2017年07月
2017年07月31日
市場のミスプライシング
第26章は「市場は足し算と引き算ができない」
長期で見れば効率的に動いている資本市場だが、短期的には、あるいは中期的にもおかしな値段が付くことがある。大抵は、投資家が熱狂にとりつかれている時なのだが、本書に出てくる例は、インターネットバブル期のアメリカでの話。
3COMはコンピューターネットワーク機器の会社だが、.COMバブルの中で株価は蚊帳の外であった。しかし、3COMは合併を通じて傘下に収めた携帯情報端末Palm Pilotの製造会社Palmがあった。Palmの価値が株価に反映されていないと感じた3COMはPalmをカーブアウト（子会社の株式公開）することにする。
1999年12月13日に、Palmの分割を発表したところ、3COMの株価は$40→$100に上昇する。発表前と発表後で事業自体は何も変わっていないから、これだけで効率的市場仮説に反する。さらに、2000年3月2日、実際に3COMがPalmの持ち株のうち約4%をIPOで売り出し（＋1%を企業連合に売却）たところ、IPO価格$38から、初日のうちに$95まで上昇する。このカーブアウトでは、数か月後に3COM株主はPalm株1.5株が割り当てられることになっていた。Palm IPO後の3COM株価は値下がりして$82であった。
3COM $82 ＝ Palm $95 ｘ 1.5 − $61（3COMの残存価値）
この結果、引き続き黒字で安定していた3COMの残存事業の価値は一株当たり-$61で、会社全体でマイナス230億ドルということになった。これはあり得ない事態だったので、大衆紙までが大きく報じた。それでも、3COMの残存価値は数カ月間マイナスが続いた。Palm株を買わずに、3COM株を買えば大儲けだ
（実際、そうした人は儲けられた）
歴史上、同様の例は他にもあって、本書では、1923年のDuPontとGMの例が紹介されている。バフェットの師匠として知られるベンジャミン・グレアムは、DuPontがGMの株式を大量に保有しているのに、DuPontの時価総額がGMの持ち分の時価総額とほぼ同じであることに気づいた。DuPontは非常に収益力が強い企業なのに、GM持ち株分を引いた残存価値はほぼゼロであった。グレアムはDuPont株を買って、GM株を空売りし、DuPontの株価が上がると大金を手にしたそうだ。
この結果、引き続き黒字で安定していた3COMの残存事業の価値は一株当たり-$61で、会社全体でマイナス230億ドルということになった。これはあり得ない事態だったので、大衆紙までが大きく報じた。それでも、3COMの残存価値は数カ月間マイナスが続いた。Palm株を買わずに、3COM株を買えば大儲けだ
（実際、そうした人は儲けられた）歴史上、同様の例は他にもあって、本書では、1923年のDuPontとGMの例が紹介されている。バフェットの師匠として知られるベンジャミン・グレアムは、DuPontがGMの株式を大量に保有しているのに、DuPontの時価総額がGMの持ち分の時価総額とほぼ同じであることに気づいた。DuPontは非常に収益力が強い企業なのに、GM持ち株分を引いた残存価値はほぼゼロであった。グレアムはDuPont株を買って、GM株を空売りし、DuPontの株価が上がると大金を手にしたそうだ。
2017年07月30日
明治が生んだただ一人の天才
松岡正剛は「千夜千冊」で、「ひょっとして日本の小説の中で『たけくらべ』に一番の影響を受けたかもしれない」と言っている。
樋口一葉を「明治が生んだただ一人の天才」と小島政二郎は書いた。『大つごもり』から『たけくらべ』完結までの“奇蹟の十四カ月”を書き抜け、そのままたった24歳で逝ってしまった一葉の才能を想うと、小島ならぬともそう褒めたい。
薄幸きわまりない短命が、一葉に天才の呼び名を冠したわけではなかった。「文学界」に断続的に発表されていた『たけくらべ』が、明治29年（1896）４月に「文芸倶楽部」に一括掲載されると、辛口で鳴る『めざまし草』の「三人冗語」がその才能を口をそろえて絶賛した。森鴎外・幸田露伴・斎藤緑雨の三人である。（千夜千冊）
これまた、教科書だけで知っている小説で読んだことがなかった。樋口一葉の文章は、「擬古文と言われる『古典と近代小説の橋渡し』のポジションにあり、超一流の芸術品」（現代語訳者解説）と称されるが、いかんせん、慣れてないと厳しい。そこで、遅ればせながら、現代語訳で読んでみた。
舞台は吉原遊郭付近。明治29年というが、風俗は江戸のままと言っていいだろう。子どもの親たちは、火消しだったり、とび職人だったりする。第一、遊郭が健在で、ヒロインの美登利は姉が吉原に身売りしたのに伴って和歌山から東京に一家で引っ越してきたのだ。姉が売れっ子の花魁になったおかげで、不自由なく暮らしている。
当然、来ているものも、皆着物。羽振りのいい美登利は、「柿色の蝶と鳥を大柄に染めた浴衣を着て、黒い絹と二色以上に絞り分けた布を縫い合わせた帯を胸の高い位置に結」んでいる。とび職の息子は、「職人が使う三尺帯に突っかけ草履」。坊さんの息子は、「紺色の綿織物で出来た羽織に紫の兵児帯」だ。貧乏な人力車引きの息子は、「袖を筒状に縫った安い木綿の着物」だ。
下駄の鼻緒を切れば、すげなければいけない。私もやったことはない。
庶民の生活様式が和式から様式に大きく変化したのは、高度経済成長だったという。それまでは、お父さんは外では背広でも、帰宅すれば着物に着替えていた。明治維新でも、戦争でも変わらなかった伝統文化を変えたのは経済成長だったのだ。
12:育英舎という小学校があり、私立ではあるが生徒の数は千人近くもある。狭い校舎に目白押しの窮屈さではあるが、教師の人望が知れ渡って「学校」と言えばこのあたりでは育英舎のことだとすぐにわかるほどだ。通う子供の数々は、あるいは火消し、あるいはとび職人の子ども。21:両親もいるのだが荒い言葉で叱ることはない。姉の雇い主である遊郭の主人が、美登利を大切に扱う様子も不思議だ。聞いてみると、主人の養女でもなく、親戚でもない。姉の大巻が遊女として身売りされる時に主人の誘いに乗って、吉原で稼ごうと親子三人で一緒についてきた。それ以上の深い事情は知らない。今は寮の管理人をしながら、母は遊女の着物を縫い、父は遊女屋の会計係をしている。79:「僕は鼻緒を切ってしまって、どうしようか困っている。本当に弱っているんだ」
2017年07月29日
ケース＝シラー住宅価格
ロバート・シラー教授が編み出した指標で、株価のCAPEとともに実社会でよく使われているのが、住宅価格のケース=シラー指数。タフツ大学の不動産経済学者チップ・ケース教授とともに開発したのでこの名前がついている。
330:ケースとシラーが指数を開発する前は、住宅価格の指数は信頼性があまり高くなかった。ある月に売買された住宅の質や規模のばらつきが大きいと、平均値が歪められてしまうからだ。この問題を解決するために、ケースとシラーは、同じ住宅の売買履歴に基づく指数をつくって住宅や立地の質を調整するという巧みなアイデアを思いついた。（価格はインフレ調整後）
住宅の価格の長期トレンドは、同室の住宅の賃貸料の20倍である。つまり、年間賃料の20年分が住宅価格の平均値ということになる。不動産の表面賃貸利回りが平均5%と言ってもよい。不動産維持のための諸経費と住宅ローンの金利を考えれば、ここが均衡点ということなのだろう。
表を見れば、サブプライム・バブルの頃、住宅価格はこの長期トレンドから大きく逸脱している。バブル崩壊後に元に戻り、現在はまた上昇中である。比較してないが、住宅価格は平均所得と相関していると思われる。平均所得が20年間上がってない日本で住宅価格が上がらないのは当然だろう。
出所：海外投資データバンク
2017年07月28日
サンクコストの錯誤
大学で経済学を学んだとき、「最も役に立つ」と思ったのが、サンク（埋没）コスト。ある金額をすでに使ってしまって、もう取り戻せないお金のことだ。もう取り戻せないのだから、その時点での判断に考慮すべきではない。
