2018年08月
2018年08月31日
新貿易立国論
3ヵ月前に出たばかりの新書なのだが、執筆には構想から5年かかったという。著者は日本総合研究所の上席主任研究員ということで、ビジネス書によくある思いだけで裏付けのない話や、逆に、実務を知らない学者による理論だけでもない。私も、20年前から、「開国以来の殖産興業時代、戦後の高度成長時代に続いて、第三の輸出振興が必要」と言ってきたので、納得。
輸出というと、「貿易戦争」とまで言われた1980年代前半のイメージが強いが、実は、第二次世界大戦直前には、わが国の輸出は国内総生産の4割近くを占めていて、国の輸出依存度では戦前の方が圧倒的に高かった。それだけ、国内が貧しく、消費が弱かったことの証左でもあるので、これ自体が悪いわけではない。
しかし、日本が輸出に占める世界シェアは90年代半ば以降急速に低下しており（2000年7.4% 2010年4.0%）、シェアだけでなく金額も減少傾向にあるとなると心配になる。その主な理由は、円高で、日本最大の輸出産業である自動車や電器メーカーが海外生産にシフトしたからである。それは仕方のないことなのだが、これに代わる輸出産業が日本には出てきていない。海外を見れば、アメリカではIT産業などより高付加価値な産業に構造転換が起こっている。ドイツでは、日本同様自動車の海外生産が増えたものの、未だに輸出比率は高い。特に高級車について「ドイツ製」を顧客が望み、相応の対価を払うからであろう。そのどちらでもない日本は、もはや貿易大国ではなくなっている。
著者が勧めるのは、「世界を見渡せる場所」に行ってみること。日本企業の多くは、ASEANを含めて新興国・途上国の実力を過小評価しているという。そうならないためには、シンガポールやバンコクに行って仕事をしたほうがいい。
著者が勧めるのは、「世界を見渡せる場所」に行ってみること。日本企業の多くは、ASEANを含めて新興国・途上国の実力を過小評価しているという。そうならないためには、シンガポールやバンコクに行って仕事をしたほうがいい。
2018年08月30日
人生100年時代の個人M&A
すでに11万部突破とビジネス書としては異例の売れ行きを見せる本書。世の中に起業を勧める本はたくさんあるが、それに乗って起業して失敗した人を何人も知っている。
かく言う私も、昔、FCビジネスに手をだして大失敗。一度、サラリーマンに戻って再起を図った。起業とは、能力と、（3年位は休みなしで事業に集中する）覚悟と、運がなければ成功しない。
そこで筆者が勧めるのは、「小さな会社を買ってオーナー社長になる」こと。これは、コロンブスの卵
というか、欧米では当たり前に行われている手法。LBSの同級生でも私が知っているだけで二人のイギリス人が中小企業を買収して自分で経営している。著者の指摘通り、日本は「大廃業時代」。オーナー経営者としてやっていく覚悟があれば、そこそこの会社がそこそこの値段で買える。顧客がいて、社員がいて、資金が回っている会社だから、ゼロから起業するのに比べればリスクは1/10だろう。うまく業績を伸ばせば、5年後、10年後にはその何倍かで売却できる可能性もある。そして、その間、会社が儲かっていれば、数千万円の役員報酬を取っても誰も文句は言わない。
ストライクから送られてくるM&A案件情報が急に魅力的に思えてきた（笑）。
19：会社という「箱」があれば利益は倍増孫正義さんでも労働の対価としての年間報酬が1億3000万円のところ、配当収入という資産が生みだす収入で年間約95億円を手にしています。55：1000社中997社が討ち死にVCの業界にも、「千三つ」という言葉は当てはまる。文字通り、1000社のベンチャーに投資検討して、そのうち投資が実行され、さらには上場できるまでになるのは3社程度しかない。135：売りに出るのは価値のない会社なのか？2013-2015年に休廃業・解散した企業8万3555社のうち、売上高経常利益率が判明した6405社のデータを集めると、実に50.5%が黒字で廃業。（東京商工リサーチ2016年調べ）152：どう値段を付けるかよくあるのは、純資産＋営業利益の3-5年分177：大廃業ならではのM&A仲介各都道府県の「事業引継ぎ支援センター」地場企業のM&Aの相談とマッチング、サポート182：買収候補先企業の役員になるDDの一環として、ある程度の期間、買収候補先企業で役員として働く。例えば、2年後の買収を前提に取締役になる。・入社前に、会社の利益水準と連動した買収金額を決めておく・重大な瑕疵が発見された場合には、無条件で約束を破棄できる条項を入れる
2018年08月29日
組織の生産性を最大化するマネジメント
Bain & Companyのパートナーによる組織生産性を高めるマネジメント手法。結果を出すには、「やり方」「時間の使い方」「実施者」を変えるかしかないのは自明の理だが、「組織の時間の管理に関しては野放し同然」という指摘は重い。
実際、ほとんどの会社で「電話、メール、会議に幹部が毎日何時間も費やしているのにもかかわらず、それを取り締まるルールは皆無に等しい」。当然、大勢が集まってダラダラ会議をする会社は業績が上がらない。成果を上げる会社は、必要な能力と情報を持つ人が、必要最小限集まって決めるので、PDCAサイクルが早く的確に回る。
ダメな会社は、十分に状況を理解してない社員が的外れなことを言うので、議論がかみ合わない。結果、意思決定の品質とスピードが低下する。トップや幹部がしっかり管理し、必要なら叱責しなければならないのに、大抵そういうところは、トップの注意が散漫になっていて、会社の重要事項を把握できてないから、「下も倣え」になってしまっている。
＊競争力の源泉は「時間」「人材」「意欲」その管理が上手な優良企業は、それ以外の企業に比べ、生産性が40%も上回っている。TIME：時間・資金の投資と同じように慎重に時間を投資する・時間投資に明確な権限を設定「7つの法則」会議出席者が7人を超えると、一人増えるたびに意思決定能力が10%低下する。標準的な会議の時間を短くする（e.g.60分→30分）・ノードを把握する自分の仕事を進めるために毎日10人以上とのやり取りが欠かせないと答えた社員は全体の60%（CEB調査2015）TALENT：人材・「違いを生みだす人材」を見つけて育てるAppleの優秀なプログラマーは、平均的なSVプログラマーの9倍の生産性。価値を高めるのは何か？持続的な成長をもたらす源泉は何か？社内でどの能力が最重要か？競合他社との差別化につながる製品、サービス、体験を顧客に提供するうえで、どのような実行能力が不可欠か。どこに重点投資するのか？・All Star Teamの編成大きな成果を目指すには、トップ社員を集めたオールスターチームをつくり、特に重要な任務に配備する。ENERGY：意欲・社員のやる気を奮い立たせる・当事者意識を持つようになる3要素仕事の中身そのものに愛着＋他の社員との関係性＋会社の目標に共感・人間性溢れる理念→人事制度に反映
2018年08月28日
親切な人は評価が低い
昨日の、「ケータイに出ない」にも通じる。日本でも、「憎まれっ子世に憚る」とか「八方美人は経営者に向かない」とか昔から言われてきた。アメリカでの最新研究で、「親切な人は、そうでない人より収入や他者からの評価が低い」ことが判明したという。それは、親切は弱さの表れだと勘違いされやすく、親切な人は能力が低いと推測されるからだ。
私の経験上、文化的にこの傾向は欧米の方が日本より強い。気を付けなければならないのは「お土産」で、日本では初対面であっても（いや、初対面だからこそ）、「よろしく」の意味を込めて、手土産を持参することは今でもよく見かける。しかし、これを欧米でやると（他国はあまり経験がないので知らない）、明らかにマイナスだ。
欧米ではこう言った習慣はないので、初対面なのに何か渡されると、「なんだこれは？」となる。次の自然な反応は、「こいつは、こんなもので、オレに取り入らなければならない事情があるのか」という疑念と、「こんなことをしなければならないほどこいつは能力が低いのか」という推定である。
状況にもよるだろうが、大抵は、長旅の疲れも見せず、挨拶もそこそこに、ズバリ本題に入る方が印象がいい。「こいつやるな」と思わせて、一通り仕事を片付けた後、ランチとかディナーの時、少しプライベートな話もして親しくなる。この順番でないと、第一印象が最重要なのは世界中同じなので、「能力が低い相手」と疑われたまま仕事を進めるのは困難だ。
そして、仕事の成果が出て、一区切りついたところで、プレゼントをする。この際に、ランチとかディナーの時に聞いた相手の家族事情に絡めてプレゼントできれば、印象が良くなるのはどこも同じだ。
＊高校の首席は億万長者になれない・90%が専門的キャリア（弁護士、医師など）・しかし、世界を変革するような者はいなかった（Karen Arnaud調査Boston College 1980-90年代イリノイ州）�ヽ惺擦箸蓮�言われたことをきちんとする能力に報いる場所�∩寛別椶芭匹づ世鮗茲襯璽優薀螢好箸吠鵑い覲惺擦離�リキュラム「仕事でも私生活でも万事そつなくこなすが、一つの領域に全身全霊で打ち込む方ではないので、特定分野で抜きんでることは難しい」＊職場では実力より見かけ・上司に好印象を与えた者の方が、より懸命に働いたが、上司への印象を気にかけなかった者より高い勤務評価＊親切な人は、そうでない人より収入や他者からの評価が低い・人は、「温かさ」と「有能さ」は逆の相関関係にあると認識・親切すぎると、その人はきっと能力が低いと推測する傾向＊悪は善より強い・多くの領域（情報、経験、人物等）で、悪いものの方が良いものよりもインパクトが強く、持続効果がある・悪い情報は良い情報より入念に処理される＊仕事の成功と家庭円満は両立しない・創造的な労働者は、配偶者と過ごす時間が量的に少ないだけでなく、質も劣る（Richard Ryan)・男性の場合、結婚は、科学者、作家、画家などの生産活動に著しいマイナス効果を及ぼす（LSE金沢聡）
