2015年09月
2015年09月30日
日本の高知化
今回の高知遍路の旅で、お寺以外に寄ったところが二つ。それが、高知県立美術館と牧野植物園。寄ったのは日曜日だったが、美術館のシャガール展示室にも、牧野植物園の牧野富太郎記念館にも、30分余りの滞在中に見学者は私一人。すさまじい低利用率なのだ。
どちらも素晴らしい施設で、建物も展示内容も立派。県立美術館は「約1300点に上るシャガールの世界的コレクション」で有名だし、牧野植物園は17.8haの広大な敷地の中に、内藤廣設計で村野藤吾賞を受賞した牧野富太郎記念館などが点在する。どちらも、レストランやカフェ、庭園などがあって、一日中過ごせる施設だ。
こうした公営施設が税収豊かな地域に在って、それが多くの市民に利用されているなら、例え、その維持に毎年莫大な税金が投入されていても、それは意味のあることだろう。ところが、高知県は全国最低水準の平均所得で（図）、当然、税収も少ない。県の財政の大半は国からの交付税で賄っている。その上借金をして（公債）、県民がほとんど関心のない施設をこの規模で造るというのは常軌を逸している。
個人的にはシャガールの魅力はディズニーランドに負けないと思うが、県立美術館の常設展の入場者は年間1万人に満たず、高知県はその維持に年間3億円を投じている。TDLは年間に３０００万人以上が利用する。言ってみれば、360円の入場料（現在）は、本当は3万円掛かっている。県民がシャガールに関心がないのであれば、その価値が分かるコレクターに売った方がシャガールも浮かばれるというものだ。
高知はその経済水準に対して公共施設が顕著に立派過ぎると感じたのだが、これは日本全体にも言えることだ。旭山動物園は1990年代に年間入場者数が30万人を切り（しかも、有料入場者は10万人以下）、旭川市が一時廃園を検討した。それを機に、職員の間で危機感が出て、その後の展示や運営の抜本的改革につながり、入場者数は300万人を超えるまでになった（うち250万人近くが有料入場者）。全国の多くの公共施設が、改革前の旭山動物園状態だといえる。
2015年09月29日
考えない従業員
自転車遍路高知編その２は、二日間で高知市周辺の6寺（No.31-36）を回り再び香川に戻った。そのまま足摺岬から、宇和島、松山を回って一気に香川まで回る準備もしていたのだけど、どうやら、週後半の天気が悪そうなので、二日で切り上げた。足摺から宇和島の、四国で一番深い辺りで足止めを食らうと、戻ってくるのも大変なので。
そんなわけで、帰りは予定外の高速バス。時刻表を確かめ、荷物を預けた前泊のホテル近くのはりまや橋バス停へ向かう。切符売り場で、「自転車を乗せられるか」と念のため聞いたところ、ダメだという。「輪行袋に入れる」と言ってもダメ。JRでは輪行袋に入れれば、車内に持ち込める。胴体下の荷物室に入れるバスでは、客室に持ち込むことすらしないのに、なぜダメなのかが分からない。このオバサンが言うには、「そういう規定」ということなのだ。
諦めてJR高知駅に向かうことにする。最初からJRにしなかったのは、高速バスのほうが安くて速いからである。戦前に開通した高知と香川を結ぶ土讃線は山間を縫うように走るのに対し、平成に開通した高速道路は最新技術と莫大な借金で急峻な四国山地を多数のトンネルと巨大な橋で縦断している。
高知駅に向かう途中考えた。
「どう考えても、自転車を積めない理由が分からない。さっきの従業員が分かってないだけではないか」
そこで、高知駅にある同じ高速バスの切符売場へ行った。聞けば、
「乗客数により、運転手の判断になります」
ということ。聞いてもらった結果は、OK
実際に乗ってみたところ、乗客数は10人未満であった。二つあるバスの荷物室の片側に何個か乗客のカバンが入り、もう一個に私の自転車が入った。夜、実家に戻ってから土佐電鉄のHPを調べたが、自転車についての規定は見つからなかった。だとすれば、はりまや橋のオバサンの言う「規定」とは何だったのか？ということになる。
・HPには載せていない内規はあるが現場では柔軟に運用している
・単にオバサンは面倒くさかった（それで売上が増えても自分の給与に関係ない
）のどちらかだろう。会社の収益を考えれば、乗せる方が良い。私が経営者なら、500円位余分に取って乗せる。フェリーだって自転車を乗せるには別にお金を取るのだから、納得できる。500円追加してもJRの特急で行くより、安くて早い。
しかし、経営者がたまたま自転車に関心を持ってない限り、ここまで自分で気づくことはまずない。「良い会社」であれば、従業員から「最近、そういう問合せが増えています。この際、きちんと規定を作って、持ち込み料金を取ったらどうでしょう」という提案があるはずだ。
こうしたことの積み重ねが、10年経てば、高収益企業と低収益企業の差を創る。
2015年09月28日
桃太郎の末裔たちの国
桃太郎が史実に基づいている、というのが面白い。ここでも再び、帰化人の影響。
176:岡山県といえば日本でも有数の頭脳県とされている。ここから輩出した秀才官僚、軍人、学者はあげてかぞえるにたえず、いまでこそ日本中が教育ママのるつぼになったが、この県はそういう点での先駆県181:「宿場町ですからね」（中略）どうしても人はすれっからしになりがちだというのである。時勢に昂奮するのは僻地の藩であり、こういう天下の公道の目抜きの一等場所にある藩はそうはいかないという。187:「温羅」という悪漢が、当国最大の古社吉備津神社（岡山市）の社伝に登場する。悪党ながらおそらく気概にとんだ朝鮮人だったのであろう。族人をひきい、海をわたって日本に上陸し、最初は日向国に住み、つづいて、吉備国にあらわれ、「予は百済王である」と称して、国中に君臨し、いまの総社市の阿曾あたりに城をきずいた。記紀でいう第十代崇神帝のころだというから、まことに時代は古い。社伝によればこの温羅がじつに凶悪で、近郷を荒らし、海に出ては船荷をかすめ、美女とみれば掠奪し、国中の者はこれを鬼とよんでおそれたという。吉備国の力ではこれをどうすることもできなかったから、国人たちは援けを大和にもとめた。大和から派遣された痛快無比な英雄が、吉備津彦である。「それが桃太郎ですよ」193:倉敷の資産家たちのほとんどが明治後産業革命の波にあらわれて傾き、新規事業をした大原家ぐらいが栄えた。先代孫三郎というひとは複雑な個性のひとであったが、岡山県における桃太郎型の巨大な代表者で、「なにが善であるか」を生涯追及した。蓄財を一種の悪徳と見、これを社会に還元することをかれの善とした。
2015年09月27日
中高年のアイドル
昨日は、「まちづくり推進隊高瀬」の研修旅行で、兵庫県豊岡市へ。ここは、山陰海岸ジオパークの本部が置かれている場所。コウノトリや玄武洞と言った地域資源をジオパークを通じて、どうまちづくりに活かしているかを見に行った。兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科の先山教授からもお話を聞いた。
その帰り。
三豊市から豊岡まではバスで4時間の長丁場。見学の疲れから多くの人が車中で昼寝した後、バスのTVにかかったのが「綾小路きみまろ」のDVD。我々の年齢層を見て運転手さんが選んでくれたのだろうが（何しろ、私が一番若い方）、60-70台の女性にスゴイ受け方だった。
毒舌で観客をいじりながら漫談が進む。私は全く知らかなかったが、2004年には山梨県で長者番付2位にもなっているらしい（長者番付はその後税務署が公表中止）。
特定の年齢層のアイドルというのは、若者だけではないと悟った次第。
2015年09月26日
独立王国薩摩の外交感覚
