2017年06月
2017年06月30日
2017株主総会総括
昨日で先週から連日のように続いていた株主総会が終了。今年29日の集中日に総会を開く3月決算企業の割合は29%と、初めて30%を割り込み、過去最低となったそうだ。
ここ数年で総会の雰囲気も随分変わった。昔は、前列を社員株主が固めて、議長が発言するたびに、大声で「異議なし
」「議事進行
」の掛け声。質問などするなという圧力をかけていた。それが、今では、議長が、「せっかくの機会ですから何でも聞いてください」と質問を促すことも珍しくない。個人株主も勉強してくるようになった。昔は質問ではなくて自説を滔々と述べる人や、「そんなことも知らずに投資してるの
」と思うような低レベルの質問も多かったが、今ではセミプロ？と思われる個人株主が増え、思わずこちらがうなることもしばしば。今年出席した中で一番面白かった質問は、イハラサイエンスで出た。昨年初めて株主になり総会初出席という30代と思われる株主から、
「『お客様に感動を』と書いてあるが、サービス業でもない配管メーカーがどうしてそんな理念を掲げているのか」
という質問。これは面白い。同社の核心に触れる問いだからだ。私は長年保有していて、現会長や社長にも研究の一環でインタビューしたことがあるので知っているのだが、元々伊原家の同族会社だった同社はJASDAQ上場後、2代目社長の放漫経営で倒産の危機に瀕する。
それを継いだのが非同族の取締役であった中野（前）社長（現、会長）。1997年に現社名に変更して再出発した。その時に掲げたのが、「最適配管で世界のお客様に感動を」の理念。理念だけではなく、それを行動指針にまで具体化し、『イハラの栞』を全社員に配布して徹底した。戦略面では、頭打ちになっていた油圧用の継手から、半導体製造装置用の継手に進出。同分野で高いシェアを確保して会社を再生した。
そんな同社の株主総会は、昔から集中日を避け、なおかつ午後4時から。終了後は中野会長が故郷長野から取り寄せた地酒の升酒付き。いつも同じ顔触れの株主だったが、今年は先の質問をした株主も含めて、30-40代の「初めて買いました」という株主から質問が相次いだ。懇親会で、あるOB株主が、そのことを嬉しがっていた。
・・・こんなことを書いて、同社の総会に懇親会目当てで出席する人が増えると困る💦
2017年06月29日
タカタの分水嶺
製造業で戦後最大の負債額を抱えて倒産することになったタカタ。アレッ
と思ったのは、「株式の6割を握る創業家」という点。過半数以上を創業家が持っていて1部上場出来るのか？勿論、出来ていたのだから、大丈夫だったのに決まっているのだが、改めて東証一部上場基準を確認してみる。以下、「一部指定のための形式要件」の株主に関する項目。
・株主数：2200人以上
・流通株式：
a. 2万単位以上
b. 時価総額20億円以上
c. 比率35%以上
問題は(c)の流通株式比率。「上場株券等の35%以上」とある。タカタでは創業家が6割を保有していた。会社四季報では「特定株65%」（10位までの大株主と役員持ち株）となっている。つまり、東証一部上場要件ギリギリで上場していたことになる。
問題は、マザーズやJASDAQならともかく、東証最上位の市場で「創業家が過半数以上を持つ」を許していいのかどうかだ。上場企業は、資本市場から資金調達できるという特典の見返りに、オープンな経営を求められる。「創業家が過半数を持ちながらオープンな経営」というのは理論的には成り立つが、それは創業家が最善の注意を払った場合のみで、仕組みとして担保されているわけではない。何しろ、会社としての最高意思決定機関である株主総会を支配しているのは創業家なのだから、取締役であっても創業家出身以外は軽い存在とならざるを得ない。
29日付日経新聞によれば、会社は以下のような状況だったという。
・北米工場の外部監査を担当した元米運輸長官「組織文化を変える必要がある」
・安全に関する重要なデータを繰り返し偽って自動車メーカーに報告（米司法省捜査）
・「株式の約6割を握る創業家の存在が組織の風通しを悪くした」(元社員)
・「役員でも反論は許されない雰囲気」(同)
・「米国子会社がやっていることを、日本のタカタ本社はなんら関知していないという印象」（取引先）
絶対権力を持つ創業家の下で、社員の仕事ぶりが他人事になっていた様子がうかがえる。
一般的にオーナー経営者の方が経営成績はよい。しかし、ワンマン経営でなる日本電産でも特定株比率は39%。ユニクロのファーストリテイリングで36%（上位株主から推定）。ソフトバンクで47%（孫社長自身は21%）。創業者の孫が経営するトヨタ自動車に至っては、豊田章男社長の持ち株は0.1%で、豊田家全体でも1%程しかない。
それで、オーナー経営者のようにいわれるのもどうかと思うが、豊田社長は2010年に品質問題で米国議会の公聴会で矢面に立った（全くの濡れ衣だったが）。タカタの高田社長は、それよりはるかに深刻な事態であったにも関わらず、このつらい役を品質担当役員に任せた。ここが、タカタの分水嶺だったのではないか。
これを機に、東証一部指定要件に、「特定株比率過半数以下」を提案したい。
2017年06月28日
犯罪小説３部作「完結編」
辻原登の作品を読むのは初めて。昨年出版された最新作が書評で「傑作」との呼び名が高かったので秋田への旅行中に読んでみた。面白い
舞台は1980年代の和歌山。作者は同地の出身ということで、描写が細かい。リアリティを増す効果はあるのだが、やりすぎの気もする。何か所が端折った。今は和歌山在住でないのだろうが、おそらく頻繁に帰っていると思われる。
不動産屋が老人ホーム職員と組んで入所老人の持つ不動産を詐取する。ヤクザが愛人を使って美人局で公務員を恐喝する。山口組と一和会の対立による暴力団同士の抗争など、犯罪が愛欲と絡む濃い物語となっている。当時の和歌山を知る人にとっては、アルアル
ではないだろうか。東京なら千葉・埼玉、大阪なら和歌山・奈良の方が都会への憧れと、反面のギャップで社会が不安定な気がする。タイトルの「籠の鸚鵡」は、本文で何度か登場する戦中の歌謡曲「南の花嫁さん」（歌：高峰三枝子）の一節。付合っている男の影響を受けやすく、男のセリフをそのまま受け売りする主人公カヨ子を暗示する。
6:石油基地は町に多くの雇用と税収を齎した。県内外からの流入もあり、人口は以前の8500人からおよそ11千人にふくらんだ。以来、町はミカン派と石油派に二分され、利権争いも絡んで互いに反目しあうことが多く、4年に一度の町長選や町議会選挙では両派の熾烈な戦いが繰り広げられてきた。199:玉本敏雄はタイに少女漁色旅行を何度もつづけた挙句、1970年代前半、チェンマイで10代の少女11人を妻としてハーレム生活を始めた。262:温泉宿や湯治場を巡って置き引きや窃盗をくり返すコンビに目を付けられ、連携プレーに乗せられて被害に遭ったのは痛恨の極みで、峯尾は当初の予定を早めて、その翌日に宿を引き払い、田辺行のバスに乗り込むことにした。301:紙谷は岸井徹と組んで、老人ホームに入居している老人から土地を詐取して、1億円以上の金を懐にした。岸井に一千万円を渡し、差し迫った負債を整理して手許に五千万円近い金が残った。
2017年06月27日
農村ミュージカル
今回わらび劇場で上演中だったのは、「ジパング青春記」。「カンブリア宮殿」ではわらび座の公演を「和製ミュージカル」と呼んでいたが、和製ミュージカルは劇団四季もあるので、伝統芸能を取り入れている点から「農村ミュージカル」と呼びたい。勿論、農村歌舞伎とは違い、プロの舞台なので完成度は高い。
慶長遣欧使節団にモチーフを得た作品で、派遣を決めた伊達政宗、使節団の団長となった支倉常長などが登場する。物語はそうした史実に、慶長の大津波で家族を失い自暴自棄になっていた若者が、使節団に加わって欧州に渡るというフィクションが絡んで進行していく。
ここでおさらいをしておくと、慶長遣欧使節団はスペイン大使のビスカイノが三陸沿岸を測量中に船を破損して帰国できなくなったことに端を発している。その前年の1611年には慶長の大震災が起こり、ビスカイノもこれを体験している。津波高20m、仙台領内の犠牲者は1783-5000人であったという。
1613年、伊達政宗は家康の許可を得て、ビスカイノの指導のもと日本人大工の手によって日本で初めてのガレオン船を月の浦（現、石巻市）で建造している。ガレオン船の建造技術は、当時、世界最大の植民地帝国であったスペインの国家最高機密で、その機密を漏らしたものを死刑に処していたという。
政宗の使節団派遣目的は、スペインとの交易にあった。スペインは当時、メキシコの他、アジアではフィリピンを植民地としており、それらの植民地との貿易で莫大な利益を上げていた。この貿易ネットワークに入ろうとしたわけだ。また、一説には、派遣当時は大坂の陣の前で、徳川幕府の覇権は確立しておらず、政宗はスペインとの軍事同盟も考えていたという。
何れにせよ、慶長遣欧使節団は「日本人が初めて欧州に赴いて外交交渉を行った」画期的な出来事となった。また、常長らは、「初めて太平洋・大西洋の横断に成功した日本人」でもある。しかし、スペインとの交易は成功せず、そして、滞在中にマドリードで洗礼を受けてキリシタンになっていた常長は帰国後失意のうちに没している。そして、常長の息子の時代にキリスト教崇拝が露見して、支倉家は「お家断絶」となっている。（Wikipedia）
