2008年03月
2008年03月31日
2008年03月30日
ベンチャーファイナンスの神話

VC業界に居るので、ベンチャーやVCの関連本は定期的に読むことにしている。今月も新旧含めて10冊ほど読んだ。それらにも事実ではないと思われることが、検証なしに書かれていることがある。一般的に誤解されていると思われる事をいくつか指摘したい。
1.米国のVCは起業初期段階に積極果敢に投資し、日本のVCはしないので日本のベンチャーが育たない
ウソ:ここ数年の統計を見ると、日本のVCは投資額の3割程度を創業間もない「アーリーステージ」の会社に投資しているが、米国ではこの比率は15%程度である。比率的には日本のVCの方がリスクを取っているといえる。但し、年間の投資絶対額は依然十倍以上の格差があるため十分なリスクマネーが供給されているとはいえない。
2.日本の銀行には「目利き」が居ないので、ベンチャーに十分な融資がされない
ウソ:実はベンチャー企業に限らず、中小企業に世界で一番融資しているのは日本の銀行である。新規創業する会社の8割が5年以内に、9割が10年以内に倒産もしくは廃業してしまうといわれる中、仮に5%の金利を取ったとしてもこれではリスクに見合わない。
リスクに見合わないのに貸せるのは、日本では一般的に経営者による連帯保証と担保制度があるからだろう。兎角批判されることの多いこれらの制度だけど、「米国では連帯保証が無いから再起が容易」というのは事実の片面しか見ていない。「米国では連帯保証制度が(一般的では)無いから銀行から借り入れはできない」というのが実態である。
起業家にとってどちらがいいかといえば、自己資金が無いとき、借りられる選択肢はあったほうがいいに決まっている。但し、「貸してくれるから借りてしまう」という側面もあるので仮に事業がだめになっても自分で返せる範囲内でしか借りないほうがいいと思う。
昨年来日したLBSの米国人教授が言った。彼自身大成功したアパレル小売GAPの創業に関わった起業家なのだけど、「創業期の資金調達は3F」だそうだ。つまり、Family, Friends & Foolsからの投資。銀行から借りることなどハナから頭にない。
家族と友人はいいとして、リスクが高いにも拘らず投資してくれる「バカ」とは誰なのか?これは別名Angel(エンジェル投資家)と言われる個人投資家で、米国で創業期や設立初期での資金を提供しているのは彼らだ。コトラーの本によれば、組織的に投資をしているVCが最低1億円以上のロットでないと投資しないのに対し、数百万円〜数千万円の投資を行う彼らの資金量はVC全体の30-40倍あるという。
超ハイリスクの創業期に起業家と同じ立場で投資するには、それだけ事業に対する覚悟と理解が求められる。こういった個人投資家が育って欲しい。
2008年03月29日
2008年03月27日
2008年03月25日
2008年03月24日
三豊市商工会で講演

先週木曜日から四国。週末インターネット環境がなくblogが空いてしまった。
土曜日、出身地の商工会の依頼で講演。春を感じさせる麗らかな土曜日の午後、何を期待したのか200人もの人が集まった。
地元で一般の人まで対象に話をするのは初めて。昔から知っている人も来るのでキチンとやろうと思い、いつになく時間を掛け準備した。通しのリハーサルまで地元国立大学の先生に付き合ってもらったくらいだ。
結果は・・・
内容難しすぎました。
近所の商店のオバサンからBMW745で高松から駆けつけたバリバリの経営者まで幅広い聴衆。誰にも楽しんでもらえ、且つ、ためになった、と思ってもらえる話というのは難しいですね。
反省しきり。もっと聴衆に合わせて柔軟に話せるようになりたいと強く思った次第です。
2008年03月20日
仕事丸投げで意地悪な会社