2018年08月27日
年収一億円の人は、なぜケータイに出ないのか？
乗り物も含めて公共の場で、あるいは、打ち合わせ中なのに、未だに電話を取る人がいる。そもそも、私が知る仕事のできる人はめったに電話が掛かってくることはないので、こうした場面に出くわすと、「この人はまだ自分で仕事がコントロール出来ないレベルなのだ」と思ってしまう。自分が仕事を動かすのではなく、仕事に追われる立場。
常々そう思っていたので、タイトルが気になって読んでみる。年収300万円の人、年収1000万円の人、年収1億円の人、に分けて、分かりやすくその行動の特徴をとらえている。年収300万円というのは「使われている」人の代表で、年収1000万円というのは「高級サラリーマン」の代表、年収1億円というのは「事業家」あるいは「他人を使う立場」ということになるだろう。
真をついているな、と思うものもあれば、これはどうよ？と思うものも。例えば、
・年収300万円の人は、キャバクラや風俗で遊ぶ
・年収1000万円の人は、愛人を囲う
・年収1億円の人は、奥さんを接待する
というのもあるのだが、年収1000万円位で愛人を「囲っている」というのは聞いたことがない（笑）。「年収1億円の人は、奥さんを接待する」というのは、なんとなく理解できるが。このクラスで最大のリスクは離婚だ
102：名刺はもはや無用の長物・年収300万円の人は、名刺を渡されない・年収1000万円の人は、名刺交換が命・年収1億円の人は、名刺を持っていない116：お金持ちは穏やか・年収300万円の人は、怒られる・年収1000万円の人は、怒る・年収1億円の人は、怒らない150：お金持ちのケータイ電話は待受専用・年収300万円の人は、電話する・年収1000万円の人は、電話とメールを使い分ける・年収1億円の人は、基本的にメールしか使わない
2018年08月26日
遊 学 匠 食
先週末、東京藝大「半農半芸フィールドリサーチ」で、市原市にある月出工舎へ。市原市といっても、房総半島の中心部に近い山の中。元は、月出小学校であり、廃校になった校舎を改修してアートスペース＆宿泊施設として利用している。
こちらを率いるのは岩間賢先生。東京藝大で博士課程まで出て、文化庁芸術家在外研修員として北京で5年間活動。愛知県立芸術大学美術学部准教授＆東京藝大非常勤講師。
元が芸術家なので、芸術作品を作るのはもちろんのこと、今回驚いたのはその料理の腕前。15人ほどの参加者の料理をチャチャっと作ってしまう。そして、これが美味しい
月出工舎のテーマは、「遊 学 匠 食」。こうした施設を運営するには、マルチタレントで一人何役もこなさないと無理だと実感した次第。多数を呼び込むことが前提の施設なら分業可能だが、ここの年間売上計画はたったの1000万円だから無理。プロジェクトを手伝っているやはり藝大出身の若手も、アーティストだけど大工工事ができて（体育館の改装中）、やはり料理も得意とか。
写真は、今回の染織講座で作った「板締め絞り」。発酵させてない生藍を使って正絹を染めた。指導は、染織作家の岡博美さん。
2018年08月25日
市原湖畔美術館
東京藝大のフィールドリサーチに申し込んで、メインのプログラムの前に、市原湖畔美術館に寄る。最寄り駅（小湊鉄道高滝駅）から徒歩20分ということで、事実上、車でなければまず行かない場所。取手駅で藝大取手キャンパスのスタッフと待ち合わせて、レンタカーで向かう。
これが、かなり「攻めた」美術館だった。指定管理者：アートフロントギャラリー・・・って、北川フラムさんの会社だ
展示中だったのは「そとのあそび」。どうりで、切腹ピストルズも出ているわけだ。彼らは瀬戸芸でも呼ばれてます。展示物のなかには、「これ、（厳密にいえば）軽犯罪だよね」というものもあり、公共の美術館の展示としては驚いた。グラフィティのsnipe1や、いろんなところに勝手に登って自撮りする菊池良太、スケボーの森田貴宏など。
無粋な人の指摘で、展示中止にならなければいいのですが💦
2018年08月24日
2025年問題の衝撃
「2025年問題」とは、2025年に団塊の世代全てが後期高齢者(75歳以上）になることによって予想されている社会保障の危機のこと。団塊の世代は2200万人もおり、日本人口の1/6以上を占める。これだけの人口が一斉に後期高齢者になることのインパクトは大きい。
医療介護費用は112兆円（2014）から149兆円（2025）に増加することと予測されている。前期高齢者(65-74歳）では介護を必要とする人の割合は5%に満たないが、後期高齢者は30%以上に上る。
ところが、今後の社会保障費の増加を支えるはずの中核世代は「就職氷河期世代」（1971-1982生まれ）で、ワーキングプアも多い。親の世代を支えるどころか、自分たちの生活で精一杯な人がたくさんいる。
現在の日本の財政歳入の1/3は国債発行に頼っており、その発行額（2017年度で34兆円）は、一般会計の社会保障費32.5兆円とほぼ同額である。こんな国は世界中どこにもない。通常は、これほどの国債発行する前に金利が上昇し、発行を続けられないからだ。ところが、これまで、日本では高齢者が大量に貯蓄していることを原資に、金融機関が国債を購入しているため、金利は落ち着いている。しかし今後、高齢者が貯蓄を取り崩していくと、これまで通り国債を発行できなくなる。
日本はもともと社会保障水準がヨーロッパ並みに高い一方、税負担率は低い。高齢者が少なく、労働人口の多かった高度成長時代に野放図に社会保障を拡大させてしまった。一旦拡大した社会保障は既得権となり、水準を下げるのは政治的に容易ではない。本来なら、負担を増やさなければならないが、これも世界にもまれな高貯蓄で国債消化ができたことで、後送りを続けている。
国債発行残高は1000兆円を超えており、この規模のバブル崩壊を世界は経験したことがない。
日本はもともと社会保障水準がヨーロッパ並みに高い一方、税負担率は低い。高齢者が少なく、労働人口の多かった高度成長時代に野放図に社会保障を拡大させてしまった。一旦拡大した社会保障は既得権となり、水準を下げるのは政治的に容易ではない。本来なら、負担を増やさなければならないが、これも世界にもまれな高貯蓄で国債消化ができたことで、後送りを続けている。
国債発行残高は1000兆円を超えており、この規模のバブル崩壊を世界は経験したことがない。
2018年08月23日
近代日本をつくった長州五傑
「幕末、先進技術を取得すべくイギリスに留学した若き長州藩士たちがいた。伊藤博文、井上薫、山尾庸三、井上勝、遠藤謹助の五人である。出発点を同じくしながら、やがて有力政治家となった伊藤・井上薫と、官僚人生を全うした他の三人。その運命を分けたものは何だったのか。高度な専門知識により工業・鉄道・造幣の分野で活躍した山尾・井上勝・遠藤の足跡を軸に、近代国家形成期に技術官僚が果たした役割を明らかにする。」
というのが本書の主旨。伊藤博文、井上薫は明治の政治家として有名だが、2人に比べると他の3名の知名度は格段に低い。3名は技術官僚となって、近代日本建設にまい進した。
山尾庸三は、工部省を設立し、同省全体を統括した。後に、工部大学校の創設を通じて次世代技術官僚の育成に貢献した。東大工学部の前身である。「工学の父」
井上勝は、留学成果を活かして鉱山と鉄道を担当し、数年で鉄道に専念する。大阪に工技生育成所を設置して、鉄道技術者の育成もする。日本「鉄道の父」として知られる。
遠藤謹助は、御雇外国人と共に造幣事業を開始。明治8年（1875）には大部分において彼らから自立して専門性が深まり、同14年の造幣局へ復帰し、技監に就任して造幣事業を全うした。「造幣の父」
そして、もちろん、伊藤博文は「内閣の父」で、井上薫は「外交の父」。彼らが留学していたロンドン大学UCLには、Choshu Fiveの顕彰碑がある。そのことを知った地元が、後から2003年に山口に「長州五傑」の顕彰碑を建てたというのも面白い。
そして、もちろん、伊藤博文は「内閣の父」で、井上薫は「外交の父」。彼らが留学していたロンドン大学UCLには、Choshu Fiveの顕彰碑がある。そのことを知った地元が、後から2003年に山口に「長州五傑」の顕彰碑を建てたというのも面白い。
21：長州五傑の誕生百姓や足軽であれ、藩重心配下の村役人であれ、普通ならば藩政に関わることのできない立場であり、両者がイギリスへ留学することなど想像もし得ない家の出身であったことは間違いない。その彼らが、大組出身の三名と共に密航を成し遂げることができたのは、当人たちの能力や努力もさることながら、何より同藩、そして日本をめぐる激動の時代状況による部分が大きかった。37：ロンドンでの留学生活と専門性ロンドンでは、ジャーディン・マセソン商会支配人ヒュー・マセソンが彼らの世話をし、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジで化学を担当するウィリアムソン教授を紹介した。彼もまた熱心に5名の面倒を見た。彼らは、まず英語の勉強から始めなければならなかったが、時間の経過と共にその習得は進み、現地の新聞にも目を通すようになって、銀行や工場なども見学していた。伊藤も、日曜日などに天文台や大砲製造所、軍艦製造所など大きな施設の見学に連れて行ってもらっていたと回顧している。43：長州五傑は1863年9月に同時にイギリスへ渡ったが、帰国時期は大きく分かれる伊藤と井上薫が、他の3名に対してロンドンに残って、当初の目的を達するよう説得して、帰国が決まった。三者を説き伏せ五名全体の決定を主導したという点でも政治家的な才覚は十分に見て取れる。既に幕末の段階からこの両者には色濃く政治家としての資質が備わっていた。逆に残った三名は説得を受け入れ、知識や技術を身につけるという藩から命ぜられた任務を遂行することに重点を置いた以上、官僚的な側面が強かったこともまた指摘できる。147：明治7年（1874）以降の軍事重視による他部門の予算削減まず鉄道寮に迫られたのは、御雇外国人を解雇していくことであった。鉄道政策を支えてきた彼らの功績は大きいが、それ以上に彼らの給与は高かった。太政大臣の月給が800円の時代に、鉄道差配役カーギルは2000円、建設師長ボイルは1250円と、それを上回る額が支給され、400円クラスも複数雇われており、削減の対象に挙がったのである。鉄道寮としても対応せざるを得ず、明治10年（1877）にかけて相当数が解雇されていった。前述の造幣局キンドル、富岡製糸場のブリューナも解雇されるなど、財政状況を踏まえた全体の傾向でもあった。