「大宰府は獰猛な隼人を鎮撫するために行政や文事に馴れた帰化人を薩摩と大隅の地方官にした」(p159)ことから、隼人の武力と、帰化人の大陸で鍛えられた外交感覚が合わさり、雄藩を創った。ここでも、帰化人の影響は大きい。
「もし薩摩人が昭和10年代の日本を担当していたなら太平洋戦争はおこさなかった」という島津家当主の意見が面白い。西南戦争を起こしていなければ、薩摩の影響力は続いたというのが歴史のIF。
155:薩南の地にきて思うのは人生のことよりも天下のことである。北方の氷雪は人間を内攻的にし、西南の陽光は人間を外攻的にするというのはいかにも図式的だが、すくなくとも津軽うまれの太宰治を薩摩にうまれせしめれば別な人間になっていたかもしれないし、逆に、太宰以上に大いなる感情家であった西郷隆盛を津軽にうまれせしめれば、その豊富な感情はおそらく治国平天下のように向かわなかったかもしれない。いずれにせよ風土ということについての日本における代表選手はなんといっても津軽と薩摩だが、両者はこれほどにちがう。156:その特異さは、まずこの国は日本歴史においてすくなくとも五度以上、日本そのもの（中央政権というべきか）に対して大規模な戦争を挑んだ国であるということである。こんな土地は、他に絶無である。158:島津氏自身が、鎌倉時代には惟宗性を称していたから、帰化人を公称していたことになるであろう。惟宗というのは、この稿の京都の巻で書いた帰化人秦氏の直系のことである。164:秀吉との戦いにおいて日本を知り、英国との戦いから世界を知り、いずれも知っただけではなく日本機構や世界機構を百も利用してやろうという精神の積極性、その利口さ、理解力の柔軟さというのは、同時代の他の日本人にはほとんどみられない。
171:先般なくなった島津家の当主忠重氏（明治19年うまれ）は、かつて「炉辺南国記」という回顧録を書き、そのなかで「もし薩摩人が昭和10年代の日本を担当していたなら太平洋戦争はおこさなかったでしょう」という意味のことを物やわらかな語り口で書いておられるのは、薩摩人の思考法をよく知ったことばというべきであろう。薩摩人は思考法だけでなく、日本人のなかでは例外といっていいほどの豊富な体験でそれを裏打ちしていた。
2015年09月25日
”好いても惚れぬ”権力の貸座敷
京都の太秦（うずまさ）が「秦（しん）」から来ていたとは
必要に応じて交流するほどには近いが、大陸の混乱の影響を最小限にとどめられる極東の島国の地政学的幸運を思わずにいられない。130:その滅亡した秦王朝の貴族の一部が朝鮮半島に逃げた。「魏志東夷伝」にそのころの朝鮮の記述がある。朝鮮は、馬韓、秦（辰）韓、弁韓にわかれている。このうち辰韓については「古ノ亡人、秦ノ役ヲ避ケテ来テ韓国ニ適ル」とある。（中略）その辰韓民族が、何世紀かをへて日本にきたのである。このことは日本側の正史である「古事記」にも「応神紀」にも記載されている。応神天皇の14年（西暦283年）、弓月君という朝鮮貴族が120県の民をひきいて日本に帰化した――と。141:長州藩は幕府側諸藩をひっくるめても及ばぬほどに祇園で金をつかった。（中略）こういうこともあって、祇園町は挙げて反幕勤王化した。
148:むかしから大阪では「京女は好いても惚れぬ」といわれてきた（中略）これらの権力の狂宴のなかでは秀吉と長州人のみはもっとも好かれた。しかし好かれても惚れられたかどうか。豊臣家の滅亡と運命を共にした京都人はいなかったし、また長州人に心中立てをして革命の火をくぐって死んだ京都人もいない。
2015年09月24日
近江商人を創った血の秘密
連休中の読書はさらに続く。今度は、「近江商人」の章。
近江商人はなぜ、ずば抜けた商才と簿記などの経営管理技術を持っていたのか？どうやら、それは、当時文明の進んでいた朝鮮からの帰化人（百済）にルーツがあるらしい。
あの三井家は「伊勢商人」だが、その伊勢商人が興ったのは、首領が転封されたのに伴い、近江から強制移住させられたからというのが興味深い。同じような例は讃岐（香川）にもあって、商店街の再開発で有名になった「丸亀町商店街」も、1588年、讃岐をおさめていた生駒氏が丸亀城から新築した高松城に移ったとき、城下の商人を引き連れて行ったことに発祥する。なので、丸亀町があるのは丸亀市ではなく、高松市なのだ。
島原が素麺の産地になったのは、島原の乱の後、不足した農民を幕府直轄領であった小豆島から幕府が強制移住させたことに端を発する。こうやって見ていくと、日本でも意外と人の大規模な動きが行われており、それが今も政治経済に影響していることがわかる。
64:蒲生氏郷は、秀吉によってその故郷の近江日野から伊勢12万石に転封され、松坂の城主になった。このとき氏郷は田園の中に都市区割をし、さらにこの新城下を商業都市にするために故郷の近江日野郷から、日野商人をほとんど、根こそぎに移住させた。「伊勢商人」の発祥である。この誘致された商人のなかには、この機に武士から商人になった者もおり、その最大なるものが三井氏であった。65:氏郷がすぐれた経済政策家であるとすれば、同郷の石田三成はすぐれた経済技術者であるといえるであろう。かれはかれ自身の創始的技術かどうかはべつとして豊臣家の財政を運営するのに、近代的な――ちょっと信じられないほどのことだが――簿記のようなものを用いているのである。
69:「帰化人が多く、文化程度が高く、そして計数観念の極度に発達していた江州人」（向井義郎『江州人』毎日新聞社 s37）
2015年09月23日
会津人の維新の傷あと
これも、連休中に読んでいる同書の一章。
香川で育った私にとって、東北はよく分からない場所。西日本で生まれたほとんどの人は、東は東京までで、そこから先に行くのは仕事で赴任でもしない限り、「旅行で何度か」だろう。私は付き合いは多い方で、殆どの都道府県の出身者に友人がいるが、そういえば、会津出身者には知り合いがいない。
本書に、松平容保における問題を主題にした小説『王城の警護者』を書いたら、容保の嫡孫で、松平旧子爵家の当主から、「祖父容保の立場と心事を維新後はじめて公平に書いてくださった」とお礼の電話が入ったエピソードが出てくる(p50)。その気持ちが現在も続いているなら、2012年のNHK大河ドラマ「八重の桜」では余程現地は盛り上がっただろう。
44:会津をふくめた奥羽のひとびとは、こと文学に志すとどうにも根元的な、第一義的な、たとえば人間いかに生くべきかといったふうの大岩壁のような命題にむかって頭をぶっつけ、体をたたきつけ、血みどろになりつつもなおその岩壁をかけらでも欠きとろうとする。宮沢賢治、石川啄木、葛西善蔵、石坂洋次郎の初期、中山義秀、太宰治といったひとびとの共通項をひきだしてくればほぼこの意味が分かってもらえるであろう。上方や瀬戸内海沿岸の出身者は、栄光ある例外をいく人か認めることができても、多くはストーリー・テラーになり、画家はカラーリストになり、造形の真髄にせまることをむしろ野暮とするようなところがある。
45:江戸期の大坂のばくちうちは、全部がそうとはいわないが、軒下に宮さまの菊花紋章の提灯をかかげて賭場を開帳していた。京の宮さまにいくらかの冥加金をおさめ、その御家来という名目を拝領する。町の博徒が、である。
53:会津はここでいちいちあげることができないほどの差別を明治の中央政府からうけた。たとえば福島県が創設されるとき、常識的には大藩の城下町であるこの会津若松市に県庁がおかれるはずであるけれども、ことさらいまの福島におかれた。大正期の政府は第一次大戦後、ずいぶん多くの高等専門学校を各地に設立し、とくに高校（旧制）は大藩の城下町に置き、その文教の遺風をうけつぐという方針をたてたが、会津若松市だけは除外された。
「すべては長州人がそうしている」