例えば、本書で出てくる例に、猛吹雪の中を運転してバスケットボールの試合を観に行こうとする例が出てくる。NY州北部での話。$100を払って観戦券を買っていたのに、当日は猛吹雪。開催される町は100km位離れていて、自分の車で運転していくしかない。ここで判断に考慮すべきは、試合を観ることによる喜び（利益）と、猛吹雪の中出かけて事故に遭うリスク（損失）だ。ところが、実際は、そのチケットをお金を出して買っているか、誰かから無料でもらったものかによって、判断が全く違うことが観察されている。自分で買っている場合は、無理をしてでも行こうとし、無料であった場合はあっさりと諦める。
こうした、人間の非合理的行動の一つを「サンクコストの錯誤」というが、これは国家レベルでも起こる。
106:組織行動学教授のバリー・スタウは、彼が「立場固定」と呼ぶ傾向に付いて書いた論文に「膝まで泥まみれ」というたいとるをつけた。これはピート・シーガーというフォークシンガーの反戦ソングに由来している。新たに1000人の命が失われ、新たに10億ドルが投入されるたびに、負けを認めて撤退することはどんどん難しくなっていったと、スタウは指摘する。このように無関係とされている要因が非常に大きな重みをもつことがある。
よく知られているように、日本海軍が大和を沖縄特攻に出撃させたとき、合理的な理由は何もなかった。唯一の理由は、「あれだけの予算を使って国家プロジェクトとして建造した巨大戦艦を、無傷のまま残しては国民に申し開きできない」というものだった。
大和もサンクコストである。使った巨額の税金をもう取り戻すことはできない。戦術が変化してしまい、また、護衛の戦闘機が居ない状況では巨大戦艦は何の役にも立たない。それが、海軍のメンツから、乗組員3000人を犬死させることになった。
3000人が確実に戦死することが分かっていれば、戦争初期の海軍であればやらなかっただろう。ところが、その時にはすでに戦死者は100万人を超えている。こちらは、そう、「ウェーバー=フェヒナーの法則」である。
2017年07月27日
スカートの丈は理由もなく上がったり下がったりする：株式市場は？
行動経済学の続き。話はケインズから、ロバート・シラー（2013年ノーベル経済学賞受賞）に移る。1981年シラーは衝撃的な論文を発表する。
「株価の変動はその後の配当の変動では正当化できないほど大きいのか」
その研究は1871年まで遡って米国市場の株価と配当のデータを集めたもので、配当の現在価値（＝企業価値）がきわめて安定的に推移しているのに対して、株価は非常に大きく変動している。これは、
当時支配的であった効率的市場仮説に反するので、ファイナンス研究者たちは猛反発した。
今では、勿論、シラーが正しかったことが証明されている。しかし、振り返ってみれば明々白々なことも、宗旨替えはそれまでの何十年もの研究を無価値にしてしまう可能性があり、研究者は必至で抵抗するものなのだ。結局、シラーの説を支持する若手研究者が増えて、定説として受け入られるまで10年掛かっている。
シラー教授が編み出した指標でも有名なのが、上図の「株式市場の長期PER」。S&P500株価指数（日本で言えば日経平均）を過去10年間の平均利益で割ってPERを求めている。長期の平均実績利益を使うのは、景気循環に伴う変動を調整するためだ。
上図では、大恐慌以来の平均PERは16となっている。市場がこの長期トレンドから乖離しても、やがて中央値に戻る。16の逆数は6%で、これは株式市場のリスクプレミアムに等しい。
現在の米国市場平均PER（CAPE）は表の通り29前後。これは長期トレンドから大きく乖離していて、リーマンショック時並だ。シラー教授は、「（ITバブルの時のように）上がり続ける可能性もあるものの、危険が高まっている」と発言している。
2017年07月26日
雪国で安全な車
第4章 「カーネマンの『価値理論』という衝撃」に、「ウェーバー=フェヒナーの法則」が出てくる。丁度価値差異（あることが「変化した」と感じられる最小の差異）は、その変数の大きさに比例する、というものだ。1万円を失うことと2万円を失うことの違いは、100万円を失うことと101万円を失うことの違いよりも、ずっと強く感じられる。失う絶対金額は同じなのだが、分母の大きさで感じ方が違うのだ。
この項で、アメリカの公共ラジオ局NPRで放送されていた長寿番組「カートーク」の例が出てくる。
この番組は、車に関する問題についてリスナーがスタジオに電話をかけてきて、それにトムとレイのマグリオッチ兄弟が答える（2人ともMITの卒業生だ）。そのやり取りがありえないほどおもしろい。（中略）
「私の車のヘッドライトが2つとも同時に壊れたんだ。ディーラーの店に持っていったんだが、電球を2つ交換すればいいだけだって、整備士は言うんだよ。そんな馬鹿なことがあるか？電球が2つとも同時に壊れるなんて、偶然にしちゃ出来すぎだろ？」
それを聞いてトムは即答した。「ああ、そりゃ有名なウェーバー=フェヒナーの法則だ！」じつはトムは心理学とマーケティングの博士号も持っていて、判断・意思決定研究の大家であるマックス・ベイザーマンの薫陶を受けていた。（中略）
2つの電球は同時に切れたわけではないーーこれが答えだ。片方の電球が切れても、それに気づかないまま運転を続けることはよくある。夜中でも煌々と明かりが照っている都市に住んでいる場合はとくにそうだ。電球が2つから1つになっても、差異に気づくとは限らない。しかし、1つからゼロになれば、絶対に気づく。
米国駐在していた時の私のお気に入りの番組で、毎週の放送を楽しみにしていた。MIT出身の兄弟が自動車修理工場をやっているというのが面白い。しかも、トムは心理学とマーケティングの博士号まで持っている
当時の番組で聴いて、今でも覚えているエピソードがこれ。
リスナー：今度うちの息子が雪深い場所の大学に進学する。どんな車が安全か？やはり、4WDは必須か？
兄弟の解答：4WDではなく普通の車を買いなさい。4WDなんて持っていると、夜、大学寮でパーティーなんかやっている時に、「お前、4WD持っているんだから、平気だろう」と余計な買出しに出されてしい、危険な目に遭う。
雪道での性能だけ言えば、4WDの方が安全に決まっている。しかし、使われる状況や、人間心理まで織り込んだ名解答であった。英米の教育は実戦的で、実社会に活きていると感じるのはこうした瞬間だ。
2017年07月25日
ケインズの美人投票
本書によれば、「ケインズは行動ファイナンスの真の先駆者」だという。確かに、「株式市場は誰が一番になるかを当てる美人投票のようなもの」と喝破したのはケインズだ。
ケインズ派マクロ経済学をどう評価していようと、金融市場に対するケインズの考察を無視するのは愚かなことだと言っていい。ケインズの代表作『雇用、利子および貨幣の一般理論』の中で、私にとって最も洞察に富む章は、金融市場の分析にあてられている。ケインズの考察は、投資家としての非常に豊富な経験に裏打ちされていた。ケインズは長年にわたってケンブリッジ大学キングスカレッジの資金運用を任され、大きな成果をあげている。これは大学の基金を株式で運用する先駆的な事例となった。（p295）
1997年、著者はFinancial Times紙（現在は日経新聞の傘下）の協力の下、次のようなゲームを行った。賞金はロンドン⇔NYのビジネスクラス往復航空券2枚だ。
参加者には0-100までの中から数字を1つ選んでもらいます。その数字を全員分集計して、平均値を出し、平均値の2/3に一番近い数字を選んだ人が勝ちとなります。あなたなら、どの数字を選びますか？
Step1：参加者が何も考えずにランダムに選んだら、平均値が50になることは誰でもわかる。平均値が50ということは、その2/3は100/3になる。
Step2：ところが、皆がそう考えるとすると、100/3と答える人が多くなるため、平均値は100/3となり、その2/3で200/9となる。
