2015年12月
2015年12月31日
新ファッシズム論
先週読んだ『小説家の休暇』から、「新ファッシズム論」。こちらは「小説家の休暇」より1年前の1954年に発表されている。
今年は敗戦70周年だったこともあり、先の大戦や戦後を振り返るTV番組が多く、私もNHK「新・映像の世紀」はじめ、何本か見た。また、それに触発され、専門外である政治関連の本も数十冊読んだ。
三島由紀夫は政治学者ではないけど、「日本の右翼と欧州のファシズムほど程遠いものはない」という指摘など、小説家ならではの感性ではないかと思う。
212:世界観的な政治は、その発生形態において、個人主義の極致と考えてもよいのである。また芸術的創造がもっとも個人的なものであるという意味で、コミュニズムが政治の科学化、及至は科学の政治化を企てたとするなら、ファッシズムは、芸術の政治化を企てたものともいえよう。215:ファッシズムの発生はヨーロッパの十九世紀後半から今世紀初頭にかけての精神状況と切り離せぬ関係を持っている。そしてファッシズムの指導者自体が、まぎれもないニヒリストであった。日本の右翼の楽天主義と、ファッシズムほど程遠いものはない。
219:暴力と残酷さは人間に普遍的である。それは正に、人間の直下に棲息している。(中略)同様にファッシズムも普遍的である。殊に二十世紀に於て、いやしくも絶望の存在するところには、必ずファッシズムの萌芽がひそんでいると云っても過言ではない。
2015年12月30日
大学発ベンチャーの成功要因と発明者の関与
「グローバル化するアカデミック・スピンオフ」シンポジウムでは、米国での大学発ベンチャーの研究が紹介された。流石アメリカ、データの質が良く、とても興味深い内容だった。
表記の発表されたのは、UCSD博士課程在学中＆スタンフォード大学アジア太平洋研究所リサーチ・アソシエイトの牧兼充さん。分析対象としたデータは2000-2013年の間にカリフォルニア大学が技術ライセンス契約をした大学発ベンチャー541社である。
カリフォルニア大学といえば、バークリーやUCLAが有名だが、図の通り、10ものキャンパス、24万人の学生と19千人の教員を抱える全米最大の州立大学である。他の州立大学は、せいぜい2，3のキャンパスがあるだけだろう。しかも、10のキャンパスのうち、6校が世界大学ランキングのTOP50に入っている。
カリフォルニア州全体では、このカリフォルニア大学6校以外に、StanfordとCalTechの2校がTOP50に入っていて、全部で8校となる。日本からTOP50に入っているのは、東大と京大の2校だけだ。なぜなのか考えたほうがいい。
さて、研究の結論はというと、
・大学の発明者が経営に関与している大学発ベンチャーはSBIRなどの助成金をもらえる確率が高く、生存率も高い
・大学の発明者が経営に関与していない大学発ベンチャーはIPOやM&AでEXITに成功する確率が高い
というもの。
これは、感覚的にも合う。一方、厳しい現実として、541社のうち、IPOしたものは5社にすぎず、その確率は1%である。これに対してM&Aは45社と多いものの、合わせてEXITは50社と、全体の1割にしか過ぎない。残りは、「生存中」か「清算済み」ということになる。米国の場合、うまくいかなかったらさっさと会社清算してしまう場合が多く、日本の大学発ベンチャーのように会社は残っているものの、既に活動してないというケースは少ないそうだ。
2015年12月29日
アカデミック・スピンオフの出口戦略
先週末、法政大学で開かれた「グローバル化するアカデミック・スピンオフ」のシンポジウムに参加。治に大学を辞めて以来、シンポジウムに出席するのは初めてだ。
最初の講演は、大阪市立大学の山田仁一郎先生。そもそも、私を大学にお誘いいただいた方である。私が大学で最初に教えることになったのは、7-8年ほど前に山田先生が教えられていた立命館大学MOTの講座にゲストで呼ばれたのがきっかけである。その後、この夏季集中講座を共同開催することになり、ここでの実績が後に香川大学大学院で教えることにつながった。
山田先生は当時から、大学発ベンチャーの研究をされていて、その研究の集大成として出版されたのが上記の本。今回は特に、出口戦略に絞っての講演となった。大学発ベンチャー調査の分析結果は次の通り。
・出口戦略に対して、人的資本の特性やアカデミアの関与（特許の結果）は、プラスの影響を与える
・売上高利益率に対して、設立経緯及び経営者における人的資本とアカデミア関与は、ともにマイナスあるいは関連性はない傾向
何を言っているのか、研究者以外には分からないと思う。
具体的に言うと、
・ 設立経緯として大学の特許活用や出資があるベンチャー企業のほうが、株式公開や事業売却あるいは解散といった「出口戦略」に対して正の相関関係がある
・売上高利益率に対しては大学の関与は関係ないか、もしくは逆効果である
ということだ。
ただ、この研究では、時系列を考慮できてないため、先行投資として計画された「健全な赤字」なのか、想定外の赤字なのか区別できてない。例えば、ローリスク&ローリターン型のビジネスモデル（例えば、特許ライセンス）を選べば、自前での事業投資が不要なため最初から黒字化できる。
これに対して、後々の大きな利益を狙って、独占的に事業を進めるため、自ら事業化する道を選べば、大きな先行投資が必要となり、大規模な赤字が数年間続く可能性がある。この時点で、事業が進んでいる限り、「赤字だから失敗した事業だ」とは言えない。
2015年12月28日
新規事業の見つけ方・育て方
「社内起業家（イントラプレナー）」という考え方は昔からあって、30年前に新卒でVCに内定した際、人事部の先輩Yさんから内定者を集めた会食で言われたのがこれだった。
「社内起業が当たり前になれば、独立して起業する人はいなくなるのか？」
同じアイデアなら、経営資源のないベンチャー企業が手掛けるよりも、経営資源の豊富な大企業が手掛けたほうが成果が出そうである。しかし、現実はそうなっていないし、これからもそうはならないだろう。そこには構造的な問題がある。
それでも、大企業で既存事業を手掛けるか、辞めて起業家になるかの二者択一ではなく、大企業内で新事業を起こすという「第三の道」があるというのが本書である。
この30年間で、研究は進み、社内起業家が失敗する原因についても明らかになった（下記）。それが完全に克服できるとは思えないが、「リーン・スタートアップ」方式をうまく取り入れ、新規事業を上手に立ち上げる大企業も出てきそうだ。