2018年08月22日
連続してイノベーションを生む「ハリウッド型」プロ集団
最初にスタートアップスタジオと聞いたときは、従来のインキュベーターとどう違うのか？言い方を変えただけではないか？と思ったが、読んでみると確かに違う。
どこが決定的に違うかというと、従来のインキュベーターでは、主役はあくまで起業家だった。何をやりたいか決まっている起業家が入居して、センターの専門家の助けを借りながら成功を目指す。センターは入居費を安くする代わりSOを貰うことが多いが、センターに投資機能は通常ない。
スタートアップスタジオではスタジオが主役だ。いわば、イノベーションの量産工場。モデルは、ハリウッドの映画スタジオで、スタジオがリスクを取り、作品ごとに必要なプロを集め、映画を製作する。誰がどれだけのリスクを取り、固定報酬にするか、成功報酬を多くするかなどは映画ごとに契約で決める。スタジオが固定的に抱える専門家集団もいる。試写をして反応が悪ければ、シナリオを変えてしまうということも行われると聞く。
2015年の調査によれば、2008年以降スタートアップスタジオ各社は40億ドル（約4500億円）を超える資金をVCから調達しているという。そして、スタートアップスタジオから生まれるベンチャー企業はこの間に年率15%で増えているということ。スタートアップスタジオの商品はスタートアップなのだ
当然、重要なのは、継続か中止かの判断になる。その指標となるのが、実験の初期段階が終わる時点で、スタートアップに実用的なMVP（検証可能に必要な最低限の機能を備えた商品）と、一定数のユーザー、スケール可能な成長エンジンがあるかどうかである。
著者が運営しているハンガリーのスタジオ「ドルッカ」の場合、一つのスタートアップに費やす予算は€1-2万、期間は3-6か月だそうだ。一つのスタートアップにそれ以上かければ、他のスタートアップを始める機会が奪われてしまう。毎年、12-15のスタートアップを立ち上げるという長期ビジョンを掲げる。
どこが決定的に違うかというと、従来のインキュベーターでは、主役はあくまで起業家だった。何をやりたいか決まっている起業家が入居して、センターの専門家の助けを借りながら成功を目指す。センターは入居費を安くする代わりSOを貰うことが多いが、センターに投資機能は通常ない。
スタートアップスタジオではスタジオが主役だ。いわば、イノベーションの量産工場。モデルは、ハリウッドの映画スタジオで、スタジオがリスクを取り、作品ごとに必要なプロを集め、映画を製作する。誰がどれだけのリスクを取り、固定報酬にするか、成功報酬を多くするかなどは映画ごとに契約で決める。スタジオが固定的に抱える専門家集団もいる。試写をして反応が悪ければ、シナリオを変えてしまうということも行われると聞く。
2015年の調査によれば、2008年以降スタートアップスタジオ各社は40億ドル（約4500億円）を超える資金をVCから調達しているという。そして、スタートアップスタジオから生まれるベンチャー企業はこの間に年率15%で増えているということ。スタートアップスタジオの商品はスタートアップなのだ
当然、重要なのは、継続か中止かの判断になる。その指標となるのが、実験の初期段階が終わる時点で、スタートアップに実用的なMVP（検証可能に必要な最低限の機能を備えた商品）と、一定数のユーザー、スケール可能な成長エンジンがあるかどうかである。
著者が運営しているハンガリーのスタジオ「ドルッカ」の場合、一つのスタートアップに費やす予算は€1-2万、期間は3-6か月だそうだ。一つのスタートアップにそれ以上かければ、他のスタートアップを始める機会が奪われてしまう。毎年、12-15のスタートアップを立ち上げるという長期ビジョンを掲げる。
＊起業したい人が、スタジオ内にいる各種専門家たちと共に、イノベーションを次々と生みだす！・STARTUP STUDIOにおける、スタートアップ立ち上げ�，垢戮討離▲ぅ妊△鮓‐擇掘⇒イ譴織▲ぅ妊△呂匹譴�明らかにする。実行できるアイデアが決定したらCEOを決める。�▲罅璽供爾�惚れ込む商品を素早く、1-2週間で作る��SNSなどを活用し、何人のユーザーが獲得できそうか試算する。さらにユーザーテストを行い、商品に改良を加える。�ぅ好織献�内のポートフォリオを管理する。�ゥ灰▲繊璽爐離瓮鵐弌爾了�間を管理する�ΔΔ泙�いってないスタートアップの中止判断を行う。【プラス面】・スタートアップに失敗しても、チームを配置転換し、優秀な人材とノウハウを残しておくことができる・スタジオは、傘下にあるスタートアップの株の多くを保有しており、将来、大きな利益を得る可能性がある・初めて起業する人にも成功するチャンスが十分ある【マイナス面】・スタートアップ専任チームの所有株数が少ないため、彼らのモチベーションが下がる恐れがある・立ち上げに多額の初期投資が必要になる
2018年08月21日
ビッグデータの時代
アメリカと中国にあって日本になかったもの・・・データサイエンスの専門学部。
筆者は、2017年4月に日本初のデータサイエンス学部を滋賀大学に開設した研究者。今年4月には横浜市立大学にもデータサイエンス学部が開設されたということ。しかし、年間に数千人の専門家を送り出すアメリカとは大変な差がある。一方、企業での需要は日本でもアメリカ同様にあるので、最も人材の奪い合いが激しい専門家の一つだ。
＊データサイエンティストの不足が、国全体の競争力にも悪い影響。育成は急務。・データサイエンティストを組織的に育成する大学の学部や大学院が存在しなかった・アメリカの主要大学には統計学科が存在・アメリカでの統計学あるいは生物統計学の2015年の学位授与数は修士が3500名程度、学士が2500名程度で、10年前の数倍・中国でも最近は同様24：EBM(Evidence Based Medicine)臨床試験や観察研究のデータから得られるエビデンスに基づいて評価し、さらに、特定の治療法の効果を支持する結果のみならず支持しない結果も含めて公正に評価する。付録1「統計学の歴史」現在のスマートフォンは実は昔のスーパーコンピュータ並みの計算パワーがある。1985年のCray-2のメモリ(RAM）は2GB、2016年発売のiPhone7のメモリも2GB。
2018年08月20日
Airbnb, Google, Uberは、なぜ世界のトップに立てたのか
「パレートの法則」は、「経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成する一部の要素が生みだしており」、その比率は大抵2:8であることから、別名「2:8の法則」とも呼ばれる。
ところが、インターネット経済における寡占度はこれまでの経済常識を超えている。Amazon, Facebook, Airbnb, Google, Uberなど、それぞれのカテゴリーにおける利益や時価総額における評価は、上位20%で80%ではなく、トップ1社でカテゴリー全体の80%以上を占めるほどだ。例えば、2015年後半に、Uberは510億ドルの評価で投資を受けており、同時期、業界二番手のLIFTの評価額は約1/25の20億ドルであった。
2000年頃に聞きに行ったBill Gatesの講演で、彼が、”Friction-free Economy"という言い方をした。つまり、「摩擦のない経済」。これまでは、国境や言語、通信費や輸送費の高さ、規制の壁などで、モノやサービスが世界に普及するには時間が掛かったが、インターネットという一つの統一されたプラットフォーム上で展開されるサービスは、「摩擦」がないから一気に広がるというわけである。
私はこの言い方が気に入ったので、今でも覚えているのだが、世間には広まらなかった。しかし、「世界的ネットワークの広がりで、大半の人は各カテゴリーのトップを選び、二番手以下には目もくれない」現状や、その結果、「カテゴリーキングには有能な人材や投資家なども集まり、カテゴリーキングの経済的支配力はより強まる」という状況は、まさに「摩擦のない経済」だと思わせる。
ところが、インターネット経済における寡占度はこれまでの経済常識を超えている。Amazon, Facebook, Airbnb, Google, Uberなど、それぞれのカテゴリーにおける利益や時価総額における評価は、上位20%で80%ではなく、トップ1社でカテゴリー全体の80%以上を占めるほどだ。例えば、2015年後半に、Uberは510億ドルの評価で投資を受けており、同時期、業界二番手のLIFTの評価額は約1/25の20億ドルであった。
