2017年10月
2017年10月31日
第8章 オリンパス会長の依頼
オリンパスとLGT銀行（リヒテンシュタイン公国）がすでに損失隠しで動いていたことを知らずに、横尾氏はそのスキームに巻き込まれていく。オリンパスは日商岩井のVC部門であるITXを日商岩井から買収し、CVCの魁となっていくのだが、実はそれは莫大な運用損を隠すための隠れ蓑だった。
横尾氏が野村を退職した最大の理由が、「データベース・マーケティングをやりたかったから」というのは面白い。野村でこれをやろうとしたが、バブル崩壊後の証券不況で野村にそんな余力はない。実は、横尾氏は事法時代にオリンパスに野村総研を紹介し、オリンパスはデータベース・マーケティングの子会社UVASを設立していた。退職後の、氏の仕事はUVASの営業支援から始まるのである。
次いで、オープンイノベーションのため、300億円のVCファンド運用を任される。そこで投資したのが、オリンパス巨額決算粉飾事件の中心となるベンチャー企業3社。間に何社もオフショア会社を入れて、一見オリンパスと関係なく見えるファンドで投資した企業を法外に高い価格でオリンパス本体で買い、それを翌年減損処理することで運用損の解消を図ったのだ。
ちなみに、この時オリンパス社内で「新事業3社」とされた3社はいずれも2012-13年にかけて特別清算され、3社合計の負債額は163億円に上った。
280：野村の支店の最大の弱点は、客の特性を掌握する営業マンの能力が著しく低下したこと一人ひとりの営業マンに能力があった頃は、収益も上がりクレームも少なかった。実績を上げる営業マンは、人を見る眼を持っている。281：データベース・マーケティングはイトーヨーカ堂グループが野村総研と手を組んで、すでに導入していた。私自身も第2事業法人部に在籍していた頃オリンパスの下山敏郎社長（当時）から「コンピューター事業に参入したい」との相談を受け、イトーヨーカ堂グループのデータベース・マーケティングを担当した野村総研のチームを、オリンパスのコンサルティングに入れた経緯がある。この結果としてオリンパスが92年10月に設立したのが、アパレル業界向けにデータベース・マーケティングのシステムを構築する子会社「UVAS」（現・オリンパスシステムズ）。311：われわれは有望なベンチャー企業の発掘に努めた。投資先は二十数社に上ったが、ユニークで歴史の新しい会社ばかりに照準を合わせて投資したので、純粋なベンチャー投資は50億円程度にしかならなかった。その中で私と羽田が有望視したのが、オリンパス社内で「新事業3社」と称された「NEWS CHEF」「ヒューマンラボ」「アルティス」。特にNEWS社は私がとりわけ肩入れした会社だった。
2017年10月30日
第7章 さらば、野村證券
危機的状況にあった浜松支店を次長として立て直した後、92年5月に横尾氏は本店の運用企画課長になる。ここは投資商品や資料のチェック、毎月の雑誌作り、支店向けサテライト放送の制作、さらには投資信託の商品設計、年100回の講演会の講師など、驚くほど多岐だ。午前零時前に会社を出られることは稀だったという。
氏はここでも、また、「やりすぎる」。債券部が出している各国の債券利回りや価格のデータが間違いだらけであったことに気づき、全て計算し直した。ドイツの税制改正を無視してドイツ国債を推奨していたので、全支店にドイツ国債販売禁止令を出したという。
メンツを潰された債券部から睨まれ、同部を担当する清川常務（2002年武富士社長）は、「いつ横尾の首を飛ばすんだ
」と怒り狂う。さらに、野村が89-90年に個人投資家向けに発売した「不動産投資ボンド」に商品設計上の深刻な問題を発見し、これを全額回収することにする。これでさらに債券部の逆恨みを買い、横尾氏を守ろうとした人事部の指示で「しばらく支店に疎開」することになり、94年5月高崎支店に支店長として赴任する。
ここでの支店改革はその後の野村改革の先駆けとなるものだった。3年間高崎支店長を務めたのち、次の新宿野村ビル支店でも同様の改革を軌道に乗せる。コミッションのための回転売買ではなく、顧客資産を増やすことに重点を置いたやり方は横尾氏の支店長赴任先から「ビル高崎方式」と呼ばれるようになる。
これに注目した氏家新社長は、「ビル高崎方式」を一気に全国の支店で踏襲しようとする。だが、横尾氏はこれに真っ向から反対した。「買わせたら売らせない」というやり方は、全国のどこの支店でも一律に取り入れられるものではない。支店の体力と支店長、社員、客の体質をすべて見極め、異なるエリアでモデル店を5ヵ店作る。それを5年、10年かけて広げていかないと、野村證券は潰れてしまうと予想していたのだ。
97年の部店長会議で氏家新社長にこの点を正すが、営業経験が皆無の社長は答えられない。データベース・マーケティング構想も、ゼロイチ資金獲得競争（支店長間での新規顧客獲得キャンペーン）も簡単に却下された横尾氏はついに退職を決意する。98年6月、78年の入社から20年経っていた。
238：高崎支店長としての新機軸・勤務時間の短縮（早朝会議の禁止）・短期売買の禁止→3年間で支店の預かり資産倍増・野村證券の投資信託販売禁止（代わりにFidelity販売）245：一昨年入社した社員が月間150万円のコミッションを稼いでいたとすると、去年入社した社員は100万円、今年入社した社員は50万円と、年次ごとに下がっていくのも気になった。少し努力すれば簡単に先輩を抜けるはずなのに、やろうともしない。（中略）われわれが新人の頃、コミッションの月間ノルマは1000万円だったので、それに比べると何分の一のレベルだった。247：データベース・マーケティング顧客の属性や、過去の購買履歴をデータベースに記録して、それを基に一人ひとりの客にマッチしたサービスを提供するという、こうした営業活動は「データベース・マーケティング」と呼ばれる。私はこれをさらに進めて、株価の動向によって自動的に「誰それさんに今電話を掛けろ」と表示されるようなシステムを作ることを考えた。私はやる気満々で、ある副社長に「すべての支店で活用できるので有意義です。100億円出してもらえれば作れます」と掛け合った。だが副社長は「野村のどこにそんなカネがあるんだ」とにべもない。252：パリバ債膨らむ一方の損失の穴埋めを目論んだオリンパスは93年春と94年2月、パリバ債を合計5銘柄、金額にして400億円購入した。パリバ債の元になった債権は、海外の格付けの高い機関が発行した中期債で、パリバ証券がデリバティブと組み合わせて加工した債券なので、パリバ債と総称された。ところがこの購入が裏目に出て、オリンパスの含み損はさらに約286億円も拡大していたのである。（中略）普通なら「何もそんな複雑なものを買わなくても、デリバティブだけ買えばいい」と思うだろう。だが販売するパリバ証券にすれば、この仕組みこそがオリンパスを欺くための目くらましなのだ。信用度の高い社債と組み合わせることで見栄えを良くし、何も知らない初心な日本の上場会社を煙に巻くのである。こうした仕組債は、デリバティブに長けた外資系証券会社の独壇場で、フィーが高額なことでも有名。オリンパスも数十億円の手数料をパリバ証券に支払ったと思われる。253：林純一 野村證券→パリバ証券→オリンパス社外取締役オリンパスの損失を膨らませた、紛れもない戦犯の一人だが、パリバ証券東京支店を辞めたあと、何と08年6月にはオリンパスの社外取締役に就任した。255：金融庁の怠慢金融庁は99年秋の段階で、オリンパスの簿外ファンドのQPに286億の売却損が発生していることを認識していたのだ。この時、金融庁がQPの件を問題視して何らかのアクションを起こしていれば、簿外損失は286億円で止まっていただろう。13年後のオリンパス巨額粉飾決算事件も起きなかったに違いない。その意味では、金監庁や上級官庁の大蔵省も同罪である。山一證券の飛ばしに気づいていながら、それを放置して経営破たんさせた官僚の怠慢は、ここにも影を落としている。
2017年10月29日
完成検査問題の本質
日産に続いてスバルでも無資格検査員による自動車の「完成検査」が発覚。日産は20年以上、スバルは30年以上この状態が続いていたと発表されている。スバルは2005年にトヨタグループに入るまでは長年日産グループで、社長も日産から来ることが多かったので、経営体質に似たところがあったのかもしれない。
日産は、初回の車検を受けていない116万台のリコールを届け、さらに問題発覚後も不正検査を続けていた3万4千台を追加したため、合計約120万台のリコールとなった。リコールの費用は250億円といわれているから、一台当たり2万円と計算していることになる。ディーラーに持ち込み車検するのと同じことだから、そんなものだろう。一方のスバルは、対象車は25万台で、リコール費用は50億円と発表している。こちらも＠2万円で日産とピッタリ。
世の中、これらの報道を受けて、またしても「溺れた犬は棒で叩け」状態。しかし、だ。考えてみれば、国内だけでも日産は毎年95万台、スバルは73万台近く生産している（上図）。日産の場合で言えば、95万台の国内生産から輸出した56万台を差し引いた約40万台、これの初回車検までの3年分で120万台というわけだ。スバルは輸出比率が高く、2016年の生産台数73万台から輸出した58万台を差し引いた15万台が対象ということになる。スバルは過去3年間で生産台数が飛躍的に伸びたので、3年間で合計25万台ということになった。
