴィー『7つの習慣』29：トラウマは存在しないトラウマを明確に否定。トラウマの議論に代表されるフロイト的な原因論とは、かたちを変えた決定論であり、ニヒリズムの入り口。50：ライフスタイルは自分で選んだものなので、選びなおすことも可能10歳前後で選んでいる。88：不幸自慢不幸であることによって「特別」であろうとし、不幸であるという一点において、人の上に立とうとする。105：権力争いを挑まれたときには、絶対に乗ってはならない対人関係が復讐の段階まで及んでしまうと、当事者同士による解決はほとんど不可能。115：アドラー心理学とは、他者を変えるための心理学ではなく、自分が変わるための心理学120：人生の嘘さまざまな口実を設けて人生のタスクを回避しようとする事態143：自分を変えることができるのは、自分しかいない「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」163：他者から嫌われることを怖れるな他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない。202：ほめるのでも叱るのでもなく、「勇気づけ」人は、ほめられることによって「自分には能力がない」という信念を形成する。ほめることとは「能力のある人が、能力のない人に下す評価」206：共同体感覚人は「わたしは共同体にとって有益なのだ」と思えたときにこそ、自らの価値を実感できる。自らの主観によって「わたしは他者に貢献できている」と思えること。・自己受容・他者信頼・他者貢献258：安直な優越性の追求特別によくあろうとすることも、あるいは特別に悪くあろうとすることも、目的は同じ。他者の注目を集め、「普通」の状態から脱し、「特別な存在」になること。260：普通であることの勇気わざわざ自らの優越性を誇示する必要などない。275：人生最大の嘘「いま、ここ」を生きないこと。
2018年10月07日
モダンシティー大阪の本格欧風料理店「ガスビル食堂」
大阪の中流家庭が特別な日に行くところが、長年に渡って大阪ガス本社ビルにある「ガスビル食堂」ということ。
「大正から昭和初期にかけては、大阪にモダンな都市文化が花開いた時代でした。ガスビル食堂は、大阪における最も近代的で美しいビルディングと称されたガスビル八階に、昭和8年（1933年）3月の竣工と同時に誕生しました。本格欧風料理を提供し、モダンシティー大阪を代表するレストランとして市民の人気を集めました 」
昭和8年完成のビルは冷暖房完備だったというから、スゴイ。2003年竣工70周年の時に、登録有形文化財に。現在は、外壁の修復中で、「都市建築の美の極致」とまで言われたビル外観が今回は見れなかったのが残念。
70年の歴史を誇る食堂の伝統メニューの一つが「ムーサカ」。ギリシャの家庭料理に由来し、三代目料理長が羊肉を牛肉に代え、創業当時からの伝統のデミグラソースとマッシュポテトでアレンジしたという（写真）。
2018年10月06日
総会屋
1984年ソニー13時間30分
1985年アシックス11時間36分
1986年マツダ6時間43分
1987年大トー8時間20分
総会屋が猛威を振るった1980年代の株主総会の所要時間である。総会屋は様々なネタで企業を脅かし、金を払わなければ総会で騒いだ。当時、上場企業全体で年間1000億円を、全国に1万人いた総会屋に利益供与していたという。その頃の弁護士は全国で1万2000人ほどで、中小企業を含む企業からの総収入が1000億円。上場企業は弁護士に払うよりはるかにたくさんの金額を総会屋に払っていた。
総会屋が猛威を振るった1980年代の株主総会の所要時間である。総会屋は様々なネタで企業を脅かし、金を払わなければ総会で騒いだ。当時、上場企業全体で年間1000億円を、全国に1万人いた総会屋に利益供与していたという。その頃の弁護士は全国で1万2000人ほどで、中小企業を含む企業からの総収入が1000億円。上場企業は弁護士に払うよりはるかにたくさんの金額を総会屋に払っていた。
これを一掃したのが、一括上程・一括審議の「久保利方式」。それまでは議案ごとに上程→審議していたので、質問が続くと時間が掛かって仕方なかった。これを、全議案を一度に上程して、まとめて審議する方法に変えた。こうすれば、似たような質問を議案ごとに繰り返される心配がなくなる。