朝東京を出たときは本降りの雨。正午、高松に着いた時は丁度あがってました。その後地元香川大学経営学の先生と昼食。
ところで昨晩の勉強会の続き。沼田さんの前に話した若干35歳くらいの社長の話も凄かった。華々しくはないのだけど、聞けば聞くほど「儲かる仕組み」が出来ていることに驚く。創業してたった5年の会社なのに!
・二流の人間は「やり方」を聞く、一流の人間は「考え方」を聞く。
・社長の仕事:採用と資金関係だけ。暇にしている。
・兎に角、優秀な人材を採用することに注力。後は「丸投げ」。
・採用も採用支援の会社から「これは」と思う人材を引き抜き
・丸投げして、形になってきたところで敢えて組織を変えたり、やり方を変えたり「意地悪する」。環境が変化することが当たり前になり、どんな環境下でもパフォームできるように鍛える。
・「管理職を採ってから部下を採る」という考えは上手くいかない。小さな会社に優秀な管理職は転職してこない。先行して社員を増やす必要がある。
こんな調子なのに、創業初月から黒字!一度も赤字になったことが無いという。どういう判断で人を採用し、どういう風に「丸投げ」して、どういう風にフォローしているのか、その「考え方」を次回は聞いてみたい。
「人が全て」とはどの会社でも言うことだけど、それが実践できている会社は少ない。
2008年03月19日
2008年03月18日
富裕層マーケティング

「ニュー・リッチ・マーケティング・セミナー」なるものに参加。メインの講演者はイー・マーケティングの臼井社長。臼井社長とはまだ創業間もない頃にお会いしたことがある。
この10年で二極化が進んだ。平均所得が上がらない一方、フェラーリなどの高級車は予約待ちの状況だし、「億ション」も一般的になった。
これを「格差だ」と騒ぎ立てるマスコミや政治家が居るが、誰もが豊かになっていく高度成長期と違い、低成長になると所得格差が開くのは当たり前のことだ。こういう状況で金持ちをいじめても仕方ない。金持ちはその気になれば海外に住むことも可能だし、専門家に相談して「節税」することも出来る。
「大事なのは世界の富裕層が求めるモノ・サービスを提供し、持っているお金を日本で使ってもらうこと」という臼井社長の主張は正しい。「富裕層マーケティング」と聞くと、なにやらお金持ちに媚びるようなイメージがあるが、特別なマーケティング手法を使うわけではなく、マーケティングの対象が違うから結果(アプローチ)も違う、というだけのことだ。
「マーケティングの時代」と言われて久しいけど、本当に定着したのか?地方企業や中小企業にまで広めることで可能性はあるように思う。
2008年03月16日
松山日帰り出張

この松山便、人気らしく、一昨昨日の段階で正規運賃しかなかった。片道31000円。往復62000円!これだけのために・・・と迷ったが「どうしても」とお願いされると弱い私。温泉に行く予定をキャンセルして羽田に向かった。
昨日に引き続き、松山も暖かい。松山城で梅花を愛でながら昼寝でもしたい午後、お城の近くのとある会議室で3時間にわたり侃々諤々の議論、と言いたいところだがどうも議論がかみ合わない。
無力感に襲われながら、帰りのタクシーを拾う。6万円かけてこれでは・・・という思いから、いつになくお土産を買う。かなり注意力が落ちていたらしく、店員が1100円のところを11000円と打っていたのに気づかなかった!飛行機の搭乗口で店員が待ち構えていて店に引き返しクレジットカードを切りなおす。元々、殆ど最後の搭乗だったので乗ったのは最後だった。フー。
写真:いつか乗ってみたい「坊ちゃん列車」
2008年03月15日
「日本の企業家史 戦前編」終了

昨年10月から続いた法政大学エクステンション・カレッジ特別セミナー「日本の企業家史 戦前編」が今日で終了。
最終回ということで、終了後、講義をしていただいた講師の先生を交え懇親会。ちなみにこれは私から提案させていただきました。社会人が貴重な土曜日の午後をつぶして来るわけですから、幾ら受講料が安いとはいえ(全12回で通しで1万円、1回1000円)それなりのものを期待してくるわけです。
こんな受講料では当然儲けなどない。となれば、受講する私にとってせめてもの恩返しは「率直な意見を出して、まだ駆け出しの講師の方々、そしてこのプログラムを企画されている方に的確なアドバイスをすること」と思い、僭越ながら毎回フィードバックさせていただきました。
明るい日本の将来のためには大学改革は不可欠です。
2008年03月14日
谷中銀座

昨晩は新卒で務めた大手VCの先輩たちと焼き鳥。(本当は焼き鳥苦手なのだけど新入社員時代の先輩はいつまでたっても先輩なのです)ちなみに、曲はBeatlesナンバーを他の歌手が歌ったもので、こちらは好みに合う。
場所は初めて行く「谷中」。日暮里で降りて坂を上がって、また下る。夜7時、人通りはまばらで、道が違っているのかと不安になり店に電話してみる。
合っていた。「階段の手前」なのだという。なるほど、二股を右に入って少し行くと階段があった。「夕焼けダンダン」と書かれている。
先輩3人のうち二人は独立して一緒に会社をやっている。もう一人は元の会社のまま。私が入社した時は未上場だったが、その後JASDAQ(当時店頭市場)に出て、今では東証一部上場。組織が大きくなれば大きいでそれなり苦労はあるようだ。
2008年03月12日
サブプライム危機と国際金融の新局面
TV慣れのせいか、それともそういう喋りができるからTVに出演依頼が来るのか、フェルドマン氏と榊原教授の話が面白かった。
サブプライム問題に対するフェルドマン氏の見解は、「これまでのバブル同様、早く損だしすればそれだけ早く解決するが、日本のバブル処理のように痛みが無いようにと長引かせれば、結局悪影響が長引く」というもの。「今年後半から米国経済は回復に入るが、足取りは当初予測より鈍くなる」。
榊原教授は、サブプライム問題を「戦後最大級の経済危機」と捉えており、「世界一の経済大国発であるから、10年前のアジア経済危機とは比べ物にならない」との見解。この影響で「円安バブル」は終焉し、$<100円に向かうという。現在の105円は1995年に79円をつけたときの購買力平価から言えば125円水準だということだ。
「サブプライムの傷が最も浅いのは日本なのだから、予想される円高と相まって、日本企業にとってはM&Aを含めた海外進出には絶好のチャンスとなる」
そう、株安も日本の投資家が買ってないからで、自国の投資家が買わないものを易々と外人投資家が買ったりしない。現在の状況は余りに内向き、後ろ向きでありはしないか?
シンポジウムでも話が出たが、インドの会社がイギリスの紅茶会社から、鉄鋼会社、果ては名門自動車会社も買おうとしている。私も一昨年以来4度インドに足を運んだが、大企業だけでなく、中小企業までもが非常に積極的だし、グローバルに考えている。
とりあえず、榊原教授が早稲田に来たのは嬉しい。

2008年03月10日
新銀行東京の累積赤字1000億円

そもそも創られた目的が間違っている。2003年設立に当たり石原知事が掲げたのは『資金調達に悩む中小企業を救済すること』である。そして経営に当たったのは銀行経営を知らないシロウト集団。これでは失敗しないほうがおかしい。
まず第一に、中小企業に資金が十分に供給されていない、とするのは誤りだ。実は経営の不安定な中小企業に世界で一番貸し付けているのが日本の銀行で、それに甘えてきたのが日本の中小企業なのだ。それは日本の中小企業の自己資本比率が低いことに現れている。
経済成長が続いている間は良かった。全体のパイが拡大する中で倒産する会社は少ない。銀行も儲かるし、資金を調達できた会社も伸びた。
今は成長が期待できない時代。それでも成長するためには同業からシェアを奪うか、今までにない製品やサービスを作り出すしかない。シェアを奪おうとすれば熾烈な競争になるし、新しい製品やサービスは売れるかどうか分からない。どちらもリスクが高い。
リスクが高い、つまり金銭的リターンがあるかどうか分からない事業を返す義務のある借入金でまかなうのは間違っている。返せなければ会社が行き詰る。
リスクが高い事業は株式で調達した資金でまかなうのがファイナンスの基本だ。株式は返済の必要がなく、目論見どおり成功したときに配当で還元すれば良い「成功報酬」型だ。同じ税金を投入するならVCファンドにでも出資する方がまだ良かった。
間接金融から直接金融という大きな流れの中で、むしろオーバーバンキングなのに無理やり創られた新銀行東京。石原知事の責任は大きい。
2008年03月08日
2008年03月07日
EU Executive Training Programme (ETP26)