Step3：さらに、そのくらいは皆が考えるとすると、平均値が200/9となり、その2/3は400/27となる。これをくり返していけば、数字は限りなくゼロに近づく。これが「ナッシュ均衡」（全員がその数字を選ぶ場合に、誰もそれを変えたいと思わない数字）だ。
実際のところ、この実験で答えた人が多かったのは、0, 1, 22, 33であったという。多くのFT読者が上記の思考を辿ったわけだ。１というのは、「FT読者の多くはナッシュ均衡にたどり着くだろうが、中には分からないバカが平均点を上げるだろう」という点を考慮しての事。そして、その結果、勝ったのは13を選んだ人であった。
Step2：ところが、皆がそう考えるとすると、100/3と答える人が多くなるため、平均値は100/3となり、その2/3で200/9となる。
Step3：さらに、そのくらいは皆が考えるとすると、平均値が200/9となり、その2/3は400/27となる。これをくり返していけば、数字は限りなくゼロに近づく。これが「ナッシュ均衡」（全員がその数字を選ぶ場合に、誰もそれを変えたいと思わない数字）だ。
実際のところ、この実験で答えた人が多かったのは、0, 1, 22, 33であったという。多くのFT読者が上記の思考を辿ったわけだ。１というのは、「FT読者の多くはナッシュ均衡にたどり着くだろうが、中には分からないバカが平均点を上げるだろう」という点を考慮しての事。そして、その結果、勝ったのは13を選んだ人であった。
2017年07月24日
ホモエコノミクス
行動経済学の第一人者が「異端の学問が支持を集めるようになった過程」の40年間を辿った本。個人的なエピソードもあれば、経済学の話もある。
冒頭こんな場面から始まる。大学で教え始めたころ、ミクロ経済学のクラスで学生から総スカンを食うのだ。中間試験で学生の理解度を明確にするため難しい問題を入れた。結果、平均点が100点満点中72点となった。
試験の平均点は成績分布には全く影響しない。相対評価でクラスの平均がBになるように成績を設定する決まりになっていたからだ。それでも「点数が低すぎる」という学生の怒りは収まらない。
そこで、次の試験では137点満点にして、平均点は96点となった。正答率は7割しかなく前回の試験よりも難しいくらいだったが、「高得点」の学生たちは満足した。96/137=70で、実際の平均点は前回より低いのにもかかわらずだ。
思い出したのが、LBSでの試験の平均点。これがショックを受けるくらい低かった。クラスの平均点が55点くらい。試験前に教授が、「アメリカ人の学生はショックを受けるかもしれないが、平均点が低いだけで、成績には関係ないから」とわざわざ説明したほどである。
そん時説明された成績基準が、
70+ S
60-69 A
50-59 B
40-49 C
<40 F
というもの。本書に書かれたアメリカの大学の基準（80点以上でA）からすれば、20点くらい平均がずれていることになる。
70点以上でクラスで数人しかいないS評価なのだから、どうしてこんなに難しい試験にするのか？その時は詳しい説明はなかったのだが、後々分かったのはこういうこと。
それは、学力の差は大きいから、学生の学力差を正しく評価するためには、上限に余裕を持たせなくてはいけないということだ。つまり、同じS評価を取る超優秀な学生の中でも差はある。その差を点数で正しく表すためには、90点を取る学生が何年かに一人しか出なくても、平均点は55点くらいにしなくてはいけないということなのだ。
これは、結局、「才能をどう見出すか」という点にもつながっている気がする。日本の教育が、平等主義の「底上げ」に重点が置かれているとすれば、イギリスのそれは、「才能を見つけ出して英才教育しよう」である。その結果が、人口当たりでみたノーベル賞受賞者などに現れている気がする。北欧諸国を除ければ（ノーベル賞発祥の地で初期に偏りがあったのではないか）、イギリスの人口当たりの受賞者数は、アメリカやイスラエルよりも多い。
2017年07月23日
傑作人情時代小説
殺人事件の過半数は家族間だという。家族だからこそ、「分ってくれるはず」という甘えがあり、それが「理解してくれない」という不満になるのだそうだ。中でも一番多いのは、子どもが実父母を殺害するケースで、2013年の全殺人事件858件のうち、実父母が被害者だったのは139件で一番多かった（面識無しは88件）。
本書は2001年に単行本が出た、第126回直木賞受賞作品。当時すごく話題になったので、既に読んだ人が多いと思う。
京都東山で子だくさんの貧乏農家の三男に生まれた永吉は小さい時から親から疎んじられる。家を継ぐのは長男と決まっており、家に居場所がない。妹二人はすでに「飯盛り女」として旅籠に売られている。12歳の時に豆腐屋に奉公に出て豆腐造りを覚える。京都でのれん分けのチャンスがなかなか来ないと知った永吉は25歳で江戸に出て自分の店を持つことにする。転がり込んだのは深川の長屋。同じ長屋に住むおふみがそれを助け、やがて夫婦になる。
京都流の柔らかい絹豆腐は、堅い木綿豆腐に慣れた江戸っ子になかなか受け入れられない。必死で働く二人。陰で思いがけない人からの手助けもあり、徐々に得意先が広がり商売は安定するのだが、皮肉にも、商売が安定すると夫婦仲は悪くなっていく。長男を溺愛する母親と、跡取りとして期待するだけに甘やかしたくない父親。しかし、甘やかされた長男は脇が甘く、商売敵の罠にはまり家族が分裂する原因になる。
親子二代にわたって描かれた大河ドラマ。後に映画化もされたが、これを2時間に詰めるのは無理だろう。連続ドラマで見てみたいものだ。
2017年07月22日
黒田記念館
何も予定を立てないまま迎えた三連休の最終日。近くの国際子ども図書館で新聞を読もうとしたが休みで、隣の黒田記念館へ。実は、こちらに引っ越したころ、ここは耐震改修で休館中。2年前にリニューアルオープンしたのだが、まだ行ってなかった。
建物は、近代洋画の父と言われた黒田清輝が、自身の死去にあたり、遺言で遺産の一部を使って昭和3年に建てられた。同氏から寄付された黒田清輝の油彩画約130点、デッサン役170点、写生帖などが所蔵されているという。
残念ながら、「読書」「舞妓」「智・感・情」「湖畔」の代表作は、年3回しか公開されないということだ。次は10月末。
2017年07月21日
経済学の基本と地域創生
日経新聞株式欄のコラム「大機小機」は、記者が匿名で自由に書いているためか、面白い。大学の山辺ゼミで、入ゼミの条件が「日経新聞をとって毎日読むこと」だった。「門前の小僧で、そのうち分かるから」ということだった。
一昨日19日の見出しは、「経済学の基本と地域創生」。
具体的には、以下の通り。
一昨日19日の見出しは、「経済学の基本と地域創生」。
経済学には、ほとんどの学者が同意する基本的な考え方がある。これに照らしてみると、現在進められている地方創生策には疑問符が付くものがある。
具体的には、以下の通り。
�｜六挫肋但亮�由貿易
��強制分散⇔集積の利益
��人口移動抑制⇔人の流動性
世界を見て、地域が元気なのは、道州制のところばかり。それは、道州制なので、政治経済の中心が道州であり、連邦政府の役割がそもそも外交や国防に限定されているから。連邦政府からお金を貰うのではなく、貰えないから特色を出し人材を育成して頑張っている。
道州制であれば加計学園のようなつまらないことに時間を使う必要もない。80以上も「国立大学」がある国はない。旧帝大以外は道州に払い下げてしまえばいい。新学部を作りたいところは作ればいいし（独自財源が必要だ）、地域の実情に合わせ、不要なところは当然作らない。
世界を見て、地域が元気なのは、道州制のところばかり。それは、道州制なので、政治経済の中心が道州であり、連邦政府の役割がそもそも外交や国防に限定されているから。連邦政府からお金を貰うのではなく、貰えないから特色を出し人材を育成して頑張っている。