＊ベンチャー企業の無駄のない起業の方法論「リーン・スタートアップ」を既存の企業で、どう活かすか著者：大企業社員に向けてワークショップ「リーン・スタートアップ・マシーン」を2010年から世界500都市で、年間300回開催リーン・スタートアップ１．製品開発前に顧客を訪ねる２．ユーザー視点での迅速な試作品づくり３．顧客ニーズの検証４．早めの小さな失敗と軌道修正の繰り返し５．KPIと会計の評価モデルの開発社内起業家が失敗する原因１．自主性→企業の外にオフィス２．インセンティブ→ハイリスク・ハイリターン３．財務体制→リーン・アカウンティング（企業の成長と最も関係の深いユーザー行動に注目)62:戦略をどう立てるか？１．市場の変化は予測不可能２．小さなチームが大きな価値を創れる（半分の人数に倍の報酬を出す方がいい)３．新しい市場は勝者が独り占めする４．スピードが唯一の競争力である５．成功には多くの失敗がつきものである111:人材をどう獲得するかIncubation Colonyの適切な人材・創造的、エネルギッシュ、目標がはっきりしている、粘り強い、独立心・リスクを取って報酬を得る・世界を変える212:実験・検証アイデアを検証するには現実の人間から情報を集めるしかない顧客ペルソナ�…敢此別簑蠅鮓‐據��▲廛譽璽鵐董璽轡腑鵝兵�要を検証）��コンシェルジュ（顧客満足度を検証）�ぅ廛蹈肇織ぅ廖別簑蠅鮓‐擇靴堂魴荳�を求める人がいることを実証し、顧客がその解決策に満足して初めてプロトタイプを作るべき）248:リーン・アカウンティング失敗しかかっているスタートアップと、成功まであと一歩のスタートアップをどう区別するか？財務内容よりも、ユーザーの行動をどう測定するか→モデルケース・サイト再訪者の％・製品の特長的な機能を利用する人の％・実際に製品を購入した人の％「スタートアップ・チームは持てる時間の30%を、評価基準を精査し、評価基準への理解を深めるためのツールの構築に費やさなければならない」Don Martel（起業家）Pirates Matrix デイブ・マクルーア（エンジェル投資家）acquisition獲得activation活性化retention保持referral紹介revenue収益
2015年12月27日
小説家の休暇
先週、何冊か三島由紀夫の小説を読んでいたら、大学の後輩から、三島は「評論がスゴイ」というので、勧められた『小説家の休暇』を読んでみる。後輩だけど彼は文学部なので、専門だ。まずは、タイトルにもなっている「小説家の休暇」から。
確かにすごい。豊富な知識と、鋭い分析、そしてみずみずしい感受性。三拍子揃っている、という感じ。そして、昭和30年の本作品に既に後の政治活動への萌芽は全て出ているといっていい。
117:私は自作「潮騒」のなかで、自然描写をふんだんに使い、「わがアルカディヤ」を描こうとしたが、出来上がったものは、トリアノン宮趣味の人口的自然にすぎなかった。130:「葉隠」ほど、道徳的に自尊心を解放した本はあまり見当らぬ。精力を是認して、自尊心を否定するというわけにはいかない。ここでは行き過ぎということはありえない。高慢ですら、道徳的なのである。「武勇と云ふ事は、我は日本一と大高慢にてなければならず。」「武士たる者は、武勇に大高慢をなし、死狂いの覚悟が肝要なり」・・・・・正しい狂気、というものがあるのだ。
139:なぜなら、敗北は受容的なものである。しかし勝利は、理念であり、統一的法則でなければならぬ。日本文化は、このような勝利の、理念的責務に耐ええたかどうか疑わしい。しかしそれと同時に日本の敗戦は、理念が理念に敗れたのではなく、感受性そのものが典型的態度をとって敗れたにすぎなかった。そこへゆくと、ナチス・ドイツの敗北は、完全に理念の敗北であって、日本の敗戦とその意味はまるでちがっている。ナチスの敗北は、勝利の理念と法則から、敗北の感受性と無法則性への、日本では想像も及ばぬ、堕地獄的転落であった。
2015年12月26日
よろめき
あの傑作『金閣寺』の後に出版された、「芸術活動の合間に息抜きで書いた余技的な大衆向け作品」と一般的に言われた三島由紀夫作品（Wikipedia）。
北原武夫は「解説」で、「三島氏には数多くの力作長編があるが、その中で、氏が自分の力量を心ゆくまで発揮し、自分の技能をほしいままに愉しんで、丁度声量豊かな大歌手が、お気に入りの聴衆を前にして即興の小曲をでも歌い上げるような、気楽にのびのびと書いた」と評している。
1957年に出版されて30万部を超えるベストセラーとなり、「よろめき」は流行語となったという。インターネットはもちろんのこと、TVもなく、映画も厳しく表現が規制されていた当時、不倫を堂々と扱ったこの小説が大きな衝撃を与えたことは想像に難くない。映画は単行本が出版された4か月後に封切られており、当時のスピード感に驚く。
しかし、1957年と言えば、朝鮮動乱特需で日本経済は息を吹き返したとはいえ、1960年代の高度成長期の前で、まだまだ全体的には貧しかった時代。そうした風情は作品中には全く見られない。12年前には特攻していたというのに
いい加減と言えばいい加減な日本人。11:しかし夫人はこんな慎みのない話を、たちまち人生的教訓へ持って行った。「だから自分を知っているなんて自惚れちゃだめよ。三十年自分と付合っていても、まだ知らない黒子が出てきたりするんだから」79:あいびきを重ねるにつれ、節子はときどき土屋が宿を変える、その仮の宿宿での、さまざまな小事件を知るのだった。それこそ節子の初めて知った社会である。廊下で会うとあわてて顔を隠す女客。何事かホテルの前に急に到着する救急車。それから廊下のいさかいとけたたましい泣き声・・・・・今居るのはホテルなのか病院なのか、わからなくなる時があった。
2015年12月25日
共産主義とファシズムは似ている
NHK「新・映像の世紀」第3集でもう一つ面白いと思ったのが、ピーター・ドラッカーの言葉。
「共産主義とファシズムは理念的にも社会的にも似ている」
ファシズム政党は元来反共であった。このことが、共産主義が拡大することを恐れていた資本主義国から評価され、ヒットラーのズデーテン地方（チェコスロバキア）併合を不問にする（1938ミュンヘン会議）。イギリス及びフランスは、ナチスドイツをソ連に対する反共の防波堤にしようとしたのだ。
ところが、ミュンヘン会議の翌年、ドイツとソ連は「独ソ不可侵条約」を締結する。これには公表された以外の秘密議定書が付属していた。ドイツとソ連は、東欧とフィンランドをお互いに分割してしまおうという協定だ。
犬猿の仲と見られていたヒットラーとスターリンが手を組んだことに世界は驚愕する。日独防共協定を結び、さらに日独同盟を進めていた日本では、「欧州の天地は複雑怪奇なる新事情を生じた」として 平沼内閣が責任を取って総辞職した。
しかし、ドラッカーは処女作『経済人の終わり』でナチスがソ連と手を組むことを予測していた。思想では違う、共産主義とファシズム（全体主義）だが、自由市場を信じず、国家統制を進めるという実際の政策では瓜二つなのだ。
2015年12月24日
ナチスのスパイだったココ・シャネル
NHK「新・映像の世紀」が始まっている。先週末は第３集「時代は独裁者を求めた」。