昨晩はWestinで開かれた表記研修プログラムのオープニングパーティに参加。
当プログラムはEUが毎年実施しているもので、今回で26回目。早稲田大学が実際の研修を担当しており、今回は「欧州随一のビジネススクールの同窓会長」ということで旧知のプログラムディレクターから招待いただいた。早く仕事の面でも呼ばれたいものである。
EU参加国の応募者から選ばれた16名が無料で日本の産業構造、ビジネス習慣、消費者嗜好などについて学べるらしい。会の冒頭でEUの駐日大使、受け入れ側を代表して早稲田の白井総長、プログラムOBで現在Cartier日本法人社長のMr Haig、早稲田OBで実業界を代表して東京海上の隅社長が挨拶。
こういうスピーチを聞くたびに思い知らされるのがイギリス人のスピーチの上手さ。ウイットに富み、笑いを取り、そして中身がある。小さい頃から訓練を受けた賜物だろう。昨晩は全員英語でのスピーチだったので日本人にとっては大きなハンデだったわけだけど、日本語でも感心するスピーチをする人は数少ない。
2008年03月06日
2008年03月05日
角を矯めて牛を殺す

数年前にVCが投資したベンチャーが運よく上場しても殆どキャピタルゲインが出なかったり、下手をすると買値を下回ってしまうケースが続出している。ここ数年上場企業のスキャンダルの度に実質的な上場基準が上がっており、上場出来る割合自体も下がっている。伝統的に日本ではVC投資先のうち2-3割が上場してきたが、これが一時的に1-2割に下がりそうだ。
これではファンドとして利回りが確保できないので殆どのVCがより上場確率の高いミドル・レイターステージにシフト。それも株価に対しシビアになっているので前回のファイナンス価格を下回る「ダウンラウンド」での調達が当たり前になってきた。業績が伸びていてでも、である。
アーリーステージのベンチャーには殆ど資金が回ってこないような状況だ。国は一方でベンチャー振興を謳いながら、一方で規制を強化することでVC投資が成り立たない状況を間接的に作り出している。正にアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態。
いや、国のせいにするのは止めよう。規制を求めたのは、投資で損をした国民とそれを煽ったマスコミだ。
悪いヤツはいつの時代でも、どの体制でも居る。投資ファンドを悪用する例があったからと言ってファンドまで連結対象にしてしまってはファンドの意味がなくなってしまう。
我々は長い歴史を誇る国ではないか。歴史をよく学び、「こんなことは定期的に起こること。角を矯めて牛を殺してはいけない。あわてず騒がずドンと構えよう」という態度が必要だ。
2008年03月04日
エリート無き国は滅びる

「牛肉1kgを生産するのに飼料としてのトウモロコシがその8-11倍必要で、そのトウモロコシを育てるのに必要な水が2万リットル。」
肉食は体に悪いだけでなく環境負担が凄い。5秒に一人の子供が飢えで死んでいるといわれる中、肉食は最低限にしたほうがいい。丹羽さんはそうは言わなかったけど。(伊藤忠に勤めている間は言えないよね。伊藤忠も肉扱ってますから。)
2008年03月03日
学習塾