道州制であれば加計学園のようなつまらないことに時間を使う必要もない。80以上も「国立大学」がある国はない。旧帝大以外は道州に払い下げてしまえばいい。新学部を作りたいところは作ればいいし（独自財源が必要だ）、地域の実情に合わせ、不要なところは当然作らない。
2017年07月20日
足るを知る
ここまでセドラチェク著書で、「近代経済学の父」アダム・スミスと、「ケインズ革命」をもたらしたジョン・メイナード・ケインズを見てきた。それで、セドラチェクの結論は何なのか？
それは、「すでに持っているものへに感謝し、借金を止める」ことである。既に我々は人類史上最高に豊かな生活をしている。既に生活必需品が行き渡っているのだから、成長率が落ちるのは当然だ。なのに、さらに物質的繁栄を追求しようとすれば、借金するしかない。それは、国家レベルでも個人レベルでも起こっている。
本書では触れられていないが、世界最悪の負債率となっているのが日本政府。国全体としては世界最大の債権国であり、民間セクターが純資産を蓄積していることでバランスを保っている。しかし、この微妙なバランスが今後必然的に繰り返されるであろう経済危機を乗り越えられるかどうかは疑問だ。
小康状態を保っている今のうちに、財政健全化を進め、不測の事態に備えるべきだろう。国債費を除けば財政支出の半分を占める社会保障費、特に中でも最大の医療費の削減を進めるほかない。既に、国債費と社会保障費の増大で政策余地は限られてきている。
それは、「すでに持っているものへに感謝し、借金を止める」ことである。既に我々は人類史上最高に豊かな生活をしている。既に生活必需品が行き渡っているのだから、成長率が落ちるのは当然だ。なのに、さらに物質的繁栄を追求しようとすれば、借金するしかない。それは、国家レベルでも個人レベルでも起こっている。
本書では触れられていないが、世界最悪の負債率となっているのが日本政府。国全体としては世界最大の債権国であり、民間セクターが純資産を蓄積していることでバランスを保っている。しかし、この微妙なバランスが今後必然的に繰り返されるであろう経済危機を乗り越えられるかどうかは疑問だ。
小康状態を保っている今のうちに、財政健全化を進め、不測の事態に備えるべきだろう。国債費を除けば財政支出の半分を占める社会保障費、特に中でも最大の医療費の削減を進めるほかない。既に、国債費と社会保障費の増大で政策余地は限られてきている。
478:現代の経済学（およびこれに基づく経済政策）は、新しい考えの一部を捨てて、古い考えの多くに立ち戻るべきである。恒久的な不満足を断ち切り、人為的に作り出された社会的経済的な不足を排除し、すでに持っているものへの充足と感謝を取り戻すべきだと信じる。479:物質的目標を追求する経済政策は、必ず借金へと突き進むことになるからだ。つねに借金を背負っていたら、経済危機によって被る痛手は一段と深刻になる。次の危機が襲ってくる前に、借金は早いところ返してしまうのが良い。483:本書を通じて私は、数学的モデルに依拠する還元主義的・分析的なアプローチに対抗しようと試みてきた。そして、経済学には他の学問、たとえば哲学、神学、人類学、歴史学、文化史、心理学、社会学と深い結びつきがあり、多くの接点があることをいくらかでも示したつもりだ。経済学という大きな器には、モデルに示された数式や分析よりもっともっと多くのものが詰まっているのであり、数学は外から見えるごく一部に過ぎない。経済学の範疇にある多くの問題は、あいまいで神秘的で、決定論的モデル構築になじまない。
2017年07月19日
歪められたケインズ政策
「経済危機が戦争を招くわけではない」というのが興味深い。「第一次世界大戦は、かなりの高度成長と低インフレを伴った異例のグローバル経済統合の時代に乱暴に終止符を打った」（経済史家ニーアル・ファーガソン）という。
確かに、前回グローバル化により世界が好景気に湧いたのは19-20世紀だ。『80日間世界一周』に描かれたように、世界航路ができ、鉄道が大陸を横断し、世界は小さくなった。状況は第二次世界大戦後に急速にグローバル化した現在に似ている。
「経済危機が戦争を招くわけではない」のに、多くの国では経済危機が政治危機に発展することを怖れ、少しでも景気が悪化しそうなら、景気刺激策を取る。結果は、慢性的な財政赤字だ。先進国最悪は日本。
「不景気の時に政府が赤字国債を発行してでも景気刺激策をとるべき」という理論を打ち出したのはケインズ。それまでの経済学では財政均衡が常識で、ケインズの主張は「ケインズ革命」とも言われた。
しかし、ケインズの主張は政策者によって都合よく使われている。ケインズが言ったのは、「不景気の時には、好景気の時に蓄積した財政黒字を使って景気刺激策を行ってもいい」ということであり、恒常的な財政赤字を容認したわけではない。
こうしてみると、戦争をもたらすのは、経済危機ではなく、「借金」によって容認された「欲望」なのかもしれない。
337:深刻な経済危機は、戦争を招いたわけではない。第一次世界大戦が資本主義の危機の結果だと主張することは（マルクス主義者は長年試みてきたが)、いまとなっては不可能である。事態はむしろ逆だ。第一次世界大戦は、かなりの高度成長と低インフレを伴った異例のグローバル経済統合の時代に乱暴に終止符を打ったのである。（経済史家ニーアル・ファーガソン）351:2008年のグローバル金融危機後に大不況が発生するとケインズ政策が復活したが、これは本物には似ても似つかない代物で、「出来損ないのケインズ政策」と言うほかない。ケインズの学説の一部(赤字を容認する）だけが採用され、大事な部分(余剰を蓄積する）は忘れられた。そして今日では景気拡大期でさえ赤字が容認されている。352:「景気拡大期に黒字を積み上げよ」このルールを守っても景気後退は回避できないが、対応する余地を生み出すことはできる。現状では、この余地がどんどん乏しくなっている。356:科学を含め、人間のあらゆる活動には倫理がつきまとう。経済学が価値判断とは無縁でいたいと望むとしても、経済学の根本的な部分は規範的判断に基づいている。つまり、苦痛、非効率、貧困、無知、社会的不平等などは悪いとされ、(科学の力で）取り除くべきだとされている。そもそもどんな科学もどんな進歩も、悪から逃れたいという願いから始まっているのではないか。366:ジョン・メイナード・ケインズも、経済学の倫理的側面をきわめて重視した経済学者である。ケインズは数学に造詣が深かったにも関わらず、代表作の『雇用、利子、および貨幣の一般理論』にはグラフや数式はごくわずかしかない。しかし次のバイブルとなったポール・サミュエルソンの『経済学』は、ケインズ理論を発展させたものであるにもかかわらず、もはや物理学の教科書といった風情だ。ほとんど1ページおきにグラフ、式、図表が登場する。倫理と経済を巡る議論は登場しない。曖昧なところは何もなく、経済学は機械装置であるかのように解説される。
2017年07月18日
経済思想のルーツと変遷
今年正月に見たNHK「欲望の資本主義」に登場したセドラチェクに興味を持ったので、著書を読んでみる。内容は、ギルガメシュ叙事詩から始まり、旧約聖書、ギリシャ哲学、キリスト教、ドイツ哲学、そして経済学の誕生と、ヨーロッパ教養主義そのもの。500ページ近い大著となるのも当然だ。
興味深いのは、「経済学は、意図せず、自然発生的に、無秩序・無計画に生まれた」ということと、「経済学が一つの学問分野として独立する前は、哲学の一領域、たとえば倫理学の中にうまい具合におさまっていて、数学的・分配的な今日の経済学の概念からは遠く隔たっていた」という点。
「経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスは倫理学の大学教授で、余りに有名な「見えざる手」は著書に3回しか出てこず、そのうち1回は全く違う意味で（『天文学』）、もう一回は逆の意味で（『感情道徳論』）使われているということだ。そして、「見えざる手」が自由市場が果たす役割として登場するのは『国富論』のたった1回なのだ
