2018年09月
2018年09月30日
日本人の深層心理
日本人の深層心理を『古事記』やファンタジー作品などの分析を通して分析した1981年の名著。昔読んだはずだが、すっかり忘れている。
著者はユング派精神分析医で、京都大学教授。最後は文化庁長官を務めた人物。日本神話を読むと、「完全にどちらかを善なり中心なりとして規定せず、時にはどちらかがそうであるように見えても、次に適当なゆりもどしによってバランスが回復される」という。例えば、「国譲りによってアマテラス系が中心に位置したかと思えるのだが、崇神天皇の代に出雲系の『美和の大物主』を祭ることによって、これはまたもやカウンターバランスされる。何かを中心に置くかのように見えながら、その次にそれと対立するものによってバランスを回復し、中心の空性を守るという現象が繰り返し繰り返し日本神話に生じている」。
つまり、西欧文明では、真ん中に絶対神を置き、その対極に悪があるという「二元論」なのだが、日本は「中空構造」なのだ。
これは、権力においておそうで、「日本の場合の長は、リーダーと言うよりはむしろ世話役というべきであり、自らの力に頼るのではなく、全体のバランスをはかることが大切であり、必ずしも力や権威を持つ必要がないのである。日本にも時にリーダー型の長が現れるときがあるが、多くの場合、それは長続きせず、失脚することになる」という指摘は興味深い。
この辺り、陸続きで、かつ、厳しい気候風土で争いが絶えなかった欧州と、逆に、平和が平常で、戦争が非常であった日本との違いが反映してそうだ。戦争の時、優秀なリーダーがいなければ負ける。従って、西欧文明では、リーダーの素養を持つものを見つけだし、エリート教育を施して、リーダーシップに磨きをかける。そして、苛烈な競争を経て、実績を示したものがトップとなる。
これに対して、日本ではこうしたリーダー型人材をきらう。リーダーが現れると、上げ足を取り、仕事に関係のないゴシップで足を引っ張って引きずりおろそうとする。仕事ができる人より、人柄で選ぶのが日本だ。
その意味で、安倍首相が3回目の人民党総裁に選ばれたことは興味深い。歴代最長の政権になるかもしれない（これまでの最長は桂太郎の2886日）。今は、「失われた20年」と言われるほどの国難。このままいけば、増え続ける社会保障費で財政破綻するのは目に見えている。安倍首相がこれを解決できるかどうか分からないが、少なくとも、安定政権でなければ解決できないことは明白。
平成になって、あまりに政権寿命が短かったので、必然ともいえるだろう。海外と比べても、やはり財政破綻しかかっているイタリアを除ければ、どこも5-10年政権が続いている。
42：国譲りによってアマテラス系が中心に位置したかと思えるのだが、崇神天皇の代に出雲系の「美和の大物主」を祭ることによって、これはまたもやカウンターバランスされる。何かを中心に置くかのように見えながら、その次にそれと対立するものによってバランスを回復し、中心の空性を守るという現象が繰り返し繰り返し日本神話に生じている。60：日本の場合の長は、リーダーと言うよりはむしろ世話役というべきであり、自らの力に頼るのではなく、全体のバランスをはかることが大切であり、必ずしも力や権威を持つ必要がないのである。日本にも時にリーダー型の長が現れるときがあるが、多くの場合、それは長続きせず、失脚することになる。227：ヒトラーは神話にふさわしい道具立てや演出を好んだ夜空に映えて続くたいまつの行進は、神秘的な効果をもたらせる。彼の好みのワグナーの音楽は神秘的雰囲気をもたらすのに、まさに適切なものであった。228：ヴォータンは北欧神話の主神「嵐と狂奔の神であり、情熱と闘争心を解き放つものであり、さらには優れた魔術師、幻覚の使い手」嵐と狂奔の神としてのヴォータンは、ゲルマン全土にわたって信じられている。嵐の夜にはヴォータンの軍団が山野を駆け抜けてゆくという伝説に示されている。それは「怒り狂った軍団」であり、これこそナチスの軍団がヨーロッパ全土を駆け巡った姿にぴったりと思われる。244：母性原理と近代化父性原理は「切断する」こと、母性原理は「包含する」ことによってその機能を示す。つまり、母性はすべてを良きにつけ悪しきにつけ包みこんでしまい、すべての子どもを没個性的に平等化してしまうが、父性は子供をよい子と悪い子などと分割し、その強い切断の力によって、子供を厳しく鍛えてゆくものである。西洋の個人主義はこのような厳しい鍛錬を経てつくり出された、各人の自我の確立を土台としている。このような観点からみると、フィリピン人は日本人よりはるかに母性原理の強い生き方をしていることが、既に述べてきたことから明らかであろう。そして、母性原理に基づく美風に彼らが固執するとき、それは西洋から輸入した近代的な生き方と競合することになってしまうのである。
2018年09月29日
美術とは「見る」ものではなく、「読む」ものである
筆者は「欧米のエリートたちに美術史の素養が根付いている」という。その理由として、欧米における「美術」は、政治や宗教と違い一番無難な話題であると同時に、その国、その時代の宗教・政治・思想・経済的背景が現れていることを上げている。確かに、LBSの同窓会が美術館を借り上げて行われたり（そうした制度がある）、成功した同窓生が美術品のコレクションを学校に貸し出したりしている。
そして、「美術は見るものではなく読むもの」であるという。
「西洋美術は、伝統的に知性と理性に訴えることを是としてきました。古代から信仰の対象でもあった西洋美術は、見るだけでなく『読む』という、ある一定のメッセージを伝えるための手段として発展してきたのです」
『ダヴィンチコード』は正にこれをモチーフに話が展開した。
16：ギリシャ美術「なぜ、古代の彫像は『裸』だったのか？」キリスト教などの絶対的な神と違い、超人的である一方、喜びや怒り、そして愛憎といった人間的な感情をもった個性豊かな神々。ギリシャ人にとっての人間の姿は、この神から授かったものであり、美しい人間の姿は神々が喜ぶものと考えられていた。兵役につくことにより選挙権を得ていたスパルタでは、男子は7歳で家族と離れて兵士として訓練されていた。136：フランスが美術大国になれた理由ルイ14世が絶対王政を確立するために、政治だけでなく美術までも中央集権化し、国王の栄光を高めるために利用した。1648王立絵画彫刻アカデミー161：ナポレオンのイメージ戦略「国王」ではなく古代ローマ将軍と同じ「皇帝」という称号を使った。これはナポレオンが、古代ローマを強く意識していたから。ナポレオン時代の建築や室内装飾、そして家具などの工芸品は、ローマ帝国を強く意識した様式。パリの二つの凱旋門とヴァンドーム広場の記念柱も、古代ローマの凱旋門とトラヤヌス帝の記念柱の模倣。190：イギリスが美術の国として影が薄い理由（プロテスタントの）宗教改革によってイングランドでも聖像破壊運動が激化し、新たな宗教美術の制作が禁じられたどころか、それまでのものが破壊される。18世紀になるまで大陸の美術家と肩を並べる「自国の芸術家」が存在しなかった。224：アメリカ人が人気に火を付けた印象派ヨーロッパ人のように古典主義に対する先入観が薄いアメリカ人は、文化的コンプレックスを抱いていたフランスからもたらされる新しい美術を歓迎した。20世紀に入るとモネの名声はアメリカをはじめ世界各国に広がる。その結果、母国フランスでも「大家」扱いを受けるようになる。
2018年09月28日
ペイパル・マフィアの誕生
スタンフォード大学で哲学を専攻したティールは同大のLaw Schoolに進学し、弁護士になる。連邦控訴裁判所で事務官として働いたのち、苛酷な競争に勝ってNYの大手法律事務所Sallivan & Cromwellに移る。弁護士なら誰もが憧れるエリート法律事務所だが、「自分がなりたいのは弁護士ではない」と気づき1年経たずに退職。投資銀行Credit Suisseに転職し、数学の才能を活かして、デリバティブ・ディーラーとして働く。20代後半で既に10万ドルの収入になったが、NY暮らしは高くつく。1996年ティールはシリコンバレー（SV）に帰った。
おりしも、SVではインターネット革命が始まっていた。イリノイ大学の学生Marc Andreessenが世界初のWeb Browser "Mosaic"を開発したのが1993年。SVに移ったAndreessenはVCの出資を得て1994年にNetscapeを創業。同社は創業からわずか14か月後の1995年8月9日に上場する。売上$17M（損失$13M）でIPO時価総額は10億ドル。取引初日にはこれが27億ドルになった。赤字かつ創業から最短での上場記録だった。
スタンフォード大学でティールが行った特別講義「市場のグローバル化と政治的自由」を熱心に聴いていた聴講生の一人が、ウクライナ出身のMax Levchin(23)。彼は1991年のソ連崩壊後、無国籍者として両親とともに米国に渡る。レフチンは携帯情報端末の暗号化ソフトウェアのアイデアを持っていた。ティールは当初、投資家として参加するつもりだったが、レフチンに説得されてCEOに就任。
かつて投資銀行に勤め、金融業界に明るいティールは、データの暗号化技術に潜在需要があるのは「送金」だと思いつく。ここからPayPalの創業物語が始まる。レフチンは母校イリノイ大学からSE三人を連れてくる。ティールは大学新聞Stanford Review編集部時代の仲間を経営陣に引き入れる。
高い技術力がある一方、経営上の問題も多かったPayPalの同僚たちは、幾多の修羅場を乗り切り、「戦友」意識が高まる。その後のIPOや会社売却でそれぞれが富豪になった後も、互いに情報交換し、起業を助け、投資しあう、SV最強と言われる「ペイパル・マフィア」を形成する。