こうして、しっかり審議しても、最長2-3時間で総会が終わると思えば、経営者も腹をくくれる。90年代にほぼ全ての上場企業が「久保利方式」を取り入れ、総会屋は日本から姿を消した。
89：大宮ロースクール法科大学院設立と同時に大宮ロースクール生のための奨学金として、第二東京弁護士会会員を中心に寄付を募り、学校法人・佐藤栄学園の佐藤栄太郎理事長からも多額の寄付を受けた。私も発起人として率先して、7000万円を寄付した。経営的に苦しい状況を見て、教員の手当ての増額や、講義のゲストスピーカーの費用の自己負担など、合わせて1億円は持ち出した。164：エンタメ・ロイヤー著作権弁護士・芸能界弁護士としての私の前にはブルー・オーシャンが広がっていた。そこを開拓していった結果、ニューミュージック系のアーティストの大半が私に仕事を依頼してきた。吉田拓郎、井上陽水、泉谷しげる、小室等のフォーライフレコード以外のアーティストを一部紹介すれば、ユーミン、松山千春、オフコース、シャネルズ、矢沢永吉、布袋寅泰、南こうせつ、イルカ、長渕剛などである。211：東芝事件東芝では監査委員会の委員長が社内の元財務担当役員であり、法務担当の監査委員からの粉飾決算を疑う質問を無視した。企業会計につぃて十分な知識や理解力を持つ社外取締役も不在だった。第三者委員会報告書を見ても、取締役会や委員会の運営の全貌は明らかにされていないが、内部で発生している問題事案が監査委員会や取締役会に積極的に開示されなかったようだ。
2018年10月05日
第三者委員会報告書格付け委員会
企業や団体で不祥事がある度に組織されるのが、「第三者委員会」。関係者によらない「第三者」によって、問題の真相を解明し、説明責任を果たし、再発防止につなげる。・・・というのが建前で、実際のところは、委員会の独立性や透明性が十分でなく、「結論ありき」というのもなくはなかった。
第三者委員会の主要メンバーは弁護士なので、名ばかりの「第三者委員会」では弁護士会の信用にも関わる。そこで、日弁連の業務改革委員会で2011年にワーキンググループを設置し、第三者委員会ガイドラインが発表される。さらに、2014年、ガイドライン作成に関わった弁護士を中心に、研究者やジャーナリストを加えてできたのが、第三者委員会報告書格付け委員会。
発足以来、18の第三者委員会報告書について格付けがされている(上図）。格付けはA-Fの5段階評価で、委員会での議論のうえ、委員各自が投票する。朝日新聞の「慰安婦報道問題」報告書や、神戸製鋼所の「検査結果改ざん」など非常に低い評価もある。
東芝は、海外のガバナンス・モデルに類似した指名委員会等設置会社であった。監査役を廃止して、社外取締役を多数加えて、３つの委員会が設置されていた。にもかかわらず、粉飾事件は起こった。
東芝では監査委員会の委員長が社内の元財務担当役員であり、法務担当の監査委員からの粉飾決算を疑う質問を無視した。企業会計について十分な知識や理解力を持つ社外取締役も不在だった。第三者委員会報告書を見ても、取締役会や委員会の運営の全貌は明らかにされていないが、内部で発生している問題事案が監査委員会や取締役会に積極的に開示されなかったようだ。
2018年10月04日
全身弁護士クボリ
「日本一黒い顔の弁護士」
「日本一派手なネクタイと派手なスーツを着た弁護士」
として有名な久保利弁護士。
それだけでなく、1995年に日経ビジネス誌が発表した「第一回企業が選ぶ人気弁護士ランキング」で1位に選ばれた。96，98，2000年もトップ。それ以外の年も常に上位にランクされている。
それ以外にも、
「日本一訪問した国が多い弁護士」（2017年8月時点で170ヵ国)
「日本一著書の多い弁護士」（本書を入れて76冊）
ということだ。
生活信条は「よく働き、よく遊べ」だそうで、ワーク・ライフ・バランスならぬ、「ワーク・ライフ・シナジー」〜仕事と遊びに境がないという資質は、弁護士も含めて、成功する自営業者には欠かせない。組織化ができる人は企業家になれるが、なれない自営業者は仕事を楽しんで働くしかない。