これを数十年続けていたわけだから、数千万台が世界中に販売され、それらが廃車になるまで10-20年間使われ、そしてこの「無資格検査」が原因の不具合は何もなかったと推定される。これが原因で問題があったなら既にどこかで大問題になっていたはずだ。
興味深いのは、両社とも、輸出用は「審査する制度が違う」からとそのまま生産を続けていることである。勿論、リコールもない。つまり、この完成検査制度は品質保証に関係ないと言っているのに等しい。
監督官庁の国土交通省は世論を背景に、現行の完成検査制度を厳守させることに動きそうだが、このまま行くとまたしても「焼け太り」になりそう。それよりも、自動車の信頼性の低かった時代に出来た制度を何十年も変えずに続けていることが「問題の本質」だろう。
結局、状況が変わっても形而上の論争を続けるばかりで憲法改正しないまま自衛隊を作ったのと同じこと。憲法からして「建前と本音」があることが前提となった日本社会だから、現場が実態に合わせて法律の解釈を変えても、「しょうがないじゃない。品質はラインで作り込まれていて、無駄な検査なんだから」ということだったのだろう。
これを機に、現在の自動車産業の実態に合わせた、実質的に意味のある検査制度に改定することこそ望まれる。
2017年10月28日
「怖い絵」展
上野の森美術館で開催中の「怖い絵」展に寄った。平日なのに、10時の開館と同時に人でいっぱいだ。前半を飛ばして、後半から見ることにする。開館と同時に入った場合は、こうするほうが賢い。大半の人は順番に見ていくので、後半の展示は空いている。本を読むのとちがい、絵画なので順番は関係ない。
さて、この世界の「怖い絵」ばかり集めた展覧会。絵は、ドイツ文学者の中野京子氏の著書「怖い絵」シリーズに基づいて集められている。私はこの本を知らなかったのだが、根強い人気でシリーズ化＆文庫化されている。
一番の大作は、展覧会ポスターにも使われているフランスの画家ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」。イングランド最初の女王となったジェーン・グレイは1554年に在位わずか9日で処刑される。まだ16歳であった。夏目漱石も、初期の短編「倫敦塔」でこの絵のことを書いている。
「散る寸前の匂いたつ美しさに、胸を打たれずにおれない」（中野京子）
2017年10月27日
第6章 やりすぎる男
89年からNYに赴任していた横尾氏は、90年11月末米国M&A状況の説明のため日本に出張する。そこに、父親が緊急手術との連絡が入り、郷里の姫路に向かう。翌日、手術が無事終わった旨人事部に連絡を入れたところ、浜松支店への転勤を告げられる。「その足で浜松に向かってくれ」という野村らしい無茶な転勤命令だ。
NYからの引越しどころか、東京で会う予定の大企業のトップらとのアポもキャンセルせざるを得ないほど、浜松支店の状況は切迫していた。当時の人事部担当役員と次長は事業法人部の先輩。ブラックマンデー時の横尾氏の天才的な運用手腕に期待してのことだった。
浜松支店では、前の支店長が顧客にリスクの高い仕手株やワラント投資ばかりはめ込み、90年に入ってからの株価暴落で、資産の大半を失った顧客からの苦情が殺到していた。なかでも、ホンダ創業期の危機を救い、ホンダの大株主であった大口顧客は300億円もの損失を抱えていた。
ここでも、横尾氏は持ち前の創意工夫で逆転ホームランを打つ。赴任早々にイラクがクウェートに侵攻。イラク排除のため湾岸戦争が予想されるなか、オムロンと東洋エンジニアリングがユーロドル建てワラント債を発行することを知る。
「中東に強い東洋エンジニアリングがエクイティファイナンスを実施するのだから、戦争にならないか、開戦しても多国籍軍が一発でイラクを制圧するかだ」
こう考えた横尾氏は、事業法人部時に担当だった東洋エンジニアリングの副社長に湾岸戦争の見通しを電話で問い合わせる。
「戦争はやる。だけど、問題ないよ」
多国籍軍が圧勝するなら、株価は上がるだろう。しかし、東洋エンジニアリングの商売相手は中東に多く、石油プラントの建設代金が支払われない可能性もある。そこで、オムロンのワラントを内容証明を送り付けてきている客に買ってもらうのだ。
内容証明を送り付けているほど怒っている客が（しかも、大半はワラントで大損している）ワラントを購入してくれること自体が不思議なのだが、自宅に帰らず百数十ページものオムロンの資料を自分で作った横尾氏は客が購入してくれると信じて疑わなかったという。実際に、説明に行った法人顧客全員がオムロンのワラント購入のために新規資金を5億円ずつ入れてくれた。資金力のある上場企業1社は20億円分も購入したという。個人客も一千万、二千万と買った。
WB払込日の91年1月17日に多国籍軍の空爆が始まり、株価は大暴騰する。オムロンのワラント価格は、その数日後には2倍になり、大半の顧客の損失は消える。浜松支店への内容証明はすべて取り下げられた
204：NYで離任の挨拶をしたわけでも、NJの自宅マンションに置いてある家財道具を売却に行く時間を与えられたわけでもない。父の緊急手術に立ち向かうため急ぎ帰省した兵庫県姫路市から新幹線に乗り、浜松駅で下車して支店に向かうと、大損している複数の客のところにそのままお詫びに向かった。207：一日当たり5軒から10軒は客を回り、頭を下げた。ワラントを買った人の多くは、全財産を投入していた。商品性を考えれば、ワラントに投資するのはせいぜい資産の1/5程度にしておくべきなのに株と勘違いして全額を投資していた。211：火の粉を払うのが目的だったオムロンのワラント売買だったが、結果的に私のコミッション額も桁違いになった。91年1月が1億円、2月が2億円。全国の支店の半分以上が、私一人のコミッション額を上回れなかった。213：オリンパス山田英雄「森と中塚が証券会社に騙されて、言われる通りに店頭銘柄を買ったら100億円損してしまった」私は「まだそんなことをやっているのか」と驚いた。88年7月に営業特金の損失の穴埋めを終えた際、「資金運用は二度とやらない」と誓ったのに、海のものとも山のものともしれない店頭市場に手を出すなんて、言語道断だった。216：間もなく本社から「社章を外せ」と指示が来たが、私は意地でも外さなかった。野村の役員はこの頃、公の場に出るときに防弾チョッキの着用を義務付けられた。224：運用企画課長に就任とにかくレポートのレベルが、あまりにも低いものばかり。私は野村総研発行のレポートを1年間停止しようと、真剣に考えた。
2017年10月26日
第5章 ノムラな人々
横尾氏は事業法人部で実績を上げた後、一旦はNY赴任が決まる。しかし、英語が全くダメなので赴任を渋っていたところ、野村がM&Aハウスとして当時有名だったワッサースタイン・ペレラ社（WP）と作った新設の野村企業情報に出向することになる。
ここの初代社長はジャフコの前専務であった後藤光男氏。後藤社長は、「アルバイトも含めた社員全員で1週間の海外研修を行う」と宣言、ロンドンとNYのWP事務所を巡るのに、超音速旅客機のコンコルドを使う。横尾氏はまだ一円も収益が上がってない新設会社で、会社の金で社員が大名旅行することに反対し、ただ一人参加しない。
横尾氏は、会社に極秘でNMBセミコンダクターのM&Aを進める。NMBセミコンダクターから「後藤は信用できない」と、事業法人部でやってくれという依頼だったのだ。しかし、事業法人部でM&Aアドバイザーをやるわけにはいかず、結局、事業法人部の依頼で横尾氏は会社に内緒で動くことになる。
本件を多角化を進めていた新日鐵に持ち込みTOBが成立する。しかし、その価格は店頭市場で付いていた株価の数十分の一だった。市場もアナリストも巨額の設備投資が必要とされる半導体ビジネスの弱点を理解していなかったのである。NMBセミコンダクターは1993年に新日鐵に買収されて「日鉄セミコンダクター」となるが、その後も巨額の赤字が続き、1999年に今度は台湾の半導体大手UMCに売却される。
一方、1999年、野村證券はWP社の持ち分を買い取り子会社化。さらに2002年4月、野村證券は野村企業情報を吸収合併し、1988年10月に設立された野村企業情報は13年で幕を閉じた。
ここの初代社長はジャフコの前専務であった後藤光男氏。後藤社長は、「アルバイトも含めた社員全員で1週間の海外研修を行う」と宣言、ロンドンとNYのWP事務所を巡るのに、超音速旅客機のコンコルドを使う。横尾氏はまだ一円も収益が上がってない新設会社で、会社の金で社員が大名旅行することに反対し、ただ一人参加しない。
横尾氏は、会社に極秘でNMBセミコンダクターのM&Aを進める。NMBセミコンダクターから「後藤は信用できない」と、事業法人部でやってくれという依頼だったのだ。しかし、事業法人部でM&Aアドバイザーをやるわけにはいかず、結局、事業法人部の依頼で横尾氏は会社に内緒で動くことになる。
本件を多角化を進めていた新日鐵に持ち込みTOBが成立する。しかし、その価格は店頭市場で付いていた株価の数十分の一だった。市場もアナリストも巨額の設備投資が必要とされる半導体ビジネスの弱点を理解していなかったのである。NMBセミコンダクターは1993年に新日鐵に買収されて「日鉄セミコンダクター」となるが、その後も巨額の赤字が続き、1999年に今度は台湾の半導体大手UMCに売却される。
一方、1999年、野村證券はWP社の持ち分を買い取り子会社化。さらに2002年4月、野村證券は野村企業情報を吸収合併し、1988年10月に設立された野村企業情報は13年で幕を閉じた。