と、会津人は信じ、事実、明治初年ではまぎれもなくそうであり、会津人のうらみは理由のないものでは決してない。
2015年09月22日
新・観光立国論
面白いことに、同じ月に同じ題名で本が出版されている。それが上記なのだが、今回私が読んだのは寺島さんの方。
観光業を中心とした「サービス産業の高度化」を説く。エコノミストらしく、「なぜそうしなければならないか」から統計を使って説明している。簡単に言うと、「日本を豊かにした加工貿易型の経済モデルは既に時代遅れで、これで今後食べていくことは不可能。金融では敵いそうにないから、なんとか豊かさを維持したいなら観光業くらいしかない」ということ。
本は読んでないが、昨日の日経新聞に載っていたアトキンソン氏のインタビュー記事でも、「日本は観光立国の4条件『気候』『自然』『文化』『食事』がそろう珍しい国」であり、「現状でも5600万人、将来的には8200万人の訪日客が可能」としている。ちなみに、昨年の訪日客実績は1341万人で、5600万人というと中国（5562万人）並、8200万人というと世界最多の外国人観光客を集めるフランス（8370万人）並みということになる。
これもアトキンソン氏の記事からなのだが、「サービスを高め、値段を上げるべきだ」というのは誠に正しい。日本では国宝級の文化遺産がある施設でも拝観料が1000円以下の施設が多いが、それでは税金の補てん無しに文化財は守れないのは自明だ。バチカンなどでは1万円以上払わないと見たり説明を聞いたりできない施設もあるという。
「それでは日本人も気安く見れないではないか」という声もあるだろう。ならば、公共施設においては、自国民には安く、外国人旅行客には高くすればいい。自国で税金を払っていない外国人に料金を高くするのは海外では当たり前だ。既に一人当りGDPでも、アジアで4位であり、大国意識は捨てた方がいい。シンガポールどころか、香港やブルネイより所得水準は低い。
こうした「安くして数を呼ぼう」というデフレ時代の発想から転換しない限り、日本人はますます貧しくなっていく。5年前にカナダから来日したLBS同窓生は、月50万円する六本木のサービスアパートを3か月間借りて、そこ拠点にして日本各地だけでなく、韓国や中国にも足を延ばした。私も四国に案内した。夫婦で数百万円使ったと思う。こうした旅行客をどれだけ呼び込み、リピーターになってくれるかと云う事だと思う。
11:もはや日本はアジアの先頭を走る豊かな国ではない
2014一人当たりGDP
�．轡鵐�ポール $56,319
��香港 $39,871
��ブルネイ $36,606
�て�本 $36,33218:3000万人の人口が減る国に海外から年間3000万人来てもらうことで、なんとか日本経済の活力を保てないかという試み19:貿易収支は2011年以降、4年連続で赤字＋貧困化勤労者世帯可処分所得 473千円（2000）→424千円（2014） ▲月49千円（年間588千円）2000~2012年雇用者数（年間平均所得）製造業 -225万人（521万円)建設業 -128万人（495万円）サービス業 +471万人（328万円）
2015年09月21日
竜馬と酒と黒潮と
連休なので、軽いものを読んでいる。本書は高知の風土解説から始まる。
11:豊臣時代、大阪城下の町民たちがはじめて土佐武士というものを見た。土佐の長宗我部氏が秀吉に降伏し、大阪へ上ってきたのである。（中略）
―その風体、夜盗に異ならず。
北を険しい四国山脈に隔てられ、南は太平洋に面する土佐は、近年まで陸の孤島だった。その中で、独特の文化を育む。あるいは、大昔に外界から入ってきたものが、ガラパゴス諸島のように、外界では消滅したのに残っていたりする。
17: 土佐人は、水をmiduという。づを発音することができるのである。づとずを区別する。ぢとじを明瞭に発音わけする。（中略）江戸期に土佐藩士が江戸へ行き、江戸者をはじめ他国の者がこの区別ができないことに気づき、江戸弁や上方弁よりも土佐弁のほうが日本語として正しいとおもった。方言による劣等感を持たなかったばかりか、軽い優越感すらもった。これは幕末の土佐人が藩外活動をする上で自信の根拠の一つになったであろう。
土佐弁は発音に「正当日本語」を残すだけでなく、論理性が際立って高いと言われる。
25:土佐人の固有の気質がその方言をいまいうような性格に性格づけたのだが、同時に土佐人の発想と行動はその言語によって制約され、特徴づけられる。いま高知市で、人口密度に比して日本一多い職業はなんだときくと、意外に酒売り業ではなく、
―弁護士です。
（中略）県民たちは互いの議論で片付かぬとなると断固法廷へもちこんでゆき最後は法律で黒白をつける。
現在の弁護士数を調べてみると、高知県は人口1万人に一人くらいなので、標準的である。香川県は7000人に一人なので多い方だ。現在の弁護士数を決めているのは、民事ではなく、主に企業活動だから、経済状況があれでは弁護士もやっていけない。
30:たとえば土佐人の無神論的あっけらかん性である。この土地の一種の奇蹟は、日本最大の宗旨である本願寺宗をほとんど歴史的にも現在も受けつけていないことであり、自然、日本人が共有している後生欣求的な湿潤な瞑想の感情をもっておらず、江戸時代からそれが珍奇とされた。
交通やマスコミの発達してない昔の方が、地域多様性があったのは間違いない。司馬遼太郎が取材のために高知を頻繁に訪れたのは昭和30年代で、高度経済成長によって日本が変貌する前だった。
方言が廃れるのは寂しいだけでなく、言葉とともにある文化まで変えてしまう。多様性が尊ばれる現在、「地方創生」は中央からの指示ではなく、地方の自立でなくてはいけないと思う。
2015年09月20日
2015年09月19日
戦前の日本人
日本人論のベストセラー『菊と刀』の新訳が出たので読んでみる。といっても2013年に出ているので、2年前なのだが。
昭和23年に初版が長谷川松治訳で出た後、川島武宜が「評価と批判」で、「一度も日本にきたことのない著者が、日本人の行動と考へ方の原理をこれほどまで綜合的に、全構造的に、構成し得たといふことは、まさに驚嘆に値する」と評している。正にその通り。
1944年6月に戦時情報局（OWI）からの依頼で研究を始めたが既に戦時中であり、フィールドワークは不可能。ベネディクトは、米国在住の（多くは強制収容所に入れられていた）日本で育った日系人へのインタビューや、日本で暮らしたことのある西洋人による文献、そして、日本の文献や映画などを分析していく。幸い、「日本人は自己表白が大好き」で文献探しには困らなかったという。
ベネディクトの結論としては、日本人には「優位原理」が欠落しており、軍国主義も民主主義も「あれがだめならこちら」という＜置換可能な相対的ソフトウェア＞ なのだという（訳者あとがき）。ここでいう「優位原理」とは西洋社会におけるキリスト教や民主主義のような絶対的な信念を言う。こうした日本の特性は、「未開民族の部族存続の文化と同質」とも指摘しているが、これは西洋を上において、日本を下に考えたわけではない。
その証拠に、日本降伏を知ったベネディクトは、助手の日系人ハシマ宛に以下のような手紙を書いている（p426）。
「未だ嘗て、西洋諸国には敗戦に際して斯る威厳と美徳を示した国はなかったといふことを、そして歴史は日本が戦争を終えた仕方に対し日本を讃えるであらうといふことを、日本の人々に伝えたい」
日本人の矛盾点＝「菊と刀」＝一枚の絵の中のモチーフ・好戦的なくせに平和志向・尚武的であると同時に審美的・傲慢にして丁重・融通が利かないくせに適応力・従順なのになめたまねをされると腹を立てる・忠誠心があるくせに裏切る・勇敢だが臆病・新しい流儀に対して身構えるくせにそれを歓迎・他人が自分のふるまいをどう思うだろうかと、ひどく気にするくせに、自分の過失を他人が気づかないと後ろめたさで気が滅入る
2015年09月18日
富裕フランス人の移住先
今週はフランスから来たLBS同窓生を香川に案内した。これまで3回東京で会っていて、今回は「私の故郷はどうだ」と誘ったのだ。
彼はエンジェル投資家で、個人資金を数千万円単位でスタートアップ〜アーリーステージの会社に投資している。パリ在住だが、投資先は「シリコンバレー中心に世界中」で、一年のうち半分をパリで、残りで世界中を廻っている。「世界一周チケットのほうが安いから」と、毎年30か国くらいを訪問するそうだ。
その彼が、「兎に角、フランスを出たい」という。最大の理由は税金の高いことで、年間所得の85%を税金で取られている
そもそも所得税の最高税率は75%と高いうえに（日本は最高税率45%＋地方税で55%）、フランスにはISFと呼ばれる「富裕税」（資産税）があり、世帯の純資産額に応じて0.55%（€79万以上）~1.8%（€1654万以上）が毎年課税される（2012年当時）。€79万といえば約1億円だから、共働きで浪費していなければ普通に持っている額だ。これに毎年55万円資産税が掛かることになる。日本の低金利なら、持っているだけで赤字になってしまう。その後、税改正で、最低課税額は引上げられたようだが、例えば、€400M（約5億円）以上であれば、€950,000（1200万円）課税される。これを合わせると、「所得の85%を納税している」ということになるのである。
フランス人にとって最も手軽な移住先は隣国のベルギーらしい。フランス語が通じる地域が多いし、パリから近い。フランス一の大富豪であるLVMHのベルナール・アルノーCEOも、ベルギー国籍を取った。ベルギーは世界有数の重税国で、中間所得層にとって税務上のメリットは全くない。それでもベルギーに移住するのは、富裕税・キャピタルゲイン課税がない事や、安定した政治にあるという。フランスでは政権が変わるたびに税制まで大きく変わるので、税対策が取りづらいのだ。
さて、わが友が移住候補第一に挙げたのは、日本
かなり本気のようで、仕事でよくいく英米、それに自国も加えて、こう比較した。フランス：政治がポピュリズムに陥っており、次から次へとバカな人が選ばれ、人気取りの政策が実施される。頑張って稼ぐ人が報われず、怠け者が増える一方。治安の悪化も酷い。
イギリス：制度はいいが、兎に角、天気が悪い。
アメリカ（シリコンバレー）：世界一ダイナミック。税金が安い。物価は高い。一般人の教養がない。
日本：人は親切で教養もある。物価が安く、街もきれいで、治安が良い。夏を除けば気候もいい。
移住以外でも、外人旅行客の日本人気は当面続きそうだ。但し、政府財政が世界一悪いので、現在の低負担（図）が続くことはないと指摘しておいた。簡単に言えば、今の日本は、「西欧諸国並の高福祉を行いながら、アメリカ並の負担」しか国民がしてない。赤字が出るのは当然だ。
2015年09月17日
構築物としての文章
学生のころ読んだのを、大学で論文指導をしなくてはならなくなり数年前に読み返し、今回は3回目。いつ読んでも、名著だと思う。
以前メーカーで働いていたとき、営業マンの報告を読んでいて頭がクラクラした。大卒なのに、小学生の作文みたいな文章なのだ。あーして、こーして、と起こったことを時系列に並べただけ。重要性による強弱とか、どうしてそうなり、どういう意図でどんな措置を取ったかといった論理性もない。高卒の先輩社員のほうが余程まともな文章を書いていた。
そんな大学生にも4年間税金が使われているのだから（私立で数十万円、国立なら数百万円運営助成金が国から出ている）、幾ら集めても税金が足らないはずだ。
59:いろいろの理由で、新聞には「が」が多いのであろう。ところが、「が」に関係して、次のようなことがある。新聞記事を読んだ後で、私たちがその内容を思い出そうとすると、よほど刺激的な事件か、よほど熟知している事柄でない限り、これはまた実に骨が折れるものである。何一つ心に刻み込まれていない。（中略）「が」だけを使って書いたのでは、事件も問題も立体的な構造を持つことができないのである。161:「ビルマでも、ビルマ語で全部の教育をやりたいと思っているのだが、日常生活の事柄はよいとして、少し学問的或は抽象的な事柄になると、これを言い現すビルマ語がない。必要だからといって、右から左へ新しいビルマ語を作るわけには行かない。だから、イギリス軍を追い払っても、当分の間は、残念ながら、英語で教育しなければならないだろう。特に、高等専門教育はそうなる。日本は羨ましい国だ」（戦時中のビルマの或るインテリ）180:カーのような密度の高いレヴェルでの、口頭による知識の伝達ということは、私たちの間では不可能なのである。私たちは、水をまぜた、低い密度の話しか出来ない。イギリス人が30分間に伝達し受容しうる知識の量を100とすれば、私たちは同じ時間に30か50の知識しか伝達し受容することが出来ないであろう。
208:文章を機械のように作ろう。文章を構築物として取扱おう。曖昧な「が」を警戒しよう。親骨を見失わないようにしよう。経験と抽象との間の往復交通を忘れまい。日本語の語順に気をつけよう。
2015年09月16日
瀬戸内海かもめプロジェクト
「瀬戸内かもめプロジェクト」（KamomeAir）で、琴弾浜（観音寺）から、沖合10kmの伊吹島までドローンで荷物を運ぶ実験が昨日行われた。私が出資している会社も本プロジェクトのスポンサーなので、見学に参加した。
強風で自動運転離陸の予定を手動にしたりと細かな点で予定外はあったが、「固定翼の無人機で、伊吹島まで500gの荷物を運び、目的地（小学校校庭）に落下傘で投下し、無事戻ってくる」という目的は無事達成した。飛行距離23km、飛行時間約20分であった。直線の飛行速度は約70km/h。
離島にドローンで医薬品を運ぶというのは日本初ということだった。写真はカタパルトから離陸直後のドローンで、上空に待機したマルチコプター（空撮技研）から空中撮影しているところ。ゴムで発射するとは知らなかった
2015年09月15日
猪熊弦一郎と猫達
パリからフランス人のLBS同窓生が来日。もう何度か東京で会っているので、今回は香川に招待することにした。
朝空港に迎えに行ってから、栗林公園→高松港（ランチ＠Mikayla）→五色台→番の州公園→猪熊弦一郎現代美術館（MIMOCA）→丸亀城のフルコース。
その中で、彼が一番気に入ったのがMIMOCA。建築も絵も気に入ったそうだ。婚約者が猫好きとかで、丁度行われている特別展「猪熊弦一郎と猫達」の全ての絵の写真を撮っていた。私も、猪熊さんがこれほど猫好きだったとは知らなかった。
猪熊弦一郎（1902-93）が好んで描いたモチーフのひとつに猫があります。夫婦ともに猫好きだった猪熊家では、一度に一ダースの猫を飼っていたこともあるようで、たくさんの猫に囲まれた暮らしのなかで、猪熊は、画家の目で猫をとらえるようになりました。本展では、猪熊が描いた様々な猫の絵を、作風や技法、他のモチーフとの組合せなど複数の視点からご紹介いたします。猪熊ならではのユニークな「猫達」をご堪能ください。
2015年09月14日
シリコンバレー流起業
世界中が付加価値で世界一生産性の高いシリコンバレー（SV）を真似しようとした。しかし、同じレベルで成功したところはどこにもない。何しろ、世界で最もベンチャーキャピタル（VC）投資が盛んな米国で、SVだけで全米の1/3、カリフォルニア州全体で2/3のVC投資を集める「特殊な」地域なのだ。一旦産業の集積が始まると、相乗効果でますます強化される良い例だと思う。
それで、週末、大阪で開かれたNEDO主催のベンチャー企業向け研修に参加した。正直、この手の公的機関主催の研修にはガッカリするものが多い。特に、「ベンチャー研究をしてます」という役人が話すと最悪である。
まず第一に、自分で何らリスクを取ったことがない。企業経営はもちろんのこと、株式投資すらしたことが無くて、どうやってベンチャー経営やベンチャー投資の事が理解できようか。そして、殆どの役所は「顧客獲得」の努力が不要なので、聞いている人に歩み寄ろうという気持ちが全くない。終始、自分で自分に喋っていて、内容が独りよがりなのは勿論のこと、顔さえ聴衆に向けようとしない。
ところが、今回、行ってみて驚いたのは、講師がお二人とも以前お会いして尊敬していた方だったのだ
一人は新日鉄出身の技術者で、退職して56歳のときに初めてSVに行ったという曽我さん。その後、SVで自ら7社の起業をしながら、SVJEN（Silicon Valley Japanese Entrepreneur Network）というNPOを創り、現地の日本人起業家ネットワーキングをされていた。私は15年ほど前にSVを訪ねお話を聞いていた。5年前に帰国されたのは知らなかった。もう一人は能登さんで、10年前に港区インキュベーション・センターでマネージャーをされていた時にお会いした。元々、芸術系の方で、BFA, Industrial Design。以前本blogで書いた通り、デザインの世界は昔から「どうやったらもっと創造的になれるか」を追求し、誰でもより創造的になれる手法を確立している。その手法が近年、行き詰ったビジネス界に取り入れられつつあるのだ。
そんな訳で、思いがけない再開が嬉しかった昨日だった。そして、その二人がいつの間にか一緒に仕事をしているとは知らなかった
2015年09月13日
ゲストハウスについて香大MBA学生が考える
古巣の香大MBAで行われた「シンポジウム」に参加。これは、毎年恒例のMBA1年生が自主的にテーマを決めて行うシンポジウムである。
今年のテーマは「ゲストハウス」。私が東京で昔、ゲストハウスをやっていたことを知る人はもう少ないと思うが
、現在の定義で言えばあれは「シェアハウス」。ゲストハウスとシェアハウスは以前混在して使われていたが、どうやら最近では、「ゲストハウス＝1日単位で泊める宿泊者の交流に重点を置いた簡易宿所」、「シェアハウス＝入居者の交流に重点を置いた共用スペース付の家具付き賃貸物件」というふうに区別されているようである。学生たちの調査によれば、現在、高松市内のゲストハウスは5軒。最も古いものが2013年で、2014年に２軒増え、今年になってさらに２軒増えている。これは、全国的に2013年のアベノミクス開始で円安トレンドとなり外国人旅行客が急増したことと、同年に香川で「瀬戸内芸術祭」（セトゲイ）の2回目が開催され、100万人以上の来場者を集めたことと当然関係がある。
前回のセトゲイでも、人口40万人、中心部で20万人の高松市に宿泊客が殺到し、多くは泊まれなくて、県内の周辺地域どころか、対岸の岡山県や隣の徳島県にまで宿泊先を広げざるを得なかった。かといって、3年に一度のセトゲイだけをあてにしてホテルを作っても普段の稼働率が期待できないので難しいところである。
さて、今回のシンポジウムの評価だが、
・ゲストハウスを知らない人たちにそれがどういうものかを説明した
・ゲストハウスを地域住民にも使ってもらうことで、宿泊客（ゲスト）との交流が出来ないかという提案をした
という点で評価できるものの、
・提案内容に皆が納得するようなメリットがない
・ビジネススクールであるのに、ゲストハウスのビジネス面からの分析が全くない
という決定的な弱点があったと思う。
誰かにとって良い事業も、他の誰かに迷惑をかけて続くものではない。それは、株主であっても、資金を借りた銀行であっても、はたまた、税金を宛てにすることでも同じである。良い事業ならなおさら、どうすれば「三方よし」で続くのか、ビジネス的にも考えなければならない。
2015年09月12日
避難指示
自然災害が起こるたびに言われるのが、行政による「避難指示が遅い」という話。今回の茨城県の洪水でも同様だった。
記事を読んでいると、「自宅２階で、川の水位がみるみる上がる様子に驚いた」が、「避難指示が出てなかったので非難しなかった」という。今回の場所は、過去に何度も洪水の起こっている場所だ。最近でも、1981年と1986年に堤防が決壊している。その後も、1999，2002、2004年に洪水があったという。1960年代の高度経済成長で堤防がかさ上げされて整備されるまでは、「2，3年に一度」氾濫していたというから、住民はその度に自主的に避難していたはずである。
ここ数年の「異常気象」による、自然災害の頻発で、政府方針は、「積極的に避難指示を出す」に変わってきている。避難指示を出さないまま災害が起これば、非難されることになるので、責任を回避したい行政としては当然そういう対応になる。しかし、人は忘れやすい動物で、避難指示が出される中、災害が起きない状況が何度か続けば、「今度も大丈夫」と指示を無視するようになるのは目に見えている。
今回の洪水でも、2009年に公表されたハザードマップで、明確に「鬼怒川が氾濫すれば逃げ場がない」と指摘されていた。そんな危険な場所に住んでいれば、避難指示が出て無くても、自分の五感を信じて、早目に避難しておいた方がいいだろう。避難指示は地域ごとに出されるものだから、同じ地域でも危険度は立地条件次第で違うのは当たり前だ。
まずは、自分の住んでいる場所のハザードマップを確認して、どんな危険があるかを認識することだろう。そして、そうなりそうなとき、どういう行動をとるかをシュミレーションしておく。自分の命まで「行政次第」というのは、自己責任の放棄に他ならない。
香川は雨が少ないので、洪水の危険はほとんどない。しかし、隣の徳島は、「四国三郎」といわれる吉野川が、豊かな稲作と水上交通の便をもたらす一方、毎年のようにどこかで氾濫していた。流域の豊かな家には、避難用の船が常備されていたという。
2015年09月11日
日本にもある「シネマパラダイス」
9月2日放送のNHK探検バクモン「奇跡のシネマパラダイス」を録画で見る。福島県の中央部、本宮市に101年前に建てられ、50年前に閉館した「本宮映画劇場」があるという。
50年前に閉館した映画館が「使える状態で」残っているというのが凄い。オーナーの田村修司さんが、28歳で閉館し勤めに出ることにした時、「定年後に再開しよう」と毎週末、機械を手入れし、劇場の掃除を続けていたのだという。なので、映写機も昭和３２年製の「カーボン式」。これは、プラスとマイナスのカーボン（炭素）製の電極２本に高電圧をかけて放電させる方式で、電極が燃えて短くなると暗くなるので、常に調整しなければならない。
大正３年に開館した時は劇場で、それが、映画という当時の新しい娯楽に取って代わられ、戦時中に経営者が変わって「本宮映画劇場」になった。それでも、閉館するまでは両方やっていたそうだ。
時代が変わったのは昭和３０年になってから。徐々に普及し始めたTV（白黒）は、1959年の皇太子明仁親王（今上天皇）御成婚の中継で一気に普及する。「日本が本当に変わったのは、戦争ではなく、TVが普及してから」と誰かが言っていたが、さもありなん。TVの普及で全国にあった映画館は続々と閉鎖した。
実は、四国にも、私が知るだけで二つの「シネマパラダイス」がある。一つは、天保６年（1835）に建てられた「現存する最後の芝居小屋」といわれる金丸座（琴平）。 江戸時代に歌舞伎などの芝居小屋として建てられたが、戦後は映画館として使われていた。映画館が閉館してからは荒れていたが、昭和45年に国の重要文化財に指定され、移築保存された。昭和60年からは「四国こんぴら歌舞伎大芝居」が毎年春に開催されるようになり、大人気となっている。
もう一つは、オデオン座（徳島県美馬市）。昭和8年（1933）に出来た劇場で、上記の２館同様、戦後は主に映画館として使われていた。平成７年（1995）に閉館し、取り壊しが決まっていた「脇町劇場」が、映画「虹をつかむ男」のロケ地になり、「オデオン座」として登場した。これを機に市指定の文化財となり、保存されている。
2015年09月10日
終活
「終活」という言葉が流行っている。学生の就職活動である「就活」に対して、「人生の終わりに向けた活動」。大手流通業者が「終活」フェアと堂々と開催しているくらいだから(写真)、この言葉は定着したとみていいだろう。
本書は、税理士でFPによる、「終活」本の一つ。著者のお勧めは、「50代から！」ということであった。50歳であれば確実に人生の半分は過ぎているのだから、人生のゴールをどうするかを決めて逆算すべき時なのだろう。
家庭裁判所に持ち込まれる「遺産分割紛争」のうち75%が5000万円以下というのは興味深い。勿論、このゾーンが最も分母が大きいということなのだろうが、よく言われるように「どの家庭にも起こること」でもある。
152:家庭裁判所に持ち込まれる「遺産分割紛争：のうち、遺産額1000万円超5000万円以下が45%、1000万円以下が30%170:自己破産の1/10人が連帯保証によるもの257:毎年、年末に遺言書を考え直す328:大事なモノは、死ぬまでに現金化するその値打ちはあなたでないと分からない。その値打ちを知っている人たちの存在も、あなたでないと分からない。
2015年09月09日
FBIの父
2011年のクリント・イーストウッド監督映画を録画で週末に見た。ディカプリオ主演。FBI長官を1924年から1972年まで務めたJ.E.Hooverを一人で演じているが、70台の老け役もなかなかのもの。フーバーの晩年の写真をみるとよく似ている。
フーバーは77歳で死ぬまでFBI長官を務め、その間に仕えた大統領は8代に渡る。その任期は、現代に至るまで米国の政府機関の長として最長。現在は「最長10年」と制限されているので今後も出ないはず。
通常は政権が変わるたびに政府機関の長も良く交代する米国で、なぜ、これほど長い間長官を務められたのか？それは、一つには、それまで「予算も少なく腐敗した弱小官庁」だったFBIを改革し、優秀な捜査官と科学的捜査を取り入れた最強の組織にして、数々の実績を上げたこと。
もう一つには、政治家や有名人の個人調査から数々の個人的弱みを握って、脅したからだと言われている。大統領であってもFBI及びフーバーに手が出せなかった。
1972年に現役で死亡した時、ニクソン大統領が真っ先に行ったのはフーバーが持つ「個人ファイル」の捜査だったと言われる。映画では、フーバーの生前の命令で、フーバーに50年間仕える秘書が既に処分していたことになっているが、史実はどうだったのだろう？
フーバーは、人種差別主義者であったが、日系人の強制収容には反対したそうだ。その理由は、「スパイと思しきものは、既に真珠湾攻撃の後、FBIが拘束している」だから、必要ないという訳だ。
2015年09月08日
投資家ケインズ
20世紀の経済学者として一番有名なケインズだが、学者としては珍しく、投資家でもあった。若いころから家族や友人の資金を集めて投資ファンドを作って運用し、さらには仕事として、母校でありまた教鞭をとっていたケンブリッジKing's Collegeや、National Mutual Life生命保険会社の会長としてファンドマネージャーまでやっていた。投資対象には、株式と債券以外に、為替や商品まで入っていて、しかも、場合によっては借入まで使っていたので、「ヘッジファンドの嚆矢」という人までいる。
そのケインズは、投資ファンドで為替相場と商品相場で2度、殆どポートフォリオが壊滅するほどの被害を受けている。その度に、新たな投資家を募ってポジションを維持し、最終的には自分の見通しが正しかったことを証明している。
本の出版で有名になり、収入が増えてからは、美術品や本の収集、旅行、観劇などで人生を楽しんだケインズ。1946年に62歳で死んだときには、家屋敷だけで$22M（約25億円）の価値があったというから、当時としては桁違いに成功した人生だったと言えるだろう。
美術品の大半は大学に寄付されたのでその価値は不明だが、第一次大戦後荒廃した欧州大陸で購入したブラック、ピカソ、スーラなどが入っている。それでも、最後に言ったのは、「もっとシャンパンを飲んで、人生を楽しんでおけばよかった」だったという。
ケインズの投資家としての歩みに焦点を当てる興味深い本。本の最後に「ケインズの投資術10か条」というのが出てくるのだが、これはケインズが言っているというよりは、ケインズが分析を始め、その後それを引き継いだグレアムやバフェットあるいは、本書に序文を寄せているボーグル（バンガード創設者）などの投資理論を著者がまとめたと云う事なのだろう。
株式リターンの殆どが、「配当利回り＋利益成長によってもたらされる」というのは興味深い。
序文：『一般理論』株式のリターン＝投資（見込み収益予測）＋投機（市場心理予測）＝配当利回り＋利益成長＋PER変化NYSE1900-2009：9.1%=4.5%+4.3%+0.3%ケインズの投資術１．長い目で見れば、株式は債権に勝つ２．投機は危険なゲームである３．可能性と確実性を同一視しない４．相反するリスクでポートフォリオのバランスを整える５．バリュー投資これからの10年、その株を持てるか？６．配当は嘘をつかない着実に増配を続けている企業７．美人コンテストに巻き込まれるなDogs of the Dow８．長期投資９．パッシブ投資長期期待の状態や短期期待の状態は占えない→インデックスファンドがベスト１０．もっとシャンパンを飲もう！自分の目標に合った健全な投資プランを立てたら、あとは「自動操縦」に委ね、年に一度モニターする程度にとどめよう。そして外に出かけ、人生を生きよう。
2015年09月07日
繁栄の陰に衰亡あり
本書が最初に出たのは1981年で、戦後36年だった。今年は戦後70年なので、ほぼ中間地点ということができる。ローマ帝国の衰亡を現代アメリカと対比させ、通商国家日本の行方を同じく通商国家であったヴェネツイアと対比させる。
歴史研究の結果、強国が衰退する共通点として、
・モラルの喪失
・政治の質の低下
・官僚制の肥大化と財政破綻
・勤倹から消費へ
・変化への拒絶
などが挙げられている。
本書では1970年代に見られたアメリカの衰退が懸念されているが、アメリカはその後、1980年代の試行錯誤の末、いち早く「脱工業化」「情報革命」を成し遂げ、世界唯一のスーパーパワーとなった。経済力もないのにアメリカと軍事力を競ったソ連は崩壊した。
日本はあくまでアメリカの核の傘の下での経済繁栄であったのに、バブル経済で自信過剰になり、その経済競争力が危険視されたとたん嫌われて、20年に渡るデフレに陥った。これはヴェネツイアやオランダが辿った道と共通点がある。
特に、経済成長が止まった後、「冒険を避け、過去の蓄積によって生活を享受しようという消極的な生活態度は、ヴェネツイア人の貴族の男子で結婚しない人が増えた」というのは興味深い。16世紀に適齢期の男で結婚しないものはすでに半ばに達していたが、17世紀にはその比率は60%に達したという。現在の日本男性の未婚率は30-34歳で約50%である。25-29歳では70%を超えている。日本は既に衰退期のヴェネツイアの水準に達している