・・・これには驚いた。つまり、スミス自身は、『国富論』の主題に自由市場を置いてなかったし、それが重要だとも考えていなかった。スミスがより優れた著作と思っていた『道徳感情論』では、逆に「再配分を行う政府」の役割として「見えざる手」が登場する。
では、スミスが重要だと考えていたのは何か？繰り返し出てくるのは、�（�業の効用、��業績主義、��重商主義批判である。
3:経済学は、意図せず、自然発生的に、無秩序・無計画に生まれた。そこにはタクトを振る指揮者はいなかった。経済学が一つの学問分野として独立する前は、哲学の一領域、たとえば倫理学の中にうまい具合におさまっていて、数学的・分配的な今日の経済学の概念からは遠く隔たっていた。
65:「資本主義者は信奉する宗教を問わず真のユダヤ人だ」（カール・マルクス『ユダヤ人問題によせて』）161:プラトンは社会を資質に応じて三つの階級に分けた。第一階級は理性を代表する支配者、第二は勇気を体現する軍人、第三は肉体的感覚を代表する生産者で、第三階級はプラトンの考える最下層である。支配者階級は、私有財産や自己利益を知らない。279:スミスが残したほんとうに重要な遺産は、社会を結びつけるのは共感であるという思想と、中立な観察者という概念の二つである。今日では、見えざる手によって経済社会がうまく運営されている、というようなことをスミスが言ったとされているが、実際には彼自身はこの言葉を三回しか使っていない。主著である二冊の著作で1回ずつ、そして『天文学』で一回である。
2017年07月17日
パンドラの箱が開いた！
先週から始まった、藝大所蔵コレクションを展示する「パンドラの箱が開いた！」展へ。藝大はその前身の東京美術学校から130年になるらしい。その間に蓄積した所蔵作品は膨大だ。場所を取る彫刻やインスタレーション作品も多いから、どうやって保存しているのか心配になる。
会場入って正面、まず目を引いたのが、高橋由一の『鮭』。明治初期に西洋画を学び始めた日本人の代表作として必ず教科書に載っている。
会場奥には、卒業作品の「自画像」が展示されている。著名現代作家のものが選ばれていて、村上隆や山口晃など。村上隆のは真面目に？しっかり描いている。中には、ゴムシートが丸めて提出されたものも。それで卒業できるの
危うく見逃しそうになったのは、藤田嗣治の遺品。終戦時から1949年に渡仏するまでの日記やパスポートなど。戦争中に陸軍の依頼で戦争画を描いたことで批判され、渡仏のためにいろいろと運動していたことが分かる。
2017年07月16日
リクルート企業文化を支える最も重要なモノ
組織が機能するためには、「信頼感」が大事だ。組織が自分のことを見ていてくれて、公平に評価してくれる。いざという時は組織が助けてくれるという安心感があって、人は頑張れる。この「信頼」があって、自律性の高い集団が生まれた。
企業文化の元を作ったのはやはり創業者の江副浩正さん。本当に自律性の高い組織づくりに成功したから、創業者亡き後も「自律的」に発展を続けた。その江副さんが残した「マネジャーに贈る言葉」（１~20）というのがある。長くなるので、以下に三つだけ紹介する。全部読みたい方は上のリンクからどうぞ。
�．泪優献瓮鵐箸虜庸修蓮�幸いにも音楽や絵画とは違って、生まれながらのものではない。経営の才は、後天的に習得するものでる。それも99%意欲と努力の産物である。その証拠に10代の優れた音楽家はいても、20代の優れた経営者はいない。
��マネジャーの任務は高い業績をあげることにある。そのために、メンバーを動かす権限が与えられている。しかし、仕事を離れたところでマネジャーが権限を行使することは許されない。
�蔚叛咾叛�長は不可分であって、高い業績なくしてマネジャーの成長はあり得ない。マネジャー自身の高いモチベーションが業績を生み、成長を実現するのである。
2017年07月15日
リクルートの企業文化を支えるモノ
ほとんどの会社は自律性の高い社員を求める。しかし、自律性の高い社員が本当に採用できて、社内で成長し、定着するかどうかは、企業文化を支える諸制度にある。マッキンゼー7Sいうところの「ソフトの4S」を支えるのは、「ハードの3S」なのだ。
では、リクルートではどうであったか。竹原先輩が指摘された制度は次の5つ。
�ー勸�持ち株会が筆頭株主（41%）
今では上場して比率は下がったが、未上場の間一貫して社員持ち株会が筆頭株主で、創業者の江副社長は2位であった（リクルート事件でダイエーに持ち株を一部売却するまで）。「リクルートは社員中心の会社である」ことを資本的にも実現していた。
�⇒�益分配ルールの明文化（賞与は営業利益の11%）
元は税引き後利益の4割だったが、バブル崩壊後リクルートコスモスなど経営が悪化した関連会社の借入金1兆円余りを本体で肩代わりしたため、金利負担で経常利益が急減。そのために、過去実績を基に、「営業利益の11%」としたということ。ちなみに、借金は15年間で完済。
��縦横斜めの強い人間関係（マネジャーによる社員査定会議）
リクルートでも上司部下で合う合わないはある。公正な評価を期すために、横からも斜めからも評価される。
�ぢ膣覿箸砲呂覆ぁ⊆勸�が誇れるユニークな制度（ステップ休暇、ファーム研修）
ステップ休暇は3年に一度一月間連続休暇が取れるというもの。昔は「休暇手当」に給与を余分に一月分出していたらしいが、今は一律30万円のようだ。ファーム研修はリクルートが盛岡に持っていた農場で農業体験をするというもの。
�ゼ卞睚鵝�80種類
）による、「日替わりヒーロー」グループ全体、会社、部署、部活などありとあらゆる種類の社内報が存在し、社員全員の「ちょっと良い話」が取り上げられる。他部署の動きが分かり、一体感が生まれる。
さて、明日は最終回「企業文化を支えた最も重要なモノ」とは
2017年07月14日
リクルートのDNA
昨晩の「香川県ブランチネットワーク会議」＠東京さぬき倶楽部の講師は、リクルートで総務部長や常務を歴任された竹原先輩。丸亀高校の同窓会でお話しするようになってから15年になるが、こうやって改めてリクルート在籍中のことをまとめて聞くのは初めてだった。
1976年、新卒で入った当時のリクルートは、売上高50億円、従業員200人ほどの中小企業だったという。現在の売上高は上記の通り、1.8兆円。40年で368倍になった。年平均成長率（CAGR）は16%ということになる。普通これだけの規模になれば成長率は落ちる。それが、過去5年間を取ってみても、売上高は2.4xで、CAGRは20%近い。利益率が落ちているのは気になるが、EBITDAマージンは7%を維持しているようだ。
この成長の源泉が、時代とともに新事業を創造してきた「挑戦するDNA」にあることは間違いない。日本のほとんどの企業が創業して数億円の規模になると、創業者が満足してしまい、一代限りのオーナー企業で終わってしまうのと対照的である。
そのリクルートが最も重視した企業文化は「自律性」だという。それは、採用から日常の職場、そして人事評価や表彰で一貫して強調される。採用では、それまでの人生で、「自分でどう考えて自発的に行動しているかどうか」という性格や習慣を見るそうだ。職場では上司に相談に行けば、必ず、「キミはどう思うのか？」「キミはどうしたら良いと思うのか？」が問われる。
10社会社があれば9社は「自律性を持った社員が欲しい」というだろう。その意味ではリクルートも変わらない。しかし、口先だけでなくそれがどこまで徹底されるか、会社の諸制度と一貫性があるかが違いを生み出す。
2017年07月13日
ふたり呑んべ
半村良は相当の「呑んべ」だと思われる。そうでなければ、呑んべの楽しみについてこれだけの感性で書けないだろう。