2000年頃に聞きに行ったBill Gatesの講演で、彼が、”Friction-free Economy"という言い方をした。つまり、「摩擦のない経済」。これまでは、国境や言語、通信費や輸送費の高さ、規制の壁などで、モノやサービスが世界に普及するには時間が掛かったが、インターネットという一つの統一されたプラットフォーム上で展開されるサービスは、「摩擦」がないから一気に広がるというわけである。
私はこの言い方が気に入ったので、今でも覚えているのだが、世間には広まらなかった。しかし、「世界的ネットワークの広がりで、大半の人は各カテゴリーのトップを選び、二番手以下には目もくれない」現状や、その結果、「カテゴリーキングには有能な人材や投資家なども集まり、カテゴリーキングの経済的支配力はより強まる」という状況は、まさに「摩擦のない経済」だと思わせる。
＊カテゴリー戦略スタートアップ企業の大半が淘汰される中、AmazonやFacebookなどは、なぜ大成功を収めたのか？・カテゴリーキング＝新たなカテゴリーを創出し、発展させ、支配する企業・カテゴリーキングはカテゴリー全体の経済を牛耳るカテゴリーキングは、それぞれのカテゴリーで生じる利益と市場価値の7-8割を手中に収めている＊カテゴリー戦略・プロダクトデザイン：市場が解決してほしいと願う問題に適した、優れた製品や経験を意図的に作り出す・企業デザイン：カテゴリーに合わせた文化や支店を持つ、優れたビジネスモデルと組織を意図的に作り出す・カテゴリーデザイン：新たな市場カテゴリーを意図的に創造し、発展させる
2018年08月19日
ガイア
ガイアというと、今はなきSANYOが野中ともよ会長時代に「Think GAIA」というブランドビジョンを掲げていたことを思い出す。当然、Panasonicに吸収されてから、さっそく廃止になった。あのトップ人事には驚き、案の定、野中氏は何の成果も出せないまま退任したが、本人は「金融機関に食い物にされた」と言っている。
それはともかく、GAIA=地球のことだとは分かっていたが、改めて調べてみると、ギリシア神話から来ているらしい。
「ガイア（古希: Γαῖα, Gaia, Gaia, Gaa, Gaea）、あるいはゲー（古希: Γῆ, Gē）は、ギリシア神話に登場する女神である。 地母神であり、大地の象徴と言われる」（Wikipedia)
本作品では、GAIAという惑星が登場する。どうやら、地球とは違うのだが、放射能汚染で地球に住めなくなった人類が銀河系全体に広く移り住んで栄えているという設定。
核戦争による放射能汚染で地球に住めなくなるというのは、「宇宙戦艦ヤマト」や「猿の惑星」でも繰り返されたモチーフ。どちらも、本作より後なので、影響は受けていると思われる。
18：地球「放射能だよ。その惑星の表面全体が放射能を帯びている。コントロールできない核反応、つまり核爆発のためだーよくは知らないがーそして、今はあそこには生命は存在しえないんだ」223：ガイア「惑星全体が、その上にあるあらゆるものが、ガイアなの。わたしたちはみんな、個別の存在よーわれわれはすべて別々の有機体よーでも、全員が一つの全体の意識を共有しているの。無生物である惑星はもっともその割合が少ない。さまざまな生命形態がさまざまな程度において参与し、そして人間が最も多く参与しているけれどーわたしたちは全員が一つの意識を共有しているのよ」296：一つの惑星全体が行きている「そして、全体として、あなた個人のものよりも強大な精神フィールドを伴っているの」
2018年08月18日
銀河帝国興亡史
イーロン・マスクは子供の時からSFが大好きで、『ファウンデーション三部作』を勧めていたので、読んでみる。うっかり、三部作の最後の作品から読んでしまった。
話がスターウォーズにあまりに似ているので驚く。本書は、1942-50年まで断続的に「明日タウンディング・サイエンス・フィクション」誌に連載されたとある（解説）。同誌で評判になった本シリーズは、最初、SF専門出版社ノウム・プレスが51-53年にかけて単行本化。しかし、有名になったのは、大手出版社ダブルデイが63年に合本の『銀河帝国興亡史三部作』を刊行してからということ。いずれにしても、ルーカスが本書をスターウオーズの参考にしたのは間違いなさそうだ。
10：セルダン・プラン第一ファウンデーションは優れた科学力にものをいわせて、周囲の野蛮な状態に逆行した惑星を支配した。そして、瀕死の帝国から離脱した無政府的な軍閥と対決し、それらを破った。また、最後の強力な皇帝と、最後の強力な将軍が率いる帝国の残存部分と対決し、それを破った。99：第一ファウンデーションわれわれは昔の人が夢想だにしなかったような質量探知装置を持っているし、思考に反応できるコンピュータを持っています。そしてーとりわけー精神遮断技術をね。第二ファウンデーションは、たとえ今われわれをコントロールすることができるとしても、これ以上そう長く続けることはできません。132：トランタートランターは一個の惑星をそっくり取り巻く一つの都市になった時点で、その成長のピークに達した。人口は（法律によって）450億人で安定し、表面で唯一の緑地は皇居と銀河帝国大学・図書館複合体だけであった。189：銀河系植民惑星そういう惑星は何百万も何千万もあり、そのいくらかはほとんど人に知られていない世界なんだ。たとえば、半分近くの星の人口について、よいデータがない。そして、64万個の植民世界については、名前と、時には位置以外に、ほとんど情報がない。
2018年08月17日
糖質からの独立戦争
帯には「糖質からの独立戦争」との大業な文字。炭水化物摂取を減らすのが大流行だが、ダイエット以外に目的はあるのか
しばらく「赤身肉は健康に悪い」として、肉食を減らす傾向もあったが、現在は肉食ブーム。日本人は12千年前の採取時代にドングリを煮て食べることを覚え、それからデンプン＝炭水化物の摂取が始まったという。13千年前ごろから寒冷期が始まり、獲物が獲りにくくなったからだ。さらに、大陸から稲作が伝わり、安定した食物確保で日本の人口は拡大期を迎える。それまでは気候次第で増えたり減ったりであった。
何の作物を栽培するにせよ水は大量に必要で、例えば、茶碗一杯の米を作るためには300-400kgの水が要る。100gのステーキを作るためには、2.5kgの穀物と、2tの水を消費する。一つだけ明らかなのは、筆者の推奨通りに、皆が穀物を食べず、肉食になれば、地球は現在の人口は維持できない。肉を食べられるのは富裕層だけになってしまう。
狩猟だけで生活していた縄文時代初期の推定人口は1-2万人。日本全体の人口である。それが、ドングリを食べ始めて10倍くらいに増える。稲作が始まった弥生時代には人口が50万人を突破したと推定されている。
狩猟だけで生活していた縄文時代初期の推定人口は1-2万人。日本全体の人口である。それが、ドングリを食べ始めて10倍くらいに増える。稲作が始まった弥生時代には人口が50万人を突破したと推定されている。
・糖質制限で体調がよくなる短期間で体重が減り、不眠症やうつ症状、高血圧、高脂血症が治る。・血糖を上げるものは摂取しない血糖値を上げる作用の強い炭水化物。・血糖値が上昇するとドーパミンが分泌され快感コカインに対する脳の反応と同じであり、糖質依存に陥る。
2018年08月16日
炭素が握る人類の未来
オーランチオキトリウムの話が面白いのだが、この件、その後どうなっているのだろう？検索していると、2015年の「藻オイルはユーグレナを超えるか？」という記事があった。ここでは藻の優位性についてこう述べられている。
・油脂含有率が70-80%と高い
・倍化速度（細胞分裂する速度）が約1.7日と早い
そして、研究室を出て実証プラントをすぐにでも建設するような話になっている。では、ここに出てくるMOILはそれから3年、プラントを建設できたのか？会社概要にも沿革にもプラントは出てこず、どうやら建設できていない。水素添加設備の問題が解決できなかったのか？
一方、ユーグレナでは実証プラントを建設中で、今年竣工予定。一歩進んでいるように見えるが、本当にコストが合うのか？ユーグレナでは油脂含有率の多いミドリムシを遺伝子編集も駆使して作ろうとしているが、それでも20%程度にとどまっている模様。これまでの計算から、それでも原油換算価格は$300-1000/barrelであり、商業化できるかどうかは依然不透明だ。
・油脂含有率が70-80%と高い
・倍化速度（細胞分裂する速度）が約1.7日と早い
そして、研究室を出て実証プラントをすぐにでも建設するような話になっている。では、ここに出てくるMOILはそれから3年、プラントを建設できたのか？会社概要にも沿革にもプラントは出てこず、どうやら建設できていない。水素添加設備の問題が解決できなかったのか？
一方、ユーグレナでは実証プラントを建設中で、今年竣工予定。一歩進んでいるように見えるが、本当にコストが合うのか？ユーグレナでは油脂含有率の多いミドリムシを遺伝子編集も駆使して作ろうとしているが、それでも20%程度にとどまっている模様。これまでの計算から、それでも原油換算価格は$300-1000/barrelであり、商業化できるかどうかは依然不透明だ。