43：新規ユーザーと既存ユーザーの「お友達招待」に$10プレゼント1999年7月 Series A Nokia Ventures/ドイツ銀行 $4.5M1999年10月にPayPalという銘柄で正式にスタートしてからわずか数か月後の2000年3月ユーザー数は100万人を突破。2000年1月 Series B GSの参加を得て$23Bを調達。50：9/11直後にまさかの上場2002年2月15日NASDAQ上場IPO8億ドル（$13）→終値$2052：15億ドルでeBayに売却2002年7月8日eBayによるPayPal買収発表→10月に完了53：PayPal Mafia1960-80年代「8人の反逆者」Fairchild Semiconductor創業者→IntelPayPal Mafia→Tesla, SpaceX, LinkedIn, Youtube (Facebook)
2018年09月27日
はじまりの地、スタンフォード大学
ティールは移民の子だ。西ドイツに生まれ、1歳のときに一家で米国移住した。父親は化学エンジニアで、オハイオ州クリーブランドのケース・ウェスタン・リザーブ大学で土木を学ぶ。
幼少の頃を過ごしたクリーブランドはティール家が移住してから衰退の一途をたどった。市の経済を支えていた重工業が衰退し、治安は悪化。1970年代には”Mistake on the Lake"（湖岸の過ち）と呼ばれ、2007年の「全米危険な街ランキング」では第7位となっている。
6-9歳までは父親がアフリカの鉱山で働いたため、スワコプムント（現ナミビア）で過ごす。チェスに夢中だったという。こうした対戦型のゲームが好きというのは経営者に多い特徴か。
そして、帰国後、まずはクリーブランドに戻るが、翌1977年にスタンフォード大学の北にあるフォスターシティに引越し。テストの1回1回が「死ぬか生きるか」の戦いで、「競争に勝つことばかり考えていた」という。高校をオールAで卒業したティールには、出願したすべての大学から合格通知が来た。
ハーバードにも受かったが、彼が選んだのは地元のスタンフォード大学だった。そこでティールはさらに、意外な選択をする。理数系が得意だったのに関わらず、哲学を専攻したのだ。そして、哲学の講義で出会ったのが、後にPayPalを一緒に経営することになるReid Hoffman。
今にいたるまで、ティールの仕事はスタンフォード大学での人脈が中心になっている。PayPalの社員はヘッドハンターを介さず、直接スタンフォードの関係者から集められた。特にStanford Review（保守系の学生新聞）の編集長をつとめたKen Hawari, David Sacks, Reid Hoffmanだ。
16：1967年10月11日西ドイツのフランクフルト生まれ1歳のときに両親とともに米国（Cleveland）に移住19：数学的・論理的思考能力チェス選手として13歳未満の部門で全米7位23：スタンフォード大学哲学専攻〜リード・ホフマンと出会う
2018年09月26日
反逆の起業家
日本ではそれほど有名ではないが、アメリカ人ならだれでも知っているビジネスマンPeter Theil。最初に有名になったのは世界最大のオンライン決済サービスPayPalの共同創業者として。ITバブル崩壊後も順調に業績を伸ばしたPayPalをeBayに$1.5Bで売却。その資金でベンチャー投資を始め、Facebookの最初の外部投資家となった。そしてCIAやFBIを顧客に持つ謎のBig Data解析企業Palantirの共同創業者である。
PayPalからは、Elon Musk（Tesla Motors/SpaceX)、Reid Hoffman (LinkedIn）、Jeremy Stoppelman (Yelp)など、現在のシリコンバレーを代表する起業家が次々と生まれている。固い絆で結ばれた彼らはPayPal mafiaと呼ばれ、Theilはその首領としてその名をとどろかせている。（はじめに）
そして、Theilはトランプ大統領支持者だ。2016年の選挙戦では125万ドルを寄付し、当選後は大統領の政策顧問を務めている。一般的に、シリコンバレーはリベラルで、反トランプ大統領が多い中で異例だ。
またこれは、トランプ大統領の支持層が、「中西部の、IT革命から取り残された低所得層」という理解からも外れている。TheilはIT革命を先導する起業家であり、世界トップクラスの富裕層だ。
内容豊富なので、数回に分けて紹介したい。
2018年09月25日
宇宙からやってきた植物⁉
食料として世界中で利用されるばかりでなく、工業用アルコールや段ボールなどの資材、石油代替のバイオエタノールなど、現代社会はトウモロコシなしでは回らないほどだ。その結果、世界で最も多く作られている農作物は、コムギでもなく、イネでもなく、トウモロコシだということ。
そのトウモロコシは「宇宙からやってきた
」という話が出るほど、不思議な植物らしい。「トウモロコシには明確な祖先種である野生植物がない。たとえば私たちが食べるイネには、祖先となった野生のイネがある。また、コムギは直接の祖先があったわけではないが、コムギの元となったとされるタルホコムギやエンマコムギという植物が明らかになっている。ところがトウモロコシは、どのようにして生まれたのか、まったく謎に満ちている。（中略）
植物は種子を散布するために、さまざまな工夫を凝らしている。たとえばタンポポは綿毛で種子を飛ばすし、オナモミは人の衣服に種子をくっつける。ところが、トウモロコシは、散布しなければならない種子を皮で包んでいるのだ。（中略）つまり、トウモロコシは人間の助けなしに育つことができないのだ。まるで家畜のような植物だ」(p190）
初めから作物として食べられるために作られたかのような植物なので、宇宙人が古代人の食料としてトウモロコシを授けたのではないかと噂されている。
2018年09月24日
ダイズ：戦国時代の軍事食から新大陸へ
世界の四大文明には、それぞれ主要な作物がある。
「メソポタミア文明やエジプト文明には、オオムギやコムギなどの麦類がある。また、インダス文明にはイネがあり、そして中国文明にはダイズがある。アメリカ大陸に目を向けると、アステカ文明やマヤ文明のあった中米はトウモロコシの起源地であり、インカ文明のあった南米アンデスはジャガイモの起源地である」
これらの古代文明の中で、現在でも同じ位置に残るのは中国文明のみ。これには中国文明を支えたイネとダイズが大きく影響していると考えられる。通常、農耕を行い農作物を収穫すると、作物が吸収した土中の養分は外へ持ち出されるので、作物を栽培し続けると土地がやせる。また、特定の作物を連続して栽培すると、ミネラルのバランスが崩れ、食物が出す有害物質によって、植物が育ちにくくなる（連作障害）。こうして、早くから農耕が始まった地域では砂漠化して、文明も滅んでいく。
しかし、イネは水田で栽培すれば、山の上流から流れてきた水によって栄養分が補給される。また、余分なミネラルや有害物質は、水によって洗い流される。そのため、連作障害を起こさず、同じ田んぼで毎年、稲作を行うことができるのだ。
さらに、マメ科の植物はバクテリアとの共生によって、空気中の窒素を取り込める。そのため、窒素分のないやせた土地でも栽培可能で、他の作物を栽培した後の畑で栽培すれば、地力を回復させ、やせた土地を豊かにすることもできる。
162：中国4千年の文明を支えた植物中国では、北部の黄河流域にはダイズやアワを中心とした畑作が発達し、南部の長江流域にはイネを中心とした水田作が発達した。166：コメとダイズは名コンビさまざまな栄養素を持ち完全栄養食と言われるコメであるが、唯一、アミノ酸のリジンが少ない。このリジンを豊富に含んでいるのがダイズ。167：戦国時代の戦陣食発酵食品である味噌は、保存が利く。しかも、干したり焼いたりして味噌玉にすれば、簡単に携帯できる。そして、お湯に溶けば簡単に味噌汁にすることができるし、野草を摘んで具にすれば、栄養を補給することができる。
2018年09月23日
サトウキビ：人類を惑わした甘美なる味
プランテーション農業の始まりは、サトウキビであったらしい。もともと自然豊かで食べ物に困らない西インド諸島の先住民は労働らしい労働をせずに暮らしていたはずだ。ところが、コロンブスによって発見されたばかりに、コロンブスによって持ち込まれたサトウキビ畑で強制労働させられるようになる。
スペイン人がもたらした耐性のない伝染病の流行と重労働で先住民は死に絶えてしまい、その労働力を補ったのがアフリカから連れてこられた黒人奴隷。もともとの住民は黒人ではなく、アメリカ大陸同様、インディオが住んでいたのだ。
154：プランテーション農業の始まりサトウキビは食料ではない。嗜好品である。サトウキビがなければ飢え死にしてしまうということはないし、砂糖ばかりがたくさんあっても人は生きていくことはできない。しかし、富を求めるスペインの支配によって、豊かな島の森は焼き払われて広大なサトウキビ畑となった。155：アメリカ大陸と暗黒の歴史奴隷貿易は、サトウキビ栽培だけでなく、綿花栽培など工業原料となる作物生産にも応用されていった。こうして1451年から奴隷制が廃止される1865年までの間に、940万人にものぼるアフリカの人々が奴隷としてアメリカ大陸に運び込まれたのである。157：それは一杯の紅茶から始まった世界の三大飲料とされる紅茶、コーヒー、ココアはすべてヨーロッパの人々にとって異国の飲み物。これらの飲み物は、中枢神経を興奮させる覚醒作用を持つカフェインを含んでいる。そのために強壮剤として人気があった。しかし、カフェインは苦み物質でもあり、これらの飲み物はすべて苦い。ところが、砂糖の存在がこれらの飲み物を魅惑の味に変えていくのだ。
2018年09月22日
チャ：アヘン戦争とカフェインの魔力
1688-89年の名誉革命で王妃メアリに迎えられたメアリ（追放されたジェームズ2世の娘）は、オランダに伝えられていた茶をイギリスに持ち込む。当初、イギリスの上流階級の女性たちの間に広まった茶は、産業革命が起こると工場労働者にも広まっていく。
庶民まで飲むようになった茶は引き続き中国（清朝）から輸入されている。ところが、清国から輸入するものはない。イギリスの貿易赤字は拡大し、大量の銀が流出していく。