経歴を見ると、小学校の時に父を亡くし、都立両国高校（都立ではトップクラス）を卒業したものの、小説家になるまでに「連れ込み宿の番頭やキャバレーのバーテンなど30近い職業を経験した」とある（Wikipedia)。
舞台は東急世田谷線、線路端の一杯呑み屋。
「二輌連結でね。ほら、昔都電の車掌でよくいただろう。人なつっこくて親切でさ。客を笑わせるのを生甲斐にしているみたいな・・・・」
178:ガラガラッ・・・・・。静かな暗い道に、ガラス戸のしまる音が聞こえた。絵に・・・・いや、音になっていた。線路ばたの一杯呑み屋は、そういう音のする戸でなければいけないのだ。179:カウンターの中から男の手が伸びて、つきだしに割り箸が、王手飛車とりみたいな勢いできまる。197:「下町は人間がいる」「こっちにはいねえのかい」「いねえ。いねえよ」「じゃ、何がいる」「住民さ」「住民・・・・・」「区民のみなさまがいやがんのよ。安っぽいブロック塀で囲んじゃってよ、アラ・・・・・なんて言いやがんの」
2017年07月12日
酒亭抜荷丸
今度は、飲食店を題材にした話。主人公は二人いて、両方とも板前。一人は料理屋を女房と経営していたが、女房が若い客と出来て出て行ってしまう。もう一人は、日本料理店の腕利きの板前。食通ぶるエセ食通に辟易している。
二人は客に媚びるのが嫌になり、「客を足蹴にして儲ける商売」を考えてみることにする。最終的には、「海賊船」という演出を思いつき、投資してくれる飲食店オーナーを見つけて開店、成功する。
二人は客に媚びるのが嫌になり、「客を足蹴にして儲ける商売」を考えてみることにする。最終的には、「海賊船」という演出を思いつき、投資してくれる飲食店オーナーを見つけて開店、成功する。
途中で出てきたアイデアが、客が囚人という演出の「刑務所風」。「食い物がまずそう」ということでボツになるのだが、これを後に実際に出店し、流行らせた人がいる。それが、「監獄レストラン アルカトラズ」を作った元「マネーの虎」安田久。
アルカトラズのヒットに気を良くし、他のテーマ型レストランも出店。そのほとんどが当初は流行ったものの、その後伸び悩む。上手く行かない新規出店が多くなり、結果7億円の負債を抱えることに。放漫経営で経営状況の悪化に気づくのが遅れたようだ。
アルカトラズのヒットに気を良くし、他のテーマ型レストランも出店。そのほとんどが当初は流行ったものの、その後伸び悩む。上手く行かない新規出店が多くなり、結果7億円の負債を抱えることに。放漫経営で経営状況の悪化に気づくのが遅れたようだ。
114:俺は食通なんて奴らは大嫌いだ。食通ぶる奴に限って、店の者に横柄なんだから。いいか、料理なんてのは味ばかりじゃねえんだ。いつ、どういう顔で客の前へ料理を持って行くかも旨さの中へ入っている。だいいち、腹がへればなんだって旨いんだ。120:「刑務所風とか」「客が囚人かい。だめだよ。だいいち食い物がまずそうじゃないの」140:「勝ったのさ。お前さんがた、壁を抜けたんだよ。店や客を、可愛いとか有難いとか思うようになれば一人前さ。お前さんがた、商売に勝ったんだよ」
2017年07月11日
ながめせしままに
巧い。半村良と言えばSF作品が有名だが、なかなかどうして。こうした人情物も巧い。
生来の美貌で、しかも恋多き女である織江は華麗な男遍歴を重ねてきた。LGBTのBでもあるようだ。財界の有力者に囲われて何不自由ない生活をしている。子どもの時に日舞を習っていて、常に着物を粋に着こなしている。
そんな織江にせまる老醜。これを受け入れることができない織江は、愛人達に別れを告げに出かける。・・・とまで思いつめた織江は46、７。ほんの40年前、1975年の作品である。
19:「あたしもおばあちゃんになったわ。いくつだと思って・・・・・四十六、それとも七・・・・・」21:「二重露地のお庭なんて、もう作ろうと思ったって中々作れないでしょう。もし変な人の手に渡ってここのお庭がなくなったら大変だと言って、みんな心配しているんです」29:この女は、自分の若さに決別するためにこうしに来たのだ。余りにも美しく生まれたために、なし崩しに老いていくことができないのだ。看取ってやろう。好きなようにさせてやろう。もう二度と、美しい女としては自分の前に現れまい・・・・・。
2017年07月10日
swear words
先日BSで放映していた『ブライズメイズ』を録画で視聴。以前見たKristen Wiig出演の『宇宙人ポール』(両方とも2011年作品）が面白かったので。Kristen Wiigが本作品では脚本と主演を両方行っている。同年のアカデミー賞脚本賞ノミネート（受賞はせず）。
R指定ということで、言葉遣いが強烈。昔留学した時に、英語の"swear words"の豊富さに圧倒された。他人を罵倒・卑下するときに使う下品な言葉なのだが、思った以上に日常で多用される。これが理解できないと、日常会話のキモが理解できないので困った。そんな言葉は学校で習ってない
さすがに面と向かって使う場面にはあまり出くわさなかったが（そうなれば喧嘩だ）、本人がいないとき、聞こえないほどの距離でよく使われる。イギリス人というと紳士のイメージだが、一皮むけば野卑で、またそうしたタフさが尊ばれるということを徐々に理解した。一度栄華を極めた国は二度と復活しないのが普通だと思うが、80年代のサッチャー改革で蘇った。根底にはこうした文化があるからだろう。
そうしたイギリスの表面の取り繕いをさらに薄くしたのがアメリカ文化とも言えるので、アメリカはさらに強烈。どういう言い回しかは映画を見て味わってほしい。
内容的には、日本で言えば、女性誌を読んでいるような感じ。現代アメリカのアラフォー女性の本音が包み隠さず出てくる。ダイナミックではあるが、精神の安寧からは程遠いかな。
2017年07月09日
中央アジア
中央アジアはユーラシア大陸の真ん中であるがゆえに、古来から、文明の通り道であるとともに、争いの絶えない地域でもあった。
ロシア革命後成立したソ連は、中央アジアにも衛星国を広げていく。第二次大戦後の核実験、化学兵器や生物兵器の開発など危険なことの多くはそれら衛星国に設けられたソ連の施設で行われた。核実験が行われたのは現在のカザフスタンで、1949-1989年の40年間にその数は456回に及びその威力は広島型原爆の2500回分に当たる。
実験場になった四国程の大きさの地域には70万人の原住民が住んでいたが、彼らには何も知らされなかった。ソ連基地が風上になるときだけ、実験が行われたという。
こんな史上稀に見る自分勝手で、無責任な国家を礼賛した当時の日本のインテリとは一体何を見ていたのだろう
151:ミハイル・チモフェエヴィッチ・カラシニコフーー歴史上もっとも量産され、コピーされ、1億挺とも言われる数が拡散した突撃銃、AK47の設計者のことだ。そして、どの大量殺戮兵器も、これまでAKが殺してきた人数には及ばないとまで言われる。243:試験場の名はアラリスク７−−用いられたのは炭疽菌や天然痘、ペスト、マルタ熱や野兎病菌などだった。ソビエトの崩壊から、わずか数週間で村はゴーストタウンと化した。問題は、残された兵器や汚染だ。海が干上がるとともに汚染は宙を舞い、近隣国の住民までをも脅かした。363:「勇気の前には、運命さえ頭を下げる」
2017年07月08日
20世紀最悪の環境破壊
かつて世界で四番目に大きな湖だったアラル海。それが、ソ連時代に綿花畑を灌漑するために湖に注ぎ込む川から大量に取水し、ほぼ干上がってしまった。大幅に縮小した湖の塩分は上がり、生き物は住めなくなった。植物も塩害で育たなくなった。餌にになる草が生えないので、放牧も出来ない。「20世紀最悪の環境破壊」ともいわれる。
そんな誰もが見放した場所に独立国ができる。ソ連の崩壊で行き場を亡くした科学者が、塩害に強い草を開発し、空気中の湿気から水を集める装置を作った。周辺をイスラム国家に囲まれた中で、宗教分離を貫き、欧米からは「自由主義の島」と呼ばれるに至った。戦争の絶えない周辺国から難民が集まるようになる。