予備校どころか学習塾にも一度も行ってない私。「塾」というものの中に入るのはこれが初めて。
中学3年生が来てるわけだけど、女子が友達同士で集まって盛り上がっているのに対し、男子はバラバラで話をするでもなくクライ。クライだけでなく幼くて頼りない感じ。
ベテランの所長と話したところ、「コミュニケーション力が著しく落ちている」とか。仲間内同士では意思疎通が出来るが、世代の違う人や初対面の人などと会話がまるで出来ない。
その背景には結局、「コミュニケーションしなくても生きていける」という甘やかされた現実がある。同じ日本人とでも全てをお膳立てしないと話も出来ないとなると、外国人と交渉して商売するなど夢のまた夢。
こういう受験エリートが将来のリーダーに??
・・・ならないことを祈るばかりである。
2008年03月02日
映画漬け
シンドラーのリスト スペシャルエディション
風邪を引くと映画をよく観る。勿論、映画館に行くのではなくて家のTVで見るのだけど。頭が働かないのでむずかしい本はダメだし、寝ながら見るには最適、というわけだ。
今回見たのは、
・アンタッチャブル(ケビン・コスナー)
登場人物の中では会計士が好き。そう、どうしても尻尾を出さなかったカポネを最後に有罪にしたのは「脱税」で、彼が居なければ話が始まらなかった。それにしてもカポネが一番稼いだのは密造酒。事件の決着と共に禁酒法の時代も終わる。アメリカはこんな馬鹿げた法律を本当に作ってしまうことがある国だ、ということは忘れない方が良い。
・シンドラーのリスト(スピルバーグ)
戦争が生んだヒーロー。戦争前は事業に失敗続き、戦後も「結婚にも事業にも失敗」したらしい。権力が軍部に集中するという戦時下の特殊事情の中、軍部に取り入る類稀な社交性で事業に成功。戦後は紛争の続くアフリカ辺りに行けばよかったのかも。(映画の本筋に関係ないですが)
・シークレットウィンドウ(ジョニー・デップ)
ジョニー・デップ巧いね。最後のどんでん返し!狂気を上手く表してます。
・ミスティックリバー(クリント・イーストウッド)
これほどひどくはないけど、「あの時こうしていれば・・・」というのは誰にでもある。最大の悲劇は無実のDaveが殺されてしまうこと。チンピラが勝手に彼が犯人だと思い込み、Jimmyもそれを信じて殺してしまう。自首するのか?と思ったら妻に励まされ?知らん振りを決め込んでしまうのがアメリカ?
どれも良い映画なんだけど、どれも人が死にすぎ。ちょと続きすぎてしまった。
2008年03月01日
安原製作所 回顧録

写真には多少興味のある私。といっても年が経つにつれカメラに拘らなくなった。写真好きは写真を撮るために旅行に行くのだろうが、私の場合、写真はあくまで旅行やイベントの記録。そのためにはコンパクトで軽いほうが良い。しかし、どうせ撮るなら後で見て自分でも楽しめ、皆にも喜んでもらえる写真にしたい。そんな訳で、カメラをとっかえひっかえ、あるいは写し方をあれこれ試したりしている。
安原製作所の「一式」は10年ほど前随分話題になった。クラッシックライカが好事家の間で高値で取引されて居るのを知っていたので、「これはうまいやり方だ」と思ったことを覚えている。要はクラッシックライカ風の機械式レンジファインダーカメラを古い設備が残っている中国で造った、それだけだと思っていた。
今回、この本を読み、そんな簡単な話しではないことを知った。このカメラを作った安原さんは大学卒業後京セラで10年間カメラ設計に携わる。最初に取り組んだのがデジカメの研究で特許もとったが、当時20年前の部品技術では実用不可能、という結論を会社が出してしまい、お蔵入りする。これがその後デジカメ全盛となったとき京セラが出遅れ、その後カメラ事業から撤退する遠因となる。
筆者が「一式」を実際に作るようになるのも、瓢箪からコマみたいな偶然と思いっきりのよさからで、市場調査をして、これだけの市場があって、受け入れられる価格はこうで・・・、という発送とはまるで無縁であったことが分かる。
そんな波乱万丈の「一式」物語は実際に読んでもらうとして、筆者が本書で問いかけるのは日本のメーカーのあり方、だと思う。
「日本のカメラは世界を席巻したのに、なぜ儲からないのか?」
「なぜ似たものばかり造り、価格競争を繰り返すのか?」
「どうして各社独自性のある製品を十分利益が出る価格で販売しないのか?」
これはカメラだけでなく、多くの日本メーカー、ひいては企業全体にいえる。競争は絶対必要なのだけど、もっと違う、意味のある競争が出来ないのか?消費者に喜んでもらえ、資本家が儲けられ、従業員が疲弊しない、それでこそ世界にとって必要な会社だろう。