そこでイギリスが企てたのが植民地のインドを入れた三角貿易。インド綿の紡績で始まった産業革命は、インドの伝統的綿織物業を壊滅させる。そのインドで麻薬原料となるケシを栽培し、ケシから作り出したアヘンを清国商人に売った。
1840年に起こったアヘン戦争の結末はご存知の通り。アヘン戦争がなければ、明治維新は起こらなかった可能性があるし、イギリスで名誉革命がなければ、それまで通りイギリス人はコーヒーを飲んでいてアヘン戦争は起こらなかった可能性が高い。
136：ヨーロッパで最初にチャを飲んだのはオランダ人やがてイギリスで名誉革命が起こり、国王が追放されると、オランダからウィリアムが王妃メアリとともに国王として迎えられた。そして、メアリはオランダからチャをイギリスに伝え、東洋では身分の高い者のたしなみらしいチャは、イギリスの上流階級の女性たちの間で広まっていく。138：産業革命を支えたチャイギリスでは、赤痢菌など水が媒介する病気の心配があった。そのため、農業労働者たちは、水の代わりにビールなどのアルコール類を飲んでいた。しかし、休みなく働く機械とともに工場で働く労働者たちは、ほろ酔いで働くわけにはいかない。チャは抗菌成分を含むので、十分に沸騰していない水で淹れても病気の蔓延を防ぐことができる。しかも眠気を覚まし、頭をすっきりさせてくれる。そのため、労働効率を上げるのに最適な飲み物だったのである。144：インド紅茶の誕生チャという植物には二種類ある。一つが中国で栽培された「中国種」と呼ばれるもの。中国種は、寒冷地で生育できるように適応して、葉が小さく変化している。（中略）一方、インドで発見されたチャが、現在「アッサム種」と呼ばれるもの。アッサム種はインドのような暑い気候に適応して、葉が大きい。（中略）アッサム種は、熱帯で病害虫が多いので、抗菌作用のあるカフェインの含有量が多い。緑茶はアミノ酸の旨味を愉しむ飲み物であるが、紅茶はカフェインの苦みを楽しむものである。そのため、アッサム種は紅茶に向いている。146：カフェインの魔力カフェインは、アルカロイドという毒性物質の一種で、もともとは植物が昆虫や動物の食害を防ぐための忌避物質であると考えらえている。このカフェインの化学構造は、ニコチンやモルヒネとよく似ていて、同じように神経を興奮させる作用がある。
2018年09月21日
イネ：稲作文化が「日本」を作った
「戦国時代の日本では、同じ島国のイギリスと比べて、すでに6倍もの人口を擁していた」という。その人口を支えたのが、「田んぼ」というシステムと、「イネ」という作物だった。
人口100万人、世界最大の都市だった江戸を可能にしたのはずば抜けて生産効率の高いネだったのだ。ヨーロッパでは、三圃式農業という、ジャガイモと豆類など夏作物を作る畑と、コムギを栽培する畑と、作物を作らずに畑を休ませるところの三つに分けてローテーションして土地を利用したということは高校の世界史で習った。
「これに対して日本の田んぼは毎年、イネを育てることができる。一般に作物は連作することができない。イネのように毎年、栽培することができるというのは、実にすごいことなのである」
37：呉越の戦いが日本の稲作文化を作ったこの戦いに敗れた越の国の人々は、山岳地帯へと落ち延びた。そして、険しい山の中に棚田を拓いた。一方、海を渡った難民たちは日本列島に漂着した。当時の日本はすでにイネは伝わっていたと考えられているが、越の人々が伝えた稲作技術は、日本に稲作が広がる要因の一つになった。39：イネを受け入れなかった東日本縄文時代中期の100㎢当たりの人口密度は、西日本ではわずか10人未満であったのに対して、東日本では、その数十倍の100-300人であったと推計されている。豊かな落葉樹林が広がる東日本は、大勢の人口を養うのに十分な食料があったのである。人口を支える食料が不足する西日本では稲作は急速に広まったが、十分な食料がある地域では、労働を伴う農業は受け入れられなかった。43：イネは極めて生産効率が良い作物日本列島は東南アジアから広まったイネの栽培の北限にあたる。イネはムギなどの他の作物に比べて極めて生産性の高い作物である。イネは一粒の種もみから700-1000粒のコメがとれる。これは他の作物と比べて驚異的な生産力である。15世紀のヨーロッパでは、小麦の種子をまいた量に対して、収穫できた量はわずか3-5倍だった。これに対して17世紀の江戸時代の日本では、種子の量に対して20-30倍もの収量があり、イネは極めて生産効率が良い作物だった。44：コメは栄養価に優れている炭水化物だけでなく、良質のタンパク質を多く含む。さらにはミネラルやビタミンCも豊富で栄養バランスも優れている。そのため、とにかくコメさえ食べていればよかった。唯一足りない栄養素は、アミノ酸のリジンである。ところが、そのリジンを豊富に含んでいるのがダイズである。そのため、コメとダイズを組み合わせることで完全栄養食になる。ご飯と味噌汁という日本食の組み合わせは、栄養学的にも理にかなったものなのだ。46：田んぼを作る途方もない労力と時間を掛けて、人々は川の氾濫原を田んぼに変えていった。日本の国土にとって、田んぼを作る歴史は、激しい水の流れをコントロールすることに他ならなかった。
2018年09月20日
ジャガイモ：大国アメリカを作った「悪魔の植物」
映画「オデッセイ」（原題：The Martian）で、火星に取り残された宇宙飛行士（マット・デイモン）が最初にしなければならなかったのは水と食料の確保。燃料を室内で燃やし水を生成。排泄物を有機肥料にして栽培したのはジャガイモだった。火星での食料生産は予定に入っていなかったので、持ち込まれた食料の中で増やすことができたのは、芋から増やすことのできるジャガイモだけだったのだ。
この南米アンデスの痩せ地からヨーロッパにもたらされた野菜は世界史を変えた。それまで冬の間家畜を飼う飼料のなかったヨーロッパでは穀物を食べており、温暖なアジアほど人口は増えなかった。ジャガイモがもたらされたことで豚の飼育が盛んになり、通年豚肉の供給が可能になった。
また、ビタミンCが豊富で保存のきくジャガイモは遠洋航海を可能にした。それまではビタミンC不足による壊血病で船員の大半が死亡するのが普通だったのが、ジャガイモによって安定した長い航海ができるようになったのだ。ジャガイモがなければ、大航海時代は訪れず、ヨーロッパ諸国による世界の植民地化も無かったことになる。
この南米アンデスの痩せ地からヨーロッパにもたらされた野菜は世界史を変えた。それまで冬の間家畜を飼う飼料のなかったヨーロッパでは穀物を食べており、温暖なアジアほど人口は増えなかった。ジャガイモがもたらされたことで豚の飼育が盛んになり、通年豚肉の供給が可能になった。
また、ビタミンCが豊富で保存のきくジャガイモは遠洋航海を可能にした。それまではビタミンC不足による壊血病で船員の大半が死亡するのが普通だったのが、ジャガイモによって安定した長い航海ができるようになったのだ。ジャガイモがなければ、大航海時代は訪れず、ヨーロッパ諸国による世界の植民地化も無かったことになる。
89：ジャガイモはナス科の植物だが、ナス科の植物には有毒なものが多い。魔女が使ったとされる有毒植物のヒヨスやヘラドンナ、マンドレイクはナス科の植物であるし、日本では幻覚で鬼を見ることから鬼見草の別名を持つハシリドコロもナス科である。また、ナス科のチョウセンアサガオやホオズキも有毒植物である。そして、ジャガイモも葉が毒を持つのである。90：ジャガイモは「聖書に書かれていない植物」であった。聖書では、神は種子で増える植物を創ったとされている。ところが、ジャガイモは種子ではなく芋で増える。ヨーロッパの人々にとって、芋で増えるジャガイモは奇異な植物だったのだろう。西洋では、聖書に書かれていない植物は悪魔のものである。そして、ジャガイモは「悪魔の植物」というレッテルを貼られてしまったのである。93：ジャーマンポテトの登場牛はジャガイモを食べることができないが、ジャガイモを餌として食べる家畜がいる。それが豚である。こうして豚のベーコンやハム、ソーセージもまた、ジャガイモとともにドイツの食卓を彩っていくのである。そしてジャガイモは、それまで穀物を食べていたヨーロッパに肉食を広めていく要因にもなっていくのである。98：大航海時代の必需品ヴァスコ・ダ・ガマの船隊は、180人の船員のうち、100人が壊血病で死亡。海上生活では野菜を食べることができないため、壊血病はビタミンC不足が原因。ジャガイモが航海食として用いられるようになると壊血病は減少。ジャガイモはビタミンCを豊富に含ん貯め、ジャガイモを食べると壊血病を防ぐことができる。しかもジャガイモは貯蔵性に優れている。ジャガイモによって安定した長い航海が可能になった。106：カレーライスの誕生イギリスではスパイスを組み合わせてカレー粉を開発。カレー粉の発明によって、カレーは簡易にできる料理になり、イギリスの船乗りたちは、日持ちのしない牛乳の代わりに保存性の高いカレーパウダーを利用してシチューを作った。このシチューに、航海食として欠かせなかったジャガイモが入れられた。こうして、カレーはイギリス海軍の軍隊食となった。108：日本海軍の悩み軍医の高木兼寛は、原因は不明であるものの西洋式の食事をとる上官は脚気が少ないことに気が付く。西洋料理では、ビタミンB1を含む肉類やジャガイモを食べるため、脚気は問題にならなかった。1902年に日英同盟が結ばれると、イギリス海軍を見習って日本の軍隊でもカレーライスが食べられるようになった。その後、日露戦争が終わると、兵役を終えた兵士たちによってカレーライスは家庭へと普及していった。
2018年09月19日
人類の歴史は、植物の歴史
先月読んだ『炭素文明論』にも重なる部分があるが、こちらは植物学者が書いた、植物の歴史から見た人類の歴史。