192：野村企業情報上場各社の業務内容や財務状況などを調査するのが野村企業情報の仕事なのに、それを組織的に行える体制にもなっていない。私は一介の課長に過ぎなかったが、「事法のようにきちんと担当を決めて、上場会社を一社一社こまめに回らないとダメだ。行き当たりばったりでは無意味だ」と主張した。だが後藤社長は私の言うことを全く聞き入れようとしない。われわれは最初から何かにつけて激しく衝突した。197：われわれがNMBセミコンの売却先として交渉を進めていたのは、本格的に多角化を進めていた新日鐵だった。同社の担当役員には、「2人一緒にNYに赴任することになりましたので、とりあえず行きます。バリュエーションの書類を作るだけですから、向こうでも作れます」と説明して了解を得た。NYでは2人して書類を作り、それが出来上がると帰国して新日鐵とミネベアに持参した。198：当時、NMBセミコン株の店頭価格は300-500万円だったが、実際に株式が公開買い付けされた時の価格は、一株わずか10-20万円。アナリストは誰もが300-400万円というリポートを書いていたいもかかわらず、われわれが算出して、新日鐵とミネベアが合意した価格はそのわずか何十分の一に過ぎなかった。私は「店頭銘柄や未公開企業の価値など、所詮はその程度のもの。正しい価格など、誰にも定められないのだ」と痛感した。
2017年10月25日
第4章 ブラックマンデーと損失補償問題
横尾氏が第２事業法人部在籍中の1987年にブラックマンデーが起こる。氏が担当していた会社の中で「どうしよう」とオロオロするばかりだったのがオリンパスだったという。運用能力もないのに、財テクに深入りして既に300億円の含み損を抱えていた。
そこで横尾氏は一計を案じる。市場がパニック状態で理論価格を大幅に下回っていたワラントをオリンパスに買わせたのだ。ワラントはその性格上、下げ相場のときには現物株以上に下がり、逆に上がるときは現物株以上に上がる。底値で買ったワラントはその後莫大な利益をオリンパスにもたらす。
結局、オリンパスは横尾氏の推奨したワラントとNKK株などで400億円の利益を上げ、損失を全て解消した上お釣りが来た。横尾氏はまったく相場に向き合う能力も胆力もない山田秀雄氏を見かねてこういったという。
「二度と資金運用に手を出さないでください」
ところが、山田氏はその忠告を聞かず、後の巨額粉飾事件に繋がっていく。
141：ブラックマンデー私はワラント全銘柄の理論上の価格を弾き出し、それをグラフ化した当時はパソコンが存在せず、電卓で計算してグラフ用紙に点を打ち、そこにワラント課が出している店頭での売買価格を入れた。するとワラント課の価格はどの銘柄も理論値を大幅に下回っている。つまりワラントを購入し、のちに権利行使して株を取得した方が、株そのものを買うより遥かに安く株を取得できるという、前代未聞の状態が出現していた。145：転換社債部 松本新平部長松本部長はそれ以降、会社から徒歩数分のビジネスホテルに3日間泊まり込み、ワラントの価格が急騰しないように少しずつ買い集めてくれた。（中略）松本部長は翌日の夜もロンドン市場でワラントを買い集め、明け方にホテルで数時間仮眠して、また会社に来ていた。ワラントを53億7000万円分買い集めた段階で、松本部長から「もう止めよう。これ以上買うと価格が上がってしまう」とストップがかかった。予定の100億円は買い集められなかったが、松本部長には一生足を向けて寝られないと思った。158：東京国税局 特別調査官 鈴木一友「これは今世紀最高の金融取引だ。こんな決算操作ができるものかと恐れ入った。この取引は寄付にも、贈与にも、損失補填にも当たらない。合法的で真っ当なものだ。それは認める。だがわれわれはロンドン、アムステルダム、ニューヨークに調査官を派遣して、大変な人手とカネをかけて3年間調査した。こんな調査は前代未聞だ。ここで『ああ、そうですか。分かりました』と引っ込むわけにはいかない。オレの立場も考えて、少なくとも200億円程度は税金を払ってもらいたい。会社の上層部には言えば分かるから、そこのところを君からもはっきり伝えてほしい」「税金を払わないつもりなら、新聞を使ってでも、どんな手を使ってでも課税してやる」163：田淵義久社長社長辞任会見の3日後に開催された、91年6月27日の野村の株主総会。田淵さんは損失補てんと呼ばれる一連の行為について、「当局と相談した上で、営業特金の見直しに際して生じた有価証券の売買損と認識しており、損失補填も損失保証もなかった」「全部を大蔵省にお届けしており、その処理についてもご承認をいただいている」などと真相を暴露した。
2017年10月24日
第３章 「主幹事」を奪え
金沢支店で3年と8カ月。横尾氏は新人ながら支店のエースとなったことが注目され、「事業法人部」に抜擢される。上場企業グループの資金運用やファイナンスを担当する野村證券の花形部門である。しかし、27歳の新人に大事な客は任せられない。担当させられたのは他社が主幹事でかつ野村との取引実績がないところばかりだったという。
しかし、ここでも横尾氏は独自の工夫で徐々に成績を上げていき、2年目には早くも月間数億円のコミッションを稼ぐようになり、事業法人部でもトップクラスになる。
当時は上場企業と言いながら、内容は同族会社となんら変わらない会社が沢山あった。3章で「ファイナンスのルールを無視する振る舞いにほとほと困った」とされているのが、群栄化学工業（高崎市）。水飴の製造販売会社で戦後のモノ不足の時代に好業績で上場したが、1983年当時、本業は恒常的に苦しい。エクイティファイナンスで資金を調達しては、その運用益で本業の不振をカバーしていたという。当時の会計基準は「原価法」だったので、値上がりした株式や債券を売却して利益を計上する一方、含み損が発生したものは放置する。B/Sには不良資産が溜まる一方だが、これが許されていた時代だった。
日興証券で出したスイスフラン建てのCBの償還期限が迫ったが償還のための資金がない。そこで横尾氏に泣きついてきたという。「何か材料があるなら」と請け負ったところ、カイノールという高機能繊維があるという。そこで横尾氏が取った作戦が捧腹絶倒。「聞いた内容を数枚のリポート用紙にまとめ、極秘というスタンプを押して、野村本社の株式部の入り口あたりに落としておいた」のだという。
それを偶然拾った株式新聞の記者が翌日には早くも記事にした
今でもこの方法なら風説の流布に当たらない
108：私は喜一氏から聞いた内容を数枚のリポート用紙にまとめ、極秘というスタンプを押して、野村本社の株式部の入り口あたりに落としておいた。株式部には業界紙の記者が出入りするので、誰が拾うかは分からなかったが、ダメ元でやってみたのだ。すると早くもその翌日、株式新聞に私が思い描いた通りの内容の記事が出た。さらに東京証券取引所の記者クラブで行った決算発表の記者会見に大量の商品を持ち込み、喜一氏が「夢の電池、カイノール電池」などと、1時間あまり”独演会”をやった。私も複数の担当会社に依頼して群栄の株を買い上げてもらった結果、300円台半ばだった群栄の株価は上昇基調に転じ、めでたく転換価格を突破。株式への転換も順調に進み始めた。116：日商岩井で面倒だったのは、財務担当の副社長からの株価操作のプレッシャーが度を越していたことだ。彼は私に毎日電話してきて、大変な剣幕で「うちの会社の株価を1000円まで持って行け」「ここで1000万株の買いを入れろ」「日興はやってくれているぞ」などと、強烈な圧力をかけてきた。129：山一は禁じ手である利回り保証の覚え書きを、何の恥じらいもなく客と交わしていた。山一が担当会社に保証していた金額は、少なくとも5000億円はあった。破綻後に報道された97年3月期の簿外債務額（2718億円）を聞いて「そんなに少ないはずがない。1ケタ違うのではないか」と耳を疑ったほどだ。保証商いをしていた上場企業の中には総合商社や金融機関もあり、保証額が数兆円に達していても何の不思議もなかった。
2017年10月23日
第1章 ノルマとの戦い
ジャカルタからの帰りに飛行機で読んだのがこの本。現在連載中の日経新聞「私の履歴書」斎藤惇氏のと合わせて読むとさらに面白い。先日読んだ、國重惇史『住友銀行秘史』に匹敵する。あちらはイトマン事件だったが、こちらはオリンパスの巨額粉飾事件がテーマ。1審・2審で有罪判決を受けているが本人は一貫して容疑を否認している。確かに、本書を読むとあれだけの能力を持っていた人があんな稚拙なことはやらないだろうと思える。
面白いので、何度かに分けて紹介していきたい。まずは、野村證券の代名詞ともいわれる「ノルマ」。当時どの証券会社にもノルマはあったが、野村證券のノルマはその額が他社の数倍もあり、また達成に対する厳しさが桁違いであることが知られていた。そして、野村マンはそれをこなすことに強烈な自尊心を持っていた。
京大経済学部を出て野村證券に入社した横尾氏の最初の赴任先は金沢支店。実力主義の会社で働きたいと野村證券に入った横尾氏も、「これはとんでもないところに入った」と後悔したという。
損することが確実な商品を客に売らなければならない。数百億円売買する大口顧客を守るため、数億円位しか投資しない「小口」の客は野村が仕掛ける仕切り売買の最後の受け手として「玉砕」させられる。当時の野村の営業マンは本部から言われる商品と銘柄を言われる通り客に「はめ込む」のが仕事だったのだ。