しかし、共通点があっても、同じになるとは限らない。「衰亡は一直線ではない」し、危機感があれば、国は変わることもできる。
9:成功の中に衰亡の種子12:衰亡は一直線ではない36:軍隊を支えるモラルの喪失（ローマ）ローマ公民で軍隊になる者がいなくなった（蛮族で組織）95:最少面積最少人口の最強通商国家（ヴェネツイア）98:巧みな外交101:造船革命109:パートナーシップ（有限責任）110:複式簿記＆銀行11:強力な政治体制「十人委員会」強力な統治能力の必要と、それが濫用される危険の防止172:冒険を避け、過去の蓄積によって生活を享受しようという消極的な生活態度は、ヴェネツイア人の貴族の男子で結婚しない人が増えた16世紀に適齢期の男で結婚しないもの50%、17世紀60%215:「美徳でさえも過剰になれば害をもたらす」モンテスキュー257:「行政における死に値する罪の第一は、弱者救済といった高尚な目的を掲げること」ドラッカー
2015年09月06日
見切り千両
先日読んだ『黒の試走車』『赤いダイヤ』が面白かったので、図書館で目に留まった『見切り千両』も読んでみる。
やはり、山口瞳が傑作と呼んだ2冊ほどの出来ではない。全2冊が1955-1960年頃の戦後日本が舞台なのに対して、こちらは大正時代が舞台。
小説なので、どこからどこまでが本当で、どこからが脚色あるいは、全くの創作なのか不明だが、実名で出てくるのは久原房之助くらいか。「敷地3万5千坪、庭には吉野川を模した清龍をつくり、鵜飼いが出来るという豪勢な大邸宅である。温室もあって、当時は珍しかったマスカットなどが栽培され、家の廻りには鉄道をつけて、本物の汽車を走らせた」(p26)というから、昔の貧富の差はスゴイ。
下記は、日本史の教科書でも有名な「成金栄華時代」（和田邦坊）。こちらも、第一次大戦で大儲けした成金で、燃やしているのは100円札だが、これは現在価値に直すと12-20万円らしい。
原敬内閣の時に改訂された所得税率が載っていて、これが非常に低いことに驚かされる。例えば、5-7千円（現在価値で600-1000万円）で6.5%である
1万円（同1200-2000万円）でも、9.5%。1200円（同150-200万円）までは無税だというからこれは今と同じだが、当時国民で一番数の多かった小作農の大半はこのカテゴリーと思われ、納税はしていなかったことになる。この後昭和になって、戦時体制になるとともに、税率は上がっていく。 2015年09月05日
藝祭2015
昨年引っ越してからの楽しみの一つが、近所の東京藝術大学の各種イベントに行くこと。美術展はもちろんのこと、演奏会も頻繁にある。その中で最大のイベントが学園祭「藝祭」で、今年も昨日の初日から見に行った。
流石に美術や音楽を目指す日本最高峰の大学だけあって、展示や模擬店、演奏にしてもレベルが高い。例えば、神輿にしても、この出来
（写真） 神輿はこれだけじゃなくて、全部で8体。行ったのが少し遅くて、パレードが終わっていたのは残念。既に、上野公園の噴水広場に並べられた後だった。明日の最終日は上野の街に繰り出すらしいので、見に行く予定。
2015年09月04日
駅伝発祥の地
東京滞在中は毎朝走る、不忍池一周コース。この湖畔に「駅伝の碑」というのがある。
駅伝は日本発祥なので、海外でもEkiden。柔道がJudoで、空手がKarateなのと同じ。陸上競技は基本的に個人での競争だが、駅伝は団体競技。団体戦が好きな日本人の支持を受け、盛んである。「駅伝」の言葉自体は、日本書紀にも出てくるほど古いらしい。但し、元の意味は、朝廷の伝達を全国に届けるための中継システムのことを言った。
改めて調べてみると、碑にある通り、競技として最初の駅伝は東京奠都50周年を記念して、「東海道駅伝徒歩競争」として1917年4月27日に京都を出発している。京都の三条大橋を午後2時に出発して、トップが東京の不忍池に到着したのは翌々日の午前11時34分だったというから、ほぼ二日がかりだ。これで、東海道の23区間508kmを走ったのだから平均時速は11km/hということになる。選手は昼夜兼行で走ったというから、スゴイ。
箱根駅伝が始まったのは、その3年後の1920年で、当初「四大校駅伝競走」と呼ばれた。参加校は、早稲田、慶応、明治、東京高等師範（現、筑波大）の4校。なぜ、帝大が入らず、国立では高等師範だけだったのか不明。現在の箱根駅伝が総合で217km10区で、約11時間。平均時速20km/hということになる。
この「駅伝」を発案したのは、讀賣新聞社会部長の土岐善麿。土岐は早稲田英文科の出身で、歌人でもあった。駅伝を成功させた翌年、朝日新聞に転じるが、昭和15年「自由主義者」として非難され、退職。戦前の朝日新聞は戦争推進の最右翼として世論を煽っていた。
土岐は戦後、早大教授となり、生涯を終えている。
2015年09月03日
日本人の手によって提出された最も重要な「世界史モデル」
国際教養大学（秋田）の学生必読書リストに入っていたのをきっかけに、読んでみた。スゴイ。学生の頃に読んだはずなのだが、完全に忘れている。
これだけのスケールの歴史観が日本で打ち出されたことは他にないのではないか。小松左京が、これを「戦後提出された最も重要な『世界史モデル』の一つ」と言っているのも頷ける。「それはこれまで東と西、アジア対ヨーロッパという、慣習的な座標軸の中に捉えられてきた世界史に革命的といっていいほどの新しい視野をもたらした」
どういうことかというと、ユーラシア大陸を中心とした「旧世界」の西の端と東の端にある西ヨーロッパと日本には歴史上、必然的に同じ役割を果たした。また、その中心にある四つの文明圏である�｜羚顱↓▲ぅ鵐鼻↓�ロシア、�っ話羈ぁΕぅ好蕁璽爐砲弔い討癲◆嵎森垳従檗廚�あるとした。四大文明圏の「辺境」にあった西ヨーロッパと日本は、それらから文明を取り入れつつも、政治的・軍事的混乱に巻き込まれずに、資本の蓄積を果たすことができ、産業革命を果たした。
この「生態史観」に基づくと、これからの世界はどういう道をたどるのだろう？「第二地域」に属する四つの文明圏では帝国の成立と崩壊を繰り返してきた。中国とロシアはその延長にあるように見える。インドは表面的には民主的な資本主義国に変わったものの、小国が分裂していた多様性を残している。そして、地中海・イスラーム圏での混乱は続いている。
40:インドは、なんべんも外からの侵入をうけた。しかし、侵入者はみんなインドに同化したではないか、という自信である。なるほど、インドに侵入して、インドに同化しなかったイギリスは、けっきょく退却したのである。この種の自信は、中国にみられるものと、ほぼおなじ種類のものである。(1956)77:ちかごろ、「日本はアジアの孤児だ」ということがいわれているが、かんがえてみると、それはなにも、ちかごろにはじまったことではなさそうだ。ずいぶんまえから、数百年もまえから、日本はほかのアジア諸国とはちがった運命をたどっていたのではないだろうか。これからもそうであってよい、というわけではない。日本と、アジア諸国とのあいだに、相互理解と協力のための通路を、いくつもうがってゆかなければならないだろう。しかし、そのときに、漠然たる一体感や、アジア的連帯感などをあてにしていてはだめだとおもう。(1956)116:封建時代の後半は、第一地域の東の部分と西の部分とで、かなりことなる事情がおこった。日本が鎖国という奇妙なことをやってしまったからだ。そのため、東南アジア一帯に散在していた日本人植民地の足がかりは、成長せずに、そのままきえさってしまった。(中略)これで、日本によるアジア侵略と植民地化のうごきは、200年以上もおくれ、日本の封建体制の崩壊も、また、おくれることになった。貿易と植民地経営による、膨大な富の蓄積がおくれ、ブルジョワの成長がさまたげられたからである。植民地経営者として、第一地域の西の部分でイギリス、フランスがはたした役割は、東においては当然日本がはたすべきところであった。植民地からあがるもうけということを考慮に入れると、もし鎖国ということがなかったら、日本は独自の産業革命を、すでに明治以前になしとげていたかもしれないとおもう。あるいは、とっくのむかしに、インドあたりで、イギリスと決戦をやっていたかもしれない。184:日本と西ヨーロッパ諸国の属する第一地域では、知識人において、政治的意識と政治的実践との間に分裂がおこっている。つまり、政治的実践にたずさわらないで、政治的意識だけが発達した知識人が、多数存在する。それに対して、第二地域の国ぐににおいては、知識人における政治的意識と政治的実践とは、統一的に両立している。つまり、為政者意識をもった知識人は、そのまま、じっさいに為政者としてはたらいている。