ヒットラーやムッソリーニの台頭とその後の悲劇の結末を扱った、いわば、これまで何度も見てきた、あるいは読んできたテーマだが、知らなかったことが幾つかあった。
一つは、ココ・シャネルがナチスの協力者であったこと。フォード社の創業者ヘンリー・フォードが熱心な反ユダヤ主義者で、ヒットラーの支援者であったことは知っていたが、フランス人であるシャネルの件については知らなかった。
シャネルの香水はユダヤ人事業家が製造販売していた。おそらく、事業開始にあたって資金のないシャネルが、そのような契約にしたのだろう。最初にまとまった金でライセンスしたのかもしれない。ところが、香水Channel No.5が爆発的に売れて、莫大な利益が上がるようになると、シャネルは不満を抱くようになる。なぜ、自分の名前を冠した商品なのに、自分の利益にならないのか？
パリ陥落後、シャネルはナチスに接近し、ユダヤ人パートナーの排除を依頼するのだ。シャネルはゲシュタポ高官の愛人となり影響力を行使する。それだけでなく、ナチスの工作員にもなっていたことは驚き。
この件については、ユダヤ人パートナーのほうが一枚上手で、ナチスの干渉を見越して、代表者をフランス人（というのも変だが、非ユダヤ系）に変更していたため、シャネルは香水事業を自分のものに出来なかった。戦後、シャネルはナチスに協力したことでフランスにいられなくなり、スイスに亡命する。
2015年12月23日
実話
ついに最新刊。
広谷鏡子さんは高校の先輩。東京同窓会でいつもお見掛けする。丸亀高校をモデルにした小説に『胸いっぱいの愛を』がある。映画を作っている後輩に、映画化するように依頼中。
18:うちの歴史はいつか小説にするからね、と父に言ってきた。ラストだけはもう決まっていて、瀬戸内に乗り込んできた三代目が石油ショックのあおりで全財産を失い、死んで借金を返そうと東北へ死出の旅に出る。仙台のデパートの屋上にまで昇ったが、金網が張ってあって断念、やっぱりもう一回生きてみるか、と呟くところで終わるのよ、と父に話したらニヤッとしていた。実話なのだ。（広谷鏡子『ほんそご』）136:使用済核燃料の処理。超高齢社会への対応。この二つの問題をこの国がスマートに解決できたとき、アジアの一角に「日はまた昇る」ことになるにちがいない。（五木寛之『日はいつ昇るのか』）326:ご長男が大学入試の歳になったとき「うちにはよけいなお金はないから、私立はだめ、そして浪人もなし、受験のチャンスは一回だけ、もし落ちたら就職しなさい」と運転手さんはきっぱり言い、息子さんは「わかりました、でもその代わりにひとつお願いを聞いてください、塾に行かせてください」と堂々と言った。だから、塾のお金は出してあげた。そうしたらちゃんと一回で受かったんだ、と運転手さんは嬉しそうに言った。それを見ていたから、娘も同じようにして一発で受かったよ。俺は内心、ふたりとも就職して早く自立してくれりゃこっちは楽なのに、と思ったけど、がんばったしよかったよね…。
聞きながら私は人が歳を重ねることの意味を幸せに味わっていた。（よしもとばなな『町の偉人』）
2015年12月22日
商店の娘二人
ついに2014年度版（笑）。この号で秀逸だったのは、塩野七生と林真理子。いや、秀逸というより、「共感した」というべきか。
まず、塩野七生が取り上げたサッチャー元首相。英国階級社会の中で、食料品店の娘であった「傍流」の政治家が、なぜ、本流エリートを率いて祖国の再興に汗を流したのか？そして、その使命が終わろうとするとき、助けたはずの保守党の本流エリートに「刺されて」政界を引退する。そのような例はローマ帝国にもあった。
この文章は、サッチャー元首相の死去にあたり塩野が書いたものだが、私も当時blogに書いたので興味ある人はリンクから読んでみてほしい。メリル・ストリープの映画も良かった。
林真理子の『エレガンス』には、「あるある」と共感。流石、自営業者（本屋さん）の娘だ。日本のサービス業の「生産性」は先進国最悪だと言われるが、その最大原因は顧客の要求が強いことだと思う。海外旅行すれば分かるが、海外ではサービスには値段がある。日本並みのサービスを日本の値段で提供している国は、私の知る限りない。
しかし、そんなことがなんとか出来ているのも、顧客の協力があってこそである。香川でもうどんブームで、200円のうどんを食べるために大勢の観光客が押し寄せた。一杯200円で店を成り立たせるためには、昼間に5回転はしなくてはならないことくらい、資本主義社会で生きる社会人であれば簡単にわかるはずだ。それを、行列をしり目に、仲間と写真を撮りあいながら、長居するのがいる。
香川のセルフうどん屋は10分以上居てはいけない。ゆっくりしたい人は、フルサービスのうどん屋に昼のピーク時を外していく配慮が必要だ。
123:ミセス・サッチャーは、何を商っていたのかまでは知らないが、小さな店の娘として生まれた。オックスフォード大に入ったのも、パブリック・スクール経由ではなくて、グラマー・スクール経由ではないかと思う。となれば英国の伝統的エリートではまったくなく、傍流の生まれであることが一生つきまとっていたにちがいない。その彼女が本流エリートたちを率いて祖国の再興に取り組み、なかなかの成果をあげたのだが、最後は本流エリートたちから刺されて引退を強いられることになる。126:世間でまかり通っている一句に、賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ、というのがある。だがあれは、真赤な嘘である。賢者は、歴史からも経験からも学ぶことができる人で、愚者は、歴史からも経験からも学ぶことができない人、と言い換えるべきである。なぜなら、歴史とは経験の集積に過ぎないからである。（塩野七生『さよらミセス・サッチャー』）354:女の人が店の中で大声を出すのは、決していいことだと思わないのである。これと同じく私が苦手なのに、「お取り皿女」というのがいる。食事の途中大きな声で、「すみませーん、お取り皿ください」という女性だ。いかにも自分が気が利いているでしょ、と言わんばかりに声を出す。しかし私にしてみれば、さっきもらった取り皿はたいして汚れているわけではないし、このレベルの店でしょっちゅう皿を取り換えさせるのはどうかと考える。（林真理子『エレガント』）355:たとえばランチを食べるとする。三千円とか四千円という料金をとる高級な店のランチだったら、コーヒーを飲みながら、ゆっくりしてもいいと思う。お店のほうも二回転させるつもりはないだろう。しかし、千円足らずのランチをとり、ゆうゆうと二時間近くいる女性のグループをよく見る。お昼時で店の外に行列が出来ても知らん顔だ。話に夢中になり、他の人のことなど全く気にかけない。（同上）
356:よく「気配り」というけれども、そういうことの出来る女性のなんと少ないことか。家族や友人、大切な人にはそれなりに気を遣うけれども、ゆきずりの人、たとえばお店の人やタクシーの運転手さんにぞんざいな人を、私はエレガントとは呼ばない。（同上）
2015年12月21日
技術は後退することもある
そして2013年度版。比較文学者の中村和恵さんが、未だにワープロ専用機を使っていることを書いている。
私もPCが世に普及する前、20代前半はワープロ専用機を使っていた。ゼミの卒論をワープロで打って出した初めての学生になった。中村さん同様、日本語の作成機能にかけては、30年経った今でもWORDが敵わないのではないかと思う。それでも、WinPCを使っているのは、互換性と一台で何でもできるというPCの汎用性の魅力のためだ。文章作成を生業としている人以外、今でもワープロ専用機を使っている人はいないだろう。
技術は日進月歩で、特にITにおいては「ドッグイヤー」で、どんどん進んでいるように思うのだが、例外もあるわけだ。このblogもWinPCでIMEで変換しながら書いている。最初にIMEを使ったとき、余りのバカさ加減に呆れ、ATOKを買って入れた。だがIMEもだんだんと良くなり、ま、今では我慢している。
結局、プラットフォーム技術をPCでもインターネットでも握られてしまっているから、ワープロ専用機もガラケーもビジネスとして長続きすることはなかった。突き詰めれば、敗戦国の悲哀というべきか。ビジネスとしてはその現実を嘆いても仕方ないので、それを前提にどうやっていくかが問われる。
207:私と同い年の歌手がブログにこんな主旨のことを書いていた。今の子たちは確かにお金がない。けれどもパソコン一台とインターネット環境があれば、世界中の音楽が聴け、古今東西の名画が見られ、文芸作品も含めて多種多様な記事を読むことができる。これは昔でいえば数百万円の資産を持っているのに等しい、と。（松浦利英子『未読本リスト』）216:ワープロ専用機は過去の遺物になった、ように見える。だが捨てられない。ワープロ専用機で日本語を打つときのスムースさ、納得感が、いまだにコンピュータで得られないからだ。持っているのはシャープの『書院』シリーズの、販売当時は最上位だった機種。この方は、日本語がよくおわかりだった。（中村和恵『かってワープロ専用機というものがあった』）244:私は、東北の人たちを「素朴だ」とひとくくりにするのには同感できません。太宰や茂吉の複雑な文学の、どこが「素朴」でしょうか。（ドナルド・キーン『わが東北の思い出』）252:日本ではチームワークというと、みんな念頭におくのが野球だが、ラグビーやサッカーのような「ゴール追求型スポーツ」では、違うチームワークの仕方をしないと勝てない。野球は「ピラミッド型あるいはコントロール型の組織」で「上意下達の世界」だが、ラグビーでは、ゲームの核心はボールを手にする側が代わった際の「ターンオーバー」にある。（加藤典洋『「津波てんでんこ」とラグビー』）
2015年12月20日
メタファー
次に2012年版。こうしてみると、エッセイの醍醐味の一つはメタファーだと思うのだが、伊藤礼がクレジットカードを評して、「これは、まるで原子力発電所をサイフの中に入れているようなものだ」というのは面白い。
尤も、クレジットカードも直ぐにカード会社に紛失報告をすれば無効にしてくれるし、万一、悪用されていても、それが本人に請求されることはない。原子力発電所の場合でいえば、「万一、事故の際は国が責任を持ちます」ということか。
何れにしろ、既存の原発を使わずに済むほどの「余裕」は日本には残されていないと思う。原発は建設費が高く、ランニングコストは安く、廃炉費は高い。一旦作ってしまえば、それは「サンクコスト」なので、今後の運営費には影響しない。廃炉費も一旦作ってしまえば、今後利用してもしなくても同じだ。CO2を排出しないのも大きなメリットである。
144: 平素から、サイフを失くしたら面倒なことになるぞとは思っていた。それが現実に起きてしまったのだから、これは大変だと思ったのである。大変の第一はお金が無くなったことであるが、それより困るのはクレジットカードのことだ。これを誰かに悪用されると被害甚大になると聞いているからだ。これは、まるで原子力発電所をサイフの中に入れているようなものだ。そんな剣呑なものは持ちたくないが、事情があって持っているところは電力会社並みだ。（伊藤礼『失せ物落とし物』）276: たとえば音楽を何千曲もとり込める装置があるという。しかし音楽は沢山聞けばいいというものではないだろう。好きな曲をくりかえし聞くから心に届くので、本来くりかえしをぬきには深い喜びはないのかもしれない。しかし、安価で手軽に多量の曲を聞けるようになれば、どうしても一曲をくりかえし聞く集中力は乱されてしまうのではないだろうか。284: 梅原邸に出入りするようになった初期に聞いたことばで忘れられないのは、「若者はキバをむきだせ」ということであった。平和で安定した現代の社会生活では、イノシシがキバをむきだして猪突猛進するような行動は必要なく、キバをふりまわされたら迷惑でもある。しかし、キバを失ったイノシシはブタになる。おまえたちはブタにはなるなと、学生たちを扇動したのである。（石毛直道『梅原さんの酒』）
2015年12月19日
ベスト・エッセイ
たった3年間の教員時代には稀にマスコミに載って、アクセス数が急増することもあった当blogだが、いつもは100人前後の友人が読んでくれるだけである。それでも、「塵も積もれば山となる」で、累積訪問者数は16万人を超えている。
元はといえば自分の備忘録なので（後で検索できるのがいい）、宣伝は一切してない。それなら、自分だけのために「日記」を付ければいいのだろうが、続かない。このblogが続いているのは、数は少なくとも誰かが毎日読んでくれて、たまにはコメントをくれる「読者」が居るからだ。
多少は「つづり方」も覚えようと、『ベスト・エッセイ』なるものを読んでみる。知らなかったが、日本文芸家協会編として毎年出版されているらしい。まずは2011年度版。流石、うまい。作家ではない人もいるので、可能性はある。うん。
70:彼は知り合いに誘われるままに船に乗り、自慢の喉で船員たちの人気者になり、船上ではVIPゲストの待遇を受け、むろん船賃はタダでホノルルに渡る。ハワイには同じ沖縄出身の仲間たちが大勢いて、彼らに歓迎され、盆踊り大会や、のど自慢大会や、結婚式などに招かれ、その都度、歌舞音曲のサービスに努める。代わりに宿と食事が用意されるというわけである。ホスト・ファミリーを何軒か転々としながら、楽しく過ごし、チップや謝礼ももらい、そろそろ家族が心配する頃合いを見計らって、家に帰るのである。温学区は旅する身を大いに助ける。人の心を和ませる芸を持っている者は何処でも生きていける。（島田雅彦『旅芸人になる』）140:今では多くの人が、イタリア・ルネサンスや古代ローマの歴史を書くことは塩野七生の天命とでも思っているかもしれない。ところがその「天命」なるものは、娘時代の自信の無さをどうにかしなくてはという思いで始めた数多の悪あがきの結果にすぎないのである。だから若い人たちも、簡単にシラケないで悪あがきしてほしい。マキアヴェッリの次の一句を贈ります。「やらないで後悔するよりも、やって後悔するほうがずっとよい」（塩野七生『若者たちへ』）324:立松さんは人間が好きなひとだった。「あいつ、面白いヤツだからさあ」「いいヤツだっぺ？あいつ」という言葉を何度聞いただろう。「面白いヤツ」「いいヤツ」の幅は広い。それはすなわち立松さん自身の懐の広さでもあった。都市の雑踏も好きだった。いささか猥雑な裏通りにもすんなりと溶け込み、喧騒のうずまく安い居酒屋で酒をうまそうに飲んで、そういう混沌の中にこそ「面白いヤツ」「いいヤツ」はひそんでいるんだ、と信じているようでもあった。（重松清『人間が好きだった立松和平さん』）
328:母の絵は上手ではないのだが面白く、はっきり雑なのだがユニークだった。ようするにアーチストがそれと気付かずにフツーの主婦をやっていたのだ。（南伸坊『カーネーション』）
2015年12月18日
香川のUターン人材
「ことでん」で高松築港から17分、車で高松中央ICから15分のところにあるのが仏生山。江戸時代、高松藩松平家の菩提寺・法然寺の門前町として栄えた。しばらくひっそりしていたが、この10年ほどで古い街並みの中に新しいカフェや雑貨店が出来、外国人を含む観光客が増えている。
その先駆けとなったのがCafe Asile（アジール）。地元に戻ってデザイナーの仕事をしていた倉橋直嗣さんが2004年にオープンしたカフェ。漆器屋を営んでいた築80年のご実家を改装した、モダンX古民家カフェのはしりである。倉橋さんは街づくりの核となって活躍されている。
近くにはグッドデザイン賞を受賞した仏生山温泉もある。設計したのは、東京の「みかんぐみ」で働いていた岡昇平さん。温泉を掘ったのは岡さんのお父さんだ。
こうしてみると、香川にも結構、人材がUターンしている。まちづくりで活躍しているのも、外で働いていたり、あるいは、仕事で県外＆海外に出る機会が多かった人が多い。 ずっと地元でいる人には「当たり前」で、中々その価値が分からないのだ。
2015年12月17日
Cafe de Flots
香川県の昼はうどんが定番なので、それにかかる時間も費用も最小限。そのため、昼食をメーンにした外食チェーンにとっては厳しい場所と言われている。
ところが、一方で、喫茶店の数も多い。統計によれば、人口10万人当たりの喫茶店数は98件で全国上位。これは東京の倍だ。
不思議なことに、うどんに300円以上払わないうどん県人が、カフェランチには喜んで1000円払う。おそらく、「うどん300円＋その後喫茶でコーヒー400円＝700円」なら、最初からカフェランチにすれば移動もなくてゆっくりできるから1000円でも合うという計算高い？讃岐人の判断なのだろう。
三豊でオーシャンビューのカフェといえば、Cafe de Flots。目の前は海で、沖に蔦島が見える。今年10周年を迎え、すっかり地元でも定着した。仁尾町の海沿いの道（県道21号線）にあるが、建物は倉庫そのものだし（元倉庫）、看板は最小限なのでそうと知らないと通り過ごしてしまう。オーナーの浪越さんに、「看板を変えないんですか？」というのだけど、「風景に溶け込む」今のままがいいのだという。
写真のカレーと、オムレツ、それにハンバーグが定番のランチ。ランチのみの営業で、夜は予約のみ。
2015年12月16日
地中海カフェ PLAYA
香川県の東側を東讃という。「海の銀座」とも言われ、瀬戸内海航路の船が頻繁に行きかう高松沖や西側とはまた違ったのんびりした雰囲気の瀬戸内海が望める。
その風景は「地中海のようだ」ということで出来たのが、「地中海カフェ プラヤ」 オーナー経営者の中山さんは元デザイナーで、その趣味が店の設計に生かされている。店内いたるところに飾られているのはアーティストである奥様の作品で、その多くは販売されている。
ランチは1000円のプレートランチ（写真）のみ。土日祝のみオープンで、店内禁煙。そして、子供の入場お断りなので、注意。
2015年12月15日
『十七条憲法』の原点に戻る
先週末の忘年会で、著者の岡野さんから献本いただいた。私は初対面だったのだが、MBAの教え子が連れてきてくれた。
聖徳太子の『十七条憲法』というと、「和を以て貴しとなす」で始まる日本で最初の成文法だが、高校の日本史で簡単に習って以来、読み返すことがなかった。岡野さんの主張は、「ここに日本の原点があり、ここに戻って日本を再生しよう」というものである。そして、『十七条憲法』を最も具現化してるのが「緑の福祉国家」スウェーデンなのだという。
『十七条憲法』の精神はよい。私も改めて読むと、本当によく考えられていて、これを目標にすべきだと思えるのだ。しかし、これを実現するには小さな政治単位にしないことには無理である。北欧の高福祉高負担社会は世界の研究対象になって久しいが、他の地域で実現できたところは皆無だ。その基礎にあるのは、国が小さいことからくる国民の一体感と危機意識である。北欧の厳しい自然環境が国民性に与える影響もある。日本のように温暖で、「何とかなる」地域ではない。
仮に、1.3億人のスウェーデン人（現実は960万人）が日本に住んでいたとしたら同じことができたか？人口が多ければ、「私だけズルしても」と思う人は増える。国民番号制度が長年導入できなかったのも導入されては困る人がそれだけいたということだろう。日本にそもまま高福祉高負担を持ち込めば、脱税と福祉タダ乗りで瞬時に国家財政は破綻するだろう。スウェーデンが国民番号制度を導入したのは1947年である。
やるなら、道州制導入を前提としなければ無理だと思う。
93:私たちはマルクス主義的な歴史学で戦後教育を受けてしまった119:第一次大戦、第二次大戦の混乱期を武装中立でみごとに乗り切ったスウェーデンの歴史を見ていると、やはりトップリーダーが賢かった。174:国家持続可能性ランキングNo.1スウェーデン国連自然保護連合が環境を中心に年金、福祉も含め国家の持続可能性をランク
2015年12月14日
ビジネススクール卒業生がMBA現役学生にローン
先日届いたLBS同窓会誌にProdigy Financeという会社の広告が入っていた。
"Prodigy Finance connects alumni investors with student borrowers at leading business schools. Earn a competitive financial return by investing in the next class of LBS students. An investment in LBS's interest that will pay you interest."