酷い話なのだが、驚くのは、それが分かっていて若くて優秀な横尾氏に付き合う客たち。横尾氏は小口客を損させて「玉砕」させるのが嫌で、資金に余裕のある特大の富裕層や大企業ばかりを狙うようになる。それも、これまで金沢支店で誰も開拓できなかった先ばかりである。100億円の資産があれば、数億円損させても影響は少ないからだ。この姿勢が横尾氏の基礎を作った。
本社への栄転が決まり、加賀温泉のある旅館の社長に挨拶に行く。別れの言葉はこうだったという。
「オレの数億、無駄にするな。立派になれよ」
株を買おうと思ったら、インターネットではなく、証券会社の営業マンを通さなければ買えなかった時代。良くも悪くも喜怒哀楽があった。
17：当時の証券会社にとってファミリーファンドは、自己勘定による売買で抱えた「しこり玉」を投げる「最後のゴミ捨て場」に過ぎなかった。「投げる」とは、損が出るのを承知で売却すること。証券会社が投資家を巻き込んで好き放題に相場を作り、最終的に引き取り手がいなくなった銘柄も、ファミリーファンドに投げていた。（中略）購入直後から値下がりを続ける一方なのだから、新しく発売されるものは売れず、以前買ってくれた顧客からは恨まれ、われわれ営業マンは本当に泣かされた。36：167人いた私の同期のうち、69人が入社から1年以内に辞めている。1年以内の離職率は何と41.4%。北陸3県でも私と嶋田以外の4人は1年で辞めた。その最大の原因がファミリーファンドとロクイチ国債だったことは想像に難くない。40：客は野村がコミッションを稼ぐだけの売買に徹頭徹尾付き合わされ、最後にババを引かされる。
2017年10月22日
ジャカルタ総括
今回の訪問ではNTTデータにお世話になった。現地駐在して2.5年という野田さんにインドネシアのいいところと悪いところを聞いてみる。
いいところ：インドネシアは親切な人が多い。日本人は一般的に尊敬されている。
悪いところ：いい加減💦
まぁ、これは東南アジア全般に通じる。気候が温暖で、苦労しなくても飢え死にすることはない地域ではたいてい人はのんびりしている。そんななかで勤勉に働いて政治経済を牛耳るようになったのが華僑。よりよい生活を夢見て郷里を離れた移民は当然よく働く。豊かな華僑は先住民（プリブミ）の反感を招き、時々暴動が起こっている。最近ではアジア通貨危機後の暴動で1998年5月に華僑千数百人が虐殺されている。1965年のクーデター未遂後の「930事件」では華僑犠牲者は30-40万人に達した。
華僑の次に西欧列強がやってきて植民地化し、インドネシアはオランダが支配した。欲にかられた彼らも良く働く。華僑と違って軍事力を持っているので、旧日本軍によって一旦駆逐されるまでは抵抗できなかった。第二次世界大戦後、旧日本軍将兵の一部がスカルノの独立軍に参謀として参加し、オランダからの独立を果たしている。
私自身は、今回4日間だけの滞在で、ホテルと展示会場を往復しただけで、商談以外現地の方との交流もなし。それでも、相応のいら立ちを経験。
・初めてのジャカルタ出張ということで、空港からの送迎を手配していたが、出口でドライバーがいない
・ハイヤー会社に電話するが英語があまり通じない
・何度かやり取りしてやっと会えたのは30分後（どっと疲れる）
・それからホテルまで2.5時間。大渋滞の市内は歩いた方が早い
（が、荷物があるし、雨が降っているし、歩道がない）・帰りはホテルに朝3時に迎えに来るとハイヤー会社からの確認メールに書いてある。「日曜日の朝なのに、そんなに早く出る必要があるのか？」と問い合わせるが、3日経っても返事がない。
・諦めて当日朝言われた通りに3時にホテルで待つが、15分経っても来ない。ハイヤー会社に電話してみる。ドライバーは出ない。会社の「24時間対応」CSに電話する。出た！が英語が通じない。ホテルマンに代わってもらって要件を伝える。「今からドライバーを探している」と言って切られた
という。・何時になるか分からないので、30分後にタクシーで空港に向かう。タクシーは現金のみなのだが、昨日現金は使い果たしている。空港に着いてからATMで下してドライバーに払う。
・ラウンジに入って、ハイヤー手配をしたExpediaに苦情メールを送る。さて、どうなる
なにもかもスムーズな日本で住んでいると、ちょっとした不具合でいらだつことを確認
やはりひどかったのは渋滞で、「世界最悪の渋滞都市」の面目躍如。行き2.5時間掛かったところ、今朝は30分で空港に到着した！2017年10月21日
19世紀年代記
かつてフランス人の友人はこう言った。
「フランス男性の話題は、女と政治とユダヤ人の悪口でほぼ足りる」
本書の副題は「19世紀年代記」。当時のフランスはナポレオンの時代が終わり1830年7月革命までの、王政復古の時代。まさにフランス男性の伝統的関心事でいっぱいの小説である。
下巻でもジュリアンはやりたい放題。身勝手この上ないのだが、大変矛盾した人物であることが読者のみならず裏切られた女性をも惹きつけるのか。雇い主の貴族の令嬢マチルドを妊娠させ「逆玉」に成功したと思ったとたん、かつての愛人レナール夫人が結婚に当たっての身元調査に罪悪感から昔の関係を告白しておじゃんになる・・・と思いきや、怒って当然のマチルドとレナール婦人が争ってジュリヤンの無罪を勝ち取ろうと奔走する。
訳者である野崎歓の「解説」によれば、スタンダールは自作のストーリをゼロから生み出すタイプの作家ではなく、現実の素材にヒントを得て想像力を働かせるタイプだったようだ。主人公ジュリヤンにも直接モデルとなった人物がいるという。それは、ドーフィネ地方で大いに話題となった犯罪の訴訟で、神学生ベルテが嫉妬に駆られて愛人のM夫人を二発ピストルで撃ったのである。
「情熱」というのがキーワードのようで、これは19世紀のフランスに特有なのか、今でもそうなのか、それとも、当時の貴族の退屈からきたものなのか。今も大統領が愛人との間に隠し子を持つのが問題にならない国なので、何れも正しい気がする。
解説：スタンダールは、かねがね犯罪事件に強い興味を寄せており裁判の記録を掲載する「法廷新聞」の熱心な読者でした。激情にかられた末の犯罪には、魂のエネルギーをすっかり枯渇させてしまった、ひからびた現代人のあり方を突き破る、凶暴でかつ気高い情熱の姿があるというのが彼の考えでした。また、犯罪には、社会の矛盾や不公平をありありと浮かび上がらせる側面があるとも考えていたのです。
解説：ジュリヤン・ソレルの場合は、一首正体不明の不可思議さがつきまとう人物として描かれているのではないでしょうか。冷静かと思えば激情にかられ、打算家のくせに涙もろく、正義感が強い。臆病かと思えば大胆な振る舞いに出る。そうした矛盾のかたまりであることが逆に、現代の読者をも惹きつけずにはいない彼の魅力となっています。下262：ラ・モール嬢は恍惚となって、殺されかけたときの幸福な気持ちばかり思い返していた。彼女はこんなことまでつぶやいた。＜あの人は私の主人となる資格がある、だって私を殺そうとしたのだから。社交界の美青年たちを何人、束にしたところで、あれほど情熱的な行動はできっこないでしょう？＞下354：ロシア人たちはフランスの風習を模倣するが、ただし常に50年の遅れがある。彼らはいま、ルイ15世時代にいる。下459：＜要するに＞とジュリヤンは思った。＜ぼくの物語はこれで完結だ。何もかも、ぼく一人の手柄だ。自尊心の権化のような女に愛されることができたんだし＞と彼はマチルドを見ながら付け加えた。＜父親はこの娘なしでは生きられず、娘はぼくなしでは生きられないのだから＞下590：ジュリヤンはレナール夫人に、生きながらえてマチルドの生む息子の世話をすることを誓わせた。
2017年10月20日
日本教と天皇制の70年
「日本人は空気でものごとを決めてしまう」
「日本人は水と空気は無料だと思っている」
「日本人は全員一致にこだわる」
「日本人は契約ではなく話し合いで仕事をする」
「日本人の宗教は日本教だ」
こうした言い方は全て、山本七平が語った言葉から始まったことに驚く。それほど、1970年代から80年代にかけて山本七平は論壇を席巻する活躍であった。私もその影響を受けた一人と言っていい。
それから30年経って変化してきた部分もある。例えば、ミネラルウォーターを買うのは当たり前になった。当時、新卒で入ったVCで投資するのに契約書はなかったが、今では会社と経営株主と投資家の間で投資契約書を結ぶのが当たり前になった。
それでも、日本を覆う「空気」は依然としてあるし、それは合理的な判断に基づくものではないから、その時の気分であっちからこっちへと大きくずれる。白洲次郎に言わせれば『プリンシプルのない日本』ということになる。よって立つべき原理原則がないのだ。
「七平はすでに1979年に、機能的組織とコミュニティ組織が合体した日本企業の強さは、局面が変わるとそれがそのまま弱さに転じると指摘していた」という慧眼に驚く。1979年と言えば、1970年代に世界を襲った石油ショックを日本が「省エネ」でいち早く克服し、エズラ・ボーゲルの『ジャパンアズナンバーワン』が出た年だ。これを機に、世界中で日本研究が盛んになり、それは80年代後半のバブル景気で最高潮を迎える。
そんな「空気」の中で、冷静に時代を見つめる人が日本にもいたのだ。