クボリ先生の場合は、「弁護士になってから土日もなく、他人より短い睡眠時間で働き」、その代わり、毎年、夏3週間、冬2週間の長期休暇を取り、海外へ逃亡してきたという。年5週間の長期休暇以外は全部働いているから、51-5=46週 46週間x7日ｘ12時間＝3864時間。今、日本人の平均労働時間は年1900時間くらいだから、およそ倍働いているということになる。それでも若い頃、後輩の弁護士が年5000時間平気で働くのを見て、敵わないと思い、創造的戦略を練ることにしたという。
弁護士を目指した原点として上げているのが、開成中学での社会科の授業。なんと、1年間すべて安保条約の議論だったという。開成中学・高校の実態は大学受験予備校的なものとはかけ離れている。
23：開成中学(社会科の）授業は1年間、すべて安保条約の議論だった。特に国会さながらに条文を逐条的に、生徒と先生が審議していく。私が生まれて初めて法律に触れた機会だった。一見、明解に見える条文が、議論していくと不明確で相互に矛盾しており、憲法に抵触する可能性が高いことが明らかになっていく。法律とはこんなに複雑で多義的で面白いものなのかと知的興味をかき立てられた。32：危険な弁護士弁護士とは闘争業だ。キューバ革命の父フィデル・カストロは弁護士だったし、私が若い頃から関心を寄せてきた南アフリカ解放闘争では、運動を牽引したネルソン・マンデラも、白人ながらアフリカ民族会議の活動家で終身刑となったブラム・フィッシャーも弁護士だった。マンデラは南アフリカで黒人初の弁護士事務所を開設した後、反アパルトヘイト運動で国家反逆罪に問われ、終身刑となっている。91：短眠族若い時には3時間睡眠。最近は6時間。土日祝日は休まない。年に2回は必ず長期休暇。夏3週間。冬2週間。→170か国訪問。毎朝インプットから。厚さ3�僂凌景后�雑誌のスクラップ。94：1日一食なんでも自由に飲食30年前から昼食は食べない。12年前からは朝食も食べない。107：祖父に教えられて小学校から株1967年司法試験合格後、アフリカ解放闘争の支援を兼ねて、ユーラシア・アフリカ大陸一周出発する直前仕込んでいた帝国電波（クラリオン）株が、帰国時には暴騰していて、旅行費用の大半を賄うことができた。249：あとがき森総合で3年後に入所した飯田隆弁護士と会わなかったら、私の仕事への取り組みはもっと大甘になっていただろう。飯田さんは抜群の体力にものを言わせて、年間5000時間仕事をしていた。1週間で睡眠時間10時間という、短眠族の私にも真似のできない働き者だった。(中略)彼に負けない成果を上げるには、創造的戦略を作る必要があった。
2018年10月03日
ティールの投資術
世界で一番有名な投資家といえばバフェットだが、ティールの投資術は投資対象こそ違うものの（バフェットは中堅あるいは大企業でCFのあるもの、ティールはスタートアップ）、投資哲学は驚くほど似ている。
�‥按貪�に絞り込めFounders Fundのポートフォリオは、5-7件の投資案件で構成されていて、他のVCとは比べ物にならないほど少ない。しかもその投資先は「数十億ドル規模」に成長する可能性がなければならない。�⊆虍�範囲を固めろバフェットと共通：投資は自分が本当に理解できるものに、現地の事情を知り尽くしている場所だけで行う。�Ｄ拘�的視点をもて真のイノベーションだけが投資の成功をもたらす。だが、イノベーションには時間が掛かる。�け�されているドアから入れトレンドとは逆に投資し、すぐれたイノベーションを認め、適切なタイミングを見定めるしか、法外な利益を上げることはできない。�ゥ丱坤錙璽匹鯣鬚韻�バズワードを多用して煙に巻く連中がいたら要注意で、すでに類似のテーマを手掛けている人間が背後に大勢いると考えていい。��自分の足で立てPayPalをeBayに売却してティールは$55Mを手にした。彼はこれを自社と、FacebookやParantirのようなスタートアップに投資し、さらなら成長を遂げた。�Ц任ねЬ�ティールにとって最大の財産は、長年培ってきた固い友情。ティールはPayPalでもPalantirでも自分の投資会社でも、スタンフォード時代の友人と共に仕事をしている。195：規模の経済米国国防省は、Palantirを標準ソフトウェアとして採用すれば、一式約1億ドルですむ計算だ。だが同省の調達責任者は2001年以降、軍需産業に発注した個別ソフトウェアのために60億ドル以上を拠出している。197：ブランディングPalantirに広報部門はない。むしろ力を入れているのは、今後も最高クラスのソフトウェア開発者と数学者を取り込むことだ。だがこうした人材は、チャレンジングな課題があればあるほど、Palantirでそれを解決することに魅力を感じて集まってくる。