2017年06月26日
地域を活性化する異色の劇団「わらび座」
初夏の週末、秋田県仙北市へ。今回の目的地は「秋田芸術村」。運営しているのは「劇団わらび座」。昨年夏にカンブリア宮殿で見て興味を持ったのだ。その時の番組タイトルが「飲む・見る・泊まる！地域を活性化する異色の劇団」
番組中の説明では、わらび座はもともと1951年に東京で設立された劇団。2年後に、民謡など民俗芸能が根付く秋田に拠点を移す。財政難の劇団は、農家に劇団員を泊めてもらい、農作業を手伝いながら公演していたという。
1960年代まではそれで何とかなっていたが、高度成長を経て貨幣経済が浸透し、財団は破綻の危機に直面する。給与が払えないと劇団員は定着しなくなった。役者の一人であった現会長の小島克昭氏が経営に関わるようになるのが1973年。1983年には代表取締役社長に就任し経営改革に乗り出す。
一つは、民俗芸能の進化。伝統芸能を「守る」ことを使命としていた劇団員からの反発もあったが、伝統芸能だけでは客を呼べなくなっていた。試行錯誤の末、民俗芸能の要素を取り入れた「和製ミュージカル」ともいうべきスタイルを確立する。あきた芸術村にある自前の劇場で年間200公演を行うほかに、全国各地で巡業公演をおこない、年間25万人の観客を呼び込むという。この観客動員数は、「劇団四季」「宝塚」に次ぐものだという。
もう一つの小島改革が、経営の多角化。安定した現金収入を確保するため、複合エンターテインメント事業化を図る。地ビール「田沢湖ビール」製造に始まり、ホテルやレストランの運営。勿論、温泉もある。飲む・見る・泊まるで、しっかり楽しんでもらい、しっかりお金も使ってもらえる仕掛けだ。
さらには、周辺の耕作放棄地をブルーベリー農園としてよみがえらせ、ビール製造で使用する大麦の栽培も周辺農家に委託している。
こうした経営努力で、結果的に、わらび座の財産である、民族芸能の伝統が引き継がれ、貴重な伝統芸能のライブラリーも守られた。劇団のライブラリーには今では絶えてしまった民謡などもあるという。
2017年06月25日
「あなただったら何をしましたか？」
「ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』以来、ドイツ文学では最大の世界的成功を収めた作品」
（週刊誌「シュピーゲル」200年1月）
年上の女性に憧れる少年というのはいつの時代もあるんじゃないだろうか？この作品は、そこに戦争犯罪という重いテーマが重なって複雑さを増している。映画も見てみたい。
�機С垢乃な�が悪くなった15歳の少年を36歳の女性が世話してくれる。それが主人公ミヒャエルとハンナの出会い。二人は毎日のように逢瀬を重ねるが、その度に、ハンナはミヒャエルに本を朗読してくれるように頼む。半年余りたったある日、ハンナは何も言わずに突然いなくなる。
�供�大学で法律を専攻したミヒャエルは、ゼミでナチの戦争犯罪裁判を傍聴することになる。そこにハンナが被告人として座っていた。ハンナは戦争中、強制収容所の看守として、囚人が焼け死んだ事件の責任を問われていた。ハンナは自分が文盲であることを隠したこともあって、終身刑に処せられる。
�掘Д魯鵐覆�服役してから8年。その間に法学者になったミヒャエルは結婚と離婚を経験する。ミヒャエルは刑務所にいるハンナに朗読のテープを送り始める。10年経って、ハンナに恩赦が与えられ、出獄することになる。刑務所長に頼まれ、身内も友人もいないハンナのためにミヒャエルは出所後の住居や職を世話する。しかし、出所の日の朝自殺する。
53:朗読し、シャワーを浴び、愛し合い、それからまだしばらく一緒に横になる・・・・・・それが、ぼくたちの逢引きの式次第になった。59:ぼくは立ち上がって出ていった。もう二度とここには来ないだろうと思った。でも、三十分後にぼくはまたドアの前に立っていた。107:法律とは何だろう？法律書に載っていることが法なのか、それとも社会で実際に行われ、順守されていることが法なのか？それとも、本に載っていようといまいと、すべて正しいことが行われる場合に実施され遵守されていることが法なのか？120:生き延びた人々が書いた本にはすべて、この種の感覚麻痺が報告されている。感覚が麻痺することで生命の機能は縮小し、その人の態度は無関心で思いやりのないものとなり、ガス室での殺人や死体焼却も日常茶飯事となった。129:「あなただったら何をしましたか？」それはハンナの側からの真剣な問いだった。彼女はほかに何をすべきだったのか、何ができたのか、わからなかった。そして、何もかも知っているように見える裁判長に、彼だったらどうしたかと尋ねたのだった。
2017年06月24日
個を活かす「分化」の組織論
「日本人の仕事に対する熱意は世界最低水準」という衝撃的な調査がある。「日本人は勤勉でチームプレーヤー」というイメージは世界に定着しているが、各種の調査は、日本人は勤勉ではあるものの、仕事に対する熱意が低いことを示している。勤務時間だけは長いが、「ただ居るだけ」という惨憺たる状況なのだ。
確かに、私の米国での勤務経験から言っても、アメリカ人はよく働く。今週紹介したピーター・リンチのように朝6時台から働くのは珍しいことではない。日中はわき目もふらず自分のキュービクルで働き、ランチも大抵家から持ってきたサンドウィッチや果物。その代わり、集中力がそんなに続くわけがないので、10時間くらいの勤務で退社していた。ほぼ全員自動車通勤ということもあり、夜は大抵自宅で食べる。
一方、日本はというと、9時の始業ならその直前に出社して、3時間後には昼休み1時間。机が並んでいるので、私語も多い。電話が鳴れば、担当が決まってなくて、全員が反応する。その度に仕事が中断される。この環境では、クリエイティブな仕事をするのは難しい。アメリカでは昔から電話は直通だし、
代表電話は秘書が取っている。今では電話番号自体載せない会社が多い。
筆者は、ポスト工業化社会の中で取り残され、生産性の上がらない日本企業の原因を「未分化」に求める。別の言葉で言えば、個が独立してなくて、本来「目的集団」であるはずの企業にも共同体的要素を求める「疑似共同体」であるという。経済がキャッチアップモデルで、やるべき事が決まっていた工業化社会ならこれでよかったが、企業自ら道を切り拓いていかなければならない現在では、これが足かせになっている。
明治初期に福沢諭吉が唱えた、「一身独立して一国独立す」と同じだろう。
まえがき：個人が組織や集団から「分化」されていない・日本人の仕事に対する熱意は世界最低水準・日本企業で活躍の場を失った優秀な人材が、海外へ大量に流出・名だたる大企業や権威を誇る官公庁、警察などで信頼を一気に覆すような組織的不祥事が続発・これらの諸問題には、共通する「病根」・昔日の工業社会のナイーブな成功体験から脱却できてない・「つながり」「絆」「ぬくもり」といった耳に心地よい言葉が流布44:女性自身が昇進に積極的でない管理職に昇進したいか（内閣府調査2014）昇進したい女性38% したくない61%働く女性のうち管理職を目指している人7.4%（電通総研2014）女性管理職の割合11%69:ポスト工業社会・創造性、革新性、感性、ユニークな個性といった人間特有の能力や資質が重要・これらの能力や資質は、自発的で質の高いモチベーションによって発揮される71:共同体と目的集団典型的目的集団であるはずの企業が、日本では利害を超えた運命的な関係で結ばれる基礎集団としての特徴を併せもつ「疑似共同体」76:共同体の同調圧力・「勤勉だが熱意に欠ける」日本の労働者＝共同体型組織の弱点132:「分化」すればつながる・いくら組織が人を巻き込もうとしても、人間同士をくっつけようとしても、機能面ではバラバラ・無理に求心力を高めようと巻き込んだり、くっつけたりするから、逆に遠心力が働く
2017年06月23日
トラブルに直面した公益株への投資
p318に興味深い投資例が載っている。リンチが、スリーマイル島原子力発電所の後に同発電所の運営会社であるGeneral Public Utilitiesに投資し、大きな利益を上げた話だ。
「公益企業でも破産申請をしたり配当を見送ったりすることはできるが、国民が電気を必要としている限りは、その公益企業が機能し続けるようにする方法を見つけなければならない。(中略）慌てて売却した株主たちは、その後で株価が4-5倍に反発するのを見てさらに落ち込んでいる」
Natwest Investment Bankingのアナリストがまとめたリポートによれば、トラブルを抱えた公益企業は次の4段階を辿るという。
�．肇薀屮詒�生
利益が急減→株価急落（1-2年で時価総額の40-80%が失われる）
程なく、PBR0.2-0.3程度で売買されるようになる。
��危機管理
設備投資の削減や緊縮予算などによりトラブルに対処しようとする。
減配や無配。株価はまだ反応しない。
��財務の安定
経営陣が、顧客から徴収する料金で日々の業務が行えるレベルまでコスト削減に成功する。