「人類は植物を栽培することによって、農耕をはじめ、その技術は文明を生みだした。植物は富を生みだし、人々は富を生みだす植物に翻弄された。人口が増えれば、大量の作物が必要となる。作物の栽培は、食料と富を生み出し、やがては国を生み出し、そこから大国を作りだした。富を奪い合って人々は争い合い、植物は戦争の引き金にもなった」（はじめに）
そう考えれば、人類は、「自分たちの欲望に任せて、植物を思うがままに利用してきた」（あとがき）と考えられるが、著者は「そうは思わない」という。植物にとって最も重要なことは、「種子を作り、種子を広げること」。植物は種子を残し、分布を広げるために生きている。
そう考えれば、人類が世界中で植物を栽培しているのは、「鳥たちが甘い果実に狂喜し、アリがエライオソームのついた重たい種子を運ばされているのと、何か違いがあるだろうか」ということになる。「一面に広がる田畑で、栽培作物は、人間たちに世話をされて、何不自由なく育っている。そして人間は、せっせと種をまき、水や肥料をやって植物の世話をさせられているのである」
2018年09月18日
「欲しい」の本質
「アンケート調査は画期的な新商品を作るのには役に立たない」ということは、これまで多くの起業家が指摘してきた。古くは、ヘンリー・フォード（「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」）、最近だと、スティーブ・ジョブズ（「多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ」）など。
では、アンケート調査などせず、直感に頼って作ればいいのかというと、これもダメ。世の中、作り手の思い込みで莫大な開発費・製作費をかけて売り出したものの、ほとんど売れなかったという商品で溢れている。
では、どうするか？本書は、「人を動かす隠れた心理（インサイト）を見つける」ことが大事だとし、その見つけ方を具体的に示している。
＊消費者は一体、何を「欲しい」と思っているのか？本人すら気づいていない隠れた欲求「インサイト」を見つけ出し、アイデアを開発する。・インサイト＝人を動かす隠れた心理�．掘璽鵝幣賁漫法Т蕎陲�生まれた場面。行動や状態を伴う。�▲疋薀ぅ弌次文酸�要因）：感情を生み出す元となった直接的な要因��エモーション（感情）：気分や気持ち、情緒。�ぅ丱奪�グランド（背景要因）：感情が価値（または不満や未充足）である背景的な理由Key Insight:隠れた不満や欲求のエッセンスValue Proposition:Key Insightを充たす価値提案Idea:その提案された価値を体験させる具体策・インサイトを明らかにする方法文章完成法：「虫食い」部分を設けた文章を調査対象者に示し、その空欄を自由に補わせ、全文を完成させる。行動観察：調査対象者が行っている行為を観察し、アンケートなどでは得られない「非言語化」情報を収集する。・上記から得られたデータをもとに、4要素を一つの文章にしてチェックし、インサイトを読み解いていく。→アイデアを開発する。【インサイトの対象】は、【シーン】な時、【ドライバー】が、【エモーション】な気持ちにさせる。それは、【バックグラウンド】だから。（例）「お茶漬けのりは、一人でお茶漬けを食べる時、顆粒のカサッカサッという音が、孤独でさみしい感じにさせる。それは、孤食化で一人の食事が増えているから」
2018年09月17日
貨幣とは何か？
特に外出予定のない三連休に経済学の古典？を読んでみる。初版が出たのは1993年だから、今から25年前。不動産融資の総量規制でバブル経済は崩壊しつつあったが、大半の国民は他人事として捉えていた。株も不動産も持たない庶民は自分には関係ないと思っていたのだ。
テーマになっているのは、「貨幣とは何か」と、貨幣が誕生したことによって必然的に起こることになった「恐慌」。主に、マルクスの『資本論』と新古典派経済学、そしてケインズ経済学を軸に話は展開していく。
「剰余価値の創出という原罪」という考えが興味深い。
「わが人類は労働市場で人間の労働力が商品として売り買いされるよりもはるか以前に、剰余価値の創出という原罪をおかしていたのである。それは、貨幣の『ない』世界から貨幣の『ある』世界へと歴史が跳躍したあの『奇跡』のときのことである。その瞬間に、この世の最初の貨幣として商品交換を媒介しはじめたモノは、たんなるモノとしての価値を上回る価値を持つことになったのである」（p216）
どういうことか？「メルカリ経済」を考えてみると分かりやすい。メルカリというサービスが一般化したことで、それまでほとんど商品価値がなかったものにも値段が付いた。例えば、トイレットペーパーの芯が出品され、実際に購入する人がいる。子供の夏休みの工作に使うのだそうだ。
あるいは、不要になったらメルカリで売ることを前提に買うという購買活動も生まれた。最初から再版しやすいものを選んで買う。間違った買い物をすれば損失が大きいので慎重に購買していたのが、気に入らなくても、あるいは後で不要になっても、転売で購入金額の大半が回収できると分かれば、気楽に購入できる。
「メルカリ経済」が全体として、購入を促すことでインフレ効果を持つのか、それとも、中古品が容易に入手できることで新品の購入を控えさせデフレ効果を持つのか不明だが、貨幣の発明は、商品交換を容易にすることで剰余価値を生み出した。モノとしての価値を上回る貨幣の貨幣としての価値は小さな「奇跡」のたびごとに大きさを拡大していく。
序：マルクスの恐慌待望論商業恐慌・・・・は、周期的にくりかえしながら、ますます急迫的に全ブルジョア社会の存立を脅かす。この商業恐慌では、つくりだされた生産物の大部分ばかりではなく、これまでにつくられた生産諸力の大部分さえ、破壊されるのが通例である。（『共産党宣言』大内兵衛・向坂逸郎訳）序：だが、いまだかつて恐慌によって滅びさった資本市議社会があっただろうか？歴史は、資本主義社会がくりかえしくりかえし襲ってくる恐慌の試練をくぐりぬけながら現在まで生きのびてきたことを教えている。27：価値体系の科学『資本論』の出版からまだ何年も経っていない1870年代の初頭に、イギリスのジェヴァンズ、オーストリアのメンガー、フランスのワルラスによってそれぞれ独立に発表された新古典派の経済理論のほうが、価値体系の科学としては比較にならないほどの「進化」をとげている。方法論的個人主義にもとづくこれらの新古典派経済学者は、消費者の主観的な選択と生産者の技術的な選択とを分析する手法としての限界原理（微分法）を駆使して、古典派やマルクスの労働価値論を特殊モデルとして葬り去ることになる。99：貨幣存在の無根拠性自然は真空をきらい、人間は空虚をきらう。貨幣商品説も貨幣法制説も、結局、貨幣という存在の中核にある空虚に耐えることができずに、それをなんらかの実体で埋めつくそうとするこころみにすぎない。149：恐慌の可能性もしマルクスの『資本論』、さらにはのちに触れるように、ヴィクセルの『利子と物価』やケインズの『一般理論』が、古典派や新古典派の経済理論から本質的な意味で区分されるところがあるとしたならば、それはそれらが資本主義社会の存立構造そのものの中に「恐慌の可能性」を見いだしたところにあるはずである。170：不均衡累積過程と恐慌の現実性ヴィクセルの不均衡累積過程の理論は、「見えざる手」という神話をうちこわすことによって、恐慌という現象をたんなる可能性の領域から現実性の領域へと移すことに成功した。だが、それは、『利子と物価』という本の題名からも推察されるように、あくまでも物価の変動を説明するための理論でしかない。
2018年09月16日
日本ならではの車
以前も読んで紹介したのだけど、今年文庫本が出たので再読。結局、徳大寺有恒さんが生涯をかけて問いかけていたものは、「文化としてのクルマ」なのだろう。車の性能や速さだけなら書けるライターはいくらでもいただろうが、深い教養をもって「文化としてのクルマ」を語れる人が稀だったため、稀有な自動車評論家として長年生き残ることもできた。
そんな徳大寺さんがVW GolfやJaguarなど「哲学」のあるクルマを好んだのは当然だが、一方で、日本の車業界を心配していた。壊れないことと割安なことで1970年代から世界を席巻した日本車だが、品質を上げた韓国車に安さでは勝てない。新興国での現地生産も本格化している。現在に至るまで50年間も自動車産業は日本最大の輸出産業だ。
「日本人の琴線に触れ、かつそれが世界的な説得力を持つ日本ならではの車」を問いながら2014年に急逝した。日本人に好まれながら（＝日本で売れている）、かつ世界的な説得力を持つというのが難しい。日本市場に特化したばかりに「ガラパゴス化」し、結果、世界的競争力を失った例は携帯電話だけではない。
それに現時点で答えを出すとすれば、トヨタ・アルファードに代表される高級ミニバンではないかと思う。国内はもちろん、アジアの富裕層に大変な人気で、中古車はほとんど値下がりせずに買い取られ、輸出に回っている。アジアの多くの国で車は贅沢品として100%以上の関税がかけられているが、それをものともせずに1000万円もする中古アルファードが右から左に売れている。新車なら1500万円する。
ミニバンは米国で始まったが、それはあくまで大人数が荷物と一緒に移動できるという実用性から。欧州では今も乗用車が中心。「御座敷」がそのまま移動するような高級ミニバンは日本独特の発展で、しかも、それが今のところアジアに限られるとはいえ、受け入れられている。今後、どうなるか、興味深い。
ミニが体現したイギリス車の精神（ダンディー・トーク２ 1992）
33：ミニを最初に認めたのは、イギリスの一般大衆ではなく、むしろロールス/ベントリィを日常的に使用している上流階級だった。ミニが、単なる”大衆車”の枠組みを超えた独自の価値を持つクルマであると見抜くには、やはりある程度の教育と教養のレベルが必要だったのかもしれない。
名車ブームの陰に隠れた本当の名車（続・間違いだらけのクルマ選び 1977）