231：フラーレン1990年にはアーク放電を用いた大量合成法が発見され、多くの化学者がまとまった量のフラーレンを手に入れられるようになる。240：石灰石二酸化炭素が海水中のカルシウムと結びつき、固体の形に固められたもの。もし地球上の石灰石が全て分解してしまったら、大気の97%を二酸化炭素が占めることになり、その強烈な温室効果のために、人類が住めるような気温ではなくなる。現在の住みやすく温暖な地球環境があるのは、サンゴなど海洋生物のおかげ。244：オーランチオキトリウム大きさ1/100mmしかない藻類。各種の炭素化合物を食べて、スクアレンという物質を作り出す。スクアレンは炭素30個を含む炭化水素であり、重油と本質的に変わりない。適切な環境においてやれば4時間ごとに倍々に増える。下水などの有機物でこれを育てれば,1haあたり1万トンの油が生産できる可能性。光合成を行う他の藻類と組み合わせれば、大気中の二酸化炭素を油に変える技術になりうる。日本の休耕田の5%に当たる、2万haをオーランチオキトリウム生産に充てれば、我が国の年間石油消費量をまかなえる計算。
2018年08月15日
史上最強のエネルギー ― 石油
米国経済が堅調だ。トランプ大統領は彼の政策のおかげだといいたいようだが、それは違う。FANGのようなIT企業が世界を圧倒していることと、シェールガスのおかげでアメリカの石油輸入が激減し、石油価格が下がり、エネルギー多消費型経済のアメリカ経済全体のコストが下がっていることが原因だろう。
20世紀は「石油の世紀」で、石油の普及は生活も戦争形態も一変させた。しかし、その石油、未だにどうやってできたかは明確でないのだという。現在主流なのは、「有機起源説」と呼ばれるもの。植物プランクトンなどの死骸が海底や湖底に沈み、細菌による分解を受けて腐植物質となる。これが地殻変動によって地下深くに埋没し、高い地熱と圧力を受けて原油に変化する。
元素周期表の考案者として有名なロシアの科学者ドミトリ・メンデレーエルが最初に唱えた、「無機起源説」というのもある。地球ができた時に閉じ込められた炭化水素が、やはり地中深くの熱と圧力を受け、変性してできたとする。この説で行くと、石油は現在推定されているより大量に埋蔵されており、地球深部から少しずつ地表に向けて湧き出てきているということになるそうだ。
生物原因なら、産地によって石油の組成が大きく違っていても不思議ではないが、実際にはほぼ一定であること、生物とは無縁と思えるような超深度でも原油が見つかっていることから、近年ではこちらの説を唱える学者も増えているということ。これは興味深い
210：産業革命を支えた火イングランド及びウェールズのエネルギーは1750年には60%ほどが石炭でまかなわれていたが、この比率は1850年には90%に伸びている。フランスやイタリアの工業化が大きく遅れを取ったのは、石炭を産しなかったことが大きな要因とされる。216：石油とは何か炭素が一つだけのメタンは都市ガスの成分、炭素数3-4の成分は液化石油ガス(LPG）。炭素数5-10の成分はガソリン、11-15の成分は灯油、15-20の成分は軽油、さらに大きなものは重油として、用途に合わせて活用される。分留後に残る残油はアスファルトになり、道路の舗装に欠かせない。石油は多くの成分にきちんと分けることができ、それらが全て無駄なく利用できるという、まさに理想的な資源。219：石油と戦争・コンパクトで扱いやすく、高いエネルギーを持つ石油の出現は、戦争の形態をも一変・イギリス海軍大臣であったウィンストン・チャーチルが、戦艦・潜水艦の動力に石油を採用・世界最強の国家が、自国で生産できる石炭を捨て、輸入に頼らざるを得ない石油に動力源を切り替えたことは、世界のエネルギー地図を塗り替え・導入された艦船は、機動力の高さと補給の容易さで敵を圧倒222：シェールガスの埋蔵量は世界需要の300年分・シェールガスの主成分はメタンで、二酸化炭素排出量は石炭を100とした場合、石油は80、シェールガスは55・シェールガスの4割はアメリカに分布・採掘技術の特許なども押さえている
2018年08月14日
「天才物質」は存在するか ― 尿酸
史上最初の有名な痛風患者は、かのアレクサンダー大王らしい。他にも、モンゴル帝国を築いたフビライ・ハーンや、清教徒革命のオリヴァー・クロムウェルなど、痛風に悩んだ英雄たちは多い。
それだけなら、成功したゆえの美食の影響で済まされそうだが、同じ美食をしていても尿酸値が上がらない人もいるし、粗食でも痛風になる人もいて、痛風の発症には遺伝的要素も大きく影響することが現在では知られている。
それだけなら、成功したゆえの美食の影響で済まされそうだが、同じ美食をしていても尿酸値が上がらない人もいるし、粗食でも痛風になる人もいて、痛風の発症には遺伝的要素も大きく影響することが現在では知られている。
しかし、歴史上の英雄以外にも、ダンテ、ゲーテ、スタンダール、モーパッサン、ミルトンなどの文学者、ベーコン、ニュートン、ダーウィンなどの学者、さらには、ルターといった宗教家、フランクリン、チャーチルなどの政治家までが痛風で悩まされていたとなると、痛風と「天才物質」の関係を疑ってみたくなるというもの。
実は、「痛風を発症しやすい性格」というのがあるらしい。それは、「せっかちで時間に厳しく、精力的に仕事に打ち込む。意志が強く、最後までやり抜かねば気が済まない。競争心が旺盛で攻撃的、怒りっぽい」というもので、ミケランジェロなどはそうした気難しさで有名だったそうだ。
仕事に対するこうした態度は成功の要因でもある。その後の研究で、社会的成功者には尿酸値が高い人が多いことが分かっているそうだ。これが、遺伝のためなのか、性格のためなのか、成功した上の美食のためなのか、おそらくは、それらを組み合わせたところに答えがあるようだ。
仕事に対するこうした態度は成功の要因でもある。その後の研究で、社会的成功者には尿酸値が高い人が多いことが分かっているそうだ。これが、遺伝のためなのか、性格のためなのか、成功した上の美食のためなのか、おそらくは、それらを組み合わせたところに答えがあるようだ。
2018年08月13日
歴史を興奮させた物質 ― カフェイン
どこかで、「人間とは、味付けした水を好む動物」というのを読んだことがある。確かに、人間以外で、「味付けした水」を飲む動物を知らない。
特に日本では、メーカーが毎週のように新製品をだして、激しい競争を繰り広げている。しかし、大別すれば、�．魁璽辧七蓮↓�茶系、��コーラ系、�て�酸系、�ゥ献紂璽昂呂吠�かれるという。茶は紀元前から中国で薬草として知られ、現在でも水に次いで世界で二番に飲まれている。コーヒーの普及ははるかに遅く、記録が残るのは15世紀になってからだという。そして、コカ・コーラが誕生したのは1886年と比較的新しい。
この三つの定番飲料の共通点は、いずれもカフェインがたっぷり入っていること。コーラもカフェイン濃度は紅茶や緑茶並みなのだそうだ。
カフェインは集中力を高め、清涼感がある一方、依存性もある。中毒者はカフェインが切れると頭痛・疲労感・集中力低下などの症状が現れる。面白いのは、影響を受けるのは人間だけでなく、たとえばクモに投与すると、酔っ払ったようになってきちんとした巣を張れなくなるという。カフェインは、立派な「ドラッグ」なのだ。
特に日本では、メーカーが毎週のように新製品をだして、激しい競争を繰り広げている。しかし、大別すれば、�．魁璽辧七蓮↓�茶系、��コーラ系、�て�酸系、�ゥ献紂璽昂呂吠�かれるという。茶は紀元前から中国で薬草として知られ、現在でも水に次いで世界で二番に飲まれている。コーヒーの普及ははるかに遅く、記録が残るのは15世紀になってからだという。そして、コカ・コーラが誕生したのは1886年と比較的新しい。
この三つの定番飲料の共通点は、いずれもカフェインがたっぷり入っていること。コーラもカフェイン濃度は紅茶や緑茶並みなのだそうだ。
カフェインは集中力を高め、清涼感がある一方、依存性もある。中毒者はカフェインが切れると頭痛・疲労感・集中力低下などの症状が現れる。面白いのは、影響を受けるのは人間だけでなく、たとえばクモに投与すると、酔っ払ったようになってきちんとした巣を張れなくなるという。カフェインは、立派な「ドラッグ」なのだ。
122：定番飲料の共通点�．魁璽辧次↓�茶、��コーラいずれもカフェインたっぷり。コーラもカフェイン濃度は紅茶や緑茶並み。124：茶の普及を促進したのは仏教精神を研ぎ澄まし、集中力を高める茶の作用は、瞑想修行に有効と考えられ、積極的に服用された。仏教の広がった範囲は、茶の愛飲されていた東アジア地域に重なっている。130：当初は媚薬としてもてはやされたチョコレートカカオは、カフェインとわずかに構造が異なるだけの化合物テオブロミンを多く含む。その作用はカフェインに比べてやや弱いが、一緒に摂ると効果を相乗的に強める。またテオブロミンにはホスホジェステラーゼ阻害作用、すなわちかのバイアグラと類似の作用が極めて弱いながらある。さらにカカオはフェネチルアミンという成分を含み、これは脳内で快楽を司るドーパミンの量を増やす。チョコレートは、これに加えて砂糖・脂肪がたっぷり入った快楽物質の塊。
2018年08月12日
世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか
変わった名前の著者はポーランド生まれ。中学校の時にベルリンの壁崩壊。資本主義が導入されて生活が楽になるかと思ったら、失業者があふれ（それまで競争のない社会にいたのだから競争力がない）、高校を中退してドイツに出稼ぎに行ったという。そうしたら、たった1日の給与が、職人であった父親の2-3ヵ月の稼ぎと同じだった。
この原体験から、「変化は突然やってくる」「自分も変わっていかなければならない」ということを心に刻んで、ドイツ、オランダ、アメリカで暮らしたあと、2000年に留学のため来日。2002年Berlitz: Global Business Solutions、2006年Morgan Stanley: VP, Learning & Development、2011年Google: AP People Development => Global Learning Strategy、という経歴。人材育成と組織開発が専門である。