企業の存続が疑われる状況は脱し、株価もPBR0.6-0.7相当に持ち直す。
�い箸Δ箸Σ麌�
復配できるようになり、株価は純資産並みに戻る。ここから先がどうなるかは、資本市場の受け止め方（資金調達可能か）と、規制当局からの支援の有無次第である。
当然、考えるのは、東京電力がこうなるかどうかだ。
2011年3月の福島原発事故発生で、東京電力の株式はそれまで2000円前後で売買されていたのが500円付近にまで下落した。翌年の120円が最安値。事故前の2010/3決算の一株当たり純資産は1828円。PBR1.1位で取引されていたことになる。事故後のPBRは0.3以下。
その後、事故で純資産自体が減少した。債務超過に陥ったため、2012年7月に優先株で16億株増資。＠200で3200億円。実質、国有化。
現在の株価は事故直後の500円付近まで回復していて、PBRは0.56だ。上記の「4段階」で言えば、��に入っているように見える。FCFも黒字化している。この先�い砲泙膿覆瓩弌�元のPBR1.1まで戻ることが予想される。
「トラブルに直面した公益株への投資から利益を得るには、無配になったところで買い、復配されるまで持ち続けるというシンプルなやり方がある。この戦略の成功率は非常に高い」（p326）
2017年06月22日
ピーターの法則�院屬曚�の条件がすべて同じなら、年次報告書に載っているカラー写真が一番少ない会社に投資せよ」
この本を読むと、フィデリティが伝統的なニュー・イングランドの会社で、ピーター・リンチがピューリタンの伝統を濃く受け継いだ典型的なニュー・イングランド人だということが分かる。
「6:45には私のオフィスに到着する。しかし、私は一番乗りではない。フィデリティはニュー・イングランドのまじめな会社で、週末の夜明け前にもアナリストやファンド・マネジャーが数名出勤していた。バスケットボールの試合ができるほどの人数だった。ライバル会社では、バスケットボールどころか二人でやるトランプゲームでさえ無理だっただろう」（p139）
当時世界で最も成功した投資信託のファンド・マネジャーであったリンチの年収は少なくとも数億円はあっただろう。数十億円だったかもしれない。ところが、執筆時点でリンチは「1977年式のAMCコンコルドにずっと乗っている」と告白している（写真：Christopher Ziemnowicz）。ごく普通のファミリーセダンに15年以上乗っていることになる。当時の日本で言えば、「新婚の頃買ったカローラに、15年経った今もそのまま乗ってます」といった感じ。
勤勉に働いて（本から推定される月間労働時間は300時間）、その上非常に倹約。そしてそうして蓄えた富は公益のために使うのが古典的ニュー・イングランド人。リンチが引退後、その資産を使って慈善活動に従事しているのは偶然ではない。
281:ほかの条件がすべて同じなら、年次報告書に載っているカラー写真が一番少ない会社に投資せよ（ピーターの法則�院�
コネリー氏は会社の年次報告書に写真を1枚も使わなかったが、新しい製缶技術の導入には資金を惜しまなかった。そしてその技術ゆえに、クラウン・コーク＆シールは最も低コストなメーカーの地位を維持することができた。
282:ヌーコアには先見の明を持つ異端児、F・ケネス・アイバーソン氏がいる。この人物も倹約家だ。大事な顧客と昼食を取るときは、本社の向かいにある普通のレストランを利用する。この会社には役員食堂はなく、リムジンも社用ジェット機もない。
302:銅であれアルミであれ自動車であれ、業界とそのリズムに関する実務知識を持たずに循環株に投資するのは危険である。
2017年06月21日
さえない業界で輝いている最も素晴らしい企業
ピーターの法則�阿蓮屮咼献優垢寮こΔ任蓮�競争している企業よりも、完全に独占している企業の方が常に繁栄する」というもの。さえない業界で輝いている最も素晴らしい企業の間には共通点として、以下のような特徴があるという。
・低コストオペレーション（ケチに徹する）
・チーム一丸で組織内に階層を設けない
・ニッチトップ
例として出てくるのがLCCの元祖ともいえるサウスウェスト航空と、再生タイヤのバンダグ。サウスウェスト航空は、1980年代に航空業界の自由化で競争が厳しくなりライバル企業がバタバタと倒れる中（長年、世界最大の航空会社だったパンナムもこの時倒産）、株価は10倍になったという。
それで驚いてはいけない。その後、株式分割を繰り返し、現在の株価は$60位（下図）。1990年の株価の60倍だ。勿論、その間配当も上がり続けている。良い会社は永遠に持ち続けるのが良いし、「平凡な会社の株を安く買うより、優秀な企業の株を適正価格で買う方が良い」（ウォーレン・バフェット）という典型。
バンダグは2007年にブリヂストンが$1050Mで買収した。2005年の売上高が$921Mだったというから年間売上＋α程度。ライバルのMichelinやGoodyearに遅れての参入だったが、この買収で一気に北米でのタイヤ再生シェアトップの45%になった。その前から始めていた国内での再生タイヤ事業も強化しているようだ。
・チーム一丸で組織内に階層を設けない
・ニッチトップ
例として出てくるのがLCCの元祖ともいえるサウスウェスト航空と、再生タイヤのバンダグ。サウスウェスト航空は、1980年代に航空業界の自由化で競争が厳しくなりライバル企業がバタバタと倒れる中（長年、世界最大の航空会社だったパンナムもこの時倒産）、株価は10倍になったという。
それで驚いてはいけない。その後、株式分割を繰り返し、現在の株価は$60位（下図）。1990年の株価の60倍だ。勿論、その間配当も上がり続けている。良い会社は永遠に持ち続けるのが良いし、「平凡な会社の株を安く買うより、優秀な企業の株を適正価格で買う方が良い」（ウォーレン・バフェット）という典型。
バンダグは2007年にブリヂストンが$1050Mで買収した。2005年の売上高が$921Mだったというから年間売上＋α程度。ライバルのMichelinやGoodyearに遅れての参入だったが、この買収で一気に北米でのタイヤ再生シェアトップの45%になった。その前から始めていた国内での再生タイヤ事業も強化しているようだ。
270:ビジネスの世界では、競争している企業よりも、完全に独占している企業の方が常に繁栄するさえない業界で輝いている最も素晴らしい企業の間には、共通点がいくつか見られる。低いコストで経営されていること、役員室に金をかけていないこと、借金嫌いであること、ホワイトカラーとブルーカラーの間に階級差を設けるシステムを拒否していること、従業員が十分な給与を得ており会社の将来に関心を持っていること、大企業が見逃してきたニッチ市場を見つけていること、高成長を遂げていること。273:1980年代には、航空業界ほど悲惨な業界はなかった。イースタン、パンナム、ブラニフ、コンチネンタル、ミッドウェイといった面々が軒並み破綻し、崖っぷちに立たされた企業もいくつかあった。しかしこの壊滅的な10年間に、サウスウェスト航空の株価は$2.40から$24に上昇したのだ。なぜか。その理由のほとんどは、同社が「やってこなかったこと」に求められる。276:バンダグはタイヤ再生業界のサウスウェスト航空である。気さくな経営陣、ケチに徹する姿勢、激しい競争を強いられる業界で見いだしたニッチなポジションなどが共通している。米国では毎年、トラックやバスの摩耗したタイヤが1200万本も再生タイヤと交換されているが、そのうちの約500万本がバンダグ製だ。
2017年06月20日
飲食・小売店の可能性
ピーター・リンチとウォーレン・バフェットの共通点：自分で理解できないものには投資しない
リンチはハイテクを理解できず、また、ハイテクは成長市場であるだけに競争も激しいので余り投資してなかった。リンチの好みの投資対象は、株式市場が見放したような地味な業界の中で高成長する企業だった。中でも、好みはレストラン・チェーンや小売業者だったという。
その理由は、一つのヒット業態を開発できれば、それを全米に展開できるから。その結果、年率20%の成長が10-15年続く可能性があるという。利益が年20%のペースで増えれば、3年半で2倍になるし7年で4倍になる。株価はそれ以上に上がることが多い。
ここで注意したいのは、日本企業の場合。アメリカで年率20%の成長が10-15年間続くとすれば、市場規模が1/3の日本での成長持続期間は3-5年間ということになる。実際、日本でも飲食チェーンが多数上場しているが、上場後も成長し続ける企業は稀だ。多くが、何かの業態で当てて百店舗位になって上場するものの、その後数年で成長が止まってしまう。全国展開が終わり、飽和状態になるからだ。
上場していているので市場からの成長プレッシャーもあり、新業態開発しようとするのだが、これがなかなかうまくいかない。ある業態がヒットしたのは偶然で、新業態を生み出し続ける能力がある企業は稀だ。
そこで、最近では、成長を海外に求める企業が増えてきた。しかし、国が違えば、食べ物の好みも商習慣も違う。ほとんど、新業態を生み出すのに近い努力が必要だ。
例えば、この10年間で最も成功した外食チェーンと言われる「丸亀製麺」（運営：トリドール）を見てみる。2006年に上場して11年。国内店舗数は4年前から横ばいで（スクラップ＆ビルドは継続中）、売上の伸び率も5年前に17%に落ち、翌年が10%、それ以降は一桁の伸びにとどまっている。リンチの望む「年率20%成長」を実現できたのは、上場してから6年間ということになる。
それを補っているのが海外店舗で、2011年に進出して以来、拡大を続けている。しかし、全てが順調というわけではなく、進出と撤退を繰り返しており、海外事業が黒字化したのは進出から5年目の2015年度であった。
150:レストラン・チェーンや小売業者の長期的な可能性に次第に惹かれるようになっていた。全国展開していけば、年率20%もの成長が10-15年間続く可能性もあったからだ。これはすごい数字である。もし利益が年20%のペースで増えれば、3年半で2倍になるし7年で4倍になる。233:1年間に100店以上の店を新たに出そうとすれば、問題が生じる可能性は高くなる。出店場所を間違えたり、適任でないマネジャーを雇ってしまったり、高すぎる賃料を払ったり、従業員の教育が行き届かなかったりすることがあるのだ。259:フランク・ナーサリーのような昔ながらのビジネスが設備の近代化と事業規模の拡張を同時に進めるとき、そこには利益が増える可能性が存在する。
2017年06月19日
本山寺五重塔 平成大修理「現場見学会」組立編
週末、地元三豊市にある四国霊場第70番札所「本山寺」で行われている、五重塔平成大修理「現場見学会」へ。整備委員会の委員長は地元建築家の多田善昭先生。以前紹介した通り、善通寺の旧陸軍将校の社交場「偕行社」の再生も手がけた方。
丁度1年前に、同「解体編」が行われ、これも押すな押すなの大盛況。約100年前の明治末期に完成した五重塔（八十八か所で4つしかない）を解体しているところが見られるのは今だけなのだから当然だろう。次に解体修理が行われるのは100年以上先になるはずだから文字通りこれが最後。
今回は「組立編」。1年前に解体された五重塔は、傷んでいた部材が補修され、あるいは補強され、現在組立中。1946年の南海大地震にも耐えた五重塔だが、今回、耐震補強もされた。貼りだした屋根を支えるため傷みやすい軒は鋼材で保持して、軒先の下がりを防ぐことにした。
瓦は当時一般的だった葺き土による固定だったが、吹き込んだ雨でかなり流されていて、瓦がずれたりとかなり危険な状態であったらしい。これを今回は、引っかけ桟工法に変更。爪の付いた瓦を使い、釘で固定していく。葺き土を使わないので、その分軽量化されるらしい。
今回の大修理の総工費は4億円。費用の大半は寺のこれまでの蓄財と檀家からの寄進、そして銀行借入によって賄われるという。驚いたことに、公的な支援はどこからも受けていないということ。そうとなれば支援したい。修理のための瓦を奉納した（写真）。
2017年06月18日
バブル期の日本市場
この本は、1990年にリンチがフィデリティを引退した後書かれ、1993年に出版されているので、日本のバブル経済に関する記述がいくつかある。その状況が、今から思うと、正に異常私がいくら若かったとはいえ、当時（尤も、丁度バブル期はイギリス留学中で日本にいなかったのだが）それを不思議に思わなかった不明を恥じるばかりである。
バブル期の日本の株式市場PERは50-100倍。「あまりにも常軌を逸した数字だったため、日本の高PERは分化的な特質なのだという声も一部であがり始めた」ということだ。
歴史の教訓というのは素晴らしくて、リンチは1960年代後半の米国市場を思い出す。米国の一強状態は永遠に続くように思われ、PERはやはり高かった。ダウ平均が67年の史上最高値（インフレ調整後）に再度到達するのに22年も掛かっている。
日経平均が史上最高値を付けたのが1989年の年末。現在の株価水準は当時の半分くらいで、27年も経ったのにまだ史上最高値を更新できていない。一方、当時$2500だったダウ平均は現在$21390で8倍強
になった。一般的に、日本人は日本株に多く投資していて、アメリカ人は米国株に多く投資しているから、この27年でついた貧富の差は決定的である。
米国にはリンチが指摘する通り、20年連続で利益を伸ばしているような企業が何千社もあるので、やがて企業業績が株価に追いついていった。日本ではそんな会社が限られているので未だに27年前の株価の半分の水準なのだ。
日本企業はもっともっと稼がなければ、会社の未来も日本の未来もない。
私がいくら若かったとはいえ、当時（尤も、丁度バブル期はイギリス留学中で日本にいなかったのだが）それを不思議に思わなかった不明を恥じるばかりである。バブル期の日本の株式市場PERは50-100倍。「あまりにも常軌を逸した数字だったため、日本の高PERは分化的な特質なのだという声も一部であがり始めた」ということだ。
歴史の教訓というのは素晴らしくて、リンチは1960年代後半の米国市場を思い出す。米国の一強状態は永遠に続くように思われ、PERはやはり高かった。ダウ平均が67年の史上最高値（インフレ調整後）に再度到達するのに22年も掛かっている。
日経平均が史上最高値を付けたのが1989年の年末。現在の株価水準は当時の半分くらいで、27年も経ったのにまだ史上最高値を更新できていない。一方、当時$2500だったダウ平均は現在$21390で8倍強
になった。一般的に、日本人は日本株に多く投資していて、アメリカ人は米国株に多く投資しているから、この27年でついた貧富の差は決定的である。
米国にはリンチが指摘する通り、20年連続で利益を伸ばしているような企業が何千社もあるので、やがて企業業績が株価に追いついていった。日本ではそんな会社が限られているので未だに27年前の株価の半分の水準なのだ。
日本企業はもっともっと稼がなければ、会社の未来も日本の未来もない。
102:米国には20年連続で利益を伸ばした企業が何千社もあると私は確信しているが、欧州では10社見つけるのも難しいだろう。米国では普通に見られる持続的な増益が、欧州では優良企業でさえ記録できていないのだ。105:日本の株式市場のPERは50倍とか100倍といったとてつもない水準に上昇した。あまりにも常軌を逸した数字だったため、日本の高PERは分化的な特質なのだという声も一部であがり始めた。実際、米国の投資家も1960年代後半には同じ特質を発揮していた。当時の株価は非常に過大評価されており、ダウ平均が67年の史上最高値（インフレ調整後）に再度到達するのに22年もかかったほどだった。107:この国は、ファンダメンタルズ分析を手掛けるアナリストには悪夢のようなところだった。バランスシートの内容が悪く、利益の変動も激しいのにPERだけは異常に高い銘柄がごろごろしていた。金融市場最大の株式公開を成し遂げた日本電信電話（NTT）もそのひとつだった。138:マゼランが好スタートを切ったのは、決して不思議なことではなかった。組み入れ比率の最上位10銘柄のPERは、1978年には4-6倍で79年には3-5倍だったからだ。優良企業の株が年間利益の3-6倍で買えるなら、個別株投資で損を出すことはほとんどあるまい。
2017年06月17日
マゼラン・ファンドその後
リンチ氏が1977年から90年まで13年間ファンド・マネジャーとして運用を担当し、その間年率29.2%という驚異的なリターンを上げたのがフィデリティの「マゼラン・ファンド」。その間、S&P500を下回ったのは2回だけだというからスゴイ。
そのマゼラン・ファンドは当然、大人気となり1990年にリンチ氏が46歳で引退した時は運用総額140億ドルに達していた。約1.６兆円ということになる。その後を引き継いだモリス・スミス氏の時についに1000億ドル（10兆円）を超え、余りに大きくなりすぎて、1997年以来新規の受け入れを中止していたという。
その後、解約だけを受けながら運用を継続し、約10年経って資産規模が445億円にまで減少し、2008年に新規受け入れを再開した。それで、再開してからの運用成績が下図の通り。S&P500に負けている。Morningstarのレーティングでは★★
相場急落の時に、市場平均以上に下落して、その後のリバウンドで出遅れている。かくも、アクティブファンドで勝ち続けるのは難しい。因みに、日本株の投資信託資産額上位を見てみると、TOP10は全てインデックスファンド。長期では市場平均に勝てないのだから、これは合理的だ。そして、アクティブファンドで資産額トップなのがフィデリティ日本成長株ファンドで約3500億円。大型成長株投資のマゼラン・ファンド日本株版ともいえる。
次いで、さわかみファンドの約3000億円。以前紹介した通り、この規模になってからは運用成績が落ちている。ひふみプラスは約1800億円で17位。しかし、直販している姉妹ファンドと合わせると2500億円に達しており、これからどうこれだけの規模の運用をしていくかが見もの。日本株式市場の規模から考えて、日本株で3000億円は、米国株市場での1兆円に相当する。
45:毎年1月31日に1000ドルを追加投資することにし、それを52年間ずっと続けた場合には、計52,000ドルの投資が3,554,227ドルになるという。さらに、株式市場が10%以上下落するたびに（過去52年間で31回あった）1000ドルを追加投資する勇気があった場合には、計83,000ドルの投資が6,295,000ドルになるらしい。このように定期的に投資することを習慣にし、何があってもそれを守れば、大きな利益が得られる。76:NYの債券ディーラーGabriel, Hueglin & Cashmanの研究によれば、1980年から86年にかけて債券投信のリターンは個別債権のそれを常に下回っており、最大で年当たり2%の差がついていた。また、債券投信と個別債権との利回りの差は、債券投信を長く持てば持つほど拡大したという。90:1981年から90年にかけて毎年、直近3年間の運用成績が最も良かった投信に投資していったときの運用成績は、同じ期間のS&P500のそれを2.05%下回っていたという。直近3年間の成績ではなく直近5年間や直近10年間の成績が良かった投信に投資していったときでも、S&P500の運用成績をそれぞれ0.88%、1.02%上回るにとどまったそうだ。この程度の差では、投信を売買するコストを吸収できない。92:投資家の中には、投信の資産規模を心配する人がいる。マゼランでは特にそうだ。マゼランは、資産が10億ドルを突破した1983年から「規模が大きすぎて成功しない」と言われ始めた。20億ドルのときも、40億ドルの時も、100億ドルの時もそう言われた。私が辞めるころには140億ドルになっていたが、やはり同じことを言われた。おそらく、後任のモリス・スミスの下で200億ドルに達したときも言われただろう。
2017年06月16日
ファンド・マネジャーの日常
ピーター・リンチの半生記でもあるこの本には、リンチの現役ファンド・マネジャー時代の日常が描かれている。
139:ファンド・マネジャー時代の私の一日は6:05に始まった。（中略）外はまだ暗い。私は後部座席に体を沈め、別の小さな明かりで株価チャートや年次報告書を読みふける。（中略）6:45には私のオフィスに到着する。しかし、私は一番乗りではない。フィデリティはニュー・イングランドのまじめな会社で、週末の夜明け前にもアナリストやファンド・マネジャーが数名出勤していた。そう、リンチは土曜日も毎週出勤していた。週に60-80時間働いていたというから、月平均300時間位か。欧米なので残業という概念は大学卒にはない。労働時間に関わらず、成果で評価されるだけだ。
9:ダウ工業株30種平均株価が2000ドルに届いたり私が43歳に達したりした1980年代半ばには、あれほど多くの企業の動向を追いかけていくことは、さすがに重荷になり始めていた。エクアドルの国民総生産（GNP）に匹敵する規模のポートフォリオの運用は楽しかったが、それと同じくらい家に帰って子供の成長を見たい気持ちが募っていた。子どもたちはどんどん変わっていく。週末の度に自己紹介をしてもらわないと誰が誰だかわからなくなるほどだった。12:年に一度の健康診断では、運動と呼べるものは歯磨きくらいしかやっていませんと白状した。本と呼べるものを一年半全く読んでいないことにも気づいた。オペラなら2年間で3本ー「さまよえるオランダ人」「ラ・ボエーム」「ファウスト」−見ていたが、フットボールの試合はひとつも見ていなかった。
それで、リンチは、「フットボールの試合も見られない生活は間違っている」（ピーターの法則� 砲塙佑─�引退を決意する。リンチ46歳の時で、1969年にWhartonでMBAを取得してフィデリティにアナリストとして入社してから21年経っていた。
プロとして業界トップレベルを目指すならこの位やらなければ無理だろう。どのレベルを目指して、どういう働き方をするかは本人次第だが、少なくともプロとして一人前になるまではつべこべ言わず働いた方がいい。いつまでも半人前では、本人に選択肢がなくなってしまう。そして、20代で一人前にならなければ、もう永遠にチャンスはないと思った方がいい。
2017年06月15日
BEATING THE STREET
長期で見ると、株式のリターンが金はもちろん、債券も大きく上回っていることはよく知られている（下図）。基本的には、その国を代表するような優良企業が上場するから、経済成長している時は上場企業はより成長しているし、経済が低迷している時でも、業界上位の企業は影響が少ない。企業利益が上がったからと言って、債券の金利が上がるわけではない。
1994年に出た名著『ピーター・リンチの株式投資の法則』が2年前に新訳で出た。原題は、"BEATING THE STREET"。勿論、ここでのSTREETはウォール街のことで、直訳は「(素人が）金融の専門家に勝つ」である。旧訳でも読んだのだが、今回、新訳でもう一度読んでみる。
「自分が多少知っている業界の企業の株に、少し調査をしたうえで投資をすれば、アマチュア投資家でもプロのファンド・マネジャーの95%に勝つ可能性があり、おまけに投資を楽しむこともできる」（序章）
アメリカでは「投資クラブ」が1万もあるそうだ（原著が出版された1993年時点）。全米投資家団体協会（NAIC）の調査では、1980年代にNAIC傘下の投資クラブの過半数がS&P500を上回る運用成績を上げ、一方、株式投資信託の3/4はこれを下回っている。つまり、実際に、素人が玄人を上回る成績を上げている。
リンチは、投資クラブの成功理由を次のように推察している。
・株を定期的に買っている（1987年10月のブラック・マンデーのときも投資クラブは予定通りに投資を続けた）
・各メンバーが1社か2社の調査を担当するので、大抵の人は自分の「宿題」をきちんとやる（気分で投資しない）
・分散投資している（ただし、投資する銘柄数は、自分が状況を把握できる範囲内で）
実は、今晩も、株式投資の好きな友達4人で居酒屋に集まったのだが、これが結構楽しい。今のところ情報交換だけで、売買は各自が勝手にやっているのだけど、投資クラブを作る方がより規律が維持でき、良い結果が期待できそうだ。
2017年06月14日
八十日間世界一周
昨日BSでやっていた映画「八十日間世界一周」を夜録画で見た。この長編映画（169分）を見るのは初めて。往年の名TV番組「兼高かおる世界の旅」に使われていた「Around the World」が、元々はこの映画の主題テーマ曲であったことも初めて知った。
あれ！と思うような有名人や大俳優がチョイ役で出演している。バーでピアノを弾いているのがフランク・シナトラであったり、大陸横断列車の車掌がバスター・キートンであったり。こうした「カメオ出演」はこの映画から始まったらしい。
ところで、主人公のFOGは1872年に「世界一周を80日間で出来る」という賭けに出てロンドンを出発するのだが、その時の掛け金は£20,000。FOGは言う。
"I have a deposit at Barings Bank the sum of £20,000."
その時の2万ポンドとはいくらの価値だったのか？「英国メイドとヴィクトリア朝研究」によれば、当時の1ポンドは現在の6.5-8万円に相当するということ。1ポンド7万円とすると、2万ポンドは14億円ということになる。これは確かに大金だ。FOGはこの賭け金以外に、同額を旅行費用に充てる
途中、いろいろと問題が持ち上がるが大抵はこの資金で解決する。例えば、開通していると思っていたボンベイ〜カルカッタ間の鉄道の工事が途中で止まっている。この時は、ゾウを2千ポンドで調達している。1.4億円だから破格だ。NYからイギリスに帰る客船がなくて小型蒸気船を買うのだが、この時は旅の最後で有り金を全てはたいたと思う。それまでの旅行で象以外にもあちこちで億単位の出費をしているので、10億円位払ったのかもしれない。予定通りイギリスに到着したFOGは、ボーナスとして船は船主にそのまま返してしまう。
驚くのは、その後のポンド価値の下落だ。現在の１ポンドは140円。大英帝国の最盛期であった当時から比べると、実に1/500。2度の世界大戦で勝利したものの、領土を得られたわけでなく、植民地は独立し、経済はガタガタになった。戦後、労働党政権が続いて社会主義的政策を取ったことで財政も悪化した。The Beatlesが「全部税金で持っていかれる」とTaxmanを歌ったのはこの頃だ。最大の原因は「ゆりかごから墓場まで」と謳われた福祉政策にある。それを嫌って多くの才能が大西洋を渡った。稼げる人がアメリカに行ってしまったので、税収がさらに落ち込んだ。
その間英国民は貧しくなる一方で、再び経済成長が始まるのは1990年代。サッチャー政権（1979-1990）による構造改革のおかげだった。日本も政策を誤れば国も国民もその位貧しくなる可能性があることを認識する必要がある。
2017年06月13日
ひふみ投信運用報告会
先週末、レオスキャピタルワークスの「ひふみ投信運用報告会」へ。報告会に出席するのは1.5年ぶり3回目。最初は、レオスの会議室でやっていたのに、回を追うごとに大きくなっている。今回は日本教育会館の一ツ橋ホールがいっぱいになっていてビックリ。今年の2月にTV東京「カンブリア宮殿」で藤野社長が取り上げられ、口座開設の申し込みが殺到したという。インターネットの時代でも、（コンテンツとして完成度の高い）テレビの効果は大きいと実感。
今回の藤野社長の話で面白かったのは、森金融庁長官が金融機関を「顧客不在」と公然と批判したこと。金融行政のトップが金融機関をこれほどストレートに批判するのは初めてだという。それは、「今まで監督官庁は何をしていたのだ」という藪蛇にもなりかねないからだ。
＊NISAなど長期投資に向くまともな投資信託は1%
（販売手数料が無くて、信託報酬が低く、複利効果を得るために分配しないもの）
かつて投資信託は「ゴミ箱」と言われた時代があり、証券会社が自己売買で損失が出た株を、傘下の投資信託に移し替えるようなことも行われていた。流石に今ではそんな犯罪行為はないが、現状でも日本の投資信託運用資産額の実に82%が販売会社系列の運用会社で運用されている。販売している銀行や証券会社の方が親会社なので、親会社が儲かるように、販売手数料が設定され、その時々で売りやすいテーマの投資信託が安易に設定される。そして、ほとんどの投資信託が設定された時が資産残高がピークで、後は減っていく一方。次から次へと設定される新しい投資信託を売り、また新たに販売手数料を稼ぐことが優先されるからだ。個人投資家の投資信託の平均保有年数はたったの2.3年である。
こうなると、どんなに優秀なファンドマネージャーでもよい成績を上げることは不可能だ。投資家の解約に応じるため、どんなタイミングであれ持ち株は売るしかない。資金流入がないので、良い投資機会があっても新規購入できない。
つまり、投資信託がよいパフォーマンスを出すためには、ファンドマネージャーの腕もさることながら、継続して資金が流入する販売の仕組みを作ることが必要不可欠である。理想的には、毎月一定額の積立てがあることだろう。投資家にとってはリスクの時間分散が図られるし、運用者にとっては相場が割高な時に買いを控え現金残高を増やしておいて、下落した時に買うことができる。結果として運用成績が良くなる。運用成績が良いのでさらに資金が集まるという好循環が得られる。逆に資金流出が続く投資信託は運用成績が悪くなるので、さらに解約が出るという悪循環に入る。そして、日本で売られる投資信託のほとんどがこのパターンだ。
表は、私が保有している「ひふみ」（赤線）と「SPARX新・国際優良日本株」（青線）と「さわかみ」（黄線）に比較のために入れたニッセイTOPIX（緑線）。ひふみとSPARXはこの5年間ほぼ同じ成績。
さわかみ投信は1999年に設立された日本では初めての独立系投資信託会社。当初の10年くらいは良い成績だったが、運用資産が3000億円になってから成績が落ち、結果、解約も増えて、運用が難しくなっていると思われる。カリスマであった澤上会長が高齢で運用から引退したのも痛い。それでも、代表みずからファンドの顔となり、大手金融機関の販売網に頼ることなく、直接販売で長期投資向けの日本株アクティブファンドを最初に作ったのはさわかみ投信。当初はファンド管理を引き受けてくれる信託銀行すらなく、大変苦労したと聞いている。業界変革の先陣を切ったパイオニア精神に敬意を表してまだ保有している。
2017年06月12日
縺れる記憶、混ざる時間、交錯する夢と現
2011年芥川賞受賞作。当時、著者は26歳の美人大学院生（慶應大学国文学）で、そちらのほうが話題になったかもしれない。篠山紀信の写真モデルにもなっている。
不思議な小説。どう表現していいか困ったので、結局、文庫本の裏表紙の説明に頼ることにした。それがタイトルの、「縺（もつ）れる記憶、混ざる時間、交錯する夢と現（うつつ）」。話は過去の記憶と現在、それに夢が行ったり来たり、絡み合いながら進行する。それが破綻をきたさないところはスゴイ。よく知らないが、それが授賞理由ということなのだろうか。
思い出したのは、芥川龍之介の名作『藪の中』。ご存知の通り、同じことを体験しても、人によって違う見方、体験になっていることを書いた小説である。『きことわ』でも、二人の女性が子供の頃、葉山の別荘で同じ時間を過ごした思い出を25年ぶりに振り返るのだが、その記憶は相当違う。人の記憶は元来あてにならないものだ。
相対的な「時の流れ」がそこかしこにちりばめられている。例えば、8pで地層が説明される。「千二百万年前から四百万年前」というスケールの大きさとともに、全体的にひらがなの多い文章で、ここだけが専門用語のためだろう、漢字が多くて際立った感じがする。
8:永遠子は、ほぼ水平に堆積したさまざまな年代の地層をひとつひとつ説明し、千二百万年前から四百万年前にかけて堆積した海底火山の溶岩が冷えて固まった黒かちのスコリアや、そこに挟まる火炎状にゆらいだ白いシルトの荷重痕をなで、これは水深三千メートル下で起きた運動の痕跡なのだと中学時代に教わった知識を和雄と春子に披露した。72:いったいどの季節にいるのか。ふたりとも、歩みをすすめるごとに、わからなくなってゆく。貴子は坂を下りきるころには、自分の背丈が永遠子とならぶような気をおこしていた。永遠子は袖を通していたカーディガンを脱いだ。永遠子の半袖すがたに、「ひざしがつよいよ」と貴子は視線を空にうつした。永遠子は、日光にかぶれやすいことを貴子が覚えていたことに驚いた。子どもをうんでから体質が変わったのだと言った。74:同じ場所の記憶であるというのにおぼえがまるでことなっている。記憶をおぎなおうとして、混乱を来して終わった。結局、互いの記憶の地層は雪崩をおこして年代が失われ、すっかりわからなくなっていた。
2017年06月11日
SUP体験＠つたじま
今年はいち早く海へ
地元、三豊市にある無人島「大蔦島」で開かれた瀬戸内DAYOUTの最後にかろうじて間に合った。昼までには高瀬に戻っていたのだが、朝5時起き、家を6時に出て東京からの移動だったので、うどんを食べてお昼寝。その後、ロードバイクで仁尾港へ向かう。今回試したかったのはSUP（Stand Up Paddle Surfing）。サーフィンの様なボードにパドルを持って乗り、立ったり座ったりで漕ぐ。カヌーも面白かったが、立って乗れるので視界が広がるという。
3時からの最後のSUP体験に申し込む（1500円）。「初心者は結構落ちます」と驚かされ、携帯はもちろん、メガネも預けて乗船
最初は座って、しばらくして慣れてから立ち漕ぎに挑戦。なんとか落ちずに（自転車に乗る服装のままで水着ではなかったので慎重に）30分ほど漕いで戻ってきた。これは手軽で面白そう。ボードは買えば10-20万円位らしい。
2017年06月10日
すね毛剃りました
ロードバイクに乗らない人は知らないと思うが、ロードバイク乗りはほとんどの人がすね毛を剃っている。男がすね毛を剃るなんて
・・・と今まで抵抗していたのだが、ついにやってしまった。きっかけは今春読んだこの記事。なんと、「すね毛剃りで空気抵抗が7%削減」とある。これまでも、すね毛を剃る理由の一つに挙げられていた空気抵抗の減少だが、平均時速50km/hでギリギリのところで戦っているプロならともかく、平均時速25km/hの私のようなアマチュアライダーには関係ない差だと思っていた。しかし、7%となれば話が違う。アマチュアライダーでも、ほんの1%の抵抗削減のために何万円も自転車に費やすのだ。剃るだけで7%も空気抵抗が減るなら、最もROIの高い投資となる
下記は米国自転車メーカーSPECIALIZEDが風洞実験した結果で、TT50kmつまり、50kmのタイムトライアルで削減できるタイムを表している。（値段は私が調べて追加したもの）
- S-WORKS VENGE : -120秒 （エアロバイク124万円）
- EVADE スキンスーツ： -96秒 （全身を覆うエアロスーツ 7万円？）
- すね毛処理：-79秒
- EVADE ヘルメット: -46秒 （エアロヘルメット2.5万円）
- TURBOタイヤ：-35秒 （6-12千円）
- S-works 6シューズ:-35秒 （4万円）
冷静になって考えてみると、7%タイムが縮むのではなく、7%空気抵抗が減るという話。自転車が走るには他にもタイヤの転がり抵抗や、駆動系の摩擦抵抗などがある。その結果が、50km走って（他の条件が同じで）1，2分の差。信号に一回引っかかる方が長い。
2017年06月09日
株主提案17件
今日届いた株主総会招集通知の中で、驚いたのがMUFGの株主提案。株主提案があるだけでも珍しいのに、なんと17件もある。そして、これはおそらく議案説明に書く義務はないと思うのだが、これらの議案は「株主2名からの共同のご提案によるもの」と但し書きが付いている。
株主提案は、「6か月前から継続して、総株主の議決権の100分の1以上、または300個の議決権を持つ」必要がある（会社法303条）。時価総額10兆円を上回るMUFGの株式を1/100以上（＝1000億円以上）持っているとは考えにくいので（大株主上位10位は全て機関投資家）、議決権300個の方だと思うが、それでも、300個＝3万株であり、今日の終値＠735円で22百万円となる。共同提案の場合は、持ち株を合算できるので、今回株主二人合わせてこれをクリアすればよい。
それだけの金額を投資している株主の提案内容は何かというと（1-2号議案は会社提案）、以下の通り。
�Ｌ魄�報酬の個別開示まともそうなのもあれば、個別案件で全く総会の議案として適切でないものもある。まともそうな議案も、定款に定める必要はないものが多い。昨年は株主提案2件だったので、かなりパワーアップしている。
�ぜ萃�役会議長と最高経営責任者の分離
�ソ抄醗�が国政選挙や地方議会・首長選挙等に出馬しながらも復職ができる制度の創設
��政策保有株式の議決権行使
��役員研修の方針と実績の開示
�┳�主と取締役との連絡と対応に関する規定
��株主が指名委員会に取締役候補を推薦できる仕組みと平等な取り扱いに関する規定
��100を少なくとも上限とした株主提案の招集通知等への掲載について
��監査役会における告発窓口の設置
��代表執行役を交えない社外取締役だけの経営会議開催
��出産や子育てでキャリアを中断した女性等に対する第二「新卒採用」と総合職・幹部社員等への採用枠の実施
��アクティビスト投資家に対する差別的な取り扱いの禁止
��金田勝年法務大臣の一連の行動に対する当社としての意見表明に関する特別委員会の設置
�鯵�式会社ケンコーへの融資に関する特別調査委員会の設置
�云昌獲攫萃�役解任
�仮昌獲擇鮗萃�役に選任せず、代わってLucian Bebchukを取締役に選任する
�各�本銀行にマイナス金利政策を深堀しないように要望書の提出
同じ株主かどうかは知らないがそれで、SMFGはどうかというと、こちらは株主提案ゼロ。最初からゼロだったのか、審査の上、総会に付議しないことを決めたのかは不明（株主総会決議は法令・定款で定められた事項に限られている）。
2017年06月08日
地形は古代史の真実を教えてくれる
ある種、地形ばやりだ。きっかけが2008年からNHKで始まった「ブラタモリ」にあることは間違いないだろう。「お笑いの人」と思っていたタモリが意外な博識を披露する。タモリは案内人する地質・地形の専門家の質問にほとんど即答し、タジタジとさせるのだ。
普段なんとも思っていなかった地形が急に意味を持ってくる。例えば、今は切通になって緩やかな坂を車で通ると何のことはないが、昔は急坂でこれを歩いて登れば、大変な要害であることが分かる。橋が架かってなければ、川を超えるのは大変だったろう。だから、街がこう発達したのだとか、港がここに出来たのだとか、歴史が分かってくるのだ。
本書は、「地形で古代史を読み解く」というもの。ブラタモリよりももっと大きな地理的スケール的で考えていく。
四国出身の私としては、これまで仙台や会津など点でしか知らない東北地方が縄文時代に西日本よりも大きな人口を持つ豊かな地域であったことが興味深い。今後、もっと東北を回ってみたいと思う。
14:日本に独裁者が現れなかった理由・国土のほとんどが山と谷と渓谷・平地があっても湿地帯→馬が失踪できる大平原はない、森に誘い込み隘路で撃退16:なぜ日本人は多神教なのか・自然災害が多い→唯一絶対の神が大自然を支配し改造できるという一神教的発想になじめない25:縄文時代の東日本は世界にも稀にみる豊かな地域・サケの遡上、ドングリ採取（あく抜きの技術）66:縄文時代の人口と人口密度（小山修二『縄文時代 コンピュータ考古学による復元』1984）88:少数渡来→先住の縄文人と融合→人口爆発→土地の奪い合い・農耕を始めた人たちだけが増殖117:『日本書紀』は藤原氏の正義を証明するための文章・権力を握るまでの悪事をすべて抹消（特に蘇我氏）
2017年06月07日
日本史上最大の内乱
歴史書としては異例の20万部を突破した話題の書。高校の日本史で学んだ時も分かりにくかったが、本書を読んでもやはり分かりにくい
いや、おそらく、11年にも及んだ日本史上最大の内戦（東軍16万人と西軍11万人が激突)を戦った当事者達さえ分かっていなかったのかもしれない。なにしろ、なぜ起こったのか、最終的に誰が勝ったのかもよくわからないのだ。筆者は「あとがき」でこう述べる。
284:応仁の乱は第一次世界大戦と似た構図を持つのではないか、と思い至った。第一次世界大戦は様々な要因が絡み合って生じた戦争だが、一言で述べるならば、新興の帝国であるドイツが、覇権国家イギリスを中心とする国際秩序に挑戦した戦争であろう。だがサラエボ事件を受けてオーストリア支持を打ち出し、セルビアへの開戦を促したドイツにしても、セルビアを支持するロシアやフランスとの全面戦争を最初から望んでいたわけではなく、ましてイギリスとの激突など想定していなかった。これは英仏露など他の列強にも言えることで、各国の指導者層は必ずしも好戦的ではなく、むしろ誰も意図しないまま世界大戦に突入していった。しかも全ての参加国が短期決戦を志向したにもかかわらず、戦争は長期化し総力戦の様相を呈した。結局、イギリス海軍の海上封鎖によって補給路を断たれたドイツが屈服する形で終戦となったが、勝者である英仏も甚だしく疲弊し、ヨーロッパ世界全体の没落を招いたのである。
285:応仁の乱も、新興勢力たる山名氏が覇権勢力たる細川氏を中心とした幕府秩序に挑戦した戦争という性格を持つ。だが山名宋全は最初から細川勝元との全面戦争を望んだわけではなく、畠山義就と政長との間の局地戦である御霊合戦に軍事介入し、義就を勝たせるという以上の目標を持っていなかった。勝元の反撃にしても、山名氏の打倒という積極的・攻撃的なものというより、同盟者である政長を見捨てたままでは大名としての面目を失うという危機感からやむなく報復に出た、と見るべきである。東西両軍は共に短期決戦を志向したが、戦争は長期化し足軽や郷民を動員する総力戦の様相を呈した。結局、東軍に補給路を断たれた西軍が屈服する形で終戦となったが、東軍諸将も大きく傷つき、鉄の結束を誇った細川一族でさえ以後は内紛を繰り返すようになる。参戦大名たちの没落を尻目に、いわゆる「戦国大名」が台頭してくるのである。古今東西を問わず、人類は同じような過ちを繰り返すのかもしれない。
では、この歴史的悲劇から「教訓」があるとすれば、何なのだろう？続いて筆者はこう述べる。
286:彼らはそれなりに”出口戦略”を考えており、終戦に向けて様々な努力や工夫をしている。にもかかわらず、コミュニケーション不足やタイミングのずれによって、終戦工作は失敗を重ね、戦争は無意味に続いた。”損切り”に踏み切れなかった彼らの姿勢は、現代の私たちにとっても教訓になるだろう。「見切り千両
」ということなのだが、もう一つ付け加えておきたい。それは、本来仲裁役となるべき、室町幕府八代将軍足利義政の不在だ。頭も悪くなかったようだが、政治に関する関心が乏しく、信念に欠けた。優柔不断で両軍を裁けなかった。筆者は別のインタビューで、義政を近衛文麿に例えている。応仁の乱の一番の教訓は、「優柔不断でムラ気のある人物は決してトップに据えてはいけない」ということだと思う。
2017年06月06日
伊藤忠の社外取締役は全員元官僚
この時期が1年で一番忙しい。株主総会の時期である。3月決算の会社が多いので、6月後半に集中する。その招集通知が事業報告書とともに届くのが今の時期。それを分析して総会に備える。
ここ数年で社外取締役の導入が急激に増えた。東証が「原則二人以上」としたので、どこもそれに従った。しかし、誰に社外取締役をお願いしているかはだいぶ違う。
社外取締役の報酬額も随分差がある。昨年も書いた通り、日立は外国人の大物経営者中心で、その報酬額平均は常勤の日本人取締役より多い。それで365日働いている日本人取締役がやる気をそがれないか心配になる。一方、上場していても小さな会社は年俸100万円位しか出してないところもある。
念願の総合商社収益力No.1に昨年なった伊藤忠商事の社外取締役の特徴は、全員が元官僚であること。その積極的な姿勢から、「野武士集団」ともいわれる伊藤忠なのに以外だ。以下の四人が今回の社外独立取締役候補者でカッコ内が出身官庁。望月氏が新任候補で、他の3人は再任候補。
・藤崎一郎（外務省）
・川北力（財務省）
・村木厚子（労働省）
・望月晴文（経済産業省）
社外取締役に何を求めるかと言えば、会社の本業とは離れた大所高所からの意見。その意味では、ビジネスと離れたところから大きな視点で見ることができる官僚は良いのかもしれない。人に寄りますが
2017年06月05日
野望の計画化
これまで仕事柄たくさんの経営書を読んできたが、これはトップ10に入るだろう。戦後の混乱期に弱冠20歳でスター精密を創業、小規模ながら優良企業として名高い東証1部上場企業にまで育て上げた佐藤誠一氏による40年間の経営のノウハウが凝縮されている。今日にまで続く「経営計画書」づくりの先駆けとなった本でもある。23年前の本だが、その後これを上回るものが出版されたかと言えば疑問。出版の4年後に佐藤氏は急逝された。
その経営計画書づくりの特徴は、「経営とは分配である」という考えに基づいていること。何を分配するかと言えば、それは「付加価値」。だから、社長とは、�”娉嘆礎佑鮠紊欧董△修譴鬮∪気靴�分配する人である。
なので、佐藤氏の経営計画書づくりは、「付加価値分配目標」から作り始める。そして、よく使われる「売上高XXX率」の代わりに、付加価値額を基準とした指標を用いる。例えば、売掛金残高は、月商何か月分ではなく、月付加価値額の何か月分で見る。なるほど、付加価値額を基準にすれば異業種間での比較も容易だ。
目指すのは、高付加価値化による、高い給与水準と低い労働分配率。労働生産性を上げることで、従業員へ厚く報いながら、かつ経営の安定を図る。1966年に完全無人化工場を実現したというから、スゴイ。
はじめに：野望の計画化ノウハウ経済の仕組みは生き物そのもので、常に変わっており、その変化に対応しながら、事業を続けていくことが社長の宿命。見えない未来をなんとしてでも見極めて、決断して手を打つことが社長の仕事。(中略)言い訳無用の仕事。43:社長にとって最大の役割は、会社の方向づけにある年に数度しか出社しない社長でもよい。56:長期計画は、社長という仕事を天職とするものにとって、実は、自分自身の人生設計にほかならない76:経営は分配である生み出された付加価値をどう関係者に分配するか。84:社長は「付加価値を正しく分配できる人」でなければならないこの役割を果たしたときに、はじめて社長は立派な経営者だといわれ、尊敬される。114:売り上げに対する金融費の割合ではなく、付加価値に対する金融費の割合を考えてみる243:完全無人化工場1966年金曜日の17時から月曜日の8時まで機械が無人で稼働
2017年06月04日
リストランテ高田馬場分流
最近の就職内定は早い。解禁と同時に早々と希望企業の内定を取り付けた旧知の社会科学部4年生のお祝いをしようと昨晩、高田馬場に集まったのは、還暦ながらその同級生
というS社長と、S社長が呼んだ高松出身の独立系運用会社のアナリスト。それに、早稲田つながりで私が呼んだ、商学部出身のN君と、法学部出身のK君、そして、教育学部出身のうちの長女。この店を選んだのはS社長。「分流」というから和食店かと思ったらイタリアン。久しぶりに会うN君や、3か月前にセミナーで少し話しただけのK君、初対面のTさんらの話で盛り上がり、どうしてこの店だったのかは聞きそびれた。
今朝、酔いがさめて、改めて気になり調べてみた。その結果、イタリアとの文化交流を目的としたユニークな会社であることが判明。
・1973年から高田馬場で営業しているイタリアンの老舗
・イタリアとの「文化交流」から店名を取り、「分流」
・なので、単なるリストランテでなく、イタリア料理研修旅行、講習会など開催している
・洋書部で出版事業も行っている
・イタリア語の通訳&翻訳事業部もある
創業者で会長の西村氏は、イタリア語辞書の編集委員までやっている。どうりで、店の壁が本でいっぱいになっていたはずだ。
ところで、そのイタリアで外食人気No.1は日本食
ついで、中華。イタリア料理はなんとゼロ ひょっとすると、イタリア人にとってイタリア料理は家庭食で、外食するものではないのかもしれない。ということは、イタリアのリストランテの大半は観光客向けということになる。
2017年06月03日
豊島園【庭の湯】
西武鉄道の大株主にご招待いただき、豊島園の「庭の湯」へ。お昼に待ち合わせ、2階レストランで食事後、お風呂。
土曜日とはいえ、昼間のためか、館内はほどほどの込み具合。大江戸線工事のための掘削で見つかったという天然温泉の他に、プールがある。プールは遊泳禁止
遊泳禁止のプールというのは初めてかもしれない。巨大なジャグジーみたいなもの。泉質は、「ナトリウム塩化物強塩泉」ということで、色は茶色く、しょっぱい。
最大の特徴だと思ったのは、「中学生未満の入場禁止」。小学生以下は親同伴でも入場できないので、風呂やプールでふざける小学生や幼児がいないのだ。おかげで、ゆったりと過ごせる。
プールに入った後、水着姿で日本庭園を散歩できるのもオツ。「大人の温泉」だ。
2017年06月02日
甘いもの好き
![栄養と料理 2014年 11月号 [雑誌]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51hiGL0%2BXJL._SL160_.jpg)
末っ子が高校の図書館で不要になった『栄養と料理』のバックナンバーを貰って来た。特集「甘いもの好きの血糖対策」
その中に、「糖尿病が多い！四国の甘いもの大好き県 香川＆徳島」という取材記事がある。以下、記事からの抜粋。＊糖尿病の全国統計を見ると、徳島県や香川県は、たいてい上位に鎮座
うどんやラーメンに加えて、甘いもの好き。
＜香川＞
・野菜摂取量全国ワーストレベル
・うどん好き＆早食い（平均週に3-4回、副食をつけず、一気にすする傾向）
・運動不足（どこに行くにも車）
・まんじゅう消費量が全国3位（高松市）
・酢飯が砂糖でジャリジャリしている
・雑煮も甘い白みそにあんこもち入り
・酢の物なのに酢の味がしない
思い当たる点多数。
私の場合、車に乗るより自転車に乗っている方が多いから、「運動不足」は当てはまらないにしても、甘いもの好きは当てはまる。食習慣は大人になってから最も変えにくいものの一つだろう。子どもの時に食べ慣れたものを人は一生食べるのだ。記事の中で記者が驚いていたのは、スーパーで見たちらし寿司（そもそもすし飯が甘い）に、さらに甘い金時豆が乗っていたこと。なるほど、確かに、香川以外では見たことがない気がする。この金時豆、パンにも入れられて売られている。これも、他県にはない？
金時豆の天ぷらも、うどん屋では定番の一つですが、ダメですか
2017年06月01日
モラトリアムおじさん
「今のシニアは、かつての『高齢者』とは違う」というのはよく指摘されるところ。戦後生まれの団塊世代から、高度成長を経て、ライフスタイルが大きく変わったのだ。戦時中や敗戦直後の混乱期とちがい、育ち盛りの時に栄養状態も良くなっていた彼らはおしなべて健康でもある。
それどころか、「加齢していくにつれてむしろ活動的になっていく」というデータもあるらしい。「人との付き合いは広い方だ」と答えた割合は、55-59歳が35%なのに対し、70-74歳では58%ということ。尤もこれは、活動的な人が長生きしている結果かもしれない。昨日の統計学の話にあったように、因果関係が逆の可能性がある。
もっと確かなデータもある。シニアの好きなTV番組ジャンルを1994年と2014年で比較したところ、1994年に第一位であった�‖臍衙个蓮�70→24％、第二位の�∋�代劇は60→33%に激減している。他にも、ジーンズの所有率は1995年以降、60代は一貫して上昇しており、現在では20代（85%）とほぼ同水準の72%だそうだ。
本書ではシニアを調査に基づき、6タイプに分類している。その中で消費者としてのポテンシャルが高いのは、「モラトリアムおじさん」だという。最も人数が多く、かつ、まだ消費者として顕在化していないのだ。
私はと言えば、�ァ崋匆馭疋ぅ鵐妊�ペンデント」に近づきつつあるか。もうなっている
それどころか、「加齢していくにつれてむしろ活動的になっていく」というデータもあるらしい。「人との付き合いは広い方だ」と答えた割合は、55-59歳が35%なのに対し、70-74歳では58%ということ。尤もこれは、活動的な人が長生きしている結果かもしれない。昨日の統計学の話にあったように、因果関係が逆の可能性がある。
もっと確かなデータもある。シニアの好きなTV番組ジャンルを1994年と2014年で比較したところ、1994年に第一位であった�‖臍衙个蓮�70→24％、第二位の�∋�代劇は60→33%に激減している。他にも、ジーンズの所有率は1995年以降、60代は一貫して上昇しており、現在では20代（85%）とほぼ同水準の72%だそうだ。
本書ではシニアを調査に基づき、6タイプに分類している。その中で消費者としてのポテンシャルが高いのは、「モラトリアムおじさん」だという。最も人数が多く、かつ、まだ消費者として顕在化していないのだ。
私はと言えば、�ァ崋匆馭疋ぅ鵐妊�ペンデント」に近づきつつあるか。もうなっている
＊新たなシニア像と、有効なアプローチ今のシニアは、かつての「高齢者」とは大きく異なる！・現代シニア（55-74歳）を価値観により6グループに分類＜従来型シニア＞�｜検好灰鵐汽弌Ц従�維持の生活を望む、従来の高齢者層�▲▲�ティブトラッド：悠悠自適に暮らす富裕層。伝統があり昔からなじみの深いブランドものを好んで選ぶ。��身の丈リアリスト：積極的ではないが、理由があれば消費する。「快適」「お得」といったフレーズを好む。＜新型シニア＞�ぅ薀屐Ε泪ぅ薀ぅ奸�流行に敏感で、消費意欲が旺盛�ゼ匆馭疋ぅ鵐妊�ペンデント：消費選好性は低いが、自らの見識を高めることにはお金を使う。社会貢献意識が強い。�Ε札�ンドライフモラトリアム：消費する余裕はあるが、積極性を欠く。男性は、仕事に代わるものを模索している。＊市場として最も有望なのは�Α屮皀薀肇螢▲爐�じさん」・今まで仕事中心の生活でできなかったことを、もう一度できる機会と情報を提示する。・行動を促す理由付けを行う。他人のため、社会のため、といった大義名分があると、彼らは行動しやすくなる。・彼らは、よくわからないものには価値を感じない。よって、皆が知っている、持っている、お墨付きのあるものを提供する。・「3か月後の目標はこうだ」「最終的なゴールは○○だ」といった具体的な達成目標のあるものを提供する。