11：現代においても何か社会的事件が起こると、事件を起こした人間や団体そのものだけでなく、その関係者や関係団体まで、非合理的な激しい批判の対象となって、その「空気」が延々と続く。そうかと思うと、あるときを機にぱったりとその「空気」が消滅してしまうという、奇妙な現象が起こってしまう。12：これは七平が、生まれたときには「すでに教会のなかにいた」と回想しているように、戦前社会において「三代目キリスト教徒」であったこととかかわっている。いまでこそ日本人のキリスト教徒が特別視されることは少なくなっているが、戦前とくに軍国主義が台頭したなかにあっては、肩身の狭い思いをせざるを得なかった。87：七平は「歴戦の臆病者はいるが、歴戦の勇士はいない」と書いている。なぜなら歴戦の勇士は最後まで生き残ることはできず、すでに戦死しているからだ。120：戦艦大和の沖縄特攻決めたのは、1941年のアメリカとの開戦以来、太平洋で延々と戦ってきた海軍のエリートたちであって、「無知・不見識・情報不足による錯誤は考えられないことである」。こうした条件を考えるならば、そこには合理的な判断以上のもの、いわば「空気」が働いて合理的な判断を抑え、決定を促したと考える以外にはないと七平はいうのである。155：日本資本主義の特徴日本の場合には、企業が経済活動をするために形成する集団と、企業内部の社会を成り立たせているコミュニティがいつまでも併存していて、機能集団を作り上げただけでは十分に動かず、二重性をもった企業組織として初めて十全な効果を生みだすようになった。275：七平はすでに1979年に、機能的組織とコミュニティ組織が合体した日本企業の強さは、局面が変わるとそれがそのまま弱さに転じると指摘していた。278：同じように「改革」が叫ばれてはいても、まったく逆の内容を意味することからも分かるように、「改革」はベンダサンが指摘した日本教に特徴的な「空体語」でしかなかった空体語を膨張させることで何かをしなくてはならないという「空気」は生みださせるのだが、そもそも内容が空虚なのだから、なんの成果もなく元の木阿弥に帰してしまうのである。
2017年10月19日
世界一の渋滞都市
Castrol社が2015年に発表した「世界渋滞ランキング」によれば現在訪問中のジャカルタが世界最悪の渋滞都市なのだそうだ。これは、世界中で広く使われているカーナビTomTomを使って1km当たり何回停止と発進をくり返しているかを調べたもの。それによれば、ジャカルタのドライバーは1年に33,240回停止・発進しており、1年間に332日運転しているとすれば、1日平均100回路上で停止していることになる。私も香川では自動車通勤だが、片道37kmで信号停止するのは10回位だろう。往復で20回。100回は極端に多い。
昨夕空港に飛行機が到着したのが16時で、空港を出たのは17時過ぎ。空港から市内への高速道路は逆方向だから大丈夫だったが、市内に入った途端大渋滞。ホテルまで5km進むのに1時間掛かった。荷物が無くて、雨が降っていなければ歩きたかったが、ちょうど雨期に入ったところで毎日夕立である。おまけに、歩道が整備されていない。空港までは渋滞がなければ車で1時間で行ける距離だが、日中の移動の場合、3-4時間見て置けと言われるらしい。
どうしてこんなにひどいのか？分析しているサイトがあったのでそちらから拝借。
・ジャカルタ（3176万人）は東京（3790万人）に次ぐ世界最大級の都市圏
・人口密度は東京の倍で人口増加が続いている
・公共交通機関が未整備
・高度経済成長で自家用車が激増に対し、道路整備が追いつかない
ということで、これは発展途上国に共通の問題。道路整備につけ足せば、高速道路の高架化が進んでいないので、大通りの真ん中を通る有料道路によって町も道も分断されている。大通りの他は昔ながらの路地といった風情で、あらゆる路地から大通りに車が集中するから渋滞がひどくなっているのだ。
現在、日本の支援でインドネシア初となる地下鉄区間を含む都市高速鉄道（MRT）を建設中。完成は2019年になるそうだ。それまではMRT建設に伴う工事もあって、渋滞は解消されそうにない。
2017年10月18日
日本にも独自の恋愛の起源があった
著者は、「日本にも独自の恋愛の起源があった」という。そんなの当り前じゃないか！と思うのだが、文学史的には、「ヨーロッパの宮廷風恋愛が近代的恋愛の起源」とされていたらしい。
恋愛はマナーとして、規範として自然発生したものではなく、文明の産物であった。理想的な人間関係としての恋愛はヨーロッパで発見され、日本をはじめ、西洋を手本にしたアジア諸国は近代化とともに導入した。アフリカはいずれそうなるだろうし、ひょっとするとアラブ世界も将来近代的恋愛を取り入れるかもしれない。つまり、恋愛は西洋で創出され、後に男女関係の規範として世界中に浸透した。（解説：張競）
ところが、日本には『源氏物語』の存在がある。天皇家がアヴァンチュールを繰り広げる話なので、戦前の日本では「天皇の権威を貶めるもの」として積極的に取り上げられることはなかった。日本が国家目標とした欧米列強のプロテスタント的価値観とも相いれない。
ところが、丸谷才一氏は、日本では平安時代に恋愛がすでに発見された、という新しい説を出した。それは素朴な男女愛と違って、宮廷社会において作法であり、儀礼であり、社交でもあった。西洋の宮廷風恋愛と同じように、日本の王朝風恋愛も人工的に作り出された文明的な産物であった。（中略）日本では繁殖呪術が恋愛を詠むきっかけであったが、平安朝になってもその伝統が引き継がれた。さらに『源氏物語』の出現でより洗練された文学様式が獲得されるようになった。日本はじめ、世界中で結婚式のスタイルが西洋風になっている。背景には、単なるウェディングドレスへの憧れ以上に、「西洋で創出された恋愛」の世界標準化があるわけだ。そこに、ハリウッド映画が果たした宣伝効果があることは言うまでもない。
13:（中国で）なぜエロチックな冗談が嫌われるかと言えば、それは儒教の伝統のせいに決まっている。共産主義が原因ではなさそうだ。マルクスやレーニンの故にではなく、孔子あるいはその弟子たちの教えに義理立てして、中国の文士は日本の同業者の前で鹿瓜らしく気取らなければならないのである。解説：張競・『源氏物語』は、世界文学でも稀に見る不思議な作品・長編小説として、作品の構成においても、語りの形式においてもおよそ11世紀という時代には想像もできないほど独創的・同時代の世界のどこにもまだ長編小説は生まれていない・中国のもっとも古い長編小説は『水滸伝』と『三国志演義』で、14世紀頃・二つの小説とも一人の作家の手によるものではなく、過去の積み重ねの上に出来上がったもの
2017年10月17日
地獄の黙示録
先月読んだ虫明亜呂無の『女の足指と電話機』に映画「地獄の黙示録」の話が出ていて面白かったので、立花隆による映画の解説本も読んでみる。立花隆らしく緻密な分析がされている。氏によれば、「映画史上最も特異的に面白い作品」だという。コッポラ監督自身が、「内容の深さにおいて、はじめて世界文学に匹敵するレベルで作られた映画」と自画自賛している。
それだけの映画なのに、あるいはそれだけの映画だったからか、撮影に入ってもまだ脚本が固まっていなかった。コッポラは撮りながら考えていたらしい。その結果、2.5時間の映画のために回したフィルムは440時間分。これに、セットが台風の直撃を受けて全壊するなどの不運もあって予算は大幅に超過した。最終的にコッポラは全財産を担保に入れて資金調達した。
確か、一度だけ見たのはまだ学生の頃。「単なるエンタテイメント映画ではない。文学的な批評の対象になる映画」と言われれば、大人になった目でもう一度見てみるしかない。
14:下敷き・コンラッド『闇の奥』・T.S.エリオット『荒地』『うつろな人々』・ヨーロッパに伝わる聖杯伝説・フレイザー『金枝篇』・テーマ音楽ドアーズ The End15:とてつもない費用・当初予算$12M・実際$31M・United Artists $16M（全米配給権と引き換えに出資）・残りはコッポラ自身が出資←Godfatherの大成功があったものの全財産を抵当に資金調達23:シーンを長回しで撮り、感情が高まった部分をカメラに収め、あとから編集・台風で中断する前までの二カ月で撮ったフィルムが90時間分、使えるカットは15分くらい・最終的に回したフィルムは440時間分→2.5時間にまとめる49:ヴェトナム戦争の歴史を導入（映画の時代設定1969年）・1967年、アメリカがベトナムでの軍事作戦を大幅に強化・派遣米軍 23千人→48万人・北爆強化（すでに投入爆弾量は太平洋戦争で投下されば全爆弾量の三倍）・翌年一月、ベトコン側のテト攻勢でサイゴンのアメリカ大使館が一時占領される・楽観的な気分は一挙に吹き飛び、アメリカは和平を模索137:アメリカ兵を麻薬づけにしてしまうことは、ベトコン側の意図的戦術・戦争の恐怖や苦痛を逃れるためアメリカ兵たちも麻薬を必要・アメリカが救いがたい麻薬汚染国家になってしまったのは、ベトナム戦争がアメリカにのこした最も深刻な後遺症168:古来、軍事的天才と政治的野心が結びつくと、軍事的天才による軍事的独立王国の樹立とその総帥への就任という方向に向かいやすい。その典型がナポレオンで、彼の場合は皇帝にまで上りつめてしまう。
2017年10月16日
日本は世界一の詞華集の国
著者は、学校で教わる「日本文学史というものに、年少のころから疑惑をいだいていた」という（あとがき）。しかし、「あの胡散くさい感じが何に由来するか、なんてことはは判らなかった。」
「あれは西洋の文学史の型に無理やり当てはめて作ったからおかしいのだ」と気が付いたのは、何十年も経ってからであったそうだ。その成果をまとめたのが本書。