91：富士重工と日産からは、スバル1000とブルーバード510という名車も生み出された。スバル1000は昭和41年（1966）にデビューしたクルマで、ときはマイカーブームのはしりのころだった。このクルマ、FWDと水平対向4気筒という斬新なデザインをもっていて、当時のカローラやサニーとは同一レベルで論じられないほど革新的だった。スペースユーティリティと乗り心地は2クラス以上も上のもので、このクルマを下敷きにイタリアの名車アルファ・スッドができたということを考え合わせれば、その優秀性がよくわかろうというものだ。
アメリカマーケットにおもねることで、日本車はダメになっている！（2002年夏版 間違いだらけのクルマ選び）
251：クルマはハイテクだけじゃない。日本人の琴線に触れ、かつそれが世界的な説得力を持つ、そういうクルマを望みたい。それにはクルマの作り手が日本の文化、歴史を本気で受け止め、自分の骨肉とすることだ。外国ばかりに手本を求め、それを器用にコピーするのではなく、地道に自分の足元を見つめ、自分なりの価値観を構築する。それ以外に道はあるまい。
2018年09月15日
世界を変えた書物展
上野の森美術館で開催中の「世界を変えた書物展」へ。金沢工業大学が持つ、世界に大きなインパクトを与えた科学技術本の初版が展示されている。教科書で習ったあの本、この本が130冊もある。無料ということもあり、雨にもかかわらず大変な人気だった。
例えば、天動説を唱えたコペルニクスの『天球の回転について』（Norimbergae 1543）。そして、ニュートンの『自然哲学の数学的原理』（London 1687）。
興味深いのは、これらの本の大半が、ラテン語で書かれていること。ラテン語はローマ帝国の公用語としてヨーロッパ全土に広まり、2000年にわたってヨーロッパで教会や学問の共通言語として用いられてきた。戦前まではイギリスのパブリックスクールでも必修科目であり、小説＆映画「チップス先生さようなら」のチップス先生もラテン語の教師だった。
母国語で書かれるのが一般的になったのは「カント以降」らしい。ドイツ語で書かれた代表作『純粋理性批判』第一版が出たのが1781年。それまではドイツの大学でも、論文はラテン語で書く必要があり、カントの修士論文や博士論文をラテン語で提出している（学部はドイツ語）。1764年に出版された『美と崇高性との感情に関する観察』の自家用本に、カントは「何も知らない下層民を見下していた」が、「ルソーがその私を正してくれた」「私は人間性を敬うことを学ぶ」と書き込みでいるそうだ。
母国語で書くことで、ラテン語を習っていない一般大衆にも（当時の知識階級は限られているから民衆の大半）読んでもらおうということだったのか。
例えば、天動説を唱えたコペルニクスの『天球の回転について』（Norimbergae 1543）。そして、ニュートンの『自然哲学の数学的原理』（London 1687）。
興味深いのは、これらの本の大半が、ラテン語で書かれていること。ラテン語はローマ帝国の公用語としてヨーロッパ全土に広まり、2000年にわたってヨーロッパで教会や学問の共通言語として用いられてきた。戦前まではイギリスのパブリックスクールでも必修科目であり、小説＆映画「チップス先生さようなら」のチップス先生もラテン語の教師だった。
母国語で書かれるのが一般的になったのは「カント以降」らしい。ドイツ語で書かれた代表作『純粋理性批判』第一版が出たのが1781年。それまではドイツの大学でも、論文はラテン語で書く必要があり、カントの修士論文や博士論文をラテン語で提出している（学部はドイツ語）。1764年に出版された『美と崇高性との感情に関する観察』の自家用本に、カントは「何も知らない下層民を見下していた」が、「ルソーがその私を正してくれた」「私は人間性を敬うことを学ぶ」と書き込みでいるそうだ。
母国語で書くことで、ラテン語を習っていない一般大衆にも（当時の知識階級は限られているから民衆の大半）読んでもらおうということだったのか。
2018年09月14日
消費者にとってもよいカルテル⁉
資本主義の基本は自由競争なので、どの国にも独占禁止法があり、特定の企業が市場をコントロールすることを禁止している。市場シェアが高くなりすぎる時は合併や買収を認めないし、既に高すぎる場合は企業分割を強制することすらある。かつて、米国では旧AT&Tがこれで企業分割され、通信分野の競争が一気に高まった。日本電信電話公社は民営化されたものの、分割は免れ現在に至っている。
ところが、何事にも例外はあるもので、消費者の利益にもなったカルテルがあった。それは、デビアスがコントロールするダイヤモンド市場。希少性からいえば、もっと稀な宝石が沢山あるのに、なぜダイヤモンドは長年に渡って最も高価な宝石であり続けるのか
世界で初めて婚約指輪を送ったのは1477年、オーストリア大公マクシミリアン1世だそうだ。婚約者のためにダイヤモンドの指輪を作らせ、これがヨーロッパの王室と貴族に大流行する。当時のダイヤモンドはインドの限られた河川でしか見つからなかったため、大変高価であった。
だが、1869年に南アフリカで広大なダイヤモンド鉱脈が発見される。採掘が進むと、ダイヤモンド価格は下がり出し、その後数十年にわたって下落した。価格が下がると、大衆の手にも届く。王室をまねて、婚約時にダイヤモンドの指輪を贈る風習が一気に広がる。庶民がダイヤモンドを身につけるようになると、逆に、上流階級はダイヤモンドを好まなくなる。そうなると、大衆にとってもダイヤモンドは輝きを失い始める。
そこに登場したのがセシル・ローズ率いるデビアス。同業他社との合併で市場独占に成功する。デビアスが供給量を調整し、ダイヤモンド価格をコントロールすることで、値段が下がらない。指輪は「永遠に」その象徴的価値を保つ。
生活必需品でないダイヤモンドは、消費者にとっても値段が下がらないほうがいいのだ。
2018年09月13日
Slurp! ホットな国民食からクールな世界食へ
「蕎麦をバカにしてはいけない」は、現在に続く製麺所タイプ讃岐うどんブームを作った「麺通団」の会則の一つだが、バカにするどころか、うどん以上に日本各地で愛され、世界に広がっているのがラーメン。何しろ、ほとんどの讃岐うどん屋が客単価を500円以上に上げるのに苦労している時に（香川なら300円だ）、ラーメンなら客は喜んで千円払う。NYやロンドン、パリなどでは数千円するラーメンも珍しくない。
ケンブリッジ大学で日本史を教えるアメリカ人Barak Kushnerによって書かれた本書が英文で英米で出版されたのは既に6年前の2012年。英米でのラーメンブームと共にベストセラーとなり、逆上陸する形で先ごろ日本語版が出た。『ラーメンの歴史学』というタイトル通り、これはラーメンのガイドブックではない。「私はラーメン通とはほど遠く、ラーメンを日本の近現代史を研究する際の新しい手段だとみなす一歴史学者」だという（日本語版への序）。そして、それに成功していると思う。
本書の「ラーメンの歴史」を簡単に要約するとすれば、中東の古代文明で生まれた小麦を原料とする粉文明がシルクロードを経て中国に伝わり、餅（ピン）ができる。これが仏教と共に、日本に伝わる。中世までに切り麺が出来、饂飩が広まる。米や麦栽培が難しい山間地では蕎麦ができ、江戸で評判になった。
こうして、江戸時代までには麺文化が形成され、明治時代になって混乱する中国から華僑や留学生が大量に来日したことでラーメンが生まれる。同時多発的であったようで、麺を濃厚な肉のスープに入れて食べるという「簡易中華料理」のアイデアを思いついたのは横浜の華僑で、長崎では「ちゃんぽん」が誕生した。
これをラーメンと呼んだのは、大正時代、北海道帝国大学近くにできた竹家食堂が初めてと言われる。中国東北部出身でシベリアを経て札幌に流れ着いた料理人「王文彩」は、料理ができると中国語で「好了（ハオラー）！」（一丁あがり）と叫んだ。特に強調される「ラー」の音に、麺を付け、当初は中国人留学生の提案で、引いて伸ばす麺を意味する中国語の「拉麺」という漢字を当てていたが、客なじまなかったため、片仮名に書き換え「ラーメン」としたという。
ラーメンの長い歴史が示すのは、日本料理が永遠でも不変でもないこと。「日本の食は、東アジアの隣国との交流を通して著しく向上」し、日本料理には唯一無二の伝統があるというわけではないのだ。
77：武士の台頭と食生活の変化室町時代には「切り麺」と呼ばれる新しい商品が生まれ、麺市場が拡大した。（中略）人々の食生活が大きく変化した日本の中世には、麺類の前身としての餅（ピン）は、醤油や味噌と共に、すでに中国から海を渡って日本に到来していた。芽生えたばかりの日本の麺文化に昆布や鰹節から取ったうま味が加わったことで、16世紀には将来のラーメン人気の基礎はほぼできあがったといえる。145：軍隊の食事をめぐる論争人々はアワや麦などの雑穀にほんの少し米を混ぜたものを主食にしていた。（中略）日本人の麺好きはすでに社会に根づいていたとはいえ、19世紀末、麺を濃厚な肉のスープに入れて食べるというアイデアを思いついたのは横浜の華僑たちだった。155：長崎ちゃんぽんと南京そば明治初期、日本各地で時を同じくして新しいタイプの汁麺が登場してきた。その背景には、日本の近代化の秘訣を学ぼうという意欲に燃えた中国人留学生が、続々と来日するようになったことがある。日本にやって来た中国からの移住者や外国の貿易商が一様に失望したのは、国際舞台で存在感を増している国にしてはあまりにも貧弱なその食事内容だった。205：ラーメンの誕生1922（大正11）年、札幌にある竹家食堂ではメニューに中華料理をいくつか加えた。店は数年前に創立されたばかりの北海道帝国大学の近くにあり、学生のなかには中国からの留学生が180人もいて、よく出入りしていた。ある日、シベリアで料理人をしていたという中国人、王文彩が店にやってきた。ほどなく店主の大久晶治は王を雇い、「中華料理」を売り物にする店へと転向した。（中略）王はいろいろな種類の肉入り麺を作ったが、とくに人気があったのは「支那ソバ」だった。その麺は日本人になじみのある麺とは似て非なるもので（中略）、シコシコと弾力がある。それを鶏ガラ、豚肉の切れ端、野菜クズなどで取った塩味のスープに入れて供した。これらの麺はたちまち大当たりした。345：日本食のイメージはヘルシー一般的に、和食は今でも相対的に淡白で、ほとんどの国の料理と比べて香辛料の使用量も少ない。日本料理では一つの料理に使う香辛料はおよそ4種類で、これはイギリス料理と同じである（タイ料理やインド料理は8種類を使う）。351：ラーメンの歴史が物語るもの日本は食べ物の足りない社会から、十分な食べ物に恵まれた社会へ、そして今や食べ物を捨てる社会へと変わった。歴史を振り返れば、国民のほとんどが栄養失調だったといえる。栄養バランスのとれた食事ができたのは、ほんのわずかな金持ちだけだった。日本と中国（中略）との相互作用の産物であるラーメンの長い歴史は、日本料理が永遠でも不変でもないことを物語っている。