正直なところ、驚くような手法が載っているわけではない。そんなびっくりするような手法があったら、間違いなく、入社時に秘密保持義務契約を結んでいるはずだし。それよりも、日本企業が見習わなければならないのは、「世界より早く動いて成果を上げなければいけないというGoogleの強い使命感」の方だろう。一部のベンチャー企業を除いて、「常に今の10倍の成果を上げよう、そのためにはどうしたらいいかと考え、それを実現している」といった企業にあったことがない。状況は予断を許さないのに、どこかしら、「何とかなるだろう」という甘さがある。
「僕の村でも失業者がいきなり100%近くまで跳ね上がりました。年の離れた僕の二人の兄たちも突然仕事を失いました。上の兄はその後ずっと仕事がなくてアルコール中毒になり、酔っ払って自動車事故にあい、亡くなります。（中略）自分の生まれ育った環境について不通に話せるようになったのは、つい最近のことです」
「次代に合わせて自分が変わっていかなければならない」という強迫観念にも近い決意はここから来ている。AIが怖い、不安だといいつつ、何もしない日本人との違いだ。
はじめに：世界より早く動いて成果を上げなければいけないというGoogleの強い使命感常に今の10倍の成果を上げよう、そのためにはどうしたらいいかと考え、それを実現している。36：メールせず、全員で同時に作業するGoogle Docsで文章を共有して、全員が同時に書き込む。すぐに完成させたい場合は、Google HangoutでChatやビデオ会議。41：日程調整にメールを使わないGoogle Calendarで、空いている時間だけを公開する設定にして、多くのお客さんと共有する。61：洋服選びに時間をかけない黒のシャツしか着ない。色を選ぶ時間がもったいない。同じシャツを3枚買って着回す。68：企画会議にプレゼンは要らないプレゼン形式の会議は、発想が広がらない。108：ルールを破らないと、10倍は達成できない自分の前提や、固定観念を破る。174：Facebookでつかず離れずの距離を維持する自分の周りに、いつでも話を聞きにいけるプロのネットワークをつくっておく。
2018年08月11日
大義のない戦争
浅田次郎の歴史小説は好きなので、これまでもかなり読んでいる。特に、前大戦を舞台とした戦争小説は、ご本人が自衛隊出身ということもあってか、読ませる。こちらは今年出た新刊で、戦場ミステリーは初めてということ。
舞台は満州国境に接する北京の北東部で、独立歩兵大隊一千名が、万里の長城の一部である「張飛嶺」を守っている。ここは河北と満蒙を結ぶ街道の要衝だ。大隊主力は武漢作戦に動員されることになり、足手まといになりそうな30名だけが守備隊として残されることになる・・・。
登場する憲兵が持つのが、「南部式拳銃」。南部式というと警官の持つ回転式の「ニューナンブ」を連想するが、調べてみると、こちらは（写真）自動拳銃。南部麒次郎（陸軍で兵器開発を担当）によって開発された日本初の自動拳銃ということ。明治35年(1902）に開発された大型は8mm口径で、重量945gというから予備役として徴収されるまで第一銀行の銀行員だった憲兵分隊長が、自費で「小型の南部拳銃を買った」というのも分かる。小型は7mm口径で殺傷力は劣るが、548gと軽かった。
ニューナンブの製造元は新中央工業で、陸軍を退官した南部麒次郎が設立した戦前の中央工業が前身。1975年にミネベアに吸収されている。口径9mm、重量670g。
175：南部式拳銃憲兵の官品ですと、自分のこの大型南部か、へたをするともっと重い旧式の26式が支給されます。それでは扱いかねるから、小型の南部拳銃を買ったそうです。たしかに軽いがそのぶん中りませんな。7mmでは威力もないので、せいぜい護身用といったところです。200：軍隊は、小学校もろくすっぽ通ってねえ俺に、読み書きまで教えてくれた。そればかりじゃねえぞ。飯炊き、繕い、靴磨き、掃除、洗濯。乱暴者は変わらねえが、ずいぶんと始末のいい男にしてくれた。255：日中戦争満州はともかく、長城を越えてまで戦争をする必要はない。要するに日本は、わけのわからぬ戦争をしている。そんな戦争の中で日本軍は軍隊としての正体をなくし、謀略がすっかり習い性になってしあったのだ。
2018年08月10日
世界を二分した「うま味」論争 ― グルタミン酸
私たち以上の世代だと、子供の頃、「味の素で頭が良くなる」という話を聞いたことがあると思う。うどん屋には味の素が必ず置いてあり、それを振りかけて食べる人が多かった。
この「頭が良くなる」というのは、まんざら根拠のない話ではないらしい。味の素＝グルタミン酸は人が生きていくのに必要な必須アミノ酸の一つで、重要な神経伝達物質なのだ。この化合物なくしては人間は記憶も学習もできない。
味の素は1960年代に、グルタミン酸の一部を石油からの化学合成で供給したことで非難された。天然由来ならいいが、石油から化学合成するのは許せないというわけである。科学的に見れば、「原料が昆布であろうが小麦粉であろうが石油であろうが、出来上がったものは同じグルタミン酸という分子であり、そこに差異は何もない。原子に個性はない以上つながり方さえ同じなら同じ分子」なのだが、風評被害のため、味の素社は十数年で合成法から撤退し、今ではサトウキビからの発酵法による生産に切り替わっている。
著者は、グルタミン酸の味が大好きなのに、グルタミン酸の使用を嫌う日本人の矛盾を、「便利すぎるから」ではないかという。「自分を感動させ、惹きつける味わいは、厳選された材料と磨き抜かれた調理技術によって生み出されているべきだ」と思ってしまう。「それが実際には安価な調味料一振りで簡単に実現されているとなると、何やら騙されたようで腹立たしくなり、調味料への攻撃につながってしまう」と考察している。
87：タンパク質数百個のアミノ酸が数珠つなぎになったもの。わずか20種類でしかないアミノ酸の縦列組み合わせだけで、あれほどまでに複雑多彩な機能が実現されているというのは、自然の大きな驚異グルタミン酸は、この生命の基本単位である、20種のアミノ酸の一つ。91：幕府を倒した昆布薩摩藩は、奄美や琉球で製造した砂糖を大坂の相場で販売し、その金で買い込んだ蝦夷地の昆布を大陸に売り込んで、巨額の利益を稼ぎ出したのだ。こうして薩摩藩は500万両の借金を清算し、逆に250万両もの蓄財を行うという、奇跡的なV字回復を成し遂げた。薩摩藩が討幕の主役を演じることになったのは、ここで得た資金の力が大きい。95：第五の味覚発見欧米では全く受け入れられなかった。欧米でもチーズなどグルタミン酸の味は楽しまれている。しかし、欧米の科学者はグルタミン酸の味をほとんど感じず、何度がテストが行われたものの、「無味」という結論が下された。98：1960年代には、味の素社はグルタミン酸の一部を石油からの化学合成で供給。原料が昆布であろうが小麦粉であろうが石油であろうが、出来上がったものは同じグルタミン酸という分子であり、そこに差異は何もない。原子に個性はない以上つながり方さえ同じなら同じ分子。しかし、味の素社は十数年で合成法から撤退し、今ではサトウキビからの発酵法による生産。
2018年08月09日
大航海時代を生んだ香り ― 芳香族化合物
大航海時代が始まったきっかけが13世紀末に小アジアに出現したオスマン帝国にあることはいうまでもない。オスマン帝国は地中海の制海権も握り、香辛料の産地である東南アジアと、一大消費地であるヨーロッパとの貿易が自由にできなくなる。
そこで、オスマン帝国の勢力圏を避け、アフリカ大陸を大きく回って直接アジアに向かう経路の開拓に乗り出したのだ。これに成功したのがポルトガルで、1498年に弱冠28歳のヴァスコ・ダ・ガマがアフリカ大陸の南端を回ってインドに到達した。こうして、長らくスパイス貿易の独占で繁栄してきたヴェネツィアは没落し、ポルトガルがヨーロッパ最初の海洋国家となる。
アメリカ大陸の存在を知らず、ポルトガルとは反対に西に向かったのがコロンブスのスペイン艦隊で、大西洋を渡って西インド諸島に到着する。そこで発見したのが、新たな香辛料、唐辛子である。唐辛子はヨーロッパではさほど流行らなかったが、アジア各地で熱狂的に受け入れられる。インドのカレーも、韓国のキムチも、タイのトムヤムクンも、16世紀以降にアメリカ大陸の唐辛子がヨーロッパ人によってもたらされてできたものなのだ。
英欄戦争で勝利したオランダが、優先的にモルッカ諸島の小さな島を選び、代わりにニューアムステルダムと呼ばれていたマンハッタン島をイギリスに割譲したというエピソードも当時の香辛料の価値を物語っていて興味深い。
もともとは、食肉の保存のために珍重された香辛料だが、その需要は18世紀に入ると減少する。冬でも育つ家畜用作物の開発や、地味を痩せさせない輪作法の確立などが相まって、ヨーロッパの長い冬でも家畜を飼育できるようになったのだ。このため年間を通して新鮮な肉が得られるようになり、香辛料の必要性が減った。19世紀になって冷蔵技術が開発されて、この傾向は決定的となる。
77：カプサイシンカプサイシンにより痛みを感じると、脳はそれを癒すべくエンドルフィンなどの脳内物質を放出する。辛い食品を食べるのは辛いはずなのに、食後に不思議な満足感を覚えるのはこのせいだ。長距離を走っているうちに快感を覚える、「ランナーズ・ハイ」と似た原理といえる。79：ニューアムステルダム1665年から行われた英欄戦争では、勝ったオランダがモルッカ諸島の小さな島であるラン島を取り、代わりに北米大陸の片隅、ハドソン川の河口にある細長い島をイギリスに割譲した。これは当時にしてみればオランダに有利な取引と思われたが、現代のわれわれから見れば大損となった。