202:旧世界の生態学的構造をみると、たいへんいちじるしいことは、大陸をななめによこぎって、東北から南西にはしる大乾燥地帯の存在である。歴史にとって、これが重大な役割をはたす。乾燥地帯は悪魔の巣である。暴力と破壊の源泉である。ここから、古来くりかえし遊牧民そのほかのメチャクチャな暴力があらわれて、その周辺の文明の世界を破壊した。文明社会は、しばしば回復できないほどの打撃を受ける。これが第二地域である。218:東南アジアと東ヨーロッパというと、たいへんとっぴょうしもない比較のようにおもえるけれど、かんがえてみると、比較文明論的にみて、いろいろな点で対応があるのではないか。まず、どちらもたくさんの小国の集合である。そして、むかしから三つの世界にとりかこまれた、一種の中間地帯をなす。223:鎖国なんかして、おしいことをした、といっているのではない。日本という国は、歴史のすじがきからいうと、東南アジアにとっては、しょせんイギリス、フランス、オランダなどとおなじ役割を果たすような国なのだ、ということである。それはかならずしも、明治以来の軍国主義のもたらした結果ではない。それは、本来的には、日本と東南アジア諸国との、文明史的なシチュエーションのちがいによるものであり、また、日本と西ヨーロッパ諸国とのシチュエーションの類似にもよることである。227:おたがいにアジア人だということばは、それは一種の外国的フィクションである。260:東南アジアにおいては、料理屋ばかりでなく、経済界全体を、華僑がにぎっているようなものである。東洋においてはそれほど勢力をもっていた華僑が中洋にはなぜいないのだろうか。じつは、華僑が勢力をしめている地域の住民たちは、タイにしてもマラヤにしても、もともとあまり商売にたけていたとは信じられぬ人たちである。そういうところでは、華僑の経済活動はみごとに成功した。というより、競争相手がないのだから、独走したのである。ところが、インドではちがった。インドでは、インド人自身が、古代以来の天性の商業民族である。生半可なことではことでは競争にもならぬ。地の利をしめているだけ、インド商人のほうに分がある。じっさい、インド商人の海外進出もまた目ざましいものがある。シンガポールあたりにもずいぶんでてきているが、それよりも西のほうがすごい。ちょうど東南アジアにおける華僑のように、東アフリカ一帯は、イン僑でおさえているのである。
264:「謙虚の美徳が精神生活の基調を支配するところはビルマまででおわり、インドから西は、自己主張の美徳が支配するのだ」堀田善衛『インドで考えたこと』1957岩波新書
2015年09月02日
小豆相場
先日読んだ『黒い試走車』が面白かったので、続けて、梶山李之。週末に一気に読んだ。
驚くのは、梶山の著作は新書・文庫・選集などを含め、33社510点にも上るということ（私が読んだ2004年のパンローリング版出版時点）。何しろ、『赤いダイヤ』だけで、集英社版、同新書版、同自薦作品集に加えて、文庫は角川版と集英社版がある。ちなみに、生前に文庫化されたのは角川書店の『黒の試走車』と『赤いダイヤ』（上下）の2点3冊だけだったらしい。それだけ1975年に香港で客死したのが余りに若く、突然であったと云う事だろう。享年45歳。
フィクションなのだけど、実際に起こった昭和29年から翌年にかけての、北海道での凶作を見越した小豆の商品先物取引での大相場が舞台になっている。
登場人物も、当時の知識がある人には、そのモデルがピンとくる。小型モーターを玩具向けに開発した「岩淵青年」というのは、高松で創業した馬渕健一だろうし（現マブチモーター）、特務機関のボス「押田義男」が児玉誉士夫を指すのは明らか。実際に、小説の中で押田は鳩山一郎を応援して、民主党内閣を実現させる。そして、売りの本尊「松崎辰治」はヤマタネの創業者、山崎種二である。
147:岩淵青年はさっそく郷里を飛び出し、上京して特許を出願すると、その発明した小型磁石モーターを生産し、ボートの玩具に付けて売り出した。269:「現在のようなデフレの最中に、金をかせぐには、金融か、相場かの、どちらかです、井戸さん」21:ウイルスンは＜外貨速報＞という、輸入関係のニュースと、外貨相場を報道する隔日刊のパンフレットを発行した。むろん＜ウイルスン貿易＞とは無関係な通信社を装い、神田の出版街に事務所をおいてある。・・・・・これが、＜誘蛾灯＞だった。日本人は、活字を信頼する人種である。ウイルスンは、この＜外貨速報＞を使って、自在に特割外貨の相場を、あやつることができたのである。
68:それは上海の浪人時代に、なにかと厄介になった押田特務機関のボス、押田義男であった。（中略）森玄は、先輩にあたる押田義男が、戦後の日本では右翼の巨頭として、また政界の黒幕として、重きをなしていることを知っていた。
2015年09月01日
ユーグレナSMBC日興リバネスキャピタル初の投資先は香川大学発ベンチャー企業
本blogで何度か紹介してきた香川大学発ベンチャーの未来機械がついに外部資金を導入！投資したのは、今年4月に発足したばかりのユーグレナＳＭＢＣ日興リバネスキャピタル。このVCはミドリムシで大成功したユーグレナが核となって資金を出したVCファンドです。
ロボットとバイオ分野を投資対象としており、その第一号投資先として選んだのが未来機械。2004年の大学発ベンチャーブームの中で出来た香川大学発ベンチャーの中で唯一生き残っている会社です。今回、「ロボットの開発が最終段階で、市場性も高い」と評価されたとのこと。今回の資金は、写真の「太陽光パネル清掃ロボット」の量産化資金です。
こういう地方ベンチャーが育ってくると地元が変わってきます。先日、Uターンの話をしましたが、現役世代が帰ってくるとき最大の障害になるのが仕事をどうするか。従来、公務員か銀行か電力会社でしたが、新卒ならともかく、中途ではほとんど採用がない。一方、中小企業で面白い仕事が出来て、給与もそこそこという会社も少ない。
そのギャップを埋めるのが地方のベンチャー企業だと思うのです。能力の高い人も満足できる付加価値の高い仕事で、同族経営でなくて経営の透明性も高い企業が10社出来て、それぞれが数十人雇えるようになれば、変わります。
以前から、特定産業の「クラスター」を造ろうという計画は在りますが、「上から」の構想は上手くいきませんね。今回も心配なのは、香川大学大学院での研究を核に造られた未来機械ですが、一定規模を超えた時、「周りにロボット産業のインフラがないので会社を移転します」とならないか、ということです。