日本における天皇は長らく「呪術者」であった。「天皇の和歌は祝詞、五穀豊穣と繁殖を祈る呪術の言葉」であり、そのために勅撰集が代々編纂され、「それは宮廷文化の中心となり、そしてここが大事なのだが、宮廷文化を核とするかたちで日本文化は形成された」のである。
この伝統が途絶えたのが明治期以降で、当然、そこには「近代化＝西洋化」とする明治政府の考え方が反映されている。天皇は呪術者ではなく、西洋列強の王と同じく「統治者」として規定された。そして、エロチックなものを否定するキリスト教文化の影響で、勅撰集の伝統も途絶えてしまった。
20:天皇および上皇の命によって編まれた詞華集（勅撰集）、およびそれに準ずる扱いを受ける本（準勅撰）は、漢詩文、和歌、連歌を通じて三十に近いのだが、歴代の王がこれだけ持続的に詞華集に関心を示した国のあることを、わたしは耳にしたことがない。（中略）それは宮廷文化の中心となり、そしてここが大事なのだが、宮廷文化を核とするかたちで日本文化は形成された。33:天皇は呪術者であり、天皇の和歌は祝詞、五穀豊穣と繁殖を祈る呪術の言葉だったのである。古代信仰においては人間の性的行為が作物の成長を促すと考えられていたが、一首はそういう意識の名残をとどめているだろう。35:またしても折口信夫によりかかって言うかたちになるが、色好みは古代日本人の理想で、天皇とはすなわちこの理想を実現する者ーー国中の最も優れた女たちを選んで求婚し、彼女らを後宮に養い、彼女らの才能と呪力によって国を統治する人のことであった。55:そして日本人はどの階層も、人間との関係、自然との関係、さらには宗教との関係、総じて言えば世界との関係において、エロチックなものと溶け合った情調を受入れ、それによって相互の仲を円滑にし、人生を平穏にしてきたのである。84:天皇の性格はまさしく改まった。どう変わったのかと言えば、エロチックな性格を失ったのである。あるいは、エロチックな性格によって一国の調和と安穏を祈ることをやめたのである。このとき天皇の和歌には色気がなくなり、何か道歌のようなものに変質した。
2017年10月15日
この世界の片隅に
広島県呉市を舞台にした映画。これまで呉を舞台にした映画というと、「男たちの大和」「海猿」「新仁義なき戦い」
などがあったが、アニメ作品は初めてではないか。呉には仕事で昔定期的に行っていたので懐かしい。主人公すずは絵を描くのが好きな、のんびりした18歳の娘。昭和19年、お見合い結婚で広島市江波から20km離れた呉に嫁いでくる。戦況の悪化で、次々と奪われるすずの日常生活。
解説を読んで後から気づいたが、すず役の声優「のん」というのは、能年玲奈だったんですね
2017年10月14日
マサイとその第二婦人
私の地元の友達に、ケニアで10年間暮らしていたさくらさんがいる。そのさくらさんが、「元上司がマサイを連れて来る
」というので、南アフリカから帰ってまだ一週間にならないというのに、地元の蘭's Gardenへ。元上司というのは、ケニア在住28年になる早川千晶さんで、ナイロビのキベラスラムで孤児・ストリートチルドレン・貧困児童のためのマゴソスクールという「駆け込み寺」を運営している。その費用は経営する旅行会社の利益と主に日本から支援金を当てている。
その早川さんとともに現れたのは、ケニアに暮らして15年、マサイ族の第二婦人になって12年という永松真紀さん。夫のジャクソンさんと現れた。ケニアも一夫多妻制で、上限も決まってないそうだ。伝統的に牧畜民なので、牛やヤギの飼育頭数を増やすためには妻や子供などの労働者は多い方がいいという考え方ということ。
面白かったのは、マサイ族の「人生四つの時代」という話。
�‐�年時代
義務教育は小学校8年なのだそうだが、最近まで田舎では誰も学校に行っていなかったという。小さい頃からまずはヤギなどの庭で飼っている家畜の世話をする。10歳くらいになると草をたくさん食べるため遠くまで出かける必要のある牛の世話をする。朝7時くらいに家を出て、夜7時くらいまで牧草を求めて牛を連れて歩く。
�∪椎�期（戦士時代）
14歳くらいになると「割礼」の儀式があり、その日に少年時代は終わる。指導役の長老に付いて村を離れて青年同士の共同生活を送る。約10年間の間、森で牛を解体して食べる「肉宴会」、「牛泥棒」、「ライオン狩り」などの修行生活を送る。「牛泥棒」というのは、他民族の牛を盗みに行く肝試しのようなものだという。ライオンは人間を襲わないそうで、ちょっかいを出して怒らせてから仲間で一斉に狩るのだそうだ。青年期の男性だけ髪を長く伸ばし、「戦士のダンス」として高くジャンプする。
�Ｂ膺祐�
10年続いた「戦士時代」は角笛とともに突然終わる。卒業の儀式エウノトで、それまで伸ばしていた髪を剃る。ジャンプもその日からしないのだそうだ。まず第一婦人をめとり、家族を形成していく。
�つ肱郡�
年を取ると全員が「長老」と呼ばれ、尊敬される。青年や大人がその知恵を授かりに相談に来る。
これは世界中で永らく続いた伝統的人生観とおなじだと思う。日本でも武士の元服は14歳前後でしていたようだし、その後の青年期の集団生活は江戸時代から高度経済成長期まで盛んだった「青年団活動」に似ている。地域や時代によっても違うが、多くは元服すると働きはじめ、夜は宿に集まって合宿生活をしていたという。
そんな伝統的生活を送るマサイ族にも変化が訪れている。今では、全マサイ族が携帯電話を持っているそうだ。ジャクソンさんと永松さんが暮らす村にも、最近小学校ができて子供たちは勉強を始めた。気候の変化で牧畜も難しくなってきている。
教育を受けて広い世界をしれば、「私はそちらのほうがいい」という子供は必ず出てくる。マサイの戦士としての修行を拒否して都会に出る子供も出てくるだろう。そのうち何人かが成功して、故郷にデカい家を建てて大画面TVで衛星放送を見始めれば、マサイ族の生活も決定的に変わってしまう。
伝統的マサイ族の生活が見たいなら、早く行った方がよさそうだ。
2017年10月13日
史上初のサラリーマンを主人公とする小説
教科書で知っているけど読んだことがなかった本シリーズ、そのX。
時代はナポレオン失脚後の王政復古のフランス。田舎の貧しい製材所の息子に生まれた青年ジュリアンが、その美貌と才覚でのし上がっていく。聖職者を目指すのだが、それは宗教的理由からではなく、当時カトリック教会がフランス最大の影響力を持つ巨大組織だったから。
ジュリアンは金持ちへの反発と野心から、貴族の女性を神をも恐れず
ドンドン誘惑していく。最初は18歳で家庭教師に入った町長夫人である「30歳くらい」という美女。貴族は家庭教師を雇って自宅で子どもが小さい間子弟教育するのがステータスでもあったようだ。この小説は、「史上初のサラリーマンを主人公とする小説」（Yves Ansel）だそうだ。以下、訳者による「読書ガイド」から。
・町長邸の家庭教師に雇われ100フランで服を作ってもらう（10万円）
・月給36フラン（3.6万円）衣食住無料
・月給50フラン（5万円）に昇給
当時、既製服はなかったので、全て注文服。従って、服の値段が相対的に高い。今では誰でもこざっぱりした服を着られるが（ユニクロの誕生でさらに容易に
）、産業革命で大量生産された服が出回るまでは服を見ただけで懐具合が分かったはずだ。2017年10月12日
「アフリカのナポレオン」と呼ばれた男
今一番有名な南アフリカ出身の企業家と言えばTeslaやSpaceXの経営者であるElon Muskだろう。今回の出張で泊まった南アの首都プレトリアの出身。高校卒業後、母がカナダ人であったことからカナダに移住している。トロントのクイーンズ大学に入学したが、その後、アメリカのペンシルバニア大学に編入して卒業。Silicon Valleyに移って、PayPalの前身の一つであるX.COMを1999年に設立した。
そのMuskが世に出るまで100年以上、南アの企業家と言えばこの人のことだった。それが、セシル・ローズ（Cecil John Rhodes）。イギリス生まれで17歳の時に健康上の理由で南アに渡った。そこで、ダイヤモンドビジネスに乗り出し若くして財を成す。1880年にロンドンのRothschild家の資金支援を得てDe Beers社を設立した。De Beersは中小の同業者を軒並み買収。ダイヤモンド鉱山経営だけでなく、加工から、卸売りに至るまで垂直統合の独占企業を作り上げ、史上まれに見る企業帝国を作り上げた。
De Beers設立の同年、ケープ植民地の議員になり政界に進出。1990年には首相にまで上り詰めている。De Beersはボーア人（オランダ系農民）の独立国であるトランスヴァール共和国にも金鉱山を持っていた。イギリス南アフリカ会社まで買収していたローズは、トランスヴァールを併合して全部会社のものにしてしまおうと考える。そこで会社軍をトランスヴァールに派遣するのだが、ボーア人に包囲され逆に捕虜にされてしまう。これが、第一次ボーア戦争(1896）。ローズはこの失敗で失脚する。
イギリスは諦めずに、再び戦争を起こし、二つあったボーア人の共和国を苦労の末に破る。これが第二次ボーア戦争で、1899-1902の間続いた。この歴史的経緯の結果が「首都が三つ」という南アフリカの特殊な状況をもたらしたことは先週書いた通り。
ローズはアフリカ全部をイギリス領にしようと考えており、その絶頂期には「アフリカのナポレオン」と呼ばれていたそうだ。牧師の息子であったローズは、「神が大英帝国の世界支配を望んでいる」と著書に書いている。