2018年10月02日
ティール「スタートアップ10のルール」
ティールがあるインタビューで、「スタートアップを成功に導くための10のルール」について述べている。また、逆に、失敗の原因についても述べていて、真っ先に挙げているのが、「人選がまずかった」。いかにティールがチームに拘っているかがわかる。
因みに、他の4つは、「アイデアが悪かった」「タイミングを誤った」「独占の可能性がなかった」「製品が機能しなかった」。
�，�みは自分の人生の起業家である。��一つのことを、他の人を寄せ付けないほどうまくやろう。��きみの人生と会社に、自分との結びつきのある人を的確に配置しよう。互いに補い合える相手と組もう。�て叛蠅鬚瓩兇修Α６チ茲�らはさっさと身を引き、他社との競合を避けよう（競合他社と明確に差別化でき、競争に陥らない唯一無二の企業をつくる）。�ゥ侫Дぅ�起業家になるな（「起業家になりたい」ではダメ）。�Ε好董璽織垢簓照修世韻魎霆爐砲垢襪福�ステータスに惑わされて下した決定は長続きせず、価値がない。�Фチ茲鷲蕕姥い�するもの。まわりの人間を倒すことに夢中になってしまうと、もっと価値があるものを求める長期的な視野が失われてしまう。�─屮肇譽鵐鼻廚浪畭臧床舛気譴�ちだ。最新ホットトレンドに飛びついてはならない（バズワードまみれの投資話を聞いたらさっさと逃げろ）。��過去に執着するな。なぜ失敗したのかをすばやく分析し、あとは前を見て、方向を修正していこう。��成功に通じる秘密の道を探そう。その他大勢がすることを真似してはいけない。
2018年10月01日
PayPalはなぜ成功したのか？
先週お会いしたSVで仕事をして15年になるという方がこんなことを言っていた。
「SVでの起業の動機はカネです。一獲千金を夢見て、スタートアップに参加する。それで、1日15時間休みなく働く生活を3年続ける。ほとんどのスタートアップは3年のうちに潰れるので次を探すことになるが、さすがに『しばらく休みたい』と大企業に就職する。ここで、1日8時間勤務で、週末もしっかり休んで体を休める。そして、3年経った頃、チャンスがあればまたスタートアップに参加する。これを何度か繰り返すうち、一度当たれば上がりという世界」
スタートアップが十中八九失敗するというのは、古今東西同じなのだ。
ティールは創業者には「共通の前史」があることが望ましいと述べている。「そうでないと、スタートアップはギャンブルになる」さらに私が付け加えるとすれば、「共通の前史」は仕事を一緒にしていないと分からない。仲の良い友達同士で創業したものの、いざ仕事を一緒にしたら知らない側面が互いにあって、経営陣が空中分解したケースを何度か見ている。
60：「他人資本の新企業のCEOは、15万ドルを上回る年間報酬を受け取るべきではない」年収が30万ドルを超えると、「CEOは創業者というよりも政治家」のようにふるまい出し、現状維持に固執する。Box CEOアーロン・レビー10億ドル企業に育てたのに、給与はどの社員よりも低く、創業から4年が過ぎても自宅はワンルームマンションのままで、マットレス以外の家具を持っていない。62：PayPalの6人の創業者うち4人は高校時代に爆弾を作っており、5人は23歳にもなっておらず、4人は外国生まれで、そのうちの3人は共産圏出身。66：すぐれたビジネスセンスとすぐれたテクノロジーが完璧に共生多くのスタートアップが失敗するのはまさにこの点で、ビジネスかテクノロジーのどちらかに片寄りすぎている。それでは市場が求めるすぐれた製品を作ることはむずかしい。67：PayPalレフチンCTO詐欺防止アルゴリズムで2002年MIT Technology Reviewの「最近35年間のトップ100イノベーター」の一人に。彼のまわりには、昼も夜もシフト制で、製品チームが出したアイデアを速攻でソフトウェアに落とし込んでいく開発者が集まっていた。96：イノベーション文化・私たちは、人々が世界をよりよいものに変える製品を供給する・私たちはまだ、思い描いているもののほんの一部しか開発していない・無限の想像力を持つ小さなチーム（Palantir HPから）