2018年09月12日
労働契約法第16条
労働契約法第16条にはこうある。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして無効とする」
解雇には懲戒解雇など4種類があるが、労使間で問題になるのは整理解雇だ。それに関する条文はこれしかない。ところが、これでは「客観的に合理的な理由」も「社会通念上相当」も全く明確でない。そこで、判例に頼ることになるのだが、過去の判例から以下の4要件が必要とされている。
�／涌�整理の必要性
��解雇回避努力義務の履行
�Ｈ鏖鮓杣堊�定の合理性
�げ鮓杣蠡海�の妥当性
これでもまだ不明確だ。分かっているのは、1987-2004年の18年間で、解雇に関して起こされた仮処分申請、訴訟で、判決及び決定が出た5101件のうち、52%で労働者側が勝っているという事実だ。例えば、� 嵜涌�整理の必要性」に関して、米国ならその事業部が赤字だからで十分だが、日本では会社全体が赤字で、それが続いていなければ認められてない。
こうなると、企業としては、人材不足の中正社員を採りたいのはやまやまだが、好景気、好業績下でもなるべく賃金は上げたくない。本書では、「平均的な働き手の雇用コストが欧米と肩を並べ、新興国の挑戦を受ける中で、古い制度設計を変えられなかったことが、日本が構造的デフレに陥った最大の要因」と指摘している。
「働き方改革」もいいが、同時に、労働法の改正で、解雇を簡単にすることが重要だと思う。解雇が簡単であれば、企業は採用も賃上げも厭わなくなる。特に現在、産業構造を変えなければならないのだから、人材の流動性を高める政策が必要だ。今後労働者不足は長期に渡って続くのだから、濫用される心配は少ない。
＊異次元緩和で物価上昇率2%を達成できない理由・日銀の資産規模は今や名目GDP並み（米国は最大で25%）・人口減少と高齢化で、消費が減少し、生産性が低下する。・労働生産性を年率1%以上改善できない限り、経済規模を維持することすらできない・需要と供給の両面から、企業に日本国内で生産能力を増強する理由がない＊完全雇用でも賃金が上がらない理由・雇用安定のため賃上げを犠牲・高いクオリティのサービスを提供しているのに、それに見合う単価を得ていない・日本型雇用制度が構造的デフレを生みだす＊インフレタックス・家計の純現預金は637兆円、政府の純金融債務は823兆円・ハイパーインフレで家計の資産が政府に移転
2018年09月11日
世界第5位の「外国人労働者流入国」日本
東京ではコンビニ店員の半数は外国人の印象。夜など日本人店員の方が珍しい気がする。日本は移民を受け入れないことで有名なのにこれはいったいどういうことなのだという疑問に答えた本。
実際のところ、全国大手コンビニチェーンで働く外国人店員は4万人で、店員の20人に一人なのだという。いつの間にか、日本は世界第5位の「外国人労働者流入国」になっているのだ
「移住」した外国人数でみると、2015年に日本は�．疋ぅ帖↓∧胴顱↓１儿颪房，粟こβ�4位になっている。ドイツはこの頃シリアなどの難民を大量に受け入れていた頃で、現在は100万人以下に減っているはずだ。
さて、中でも、どうしてこれほどコンビニ店員に外国人が多いのかの答えだが、それは、「留学生が働いているから」。日本は世界的に見て特異な国で、留学生が働ける。しかも週28時間までというから、標準労働時間が週40時間だとすれば、70%まで働けることになる。では、いつ勉強しているのかということになるが、日本人学生だってほとんど勉強してないのだから、留学生にもその状況を認めているということだろう。
本書では、「労働力も足らないし、留学生は働きたがっているし、もっと労働を認めてもいいのではないか」という議論も出てくるのだが、それでは本末転倒だろう。そもそも、勉強しない大学生が大量にいる日本の状況がおかしく、その結果が、日本の大学が世界トップレベルになれない原因と、ひいては産業界の競争力不足にもつながっている。
という疑問に答えた本。実際のところ、全国大手コンビニチェーンで働く外国人店員は4万人で、店員の20人に一人なのだという。いつの間にか、日本は世界第5位の「外国人労働者流入国」になっているのだ
「移住」した外国人数でみると、2015年に日本は�．疋ぅ帖↓∧胴顱↓１儿颪房，粟こβ�4位になっている。ドイツはこの頃シリアなどの難民を大量に受け入れていた頃で、現在は100万人以下に減っているはずだ。さて、中でも、どうしてこれほどコンビニ店員に外国人が多いのかの答えだが、それは、「留学生が働いているから」。日本は世界的に見て特異な国で、留学生が働ける。しかも週28時間までというから、標準労働時間が週40時間だとすれば、70%まで働けることになる。では、いつ勉強しているのかということになるが、日本人学生だってほとんど勉強してないのだから、留学生にもその状況を認めているということだろう。
本書では、「労働力も足らないし、留学生は働きたがっているし、もっと労働を認めてもいいのではないか」という議論も出てくるのだが、それでは本末転倒だろう。そもそも、勉強しない大学生が大量にいる日本の状況がおかしく、その結果が、日本の大学が世界トップレベルになれない原因と、ひいては産業界の競争力不足にもつながっている。
留学生の多くが「労働力」となっている状況を改め、留学生は留学生、労働者は労働者として受け入れの整備をする方がいいのではないか。
はじめに：なぜ外国人留学生はコンビニで働くか・対面でお客さんと話す機会が多いので日本語の勉強になる・日本の文化を勉強するにもいい〜工場で働くより楽しい・お店によっては廃棄の弁当を食べていいから食費が浮く21：留学生のアルバイトは週に28時間まで・出入国管理法で週28時間まで（夏休みなどは週40時間まで）働ける！・英米は学生ビザでのアルバイトは禁止・カナダやフランスでは週20時間まで67：ローソン奨学金制度・日本留学中にローソンでアルバイトすること・毎月の給付額は13万円（返済義務なし）131：中国人留学生・本当に頭のいい人は、北京大学や清華大学に入る・留学を目指す人でもトップクラスの人はハーバードとかアメリカの大学に行く・日本に来る留学生は北京大学もハーバードも受からない人144：人材派遣業化する日本語学校・日本語学校が留学生を「派遣」する
2018年09月10日
補助金目的｢障害者ビジネス｣
中央官庁における障害者雇用の水増し事件。民間企業には定期的な検査があり、障害者雇用目標数を満たしてないと罰金がある。それが、「身内の」官公庁では「満たしている」との報告を受けるだけで、検査をしていなかったという。いざ調べてみると、障害者定義の勝手な拡大解釈で、雇用数を倍増していた官庁もあった。そのいい加減さを非難することは簡単だが、これを機会に制度自体の見直しをする方が大事だと思う。
若い頃勤めていたメーカーで、一人だけ高齢の社員がいた。とっくに定年が過ぎているのに辞めないのだ。特別な仕事があるわけではない。庶務の手伝いをたまにやるだけで、毎日出社しているかも怪しい。ある時総務に聞いてみたら、「障害者雇用数を満たすため」雇っているという。罰金を避けるため、障害者の社員だけ再雇用していたのだ。
これでは健常者に対する逆差別なのだが、「上に政策あれば、下に対策あり」で、大半の企業は法律に違反しない範囲で、経済合理的な対策を取っている。本来は、法律の趣旨から、障害者が一緒に働ける職場を整備すべきなのだろうが、そう簡単でないのは、精神障害者のケースだ。
上図にある通り求人申し込み者数は（障害者数でみてもほぼ同じ比率）、身体障害者数が横ばいの一方、急速に伸びているのが精神障害者数である。上図は5年前までの統計だが、現在では精神障害者数が一番多いのは間違いない。治療法も確立されているわけではないから、この傾向は認定方針が変わらない限り、増え続けるだろう。
雇用する企業側から見ると、症状によっては攻撃的になったりと周りを巻き込んでしまう精神障害者は雇用しずらい。多くの職場で、個々にやる作業でななく、多くの人との連携が必要な仕事が増えている。ここに精神障害者を入れてしまうと、全体のパフォーマンスを大きく下げてしまいかねない。
そこで増えているのが、「障害者ビジネス」。補助金目当てに障害者を雇用して、適切な仕事は与えない。障害者を新規に雇用すると3年間で最大240万円の補助金をもらえるので、これを目当てに障害者を雇用する。これを3年おきに事業所を変えて繰り返す悪質な業者も存在するという。「障害者に渡される給与が補助金を上回っている事業所はわずか7%」ということなので、大半が補助金を目当てにした「官製市場」になってしまっている。
補助金は実際は「自立支援給付費」という名目なのだが、実態は全く「自立支援」になっていない。実際、毎年1兆円を上回る障害者福祉費用を国は使っているが、上図の通り、障害者数は減るどころか増える一方だ。とかく国は一律の制度を作るが（全国同じ法律だから当たり前だが）、市場原理を歪めた制度はどこかで副作用をもたらす。行動経済学を取り入れた新しい制度設計が望まれる。