子どものいなかったローズは死後、その全財産を母校のOxfordに寄付した。その莫大な基金は「ローズ奨学金」として、主に南アフリカ、ドイツ、アメリカ、オーストラリアの留学生がOxford大学院で学ぶために使われている。ローズ奨学金は世界でも最も権威のある奨学金制度の一つで、ビル・クリントン大統領やマイケル・サンデル教授もRhodes Fellow。米国上院外交委員長だったフルブライトは自らの留学経験から、米国の大学に留学するフルブライト奨学金制度を設立した。
2017年10月11日
南アフリカで会った3人
今回の出張で仕事以外で話した3人。
１．滞在中ずっと運転してくれた旅行会社のガイド兼運転手のKenny
ヨハネスブルク出身。父方はスコットランド出身で、母方はボーア人（現地オランダ系）だが、双方とも何世紀も前に移民できているので詳しいことは判らない。地元の大学を出てから2年間イギリスでワーキングホリデーをした。ガードマンをやっていたそうで、南ア出身者はガードマン、オーストラリア人はバーテンダーというのが定番らしい。帰国後、旅行会社に就職したという。愛車はスズキSwift。
２．LBS同窓生のParamesan
インド系の五世で、祖先は1860年に南アに移民したという。インド系は南アに100万人いるそうだ。人口5500万だから、約2%ということになる。LBS留学でロンドンに渡り、卒業後10年間CitiやGSで投資銀行業務。日本市場のデリバティブを担当していたそうで、日本に行ったことはないが、Mrs Watanabeのことはよく知っているという
。南アには今年の2月に帰ってきたばかり。現在はフリーランスでコンサルタントをやりながら、起業の機会をうかがっている。３．LBS同窓生のMalvern
ジンバブエ出身。ジンバブエの政治経済状況が最悪となり、ヨハネスブルクに出てきた。アフリカ最大の金融センターと言われるSandtonの損害保険会社で引受部長をやっている。我々の遠隔医療機器の話をしたら、「中進国」である南アよりジンバブエの方がニーズがあるという。腐敗した政府の国々の特徴として、貧富の格差が激しく、お金持ちは医療サービスは南アで受けるそうだ。
初のアフリカ訪問だったが、南アフリカに魅力を感じた。独立後もアフリカでは例外的に白人支配が続いたため、法の支配が定着している。一人当たりGDPは$12,500で日本の1/3ほど。そのため物価は安いが、LBS同窓生ら専門職の収入は欧米より低いが日本よりは高い。
2017年10月10日
世界で三番目に大きな病院
今回訪問した病院の一つが、南アフリカ最大かつ世界第三位というChris Hani Baragwanath Hospital。南アフリカ最大のTownship（黒人街）Swetoにある。1998年のギネスブックでは「世界最大」とされていたから、どこかから異論が出たのか？
数字で見てみると、
- 病床数3200ベッド
- 職員数6760人
- 敷地0.7km2
- 429病棟の延べ床面積233,795m2
- 受入患者の70%が救急で、一日平均350人を受け入れ
- 月間平均160人の銃創患者
- 産科の患者数は年間6万人
- 年間出産数は23,000人
ということ。我々の訪問目的である産科関係で言うと、日本最大の出産数の病院（熊本の福田病院）で年間3,400人だから、その約7倍になる。
日本でも産科医は常に待機状態で（いつ生まれるか分からない！）、厳しい勤務状態と言われるが、南アはBRICSの一角として経済成長しているとはいえ、専門家医の絶対数は少ない。我々のCTGを傘下の専門家医のいないクリニックに装備してもらい、遠隔で診断にあたることができれば状況は多少改善しそうだ。
日本でも産科医は常に待機状態で（いつ生まれるか分からない！）、厳しい勤務状態と言われるが、南アはBRICSの一角として経済成長しているとはいえ、専門家医の絶対数は少ない。我々のCTGを傘下の専門家医のいないクリニックに装備してもらい、遠隔で診断にあたることができれば状況は多少改善しそうだ。
2017年10月09日
私が犯人です
今回の香港→ヨハネスブルク機上で見た映画。どんでん返しの最後で楽しめた。
原作があるのかと思って調べてみたら、原作は2012年の韓国映画ということ。凶悪犯罪における時効廃止がストーリー上重要な役割を果たしているのだが、それは韓国でも同じだったのだろうか
日本では、2010年4月27日に最高刑が死刑となる犯罪の時効（改正前25年）が廃止され、その時点で時効になっていない未解決事件は時効がなくなった。問題はこの改正で、犯罪防止に効果があるのかどうか？改正から7年、その効果を誰がどう検証しているのか。個人的には、時効廃止はやりすぎで、関係者が存命中であるという意味から100年とかでいいと思う。
藤原竜也と伊藤英明がダブル主演し、2012年の韓国映画「殺人の告白」を原作に描くクライムサスペンス。「ジョーカー・ゲーム」「SR サイタマノラッパー」の入江悠監督がメガホンをとり、22年前の連続殺人事件の犯人を名乗る男の「告白」が新たな事件を引き起こす様子を描き出す。1995年、同一犯による5件の連続殺人事件が日本中を震撼させた。犯人はいずれも被害者と親しい者に殺人の瞬間を見せつけており、殺害方法は背後からの絞殺、そして目撃者は殺さずに犯行の様子をメディアに証言させるという独自のルールに則って犯行を重ねていく。捜査を担当する刑事・牧村は犯人を逮捕寸前にまで追い詰めるが、犯人の罠にはまって上司を殺され、事件は未解決のまま時効を迎えてしまう。そして事件から22年後、犯人を名乗る男・曾根崎が執筆した殺人手記「私が殺人犯です」が出版される。曾根崎は出版記念会見にも姿を現し、マスコミ報道やSNSを通して一躍時の人となるが……。告白本を出版する美しき殺人犯・曾根崎役を藤原が、事件発生時から曾根崎を追い続ける刑事・牧村役を伊藤がそれぞれ演じる。（映画.com）
2017年10月08日
南アフリカは一夫多妻制
Townshipで夕食を食べた日、我々を仲間に紹介してくれたドクターが、「日本から奥さんを探しに来たんだよ」と冗談を言う。
「いや、結婚してるし
」なんて言っていたら、「南アでは4人まで結婚できるから大丈夫」と言われた。そういえば、ズマ大統領自身4人の奥さんがいる。ズマ大統領の結婚は6回目で、子どもの数は20とも35人ともいわれている。一夫多妻制は南ア最大の部族ズールー族の伝統で、法律でも認められている。
「じゃ、俺はこれで」と先に帰った地元経営者はやはり4人の奥さんが居るので忙しいのだという。別居の場合は「今晩は誰のところで居る」と同居している奥さんに連絡しないといけないらしい。全ての奥さんと同居しているケースもあるとのこと。
最近の世論調査では8割の国民が一夫多妻制に反対しており、そのうち廃止される可能性もある。しかし、マンデラが率いてアパルトヘイトを廃止したANCの支持者層である黒人の中でも政治経済力のある人ほど一夫多妻制継続を望んでいるので、ANCが政権にある限りは「選択の自由」ということで残りそうだ。
2017年10月07日
Nelson Mandela
最終日の病院訪問はSowetoにある南ア最大の病院。終了後、「せっかくSowetoまで来たのだから」と、おそらく南ア最大の観光名所「マンデラ・ハウス」に寄ってくれた。
資料館で渡されたパンフレット他によれば、
・家は1945年にヨハネスブルク市営住宅として建設
・マンデラは最初の夫人Evelynと長男で1946年に入居
・マンデラが政治に深入りするようになり、それを嫌った夫人と1957年に離婚
・翌年、二番目のそしてマンデラ夫人としてもっとも有名なWinnieと再婚
・政治犯として家で暮らせなくなり、1961年に「地下活動」へ
・1962年に逮捕され収監される
・1964年国家反逆罪で終身刑に処される
・Winnieは二人の娘と（現在二人とも南アの外交官）1977年までこの家で暮らすが度重なる警察からの嫌がらせでBrandfortへ引越し、そこで1986年まで軟禁される
・世界中が注目する中、1990年釈放され家に戻るが余りの騒ぎに11日間で一家で引越し
・1993年ノーベル平和賞受賞
・1994年南アフリカ大統領に就任
・1996年マンデラはWinnieと離婚
・1997年家はSoweto Heritage Trust1に寄付される
・1998年モザンビーク初代大統領の未亡人グラサ・マシェル夫人と三度目の結婚
・2013年ヨハネスブルクの自宅で死亡（95歳）
旧宅を見て驚いたのは、外壁に残った火災の後と弾痕。マンデラ宅は二度にわたって放火され、また度々銃弾が撃ち込まれた。南ア政府が本気で殺そうとしていたならとっくの昔に殺されていたはずなので、「悪質な嫌がらせ」でなんとか済んでいた点に希望を感じるし、時間はかかったものの、その後の融和に繋がった。
2017年10月06日
Township
アパルトヘイト政策時、黒人の居住区として作られたのがTownship。それは、白人と黒人の貧富の格差でもあった。
アパルトヘイトがなくなった現在、黒人もどこでも自由に住める。豊かになった黒人はTownshipを出ていき、貧しい人たちが残った。さらに、都市化が進んで、地方から都市に人が流入するようになり、収入のないこれらの地方出身者が身を寄せるのもTownshipだ。その結果、治安が悪化し、地元の人たちも近寄らない。