それが小説の中の仮想国家アラルスタンなのだが、主役はこの国の存亡の危機を救う若い女性たち。防衛相を担うのは、20歳の日本人ナツキ。同国のODAで働いていた技術者の父と母を内戦で亡くしたナツキは孤児として、大統領の後宮（ここでは女性のエリート教育機関）で育つのだ。
では、環境破壊をテーマにした小説かというと、そうでもない。作者の宮内悠介は、中東の緑化を夢見るナツキに、「沙漠がなくなったらベドウィンは困るかも」と言わせる。実際、アラル海の漁村が消滅した一方、800万ヘクタールに迫る農地ができて綿花栽培は盛んになった。その綿で、世界中の人が着る安い綿花製品ができている。
では、日本の20世紀最大の環境破壊は何だったのだろう？20世紀とすると原発事故は入らない。アラル海同様、消滅した湖と考えると、八郎潟の干拓が思い出される。琵琶湖に次ぐ日本で2番目に大きな湖220km2のうち170km2を水田にするために埋め立ててしまった。
かかった費用は852億円（当時）。戦後の食糧難の中から計画され、1957年に着工し1967年に農家の入植開始。しかし、そのわずか3年後に減反政策が開始され、公募入植を打ち切っている。工事している10年の間にコメが余ってしまったのである。それでも、一度始まったら止まらないのが公共事業の常。1977年に予定通りの干拓を終えて、工事はやっと終了する。
干拓前の八郎潟は汽水湖で魚介類や水生植物が豊富、漁業が盛んだったという。鳥類の生育場所として重要な、日本でも最大級の湿地も同時に失われた。多額の税金を投入して、大規模環境破壊をおこし、その上コメが余っているというのだから言うことはない。
22:マグリスは「最初の7人」の一人で、元は、西ドイツからソビエトへ拉致されたロケット工学者であったと噂される。死の土地であったこの場所が居住可能となったのは、彼の力によるところが大きい。27:独立をそそのかしたのは、カザフスタンやイラン、そしてロシア。発端は、領内に油田が見つかったことだ。折悪しく、ウズベキスタンはすでに欧米よりの政策を取り、旧ソビエト国家による独立国家共同体（CIS）の集団安全保障を抜けると宣言していた。38:世界第四位という広さを誇っていたアラル海が縮小をはじめたのは、1960年代のこと。原因は、スターリン時代に提唱された「自然改造計画」に基づく灌漑農業だ。ソビエトは沙漠を農地に変えるため、アラル海へ流れこむ豊かな水源を灌漑用水とし、運河を掘り、800万ヘクタールに迫る農地を作り上げた。43:アラルスタンは政治経済の双方における中央アジアの緩衝地帯となり、欧米からは「自由主義の島」と呼ばれるに至った。首都にはカジノやブティックが林立し、アラルスタンはいっときの栄華を誇った。
2017年07月07日
解体新書の挿絵画家と平賀源内
日本初の西洋医学書の翻訳『解体新書』の挿絵を描いたのは角館出身の小野田直武であったことを今回初めて知った。青柳家と石黒家両方に『解体新書』と小野田直武に関する展示があった。佐竹北家筆頭の家来であった石黒家には初版本が展示してある。
さらに興味深いのは、挿絵画家を探していた翻訳者の杉田玄白に小野田を紹介したのが高松藩の平賀源内であること。エレキテルの発明で知られる源内は、地質学や本草学にも秀でていた。1773年、秋田藩に鉱山開発のために招かれた際に、小野田と知り合った。絵の才能を見込み、西洋画法の手ほどきもしたという伝承もある。
その後、小野田は藩から江戸に出て源内から引き続き鉱山開発を学ぶように言われる。この江戸滞在中に源内から杉田玄白を紹介され、『解体新書』の挿絵を描くことになるのだ。初版の刊行は1774年8月、小野田が江戸に出てわずか8カ月後のことであった。
江戸に出てから5年後の1779年、小野田は突然謹慎を命じられ、帰郷する。翌年、失意のまま亡くなったという。1778年に平賀源内が殺人の罪で獄死しており、そのことが関係していたのかもしれない。
2017年07月06日
角館商人町
角館武家屋敷が立ち並ぶ「内町」の南側には、商人町である「外町（とまち）」が続く。間には「火除け」と呼ばれる幅21mの広場が広がる。江戸の「広小路」と同じだ。
時間が限られていたので、市指定有形文化財になっているという「安藤味噌醤油醸造元」のみ見学。安藤醸造の顔ともいえる蔵は、外町の度重なる大火に学び、明治24年（1891）にレンガ造りで建てられている。蔵座敷として東北地方現存最古だということだ。
戦前、地方の金持ちと言えば、大体が味噌醤油か酒の醸造元。ほとんどが農民だった中で、数少ない産業が醸造業であったということか。交通の発達していなかった当時、重くてかさばる樽や瓶を遠くまで運ぶことはできず、地域地域に醸造所があった。一旦出来てしまえば、差別化は難しかったと思うので、大きな町でなければ2番手が参入する余地はない。
こうして、地域独占企業として安定した利益を確保できたから、長く繁栄したと推定する。そもそも、そうした設備投資が出来たのも、地主であった可能性が高い。この分野、研究されているのだろうか？
2017年07月05日
角館武家屋敷
先週訪れた角館は、武家屋敷で有名。しかし、違和感があったことが二つ。
�‖召両貊蠅忙弔詆隹伐杏澆呂△硫嘆貮緩�石の金沢でもこれほど大きくない。どうして、東北の小藩のさらに支藩の武家屋敷がかくも立派なのか？
��武家屋敷街を貫く大通り。江戸の大名屋敷でもない限り、武家屋敷街は防衛のため、細い道にクランクを付けて敵の侵入を防ぐのが一般的。どうして、こんな大通りなのか？
��どうしてこれほど保存状態がよく残ったのか？
まず�，世�、久保田藩（秋田藩）の石高は20万石。藩主の佐竹氏は室町時代以来の常陸守護の家柄であったが、関ヶ原の戦いにおける挙動を咎められて秋田に移封される。それまでは常陸一国54万石の大大名であったから、財政は慢性的に苦しかったという。そのため、年貢の取り立ては厳しく、一揆が多発したらしい。
佐竹氏には本家以外に分家が４家あり、本家とともに久保田城下に常住した東家以外はそれぞれ大館、湯沢、角館に暮らした。角館に館を構えたのは北家である。ということは、数万石に過ぎない。
江戸時代の町割り図を見て分かった。今は大邸宅になっている青柳家も江戸時代は間口の狭い一区画を割り当てられている。今の何倍ものこじんまりした武家屋敷が立ち並び、役職に従い大小があるものの、大きさにそれほどの違いはない。
佐竹北家の財政担当の筆頭で最も位の高かった石黒家でその点を確認すると、「明治になって地主への転換に成功した家が近隣の武家屋敷を買って拡張していった結果」だという。石黒家も転換に成功した家だが、最も成功したのが青柳家で、現在の敷地面積は青柳家が圧倒している。結局、時代の流れに適応出来たところが生き残り、そうでなかったところは没落してしまったのだ。
�△亡悗靴討蓮�街並みが出来たのが、徳川幕府体制が確立してからで（佐竹氏の移封は1656年）、戦争を意識していなかったようだ。平和な時代に統治を優先してできた街並みだといえる。支藩であり、戦略上の重要性が低かったのかもしれない。
�Ｊ蠱だ鐐茲悩埜紊泙粘鰻海膨餽海掘覆箸いΔ�、恭順していたのに、薩長から許されず）徹底的に破壊された東北諸藩とちがい、久保田藩は官軍に付いた。このため、町が破壊を免れた。そして、角館はそれ以降大きな産業が生まれなかったため、街並みが残されたようだ。
2017年07月04日
電卓四兄弟
兄弟でこれだけ長きにわたり、最後まで仲違いせず、そして成功した企業経営に携わったのは珍しいのではないか。長男が戦後の混乱期に家族で食べていくために創業した「樫尾製作所」に、次々と兄弟が加わり、60年間に渡って一緒に経営していく。
企業経営での兄弟げんかは古今東西枚挙にいとまがない。有名なところでは、戦後ドイツで兄弟げんかの果てにAdidasからPUMAが生まれ、ロッテのお家騒動は日韓両国でまだ収まらず、インドでも三大財閥の一つであったリライアンスが兄弟げんかで二つに分割され、わざわざ同じ事業に進出して価格競争を繰り広げている。