2018年08月08日
人類が落ちた「甘い罠」ー 砂糖
これだけ人類に愛されている砂糖だが、どういう分子が甘味を感じさせるのか、実はまだ分かっていないのだという。砂糖、そして人工甘味料の化合物はどれも甘いが、構造的には似ても似つかない。それどころか、有機溶剤のひとつクロロホルムや、爆薬のニトログリセリンなども強い甘味を持つが、構造には呆れるほど何の共通点もないという。
55：砂糖は万能薬医学の最高権威であった11世紀アラブの大学者イブン・スィーナーは、「砂糖菓子こそ万能薬である」と断言している。(中略) 栄養状態の悪かったこの時代にあっては、カロリーの高い砂糖を与えるだけで病人が元気を回復したケースも多かっただろう。何より、砂糖の白く美しい輝き、そして魅惑的な甘い味わいはいかにも神秘的であり、プラセボ効果を引き出すのにこれ以上のものはなかったに違いない。57：16世紀半ばにもなると、アメリカ大陸には3万人以上が働く製糖所が40か所も完成し、ヨーロッパに砂糖を送り出していた。ここで必要となった膨大な労働力は、アフリカから連行された黒人奴隷によってまかなわれた。その数は、トータルで1千万とも2千万ともいわれる。64：人工甘味料現在、人工甘味料の王者に君臨するのは、砂糖の600倍もの甘さを誇るスクラロースだ。この化合物は、砂糖分子の水酸基（OH）の一部を塩素に変換したもので、1976年に初めて合成された。これを作った研究員はまだ英語に不慣れで、教授が「その化合物をテストしてくれ」と指示したのを「味見（taste）」と聞き違え、舐めてみたら驚くほど甘かったという、まるで冗談のような経緯で発見された。
2018年08月07日
文明社会を作った物質 − デンプン
「イネ」の語源は「命の根」だという。それほど米は日本人の体を作り、稲作の特性から国民性まで形作ってきた。「日本列島は、デンプン生産のために改造された島」というのも、面白い。
「畑と異なり、田は土地を水平に均して水を張り、周りを囲って水が漏れないようにしなければならない。また、大量の水を必要とするから、川の水を引くなど大規模な工事が必要となる。利根川など大河の流路さえも、必要とあれば大胆に付け替えた。我々が『豊かな自然』と感じる田園の光景は、こうして極めて人工的に作り出されたものだ」（p42）
第1章 文明社会を作った物質 − デンプン32：穀類、芋類の主要栄養成分我々は、米・麦・トウモロコシの三大作物から、総カロリーの約半分を得ている。食肉となる牛や豚の資料にも穀物は欠かせないから、我々が体を動かすエネルギーは、元をたどれば大半がデンプンから来ている。34：190万年前に生きていたホモ・エレクトゥスが初めて火を使った加熱処理デンプンは水を加えて加熱することにより、グルコースの間に水分子が入り込んで膨張（糊化）。デンプンの鎖がゆるんで消化分解を受けやすくなる。吸収が良くなるので摂取カロリーも増え、食事に要する時間が大幅に短縮された。35：13千年前に起きた寒冷期→狩猟生活で暮らしてゆける人口の限界・男性の平均身長178cm→農耕開始後160cm・男性の平均寿命35.4歳→33.1歳36：社会の誕生・余剰食料の蓄積で、初めて「富」という概念・腐敗や変質を受けにくいというデンプンの性質39：中国・人口増加と、戦乱による急減を、王朝交代のたびに繰り返す・前漢末の戸籍約6千万人→戦乱後の後漢成立時2千万人→200年かけて元の6千万へ回復42：米は究極の作物・デンプンはもちろん、良質なタンパク質やミネラルをバランスよく含み、ビタミン類も摂取できる・春に一粒のイネの種を蒔けば、秋には2−3千粒もの収穫が得られる・条件さえよければ、数年程度の保存も可能・多量の水と温暖な気候を要するイネの栽培は、日本の風土に適している・日本列島は、デンプン生産のために改造された島45：ジャガイモはドイツの精神・富国強兵策を採るプロイセンのフリードリヒ2世大王が、国力向上のためにジャガイモを推奨・自ら毎日これを食べるキャンペーン・46年間の治世で領土を倍近くにし、224万であった人口を543万に増やす47：水不足が食料生産の足を引っ張る・何の作物を栽培するにせよ、水は大量に必要・茶碗一杯の米を作るために、300-400kgの水が必要・100gのステーキを作るためには、2.5kgの穀物と、2tの水を消費
2018年08月06日
E=mc2
世界一有名な等式ともいわれるE=mc2。アインシュタインが明らかにしたこの数式が与えたインパクトは大きかった。何しろ、c:光速度＝30万km/sなので、それが二乗されることで、わずかなm:質量から、巨大なE:エネルギーが生み出されることになる。これが原子爆弾であり、原子力発電。
しかし、高校で物理をかじって以来、受験科目でも選ばなかったので、あやふやなまま。改めて、ブルーバックスの新刊書でおさらい。
実際に、「広島に投下された原爆でエネルギーに転化して消えた質量は、わずか0.7g」だったというから凄まじい。弾頭に充填されていたのは64kgのウランだったが、爆発エネルギーに変わったのはわずか0.0011%だったのだ。
22：ニュートンの運動の法則�ヾ契�の法則�◆峅誕�」とは、速度が時間的に変化すること。物体に「力」を加え続けると、その物体はその力の方向に加速される。加速される度合い（加速度）は、その物質のもつ質量に依存する。「力」は「質量」と「加速度」の積で表される。�Ｊ�体を押すと、その物体は同じ力で押し返す。「作用-反作用の法則」35：ニュートンの万有引力の法則二つの物体の間には必ず重力が空間を隔てて作用する。重力は二つの物体のもつ質量の積に比例し、両物体間の距離の2乗に反比例する。111：電磁波（振動数の低い順に）電波、マイクロウェーブ、赤外線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線148：ハイゼンベルクの「不確定性原理」�＾銘屬髪親偉未良坡猟蠕�原理�▲┘優襯�ーと時間の不確定性原理246：宇宙における物質の組成割合�仝義納�期表に記載されている原子から構成されているふつうの物質・・・5%��暗黒物質（正体不明な謎の物質）・・・・・・・・・・・・・・・・・・27%��質量に換算されたダークエネルギー（謎のエネルギー）・・・・・・・・68%
2018年08月05日
ガソリン道
高松の仏生山から塩江温泉郷まで「ガソリン道」と言われる道がある。聞けば、戦前、この道をガソリンカーが走ったらしい。
ガソリンカー。正式名称は塩江温泉鉄道。昭和四年十一月、香川郡仏生山町（現高松市仏生山町）から塩江村（現塩江町安原上東）まで約十六キロで営業を始めた。ガソリンエンジンを積んだ四十人乗りの小さな車体は、「マッチ箱」と呼ばれ、親しまれた。昭和十三年、琴平電鉄に吸収合併され、同十六年には戦時統制下のガソリン不足で廃業した。
鉄道なのにガソリンエンジン
昨晩の飲み会でこの話題になり、その時は思いつかなかったが、帰りにことでん琴平線で過剰に揺られながら思いだしたのが、当時建造された世界最先端戦艦であった大和や武蔵もディーゼルエンジンではなかったこと。以前読んだ大和建造の事情を書いた本に、確か、「最先端のディーゼルエンジンも検討したが、技術の熟成が十分でなく、信頼性に欠けるため断念した」とあった。それで結果的に採用されたのは、実績のある蒸気タービンなのだが、蒸気タービンとディーゼルエンジンでは、燃費が倍も違う。同じ出力なら、ディーゼルエンジンは半分の燃料で済むのだ。大和の起工は1937年だ。調べてみると、ドイツのルドルフ・ディーゼルが特許を取得したのが1892年。初の動くプロトタイプを制作したのが1897年である。以下、Wikipediaの年表から抜粋する。
1914 ドイツUボートがMAN製ディーゼルエンジンを搭載
1922 ベンツがディーゼルエンジンを搭載した初のトラクター
1927 ボッシュがトラック用燃料噴射ポンプと噴射ノズルを製造開始
1933 ヤンマーが小型汎用高速ディーゼルエンジンの自社開発に成功
1934 マイバッハが世界初の鉄道車両用ターボディーゼルエンジン製造
要するに、19世紀末にドイツで発明されたディーゼルエンジンは20世紀初頭にはまだ最先端技術で、一般には普及していなかった。ドイツは最も進んでいたが、戦争の影響で普及しなかった。それは、英米による海上封鎖で原油が入ってこなくなり、国内で採れる石炭の液化で燃料を賄っていたが、この方法ではディーゼルエンジン用の軽油が余り採れなかったのだ。そのため、当時世界最高性能を誇ったティーガ重戦車はじめ、ドイツの戦車は皆ガソリンエンジンを採用していた。
これに対して、ドイツで4ストロークのガソリンエンジンが開発されたのが1876年。ドイツの裁判所はなぜか開発したオットー、ダイムラー、マイバッハの3名に特許を認めていない。1879年にカール・ベンツが2ストローク・ガソリンエンジンを発明し特許を得ている。カール・ベンツは1885年に4ストローク・ガソリンエンジンを搭載した世界初の自動車（三輪）を制作し特許を取得するとともに、翌年会社を設立した。ベンツ社は1926年にダイムラー社と合併して、ダイムラー・ベンツ社となる。
つまり、ガソリンエンジンはディーゼルエンジンに対して、数十年早く実用化されており、経験値も積んでいた。このため、昭和4年（1929）に営業開始した塩江温泉鉄道がディーゼルエンジンでないのは当然なのだ。そして、1両だけの編成には、当時鉄道機関車として全盛だった蒸気機関車よりも、ガソリンエンジンのほうが小型で良かったということなのだろう。写真を見ると、列車というよりも、軌道上を走るバスのように見える。