もっともTownshipもいろいろで中流階級化しているところもある。BloemfonteinでTownshipにあるBarに連れて行ってもらった。というか、「せっかく日本から来たなら俺たちのルーツを見にこい」とばかりに大学教授に連れていかれたのだ。
ビールを飲んで、つまみに出てきたのは、ご覧の羊。頭と足だけで、胴体がない。聞けば、アパルトヘイト時代、通常部位の肉は白人が食べ、黒人に回ってくるのは解体された後の頭と足と内蔵だけだったという（内臓は腸詰になってこの後出てきた）。これを長年食べていたのが彼らのソウルフードとなり、豊かになった今もここに集まって食べるのだそうだ。
2017年10月05日
ANC発祥の地
忙しいスケジュールの中、Bloemfonteinで一か所だけ寄ったのがANC（African National Congress)発祥の地Wesleyan Church。アパルトヘイト政策の下、黒人が集会を開く場所はほとんどなかったが、教会だけは別。この教会で秘密会議が繰り返され、1912年にANCが誕生したのだ。
釈放されたネルソン・マンデラがANC議長(代表）に就任したのが1991年。1994年に第一党となって以来現在まで南アフリカの与党となっている。現在のズマ大統領は2007年にANC議長、2009年に南アフリカ共和国第11代大統領に就任している。
このズマ大統領、なんと783の汚職疑惑で訴訟されている。それでも8月に国会議員によって行われた大統領信任投票で400人中過半数の201票の不信任票が集められず在任することになった。ANC国会議員は議会で踊って歌ってそれを祝ったという。
アフリカの多くの国が資源が豊かなのに発展しないどころか、幾度もの飢餓や内戦に苦しんできたのは、政府の腐敗によるところが大きい。植民地から独立した国々の沢山の大統領がインフラや産業に投資することをせず、一族の蓄財にいそしんだ挙句国外逃亡している。
南アフリカはANCが選挙を通じて政権を取ることで、内戦に陥らず、国を発展させることができた。政権を取ってから20年を経過し、アフリカの悪い癖が芽生えつつあるように見える。南アフリカがアフリカで例外的に発展できたのはアングロサクソン流の腐敗を嫌う文化があったことが大きい。南アフリカは岐路にあるかもしれない。
2017年10月04日
首都が三つ
南アフリカには首都が三つある。
というのを、来る途中の機上で『地球の歩き方』を読んで初めて知った。
国家機能には、行政と司法と立法の三つがあり、これがそれぞれ独立しているのが中学校で習った民主国家の「三権分立」だが、これらは通常ひとつの都市にあり、そこが国の「首都」と呼ばれる。日本なら東京だし、米国ならワシントンDC、英国ならロンドンということになる。
ところが、南アフリカでは、行政府（大統領官邸他各種省庁）はプレトリア（ヨハネスブルクの隣町）に、司法府（裁判所）はブルームフォンテーンに、そして立法府(国会）はケープタウンに置かれている。そんなことをしたら当然非効率になるので、普通はしない。
そこで調べてみると、思った通り、独立する際の政治的配慮が原因のようだ。これも高校の世界史で習った通りなのだが、最初にこの地に欧州から入植したのはオランダ人でケープ植民地が成立したのは1652年。イギリス人が入植しはじめるのはその100年位後だ。ナポレオン戦争後のウィーン会議で1814年にケープ植民地は正式にイギリス植民地になる。
1833年にイギリスが奴隷解放を宣言。奴隷労働に頼って農園経営をしていたオランダ系農民(ボーア人）はこれに反対して内陸部に移動し（グレートトレック）、1839年にナタール共和国、1852年にトランスバール共和国、1854年にオレンジ自由国を相次いで建国する。イギリスは軍隊を派遣してこれらを制圧し内陸部も植民地化していく。
この過程でイギリスと独立国を建設したボーア人との間で起こったのがボーア戦争。1880年の第一次ボーア戦争ではクルーガー司令官の活躍で独立を回復したりするのだが、内陸部でダイヤモンドや金が発見されたことで、イギリスは再び戦争を仕掛けこれに勝利。1910年に南アフリカ連邦が成立する。ボーア戦争は特に悲惨な戦争で知られ、捕虜になったボーア人の女子供が劣悪な環境で2万人以上死んでいる。
こうした悲惨な歴史背景から、1961年にイギリス連邦から離脱し、南アフリカ共和国となった際に元々ボーア人が作ったトランスバール共和国の首都があったプレトリアと、同じくオレンジ自由州の首都のあったブルームフォンテーンに首都機能が分散されたわけだ。
2017年10月03日
ビジネスでも勉強でもズバ抜けて活躍できる子を育てる
昨年読んだ伊賀泰代『採用基準』に、マッキンゼーでコンサルタント採用にあたり最も重視するのはリーダーシップとあった。そして、頭がいいのは前提なのだが、「思考力」を「思考スキル」「思考意欲」「思考体力」に細分化し、その中で「思考意欲」「思考体力」の方を重視しているということ。理由は、スキルは入社後でも教えられるが、「思考意欲」「思考体力」は大人になってからでは身に付かないからだそうである。
よくある教育ママ的マニュアルかと思ったが、そうではない。人生い目標を持って結果を残せる人と、単に学校の成績が良かっただけの人との差が、家庭教育にあることを詳細な調査で解き明かす。長い人生で大切なのは、「賢さ」よりも「モチベーションと根性」なのだ。
よくある教育ママ的マニュアルかと思ったが、そうではない。人生い目標を持って結果を残せる人と、単に学校の成績が良かっただけの人との差が、家庭教育にあることを詳細な調査で解き明かす。長い人生で大切なのは、「賢さ」よりも「モチベーションと根性」なのだ。
＊リーダーシップあふれる一流のビジネスパーソンと、単に勉強ができるだけの二流エリートたちのこの差はどこから来るのだろうか・才能の種を見つけて「原石」を磨く・世界に視野を広げる・「賢さ」よりも、「モチベーションと根性」・子供と積極的に議論せよ・楽しく思考力を伸ばす・「好きな本」で読書を習慣化させる122:学力やIQより、長期的に達成する力こそが人生の成功を左右する169:「社交の場」に参加させる「場慣れ」が子どもを社交上手にする235:幼児語で話しかけることはなく、幼いころより子どもを一人の人格として、いつも対等に付き合う
2017年10月02日
突撃！世界の晩ごはん
世界中を回って初対面の人のお家で晩御飯を食べる、という楽しい本。私もよく友達の家でご馳走になったり、またうちに呼んで食べたりをよくやっている。一昨日も、釜山の展示会で知り合ったばかりのスリランカ人が、「この後日本に休暇で行く」というので、「うちにおいでよ」と誘い、帰国当日にうちにやってきた。
日本人は昔に比べて家に人を上げなくなった。冠婚葬祭も以前は家で行うのが当たり前だったが、まず披露宴が、ついで告別式が家から消えた。家の狭い都会では私が上京した1980年代にはすでに、そして、うちの田舎でも1990年代から急速に民間の結婚式場や斎場で行われるのが当たり前になった。こうした冠婚葬祭は地域の人たちが手伝うことを前提にしていた。コミュニティ中心の生活が維持できなくなり、機会が損失することで、さらにコミュニティの関係は希薄化している。
筆者がキッチハイクを思い付いたのは、5年前に共同体の成り立ちに関する文献を読んでいた時だったという。
235:「縄張りに入ってきた部外者と友好を深めるためには、一緒に食事をするのが一番だ。地球上のすべての民族が根源的にこの慣習を持っている」それで、勤務していた博報堂DYメディアパートナーズを退職して、キッチハイクの旅に出る。その模様は、BRUTUSで連載され、帰国後に書籍化されたのがこの本。
20代の頃読んだ大前研一の本に、「ランチをひとりで食べるなんてもったいない」とあり、それ以来、なるべくランチは社外の誰かと食べることにしていた。人間の本能として「食事した人と仲良くなる」というのは真実だ。一緒にのめばもっと仲良くなるかもしれないが、毎日飲んでいては体を壊すし、勉強する時間が無くなるので、もっぱらランチ。
2017年10月01日
世界初の「クローン文化財」による展覧会
韓国から飛んで、敦煌莫高窟に来ています。
・・・というのはウソで、釜山から帰国しての週末、近所の東京藝術大学美術館へ。シルクロード特別企画展「素心伝心」が開かれている。
今回の展示の特長は、「クローン文化財」であるということ。文化財で常に問題になるのは、「保存」と「公開」の両立。文化財の保存のためには非公開が最良だが、公開されないと文化財としての価値が共有できない。そこで、東京藝大では芸術と科学技術の融合による高精度な文化財複製技術（特許）を開発したという。クローンなので、気がねせず間近で見られる。「触ってもいい」ものもある。手触りまで本物そっくりなのだそうだ。
今回の展示物は、シルクロードの仏教遺跡。中には、2001年にタリバンが爆破したバーミヤン東大仏天上壁画、ドイツ探検隊がはがして持ち帰ったあと第二次世界大戦中に戦火で失われたキジル石窟航海者窟壁画など既に失われてしまったものも、存在中の調査結果をもとに復元されている。失われてしまって、もう永遠に実物では見ることができないと思っていたものが、そこにあるのだからスゴイ。
他にも、保存のため一般公開されていない敦煌莫高窟第57窟（写真）など。仏像だけでなく、石窟の壁画まで再現されている。
この「クローン文化財」、芸術と科学の狭間であり、細かいところに拘るのが好きな日本人には最適と思われる。昔なら根付、今からフィギュア。東京藝大にはこれでしっかり儲けてもらいたい。