要するに、卒業生に対し「現役学生にローンを付けませんか」ということである。こういった、貸し手と借り手を結び付けて手数料を取るビジネスは、Peer to Peer Lendingとか、Social Lendingとか言われる。
2006年にProsperが始まった時は、自分のやりたい夢などを書いて、それに共感する人が寄付をする感覚だった。ところが、それではビジネスとして拡大するには限界がある。次第に、従来銀行が担ってきた通常の企業向け融資や、不動産担保融資を扱うようになり、投資家も個々の案件に融資するのではなく、複数案件をポートフォリオにしたファンドに投資するようになった。
存在するのはWeb上の仕組みだけで、高給の銀行マンや店舗がないから、高いリターンが得られる。2014年12月NASDAQに上場した米国大手のLending Clubのレートを見ると9%前後のリターンがある（リスクによって変わる）。金利がより低い日本では5-6%のようだ（Crowd Bankの例）。
Prodigy Financeは2007年にINSEAD MBA卒業生3人によってスタートし、融資先を世界のトップBSの学生に限定した学生ローンに特化しているところが特徴である。これらのBS卒業生の初任給は1000万円を超える一方、学費も1000万円位かかるので、多くの学生はローンを組む。昔は、入学式に銀行が出張所を開いて学生ローンの受付をしていたが、現在はどうなのだろう？
2015年12月13日
The World Cafe
「高松冬の祭り」で開かれたワールド・カフェなるものに参加。このワールド・カフェ、調べてみると2011年から毎年行っていて、今年で5回目ということ。当初ファシリテーターは元同僚の八木陽一郎先生。そういえば、そんな案内をいただいた気もする。
今回のファシリテーターは香取一昭さん。「チェック・イン」の後、ワールド・カフェの由来を話してくれた。
Juanita Brown（アニータ・ブラウン）氏とDavid Isaacs（デイビッド・アイザックス）氏によって、1995年に開発・提唱されました。
当時二人が、知的資本経営に関するリーダーを自宅に招いた話し合いの場において、ゲストがリラックスしてオープンに生成的な話し合いを行えるように、様々な工夫を凝らした空間で話し合いを行った結果、創造性に富んだダイアローグを行うことができたことが始まりとなります。
その後、想像できないほど多くの知識や洞察が生まれたことに感銘を受けた二人が、その経験から主体性と創造性を高める話し合いのエッセンスを抽出してまとめたのがワールド・カフェです。「知識や知恵は、機能的な会議室の中で生まれるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる『カフェ』のような空間でこそ創発される」という考えに基づいた話し合いの手法です。
- 本物のカフェのようにリラックスした雰囲気の中で、テーマに集中した対話を行います。
- 自分の意見を否定されず、尊重されるという安全な場で、相手の意見を聞き、つながりを意識しながら自分の意見を伝えることにより生まれる場の一体感を味わえます。
- メンバーの組み合わせを変えながら、４〜５人単位の小グループで話し合いを続けることにより、あたかも参加者全員が話し合っているような効果が得られます。
- 参加者数は12人から、1,000人以上でも実施可能です。
参加してみての感想は以下の通り。
・「リラックスして集中」できる環境づくりが大切
・参加者のテーマへの関心が高く、かつ、背景＆経験が違っていることが大切
今回のような自由参加の場合、テーマによりあらかじめ参加者の選別ができる（興味ない人は休日にわざわざ来ない）。
今回のテーマは、「高松の良さ」「より高松をよくするために」であった。自分に出来ることは、得意分野である、
・ベンチャー育成
・海外との交流
を掛け合わせて、Local to Localの実現のような気がした。例えば、海外企業が日本に進出するときの足掛かりに香川がならないか？ということだ。業種や会社規模によっては最初から東京に出るより、香川県企業と組めないか？そのためには、もっと多様なベンチャー企業が地元に必要だ。
2015年12月12日
日本のオリーブ消費量は5万トン、生産量は40トン(年間)
快晴の土曜日、朝から「荘内半島オリーブ農園」へ出かける。2年前から始まった荘内半島では初の本格的なオリーブ農園だ。
背景にあるのは、国内でのオリーブオイル消費の急速な拡大である。上記の図はオリーブオイルの輸入量とその金額（財務省貿易統計）。90年代のイタメシブームでそれまで年間に数千トンの輸入だったものが10倍の3万トンになった。さらに、近年「健康にいい油」という認知が広まり、さらに消費が拡大している。伝統的な主要消費国ではむしろ消費は減少傾向にあり（元々が取りすぎ？）、これほど消費量が増加している国は他にない（下図）。
この需要の99.9%を賄うのは輸入で、国内生産量は40t前後と推定される。これは、最新の果実収穫量200tから2割の油が搾れるとして計算したもの。小豆島でのオリーブ生産は明治41年に始まり、当初はイワシやマグロの油漬け缶詰の充填剤として利用されていた。最盛期である昭和30年代には280t（果実）まで拡大したが、昭和40年代に輸入が自由化されると衰退し、1991年には果実生産量21tにまで減少している。その後は、上記のイタメシブームや化粧品としての用途が拡大し、1993年には39t、2013年には131tまで拡大（何れも果実）。今年の推定生産量は200tである。
このため、香川県でも小豆島に集中していたオリーブ農園が香川県の他地域、さらには県外にも広がっている。これまでミカンなどを生産していた農地が、「ミカンの1/4の労力で、4倍のキロ単価が得られる」というオリーブ生産に各地で転換されているのだ。
かつては、ミカンが儲かるといわれ、全国の農協がミカン作りを指導して生産量が急拡大し、価格が暴落した。同じことをしたがる日本人の特性かもしれないが、現在では農家数が減ったうえ高齢化し、農協の影響力も激減している。同じ轍は踏まないと思われる。輸入量が99.9%なので、需要と供給の均衡点はまだまだ先ということもある。
今後、国内生産がどこまで広がるのか興味深い。
2015年12月11日
光クラブ事件
先日の『潮騒』のついでに読んだのだが、こちらは全然ダメ。難しい表現が多くて読みにくく、構成的にも主人公の一高入学から戦争から復員して東大復学まで6年間突然飛んでいたりする。発表は1950年で『潮騒』(1954)よりもかなり前。まだ、小説家として未熟であったということか。
1948年の現役東大生による闇金融事件に材を取った最初の小説といわれる。同じ「光クラブ事件」をモデルにした小説としては、高木彬光の『白昼の死角』がある。こちらは、史実とはかなりかけ離れているが、小説としては抜群に面白い。そのため、TVドラマや映画にもなった。
40:「きれいな目をしていた。笑うと目の中にきれいな漣が立つようだった」
103:1940年代の後半は生活の時代であった。人々は生活を夢みていた。インフレーションとは、貨幣が空想過剰に陥って、夢見がちになる現象である。夥しい不換紙幣も生活を夢見ていた。
2015年12月10日
まちづくり推進隊理事長連絡会
久しぶりに「まちづくり推進隊」の話題。三豊市では、地域コミュニティ活性化のための自主組織を旧町単位でつくり、市からの財源を基に活動している。
現在、先行して試験的に発足した詫間町が4年目で、それ以外の6町は3年目。私も理事長に就任して3年目ということになる。ベンチャー関連で集まると、最高齢ということも多くなってきた私だが、ここでは最年少だ。
1年目、2年目と、理事長が集まる機会が一度だけあったのだが、今年は気が付くと一度も集まらないまま既に年の瀬。今年は皆さんどんな活動状況で、何がうまくいって、何がうまくいってないのか、気になったので私から声をかけて集まっていただいた。3年もたつと、それぞれの活動内容に違いが出て面白い。
一番の共通の課題は、「住民の参加率が上がっていない」こと。元々潜在的にあった自主コミュニティ活動に関心の高い層が会員になって発足して以来、どこも会員数は頭打ちになっている。もう一つは、会員の中での活動への参加率の低さである。本来、自主活動組織であるから、それぞれの会員が自分がコミュニティのためになると信じる活動に参加して欲しいのだが、参加しないままの会員も多い。
自分たちがやっているのは、「住民が自分たちでできることは自分たちでしよう」という「意識改革運動」だとつくづく思う。来年は、合同の活動発表会をやって、情報発信にも努める予定。
2015年12月09日
TCP最終発表会
TCP最終発表会終了。全国から参加した14のチームが事業計画を競い合い、最優秀賞1チーム、優秀賞2チーム、審査員特別賞3チームに加え、学部生だけで2年連続挑戦した崇城大学（熊本）のHero Eegが審査員奨励賞に選ばれた。Melody Internationalは残念ながら選ばれず。
最優秀賞を受賞したのは、名古屋大学発のA Protein synthesis System 3.0（PSST）。その名の通り、タンパク質の合成システムで、旧来の方法に対して数十倍も速く合成出来て、しかも合成できるタンパク質の種類が多い。
私は10年前に同じく、無細胞タンパク質合成のベンチャー企業に投資していたので、その革新性がよく理解できた。3か月前のTCP研修で隣になり、初めてプレゼンを聞いた時から優勝候補筆頭とみていたので、これは順当。
おそらく、次の観点から審査されたと思う。カッコ内はPSST。
・技術的なインパクトと実証性（CELLにも論文が載ったしっかりした研究で既に世界の著名50研究機関で使われている）
・市場の大きさ（世界中の創薬研究と製薬企業が必要とする技術で市場規模が何兆円とある）
・経営陣（他の大学発ベンチャーは、「社長募集中」が多かったが、民間出身の経営者と大学の研究者のチームが既にできている）
2015年12月08日
潮騒
『潮騒』というと、三島由紀夫の小説より、「山口百恵と三浦友和が共演をきっかけに結婚した」（その前に『伊豆の踊子』があったけど）映画のほうが気になるという百恵世代なのだけど、例によって、原作は読んだことがなかった。
三島由紀夫スゴイ。東大在学中に作家デビューした早熟の天才。作品はみずみずしく、読んでいると、「自分にもそういう時があったなー」と若返る(笑)。
作品自体の出来とは関係ないが、小説が出版されたのは昭和29年で、沖縄返還のはるか前。主人公が船で沖縄まで荷を運ぶ際には税関の検査を受ける場面がある。今の沖縄の混乱を思うと、「どこで間違えたのか」という気もする。
27: 「神様、どうか海が平穏で、漁獲はゆたかに、村はますます栄えてゆきますように！わたくしはまだ少年ですが、いつか一人前の漁師になって、海のこと、魚のこと、船のこと、天候のこと、何事をも熟知し何事にも熟達した優れた者になれますように！」(新治)
46: 若者は彼をとりまくこの豊饒な自然と、彼自身との無上の調和を感じた。彼の深く吸う息は、自然を作りなす目に見えぬものの一部が、若者の体の深みにまで染み入るように思われ、彼の聴く潮騒は、海の大きな潮の流れが、彼の体内の若々しい血潮の流れと調べを合わせているように思われた。
166:彼は耳をすました。颱風はその雄々しい頭上にあった。自然の静かな午睡のかたわらにも、このような狂おしい宴会の席にも、彼は同じように招かれる資格があった。
2015年12月07日
Competition Demystified
最近のビジネススクールで戦略論がどう教えられているかが簡単にわかる本。コロンビア・ビジネススクールの人気講義”Economics of Strategic Behavior"を再現したものだ。実例が多いので実務家にも分かりやすい。アメリカのケースばかりなのは仕方ない。
そもそも、「市場に競争優位が存在するか否か」から問わなければならない、というのは新鮮。多くの市場にはこれがないから、企業は果てしない効率性の競争を繰り広げる。いわゆる、レッドオーシャンだ。
そして、そうした市場の性格を決める最大要因は、市場への「参入障壁の有無」となる。参入障壁がなければ、儲かる市場には新規参入が増え、瞬く間に超過利益はなくなってしまう。
戦略思考：自社の競争優位を築き上げ、それを防御し、そこから最大限の利益を獲得する１．市場に競争優位が存在するか否か否→効率性で勝負 ⇔ 戦略が極めて重要＊参入障壁の有無２．存在するとすれば、それはどのようなものか？�ゞゝ詭漫瓮灰好藩グ��⊆�要面＝顧客の習慣、Switching Cost、代替品を見つける難しさ�５�模の経済＝固定費型の産業など
2015年12月06日
2015年12月05日
檸檬
昔から効率重視だった私は小説の類をあまり読まなかった。「読んで何になるの」という感じである。
社会に出てから、徐々に読むようになったのは、「フィクションのほうが人間世界の機微を鮮やかに描けることがある」と気づいたからだ。これを知らなくては、組織で働いたり、あるいは、顧客を魅了するのにも差支えがある。
この昭和6年に出た『檸檬』の完成度には驚いた。解説によれば、本書が最初に発表されたのは、対象14年東大英文科在学中に出した同人雑誌『青空』であったらしい。この短編小説決定稿に至るまで2年の間に4回書き改められる。梶井は、「散文の一行一行を、ほとんど詩作品の一行一行のように刻苦して完成していった」という。
この創作集の一冊が小林秀雄に送られ、小林はこの無名の作家の才能に驚く。昭和7年の『中央公論』文芸時評で梶井の文学を称賛するのだが、その時すでに重症の床にあった梶井は、この文芸時評が出た一月後の昭和7年3月、31歳の若さで 死んでしまうのだ。
いったい私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の格好も。
2015年12月04日
Venture Plan Essential Boot Camp総括
研修の最終プレゼン終了。これで評価されると思うと、いつもより緊張して、せっかく昨晩準備したスクリプトを何か所か飛ばしてしまい、持ち時間をかなり残してしまった。これが実践のプレゼンならこの後Q&Aだが、プレゼン研修なので、時間内の内容だけで決まる。
研修の内容は、正に自分がこれまでビジネススクールで教えていた内容なので、「今さら」という思いもあったが、自分でやるのと人に教えるのではいつまでたってもやはり違う。自分でできてないとチョット落ち込んだ。
最大の収穫は、研修に参加している他社。大学発ベンチャー、あるいは、創業準備中の研究チームがプレゼンするのだが、発表を聞いているとスゴイ技術の会社があって「日本も捨てたものではない」と楽しくなる。
その多くが、「社長募集中」というのも好ましい変化だ。10-15年前の大学発ベンチャーブームが完全に収束し、ベンチャー側も投資側も、「やっぱり経営者が一番大事」ということに気づいた。
今回の研修に参加した企業は来週、京都での最終発表会でも発表する。概要は下記のとおり。我々も発表するので、時間のある人は聞きに来てほしい。
研修の内容は、正に自分がこれまでビジネススクールで教えていた内容なので、「今さら」という思いもあったが、自分でやるのと人に教えるのではいつまでたってもやはり違う。自分でできてないとチョット落ち込んだ。
最大の収穫は、研修に参加している他社。大学発ベンチャー、あるいは、創業準備中の研究チームがプレゼンするのだが、発表を聞いているとスゴイ技術の会社があって「日本も捨てたものではない」と楽しくなる。
その多くが、「社長募集中」というのも好ましい変化だ。10-15年前の大学発ベンチャーブームが完全に収束し、ベンチャー側も投資側も、「やっぱり経営者が一番大事」ということに気づいた。
今回の研修に参加した企業は来週、京都での最終発表会でも発表する。概要は下記のとおり。我々も発表するので、時間のある人は聞きに来てほしい。
開催概要
| 日時 | 2015年12月9日（水）13:00〜17:30（受付12:30〜） ※ポスター発表会兼懇親会（会費制）を18:00〜20:00で開催いたします |
|---|---|
| 場所 | 京都リサーチパーク西地区 4号館地下1階バズホール (http://www.krp.co.jp/access/) |
| 参加費 | 最終発表会：無料／懇親会：2,000円（当日受付にて） |
2015年12月03日
経営者の値段
SRI International Boot Campでの続き。
昨日は、いよいよ事業計画作りに入った。誰にいくらで何を売るのか。いろいろとシミュレーションしてみる。その後、では、その売上げを作るのにどれだけのリソースが必要か、設備投資と経費を入れていく。そのやり方をシリコンバレーから来た講師が説明するのだが、シリコンバレーでの標準が分かって面白かった。
最大の違いは人件費で、経営陣の平均年俸は$150-200K（2000万円）、従業員の平均は$80-90K（1000万円）であり、これは日本の一般的な新設ベンチャー企業の倍だろう。これに、CEOには会社価値の10%程度、CTOには2-4%程度、その他CXOには1-2%のストックオプションが付くのが普通だという。
一時は日本の平均所得がアメリカを上回ったこともあったが、今では、日本の1.5倍。シリコンバレーは全米トップクラスだから日本の2倍であっても何らおかしくない。「それ以下で働くのは、プロでない証拠」だという。
社長交代に関する質問が受講者から出た。
Q：社長交代の必要性についてVCとどう相談したらいいんでしょう？
A：「相談」の必要はありません。決めるのはVCです。
"It's my money. You work for me." （VC）
シリコンバレーでVC出資を求めれば、VCがマジョリティを持つのが普通なので、誰が社長をするのか決めるのもVCになる。小さな会社のオーナー経営者のままでいたいのか、資金を得て上場企業の創業者として大きな財産を作りたいのか、決めるのはあなただという。
2015年12月02日
Facebookはオジサンがやるもの？
Facebookを多用している私。仕事の連絡はメールだが、それ以外の友達とのやり取りはほとんどがFacebookになっている。Facebookは一日に何度も確認するが、メールは出先では見ないので、メールだと見逃してしまうことも。
今回の研修は大学発ベンチャーがメインで、学生の参加も多い。SNSの話になり、学生の半数はFacebookを利用していないというのでビックリした。それで何を利用しているのかというと、TwitterとLINEらしい。
そういう記事をどこかで読んだと思い検索してみると、ダイヤモンドZAI ONLINEの保田隆明さんのコラムだった。保田さんとはベンチャー学会で知り合い、Facebook友達である。
改めて記事を読むと、保田さんも授業にFacebookを取り入れていたとある。私も大学在職中に授業毎にFacebookのグループを作り、授業後に毎回、感想や質問を書き込んでもらっていた。個別に予習復習をやるより、グループでディスカッションしながら取り組む方が効率的に理解度を上げられる。特に、時間のない社会人学生にとっては必須のツールになっていた。
私が担当した学生は大学院生、それも30代＆40代の社会人が中心だったので、ほとんどがFacebookユーザーだった。たまに困ったのは、どうしても使いたくないという私より年齢が上の学生だったが。
今回の研修は大学発ベンチャーがメインで、学生の参加も多い。SNSの話になり、学生の半数はFacebookを利用していないというのでビックリした。それで何を利用しているのかというと、TwitterとLINEらしい。
そういう記事をどこかで読んだと思い検索してみると、ダイヤモンドZAI ONLINEの保田隆明さんのコラムだった。保田さんとはベンチャー学会で知り合い、Facebook友達である。
改めて記事を読むと、保田さんも授業にFacebookを取り入れていたとある。私も大学在職中に授業毎にFacebookのグループを作り、授業後に毎回、感想や質問を書き込んでもらっていた。個別に予習復習をやるより、グループでディスカッションしながら取り組む方が効率的に理解度を上げられる。特に、時間のない社会人学生にとっては必須のツールになっていた。
私が担当した学生は大学院生、それも30代＆40代の社会人が中心だったので、ほとんどがFacebookユーザーだった。たまに困ったのは、どうしても使いたくないという私より年齢が上の学生だったが。
2015年12月01日
SRI Boot Camp
Boot Campといえば、元は米海兵隊の新兵訓練のことだが、今では一般社会でも新兵訓練のような短期集中トレーニングのことをいう。
先日来取り組んでいるNEDOのTCPプログラムで勝ち進み、今週そのBoot Campなるものを受講中。研修を請け負っているのは、前回の5DOIに引き続きSRI International。毎日9-5で5日間続く。連日半日の講義があり、その後はチームで習ったことを即取り入れて翌朝のプレゼンに備える。
講師も前回と同じ、シリコンバレーからやってきた、ベンチャー企業経営経験者と、ベンチャーキャピタル出身者。内容はどこのMBAプログラムでも教えている内容と変わりはない。
ただ、こうしてシチュエーションを様々に変えて連日プレゼンを行い、講師に加えて参加者からフィードバックを受け、自分の考えをを入れて修正し、翌朝またプレゼンをするサイクルを5日間集中的に繰り返すことで、事業計画とプレゼンスキルが飛躍的に向上することは間違いない。