2018年08月04日
千夜千冊
追伸「本は交際である」本好きで「千夜千冊」を知らない人はいないと思うが、そのwebサイト「千夜千冊」の中から、ピックアップした回を本にまとめたもの。
書評ではない。その本との「めぐりあい」の事情と「印象」と「言わずもがな」を綴った。
第一章 世界読書の快楽
第二章 書架の森
第三章 読み方指南
第四章 ビブリオゲーム
として、合計24冊が紹介さている。
その文章がまた秀逸。「道元の言葉は激しくて澄んで、蹲っている」（道元『正法眼蔵』）など、私などどうひねっても出てきそうにない。24冊のなかには読んでない本もあるので、また読書予定リストが増える。
道元『正法眼蔵』道元の言葉は激しくて澄んで、蹲っている。一切同時現成である。ブレーズ・パスカル『パンセ』パスカルが1623年に生まれた翌年、リシュリューが宰相になっていて、14歳のときにデカルトが『方法叙説』を書いていた。日本は寛永年間。島原の乱がおこっていた。滝沢馬琴『南総里見八犬伝』「八犬伝は聖書のような本である」(森鴎外）「馬琴は日本文学史上の最高の地位を占めている」（幸田露伴）オレノ・ド・バルザック『セラフィタ』バルザックは政治・経済・生活の中の欲望と消費を書いた。これはバルザックがそのような時代の開幕と爛熟の数十年間に鉢合わせしていたからだ。この時代はパリという消費都市が発酵過熱して、それが19世紀末から20世紀初頭までつながって爛熟し続けた最初の起爆時代だった。フランス革命とナポレオンとパリ・コンミューンのパリだ。だからそういう過剰苛烈な同時代のパリにはバルザックだけでなく、ユゴーもスタンダールも、デュマもドラクロアも登場していた。のちにボードレールやベンヤミンも入れ込んでいく。リュシアン・フェーヴル アンリ＝ジャン・マルタン『書物の出現』ぼくが「遊」を編集していたころは、特集からコラムにいたるまでだいたいの台詞と内容が決まると、次に何をするかといえば、それぞれのテキストをどのようなタイプフェイスにするかを決めることだった。川島隆太 安達忠夫 『脳と音読』例の大ベストセラー、齋藤孝の『声に出して読んでみたい日本語』や、その後の類書のことだ。齋藤センセー、たしか音読は奨励しているものの、あの本はとんでもない代物だった。音読のもつ意味をとりちがえているし、例文もよくない。あれはむしろ演劇やパフォーマーたちの訓練に使ったほうがいい。レイ・ブラッドベリ『華氏451度』禁書・発禁はどんな時代にも起こっているものなのだ。アメリカ創設メンバーのベンジャミン・フランクリンさえもが、イギリス本国から”入国”してくる影響のよろしくない書物の焚書を条例化したものだった。その『フランクリン自伝』も何度か発禁された。
2018年08月03日
巨大技術の現場
また、成毛氏との共通点を見つけてしまった。「工場見学好き」
普段、製造現場や工事現場とは縁がない仕事の反動なのか、モノづくりの現場にワクワクする。成毛氏が「巨大技術の現場」ばかり取材してまとめたのがこの本。私も行ってみたいところばかりで、これはうらやましい。成毛氏は有名人だから、一般人が見学できない現場にも「取材」として入っていける。
ただ、好奇心を満たしてはくれるのだが、ビジネスとして考えると、モノが巨大だけにリスクも大きい。2015年2月出版の本なので、取材は2014年が中心だと思うが、それから4年のあいだにも、様々な事件が起こった。
2016年に三菱重工長崎造船所で完成した豪華客船は受注金額1000億円に対して、関連損失は1872億円にも上り、この後、三菱重工は祖業である客船事業からの撤退を決めた。欧米を中心とするクルーズ船市場に対して、日本勢の強みは生かされなかった。
25：三菱重工長崎造船所今回案内してくれた事務職の方も含めて、三菱重工の方々からは、長い時間をかけて大きなものを作る喜びがにじみ出ていて、全員と仲よくなりたいと思った。38：国家石油備蓄基地国家備蓄の石油が放出されたことはない。想定されている、大きな混乱に結びつくような緊急事態はまだ発生していないからだ。苫小牧の備蓄基地の原油も、多少の入れ替えはあったものの、基本的には一度運び込まれたものがずっと蓄えられている格好だ。資源エネルギー庁新エネルギー対策課長の村上敬亮氏（取材当時）から事前説明を受けた。氏は、何の資料も見ることなくあらゆる数字を挙げ、その口調はよどむことがなかった。官僚の説明能力の高さに恐れ入った次第だ。102：CERNCERNで働く人の数は62ヵ国の約1万人で、そのうち217人が日本人。建設費用は1兆円近くかかっていて、うち138億5000万円は日本が負担。
2018年08月02日
先見力：保科正之
江戸城には天守閣がない。「明暦の大火(1657）で焼失し、その後再建されなかった」ということは知っていたが、その決断をしたのは保科正之だったという。1611年に二代将軍・秀忠の庶子として生まれ、家康の孫にあたる。庶子であったことから養子に出され、信濃高遠藩主・保科正光の子に。高遠藩主、山形藩主を経て、初代・会津藩主に。三代将軍家光の要請で、江戸で幕政に参画するようになり、家光逝去後は四代将軍家綱の輔弼役。
明暦の大火で焼失した江戸城の天守をすぐに再建する計画が持ち上がった。幕藩体制は安定期を迎え、徳川の権力は頂点にあったのだから、当然だろう。だが、保科正之はそれを中止させた。もう徳川に反抗する者はなく、要塞としての城はもういらない。今後は「戦わない」世の中にするというキャンペーンの象徴にしたのだ。
そして、それで浮いた資金を、防災を軸とした江戸の町づくりに充てる。明暦の大火では当時の江戸の町の6割が焼失し、人口30万人の1/3にあたる10万人が亡くなっている。それまでの江戸の町は軍事目的で作られた構造を残しており、道が入り組んで迷路のようになっていた。それで多くの人が逃げ道を失い焼死した。また、同様の目的から、地図も流布させてなかった。住民は自分の生活区域以外の地理を知らなかった。
それで、保科正之は、防火帯として「広小路」を整備したり、主要道路の道幅を大幅に広げ火災が広がらないようにする。隅田川を挟んで人々が逃げられるように両国橋を架ける。これらの措置で、それ以降、江戸時代を通じて、人口は10倍になったにも拘わらず、10万人以上の死者を出す災害はついに起こらなかった。次に10万人を超える犠牲者が出るのは、大正時代の関東大震災で（さらに、その次は昭和20年の東京大空襲）、いかに保科正之が採った江戸再建計画が有効であったかがわかる。
まさに、江戸幕府260年の安寧をもたらした「パックス・トクガワーナ」の立役者。
173：保科正之は後に続く横井小楠と同じく新しい社会のグランドデザインをした人物・リーダーよりも重要なのが社会のビジョンを次代に合わせて描ける人間・「江戸時代はこんな社会で行きます」というビジョンを描き、具現化し、それを200年以上持続させた・保科の作った社会の形が時代とそこに暮らす人々のニーズに合っていた174：260年の安寧をもたらした「戦わない」社会通念・明暦の大火で日本一の高さ45mの五層の天守が焼失・再建計画にストップをかけたのが保科正之・「もう戦わない」世の中にするという象徴176：江戸再建計画「災害に強い街づくり」・焦土を利用して、木挽町、赤坂、牛込、小石川の沼地を埋め立てる・火除け空き地として上野広小路の設置、防火堤の設置・主要道路の道幅を6間（10.9m）から10間(19.2m）に拡張・両国橋の架橋、神田川の拡張
2018年08月01日
貴族力：Sir Winston Churchill
4月にKLに行く機内で、"Darkest Hour"（邦題：「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」）を見た。成毛氏は、チャーチルを、「庶民感覚ゼロが生んだノーベル文学賞」だという。
現在の政治システムでは、「庶民の気持ちが分からない人」は選挙でえらばれることはないだろうが、当時のイギリスは、200程度の貴族の名家が政治を担っていた。議員は無報酬であり、政治資金は全て自腹であるがゆえに、金と暇のない者には務まらないのだ。
見逃されがちなのは、チャーチルは「政治家ではなく文筆業」であったという事実。私を含め、ほとんどの現代人は、チャーチルを「ヒトラーから世界を救った偉大な政治家」と認識しているが、チャーチルの足跡を辿れば、そうでないことがわかる。
「チャーチルは90年の生涯において職業軍人だった数年間を除き、政治家以外の定職についたことはない。彼自身と家族の贅沢な暮らしを培った金は、筆一本で稼ぎ出したといっても過言ではない」
だから、『第二次世界大戦』などでのノーベル文学賞受賞は、彼の作家としてのキャリアの頂点を飾ったのだ。
「チャーチルの作品の中核は歴史、それも彼自身を主人公とした同時代史である」
153：人を人と思わない貴族力当時の社会を動かしていたのは200程度の貴族の名家。「庶民の気持ちが分からない人」ドイツに暗号解読が成功したことを勘づかせないために、その作戦内容を知りながら、逃げ惑う十国民を見殺しにしていた。チャーチルは、国民を勝たせるために戦争をしたのではなく、国を勝たせるためにその才能を発揮した。154：政治家ではなく文筆業チャーチルの従軍は、戦記を書くためだった。チャーチルは記者として、自らを新聞社に売り込み、従軍したインド、スーダン、南アフリカ、どこでも戦記を書き、それを発表し稼いでいた。こうしてチャーチルは、20代で既にベストセラー作家になっていた。156：チャーチルの弁舌力「20歳の時にリベラルでないなら情熱が足りない。だが、40歳のときに保守主義者でないなら思慮が足りない」