2018年09月09日
白鳥はどこへ舞い降りたのか？
香川大学サテライトセミナーで香川県の東の端にある白鳥町（しろとり）へ。西側にあるウチの実家からは県内で最も遠い場所で、60km。車で1.5時間かかる。講師は昨年のNHKブラタモリ香川編で案内人を務めた長谷川修一先生である。今年4月からは創造工学部長に就任。
今回の「お題」は、「白鳥はどこへ舞い降りたのか？」。白鳥の地名は、「全国的に見て、白鳥神社や白鳥を称する地名は、非常に多数みられるところより推測すると、白鳥陵の陵守、または、日本武尊の御名代部（みなしろべ）である「武部（たけるべ）に、深い由縁があるようであって、その部民等が、全国各地にその祖神として、白鳥神社を奉斎したのを、地名の起源とするのが、穏当のように思われる」ということ（合併前の『白鳥町史』）。「東国を平定した帰途に伊勢の能褒野で死去した日本武尊の霊が白鶴となって白鳥の松原に飛来した」ここに神祠を建立したのが白鳥神社の始まりとされている。
奇しくも、昨晩のブラタモリは鳥取砂丘で、「砂丘間低地」が出てきた。海岸にできる二重の砂丘とそれに挟まれた低地。そこに湧き出る水。これが小規模ながら、白鳥にもあるのだ。
ここで疑問なのが、白鳥（しろとり）とは、水鳥のハクチョウなのか、白い鶴なのか、それともコウノトリなのか、という点。西日本では昔、コウノトリのことをツルと呼んでおり、渡り鳥の鶴もハクチョウも西日本にはあまり来ないので、コウノトリの可能性が高い。鶴の食物は主に植物性で穀物を好む。一方のコウノトリは動物性の食料を好み、フナなどの小魚やドジョウ、カエル、ザリガニ、ミミズなどを食べる。
そして、砂丘間低地は湧水のある湿地帯。ここにはコウノトリの餌となる小魚やドジョウなどが豊富。ツルが飛来してきたとすれば、この湿地帯だったと思われる（写真）。
この一帯は、江戸時代になって高松藩が塩田として開発する。塩田となったあとは、餌が獲れなくなり、ツルも飛来してこなくなったと思われる。尤も当時のことなので、白鳥の松原がだめでも、周囲に水田はたくさんあるので、そちらで餌をついばんでいたことだろう。
戦後高度経済成長時代になり、農薬の影響でツルの餌が激減。昭和46年を最後に野性のコウノトリは途絶え、現在は国の天然記念物として保護されている。
2018年09月08日
成毛眞の本当は教えたくない意外な成長企業
ユーグレナが上場したのが2012年。その大株主が成毛氏の経営するインスパイアだったので、投資家としても注目されることになった成毛氏が出した「投資本」。出版から4年経ったので、その成否を検証するには十分な時が経った。
まず100社となっているが、なぜか99社。上場・未公開企業両方が区別されずに紹介されており、未公開の方は情報が入手できないので、検証したのは上場企業51社である。うち3社がJASDAQで、他は全て東証一部上場。
本が出版される直前の2014年8月末の終値から、今年の8月末の終値の株価上昇率を見てみた。この間のTOPIXの上昇率36%に対して「成毛銘柄」51社の上昇率は51%とアウトパフォーム
年率にして9%TOPIXを上回っている。上位銘柄を見てみると（カッコ内はその間の高値倍率）、
１．森永製菓 291% (6.6x)
２．安川電機 179% (4.6x)
３．東京エレクトロン 165% (3.4x)
とロボットの安川電機、半導体製造装置の東京エレクトロンを押さえてダントツのパフォーマンスだったのは森永製菓だった。4年間で株価は約4倍になっている。ピーク時に売っていれば７倍近い。恐るべしエンゼルパワー
逆に成績が悪かったのが、
１．スルガ銀行 -69%
２．ジャパンディスプレイ -68%
３．エスイー -37%
スルガ銀行については、成毛氏はこの間ずっと社外取締役に就任していて、同行の経営に携わっている。本書でも、個人ローンに特化したビジネスモデルを褒めており、オーナー経営者の暴走を監視するべき立場にある社外取締役の責任が問われてもおかしくはない。
はじめに：時代の変化に対応できる企業�ー�然に起こる変化（人口・気候・交通網）��突然起こる変化（戦争など人為的イベント）4：地方から東京圏への転入が減っている・地元大学への進学率が（北海道を除き）増加傾向（2004-2014）・地元で過ごすことを選ぶ若者が増える19：昭和39（1964）東京五輪前と後の東京とでは、まったく別の都市90：職人への敬意が老舗を育む「世界には創業200年以上の企業が41か国に5586社あり、その半分以上の3146社が日本」（韓国銀行『日本企業の長寿要因及び示唆点』2008）�‘�本 3146社�▲疋ぅ帖�837社��オランダ 222社�ぅ侫薀鵐后�196社133：イオンモール＝ミニ東京「イオンは夢の国」（『ヤンキ―経済』）
2018年09月07日
ガウディ計画
先にTVドラマを見てしまったので、読むとどうしても役者の顔が浮かんでしまう。今回も舞台は佃製作所で、今度は佃製作所が医療機器（心臓弁）開発に挑む。お約束の大企業やライバルメーカーからの嫌がらせや妨害工作。そして、本作のテーマの一つと言えるのが日本の医療機器認証制度。
医薬品医療機器総合機構（PMDA）という国の機関（独立行政法人）が審査するのだが、これまで極めて評判が悪かった。案件ごとに審査役と専門員のチームで構成されるのだが、必ずしも専門性の高い委員が配置されるわけではない。そして、認証した医療機器が評判になっても審査した委員たちが褒められることはないが、万一、医療機器の不具合で人命にかかわる事態になれば、審査の責任を問われかねない。したがって、必要以上に慎重になる傾向があった。その結果、欧米で認可されているのに、日本での認可が遅れるデバイスラグが発生するわけだ。
最近では、厚生労働大臣の認証を受けた民間の審査機関が審査する「第三者認証」の対象機器が増えており、状況はかなり改善された。
22：補償問題日本人の感覚として、ひとたび何か事故が起これば、メーカーのせいとなり、ひいては認可した役所の責任問題に発展していく。どれだけ成功実績があっても、たったひとつの失敗で社会評価は地に落ち、裁判沙汰になって巨額の賠償を請求されるかもしれない。これでは、役所も企業も腰が引けるのは当たり前。119：佃社長苦しいときが必ずある。そんな時には、拗ねるな。そして逃げるな。さらに人のせいにするな。それからーー夢を持て。194：大学病院病院内のヒエラルキーで、事務方の地位は極端に低い。医者に対しては一切、意見をいうな、という風潮。
2018年09月06日
どんな時に戦争が起こるか？
大量破壊兵器に事欠かない現代に、平和を求めていない国はないだろう。しかし、それ故に、大半の国は自ら軍備を持つか、軍備を持つ国と同盟を組んで軍事を任せている。世界最古の中立国であるスイスは中立を保つために国民皆兵制度をひき、全国民は兵役義務がある。
日本は70年にわたって平和を享受しているが、もちろん、それは「憲法9条」のおかげではなく、世界最強の軍事大国であるアメリカの同盟国だからである。そして、単に同盟国であるだけでなく、米軍が大規模に駐留しているからだ。
第二次世界大戦前のベルギーは、スイス同様、国際法上の中立の立場を宣言し、国際社会の善意に依拠して自国民の生命を守ろうとした。しかし、スイスほどの軍事力を持っていなかったため、真っ先にドイツのフランス侵攻のための通り道になった。ベルギー一国では十分な軍事力を持つことはできないため、1948年ブリュッセル条約により「西欧同盟」を形成した。これが後に北大西洋条約機構NATOになる。
筆者は、「アメリカによる庇護は、日本において安全保障に関する研究や理解が普及することを妨げる効果をもたらした」という。
「もしもわれわれが本当に戦争を嫌悪して、平和を愛するとすれば、戦後70年の間に勃発した数々の戦争、たとえば朝鮮戦争や、三度のインドシナ戦争、四度の中東戦争、中ソ紛争、フォークランド戦争、そして湾岸戦争、90年代のユーゴスラビア戦争、コソボ戦争など、数々の戦争を食い止めるために私たち日本人は何をしてきたのか。そしてそれらの戦争を終わらせる和平交渉で、日本はどのような提案をして、どのような役割を担ってきたのか」の問いは重い。
はじめに：1992年6月のPKO協力法成立の際には、激しくその法律の成立過程とその内容を批判していた朝日新聞や毎日新聞は、いつからPKO協力法への批判をやめたのだろう。また、当時の社会党、現在の社民党は安保関連法へも激しい批判を浴びせていたが、自衛隊違憲論の旗をいつ降ろして、PKO協力法廃止の運動をいつやめたのだろうか。いつから、PKO協力法は「危険」でなくなったのか。いつから、PKO協力法に基づいて自衛隊を海外に派遣することについて、憲法解釈上の疑念がなくなったのだろうか。
結局、批判のための批判なので、野党もマスコミもその場限りなのだ。国民が自分でしっかり考えるしかない。
15：オーウェルの怒りメディアや知識人が目立たぬかたちで立場を転換することや、イデオロギー的な偏向に基づいて報道をしていることは、20世紀を代表するイギリスの作家、ジョージ・オーウェルが最も嫌悪したものであった。30：20世紀の世界で、平和運動は多くの諸国でこれまで見られてきた。たとえば、1920年代から30年代に、イギリスやフランスは国際連盟規約の条文に基づいて軍縮義務を実行したが、それによってヒトラーのドイツによる侵略を食い止めることはできなかった。また、1970年代に西欧諸国の国内で平和運動が活発化して、それに支えられて米ソ間での緊張緩和に基づいて軍縮と軍備管理が進んだが、そのことがソ連のアフガニスタン侵攻を妨げることにはならなかった。36：先進民主主義国において、政治のレベル、国民のレベル、メディアのレベルでこれほどまでに安全保障政策をめぐる論争が理性的に行われていない国家も少ない。ところが、それを深く理解していなければ、自国の独立を維持し、安全を確保することは難しい。48：本当に平和を実現させたいのか？もしもわれわれが本当に戦争を嫌悪して、平和を愛するとすれば、戦後70年の間に勃発した数々の戦争、たとえば朝鮮戦争や、三度のインドシナ戦争、四度の中東戦争、中ソ紛争、フォークランド戦争、そして湾岸戦争、90年代のユーゴスラビア戦争、コソボ戦争など、数々の戦争を食い止めるために私たち日本人は何をしてきたのか。そしてそれらの戦争を終わらせる和平交渉で、日本はどのような提案をして、どのような役割を担ってきたのか。51：憲法前文の理想主義「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであった、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信じる」