では、なぜ、カシオでは兄弟仲良く経営できたのか？本書から読み取れる仮説は、
・貧乏な家に生まれて、兄弟で両親の苦労を見ながら育っている
・苦労の少ない二代目ではなく、兄弟が創業者
・性格は違うが遊びは一緒
というところか。「遊びは一緒」という点では、経営が軌道に乗ってから兄弟でゴルフに熱中。二日と空けず兄弟で平日ゴルフに行くようになる。四人兄弟だから人数もピッタリ
なのだ。そのせいで、リレー式計算機からトランジスタを使った「電卓」への技術革新を危うく見逃しそうになる。全国総販売店だった内田洋行に在庫が積み上がり、総代理店契約の解除を通告される。全ての在庫を引き取る代わり、内田洋行の持っていた全国の事務機器販売店の商圏を引き継ぐことになる。結果としては、1年掛かると言われた電卓開発を4カ月でやり遂げ、なんとか先行したシャープに追いつくことができる。
一時は何十社もあった日本の電卓メーカーは、その後の「電卓戦争」で最終的にシャープとカシオの2社しか残らなかった。カシオは内田洋行を通さずに小売店に直接販売できるようになったので、利益率まで上がったという。内田洋行はさぞ悔しがったことだろう。
カシオの研究開発の中心にいて、発明家であった次男「俊雄」の口癖が、「昨日の俺はバカだった」というのがいい。
15:樫尾家のルーツは高知県父、茂の代は高知県の貧しい農家。関東大震災のあった大正12年(1923）に上京。東京の建設会社に勤めていた母の弟から、「東京は壊滅状態だけど、これから復興のために建築が大事になる」と誘われ。18:八畳一間に八人家族両親の苦労をみていたので、「いつか親に楽をさせてやりたい」とみんなで考えていた。76:ゴルフに没頭、在庫の山われわれ四兄弟は、性格も個性も違いますが、こと遊びになると、とても似ています。同じような遊びが好きで、取り組み始めると、とにかく熱中してしまいます。最初は週に1回ほどでしたが、徐々に回数が増えていきます。週に3回、4回と、平日にも行くようになりました。(中略)そんな生活が数年、続いたでしょうか。ある日、営業担当の和雄が、販売会社である内田洋行との打ち合わせで、リレー式計算機の在庫が積み上がっていることを知らされます。これからの生産計画も、大幅に縮小してほしいと求められました。(中略）原因は、シャープが発売した電卓でした。90:経営危機から巻き返し販売を任せていた内田洋行からは、契約打ち切りの申し入れがありました。多くの在庫を抱えてさばけるあてもなく、これ以上は取引を続けられないと考えたようです。114:「答一発」新市場開拓社内から反対の声が出ました。(中略）ある幹部社員から、「八桁の計算ができるのが普通の電卓です。六桁で小数点もないのでは、おもちゃです。こんなものを出したら、カシオのイメージダウンになる。絶対にやめるべきです」137:G-SHOCK「逆上陸」「G-SHOCK」は最初、あまり売れませんでした。人気が出たのは昭和50年代末頃、日本ではなく米国でした。どれだけの衝撃にたえられるのか、その頑丈さを分かりやすく伝えようと、営業部門が知恵を絞りました。米国のアイスホッケー選手に、パックの代わりにスティックで売ってもらう実験をしました。「ちょっとやり過ぎじゃないか」と思いましたが、それを昭和59年（1984）から米国のテレビCMで流します。155:携帯、半導体・・・・・苦い経験デバイス事業と自分たちの製品を両立させることは難しい。デバイスの場合、顧客から注文が来た時に自社向けを優先したりすると、顧客の信用を失ってしまうので、自社製品のことを度外視してやらなければいけない場合もある。174:「昨日の俺はバカだった」（俊雄）小さな改善を積み重ねながら、昨日よりも少しでも進歩していくことが必要。日々の「しつこさ」や「こだわり」、何事もとことん追求する姿勢。さらに「これでいいのか」と、常に自分に問いかける姿勢が大切。
2017年07月03日
和歌山県下津町の公金横領事件
物語の主軸になっているのが、和歌山県下津町で実際にあった公金横領事件。暴力団に脅された出納室長が1982年からの2.5年で町の年間予算を上回る20数億円を横領した。執筆にあたり、筆者は当時の膨大な資料にあたったそうだ。額が多すぎてリアリティがないと、小説では逆に数千万円に「減額」されている。正に、「事実は小説よりも奇なり」
和歌山県下津町はその後どうなったか？犯罪による財政破綻では財政健全化団体にもなれないらしく、その後極端な緊縮財政と増税に。起死回生をもくろみ、埋立用土砂販売とリゾート開発の第三セクター会社を1989年（平成元年）に設立。直後にバブル経済が崩壊し、結局、平成の大合併を控えた2005年に90億円の負債を抱えて破綻している。
さて、実際の事件でも小説でも、原因は暴力団による恐喝。1980年代当時は暴力団抗争が活発で、山口組と一和会による「山一抗争」も小説に登場する。当時は香川も日本有数の暴力団活動の活発なところだったらしい。
では、現在の状況はどうか？それが下図。構成員そのものの都道府県別統計は見当たらなかったので、人口当たりの覚醒剤取締法違反件数を示した。暴力団以外にあまり覚醒剤で捕まる人もいないだろうから、近似値ということで。
これによれば、大阪と福岡の違反数が高い。ついで、関西の他県と東京都。やはり、小説に書かれた1980年代の雰囲気がまだ残っているのだろうか。
2017年07月02日
ミステリの鬼才×乱歩
歌野晶午×江戸川乱歩――貴方を「非日常の興奮」に導く、超ミステリが誕生！というKADOKAWAの宣伝文句にウソはなかった。江戸川乱歩の名作が、スマホやVRやAIを取り込んで現代に蘇る
『葉桜の季節に君を想うということ』の異才が、刺激的なサプライズと最新テクノロジーで現代に蘇らせる乱歩ミステリ集！
めちゃくちゃ怖い
「人間椅子」「押絵と旅する男」「Ｄ坂の殺人事件」「お勢登場」「赤い部屋」「陰獣」「人でなしの恋」「二銭銅貨」……サプライズ・ミステリの名手が、新たな魅力を吹き込む！
2017年07月01日
MIMOCA→MoMA
6月に連載された日経新聞の谷口吉生（建築家）「私の履歴書」で丸亀市猪熊弦一郎現代美術館（MIMOCA）とニューヨーク近代美術館（MoMA）のつながりを知った。両方とも谷口吉生の設計なのだが、MIMOCAを見ていたMoMAの学芸員がMoMAの大増改築に当たって谷口氏をコンペに招待したのだ。
話は1955年に遡る。軽井沢に「画架の森」という長屋形式の別荘ができた。これは猪熊弦一郎に絵を習った素人画家10人がへそくりを出し合って建てたもので、東工大の教授でやはり建築家であった谷口氏のお父さんが設計した。ここで谷口氏は猪熊弦一郎と出会う。後年、John Lennonとオノヨーコも遊びに来たそうだ。
その後、猪熊弦一郎は60年代70年代をNYで過ごすことになるのだが、Park Avenue近く95丁目の自宅にはサロンのように人が集まり、日本から出張してくるビジネスマンも出入りしていたという。猪熊は彼らを夫人の手料理でもてなし、自らMoMAへと案内した。
「これからのビジネスマンはお金を稼ぐだけでなく、芸術もわからないと尊敬されない」
高齢になって帰国した猪熊弦一郎から1989年、「故郷に美術館をつくるから設計してほしい」と依頼される。
駅を出てすぐ目に入る壁画がこの美術館の象徴だ。広場に面した壁に絵を描いてほしいとお願いすると数十枚のスケッチを下さった。女性のヌード、〇と✕ばかりの抽象画など。さすがに公共の美術館の正面には無理だと断念。
ある時、画用紙に絵を描きだした。ヘリコプターに馬、オモチャ。見る間に楽し気なモチーフで絵が埋まる。ところが私は「もう少し余白がある方がよいのではないですか」と、大半を白い修正液で消してしまった。即座に自分の浅はかさに気づき謝ったが、しばらくして「こっちのほうがいいね」と言われたのには驚いた。90歳近い画伯は若輩の意見に耳を傾ける柔軟な心をお持ちだった。美術館の「顔」として市民に愛される壁画はこうして生まれた。（谷口吉生「私の履歴書」�院�
