2016年08月
2016年08月31日
小豆島のこまいぬたち
小豆島の肥土山といえば、農村歌舞伎で有名。毎年5月に開催される。「約300年前、お伊勢参りの帰りに、大阪で上方歌舞伎を観た島の人々が、歌舞伎の名場面を描いた絵馬や衣装を持ち帰り、神社に奉納したのが起源」（小豆島観光協会）ということ。一時は、島の中に歌舞伎舞台が30か所以上もあったが、現在は肥土山と中山の2か所のみ。
その肥土山の離宮八幡神社にはもう一つスゴイものがある。それが、小豆島一と言われる狛犬。
昭和11年 石工 前田両助
とある。前田両助は淵崎村北山の石工で明治12年生まれ。両助は讃岐でいちばん石材加工の盛んな町「庵治」（現在：高松市の一部）で修業した。狛犬製作の依頼を受け、今回案内してくれた小豆島狛犬探求会の山西輝美さんによれば、小豆島の石工で経歴が分かっている人は少ないという。
こうしたスッとした顔立ちが「出雲型」で、まん丸なのが「難波型」なのだそうだ。
2016年08月30日
小豆島町の挑戦
小豆島町は丁度10年前の2006年に、内海町と池田町との合併によってできた人口1.5万人の小さな町。ちなみに、この時、もう一つの町である土庄町（人口1.5万人）とは一緒にならなかったので、小豆島には2つの町がある。
その小豆島町の町長に2010年に就任したのが塩田幸雄氏。元は厚生官僚で、大学進学で島を出て以来40年ぶりに島に戻ってきた。
私は住民でないので日頃のことは分からないのだが、塩田町長就任以降、明らかに変わってきたのが、役場職員の動き方。私も毎年参加している「石の文化」シリーズのシンポジウムも就任以降5年続いている。それに加えて、今回の世界考古学会議京都大会プレシンポジウムのような国際会議も。
そして、それらのイベント一切を町役場ですべて行っている。たまにしかやらない自治体ではイベント会社に丸投げしているところが多い。当然、費用は何倍もかかる。小豆島町では大規模イベントをしょっちゅうやっているのでノウハウが蓄積され、最初はぎこちなかった役場職員も今では慣れて素晴らしい動きを見せている。
こっそり職員に聞くと、やはり、最初はそのための残業や休日出勤で、「なんで？」という声もあったそうだ。しかし、こうしたシンポジウムで県外や海外からこれまで小豆島を訪れたことのなかった人が大勢来てくれて、異口同音に「素晴らしい場所と、素晴らしい人たちだ
」と褒めてくれる。町民も国内外の訪問者が増えたことで、意識も変わってきたという。訪問者が皆、「スゴイ、スバラシイ」と褒めるので、「そうか、すごいんだ」と地元に自信を持つのだ。そんな故郷を見てUターンも増えているようで、ディナーで隣に座った通訳の人は、結婚を機に神戸出身のダンナを連れて地元に戻ったそうだ。
今年秋の石の文化シンポジウムも楽しみだ。
2016年08月29日
アボリジニが感じた小豆島のスピリチュアルパワー
土曜日のまちづくり推進隊高瀬「三豊つながる会議~高瀬のミライ」終了後、そそくさと小豆島へ向かう。向かった先は、世界考古学会議京都大会の小豆島プレシンポジウム。今週京都で開催される世界考古学会議のプレイベントとして行われた小豆島プレシンポジウムには70人の考古学者が参加した。
私も学生時代は考古学を勉強して・・・
というのはウソだが、小豆島町が５年前から開催している「石の文化シンポジウム」に、「讃岐ジオパーク構想」推進の立場から毎年参加していることから呼んでいただいた。基調講演がUCLのDr. Tim Williams先生であったこともある。カレッジは違うが、同じロンドン大学だ。
フリーディスカッションで最も印象的だったのは、オーストラリアから参加したアボリジニだという男性。小豆島に降りたとたん、「気」の違いを感じたという。それは、皇子神社の訪問で最高潮に達し、その場のスピリチュアルパワーに圧倒されたという。そして、目に涙を浮かべて、「この特別な島を開発の手から守ってほしい」と訴えたのだ。
興味を持ったので、ディナーの時、隣に座って話してみた。アボリジニの人と話すのは初めてだ。彼は、白豪主義と呼ばれたオーストラリアで「盗まれた世代」（stolen generation）と呼ばれるアボリジニだった。
・両親ともアボリジニ
・当時のオーストラリアのアボリジニ隔離政策で幼いころ両親から引き離され孤児院で育てられた
・両親に再会できたのは大人になってから
・なので、アボリジニの言葉はしゃべれないが、土地の「気」には敏感
神社では「気」を感じるが、キリスト教教会に行っても何も感じないという。神道では場所を選んで神社を設置していると考えられるので、やはり神社はパワースポット？
2016年08月28日
三豊つながる会議~高瀬のミライ
昨日、まちづくり推進隊高瀬で第三回まちづくり若者＆地域交流研修「三豊つながる会議~高瀬のミライ」を、香川大学三豊地域活性化プロジェクト（責任者：経済学部 古川尚幸先生）と実施した。幸い、今回も四国新聞に「高瀬ブランド創出探る」として載せていただいた。
前回に、古川先生が長年取り組んでいる「瀬戸内活性化プロジェクト」を実際に参加している大学生から推進隊高瀬会員に紹介してもらったのがきっかけ。同じく参加した地元高校生にも、「大学生になったらこんなすごいことができるんだ」と大いに刺激になった。
このシリーズ、3年目を迎えるまちづくり推進隊高瀬の会員層が広がらないことに危機感を持ったことがきっかけ。「まちづくり」であるなら、理想的には地域の住民各層から幅広く参加して、それぞれが思うまちづくりを仲間と実現してほしい。
ところが、現実は、参加できるのは高齢者層が多く、「高齢者の、高齢者による、高齢者のためのまちづくり」になってしまっている。現役世代が仕事と子育てで忙しく、「たまの休みは遊びたい」となるので、参加者が少ない。
それなら、地元の高校生に参加してもらおう、と思ったのがきっかけ。幸い、高瀬には公立と私立二つの高校がある。そちらに呼び掛けて、まずは話し合ったのが1年前。これが、「孫の世代と話せて面白かった」と好評で、前回は香川大学の学生の活動を知ってもらおうと発表してもらい、さらに今回は中学生にも参加してもらった。
地元高校生の半分は、進学や就職で卒業後県外に出る。そのうちさらに半分は永遠に地元に戻らず、多くが都会で暮らす。つまり、毎年、同学年の約1/4を失っていくことになる。合計特殊出生率は1.51で丁度全国平均並みなのだが、社会減の影響で、実質は1.13なのだ。従って、中高生のうちから地域活動に興味を持ってもらって、将来のUターンを増やそうという狙いもある。
記事にもある通り、でたアイデアをさらに練って、中高大学生にも入ってもらってプロジェクト化したいと思っている。
2016年08月27日
「立つなら座れ、座るなら横になれ、階段は病原菌だと思え」
先日はロシアのシンクロナイズドスイミングで、選手が「水生哺乳類」のように体が進化しているという話だったが、今日は自転車選手。毎日100-200kmをフルスピードで走る自転車選手は最も健康かと思ったら、そうではないらしい。
ツール・ド・フランスに出場できるようなトップクラスの選手になると、自転車に最適化した身体になり、歩くことさえままならないのだという。著者のハミルトン選手も、ツールでトップ争いができるようになるころには、身体が老人のようになり、奥さんとの散歩についていくことさえできなかったそうだ。
クルマとおなじで、選手の自転車での運動能力を表す重要指標は「脚力（ワット数）/体重（kg）」。つまり、パワーウェイトレシオが、7以上でないとツール・ド・フランスでの優勝は不可能なのだそうだ。普通の人のワット数は100W。熟達したサイクリストで200W。ツールの選手は400Wを一日中出せるという。1時間以内なら500Wというからスゴイ。
人間として出せる脚力には限界がある。いきおい、減量を徹底することになる。体脂肪率は2-3%となり、臀部には脂肪が全くなくなって、痛くて椅子に座ることもできなくなる。しまいには、皮膚が薄くなって、内蔵が透けて見えたというからすさまじい。
198:「立つなら座れ、座るなら横になれ、階段は病原菌だと思え」競技を続けていると、選手の身体は自転車に乗るのに適した身体に変わっていく。だから歩くのが苦手になる。言ってみれば、自転車ロードレースは、鍛えれば鍛えるほど、身体が弱々しい老人のようになる世界で唯一のスポーツだ。334:僕のワット数は上がり続け、体重は減り続けた。6月中旬、たしかな兆候が現れはじめた。まず、腕が細くなり、ジャージが微風でもはためくようになった。上腕三頭筋にジャージの振動を感じた。木製のダイニングテーブルの椅子に座ったとき、尻が痛みはじめた。臀部には脂肪がまったくなかった。（中略）しまいには、皮膚が薄くなり、身体のなかが透けて見えるようになった。
2016年08月26日
不祥事
昨晩は、地元商工会で研修講師。与えられたテーマが「危機管理」で、前回好評だったケーススタディでやろうと適当なケースがないか調べてみたが、見つからない。仕方がないので、地元の上場企業で起こった「JIS認証取消事件」を題材に、自分でケースを作ってみた。
事件の概要はこう。大倉工業は東証一部に上場する香川県では数少ない上場企業である。連結売上高は860億円（2016/3）。経常利益23億円。社員数1930名。売上の59%が合成樹脂、29%が新規材料、9%が建材。
「JIS承認取消事件」は建材部門で起こった。パーティクルボードを生産する詫間工場における2012年2月のJQA臨時検査で「出荷後の製品で事後検査している」ことが発覚。同29日にはJIS認証を取り消される事態となった。一部顧客から使用拒否となり、返品と在庫処分で2012年度決算は建材部門売り上げが前期の約100億円から40億円減った。JIS取消の発表で、株価は250円から200円に下落し、時価総額で約30億円縮小した。
さらに、大倉工業が独自調査したところ、「一部の検査表で曲げ強度の値を書き換えていた」ことが判明した。これをうけて、3-4月には全取締役が報酬の一部を返上し、さらに5月には追加の役員報酬カットが発表されるとともに、詫間工場長が役職を離れ、降格された。
こんな事件概要を説明の上、
・なぜ事件は起こったか
・再発防止策
をグループに分けて議論＆発表してもらった。
いつも思うのだが、中小企業の二代目（一部三代目）とはいえ、経営者は流石なのである。ビジネススクールで教えていた大企業派遣の社員より、ケーススタディをやってもらうとはるかに優秀。日頃から、規模は小さくても会社全体の経営を考えているからだろう。ほとんどの人が事件の背景も含めて的確にとらえていた。
直接原因は、もちろん、現場の慢心だろうが（もともとJIS基準より厳しい社内基準にしていた）、背景には会社の創業事業でありながら、現在では売上が9%を占めるに過ぎない弱小事業部になっていたことがあるだろう。さらに、2008年には年間売上に匹敵する80億円の設備投資を行ったばかり。品質向上と増産を狙ったにも関わらず、景気の低迷もあって売上は増えてなかった。減価償却費が年間10億円も増えたことで、事業部門の赤字は拡大していた。当然、焦りがあっただろう。
創業事業であることのプライドと相反する業績。縮小均衡ではなく、積極策で起死回生を狙った大規模設備投資は不発に終わる。経営陣の関心は、それよりも事業規模がはるかに大きく、好調時には利益額も大きい光学フィルムなどの新規材料部門と、安定した収益力の合成樹脂部門に割かれていたと思われる。現社長も、前社長も新規材料部門の出身だ。
私が直接経験した不祥事も、会社のマイナーな部門で起こった。花形部門が会社全体の注目と経営陣の関心を集める中、役員会でも最後に少しだけ話が出るその部門でひっそりと犯罪は起こっていたのだ。
人間、居場所と出番がないと、腐ってしまう。「愛の反対は憎しみではなく無関心」と言われるが（ところで、これはマザー・テレサの言葉ではないらしい）、経営者は会社のあらゆる部門に関心を持ってないと思わぬところで足をすくわれる。関心を持ちきれないなら、その部門は売却するなり、他社との合併など考えた方がいいと思う。
2016年08月25日
道路に落ちているもの
ウォーキングもサイクリングも好きなのだけど、そうすると道路で目に付くのはゴミ。歩いている限りは危険なことはまずないが、自転車だと数十キロのスピードが出ているので危険なこともある。危険まで行かなくても、タイヤがパンクすれば、積んでいる替えチューブに交換するとしても15分は掛かる。
今週月曜日がその日であった。高松まで36kmのちょうど中間地点、勇心酒造の前でパンク（ちなみに、勇心は元々酒造メーカーだが今では化粧品部門が大きく、自社ブランド「ライスフォース」以外に、美白エキスを大手化粧品メーカーに供給）。タイヤを外して歩道でパンク修理をすることになった。既に気温は30度を超え、チャリで走ってないと風がないので汗が滴る。多少余裕をもって出たものの、会議に遅れないように必死。
刺さっていたのは、ホッチキスの針。家庭用のものより一回り大きなヤツ。これには因縁があって、2年前にCENTURIONで初めてパンクした時もホッチキスの針（写真）。全く同じ。
自転車で走るときは前方を見ると同時に、道路状態も確認している。自転車にとって危険な落し物で多いのがボルト。大小さまざま落ちている。これにうっかり乗り上げるとハンドルを取られて転倒する危険があるし、パンクの可能性も大。下手をすれば、タイヤを切って、パンク修理が不可能になる。ロードバイクではタイヤが細く、高気圧で入れているので、センシティブなのだ。
その他、落とし物として意外に多いのが、手袋。軽トラなどが落としていくのか、都会と違って、ほとんどが作業用。そして、どうしてだか分からないのが靴。大抵、片方だけ。
勿論、道路わきの植え込みや盛り土の土手に多いのは一般ゴミ。相変わらずの空き缶にタバコ、コンビニ袋に入った弁当と飲み物も多数。一度、対向車線から、大型トラックが中央分離帯の植え込みにゴミ袋を捨てているのを見たが、コンビニで買ったものを次のコンビニで捨てるまで待てないのだろうか？
こうしたことはクルマで移動しているとほとんど気が付かない。田舎は車社会なので、実は、都会以上にポイ捨てゴミが多い。先日、自転車で通った、高速道路わきの土手などゴミだらけだった。
2016年08月24日
メダル競争
Rio Olympic終了。The Economist誌に面白い記事があったので、紹介したい。ひょっとすると日経新聞にも近日中に翻訳記事が出るかもしれない。
タイトルは"Medalling Prosperity" サブタイトルには「もしオリンピックが繁栄について何か教えてくれるとすれば、それは、近道はない、ということだろう」とある。
面白いのは上記の図で、横軸が購買力平価（PPP）換算の一人当たりGDP。これは、所得水準と考えてもよく、ほぼ経済的豊かさの順にメダル獲得数が多いことが分かる。同じ国の推移でみても、中国が経済発展に従ってメダル数を増やしていることが分かる。中国の一人当たりGDPが$4000であった2000年シドニー・オリンピックでは58のメダルを獲得したが、2012年のロンドン・オリンピックまでに一人当たりGDPは4倍に増え、メダル数は88個であった。今回のリオは70個であったが、これは経済の停滞を表しているのかもしれない。
これまで所得水準以上にメダル獲得数が継続的に多かったのはロシア。ソ連時代から国家の威信をかけた養成プログラムがあり、またドーピングに国家ぐるみで手を染めていたことが内部告発で今回明らかになった。
注目はイギリス。エコノミスト誌の地元であるから、詳細な分析がされている。元々、所得水準に応じたレベルのメダル数だったが、この三大会で急増。ロシアが締め出された今大会では米国、中国に次ぐ世界第三位の67個となった。金メダル数では27個で、中国の26個を上回って世界第二位
米国の人口が3億人、中国の人口が14億人に対して、6500万人であることを考えると驚異的だ。イギリスは何を変えたのか？一言でいうと、「お金と戦略」。それまでオリンピックに中立的立場を取っていたイギリスがロンドン開催を狙ったと同時に積極策に変わった。1996年のアトランタで金メダルが1個という屈辱を味わったことで世論が変わったことも大きかった。National Lottery（宝くじ）を原資に予算が付き、その金額は2000年の£50Mから、2012年の£250Mまで5倍に増えた。£250Mということは、現在の為替レートで330億円。今年の日本のスポーツ関連予算が324億円だったというから、ほぼ同じだ。
もう一つは、戦略。伝統的に強くて、他国があまり力を入れてないもの。かつ種目数が多くて、メダル獲得可能性が多い競技に予算を集中した。その効果が如実に表れたのが自転車競技で、67個の獲得メダルのうち12個が自転車競技。なんと自転車競技18種目のうち、6個が金。そのイギリスもBrexitで今後しばらく景気が悪くなりそうだから、東京オリンピックでは期待できないかもしれない。
さて、日本はGDP規模で世界第三位であるが、一人当たりGDP（PPP）で見るとシンガポール、香港、台湾のはるか下（下図）。しかし、奇しくも、物価の高いイギリスとは同水準。既に予算規模がイギリスと同水準だから、あとはメダル獲得可能性で重点競技を絞り込めば、今回のイギリス並みは行けるのかもしれない。日本オリンピック委員会でも、4年後の東京オリンピックでの目標を「金メダルで世界第三位」の20-30個としており、ちょうど、今大会のイギリスの水準だ（金27個）。
最大の問題は、悪平等の日本で、予算の「選択と集中」が許されるかどうかだろう。
2016年08月23日
「人魚」になっていたロシアシンクロナイズドスイマー
リオ五輪で5連覇を果たしたロシア・シンクロナイズドスイミング。先月見逃していたNHKスペシャル「ミラクルボディー 世界最強の人魚たち」をロシアの優勝が決まってから見る。
ぶったまげた
小さなころから厳しい練習に明け暮れ、1年間に2000時間という猛練習を繰り返すロシアチームは世界のどのチームよりも水中の中で激しい動きを続けられる。しかし、ロシア選手の肺活量がそれほど大きいわけではない。肺から来てないとすれば、必要な酸素は一体どこから供給されているのか？MRIで内蔵の変化を検査したところ、ロシアチームの脾臓が息を止めると大きく縮小していることが分かった。世界第二位のスペインチームの脾臓の収縮率は一般人と同じ10%程、ロシアチームのそれは23-59%も縮んでいた
脾臓は大けがなどで大量出血したときに、貯めておいた血液を心臓に供給する「補助タンク」。緊急時にしか使われない臓器なので、切除しても日常生活に影響はないという。ところが、この脾臓、アザラシなどの水中哺乳類では、潜水時に肺に次ぐ血液（=酸素）の供給源として重要な役割を果たしているらしい。
つまり、ロシアチームは演技の題目同様、身体まで「人魚」に変化しているわけだ。人類の環境適応力の凄さを思い知らされる。いつか、講演の時、故堀場雅男さんが言っていた。
「人間の環境対応力はゴキブリ以上！人間は暑いところから寒いところまで世界中どこにでも住んでいる。環境に対応してこれだけ繁殖した」
しかし、だ。番組最後に紹介されたロシア人選手イシェンコの背骨は大きく曲がっていた。長年の猛練習で同じ方向に水中で回転していたためだそうだ。このため、痛みと共に、背骨があと何年持つかもわからないという。
ドーピング問題と同じで、身体を壊すほどやる意味があるのか。大半の人がシンクロナイズドスイミング競技を見るのは4年に一度のオリンピックだけ。それでも、多くの国が国家の威信をかけてオリンピックに臨むので、トップアスリートであればそれだけで食べていける。それが選手をここまで追い込む。
今年度の国のスポーツ関連予算は324億円。これには、オリンピック大会期間中に選手サポートのために現地で作られたHPSCの8億円も含む。仮に、同規模の予算が4年間続くとすれば約1300億円。今回のメダル数41を基準に考えると、一個当たり3億円以上。納税者は知らない間に声援だけでなく、これだけの支援をしていた。
2016年08月22日
日本企業が世界企業に飛躍する教科書
JTは日本企業としては本当に珍しく、海外M&Aのほとんどを成功させている。巨額買収は投資回収できるまで通常10年以上かかるので、最終判断はまだだが、少なくとも、「買ったとたんに失敗」というケースはない。他社では投資銀行におだてられ高値で買収した挙句、数年後には減損させられるケースが後を絶たない。
日本電産もM&A上手で有名で、永守社長が「私、失敗しないので」というくらい国内外で50社近く買収して1社も失敗していないが、こちらは永守社長が創業者のオーナー企業である。1985年まで「専売公社」であった官僚組織がここまで変わるとは誰も思っていなかったのではないか？
それらのM&AをCFOとして一貫して取り仕切ってきた新貝副社長による本。同社のM&Aにおける考え方、準備、実行、統合実務が詳しく書かれている。
これはJTの企業改革の歴史であると同時に、新貝副社長のビジネスマンとしての成長物語でもあるところが面白い。京大の電子工学を出て専売公社に技術者として入った新貝氏は、20代をたばこ工場で働く。この時に、「いかなる成果も人を通してしか出すことはできない」ということを知り、ソフトスキルのベースとなったという。
次いで、30代をJT America社長として過ごし、その間にバイオベンチャー投資を手掛ける。$30M投資した資金が後に$200Mのキャピタルゲインを生んだという。この時、英語はもちろん、交渉実務、契約、財務、税務などのハードスキルを身につける。こうして、後にCFOとなる土台ができている。
はじめに：海外たばこ事業で行ってきた過去10回の買収→2006Gallaher・統合の負荷に耐えながら、買収プレミアムを超えるシナジーを生み出せるか？・体力が弱り、事業実績が落ちている企業が逆転満塁ホームランを狙って買収の挙に出るのは無謀買収を成功させるために：�’禺�側に十分な自律成長の勢いがあるか�▲丱螢紂璽船А璽鵑琉譴聴譴弔竜’修忙�業成長を支える能力が備わっているか��自らのBMが被買収企業の業績を向上させることができるか46:一定役職以上のボーナスは会社評価で決定@JTIｘ個人評価は一切入れない・昇給昇格は個人評価2007/1 Gallaher統合における10の基本原則1. One company - one management2. Fair and equal treatment of all employees, irrespective of company of origin3. Speed in decision making is critical - 80/20 rule4. Keep it simple5. Plan delivery is our #1 priority6. Strictly minimize disruptions to existing business7. Capture synergies in a disciplined and systematic manner8. Separate organization for integration management but all excom members accountable to delivery results9. In-house management10. Integration plans will be finalized in the first 100 days after closing295: CFOはチェンジリーダー�〃弍勅圓箸靴討�CFOは、変化を機会として捉え、戦略的にリスクを取り、リターンを追求する��CEOのブレーンであるCFOは、CEOが描いた戦略のデッサンを構造計算し、CEOとの対話を通じて、より良い戦略を構築する��資本市場への大使としてのCFOは、対話を通じて財務計算と戦略をストーリーとして、分かりやすく外部ステークホルダーへ説明する�ず睫概’修離蝓璽澄爾箸靴討�CFOは、人をモチベートし、組織を通じて成果を上げるおわりに：グローバル経営をリベラルアーツ・高品質のコミュニケーション→多様な人材の知恵を結集し、成果につなげる「海面下の氷山を感じる」・関心なくして敬意なし、敬意なくして信頼なし、信頼なくして協働なし
2016年08月21日
ラルプ・デュエズ峠
「ラルプ・デュエズ峠」とはツール・ド・フランスの最大のハイライトとなっている激坂。標高1850m、標高差1130m、平均斜度7.9%、最大斜度11.5%、距離13.8km。21のヘアピンカーブが連なる様子は日光いろは坂のよう。ここのヒルクライムを誰が制するかが、ツール・ド・フランスの見どころの一つ。
昨日のデータはツール・ド・フランスの平均速度だったが、毎年コースが変更されているので、正確な比較が難しい。そこで、1952年にコースに取り入れられて以来変更されていないこの峠のタイムを比べてみる。
498:ドーピング全盛の時代に比べると、選手のスピードも遅くなっている。2011年のツール、ラルプ・デュエズ峠を最短で登った選手のタイムは41分21秒。2001年のツールなら、40位相当のタイムだ。そして「生体パスポート」と呼ばれるプログラムで、選手の血液値が細かく監視されるようになったことなどがその理由だ。ただし、BBの検査は依然として存在していない。そして噂を信じるなら、ドーピングに手を出している選手は、効果を抑えた、少量のBBを使用しているらしい。（『シークレットレース』）
調べてみると、ワシントン大学の先生が書いた論文が見つかった。題して、"Armstrong in Context"。これを見ると、ドーピング技術が進歩した1985-1995年にかけて急速にタイムが伸びている。そして、ドーピングが蔓延した1995-2005年は停滞し、ドーピング検査が厳しくなったそれ以降はタイムが明らかに落ちている。
2016年08月20日
ツール・ド・フランスの平均速度
『シークレットレース』を読んでいて、
「1980年から1990年にかけて、ツール・ド・フランスの平均速度は時速37.5キロだった。1995年から2005年の平均速度は、時速41.6キロ。空気抵抗を考慮すれば、これはパワーが全体的に22%増加したことを意味する」
という注釈があったので、調べてみた。それが、上図。
ツールの100年を超える長い歴史の中で、平均速度の停滞期と発展期があったことがわかる。戦後だけ見ても、1950年代の発展期、1960-70年代の長い停滞期、1980-90年代の長い発展期、そして最近10年間の停滞期と、まるで経済成長のようだ。
問題は、その発展が何によってもたらされたか、だ。『シークレットレース』では、1980-90年代の長い発展期のかなりの部分がドーピング効果によってもたらされたとしている。ランス・アームストロングがツール7連覇したのは1999-2005年で、これは「流石におかしい」となり、ドーピング検査が厳しくなった。以降、平均速度は伸びていない。
しかし、ドーピングだけで伸びていたなら、1990年代レベルにまで落ちるはずだ。この間には、1980年代のビンディングの普及（スキーブーツのように靴をペダルにビンディングで固定）や1990年代のカーボン素材の普及がある。
さらに調べてみると、走行距離が短くなっていることが分かった。距離が短くなれば平均速度が上がるのは当たり前なのだが、それはコースにもよるので一概には言えない。その名の通り「フランス一周レース」から始まったツール・ド・フランスは、厳しい山岳コースを取り入れ見せ場を作る代わり、最近ではアルプスで実質的に競技は終わり、後はTGVでパリに移動して最終日は凱旋レースになっている。
87:この時代の他の選手と話をしたり、彼らについての記事を読むなかで、僕はあるパターンに気づいた。ドーピングをした選手のほとんどは、プロ3年目に初めてドーピングに手を染めている。プロ1年目は、希望に満ちあふれたフレッシュな新人だ。2年目に現実を知るーーこの世界で、ドーピングが横行していることを。そして3年目に悟る。目の前には、二手に分かれば道がある。イエスかノーか。中に入るか外に留まるか。誰もがこんな風に1000日を過ごす。そして、選択をする。110:夏になる頃には、僕はゲームのルールをさらに深く理解するようになった。��1-2週間に一度、赤い卵をとって疲労を回復させる。レースの直前にはとらないように気を付ける。�▲譟璽拘�間中に、チームドクターの注射でEPOを得る。自分では買わない。（中略）��このテーマについては、口を閉ざす。話をする必要はない。誰もがすでに知っているからだ。112:三週間のレース期間、一度もドーピングを使わなければ、ヘマトクリット値は週に約2ポイント、合計約6ポイント低下する。これは「スポーツ貧血」と呼ばれる作用だ。ヘマトクリット値が1%低下すると、パワーも1%低下する。つまり、もし「グランツール」と呼ばれるツール・ド・フランスのような三週間のレースにドーピングなしで挑み、赤血球を増やすための手段を何も講じなければ、パワーは三週目には約6%低下する。
167:使用済みの注射器は、コカ・コーラの空き缶に入れた。缶の口は注射器を落とし入れるのにちょうどいい幅だった。
2016年08月19日
黒いスイス
先日読んだ『スイス人に学ぶ人生を豊かにするための知恵』のことを書いたら、「こんな本もありますよ」と教えてくれたのが、これ。毎日新聞の特派員として6年間ジュネーブに駐在した福原直樹さんによる著書。
軍事大国であることや、マネーロンダリングの話は有名だが、かつての人種差別の酷さは衝撃的。押し寄せるユダヤ系ドイツ人に恐れをなしたスイス政府は、1938年全てのユダヤ系ドイツ人の旅券に「J」のスタンプを押すようにナチスに申し入れる。そしてその当時、スイス政府はナチスがユダヤ人を虐殺していることも掌握していた。
「国益にならない面倒ごとには一切関わらない」という、スイスらしい合理主義と完璧主義である。そういえば、スイスのそういうところが嫌でフランス国籍を取ったスイス人の友達がいた。今は、香港人と結婚して香港で暮らしているけど。
「優生学」的立場からロマ族を殲滅しようとしたプログラムは第二次世界大戦後も続く。なんと、1926年から1972年までロマ族の子供1000人以上を政府の支援を受けた公共団体が誘拐して親から引き離していたというのだ。（ロマ族はインド北西部が起源という、定住せず欧州各地を渡り歩く「流浪の民」で、700-850万人という推計）
そして現在も、スイス帰化のための審査は人種が左右するという。
13:誘拐した公共団体の名前は「青少年のために」という。今でもチューリヒに存在するこの団体は、1926年から1972年までの46年間、ロマ族の子供1000人以上を誘拐して親から引き離し、強制的に精神病院や施設などに入れていたのだ。一部の子供はスイス人家庭に里子に出された。そして子供たちは、成人するまで家族との接触を一切禁じられていた。31:1938年。ナチスは政権掌握から5年後のこの年に、オーストリアを併合する。そしてこれを機に、ナチスの人種差別政策を恐れるユダヤ系ドイツ人が、スイスに大量に流入し始めた。この事態に直面したスイス政府の対応策は、驚くべきものだった。押し寄せるユダヤ人を国境で識別し、追い返すために、全てのユダヤ系ドイツ人の旅券に「J」のスタンプを押すよう、ナチスに申し入れたのだ。85:開発予定の核兵器の種類や、核実験の場所まで決めていた点、核兵器が製造できる段階に達しながら、国際情勢の変化で核保有を断念した点など、スウェーデンの核開発は、スイスのそれと似た道をたどった。スイスが、自国同様、欧州の小国で中立国でもあるスウェーデンと共同核開発の道を探ったのは、自然なことだったのかもしれない。
105:スイスへの帰化を希望する外国人は、最終的にどこかの市や、町などの自治体で「本籍」を取得して、初めてスイス国民として認められる。そしてこの本籍取得の手続きは、各自治体でそれぞれ独自に決められている。日本と違い、地方分権が強いスイスの場合、国籍を与える実質的な権限は、ほとんどこの地方自治体が握っているといってもいい。
2016年08月18日
疑惑のチャンピオン
本書は、映画「疑惑のチャンピオン」の主人公ランス・アームストロングがツール・ド・フランス人気絶頂の時に出版した本。ガンを克服したアームストロングがツールに復活して総合優勝するという典型的なアメリカンドリームである。
元々、アームストロングはドーピングしていた。ガンからの復帰のためにやむをえずドーピングしたのではなく、25歳で睾丸ガンを発症したそもそもの原因が、今から考えれば、筋肉増強のため常用していたステロイドと言われている。
アームストロングは「ガンからの復活」というストーリーを売り物にし、LIVE STRONGというガン患者とその家族支援のための団体を立ち上げ、社会貢献も行っていた。それがドーピングのカムフラージュだったのか、本心からだったのかはわからないが、少なくとも、アームストロングが当初米国司法当局からドーピングの疑いで取り調べを受けた時は、政治的に大いに役立った。ガン患者からの政治的圧力と、アームストロングというヒーローを敵に回したくないというクリントン政権の政治的判断で、「証拠がありすぎることが問題」とまで言われた調査を取りやめたのだ。
結果、アームストロングは訴追を免れ、罪に問われることはなかった。アームストロングが処置を受けたのは、ドーピングを監督するUSADAによって、「USADAが関与するあらゆるスポーツからの永久追放」が決まってである。
175:ランスは事態を収束させるために動いた。第9ステージのセストリエーレでの勝利の翌日の第10ステージ、走行中にバッソンに近づき、自転車競技を貶めるような発言はするなと警告した。バッソンは真実を話しているだけだと反論したが、ランスはこの世界から出て行けと罵倒した。210:僕がその場にたどり着いたとき、ランスは車から引きずり出した男を酷く殴りつけていた。男は震え上がり、泣いていた。（中略）地面に這いつくばり、涙を浮かべながら謝罪する男を、ランスが容赦なく殴りつける様子が頭から消えなかった。275:「他の選手はすべて、血も涙もない殺し屋だと思え」（ランス・アームストロング）それは、ランスの世界観を表していた。ランスは身の周りの誰もが、100%無慈悲だと信じていた。
448:ランスは小切手帳を取り出し、チームをつくりはじめた。ホワイトウォーター・スキャンダルでビル・クリントン大統領を、SEC詐欺の審問でゴールドマン・サックスを弁護し、”大事件の達人”として知られる敏腕弁護士のマーク・ファビアーニを雇った。メジャーリーグ・ベースボールのドーピングの関連訴訟で政府と対立していた法廷弁護士、ジョン・ケカーとエリオット・ピーターズも雇った。（中略）要するに、ランスは金で買える最高の弁護士チームを雇ったのだ。
2016年08月17日
ツール・ド・フランスの知られざる内幕
話題の映画「疑惑のチャンピオン」（なんか、「汚れた英雄」みたいｗ）はまだ見てないのだけど、告発者の一人であるランス・アームストロングの元チームメイトであるタイラー・ハミルトンの著作を読んでみる。ハミルトンはアームストロングと同じアメリカ人のプロ自転車選手で、オリンピックの金メダリストでもある。彼の証言はアームストロングが一貫して否定していたドーピングを否定できないものにした。
背景にあるのは、巨大なスポーツビジネス。23日間にわたり3500kmにも及ぶコースで繰り広げられる世界最高の自転車ロードレスであるツール・ド・フランスは観客数1000万人、TV放映190か国であり、動く資金も巨額だ。レースの人気が上がれば、主催者も、自転車メーカーも、スポンサーもみなハッピーだ。
そして、選手は、他のスポーツ同様、勝利者に対する報酬はスポンサー料も含めて数十億円と巨額なものの、他のトップクラスの報酬は数億円、各チームでトップクラスをアシストする選手は数千万円、ツール・ド・フランスに憧れながら、アシストとしてさえチームと契約できないその他選手はせいぜい数百万円の年収と何百倍もの格差がある。
だから、チームも選手も勝つためなら「何でも」する。そこに付け入るのが、スポーツ医学を極めた医師たち。ドーピング専門の医師がチームや選手に最新のやり方を売り込む。本によれば、アームストロングはじめ当時のトップクラスの選手は年間数千万をドーピングにつぎ込んでいたという。
ドーピング問題は長年指摘されていたが、疑惑の中でアームストロングがツールを7連覇もするまで誰も証明できなかった。それは、アームストロングがツール7連覇のヒーローである方が関係者誰にとっても都合がよかったので、本来ドーピングを取り締まる側の主催者UCIさえもグルであったからだ。
おりしもリオ・オリンピック開催中。ロシアは「国家ぐるみのドーピング」をしていたことで参加拒否された。この本を読むと、ロシアだけなのか？と思わざるを得ない。
自転車レースの世界でも、EPOと呼ばれる血液増強剤の使用が検査で難しくなった後は、「自己血液ドーピング」が主流になった。自分の血液を採血しておいて、レース前やレース中に輸血して酸素供給量を増やすわけだ。自分の血液なので、薬物反応は出ない。これも現在では、血液中の赤血球の年齢（若さ）を調べることで、利用を防止しているらしい。
金銭的インセンティブが巨大であれば、イチかバチかやってみようという選手は必ず現れ、ニーズがあればソリューションを提供して稼ごうとする医師が必ず新しい手法を編み出す。
「スポーツは面白いけど、たかがスポーツ」と観客が冷静であることが最大のドーピング防止策だろう。観戦して興奮するのもいいが、ほどほどにして、自分で体を動かす方がもっといい。
*ランス・アームストロングとは、いったい何者なのか？11はじめに：ドーピングは自転車ロードレースのパフォーマンスを10-15%も引き上げられる。そしてロードレースは、1%以下のパフォーマンスの差が勝負を決するスポーツだ。アームストロングと共にツール・ド・フランスの表彰台に立ったほぼすべての選手も、その後、何らかの形でドーピング疑惑と関連づけられていた。12はじめに：それらのすべてを鋼鉄の金庫のように保護していたのは、”沈黙の掟”だった。プロのロードレーサーは、ドーピングについては固い沈黙を守らなければならない。25はじめに：それは速くなるためにはどのような禁止薬物をとることも厭わない代わりに、落車したライバルが集団に戻るのを待つという、とことん腐敗しながらも、奇妙なまでの騎士道精神が貫かれた世界の話でもあった。
2016年08月16日
東洋一の大邸宅
駒場の日本民藝館を見学した後、隣の駒場公園に向かう。ここには、旧前田侯爵邸が現存する。
NHK大河ドラマ「真田丸」では、秀吉が死んで、前田利家が秀吉の嫡男・秀頼の傅役（後見人）となったところ。前田家はもちろん、加賀百万石のお殿様だが、参勤交代制度のため半分は江戸に居た。
その加賀藩の上屋敷だったのが現在の東大本郷キャンパス。本郷上屋敷の広さは104千坪。東京ドーム7.3個分という。明治になってその所領の大半は政府に没収されてしまうのだが、それでも南西の区画約１万坪が残され、前田家第16代当主・前田利為が壮大な邸宅を構えていたという。
1923年の関東大震災後、東京帝国大学は同地で拡張して再建することになり、前田家が引き続き持っていた所有地とその屋敷（「懐徳館」が東大の迎賓館として使われていたが、空襲で全焼）と、東大農学部が駒場に持っていた農場の一部4万坪が交換されることになる。
こうして、前田家は図らずも駒場に移転することになる。その地に、昭和4-5年にかけて侯爵・前田利為が建築したのが当時「東洋一の大邸宅」と言われた前田侯爵邸なのである。地上3階、地下一階の鉄筋コンクリート造り。隣にある純日本風2階建ての和館とは渡り廊下で結ばれている。使用人も100人以上いたという。
前田侯爵邸はその後数奇な運命をたどる。陸軍大学校（東条英機と同期）を出た利為は大東亜戦争が勃発すると、翌昭和17年にボルネオ方面軍司令官として赴任する。しかし着任早々、現地で搭乗機が墜落して不慮の死を遂げる。
主人を失った後、一家は他へ移り、昭和19年に中島飛行機本社がここを買い取り、都心から疎開してくるのだ。それもつかの間、1年で敗戦。当初、マッカーサーの邸宅として検討されたが、隣接する民家との距離が近すぎて警備が大変との理由で脚下される。
代わりにここを官邸としたのが第5空軍司令官のホワイトヘッド。続いて昭和26年に極東総司令官マッカーサーが解任されてからは 後任のリッジウェイの官邸となる。占領終了後は、元の所有者である中島飛行機を承継した富士産業（現スバル）に戻された後、昭和38年、都立公園とすることが決定された。
昭和39年（オリンピックの年だ）に洋館を東京都が買収、整備を経て東京都立駒場公園としてオープンしたのが昭和42年。昭和50年に公園の管理が目黒区に移管されて現在に至っている。
2016年08月15日
村人は満州へ送られた
今日は終戦記念日。例年なら、各TV局ともなんらかの特集番組を組むところだが、今年はオリンピックなのでほとんどなかった。数少ない関連番組だったのが、昨晩のNHKスペシャル「村人は満州へ送られた」。
これまでも、ソ連軍や地元民により虐殺された満蒙開拓団の悲劇は多くの作家や番組により取り上げられてきた。なにしろ、27万人の民間人のうち8万人が犠牲となったのだ。これだけの数の民間人が、これだけの確率で死んだのは世界史的にも稀だ。今回の番組が焦点を当てたのは、そもそもどうしてそうした移民政策が行われたかである。
満蒙開拓団は「国策」として立案され実施された。立案したのは、満州国を実質支配していた陸軍の「関東軍」と、植民地政策を司っていた拓務省だった。昭和11年に「満州への移民100万戸、500万人」という壮大な案が発表される。最初の5年に10万戸、次の5年に20万戸、その後も30万戸、40万戸と送り込み、20年間で達成する計画であった。
これには、満州での治安安定と食料供給という目的があった。それに乗って全国の農村から農民を送り込んだのが農林省。農林省は人口増で増えた貧農対策として、各村にノルマと補助金を与えて、飴と鞭で奨励したのだ。
その具体的な仕組みは戦後資料が破棄、あるいは散逸して実態が分からなかったが、長野県の旧河野村の胡桃沢村長（当時）が詳細な日記を残していたことが最近分かった。村長は、当初、満州移民に懐疑的だったが、農林省から「国策」として押し付けられ、各戸を回り、100名の移民団を編成する。
その時は昭和18年11月で既に制海権も制空権もアメリカ軍に握られ、対馬海峡の安全航行もままならない状況だった。河野村の開拓団はなんとか無事に満州に着くのだが、ほどなく、戦況悪化で16-45歳までの男子は現地で徴兵される。残ったのは女子供ばかり70名で農作業も進まない。
そして、8月8日ソ連軍参戦。これを機に、地元民も蜂起し、開拓団は略奪、暴行される。山に逃げたものの逃げられないと覚悟し、集団自決。唯一生き残ったのは当時15歳の少年。瀕死の重傷を負っていたが、中国人の中に友達が居て助けられたのだという。少年は、集団自決の際、周囲の女性に頼まれて、彼女らの子供達20人以上を絞め殺すのを助けたという・・・。
悲劇はまだ続く。終戦後、送り出した開拓団がどうなったか心配した胡桃沢村長は中央官庁に問い合わせるがらちが明かない。仕方なく、拓務省を引き継いだ外務省と、移民ノルマを割り当ててきた農林省に出向くのだが、どこも取り合ってくれない。開拓団の悲劇の結末が分かったのは、終戦の翌年、引き上げてきた隣村の開拓団からだった。そして、村長は、「開拓団に申し訳ないことをした」と自ら命を絶つ。
戦後の混乱が終わり、高度経済成長を迎えて、やっと戦時中を振り返る余裕が出た1970年ごろ、農林省の中で戦前の政策を振り返る座談会が行われた。この内容が衝撃的。官僚OBが全く反省してないのだ。「政策は正しく、自分らは決められたことを遂行しただけ」と、しゃあしゃあと言ってのける。開拓団の悲惨な運命を知ったうえである
確かに、昭和11年に立案された時点では正しい政策だったのかもしれない。しかし、大東亜戦争が始まったことで、状況は根本的に変わっていた。まず、�＼�人男性が次から次へと徴兵を受けたことで、国内の労働力が不足していた。さらに、開戦2年目には制海権、制空権を奪われ、��移民船自体が無事に満州に着けるかどうかわからなかった、��生産した穀物も輸出手段がなかった。
戦前の中央官僚と言えば、現在以上のエリート集団。頭が悪いはずはないのだが、高給を取ってやっていたことは、国家のために何の役にも立たず、犠牲者を増やすだけの政策遂行。本来であれば開戦時にすべて見直しを掛けなければならなかったはずだ。
「いったん始めたら誰にも止められない」
政策を決めるのは時の政治家と官僚。戦前はこれに軍部が加わる。そして、政治家も官僚もトップはどんどん変わる。変わるから誰も責任を取らず、変わらない官僚組織はいったん決められた政策を見直すこともなく、「自分たちの仕事」としてやり続けるのだ。決められた政策を実施している限りは自分たちの責任にならないが、見直すとなると後で責任を問われる可能性があるからだ。
この組織体質は今でも残っている可能性がある。政策検証と見直しの仕組は今も弱いままだ。
2016年08月14日
美の生活化
日頃から移動が多い方なので、お盆の間は東京でのんびりしている。今日、近場で訪問したのは駒場にある日本民藝館。先月読んだ『手仕事の日本』の著者・柳宗悦がここの創設者なのだ。今年で創設80周年になるという。
ここは、隣にある東大先端科学技術研究センターで教えている友人を訪ねて何度か前を通ったことがあるのだが、公開しているかどうかもわからず「なんだろう？」と通り過ぎていた。もったいないことをした。
1936年に完成した本館の建物自体が登録有形文化財。「美の生活化」を目指した民芸運動の拠点としてふさわしい建物だ。
当初、柳は蒐集した民芸品を関東大震災からの再建中だった帝室博物館へ寄贈する代わり、展示室の設置を申し込む。これが断られたため、民間での美術館設置を目指した。
その時協力したのが、大原美術館の創設者として有名な大原孫三郎。倉敷紡績（クラボウ）や、倉敷絹織（クラレ）の社長を務めた岡山の大実業家である。当時のお金で10万円を日本民藝館設立のために寄付したという。今のお金で10億円近い。
2016年08月13日
「ポジティブ思考」の危うさ
誰もが、「それはチョット違うだろう」と思っていながら、なかなか反論できなかった「ポジティブ思考」の蔓延を真面目に批判した本。
これまで多くの成功した経営者に会ったが、一つの共通点がある。それは、「小心者」であること。
大胆な戦略を立てながら、実施に当たっては、最悪の状況を想定し緻密に詰めていく。成功確率を高めるために不確実性を一つ一つ潰していく。リソースは限られるので、全ての場合に最初から備えるわけでなないのだが、常にPlan Aだけでなく、Aが不発の場合は、B、Cと考えているので素早い対応ができる。これは、「ネガティブ思考」と言っていいだろう。
「仕事のできない人ほどポジティブで、根拠もなく自信を持っている」というのは笑える。これは心理学では有名な話で、これを研究して証明した人の名前を取って、「ダニング＝クルーガー効果」と呼ばれる。
ポジティブ思考だけの経営者は、一時良くても、やはり足元をすくわれて失敗してしまうようだ。自分のことを客観的に見れないので、成功要因を勘違いしているケースも多い。最初成功したのに、2回目で失敗するのはこのパターンが多い。
・ポジティブ思考の落とし穴-人は誰でも自分を過大評価する傾向「ポジティブ・イリュージョン」がある-能力の低い人ほど自分の能力を過大評価し、能力の特に高い人は自分を過小評価する傾向がある（ダニング＝クルーガー効果）-ポジティブな心理状態の時ほど、「確証バイアス」に陥りやすい。自分に都合のよい情報にばかり目を向け、リスクを無視した判断をしてしまう。・ネガティブ心理状態の効用-正確な判断-記憶を良くする-モチベーションを高める-説得力を高める
2016年08月12日
スイス人に学ぶ人生を豊かにするための知恵
スイスはアルプス山中にある人口800万人の小国。観光イメージは牧歌的だが、金融・機械・製薬産業で強い競争力を持ち、所得水準も世界トップクラスで一人当たり平均所得は$81Kもある。これは、日本の倍以上だ。
永世中立国として有名だが、もちろん、そのために国民皆兵制度を取り、男子は徴兵制がある。各家庭には自動小銃が備えられている。政府発行の『民間防衛』には、国土防衛について、食料や燃料の備蓄から、生物兵器・化学兵器への対応方法、さらには万一占領された場合のレジスタンスの仕方まで記述されているという。小国なので武器を買った方が安いけれども、小火器については自国生産し、また製造コストを抑えるために武器輸出にも熱心だ。
キーワードは「自立」。山がちで農業に不向きなスイスは伝統的に貧しい国だった。酪農で細々と暮らし、出稼ぎに傭兵となった。バチカンのスイス衛兵はその名残だ。近代産業が興って土地に縛られず、高付加価値を生み出すことができるようになったが、この本を読むと、つらい歴史を忘れてないのだと思う。
・スイスでは物件によっては、新築マンションよりも、中古マンションの方が高価・ヴィンテージになり得るのは「ホンモノ」だけホンモノ＝自立・外食をあまりしない友人との付き合いも自宅・引っ越しの際にインテリアデザイナーに依頼して内装から家具まで全てコーディネートしてもらう場当たり的に買わない・お釣りの出ないバスの券売機社会全体のコストを削減・公共投資に慎重長期にわたるコスト意識 「自分の財布からお金を出すのと同じ感覚」メンテナンス費用や架け替えによるゴミのことまで考えてレマン湖に横断橋を掛けない。・よくわからないものにはお金を払わない国連加入はビリから4番目（2002年）・スイスのパンはまずい安全保障のために1年間備蓄した小麦粉を使う
2016年08月11日
「先の見えない戦い」を勝ち抜くOODA経営
帯には、「PDCAよ、さらば。これからはOODAだ！」とあるが、PDCAを置き換えるものではないと感じた。
確かに、変化の激しい時代だが、それは、「今の若者は！」と年寄りが言うのとおなじで、何時の時代でも、生きている人は「時代は変わっている」と感じていたに違いない。少なくとも、現代日本人は日本人としてはじめて、健康保険も年金もある時代に生きている。「想定外」というが、満州開拓団から見れば、ある日突然、日ソ中立条約を破棄したソ連軍に蹂躙されたことのほうが想定外だろう！
こうして、庶民はいつの時代も「想定外」にどうにかして対応してきたのだから、OODAが目新しいわけではない。米軍がこれを「発明」したというのはおかしいだろう。我々の祖先は全て、環境変化に対応した結果生き残った。
二つ目に、OODAが成果を発揮する組織はよく訓練されたエリート集団でなければいけない。「現場の状況判断に任せる」のだから、作戦目的をよく理解し、自分で判断し、それを実行できる能力を備えていなければならない。これを全員に求めるのは無理がある。
PDCAでスパイラル状に組織をレベルアップすることと、OODAで機動戦にも対応できること、強い組織には両方必要だ。
＊変化の激しい環境下で、企業が生き残るには何をすべきか？・想定できない変化には、トップダウンのPDCAでは対応できない・米軍の「機動戦」OODA��Observe：相手の動きを観察し、把握する��Orient：どう行動すべきか、瞬時に判断する��Decide：自らの判断で、決断を下す��Act：決心した行動を実行に移す。相手が思わぬ動きを取った場合などは、再び「観察」から始める。・PDCAとの違い��PDCAは、計画通りに進めることを重視する。だが、OODAは臨機応変に対応することに重点を置く。�∧儔修侶磴靴ご超�に対応するために、計画を立ててから動くのではなく、相手をよく観察し、動きながら考える。��トップダウンではなく、現場に主導権を与える。そうすることで、現場が自ら判断し、行動できるようになる。
2016年08月10日
機械に奪われる仕事、生き残る仕事
色んな人がこの問題について発現している。産業革命では機械が肉体労働者に取って代わり、コンピュータの登場で、銀行の窓口係や飛行機の予約は自動化された。人工知能（AI）も同様なのか、そうでないのか？
AIのよって影響を受けるのは、医師や弁護士、会計士、教授などの知的労働者である。これらの知的労働者の平均所得は1000万円を超え、先進国では労働者の1/4を占める。これまでの「産業革命」と違い、置き換えられる層が高額所得者で人数も多く、影響が大きいのだ。
＊機械に取って代わられる仕事、人間ならではの強みを発揮できる仕事・医師、弁護士、会計士など知識労働者の多くの仕事が機械により自動化されつつある・今後自動化される仕事-ものを操作したり、人と対面したりする必要がない仕事-教師など、既存の内容を他者に伝えるだけの仕事-文章の分析など、複雑でないデータの内容を分析する仕事-税金の確定申告書類作成など、秩序だったルールがある仕事・自動化に対抗するカギは、人間と機械の能力の「拡張」-人間が主な意思決定をして、それを機械が補完する-機械が主な判断をして、人間がそれを補完する��Step Upコンピュータやロボットには処理できない、構造化されていない問題に対して、大局的な洞察や意思決定をする��Step Aside機械には提供できない価値に基づいた仕事をする��Step In組織内の自動システムの構築や監視、修正を行い、ビジネス環境とテクノロジーの橋渡しをする��Step Narrowly自動化しても経済的メリットの少ない、専門的な仕事をする��Step Forward新たなソフトウェアやシステムを生み出す
2016年08月09日
2016年08月08日
焚書坑儒
『ワイルド・スワン』の文化大革命の話を読んでいると、大量の本が焼かれる場面が出てくる。毛沢東思想以外の本は全て悪書だとして、紅衛兵が全国で焼いてしまったのである。図書館の本だけでなく、個人宅にも押し入り、中国古典は「封建主義」として、洋書は「資本主義」として全部焼いてしまった。勿論、法律違反だが、政治が優先される中国では共産党が支持することであればそれが咎められることはなかった。
読んでいて思い出したのが、「焚書坑儒」。中国を初めて統一した秦の始皇帝は、儒教を「封建的」と弾圧し、本を燃やし、儒者を生き埋めにして殺した。これが「焚書坑儒」だが、始皇帝もまさか2000年後に同じことが行われるとは思ってなかっただろう。坑儒では460人余りの儒者が犠牲になったらしいが、文化大革命の犠牲者は7000万人と言われるから共産党の恐ろしさは古代の封建国家とは比較にならない。
本書は、アメリカのSF作家ブラッドベリによる近未来の「焚書」の話。ジョージ・オーウェルの『1984』にも通じる管理社会の物語だ。1953年に書かれた時、筆者は「4，50年先の世界を書いているつもりだった」（あとがき）という。
しかし、それはほんの10年後に中国で現実のものになった。それも、小説の内容をはるかに上回る規模で
訳者あとがき
本と火の結びつきにブラッドベリが取りつかれたのはずいぶん昔、小学生のころのようである。アメリカ文学研究ガイドの一冊で、ジョン・キュサティスという学者の手になる『戦後文学1945-70』(2010)によると、七つの歳から図書館通いの常連だったブラッドベリは、9歳のころ、古代エジプトのアレクサンドリア図書館が、70万巻のパピルス文章とともに焼失したという話をはじめて聞かされ、涙を流したという。
「『華氏451度』を書いているとき、わたしは4，50年ばかり先の世界を描いているつもりだった。ところが、つい2，3週間前の夜、ベヴァリー・ヒルズを散歩していた時のことである。一組の夫婦連れが犬をつれて、わきを通り過ぎた。私は呆然と突っ立ったまま、彼らの後姿を見送った。細君のほうは片手に小型ラジオを持っていた。煙草の箱ほどのサイズで、そこからちっぽけなアンテナがとびだし、ぶるぶるとふるえている。（中略）女は夫も犬の存在も忘れ果てたようすで、はるかな風とささやき声とソープオペラ風の叫びに聞き入っていた。夢遊病者よろしく、いないも同然の夫に腕を支えられ、歩道の縁石伝いに上がったり下がったりしている。これは小説ではない。」
96:民衆により多くのスポーツを。団体精神を育み、面白さを追求しよう。そうすれば人間、ものを考える必要はなくなる。（中略）本にはもっとマンガを入れろ、もっと写真をはさめ。心が吸収する量はどんどん減る。せっかち族が増えてくる。
101:黒人は『ちびくろサンボ』を好まない。燃やしてしまえ。白人は『アンクル・トムの小屋』をよく思わない。燃やしてしまえ。
123:ぼくらは2022年以降、二度、核戦争を起こして、二度とも勝利した！それは、この国の暮らしが愉しすぎて、他の国のことを忘れてしまっているからか？ぼくらだけ裕福でほかの国は貧しいのに、気にもかけないからか？
2016年08月07日
Gallary Cafe なゆた
うどんを食べるのは早いのに、なぜか、その後、喫茶店でまったりするのが好きな讃岐人。そんな讃岐人のオアシスの一つがここ「なゆた」。
場所は、かつての田んぼの真ん中。旧高松空港跡地が再開発されて、急に住宅街に変わった林にある。元々農家だった自宅を改装したそうで、奥には納屋があったりと農家の造りを残している。
店内には写真のような懐かしいおもちゃがずらり。これは売り物で、値段が付いている。2階はオーナーの映画を中心としたコレクションがある。おもちゃの数もコレクションの数も半端ではない。時間のある時にゆっくり見せてもらうのがお勧め。
定休日 ：日曜日
2016年08月06日
ドイツの一番長い日
「日本のいちばん長い日」が1945年8月15日であったなら、ドイツのそれは同年5月8日のドイツ無条件降伏の日か。しかし、ヒトラーが自殺したのは4月30日で、5月1日に参謀総長クレーブス大将はベルリンを包囲したソ連軍のチェイコフ元帥と停戦交渉を行うが、「無条件降伏以外は認められない」と拒否されている。クレーブス大将は、地下壕から残った兵士と職員を脱出させたのち、その日のうちに自殺している。
『ヒトラー〜最期の12日間』は2004年のドイツ映画。その後、TV放映されたときに一度見ていたのを、今週再放送があったので再び見た。スゴイ映画だという印象が残っていたのだ。
映画はヒトラーの人格に焦点を当てている。主に、ヒトラーの個人秘書を務めたユンゲの視点から描かれている。ベルリン陥落がまじかに迫り、ヒトラーは死を決意し、その前に長年の愛人だったエヴァ・ブラウンと結婚する。その、エヴァにユンゲが問う。
ユンゲ「総統は私たちには優しいのに、時々、無慈悲なこともおっしゃる」
エヴァ「それは、個人としての時は優しく、総統としての時は厳しくなるのよ」
原作は、ドイツの歴史家Joachim Clemens Festによる"Der Untergang"（失脚、没落の意味）日本語訳『ヒトラー 最期の12日間』と、ユンゲによって書かれた"Bis zur letzten Stunde" 日本語訳『私は総統の秘書だった』。ほぼ史実通りだという。
それにしても、普段冷静で合理的なドイツ人が、こうした破局の道を選び、そして、降伏の日まで多くが総統に忠誠を尽くしたというのは、未だによくわからない。感情的でいい加減な日本人ならともかく、あのドイツ人がなぜ？というのが長年の疑問である。
2016年08月05日
ジャンボタニシ
四国のたんぼでは稲がすくすくと・・・と見ていると、茎下部にピンク色の塊があちこちについている。みれば、用水路の壁にもたくさんへバリついている。
丁度、田んぼを見回りに来ていた農家のおばさんに聞いてみたら、ジャンボタニシの卵だという。水田の水の中を見れば、ジャンボタニシが沢山いた。ジャンボというだけあって、大きさは日本のタニシの何倍もある。田植えから2か月経ち、成長した稲の固い茎はもう大丈夫だが、放っておくと苗が食べられて大被害を受けるらしい。
このど派手な色、外来種だろうと思ったが、やはり南米原産であった。正式名称はスクリミンゴガイ。タニシは本来卵を産まないから、タニシ科ではない。日本には1981年に食用として台湾から初めて持ち込まれたらしい。驚異的な繁殖力で手間がかからないことから、養殖場が全国で一気に500か所まで増えた。しかし、なじみがないことから需要が増えず、さらに危険な寄生虫を保有するものがあることが分かり、全ての養殖場が閉鎖されてしまった。この時に放置されたジャンボタニシが、天敵がいないことから広がっていったということ。
逆に日本から食用にと輸出されたコイが北アフリカで大繁殖して問題になっているらしい。タンパク質源にと持ち込まれたが、「泥臭い」と結局誰も食べないのだそうだ。日本でも、昔は内陸部でコイ料理が盛んだったが、流通が発達し海魚が手軽に入手できるようになって、食べることが無くなった。
生き物に関しては、人間の浅慮で行わない方がよさどうだ。
2016年08月04日
空売りファンド
先週の伊藤忠商事株の急落から1週間が過ぎた。きっかけは、米投資ファンド「グラウカス・リサーチ・グループ」が7月27日に発表した「東芝と同規模の会計スキャンダルになる可能性がある」とした調査レポート。それまでの半額水準の目標株価631円という強い売り推奨を受けて、前日終値1262円から一時は1135.5円まで急落したのだ。
普段は全く相場を見てないので、こんなことがあっても気づかない私だが、同社株を買おうと思って大分前から指値していたのが、この急落で引っかかって買えたので気が付いた次第。丁度、その日の晩にLBSのPEファンド関係者で集まる予定になっていたので、しばしこの話題になった。
仕事じゃないので、誰も詳細に分析したわけではないが、
・グラウカスの空売りポジションを持ったポジショントークではないか？
というのが結論。しかし、そうだとすれば、これは、「風説の流布」に当たらないか？という疑問が出る。
当然、伊藤忠も「一片の曇りもない」と反発している。1週間経って、その間にどちらの主張が正しいのか商社担当のアナリストが一生懸命調べているはず。株価の動きは、急落した水準から回復してないものの、さらに下げてもおらず、持ち合い状態。
結末に目が離せない。
2016年08月03日
柔らかい全体主義
日本の組織には「強い同調圧力」が働く傾向があり、近年のコンプライアンス重視が責任回避と相まって目的を見失った「過剰なコンプライアンス」に陥り、結果として、個人の人格や個性を抹殺しているという。この状態を筆者は「柔らかい全体主義」と呼ぶ。目指すべきは「健全な個人主義」であって、これは利己主義とも、孤立主義とも違う。
どうしてこうなってしまうのかというと、「扇動型リーダー」や「パラサイト組織人」が、「つながり、絆、地域、自治、教育」というきれいなキーワードで強制を続けるから。こうした誰にも反対できないキーワードを付けられると表だって反対できないのが日本人だ。なぜなら、感情的に非難されるのが怖いから。そもそもが感情に基づいているから、建設的な議論にならない。
その結果、日本人は仕事に対する熱意も組織への積極的な帰属意識も世界一低い状態になって久しい。経済が発展し、業績が伸び、給与が上がっているうちはいいのだが、業績が悪くなる中、これまでの終身雇用・年功序列に慣れた従業員は市場価値がなく転職もままならない。こうして、会社との関係は険悪になる。
どうしてこうなってしまうのかというと、「扇動型リーダー」や「パラサイト組織人」が、「つながり、絆、地域、自治、教育」というきれいなキーワードで強制を続けるから。こうした誰にも反対できないキーワードを付けられると表だって反対できないのが日本人だ。なぜなら、感情的に非難されるのが怖いから。そもそもが感情に基づいているから、建設的な議論にならない。
その結果、日本人は仕事に対する熱意も組織への積極的な帰属意識も世界一低い状態になって久しい。経済が発展し、業績が伸び、給与が上がっているうちはいいのだが、業績が悪くなる中、これまでの終身雇用・年功序列に慣れた従業員は市場価値がなく転職もままならない。こうして、会社との関係は険悪になる。
＊強い同調圧力＋過剰なコンプライアンス→個人の人格や個性を抹殺「柔らかい全体主義」⇔「健全な個人主義」ｘ利己主義 ｘ孤立主義4:日本人は仕事に対する熱意も組織への積極的な帰属意識も世界一低い「扇動型リーダー」や「パラサイト組織人」が、つながり、絆、地域、自治、教育というきれいなキーワードで強制177:PTAに7割がマイナス・イメージ（朝日新聞2015/5）189:町内会のない自治体：武蔵野市町内会組織「非民主的」とGHQにより廃止→占領終了後復活武蔵野市は復活せず→ボランティアを基本とし、なじまないものは行政
2016年08月02日
逃げていく税金
今年4月に「パナマ文書」で再び注目されたタックス・ヘイブン。近年出た日本語の本ではこれがいちばんしっかりした内容になっている。それもそのはず、著者は金融監督庁でタックス・ヘイブン対策の陣頭指揮を取っていた元財務官だ。2002年に退官後、弁護士となっていたが、惜しくも今年亡くなられた。
タックス・ヘイブン対策で最も手ごわいのがロンドンとNYだというのは興味深い。どちらもタックス・ヘイブンそのものではないが、それを利用して商売しているのはシティやウオール街の金融業者なのである。そして、これら金融業者はそれぞれの都市や国にとって稼ぎ頭の産業であるので、抜本的な見直しには反対しているのが現状だ。
ロンドンやNYの所得水準統計は見たことがないのだが、国別でみて、金融業が代表産業になっている小国の所得水準は非常に高いことから、これに近いかそれ以上と推定される。例えば、一人当たりの名目GDPで世界一のルクセンブルグは$102K、第二位のスイスは$81Kである。アジアではやはり金融立国のシンガポールが第一で$53K、第二位は香港で$42Kである。日本ははるか下の世界第26位で$32Kだ。道理で、どこへ行っても物価が高いと感じるはずである。
2:日本の所得税負担率 1億円を超えると低下！5:タックス・ヘイブン�，泙箸發弊農�がない��固い秘密保持法則�６睛撒�制やその他の法規制の欠如↓�々盂杤蠧声圓簑膣覿箸砲茲訝�税・租税回避�▲泪諭次Ε蹈鵐瀬螢鵐亜▲謄躬餠發悗隆慷��５霏臈蟲．泪諭爾砲茲訐こΨ从僂稜鵬�→破たんした金融機関や企業の救済に税金投入27:国ごと全部がタックス・ヘイブンスイス、ルクセンブルク、ベルギー、オーストリア＝秘密保護法制42:英国GDPの20-20%を稼ぎ出すと言われるシティシティの権益に直結するタックス・ヘイブン＊官民一体となって国益を守る196:もっとも手ごわい相手はロンドン＆NY226:「税は文明の対価である」合衆国最高裁判所判事 Oliver Wendell Holmes, Jr
2016年08月01日
旅行記500冊から学ぶ「アジア人の本質」
畏友による最新刊。本人は工学博士で最初はメーカーに勤めていたのだが、いつの頃からかリベラルアーツに傾倒。カーネギーメロン大学日本校のプログラムディレクターを経て、母校の京大ではリベラルアーツを教えていた。
麻生川さんは語学の達人でもあり、現在の主要言語の他ラテン語まで原書で読んでいる。「リベラルアーツとは文化のコアをつかむこと」で、それは「それぞれの文化圏の中核となっている考えを自分の言葉で表現できること」だという。簡単にいえば、「一言でいうと、日本とは○○だ」と説明できることだ。
そんな彼が重視しているのは、海外からの旅行者が書き残したアジアの旅行記や滞在記である。異文化から来た人間は各国の違いにすぐに気づく。勿論、各人の記述には誤解や偏見も含まれるだろうが、彼は500冊もの旅行記・滞在記に当たることで綿々と続く各国文化の本質に迫っている。
登場するのは、日本、中国、朝鮮、中東、イスラム、中央アジア遊牧民、インド、東南アジア。麻生川流にまとめれば、以下のようになる。
・良くも悪くもアナログ的な日本
・人間不信の中国
・差別を是とする朝鮮
・強者の論理の中東、イスラム、中央アジア遊牧民
・今も階級社会のインド・東南アジア
なぜ彼がそう考えるかは、本書を読んでみてほしい。リベラルアーツ好きには堪えられない本だ。
序章：日本には鎌倉・室町・江戸時代から遵法精神が伝統・国民性として根付いていた江戸期に日本を訪問したヨーロッパ人の記述から、日本人のほうが彼らの母国の人たちよりも法に従っていた。22:ケーベル博士のように、近代化されたヨーロッパの真似をすることに非を鳴らす人のほうが多かった。（中略）その醜い姿をそのまま、日本人が「すごい！かっこいい！」と誤解して猿真似することを甚だ見苦しいと感じていた。26:新渡戸が理想化した武士道では、武士は主君に忠義を尽くし、裏切ることがないように言われているが、室町時代においてはそうではなかったことが分かる。主君に忠を尽くすのが武士道の中心軸となったのは戦国時代が終わり、江戸時代以降、領土が固定化し、武士階級がいわば地方公務員となったあとのモラルなのである。37:「日本人は、オランダ人の非人間的な奴隷売買や不当な奴隷の扱いをきらい、憎悪を抱いている。身分の高低を問わず、法律によって自由と権利は守られており、しかもその法律の異常なまでの厳しさとその正しい履行は、各人を自分にふさわしい領域に留めている」（スウェーデン人医師ツンベルク『江戸参府随行記』p220）108:「貧民の間では子どもを捨てることが普通に行われている、・・・・警察は毎朝早く荷車を一台出して町をまわらせる。荷車は捨て子を拾いあげて、彼らを埋葬するための穴、すなわち墓地へ運ぶ。宣教師たちはしばしばその場に立ち会って、健康そうで元気を回復しそうな子供を二、三人引き取って保護する。残りは、生きていようが死んでいようがおかまいなく、穴の中へ投げ込まれる」（18c末に中国を訪問したマカートニー『中国訪問施設日記』p62）110:「病気の苦力は木の下に横たえられた。・・・・・その時、中国人の潜在的な残虐性が現れた。・・・・・病気の男をラバに乗せるように提案してみたけれど、（仲間の苦力たちは）拒絶したのである。この12日間、寝食をともにしてきた男なのに、である。しかも、お前たちはこの男をここに置き去りにして死なせるつもりかと尋ねると、彼らはせせら笑いながら、「死なせればいい。もう何の役にもたちませんぜ」と宣った。病気の男が懇願した水が目と鼻の先にあったにもかかわらず、それをやろうとさえしなかった」（イザベラ・バード『中国奥地紀行２』p192）111:「中国人は冷酷、無慈悲で、徹底して利己的であり、他人の不幸に対して無関心である」（イザベラ・バード『中国奥地紀行１』p280）116:「北京を見るまでは私はソウルこそこの世でいちばん不潔な町だと思っていたし、紹興へ行くまではソウルの悪臭はこの世で一番ひどいにおいだと考えていた」（イザベラ・バード『朝鮮紀行』p58）191:「わたしが朝鮮を発った時点での状況はつぎのようにまとめられよう。日本は朝鮮人を通して朝鮮の国政を改革することに対し徹頭徹尾誠実であり、じつに多くの改革が制定されたり検討されたりしていた。また一方では悪弊や悪習がすでに排除されていた」（イザベラ・バード『朝鮮紀行』p350）196:「高麗の法律では、謀反を起こした者を捉えた時は、人々が手に松明をもって集まり、犯人の体をくまなく焼いたあとで首を刎ねる。家財を没収し、家族全員を奴婢の身分に落とす」（『旧唐書』巻199上）204:「朝鮮人は牛の喉を切り、開いた切り口に栓をしてしまう。そうしておいてから手斧を取り、牛の尻を死ぬまでなぐる。これには一時間ほどかかり、牛は意識を失うまで恐怖と苦痛にさいなまれる。このやり方だと放血はほんの少量で、牛肉には血液がそのまま残り、その結果重量が減らないので売り手には得というわけである」（イザベラ・バード『朝鮮紀行』p223）231:「ペルシア人の生活のうち、簡素ということの他に私が感心させられるのは、客人にたいする彼らのもてなしの篤さである。食事をだすときは扉を閉めるどころか、家にいるもののすべて、その場にやってきた人、ときには門前で轡をおさえている（客人の）下僕までも招き入れる」（17cフランス人の宝石商ジャン・シャルダン『ペルシア見聞記』p214）343終章：「日本人は愛されるが、尊敬されない。英国人は嫌われるが、それでも尊敬される」（斉藤親載『アフリカ駐在物語』p115あるインド人の言葉）
347終章：ルールが守られるには、互いの信頼関係が前提であるが、信頼関係が全く存在しない人間に対してはルールというのは全く無力であることを理解できてない日本人は多い。この点では、欧米人は初めから信頼関係のある間柄のルール（例：フェアプレー）と、そうでない間柄のルール（例：囮捜査）のダブルスタンダードを持っていて、巧妙に使い分けている。それで、信頼関係のない者でも、ルールに反すると厳しく罰することで、上手に統治することができるのだ。