2018年09月05日
日本人の人生観
大御所による流石の日本人論。
「戦後生まれの人は、今の状態はずっと続くと思っている」という。今の考え方、見方が永久に続くと思って、「どのエレベーターに乗るか」を競っている。たとえば「東大」というエレベーターは超特急でトップまで行くが、「無学歴」というエレベーターは鈍行で、しかも三階止まり。だから、何としても東大エレベーターに乗らねばならないという発想になるのだ。
本書が書かれたのは、1970年代。石油ショックで高度成長がひと段落した時代だ。それから、日本は、バブル経済崩壊、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、世界金融危機、政権交代、東日本大震災とそれまでの常識をひっくり返すような事件や災害を経験した。果たして、「社会は動かないという前提」は崩れたのか、それとも、未だ色濃く残っているのか。
終戦直後、「騙された」が流行語だったという。七平は、「騙されたと言う以上、『騙した』人間がいることになる。日本を敗戦に導いて破滅させるため、全日本人を騙すという陰謀に成功した人間がいたはずだが、太平洋戦争にはそんなケースは皆無である」と断言している。「騙されたとすれば、騙された本人が自分を騙しただけだ」と手厳しい。
そして、報道を見れば、今も、世の中は「騙された」で溢れている。大抵は、本人が勝手に思い込んだ前提が崩れただけなのだ。
＊記憶の量が、その人の発想や思考の範囲を決める・質の良い記憶の量を増やすほど、発想の総量は増える・まず暗記し、次にその内容が徐々にわかる、というほうがいい＊戦後生まれの人は、今の状態はずっと続くと思っている＝社会は動かないという前提・今の考え方、見方が永久に続くと思って、「どのエレベーターに乗るか」を競っている・その結果、「騙された」という言い方・騙されたわけではなく、本人が勝手にそういう見方をして、「自分を騙した」＊日本人は、「現在」に不都合は過去は簡単に消してしまう・過去を正確につかんで初めて、その延長線上に未来を予測することができる。・「自然」がよくて「人為的」は良くないと思っている・自然という概念には、「歴史」という発想がない
2018年09月04日
森林飽和
「自然を放置すると何が起きるのか」
サルやクマの人里への出没、海岸の道路を崩壊させる「砂浜流出」そして花粉症。これら、一見、つながりが見えない問題の根源には山地の変化があるという。山の地肌が消え土砂崩れが減り、川から砂がなくなる。これら20世紀に起きた変化は、これまで山林を燃料として発展してきた日本文明の中で、日本史上初のものだ。
江戸時代の浮世絵や明治・大正の写真を見れば明らかなのは、里山は「はげ山」だったということである。人が使える唯一の燃料が木だったので当然で、奈良→京都→江戸と遷都を繰り返したのは、「周辺の森林を全部伐採してしまい、燃料がなくなったから」というのが有力説になってきた。放っておいたら勝手に木を切られてしまうので、江戸時代、幕府や各藩が直営の山林に監視役を常駐させ、厳重に監視させたというのもうなづける。
3：海岸のマツ林はれっきとした「人工林」戦国時代末期から江戸時代にかけて沿岸地域の人々が苦労を重ねて造成したクロマツ林。49：かつての里山は「はげ山」灌木がほとんどで、高木ではマツのみ。江戸時代中期から昭和時代前期にかけて、私たちの祖先は鬱蒼とした森をほとんど目にすることなく暮らしていた。85：塩木製塩は大量の燃料材を必要とした。１町歩（約1ha）の塩田で1年間に1200石の塩が採れるが、その燃料を得るためには75町歩の森が必要（江戸時代）。113：なぜ沿岸林がクロマツだったのか？マツ類は貧栄養な立地条件でも生存し、とくにクロマツは塩害にも強く、先史時代から自然植生として日本の砂浜海岸に広く自生していた。240：異常現象対策�〜躅�量700-8000mmを超す豪雨�▲泪哀縫船紂璽�7.5以上の巨大地震�２从嬶�やマグマ水蒸気爆発のような火山活動
2018年09月03日
SNS→ADHD
昔から、アイディアを思いつくのは「三上」と言われた。すなわち、「馬上、枕上、厠上」。つまり、馬に乗って移動中であったり、寝ている時であったり、トイレで用を足している時。いずれも、何かを一生懸命に考えている緊張が、ふと途切れた時である。
人間の脳は、何もしていない時や、目の前の作業に集中していない時にも活動している。マインドワンダリングの状態の時、ユニークなアイディアや問題を解決する方法を思いつく。外からの刺激（情報）に常にさらされ、「退屈する時間」がないとクリエイティブにはなれないのだ。
人間の脳は、何もしていない時や、目の前の作業に集中していない時にも活動している。マインドワンダリングの状態の時、ユニークなアイディアや問題を解決する方法を思いつく。外からの刺激（情報）に常にさらされ、「退屈する時間」がないとクリエイティブにはなれないのだ。
大学時代、ゼミの先生が、「電車に乗って新聞を読むのはもったいない。人間観察をしながらボーっとするのがいい」と言われた。先生は、当初、三菱総研の研究所長をしながら母校でゼミを持ち、後に完全に大学に移った。当然、仕事で山のように本を読み、最新情報にも触れている。その上で、優れたアイデアを出すには、「退屈する時間」が必要なことを知っていた。
・退屈している人は、そうでない人より独創的に考える・テクノロジーとソーシャルメディアは、脳の作業記憶や情報処理の能力に害を及ぼし、ADHDによく似た状態をもたらす若い成人のADHDが、この10年で毎年3-5%増えている。SNS上でのやりとりは次々と集中的に行われるので、時間や場所の感覚を失う。・ソーシャルメディアに没頭して、外から常に情報を与えられていると、脳の前頭前野が影響を受け、経験している出来事を管理する能力が退化する・集中して新しいアイディアを考えるには、一人の時間が必要
2018年09月02日
2018年09月01日
コザ暴動
1970年12月20日未明、アメリカ施政権下の沖縄コザ市（現・沖縄市）で、米軍車両や施設に対する焼き討ち事件があった。これがコザ暴動である。直接の原因は、米軍人が沖縄民間人をひいた交通事故だが、かねてから米軍人や軍属が起こした事件に関する捜査権、逮捕権、裁判権はアメリカにあったため、犯人が明らかな場合でも、容疑者はアメリカに送られて無罪放免ということが多かったという。
加えて、1960年代後半からのベトナム派兵本格化で、沖縄は戦地からの帰還兵、一時休暇の兵士であふれ、犯罪が急増した。被害に遭った地元民は泣き寝入りすることが多く、不満がたまっていた。
この小説は、戦後アメリカ施政権下となった沖縄で暗躍する「戦果アギヤー」から始まり、コザ騒動まで20年余りに渡る物語。土地を奪われ、日本とも外国になり、産業が破壊され、多くの沖縄人が食っていくために米軍物資の窃盗、強奪、横流しに手を染める。
米軍も手を焼き、倉庫の警備は強化される。そして、戦果アギヤーたちの中でもずば抜けた成果とその「戦果」を気前よく困っている人に届けるので、地元で「英雄」とされたオンちゃんは、ついに、極東最大の軍事基地キャンプ・カデナに潜入することにしたのだが・・・。
楽しめたのだが、最後の謎解きがあれ？という感あり。あれが米軍にとってそれほど大切な秘密とは思えない。交通事故で人をひき殺した兵士同様、本国送還でうやむやにしてしまえば済む話ではないのか。
加えて、1960年代後半からのベトナム派兵本格化で、沖縄は戦地からの帰還兵、一時休暇の兵士であふれ、犯罪が急増した。被害に遭った地元民は泣き寝入りすることが多く、不満がたまっていた。
この小説は、戦後アメリカ施政権下となった沖縄で暗躍する「戦果アギヤー」から始まり、コザ騒動まで20年余りに渡る物語。土地を奪われ、日本とも外国になり、産業が破壊され、多くの沖縄人が食っていくために米軍物資の窃盗、強奪、横流しに手を染める。
米軍も手を焼き、倉庫の警備は強化される。そして、戦果アギヤーたちの中でもずば抜けた成果とその「戦果」を気前よく困っている人に届けるので、地元で「英雄」とされたオンちゃんは、ついに、極東最大の軍事基地キャンプ・カデナに潜入することにしたのだが・・・。
楽しめたのだが、最後の謎解きがあれ？という感あり。あれが米軍にとってそれほど大切な秘密とは思えない。交通事故で人をひき殺した兵士同様、本国送還でうやむやにしてしまえば済む話ではないのか。
7：照明弾の光がひらめくたびに、あの日の悲鳴が、逃げまどう家族の姿が、鉄の暴風に荒らされた土地の傷痕が、振り払えない数多の記録が一瞬一瞬ごとにあらわになるようで、グスクもレイもヤマコも胸を温い熱にあぶられる。15：極東最大の軍事基地キャンプ・カデナ500の野球場がすっぽり収まる敷地は、都市そのものだった。英語だけで記された標識や警告板、3000mを超える滑走路が一級河川のように東西を走っていて、そのまわりに大小の兵舎や格納庫や整備工場、将校クラブ、売店、緑地や教会、家族の住宅街がひしめいている。38：戦果アギヤーアメリカの倉庫や基地から物資を奪ってくる。積み荷の伝票をごまかす軍雇用員も、茂みからひょいと手を伸ばして米兵のお弁当をかすめる農婦も、憲兵の車からガムやチョコをせしめる浮浪児も、みんながみんな戦果アギヤーだ。
